【無限の住人】銀時「逸刀流ねぇ。流派じゃあねぇな」【銀魂】(7)

天下に偏く諸流派を武の一字の下に一統する。

曰く、逸刀流とは、そうした集団である。

異国の武器であろうが、異端の剣術であろうが、それら一切の是非は問わぬ。逸刀流たる資格は強さのみ。そも、血風吹き荒ぶ武の道に正邪などあるはずもなかろうし、ましてや清濁など望むべくもない。生と死。強者と弱者。単純な二言論が働く余地が残るとすれば、酷く暴力的かつ根元的な観念しか有り得ないのが武というやつなのだ。間違っても、正義とか邪悪とか清らかとか濁りとかいう高尚な観念が入り込む隙はない。仮に、高尚な何かを掲げて武をかざす者ありければ、これを世に扇動家と称す。これこそ人心を惑わす大悪であり、武の本道からも逸するものだ。

武の有り様が形骸化して久しい太平の世にあって、武の本質を世間に広く知ろしめしめるべく、武の隆盛と再生を目的とし暴れまわる集団ーーそれこそが天津影久が率いる逸刀流であった。

新八は一息のうちに語り尽くすと、ほぅ、と息を吐いたのち茶を啜る。

銀時「で、その逸刀流とやらがどうしたんだよ?」

新八「どうしたもこうしたもありませんよ。逸刀流は、武の隆盛と再生を掲げて、諸流派に対して道場破りを繰り広げています。逸刀流に破れたのであれば、許される選択肢は二つきり。従順か死か。従順を取れば、その流派は逸刀流に組み込まれて消え失せる。死を取るならば……言うまでもありませんね。どちらにせよ、破れたら最後、敗北した流派は滅びます」

銀時「物騒な話だなぁ、オイ。が、俺にゃあ関係ねぇ。そーゆーのはな、おまわりさんの仕事だ。人には与えられた役職と役割ってのがあって、そいつを奪っちゃあならねぇ。わかる?」

新八「うちは万の事を請け負う生業のはずです」

銀時「請け負った仕事であれば、それが何だろうがこなすさ。だが、依頼を受ける受けないの裁量は俺に委ねられてる。そうでなければ、金さえやれば何でもこなしてくれる体の良い召し使いに身を落としちまう。己が何者であるかだなんて難しいことはわからねぇし、この先どうありたいかだなんてこともわからねぇが、どうなりたくないかだけははっきりとしてる。金のためだけに生きたかねぇ。だから、俺は仕事を選ぶ」

神楽「要は、今回の件に関わりたくないって話アルか。でも、そういう一端のことは仕事を選べる立場になってから言うネ。今の銀ちゃんは仕事をしたくないあまり駄々を捏ねている引きニートも同然アル」

新八と話す応接室に、眠気眼を擦りながら一人の少女が現れる。おはようの挨拶もなく辛辣な言葉を投げ掛ける少女の赤毛は方々に跳ねていて、寝乱れたパジャマからも少女らしい無防備さが窺える。

新八「そうですよ、銀さん。それらしいことを言ってますけど、仕事を選ぶ立ちにないでしょ。いいじゃないですか、僕からの依頼。未払いの給金を依頼料に回してくれたら、給料の支払いはチャラになるんですから。悪くないでしょ?」

銀時「そうはいうが、役割と役職が……」

新八「じゃあ、訊きますけど、銀さんの役職ってなんです?」

銀時「ジャンプを……」

新八「読むのは少年に任せてください」

銀時「わかったよ。話聞くだけでも聞いてやる。……ぱっつぁん、金持ってなさそうだから、聞きたかなかったんだが」

新八「あんたが給料さえ払っていたら、多少なりとも出せるものがあったんですけど。まあ、いいです。話を聞くだけでも先ずは良しとします。それで依頼内容ですけど、早い話が逸刀流というのを江戸の町から追い払ってほしいんです」

銀時「まあ、そんな難儀な連中が彷徨いてりゃ追い払ってほしいというのも道理だが。しかし、不思議なのは、ぱっつぁんが身銭を切ってまで解決を望む執着の具合だ。なんでまた?」

新八「なんでまたって、うちだって道場を構えているんですから、全く対岸の火事というわけではないんですよ。今のところ、たまたま見逃されているだけで」

銀時「見過ごされている、とか、見落とされている、というが実態じゃねぇのか?」

神楽「あの道場、ちっちゃいし、ボロいから、ぱっと見には分からないアルしなあ」

新八「あんたら揃いも揃って失礼過ぎる。……たぶん、事実をついているとは思うけど」

銀時「じゃあ、いいじゃねぇか。危惧する必用がねぇ」

新八「そういうわけにはいきませんよ。文字通り、いつ矛先が向いたものか知れないし、うちには姉上もいるんです。何かあってから手を講じたのでは遅すぎます」

銀時「姉上とやらがいるからこそ問題ねぇだろ」

神楽「銀ちゃん、姉御をなんだと思ってるね」

銀時「言っていいのか」

新八「やめてください。姉上の耳はデビルイヤー。銀さん、死にますよ」

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