※本作は推理物、裁判物ではなく、アドベンチャーです
17年前
某月某日
大学二年生の山下ひとみ(20)が、自宅のアパートで遺体となって発見された
第一発見者は同じアパートに住む彼女の友人のH氏
その日はひとみ氏と出かける約束をしていたが、呼び鈴を鳴らしても携帯を鳴らしてもひとみ氏は出ないため
不審に思い窓側に回ったところ、窓の側の鏡台の前で倒れているひとみ氏を発見
大家を呼び、鍵を開けてもらい部屋に入り、ひとみ氏が死亡している事がわかった
死因は窒息死。首には索条痕がみられ、彼女の手にも紐を掴み抵抗したような跡がみられた
また、凶器の紐も遺体の側で発見された
警察は、背後まで犯人の接近を許したことから顔見知りの犯行と見、また、犯行現場である彼女の部屋の鍵は施錠されていたことから、合鍵を持っているひとみ氏の恋人、中垣拓人氏(20)を容疑者として確保した
東京地検は、彼をひとみ氏殺害容疑で起訴する方向であるという
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1464438263
東京都 原村法律事務所
恵「ふぅー……」
恵(バブル崩壊とリーマンショックの影響で、顧問弁護士の契約が減ってしまった)
恵(このままいけば、この事務所の家賃を払うのもままならないな)
恵(都心から離れた場所に引っ越すか……)
恵(……いや。もうすぐ顧問弁護の契約更新日だ)
恵(いっそのこと、全て打ち切ってどこか地方で新しく事務所を開くか)
恵(上京し弁護士になり、そのまま東京で事務所を開いたが……別に東京に拘る理由もないからな)
恵(東京都の日弁連の会長選挙の派閥争いにもうんざりしていたところだ)
事務員「先生、弁護の依頼が来ています」
恵「ああ、わかった」
……
…
・
拘留所
恵「君が中垣拓人だな」
拓人「は、はい……」
恵(だいぶやつれているようだな)
恵(恋人を失った上にその殺害の容疑をかけられたんだ。無理もない)
恵「初めに聞いておく。君は犯人ではないんだな?」
拓人「あ、当たり前です!」
拓人「どうして……俺が、ひとみを殺さなきゃ……」
拓人「うぅ……ひとみぃ……」
恵(……嘘をついているようには見えないな)
恵「すまなかった。ただの確認だ」
恵「そもそもこの事件にはいくつか不審な点が多い」
拓人「不審な点……?」
恵「色々あるが、まず事件現場が密室だったこと」
恵「他殺とみられる死体がある状況で部屋に鍵がかかっていたら、合鍵を持つ者が真っ先に疑われるに決まっている」
恵「仮に君が犯人なら……わざわざ殺害後、鍵をかけて自分が疑われるような状況で出て行くのはおかしい」
拓人「な、なるほど……」
恵「他にも色々あるが、まあ君が犯人だとは私は思っていない」
拓人「そ、それじゃあ……一体誰が犯人なんですか!?」
恵「それはわからないし、私の仕事でもない」
恵「私の仕事は君が犯人でないことを裁判で証明する事だからな」
拓人「でも、警察は……」
恵「君が犯人だと思っているから、他の容疑者を探す事はしないだろう」
拓人「そ、そんな……」
拓人「せ、先生……お願いします!ひとみを殺した犯人を探してください!」
拓人「俺には、先生しか味方が……」
恵「……」
恵「……真犯人がわかれば、君の弁護で有利になるかもしれない」
拓人「そ、それじゃあ……」
恵「まず聞きたいのは、彼女を恨んでいた人物がいたかどうかだ」
拓人「先生……!ありがとうございます……」
恵「礼は真実がわかり、君が無罪を勝ち取ってからでいい」
拓人「はい……!」
拓人「ひとみを恨んでた人は……いないハズです」
拓人「彼女は気立てが良くて……男からも女からも好かれてました」
恵(好かれる……というのが、恨みを買う原因でもあるのだがな……)
恵「なら、おかしな挙動や、何かに怯えている様子はなかったか?」
拓人「といいますと?」
恵「ストーカーに怯えていたりする場合だ」
拓人「そんな事、一度も……」
拓人「あ、でも……」
恵「?」
拓人「一週間前から、鏡の前でぼーっとする事が多くなりました」
恵「一週間前……?」
拓人「はい」
拓人「実は……一週間前に、ひとみと一緒に××県の××村に旅行に行ったんです」
拓人「そこには、ホラースポットとして有名な廃屋があって、その廃屋を探検したんですが……」
恵(不法侵入には目をつむるか)
拓人「その時、ひとみは奥座敷で鏡台を発見したみたいで……俺が気付くと、鏡台の前でぼーっと立っていました」
拓人「名前を呼んでもなんの反応もしなくて、身体を揺すったら正気に戻ったみたいにハッとして……」
拓人「それ以来です。ひとみが鏡の前で立ち尽くすようになったのは」
恵「なるほど、鏡台か……」
恵(……そういえば、彼女の遺体が見つかったのも鏡台の前だったな)
恵(何か関係があるのか……?)
拓人「あの、先生……?」
恵「……わかった。それも気になるから調べてみよう」
恵「とりあえず今日は失礼する。帰ってから色々調査しよう」
拓人「先生……よろしくお願いします!」
廊下
恵「ん?」
嘉帆「あれ。弁護士先生」
恵「検事……」
嘉帆「今、中垣拓人と面会してたらしいね」
恵「……まあな」
嘉帆「もしかして、彼の弁護を引き受けたの?」
恵「それが君になんの関係がある?」
嘉帆「弁護士先生に、事件の見解を聞いておきたくて」
嘉帆「なにせ、私が起訴する容疑者だもの」
恵「……君が担当検事なのか?」
嘉帆「ええ」
恵「……若き天才検事と呼ばれている君が、こんな小さな事件の担当になるとはな」
嘉帆「やめてよ恥ずかしい」
嘉帆「この事件の被害者が、警視庁のお偉いさんの姪っ子らしくて、犯人を必ず有罪にしろ。って検事正が言われてるの」
恵「そして君にお鉢が回ったきたわけか」
恵「どうりで不十分な証拠にも関わらず、こんなに早く逮捕され起訴されているわけだ」
嘉帆「警察の方も犯人を挙げるのに必死だからね」
嘉帆「本当は私も起訴したくは無かったんだけど……ほとんど勝手に検事正に手続きされちゃって」
恵「弁護士と違って検事は縦社会だからな。難儀なことだ」
嘉帆「それで、原村弁護士はこの事件についてどう思う?」
恵「法廷外交渉はしない主義でな」
嘉帆「私は色々腑に落ちないところがあるんだけど……」
恵(勝手に語り出した……)
嘉帆「まず、中垣拓人が、自分が真っ先に疑われるに関わらずわざわざ鍵を閉めた事」
嘉帆「そして被害者の指には抵抗の跡として、凶器の紐の跡が見つかったけど、その位置がおかしい」
恵「ああ。紐の跡が小指に強く残っていた。というやつだろう」
嘉帆「普通、首に絞められた紐に指を突っ込もうとして抵抗したら、人差し指かその指先に強く残るハズ」
嘉帆「そして鏡の前に遺体があったこと」
嘉帆「いくらなんでも鏡の前にいる時、犯人に背後に立たれたら気付くハズ」
恵「背後に立たれても完全に安心しきっていた、という可能性は?」
嘉帆「あるけれど、これから人を殺そうとしている人間、しかも凶器を隠し持っているような不審な姿を鏡越しに見たら、いくらなんでも気付くんじゃないかな」
恵「遺体が移動した形跡は?」
嘉帆「無いね」
恵「……やはり奇怪な事件だな」
恵(……そういえば鏡といえば、さっき彼に聞いた話を、検事にもするべきだろうか)
1.検事に廃屋の話をする
2.検事に廃屋の話をしない
安価下
恵「それでは、私はこれで失礼する」
嘉帆「ん。また法廷で」
恵(……さて、行ってみるか。××村に)
一週間後
『朝のニュースをお伝えします
昨夜、××県××村で、事件調査中の原村恵弁護士が、遺体となって発見されました
首には何者かに紐のようなもので絞められたような跡があり、警察はこれを殺人事件とみて調査しーーーーーー』
BAD END①
「一人ぼっちは危険」
.
コンティニュー
恵(彼女に話して、意見を聞いてみるか)
恵「さっき彼に聞いた話なんだがーーーーーー」
……
…
・
嘉帆「ふーん。廃屋で見つけた奇妙な鏡。ね」
恵「検事どう見る?」
嘉帆「多分、原村弁護士同じかな」
嘉帆「気にはなるけど、どんな関係があるかわからないから、調べてみるしかない」
恵「私も同意見だ」
嘉帆「よし。私も明日、その村に行ってみる」
恵「他の仕事はいいのか?検事の抱えている事件なんて一つや二つではないんだろう?」
嘉帆「検事正に、暫くはこの事件ひとつに絞っていいって言われてるからね」
恵「そうか」
恵「では、私はこれで失礼する。他にも色々調査したい事があるからな」
嘉帆「ん。それじゃあまた」
翌日
列車内
恵(結局、現場も調べてみたが新しくわかった事はほとんどなかった)
恵(凶器の紐は被害者の家に置かれていた荷紐だった。というくらいだ)
恵(つまり、犯人があらかじめ紐を用意していたわけではない。計画的な犯行ではないという事だ)
恵(やはり、気になるその村の鏡について調べてみるか……)
恵「私の席は、Fの2だな」
嘉帆「あ」
恵「む」
嘉帆「やあやあ奇遇だね弁護士先生」
恵「検事……」
恵(そうか。同じ東京から同じ村へと調べに行くから、列車の中で出会って当然か)
恵(それにしても、指定席が隣同士とは、とんだ偶然だな)
嘉帆「検事もあの村に調べに行くんでしょう?」
恵「まあな」
嘉帆「やっぱり……鏡が気になるよね」
恵「ああ」
嘉帆「もしかしたら、ブラッディ・マリーみたいなのとか……」
恵「西洋の妖怪か……君はそんなオカルトを信じるのか?」
嘉帆「科学は万能でなんでも解明できるなんて思ってないもの」
恵「私もその意見を否定するつもりはない」
恵「だが私たちは法曹界に生きる人間だ。確固たる証拠をもってして平等に判断しなければいけない」
嘉帆「それはそうだけど……」
恵「……」
嘉帆「……」
恵(さて、村に着くまで何をして過ごそうか)
1.本でも読む
2.事件の調書を読み直す
安価下
恵(事件の調書をもう一度読み直すか)ガサゴソ
恵(むっ……荷物に引っかかってなかなか取りだせない)
恵(ぐっ……ぬぬぬ……)ぐぐぐ
バッ
恵(よし、取れ……)
むにゅん
恵「!?」
嘉帆「うひゃあ!?」
恵「す、すまない……」
嘉帆「う、うん……」
恵(肘が検事の胸にぶつかってしまった……)
××村
恵「ここがくだんの村か」
嘉帆「随分と寂れた村ね」
恵「とりあえず宿を探そう」
……
…
・
嘉帆「それにしても……」
恵「?」
嘉帆「なんだか……凄く村人達の刺すような視線を感じるんだけど……」
恵「それだけあの廃屋に興味本位でやってくる若者が多いんだろう」
恵「横溝正史の八墓村には、モデルとなった事件の起きた村が存在するそうだが……」
恵「何人かの読者や雑誌記者がその村に行ったところ、あまりいい顔をされなかったらしい」
恵「過去にあった事件が目的で興味本位でやってこられたら、誰だっていい顔をしないからな」
嘉帆「ん?原村弁護士は金田一耕助のファンなの?」
恵「まあな。検事は?」
嘉帆「私は江戸川乱歩かな。明智小五郎派」
恵「そうか」
嘉帆「あ、旅館が見えてきたよ」
旅館
嘉帆「すいません、部屋は空いてますか?」
女将「はいはい。空いておりますよ。二人部屋でよろしいですか?」
恵「いや、私と彼女は関係ない。一人部屋を二つ用意してくれ」
女将「おやおや。てっきり夫婦かと……」
恵・嘉帆「「違う」」
女将「はいはい。それにしても先週のカップルといい、一昨日から滞在してる旅人といい、なんだか千客万来だねぇ」
嘉帆(中垣拓人と山下ひとみは、この民宿に泊まったみたいね)
恵(滞在している旅人……まさか、金田一耕助!?)
嘉帆「原村弁護士……?」
恵「ん、んん!」ゲフンゲフン
恵「女将。その先週来たというカップルについて聞きたいんだが……」
女将「あー。いくら話好きのおばちゃんでもねぇ。お客さんの事をそう簡単に話すのは……」
恵「私はこういうものだ」つ弁護士バッジ
女将「ああ、あなた弁護士さんだったのかい。それじゃあそちらのべっぴんさんは?」
嘉帆「私はこういうものです」つ検事バッジ
女将「……?なんだいそれ」
嘉帆(なんで秋霜烈日はひまわり秤に比べて知名度が低いの……)ガーン
女将「事件の捜査かい。ならなんでも聞いておくれ」
女将「ただし私も忙しくて時間がないから、一つだけにしておくれ」
恵「わかった」
1.村について聞く
2.カップルについて聞く
3.旅館について聞く
4.滞在している旅人について聞く
安価下
世にも奇妙な物語と被ってしまったという最大のミス
恵「その、先週きたというカップルについて話してもらえないか?」
女将「あのカップルね」
女将「まあ、仲のいいカップルでねぇ」
女将「二人部屋に泊まったから、こっちとしても気を利かせて晩御飯にスッポンエキスやらを……」
嘉帆「彼らはこの村のどこを見学しに行ったかわかりますか?」
女将「ああ、それならここから西にある廃屋に行ったみたいだよ」
女将「あそこは心霊スポットとして有名らしいからね」
恵(なるほど、その廃屋は西にあるんだな)
恵「ありがとうございました」
女将「それじゃあ、私は仕事に戻るね」
嘉帆「……ねぇ原村弁護士」
恵「どうした検事」
嘉帆「ここは一時休戦して、一緒にあの廃屋の事を調べない?」
恵「……どういうことだ?」
嘉帆「ここに来てからずっと思ってたけど……やっぱり、私、この村は怖い」
嘉帆「旅行客を泊める旅館のおばちゃんは優しいけど……」
嘉帆「なんだか、家の中からずーっと、よそ者を監視するような視線を感じる」
恵「気のせいだろう」
嘉帆「でも……」
嘉帆「うん……そうかもしれない。ごめんなさい」
恵「……」
恵「そうだな、二人いるのにそれぞれで同じものを探るのは非効率だな」
嘉帆「じゃあ……!」
恵「本格的な探索は明日からだ。今日は夜も遅い。それに長旅で疲れた」
恵「明日、朝9時にここで待ち合わせしよう。それから二人でこの村の駐在に話を聞きに行き、ついでに廃屋の捜査許可をもらいに行こう」
嘉帆「原村弁護士……ありがとう」
恵「とりあえず、部屋に行くか」
……
…
・
恵「むっ」
嘉帆「どうしたの?」
恵「あれは……麻雀卓か。宿泊客が打つのか?」
嘉帆「んん?もしかして麻雀に興味があるの?」
恵「プレイヤーが沢山いるから知っているだけだ。興味はない」
恵「それに、ただ確率的に最善手を打つだけの非生産的な競技だ」
恵「それも、運次第で簡単に崩れ去る」
嘉帆「もう……どうしてそんな頭が固いんだか」
恵「そういう性分でな」
嘉帆「もしあなたに子供ができたら、きっとそんな感じに科学と確率重視でオカルト否定の頭の固い子になるんでしょうね」
嘉帆「オカルトを偶然で済ませたり、『そんなオカルトありえません!』とか言いそう」
恵「……君に子供ができたら、きっと天真爛漫な子になるんだろうな」
恵「小学校の先生やお嫁さんを夢見たり、ペンギンのぬいぐるみとかを好きになったりしそうだ」
嘉帆「あら?私のことをそんな風に見てたんだ」
恵「……私の部屋はここだ。また明日落ち合おう」
嘉帆「はいはい。また明日」
部屋
恵(さて……少し疲れたし、湯に浸かるか)
恵(確か、この民宿には銭湯があったはずだ)
銭湯
恵「ふーっ」
恵(さて。一息ついたところで、事件の事でも考えるか)
「わーっ。結構広いんだ」
恵「!?」
恵(銭湯の壁の向こうから検事の声……検事もちょうど風呂に入っているのか)
恵(というか男湯と女湯の声が筒抜けなのかここは!?)
「ふーっ。癒される~」チャポン
恵(今、この壁の向こうでは検事が……)
恵(……いかん。変な想像をしてしまう)
恵(無心になれ……素数を数えるのだ……3.1415……)
恵(そうだ、銭湯の壁画でも眺めよう)
恵(富士山でも眺めれば心が洗われ……)
恵「ん?」
恵(富士山ではない……これは、何らかの宗教画か?)
恵(この崇められている女性は……腕が六本あるうえに、額に目があるな)
恵(一体これは……)
「気になるか?」
.
恵「!?」
恵(この老人、いつの間に銭湯に入ってきたんだ……?)
老人「すまない……驚かせてしまったな」
恵(……彼が、女将が言っていた旅人か)
恵(歳は60過ぎだろうか……顔のシワが目立つな)
恵(長髪の奥の、何でも見透かすような切れ長の瞳。痩せこけているのではなく無駄な肉をそぎ落としたようなガタイのいい身体、曲がることなく伸びる背筋……)
恵(そして……深淵から聞こえるように響くその声色と、得体の知れないものを纏っているその雰囲気)
恵(この老人は、一体……)
老人「そう、緊張するな……」
老人「ここの地酒だ……飲むか?」
恵(酒は苦手だが……)
恵(何か、断れない雰囲気を持っている……)
恵「いただきます」
老人「やはり……湯に浸かりながら飲む酒はうまい」
老人「それで、この壁画を眺めていたようだが……気になるのか?」
恵「ええ、まあ……」
老人「……ここに描かれている女性は、かつてのこの村の土着神だ」
老人「六本の腕はそれぞれ……左右で対になっている」
老人「各々の腕は……天と地、明と暗、そして善と悪を司るという」
老人「……神というのはえてして、二面性を持つものだ」
恵「善と、悪……」
老人「そして額の第三の目は……未来を見通すと言われる」
恵「先ほど、かつての。と言っていましたが……」
老人「この村の土着神は……未来を見通し、村人たちに神託を与えたいた」
老人「だがしかし……村社会は外に目を向けるようになった」
老人「隣の村との小競り合いが始まる頃……」
老人「村人たちは争いのために……この神の神託を利用するようになった」
老人「それを嘆いた神は……己の姿を隠した」
恵「……ジャンヌダルクのようにはいかなかったんですね」
老人「ふっ……。詩的な事を言うな」
恵(……酒が回ったせいだな)
恵「ところで、姿を隠したというのは……天照大神のように、どこかに閉じこもったのでしょうか?」
老人「そのような感じだ」
老人「ただ……天照と違うのは、宴の声も届かぬ闇の奥深く……」
老人「この村の外れにある、『迷宮洞窟』の中だ」
恵「迷宮、洞窟……?」
老人「神が己の名と共に、洞窟に迷宮を作り出し……その奥深くに閉じこもった」
老人「誰も会いに来れぬよう……誰の声も届かぬように」
恵「その洞窟は、実際にあるのでしょうか?」
老人「あるとも。ただ……その洞窟はもう一つ伝説がある」
恵「もう一つの、伝説?」
老人「その洞窟は姥捨山だったそうだ」
恵「姥捨山というと、老人を山に捨てるというあの……?」
老人「ああ。……迷宮洞窟の中に老人を進ませ、帰ってこれなくする」
老人「それが、迷宮洞窟のもう一つの伝説だ」
老人「ただ……魂だけは迷宮を抜けれるようでな」
老人「隣村に出かけにいった若者達が……隣村近くの山の中で、姥捨山に入ったはずの母を見たという話が幾つかあるらしい」
恵「そうですか…」
老人「……少し話疲れた」
老人「私はこれで……失礼させてもらおう」
恵「ええ。貴重なお話をありがとうございました」
恵(謎の鏡のある廃屋に、神が作り出し老人が遺棄された迷宮洞窟……)
恵(一体何なんだ、この村は……)
恵「……考えても仕方がない。本格的な調査は明日からだ」
恵「私も風呂をあがるとしよう」
翌朝
恵「検事との待ち合わせがある。支度して早く行こう」
ロビー
嘉帆「あ。おはよう原村弁護士」
恵「待たせたな、検事」
嘉帆「女将さんに駐在所の場所は聞いたから、早く行こう」
恵「ああ」
駐在所
駐在「どうもー!東京地検の検事さんと、弁護士先生がわざわざ訪ねてくるなんて、どういったご用件でしょうか?」
嘉帆「実は、この村にある廃屋についつ聞きたいんだけど」
駐在「あー、すいません。本官はつい先月に県警から赴任してきたばかりでして……よくわからんのですよ」
嘉帆「そう……。これから事件の捜査に向かおうと思うんだけれど、家宅捜査の許可を貰えるかしら?」
駐在「そういうのは本来裁判所を通すんじゃ……?」
嘉帆「持ち主のいない土地の場合は許可は必要ないの。管轄中の警察に一応許可を貰いたくてね」
駐在「それならどうぞどうぞ!なんなら本官もご同行しましょうか?」
嘉帆「気になる程度の事だからいいわ。この村の治安を是非とも守っててちょうだい」
駐在「はいはい~。本官にお任せあれ!」ビシッ
恵(……大丈夫かこの駐在)
恵「私からも聞きたいことがある」
駐在「はいなんでしょう?」
恵「この村に洞窟があると聞いたが……」
駐在「ああ、それならここからそこの道を真っ直ぐ進んで突き当たりを左に曲がってそこから少し進んで看板のあるあたりでインド人を右に進めばありますよ~」
恵「ありがとう」
嘉帆「ねぇ、原村弁護士。洞窟って?」
恵「事件には関係のない話だが……一応君にも話しておくか」
恵「実はーーーーーー」
……
…
・
嘉帆「なるほどね……そんな事が」
恵「それにしても洞窟とは……いよいよ八墓村じみてきたな」
嘉帆(……なんか嬉しそう)
嘉帆「あ、ここだね。廃屋は」
恵「一見普通の家のようだが……」
嘉帆「とりあえず入ってみましょう」
廃屋
嘉帆「……随分と荒れてるわね」
恵「何十年も手入れされていないようだな」
嘉帆「とりあえず鏡意外にも何か見つかるかもしれないし、手分けして探索しましょうか」
恵「わかった」
恵「どこを探索しようか」
1.玄関
2.台所
3.奥座敷
4.風呂
5.トイレ
6.二階部屋1
7.二階部屋2
安価下
玄関
恵「表に出ている靴は二足だけ……」
恵「女物の靴だな」
恵「どうやら母と娘の二人暮らしのようだ」
恵「どこを探索しようか」
1.玄関
2.台所
3.奥座敷
4.風呂
5.トイレ
6.二階部屋1
7.二階部屋2
安価下
奥座敷
恵(あの鏡台があるという奥座敷はここか)
嘉帆「……」
恵「検事……?」
恵(検事は何を見て……あれは!)
恵「……鏡台!?」
拓人『その時、ひとみは奥座敷で鏡台を発見したみたいで……鏡台の前でぼーっと立っていました』
拓人『名前を呼んでもなんの反応もしなくて、身体を揺すったら正気に戻ったみたいにハッとして……』
恵「まさか……」
嘉帆「……」スッ
恵「あれは、紐……!?」
嘉帆「……」
恵「自分の首に巻いて、何を……」
嘉帆「……!」グッ
恵「!?」
恵「なぜ、自分の首を絞め……検事!」
1.腕を抑える
2.身体に体当たりする
安価下
恵「何をしている検事!」ぐっ
嘉帆「……」
恵(ぐっ……なんて力だ……腕を全く動かせない……)
嘉帆「……」
恵(まずい……私の力では、止められ……)
嘉帆「が……ぐご……」
ゴキッ
.
……
…
・
刑事「で、弁護士せんせーは、検事が自分で首を絞めて自分で首を折った。っていうのか?」
恵「……その通りだ」
刑事「ふざけたことぬかしてんじゃねぇ!んな事があるわかねぇだろ!」
刑事「あんたが殺したんだろ?正直に言えよ!」
恵「……」
恵「……私は嘘をついてはいない」
刑事「チッ……」
刑事「まあいい。あんたの起訴は決まってる」
刑事「裁判を楽しみにしておけよ。弁護士せんせーよ?」
恵「……」
BAD END③
「救えなかった検事」
.
コンティニュー
恵(とにかく、衝撃を与えれば正気に戻るかもしれない)
恵「許せ……!」
ドンッ
嘉帆「うっ……痛っ……」
恵「検事、しっかりしろ!」
嘉帆「はらむら……弁護士……」
恵「正気に戻ったか……」
嘉帆「えっ……あ……そうだ……私……自分の首を、絞め……」
嘉帆「ひっ……」ガクガク
恵「一体何が……」
嘉帆「あ、あの鏡……」
嘉帆「あの鏡を見ていたら、鏡の中の私が勝手に動いて……」
嘉帆「紐を持って、自分の首を絞め始めたから、私、その通りにしなきゃいけないと思って……」
恵「……とにかくここを出よう。ここは危ない」
嘉帆「……」コクン
食堂
恵「コーヒー二つ」
ウェイトレス「はいはいただいま~」
嘉帆「……」
恵「……」
恵「まあ、鏡の自分と同じ行動をとるなんて、江戸川乱歩ファンとしては貴重な体験だったんじゃないか?」
嘉帆「……」
恵(……生まれて初めて冗談というものを言ってみたが……失敗したようだ)
嘉帆「……山下ひとみも、私と同じように、鏡に映った自分の真似をして、自分の首を絞めたんだろうね」
恵「そうだな。さっきの君の姿を見て閃いたが、自分で自分の首を紐で後ろ手に絞めたら、小指に紐の跡がつく」
嘉帆「密室なのも、ただの自殺だったから。鏡の前で亡くなったも……」
恵「……まあ、そういう事だな」
恵「とても法廷では立証できそうにないが、無罪を勝ち取る事はできそうだ」
嘉帆「……」
嘉帆「……ねえ、原村弁護士」
恵「ん?」
嘉帆「これで終わったと思う?」
恵「何がだ?」
嘉帆「山下ひとみは廃屋内ではなんとか助かった」
嘉帆「けれど、その一週間後に鏡の前で亡くなった……」
嘉帆「もしかしたら、私も……同じ、目に……」カタカタ
嘉帆「どうしよう……私、怖い……」
恵「……」
恵「お祓いを受けるか……もしくは、あの家で起こった事を調べるか……」
恵「何か原因があって呪いの鏡台が生まれたのなら、それを解決する方法もあるかもしれない」
嘉帆「何かの原因って……?」
恵「知らん。おおよそ、あの廃屋で亡くなった幽霊が取り憑いて呪いの力で何だかんだすったもんだあったとかそんなんだろう」
嘉帆「何それ」 」クスッ
恵「私とした事が、下調べが足りなかった」
恵「もっとあの廃屋の事前情報を集めてから探索に乗り出すべきだった」
嘉帆「……そうね。まあ、あんな事が起きるなんて予想もできないでしょうけど」
恵「とりあえず、あの家の事を聞ける人を探そう」
嘉帆「見た限り、随分と昔に廃墟になったみたいだけど……」
恵「聞ける者は限られていそうだな」
ウェイトレス「コーヒー二つお持ちしました~」
恵「君」
ウェイトレス「はいはい~。何かご注文でしょうか~?今なら日替わりランチがオススメですよ~」
恵「少し聞きたい事があるんだが」
ウェイトレス「日替わりランチの内容ですか~?タコスとエビフライですよ~」
恵「この村の事をよく知っている人を教えてもらいたいのだが」
ウェイトレス「今なら日替わりランチは、カップル割引きでお得ですよ~」
恵「……日替わりランチ二つ」
ウェイトレス「はいはい~。それで村の事を知ってる人ですね~。酒屋のお婆さんが詳しいですよ~」
酒屋
嘉帆「すいませーん」
店主「はーい。何かお求めで?」
恵「私たちはとある事件の調査をしに東京からきた弁護士と検事だが、聞きたい事がある」
店主「あらあら。それはわざわざどうも」
店主「聞きたい事ってなんでしょうか?」
恵「聞きたいのは、あなたのお婆さんにだ」
店主「お婆ちゃんに?」
恵「ああ。この村の事をな。呼んでもらえないか?」
店主「わかりました。おばあちゃーん!」
老婆「なんじゃいアッコさん」
店主「もう。私はアッコじゃなくて亜津子だって何度も言ってるでしょう?」
店主「この方たちが、村について聞きたいんだって」
老婆「ああ、村の。何についてお話ししましょうか?」
嘉帆「ここから西にある廃屋について聞きたいんですけど……」
老婆「はいおく……?ガソリンかい?」
店主「ほら、神岡さんの家の。昨日も他の人に話したでしょう?」
老婆「……」
老婆「そうかい……神岡さんの……」
恵「神岡、という方が住んでいたんですか?」
老婆「ええ。私がまだ子供の頃……母と娘で、それはもう仲よう暮らしていました」
老婆「母親は娘さん想いで、娘さんの里子は気立てが良くて、ええ子やった」
老婆「そして里子はある日、村の男と恋に落ちた」
老婆「鷲川勝という名の男で、恋文を交わしたり外で逢瀬を重ねたりしておった」
老婆「だが……その恋も長くは続かなかった。二人の仲を引き裂くものがあった」
嘉帆「それは一体……」
老婆「……第二次世界大戦」
恵「……」
老婆「勝の元にも赤紙が届いた。戦争へ赴くために呼び出された」
老婆「だが……恋人を戦場に送りたくない里子は、勝と二人で駆け落ちをしようとした」
老婆「夜中に二人で手を取り合い、村から逃げ出して二人で暮らそうと」
老婆「だが……それは全くの失敗に終わった」
恵「憲兵に見つかったんですか?」
老婆「ああ……けれど、恐らく村の誰かが、駆け落ちの計画を立てている二人を見て告げ口をしたのだと思う」
老婆「二人は憲兵から必死に逃げ出した」
老婆「けれど結局、二人は捕まった」
老婆「ここから北にある洞窟の中でな」
恵「ここから北の洞窟……まさか、迷宮洞窟では?」
老婆「おお、知っておったか」
老婆「あそこに入る事ができれば捕まらないと思っていたようだが……勝は逃げ込む直前に足を銃で撃たれた」
老婆「なんとか血の滲む足を引きずり迷宮の最深部まで逃げ込んだが……憲兵達は血の跡を辿り、見つけるだけ」
老婆「勝はその場で首を刎ねられ処刑され、身体を晒し者として村の広場に晒された」
老婆「里子は村に連れ戻され、非国民の扱いを受けて村八分の目に遭った」
嘉帆「ひどい……」
老婆「それ以来、里子はあの家の奥座敷で、正座をしてじっと鏡台を見つめる日々だったらしい」
老婆「ものも食べず、どんどん痩せこけていき……最後には鏡の前で自殺してしまった」
嘉帆「その自殺……もしかして、首吊り?」
老婆「おお、よくわかったな」
老婆「里子は鏡の前で天井の梁に縄をかけ、首を吊って自らの命を絶った」
恵「なるほどな……」
恵(鏡台の前で自らの首を吊り、命を絶った神岡里子。その呪いで鏡を覗き込んだ者の首を絞めさせる。といったところか)
老婆「しかし非国民扱いされ村八分の扱いを受けていた里子は、葬式を行うことすら許されなかった」
老婆「里子の母は泣く泣く……奥座敷の畳を外して穴を掘り、そこに里子を土葬した」
老婆「その後……里子の母は村を出、旅立った。噂ではどこかの寺に入ったと聞いたが、真相はわからん」
恵「そうか……」
老婆「まあ、あとはよくある怪談話」
老婆「洞窟内で首の無い勝が自らの首を探してるだの、廃屋で里子が座ってるだの、勝を探しているだの……」
恵(……幾つか気になる点があるな)
恵(少し聞いてみるか)
質問の内容
安価下
恵「洞窟内で首を探す勝……というのは?」
嘉帆「あっ。もしかして首が無いから実は別人じゃないか?っていうミステリーにありがちなトリック?」
恵「そこまで窺った見方をしているわけではないが……」
老婆「……よくわかんないけど、首の無い死体なんてのは私の知る限り鷲川勝だけだねぇ」
老婆「首を切られて亡くなった人はいても、首を探してるなんて話は聞かないねぇ」
老婆「それに、怪談をどこまで信用していいかはわかんないけど、その死体は軍服を着てたらしいよ」
恵(さて、何を聞こうか)
質問の内容
安価下
嘉帆「あっ!もしかして死んだのは憲兵の方かも!」
恵「確かに可能性はあるな」
老婆「いやいや。当時憲兵さんは複数人いてね。帰る時もちゃんと全員揃ってたよ」
嘉帆「そっか……」
恵「そもそも……首の方はどこにいったんだ?」
恵「その話がないから、死体入れ替わりのような可能性がでているわけだが」
老婆「ああそうだった。その話をしてなかったね」
老婆「首をはねた時、当然首も回収しようとしたんだけど……」
老婆「その最深部の部屋が割と広くてね。首が見つからなかったそうだよ」
老婆「だから、鷲川勝の首は未だ行方不明だし、その首を探して彷徨っているという噂さ」
恵(なるほど……鷲川勝についてはこれで大方わかったな)
恵(まだ気になる点があるな)
質問の内容
安価下
恵「迷宮洞窟について聞かせてもらえませんか?」
老婆「ああ、あれね。ここの神様が、自分が閉じこもるために作ったらしいけど、私は入ったことはないからねぇ」
恵「姥捨山として使われていたというのは本当でしょうか?」
老婆「村の人間としては、肯定したくはないけど……本当の話らしいよ」
老婆「けれど不思議でねぇ。姥捨山に入ったはずの老人が、隣村の山の中を歩いていたという話をよく聞くんだよ」
老婆「その神様とやらがこっそり洞窟から逃がしてくれたのかもねぇ」
恵(なるほど……実際に行ってみなければ詳しくはわかりそうにないな)
恵(さて、何を聞こうか)
質問の内容
安価下
恵「そういえば、神岡里子の遺体は家の下に土葬されたままなのですか?」
老婆「神岡家には親しい親戚もいなくてねぇ……誰も供養しようとはしていないんだよ」
恵「なるほど……」
恵(話を聞く前に、一箇所気になった点があった。そこを聞いてみるか)
質問の内容
安価下
恵「そもそも、なぜあの家は取り壊されないんですか?」
老婆「……みんな、後めたいのさ」
老婆「当時のお国の風潮だったとはいえ、生きるために逃げ出した若い男女を村八分にして叩いた事がね」
老婆「だから、誰もあの家については目を逸らしている」
老婆「腫れ物に触るかのように……ずーっと残っているのさ」
恵「そうですか……」
嘉帆「ところで、その……あの屋敷の鏡の呪いについて何かご存知ですか?」
老婆「んー?んー」
老婆「聞いた事ないねぇ」
老婆「そういえば、そういうのに詳しい人がいたような……」
嘉帆「そ、その人について詳しく聞かせてください!」
老婆「ただ、村の人じゃないよ」
老婆「昨日、私に同じような話を聞きに来た人がいてね」
老婆「この村の旅館に泊まっているっていう、旅人の老人さ」
恵「まさか……昨日、風呂にいたあのご老体……」
老婆「おや、知ってるのかい」
老婆「なんでも、この手の話を求めて色んなところを旅してるらしくてねぇ」
老婆「呪いだのなんだのなら、その人に聞いてみたらどうだい」
恵「わかりました。貴重なお話、ありがとうございました」
旅館
女将「旅人の部屋ですか……?それも捜査の一つなんでしょうか」
恵「まあな」
女将「それでしたら、あなたの二部屋隣の部屋ですよ」
嘉帆「ありがとうございます」
嘉帆「……なんだか、ほんとオカルト染みた調査になってきたね」
恵「金田一耕助というより浅川和行だな」
嘉帆「ここがその旅人さんの部屋ね」
嘉帆「(コンコン)すいませーん」
「……入れ」
恵(……この声)
嘉帆「失礼します」ガチャ
恵「……失礼します」
老人「やはり……君か」
嘉帆「あら、原村弁護士のお知り合い?」
恵「昨日銭湯で少し話をしてな」
老人「そうか……君は、弁護士だったのか」
恵「申し遅れました。弁護士の原村恵です」
嘉帆「私は検事でして……」
老人「ほう……弁護士と検事が共に尋ねるとは……面白い」
老人「そういえば、まだ……名乗っていなかったな」
老人「私は、芸術家……」
「斑木義隆だ」
.
続く
夜遅くなったので続きはまた明日、18:00から再開します
再開します
嘉帆「芸術家……」
恵「斑気さん。事件の捜査というのは建前で……あなたが呪い等のオカルトに詳しいという事で相談したいことがあるんです」
義隆「……ほう」
恵「実は……」
……
…
・
義隆「なるほど……鏡の中に映った者を自殺させる神岡里子の亡霊に、迷宮洞窟で自らの首を探す鷲川勝の亡霊か」
嘉帆「私の手がけている事件の被害者の死因は、その神岡里子のせいだと思っています」
恵「信じがたいが、あの家での検事の姿を見てしまった以上、私も信じざるをえない」
嘉帆「つまり……私も、その人と同じように……いつか鏡の前で……」
義隆「……そうか」
義隆「怪異を解決したいならば……まずはその怪異を分析する事だ」
恵「分析って……相手は科学も理屈も通用しない相手ですよ?」
義隆「確かに起こる現象に科学も理屈もない……」
義隆「だが……道理はあるはずだ」
嘉帆「道理……」
義隆「怪異はなにも、無秩序な事をしているわけではない」
義隆「理解不能で非科学的な現象が起きているにしても……なんらかの原因があり、道理に沿った行動をしているにすぎない」
義隆「それを読み解けば、解決法も自ずと見える」
義隆「……まあ、それを誤ればそれまでだがな」
嘉帆「それで、その原因と道理というのは……」
義隆「勿体ぶった言い方をしたが……おそらく単純な話だ」
義隆「仲を引き裂かれた男女。首を失った男、男を失った女」
義隆「物語や神話というのは……時代を超え、国境を超え……似るものだ」
義隆「彼岸の物を口にすると此岸へ帰れなくなるヨモツヘグイとペルセポネがいい例だろう」
恵「……」
嘉帆「……」
恵「……つまり?」
義隆「……つまり、この手の話は昔から枚挙にいとまがなく、解決法も同じという事だ」
義隆「怪談というのはなかなかにしてワンパターンでな……」
義隆「それだけ人間はどの時代でも同じ生き物という事なのだろう」
嘉帆(……ねぇ、ほんとにこの人に相談して大丈夫だったのかな?)
恵(……老人の話というのは回りくどくて長いものだ。耐えろ)
義隆「鷲川勝という男の身体はどうなったかは知らんが……神岡里子の遺体は奥座敷の下にあるらしいな」
義隆「ならば、その男の首を探し出し、奥座敷に置いて再会させてやればいい」
恵「そんな単純な方法でよろしいのですか?」
義隆「無論……それだけでは駄目だ」
義隆「男の方は死んでだいぶ経っている。もはやその首に男の念があるかもわからん」
義隆「それを呼び戻す方法が必要だ」
嘉帆「そんな……」
義隆「そしてそれには……これを使え」スッ
恵「これは……札ですか?」
義隆「中国に伝わる道教を元に、とある僧侶が作った札だ。これを貼れば僅かな時間、本人の念を呼び戻す事ができる」
嘉帆「なるほど……ありがとうございます」
[反魂の札]を手に入れた!
恵「ところで、鏡自体をどうにかして神岡里子を封じる事はできないんですか?」
義隆「私も村人達にもその女の話は聞いたが……鏡ではなく家そのものの地縛霊のようだ」
義隆「ならば、鏡はそれを利用しただけの媒体に過ぎない……家にいる神岡里子自体をどうにかせねば逃れられないだろう」
恵「そうですか……わかりました」
恵「最後に、どうしてあなたは……」
義隆「……少し話疲れた」
義隆「やはり歳には勝てんな……休ませてもらおうか」
恵「……わかりました。これで失礼します」ペコリ
嘉帆「ありがとうございました」ペッコリン
……
…
・
恵「さてと。まさか洞窟探検をする事になるとはな」
嘉帆「……ごめんなさい。こんな事に巻き込んでしまって」
恵「もともとあの廃屋の話を君にしたのは私だ。ならば……私にも責任はある」
恵「迷宮洞窟で鷲川勝は首をはねられた」
恵「ならば、その洞窟に彼の首があるはずだ」
嘉帆「そうね」
恵「さっさと見つけて神岡里子の亡霊を鎮めて、東京に帰ろう」
嘉帆「ふふっ。東京に戻ったら、私が美味しいディナーをご馳走してあげる」
恵「そうか……楽しみだな」
恵「では、行くか。その洞窟に」
洞窟前
嘉帆「ここが……迷宮洞窟」
恵「神が自らの名と共に閉じこもり、老人が捨てられ、鷲川勝が逃げ込み今も首を探し彷徨っている洞窟か……」
恵(洞窟内に流れる風の音が、まるで亡者の呻き声のように響いている……)
嘉帆「とりあえず雑貨屋で準備はしてきたけど……」
[ペンライト][方位磁石][ナイフ][マッチ][ロウソク][紐][ヤスリ][ペンチ][非常食]
嘉帆「ペンライトがあるのにロウソクは必要なの?」
恵「空気の流れを知るためにもロウソクは持っておいた方がいい。それに、この手の洞窟には有毒ガスが溜まっている可能性もある」
嘉帆「おお、流石は男の子。探検には詳しいねぇ」
恵(って金田一先生が言ってた)
嘉帆「さて、紐を入り口に結びつけて」
恵「これが私たちのアリアドネの糸とというわけだな」
嘉帆「それじゃあ、出発!」
洞窟内部
ぴちゃ……
ぴちゃ……
恵「なかなか狭い洞窟だな」
嘉帆「ペンライトを使わなくても、ロウソクの灯りだけで事足りそう」
恵「水滴が垂れる音がするということは、鍾乳洞のようなものなのだろうか」
嘉帆「だとしたら、足元にも気をつけないとね」
嘉帆「ところで、原村弁護士は迷路と迷宮の違いって知ってる?」
恵「……そういえば、考えたこともないな」
嘉帆「迷路は分岐点がたくさんあるけど、迷宮は基本的に一本道なんだって」
恵「なるほど」
嘉帆「一本道でも、なんども曲がっているうちに、方向感覚を失って、気がついたら迷宮の奥に進んでるのか入り口に戻ってるのかわからなくなる……」
恵「だから糸が必要なわけか」
恵「だが、迷宮洞窟の方は分岐点があるみたいだな」
嘉帆「あ、ほんとだ……道が分かれてる」
恵「確か鷲川勝は最深部に逃げ込んだはずだ。どの道が最深部に続いているのか……」
嘉帆「あれ、原村弁護士」
恵「どうした」
嘉帆「今何かが反射して光ったような……ほら、そこ」
恵「これは……地蔵だな。だが額に宝石が埋め込まれている」
嘉帆「こっちにもある……。5つの道にそれぞれ、宝石が埋め込まれた地蔵が立ってる」
恵「だが、宝石の種類は違うようだな」
嘉帆「うん……こっちはガーネットで、これはラピズラズリ、これがエメラルド、これはアメジストで、これがダイヤモンドみたい」
恵「何か、意味があるのか……地蔵の他に何かないか?」
嘉帆「うーん……あ、この地面、文字が彫ってある」
恵「何が書いてあるんだ?」
嘉帆「えーっと、るいてい続とへく深奥が道の王……意味わかんない」
恵「昔の文字だから、右から読むんじゃないのか?『王の道が奥深くへと続いている』」
嘉帆「王の道ってなんだろ……」
恵「どの道を進もうか
1.ガーネットの道
2.ラピズラズリの道
3.エメラルドの道
4.アメジストの道
5.ダイヤモンドの道
安価下
恵「昔の文字といえば、確か宝石には和名があったはずだが」
嘉帆「あ、そっか。横文字じゃなくて感じにしないと」
嘉帆「えーっと確か、ガーネットが紅柘榴、ラピズラズリが瑠璃、エメラルドが翠石、アメジストが紫水晶、ダイヤモンドが金剛石。だったはず」
恵「ならば、瑠璃のラピズラズリが王の道だ」
嘉帆「え、どうして……あ、そっか。瑠璃は全部の文字に王偏が入ってるもんね」
恵「子供騙しのようななぞなぞだな。行こうか」
嘉帆「うん」
……
…
・
恵「また分かれ道か……」
嘉帆「正面に進む道と、直角に曲がる左右の道……あれ、まって」
嘉帆「この先の道……また直角に曲がる左右の道があるみたい」
恵「本当だな。少し進んでみるか」
……
…
・
恵「とりあえずわかったことは、この道は一本になっていて、等間隔で左右にそれぞれ3本づつ道がある事」
恵「左右への道はそれぞれ向かい合っている事」
嘉帆「奥は突き当たりになってて、突き当たりに左右への道がある」
恵「そして、この道の入り口にあった、また謎の文書」
嘉帆「『王の道は4本ある。2本目の道の先が奥深くへと続く』」
恵「さて、どの道を進もうか」
1.手前の左の道
2.手前の右の道
3.真ん中の左の道
4.真ん中の右の道
5.奥の左の道
6.奥の右の道
安価下
恵「ふと思ったが……この洞窟の道、似てないか?」
嘉帆「似てるってなにに?」
恵「『王』の文字にだ」
嘉帆「あ、ほんとだ……私たちが今いるところが下の部分で、それぞれ分かれ道を地図にすると、王の文字になる」
恵「ならば恐らく、王の道の4本というのは、この漢字を構成する画数だ」
恵「そして2本目の道の先……2画目の先に行こうとするなら、真ん中の右の道になる」
嘉帆「すごい、原村弁護士!」
恵「合ってる確証はないが……行ってみるか」
……
…
・
恵「ここが、最深部か……?」
嘉帆「そうみたい。ほら」
恵「これは……軍服の切れ端?」
嘉帆「多分、勝はここで処刑されたんだと思う」
恵「となると、このあたりに首があるわけか」
嘉帆「どこだろう……あら?」
恵「どうした」
嘉帆「なんか、白い小石のようなものが落ちてる」
恵「これは……骨だな」
嘉帆「あ、ほんとうだ」
恵「……驚かないんだな」
嘉帆「これでも検事だからね。どこの骨だろ?」
恵「どうやら、頚椎だな」
嘉帆「てことは、首の骨……」
恵「首を切られたあとに白骨化し、頚椎の骨が頭部から離れ落ちたんだろう」
嘉帆「てことは、この辺にしゃれこうべがあるはず……」
恵「……あったぞ!」
[鷲川勝の首]を手に入れた!
嘉帆「うっ……やっぱり薄暗い中で観ると不気味……」
恵「さてと。あとは糸を辿り……」
ぐら……
嘉帆「まって。今、足元が揺れ……」
ぐらぐら……
.
恵「……!地震だ!」
嘉帆「嘘っ!?こんな時に!」
ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
嘉帆「うっ……伏せないと……」
恵「……!」
恵「検事!」
ドンッ
嘉帆「えっ……きゃっ!」
ズゴゴゴゴゴゴゴゴ
嘉帆「ら、落石!?」
恵「うっ……」
嘉帆「原村弁護士……私を庇って……」
嘉帆「原村弁護士!目を開けて!原村弁護士!」
……
…
・
恵「うっ……うう……」
恵「ここは……」
恵「……そうだ、洞窟の中にいたら、地震が起きて……」
恵「そうだ、検事!」ガバッ
もにゅん
嘉帆「ひゃあ!?」
恵(……?なんだ、この顔にあたる柔らかいものは)
嘉帆「弁護士。起き上がらないで。安静にしてないと……」
恵(……頭上から検事の声が聞こえる)
嘉帆「怪我したばかりなんだから」
恵(……頭の下には柔らかい枕のような感触)
恵(これは恐らく……検事に膝枕をしてもらっている状態で、私が顔を上げたから、つまり、その……)
恵(ふぅーむ。なるほどなるほどー)
恵(……これはものすごくアレな状況ではないのだろうか)
恵「んっんん!」ゲフンゲフン
恵「私なら大丈夫だ、検事」
嘉帆「本当に大丈夫?」
恵「うむ。それより、検事の方こそ大丈夫か?」
嘉帆「私は大丈夫だけれど……出口が……」
恵「な……!」
嘉帆「落盤で塞がれて……」
嘉帆「これじゃあ私たち、出られない……」
恵「……」
恵(助けが来るのに期待するか……だが私たちがここにいる事を知っているのは、斑気義隆氏だけ)
恵(それをあてにするか……)
嘉帆「……ねぇ、原村弁護士」
恵「……ん?」
嘉帆「さっきはありがとう。私を庇って助けてくれて」
恵「気にするな」
嘉帆「原村弁護士は、どうしてここまで私を助けてくれたの?」
恵「……弁護士は、人を助けるのが仕事だからな」
恵「特に、周りに誰も味方がいない者の味方になりたい」
恵「それが、私が弁護士になった理由だからだ」
嘉帆「周りに誰も味方がいない……?」
恵「ああ」
恵「今回の私の依頼人の中垣拓人のように……」
恵「そして……呪いに一人で怯えていた、君のようにな」
嘉帆「そっか……」
嘉帆「でも、私が検事になったのも……人を助けたいから」
恵「……」
嘉帆「昔……私が住んでた家の隣に、優しいおばあちゃんがいたの」
嘉帆「けれど……一人暮らししてる息子さんが、強盗に襲われて殺されちゃって……」
嘉帆「犯人はすぐに捕まって、証拠もほとんど揃ってたんだけど、最後の最後に証拠不十分で無罪になった」
嘉帆「おばあちゃん、凄く悔しくて泣いてた……」
嘉帆「だから、私は検事になった」
嘉帆「罪を全うに裁くことで、誰かを救えると信じて」
恵「なるほど……君らしい、優しい理由だ」
今更ながら王の2画目って縦棒じゃ?
恵「私と君は、弁護士と検事という対立する間柄だが……誰かを助けたいという気持ちは同じなのだな」
嘉帆「うん。私たち、案外似たもの同士なのかもね」
恵「そうだな……また、君と法廷に立ちたいな」
嘉帆「私も……同じ気持ち」
嘉帆「ううん。法廷以外でも……あなたと、一緒にいたい」
恵「検事……」
嘉帆「嘉帆。って……名前で呼んで……」
恵「嘉帆……」
>>96
なんという痛恨のミス
死にたい
……
…
・
恵「……法廷の時と同様、見かけによらず激しいんだな」
嘉帆「もう……言わないで」
嘉帆「と、とにかく。ここから出る方法を探しましょう」
恵「とりあえず、この部屋をくまなく探そう。何かあるかもしれない」
嘉帆「わかった」
……
…
・
嘉帆「ちょっと!」
恵「どうした?」
嘉帆「ここ……さっきの入り口と反対側の壁なんだけど……」
恵「……道がある?」
嘉帆「もしかして、さっきの落盤で塞いでた壁が崩れたのかも」
嘉帆「でも、どこに続いてるのか……」
恵「……」
恵「一つだけ、仮説がある」
嘉帆「え……?」
恵「この山が姥捨山になっていたという話を班気氏に聞いた。と説明したよな?」
嘉帆「うん……」
恵「その時に聞いた話なんだが……」
義隆『ただ……魂だけは迷宮を抜けれるようでな』
義隆『隣村に出かけにいった若者達が……隣村近くの山の中で、姥捨山に入ったはずの母を見たという話を幾つかあるらしい』
嘉帆「それがどうしたの?」
恵「もしかしたら……この洞窟は隣の村に繋がっているのかもしれない」
嘉帆「ええ!?」
恵「あくまで仮説だ……だが」
嘉帆「他に助かる道もない。か」
恵「ひとまず、私が先を見てくる。ここで待っていてくれ」
嘉帆「ううん……私も一緒に行く」
恵「……わかった」
恵「今度はアリアドネの糸もない。私の手を離すなよ……嘉帆」
嘉帆「うん……恵くん」
恵「また分かれ道か」
嘉帆「今度は道の近くに石碑が立ってる」
嘉帆「それぞれ、『陽』『星』『月』って書かれてるよ」
恵「そして、地面にはまた謎の文章か」
嘉帆「『シカクノミチガカゼヘツヅク』」
恵「風、というのは出口だろうか?」
嘉帆「でも、どの道が続いてるんだろう」
恵「どの道を進もうか」
1.陽の道
2.星の道
3.月の道
安価下
恵「今までの傾向からすると、恐らくまた漢字に関わるものかもしれない」
嘉帆「てことは、シカクノミチも漢字に関する事ってわけ?」
恵「恐らくな」
恵「シカクというのは恐らく四画。この中で四画の漢字は……」
嘉帆「月。だね」
恵「他に手がかりもない。行こう」
嘉帆「うん」
……
…
・
嘉帆「恵くん、あれ!」
恵「あれは……光だ!」
嘉帆「やった、出口だ!」
隣村
嘉帆「で、出られた……!」
恵「まさか本当に繋がっていたとはな……」
嘉帆「た、助かった……」
恵「いや、まだ終わってはいない」
恵「村に戻り、この頭骨を鏡台に捧げねばならない」
嘉帆「うん……。わかってる」
神岡家
嘉帆「ここに髑髏を置いて……」
恵「この札を貼ればいいんだな」ピトッ
里子……
嘉帆「!!」
恵「この声は……」
勝さん……
やっと会えた……
嬉しい……
.
嘉帆「みて!鏡の中に……」
恵「二人の男女が抱き合っている……」
さあ、行こう……里子……
はい……どこまでも……
嘉帆「消えた……」
恵「……家を包んでいた嫌な雰囲気が消えたな」
嘉帆「これで……終わったんだよね?」
恵「ああ……何もかもな」
嘉帆「私、助かったんだよね……?」
恵「ああ」
嘉帆「良かった……本当に良かった……」グスッ
嘉帆「ありがとう……恵くん……」
恵「……」ポンポン
旅館
恵「さて、もう一泊する事になったが」
恵「嘉帆と一緒に晩飯を食べるか」
……
…
・
コンコン
恵「嘉帆。いるか?」
嘉帆「(ガチャ)あ、恵くん。どうしたの?」
恵「晩飯を一緒に食べに行かないか?」
嘉帆「……」
恵「どうした?」
嘉帆「まさか、恵くんから誘ってもらえるなんて……」
恵(……私はそんな朴念仁に見えるのだろうか)
嘉帆「それじゃあ、行こっか」
廊下
恵「それにしても……信じられないような出来事の連続だったな」
嘉帆「……」
恵「呪いの廃屋に地縛霊に洞窟……とんだ大冒険だ」
嘉帆「……」
恵「嘉帆……?」
嘉帆「……」
恵「どうして窓ガラスを見つめ……嘉帆!おい、嘉帆!」
嘉帆「……え、あ……恵、くん……?」
恵「ま、まさか……」
嘉帆「えっ……嘘、そんな……」
恵「馬鹿な…… 」
嘉帆「呪いはなくなった、はずじゃ……」
恵「落ち着け、嘉帆」
恵「とにかく……斑気さんのところに行こう」
……
…
・
恵「ーーーーーーというわけです」
義隆「なるほど……鷲川勝と神岡里子の怨念がなくなっても、鏡の呪いは続いているのか」
嘉帆「班気さん。これはどういう……」
義隆「……単純な話だ」
義隆「鏡の呪いは神岡里子のものではなかった。それだけの話だ」
嘉帆「そんな……」
恵「では、一体……誰の呪いなんですか?」
義隆「知らん」
恵「え……」
義隆「はっきり言って今のままでは情報が少ないから、わかりようがない」
恵「ぐっ……わかりました。神岡家の廃屋に行って調べてみます」
嘉帆「私も……」
義隆「いや、呪いを受けた君はあの廃屋に近づかない方がいい」
恵「私もそう思う」
恵「嘉帆、私を信じてここで待っていてくれ」
嘉帆「恵くん……わかった」
嘉帆「無茶、しないでね?」
恵「無論、そのつもりだ」
恵「恐らくこれで最後だ。行くか、神岡家に」
神岡家
恵「さっきは嫌な気配が消えた気がしたが、もう一度出向くとやはり禍々しい雰囲気が漂っているな」
義隆「結局……恐怖というのは思い込み次第というわけだ」
義隆「成仏する姿を見たから嫌な雰囲気が消えた気がした。それだけだ」
恵「どこを探索しようか」
1.玄関
2.台所
3.奥座敷
4.風呂
5.トイレ
6.二階部屋1
7.二階部屋2
安価下
二階部屋1
恵「ここは……神岡里子の母親の部屋らしいな」
義隆「神岡里子を土葬した後、夜逃げ同然に村から逃げたらしいな」
恵「その夜逃げの理由だが……村八分が理由だろうか」
義隆「……なにが言いたい?」
恵「自分の娘の亡霊がでる家をから逃げたとか……」
義隆「……ふん」
義隆「親というのは、どんな形であれ自らの子供から逃げるものではい」
義隆「特に母親というのはな。父親と違い、十月十日自らの体内に子供を抱えていたのだ。その愛着は父親より強いだろう」
恵(……えらく饒舌だな)
恵「どこを探索しようか」
1.玄関
2.台所
3.奥座敷
4.風呂
5.トイレ
6.二階部屋1
7.二階部屋2
安価下
二階部屋2
恵「ここは神岡里子の部屋か」
恵「だが、神岡里子が呪いの元凶でなかった以上、この部屋を探索する意味も無いかもな」
義隆「……そもそも、なんの縁があってこの家の鏡台を呪いの媒体にしたのかが謎だな」
恵「というと?」
義隆「つまり……神岡家に縁があるからこそ、ここの鏡台を呪いに利用したというわけだ」
恵「けれど、親類縁者がいないから、泣く泣く神岡里子を土葬したのでは?」
義隆「そうだな……親類縁者はいない」
義隆「だが、血縁者が生まれる可能性はあった」スッ
恵「……!」
恵「それは……」
義隆「今さっき見つけた母子手帳だ……白紙のな」
恵「つまり……神岡里子は妊娠していた……?」
義隆「恐らく。父親は鷲川だろう」
義隆「そして、白紙である以上……産まれる前に胎内の赤子ごと、神岡里子は自殺した」
恵「なら、つまり……どういう事ですか?」
義隆「これから話す事はただの私の想像だが……」
義隆「鏡というのは、神代から封印の道具として使われてきた」
義隆「生者にしろ……死者にしろ」
義隆「神岡里子は自害する前、鏡台の前にじっと佇んでいたという」
義隆「もしかしたら、その際に鏡の中に自らの赤子の魂を封じようとしたのかもしれない」
義隆「あの鏡は……曰く付きの鏡だからな」
恵「曰く付き……?でもそれは神岡里子の死後の話で……」
義隆「そしてもしそうならば、鏡の中の……神岡里子の赤子こそが、元凶だ」
恵「けれど、どうしてその赤子は……首を絞める呪いを?」
義隆「……言ったはずだ。怪異には、原因と道理がある。と」
義隆「生まれ落ちなかった赤子の道理……目的など単純だ」
義隆「この世に産まれでることだ」
.
恵「確かにそうですが……でも、それが首を絞める事となんの関係が?」
義隆「出産時、赤子というのは、自ら母親の子宮から出ようとする本能がある」
義隆「ならば……自らが産まれる場所はわかっているはずだ」
義隆「曰く付きの鏡に囚われた赤子は……その鏡を通じて外の風景を見ていた」
義隆「そして、神岡里子が首を吊って自害する時……その赤子は母親の体内から、自らが産まれる場所からとあるものが出るのを見たはずだ」
義隆「子宮から出ようとする自分に似たものを」
恵「それは、一体……」
神岡里子が首を括った際、産まれでなかった赤子の見た光景とは?
安価下
義隆「検事である君ならすぐにわかるハズだ」
恵「首吊りの遺体の産むもの……」
恵「まさか、排泄物……?」
義隆「その通りだ」
義隆「その赤子は鏡越しに、自らの母が首を吊り股から排泄物を出す光景を見たハズだ」
義隆「ならば……なにも知らない赤子の発想だ」
義隆「自分は股から生まれる。首を絞めれば股から何か出る。ならば首を絞めれば何かが産まれ出でる」
義隆「それが呪いの正体だ」
恵「そんな、理不尽な……」
義隆「呪いというのはえてして、常人には理解できない理不尽なものだ」
義隆「まあ、後半のほとんどは私の想像に過ぎないが……」
義隆「赤子の宿る鏡が呪いの本体であるという事は恐らく間違いない」
恵「なら、どうすれば……」
義隆「簡単な話だ」
義隆「産まれる前の赤子が鏡から呪いをかけているなら……鏡から堕胎してやればいい」
.
奥座敷
恵「斑気さん、それは……?」
義隆「鬼灯の粉末だ。色々手を加えているがな」
義隆「かつて遊女は身籠った際、鬼灯のもつ毒性で堕胎したという」
義隆「鏡から堕胎させるには、これを振り掛ければいい」
義隆「頼んだぞ」
[鬼灯の粉末]を手に入れた!
恵「……?私がやるんですか?」
義隆「わけあって私ではできなくてな」
恵「はぁ……わかりました」パラパラ
ウ……ギグ……
恵「!?」
恵「鏡から、何かが出てきて……」
義隆「鏡から堕胎されているんだ」
ゴズ……ビ……ジオ……
恵「しかし、この姿は……」
義隆「本来自分の姿を知らない、産まれる前の赤子だ」
義隆「胎児の自分と、鏡越しに見たままの人間像が混ざり合った……キメラのような外見をしていても不思議ではない」
ンゴ……マ……バ……
義隆「この対魔の札を貼れ。そうすれば全てが終わる」
恵「……」
恵(生れ出る事のなかった赤子……その純粋無垢な魂を、私はこれから消し去るのか……)
恵(だが……)
嘉帆『恵くん』
恵「私には……どうしても守りたい人がいる」
恵「許せ、赤子よ」
ウ"……ア"……ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"
オ"オ"オ"オ"オ"オ"オ"オ"オ"オ"オ"オ"オッ!!!!
マ"……マ"……
恵「消えた……」
義隆「……すまない」
……
…
・
恵(あれから数週間が経った)
恵(呪いは完全に解けたらしく、中垣拓人の裁判では嘉帆は元気に法廷に立っていた)
恵(斑気義隆氏は、あの翌日東京に戻る前に挨拶に行ったが、すでにいなくなっていた)
恵(どうやら朝早くまた旅に出たらしい)
恵(結局、謎の多い老人だった)
裁判所地下食堂
恵「ーーーーーーそれで、どうなんだ?君の方は」
嘉帆「結局、山下ひとみ殺害の容疑者を有罪にできなかったうえに、あなたの言った自殺の可能性を決定的に否定することができなくてね」
嘉帆「奈良県地検に左遷されちゃった」
恵「そうか……」
恵「ちょうど私も、都外に弁護士事務所を移転しようも思っていたところだ」
恵「……奈良県も、悪くないな」
嘉帆「あ、それならほんとに丁度いいかも」
恵「……?」
嘉帆「実はね……あの洞窟での時」
嘉帆「できちゃったみたいなの」
恵「」
恵「まさか、ここまで八墓村と同じとはな……」
HAPPY END
「おはようのどっち」
.
これで終わりです
今更ですけど、原村嘉帆さんは単行本派にとってはついていけない感じでした
本当はもう少し洞窟内での謎解きやら推理部分やバッドエンドへの選択肢があったけど、SSはテンポの良さを旨にしているので、二日以上かけたくなくて後半疾走気味にしました
最後に、二日間に渡ってお付き合いいただき本当にありがとうございました
ところどころ解説
・原村嘉帆さんについて知らない人はすいません。単行本にはまだ出ていない、月刊ガンガンででてきた原村嘉帆というのどっちの母親の事です
・勝手に恵さんと嘉帆さんと過去を創り出しておいてアレですが、和の出生にオカルト嫌悪の理由だとかは原作リスペクトとして何も考えないでください
・この村に関してはモデルはあるので、何県か何地方かは伏せておきます
・知る人ぞ知る村木家最大の人物、班気義隆が登場しました。ノーコンティニュー報酬で、彼の過去と荒川憩との関係、そして京太郎と咲さんが廃病院に迷い込む話との接点が明かされる予定でした
・酒を飲みながら書いたせいで、風呂のシーンと最後のシーンがめちゃくちゃない感じになりました。すいません
・基本ハッピーエンド厨なので、少なくともこのSSでは原村家は仲睦まじく暮らして設定にしておいてください
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