【 自宅 】
娘「お父さん、お母さん」
娘「学校行ってくるね~!」
夫「あぁ、行ってらっしゃい」
妻「ウフフッ、車に気をつけなさいね」
娘「はぁ~い!」タタタッ…
夫「さて……」
妻「事務所に出かけるわよ、アナタ」
夫「ああ!」
夫(一見、平凡で幸せな家庭に見える俺たち家族だが、実は大きな秘密がある)
夫(俺たち夫婦の仕事は、復讐代行屋!)
夫(仕事の内容はその名の通り──)
夫(恨みを持つ依頼人の復讐を、依頼人に代わって遂行すること!)
夫(いわば、現代の必殺仕事人ってところかな?)
夫(もちろん、このことは可愛い娘は知らない。夫婦だけのヒ、ミ、ツさ)
夫(さぁて、今日の依頼人は、と──)
【 事務所 】
依頼人「お、お願いします……」
依頼人「昔、いじめられてた恨み……晴らして下さい!」
依頼人「アイツにいじめられたせいで……ボクは引きこもりに……!」
夫「分かりました」
夫「あなたの受けた痛み苦しみ悔しさ……必ずや俺たちの手で晴らしてみせましょう」
妻「ウフフッ、それがアタシたちの仕事ですもの」
依頼人「ありがとうございます……!」
【 標的の家 】
夫「──仕掛け終わったか?」
妻「オッケーよ」
妻「アナタこそ、大丈夫? ちゃんと一匹残らず放した?」
夫「ああ……バッチリさ」
夫「さ、そろそろ標的が戻ってくる頃だ……出よう!」
妻「ええ」
【 標的の家 】
標的「な、なんだこれは!?」
ブゥゥゥ~~~~~ン……
標的「あちこちに……蚊だの……ハエだの……」
ガサガサガサガサガサガサガサ……
標的「ゴキブリだの……アリだの……ムカデだの……」
標的「虫だらけだ!」
標的「うわぁ~~~~~~~~~~!!!」
【 勤め先 】
標的(どうにか虫は片付いたが……)ゲッソリ…
同僚「オ、オイ……」
標的「なに?」
同僚「会社のあちこちに……お前の写真が……」
標的「な、なんだこれは!?」
標的(俺の私生活の写真が、あちこちに貼られてる!?)
標的「うわぁっ! やめろ、やめろぉっ!」ベリベリッ
標的「みんな見ないでくれぇ~!」ビリッ
標的「ひぃ~~~~~! 何枚貼ってあるんだぁ!?」バリバリッ
標的(なんだこりゃ……)
標的(動画サイトに、俺の排便の様子やら自慰の様子やらが……)
標的(実名付きでアップされてやがる!)
標的(しかも俺が自分で好き好んでアップしたみたいな説明文つきで!)
標的(どうなってんだ、これ!?)カチカチッ
標的(どうなってんだ、これぇぇぇ!)カチカチッ
標的(どうやったら消せるんだ、これ!?)カチカチッ
標的(どんどんアクセス数が上がってく……!)カチカチッ
標的「あああああ~~~~~~~~~~っ!!!」
【 標的の家 】
標的(なんでこうなったんだ……)ブツブツ…
標的(どうしてこうなったんだ……)ブツブツ…
標的(もうイヤだ……もうイヤだ……)ブツブツ…
標的(結局、警察に頼んでも犯人は分からずじまいだし……)ブツブツ…
標的(仮に犯人が分かったところでもう手遅れだ……)ブツブツ…
標的(個人情報や私生活のほとんどを会社やネットに晒されて……)ブツブツ…
標的(もう表を歩けない……)ブツブツ…
標的(もう絶対外には出ない……)ブツブツ…
【 事務所 】
妻「アナタ、標的はノイローゼになって引きこもりになったみたいよ」
妻「大成功ね」
夫「ああ」
夫「しかも、あの家には強力なシロアリの卵を大量に仕込んでおいたから」
夫「近いうちに家もボロボロになるだろう」
夫「復讐完了、だな」ニコッ
妻「ウフフッ……やっぱりアナタをこの仕事に誘って、プロポーズしてよかったわ」
妻「アナタはこういう裏の仕事が似合う人間だもの」
夫「それって褒められてるのか貶されてるのか、分からないぞ」
夫(──とまぁ、こんな感じで復讐を果たしてやるわけだ)
夫(罪人には罰が下るし、依頼人はスッキリするし)
夫(俺たちは儲かる)
夫(最高の商売ってわけだ)
夫(俺をこの商売に引き入れてくれた妻には、本当に感謝してるよ)
夫(だいたいの依頼は、今回みたいに俺たちが復讐方法を考えて実行するんだが──)
夫(時には依頼人の方からどういう復讐をして欲しいか注文が入ることもある)
【 事務所 】
女「あ、あの人……」
女「私のお母さんを突き飛ばして、そのまま逃げて……」
女「お母さんはひどい転び方をして、足をおかしくしてしちゃったの」
女「でも、その時すぐ訴えなかったのが災いして、罪にも問えず……」
女「お願い!」
女「あの人を二度とまともに歩けない体にして!」
夫「分かりました」
【 夜道 】
男(ふう、今日は遅くなっちゃったな)
男(早く家に帰ろうっと──)
ブロロロロ……
男(──ん? 自動車?)
ブオオオオオ……!
男「!?」
男「うっ、うわ、こっちに突っ込んで──」
ドゴォンッ!!!
男「…………」ピクピク…
妻「ウフフッ……」
妻「腰骨が砕けて、背骨も傷ついてるわね、これは」
妻「ケガが回復しても、もうまともに歩けないでしょうね」
妻「アナタ、ナイスだったわ」
夫「我ながら、ナイスなハンドル捌きだったよ」
夫(あとはこの車を業者に処理させたら……復讐完了、だ)
【 事務所 】
女「ありがとうございます、ありがとうございます!」
女「これであの人は一生車椅子だわ!」
女(体が不自由になった彼に優しくすれば、よりを戻せるかも……フフフ)
女「これ、成功報酬よ。受け取ってちょうだい」スッ
夫「どうも」スッ…
夫「……多分、お母さん云々のハナシは嘘だろうな」
妻「ええ、きっとあの男性にフラれたのね」
夫「ま、復讐ってのはそんなもんだ……いつもキレイなわけじゃない」
夫(──とまぁ、依頼人が注文をつけてくることも多い)
夫(人間、色んな過去を持ってるってこった)
夫(こんな仕事をしてる人間にはつきものだが──)
夫(俺にも人にいえない過去ってもんがある)
夫(あいにく、そんなかっこいいもんじゃないがね)
夫(もちろん、妻である彼女にもあるんだろうなぁ……)
夫(ただし、俺は彼女の過去を知らないし、俺も彼女に過去を話したことはない)
夫(彼女は自分のパソコンすら俺に見せてくれないんだ)
夫(仲間の過去には干渉しない……これが裏社会のルールってもんだからね)
【 自宅 】
夫「お誕生日、おめでとう!」
妻「おめでとう!」
娘「ありがと~!」
夫「ほぉ~ら、プレゼントだ!」
娘「なにかな、なにかな……」ゴソゴソ…
娘「わぁっ! ぬいぐるみだぁ! これ欲しかったんだぁ~!」
夫「ったく、もう12歳だってのに、まだまだ子供だなぁ」
娘「だって子供だもん!」
アッハッハッハッハ……
夫「それにしても、惜しかったなぁ」
夫「あとほんの少し誕生日が遅ければ、プレゼントが一つで済んだのに」
妻「ウフフッ……ホントねえ」
娘「ホント、危なかったぁ~……」ホッ…
夫「なぁ~んてな」
夫「たとえクリスマスに生まれてても、プレゼントはちゃんと二つあげたよ」
妻「アナタったら……子供にはホントに甘いわねぇ」
妻「でもそれでいいのよ、アナタは」
夫「さ、ケーキを食べよう」
娘「うん!」
妻「じゃあ、ロウソクの火を消して」
娘「はぁ~い!」フッ…
夫「おめでと~!」パチパチパチパチ…
妻「ウフフッ、じゃあ切り分けるわね」
娘「あ、切るのはあたしがやるの!」
妻「はいはい」
夫(こんな幸せな俺だけど──)
夫(実は……今の生活を始める前に、人を殺したことがある)
夫(あれは13年前、桜もまだ咲いていない春の日だった……)
夫(卒業式を迎えたばかりの少女を……! 守るために……!)
夫(仕方ないといえば、仕方ないことだった)
夫(だが、俺の罪が消えることはない)
夫(だからこそ俺は、こうして復讐代行業なんかに携わってるのかもしれない)
それから二ヶ月後──
【 事務所 】
婦人「あの若者のせいで、ミーちゃんが哀れな姿に……」ウッウッ…
婦人「お願いするザマス!」
婦人「どうかわたくしのミーちゃんの恨みを晴らして欲しいザマス!」
夫「分かりました、すぐにとりかかりましょう!」
妻「ウフフッ、復讐開始ね」
【 道路 】
若者「ヒャッホーッ!」ブオオオオオオ…
若者「イェイイェイイェイイェイイェイイェイイェ~~~~~イ!」ブオオオオオオ…
妻「来たわよ」
妻「バイクで依頼人の愛猫をひき殺して逃げたっていう若者君が」
妻「あれは100km以上は軽く出てるわね」
夫「よし……」
夫「準備はいいか?」
妻「オッケーよ」
夫「それ、ロープを引っ張れ!」グイッ
ビンッ……!
若者「!?」グイッ
ブオオオオオッ……!
若者「うっ……うわぁぁぁぁぁっ!?」グラッ…
ドガッシャァァァァァンッ!!!
夫「ワ~オ、予想以上に派手なこけ方をしたな」
夫「頭から地面に叩きつけられて……首の骨を折って即死だな」
妻「ウフフッ、これでネコちゃんも浮かばれるでしょうね」
夫「復讐完了だ!」
夫(俺たちの仕事は順調だ)
夫(なぜなら、俺と妻のコンビネーションが完璧だからさ)
夫(俺たち夫婦なら、どんな復讐だってこなせる自信がある)
夫(だから恨みを持たれてる覚えのある人は、気をつけた方がいい)
夫(いつ、どこで、どんな形で、それが己に降りかかるか分からない)
夫(いいことをすれば恩が返ってくるし、悪いことをすれば復讐が返ってくる)
夫(世の中ってのは上手くできてるものなのさ)
さらに一ヶ月後──
【 自宅 】
夫(今日は娘の学校に行きたかったのに……)
夫(妻がどうしても家にいてっていうから、残ることになってしまった……)
夫(しかもいいだしっぺの妻はどっか行っちゃったし)
夫(まさか俺だけ家に残したんじゃないだろうな?)
夫(妻はいたずら好きだからなぁ……)
夫(──ん?)
夫(あれは妻のパソコン……)
夫(いつもは厳重に保管されてる上に)
夫(仮に勝手に開いたところで、ロックされてて中身は見られないはずなのに)
夫(今日は中身を開いたままがら空きになってる……)
夫(もちろん勝手に覗くなんて許されないけど──)
夫(気になる……)
夫「…………」ゴクッ…
夫(どれ……ちょっと見てみるか)
夫(これは──依頼人と標的のリスト……)カタカタ…
夫(俺に内緒でこんなデータを取っていたのか、さすが妻)カタカタ…
夫(ん? これは未遂行の標的のリスト……?)カタカタ…
夫(どれどれ……)カタカタ…
夫「!」
夫(な、なんで……なんで……)
夫「未遂行の標的のデータに、俺の名が!?」
妻「ウフフッ……」スッ
夫「!?」
チクッ
夫「ううっ……!?」ドサッ
妻「とうとう気づいちゃったわね、アナタ」
妻「ま、わざと気づくように仕向けてあげたんだけど」
妻「自分から真相を知った方が、より絶望と驚きを味わえると思ったから……」
夫「ぐ……ぐっ……!」ピクピク…
夫(毒針か……!? 体が動かないし、声もほとんど出ない……!)ピクピク…
夫「な、なんで……?」
妻「なんで? 決まってるでしょう、アナタに対する復讐の依頼があったからよ」
妻「だってアタシはアナタと出会う前から、復讐代行屋だったんだから」
妻「アナタは13年前の3月──」
妻「小学校の卒業式から家に帰る途中の少女に、性的暴行を働こうとした上」
妻「逃げられそうになり、自分を守るために少女を殺した……」
妻「そして、警察からは証拠不十分でみごと逃げおおせてみせた……」
夫「なんでそのことを──!」
夫「そ、そうか……」
夫「俺とお前が出会ったのは、それからすぐだった……」
夫「お前が俺に近づき、結婚までしたのは」
夫「復讐代行屋として、俺を殺すチャンスをうかがうためか……!」
妻「ウフフッ」
妻「そんなわけないでしょう?」
夫「!?」
妻「アナタなんかその気になればいつでも殺せたし、もちろんこれから死んでもらうわ」
妻「でも依頼人である被害者のお父さんは、依頼遂行にこう条件をつけていたの」
妻「“自分と同じ苦しみを味わわせた上で死を与えてくれ”ってね」
夫「ま、まさか……!」
妻「そうよ、長かったわぁ……」
妻「アタシの復讐代行屋人生でもっとも手間がかかった依頼だった……」
妻「アナタと結婚して、十数年も幸せな家庭をやってきたのは」
妻「全て今日この日のため……」
妻「もちろん、それに見合うだけの金額ももらってるけどね」ウフッ
夫「や、やめ……」ガクッ
妻「ウフフッ、あの針の毒がさらに効いてきたようね」
妻「もう叫ぶどころか、声を出すこともできなくなるわ」
妻「でも安心して、意識だけはハッキリ残るようになってるから」
妻「さぁ~て、そろそろ同じ苦しみを味わわせるための材料が到着する時間だわ」
妻「大切に育てた我が子を、中学に上がる寸前で理不尽に失うという苦しみをね……」
妻「もうとっくに、小学校の卒業式は終わったはずですもんね」
夫(や、やめろ! やめてくれえええ!)
ガチャッ……
「ただいまぁ~!」
妻「ウフフッ、帰ってきたみたい」
やめてくれえぇぇぇぇぇ……!
END
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