とめどなく降り注ぐお日様の熱が。
真っ白な砂に覆われ枯れた大地が。
そして――幾多もの傷を作った、僕の口の中が熱い。
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“兎の耳”の連中は容赦なく僕を殴り、蹴りつけ、最後はこの白砂の大地に捨てた。
だが、必死に育ててきた自分たちの作物を盗まれたのなら、それは仕方のないことだ。
悪いのは、ヘマをやらかした僕の方なんだから。
全身に走る痛みはおさまることを知らず、今は立つことすらままならない。
熱を帯びたこの大地が、横たえる僕の身体を焼こうとも、構いはしなかった。
何より、きゅうと締め付ける痩せこけた腹が、僕に“何でもいいから食ってくれ”“生きさせてくれ”と訴えかけている。
だが、その飢えを満たすことも、ついに叶いそうにない。
このまま僕は野垂れ死ぬ。そうでなければ、この辺りに住まう怪物に食われて死ぬだろう。
物心がついたときから、僕は一人で放浪し、一人で生きてきた。
ここまで、よく頑張って生きてこられたと思う。
全身を襲うこの苦しさはいかんともし難く、そう思い込まなければすぐにでも気が狂いそうだった。
だが、最期の時が近付くにつれ……僕はこの世界に遺した未練を悔やんだ。
自らの足だけでめぐり、一人ぼっちの視野で眺める世界なんて、ちっぽけでつまらないものでしかなかった。
欲を言えば、もっと生きて、もっとこの広い世界を見てみたかった。
この星に残された自然と寄り添い、生きていくことを決めたその日から、人類は自らを“許された人々”と呼んだ。
何を“許された”のか、僕は知らない。
僕が“狼の耳”を持って生まれたことの意味も。
まだ生きたいと強く願っても、僕の意識は勝手に遠のいてゆく。
蒼と白で埋め尽くされた世界が、黒い幕によって覆われてゆく。
残念ながら、そのときがやって来たらしい。
僕が最後に見たのは、空を舞う大きな鳥の姿だった。
やがて、僕の世界は真っ暗になった。
……
…………
………………
喉の内側で伝い焼けるような感覚が、僕に目覚めを促した。
飢えていた胃を、何かが満たしてくれたのだろうか。
そうでなくては、僕がこうやって目を覚ましたことに対する説明がつかない。
口の中は今でも痛む。
そうか、僕はまだ生きているんだ。
それを理解した途端、かろうじて動かすことのできる目で、僕は周囲を見回した。
目に入ったのは、白砂の大地に鎮座するあの大きな鳥――ではない、二枚羽の何か。
そして、僕の傍らで腰を据える、一人の“人間”の足だった。
この人が僕を助けてくれたのだろうか。
僕は何か一言、礼を言おうと口をあぐあぐと動かすが、思うように声は出ない。
仕方なく、僕の目線は“人間”の足を離れ、やがて首元を仰いだ。
僕はギョッとした。
顔が、不気味な防塵マスクに包まれている。
そして、何より――“獣の耳”がない。
代わりに、顔の両側面に小さな耳がついていた。
間違いない。
僕を助けてくれたのは、かつてこの星の自然と寄り添うことを最後まで拒んだ人々の末裔。
“許されし人々”が最も忌み嫌う存在、“耳なし”に他ならなかった。
……
…………
………………
以上が、プロローグとなります。続きは夜に再開予定です。
冒険ものなので、話は長くなると思いますが……
よろしければ、今後もお付き合いください。
ここまで読んでくださった方、ありがとうございます。
物語の進行形式の変更に伴い、新しくスレを建て直します。
ここまで読んでくださった方には申し訳ありませんが、以後は新スレにて投下を行いますので、何卒ご了承ください。
重ね重ね、本当に申し訳ありません
。
以下が、新スレとなります。
よろしくお願い致します。
耳のある少年と、耳のない少女のジュブナイル
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