娘「あの……わたし、生け贄です……」ドラゴン「今年もかよ」町娘「えっ」 (599)

ドラゴン「俺はここで静かに過ごしていたいだけなのにあの町の奴らは勝手に恐れやがって、毎年毎年生け贄を寄越しやがる」

娘「じゃあ今までの生け贄さんは……」

ドラゴン「最初の頃は追い返してたんだが、町の奴らは追い返しても追い返しても逃げてきたと決めつけてこっちに何度も連れてくる始末でな。最近は隣町に連れていってやってる」

娘「えっ」

ドラゴン「とはいえ、強制はせんがな……。どうする?町に戻ってありのまま伝えてみるか?それとも、隣町に逃げてくか?」

娘「えっ、えー……」

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1466059856

娘「ドラゴン……さん?はいつからそこにいるんですか?」

ドラゴン「えー、もう百年近くになるか」

娘「なんでそんな……洞窟に?」

ドラゴン「まぁ……涼しいじゃん?」

娘「え、えー」

ドラゴン「雨をしのげるというのも素晴らしい点だ」

娘「ドラゴンって雨とか暑さとか気にするんだ……」

ドラゴン「ドラゴンだって生きてるんだぞ」

ドラゴン「まぁ、そういうわけでな。俺はあんまりここから動きたくない」

娘「流石百年以上の引きこもりですね」

ドラゴン「まぁどうしてもと言うなら飛んで連れてってもいいんだが、背中に乗せて飛んでやると大体の人間は怖がってずっとしがみついてばかりでな。それはそれで辛いだろう」

娘「まぁ……わからないでもないかも……」

ドラゴン「だから、隣町へはそいつに誘導してもらえ」

子ドラゴン「キュー」

娘「えっ子供いたんですか」

ドラゴン「いや、数ヶ月前にどっかから迷い混んできたやつだ」

娘「めちゃくちゃ面倒見いいですね」

ドラゴン「まぁそいつは飛べないから、一緒に歩いてってもらうことになるが……」

娘「いや、まぁ隣町くらいは自分で歩いていけるので大丈夫です」

ドラゴン「おや、そうか。では行けばよい」

娘「……んー、私、ここに住んでもいいですか?」

ドラゴン「えっ」

娘「なんかそこに小屋あるし」

ドラゴン「あぁ、それは人間が俺に見張りをつけようとしていた頃の名残だが……もう数十年前に建てられたものだぞ?」

娘「"雨がしのげるのは素晴らしい"でしょ?」

ドラゴン「……変わり者だな」

娘「お互い様では?」

…………

ギィッ……

娘「うーん。中見てきたけど、なんかすごいですね」

ドラゴン「ひどい建て物だろう?」

娘「確かにすごくほこりっぽいけど、薪は森から取れるかもだし、ないなら町に買いに行けばいいし……水は井戸が確かこっちの森の中にあったでしょ?……それに……」

ドラゴン「……」

娘「……最高です!」

ドラゴン「すごく生き生きしてるな」

娘「夢だったんです!ひとり暮らし!」

ドラゴン「それは……よかったな……」

娘「とりあえず目先のことは掃除ですね……掃除用具は流石に買いに行かなくっちゃ。ちょっと遠いけど隣町の方に行くほうがいいのかな?」

ドラゴン「……ふむ。それなら、これは俺からの引っ越し祝いだ」

キャラキャラシャラララララ……
キュー……キュー……
ガチャンガチャン……
シュルルルル……

娘「なにこれ……家がひとりでに綺麗になってく……魔法みたい!」

ドラゴン「魔法みたいじゃなくて魔法なんだよ」

娘「えっ……魔法が使えるの?」

ドラゴン「火を吹くのも魔法のひとつだぞ」ゴワーッ

娘「わ!すごい!絵本で見たことある!……薪いらないね!」

ドラゴン「発想が実用的すぎる」

娘「食料はどうしましょう」

ドラゴン「ここに住もうという人間の前例がないからな、俺にはわからん」

娘「ここに住んでたっていう見張り役の人はどうしてたんですか?」

ドラゴン「町から食料を持ってきてたんじゃないか?」

娘「ドラゴンさんは何を食べてるんです?」

ドラゴン「別に食事は毎日摂らなくても生きていけるんだが……たまに気が向くと運動不足の解消がてら川まで魚を取りに行ってるかな」

娘「すごく人間っぽいですね」

ドラゴン「最近は子ドラゴンがたまに魚を持ってきてくれたりするぞ」

子ドラ「キュー」

娘「うーん、じゃあ魚を採ったりしてみようかなぁ」

ドラゴン「困ったときは町に行けばいいのさ」

娘「……そうですね!よろしくお願いします!」

ドラゴン「おう、よろしく」

子ドラゴン「キュー」

【第2話】

娘「おはようございます!」

ドラゴン「……おはよう」ファー

娘「元気ないですね」

ドラゴン「朝弱いんだよ……寝心地はどうだった?」

娘「上々でした。魔法って……いいですね!」

ドラゴン「まぁ便利だよな。娘の町には魔法はないのか?」

娘「ないですね。おとぎ話みたいな話です。……ドラゴンさんも似たようなものですが」

ドラゴン「だからこそ過剰に恐れられてんのかもな」

娘「私もここに来るまではビクビクでした」

ドラゴン「その割りには順応力すごいけどな」

娘「私にも魔法って使えるのでしょうか……?」

ドラゴン「使えるんじゃないか?」

娘「むむむーっ……無理ですよ」

ドラゴン「魔法を使いたきゃそれなりに魔学を勉強しないとな」

娘「うへ……勉強ですか……」

ドラゴン「確かその小屋の本棚には魔法書がいくらかあったと思うぞ。……俺対策だろうが」

娘「ほへぇ……ちょっと読んでみましょうか。……わかりますかね」

ドラゴン「どうしてもというなら俺が教えてやってもいいぞ」

娘「ほんとですか!?」

ドラゴン「あぁ、構わん。どうせ暇みたいなもんだしな。まずはやっぱり口から火を吹く魔法から……」

娘「火は手から出る方向でお願いできませんか?」

ドラゴン「子ドラゴンはもう口から火を吹けるんぜ」

子ドラ「キュー」ブワー

娘「私も負けないようにがんばります」

ドラゴン「おう、そうか」

娘「それはそうと、今日はお魚を獲りに行こうと思うのですが」

ドラゴン「あー……じゃあ初めてだし一緒に行くか」

娘「えっ」

ドラゴン「えってなんだよ」

娘「ドラゴンさん、大きすぎません?」

ドラゴン「一流ってのは縮小魔法くらい使えるんだよ」シュルルルル……

娘「わぁ……なんか私でも倒せそうなサイズ感ですね」

ドラゴン「燃やすぞ」

娘「常にそのサイズでいたら生け贄もいなくなるんじゃないですか?」

ドラゴン「その発想はなかったな」

[川]

少女「川、結構近いんですね」

ドラゴン「まぁ遠いと行きたくなくなるしな」

少女「とことん出不精ですね」

ドラゴン「みんなそんなもんだろ」

少女「私は旅行とか好きですけどねぇ……ところで釣り道具などはないのですがどうやって獲りましょう」

ドラゴン「まぁ、見てな」

子ドラゴン「…………キューッ!」バシャーン

少女「いやいやいやいや……そんな思いっきり川の中の魚掴むとか無理です無理です。なんですかそれ。熊ですか?」

ドラゴン「ドラゴンだよ」

少女「わかってます!」

あっいつもの癖で娘が少女になっちゃった……てへぺろ

娘「えっ私もあんな感じで獲ってく感じですか?」

ドラゴン「……そのうち釣り道具を買ってくるといいんじゃないか」

娘「……今日は子ドラゴンさんにお願いしておきます」

子ドラゴン「キュー」

ドラゴン「いいってよ」

娘「ところで何言語なんですかあれ」

ドラゴン「ただの鳴き声だよ」

娘「ドラゴンさんは喋れますよね?」

ドラゴン「まぁ、なぁ。昔勉強したんだよ」

娘「ははぁ……あっ、じゃあ……」

テクテクテク……

子ドラゴン「キュー?」

娘「子ドラゴンさんにはこれからお世話になる代わりに言葉を教えてあげますね!」

子ドラゴン「キ,キュー!」

ドラゴン「よろしくだってよ」

娘「その翻訳も勉強したんですか?」

ドラゴン「そこはなんかわかるんだよ」

[洞窟]

子ドラゴン「キュー」ブワー

娘「焼き加減が難しいですね」

ドラゴン「火力が強いしな」

娘「……あと塩が欲しいです」

ドラゴン「明日は町に出てみるといいんじゃないか」

娘「うーん。そうですね。欲しいものもいっぱいですし」

ドラゴン「おう、じゃあ明日は連れてってやるよ」

娘「わーい……!でもお金はどうしたら……」

ドラゴン「あぁ、それならな。隣町に連れてった人間にも渡していたんだが、この洞窟は宝石が生まれやすいやうでな……ほら」ゴロゴロ

娘「わっ……きれい……いいんですか?」

ドラゴン「俺の後ろにはまだまだあるからな……それと、これもだ」ゴロゴロ

娘「えっ……果物?」

ドラゴン「木の上に成ってるものをいくらか持ってきておいた。魚だけでは体に障るだろう。食べておくといい」

娘「本当に面倒見がいいですね、ドラゴンさん」

ドラゴン「ドラゴンだからな」

娘「……ありがとうございます」

また誤字あるなぁ。
マイペースに書いていきます。よろしくお願いします。

タイトルはな……両方町娘にするか悩んだじゃ……。ミスってしまったの……。

悩んだのじゃ、すら脱字する始末。うひぃ。

【第3話】

ドラゴン「それだけでいいのか?」

娘「宝石をジャラジャラ持った女の子がいきなり町を訪れても怪しいだけでしょう」

ドラゴン「確かにな」

娘「ドラゴンさん達はついてこれないんですか?」

ドラゴン「人間の姿に化ける魔法もないではないが、その手の魔法使いなどが町にいるとややこしいことになるからな」

娘「難しい世の中なんですね」

ドラゴン「遙か遠く、北に行けば魔物と人間の共存している町もあるとは聞くが……俺はちょっとイレギュラーでな」

娘「行っちゃだめなんですか?」

ドラゴン「いろいろややこしいんだよ」

ドラゴン「その点、このあたりは魔物が少なくていいところだ」

娘「まぁ、魔物がそこらを歩いてたら町中に号外がばらまかれることになりますね」

ドラゴン「その代わり、人間にひどく恐れられているのが悩みの種ではあるんだがな」

娘「いつか誤解がとけるといいですけど」

ドラゴン「実は俺はすごく悪い魔物なのかもしれないぞ」

娘「大丈夫です。私は、信じてますから」

ドラゴン「町の人間も方向性が違うだけで何かを信じた結果が今なのだと思うけどな……娘も町にいた頃は俺を恐れていたんだろう?」

娘「それは……そうですね」

ドラゴン「うむ。正直なのはよいことだよ。実際がどうなのか、なんてのはどうでもいいんだよ。誰も彼もがな」

娘「ちょっと難しい話です」

ドラゴン「あー、まぁみんな、最善策より目先の安全策をとりたがるのさ」

娘「……?」

ドラゴン「ま、危険因子であるところの俺みたいな魔物はあんまり人の多いところに行くわけには行かないんだよ」

娘「ふーん……そっかぁ……」

ドラゴン「子ドラゴンくらいならそんなに問題にならないとは思うが……魔物が少ない地域ではやはり避けておいた方がいいだろうな」

娘「むー……じゃあひとりで行ってきます……」

ドラゴン「町の近くの湖までにはなるが、送り迎えぐらいはしてやる。だからそういじけるな。買うものはリストにまとめたか?」

娘「うん。小屋に紙とペンがあって助かったよ。随分と古いけど」

ドラゴン「ほうほう、雰囲気があっていいじゃないか」

娘「ついでに初めてまじまじと本棚を見てみたんですけど、魔法書以外にもいろいろとあるんですね。薬草百科とか、きのこ百科とか」

ドラゴン「俺の見張りだけではなく、このあたりの生態についても調べていたのかもしれないな」

娘「なるほど。じゃあこのあたりの植物なんかをまとめた本も今はあるのかな……?」

ドラゴン「まぁ、調べてみてもいいかもな」

娘「なるほど……じゃあお願いします」

ドラゴン「準備はいいか?」

娘「……それなりに」

ドラゴン「それなりにってなんだ」

娘「それなりです」

ドラゴン「……まぁいい。いくぞ」バサッ……バサッ……

娘「うひゃっ」ズリッ

ドラゴン「大丈夫か?」バサッ……バサッ……

娘「少しびっくりしただけです。目、瞑ってるのでなんとか」

ドラゴン「落ちても俺が途中で拾ってやるから安心しろ。死なせはしねぇよ」バサッバサッ

娘「男らしいですね」

ドラゴン「ドラゴンだからな」バサッバサッ

娘「意味わかんないです……ドラゴンさんの肌って思ったより固いですね」

ドラゴン「くすぐったい。落ちるからやめろ」バササッ……バサッ……

娘「ほ、ほほ、本当に私、生きてたどり着けますか?」グラグラ

ドラゴン「ドラゴンだからな」バサッバサッ

娘「私は人間ですー!」

バサバサバサバサ…………

…………

子ドラゴンどれくらいの大きさなんだろ
大きめの犬くらいで抱き抱えられるサイズくらいかな

>>40
まぁ……なんか……それくらいです……ピカチュウよりちょっと大きい……ゼニガメくらい……?マスコットサイズ……?

バサ……バサ……

ドラゴン「……まぁ、ここくらいまでだな。この湖で待ってる。わかりやすくていいだろ」

少女「うーん、と。じゃあ行ってきますね!」

ドラゴン「おう、いってらっしゃい」

パタパタパタ……

ドラゴン「"いってらっしゃい"とか今まで言ったことないかもしれない」

子ドラゴン「キュー?」

ドラゴン「おまえが言えるようになるまでは何年かかるかな」

子ドラゴン「キューイ……」

まーたやってしまった。ほんとドジっ子。今度から少女って書いてても娘で補完しておくれ……。

[隣町(薬と時計塔の小さな町)]

ワイワイガヤガヤ

娘「わ、わー……賑やか……といっても私の町とはあんまり違いないか」

青年「おや、お嬢さん見ない顔だね」

娘「わ、わかっちゃいますか?」

青年「この町もそんなに大きいわけじゃないからな。旅の人かい?」

娘「そういうわけじゃないんですけど……」

青年「ふぅーん、まぁいいや。こいつは歓迎の印ってことで」

娘「これは……アップルパイ……?」

青年「俺、そっちの方に行ったとこの店通りでパン屋やってんだ。この町は薬ばっかが有名な小さな町だけど、薬以外にもいろいろと売ってっからさ。よかったら覗いてくれよ」

娘「は、ははぁ……」

青年「なーんてな、じゃあな」カラカラカラ……

娘「不思議な人だなぁ……」

娘(でも、アップルパイはとっても美味しそう!)

いっそ少女ってキャラを別に出すことにします……☆~(ゝ。∂)

カーン……カーン……

娘「わっ」

少女「わっ……って私までびっくりしたじゃない」

娘「えっと……ごめんなさい?」

少女「ふふっ……冗談。お昼になると、鐘が鳴るのよ。あの時計台」

娘(……おっきな時計台だなぁ)

少女「この町にシンボルを作るためだーって十数年前に建てられた……って噂なんだけど」

娘「薬が有名なんじゃ……?」

少女「まぁ、そうなんだけど。薬が有名ってなんだか体に悪そうじゃん?」

娘(よくわからない……)

少女「まぁあの時計台も薬の研究施設の一部らしいよ。……ところであなたはどちら様?」

娘「えっと……隣町から来ました」

少女「隣町……何もないとこだよね」

娘「えっと……畑なら……野菜は美味しいし……」

少女「うぇー、田舎」

娘(確かに田舎には違いないです)

44までの少女は全部娘だ!!!(自分でまとめるときにちゃんと直しときます……すみません……)

少女「さてさて、私、暇なんだよね」

娘「ははぁ」

少女「そのアップルパイひとつで案内してあげないでもないよ」

娘「……半分だけなら」

少女「ぶーぶー」

娘「お、美味しそうなんですもん」

少女「のーのー、違うんだなぁ」

娘「……?」

少女「美味しそうなんじゃなくて、美味しいのよ。ヘビーユーザーの私が言うんだから間違いない」

娘「は、はぁ」

青年「ヘビーユーザーなら布教しろよ」

少女「げっ……まだ店に戻ってなかったの」

青年「ちょっと果物も買っておこうと思ってな。ジャムにするやつ」

少女「あんたんとこのジャムパンって週替わりだよね。私マーマレードがいいな」

青年「週替わりつっても月始めに使う果物決めてんだよ。来週は……オレンジだわ」

少女「いぇーい、私の勝ちー」

青年「なんかムカつくな」

娘「えっと……?」

青年「ははは、悪い。いつもこんな感じでさ」

少女と狼娘の話書いてた人か…?

青年「うーんと、何か買い物?」

娘「ええ、まぁ、いくつか」

青年「ふむふむ……そうだね。どこに何があるかくらいは教えてあげるしお昼ついでにうちにおいでよ」

少女「初対面の女の子を自宅に連れ込むとは……やるね」

青年「ただのパン屋だよ、ばか。座るスペースもあるしな」

少女「ふぅーん。あっやしー」

青年「お前も来るんだぞ」

少女「それってパン食べ放題?」

青年「特別にひとつだけならくれてやる」

少女「うー……ありだね!」

青年「どこから目線なんだよ」

娘「えっと、じゃあお世話になります……?」

違ったら申し訳ないが勇者の剣の人?

[パン屋]

・宝石の換金
・方位磁針
・このあたりの薬草や食べ物の本
・釣り道具
・着替え
……

青年「……サバイバルでもするのか?」

娘「似たようなものです……」

少女「すごく謎に満ちてるよ……」

青年「まず宝石の換金ってなんだよ」

娘「これです」ゴロゴロ

少女「うわっすごい。これアップルパイ何年ぶんくらい?」

青年「お前はなんでアップルパイに全財産を捧げるつもりなんだよ」

娘「宝石を換金できるとこってありますかね……」

青年「うむうむ、お嬢さんは俺と一緒でよかったな」グッ

娘「……?」

少女「この町の宝石商さんね、他所の人にはすごくぼったくりで有名なの」ボソッ

娘「……なるほどぉ」ボソッ

>>53
なにそれおもしろそうですね

>>55
おおきなカブ方式なら私です('ω')✌

ときどきSS深夜VIPで書いていて、初めてこっち来たんですけどなんか人の多さ違いすぎじゃないですかみなさんもっと深夜VIP来ましょうよ()

パクッ

娘「わ、わぁ!アップルパイ美味しいですね!」

少女「うんうん、他のパンも美味しいけどやっぱり一番はアップルパイだね」モグモグ

青年「少女は口に物を入れながら喋るな」

娘「こんなにおいしいアップルパイは初めてですよ!」

青年「お、おう。ありがとな。……とりあえず宝石の換金にはついてってやる。そのあとは少女、案内してやってくれ」

少女「えっ、私だけ?」モグモグ

青年「だぁーかぁーら口にだな……まぁ言っても聞かねぇか。俺は流石に店番もやらなきゃなんねぇんだよ」

少女「え、えー」

青年「なんのためにパンをやったと思ってるんだ」

少女「しまった……ハメられた……」モグモグ

娘「えっと……嫌なら私ひとりで……」

青年「通過儀礼みたいなもんだから気にしないで」

俺深夜民だが、そんな出しゃばりでよく深夜でやっていけたな……
話は面白いんだから、もっと前出ずに書いた方がいいよ

よくわからないけどなろうとか星新一と同じくらい設定のおもちゃ箱になってそうですよね(全然なろうわからない人)

先行き全く決まってないのでいつかエタったらごめんね(はぁと)

>>68
でしゃばりというかSS界隈自体が衰退してるのかなーって思ってたのでなんか新鮮で……すみません。

青年「……」グッ

ジャラジャラ……

少女「無言のガッツポーズがムカつくけど……すごいねこれ」

青年「相場の1.3倍くらいはいったんじゃねぇかな」

少女「どんな交渉術を使ったの?」

青年「あのおっさんが好きなパン、あんまり売れねぇから製造ストップしてもいいんだぞって言えばこんなもんよ」

少女「ゲスい……」

青年「まぁ今でも一日に三つしか作っちゃいないんだけどな」

娘「うわぁ……釣竿何本買えますかこれ」

青年「おぉっと、釣竿換算はアップルパイ換算より意味がわからないぞ」

すみません、なんか雰囲気の違いが新鮮でテンション上がってて……!

次から返信は話数の区切りとか寝る前に一気にしますね……!

青年「まぁそれ使っているもん買っていきな」

少女「じゃあ私と回ろっか~」

娘「よろしくお願いします!」

少女「まずは……着替えだね!」

青年「着せ替え人形にして遊ぶんじゃないぞ」

少女「えーっ、いいじゃーん。私同年代の友達少ないしぃ」

青年「ははぁ……まぁ付き合ってやってくれ」

娘「は、はい!あんまり慣れてないですけど……是非!」

少女「……ふぅーん」

娘「……?」

少女「や、なんでもないよ、よーしれっつごー!」

少女「サバイバル?なら動きやすい服装がいいのかな?」

娘「う、うーん。割りとなんでもいいかも?」

少女「えーっ……うーん、だったら趣味全開で……ほら、こういう……ちょっとボーイッシュに……!」

娘「うん、動きやすくていいかも」

…………

少女「お金はあるんだから何個か買っちゃおうか!……ドレスとかどうよ!」デデーン

娘「いやいやいやいや……」

…………

少女「うんうん、白いワンピースに裸足、これで花畑走ってたらもうなんか雰囲気抜群だよ。これにしよう!」

娘「花畑……あるかなぁ……」

…………

少女「見てみて!これ!外国の衣装!本で見たことある!」

娘「着るのにすごく時間がかかったね……店員さんすごい……」

少女「じゃあ、ほら!よいではないかー!よいではないかー!」

娘「あーれー」

…………

…………

………

……

[パン屋]

娘「荷物の半分が服ってどういうことですかね……」

少女「でもほら、お金はまだあるしぃー、リストにあったものは大体買えたし!」

青年「……おつかれ。もう並んでるパンは売れ残りのようなものだから食べていいぞ」

少女「えっ?ほんと?アップルパイはある?」

青年「ない」

少女「ジャムパンは?」

青年「ない」

少女「……あのおっさんの好きだっていうパンは?」

青年「キャラメルチョコメロンパンな。みっつあるぞ」

娘「ひとつも売れてないんですね……」

青年「不味くはないと思うんだがなぁ」パクッ

少女「確かに不味くはないね」モグモグ

娘「ファンがいるので、いいんじゃないですか?あとひとつお願いが……」

…………

[湖]

娘「ただいまぁ……」ガラガラ

ドラゴン「むむっ、遅かったな」

娘「なんか、こう、お友達ができちゃいまして」

ドラゴン「ほほう、それはいいことだ。森に引きこもっていると人との関係は消えてしまうからな」

娘「ドラゴンさんは友達とかいるんですか?」

ドラゴン「……こいつとか?」

子ドラゴン「キューキュー!」

娘「……私がいますよ」

ドラゴン「……あぁ、そうだな。じゃあとりあえずそう気を張るな」

娘「気を……?」

ドラゴン「敬語とか使わなくていいし、俺を呼ぶときはドラゴンさんじゃなくドラゴンでいい。ありのままで接してくれればいいんだよ」

娘「き、気をつけます……じゃないや。気をつけるね」

ドラゴン「おう」

娘「ところでこの荷物、どうしましょう。ドラゴンさんの背中に乗ります?」

ドラゴン「そういうときはな、こうするんだよ」

シャラララララ……
フワフワ……

娘「わ、浮いてる……」

ドラゴン「浮遊魔法だ。娘が俺の背中から落ちてもこういう魔法で落ちる前に助けてやれるから大丈夫なんだよ」

娘「しがみつくより浮遊魔法で飛ぶ方がむしろ怖くないのでは……」

ドラゴン「む、そうか?下が見えないぶんいいかと思ったんだが」

娘「ふふっ……まぁ私はいままでのままでいいですよ」

ドラゴン「そうか。なら今まで通りにさせてもらう」


娘「それと、飛ぶ前にひとつ、いいですか?」

ドラゴン「うん?」

娘「冷める前に焼きたてのアップルパイをいただきましょう」

ドラゴン「どうしたんだ?これ」

娘「明日のぶんの材料からひとつ、焼いてもらいました。少し時間はかかっちゃいましたけど」

ドラゴン「ほほう……初めて食べるが美味しいな」モグモグ

娘「えぇ、私もこんなに美味しいのは美味しいのは初めてです。子ドラゴンさんもどうぞ」

子ドラゴン「キュー……キューゥ!」パクパク

ドラゴン「ところでひとついいか?」

娘「なんでしょう」

ドラゴン「敬語が全然抜けてないぞ」

娘「……癖かなぁ」

はい、3話おしまい。
町が意外と長くなってしまった。

全レスの心配については、深夜の方でも乙だらけとかになってるのをひとつひとつ全部に返すとかつらいし全レスは流石にできない……。
時折気まぐれに触れていきます……。

とりあえずはじめまして。よろしくお願いします。

おやすみなさい。

【第4話】

…………

子ドラゴン「キュー……キュー……」ウツラウツラ

ドラゴン「なぁ、これさぁ」

娘「はい?」

ドラゴン「俺と子ドラゴンは釣竿で釣る必要、あるか?」

娘「釣竿、三本買ってきちゃいましたからね」

ドラゴン「なんで三本も買ったんだよ」

娘「テンション上がっちゃって」

ドラゴン「子ドラゴンとか寝てるぞ」

娘「まぁ暇ですもんねぇ……あっ、ドラゴンさん、引いてますよ」

ドラゴン「うわ、どうすんだこれ」グイグイ

娘「引いてください!思いっきり!」

ドラゴン「思いっきりはダメだろ!ドラゴンだぞ!」

娘「えっ……じゃあ優しく……?」

ドラゴン「うぉぉ……!おい、こっち!」

娘「どっちですか!」

ドラゴン「子ドラゴンの方!」

子ドラゴン「キュー……キュー……」スピー

娘「子、子ドラゴンさーん!?わ、私が引きます!」バタバタ

ドラゴン「いや、そっちも引っ張られてんぞ」グイグイ

娘「子ドラゴンさぁーん!起きてくださーい!」

ドラゴン「おい!おい!釣竿!せめてどっちか握ってくれ!落ちる!落ちる!」

………

[洞窟]

娘「いやぁ、釣れましたね」

ドラゴン「その敬語、どうにかならないのか?」

娘「家ではずっと敬語だったから……つい」

ドラゴン「家で敬語……?」

娘「町一番のお屋敷の娘なんですよ、これでも」

ドラゴン「人間というのは町一番のお屋敷の娘を生け贄にするのか……」

娘「逆に町一番のお屋敷の娘だから、です。町の人々にとっては疎ましかったのだと思います」

ドラゴン「ははぁん、色々あるんだな」

娘「両親は私に無関心なんですけどね。だから生け贄にするのにも強く反対をしていたわけではなかったと思います」

ドラゴン「冷たいもんなんだな」

娘「使用人のメイドさんは最後まで反発してたんですけどね。結局、拐われちゃいました」

ドラゴン「拐われちゃったって……拐われた本人の割には他人事のように言うんだな」

娘「流れるような出来事でしたから」

ドラゴン「なんというか、嫌なことを思い出させてしまったな」

娘「面倒見の良さはほんと……大違いだよ、ドラゴンさん」

ドラゴン「ドラゴンさんじゃなく、ドラゴンだ」

娘「そうだったね、ドラゴン……やっぱりなんか違和感あるよ……あります……」

ドラゴン「慣れてくんだよ」

娘「今日は他にもやることがあるので……あるんだよ?」

ドラゴン「ほう」

娘「畑を作ります!」

ドラゴン「畑?」

娘「町に行ったときに野菜は買っておいたんだけど、やっぱり毎回買いにいくのは違うなって思ったので……思ったの」

ドラゴン「自給自足はいいことだな」

娘「ということで、はい!くわ!そっちの森の方に開けたところあるかな?植物いっぱいだしきっと野菜もできるよね?」

ドラゴン「……」ガシガシ

娘「つ、爪だけでどんどん土が柔らかくなってる……」ガーン

ドラゴン「耕すくらいなら任せとけ」

娘「流石ドラゴンだね」

ドラゴン「戦闘以外でその言葉を言われたのは初めてかもしれないな」

娘「でも手伝うよ。というか私もやるよ」

ドラゴン「自分の力でどうにかするってのも偉いもんだな、一緒にやるか」

娘「いや、暇だからさ」

娘「……ふっ!……へっ!」ガシッガシッ

子ドラゴン「……キュー!……キュー!」ガシッガシッ

ドラゴン「子ドラゴンが使ってるぶんは作業道具も無駄にならなくてよかったんじゃないか?」ガシガシ

娘「余裕……の違いが……すごいね……」ゼェハァ

子ドラゴン「キュー……」ヘトヘト

ドラゴン「適材適所というやつだな」ガシガシ

娘「お昼ご飯にしよ……」ヘトヘト

ドラゴン「そこに果物を置いてあるからな」ガシガシ

娘「調理器具もいくつか買ってきたし、お米も炊けるかな?」

ドラゴン「火の調節次第だな」ガシガシ

娘「不安しかないなぁ」ジーッ

子ドラゴン「キュー?」

娘「子ドラゴンも頑張ろうね」

子ドラゴン「キュー!」

娘「まさか……一日で終わるなんて思ってなかったよ……」

ドラゴン「昼寝してる間に肥料も撒いておいたぞ」

娘「あとは野菜の種を植えるだけだね。ある程度本で調べて買ってあるんだけど……明日にしよっか」

ドラゴン「もう夕方だしな」

娘「しかし、ベトベトだねぇ」

ドラゴン「川の方で水浴びでもしてきたらどうだ?」

娘「ちょっと……寒くないかなぁ……」

子ドラゴン「キューキュー!」ボワー

ドラゴン「流石に川の水をお湯にするだけの力はあるのか?というか魚が死ぬのではないか?」

娘「うぅ……我慢します……」

ドラゴン「仕方ねぇなぁ……」

ドラゴン「……」ザバー

娘「……」ゴシゴシ

ドラゴン「……」ザバー

娘「……」

ドラゴン「……」ザバー

娘「ねぇ、ドラゴンさん」ゴシゴシ

ドラゴン「ドラゴンさんじゃなくてドラゴンだ」ピタッ

娘「あっ止まるんだ」

ドラゴン「魔法とはいえ、口からお湯を出しているわけだからな。出しながらは喋れないんだよ」

娘「それなんだけど……」

ドラゴン「どうした?」

娘「なんか……絵面的に……浴びててすごく微妙な気分になる……」

ドラゴン「……そうか」ショボン

娘「適材適所ってやつだよ」

ドラゴン「ブビビバビビベブ……」ザバー

娘「ごめんドラゴンさん喋られるとお湯の出方がすごく危ういです」ダバッ……ダバッ……

ドラゴン「すまん」ピタッ

娘「大丈夫だよ、浴びさせてもらってるだけありがたいし……」

ドラゴン「家には娘が生きてることを知らせてやった方がいいんじゃないか?」

娘「えっ?」

ドラゴン「少なくともその、使用人というのは心配してるんじゃないか?」

娘「そうだけど……でも、私が生きていることをどう説明するの?」

ドラゴン「それは……ありのまま……?」

娘「きっと信じてくれないよ」

ドラゴン「娘は友達が生け贄で帰って来て同じことを言ったとしたら、信じてなかったか?」

娘「それは……」

ドラゴン「娘はそもそもなんとなくここにいるだけだろう?帰る場所は間違いなくあの町だ。だったら……」

娘「ドラゴンさん……あのね……」

ドラゴン「なんだ?」

娘「風邪引いちゃいます」スピー

ドラゴン「ズバブ」ザバー

娘「お湯吐きながら謝らないでください」ダバッ…ダバ……

というわけで完全日常(?)ぶっぱな第4話。

物語の着地点を一日考えてみたけどなんかぴんとくるものがおもいつかないなぁ。色々と模索してみます。

ひとり暮らしへの憧れってこう……なんかこう……ひとりで完全に自由にできる部屋の存在って大きいから……こう……ね!

おやすみなさい!

【第5話】

娘「このままじゃだめです!」

ドラゴン「へ?」

子ドラゴン「キュー?」

娘「ここに来て、もう一ヶ月!色々と整ってきたけど……これじゃだめなの」

ドラゴン「暑さで頭がやられたのか……?小屋も増築してやったし、風呂も流石に俺が吐き続けるのもなんだからある程度洞窟の岩で整えてやっただろ?畑の方も流石にまだ収穫とはいかないが、順調だ。他に不満があるのか?」

娘「それがダメなんです!」

ドラゴン「……?」

娘「私、本読んでるくらいしかなにもしてない」

ドラゴン「でもまぁそのおかげで食えるものと食えないものの判別や美味い調理法も助かってるし、いいんじゃないか?」

子ドラゴン「キューキュー!」

ドラゴン「子ドラゴンもそう言ってるぞ。最初なんて毒キノコと普通のキノコとですげぇ似てるキノコがどっちかわからず食べようとしてるのを俺が全力で止めてたしな」

娘「でも、このままじゃ頼りっぱなしでしょ?」

ドラゴン「つまりどういうことだ?」

娘「魔法を教えてください」

ドラゴン「結局頼るんじゃねぇか」

ドラゴン「じゃあまずは口から炎を出すためにはだな」

娘「それはいらない」

ドラゴン「じゃあ炎よりは難しいんだが口からお湯を」

娘「もっといらない」

ドラゴン「口からお湯を出して湯船を溜めながら身体を洗ったりできるぞ」

娘「気持ち悪いです」

ドラゴン「はぁ……じゃあとりあえず魔法書持ってきてみろ。なるべく簡単そうなやつな」

娘「わかった!」トコトコ……

…………

ドラゴン「本当に魔法を教えることになるとはなぁ」

子ドラゴン「キュー」ブワー

ドラゴン「……お前には今度お湯の出し方を教えてやるからな」

子ドラゴン「キュー!」

娘「これで大丈夫かな?」

ドラゴン「……まぁ、妥当なところじゃないか。まずはどんな魔法を覚えるんだ?」

娘「火を出す魔法が一番オーソドックスなのかな?」

ドラゴン「他にも水とか雷とか土とか……風を操ったりとかもあるけどな」

娘「水は出せると井戸まで水を汲みにいかなくてよくなるし、風は涼しくなりそうでいいね!雷は……電気で動かせそうなものはないからまだいいかも。土は……?」

ドラゴン「ここまで実用性重視の魔法使い志望を初めて見たぞ……といってもそんなに見ていないけどな」

娘「どれが一番簡単なの?」

ドラゴン「どれも似たようなもんだな。知識としてはどれも難しいが、感覚としては似たようなところもあるから、一番の難関はひとつめだ」

娘「んー……じゃあ炎にします」

ドラゴン「よーし、まずはだな……」

…………

ボフッ

娘「うーん、一瞬しか出ないなぁ」

ドラゴン「いや、曲がりなりにも一日で魔法を少しでも発動できてるってのは大したもんだ。すごいぞ」

娘「へぇ……そうなんだ……」

ドラゴン「子ドラゴンは数ヶ月かかってもまだ火を吐けるだけだしな。小さく吐くだけでも一週間はかかっていたぞ」

子ドラゴン「キュー!」ボワー

ドラゴン「別にバカにしているわけてはないから俺を燃やそうとしないでくれ」

娘「でも、そう聞くとすごいのかな……?それに、こうやって教えてもらうと何も読めなかった魔法書も少しずつなら読める……かも……」

ドラゴン「それはさらにすごいな……センスがあるんじゃないか?」

娘「いろんな便利な魔法を使えるようになれるかな?」

ドラゴン「……あぁ、そうだな」

…………

[隣町、パン屋]

娘「……ほ!」ボワッ

少女「わっすごいじゃんなにそれ」

青年「おや。娘ちゃん、魔法使いだったのか」

少女「魔法?これが魔法なんだ。初めて見たや。娘ちゃんすごーい」

娘「見習いですけどね。まだ一週間くらいしか練習してませんし」

青年「それでもすごいじゃないか。ここらの地域は魔法を使える人が極端に少ないしな」

少女「町によっては魔法を魔族がもたらした殺人技術だー、なんて言ってる人もいるらしいよ?」

娘「殺人技術……」

青年「なんとなく凝り固まった考え方って気がするけどな」

少女「確かに確かにー」

青年「少女、適当だろ。さては本で読んだだけとかだな?」

少女「そんなことないよー」ヒューヒュー

娘「魔法ってあんまり使わない方がいいのかな?」

少女「魔法を目の敵にしてるようなとこでは使わない方がいいかもね」

娘「人を傷つけたりしちゃうかもしれないんですもんね……」

青年「だからそれは凝り固まってるっての……道具なんて大抵そんなもんだろ?包丁だって人を傷つけたり、ときには殺してしまえたりするんだし。要するに使う人次第だろ」

少女「おー、たまにはいいこと言うねぇ」

青年「少女には言われたくねぇな」

娘「でも、確かにそうですね。使う人次第、かぁ」

青年「あっ、もうこんな時間か。そろそろ生地が焼けたんじゃないか?」

娘「いつもわざわざ申し訳ないです」

青年「いやいや。ヘビーユーザーが増えて喜ばしい限りだよ」

少女「うんうん。こうやってお話しするのも楽しいし、私も焼きたてが食べられるしね!」

青年「焼きたて目当てだったのかよ……金はちゃんと払うんだぞ」

少女「はぁーい」チャリンチャリン

[隣町付近、湖への森]

ボウッ

娘(まだまだ小さな炎しか出せないけど、は森夕方でも暗いので灯りには便利だなぁ)

ガサガサッ

娘「ひっ」

オオカミ「ガウッ……ガウッ……」「ガウー」「ガウガウッ……」「グルル……」

娘「お、オオカミ……ひぃ……ふぅ……み……えぇ……」

娘(いっ、いっぱい。に、逃げなきゃ……)

オオカミ「ガウ……ガウッ……」

娘「あれ……?近づいてこない……?」

娘(この炎を警戒してる……?でも時間の問題かな……)

娘(だったら……無理を承知で魔力をもっと強めて炎で……)

『町によっては魔法を魔族がもたらした殺人技術だー、なんて言ってる人もいるらしいよ?』

娘(……私には)

娘「……無理、無理だよ」

娘(オオカミもこわいけれど……)

娘(魔法も、こわいんだよ……)

ボワーッ

娘「きゃっ……魔法!?」

オオカミ「ガウッ!?……ガウガウッ」

ドラゴン「悪いな、こっから先は俺のテリトリーなんだよ」バサッバサッ

娘「ど、ドラゴンさん?」

ドラゴン「襲われるぞ、早く乗れ!」バサッバサッ

娘「う、うん!」ガチャガチャ

バサッ……バサッ……

…………

ドラゴン「絵にかいたような危ないところだったぞ」

娘「私も……そう思います」

ドラゴン「…………」

娘「魔法って、人を傷つけたりするのかな」

ドラゴン「そういうこともあるな」

娘「じゃあ……やっぱり」

ドラゴン「とはいえ、さっきもそうだが魔法がなければどうにもならないこともある」

娘「それは……そうだけど……」

ドラゴン「まぁ、なんだ。強い精神を持て、だとかそんなことを言うつもりはない」

娘「え?」

ドラゴン「最初から信じてるからな。流石の俺も魔法をむやみやたらと使うようなやつに魔法を教えているつもりはないんだよ」

娘「そ、そんなのっ!」

ドラゴン「ま、娘なら大丈夫だよ。……だからさ、さっさと戻ってアップルパイ食べようぜ」

娘「……うん」

ドラゴン「子ドラゴンも待ってるからな」

バサッバサッ……

…………

[洞窟前]

子ドラゴン「キュー……」ボワッ

子ドラゴン「キュー……!キュー……!」パクパク

娘「すごく気に入ってるなぁ……」

ドラゴン「自分で焼き直した後に食べるってどうなんだ」

子ドラゴン「キュー!キュー!」パクパク

ドラゴン「そうだ、魔法についてだが、ときどき忘れそうになるが娘はあの町の出身だ。あの町は……俺のせいなのかもしれないが、魔法や魔族の部類をすごく恐れている」

娘「……うん」

ドラゴン「だから、娘がこわがるのも仕方ないといえば仕方ない。あの町の出身なんだからな。最初は軽い気持ちでも、使えば使うほど得体のしれなさを感じる、というのもあるだろう」

ドラゴン「でも、だからこそ、だ。俺は娘に魔法を使ってもらえると嬉しい。最初はちょっとした冗談だったんだが希望も交えてるんだよ。たぶんな」

娘「希望?」

ドラゴン「ここに来て百数年、ずっと俺は恐れられてきた。……つまり、理解されずに生きてきたんだ。ここに生け贄として来た娘たちもそうだ。警戒心だらけだったり、そもそも俺の話に聞く耳を持たなかったり。酷いものになると生け贄として連れてこられたのにも関わらず俺に殴りかかってきた娘もいた」

娘「ひどいね……」

ドラゴン「いや、すまん。いらない話だった。つまり、俺は理解されたかったんだよ。寄り添ってくれて嬉しかったんだ。舞い上がってたんだ」

ドラゴン「……だから、娘に魔法を教えたのは俺の私情に巻き込んでしまったようなものだ。魔法を使えるようになると、いざ町に戻ったところで、娘まで迫害される可能性もある……わかってたんだ」

娘「私は……大丈夫だよ。魔法を教えてもらえて、嬉しかった……ううん、嬉しいし。それに……」

娘「私は、ここが。ドラゴンさんと、子ドラゴンさんが……今の"日常"がちゃんと、好きだから。ね?」

ドラゴン「……そうか」

子ドラゴン「キュー……」パクパク

娘「あっ!子ドラゴン、私のぶんまで食べてるんじゃ……」

子ドラゴン「キュー……」

子ドラゴン「キュー!」パタパタ

娘「逃げても許さないですよ!」

ということで第5話おしまいです。

勇者の剣のときもそうだったけどなんかファンタジーものは誤字脱字がひどいなぁ……。
娘の少女化問題にびくびくしながら書いてます……。
自分で読み返したりはぱぱっとしかしてないので脳内補完できなさそうなとこがあったら言ってください……。

今回はコメントくださっている疑問点とかある程度組み込んだりしていて、いろいろと急ぎすぎな展開でどうなんだって感じだけどとりあえずプロットはできたよ……!これをなぞれたらエタらずに終わらせられそう……!

マイペースすぎる更新ですがお付き合いいただいてる方々、ありがとうございます。これからもよろしくお願いします~!

寝る前に書くのを習慣にしていきたいけど時間がひどいね!おやすみなさい!

言われるまで少女化に気付かなかった
娘 ←通常時
少女 ←リトルレディー化 小さくても女として発言
と脳内変換しよう

>>1です。

楽しみなドラマの最終回がやるまでですけど6話書くぞ……。

俺も長々と書き連ねてるだけでやってることは似たようなもんですから……いいと思いますよプロローグ()
でも連投はやめてくださいね()

第三者の厳正な目で誤字を精査していただけると(ry(書き込みを見て言いたくなった)

>>173
最初の誤字ってた頃のあれは全部娘に変換して、隣町回から出てきた少女はこう、おちゃめな女の子として認識してあげてください(へωへ)

【第6話】

ミーンミンミン……ミーンミンミン……

ドラゴン「毎年のことではあるが、夏は流石に暑い日もあるな……」

娘「あ、それなら、ほら」ヒュオオ……

ドラゴン「氷雪魔法?……そんなものまで覚えたのか?」

娘「うん。お湯は水系の魔法に火系の魔法を組み合わせたらすぐできちゃうのに氷系の魔法は水の魔法に全く別の冷化魔法を重ねなきゃで資料を漁ってみるのも覚えるのも大変だったけどね」

ドラゴン「魔法を使いだしてからも……まだ一ヶ月そこらか?もうそんなところまで覚えたのか?」

娘「もう野菜もきゅうりとか、トマトとか採れちゃうようになったしそんなものなんじゃないの?」

ドラゴン「いや、野菜と魔法は違う。俺から見てもその上達ペースは相当速いと思うぞ」

子ドラゴン「キュー」ダバー

ドラゴン「この通り、子ドラゴンも最近やっとお湯が出せるようになったところだしな」

娘「子ドラゴンはお湯が出せるようになったのはいいけど、もう夏真っ只中だから水浴びの方が気持ちいいのが残念だね……」

子ドラゴン「……キュー」タポ…タポ…

娘「子ドラゴン、なんかちょっとおっきくなった?」

子ドラゴン「キュー?」コロコロ

娘「なんか……ちょっとだけ」

子ドラゴン「キュー!キュー!」

ドラゴン「……」

娘「……?」

ドラゴン「……」

娘「どうしたの?」

ドラゴン「やっぱり、娘は一度町に戻るべきなんじゃないか?」

娘「またその話?いつもいつもその話ばっかり……そんなに私が邪魔?」

ドラゴン「そういうわけじゃない。……隣町でアップルパイを作ってくれているという友人には俺達のことは話しているのか?」

娘「そんなの、言うわけないよ」

ドラゴン「何故だ?」

娘「そんなの……」

ドラゴン「怖がられて、嫌われるのが怖いんだろう?町に帰るのを躊躇っているのもそのせいなんじゃないか?」

娘「……そんなわけっ!ドラゴンさんは私のこと、なんにもわかってないです!」

ドラゴン「これでも、心配してるんだ」

娘「どこがですか!」

ドラゴン「このままじゃ、娘が……」

娘「あー!もう!聞きたくないです!私、小屋にいますから!」パタパタ……

バタンッ

子ドラゴン「キ,キュー……」アワアワ

ドラゴン「放っておけ。ああいうのは時間が経てば収まるんだよ」

子ドラゴン「キュー……」ショボン



……

……ガンッ

ガンッガンッ

……いっ

娘(うるさいなぁ)


ガンッ……ガンッ!
……おいっ

娘(まだ、起きる時間じゃ……)

ガンガンッ
……起きろ!娘!

娘「……あー!もー!うるさいです!」

ドラゴン「起きたか!?娘!出てこい!」

娘「なんですか!?昨日のことから嫌がらせですか!?ドラゴンのくせに人間が小さ……ドラゴンが小さいですよ!」

娘(……って、あれ?)

娘「ドラゴンって朝に弱いんじゃ……」

ドラゴン「いいから早く出てこい!大変なんだよ!」

バタバタバタッ

ガチャッ

娘「ど、どうしたんですか?」

ドラゴン「子ドラゴンがどこにもいねぇんだよ!」

娘「子ドラゴンが……?森の中を歩いてるとか……」

ドラゴン「さっきまで飛び回って探してみたが、なんせ森だ。日が出てないこともあって探しにくくてな。見つからないんだよ」

娘「時間は……ええと。6時?もう日の出は過ぎてるけど……」

ドラゴン「日の出を見て起こすことに決めたんだ。一時間近く起こしてたんだぜ」

娘「……あぁっ!もう!ちょっと待っててください!着替えます!」

ドラゴン「おう、早めにな」

娘「言われなくてもわかってますー!」

バタバタバタッ

…………

娘「えっと……それで?」コホン

ドラゴン「俺は上空を飛び回って森を探す。……だから、娘には町を探してもらいたいんだ」

娘「……町」

ドラゴン「俺は……どう考えてもあの町には入れない。下手すりゃ武装した部隊か何かが出てきてもおかしくないくらいだ。……子供とはいえ、同じドラゴンである子ドラゴンも同じく危険だ」

娘「でも、子ドラゴンが町に行ったかなんてわからないでしょ?」

ドラゴン「あぁ、わからない。だが、昨日の喧嘩があってのこの騒ぎだからな。子ドラゴンが何か考え、町に向かった可能性も否めない。……それに」

娘「それに……?」

ドラゴン「もしも、ハンターの類いに捕まってるとしたら、町まで連れていっている可能性が高い」

娘「は、ハンター?」

ドラゴン「ハンターといえども魔物を長時間身近に置いておきたくはないだろうからな。付近の町に売りつけるパターンが最も多い」

娘「う、うぅ……」

ドラゴン「娘なら土地勘もあるだろう?なんとか見つけてやってほしい」

娘「土地勘なんて……ないです……」

ドラゴン「……?あの町出身なんだろ?」

娘「ずっと……屋敷の中で育てられてきたから……」

ドラゴン「おいおい……そこまで箱入り娘かよ……」

娘「や、屋敷といっても庭もあったし、お城には出入りできたし、たまにならメイドと一緒に町に出かけたりもできましたし……!」

ドラゴン「うわぁ……本物だ……」

娘「うぅ……」

ドラゴン「しかし、俺もどうやってもあの町には入れない。ついでにいえば土地勘がないってのはお互い様だろ」

娘「でも生け贄に出された私がそのまま町に帰ってきたら……どうなるの?」

ドラゴン「逃げてきたと思われてこっちに送り返されるんじゃないか。そういう人間はいたしな」

娘「……あんまり人には見つからない方がいいんだね」

ドラゴン「まぁ、取り押さえられては元も子もないしな」

娘「もしも……ハンターに捕まってたら子ドラゴンは?」

ドラゴン「どっかの町や貴族に売り飛ばされるかもしれないな。その後どうなるかは買い手次第だ」

娘「あー!もう!」クシャクシャ

ドラゴン「……覚悟は決まったか?」

娘「ぜんっっっっぜん!」

ドラゴン「……そうか」

娘「でも、行く。行きます。行ってやります」

娘「……子ドラゴンのためですから」

ドラゴン「よーし、その意気だ。乗れ。飛ぶぞ」

バサッ……バサッ……

スタッ

ドラゴン「これ以上町に近づくのは危険だな。悪いがここまでだ」

娘「町に行ったらとりあえず……探し回ればいいんだよね?」

ドラゴン「闇雲に探すのは流石に無理がある。町一番の屋敷を持っている家ってんだから、親を頼るのが一番だろうが……」

娘「親は無理だよ。もう、何年も会ってないもん」

ドラゴン「な、何年も?」

娘「お城で働いてたんだけど、途中から北の遠いとこに行かなきゃいけなくなって……最初は手紙をくれたんだけどそれも段々と減って……この一年くらいは何も……」

ドラゴン「聞けば聞くほど冷たい親だな」

娘「昔は一緒に遊んでくれたんだけどね。どっちにしても今はこの町にはいないから……」

ドラゴン「だったらメイドとやらだな」

娘「メイドなら……確かに力を貸してくれるかも」

ドラゴン「よし、じゃあ娘は屋敷に向かって、メイドを探してこい。俺は森をひたすら散策する。何かあったら……」ガコンッ

娘「これは?」

ドラゴン「洞窟の奥にあるのは宝石だけではなくてな。魔法石という魔力の封じ込まれた魔法石もあるんだ。それはそのうちの一つだ。何かあったらそれに魔力を注いでみろ。俺を思い起こしながらな」

娘「注ぐとどうなるの?」

ドラゴン「それは魔力を注ぐと意思伝達ができるタイプの魔法石だ。俺と意思伝達ができる……テレパシー魔法ってとこだな」

娘「そんなに便利なものがあるならもっと早く教えてくれたらいいのに」

ドラゴン「魔法石を扱うにはそれなりに魔法制御の技術が必要なんだ。正直、それを持たせておいても使えるかどうか……。ないよりマシって程度だな。使えたとしても使い続けられる保証はない。繋がったら要件は手短に伝えるんだぞ」

娘「すごい賭けだね……」

ドラゴン「ま、必要ないかもしれないけどな。行ってこい」

娘「……うん!」

[町]

ワイワイ……ガヤガヤ……

少女「うぅ、もうこんなに人がいるなんて……」

『おい、なんかこの町に魔物が出たって噂だぞ』

『おいおい、見間違いだろ』

『確かにありえねぇよなぁ……』

『でも、本当だったらどうするよ?俺達死ぬかもしれねぇぜ?』

『そんときはドラゴンに生け贄をもっと捧げて守ってもらえるように頼んでみっか?へへっ』

『冗談になってねーよ……』

少女(噂になってる……ということは子ドラゴンはやっぱりこの町に……?)コソコソ

ごめん少女化やっちまったwwww

娘(と、とりあえず屋敷を目指さなきゃ……って屋敷ってどこだろ?)

娘(表通りはとてもじゃないけど歩けない。路地裏を縫って探すしかないみたいですね)タッタッタッタッ

…………

『魔物だって?ありえねぇ!殺しちまえ!』

『おいおい、俺達が殺せるわけねぇだろ?』

…………

娘(……ここでも噂になってる)タッタッタッタッ

…………

『城の兵隊は何をやってんだ!こういうときのための兵隊なんじゃねぇのか!』

『まだはっきりとした目撃情報があるわけじゃないらしいしね……動くに動けないんでしょ?』

…………

娘(子ドラゴン……早く探さなきゃ……っ)タッタッタッタッ

…………

『魔物だと?またこの町が焼かれたらどうするんだ?』

『そんなドラゴンレベルのもんが紛れ込んでるわきゃねぇだろ』

…………

娘(路地裏で建物の影ばかりだから……お屋敷が全然見えない!)タッタッタッタッ

…………

『私、隣町に逃げようかしら……』

『本当に魔物が紛れ込んでたら、町の外にも何体いるのかわからないのよ?今出ていくなんて正気じゃないわよ』

…………

娘(子ドラゴンも見当たらない……!)タッタッタッタッ

…………

『おい!今この町から出てってるやつに連絡はつかねぇのかよ!こっちに来ねぇように伝えねぇと!』

『電話っつー技術もまだまだ出てきたばかりだからな……遠くの町まではとてもじゃねぇが……』

『あぁーっ!くそっ!科学も科学で野蛮な魔学の真似事なんぞをするからこうなるんだ!』

…………

娘「はぁ……はぁ……もう!どこなんですかっ!子ドラゴン!」

バサッ

バサバサバサッ

娘「……ひっ」

娘(後ろから物音……!?こんな路地裏でっ!?いやっ……逃げなきゃ……)

???「……ま?」

娘(逃げるってどこへ!?目の前は表通りです!表通りに出た方がどう考えても状況は悪くなる……)

娘(だったらいっそ浮遊魔法で……いや、ダメです。この路地の建物は高すぎる……まだ慣れてない浮遊魔法を使って落ちたら……)

???「……お嬢様?」

娘「……へ?」

???「お嬢様ではありませんか!」

娘「め、メイドさん?」

メイド「はいっ!そうでございますっ!」

娘「あ、あの、荷物……」

メイド「あら、私ったらいけない。大切なお荷物が……」

娘「手伝います」ヒョイッヒョイッ

メイド「そんな……お嬢様のお手を借りるなんて悪いですわ」

娘「……ふふっ」

メイド「どうかなされましたか?」

娘「いえ、メイドさんにそう言われるのも少し懐かしくて」

メイド「確かに……永らく言っていないような気がします……ところで、お嬢様はどうしてここに?」

娘「少し話があるんだけど……いいかな?」

メイド「話……ですか。そうですね……では」

ガシャンッ……カラカラ……

メイド「お嬢様は町の中では生け贄の身。見つかったらまずいのでしょうし、まずはお屋敷に戻ることにいたしましょう」

娘「台車?」

メイド「中にお隠れください。お屋敷までお運びします」

娘「わ、わかりました」キュッ……ガコンッ

メイド「では……」

カラカラカラカラ……

[屋敷……娘の部屋]

メイド「どうぞ、紅茶です」

娘「……懐かしい味。もう飲めないと思ってたのに」

メイド「お嬢様がお好きな茶葉を特別に取り寄せて使ってますからね」

娘「今でも……?」

メイド「ええ、帰ってくると信じておりましたから。この部屋だって、毎日ちゃんと掃除しております。……私の独断ですけど」

娘「……ありがとう」

メイド「いえいえ、こうしてお嬢様のお顔が見れただけで私は幸せです……して、本日は……いえ、今までどのような生活をなさっていたのかお聞きしても……?」

娘「……そうですね。実は……

カクカクシカジカ

メイド「なるほど。そのような奇っ怪な……」

娘「メイドさんは……ドラゴンが怖い?」

メイド「そうですね。怖くないと言えば嘘になります」

娘「やっぱり……」

メイド「でも、何も聞かずに一方的に拒絶しようとも思えません」

娘「じゃあ!」

メイド「その……子ドラゴンさん、ですか?ご一緒に探させていただきます」

娘「ありがとう!」

メイド「私はドラゴンの味方にはなれませんが、何があってもお嬢様の味方ですよ」

娘「でも……いいの?他の人の目とか……」

メイド「いいのです……今日は最高の日ですから」

娘「……とはいうものの、どうやって探そう?」

メイド「ドラゴン……というより魔物の目撃証言は今朝からいくらか報告されており、町の噂も絶えなくなっています」

メイド「ですから、お嬢様をお見かけしたときにはその件が関係しているのでは、と思ったのですが……やはりでしたね」

娘「その目撃証言の場所は……?あっ。もしかしてあのときに路地裏にいたのって」

メイド「それは全く関係なく、スコーンを買いに行ってたのです。あの路地裏にある隠れ家的お店なのですが、一日限定十食のスコーンが本当、絶品で……」

娘「何それ私食べたことないんですけど」

メイド「なにせ……ひとりひとつまでしか買えなくて……あっ。今日買ったぶんを半分こしますか?」

娘「します」

メイド「では、少々お待ちください」

娘「あっおいしい」モグモグ

メイド「でしょう!?本当、ずっとお嬢様におすすめしたかったのですが、いつもいつもそのスコーンの魅力には勝てず……ひとりで!」

娘「……じゃないです!子ドラゴンの目撃情報はどこなんですか!?」モグモグ

メイド「あぁ、お嬢様、お口にものを入れながら喋るものでは……場所は様々で。もしも本当にその魔物がいるならば、町中を転々としているのではないかと……」

娘「それじゃあ、ふりだしかぁ」

メイド「……ですねぇ」

ウーッ……ウーッ……ウーッ……ウーッ……

娘「!?」

『全町民に告ぐ!全町民に告ぐ!町の中央、噴水広場前にて、魔物の存在を確認!ただいまより城の兵隊をそちらに派遣する!町民は魔物に接近しないよう、噴水広場からただちに避難すること!繰り返す!全町民に……』

メイド「……どうやら探す手間は省けたみたいですよ」

娘「これって……」

メイド「町民全体への連絡機材ですね。城の各部屋から自由に連絡を回すことができるとか。この声も町中に届いているはずですよ……って導入されたのはお嬢様がいなくなる前でしたっけ」

娘「早く行かなきゃ子ドラゴンが!」

メイド「……任せてください。出ますよ」

娘「これは?」

メイド「馬です」

娘「その服装は?」

メイド「勝手に屋敷の馬を連れ出すと怒られちゃいますからね……変装です」

娘「……そう」

メイド「ささ、さっさと私の後ろに乗ってください」

娘「う、うん」

メイド「では、行きますよ」バシンッ

ヒヒーンッ

パカラッパカラッ

パカラッパカラッ

娘「ちょっ……まっ……これ以外とはや……」

メイド「急いでるんでしょう!?」

娘「まっ!前!前!門ですよ!門!」

メイド「ぶち破ります!」

娘「ぶっ……!?」

バッカァーンッ

兵士「!?……ちょっ!……まっ!貴様!」

娘「ひじょーじたいなんですー!」

兵士「ひじょっ……へ?お嬢様?」

パカラッパカラッ

娘「これって……」

メイド「ほへぇ、綺麗ですね」

ウーッウーッウーッウーッ

『魔物は奇妙な魔法を使用中!どのような作用をもたらすかも未知数のため、町民諸君は近づくなかれ!繰り返す!……』

メイド「あれも魔法なんですね……」

娘「でも……子ドラゴンがあんな魔法を使ってたことなんて……」

娘(雲ひとつない、夏の青空)

娘(かんかんと照りつける暑い日射しに目を細めながらも見上げたその先には……)

娘(幾重にも、虹がかかっていたのでした)

[広場]

子ドラゴン「キュー!……」シュワーン……

子ドラゴン「キュー!」ドッカーン

キラキラ……

パカラッパカラッ
ズズーッ

娘「こ、子ドラゴン!」

メイド「小さな虹がいっぱい……綺麗……
これも魔法なんですね」

娘「どうやら……そうみたい」

メイド「町の兵隊などはまだ来ていないようですね。私はこのまま馬を屋敷に帰してきます。お嬢様は子ドラゴンを連れて逃げてください」

娘「うん、わかった……」

バシンッ
パカラッパカラッ……

娘「子ドラゴン!」

子ドラゴン「キュ……?キュー!」キュイーン……

子ドラゴン「キュー!」ドッカーン

キラキラ……

娘「これは……水の魔法を空に放った後、火の魔法でそれを破裂させてるの?……それで虹が?」

子ドラゴン「キュー!」

娘「でも、どうしてそんなこと……」

パカラッパカラッ……
ガタッガタガタガタッ……

兵長「さぁてと、チェックメイトだ」

娘「……!?」

子ドラゴン「……キュー?」

ガシャッガシャッガシャッ……

娘「これは……」

兵長「おっと、こいつぁ想定外だ。生け贄になったはずのお嬢様じゃあねぇか。ドラゴンの舌には合わなかったってかぁ?」

娘「どちら様ですか……」キッ

兵長「まぁまぁ、そう睨まないでくれや。お初にお目にかかる。オレぁこの町の兵長をしているもんだ。野蛮な魔族を撲滅し、……いや、魔族だけでなく盗賊なんかも相手にはするんだが……まぁ人類を守るのが我々の役目……ってやつ?そう、お前さんも含めた人間のね」

娘「……だから、なんなんですか?」

兵長「我々はお前さんの味方だ。だからそこにいる魔族をこちらに引き渡してくれやしねぇか?こちとら手荒な真似はしたくねぇ……お嬢様相手なら尚更、な」

娘「その"お嬢様"を生け贄にしたのは他ならぬあなたたちなのでは?」

兵長「んなもん知ったこっちゃねぇよ。お偉いさんが決めたことはお偉いさんが決めたことであってオレが決めたわけじゃねぇ」

娘「そんな……無責任な!」

兵長「そいつぁ心外だな。どいつもこいつも無責任でありたいから、その責任とやらを取ってくれるお偉いさんってのを立てるんじゃねぇのかい?」

兵長「まぁ、つべこべ言わずにそいつをこっちに引き渡してくれや」

娘「子ドラゴンは……無害です!」

兵長「あぁ、そのようだな。あの虹もただの虹らしい」

娘「だったら!」

兵長「でもそれは"今"は無害ってだけだ。これからそいつがどうなるか、なんてわかりゃしないだろ?オレにも……お前さんにもよ」

娘「私は子ドラゴンを信じてます!子ドラゴンは……人を傷つけたりなんて、しません!」

兵長「そんな、あやふやな精神論じゃ町民を納得させらんねぇんだよ。お前さんひとりのために町民の大半の不安を許容しろってか?」

娘「それは……そんな!」

兵長「残念ながら、正義はオレで、お前さんはただ自分のためにわがままをのたまってるだけだ。それは正義じゃねぇ。お前さんはいいことをしているつもりなのかもしれんが、それはお門違いだ。真逆だ。大多数の町民を恐怖に陥れてんだよ。わかんねぇのか?」

娘「でも……子ドラゴンはただ……」

兵長「ただ、なんだ?虹を見せに来ただけってか?……話するだけバカバカしいもんだぜ」

兵長「……もういい、交渉するだけ無駄だ。捕らえろ」

兵隊「「「「了解」」」」

兵長「お嬢様は丁重にな」

ガシンッガシンッ

娘(こうなったら……魔法で……)

娘(だめ、魔法なんて使ったら私まで……!)

娘(でもこんな場面でそう言ってる場合じゃ……)

娘(……!そういえば、魔法石。あの、魔法石が……)


娘(でもここにドラゴンを呼んだらそれこそ町を恐怖に……それこそ最悪。だったら……やっぱり魔法で……)

娘「あぁぁぁ!!!もう!!!!」キュィィ……

兵長「……!?総員、退避!」



男「はいはーい。ストップストップー!」ピーッ



娘「……!?」キュゥ……

男「そう、止めるんだ。お嬢さん、君もね」

兵長「……どうなさったのですか」

男「不満そうだね。……でも今のは止めるべきだったろ?結果オーライじゃない。町長がそこの二人……というより一人と一匹?をお呼びだ」

兵長「だから、こうしてお連れしようと……」

男「やだなぁ、客人なんだからさ、もっと丁重に扱わないと」

兵長「……は?客人?しかし、そこの魔物は曲がりなりにもドラゴンであり……!」

男「でも、今は無害なんでしょ?」

兵長「しかし……!」

男「あくまでもこれはボクじゃなく町長の決定だ。逆らうならキミの処分もどうなることやら、だよ?……まぁボクの知ったこっちゃないけどさ」

兵長「……くそっ!お偉いさんの考えることはよくわからん!」

男「キミが堅すぎるだけなんじゃないかなぁ?」

…………

[城、会議室]

男「はい、キミは……紅茶が好きなんだっけ?メイドから聞いたよ」

娘「ありがとうございます」ムッ

男「ははっ、そんなに警戒しないでほしいなぁ。ボクは別に敵じゃないよ。そもそも別の町出身だからそんなに魔物に抵抗もないしね」

娘「他の町……?」

男「うん、町を色々と転々としてるんだけど最近この町の町長に雇ってもらえてね……ドラゴンって何を飲むのかな?ミルクとかでいい?」

子ドラゴン「キュー……?」

娘(水以外を飲んでいる姿を見た気がしない……)

娘「じゃあ……ミルクでお願いします」

男「了解了解、まぁくつろいでてよ……ってこんなとこじゃくつろぎようもないか」

娘「いえ……」

子ドラゴン「キュー……」ガブガブ

子ドラゴン「キュ!?キュー!!!」キラキラ

男「わ、すごい気に入ってくれたみたいだね」

娘「みたいですね……」

ガコンッ……ギィッ

男「おや、来たみたいだよ」

町長「……ふむ、おぬしが娘か。直接話すのは初めてかの?」

娘「はい」

町長「そして、そちらが今回の騒動の種かね」

子ドラゴン「キュー!!!キュー!!!」ゴクゴク

娘「……はい」

男「……プフッ」

娘「笑わないでくださいよ……」

町長「まぁ、なんとも微笑ましいではないか」

町長「さて、こちらとしてもの。処刑などはしたくない。……そもそもドラゴンを捕らえたところで我々の技術でドラゴンに致命傷を与えることができるかすらもあやしいのだ」

娘「えっ……じゃあ……」

町長「うむ。おぬしらを処刑をしようとは思わぬ。……ただ、この町ではドラゴンや魔物が極端に恐れられているのも事実じゃ。……だから、おいそれとそのドラゴンを町に歓迎するわけにもいかぬ……もちろん、あの洞窟に居座るドラゴンもの」

娘「だったら……私たちは…?」

町長「そもそもこのような事態に前例がない。ドラゴンを恐れて町に逃げ帰ってきた者やドラゴンに諭され町に帰ってきたとのたまうものはいたが、ドラゴンを引き連れて町に戻ってきたものはおぬしが初めてなのじゃ」

娘「……」

町長「だからの、それでも、そやつらの前例に則し、おぬしたちにはあの洞窟に一度帰ってもらおうと思う」

娘「私たち、帰れるんですか!?」

男「……"帰る"、か」

娘「……?」

男「いや、なんでもないよ、続けてください」

町長「うむ。……帰してやろう。ただし、町に対しての体裁として"生け贄として送り返した"ということにさせてもらう。そのドラゴンの子供も、ドラゴンを逆上させないためにそのまま同じく送り返した……といったところかのう」

娘「……大丈夫です!帰れるなら!」

[城前]

男「……さて、送り迎えを命じられちゃったわけだけど」

娘「とりあえず一件落着……ですかね」

男「それはどうかなぁ。まだそのドラゴン達は町の人たちに受け入れられてないわけだろう?」

娘「それは……できる気がしないです」

男「道のりは長いかもしれないけど、目指せばいつかは手に入るさ」

娘「手に入る?」

男「そういう、理想の世界ってやつ?」

娘「なんだかそう言われると余計に壮大な気がしてきました」

男「宝物ってのは手を伸ばさなきゃ掴めない。……だからこそ諦めずに掴もうとし続けることが大切なのさ」

子ドラゴン「……スピー……スピー」

男「このドラゴンもそういうところがわかってるんじゃないかな」

娘「宝物……ですか」

娘(やっぱり……遠いなぁ)

[洞窟]

スタ……スタ……

ドラゴン「お、無事だったか」

娘「なんとかね……ずっと探してたの?」

ドラゴン「いや、途中で町からサイレンのようなものが聞こえたからな。町に子ドラゴンがいると思い、ここにいた。……ひょっこり戻ってくるかもしれんしな」

娘「はぁ……子ドラゴンね、お湯を作るための水の魔法と火の魔法を使って町に虹を作ってたんだよ」

ドラゴン「ほう……そのような魔法をどこで学んだのか……」

娘「どうしてそんなことをしたんだろうってずっと考えてたんだけど……私のせいなんだなって」

ドラゴン「ふむ?」

娘「私、昨日の喧嘩であんなこと言ったから……子ドラゴンはドラゴンは無理でも魔法だけでも受け入れてもらおうとあんなこと……だから、私のせいなんだなって」

ドラゴン「確かに子ドラゴンがそんな行動をとったのは娘の言葉があったからかもしれない。……だが、友達の思いやりを"私のせい"だなんて言うもんじゃないぜ」

娘「……そっか。そうでした。子ドラゴンも私のためにやってくれたこと……ですも…んね……」バタッ……

ドラゴン「娘っ!?」

娘「……」スピー

ドラゴン「……なんだ。寝たのか……びっくりした」

ドラゴン「よっこら……せっと」

娘「……」スピー

子ドラゴン「……」スピー

ドラゴン「小屋のベッドほど柔らかくはないだろうがたまにはこうやって並んで寝るのも悪いもんじゃねぇだろ。葉っぱのふとんってのも中々体験できることじゃねぇぞ」

ドラゴン「……つっても聞いてるやつなんていねぇんだけどな」

娘「……」スピー

ドラゴン「……どうせ無茶したんだろ、この」

コツンッ

娘「むぅ……」

ドラゴン「……おやすみ」

娘「……」スピー

子ドラゴン「……」スピー

くっっっっそ長くなった第6話。
途中で分けようにも分けどころがなかった……。
観てたドラマの最終回挟んで分ければよかったかな……。

プロットは二行で一番短いんだけどこれ残りの話の尺どうなることやら。

あと、虹の科学的原理からして云々はファンタジーなのでしーっです。

今日は書くだけ書ききった感。おやすみなさい!

【第7話】

……カッコーン

チョロチョロ……

ドラゴン「……」

子ドラゴン「キュー……」

娘「……」

……カッコーン

ドラゴン「なぁ」

娘「なに?」

……カッコーン

ドラゴン「最近は涼しくなってきたしこうやって風呂に浸かれるのはいいんだが……」

娘「ドラゴンはほぼ足しか入ってないけどね」

……カッコーン

ドラゴン「あのさっきからカポンカポンと鳴っているものはなんだ?」

娘「なんだっけ。名前は忘れちゃった。絵本で見たの。遠くの国の文化らしいけど……雰囲気がいいでしょ?」

ドラゴン「……そうだな」

……カッコーン

ドラゴン「しかし、風呂でまで魔法書を読むのはどうなんだ」

娘「町に行ったときに私はやっぱりもっと魔法を知らなきゃって思ったから……いろんな事ができるようにならないと……」

ドラゴン「しかしそんなに四六時中読みふけるのもそれはそれで問題なんじゃないか……?」

娘「もうこんなこともできるようになったんだよ」シュゥゥ……

カコン……ガコンッ……ガコッガコッガコガコガコガコッ……

ガッコーンッガッガッコーンッガッコーンッガッコーンッ

子ドラゴン「キュー……?」

ドラゴン「……」

娘「……」

ガッコーンッガッガッコーンッガッコーンガガガッガッコーンッ

ドラゴン「遠隔操作魔法はすごいが……これ、楽しみ方が違うんじゃないか?」

娘「私もそう思う」

ドラゴン「魔法を知るのも大切だが、その他のことを知ることも大切だぞ。魔法だけ覚えていても使い方を誤れば……魔王にすらなってしまうしな」

娘「その他のこと……?例えば……?」

ドラゴン「料理とか……薬草とか……」

娘「そういう本もちゃんと読んでるよ。薬草はあんまり探しに行かないけど、料理はしてるし……」

ドラゴン「……娯楽とか?」

娘「娯楽……こうして話してるだけでも楽しいけど……」

……カッコーン

ドラゴン「ついでにすごい今更なんだが、俺と娘って一緒に風呂に浸かってていいのか?」

娘「なんで?」

ドラゴン「俺はこれでもオスだぞ」

娘「ドラゴンはドラゴンでしょ?」

ドラゴン「……そうか」

……カッコーン

ドラゴン(このまま成長していくと嫌がられたりするのだろうか……)

……カッコーン

ピュオォオ……

ドラゴン「風の魔法で髪全体を乾かすのは便利そうだな」

娘「ずっと伸ばしっぱなしだからね……すごく長くなっちゃったなぁ」ピュオォオ

ドラゴン「流石に町の方に髪を切りにいくわけにもいかねぇだろうし……隣町に切りにいってみたらどうだ?」

娘「いっそこの髪を遠隔操作していろいろと便利に使えないかな?長いから遠いとこのものも取ったりできそうだし」……クネクネ

ドラゴン「発想が狂気じみてきてるぞ……というか魔法の上達が最早魔族クラスだな」

娘「そんなに早いの?私」ピュオォオ

ドラゴン「魔物よりも化物じみたスピードだな」

娘「才能あったんだね、私」ピュオォオ

ドラゴン「そういえば隣町の友人にはまだ俺達のことは話してないのか?」

娘「うん、まぁ……」

ドラゴン「その友人の前でもいろんな魔法を?」

娘「ここほどじゃないけど少しは魔法を使ってるよ。こっちの町とは違ってちょっとした魔法くらいなら受け入れてはくれるし」

ドラゴン「……なるほどな」

娘「また私にドラゴン達のことをちゃんと言えって言おうとしたでしょ」

ドラゴン「俺はそれが少女のためだと思ってるからな。友人との間に隠し事なんてするもんじゃない」

娘「……したくてしてるわけじゃ、ないんだけどなぁ」

ドラゴン「町から戻ってきてからずっと魔法の勉強ばかり……大丈夫なのか?」

子ドラゴン「キュー……」

娘「大丈夫だよ、大丈夫。きつい運動をしているわけでもないし」

ドラゴン「それでも、俺には無理をしているように見えるぞ」

娘「だって……私には何もできないから……」

ドラゴン「そんなことはない」

娘「そんなことあるよ!今でも畑のお世話はほとんどドラゴンに任せっきりだし……魔法書もわからないところは聞いてばかりだし……」

娘「でも、私にはどうしたらドラゴン達が町に受け入れてもらえるのか……わからなくて……探し続けたら……何か解決できる魔法があるかもしれないでしょ?」

ドラゴン「なるほど、それで隣町から買ってくる魔法書も増えてきたのか」

娘「ねぇ、ドラゴン。私を北に連れていってくれない?」

ドラゴン「北?」

娘「私、魔法学園に行きたいの。ここからずっと北にある、魔法学園に。ドラゴンならひとっ飛びでしょ?」

ドラゴン「断る」

娘「そんな……どうして?」

ドラゴン「出不精なんだよ」

娘「で、でぶ……ドラゴン達を救える魔法があるかもしれないんだよ?」

ドラゴン「だからこそ、だ。魔法はそんなことのために覚えるものではない。魔法は拠り所でも逃げ道でもないんだよ」

娘「……むぅ」

ドラゴン「……まぁ、なんだ。正直あるにはあるんだ。今の状況を解決する魔法もな」

娘「だったら……」

ドラゴン「ただし洗脳魔法とか、記憶の改竄魔法のような魔法だ」

娘「……いっそ、それでも」

ドラゴン「そう、そうなるから連れていけないんだよ。そんなことをしちゃまさに恐れられている"ドラゴン"のイメージそのものじゃねぇか」

娘「……!」

ドラゴン「言ってしまえば、あの町の人々は魔法にかかってるんだ。時間がかけた……ある意味時間をかけて俺自身がかけてしまった、すれ違いという魔法にな」

ドラゴン「だから、俺達がしなきゃいけないのは"魔法をかける"ことじゃなく、"魔法を解いて"やることなんだよ」

娘「それは、どんな魔法を使えば……」

ドラゴン「魔法じゃない。魔法じゃないんだよ。きっとそれは、考えてるより単純なもんなんだ。人間同士でもすれ違いなんてよくあるだろ?似たようなもんなのさ」

娘「……はぁー」パタンッ

ドラゴン「……どうした?」

娘「私、頑張りすぎたみたい」

ドラゴン「……おう、もう寝るといい」

娘「んー……そうする。おやすみなさい」

ドラゴン「おやすみ」

子ドラゴン「……」スピー

娘「子ドラゴンったら……いつのまに……」

…………

娘「…………」

ドラゴン「…………」

娘「……おはようございます」

ドラゴン「おはよう」

娘「……」

ドラゴン「……」

娘「……」

ドラゴン「どうしたんだ、その……前髪は」

娘「昨日の夜に風の魔法で髪を切ろうとして……」

ドラゴン「おう……」

娘「切りすぎました……」

ドラゴン「そうか……まぁ……かわいいぞ……」

娘「髪……」

ドラゴン「髪?」

娘「髪を生やす魔法を……探さないと……」

ドラゴン「……頑張れ」

>>230
少女のためじゃねぇ……

【第8話】

青年「その三角帽子はどうしたんだい?」

娘「魔法使いっぽいかな……って」

カランカラン

少女「ういーっす……ってあれ!何それ!すっごく魔女っぽい!」アハハ

娘「魔女って……」

青年「魔法使いも魔女も大差ないんじゃない……?」

娘「魔女ってなんかこう……悪者っぽいです」

少女「いっそのこと魔法少女ってのはどうよ?」

娘「どうって……魔法少女を自称するんですか?」

少女「なんかかわいいじゃんっ?っていうか帽子が魔法使いっぽいんだからせっかくだしローブもほしいね!」

青年「ここはパン屋だからな。代わりになりそうなもんなんてないぞ」

少女「ちぇーっ、そうだ!私にもそれ被らせてよ!」

娘「えっ……ちょ……」

ヒョイッ

少女「……」

青年「……」

娘「……」

少女「髪切った?」

娘「……ちょっとだけ」

…………

カポッ

娘「……こほん。ところで、誰かと仲良くなるにはどうしたらいいんでしょうか」

青年「なんだ?人間関係の悩みでも抱えてるのかい?」

娘「なんというか、嫌われてまして」

少女「えーっ、娘ちゃんを嫌うような人がいるの?」

娘「……ちょっとだけ」

青年「……」ジーッ

少女「……」ジーッ

娘「……結構?」

青年「喧嘩とかなら時間が経てば冷めるもんだよ。相手は一人なの?」

娘「いっぱい……です……」

青年「あちゃー、じゃあもうそういうのは冷めるのを待つしかないかな」

娘「冷める?」

青年「好きってのも嫌いってのも燃料を投下しない限りは時間と共に冷めてくものだよ。だからそっとしておくといい」

少女「えーっ、でもずっと話さないってのも辛くない?」

青年「でも話して辛いだけなら話さない方がいいだろ?」

少女「そんなの逃げだよ!」

青年「うるせぇ」

娘(……逃げ、かぁ)

娘「もしも……逃げないなら、何をしたらいいんでしょうか」

青年「何をするかというより何ができるか、だよなぁ……」

少女「私ならこう、私は敵じゃないよーってアピールするかな?」

娘「アピール?」

少女「こう、いいことを教えてあげたり……自分や好きなものをあげたり……相手が好きそうなものをあげたり?」

青年「そんなので懐柔されるのは少女くらいだろ」

少女「私はこれでも頑固ですよーだっ」

青年「アップルパイ食べ放題の券をやろうか?」

少女「なんなりとお申しつけください!」

青年「やらねーよ」コツンッ

少女「あうっ」

娘「ふふっ」

娘(好きな、もの……)

…………

[洞窟前]

娘「……って言われたんだよねぇ」ムシャムシャ

子ドラゴン「キュー……!」ハムハム

ドラゴン「なるほどな……一理あるんじゃないか?」ガツガツ

娘「確かに、私にはもうなんにも思いつかないし……それもいいかなって思うんだけど、私が好きなものとかピンと来なくて……」ムシャムシャ

ドラゴン「本当にそうか……?」ガツガツ

娘「……?魔法は好きだけど、逆効果かなって」ムシャムシャ

ドラゴン「そうじゃない」ガツガツ

娘「へ?」ムシャムシャ

ドラゴン「これだよ」ガツガツ

娘「……アップルパイ?」

ドラゴン「みんな……娘も大好きなんだろ?」

娘「まぁ、そりゃあ……美味しいし。食べ放題券を配るの?」

ドラゴン「いや……それは……どうなんだ……」

…………

[パン屋]

青年「ねーよ」コツンッ

娘「あうっ」

少女「わ!ついに娘ちゃんもやられたね!でこぴん!お揃いだよ!お揃い!」

青年「何でテンション上げてんだ……よっ」コツンッ

少女「あうっ……はいはーい!今のは理不尽だと思いまーす!慰謝料としてアップルパイ一年ぶんを請求します!」

青年「却下」

少女「ですよねー!」

青年「魔法でたまに手伝ってもらってたりもするからな。娘ちゃんのためならできることならなんでもしてやりたいが、嫌ってるっていう数人にアップルパイ食べ放題券を配ってしまったら流石に商売にならない」

娘「……ですよねぇ」

少女「娘ちゃんを嫌ってるようなわからずやに渡すくらいなら私が貰っちゃうもんね、無料券」

青年「誰にもやらねぇから安心しろ」

青年「……しかし、まぁアップルパイをいくつか持ってってやるってんなら用意しなくも、ない」

娘「……ほんとですか!?」

青年「まぁ、俺のアップルパイなんかで仲直りができるかはわかんないけど、力になれるなら」

少女「えーっ、私にはー?私にはー?」

青年「あー、もう、わかったわかった。ついでに一切れくらいは少女のぶんも焼いてやるよ」

少女「いっえーい!太っ腹ぁ!」

青年「ただし、一日ここで働いてもらうぞ」

少女「対価に見合わないよ!?」

青年「冗談だ。……まぁ手伝いのことを抜きにしても娘ちゃんも今までアップルパイをいっぱい買ってもらってるからな。少しくらいはお客さんに還元するのも悪くはないだろ」

少女「そういえばいつもこんなに食べきれるの?ってくらいアップルパイ買ってくけど娘ちゃんの家族の人ってあれ全部食べちゃうの?」

娘「えぇ、まぁ」

青年「焼き甲斐があるってもんだな」

…………

[洞窟前]

娘「……ってことになったんだけどさぁ」パクパク

子ドラゴン「キュー!」ガツガツ

ドラゴン「よかったじゃねぇか。町で配るのか?」ムシャムシャ

娘「そのつもりだけど……でも作ってもらえる数にも限度はあるし、無理があるよね……やっぱり青年さんに悪いかなぁ……」

ドラゴン「最近は娘も頑張りすぎてたからな、ここらで誰かを頼って休むってのもいいんじゃないか? 」

娘「うー。そもそもずっとドラゴンさんには頼りっぱなしですし……あっ」

ドラゴン「どうした?」

娘「それですよ、それ」

ドラゴン「どれだよ」

娘「頼りすぎなんです。これじゃ私、配るだけで何にもしてない……」

ドラゴン「その、配るのが大事なんじゃないのか?」

娘「でもなんか、腑に落ちないよ」

ドラゴン「ははぁん」

ドラゴン「じゃあ自作すればいいじゃないか」

娘「自作って……アップルパイを?」

ドラゴン「アップルパイを」

娘「その発想はなかったです」

ドラゴン「なんでだよ」

娘「本棚の料理本にはアップルパイはあったでしょうか」

ヒューッ……

スタッ

娘「うーん……」ペラペラ……

ドラゴン「小屋から好きな本を呼び寄せられるのか……」

娘「もう本棚の本の数もばかにならなくなっちゃいまして」エヘヘ

……

ジューッ

娘「……とりあえず焼いてみたけど」

ドラゴン「あの小屋のキッチンもいつのまにやらそれなりになってんだな」

娘「増築に必要な魔法は最初の頃に頑張って覚えたからね」

ドラゴン「とりあえず食べてみるか」

子ドラゴン「キュー!キュー!」

娘「切り分けるからちょっと待ってね?」

子ドラゴン「キュー!」

…………

パクッ
パクッ
パクッ

…………

ドラゴン「なんというか……違うな」

娘「……違うね」

子ドラゴン「キュー……」

…………

[パン屋]

娘「……ということでですね、あの」

青年「ぷっ……あはははは!!」

娘「へ?」

青年「ごめんごめん!そうだよな!自分で作らねぇとダメだよな!あっはっは!」

娘「えっと、その……おいしいアップルパイの作り方を……」

青年「よっし、わかった」

娘「……!ほんとですか!?……でもお店の秘伝のレシピとかじゃ……」

青年「秘伝のレシピも後の世代に伝えねぇと廃れちまうんだよ、ばーか」コツンッ

娘「あうっ……えへへ」

青年「ふっ……ふへへっ」

カランカラン

少女「おいーっ……何この空間」

青年「まず材料だが……分量と一緒にまとめたメモがそっちにあるから後で写しといてくれ。とりあえず材料だけ一通り説明すると……りんごはもちろん、生地に使う薄力粉に……強力粉。それに……」

…………

青年「……あとはシナモンパウダー……とラム酒だな。ついでにジャムも用意しておくといい」

少女「材料を揃えるだけで一苦労だね」

娘「魔法より……難しいかも……」

青年「ねーよ」

…………

青年「……っと、とりあえず生地ができたらいったん冷やしておいてだな」

娘「氷系の魔法かけておきますね」ヒョオー

青年「おう、助かる」

少女「いつもこうやって手伝ってもらってるんだ」

青年「冷やすってのは難しいからな。魔法ってのは便利なもんだ」

…………

青年「こっちに絞ったレモンの果汁を……こう」

少女「アップルパイなのにレモンの果汁ってなんだかおもしろいね」

青年「おいしくなるんだからいいだろ」

少女「まぁそうだけど……」

娘「なんだかいよいよこんがらがってきました……」

男「レシピは後で文字に起こしておいてやるよ……シナモンと酒を加えて……っと、こっちも冷やしてもらっていいか?」

娘「は、はい」ヒョオー

…………

男「あとは焼くだけだ」

少女「焼くって……どれくらい?」

男「こう……良い感じになるまで?」

少女「曖昧すぎるよ!」

男「大体体内時計で作れんだよ!」

娘「時計、見ときますね……」

…………

青年「……というわけで、完成だ」ジューッ

少女「これ、食べていいの?」

青年「特別だぞ。三人で分けるか」

少女「よっしゃ!作れる気はしなかったけど見ててよかった!」

青年「おいおい……」

少女「早く早くぅー!」

青年「うっせぇ、切り分けるから待ってろ」

娘(なんだかどこかで見た光景だなぁ)

…………

パクッ
パクッ
パクッ

…………

少女「うーん!やっぱこれだね!最高に焼きたてだから最高においしい!」

娘「……すごいです」

青年「だろ?」ドヤッ

…………

[洞窟前]

ジューッ

娘「ということで……言われた通りに作ってみたんだけど」

ドラゴン「まぁ前のもおいしいといえばおいしいものだったけどな」

子ドラゴン「キュー!」

娘「とりあえず食べてみよっか」

…………

パクッ
パクッ
パクッ

……………

ドラゴン「……近くはなったんじゃないか?」

娘「やっぱり完全再現は難しいかぁ……」

子ドラゴン「キュー!」パクパク

ドラゴン「まぁ、これだけおいしいならいいんじゃないか?俺は好きだぞ」ガツガツ

娘「……うん、うん!よし!これでいく!」

娘「……うーん」カチャカチャ

ドラゴン「もう準備してるのか。そんなにすぐ配りに行くのか?」

娘「うん、明日から配ってみる!だから、とりあえず今日のうちに材料をまとめとかなきゃ」

子ドラゴン「キュー!キュー!」

娘「……ごめんね。子ドラゴンが行きたいのもわかるけど、私一人で行くことにしたの」

娘(連れていっちゃうと今度こそ、処刑されかねないし……)

ドラゴン「みんな、好きになってくれるといいな」

娘「大丈夫だよ、私が大好きなアップルパイなんだから。みんな、わかってくれるよ」

ドラゴン「……そうだな。きっと大丈夫さ」

……とりあえずここまで。

昨日に続けて今日進んだプロットを公開するといよいよ「アップルパイを配ろうとする」の一行でした。全然進みません(白目)。

コピペを見る度に思うのですが、そろそろほのぼの感が薄れてしまっている気がします……。うへへ……。

なんだかんだでこの後のプロットが数十行ありますけど、詳しいだけで内容は濃くないと思いますしそろそろ展開的にはラストスパートに突入することにはなることに……なってほしい……。

まだまだ先は長そうですが、おそらくここまでも十分長いですよね。
ここまでお付き合いありがとうございます。

ここからもよろしくね……。

【第9話】

ギィッ……

ドラゴン「随分と早いんだな。もう行くのか?」

娘「うん。朝の人通りの多い時間帯にも配りたいし」

カチャカチャ

娘「今日は早いんだね」

ドラゴン「見送りくらいはしてやろうと思ってな。子ドラゴンは寝てるが」

娘「……その、さ……もしよければなんだけど」

ドラゴン「俺は行かないぞ」

娘「なんで?私、いろんな魔法を覚えたから、ドラゴンを透明にしてあげることもできるんだよ?」

ドラゴン「そもそも俺の魔力はそこらの魔物の比ではない。魔力を検知できる魔法使いがいたら一発なんだ。俺を見つけるための手段は目だけじゃないってことだな」

娘「あの町に……魔法まで嫌うようなあの町に魔法使いがいるわけなんて、ないじゃない」

ドラゴン「しかし、旅の人間には魔法使いがいる可能性もある。……そもそもあんな騒ぎがあったんだ。魔法面で用心棒を立てていても不思議じゃない。目には目を、歯には歯を……魔法には魔法ってことだな」

娘「そっか。じゃあ、仕方ないなぁ」

ドラゴン「すまん」

娘「……なんてね。正直、ダメだろうなぁとは思ってたから、大丈夫」

ドラゴン「……頑張れよ」

娘「言われなくても」ニコッ

[町、大通り]

ワイワイガヤガヤ

娘「アップルパイいかがですかー!」

…………

『おい、ドラゴンのとこの娘がなんか配ってんぞ。今度は病気でも流行らせるつもりか?』

『アップルパイだって?やだわぁ、何が入ってるかわからないじゃない。魔法薬が混ぜられているのよ、絶対』

…………

娘「……っ。あっ、アップルパイいかがですかー!甘い甘いアップルパイはいかがですかー!」

…………

『呪われた娘のアップルパイなど食べられるか!こっちまで呪われるってもんだ!』

『何を考えているのか全くわからん。恐ろしい魔女め』

…………

娘「……っ」

娘(ここまで勘違いされてるだなんて知らなかった……これじゃ……)

娘(ううん。ここまで酷いからこそ、だよね)

娘「アップルパイっ……アップルパイはいかがですかー!」

……………………

…………

……

…………

娘「……」

ドッサリ

娘(ひとつも……貰ってくれないなんて……これじゃ……帰れないよ……)

…………

『もう昼なのにまだ配ってやがるぜ』

『よくやるわよねぇ……あんなの、受けとる人間なんているわけないのに』

『そもそも洞窟でドラゴンに捕らえられているお嬢様がアップルパイなんぞ焼けるわけがない。どう見てもドラゴンの罠だな』

『……うぇへへ、でもあのお嬢様けっこう可愛くね?俺あの子が作ったパイなら……うぇへへ』

『おいバカ、食ったら最悪死ぬかもしれねぇんだぞ?』

…………

娘(こんな……こんな!)

娘「みんな……みんなみんな、こんなに酷いことをどうして平然と私の前で言えるの……?」ボソッ

男「虫けらやねずみみたいなもんなんじゃないかな?」

娘「……っ!聞いてたんですか……!」

男「あぁ、ごめんごめん。ちょっと町長の命令で見に来てみただけなんだけど、たまたま耳に入ってね」

娘「む、虫けらやねずみって……」

男「いやはや、悪気はないんだよ。ボクも……きっと彼等もね」

娘「悪気がないのにそんな………あんなことを……?」

男「うん。だから、"虫けらやねずみ"なんだ。彼等にとってはお嬢さんは虫けらやねずみみたいなものなんだよ」

男「みんな虫けらやねずみは嫌いだったり、苦手だったりするけれど、それらを苦手だとか、嫌いだとか言うときにそいつらが聞いてるかどうかなんて気にしないだろ?」

娘「そんな……私は虫けらなんかじゃ……!」

男「まぁ、確かにそうだね。ひどい話だよ。そう思う。でもそんなことを言ったら、虫けら……ねずみだって可哀想だろう?」

娘「……」

男「そういえば、アップルパイを配ってるんだってね」

娘「……はい。あっ。おひとつ、いかがですか?」

男「あー……悪いけど、遠慮させてもらうよ」

娘「そんな……」

男「上の命令でね……ここで受け取ってしまうと、色々と城には不都合なんだ、ごめんね」ボソッ

ワイワイ……ガヤガヤ……

…………

『おい、なんか若い城の人間が例の呪われた娘と話してるぞ』

『あらかた、城の命令で変なもん配ってねぇか偵察させられてんだろ』

『城の人も可哀想ねぇ……あんな汚らわしい娘と話さなきゃいけないなんて。考えただけでゾッとするわ』

…………

男「……ね?」

娘「たし……かに、そうですね」シュン

男「でもまぁ、城の方には無害だって報告しておくよ。そのアップルパイもただのアップルパイのようだし」

娘「えっ……わかるんですか?食べたり、触ったりしなくても」

男「まぁ、これでもボク、魔法はある程度詳しいつもりだしね。何か魔法がかかってたらそれくらいはわかるつもりだよ。……というか、そのアップルパイからは何の魔力も感じられないからね」

男「毒については……信じておいてあげる、ってことじゃだめかな?」

娘「……!い、いえ。それだけでも、ありがたいです」

娘(ドラゴンさんの言ってた魔法使いが……こんなに身近に……連れてこなくてよかったぁ)

男「……って、あ。これ話しちゃダメなんだった。城や町の人には秘密でね」

娘「はい。わかりました」

男「じゃあ、まぁ頑張ってね。ボクみたいに余所者の人間がいないわけでもないから、誰か一人くらいは貰ってくれるかもしれない」

娘「頑張ってみます」

男「それと……気をつけてね」

娘「?……何にですか?」

男「……いや、なんでもないよ。それじゃ、ボクは城に戻ることにしよう」

娘「は、はいっ」

…………

娘「ただいまですぅ」

ドラゴン「おう、おかえり……どうだっ……」

娘「……」ドッサリ

ドラゴン「あー……今夜はアップルパイパーティだな」

子ドラゴン「キュー!キュー!」ブワー

娘「子ドラゴンのテンションがまぶしいです」

ドラゴン「……まぁここまで喜んでくれるやつが一人……いや一匹いるだけ、いいじゃないか」

娘「町の人は貰ってくれなかったですからね。……一人も」

ドラゴン「一人もかよ……」

娘「……でも、諦めません。まだまだこれから……なん……で……す……」ウトウト

ドラゴン「疲れてんだろ。早く寝ろ」

娘「……そうですね。おやすみなさい」ガチャガチャ

バタンッ

子ドラゴン「キュー」

ドラゴン「アップルパイ、ふたりじ……にひきじめだな」

子ドラゴン「キュー……?」

ドラゴン「初日から飛ばしすぎなんだよ、ばーか」

…………

ドラゴン「なぁ、ひとついいか?」

娘「なんですか?」

ドラゴン「アップルパイ、飽きたわ」

娘「奇遇ですね」

子ドラゴン「キュー!キュー!」バクバク

ドラゴン「もう六日間アップルパイだぞ……子ドラゴンはよくやるぜ……」

子ドラゴン「キュー?キューキュー!」

ドラゴン「いや、気にしなくていい。お前がいいならそれでいいんだ。美味しく食べてくれ」

娘「でも、ここまで貰ってくれないとは思いませんでした」

ドラゴン「確かに、六日間ゼロとは流石の俺も信じられん」

娘「ついには男さんにもアップルパイ配りを明日でやめるよう言われてしまいましたし」

ドラゴン「流石にそろそろドラゴンの生け贄が毎日アップルパイを配りに来てちゃ体裁とか色々と悪いんだろうな」

娘「ついに今日は風で帽子が飛んで男さんに笑われましたし」

ドラゴン「前髪は気にするな」

娘「プフッはないですよ、プフッは」

娘「でも、だったら明日は最高の出来のアップルパイを作ってみせます」

ドラゴン「そこは食べないとわからなくないか……?」

娘「心意気の問題です……よ……」バタッ

ドラゴン「……ついに倒れたか」

子ドラゴン「キュ,キュー!」

ドラゴン「とりあえず小屋のベッドに寝かせておいてやってくれないか?……というのは子ドラゴンには流石に荷が重いか」ボフンッ

子ドラゴン「!?!?」

ドラゴン「そんなに驚かなくてもいいだろ、変化魔法は珍しい魔法でもないぞ……よいしょっと」

子ドラゴン「キュ,キュー……?」

ドラゴン「子ドラゴンが使えるようになるには……か……何年かかるかわかんねぇな」ハハハ

…………

娘「うぅ……」

娘「ここは……ベッドですか……あれ?私、ベッドで寝ましたっけ……っと」

パタッ

娘「濡れた……タオル……?一体誰が……」ササッ

ギィッ……

ドラゴン「ん、おう、起きたか」

娘「……!?!?」

ドラゴン「ん?どうした?」

娘「ど、どちら様ですか」

ドラゴン「……ん、あぁ。人間に化けたままだったな、ドラゴンだ」

娘「ドラゴン……さん……」

ドラゴン「そこにあった紙の通りに材料を揃えておいたがこれでいいんだよな?」

娘「だい、じょうぶ……です」ユラッ

ドラゴン「……っと」ドサッ

娘「……ありがとうございます」

ドラゴン「いいや、気にすんな。ところでこれ、まずはどうしたらいいんだ?」

娘「えっ……と……まずはですね……」

グツグツ……

ドラゴン「もう食べ飽きちゃいるが、匂いはやっぱり旨そうなもんだな」

娘「ドラゴンさんは、私を止めないんですか?」

ドラゴン「は?」

娘「……私が、ふらふらですから。お屋敷にいたときなんかは、こうなるとメイド達が邪魔だなぁってくらい、無理をするな無理をするなって言ってくるんです」

ドラゴン「俺も言ってやりたいがな。娘は無理をするなって言ってほしいか?」

娘「それは……いえ」

ドラゴン「だろ?というか、そもそも無茶なら最初からしてるじゃねぇか」

娘「……そうですか?」

ドラゴン「娘はな、余裕がなくなったりすると敬語が出てんだよ」

娘「……え?」

ドラゴン「娘は最初から無茶して、無茶し続けて、ここまで来てるんだ」

ドラゴン「俺が娘だったら、誰に止められようが誰に邪魔されようが最後まで無茶してやる。……だから、無茶を止めようとは思わん。無茶であっても無理だとは思っちゃいないからな」

娘「無茶であっても無理だとは思っちゃいない……ですか」

ドラゴン「だから俺は俺なりにできることを手伝ってやるだけさ。こうやってな」

グツグツ……

娘「ドラゴンさんは本当に……面倒見が良いですね」

ドラゴン「おっ、それ久しぶりに聞いた気がするな」

娘「ちなみにその姿、無駄に美化しすぎじゃないですか?」

ドラゴン「別にいいだろ、魔法なんだから」

…………

娘「さて……と」

ドラゴン「最後だな」

娘「……うん。っていうかやっぱりドラゴンはそっちの姿の方が見慣れてていいね」

ドラゴン「そうか?……すまんな、俺や子ドラゴンのためにそこまで無茶させてしまって」

娘「ううん。ドラゴンや子ドラゴンのためじゃない……いや、ためかもしれないけど、一番は私がこうしたいからやってるの。だからきっと、これは私のためなんだよ」

ドラゴン「……だな」

娘「むぅ、そこは否定するとこだよ?」

ドラゴン「そうか?」ハッハッハ

娘「そうだよー」ハハハ

…………

ドラゴン「よっし、いってこい」

娘「いってきます」

[町、大通り]

娘「あ……アップルパイです!いかがですか!美味しくできてます!自信作です!いかがですか!」

…………

『あら見て、あの子ったら今日もまた……』

『もう、止せばいいのに。誰もあんなもん貰うわけないに決まってる』

『あんなになるまで……ドラゴンに洗脳されてしまってかわいそうな子』

…………

娘「あっ……ぷるっ……ぱいっ!美味しくできて……ますからっ!おひとつ……いかがですか!」

娘(このままじゃ、私は透明人間だ)

…………

『いっつもいつも邪魔なんだよ、どいてくれ』

『ほんと、ここ数日ずっとうるさいわねぇ』

『ほら見てこれ、今朝の新聞。あの子よ』

『"ドラゴンに呪われた娘"、"狂った林檎菓子売り"……良い気味ね』

…………

娘「へ、変な魔法をかけたりなんてしてません!本当です!」

娘(みんな、みんな。私を見ながら、私を蔑みながら、いないものとして扱う。……そんなの、まるで透明人間じゃ……いえ。透明人間以下じゃない)

…………

『口ではどうとでも言えるわ。もしもあのパイに魔法や毒が入っていてごらんなさい。町は一夜にして滅ぶわよ』

『パイなんぞいらんから、さっさと消えてくれ』

『噂によるとあの少女、魔法を使えるらしいぜ』

『げっ、そこまで魔物に染められてるのかよ……やっぱりドラゴンってのは恐ろしいもんだぜ』

…………

……

娘(そんな、そんなことないのに……全部全部、勘違いなのに……そう、呪われてるのなんて……そっちじゃない。勘違いってまるで、そう……呪いみたいで……)

…………

娘「あっぷる……アップルパイを……」

ドンッ

バサッバサバサッ

娘「キャッ」

『……チッ』スタスタ

娘(あっ……そっか……怒ることすら、してくれないんだ)

グチャッ

グチャッグチャッ……

娘「あっ……アップルパイ、拾わなきゃ……ふ、踏まないでくださっ……あのっ……」

グチャッ……

グチャッグチャッ……

娘(パイが……次々に……こんな………こんなのって……)

娘「う……うぅ……」ポロポロ

ヒョイッ

娘「あの、それ……」

パクッ

青年「んー、まぁ旨いじゃん」

少女「……どれどれー」パクッ

少女「わ、ほんと!おいしい!そういえば娘ちゃんのアップルパイって初めて食べるね!」ニコニコ

青年「まぁ、うちのアップルパイには負けるけどな」

少女「世界一のアップルパイだって豪語してるもんね」

青年「おうともさ」

娘「な、なな、なん……でぇ、ふっ、ふたりともぉ……ここ、隣町じゃ……な……いのに……」ポロポロ……

少女「ふ……へ!?泣いてるの!?どうしたの!?大丈夫!?」

娘「だいっじょーぶ……だいっ……じょーぶだから……」ポロポロ

青年「……とりあえず、どっか入れるとこでも探そうぜ。どっかあるか?」

娘「入れるところ……なんて……あっ」ポロポロ

【第10話】

青年「落ち着いたか?」

娘「……うん」

メイド「紅茶でございます」

青年「あ、ありがとうございます」

メイド「ごゆっくり」ニコッ

少女「め、メイドさん?本物?」

メイド「はい、私、この家に仕えさせていただいております。しかししかし、お嬢様がお友達をお連れしたことは初めてで……。もうそれだけでこのメイド、涙が溢れそうでございます……」ウルウル

少女「ほ、ほへぇ……ここ、娘ちゃんのおうちなの?」

娘「うん……というか、ここが私の部屋なんだ」

少女「お嬢様なんだね……」

娘「二人はどうしてここに?」

青年「これだよ、これ。旅の人間がうちの町にまで持ってきてさ」ピラピラ

娘「これ……うちの町の新聞……」

少女「読んだ?娘ちゃんのこと好き放題書いてるんだよ!ひどいよねー」

娘「でも、なんで私だと……」

青年「このタイミングで"アップルパイ"って悪い予感しかしないだろ?」

娘「……そうですね」

少女「ところでこれ、ドラゴンとか色々書かれてるけど……」

娘「黙ってようと……思ってたわけじゃないんですけど……言えなくて……」

青年「ドラゴン、ドラゴンか。詳しい話を聞かせてもらってもいいか?」

娘「えっと……」

……カクカクシカジカ

青年「なるほどな、やっぱりか」

少女「どうしたの?」

青年「いやさ、知り合いに似たようなことを言ってた人がいてさ」

少女「へー……ってそれ、娘ちゃんの前の生け贄って人じゃないの?」

青年「……だろうな」

娘「えっと……その生け贄さんが、どうかしたんですか?」

青年「うちの町は薬の開発が盛んでな」

少女「青年としては薬よりパンを売りにしたいんだけどね!」

青年「うるせぇ。……まぁ、なんだ。うちの町の王宮にも薬学の研究施設があってな。そこに働いてる人間がそうなんだよ」

少女「……青年、そんなすごそうな人と知り合いだったの?」

青年「たまにパン買いに来てるお姉さんがいるだろ?あの人だよ」

少女「全然知らなかった……」

青年「お前はうちの店でアップルパイしか見てないってことだな」

少女「うぅ……言い返せない……」

青年「そこは言い返せよ」

青年「まぁ、そういうわけで、その人に助けを求めてみるってのはアリなんじゃないか?」

娘「でも、何ができるんでしょう……?」

青年「いや……わかんねぇけど……でも、この町で頼れるのは……」

メイド「……」チラッチラッ……ウルウル……キラキラ

少女「あの、扉越しにチラチラ見てくるメイドさんくらいなんだよね……」

青年「混ざればいいのにな」

娘「混ざりたい訳じゃ……ないんだと思います……」テレ-

青年「どんだけ友達いなかったんだよ……?」

娘「ほとんど屋敷から出なかったから……」

青年(うわぁ……本物だ……)

少女(こんなお嬢様っているんだなぁ……)

娘(なんかこの雰囲気、前にも味わった気がする……)

[洞窟]

娘「……ってことがあってね」

ドラゴン「ははぁん、生け贄になった者にもそんなやつが……」

娘「心当たりはないの?」

ドラゴン「隣町に住んでいる、ということは隣町に連れていった人間なのであろうが……ほとんどを隣町に連れていっているしなぁ。連れていった後なんて気にしてねぇし」

娘「お姉さんって言ってたし若い人なんじゃない?」

ドラゴン「あー……まぁ生け贄ってのも送られてくる数もまちまちだしなぁ。長いと五年、短いと半年くらいの間隔で送ってきやがる。数年前に丁度その半年間隔で四人ほど送られた時期もあったし……」

娘「生け贄ってそんなに適当なものなの……?ドラゴン、うちの町の厄介払いに使われてない……?」

ドラゴン「その可能性がないとは言わん」

子ドラゴン「キュー!」プンプン

娘「あっ……パイは全部ダメになっちゃったんだ……ごめんね……」

子ドラゴン「キュー!キュー!」ブワーブワー

娘「代わりに青年さんのとこのパンをいくつか貰ってきたから……食べよ?」

子ドラゴン「……キュー……キュー!」ブワー

ドラゴン「アップルパイが……いいのか……」

娘「よく飽きないね……」

ドラゴン「いやでもちょっと考えてたぞ」

[隣町、パン屋]

娘「はじめまして」

女「はじめまして」

青年「こっちが現生け贄の娘ちゃんで、こっちが元生け贄の女さんだ」

少女「紹介が雑すぎない?」

青年「お互いにある程度は紹介してるしよくないか?」

少女「こちらは次期生け贄の青年で、私がこのパン屋のマスコットの少女です」

青年「嘘と悪意しか含まれていないじゃねぇか」

女「あはは……ごめんね、この二人、いつもこうなの」

娘「既に……痛感してます……」

少女「っていうかさぁ!女さん、王宮で働いてたの!?」

女「あら、言ってなかったかしら?」

少女「聞いてない!」

青年「はいはい、そこの話はまた今度な。今日は娘ちゃんのことなんだから」

女「あぁ、そうね。……あなたもドラゴンへ生け贄に捧げられたのね」

娘「生け贄って言葉に違和感がありますけど……そうです」

女「違和感?……私も娘ちゃんとドラゴンの話、聞きたいな。聞いてもいい?」

娘「……はい」

カクカクシカジカ

女「なるほど、なるほど……なんというか、波乱万丈なんだね」

青年「そうか?なんかほのぼのと楽しそうな生活してない?」

少女「楽しそうだよね!岩で露天風呂作ってるんでしょ?入ってみたいなぁ」

青年「温泉だったら最高だよな……掘ったら温泉出たりしないのかな……」

女「……この二人の発想のぶっ飛び具合も波乱万丈だね。でも、そう。あのドラゴンはやはり無害そうなのね」

青年「そうそう、それ、ひっかかるんだよな。ドラゴンつったら絵本の中じゃ大体勇者に倒されたりしてるだろ。友好的なドラゴンの話とか……あったか?」

少女「ひとつは読んだことあるよ、男の子がドラゴンと冒険するやつ」

青年「ないでもないのか……」

女「私達は無意識のうちに絵本に毒されすぎているのかもね」

青年「俺達はともかく、あの町のやつらは毒されてるってレベルじゃないぞ」

娘「確かになんというか、恐怖というか……触れてはいけない、みたいな感じでした」

女「それについてはあの町に伝わる伝説が問題なのよ」

娘「伝説?」

女「よくある話なんだけど、数百年前にあったとされる魔界大戦でドラゴンがあの町の付近で人を虐殺したとか、そういうもの」

娘「虐……殺……」

女「まぁ、言い伝えは言い伝えの域を出ないから、それが本当かどうかなんてわからないし、そもそも何百年もの
時を経て語り継がれているんだもの。いろんなところがねじまがって今日まで語り継がれていてもおかしくはないわ」

女「そもそも、そんな伝説がなくたって人々が魔物を恐れるのは珍しいことではないしね」

青年「そもそも、なんであんな極端にドラゴンに恐怖を持っているとこの近くにドラゴンは住んでるんだ?」

女「……そうね。伝説なんて原因のひとつでしかないのかも。もしかすると、逆なんじゃないかしら?」

少女「ぎゃくー?」

女「嫌われているドラゴンがそこにいるのではなく、そこにいるから、ドラゴンは嫌われている……というのはどう?」

青年「どう……って」

女「百年近く、魔物の中でも最強に近いものが町の近くに居座っていてごらんなさいよ」

女「いつ、何をするかわからないのよ?恐怖は日を負うごとに大きくなって……それはいつしか、大きな拒否に発展してもおかしくはないわ」

少女「ドラゴンも人のいないとこに住めばよかったのにねー」

女「こうなるなんて思ってなかったのよ……きっと」

女「でも、そうね。ドラゴンに関しては上に一応かけあってみるわ」

娘「上?」

女「もちろん、うちの王様よ。目には目を、歯には歯を、魔法には魔法を……町には町ってことね」

青年「なんだ?ドラゴンに関して受け入れてやってくれって町に言うのか?」

女「まぁ……そうかしら」

青年「トラブルが大きくなりすぎやしないか?」

女「上の人もそれを危険視して取り合ってくれない可能性もあるけれど……どっちにしろ、強制なんてできやしないでしょうし、できるとしても忠告止まりでしょうね」

女「脅すだけなら薬の供給を止めるぞくらいなら言えるでしょうけど実行に移すとなると流石に無理があるし……でも、薬があるからこそそっちの町も強い手段は取れないはず」

女「何もしないよりはマシでしょうし、忠告を受けてどうするかはそっちの町次第でしょう?どうする?やってみる?」

青年「やってみる?……って、なぁ?」

少女「……ねぇ?」

娘「お願いします!」

娘「でも、女さんってどうしてそこまで私達に良くしてくれるんですか?」

女「え?うーん。ドラゴンにはちょっとだけお世話になったってだけだよ」

娘「なんだか悪いです」

青年「お返しにうちのアップルパイをプレゼントってのはどう?」

少女「さりげなく営業しないの」ドゴッ

青年「……殴られるほどのことかな」ゲフッ

女「ふふっ……でもまだお役に立てるかもわからないんだけど。でもお返しかぁ、そうね。じゃあ今度ドラゴンに会わせてもらってもいいかしら?」

娘「よ、よろこんで!」

青年「おっ、それいいな。俺も行きたい」

少女「えっ?じゃあ私も行くー!」

娘「ほ、ほんとですか?こわくないんですか?」

青年「こわくないんだろ?」

娘「は、はい」

少女「じゃあこわくないんじゃん!」

女「じゃあ今度、みんなで行きましょうか」

少女「わー、なんだかピクニックみたい。お昼ご飯は青年とこのパンだね!」

青年「金は貰うぞ」

少女「えっ……けち!」

青年「冗談だ」

女「……あっ、それとね」

…………

[洞窟前]

カクカクシカジカ

少女「……それと、今度ドラゴンに薬をいくつか試させてほしいんだって」

ドラゴン「えっ、それ許可したのか?」

少女「もちろん」

ドラゴン「俺、得体の知れない薬を試されるのか?」

少女「女さんも悪い人じゃないし、毒じゃなくて薬だし、大丈夫だよ」

ドラゴン「薬と毒は紙一重なんだぞ」

少女「私達の名誉のためだよ。頑張って」

ドラゴン「なんかもうむしろ俺が生け贄になってないか?」

あーもう!一回の更新がなげぇんだよ!(スマホを投げる)
今日のぶん、おしまい!

そういえばそんなボカロ曲あったね!言われてからやってしまった感!……少女とドラゴンすらめっちゃ被ってるらしいから許して!土下寝までならしますから!

勇者の剣のSSのときもそうなんだけど、なんとなく1クールアニメっぽいからきりいいなぁって最初は全12話予定だったんだけどこのまま行くと12話は超えそうです。……でも2クールぶんはいかないかなぁ。

一応、15話前後くらいで考えていただけるとよいかなぁ……と。
1話あたりの尺が伸縮自在すぎて目安になるかならないかわからないですけどね……。

そういえばらなろうのやつだとか、ドラゴンズウィルだとか、気になるタイトルが色々と挙げられてますけどいまググったら作品が引っ張られそうな気がして仕方ない……。

ドラゴンズウィルというのは(主にお値段的に)敷居が高そうなので書き終わったらなろうのやつだけでもちょっと読んでみたいですね。

あと国語の先生に筆下ろしの人は国語の先生が美人ならかまきりりゅうじか虎になれ。

今日のぶんもお付き合いいただき、ありがとうございました。

>>292
少女化乙wwww

【第11話】

ボゥゥゥウウウウ……

ドラゴン「……」

娘「……」

子ドラゴン「キュー……」

娘「冬は夏と違って単純な火の魔法で暖かくなれるからいいね」

ドラゴン「ここまでの焚き火……火事にならないのか……?」

娘「あんまり大きな火を維持し続けられるほど魔翌力はないし、火事になってもすぐ消せるしね」

ドラゴン「確かに娘は魔法の制御や習得はすごいが魔翌力はそこまで多いわけではないな」

娘「魔翌力の量なんてわかるの?」

ドラゴン「俺でも魔翌力検知くらいはできるぞ」

娘「へぇ……もっと魔翌力があったらいろんな魔法を一度に使ったり、おっきな魔法も使えるんだけどなぁ」

ドラゴン「基本的には魔法のセンスと魔翌力量は比例するんだがな」

ドラゴン「……しかし、娘にすごい魔翌力があれば俺は魔法を教えていなかっただろう。危険極まりないからな」

娘「わーい魔翌力なくてよかったですー」ボウヨミー

ごめん……sageのままだった……投稿しなおすの許してください…【

【第11話】

ボゥゥゥウウウウ……

ドラゴン「……」

娘「……」

子ドラゴン「キュー……」

娘「冬は夏と違って単純な火の魔法で暖かくなれるからいいね」

ドラゴン「ここまでの焚き火……火事にならないのか……?」

娘「あんまり大きな火を維持し続けられるほどの魔力はないし、火事になっても魔法ですぐ消せるしね」

ドラゴン「確かに娘は魔法の制御や習得はすごいが魔力はそこまで多いわけではないな」

娘「魔力の量なんてわかるの?」

ドラゴン「俺でも魔力検知くらいはできるぞ」

娘「へぇ……もっと魔力があったらいろんな魔法を一度に使ったり、おっきな魔法も使えるんだけどなぁ」

ドラゴン「基本的には魔法のセンスと魔力量は比例するんだがな」

ドラゴン「……しかし、娘にすごい魔力があれば俺は魔法を教えていなかっただろう。危険極まりないからな」

娘「わーい魔力なくてよかったですー」ボウヨミー

ドラゴン「なぁ、明日俺さぁ……」

娘「だめだよ」

ドラゴン「あー……お腹がいたくてさ……」

娘「明日はお薬屋の女さんが来るからやったね」

ドラゴン「そいつが……嫌なんだよ……」

娘「悪い人じゃないってばぁ。……というか元生け贄らしいからドラゴンも会ったことある人はなんでしょ?」

ドラゴン「少なくとも俺が今まで会った人間の中に俺に薬を使おうとしたやつは……」

ドラゴン「……いたかもしれん。もう数百年前の話だが」

娘「じゃーいいじゃーん!」

ドラゴン「俺ほどの魔物のための注射を知ってるのか!?そこらの剣と変わらない太さがあるんだぞ!?それが刺さるんだぞ!?」

娘「飲み薬とかだよ……たぶん」

ドラゴン「もう俺の中の嫌な予感が総動員してるんだよ!ぜってぇ注射打たれるよ俺!」

娘「子供みたいなこと言わないで!」

ドラゴン「子供に言われたくないな!」

子ドラゴン「キュー……?」ガクブル

娘「子ドラゴンにはお薬はないよ」

子ドラゴン「キュー……」ホッ

ドラゴン「なぁこれ理不尽じゃないか?」

娘「まぁほら、青年さんがアップルパイとかパンを持ってきてくれるらしいし」

ドラゴン「仮にもドラゴンは魔物の中でも高等な種族だぞ。アップルパイなどで簡単に懐柔できると思うな……」

子ドラゴン「キュー!キュー!」キラキラパタパタ

ドラゴン「子ドラゴン以外はな!」

娘「はいはい……というか子ドラゴンちょっと飛べるようになったんだね」

子ドラゴン「キュー!」

娘「それにやっぱりちょっとずつだけど、おおきくなってる」

子ドラゴン「キュー?」

ドラゴン「ドラゴンというものは寿命は長いが、成長スピードは段々と衰えていくものなんだ。子ドラゴンのような幼少期は成長スピードが一番早い時期かもしれないな」

娘「ドラゴンにもこんな時期があったの?」

ドラゴン「もう千年近く前だろうか」

娘「……うぇ。想像できないね」

娘「よーし、じゃあ寝よっか」

子ドラゴン「キュー……」

ドラゴン「このまま寝ずに語り明かさないか?」

娘「やだよ、眠たいし、明日は元気な状態で遊びたいし」

ドラゴン「寝たら……明日が来るじゃないか……」

娘「何を言ってるの?」

子ドラゴン「キュー?」

ドラゴン「ぐ、ぐぉぉ……!」ダバァァンッ!

娘「ひ、火消しはありがたいけど勢いがすごいよ……」

ドラゴン「腹いせだ」

娘「水に流してよ……へっくち」

ドラゴン「娘も濡らしてしまったか、すまん」

娘「うぅ……服は脱いで風の魔法で乾かしておきながら寝るから大丈夫だよ……」

ドラゴン「魔法を使いながら寝れるのか?」

娘「寝るときは寒いから温風魔法で暖まりながら寝てるよ」

ドラゴン「暖炉を使え」

…………

[翌日]

少女「おっきいねー!」

ドラゴン「まぁな」

少女「かたいねー!」カチンカチン

ドラゴン「まぁな」

少女「登っていい?」

ドラゴン「いいが、気をつけてな」

ウンショ,ヨイショ……

少女「わー!なんか竜使いの気分!かっこいい私!」

青年「エンジョイしてるな」

女「ふふっ……青年くんも混ざってきたらいかが?」

青年「流石にあれは……」

娘「怖くないのかな」

青年「あいつは自分の感じたものに素直なやつだからな。あいつが感じる限りでは悪いやつではなさそうだったんじゃないか?」

女「あっ、私もわかるかも。直感だけを信じるならドラゴンは悪い魔物じゃないなってなんとなく思うもの」

娘「なるほど……」

青年「でも女さんってドラゴンの元を離れてこっちの町に来たんだろ?」

女「えぇ。直感だけを信じるって、難しいことなのよ」

少女「ドラゴンさんドラゴンさん!なんかすごいことできたりするの!?」

ドラゴン「火を吹けるぞ」ボォー

少女「!!すごい!!!!わたしもできるかな!?」

ドラゴン「練習すればできるんじゃないか?娘はもう火を吹けるだろうしな」

少女「え!?ほんと!?」

娘「吹けません」

子ドラゴン「キュー!」ボワー

少女「わ!そっちのちっちゃい子もすごい!」

青年「よう」

ドラゴン「……いつも娘から話を聞いている。アップルパイを作ってくれているのも、アップルパイの作り方を教えてやったのもおまえなんだろう?」

青年「……まぁ」

ドラゴン「恩に着る。これからも仲良くしてやってくれ」サッ

青年「……?」

ドラゴン「握手というやつだ。仲良くなるための文化なのだろう?」

青年「……青年っていうんだ」ギュッ

ドラゴン「青年、青年。よし、覚えたぞ」ギュッ

少女「せ、青年ったら……めちゃくちゃ緊張して……口数が……おもしろ……」プークスクス

青年「う、うるせぇ!」

娘「私はあそこまでじゃないけど……普通はああなると思うよ」

女「私もあんな感じだったなぁ」

青年「ほら!少女がおかしいんだよ!」

ドラゴン「確かに、初対面から少女ほど気さくに話してきてきた人間は少ないな」

青年「ほら!!な!?」

少女「私がそれだけ大物ってことだね」フフン

女「……おひさしぶりです」ペコリ

ドラゴン「おぉ、ひさしぶりだな。怪我は大丈夫か?」

女「えぇ。もう、三年も経ってますから」

ドラゴン「……そうか。もうそんなになるのか」

娘「怪我?」

女「私、ここに来る途中に獣に襲われてね。そこをドラゴンに助けてもらったの」

ドラゴン「ただ軽く治癒魔法をかけただけだろう。治癒魔法は得意じゃないから止血程度にはなってしまったが」

女「でも私、あのとき逃げ惑っちゃったし……」

ドラゴン「獣に襲われた後に魔物に出くわしたんだ、仕方ないだろ。……最後には睡眠魔法をかけてしまったが」

青年「なんというか、ドラゴンって……」

少女「すごく親切なんだね……」

女「そこまでされても怖くて仕方なかった当時の私が恥ずかしいわ……」

ドラゴン「その恥ずかしさに免じて俺に薬を試すのはやめにしないか?」

女「しません」ニコッ

女「まずこれを飲んでくれる?」

ドラゴン「この水……?をか?」

女「えぇ、そうよ」

ドラゴン「……」ゴクッゴクッ

ドラゴン「……あぐっ!?」ビリッ……ビリビリッ

女「ちゃんと効くのね。よかったわ。それはね、対魔物用の毒のひとつよ。魔力を封じるだけでなく、その魔力を使って相手の動きを封じるものなの」

ドラゴン「ぐっ……何を……っ」ビリビリッ

女「あぁ、大丈夫大丈夫。解毒剤を試したいだけだから……先に毒にかかってもらわないと解毒できないし……」

ドラゴン「ちょっ……これっ……解けなかったら……」ビリビリッ

女「大丈夫、ちゃんと調整してあるわ。解毒できなくても持続時間は精々三時間よ……っと」ガシャンッ

ドラゴン「おい……っそれ……っ」ビリビリッ

女「対大魔物用の注射よ。……最初は飲み薬から始めるつもりなんだけど、まず飲めるかしら?」

ドラゴン「飲む……っ意地でも……飲む!」ビリビリッ

オォーゥ!アァーゥ!アァーーッ!!!!

少女「なんというか……御愁傷様だね」パクパク

娘「あそこまで余裕がないドラゴン初めて見たよ」パクパク

子ドラゴン「キュー……」パクパク

青年「ところでそこのハムパン、新作なんだが……」

ドラゴン「ちょっ……俺も食べ……っ」

女「吐いちゃうかも知れないから終わってから、ね?」ブスッ

ウァーーーーッ!!!!

…………

……

ドラゴン「勇者と戦うときより……恐ろしい……」パク……パク……

娘「勇者と戦ったことがあるの?」

ドラゴン「……はるか昔の話だ」

青年「ここいらはドラゴン以外に魔物がいないからいいものの、魔物と対立している地域は未だに数多くあるからなぁ」

少女「でも魔物と共存している町もあるって聞いたよ?」

青年「まぁ、いろいろあるんだろ」

娘「曲がりなりにも、ここはドラゴンと私が共存してるわけだし……」

少女「ドラゴンと……私たち、だよ!」

娘「そっか……そうだね」フフッ

女「ところでそこの洞窟、魔法石があるんですってね」

ドラゴン「まぁ、そうだな……どうしてそれを?」

女「北の方の魔法学校が魔装具っていう、魔法をより多くの人が簡易的に扱えるようにする道具を研究していてね」

女「その素材に必要な魔法石を採掘するために様々な地域の魔力量を計ってるらしいのよ」

青年「それで、ここいらの魔力が多かったってことか?」

女「ええ、検知された中にはドラゴンの魔力も多少なりとも紛れ込んではいるでしょうけど……それを補っても余りあるほどの魔力量、と聞いたわ」

ドラゴン「ほほう、そんなにあるのか。それは知らなかった」

少女「魔法石ってなんなのー?」

女「魔力が込められていたり、特有の魔法が込められていたりするものよ」

青年「たまに旅の商人が売ってるやつだな。石ひとつあるだけで魔法が使えない人間にも簡単に魔法が使えたりするんだよ。明かりを灯したりな」

少女「へぇー。便利なんだねぇー。口から火が出せるようになる魔法石もあるのかな?私も欲しいなぁ」

娘「あれに憧れるんだ……」

女「さて、それだけの量の魔法石の発生はあなたの影響なのかしら?」

ドラゴン「……さぁな」パクパク

女「……まぁいいわ。とりあえず、気をつけなさいね」

ドラゴン「おう、いつも気をつけているよ」

娘「気をつけるって……何に?」

女「魔法石がたんまりあるってわかったら、それを狙ってやってくる人間がいるかもしれないでしょう?」

娘「泥棒かぁ……」

女「採掘源はここだけじゃなくて、他にも魔法石が豊富な地域はあるわ。だから、他の場所を利用すると思うけれど。どこの人間もドラゴンは敵にしたくないでしょうし」

少女「とりあえずさぁ……」

青年「どうした?」

少女「話が難しいよ!魔法石が便利なものだってことくらいしかわかんない!」

子ドラゴン「キュー……キュー……」スピー

女「……辛気くさい話はこのくらいにしましょうか」

ドラゴン「俺は薬を打たれるくらいなら全然ウェルカムだぞ」

女「もう薬はないわよ」

ドラゴン「よっしゃああああ!」

娘「子供じゃないんだから……」

少女「そういえば娘ちゃんってあそこに住んでるの?」

娘「え?うん」

青年「なんというか……でかいな……」

娘「最初はあんなじゃなくて、もっとちんまりとした小屋だったんだけどね」

女「中に入ってみてもいいかしら?」

娘「ど、どうぞ」

…………

ギィッ

少女「わ!本がいっぱい!」

娘「あっ……いろいろと出したままだったね」シュンッ

スッ…スッ…スッ…パララララララ……パタンッ…パタンッ…パタンッ……
ヒュー……カコッ……
カコッカコッカコッカコッカコッ……
ギィッ……パタンッ

少女「すごいすごい!本がひとりでに本棚に収まっていく!」

青年「栞もいちいち挟んでるぞ……」

女「これだけの本を同時に……?王宮にも魔法使いはいるけれど……こんな光景は初めて見るわ」

娘「え、えへへ」

……カチャンッカチャンッカチャンッカチャンッ
カチャンッ……チョロロロロ……ボーッ

青年「ひとりでにティーセットが並んでる……」

少女「ティーポットもひとりでに紅茶を淹れてるよ……」

女「ふふっ……まるで見えないお人形さんが召し使いをしているみたいね」

娘「見えない……お人形……」

女「あら、何か気に障ったかしら?」

娘「いえ、なんだかかわいいなって」

少女「いっそのこと町でぬいぐるみとか買ってきて召し使いにしてみたらいいんじゃないかな!」

娘「……かわいいかも」

…………

ドラゴン「俺も中に入るべきだっただろうか」コッソリキキミミー

子ドラゴン「キュー……キュー……」スピー

ドラゴン「……まぁ、いいか」

ワイワイ……ガヤガヤ……

…………

……



青年「そろそろ帰らないと、だな」

少女「えーっもうちょっと遊んでたいのにぃ」

子ドラゴン「キューッ!」ボワー

少女「いっえーい!」ハイタッチパシンッ

青年「すげぇ意気投合してんな……」

少女「アップルパイ同盟だよ!」

子ドラゴン「キュー!」

青年「あぁ、そういえばすごく気に入ってくれてるんだってな。ありがとな」ナデナデ

子ドラゴン「キ,キュー」テレッ

女「私もアップルパイ好きだし入っちゃおうかしら、アップルパイ同盟」

青年「女さんはミカンパンの方が好きだろ」

女「……そうね」

ドラゴン「俺が送ってやろうか?」

青年「いや、いいよ」

少女「三人が乗るのは流石にきつそーだしね!」

ドラゴン「そうか……じゃあここで見送ろう」

娘「えっと……それじゃあ、さようなら」

少女「のんのんのん!」

娘「へ?」

少女「さよならじゃなくて、またね!だよ!そっちの方が寂しくない!」

娘「……そっか」

娘「……そうだよね」

…………

娘「またね!」

少女「うん!またね!」

女「それじゃあ、また」

青年「またな」

ドラゴン「また会おう」

…………

……


娘「なんというか、"またね"でもやっぱりちょっと寂しいね」

子ドラゴン「キュー……」

ドラゴン「しかし、"またね"、だ。同じような楽しい時間はまたきっと来るのさ」

娘「……そうだね。うん」

ドラゴン「いや、でも俺は同じような時間はちょっと遠慮願いたいかな」

娘「……そうだろうね、うん」

ということで短め(?)ですが、今日はここまで。
もうなんか今日の更新分だけでそこらの短編SS一本ぶんはあるような気がしてきました。長さの尺が狂ってきている……。

しかし、とりあえず舞台は整いました。次回からクライマックス(?)です。

一度今週末終わる終わる詐欺をやらかしているのでなんですが、今週末には終わる……かなぁ。

もうちょっとだけ続くんじゃ……お付き合いくださいませ……。

少女化などについてはなるべく指摘しておきたいので、違和感などを感じた方は>>299さんみたいにご指摘いただくとありがたいです。ありがとうございます……。

過去作については迷ったのですが、スレ中で何度も宣伝するのは申し訳ないなぁと思うのでこのお話が終わったらあとがきついでにいろいろと宣伝させてください……!

ではでは、おやすみなさい。

昨日(?)はすみません。夜早めに寝てしまって、深夜に起きて書き込みして二度寝しました()
今夜は書くので……。

トリップはどうしようか迷ってるんですよね。
つけとく方が安心な気もするんですが、今後忘れそうな気もして。

いろんな意味(主に誤字とか、誤字とか、誤字とか)でなりすましは難しいと思うのですが、万が一悪質ななりすましが出てきたら都度対応します。

【第12話】

子ドラゴン「……キュー」

青年「……いいなぁ」

少女「……いいよねぇ」

ドラゴン「こいつら、もう毎週来てないか?」

少女「ここの焚き火はあったかいし、薪の節約になるんだもーん」

青年「紅茶も出るしな」

娘「この茶葉、メイドさんのところに定期的に貰いに行ってるんだよ」チョロチョロ

青年「へぇ、高そうだなぁ」ズズズ

少女「たぶんすっごく高いよ~」ズズズ

子ドラゴン「キュー……」ズズズ

ドラゴン「こいつら馴染みすぎじゃないか?」

少女「ほんとなら女さんも連れてきたいんだけどなー」

青年「あの人、なんだかんだで忙しいからなぁ」

少女「流石王宮勤めだよねぇ」

娘「王宮ってそんなにすごいの?」

青年「王宮で薬学の研究がしたければ王宮の人間に気に入ってもらうか、薬学の知識がかなりないと難しいだろうなぁ」

少女「よその人で王宮の薬剤師になれる人ってひとにぎりだし、ほんとすごい人なんだよ。女さん」

青年「少女は最近まで知らなかっただろ」

少女「えへへー」

娘「そんなにすごいんだ……敵わないなぁ」

ドラゴン「何の勝負をしているかわからないが娘の魔法使いとしての実力ももう随一のものになっていると思うぞ」

娘「そんな……私なんてまだまだだよ……」ドゴォズズズ……

少女「娘ちゃんすごい……!自ら魔法で穴を作って埋まってるよ……!」

青年「必要かそれ?」

青年「いやぁしかし、あれだな。俺も店がなけりゃ毎日来るのにな」

少女「そうなったら毎日アップルパイがただで食べられるのになぁ」

子ドラゴン「キュー!キュー!」

青年「俺は薪代の代わりに持ってきてるだけで少女はおまけだからな」

少女「いけずぅ」

娘「なんだか律儀にありがとうございます」

青年「いいっていいって」

少女「うんうん、気にしないで」

青年「少女は何もしてないだろ」

少女「こう、癒しオーラを振り撒いてるじゃんっ?」

青年「なんだそれ」

少女「三丁目のおばちゃんなんて最近は私目当てでパン屋に通ってるって言ってたよ!」

青年「なんで客なのに勝手に看板娘になろうとしてるんだよ」

男「えらくアットホームだね」

少女「わぁっ!?」

男「そんなに驚かないでほしいなぁ。傷つくだろう?」

少女「いきなり出てくる方が悪いでしょ!」

男「ごめんごめん、職業病かな」

娘「あれ、男さん、どうかしたんですか?」

ドラゴン「ん?娘、知り合いなのか?」

娘「うん、町の人だよ。……あれ?他所の人なんだっけ?」

男「今は町の人でいいよ。ドラゴン、だよね。はじめましてになるのかな」

ドラゴン「あぁ、そうだな。はじめまして」

男「……ドラゴンが挨拶するのってなんだかシュールだね」

青年「これまたえらく気さくにドラゴンに話しかける変わった人間だな……」

男「まぁまぁ、いろいろあるのさ」

娘「えっと……それで……?」

男「あぁ、そうだそうだ。忘れるところだった。町長から手紙を預かっていてね」

娘「手紙?」

少女「そんな大切そうなものを忘れそうになっていいものなの……?」

男「正直手紙のひとつやふたつ、あんまり興味がないからね」

少女「よく城でお仕事できてるね……」

青年「王宮とは大違いなんだな……」

男「まぁそこらは巡り合わせってやつさ。……っと、これだね」

娘「わぁ、屋敷にいてもお手紙を受けとることなんてなかったしこういうのって初めてかも」

青年「ほんとに箱入りなんだな……」

少女「私も気になるー早く開けよーよー」

男「今開けるのかい?……だったらボクも中身を確認してから帰ることにしようかな」

青年「興味あるんじゃないか……というか中身を知らないのか?」

男「まぁそりゃあ手紙は手紙だし。書いたのはボクじゃないからね」

娘「じゃあ開けるね……?」

キュランッ……ピュオオオ……シュッ……

青年「なんか魔法で切るといちいちかっこいいな」

『娘殿

隣町の王宮からの提言、そなたの懸命な弁明活動などを考慮した結果。

今ここで、ドラゴンへの様々な差別的対応を改めるよう努めることに決定した。

そこで、城にてドラゴンやその友人も交えた歓迎パーティを三日後に開催しようと思う。

わかりやすい和解アピールとしてはうってつけなのだ。

パーティに支障のない範囲であれば、町に来ていたあの小さなドラゴン、その他に友人がいるならそのご友人も魔物人間問わず連れてきて構わない。

というわけで、そちらによこした男にパーティへの参加の可否を伝えていただきたい。

私としても全身全霊で歓迎するつもりである。

そなたらと少しでも歩み寄れること、切に願っている。

町長』

男「うわぁ……帰らなくてよかったぁ……」

少女「ほんとだね……」

青年「今ここで開けてなかったら怒られてたな」

男「良い仕事をしたね、娘ちゃん!」

娘「町長さんって文面だと口調がちょっと違うんですね」

男「真面目になろうとしてなりきれてないって感じだよね。あのおじいさんキャラもなんかのキャラ作りなんじゃない?」

ドラゴン「失礼極まりねぇ……」

娘「……ということだよ!ドラゴンさん!」

ドラゴン「ドラゴンさんじゃなくて、ドラゴンだ」

娘「あぁ、ごめんごめん」

青年「しかし、なんにも起きないと思っていたが案外頼ってみるもんだな、王宮」

少女「女さんさまさまだね」

男「王宮……って隣町からの手紙、あれキミたちだったのか。町長さん、あれを見て変な表情してたよ」

娘「変な表情?」

男「なんか笑ってるような悩んでるようなよくわかんない表情」

少女「なにそれ、なんだか気持ち悪くない?」

男「ボクの言ってることも大概だけどそこのお嬢さんも中々ひどいよね」

娘「私は全然、いいよ。というか……予想以上に理想の展開!」

男「ちょっとできすぎな気もするけどなぁ」

青年「城の人間がそれを言うのか……」

男「ボクはボクであってボク以外の何者でもないし、そもそも城に入ってまだ間もないしね」

青年「ほんとよく城に雇ってもらえたな……」

男「ボクは何者にも……何物にも囚われないのさ……」

少女「ねぇ青年、この人めんどくさいよ」

男「ごめんごめん、続けて続けて。ドラゴンとしてはどうなんだい?」

ドラゴン「まぁ、人間の方から歩み寄ろうとしてくれている珍しい機会だ。乗らない手はないんじゃないか?」

娘「じゃあ、決まりだね」

ドラゴン「生け贄にはうんざりしてたしな」

子ドラゴン「キュー!キュー!」

娘「うんうん、一緒に行こうね!……やったね!」

青年「それって俺も行っていいのか?」

男「いいんじゃない?」

少女「私も私もー?」

男「キミはなんとなくボクが言ってた悪口流しそうだからダメ」

少女「職権乱用だー!」

男「覚えたての言葉を使うもんじゃないよ、お嬢さん」

男「ふむふむ、まぁわかったよ。来るって伝えておこう」

少女「忘れないよーにね!」

男「キミは来ないって忘れないようにしておくよ」

少女「ドラゴン、あの人焼いていいよ」

ドラゴン「えっ」

男「冗談冗談。どうせだし来るといいよ。お祭りってのは大人数の方が楽しいだろ?」

少女「わーいわーい!覚えてろよー!」

青年「覚えてろよって……」

娘「楽しみに、してますね」ニコッ

男「うんうん、ところでさ」

娘「……はい?」

男「ボクも紅茶貰って良いかな」

青年「ゆっくりする気かよ」

少女「早く報告してきなよ!」

男「ボクだってサボれるなら仕事は長くサボりたいのさ」

少女「よく今まで生きてこれたね!」

ドラゴン「次から次へとなんなんだこの空間は……」

ほんとに短いですが、12話おしまい。

今日(土曜日)は昼か夕方にも続きを書きます。たぶん。

あと>>247で青年の男化が起こってました。
このSSはいつか自分のカクヨムにいろいろ綺麗にして乗っけます。
ほんとなりすまし無理だぜこのドジっぷり(白目)

2chmateで書いてますが、トリップを忘れそうってのは違う作品を書いたときとかのときの話です……すみません……。

チビ魔王と村人とか、少女と狼娘とか、身に覚えのないSSを挙げてくださる方がいらっしゃいますが違うだけにどんなSSなのか気になっちゃいますね。

(誤字脱字などを代償にした)SSの執筆ペースは速い方だと思ってるのですが、この合間に挟むレスの長さは随一なのでは……。



ちょっとペース落ちてますが、起きてから巻き返しますので……おやすみなさい!

【第13話】

娘「どうかな、この服装」クルンクルン

ドラゴン「かわいいと思うが、どうしたんだ?」

娘「やっぱりパーティならドレスかなって。魔法で作ってみたの」

ドラゴン「魔法でそんなことまでできたのか……」

娘「ドレスを作る魔法を昔に絵本で読んだことがあるからできるかなって。いろいろ探してみたんだ」

ドラゴン「絵本で見た魔法……もうめちゃくちゃだな」

娘「今日のために大慌てで夜は大変だったんだよ……?パーティに間に合ってよかった」

ドラゴン「普通は間に合わないと思うんだがな。ところでその靴は」

娘「ガラスの靴だよ。これもその絵本にあったんだ。こっちは先に用意できてたんだけどね」

ドラゴン「……痛くないか?」

娘「……痛いね」

ドラゴン「脱いだ方がいいんじゃないか?」

娘「うーん。なんだかもったいないなぁ」

ドラゴン「何かの試練なのか……?」

娘「ドラゴンはロマンに欠けてるね」

ドラゴン「そこまで言われるのか……」

…………

バサッ……バサッ……

娘「こればっかりはいつもドラゴンに頼りきりだなぁ」

ドラゴン「娘は魔力量が少ないのだから仕方ないだろう」

娘「この距離なら行きのぶんくらいなら大丈夫だと思うし、行きは自分で飛んでもいいんだけどね」

ドラゴン「背中に一人や二人……それに一匹くらい乗せても体感はそう変わらないさ」

子ドラゴン「キュー……」

ドラゴン「子ドラゴンはもう少し羽根が成長するといいんだがな」

娘「私も子ドラゴンも成長しなきゃだね」

ドラゴン「そうだな、頑張ってくれ」

娘「……ほうきを使うといいのかな?」

ドラゴン「それも絵本の影響か?」

娘「よくわかったね」

バサッ……バサッ……

…………

【町、上空】

バサッ……バサッ……

ワイワイガヤガヤ

娘「わぁ、なんだか町の上を飛んでるのって新鮮だね」

ドラゴン「隣町に行こうがこっちに来ようが町の手前で降ろすからな」

娘「だからかな?すっごい騒ぎになってるよ」

ドラゴン「まぁ最初はこんなもんだろ」

娘「冷静に考えてみると浮遊魔法で飛んでるところを見られるのってなんだか恥ずかしいしドラゴンの背中に乗って正解だったね」

ドラゴン「恥ずかしがる基準がいまいちわからないぞ」

娘「ほら、今なら私は飛んでるドラゴンのおまけ的なポジションなわけだし……」

ドラゴン「扱いの基準が全くわからないぞ」

【町、城】

バサッ……バサッ……ドシッ

ワイワイガヤガヤ……

少女「おはよ!わー!娘ちゃんかわいいー!」

娘「おはよう……少女ちゃんもかわいいよ」

青年「よう、確かにかわいいな」

少女「青年が言うとなんだか気持ち悪いね」

青年「うるせぇ」

少女「子ドラゴンとドラゴンもおはよー!」

ドラゴン「おう、おはよう」

子ドラゴン「キュー!」

少女「そういえば女さんは誘ってみたんだけどやっぱり来れないって」

娘「そっかぁ……残念だなぁ」

青年「やっぱり忙しいんだろ」

少女「ドラゴンさんに会いに行くって言ってからも実際に会いに行けるまで結構時間空いちゃってたもんねぇ」

娘「こればっかりは仕方ないですね」

少女「そうそう、むしろこういうときに躊躇わずにお店を閉めてきちゃう青年がおかしいんだよ」

青年「こういうときに閉めないでいつ閉めるんだよ」

少女「サボりたいだけなんじゃないの?」

ワイワイガヤガヤ

青年「しかし、それなりに人がいるもんだな」

少女「そうだね、流石お城って感じ」

娘「アップルパイを配ったときは誰一人受け取ってくれなかったのに今日はこんなに……」

青年「アップルパイを配ったからこそ、なんじゃないか?」

少女「……?どういうこと?」

青年「アップルパイを配る娘の姿を見て、何かしら思う人がこんだけいたってことだろ」

ドラゴン「無理を通して、無茶をしたからこそ、得られるものもある……無駄ではないってことだな」

少女「わ!わわ!みんなしてなんかそれっぽいこと言ってる!……えーっと、信じれば道は拓けるんだよ!」

青年「スポンジ並みの密度しかない言葉だな」

子ドラゴン「キュッ……キュキュッキュキュキュー……」

青年「何を言っているのか全くわからないぞ」

子ドラゴン「キュッ!?」ガーン

娘「えへへ……みんな、みんなみんな。ありがとうございます」

男「ボクも正直こんなに人が集まるなんて思ってなかったな」

娘「あっ、男さん。おはようございます」

男「うんうん、おはよう。……といってももうお昼になっちゃいそうだけどね」

少女「娘ちゃんはいきなり男さんが出てきてもびっくりしないんだね……」

町長「ふぉっふぉっふぉ。正直わしもこの人数は意外じゃよ」

娘「あっ、町長さんもおはようございます」

町長「おはよう、おはよう。皆も、そこのドラゴンもの」

ドラゴン「はじめまして、だな」

町長「そのような挨拶はよいよい。一々していてはキリがあるまいて」

ドラゴン「まぁ、それもそうか」

男「……ふむ」

青年「ちゃんと城で働いてるんだな」

男「失礼だなぁ……まぁいいけどさ」

町長「そういえば娘はアップルパイを配っていたらしいの」

娘「ええ、もう随分前のような、最近のような、不思議な感じですけど」

町長「その節は食べることができなくてすまなかった……。お返しといってはなんじゃが、今日はわしからもお手製のアップルパイを用意しておいたのじゃ」

娘「わ、ほんとですか?」

少女「町長お手製……なんだかすごそう!」

青年「おい少女、俺のアップルパイのときより目を輝かせるのはやめろ」

子ドラゴン「キュー!キュキュキュー!」

青年「子ドラゴンまで……」

町長「ふぉっふぉっふぉ。作った身としては冥利に尽きるの。ドラゴンにも人間用とは別に、ちゃんと大きめにつくったものを用意しておいた。是非とも堪能するとよい」

ドラゴン「今まで人間用のサイズを食べていたからそれは助かるな……」

町長「城ゆえに大きな窯があるからこそできる荒業のようなものじゃがの」

少女「え?それってすごくおっきいの?いいないいなー」

青年「小さくてもいっぱい食えばいいだろ……」

少女「えーっ。おっきいアップルパイってこう……夢が詰まってるじゃん?」

ドラゴン「少し食べるか?」

少女「うーん……でもパーティだからチキンとかいっぱい食べたいし今日はいいや!ドラゴンさんに悪いしね!」

子ドラゴン「キュー?」

ドラゴン「子ドラゴンは全部食うからダメだ」

子ドラゴン「キュー……」

町長「ふぉっふぉっふぉ……では、娘よ」

娘「はい?」

町長「待っとるぞ」

娘「はい……はい?」

男「……というわけで、ボクは職務怠慢のように見えてもね」

青年「町長、城の中に戻ってったぞ」

男「えっ……うわっほんとだ……」

町長「もう少しくらいはゆっくりしとるとええわーい!」

男「わ、これはラッキーだな……了解でーす!」

少女「遠慮がないんだね……」

男「この世に遠慮して得することなんてあるのかい?」

青年「清々しいな……」

ドラゴン「パーティまであとどれくらいだ?」

娘「うーん……もうちょっとだよ」

子ドラゴン「キュー……」ソワソワ

兵長「こいつぁたまげたってもんだよな?お嬢様よ」

娘「げっ」

兵長「"げっ"たぁなんだ"げっ"たぁ。オレぁ別に敵じゃあねぇだろ?」

娘「でも前に会ったときには酷いことを言われたので……」

兵長「あぁ、そうだな。酷いことを言ったかもしれん。でも間違ったこたぁ言ってないつもりだぜ?」

青年「えっと……こちらは?」

男「あぁ、ボクから紹介しよう。兵長さんだよ。この町の兵を束ねてる。まぁ実質ナンバー2だね」

兵長「い、いらっしゃったのですか。しかし、私などが、ナンバー2など……」

男「いないことにされてたって"げっ"って言われるよりひどくないかい?」

男「あと兵長さんはもっと誇っていいんだよ?そもそもナンバー2なんだから、そんなに堅い言葉を使わなくていいんだ。もっとこう、フランクにさぁ」

少女「ナンバー2相手にこんな言葉使いしてるこの人はほっておいてもいいのかな?」

兵長「城に仕える人間には敬意を持つようにしておりますので……」

男「……ま、この通り、頑固というか堅すぎというか。変わり者なんだよ」

少女「男さんとは真逆だね!」

兵長「お言葉ですが……」

男「兵長さん、正直ボクに敬意なんてこれっぽっちもないだろ?」

兵長「……」

男「そこは否定してほしかったよ」

カラカラカラ……

ドラゴン「おっ、料理が来たみたいだぞ」

子ドラゴン「キュー!」

男「ふむ。そろそろお時間かな。今日は警護、頼むよ兵長さん」

兵長「了解でございます」ビシッ

スタッスタッ

娘「……あのっ」

兵長「む?」

娘「まだ、私は悪でしょうか?」

兵長「悪?」

娘「前に……兵長さんが言ってたから……」

兵長「あぁ、俺が正義で、お嬢様はわがままだってやつか」

娘「は、はい。それです」

兵長「今も、あんときも、お嬢様は悪かねぇよ」

娘「……え?」

兵長「わがままは、わがままだろう?」

スタスタ……

娘「は、はぁ」

娘(そんなに悪い人でも……ないのかな……)

ガラガラガラッ……

青年「こっちにもいろんな料理が来るなぁ」

少女「チキン!チキン!パーティっぽいよ!」

子ドラゴン「キュー!……キュ?キュ?キュー!」

娘「子ドラゴンは初めて見る食べ物ばっかだね」

子ドラゴン「キュー!」

ガラガラガラッ……

ヒソヒソヒソ……

少女「わわっ、ドラゴンさんのアップルパイすごいよ!」

青年「お、大きいな」

ドラゴン「子ドラゴンほどアップルパイが好きである自信はないが、嬉しいものだな」

子ドラゴン「キ,キュー……」ポカーン

少女「子ドラゴンもリアクションが追いついてないよ……!」

青年「まさに圧巻だな」

娘「ふふっ……こっちの私達のぶんのアップルパイも美味しそうだよ」

少女「わ、ほんと!後でみんなでいっせーのっで食べようね!」

青年「町長のスピーチが終わるまで待つんだぞ」

少女「が、がんばる」

ドラゴン「がんばるとかそういう問題なのか……」

ブゥーンッ

『あー、マイクテス、マイクテス、あーあー。ボクの声、聞こえてるー?大丈夫ー?……って確認の取りようがないな……あっ大丈夫?わかったわかった』

…………

娘「これ、子ドラゴンのときの放送と同じ……」

少女「それにしても男さん……」

青年「もうほっておいてやろう」

…………

『それじゃースピーチを始めるよー』

\ヒューヒュー/

『おお、盛り上がってるね。聞こえる聞こえる。それでは町長からのお言葉だよ』

…………

キィーン,ゴツッポツッ

『……ふむ。この放送機材もあまり使うことはないのじゃが、このように使うと便利じゃな。城のどこからでも皆にわしの声を届けることができる』

『見えるかの?今は城の頂上、町長室から皆を見渡しながらスピーチをしておる』

…………

少女「……あっほんとだ」

青年「機材紹介になってるがいいのか?」

…………

『ほっほっほ。長々と喋っておっても料理が冷めるだけじゃ。ここは手短に済ませさせてもらおうかの』

『ここから見える景色をわしは今までずっと変わらず眺めてきた。……しかし、今日を境にこの眺めは少し変わるのじゃ。どう変わるかは……おぬしたち次第であり、わし次第でもある』

『皆の見えとる景色、そしてわしが見えとる景色が少しでも広く、よいものになるよう、願っておる』

『……ふむ、ふむふむ。ではわしから言わせていただくとするかの』

『みなのもの……乾杯じゃ』

\ワーワー!/

カキンッ……カキンッ……

ワイワイガヤガヤ

ワイワイガヤガヤ……


少女「よーし、みんな、アップルパイ持ったーっ?」

青年「持ってるんじゃないか?」

子ドラゴン「キュー!キュー!」

娘「そんなに急かさなくても大丈夫だよ、子ドラゴン」

ドラゴン「アップルパイは逃げないからな」

少女「よーし、それじゃあ……」

「「「「いっせーのーっ」」」」

パクッ……


ドゥンッ

【第14話】

ドラゴン「ぐぅっ……!」ビリビリッ

ビリビリッ……バチッ……

ガヤガヤ……ガヤガヤ……

少女「……へ?ど、どうしたの!?ドラゴンさん!?」

青年「これは……まるで……前の……!」

ドラゴン「魔法……っ性のっ……毒だ……うごけっ……なっ……!」ビリビリッバチッ

娘「しゃ、喋らないで!」

青年「あー、くっそ!やっぱり毒かよ!女さんは連れてきてねぇ!」

少女「今から隣町に走って呼んでくる!?」

青年「ダメだ、時間が足りない!」

娘「いっそ魔法で……ダメ。ひとりでも厳しいのに女さんを抱えて戻ってくるなんて……魔力が足りなさすぎる……」

子ドラゴン「キュッ……キューッ?」

少女「そもそもこの毒はいったい誰が……」

娘「アップルパイを作った町長さんとしか……」

青年「町長……くっそ!この警備の中、近づけるか!?」

少女「あぁ……!もう!何もかもがいきなりすぎててんやわんやだよ!」

ドッゴーンッ

一同「!?!?」

メイド「お嬢様!やっぱりこちらに!」

娘「め、メイド……?」

メイド「これを!」ピラー

青年「号外……?」

少女「"わが町、ついにドラゴンの駆逐に成功!"……ってこれ、どうしたの!?」

メイド「たった今、町でこれを配り歩く者がおり……」

青年「まだドラゴンはここで生きてる!というかどう考えても早すぎるだろ……!?」

娘「まるで……最初からこうなることがわかってたみたいな……」

青年「っつーことは最初から仕組まれてたってことかよ」

ガヤガヤ……ガヤガヤ……

青年「このパーティに来ているお前たちもこの作戦に協力しているだけの人間なのか!?」

イヤ……ワタシハナニモ……
ワタシノセイジャ……
ヤハリドラゴンハワザワイヲ……


少女「とりあえず違うみたいだけど……」

男「……ふむふむ。なるほど。これは魔法性の毒だね」

青年「おわっ!?どこから湧いて出てきたんだよ!?」

少女「それにそれはさっき聞いたしね……」

男「ひどいなぁ……まぁこの毒なら一、二時間は拘束効果くらいしか表れないと思うよ。先に対処するべきは加害者の方だね」

男「おおよそ、目星はついてるんだろう?」

娘「町長……ですよね」

男「うん、そうだろうね。たぶん本人は隠す気すらないんじゃないかな」

青年「おまっ……知って……」

男「知らない知らない、ほんとだよ?あやしいとは思ってたんだけど……まさかこんな大層な行動に踏み切るとはねぇ」

娘「町長……」

『待っとるぞ』

娘「私、町長に会いに行きます……!」

青年「警備はどうすり抜けるんだよ!」

兵長「そいつぁ心配ない」

男「おっ、珍しいねぇ」

兵長「……こほん。オレぁ曲がったことは許せん。今回の町長のやり口はどう考えても悪質だ……流石のオレもこいつぁ擁護できんし、しようとは思えん」

男「へぇ、町長に歯向かうんだ。やるねぇ……そういうの、好きだよ」

兵長「こほん。……とりあえず、警備は解いておいた。今、城に兵は町長以外には誰もおらん。好きにしろ」

男「……あっ、でも気をつけなよ。兵の中には町長支持派もいるはずだからさ」

娘「……ありがとうございますっ!行ってきますっ!」タッタッタッタッ

少女「ち、ちょっ!娘ちゃっ……!」タッタッタッタッ

青年「ちょっ!少女までっ!あぁっ……」

青年「……あぁっもう、どうしたら……」チラッ

ドラゴン「ぐっ……がぁっ……」ビリッビリバチッ

男「……追わないのかい?」

青年「追っても、何も……」

男「まぁまぁ、そんなことを言っても娘ちゃんはともかく、少女ちゃんも何ができることやら……」

青年「……あぁ!ですよね!ほっとけませんよね!」グシャグシャ

青年「よっし、行ってきます」

男「君に、戦力プレゼントだ」

青年「……へ?」

子ドラゴン「キ,キュー……」

男「これでも、曲がりなりにドラゴンなんだよ?」

子ドラゴン「キューッ!」ブワーッ

男「……ね?」

青年「……行くぞ!」タッタッタッタッ

子ドラゴン「……キュッ!」キリッ……パタパタ……

ゴトンッ

子ドラゴン「キュー……」ショボン……トコトコ

青年「……えっ、ちょっ!はやく!」

…………

兵長「あれで大丈夫なのですか?」

男「大丈夫大丈夫。たぶんね。……というより、兵長も堅いだけかと思いきや性格悪いなぁ」

兵長「はい?」

男「城から兵を撤退させたのなんて、町長が城を見棄てて崩壊させかねないからだろう?」

兵長「……何のことでしょうやら」

男「うんうん、ボクは嫌いじゃないよ。そーゆーの」

【町、城の中】

タッタッタッタッ……

青年「あれ?少女?どうしたんだ?」

子ドラゴン「……キュー?」

少女「あっ!青年!よかった!あのね!」

青年「おう?」

少女「迷子になった!」

青年「……マジかよ」

少女「灯りもおぼつかないし、娘ちゃんを見失っちゃったんだよねー」

青年「俺達割りとほんとに役立たずなんじゃ……」

ガシャンッ……ガシャンッ……

兵士A「し、侵入者発見!侵入者発見!」

兵士B「兵士Cは全兵士に通達だ!残りのものは侵入者の捕縛に専念!」

兵士群「「「はっ!」」」

青年「おいおい……マジでいやがるのかよ……逃げるぞ!」バッ

少女「う、うん!」ダッ

子ドラゴン「キューッ!」ボワーッ……ダッ

青年「よーし、ナイス牽制だ!」ダッダッ

子ドラゴン「キューッ!」ダッダッ

…………

……


とりあえずここから進むと止めどころを失い最後まで書くことになりそうなのでここで止めます。

昼から夕方、というか夜まで時間なくて申し訳なかったけどペースは……巻き上がったんじゃないですか……?

急展開で着いてこれない人は寝て覚めると整理できてます、たぶん。

ではでは、おやすみなさい。

【第15話】

ダッダッダッダッ……

『見えるかの?今は城の頂上、町長室から皆を見渡しながらスピーチをしておる』

娘(町長さんは……頂上……)

ダッダッダッ……

娘(流石にてっぺんまで登ったことはないですが……)

ダッダッダッ……

娘(階段を登っていけば……いつかは……!)

ダッダッダッ

ザザーッ

娘「あー!もう……!ガラスの靴ってやっぱり痛い……普通の靴でくればよかったですね……」

娘(ドラゴンさんなら"だから言っただろ"なんて言うのでしょうか……)

娘(……)

ヌギヌギ……コトッ

娘「……よしっ」

ペタッペタッペタッペタッ

ペタッペタッペタッペタッ

娘(……階段!こんなとこにっ!)

ペタッペタッペタッペタッ

ガタガタガタガタッ

兵士群「!?」

娘「!?」

娘(こんなところで……鉢合わせなんて!)ボウッ

兵士C「総員、待て!」

ガシャンッガタガタガタンッ

兵士C「そちらも、その炎はしまってもらおうか」

娘「……炎をしまうってなんだか変ですね」シュウ

兵士C「町長様からお前は先へと通すように言われている。町長室はこの先だ」

娘「私はって……なんで……」

兵士C「さぁな。私達にもわからんが、長きに渡りこの町を……"平和な"この町を治めてきた長だ。町長様には町長様なりのお考えがあるのだろう」

娘「……」

兵士C「まぁ、行ってみればいいさ。総員、壁に寄れ!お嬢様を通して差し上げろ!」

兵士群「はっ!」ガシャガシャッ……

娘「ありがとうは、言いませんよ」

ペタッペタッペタッペタッ……

兵士C「求めちゃいないさ」

兵士D「隊長!他の隊より連絡!兵長支持の兵隊が城に攻め行っているようです!」

兵士C「侵入者への対応を手薄にするため、全ての兵の手を埋めることが兵長殿の目的だろう……ほっておけ」

兵士D「しかし、我が兵の過半数以上は兵長支持派です……!そのほぼ全員がこれに参加している模様!……このままでは!」

兵士C「くそっ……選択肢はないということか……仕方あるまい。支援に回るぞ」

兵士群「はっ!」

ガシャンッ……ガシャンッ……

……

…………

……………………

ペタッ……ペタッ……

娘「やっと……ですか……」ハァハァ

…………

娘(この先に……)ハァ……ハァ……

スゥッ……

娘「……よしっ」

ギィッ……

町長「おや、早かったのう」

娘「全力疾走、してきましたから」

町長「まぁかけるとよい。紅茶が冷める前に、の」

娘「紅茶?」

町長「好きなんじゃろ?男が言っておったぞ。あぁ、何。そいつには毒は盛っとらん」

娘「そいつにはって……やっぱり……」

町長「言わずもがな、じゃの」

娘「……」ボウッ

町長「おおう、やめとくれんかのう。わしももう老いぼれじゃ。戦う気などはない」

町長「言うなれば……そう、お茶をしようというだけなのじゃよ。お話じゃ」

娘「こんな状況でお茶なんて……早くドラゴンの毒を解毒しないと……!」

町長「あの毒ではドラゴンは死ぬまいよ。確かに致死性の毒ではある。……じゃがそれは他の魔物であればの話であっての。あのドラゴンほどになれば数日は拘束できれば御の字、といったところかの?」

娘「でも、ドラゴンは苦しんでるんですよ?」

町長「うむ、それでよい」

娘「そんな……そんな!」

ギィィィ……バタンッ

娘「!?」シュウ

町長「じゃあ、答え合わせといくかの」

【第16話】

娘「答え合わせって……何の……」

町長「全ての答え合わせじゃよ。全部、話してやろう。……じゃから、そこに座っとれ」

娘「……」ガタッ

町長「まずは昔話から付き合ってもらおうかの」

町長「昔、昔。百年以上昔の話じゃ。この町の近く……そう、あの洞窟にドラゴンが住み着いたのじゃ」

町長「その昔、人々は戸惑った。大いに戸惑った。何せ、ドラゴンじゃ。遥か昔、魔界大戦で多くの人間の命を奪ったと伝えられる、ドラゴンなのじゃから」

娘「でも……あのドラゴンは、ドラゴンさんはそんな、虐殺なんて……!」

町長「うむ。今はそうなのやもしれん。現に最初は戸惑っていたものの、この町の人間は着実にドラゴンと一緒に生活と文明を築いておった」

娘「だったらなんで今のようなことに……」

町長「わしの、父上じゃよ」

娘「え?」

町長「父上は様々な文献を調べておった…して、あのドラゴンは魔界大戦で虐殺をしたドラゴンそのものだという結論に至ったのじゃ」

町長「いくら現在のあのドラゴンが温厚であるとはいえ、そのような……虐殺を起こすような存在と交流を持つ危険性は図り知れぬであろう」

町長「故に、城は民にドラゴンへの接触を禁じ、伝説や文献を広め、ドラゴンへの恐怖心を植え付け……しまいにはドラゴンを鎮めるのだ、と生け贄を差し出した」

娘「差し出したって……ドラゴンさんはそんなの、求めちゃ……」

町長「あぁ、おらんの。だがしかし、そんなことは問題ではないのじゃ。"ドラゴンに生け贄を捧げる"……この行為が当たり前として民に刷り込むことが大事なのじゃよ。その行為はいわば……そう恐怖の体現なのじゃから」

娘「じゃあ、ドラゴンさんが恐れられてるのって、全部全部この町の……城のせいじゃないですか……」

町長「それは違う」

娘「何が違うっていうんですか」

町長「ドラゴンは実際に魔界大戦で虐殺をしておるのじゃ。恐ろしいことに変わりはない。どこまでいこうと、因果応報なのじゃよ」

町長「……故に、城は。わしは悪くない」

娘「そんなの……そんなのって……」

町長「では、昔話を続けるかの」

町長「その体制をわしも受け継いだ。そして、長き時をかけて、ドラゴンの脅威とこの町は近くも遠い距離感を守ってきたのじゃ……」

町長「さて、時は飛んで十数年前のことじゃよ」

町長「とある屋敷に娘が生まれたのじゃ」

娘「それって……」

町長「そう、おぬしのことじゃよ。娘よ」

町長「おぬしは普通じゃなかったのじゃ。人間とは到底思えぬ魔力を持っておった」

町長「ドラゴンの影響か、魔王の仕業か、はたまた女神の悪戯か」

町長「しかし、そのいずれにせよその魔力はこの町では驚異でしかなかったのじゃ」

娘「で、でも、今の私には魔力なんて!」

町長「まぁそう焦るでない。話はまだあるのじゃ」

町長「驚異を野放しにするのはわしにはできん。……ドラゴン同様、の」

町長「故に、他の町より魔法使いを呼び、秘密裏に魔力を封印した。……このことを知っておるのは城の人間でも上層部のものだけじゃな」

娘「そんな……そんなこと……っ」

町長「屋敷の人間に監視され、町に出れぬことに疑問を抱いたことはなかったのかの?」

町長「それはおぬしが危険因子だからじゃよ」

町長「両親とも会えず、両親からの手紙も途絶えたことに違和感を覚えなかったかの?」

町長「それは両親を口封じに僻地へ飛ばし、最終的には殺したからじゃよ。そもそもおぬしを産んだ両親じゃ。ある意味彼らも危険因子じゃったからの」

娘「そん……なの……そんなのって……」ポロポロ……

町長「……では昔話はおしまいじゃ」

町長「ここからは現在の話をしようかの」

町長「もちろん、そんなおぬしはこの町にとって厄介者じゃった」

町長「何度もドラゴンへの生け贄にする案は出ておった。……ドラゴンへの恐怖心を引き立てる役割を除いても厄介払いに最適な慣習じゃからの」

町長「しかし、やはりその魔力と封印が厄介じゃった」

町長「もしドラゴンにその封印を解かれ、洗脳されては敵わんしの」

町長「そもそも、上層部の人間のほとんどがその封印の強さには懐疑的じゃった」

町長「その封印をかけた魔法使いより伝えられし解除方法がこのお札一枚を貼るだけじゃったのも災いしたんじゃろうな」ペラペラ

町長「……いや、すまぬ。おぬしにとってはそのおかげで生け贄にされず過ごせていたのじゃから、幸運じゃったの」

娘「うっ……ひぐっ……」ポロポロ

町長「……ふむ。わしの話は聞いとるかのう?一回休んでもよいぞ?」

娘「きいっ……てるから……続けて……」ポロポロ

町長「しかし、その封印は何年経てども解ける気配はなかった」

町長「ここ数年は議論をおぬしをドラゴンに差し出すかどうかの議論が続いておった」

町長「これに伴い、僻地に飛ばした両親の反対行為が酷くなってきての。おぬしの両親を殺したのはこの頃じゃよ」

町長「そもそも僻地に飛ばしたきっかけもおぬしの監視生活に反対したからじゃった。おぬしの両親は意見を曲げぬ、よい人間じゃったよ」

町長「二人を失ったのは実に、そう実に惜しい」

娘「……うぅっ、ひぐっ……自分が……殺した癖にっ……」ポロポロ

町長「仕方あるまい。脅威は脅威。排除するのが人間のためなのじゃよ」

町長「そして、ついにおぬしはドラゴンの元へと生け贄として送られた」

町長「封印が解けねば、ただの娘でしかないからの」

町長「しかし、そこでふたつの誤算が生じたのじゃ」

娘「うぅ……ひぐっ……」ポロポロ

町長「ひとつは、おぬしが魔法使いになったこと」

町長「魔力が人並みであれども、おぬしの魔法制御の技術は人並みではなかった……。そこが誤算だったのじゃ」

町長「あの小さなドラゴンが町に迷い込んだ騒ぎがあったじゃろう?」

町長「そのときに捕らえるか話し合われたんじゃが、ドラゴンを激怒させる危険性と、おぬしから攻撃する意思が見受けられんことから送り返した」

娘「そん……なっ……!」

町長「さて、ここまでの話はいわば前座じゃ。本題はもうひとつの誤算であり、ここからの話なのじゃよ」

町長「あの洞窟……ドラゴンの住み処には多くの魔法石があるらしくてのう」

町長「その中には不老長寿の魔法石がある可能性が高いらしいのじゃよ」

娘「……!もしかして……そのために……」

町長「うむ。ドラゴンを拘束しておるのじゃ。探さねばならんからの」

町長「しかし、拘束するだけじゃいささか不安要素が残るのも事実……」

町長「とはいえ、ドラゴンを殺すだけのものはわしには。……この町には、作れぬ」

町長「ただし、たったひとつの例外を除いての」

娘「例……外……?」

町長「そう、いわば誤算が生み出したひとつの奇跡じゃよ」トコ……トコ……



町長「おぬしがあのドラゴンを殺してはくれんかのう?」



ピトッ

娘「うっ……うぐぅ……っ!?」グワッ

町長「ほうら、こんな簡単な行為でいとも容易く封印などは解けてしまうのだよ。さて、強大な魔力を手に入れた気分はどうかね?」

娘「うっ……はぁ……はぁ……」シュウ……

町長「……ふむ。やはり流石に暴走まではせんか」

娘「とりあえず……」ナミダフキフキ

娘「私は絶対にドラゴンを殺しなんてしません!」

町長「何故だ?何故そこまでドラゴンを守ろうとするのじゃ?」

娘「ドラゴンさんは……ドラゴンは、友達だから……」

町長「多くの人間を虐殺している魔物を友と呼ぶのか?魔族の中でも随一の魔力を持つ種族を殺す千載一遇のチャンスを無に帰すというのか?」

娘「確かに……ドラゴンは恐ろしいのかもしれません。それは認めなきゃいけない……のかもしれない」

町長「だったら何故!わしに従わぬ!わしは間違ったことはしておらん!おぬしも他者と変わらぬ小娘のひとりでしかなかろうに!何故このわしに従わぬのじゃ!」

娘「ドラゴンは恐ろしいのかもしれません……けれど!」

娘「勘違いばかりで貶めようとしたり……」

娘「知らないことが怖くて、魔法を殺人技術呼ばわりしたり……」

娘「何にも知らないのに"殺せ"なんて言ったり……」

娘「平気な顔をしてアップルパイを踏んだり……」



娘「それって、ドラゴンよりずっと。ずっとずぅっと。恐ろしくないですか?」


町長「不老長寿、おぬしも夢じゃろう!?その魔法石が手に入った暁には二人で恩恵を受けようではないか!」

娘「私はそんなものを手に入れようとは思いません」

町長「魔法石の存在は魔法学校の研究の賜物じゃ!見ている間に世界中にその存在が知らしめられることになる!奪われる前に奪わねばならぬのじゃ!」

町長「わしが!このわしが世界を導かねば!この町は……愚かな民どもは行く先がわからないまま滅びてゆくのだぞ!永遠に!永遠に導く力が必要なのじゃ!」ガシッ

娘「きゃっ」

町長「民どもは未来も、真実も見えておらぬ!だからこそ、わしが!」ブンブン

娘「誰だって……っ!これから先も、ほんとのことも……!わからないですよ!だから皆迷うし、勘違いするんです……!」ブンブン

町長「わしなら!わしになら!その先が見通せる!だからわしがみなを導くのじゃ!」ブンッ

娘「……っ!」ガシャーン

娘「……あぁ!もう!やっぱりこれしか……!」ボウッ

ブゥーンッ

『……あー、マイクテス、マイクテス、聞こえる?』

町長「な、なんじゃ!?」

娘「せ、青年さん?」

『……あ、聞こえてるわけか』

『はいはーい!ということで、これが町長の演説の一部始終でーす!』

『キュー!』

町長「ど、どういうことじゃ!」

『今の会話、ほとんどを町中に流させてもらったんだよ。ご自慢の放送機材でな』

娘「……へ?」

『ドラゴンに対する風評被害、娘に対するあからさまな差別、そして何より、民を馬鹿にしているその言動……』

『もう着いてくる人がいるとは思えないねー!』

町長「ぐ……ぐぬぬ……いらぬことを……!」ガシャーンッ

町長「わしに着いてこねば!この町は!世界は!路頭に迷うことになる!誰かが指針を示さねばならぬのだ!わしにはその責務がある!」

娘「町長さん。みんな、みんなね。迷いながら先に進んでゆくんだよ……。指針なんてものは、きっと一人一人が持ってるの……」

町長「それでも!わしはぁ……!」ダダダダッ

バタンッ!

ガシャンガシャン……

町長「ぐぬぅ……」

兵士C「包囲!」

兵長「町長殿、一度拘束させていただく!」

町長「えぇい!うるさい!うるさいうるさいうるさい!こっちに来るな!」

兵士「ちょっ!町長!そちらは窓で……」

町長「わしは!わしはぁ!!!」ガシャーンッ

フゥワッ

町長「!?」

娘「浮遊魔法、です」

シュルシュル……

兵長「城壁のツタが……巻きついて……」

娘「これは、植物系の魔法の応用」

娘「……たぶん、私がこうやって魔法を使えるようになったのは町長さんのおかげです」

娘「魔力を抑えた状態でいろんな魔法を使えるようになって、いろんな魔法を制御できるようになったから、今の私があるのだと思います」

娘「ありがとうございました」

娘「だから、これは私なりの、精一杯のお礼です」

……バシンッ!

町長「ぐふぅっ」

娘「それ、じゃ……」

バタッ

兵長「……お嬢様はベッドにでも連れていってやれ。町長殿は牢屋だ」

兵士群「「「はっ!」」」

【第17話】

兵士C「……すまんな」

娘「……」

兵士C「……聞いてないか」

ダッダッダッ……

青年「む、娘!」

少女「大丈夫?」

兵士C「色々あったからな……疲れているんだろう」

娘「う、うぅ……あれ、どうして」

兵士C「む、気がついたか。立てそうか?」

娘「大丈夫。怪我はしてないし……」スタッ

青年「いやぁ、しかし運よく放送室に迷い込んでよかったぜ」

少女「なんだか途中で警備が薄くなっちゃって、誰もいなくなっちゃったしね!」

子ドラゴン「キュー!キュー!」

少女「放送中の兵隊さんは子ドラゴンが相手してくれたしね!」

青年「消火のために子ドラゴンが吐いた水魔法であの部屋の周りは水溜まりになってるぞ」

娘「……ふふっ、なにそれ」

青年「とりあえずドラゴンのとこに向かうぞ」

少女「まだ毒はどうにもなってないからね!」

娘「う、うん!」

兵士C(警備が手薄に……なるほど……これも兵長殿の行動の結果のひとつということか……)

ドラゴン「ぐぅっ……」ビリバチッ

娘「よし、じゃあドラゴンを浮遊魔法で……」

青年「魔力が持つのか?」

娘「今なら大丈夫だよ」

少女「でもドラゴンを町中に連れていくってのはうちの町でもすごい騒ぎになるんじゃ……」

娘「でもそんなことも言ってられないし……」

カラカラカラカラ……

???「……」

青年「……」

???「……」サッ

ガシッ

青年「……」

???「……」フリフリ

青年「……」ヌギッ

男「……あー、もうなんでせっかく被ってる風呂敷を取るかなぁ」

青年「いやいやいやいや怪しいだろどう見てもよ。というか目が合っただろ今」

男「アイコンタクトを送っただろう?」

青年「いらねぇよ」

男「もう、せっかく宝具やら魔法石やらを運び出してるとこなのにさぁ」

少女「えっ、それ……」

男「ここの倉庫のやつと、あの洞窟のやつだね」

青年「漁夫の利の極みだな……とりあえず返してこい」

男「いやいや、ボク怪盗だからさ、これを盗むために潜入してただけだし。真面目に働く気なんてなかったからね」

青年「怪盗……って……」

少女「真面目に働く気があってもなくても真面目に働いてなかったもんね」

男「うるさいなぁ」

娘「あの、不老長寿の魔法石は……」

男「え?そんなものもあったの?時間がなかったから洞窟の方は奥まで見れてないんだよね……戻ろうかな……いやでも……」ブツブツ

少女「なんかすごいダメ人間だね」

青年「元々だろ……」

男「まぁいいや。ボクは撤収することにしよう。城の倉庫の方はほとんど持ってこれているわけだし、見つかってしまっては元も子もないしね」

娘「ははぁ……」

男「というわけで、ボクからの口止め料だ」ポイッ

娘「……えっと、これは?」パシッ

男「空間跳躍の魔法石。洞窟から持ってきたもののひとつだよ。そんなに珍しいものでもないけどね」

娘「空間……跳躍……?」

男「まぁ二、三人くらいならそれを使えば一瞬で飛べるんじゃないかな」

娘「えっと、使い方は……」

男「こういうのは習うより慣れろ、だね。使ってあげるから感覚を覚えてみることだ」

娘「ドラゴンも連れていけるんですか?」

男「無理だね」

青年「意味ねぇじゃん」

少女「ポンコツだね」

子ドラゴン「キュッ」フッ

男「キミたちはもうボクを罵倒したいだけだろう」

男「逆だよ。女さんとやらを連れて帰ってくるんだ」

娘「なるほど」

青年「それを先に言えばいいのにな」

少女「回りくどいんだよね!」

男「キミたちを火口にでも転送してやろうか……?」

娘「と、とりあえずお願いします!」

男「了解」カチャッ

青年「銃……?」

男「魔装具ってやつだよ。愛用なんだ」パァンッ

娘「……っ!」グュゥゥゥ……シュンッ

少女「わ!消えた!」

青年「魔法って不思議だな」

男「じゃあ僕もこれでずらかることにしようかな」

青年「……ありがとうな」

男「お礼なら……そうだな、今度アップルパイでもくれるとありがたいな」

パァンッ

グュゥゥゥ……シュンッ

少女「……不思議だね」

青年「魔法かあいつ、どっちがだ?」

少女「どっちもー」

グュゥゥゥ……シュンッ

娘「わっ!」ドスンッ

女「きゃっ」

「「…………」」

娘「ど、どうも」

女「……こちらこそ」

娘(すごいピンポイントな魔法だ……)

娘「お、女さん!今、お手、空いてますか!?」

女「微妙だけど……どうしたの?」

娘「ドラゴンの解毒剤が必要で!」

女「……手ならたった今、空いたみたい」

娘「……!ありがとうございます……!」

グュゥゥゥ……シュンッ

少女「わっ、戻ってきた」

ドラゴン「ぐぅ……っ」ビリバチッ

女「……なるほど、前に使った毒のうちのひとつと同じタイプみたいよ」

娘「つまり……?」

女「解毒剤ならここにあるわ」

青年「……よかった」

少女「一件落着だね……」

娘「今、倒れたい気分です」

ドラゴン「……助かった」

女「いえいえ、なんのこれしき……なんだか大変だったみたいね」

娘「……なんというか、無力ですね、私」

ドラゴン「そんなことはない。娘の行動があり、娘の言葉があるからこその、この結果だ」

…………

町民A「……娘とやら、今まですまんかった」

町民B「俺も……よかったら今度また、アップルパイを持ってきてくれないか?今度は食べるからさ」

町民C「……わっわたしはいままで何も言ってなかったしぃ!?」

娘「なんだか……白々しいね……」

「「「うっ」」」

娘「冗談ですよ」ハハハ

ドラゴン「……よかったじゃないか」

町民D「んひぃっ!」

娘「……ドラゴンはまだ怖がられちゃってるね」

ドラゴン「……しかたあるまい」

娘「あの、女さんがよければ……私、薬についてもっといろいろ、知りたいです」

女「あー、じゃあ、私の弟子にでもなる?」

青年「そんなあっさりと弟子を取れるのか……?」

少女「えっ、じゃあ私もなるなるー!」

女「魔法薬部門はいつも人手が不足してるし、娘ちゃんなら、まぁ……ね……?」

少女「私は私はー?」

女「ちゃんと試験を受けて一緒に働こうね?」

少女「ぶーぶー!」

娘「よろしくお願いします……師匠?」

女「師匠ってのはやめてほしいわ」

…………

[洞窟前]

バサッ……バサッ……ドスンッ

娘「なんか……いろいろあったね……」

子ドラゴン「キュー……」ヘトヘト

ドラゴン「そうだな……」

娘「えーっと、炎を……」

ボウッ

「「「…………」」」

娘「結構根こそぎ宝石がなくなってるね」

ドラゴン「これは予想以上だな」

娘「お、女さんのとこで働くことになってよかった……」

ドラゴン「奥まで探せば生活に困るほどないわけではないと思うぞ……」

ということで、 ほぼほぼ本編はおしまいです。
というか、取りこぼしもありそうだけど、謎や伏線のほとんどは解明できただろうか……?といった感じですかね。

最後の最後に一気に書き上げて申し訳ない。
おもしろく書けたのかな。勢いに任せてるのでいつも心配です。

さて、今夜から書くか明日から書くかはわかりませんけど、とりあえずあとおまけ程度のお話が少し続きます。

週末に終わらせられなさそう。残念。

【第18話】

娘「ただいまー」

ドラゴン「おう、おかえり娘」

子ドラゴン「キュー!」

ドラゴン「毎日毎日、隣町まで大変だな」

娘「ううん、そんなに大変でもないよ。空間跳躍の魔法石のおかげでね。今日は帰りに男さんのとこ寄ってきたから……ほら、アップルパイ」

子ドラゴン「キュー!」

ドラゴン「もうすぐ春だぞ……一年もよく飽きないな」

子ドラゴン「キュー」エッヘン

娘「まぁ、まだ寒いけどね……焚き火はまだまだありがたいよ」ボウッ

ドラゴン「そういえば、娘がいないうちに町から来た人間がそれを置いていったぞ」

娘「これ……?」

カパッ

娘「わぁ、お肉だよ、お肉。お魚は大丈夫だけど、流石にまだ動物は捌けないから嬉しいなぁ」

子ドラゴン「キュー!」キラキラ

ドラゴン「一年でいろいろなものが様変わりしたな」

娘「……ほんとにね。町の人がここに来てくれるなんて考えられなかったもの」

ドラゴン「それを届けた人間は未だに俺のことを恐れてたけどな」

娘「やっぱりまだドラゴンに普通に接してくれる人は少ないかぁ……」

ドラゴン「まぁ、しかたない。……遥か昔に覚悟していたことだ」

娘「なかなかうまくはいかないものだね」

男さんのとこじゃない。青年さんのとこだ。

娘「そういえばアップルパイを受け取ったときに言ってたけど、青年さんと少女ちゃん、明日こっちに来るってさ」パクパク

ドラゴン「本当によく来るなぁ……」パクパク

娘「他の人もみんなあの二人と同じくらいフレンドリーに接してくれると嬉しいんだけどなぁ」

ドラゴン「それはそれでうざったいぞ」

娘「……確かにそうかも」

子ドラゴン「キュー!?」キラキラパクパク

娘「うんうん、アップルパイも持ってきてくれるよ」

子ドラゴン「キュー!」

ドラゴン「子ドラゴンはアップルパイとあの二人、どっちが目当てなんだ?」

子ドラゴン「キュー……」ウーン

ドラゴン「悩むのか……」

娘「可哀想だね……」

…………

兵長「……よう」

娘「わっ、珍しいお客さんですね」

兵長「こいつぁ手土産だ」

娘「なんですか……これ?」

兵長「城で作っている土産物のひとつでな。……ドラゴンクッキーだ」

娘「……わぁ、子ドラゴン型だ」

子ドラゴン「キュ!?!?キュー!!!!」キラキラ

兵長「ドラゴンをマスコットキャラクターにできねぇかと画策していてな」

娘「いいですね、それ」フフッ

兵長「だろ?」ヘヘッ

ドラゴン「そういえば、礼を忘れていた。あの節はありがとう」

兵長「あぁん?オレぁなんかしたか?」

ドラゴン「……わざわざ逃がした兵を城に再突入させてくれただろう?」

兵長「……あぁ、そうか。あんなんでも一応城の外でオレがやったことを全部見てたんだったな」

ドラゴン「あぁ」

娘「兵長さん、そんなことまで……」

兵長「あれは兵のやつらがあぁしてぇって言ってただけだ。オレぁそれを許可しただけだよ」

娘(……嘘つき)

兵長「おかげさまでオレが次の町長にさせられそうになっちまったけどな」

娘「そういえばナンバー2だって男さんが言ってましたね」

兵長「あいつ、あれ以来見てねぇな……何者か全くわからんがあのときに火事場泥棒が入ったらしくてな。倉庫にあった宝物の類いがごっそり消えてたんで、そいつの責任を俺の兵の警備責任としたからそれで俺の昇進をトントンにさせてもらった」

娘「トントンって……兵長さんは町長にはなりたくないんですか?」

兵長「オレには今の仕事が一番柄に合ってんのさ。お偉いさんにはなれやしねぇよ」

娘「お偉いさんって、もう兵長さんは十分に偉いんじゃ?」

兵長「オレぁ普通だぜ、普通。兵を束ねちゃいるし、それのせいでナンバー2だなんて言われるがんなこたぁねぇ。オレには城に籠って難しいことを考えるなんてこたぁ、できそうにねぇ」

兵長「あの町長ですら道を誤るんだからな。オレならどうなることやら」

娘「……ひどい人、でしたね」

兵長「でも、理想は間違っちゃいなかったんだ。……方法を間違えただけで、な。オレにはその"理想"ってのが足りないのさ。今に満足しちまってるからな」

娘「それで、その、町長さんは」

兵長「ずぅっと、捕らわれたままだ」

娘「今も……?」

兵長「あぁ。老い先も短いだろうしわざわざ裁くこたぁねぇだろ、なんて言っちゃあいるが……やっぱり皆、町長を裁くのに抵抗があるんだろうよ」

兵長「なんせ、先代の町長から二代に渡って親子でずっとこの町を治めて、ずっとこの町を見守り続けていた人だからな」

娘「すごく、慕われていたんですね」

兵長「オレ達が見ていた町長が"勘違い"なのだとしたら、それは……」チラッ

ドラゴン「……?」

兵長「……ソイツに向けられたものと似たようなもので、全く反対のものなんだろうな」

娘「どんな勘違いも、正すのはずっと難しいんですね」

兵長「オレには町長を処刑してしまうのが正しいのか、このままほっておくのが正しいのかなんてわかりゃしねぇけどな」

娘「私は……」

娘(私は……どうしてほしいんだろう)

兵長「騙されてきたオレ達町民」

兵長「迫害され続けたドラゴン」

兵長「確かに皆が皆、被害者だろう」

兵長「……でもな。一番の被害者はオレ達町民でもなく、そこのドラゴンでもなく、家族を奪われ、これまでの人生を屋敷に閉じ込められたお嬢様、お前さんだ」

娘「……」

兵長「たぶん皆も、そう思ってる」

娘「私は……町長さんを殺してくれ、なんて、思えません」

兵長「……そうか」

娘「お父さんやお母さんが殺されたっていうのも……お父さんやお母さんがずっとずっと昔の存在のように思えて、いまいち実感が湧かなくて」

兵長「何か、町長に伝えておくことはあるか?」

娘「……いえ、何も」

兵長「……そうか」

…………

娘「ねぇ、ドラゴン」

ドラゴン「……なんだ?」

娘「町長さんのこと……怒ってる?」

ドラゴン「……それなりには、な」

娘「殺したいくらい?」

ドラゴン「……もう、何かを殺したいとは俺には思えん」

娘「そっか。……そうだよね」

娘「ごめん、ちょっと行ってくる」ダッ

ドラゴン「……おう」

子ドラゴン「キュー?」

ドラゴン「……俺達は寝るか」

子ドラゴン「キュー……」

娘「へっ、兵長さーんっ!」ハァハァ

兵長「……ん?どうした?忘れ物か?……って、あっ」

娘「あっ!あのっ!」ハァハァ

兵長「とりあえず息を整えろ」

娘「……すみません」ハァハァ

…………

娘「町長さんは……そのまま、生かしてあげて、ください」

兵長「……ふむ」

娘「確かに、お父さんやお母さんを殺されて、大好きなドラゴンをあんな目に遭わせて……まだ、誤解も完全には解けなくて」

娘「殺したいくらい、憎いかもしれません」

兵長「……では、何故?」

娘「殺したいくらい憎くても、やっぱりそれは私の中の町長さんでしかないから」

娘「やっぱり……どこか、私も勘違いしているかもしれないから」

娘「町長さんにお伝えください。……"私はあなたと違ってドラゴンより恐ろしい人も、殺そうとはしませんよ"……って」

兵長「確かに、仰せつかった。……それと、これを。忘れ物だ」

娘「あっ、これ……ガラスの靴」

兵長「我が城には王子様はおらんのが残念だな」

娘「……いえ、ありがとうございます」ギュッ

【第19話】

少女「……ドラゴンさん」

ドラゴン「なんだ?」

少女「ドラゴンも釣竿って使うんだね」

子ドラゴン「キュー!」サオフリフリ

ドラゴン「娘が買ってきたからな。俺達も練習したんだよ」

少女「すごくシュールだよ」

ドラゴン「少女、引いてるぞ」

少女「わ!ほんと!」グイグイッ

ドラゴン「子ドラゴンもだ」

子ドラゴン「キ,キュー!」グイグイッ

…………

[小屋]
グツグツコトコト……

娘「あっ見てください、これ。昨日町の人が届けてくれたんですよ」

青年「おー、結構良い肉なんじゃないか?」ザクッザクッ

娘「……そうなのかな?」

青年「肉の見分けってつかないよなぁ。今日は野菜と一緒に煮込んじまおうと思ってたんだけど、良い肉なら焼いた方が美味しいかもしれない。……どうする?」

娘「うーん……焼いちゃいましょう」

青年「……あっ、でもあいつらが魚釣ってきたら焼き魚と一緒に並ぶことになるぞ」

娘「……そのときは夜ご飯にお魚を食べようかな」

青年「夕飯までお世話になっていいのか?」

娘「全然大丈夫ですよ。料理も手伝って貰ってますし」フフッ

ガタンッ

少女「見て!見てみて!でっかい!」ピチピチッ

青年「おいっ、水が跳ねてる!跳ねてる!料理に入るからやめろ!」

少女「でっかいの!私が釣ったんだよ!」ピチピチッ

青年「部屋が一気に魚臭くなってきてるから!一旦外に出ろ!」

少女「もー!褒めてくれてもいいでしょー!ぶーぶー!」

娘「……ふふっ」

青年「どうかしたか?」

娘「あぁ、いえ」ニヤニヤ

娘(お屋敷に籠ってばかりじゃ、こんな光景は見られなかっただろうなぁ……)

…………

「「「「「ごちそうさまでしたー」」」」

子ドラゴン「キュー!」

ドラゴン「…………」

娘「たまにはこういうのもいいですね」

少女「なんか、自然ー!って感じ!」

青年「自然だもんな」

娘「これだけの人数でちゃんと食事をしたのって初めてかも」

少女「えっ?お嬢様ってこう……家来とかいっぱいいるんじゃないの!?」

娘「いつもメイドと二人だったから……」

青年「普通のお嬢様も流石に家来大勢と食卓は囲まないだろ……」

少女「えっ、でもいっぱいいると楽しそうじゃない?」

青年「いや……多すぎるのもどうなんだ……」

少女「さぁて、これからどうする!?釣りの続きする!?」

青年「これ以上釣ってどうするんだよ……」

娘「遊べるものってそんなになくて……ごめんね」

少女「そうだ!子ドラゴンあれやってよ!虹作るやつ!できるんでしょ!」

子ドラゴン「キュ?……キューッ!」シュワーン

子ドラゴン「キュッ!」ドッカーン

少女「わー!きらきら!ちょっと冷たい!」

青年「虹よりミストシャワーに感動してどうするんだ……」

ガサガサッ

ドラゴン「……!」ドンッ

ドカーンッ

「「「「!?!?」」」」

煙草「ククク……あっぶねぇじゃねぇの」

娘「……誰、この人」

ドラゴン「さっきからこの辺りをこそこそしているようだ」

少女「えっ」

ガサガサッ

ガサガサッ

娘「……なるほど、まだ何人かいるみたいだね」

煙草「そういうこった……っちゅーわけで、よっ!」ジャラジャラ

少女「きゃっ!」グルグル

煙草「よっ……と」グッ

少女「きゃぁー!」ドンッ

パシッ

煙草「ほら、この嬢ちゃんの命が惜しいだろ?そこをどいてくれ」

青年「こいつら……」

『魔法石の存在は魔法学校の研究の賜物じゃ!見ている間に世界中にその存在が知らしめられることになる!奪われる前に奪わねばならぬのじゃ!』

娘「魔法石狙いの……」

煙草「あぁ、そういうことだ。理解が早くて助かるねぇ……?んで?どうすんだ?そこをどくのか?どかねぇのか?あぁん?」

娘「……どくよ」

煙草「よぉーし、じゃあ俺達が魔法石を一通りかっさらうまでそこで指くわえて見てるこった……よぉーし、お前ら」

盗賊「「「うぃーっ」」」

青年「……いいのか?」コソコソ

娘「……いいの。別に私は魔法石が必要なわけでもないし」コソコソ

ドラゴン「……」ギリッ

ガサゴソガサゴソ

ポイッ

パクッ……

煙草「そうだ、そこの女。お前魔法使えるんだってな?このパイプに火をつけてくれねぇか?」

娘「……」ボウッ

煙草「おう、ありがとうよ……戻れ」

娘「……」

煙草「さぁてと、とりあえずおめぇらには感謝しねぇとなぁ?」

娘「感謝……?」

煙草「実は俺達はこの洞窟にはかなり前から目をつけてたんだ」

煙草「でも、ここにはそいつがいるだろ……?」

ドラゴン「……」

煙草「そいつを無力化する手段はいくつかあるが、どれもいまいち信頼性に欠ける……噂に聞いたが爺さんが使ったっていう毒も実際のところ、そのドラゴンの身体に抗体があればおじゃんだ……あの爺さんはラッキーだったな」

煙草「そこで、こいつだ」ツンツン

少女「……やめてよ」ホッペタムニムニ

煙草「パイプでやってやろうか?」

少女「…………」ムニムニ

煙草「ここ数ヶ月ここを交代で観察していたが、ドラゴンはどうやら人間とそれなりに親しい交流を持っているらしいことがわかったってわけよ」

煙草「ついでに聞けば、その人間どものおかげで町の信用も勝ち取ったとかなんとからしいじゃねぇか」

煙草「そんな親しい人間を人質に取る。……その人質を見捨てるような、せっかく勝ち取った信用を失うようなマネするわきゃねぇよなぁ?」

少女「……ごめん」ムニムニ

ドラゴン「……くそっ」

少女(私、いつまでむにむにされるんだろう……)

青年(少女のやつ人質なのに表情から危機感を感じないぞ……あいつ以外と大物かもしれない……)

手下「魔法石、ある程度回収いたしました!」

煙草「さぁて、ではドラゴンさんよ」

ドラゴン「なんだ」

煙草「あんたに教えてもらおうか。どれが不老長寿の魔法石だ?」

娘「もしかして、魔法石の区別もつかない状態でこんなこと……!」

煙草「ドラゴン以外は喋らなくていいんだよ……おい」

手下A「……」チャキッ

ドラゴン「……魔法石の中に白く輝くものはないか?中央にもやのような光が渦巻いているものだ」

煙草「よし、探せ」

盗賊「「「うぃーっ」」」

煙草「……本当なんだろうな?」

ドラゴン「あぁ、本当だ。なんなら娘の小屋にある文献を見てみるといい。同じ特徴が記されているはずだ」

煙草「ふん、ならばいい。本当なんだろう」

娘「ドラゴン……なんで本当のことを……」コソッ

ドラゴン「……」

娘「魔法石を使って……何をするつもりなんですか……」

煙草「あぁん?なんでもいいだろ、んなこたぁ。そこに力があれば欲しくなる。なにもおかしかねぇだろ」

ドラゴン「そんな目的のない力、もて余すだけだぞ」

煙草「魔王だとか、勇者だとか。そんな目的のある力の方がくだらねぇよ」

娘「……?」

煙草「やれ魔物が恐ろしいだの、やれ隣の国が領地を奪っただの、人間も、魔物も、生き物ってのは何やったって争いやがる」

ドラゴン「…………」

煙草「そんな世界、壊れちまえばいいだろ。元からどいつもこいつも心の奥底ではわかってんだよ。このままじゃ世界ってのは埒があかねぇってな」

煙草「例えば魔物が全部滅びたところで共通の敵をなくした人間ってのは人間同士で争うんだ。目先の己の損得だけを勘定してな」

娘「……」

煙草「争って、壊して、その修復の繰り返し。自分達でやっておきながら、時が経てば白々しくそれを思い起こして怖がったり、反省しやがるが、どうせまた幾度となく繰り返す」

青年「…………」

煙草「なぁ、教えてくれよ」

煙草「この世界が平和になるのは何千年先だ?」

手下B「こちら、不老長寿の魔法石とおぼしき意思でございます!」

煙草「……ってぇことでよ。不老長寿の魔法石だけじゃねぇ。ここにある魔法石、世界中の魔法石をこの手に納めりゃ誰も俺には敵わねぇ。長い長い年月をかけて進む、俺の最強への一歩目がこいつってわけよ」パシッ

手下C「お、おいっ、そいつぁ町長とかいうやつに届けるよう依頼が出てるんじゃ……」

煙草「うるせぇ」ドゴッ

手下C「うぐっ……!お前……っ!本気で……!」ガハッ

娘「町長……?」

煙草「あぁ、町長からこいつを奪ってくるように頼まれてんだ……まぁ前金はいただいたが果たす気はこれっぽっちもねぇけどな」

手下A「本気ですか!?」

煙草「あぁん?今さら何を言ってやがる?強欲だからこその盗賊だろうが!目の前に不老長寿が転がっていて手を出さないなんて……」

煙草「そいつぁ、己の欲に失礼極まりねぇだろ?」ニヤリ

カチャッ

青年「おい、あの腕輪……」

娘「おそらく何らかの魔装具……ってやつですね」

煙草「あぁ、そうさ。俺には魔法石なんて扱えねぇからな。そこでこいつの出番よ。全部やってくれるのさ」

娘「そんな知識で魔法石なんて使ったら……!」

ドラゴン「確実に暴走するだろうな」

煙草「知ったことじゃねぇ!」

煙草「さぁ、人間も、魔物も、腹を括るんだな」

煙草「何千年かけたかわからねぇ世界平和を目指したこのくっそくだらねぇゲームも……」

煙草「そろそろゲームオーバーってやつだァ!」

キィィィィイイイイイインッッッッッ

シュゥゥウウ……

煙草「グッ……ガッ……アァッ!」ビリバチッ……ジュゥウウウ……

娘「やっぱり……このままじゃ!」

手下D「うっ、こいつぁ危ないですぜ……」

手下C「……くそっ!撤収だ!」

バタッ

少女「やんっ」

青年「大丈夫か?」

少女「うん。疲れたけど……みんな私を見捨てないだろうなぁって思ってたから大丈夫だよ」

娘「すごい信頼だね……」

ガサガサッ
タッタッタッタッ

子ドラゴン「……キュー」スリスリ

少女「えへへっ、子ドラゴン心配してくれてたんだね~」

ドラゴン「子ドラゴン、草むらに隠れてたのか……」

煙草「ぐっ……グヌウアオオオ……」

娘「ところでどうするの、あれ」

ドラゴン「あのままでは魔力の暴走で死ぬはずだが……」

娘「それで魔法石についても素直に教えたんだね」

バチッバチバチッ……
シュゥゥウウ……

竜人「……あぁん?なんだこいつァ」

…………

少女「ごめん、ドラゴンさん、もう一回言ってもらっていい?」

ドラゴン「……魔装具ってのもナメてはいけないらしい」

娘「あの姿は……」

ドラゴン「人と魔物の中間、といったところか。強すぎる魔力の影響だろう」

娘「ドラゴンっぽいのは……」

ドラゴン「俺がここにいすぎた影響かもしれないな」

竜人「ははァん……こいつァ嬉しい予想外ってやつでいいのか?」

少女「見た目は強そうだよね」

ドラゴン「魔力量もあの魔法石の魔力がそのまま秘められているに近い。不老不死に近い魔物、と呼んだ方がいいかもしれないな」

娘「……」

娘「二人とも、ごめん!」

青年「は?」

少女「えっ」

グュゥゥゥ……シュンッ

ドラゴン「よし、逃がしたか」

娘「隣町まで転送しておいたよ」

竜人「ほう」シュゥゥウウ

娘「あっ!」バッ

竜人「なるほどな、空間を超えるための魔法石か」パシッ

ドラゴン「あやつ……魔法石を引き寄せることができるのか」

竜人「ククク……」バリバリ

娘「えっ……魔法石って食べられるの?」

ドラゴン「いや……無理だ」

娘「じゃああれは……」

竜人「さぁて、とりあえずお前は邪魔だから消えてもらおうか」

ドラゴン「どういうこ…

グュゥゥゥ……シュンッ

娘「ど、ドラゴン!?」

娘(食べた魔法石の力を吸収した……?)

竜人「あのドラゴンには邪魔されちゃ敵わねぇからな。ちょっと飛ばさせてもらったぜ」

娘(あの魔法石じゃドラゴンを飛ばすほどの力はないはずじゃ……!?)

娘「そんな力、あなた自身が持つはずがない……魔法石を腕からはずして!」

竜人「手放すわけないだろ?こんな力。まさに理想そのものだ。魔法石が俺の願いに呼応しているとしか思えねェ!」

娘「……っ」

竜人「さぁて、ここにさっき俺達が集めた魔法石がある」

竜人「どういうことか、わかるよなァ!?」グシュゥウウウウ……

バリッバリバリッ……バリッ……

娘「い、一気に魔法石を吸収して……!」

竜人「ぐふゥ……っと、こんなもんか」

竜人「さァ、まずはアレだよなぁ?」

竜人「さっきまでの仲間は……情けで後に回してやることにしてやるか」

竜人「だったら町長とやらの口封じってやつだな」ニタァ

娘「町には行かせない……っ!」ボゥフッ

竜人「おぉっと」グュゥゥゥ……シュンッ

娘「あぁ……転移魔法っ!」

とりあえず続けて書くにしても明日に回すにしても一回休憩。

なんかこう、劇場版的なストーリー目指してるので導入のお粗末さは……ね?
とりあえず魔法戦をしたかったのです。したいのです。

ということで、魔法戦の描写について迷ってるんですけど、テンポ的にどうかなって思ってるんですが

娘「町には行かせない……っ!」ボゥフッ

《娘の火炎魔法!》

竜人「おぉっと」グュゥゥゥ……シュンッ

《竜人の転移魔法!》

娘「あぁ……転移魔法っ!」

って書いた方がわかりやすいですかね?

娘「町には行かせない……火炎っ!」ボゥフッ

竜人「おぉっと……転移」グュゥゥゥ……シュンッ

だとスッキリするかも

>>474
それは……なんか、ないな!(魔法名詠唱ってなんか書いてて照れくさい)

まぁ煙草さんは中二病の塊なんで今更ですけどね

唐突に出てきたストーリー的になんの因縁もない悪役と敵対する劇場版あるあるまで再現するとは…

娘「町には…いかせない!」fire

竜人「おぉ怖い怖いっと」転移

とか

ふぅーむ。魔法描写に関しては色々と意見があるのですね……。


これ最後まで書かないと現状じゃ割と残念な話だなぁと思ってるんで最後まで書きたいんですけど、やっぱり明日の夜に引き継がせてください……。

眠気は全然だけどずっと書いてると体力が持たないです(当然)

ついでに魔法についても色々と意見を眺めて考えさせていただきます……。

盛り上がりとか小物感とかはどうにもならないかもしれませんが描きたいラストだけは描ききります。

明日にはきっちり終わらせるので、よろしくお願いします。

>>476
書き出しからラストまで組んでたら色々とやりようはあったのですが、最早既存キャラどいつ裏切らせても色々とぶち壊しだしどうしようもないのでその路線しかないのです……()

【第20話】

シュゥゥウウ……

娘「町に、向かわないと」

娘(空間跳躍の魔法石は食べられちゃったし……走っても飛んでも時間がかかりすぎる……)

娘(だったら、いっそ……)

ガシャンッ

ガタンッガタンッ

パラララララララ……

娘「魔法書の中から空間跳躍の魔法を見つけてしまう方が早い、よね……」

パラララララララ……シュイーンッ

娘「もう見つけたの?……えっと、そっちの本棚か。こっちに引き寄せて……っと」ヒュー

娘「使うために全部の魔法書の目次に目を通さなきゃいけないのはめんどくさかったけど魔法書検索魔法ってやっぱり便利だなぁ……」パラララ

娘「えーっと……机の上も整理しないと……」シュゥゥウウ

ザッザッ……

ゴトンッ

娘「いたっ!足に落ちないでよ!」

娘「……って、あっ、これ。こんなところにあったんだ」

娘(テレパシーの……魔法石……)

『それは魔力を注ぐと意思伝達ができるタイプの魔法石だ。俺と意思伝達ができる……テレパシー魔法ってとこだな』

娘「……これがあれば!」

『ジーッ……ザーザーッ……プツーッ』

娘「……何か雑音しか聞こえないけど」

『……ジーッ……ザァーッ……あ』

『あー、あー、ん?』

娘「あっ、ドラゴン?」

『その声は娘か?これは……あぁ、テレパシーの魔法石。懐かしいもんを持ってきたな』

娘「忘れていたおかげで無事だったわけだけどね。ドラゴン、いまどこ?」

『……どこだろうな』

娘「えぇ……」

『とりあえず、海が綺麗だぞ』

娘「なんでこんな緊急事態でたそがれてるの……」

『いやいや、海しかないんだよ。今は島に不時着しているんだが、目印になりそうなものはなくてな。どの方角に飛べばいいのか……というか方角すらわからない』

娘「えーっと、これ……この魔法石って直接ドラゴンの元へ魔力が飛んでる……ってことでいいんだよね?」

『さぁ……そうなんじゃないか?』

娘「だったら、魔力探知の魔法の応用でどうにかなるかも……ちょっとまってね」

ガタンッガタンッ

パラララララララ……

シュイーンッ

娘「あったあった、見たことある気がしてたんだよね」

『いよいよできないことがなさそうなレベルだな』

娘「私の実力というよりも魔法書のレパートリーが優秀なんだよ」

娘「……でも魔法書が本棚に入りきらなくて、床にも色々と積んでしまっているからそろそろ本棚の増築も考えないと」

『本棚だらけのその小屋で本棚を増築ってもう小屋の増築になるんじゃないか?』

…………

娘「……よし、空間跳躍の魔法も魔力接続の手繰り寄せの魔法も一通り目を通したよ」

『一通り目を通すだけで再現可能なのか?』

娘「私を甘く見ないでよ。これでも町では竜の魔法使いって呼ばれてるんだよ?」

『なんかちょっと恥ずかしくないか?』

娘「うるさいなぁ」キュインッ

キュゥウウウウウン……

娘「あちゃー、すっごい南だね」

『言われてみればすごい南国風の木が生えてるな。……バナナって取って食ってもいいのか?』

娘「すごい目印じゃない。それを言ってよ……」

『すまんすまん、でも南国風の木とかそこらへんに生えてるかもしれないし……』

娘「ないよ」

娘「……じゃあ、作戦を説明するね」

『作戦なんてあるのか?』

娘「ドラゴンをそこから一気に町へと転送するから」

『町?』

娘「あの人、町に町長の口封じをしに行ったの」

『それを先に言え、町長以外が殺される可能性もあるじゃねぇか。余裕がないならこんなにぺちゃくちゃ喋ってねぇのに』

娘「……」ジトーッ

『……?』

娘「とにかく!ドラゴンは町に飛んだらあの人を」

『……あの"人"、なぁ。』

『あっ、待て。遠くの俺を遠くの町に転送なんて可能なのか?』

娘「ドラゴンの位置座標は遠いとは言え一応、正確にわかっているわけだし、町はさほど遠い訳じゃないから……たぶん大丈夫」

『……たぶん、ねぇ』

娘「私はドラゴンを信じるから、ドラゴンは私を信じてよ」

『いまさらだな』

娘「……ふふっ」

娘「じゃあ、いくよ?」

『おう』

娘「……作戦、開始!」

グュゥゥゥ……

[町]

ドゴーンドガーンバッコーン

キャーキャー

竜人「ヒャッハァ!いいねぇ!いいねぇ!こーゆーの、こーゆーのだよ!俺が求めてた破壊ってのはぁよぉ!」

町民E「きゃー!ド、ドラゴンに魅せられた呪い人よ!」

町民F「ひ、ひぃ!お許しを!」

兵士「早く!早くお逃げください!」

町民F「う、うひゃぁ……!」

ドンッ

町民F「ひぃっ!?」

竜人「おぉっと、じいさんすまんな。通っていいぜ。そこの兵は俺様に楯突く勇気がねェならさっさと尻尾巻いて逃げやがれ……町長の居場所を吐いてからな?」

兵士「わ、わたくしは……っ!」ジリジリ

町民F「あ、ありがたや!ありがたや!」タッタッタッタッ

竜人「……じゃねぇと、こうなるぜ?」ボゥフッ

町長F「ひ、ひぃぃぃいいい~!」

ドシュウウウウ……

竜人「あぁん?」

グュゥゥゥ……シュンッ

ドラゴン「一般人を後ろから撃つとは、随分な悪役ぶりだな」

町民E「こ、これはいったい……」

兵士「ど、ドラゴン殿……!」

町民F「奇跡じゃ……!」

竜人「どうしてお前がここにいる?どうしてお前がそんなことを言える?なぁ、お前も悪役だろ?町中に恐れられてるドラゴン様よぉ!」

ドラゴン「今までちょっとばかし相棒に頼りすぎてきたんでな。俺が直々に汚名を晴らしに来たんだよ」

竜人「あーはん?あぁ、そう。へぇー……ハハハハッ!こいつぁ傑作だな!」

竜人「もう一度どっかに飛ばしてやってもいいが、どうせいたちごっこなんだろ?」

ドラゴン「あぁ、そうだな。何度でも戻ってきてやる」

竜人「はァ……じゃあ希望通り魔法をぶち当てあうといくかぁ……?あぁん?何、まぁそれはそれでいい。そこらの瓦礫相手じゃつまんねぇ魔法ばかりでよ」ゴキッゴキッ

ドラゴン「町中でそんな危険な魔法を使ってもらいたくねぇんだがな」

竜人「ファハハハハッ!じゃあ町を守ってみせろよ!英雄さんよォ!」ドゴーンッ!

ドゴーンッ!ドゴーンッ!ドゴーンッ!

ドラゴン「おいおい、レンガを延長させる魔法石なんてあったか?日曜大工に役立ちそうだな」ヒョイッヒョイッガシャーンヒョイッヒョイッ

竜人「日曜大工、いいねぇ。じゃあ俺様は竜の剥製でも作らせていただくとするぜ!」キュイィィイインッ……キュイィィイインッ……

ドラゴン「おいおいおいおい、待て待て。そのエネルギー弾はやめろ。町がやばい。あと日曜大工ってのはな、実用品をだな」

竜人「うるせぇ!」ドゴォンッ

ドラゴン「くそ!人の話を聞けよ!」ブゥンッ

……ヒュウウウウ……パァンッ!

竜人「お前は人じゃねェだろうが!」ドゴォンッ

ドラゴン「花火には季節も時間もまだ早い……っだろうが!」バァンッ

……ヒュウウウウ……パァンッ!

ドラゴン「ぐっ……」ジュゥウウウ

竜人「ククク……おっと、なるほどなぁ。ドラゴン様も町に被害が出そうな魔法は自ら当たってくださるってわけだァ」

ドラゴン「姑息だな!さっきから小物感溢れてんだよ!」ボゥフッ

竜人「あちちっ!あちちっ!……なんてな?」……シュゥゥウウ

ドラゴン「くそっ!不老長寿と自己修復の魔法石の回復力が合わさってやがるのかよ……!」

…………

ドラゴン「……こりゃいつまでも終わらねぇな」シュゥゥウウ

竜人「流石ドラゴン様ってとこだ。もう八割方の魔法は使ったってのに見事に町を守ってくれてやがる……ほとんど傷もつかず、な」

ドラゴン「魔物ってのも自己修復くらいわけねぇんだよ」

竜人「いいねぇ、いいねぇ!そういうの!燃えるぜ!……しかしこのままじゃ俺様もドラゴン様一匹風情に足止めを喰らってばかりでつまんねェ」

ドラゴン「所詮その程度なんだよ、諦めて石を全部吐き出しやがれ」

竜人「クククっ……だったらやることはひとつ、だよなァ?」

グュゥゥゥ……シュンッ

ドラゴン「あ、あいつ……まさか洞窟内で残りの魔法石まで……」

町民G「え、英雄じゃ!」

町民H「ドラゴン様が町を救ってくださったぞぉー!」

町民I「ドラゴン様は!ドラゴン様は我々の味方じゃった!」

町民達「「「う、うぉー!」」」

ドラゴン「……え?」

[洞窟前]

グュゥゥゥ……シュンッ

娘「ご機嫌は、いかがかな」

竜人「あぁん?お前は城にいるはずじゃ……」

娘「……やっぱり。魔法テレパシーの盗聴くらいはできると思ったよ」

竜人「……チッ。くだんない会話聞かせやがって……まぁお前のような小娘ごとき!」シュワンッ

娘「……」キュインッ

……ビュンッ

竜人「んな!?」カワシッ

竜人「魔法を跳ね返しやがった!?」

娘「そのまんま、反射魔法だよ。そんな程度の風の魔法くらいなら簡単に跳ね返せるの」

娘「今のあなたじゃドラゴンにも、私にも、勝てない……だから、石を手放して?」

竜人「……チッ。だったらこれはどうだ!」キュゥウウウウウ……ジュゥンッ

娘「……っ!」キュウゥゥ……

パリンッ

娘「えっ」ザッ

ズザァンッ!

竜人「おっと?反射魔法ってのもこいつは反射できなかったみたいだなァ?」

娘「光魔法のエネルギー弾……。一度見たら次は跳ね返せるんだよ。そのうちあなたの魔法の全部が私には通用しなくなる。その前に石を手放す気は、ある?」

竜人「んなもんあるわけねェだろうが!」ボゥフッ

娘「炎……」キィンッ

竜人「チッ、こいつはダメか。仕方ねぇ。そこをどかねぇならドラゴン同様、手当たり次第俺様の魔法を受けてもらおうか!」

娘「……ちょっと黙ってもらうね」ビリビリバチッ

竜人「あっめぇんだよ!」ジュゥウウウ……シュンッ

ビリビリバチッ

娘「魔法を空間跳躍させっ!?」ビリビリッ

娘「うぅっ」

竜人「はっはぁ!流石に対応できなかったようだなァ?」

娘「……あなたを止める方法はみっつあるの」

竜人「あぁん?」

娘「ひとつは、殺すこと」

竜人「そいつぁ、無理だな。俺様は不老不死ってやつでな!」シュルシュル……

娘「そうだね。殺すのは難しいよ」バサッバサッ

竜人「だったら、どうするってんだ!」カチコチ……カチコチ……ピュンピュンッ

娘「ひとつは、魔力を使いきらせること」ボゥフッ……ジュウッ

竜人「この有り余る魔力を全部使いきるまで付き合ってくれるってのかよ!ギャハハ!いいねぇ!宴を続けようじゃねぇか!」ビリビリバチッ

娘「そう、いくらなんでもそれもきりがない」ビリビリバチッバチッ

竜人「おう、じゃあ教えてくれよ、お嬢様」キュインキュインキュインキュイン……

竜人「みっつめの空論をよォ!」ジュゥウウウ……シュンッ

娘「……っ!」ジュゥウウウ……シュンッ

竜人「んなっ!消え……」

ジュゥウウウ……シュンッ

竜人「しまっ……うし……ろ……」

娘「……っ!」バッ

ダキッ

……バサッ

竜人「後ろから抱きついて押し倒すなんて……情に訴えかけようってのかい?」

娘「……できるなら、そうしたい。石を手放してほしい」

竜人「そいつぁ、無理だな」

娘「確かに、世界はばかばかしいかもしれないけど……でも、そんなばかばかしい争いも何もない世界じゃばかばかしい以下の、何もない世界になってしまうよ?」

娘「私、そんなの、寂しいな」

竜人「だからって、こんな世界が理想郷なわけねぇだろ!」

娘「……そっか。やっぱり、石を手放してくれないんだね」

竜人「ク、ククク……!邪魔だぁ……っ!」ブンッ

娘「……っ」シュルシュル……

パシッ

シュルシュル……

ギュッ……ギュッ……

竜人「おい、なんだこれ、腕を…掴みやがっ……動け……ねェ!」グッグッ

娘「草の魔法の応用で蔦を操るもの、それに、硬化の魔法だよ。草の魔法ならあなたもさっき使ってたでしょ?」

竜人「くそっ!くそっ!」グッグッ

竜人「……俺様をここに拘束し続けるってのか?」

娘「ううん、それも危なすぎる……だから、みっつめの解決法」

娘「私が初めに読んだ魔法書にね、書いてあったの」

竜人「あぁん?」

娘「魔力は最初、この大地に溢れていた生命のエネルギーだったんだってりだから、魔法石みたいなものや、魔法性の毒の素材になる魔草が自然発生するの」

竜人「ご託はいい!どうするつもりだ!」

娘「……だからね、みっつめ。魔力を、持ち主に返すの」

竜人「持ち主に……って……こたぁ……」

娘「私の魔力制御の力はあなたの力を圧倒してる……はず」

娘「だから、私があなたの魔力を全部、制御して、ここに注ぎ込む」トンットンッ

竜人「……!?」

娘「準備は、いい?」

竜人「はなっ!話せっ!俺には力が!折角の、この力がっ!」

娘「……だめでもやるけどね」

ギュゥウウウウウウンッ

竜人「ぐっ!ぐぁぁぁあっ!」キュゥゥウウウウ

竜人「こんなっ!こんなっ!」キュゥゥウウウウ

娘「くっ……悔しいなら、自分で自分の魔力を制御してみなよ……っ!」ブゥオーン

竜人「ぐっ、がっ、あぁぁ……っ!」

ポワァァアアアア……

娘「……っ!」ブゥオーン

娘(はな……ばたけ……)

竜人「ぐっ!ぐぁぁぁっ!」キュゥゥウウウウ

[町]

ドラゴン「……!?異常な魔力量だぞ……」

町民「「ドラゴン様、ばんざーい!ドラゴン様、ばんざーい、ドラゴン様、……」」

ポワァァアアアア

町民J「き、奇跡じゃあ!大地もドラゴン様を讃えておる!」

町民K「町に、町中に花が生えたぞ!こんなことって!」

町民L「あぁっ!我々の間の深き溝が埋まったこの歴史的瞬間を、大地も祝福しているのだわ!」

町民「「ドラゴン様、ばんざーい!ドラゴン様、ばんざーい!」」」

ドラゴン(……すげぇ手のひら返しだな)

[隣町]

少女「ってことでだよ!なんか、こう!すぐあっちに行ける薬をちょーだい!」

子ドラゴン「キュー!キュー!」

女「そんなものがあるわけないでしょう……」

青年「なんか、ごめんな。でもこいつもこいつなりに心配してるんだよ」

女「……わかってるわよ」

ポワァァアアアア

女「……えっ?花?」

少女「えっ!わ!見てみて!お庭!お庭が花畑!すごい!すごいすごい!とってもきれい!」

子ドラゴン「キュー……!」キラキラ

青年「……花壇とそれ以外の見分けがつかなくなってるぞ」

女「あら、薬草飼育の方は大丈夫かしら……世話係さんが困っちゃうわね」

少女「二人とも、夢がないなー!」

子ドラゴン「キューキュー!」

[なんかどっか遠いとこ]

ポワァァアアアア

カラカラ……

男「おや。気がつくと一面花畑じゃないか。これは……勇者の剣の仕業……じゃないな。へぇ。すごいことをする人もいるもんだなぁ」

男(……まぁ、どこの誰の仕業かなんて知りはしないけどね)

姫「怪盗さん、これも魔法かしら?」

男「あー、うん。そうだね。魔法だよ」

姫「へぇ……世界中が花に満たされるなんて、素敵な魔法もあるのね」

男「魔装具の類いに頼らないものだとここまでの魔法はボクも初めて見るよ」

姫「ふふっ……やっぱり世界には知らないことばかりだわ!」キランッ

男(ティアラだけ盗むつもりだったのになぁ)

[洞窟前]

ギュゥウウウウウウンッ

シュゥゥウウ……

娘「……っ……ふぅっ……はぁ……とりあえず……これで……」

シュワーン

パラララララララ……

竜人「畜生、畜生、畜生!」

パラララララララ……

《『あれが盗賊の子と一緒にいた子よ、汚ならしい!』

『違うんです、ぼくは……ぼくは何も!あいつも、盗みをしたくてしてるわけじゃ!』

『えぇい!言い訳がましい!』》

娘「これは……」

竜人「畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生!」

パラララララララ……

《『あやつ、魔物を従えておったぞ!』

『魔物も悪いやつばかりじゃないんです!……こいつは、妖精で!魔法も使えるんです!』

『妖精も魔物もなんら変わらん!得体の知れぬ生物とは関わるな!』》

娘「もしかして……記憶が宙に舞って……」

竜人「くそが、くそがくそが、くそが!くそがぁ!」

《『あなたが勇者様ですか!』

『いかにも、そうだが?』

『あなたに駆逐してほしい生物がいまして』

『やめて!……やめてくれよぉ!あいつらはっ!』

『……その子は、既に呪われているのです』》

娘「……似た者同士なんじゃない」ボソッ

パラララララララ……

《『あの……私、生け贄です……』

『今年もかよ』

『えっ』》

娘「わっ、私の記憶まで……なんか初々しい……」

竜人「くそが!くそがぁっ!」ブチブチッ

娘「……うそっ」

パラララララララ……

《『……ところで釣り道具などはないのですがどうやって獲りましょう』

『まぁ、見てな』

『…………キューッ!』バシャーン

『いやいやいやいや……そんな思いっきり川の中の魚掴むとか無理です無理です。なんですかそれ。熊ですか?』

『ドラゴンだよ』

『わかってます!』》

竜人「ククク……さぁて、第二ラウンドと行こうぜ……どんな思想も関係ねぇ。そんなもん!踏みにじられるのが!この世界なんだからよォ!」

娘「あなたの中に残っているのはもう、魔法石の残りかす……脱け殻のようなもののはず……」

竜人「だからどうしたってんだァ!」キュインキュインキュインキュイン……

ドゴォンッ

娘「っ!」キュインッ

《『勇者どの!いかがであっただろうか!』

『……全部!駆逐してきましたとも!』

『そんな……!この、化け物!』

『勇者様に化け物なんて……なんて恥知らずなのかしら!』バシンッ

『ぼくは……恥は知らずとも、真実は知ってる!何も知らないのはお前たちだ!』

『この子ったら!まだ呪われているのかしら!本当に救いのない!』

『救えないのはどっちだろうね!』》

バチュンッ

竜人「跳ね返し……っくそがっ!くそがくそがぁっ!」バシュンッバシュンッバシュンッ

娘「……」ギュゥウウウウウウ……

《『ドラゴンさんは友達とかいるんですか?』

『……こいつとか?』

『キューキュー!』

『……私がいますよ』

『……あぁ、そうだな。じゃあとりあえずそう気を張るな』

『気を……?』

『敬語とか使わなくていいし、俺を呼ぶときはドラゴンさんじゃなくドラゴンでいい。ありのままで接してくれればいいんだよ』》

竜人「今度は吸収かァ!いいぜ!上等だなァ!」バシュンッバシュンッドガァンッ

…………

《『……内緒だよ?』

『……ルーシィ!でも、どうして?』

『ははっ、そのエルフ、ルーシィって言うんだ。エルフは駆除したふりをして逃がしたんだけど……その子は君の元にいたいっていうからさ』

『勇者様……ありがとう!ひどいことを言ってしまって……ごめんなさい』

『ははっ、慣れっこだよ』》

竜人「だったら、こいつはどうだ!」ズズズ……ズボォッ!……ブォン!

娘「ま、魔法じゃなくて樹を……投げっ……!」

《『ドラゴンさんじゃなくてドラゴンだ』

『あっ止まるんだ』

『魔法とはいえ、口からお湯を出しているわけだからな。出しながらは喋れないんだよ』

『それなんだけど……』

『どうした?』

『なんか……絵面的に……浴びててすごく微妙な気分になる……』

『……そうか』》

竜人「まだだァ!」ズゥンッ……ズゥンッ……ズゥンッズゥンッズゥンッズゥンッ……!

娘「分身魔法まで……使えるんですね……っ」

竜人「さぁ、お前に襲いかかる100本の樹の99本は幻影だ。上手く避けられるもんなら……避けてみろやッ!」

《『この子ったら……やっぱり……妖精を!』

『違う!違うんだ!その子を話してあげてよ!』

『勇者様まで誑かしやがって!』

『もう、勇者様も信じられないと言うの!?』

『こいつのせいでっ!こいつのせいでっ!俺達はこれからどうすりゃいいってんだ!』グシャア

『あぁっ!あぁぁぁああああっ!る、るぅぅうしぃぃっ!』》

娘「……だったらっ」ピュオオオオッ

竜人「ククク……浅はかなんだよ!そんな竜巻魔法程度でぶっ飛ぶわけねぇだろ!」

娘「……っ!確かに飛んでくれはしないね」チラッチラッ

竜人「無駄なんだよぉ!さっさと……消えろッ!」

ヒュウウウウッッッ

ヒュウウウウッッッッ

ヒュウウウウッッッッッ

ヒュウウウウッッッッッッ

ドゴォォォオオオオンッ

《『でも、このままじゃ頼りっぱなしでしょ?』

『つまりどういうことだ?』

『魔法を教えてください』

『結局頼るんじゃねぇか』》

…………

バキッ……バキバキッ……

娘「無駄じゃ、ないんだよ」

竜人「くそっ!……何故だ!何故本物の樹にピンポイントで防御魔法を!」

娘「さっきのはね、竜巻魔法で揺れる樹を確かめるものだったの」

娘「……魔法でできた幻影は、揺れないでしょ?」

竜人「くそっ!くそっ!くそがぁっ!」ドゴォンッガビュンッバシャンッ

娘「……」パキュンッパキュンッパキュンッ

《『この世を壊さほどじゃなきゃ、争いそのものを壊すような力を持たなきゃ、きっと世界に平和なんて訪れない』

『ぼくが、そうなるんだ。勇者よりも、魔王よりも、ずっと、強い存在に』

『部屋も世界も一緒だったんだ。綺麗にするためには掃除係が必要だろ?』

『そうしたら、ルーシィ。君のような犠牲を生まない、勘違いのない、綺麗な世界が、きっと……』》

竜人「どうしてだァ!どうして勝てないィ!?魔力差は圧倒的なはず!」パラララララララ……ドガガガガガガ


《『ガウ……ガウッ……』

『あれ……?近づいてこない……?』

『……無理、無理だよ』

ボワーッ

『きゃっ……魔法!?』

『ガウッ!?……ガウガウッ』》

娘「それはね……簡単なことだよ」ピキュンッピキュンッピキュンッ……パギュュュュゥンッ

竜人「魔法制御か!?魔法の知識か!?」ドギュンッ……バギュンッ

竜人「どうして……こうも!」ギュゥウウウウウウンッギュゥウウウウウウンッギュゥウウウウウウンッ

《『悪いな、こっから先は俺のテリトリーなんだよ』》

娘「ごめんね、こっから先は私の……私達の、テリトリーなんだ」ビリビリバチッ

ドゴォォォオオオオンッ

竜人「うっ……ぐっ……がぁっ……」シュゥゥウウ……

煙草「……そいつぁ……勝てねぇ、わな……」バタッ

娘「魔法石の影響が……消えた?」

娘「やっと……終わった……」

《『なんというか、"またね"でもやっぱりちょっと寂しいね』

『キュー……』

『しかし、"またね"、だ。同じような楽しい時間はまたきっと来るのさ』

『……そうだね。うん』》

娘「……ふふっ……私、がんばっ……た……なぁ」バタッ

【最終話】

…………

………………

……………………

娘「えっ……とっ……」

ドラゴン「む、起きたか」

娘「……ドラゴン?他の皆は?」

ドラゴン「あぁ、少女と青年と子ドラゴンは小屋の方だ」

娘「ここは……」

ドラゴン「花畑だ。……といっても今ではどこも花畑か」

《『『『ドラゴン様、ばんざーい!ドラゴン様、ばんざーい!』』』》

娘「これ、記憶を写し出すものだと思ってたけど……夢を写し出すものだったのかな」

ドラゴン「いやいや、これはさっきまでの町の光景だよ。これはここにいる者の心の奥底に仕舞い込みたい記憶を引きずり出すらしい」

娘「嘘でしょ……?ドラゴンがこんなに崇拝されるなんて……」

ドラゴン「本当なんだよな、これが」

娘「ドラゴンクッキーがバカ売れだね、これは」

ドラゴン「そういえば、兵長があやつを連れていったぞ」

娘「お礼を言わなきゃね」

《『ドラゴンさんドラゴンさん!なんかすごいことできたりするの!?』

『火を吹けるぞ』ボォー

『!!すごい!!!!わたしもできるかな!?』

『練習すればできるんじゃないか?娘はもう火を吹けるだろうしな』

『え!?ほんと!?』

『吹けません』》

ドラゴン「……しかし、魔法石の魔力が混ざりあうことにより、ここまでの現象を起こすとはな」

娘「……私もびっくり。魔法石にこんな力もあったなんて」

ドラゴン「魔力というものは大地の"生命力"であり、大地が刻み続ける"記憶"の結晶だ。……だから、この光景はそれらをよく体現しているのだろう」

《『う、うわぁぁぁあ!!ドラゴンだ!!!!ドラゴンが来たぞ!!!!』

『逃がさん』ボゥフッ

『ぐっぐぁっ!ぐぁぁぁあっ!』

キャーキャー》

娘「これは……」

ドラゴン「……心の奥底にしまう記憶は宝物だけではない、ということだな」

《『ドラゴン!人間の敵め!』

『あなた!やめて!歯向かうだけ無謀よ!』

『ふむ……その勇気を讃え、一瞬で消し炭にしてやろう』ボォォォオオウ》

ドラゴン「確かに、俺は人間を虐殺していたことが、ある」

娘「……そっかぁ」

ドラゴン「まだ、人間のことをよく知らなかった……そう、あの町の人間が俺に抱いていたような勘違いを、抱いていた時期が、俺にもあったんだ」

《『ドラゴン様、ばんざーい!』

『魔物の誰よりも人間を狩っているとの噂だぞ』

『あの恐ろしい人間をか!?』

『魔物界のメシアだ!讃えよ!大いに讃えよ!』》

娘「……そっか」

ドラゴン「軽蔑、するか?」

娘「正直、ちょっとだけ」

ドラゴン「……そうか」

《『……あなたには、ここでいくつもの魔法石を守ってほしいの』

『この、俺に?……ここの近くには人間も多い……俺なんかが』

『きっと、ここにある魔法石は……ここで生まれ行く魔法石は、いくつもの人々を救うわ』

『だったらお前が魔法石を守ってやれば……』

『ううん。だめなの。わたしじゃ、弱すぎるの。……その魔法石は、多くの人を救えると同時に、多くの人の目をくらませて、足をも掬うわ』

『長い、長い年月をかけて。きっと、多くの者がそれらを求め、狙いに来ることでしょう』

『悪意のないものも……あるものも』

『わたしはね。あなたに、ドラゴンにそれを守ってもらいたいのよ』

『わたしの、大好きなドラゴンさんにね』

『わたしのために、この、魔法石の洞窟の守り人……いいえ、守り竜になってはくれないかしら?』》

娘「これは?」

ドラゴン「……女の子だ。俺に人間について、色々と教えてくれた。彼女がいたから、今の俺があるし、今俺はここにいる」

娘「……うそつき」

ドラゴン「なにがだ?」

《『なんでそんな……洞窟に?』

『まぁ……涼しいじゃん?』

『え、えー』

『雨をしのげるというのも素晴らしい点だ』

『ドラゴンって雨とか暑さとか気にするんだ……』

『ドラゴンだって生きてるんだぞ』》

ドラゴン「おぉ、なんか初々しいな」

娘「そこじゃないよ、うそつきドラゴンさん」

ドラゴン「許せよ、照れくさかったんだよ」

ドラゴン「……ありがとう」

娘「突然どうしたの?」

ドラゴン「正直、最初は俺が娘を助けているつもりだった」

ドラゴン「でも、少しずつ見えているものが移ろいで、少しずつ見えないものが見えてきて……」

ドラゴン「いつからか俺が娘に助けられてたんだ……いや、救われたといってもいい」

ドラゴン「だから……ありがとう」

娘「やだなぁ、なんだかみずくさいよ」

ドラゴン「そうか?」

娘「私はね。ずっと、絵本に憧れてたの」

娘「絵本の中の魔法使いや、勇者さんみたいに誰かを救ってみたかった、それだけだよ」

娘「……だからね」

娘「わたしこそ、そんな夢を叶えさせてくれて、ありがとう」

ドラゴン「……なんか照れくさいな!ほら!さっさと小屋に入るぞ!」

娘「あっ、今日はドラゴンも小屋に入るの?」

ドラゴン「たまには縮小化の魔法を使わないと腕がなまるんだよ!」シューン

娘「ふふっ、そっか」

スタスタ……

ドラゴン「……?娘、どうかしたのか?」

娘「……ううん。なんでもない」

娘(つまらない屋敷の中の生活から、私を救ってくれたのは……)

娘(きっと、ドラゴンなんだよ。……なんてね)

『……そうして、時は経ち、世界中の花畑が枯れようとも彼女らの過ごす洞窟の周りの花畑はいつまでも、いつまでも枯れず、誰かの胸の奥の奥、大切な思い出を写し続けました』

『いつしか、その花畑は"記憶の花畑"と呼ばれ、娘と二匹のドラゴンは"花畑の守り人"としてそこで暮らし続けましたとさ。』

『めでたし、めでたし』



『え?前の話の続き?いやぁ、まだ見つかってないんだよね』

『でもまぁ、この話も前の話の数年前の話だから許しておくれよ』

『えーっと、何年前だったかな……いやね、ボクは時間には捕らわれない主義でね』

『そうそう、実はこの紅茶はこのお話に出てくる茶葉と同じでね。苺の香りがなんとも……』

『えぇ?腑に落ちない?仕方ないなぁ……』

『じゃあ次には……そうだな。せっかくなんだから、お茶菓子がいいね』

『今度は、ケーキでも用意して待ってることにするよ』

『じゃあ、最後に』

『ボクも彼女らの真似をしてみることにしよう』

『それじゃあ、"またね"』

めでたし、めでたし。

ということで、以降、あとがきとちょっとした自己紹介です。

ここまで長い長い物語にお付き合いいただき、ありがとうございました。
コメントもいっぱいいただきまして、感無量です。
おかげさまで完結いたしました。

とりあえず、書きたいものは書ききりました。
拙作ではありますが、多くの方に楽しんでいただけたなら幸いです。


さて、自己紹介です。過去スレに関しては後述のURL記載のツイフィールに今までに書いた作品を全てまとめておりますので、よければご参照ください。

ファンタジーものといいますか、世界観共通の作品としては
"少女「おにぎり食べる?」勇者の剣「食えん」"
という作品を過去に書いております。
この作品から興味を持っていただけましたら深夜VIPからでも、まとめからでも、カクヨムからでも、お読みいただけると嬉しいです。

重ね重ねになりますが、最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました。

ツイフィール
http://twpf.jp/429_snowdrop

以上。

ゆきの(Twitter:@429_snowdrop)からのお届けでした。

誤字脱字に関しては言っていただけると……正しい表記を言いますので気がつきましたらまだまだご指摘ください……。

まとめさんとか最高にまとめにくいですよねごめんなさい。
中身は細部は好きなように補完していただいて結構なので、よければ少し丹念に推敲していただけると嬉しいです……。すみません……。

魔法石はね……ここ以外にもいっぱい採れるとこあるからね……。

子ドラゴンはね……勇者の剣のSSの数年前の話で……勇者の剣のSSは……続編書こうと思ってるから……そういうことだよ……。

あと地の文なしの魔法戦、書いてみるとわかりますけど特に説明も何もなしにとりあえず効果音入れときゃ盛り上がるよなって感じで効果音入れまくってるとなんか書いてる側もテンション上がるのでオススメですよ(小声)

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