善子「アクマのヨハネが生まれるまで」 (19)

男子A「やーい悪魔!」

男の子は私に消しゴムを投げる。

男子B「悪魔の善子ー!」

もう一人の男の子は私を30cm定規でつつく。

よしこ「違うもん! よしこは悪魔じゃないもん!」

精一杯の否定。だけどそんなものは届くはずもなくて、助けてくれる人もいない。

だって、私津島善子は不幸の星の元に生まれた、悪魔の子なんだから。

――――

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善子「っはあ……!」

久しぶりに悪い夢を見た。

あれはヨハネがまだアクマでも堕天使でもなかった頃の記憶。

ヨハネがアクマじゃなくて悪魔だった頃。

善子「嫌なこと思い出しちゃった」

ふと鏡を見るとあの頃の――小学生の頃のヨハネが写っているように見えた。

辛そうな表情で、本当に悪魔みたいな私。

――――

女子A「善子ちゃんってさ、怖いよね」

女子B「うん、目がつりあがっててこわい」

こそこそと、私のことが噂されてるのはずっと私の耳に届いてた。

いい噂なんてなくて、全部悪い噂。

女子A「それに善子ちゃんと同じクラスになってからいつも遠足雨だし」

女子B「呪われてるよねー」

私の方をちらちらと見て、くすくすと笑いあってる。

今思ってみると、これは紛れもないイジメだったんだと思う。

つり目で、不幸体質だった私は対象にしやすかったんだろう。

女子C「そういえばね、男子が善子ちゃんのこと悪魔って言ってたよ」

女子A「悪魔! それだよ!」

女子B「きゃはは! 悪魔の善子!」

悪魔、そう呼ばれたのはもう何回目だろう。

不幸体質で、性格も暗くなってた私はつり目っていうこともあってクラスメイトから怖がられてた。

遠足の日はいつも雨、運動会では一緒に走った子を巻き込んで転ぶ、インフルエンザは私が持ってくる。

そうやって周りを不幸に巻き込んじゃうこともあって、いつの間にか悪魔の善子が私の呼び名になってた。

よしこ「はあ……」

ついため息がこぼれる。

今日も1人で帰る憂鬱な帰り道。

ドブにハマらないように下を向いて気を付けながら歩く。

よしこ「いたっ……」

下ばかり向いていたから、電柱にぶつかっちゃう。

そんな私に手を差し伸べてくれる人なんていなくて。

私の側を通り過ぎる子はみんなくすくすと笑って通り過ぎていく。

よしこ「……こんな目じゃなきゃ、ちょっとは違ったのかな?」

道路にぺたりと座り込んだまま、カーブミラーに写る私を見て、つり上がった目を恨む。

本当に悪魔みたいな目。

よしこ「はあ……」

そんな目に、思わずため息。

「大きなため息をついて、どうしましたか?」

ため息をついていると、ここら辺では見かけない年上の女の子が立っていた。

長い黒髪で、私とおんなじつり目の女の子。

私は会ってから別れるまで名前を聞かなかったその子のことを心の中でくろちゃんって呼ぶことにした。

くろ「そんなところに座り込んでいたら汚いですわよ? 立てます?」

変なしゃべり方。率直にそう思ったのを覚えてる。

すっと私に差し出したその手の意味を、私はしばらく理解できなかったんだ。

くろ「? 手を取ってくださいな」

だって、今まで私が転んでいても手を差し伸べてくれる子供なんていなかったから。

不幸がうつる、呪われる。そう言って誰も私に触れようとはしなかった。

だからその時差し伸べられた手は、私を起き上がらせてくれたその手の暖かさは今でも覚えてる。

よしこ「……。こわくないの?」

くろ「何がですの?」

きょとんと、私が何をいってるかわからないという風に首をかしげる。

よしこ「この目、悪魔みたいって言われるの」

私がそういうとくろちゃんはくすっと笑って。

くろ「わたくしとおそろいじゃない。いつも見てますもの怖くありませんわ」

そう言った。確かにくろちゃんのつり目も私と同じくらいきりっとつり上がってるのに、怖いっていう感じではなくてかっこよかった。

くろ「暗い表情をしているから怖がられるんですのよ」

そう言いながらくろちゃんは私の口の端を指でぐいっと上に引っ張る。

くろ「ご覧なさい、笑顔ならとってもかわいらしいじゃない」

カーブミラーを見ると、変な顔をした私がいた。

それを見て誇らしげにしてるくろちゃんも見えて、くすっと。

思わず笑っちゃった。

くろ「怖い顔をしていれば、悪魔に間違えられますわ。笑う門には福来る、笑っていればいいことありますのよ?」

よしこ「えへへ、ありがとう」

くろちゃんの言ってることは私に勇気をくれた。

くろちゃんがいなかったら、きっと今のヨハネは存在しないと思う。

くろ「それに、悪魔って感じで書くとおそろしいですけど」

くろちゃんは持ってた鞄から取り出した紙に感じで悪魔って書く。

結構難しい感じなのに、すらすらかけてすごいな……。

くろ「カタカナでこう、アクマとかけばかわいらしくないですか?」

悪魔っていう字にバッテンをつけて、隣にアクマって書く。

確かにかわいいかも♡

よしこ「じゃあよしこ、悪魔じゃなくてアクマになる!」

くろ「そう堂々としていれば、皆さんもからかうことはなくなると思いますわ」

くすくすと笑いながら、手を振って歩いていくくろちゃんを、私は手を振って見送った。

次の日、私は気持ちを切り替えるためにママに髪型を変えてもらったの。

かわいいお団子を作ってもらったんだ。

しによんとかいうらしいけど、よくわからない。

男子A「あっ、悪魔の善子がおしゃれしてる」

男子B「変な髪型ー」

いつも私を率先して意地悪してくる男の子に、くるっと向き直ってニッと笑ってあげた。

よしこ「悪魔じゃなくてアクマ。アクマのヨハネよ!」

昨日考えた名前。アクマなんだったら善い子の善子なんて変だからそれっぽい名前にしてみたの。

ヨハネ、我ながらかっこいい響き♡

男子A「……」

そんなヨハネに男の子はぽけーっとしてる。

呆気にとられてるみたい。

よしこ「今度ヨハネを悪魔の善子なんて呼んだら許さないんだから!」

そう言ってヨハネは堂々と歩きだす。

くろちゃんが言ってたから、堂々としなさいって。

堂々と歩いてると、黒い大きな羽根が落ちてきた。

それはヨハネとしての門出を祝ってくれてるみたいで、嬉しくなってそれをお団子に刺してみた。

カーブミラーに写った自分がふと視界の端に映る。

よしこ「ヨハネって、かわいいじゃない」

カーブミラーをしっかり見てみると、昨日まで写ってたのとは全く違う魅力的な女の子が写ってるように見えた。

なんだか、自信が出てきて、自然と笑顔が出てくる。

よしこ「みんな、おはよう!」

自信は明るさにつながって、教室に入るなり大きくあいさつをしてみた。

すると周りはいつもと違うヨハネにちょっとざわっとする。

女子A「善子ちゃんその髪型かわいい!」

女子B「何その羽、おもしろーい」

女子C「つり目怖いって思ったけど、よく見るときりっとしててかっこいいかも♡」

ざわっとした後、女の子たちがヨハネに寄って来る。

よしこ「善子じゃなくてヨハネよ! アクマのヨハネなんだから!」

津島善子にバッテンをして、アクマのヨハネって書いた名札を見せる。

するとみんなの反応は昨日までと違うものだった。

女子A「アクマってかわいい!」

女子B「ヨハネちゃんでいいの?」

その日から、悪魔の善子はアクマのヨハネになって、生まれ変わったの♡

名札のことはもちろん先生から怒られちゃったけど……。

――――

あの子、くろちゃんのおかげでヨハネは善子の殻をやぶれた。

そして今、ヨハネはヨハネとして生きてる。

シニヨンを作って、今日もみんなのところに向かう。

千歌「あ、善子ちゃんきた!」

ダイヤ「また、遅刻ですわよ? 善子さん」

花丸「善子ちゃん、おはなまる! なんちゃって」テヘッ

みんなヨハネのことを善子って呼ぶ。

だから、いつも教えてあげるんだ。

善子「ヨハネはアクマのヨハネなんだから!」

おわり

ふと思いついたネタ。
思い付きの見切り発車だから雑でごめんよ。

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