少女「夏祭りですよ!」(174)

"拝啓。少女ちゃんへ。
私が引っ越してから随分と時間が流れました。
随分と、とは書きましたけどそっちでの生活もあんまり昔だって気もしなくて、昔だったような、最近だったような、そんな不思議な感じです。
最近、なんとなくそちらでの生活を思い出すことが多くて、今こんな手紙を書いています。ちゃんと届くといいんだけど。

そちらの生活は楽しいですか?
昔は少女ちゃん、どこにも居場所がないんだーって顔してたよね。
もうそっちに住んでないわたしが言うのも変だけれど、少女ちゃんが地元を少しでも好きになっていてくれたら嬉しいです。

そろそろ祭なのかな。少女ちゃんと石段の上から見た花火は今でも覚えています。
まだあの場所は穴場スポットのままなのかな?

あ、穴場スポットといえば友ちゃんに…………

…………

………

……

そんな手紙が届いたのが、一週間ほど前のことでした。

小学生の頃、仲のよかった同級生の女の子からでした。

一番仲が良かった友達だったのですが、私は何故か、その手紙に対して、どう返せばいいのか戸惑ってしまったのです。

『私は楽しいよ!また遊ぼうね!』

……数年ぶりの返事がそんな軽い感じでいいのかな?

『久しぶり、こっちは楽しいよ!そっちはどう?』

……いやでもすごく深刻な悩みを抱えてる場合もあるよね。聞いていいものなのかな?

…………

少し考えて、私はひとつの結論に達しました。
そうして、筆をひとまず置くことにしたのです。

友「へ?幼馴染ちゃん?」

夏休み半ば。私の所属する吹奏楽部の友人である友ちゃん。
小中高と同じ学校であることもあるのか、数少ない親密な友人の一人です。
……友人が少ないのはここだけの話です。

少女「うん、幼馴染ちゃん。覚えてる?」

友「覚えてる覚えてる。なんだか大人っぽい子だったよねー」

大人っぽい子。確かにそうです。
だからこそ、私にはなにか引っ掛かるものがあったのかもしれません。

友「幼馴染ちゃんがどうかしたの?」

少女「う、ううん。なんとなく思い出しただけ」

私は何故か手紙のことが言えませんでした。

…………
ミーンミーンミーン

夏。夏です。部活帰り。今日は午前だけの練習でしたので、昼過ぎのこと。

蝉のけたたましい鳴き声から"蝉時雨"ってこういうもののことなんだろうなぁなんてぼーっと考えながら、帰り道にある駄菓子屋のベンチでガリ○リ君をがりがりと食べます。
きーんってしますけど、ガリガリ君はやっぱりガリガリと食べてあげるべきなのです。舐めるのは邪道です。

友「……なんか悩んでるでしょ」

少女「うっ」ギクリ

思わず声が出ました。ぎくり、という音が全身から漏れだした気がします。

ミーンミーンミーン……
みーん。みーん。頭のなかをぐるぐる。ぐるぐる。

少女「ほら、祭に何を着てこうかなって思ってさ!」

友「あぁ、祭ね、祭。もう今週末だもんねー」

少女「もうそんな季節かぁ……」

がりがり。がりがり。……みーんみーん。

夏です。

幼馴染ちゃん。こちらは夏です。そちらはどうですか?……なーんて。

友「少女は誰と行くの?」

少女「えーっと……」

心当たりはありました。というか私から誘った人がいるのです。
でも、出会った経緯が何分へんてこなものですから、言っていいものかどうか非常に悩みます。うーん。うーん。

友「ほほう、ほうほう。そんなに言いづらい相手なのかー。へぇー。ふーん」

友ちゃんがおもむろに意味ありげな笑みを浮かべます。
私は知っているのです。こういうとき、大抵の場合はすごく……すごくめんどくさいことになると。

ミーンミーンミーン……。ミーンミーンミーン……。

夏の冷たい風が少し吹くなか、蝉の声がやけに大きく響きます。

そんなときでした。

プルルルルルル

携帯電話が鳴り響いたのです。

ええいままよ!
私はこの今の少しばかり気まずい雰囲気を断ち切るべく、かかってきた電話の名前も見ずに出ます。

友ちゃんがガリガリ君をぺろぺろしているのを横目に見ながら。友ちゃんは邪道でした。

少女「は、はい」

『もしもし』

少女「聞こえてますよ」

このとき、私には電話越しの男の人の声がいまいち誰だかわかりませんでした。

『あー。明日タオル帰しに行くわ』

電話の主は祭に一緒に行く予定であるところの男さんからだったのです。
あぁ、チェックメイトです。もう私は諦めることにしました。

きっと、友ちゃんにはこのことは話す運命なのでしょう。最早避けられないのです。

少女「もぅ!電話、遅いですよ!あれからもう一週間ですよ!」

『そっちからかけるつってたじゃん』

少女「電話、苦手なんですよ!気恥ずかしくて!」

『えっ……えー。あっ。そうだ。前に聞こうとおもってたんだよ。ひとつ、いい?』

少女「はて、なんですか?」

『あの日さ、傘がひとつしかないって言ってたけどあれ、嘘でしょ』

少女「…………さて、どうでしょう?」

『いやほら、少女はあいあ……

少女「ではまた明日!」

『えっちょっ』

ぷちり。勢い任せで通話終了のボタンを惜します。

きっと相手の声も聞こえていたのでしょう。
隣の友ちゃんが非常に面白そうな顔をしているのが、見ずともわかるのでした。

友「え?誰々?彼氏?」

少女「違うよ……」

友「え?じゃあ友達?」

少女「まぁ……友達……なのかな……」

非常にめんどくさい間柄です。
しかしこのまま黙っていても友ちゃんの中でよからぬ疑念が膨らみそうなのも事実。
私は洗いざらい話すことにしました。

雨の日に男さんと秘密基地で出会ったこと。
そこで光るこけしや勇者の剣などの変なものばかり見つけてしまったこと。
いつのまにやら話が弾むに弾んでしまい、祭に誘ってしまっていたことなどなど。

自分で話していても、語れば語るほど奇天烈な話です。

しかし友ちゃんはその話で納得がいったようでした。

友「なるほどなるほど、なんというか……おもしろそうなことしてるね!」

正直、友ちゃんの慣用さといいますか、順応力が奇天烈だなと思いました。

友「え?その男さんのこと、好きなの?」

少女「いや、そういうわけでは……」

友「え?じゃあ他に好きな人はいるの?」

少女「いないけど……」

友「よし、じゃあ当たって砕けよう!」

少女「当たらないし砕けないよ!」

友「えー、まぁ砕けるのはだめだよね!じゃあさじゃあさ……」

…………

友ちゃんのマシンガントークがマシンガントークを凌駕するレベルで繰り広げられました。
ガトリングトーク、みたいな上位互換の言葉はあるのでしょうか。かっこよくていいと思います。

ガタッ

少しして、突然友ちゃんが立ち上がりました。

少女「えっなにっ」

友「よし!イ○ンモールに行こう!」

少女「えっ」

友「浴衣だよ!浴衣!見に行こ!」

私は棒だけになったガ○ガリ君をもて余しながら、数分前の自分の発言を思い返します。

"『ほら、祭に何着てこうかなって思ってさ!』"

……もう浴衣とか何年着てないかな。
……浴衣ってどれくらいするんだろ。
……っていうか浴衣って気合い入ってるなぁ。

そんな、半ば他人事のようなことを考えつつ私は友ちゃんにひっぱられてゆくのでした。

がりがり。

002

友「わー!なんかいろいろあるねー!古典柄とかレトロ柄とかが今年のトレンドみたいだよ!」

何やら浴衣特集の冊子をどこからか貰ってきたようで、友ちゃんがぴょんぴょん跳ねながら説明します。

少女「古典やレトロがトレンドって何が現代で何がモダンなのか全くわからないね」

友「そもそも古典とかレトロって何かわかんない!」

手に入った情報量、ゼロです。

少女「と、とりあえずいろいろ見てみよっか」

そうして、私達は様々な浴衣を見てみることにしたのでした。

店員「浴衣をお探しですか?」

少しうろうろとしていると、綺麗なおねえさんが話しかけてくれました。

友「少女ちゃんに似合う浴衣ってありますか!」

ストレート!
友ちゃん、めちゃくちゃストレートでした。なんだか私が気恥ずかしくなってきます。

店員「うーん。それじゃあいくつかトレンドをおすすめさせていただきますね!」

しかし、店員さんはにこやかに返します。
レベルが高いです。
案外似たようなことを言う人は多いのかもしれません。……いやいや。

店員「こちら、ただいま人気の女優とコラボしてる浴衣でして……南天と蝶があしらわれたデザインとなっております……」

友「ナンテン……?」

店員「南天というのは果物の一種でして、喉によいらしいですよ。……それにナンテンという発音から"難を転じて福と成す"と言い伝えられ、、昔から縁起物と捉えられているそうです」

友「へぇ、美味しいのかな」

少女「めちゃくちゃ詳しいですね」

店員「えぇ……まぁ……仕事ですから……ちなみに南天の西欧での花言葉は"私の愛は増すばかり"……好きな人との夏祭りにお召しになるのでしたらぴったりだと思いますよ」

友「よし、じゃあこれください!」

少女「ちょっと待って。色んな誤解が絡みすぎてる」

店員「こちらもモデルさんとコラボしているもので、こちらの方が先ほどの浴衣に比べると色が統一されていて、昔ながらの清楚な感じはあるかもしれませんね」

少女「私はこっちの方が着やすいかなぁ……」

友「浴衣は昔ながらの方がおしゃれな気がして不思議だよねー」

店員「まぁ昔ながらを楽しむものでもありますからね……」

友「よし、布一枚を、こう、斜めにかけてくスタイルでいこう!」

少女「時代を遡りすぎないで」

店員「ちなみに今年はストライプ柄が多いような気がいたします。ストライプ柄は身長が高く見えたり、スタイルがよく見えたりとよいらしいですよ」

友「でも浴衣って貧乳の方が似合うっていいますよね。スタイルがよく見えるってこう、なんだか……矛盾してない?」

店員「……浴衣はすらりとした方がお似合いになりますし、すらりとした体系もひとつのスタイルのよさだと思いますよ」

友「えー、でもいいスタイルってもっと、こう!ぼんきゅっぼん!みたいな……!」

少女「なんか恥ずかしくなってくるからやめよう……」

店員「お客様にはどれもお似合いになると思いますよ。他にも格子柄や市松模様などいろいろございますから、是非ごゆっくりご覧ください」

友「ありがとうございます!」

少女「ありがとうございます」

…………

友「あっ……店員さんにどれ選んでもよいではないかーよいではないかーってできるのか聞くの忘れてたや」

少女「やらせないよ」

なんだかいろいろな情報が一気に流れ込んできて、どっと疲れました。
浴衣を選ぶというのも中々骨が折れるようです。

友「……シェイクっておいしいね」チュー

友ちゃんはバニラシェイクを吸いながら言います。流石イオ○モール。マクドナ○ドも完備です。ちゅーちゅー。

少女「浴衣ってどれもかわいいねー」チューチュー

友「少女は浴衣よりかわいいぜ」チューチュー

少女「今はそういうの求めてないから」チューチュー

友「えー、ちぇー」チューチュー

友「もう少しなんだけどなぁ……」

少女「あと百円入れてみたら?もう取れそうじゃない?」

友「うーん、でも後でまた百円入れたりして五百円使って一回ぶん無駄じゃん!ってなるのも嫌だから五百円入れる!」チャリンッ

少女「男らしいね」

友「女子なんだから女子力を褒めてほしいね!」

少女「ぬいぐるみに友ちゃんの包容力を見せてあげよう」

友「それは私じゃなくてアームの包容力だよ!」

友「うわー、少女ちゃんが白いワンピース着てみるとなんか草原とかに立ってる絵に描いたお嬢様みたいになりそう!」

少女「絵に描いたようなたとえだね……」

友「麦わら帽子も持ってこよ!、あっ、ほら、あっちで試着してみよ!お嬢様ごっこだよ!あっでも草原ないや!どうしよう!」

少女「謎だよ……」

友「籠に入れたおにぎりも持ってきてない!」

少女「持ってきてる人見たことないよ……」

友「見てみて、このモノサシすごくない?紙が綺麗に切れるらしいよ」

少女「ハサミ使えばよくない……?」

友「少女ちゃんはロマンがわかってないね!」

少女「紙を切るロマン……?」

…………

友「あ"ー"……効"く"ぅ"……」ガタガタガタガタ

少女「電器店でマッサージチェア座ってる女子高生って華の女子高生って感じが全くしないね……」

…………

少女「ねぇ、私達って何しに来たんだっけ……」

友「……みたらし団子おいしいね!」

少女「そうだよね……うん……おいしいね……」

気がつくともう夕刻で。
私達は夕日の射し込む道を歩いて帰るのです。

友「まぁいろいろ面白かったし、気分転換にはなったでしょー」

少女「うーん、ちょっとだけかなー」

友「その男さんって人との恋のことなのかなんなのかはわかんないけど、悩んでるときは遊ぶに限るよー」

あぁ、そっか。友ちゃんは。

少女「……ありがと」

友「……うん?何が?」

少女「心配かけちゃったかなって」

友「いやいや、一緒にストレス発散しただけだよん。部活も今が頑張りどきだし」

少女「むー、そっかぁ、部活も頑張らないとなぁ。私はまだまだ下手なんだよねぇ」

…………

………

……

幼馴染ちゃんへ。

久しぶりの手紙、ありがとう。
正直、ちょっと戸惑っちゃって。
何か書こうと思って、何を書こうか悩んじゃって。
頭の中でいろんなことを考えてみたんですが、いまひとつ書きたいと思えることが思い当たらなかったのです。

きっと、私は"今までのこと"を幼馴染ちゃんに伝えたいわけじゃないんだと思います。

でも、だからこそ、"今のこと"を書いて、幼馴染ちゃんに伝えたいと思いました。

とりあえず、祭までの間。
これからの数日間の日記のようなものになるけれど、"今の私"を、幼馴染ちゃんに知って貰えたらな、と思います。

今日は朝から部活でした。
私は今、吹奏楽部で友ちゃんと…………

…………

………

……

ふぅ。
日記をつける習慣がないから、上手くまとめられているか自信はないものの、今日の出来事をいくらかまとめてみました。
読んでくれるといいなぁ、なんて。

ぴろりろりん。
ペンを置いた瞬間に傍らの携帯電話が鳴りました。
メールが一通。お母さんからでした。
同じ家に居ても呼ぶのがめんどくさいのか、たまにこうやってメールが飛んでくるのです。

題名:
[本文]
シュークリーム食べる?


ええ、もちろん食べますとも。
そう心のなかで返事をしつつも返信はせず、少し背伸びをして部屋を出ます。

友ちゃんがいつか言っていたような気がします。
やっぱり、疲れているときや悩んでいるときは甘いものが一番なのです。

003

時は流れて、翌日です。
今日も今日とて、部活の日々。
祭も大切ではありますが、部活も秋には大会がありますから、そろそろ本腰を入れていかねばなりません。
何せ、私はまだまだ初心者なので、みんなよりがんばらねば。

ぱぁん。
ちょっと弱めに頬を叩いてみます。なんとなく気合いが入る気がするのです。しかし、強めにすると痛いし、頬が赤くなるので控えめに。

友「おー、なんかやる気だねー」

友ちゃんが話しかけてくるので無言でサムズアップ。親指を立てておきます。

友「祭、私も誰か誘わないとねー」

少女「一緒に行く?」

友「えー、お邪魔したら悪いしぃ」

いやいや、そんなことは。
……そう言おうと思ったのですが、その言葉が口から出る前に友ちゃんは隣にたまたまいたトロンボーン担当の同級生に声をかけてました。

友ちゃんさん、ちょっと手短すぎやしませんか……?

少女「ふぁーっ」

がりがり。今日も今日とて部活帰りは○リガリ君です。
毎日食べてもお財布に優しいコストパフォーマンスは称賛に値します。最高です。

友「少女はいつもソーダ味だよねー。もっといろいろ食べてみればいいのに」

そういう友ちゃんが手に携えているのは新発売らしいスイカ味。
……スイカバーでよくない?

少女「やっぱりこういうのは原点にして頂点なんだよ」

友「えー、コーラとかチョコも好きだけどなぁ」

少女「わかってないなぁ」

がりがり。私はソーダ味のガリガリ君をがりがりします。これ見よがしに。

友「このスイカもそれなりにおいしいよ?ほれ、食べてみー」

少女「えー……」

がりっ。
どこかソーダ味とは違ったガリガリ感が新鮮です。確かに美味しいです。

少女「……コンポタ味の五百倍美味しい」

友「コンポタ味の美味しさはマイナスだから五百倍したら産業廃棄物だよ」

お互いにコンポタ味に対しては冷たいのでした。

友「そういえば今日は男さんと会うんでしょ?」

少女「ええ、まぁ」

友「グッドラック」

そう言い、私の肩に手を置き、サムズアップする友ちゃん。

少女「何に対する応援なのよ」

友「最高の夏にしようぜ」

そして、ウインク。友ちゃん、いよいよ少しばかりウザキャラになってきています。

少女「そうだねー」

それを聞き流し、空を見上げてみると大きな入道雲。

耳につんざくのは蝉時雨。

この駄菓子屋前のベンチは日陰かつそれなりに涼しい風が吹いてくる場所なのでそんなに暑さは感じないのですが、取り巻く世界が全部夏です。
あぁ、夏だなぁという気がします。

夏は日焼けしちゃうのでそんなに好きではありません。

がりがり。がりがり。
やっぱり私はソーダ味の染みわたる感じが好きですね。がりがり。

アイスが美味しいのは夏の良いところかもしれません。

004
一度おうちに帰り、お昼ご飯を食べ、制服から私服に着替え、夏休みの宿題を抱え、秘密基地に到着です。
昨日の友ちゃんとの話を思い出し、なんとなく白いワンピースをチョイスしてみました。夏っぽいですしね。

そういえば時間など何も話をしていませんでしたがもうここにいていいのでしょうか?
……と疑問に思ってしまいましたがそんなことを一切話していないのはぶつ切りに電話を切ってしまった昨日の私の責任なのでした。不覚です。

少女「失礼しまーす!」

既に来ていると悪いので、一応そうつぶやきます。

男「俺の巣に飛び込んできたのは何者だ」

……やはり先に男さんが来てしまっていたようです。

少女「中二病ですか、痛いですよ」

男「うるせぇ、お前には言われたくねぇよ、ほいこれ」

そう言って男さんからタオルが手渡されます。
暗黒騎士ダークナイト・ゼロが描かれたセンス溢れるタオルです。
きっと気に入ってくださったことでしょう。

少女「もしよかったらこのまま使い続けていただいていいんですよ?」

男「いやいいわ」

若干食い気味で拒否されました。

そもそもこれはゼロといってもほぼゼロと一心同体の存在といえる暗黒龍ブラック・デス・ドラゴンを纏うことにより元来込められた力を全て解放された形態という暗黒騎士ダークナイト・ゼロの真の姿でして、それまで断片的にしか使えなかった魔法能力などがここでやっと体系的に使えるようになるロマンもまたひとつの魅力でしてですね(※以下、長々しく語られるため若干省略いたします)

少女「今日は晴天ですね」

男「そうだな、あの日とは大違いだ」

少女「ところで、どうしてこんなところに?奥で待ってていただく方が快適だと思いますよ」

男「あー、今来たとこってのもあるんだけどさ。ほら、あのドア」

少女「あぁ、そういえば開けるためのコツ、まだ教えてませんでしたね」

男「ちょっと前後に動かしてみたりしたんだがやっぱ無理だった」

少女「ふふっ、ではお教えしましょう。我らが一族にのみ代々伝えられし秘伝の技を……」

男「いや俺達血縁関係ないよね」

雨宿りする話の人?

かつん、かつん。
足音が響き渡ります。
いつもは一人ぶんの足音が響いてるので、二人ぶんの足音が響いているのはまだどこか新鮮さがあります。

あっという間に例の部屋のドアの前です。

少女「開き方ですが……」

そう言いつつドアノブを握ります。
そうして、目を瞑って、深呼吸。
すー、はー。

少女「まず念じます」

男「うんいらないよねその行程」

いらないです。

少女「次にドアノブを心持ち左側に押さえる形でドアノブを反時計回りで捻ります」

男「うむ、左に押さえるのが大切な感じか」

少女「内開きですので、あちら側に押します」

がちゃり。
ドアがつっかえます。

男「何かにつっかえるだろ?」

少女「知ったことじゃないです!!!押しまくります!!!!!!障害など!!!!ドアでぶち壊すのです!!!!!!」ガンガンガンガン

男「!?ほんとに開き方知ってるんだよね!?!?ねぇ!?」

少女「と見せかけてドアをその障害に押し当てつつ、上に軽く持ち上げると……ほら」

ぎぃ……。ゆっくりドアが開きます。ふふん。

男「めちゃくちゃ得意気な顔してるけどめちゃくちゃ茶番だったよね」

少女「ふっ……所詮世の中の大抵の物事は茶番なのですよ……」

男「達観しなくていいから」

少女「まぁまぁ、ほら、中でお茶でも飲みましょう?お茶の出番です」

男「そういうことじゃないから」

>>31
雨宿りの人です。というか
少女「雨宿りですか?」
の一週間後から夏祭りまでの話を書きます。
タイトルは意識して字面合わせてみました。
少女「おや?おやおや?偶然ですね!男さん!」
はこの話のさらに先の春の話になります。先の話だからこそ内容がないようになっちゃいましたけど!

僕自身、地の文が入ってるSSって好きじゃないんですが地の文ありでお話書けるようにならなきゃなぁって思って書いてますのでよかったらお付き合いください!
なるべくコミカルな地の文を目指しておりますので!

部屋に入り、とりあえず置いてある紙コップに水筒から麦茶を入れ、男さんに渡します。

少女「というわけで、いよいよ夏祭りが今週末なわけです。というか今日は木曜日なので、もう明後日です!」

男「そろそろヤバイなと思って電話したからな」

少女「ヤバすぎですよ!一週間何も連絡なくて少し焦ったんですよ!まぁいいですけど」

男「お互い様だもんな」

確かに、私も電話が苦手でこちらからの連絡を避けていたのも事実なので何も言えません。
お互いに電話にでんわならぬ電話をかけんわです。

男「で、どうする?花火は20時頃からだろ?」

少女「出店はお昼くらいからやってますけど、うーん」

男「昼から夜まで出店回り続けるのか?」

少女「体力が持ちますかね……」

男「俺達、若いのにな……」

少女「では夕方あたりから回ることにいたしましょう。やっぱり人混みは苦手ですからね」

男「夕方から夜までなら生き残れそうなのか?」

少女「ギリギリですね」

男「虚弱すぎるだろ」

少女「女子力に溢れてますね」

男「何の力もないから虚弱なんだよ」

こつん。おでこを小突かれます。
あいてっ。……なんて。

男「なんなら花火だけにしておくか?」

少女「本気で言ってます?」

男「冗談だよ」

少女「本気なら男さんを花火にするところでした。よかったです」

ふふっ。思わず笑みがこぼれます。
楽しめるものは楽しんでおくべきなのです。

きっと。

少女「男さんは誘うお人、いないんですか?」

男「え?んー。今から誘うにしても急だしなぁ」

少女「そりゃそうですね……」

"誘いたい人はいるんですか?"
とは、聞けませんでした。

少女「お知り合いに会ったら私のことなんと説明するんです?彼女ですか?彼女ですか?彼女ですか?調子に乗らないでください」

男「調子に乗らないでください」

少女「えー、ノってくださいよぅ」

ぶーぶー。ぶーいんぐです。

男「少女は友達に俺のことなんて説明するんだ?」

少女「ペットです」

男「バッドすぎる」

少女「では、夕方の……17時に、駅前でいかがでしょう?」

男「おう、いいぜ。前に別れたとこあたりでいいか?」

少女「よいですよいです」

男「了解了解じゃあさ……」

………………

…………

……

話は弾みに弾み、夕方過ぎまで繰り広げられ、今日は男さんが先に帰ってしまいました。
曰く。

男「ちょっと今日は友達のとこに遊びに行くことになってんだ。もう時間だわ」

とのこと。
"私と会ったのは友達のついでなのでは疑惑"が私の中でぐるぐるでしたが、まぁそれはそれで致し方ありません。

ギュオオオオオオン!!!!

今日も今日とて独特きわまりないパンザマストが鳴り響きます。
パンザマストの制度はない地域のはずなんですけどね。

何にせよ、パンザマストであればそろそろ帰宅を促しているのかもしれません。

いそいそと荷物を片付け、部屋から出ようとしたところで私は渡り廊下のピロティに積んである荷物……つまるところ、元々この部屋に散乱していた荷物のうちのひとつについて思い当たったのです。

006

木箱を乗せた台車を自宅まで運ぶ帰り道。
なんだか異様な光景です。

がらがら。がらがら。
アスファルトの上では台車の音がそれなりに鳴り響きます。
私の家は駅から廃墟とは逆方向にあるため、明後日の集合場所である駅前を通らねばならないわけで。
丁度駅前なのですが、運が悪く帰宅ラッシュの時間のようで人も多く、鳴り止まない車輪の音が少し恥ずかしいです。

どこかの自宅へと歩く人々。
近くのたこ焼き屋のチラシを差し出す人。
いつもこの時間にギター片手に歌っているストリートミュージシャン。

いつもと変わらぬ、駅前です。

変わっているのは得体の知れない荷物を運ぶ私だけ、という日常に落とし込まれた非日常がなんだかちぐはぐな気がして不思議な気持ちになります。

この木箱が突然爆発してしまったらどうしましょうか、なんて。

「あー、この人まだやってんだー」

からから。
がらがらではありません。からから。

キャリーケースを引いた綺麗なおねえさんがストリートミュージシャンを見ながらつぶやきました。

……ビール片手に。
なんだかそれだけで一抹の残念感が過るのは何故なのでしょう。
これもひとつの"ちぐはぐ"やもしれません。

おねえさんは私をちらっと見るとからからと笑います。目が合うと少しドキッとするのは私の昔からの癖です。……治し方はわからないのですが。

女「おっと、邪魔だったかな?ごめんね?」

少女「いえ……」

私が微笑むと右手のビールを軽く振りながら持ち上げ、またからからと笑います。笑顔のよく似合うおねえさんでした。

女「あっこれ?いやぁ電車でここまで暇でさぁ……」

聞いてません。

少女「帰省ですか?」

先ほどのストリートミュージシャンの人に対してのつぶやきを思い出して聞いてみます。

女「んー、まぁそんなとこかなぁー」

そう言って、ビール缶を上に向けるおねえさん。……しかし、中身はもうほとんどないようでした。
残ったビールを飲み干すと、少し不満げに周りを見渡します。

女「ところでお嬢さん、お急ぎかい?」

少女「……?いえ、そうでもないですが……」

女「ふむふむ。そっかそっか」

私が戸惑いながら答えると、おねえさんは腕を組み、深く頷きます。
仕草のひとつひとうがどこか大袈裟でなんだか見ていて飽きない人だな、と思いました。

女「じゃあさ……」

くいっ。くいっ。
親指ですぐ側にある自販機とベンチを指差します。
……話に付き合え、ということでしょうか。

女「一期一会ってやつだね」

そう言って、ウインクをするおねえさん。……あぁ、なるほど。

どうやら私は酔っぱらいに絡まれてしまったようです。

ちゃりん、ちゃりん。
おねえさんが小銭をいくらか投入します。

女「付き合ってもらうわけだしね、おねえさんが奢って差し上げよう」

少女「では、お言葉に甘えて……いちごミルクで」

女「言葉に甘えて甘い飲み物かぁ……甘党だねぇ……」

がこんがこん。
自販機の排出口にいちごミルクが吐き出されます。
この落ちてくるときの音は独特な気持ちよさがあって嫌いではありません。

少女「女の子は大抵甘党ですよ」

ぷしゅっ。
私の力が絶妙にないため、缶の開栓は少し頑張らないとダメなのですがそれ故に空けたときの達成感は人一倍です。

ごくごく。
いちごミルクはおいしいです。
やはり、世界一の飲料はいちごミルクですね。

とてもどうでもいいことではあるのですが、いちごミルクの缶飲料はこのサン○リーのもの以外見たことがないのですが、他にもあるのでしょうか。

この○ントリーのいちごミルクも約七割生乳が使われていたり、1%とはいえいちご果汁も使われているなどそれなりに素敵仕様ないちごミルクではあるので強すぎて他の追随を許していない可能性があります。

他の飲料会社の方々にもいちごミルク業界への進出にはもっと頑張っていただきたいものですね。

女「おーい、お嬢さん?なんか違う世界にいってなーい?大丈夫ー?」

がこんがこん。

おねえさんが自販機からペットボトルのオレンジジュースを取り出します。

女「酔いざましにはやっぱりオレンジジュースだね」

いちごとオレンジ。
中々にフルーツオーラ溢れるベンチになってしまいました。

女「ところでお嬢さんのあの荷物は何?」

少女「最終兵器です」

女「最終兵器?誰かを倒すの?」

少女「えっ、うーん、夏、ですかね?」

女「倒すの?夏を?……あははっ、いいね。おもしろそうじゃん」

お腹を抱えて笑う、なんてなんだか芝居めいた仕草を芝居めくことなく自然にやってのけるおねえさんはなんだか不思議な存在のように思えます。

女「昔からずっとあそこで歌ってるんだよねー、あの人」

おねえさんはストリートミュージシャンを見ながら言います。
確かに、私もいつからあのギターを担いだおにいさんがあそこで演奏しているのか覚えていない程度にはたまに見る日常風景に溶け込んだ風景でした。

少女「いつからあの人はあそこで歌ってるんですか?」

女「私が初めて気がついたのは高校生くらいのときからだから……もう五、六年以上は歌ってるんじゃないかな?」

少女「それはすごいですね。夢を諦めきれないのでしょうか」

女「あっはは。諦めきれない、か。確かにそうかも。……でも、あそこを気に入ってるようにも思えるかな」

少女「……?」

女「夢を追いかけながら、でも追いつけない……追いつかないような時間も、それなりに居心地はいいものなのかもね。だから彼はあそこで演奏をし続けてるんじゃない?」

少女「それって……ずっと辛くないですか?」

女「うーん、そうかな……そうかもね」

そう言って、少し笑い、オレンジジュースを飲むおねえさんはどこか彼に自分を重ねているような、そんな気がしました。

女「でも、毎日毎日あそこで演奏をしているわけでもないしね。案外どこかの若社長とかで趣味であんなことやってるのかもよ」

少女「なるほど、その発想はなかったです」

女「それが合ってたとしてもずっとここでやってんだから、よっぽどこの町が好きな人なんだろうけどねー」

少女「もっと人通りの多い駅はいっぱいありますしねぇ……もうお盆も終わっちゃいましたがおねえさんはどうしてこの時期にこちらに?」

女「はて、何故でしょう?」

ふふっ。ちょっと笑って、オレンジジュースを飲みます。
私もつられていちごミルクを飲もうと思いましたが、いつのまにやら飲み干してしまったようでした。

女「まっ!私もあそこのおにいさんみたいなものかもね!」

少女「ははぁ……」

女「大人になればわかるよ……なんてね。私もたいして大人ってわけじゃないからなぁ」

ふっと、私のなかに大人っぽいような、子供じみたような、ふとした疑問が浮かびます。

"大人ってなんなのでしょう?"……なんて。

少女「どうすれば大人になれるんでしょうか」

思わず、そんな言葉が口をついて出ました。
何かすらいまいち掴めない大人に、私たちはどうやってなればいいのでしょう。

女「んー……」

おねえさんは残ったオレンジジュース飲みながら考えるように空を見上げます。
もう、夕陽も随分と落ちてしまったようでした。
そして、おねえさんは言うのです。
空の色によく似た、オレンジジュースを飲み切って。

女「無理に大人になんてならなくたっていいんじゃない?」

少女「えっ?」

女「大体、大人だとか、子供だとか。難しく考えすぎなんじゃない?大人になれなくたって素敵な人間になれたらそれでいいわけだし」

おねえさんは立ち上がり、歩きながら話を続けます。

女「そもそも、大人じゃなくたって素敵な子供もいっぱいいるじゃない?」

少女「それは……」

それは……。
私は何も言えませんでした。

女「ま!私たちが目指すべきは大人じゃなくて、幸せなんじゃないかな……っと!」

からんからん。
おねえさんの投げたペットボトルが5mほど離れた自販機横のペットボトルのゴミ箱にすっぽりと入ります。

女「きっと、こんな小さな成功もひとつの幸せだね」

少女「なるほど、わからないでもないです」

女「でもまぁ、幸せってのも難しいものだよ。私たちは"幸せを追い求める"というよりは"幸せと不幸せの折り合いをつけていく"生き方をしていかなきゃいけないわけだし」

少女「でも幸せってきっとなりたいと思わなきゃなれませんよ……っと!」

かこんかこん。
ゴミ箱の端が私の投げた缶を弾いて落とします。
残念、入ってはくれませんでした。

少女「缶だっていつも投げて入るとは限りませんが、投げなきゃ入ってくれやしません」

女「ほんとは持っていくべきなんだろうけどね!」

少女「お恥ずかしい限りです」

女「まぁ先に投げたの私だけどね!こういうとこが大人になりきれないんだよなぁ」

007

がこんがこん。
祭前日、朝です。

お互いに飲み物を飲み終えた後、不思議なおねえさんとは別れ、家に最終兵器を持ち込み、ベランダに置いておいたはいいのですが、やはり家に置いておくのもなんだったので神社に持っていくことに……するつもりだったのですが。

無駄にアニメみたいな立地をしている神社なので、石段の高さも尋常ではなく。
流石にそれを登るのは諦め、石段下にあるただっ広い公園に置いておくことにしました。

前日ということもあり、公園は祭の準備で賑わいます。

そんな公園の中でも人通りの少ない奥の方に台車を押していき、木箱の中を出して日当たりのよい場所に置いておきます。
屋台の裏手になりますし、流石にここまで来る人は少ないはずですので、きっと取られはしないでしょう。

さて。準備は整いました。……なんて。

少女「あーーーー!」

友「うるさい」

準備は全く整っておりませんでした。
そう。

少女「浴衣買ってない!」

友「そういやそだね」

部長「おーい、そこー、今から合わせるよー」

部長がぱんぱんと手を叩きます。
私たち一年生は率先して椅子を並べなければなりません。

「「はぁーい」」

うぅ、買いに行かねば。

友「どんな浴衣にするか決めたの?……というか予算は大丈夫?」

少女「うーん、なんとなくは?……お金なら、お小遣いの前借りは先週に済ましてある!」

友「用意周到なんだか準備不足なんだかわかんないね」

がりがり。
どうして私たちはこんなときも○リガリ君に吸い寄せられるのでしょう。
……習慣というものはおそろしいです。

友「私も浴衣買おうかな~」

少女「いいんじゃない?かわいいのいっぱいあったしね」

友「まぁそこは私レベルになると何を着ても似合いますからなぁ」

がりがり。がりがり。
やはり、夏のアイスは最高です。

友「あれ?無視?冷たくない?」

…………

いざ、舞い戻って参りました。浴衣コーナーです。

友「で、どんなのにするの?」

少女「爽やかに、水色のやつ!」

友「……それ以外は?」

少女「未定!」

友「おーっとこいつぁ難題だぜ」

しかし、決戦は明日。
今日中に決めてしまわねばなりません。

何せ、祭までに浴衣を買うとわたしは男さんと約束してしまっているのです。

……男さんは忘れてそうですけど。

友「ストライプにする?……あっ、ほら、水色と白のストライプとか爽やかだよ」

少女「確かに。かわいい!」

友「水玉も可愛いね、パターンもいくつかあるし、水色だけじゃないのもいっぱいあるよ」

少女「水玉もいいなぁ」

友「花柄も水色はいろいろあるんだねぇ……」

少女「カラフルなのが多いけど、水色ってのがないわけでもないし、かわいい花柄もいっぱいだね!」

友「……決める気ある?」

少女「もちろん」

ありますとも。
優柔不断なだけなのです。

友「はぁ……じゃあこれは?珍しいタイプだけど」

少女「これは……運命だね……!これにする!」

友「はいはい、これも似たような……え?」

少女「これにする!」

友「……お、おう」

その浴衣は、水玉のようで、ひとつひとつが滴の形をした、水色の浴衣でした。
滴の形がどこか雨粒を思い起こし、すごく、すごくぴったりな気がしたのです。
一目惚れという言葉がぴったり当てはまるような、そんな浴衣でした。

ちゅーちゅー。
無事に浴衣も買い終え、フラペチーノが美味しいスタ○での昼下がりです。

しかし、ショッピングモールというものは偉大です。マク○にミ○ドに○タバにドト○ルに……正直、なんでもあります。

大都会にショッピングモールを建設するなれば、下手すると空中要塞レベルの規模になるのではないでしょうか。
いや、でも、しかし。
世にはびこる高層ビルの中にはほぼショッピングモールレベルといってもよい規模の商業施設もあります。
あれが一種の都会版ショッピングモールと言っても過言ではないのではないでしょうか?

すごいとこだと美術館まであるらしいですしね。……おそるべしです。あべのハ○カス。

友「正直、少し夜までの戦いを覚悟してたからすんなり決まってよかったよ」

少女「それは確かに……友ちゃんは浴衣買わないの?」

友「えー?まぁうちにあるからなぁ」

少女「へ、あるんだ」

友「うんうん。丁度流行ってた時期に買っちゃってさー」

少女「流行ってた?」

友「ア○雪仕様なの」

季節感どうなってるんですか。それ。

ちゅーちゅー。
やっぱりフラペチーノは抹茶系統が一番美味しいです。
ちなみに、隣で友ちゃんが飲んでいるのは期間限定のいちごのフラペチーノです。
……○リガリ君には譲れないこだわりがあるものの、フラペチーノに対するこだわりはさしてありませんのでいちごも美味しそうだなぁと思うのでした。
しかし、期間限定という文字に踊らされるのは敗北なのです。

友「ま、これで準備は整ったわけですな」

少女「やったね」

友「いやぁもう明日かぁ、毎年この季節はもうそんな季節かーってなるね」

少女「そうかな……」

友「なるなる。もういちごフラペチーノの季節かー!」

少女「毎年売ってるものなのかなそれ?」

残念なことに、私のス○バに関しての知識がスカスカなのでした。女子力の不足を感じます。

しかし、もういよいよ

少女「あっそうだ」

友「ん?何?」

ひとつ、忘れ物を思い出しました。
最後に、ひとつだけ。

少女「一口交換しよ?」

幼馴染ちゃんへ。

いよいよ明日は祭です。
いつでしたか、幼馴染ちゃんと回ったのも今では懐かしい思い出……と言いたいですが正直、あんまり覚えていなかったりします。

数年前と言えどもそんなに昔のことでもないのに思い出せないなんて変な話だなとも思うのですが、電子機器における重すぎるデータを展開するのに時間がかかるようなものなのかもしれません。

そう、いわば思い出があふれていていっぱいいっぱいで、奥底から引っ張り出すのに時間がかかっているのでしょう。

明日触れる"いろんな"祭でそんな思い出のかけらを拾い集めてゆけたらいいなと思います。

そして、この手紙を読んで、幼馴染ちゃんの中の私との思い出のかけらもいくつか掬い出せたらいいな、なんて。

そうそう。今日の日記を少しだけ。
今日も祭の準備をしていました。
放課後は友ちゃんが浴衣選びや…………

…………

………

……

地の文を押し出すとこう、ボリューミィで書くのもつらいし読むのもつらそうですね……。

しかし祭のシーンを地の文たっぷり、会話たっぷりで書きたかったので準備は終わりました。
とりあえずここからが本番です……。

昨日の時点で祭前日まで書ききりたかったんですけどね!
中盤って書くのに若干飽きてくるのがつらいですね!
今回は流れをすらすら書けるように申し訳程度のプロット書いたのにざっくりすぎてほぼ無意味でした!
乱立させてるフラグを何個か記憶の彼方へと追いやってしまっている気がしますしね!どうなることやら!

少女「おにぎり食べる?」勇者の剣「食えん」は比較的すらすらと書けたのがなんだか奇跡のような気がしてきました。

とりあえず今週中には書き上げたいと思います。
お付き合いいただいている方、ありがとうございます。
今週いっぱいよろしくお願いいたします。

夏の終わりにふっと寂しくなるのはきっと、学生ゆえの夏休みへの名残惜しさの延長でしかなく。

夏が終わってもきっと、楽しいことはいっぱいあるはずで。

ガリ○リ君だってまだまだ美味しい季節は続くわけで。

だったら。やっぱり。

目の前の"夏"を楽しむということがきっと、私にできる最善なのでしょう。

夏は、きっと目の前を流れていくばかりのものにしていてはいけないのです。

だからこそ、どこか寂しくなるのです。

さぁさぁ。

夏が目の前を駆け抜け過ぎ去る前に。

夏が日常からこぼれていく前に。

"夏"を倒しましょう。

夏の終わりの、ひとりぼっちの最前線。

最終兵器にも異常はないようです。

009

わいわい、がやがや。
そんなオノマトペを絵に描いたような騒音が町を包み込む夕方でした。

浴衣に身を包み、駅前で巾着袋をなんとなくぼんやりと眺めていると男さんがやってきました。

男「おー、待った?」

少女「いえ、丁度さっき来たところで待ったのは三時間くらいです」

男「ちょっとじゃねぇよ」

少女「ふふ、嘘です。男さんこそ電車、大変だったでしょう?」

男「あぁ……満員の極みだった」

少女「言っておけばよかったですね」

男「まぁ地元に住んでるなら祭の日にわざわざ電車に乗ることもないだろ?仕方ねぇよ、俺もこうなるのは知ってたのは知ってたしな。……いざ巻き込まれるまで忘れてたんだけど」

少女「うっかりさんです」

男「ドジっ子なんだよ」

少女「男のドジっ子なんて需要ないですよ」

男「それじゃ……」

少女「……男さん?」

私は男さんの台詞を遮り、くるりと回ってみます。

からんからん。
下駄が小気味よい音を奏でます。
この音も風鈴の音と並んで夏の象徴足る音かもしれません。

男「あー、はいはい。似合ってるよ」

少女「なんですか、その適当な言い方」

ぐりぐり。
男さんの腕をつねってみます。

男「いてぇよ」

少女「私は心が痛いです」

男「似合ってる!めっちゃ似合ってるから!」

少女「お小遣い三ヶ月ぶんの浴衣ですからね!」

男「婚約指輪みたいな価格表現だな!」

からんからん。

音を鳴らす下駄と、夜道を照らす提灯。
祭へ続く駅前通り。前も後ろも人だらけ。
ただの人混みを上回る人混みへの少しの暑苦しさもありますが、そんな喧騒の中からひっそりと聞こえてくる祭囃子になんだかどきどきしてきます。

少女「男さん。浴衣の美少女を携えて夏祭りに赴く今の気分はいかがですか?」

男「この祭り初めて来るけど提灯綺麗だな」

少女「無視ですか。踏みますよ」

男「下駄ってそこそこ固いだろ。絶対痛いからやめろ」

少女「蹴りますよ」

男「下駄ってそこそこ重いだろ。絶対痛いからやめろ」

少女「踏んで蹴りますよ」

男「踏んだり蹴ったりじゃねぇか」

少女「夏祭りって何かを奉ったりする行事なのでしょうか?」

男「さぁ……地域によるんじゃねぇの?」

少女「じゃあ、うちの地域はさしてその類いのものではなさそうですね」

男「ん?なんで?」

少女「花火大会の時間になりますと、花火に夢中で神社に人が寄りつきませんから。神様を奉る類いのものではなさそうです」

理由もなくただただ多くの人々が楽しむためだけにそこにある祭、というのもなんだかそれはそれで幸福の追求のひとつの形のようで悪い気はしませんでした。

毒でもなく、薬でもなく、飴のような夏祭り。

いつかの男さんとの会話が脳裏を過りました。

そう。この夏祭りもきっと、誰かにとっての幸福のトリガーなのでしょう。

……いえ。きっと、私にとっても。

からんからん。
提灯に導かれつつ歩き続け、いよいよ橋の上でした。

男「電車に乗ってるときにも車窓からよく見かけるがやっぱでかいよなこの川」

少女「ええ。たまに飛行機のラジコンを向こう岸まで飛ばそうとしている人がいるのですが本当に向こう岸まで電波が届くのか心配になるときがあります」

男「流石にそこらは計算してるんじゃないか?」

少女「いえいえ、それがですね。前に眺めていたときにヘリコプターのラジコンの電波が川の中程で届かなくなったもののラジコンはホバリングし続け、岸と橋を行き来しながら電波を飛ばし続ける人がいて気の毒になりましたよ」

男「なんでその始終を把握してるんだ……」

少女「面白そうなので声をかけて一緒に右往左往してました。まぁ最終的には電池切れで水葬でしたが」

男「話を聞いているだけでなんだか切ないぜ」

からんからん。
いよいよ、祭の会場であるまるでアニメのような川沿いの参道です。
川沿いには草むらがあり、少し奥に進んだところに神社へと続く参道があるのですが、草むら部分の大半は既に花火大会待機の方々のレジャーシートだらけでした。
参道沿いの草むらには屋台がずらりと並んでおり、様々な食べ物の香りでいかにも祭だなとより一層実感します。

男「おー、……アニメみたいだと言いたいとこだったがそこそこ人が多いからなんとも言えないな。ただのよくある祭会場だ」

少女「屋台もたくさんですしね。……しかし今年もすごい人です。花火目当てで年々人も増えてるらしいので年々人混みは酷くなるわけですね」

男「川の向こうよりすごい人混みで確かにこれは辟易するのもわかるな」

少女「えへへ、確かにこの人混みに突っ込むのは気が引けますが、突っ込まねば何の屋台も回れないのです」

男「……よし、いざたこ焼き探しの旅に出るか」

少女「たこ焼きへの情熱がすごいやで……」

ということで明日は屋台編書きます。
書いてあるプロットも「祭りを見回る」の七文字だしリアルタイムで書いてるからどこまで進むのか全くわからないけど!

なんか回ってほしい屋台あったら挙げてください(全投げ)

010

わいわいがやがや。
下駄の音があちらこちらから聞こえてきて、私の下駄の音も紛れていくような喧騒の海です。

少女「とりあえず目についた屋台に片っ端から寄っていきましょう!」

男「破産するわ」

少女「ちぇー、じゃあ気になったものに寄っていきましょうか」

男「祭ってそういうもんだよな……?しかし… …」

きょろきょろ。
男さんが屋台を見渡します。
右、左、前、後ろ。

少女「うへぇ、もう私たちの後ろも人だらけですね」

男「……まるで人の川だな」

少女「川沿いですしね」

少女「男さんは何かお目当てのものなどはありますか?」

男「たこ焼き」

少女「ぶれなさすぎでしょう……他の食べ物は興味ないんですか?」

男「えー?じゃあ甘いものとか?」

少女「ふむ。りんご飴やベビーカステラあたりが無難でしょうか」

男「お、あっちにわたがしがあるぜ」

少女「ふむふむ。わたがし、いいですね」

……雨雲のようで。なんて。

わたあめ屋「へいらっしゃい!」

少女「聖勇者ウィザードシャイニングナイトのやつください!」

即決です。
そもそもダークナイトさんはこの聖勇者ウィザードシャイニングナイトに登場するキャラクターでして。
所謂ライバルポジションのキャラであるわけですが単純に優劣が発生しているわけではなく、純粋に実力が拮抗していながらお互いの発動する魔法の属性を読み合う心理戦でその時の対決の勝敗が決まるなど(※以下略)

わたあめ屋「ほほう!彼女さん良い趣味してるね!」

男「そいつは勇者なのか?魔法使いなのか?騎士なのか?」

少女「男さん、そこは照れながら"か、彼女じゃないです!"って言うところですよ」

少女「はむっ」

いやぁ、いいですよね。わたあめ。
少し手がベタついてしまうのは残念ですが、巾着の中にウェットティッシュを完備してあるので完璧なのです。

少女「男さん、男さん。ひとくちいかがです?」

私はわたあめの先をつまみ差し出します。

男「お、じゃあ貰うわ」

少女「あ、はい」

……

…………

………………?

お互いに、ノーアクション。完全に時間が凍結していました。

男「……?」

不思議そうな顔でこちらを見る男さんの顔がなんだか若干むかつきます。

少女「この私にあーんしろと!?!?」

男「じゃないと俺の手が汚れるだろ……?」

少女「恥ずかしいですね!?」

私は勢いに任せて男さんの口にわたあめを突っ込みました。

男「いってぇ……そこ、いまさら恥ずかしがるとこなのかよ……うめぇな」

少女「聖勇者ウィザードシャイニングナイトですからね」

男「そこは関係ないと思う」

少女「さてさて、では男さん。射的しましょう。射的」

男「完全に今目の前にあったから適当に言っただろ」

少女「いえいえ、そんなことはございません。こう見えて私、射的とあやとりが取り柄なのですよ」

男「の○太くんかよ」

少女「おじさーん!六百円払うので二丁同時でやらせてくださーい!」

射的屋「おう、じゃあ端のふたつ使いな」

男「なんかハイレベル!」

少女「ふっ……異次元のスナイパーレベルの腕前というものを見せてさしあげますよ……」

男「コ○ンくんかよ……厨二病属性そろそろ捨てた方が良いと思うぞ……」

少女「私を甘く見ないでいただきたい!」

目でしっかりと狙いの熊のぬいぐるみを見定めて、両腕に力を込めます。

ぱんぱん!ぱぱぱぱぱん!
あらんかぎりの発砲音。
えぇ、えぇ。わかります。今最高にキマってますね。私。

男「全く当たってねぇじゃねぇか」

少女「やっぱり片手撃ちは安定しませんね」

男「もっと根本から見直すべきだと思う」

男「はぁ……しゃあねぇな……おじさん、俺も一回!」

射的屋「あいよー」

男さんが射的屋さんに三百円を渡し、コルクの弾をいくつか受けとります。

おもむろに構える男さん。なんだか傍目に見るとちょっと面白いです。

男「こういうのはな……」

男「脇を固めてな……」

男「端を狙って回転させて落とすんだよ!」

ぱぁん。
男さんの撃った弾が見事に 熊さんの右耳下にぶち当たります。

しかし、不動……!圧倒的、不動っ……!
男さん、なす術なし…………!
まさに、不毛っ…………!!!

……なんて。

少女「めちゃくちゃダサいですね」

男「お前には言われたくねぇよ」

確かに。
圧倒的ブーメランでした。

少女「まぁまぁ、ほら、金魚でも掬っちゃいます?救っちゃいます?」

男「金魚ってめちゃくちゃでかくなるらしいし飼う環境がないんだよな」

確かに。
私の家も水槽があるのかすらあやしいです。

少女「むしろ飼う環境が整ってる人っているんですかね」

男「よく商売として成立してるよな……金魚すくい……」

少女「スーパーボールなら簡単に飼えていいんですけどねぇ」

男「スーパーボールを飼うって何」

少女「元気な子が多くて、よくおうちの中を跳ね回って遊んでますよ」

男「少女が跳ね回して遊んでるだけだよねそれ」

少女「くじ引きなんていかがです?ゲーム機とか当たるかもですよ」

男「見ろよ、景品にセガサ○ーンがあるぜ」

少女「見てください。ム○キングのアクティオンゾウカブトもありますよ。数年前からの景品引きずってきてますよねアレ。絶対あたりくじないですよねアレ」

男「ワンダー○ワンもあるし置いてあるゲームソフトも○ケモンのパールが新しい方に見えてくるレベルだぞ」

少女「客引きのための景品が客足を遠退けてそうですね」

男「デパートのゲーセンなんかにあるルーレットのやつとかの方がまだ信用できるレベルの信用のなさって中々できることじゃねぇよな」

男「でもまぁ俺、ああいうくじびきのはずれ景品にある振ったら紙が伸びるやつが好きであれ目当てでくじびき引くこともあったけどな」

少女「あぁー。名前なんて言うんでしょうね、アレ」

男「さぁ?伸びるやつでいいんじゃないか?」

少女「祭以外で見かけることもありませんしね」

話題に上ることなんて最早皆無にほぼ等しいでしょう。

少女「くじびきのハズレでしか見かけることのないアイテムっていかがなものなのでしょう」

男「運命……なんだよ……」

生まれながらにして残念の象徴の運命を背負っているとは……なんかかっこいいですね。伸びるやつ。

少女「伸びるやつってやっぱりダサいんでペーパーセーバーとかそんな名前つけません?」

男「ぜってぇ浸透しねぇよ」

男「しかしたこ焼きないなぁ」

少女「ベビーカステラと焼きそば、どっちの方がたこ焼きに近いと思います?」

男「視界の中にある屋台で代替しようとするのやめような」

少女「しかし、たこ焼きはないにせよ、なんだか小腹が空いてきたのも事実ですね」

男「確かに。何か食べたいな。たこ焼きも空腹じゃなきゃ食えんってもんでもないしここらで何か食べることにするか」

少女「何にします?」

男「片っ端から食べるか」

少女「破産しますから!」

少女「ではわたあめにしましょうか。聖勇者ウィザードシャイニングナイトの違うパターンの袋のもので」

男「小腹を満たす気ゼロだろ。あとその頑なに略さない姿勢はなんなんだ」

祭における食べ物というのははっきりとしたイメージがあるようであるようなないような微妙なものです。
たこ焼きだってあるような気がしますけど、ないような気がしますし。
たこ焼き、いか焼き、おでん、焼きそば……。あれ、いまいち浮かばないものですね。
甘いものならいっぱい浮かぶのですが。
わたあめ、チョコバナナ、ミルクせんべい、ベビーカステラ、かき氷……。あれ……あれ?他に何がありましたっけ?

少女「じゃあもうそこにある焼きそばでいいですか?」

男「適当すぎるな」

少女「これくらいが丁度良いんですよ」

男「まぁイカ焼きとかフライドポテトとか挙げてみても、たこ焼きみたいに全然ない可能性もあるわけだしな……。焼きそばでいいんじゃないか……?」

フライドポテト。確かにたまにありますね。盲点でした。

少女「いか焼きならかなり前に見た気がしますよ」

男「かなり前まで逆走したくねぇわ」

同感です。

人の流れる川に沿って隅に寄せた遠慮がちな行列が焼きそばの屋台にできていました。

少女「そこそこ並んでますね、これ」

男「みんな焼きそばが好きなんだな」

少女「焼きそばが焼きそば生で最も輝いてる瞬間ですね」

男「焼きそば生って何」

わいわい、がやがや。
そんなに長くもない前方に伸びる列を眺めていると、目の前のカップルを挟んで向こう側に知ってる顔が。

少女「友ちゃん?」

友「……ふぁ?」

右手に、焼きとうもろこし。
左手に、フランクフルト。
そして口には、焼き鳥。

あぁ、そんなものも祭にはありましたね……。
いろんなツッコミよりそんな感心が先行したのでした。

ほかほかの焼きそばを両手に、列からなんとか抜け出します。

友「はひへはひへ」

少女「とりあえず焼き鳥は全部食べよう」

友ちゃんは大急ぎで焼き鳥を飲み込みます。
そんなに急がなくてもいいのに……。

友「はじめまして!」

男「は、はじめまして」

私は男さん側を向き、説明します。

少女「こちら同じ部活の友ちゃんです」

振り返り、友ちゃんを見て言葉を続けました。

少女「そして、こちらがロリコンの男さんです」

男「語弊があるぞ」

友「えへへ~仲良しなんですね~」

少女「まぁね」

男「そこは否定するところなんじゃないのか……?」

しかし、先程から気になることがありました。

少女「あれ?友ちゃん、トロンボーンの子誘ってなかったっけ?」

友「あぁ、そのことなんだけど……ちょっといいかな?」

友ちゃんが申し訳なさそうな顔で屋台の外れを親指で指差します。

少女「へ?いいけど」

私がそう答えた瞬間でした。

友「ちょっと少女ちゃんお借りしますね!これレンタル料です!」

そう言ってフランクフルトを男さんに差し出す友ちゃん。

……困惑しませんか?それ。

それをツッコむ暇もなく続けざまに手を引かれていく私。さながら誘拐です。

あーれー。……これは帯回しですね。

友「少女さぁ、男さんから目線そらしてない?」

やめてください。
せっかくその点については触れずにここまでやって来たというのに。
浴衣姿で男性の隣を歩くのが少しばかり照れる程度には私も恥ずかしがりなのです。

少女「話しながら並んで歩いてるわけだし男さんを見続ける方が不自然じゃない?」

友「不自然で構わん!突っ込め!」

少女「友ちゃんは私をどうしたいの……」

友「面白ければなんでもいい!」

少女「最低だよね!?」

友「私の浴衣姿もかわいいでしょ?」

少女「ガールズトークかな!?」

友「ガールズトークだよ」

ガールズトークでした。

友「まぁそれはそれとして、私さっき友達とはぐれちゃってさぁ」

友ちゃんは焼きとうもろこしを食べ始めながらそう言います。

少女「なるほど、それで一人なの?ケータイは?」

友「忘れてきちゃったんだよねー、いつものカバンの中に入ってるはずなんだけど……ほら、今日はこれだから」

ゆらりゆらり。友ちゃんの巾着袋が大きく揺れます。

少女「連絡手段がないんだね……私から連絡入れようか?」

友「いや、いいよ。どうせそのうち見つかるだろーし」

友ちゃんはどこまでも楽観的なのでした。

友「まぁそれもそれでどうでもいいんだよね、そのうち見つかるよたぶん」

とうもろこしがすごいスピードで減っていきます。
祭で売っているあの丸々一本のものは食べたことがないのですが、食べづらくはないのでしょうか……?

友「ところで、少女たちも誰か探してるの?」

少女「へ?誰も探してないよ?」

友「ふぅーん、そっかぁ。……まぁどうでもいいんだけどね!少女たちは食べるとこあるの?」

言われてみればこの人混みでは食べるところを探すのにも一苦労しそうです。

少女「全然考えてなかった……」

友「いぇーいざまぁ!」

少女「それだけ!?」

友「いえいえ、そんなことはございません」

友ちゃんはにこりと笑いながら首を横に振ります。
ついでにとうもろこしもラストスパートに入ったようでした。

友「さて……っと!」

とうもろこしを全部食べ終え、くるりと背を向けます。

友「諸君らに食べる場所がないというのは見逃せない由々しき事態ですな」

とうもろこしを振りながら少し威張るようにそういう友ちゃん。……あまり威厳は感じられませんが。

友「それでは一緒に食べますか!」

……どれだけ食べるつもりなの?

両手に焼きそばを下げた友ちゃんにそう聞く勇気は私にはありませんでした。

男さんと共に友ちゃんに先導され、今まで来た道を屋台の裏を通って少し引き返します。

友「まぁ友達とはぐれちゃったのも最初は由々しき事態だなーと思ったのは思ったんだけどさー」

男「依然として由々しき事態ではないのか……?」

友「それがさっき知らない人に絡まれて意気投合しちゃってさぁ」

少女「コミュ力高いね!!」

男「俺達も人のこと言えねぇよ……」

確かに私達も似たようなものなのでした。

友「それでその人に陣取りを頼んで焼きそばの屋台まで使いっぱしりをしてたってわけですな~」

どうやら友ちゃんが両手に下げている焼きそばを両方食べるわけではないらしく、少し安堵してしまいます。
……がっかり感も少し、ないでもないですが。

少女「焼き鳥とかとうもろこしとかは……?」

友「寄り道だよ!全部おいしそうに見えちゃってついつい……全部おいしかったけどね!」

友ちゃんなら一人でもお祭りをエンジョイしてそうだな、と思いました。

しかし、知らない人と一緒になるのは……。
と思っていた矢先でした。

友「あっここだよ。どうもー!女さーん!」

男「女……?」

女「おっ、友ちゃ……あれ?あなたこの前の!へー!友達だったんだ偶然!……って……あ……」

少女「どうも……?」

男「……よう、ひさしぶり」

女「ひさしぶり!男くん!えーっと!何年ぶりかな?三年くらい?おっきくなったね!」

男「伸びてねぇよ!成長期は終わってたわ」

私はこの瞬間にひとつ、学びました。

世間というものは思ったより五千倍くらい狭いみたいです。

011

参道外れの、階段。
祭の喧騒が遠い、というわけではないですが少しだけ外れてしまうような。
いわば、蚊帳の外ではなく蚊帳の隅。

どこかちぐはぐな四人で焼きそばを囲う不思議な空間がそこにはありました。

少女「えっと……?友ちゃん、このおねえさんに絡まれたの?」

ずるずる。
焼きそばはまだほかほかでおいしいです。

友「いやぁ絡まれちゃったんだよねー」

女「そういえば自己紹介がまだだったね?私、女っていうの」

そして、男さんの腕を引っ張って続けます。
あぁ。焼きそばをこぼしそうになっている男さん、どんまいです。

女「こいつとは幼馴染みたいなもんかな?」

少女「は、はぁ……あっ私は少女です」

女「はいはーい、改めてよろしくね!」

男「いきなり引っ張らないでくれよ」

女「やあやあ、そんな怒んないでくれたまえよ男くん……なーんてね!」

男「変わんないなぁ」

はぁ。大きなため息を吐く男さんを見て私は確信しました。
……この人は巻き込まれ体質ってやつなのだなぁ。

友「男さんと女さんって三年くらい会ってないって言ってましたよね?」

男「あぁ、それは」

男さんの言葉を遮るように女さんが言います。

女「上京してたんだよねー、私」

そういえば、一昨日に会ったときにはキャリーケースを引いていましたね。

男「……女は夢、叶ったの?」

男さんがどこか優しい声でそう聞きます。
それは、なんだか初めて聞いたような声でした。

女「……うぅん、ダメだった」

女さんは笑いながらそう言い、焼きそばを口に入れます。

友「夢?」

友ちゃんもそう言った後に焼きそばをずるずる。……今気がついたのですが、友ちゃんの焼きそばだけ大盛りのようです。……すごいなぁ。

女「さて、この三年で大人になれたかな?男くん」

男「まだまだだよ。女は変わらないね」

女「そうかな?」

男「そうだよ」

ふと、祭の人の川を眺めます。
毎年見るような、毎年見てきたような、そんな同じ景色です。
でも、それでも。
三年前も、今も、この流れは変わり続けているのでしょうか。
変わらないように見えても、尚。中身はほとんどが入れ違ってしまっているのでしょうか。

幼馴染ちゃんと見ていた景色と、今ここから見えている景色は、同じなのでしょうか。

女「変わらない……か。私もまだまだ大人にはなれないのかなー」

男「女は元々どこか大人っぽいんだよ」

"大人っぽい"。
何故かその言葉がちくり、と刺さりました。

女「"大人っぽい"ことと"大人である"ことってのは違うからね」

男さんは何かを言いたげでしたが、何も言いませんでした。女さんは流れるように言葉を紡ぎます。

女「まぁそもそも私は男くんより歳上なわけだから、大人っぽく見えて当然なんだけどね」

確かに、部活の先輩は大人っぽく見えるなぁ。……なんて。

友「夢ってどんな夢なんですか?」

女「えっとねー。デザイナーってやつ?」

男「昔から目指してるんだよな」

女「もう諦めちゃったけどね」

友「そんなぁ、もったいないですよ」

女「いつまでも子供じゃいられないんだよ……って実際に言ってみるとなんだか安っぽいね。あはは」

そこにいた人はみんな、女さんを止めたかったのではないでしょうか。
でも、女さんの言うことももっともで。
無責任に止めることはできなくて。

男「じゃあこれからはこっちに住むのか?」

女「んー、そのつもり。とりあえず荷物をいくつか置きに来たようなものだから準備もまだ何もできてないんだけどね。この祭も見たくてちょっとバタバタしてたし」

気がつけば友ちゃんは焼きそばを食べ終えていました。
はやっ。私まだ半分しか食べてないのに。

女「ところでさ……」

男「ん?何?」

女「……や、いいや。少女ちゃん……だっけ?おもしろい縁もあるもんだね」

少女「えぇ、本当に。今日はお酒飲んでないんですね」

女「あはは、やだなぁこんな夕方から飲むわけないじゃない」

はたしてどの口が言っているのでしょうか。

少女「というか酔ってなくても絡んだりしてるんですね」

絡まれたのが酔っぱらいでないだけ友ちゃんは幸運……と言いたいですが女さんは素面と酔っているときの差違があまりないのでなんとも言いがたいのでした。

女「ま、ただ暇人なだけだよ」

男「……違いない」

友「まぁ話してて楽しいからいいんですけどねん」

女「おっ、嬉しいこと言ってくれるねこのこの~」

友「ひゃへてくらひゃーい」

ほっぺたふにふに。すごく柔らかそうでいいなぁ。今度私もやってみましょう。

女「でも少女ちゃんにそう言われちゃうとなんだか飲みたくなってきちゃったなー。なんか屋台探しちゃおっかぁ」

そう言うと女さんが残りの焼きそばを一気に食べ、背伸びをします。

少女「飲まないんじゃなかったんですか……?」

女「もう夕方というより夜だしね!いーのいーの!」

適当な人だなぁ……。そこが魅力的であるのかもしれません。

友「あっじゃあ私も女さんと屋台見回ってくるね!」

慌てたようすで女さんを追いかける友ちゃん。
大方、私たちをふたりきりにしたいのでしょう。
ありがた迷惑……というほどでもないですね。

少女「また、ふたりきりですね」

男「そうだな」

少女「嵐のようでした」

男「確かに」

喧騒は依然として耳をつんざきますが、ちょっとした祭の傍の静けさの中でいろんな思いや考えが頭の中を駆けめぐります。
本当、本当…本当に。いろいろ。

参道の上。
屋台の屋根のさらに上。
そこには提灯がずらりと並びます。

毎年、毎年そこに吊るされるのです。

参道を流れてゆく人が幾重にも入れ違っても。
屋台や、くじびきの景品が入れ替わっていっても。

変わらずにそこに吊るされる提灯たち。
変わらずにそこで輝き続ける提灯たち。
きっと、これも。

少女「女さんも言っていましたが、もうこんな時間です。そろそろ神社に向かわないと、ですね」

男「ん?あぁ、そうだな」

きっと、これも。

誰かの夢の結果なのでは、ないでしょうか。

"子供"の延長線なのでは、ないでしょうか。

……だったら。

012

からん、からん。
人混みへと歩く途中の下駄の音がやけに耳を刺すような気がしました。
だんだんと、喧騒に紛れていき、鈍くなっていく下駄の音が寂しいような気がして。
人混みに近づくのに寂しくなるなんて、不思議なものですね……なんて。

少女「さて、男さん。まだ少しだけ時間はあるので前に進みながらもう少しだけ屋台を巡ってみましょうか」

男「ん?まぁいいが」

少女「ふふっ……たこ焼きもあるかもしれませんしね……。それに、今日は……」

男さんの方を向いて、
少しだけ、息を吸い込みます。

男さんが不思議そうにこちらを見ます。
そして、目が合って。
……目が合って。
実のところ、今日はこれで初めて目があったような気がします。

それに、今日は。

少女「夏祭りですよ!」

そう。今日は年に一度、夏の代名詞。夏祭りなのです。

少女「全力で楽しまなくっちゃ、夏が逃げちゃいますよ?」

男「ふっ、あははっ……そうだな。逃げる前に捕まえないとな」

……まぁ、夏は逃げる前に倒すものなんですけどね。

男「じゃあ何を見て回るかな」

少女「うーん。そうですねぇ。わたための補充システムってあるんですかね?」

男「そんな遊園地におけるポップコーンバケツみたいな制度があるのか……?」

少女「聞いたことはないですね」

男「じゃあないだろ……」

少女「雲をつかむような話でしたね」

少女「それでは、りんご飴にしましょう」

向こう側に見えるりんご飴の屋台を指差します。

男「確かにあるにはあるが……ちょっと遠いぞ?」

少女「好きなんですよ、りんご飴。それに、どうせ通る道ですしね。あの屋台より少し向こうが階段なので」

男「ふむ……んじゃ、あそこまで進むか」

少女「出発進行、です!」

少女「ヨーヨー釣りって難しすぎますよねぇ……」

ぶーぶー。道中にあったヨーヨー釣りの屋台に果敢に挑んでみたはいいものの、ひとつしか取れませんでした。

男「あれって子供以外にやってるやついたんだな。俺も久しぶりにやったわ」

少女「ヨーヨーってそれなりに楽しいですよ?」

ぽんぽん。少し跳ねさせてみます。
こういうアイテムって祭らしさがあっていいですよね。

男「まぁ、確かにな」

ぽんぽん。二人してヨーヨーをぽんぽんさせるってのも悪くないです。

少女「じゃあ次行きましょう!次!」

男「まだ寄るつもりなのか……?」

えぇ、もちろん。……なーんて。
声には出しません。

少女「見てください見てください!聖勇者ウィザードシャイニングナイトだけでなく暗黒騎士ダークナイト・ゼロのおめんまでありますよ!やばくないですか!?はんぱなくないですか!?まじ尊くないですか!?」

男「文章量に反して語彙力が悲惨なことになってるぞ」

少女「うぅ……おばさん、これ五枚ください」

おめん屋「あいよー」

男「まてまてまてまてすみませんひとつで」

おめん屋「あいよー」

少女「ぶーぶー」

男「ぶーぶーじゃねぇよ!いつつもどうするつもりなんだよ!」

少女「まず両肩と胸にですね」

男「電○のクライマックスフォームじゃねぇんだよ!」

少女「男さん、男さん」

男「……あん?」

少女「ホワイトチョコバナナなんてのがあるらしいですよ」

男「気になるのか?買うか?」

少女「男さん、今いかがわしいこと考えたでしょう!?」

男「完全にそれが言いたいだけだよな!?」

少女「心が汚れてますよ」

男「お前は白々しいな!」

少女「純白のような心ですからね」

男「うるせぇ」

こつん。軽くでこぴんされてしまいました。

少女「むむぅ……。おじさん!ホワイトチョコバナナふたつで!」

チョコバナナ屋「おう、ふたつな。待ってな」

男「買うのかよ……」

少女「むむむ、さくらんぼ飴もいいですね」

男「なんというかやっとりんご飴にたどり着いたかって感じだな」

少女「でもまぁ、こういうのは王道が一番ですよねっ……おにいさん!りんご飴ふたつください!」

りんご飴屋「うぃーっす」

男「……なんつーかさ、エンジョイしてんな」

少女「はい?」

男「浴衣に巾着袋で。お面被って、わたあめの袋下げて、チョコバナナにりんご飴。……それに、ヨーヨー。なんつーか、夏真っ只中って感じ」

少女「ふふっ、男さんもヨーヨーとチョコバナナにりんご飴は同じですから、それなりに夏っぽいですよ?」

でもきっと、ここにあるのは青春で。
そういう意味では夏じゃなくて春なのかもしれません。

携帯電話で時計を見ると、19時半の少し手前でした。
花火まであと三十分くらいですか。

少女「それでは、登りましょうか」

穴場スポットへと続く階段を。

013

かつん、かつん。
だんだんと喧騒が遠のいてゆきます。

なんだか私の下駄の音が夏の終わりの足音のような気がしてちょっと寂しくなります。

少女「ねぇ、男さん」

男「ん?」

少女「"大人になる"って……大切なことでしょうか……」

男「いつまでも子供でいられないってのは仕方のないことなんじゃないか?」

少女「そこ、そこなんです。確かに。みんなみんな、いつまでも子供ではいられないのかもしれません」

でも。それでも。

少女「それって、子供ではいられないってだけで。子供じゃなくなったからって大人になれるわけでもないと思うんです」

…………。
男さんは何も言いません。

私も、振り返らずに。男さんを見ずに階段を一つ一つ、登ってゆくのでした。

かつん、かつん。

少女「でも、大人が正義で子供が悪なのでしょうか」

かつん、かつん。

少女「童心だって忘れずに生きていきたいと私は思います」

かつん、かつん。

少女「この祭だって……いえ、世界中のエンターテインメントはすべて根本に童心があるのではないでしょうか?」

かつん、かつん。

少女「きっと、夢へと至る階段というのはそんな、ちょっとした陶酔感の積み重ねなのではないかって思うんです」

かつん、かつん。

かつん、かつん。

かつん……かつん。

そう。

倒そうが、捕まえようが、駆け抜けようが、夏は終わっていくのです。

見たくないものを見ようとしなくたって。目をそらしたって。夏は終わるのです。

私は、振り返って男さんに聞きます。

本当はずっと、気になっていたことを。

見ないふりをしていたことを。

子供っぽい真似はもうやめて、子供っぽいわがままを、ひとつ。

少女「男さん、この街に女さんが帰ってきていること、知っていましたよね」

本当は、気がついていたのです。
男さんがずっと、女さんを探していることに。

……いえ、嘘です。それが女さんだとは夢にも思いませんでした。でも、男さんが誰かを探していることは、わかっていたのです。

そもそも、屋台を見渡すときに真後ろなんて見る必要なんてなくて。

たこ焼きを探しているようで人混みに視線を配らせているのもわかっていて。

私が男さんと目を合わせなかったのは、私だけの問題じゃなく、男さんの視線がいつもいつも泳いでいたのもあったからで。

いろんな、いろんないろんな"見なかったもの"が。
"見ていないつもりだったもの"が溢れます。

それを見なかったのは……。見れなかったのは、きっと。

見てしまえば、この時間が崩壊すると、どこかで感じてしまっていたからかもしれません。

少女「男さん。連絡先が渡せなかった人の話、してくれましたよな」

男「……あぁ」

少女「そのときの相手って……」

男「あぁ、そうだよ。女のこと。あのとき、渡せなかった相手」

男さんの、連絡先。
今は私が持っているその紙を、渡すはずだった人。

男「まぁもう連絡先は交換してるんだけどね」

少女「……本当は、言いたいこといっぱいあるんじゃないですか?」

男「さぁ、どうだろ」

かつん、かつん。
喧騒はとっくに遠く。階段ももうそろそろ、終わりを迎えようとしていました。

男「……昔にさ」

男さんが、ぽつりとつぶやきます。
小さな言葉の種でした。

男「女が東京に行く前に、告白したんだ」

言葉の種は段々と成長し、更なる言葉を紡ぎます。

男「俺がまだ高校生の頃。東京行くって聞いてさ。なんかいてもたってもいられなくなって。言いたいことが溢れて、気がついたら告白してた」

少女「……フラれちゃったんですっけ」

男「まぁ、そうだな。"私には夢があるから"って、ただそのひとことだけだった」

"夢があるから"。
そう言った人が夢を諦めた姿を見て、男さんはどう思うのでしょう。

……私にはわかりません。

男「まぁ、そうなんだ。うん。ずっと、女を探してた。言いたいことが山ほどあったし」

かつん、かつん。残り少ない階段を二人で少しずつ、登ります。
大人の階段なんてしゃれたものではなく、ただの神社の階段を。

男「……でも、言いたいことが溢れすぎててさ、何から言えばいいのか全くわからなくて。何から言うべきなのか、全くわからなくて、何も言えなくてさ」

男「女が東京にいたときだってメールもなんにも送れなかったのはきっとそういうことだったんだろうな」

少女「男さん。そういうときはですね……」

あー。こういうときって、なんだか気恥ずかしいものですね。

少女「言うべきことじゃなくて、言いたいことを言えばいいんです」

そう、今の私みたいに。

ちょっとわがままで、子供っぽいですけどね。……なんて。

かつん、かつん。

目の前には小綺麗な神社。

階段を全て登り終えたようでした。

振り替えれば、街の灯りと、手前一面に流れる川がよく見えます。

どうやら、今年も人はいないようで。

男「少女……俺さ……」

少女「男さん」

男さんの言葉を遮ります。男さんの言葉がわかっていたから。

少女「私ちょっと一人で夜風に当たりたい気分です」

……なんて。
男さんは少し悩んで、荷物を全て階段横に置きました。

男「荷物、頼むわ」

少女「えぇ、待ってます」

男さんが勢いよく階段を下っていきます。

私は、上手く笑えているでしょうか。

携帯電話で時間を確認してみると、19時45分過ぎでした。

結局、花火を見るのは私一人じゃないですか。ばか。……なんて。

一人で、この神社前。
去年と同じような光景です。

……でも、不思議と悪い気はしませんでした。

青春は、常に誰かと与え合うもの……なんて話もしたような気がします。

しかし、一緒にいることだけが青春の与え方……青春の作り方でもないようです。

私は少し、こわがりすぎたのかもしれません。
手の中にある青春がこぼれてゆくわけなんて、なかったのです。

……なーんて。

かぷり。
チョコバナナはやっぱり、おいしいです。

めちゃくちゃ頑張ったけどやっぱり終わらなかった!残念!でもあとちょっと!外が明るくなってきた!こわい!おやすみ!

014

どん、どん。ぱら、ぱら。

……ぱんぱん。

空に花が手向けられ、ひとつ、ふたつ花が開き。

瞬く間に川沿いの景色はひとつの花束となりました。

……いえ、もうこれは花畑と言った方がよいのかもしれません。

一面に色めいて、弾いて、広がって、咲いて、輝く、光の花畑。

毎年観ていても、やはり心打たれます。

それ故に、今、このときが私にとっての夏の象徴で。

それ故に、私にとっての"夏"はこの瞬間に全てを体現されていて。

……だからこそ、今日こそは。……今年は。……なのに。

神社の暗闇に慣れきった目に、街の灯りと花火の光が刺さるように染み込みます。

からん、からん。
暗闇に響く下駄の足音は少し、寂しげです。

これじゃあ、いつも通りで。

例年通りじゃ、ないですか。

「ばーか」

なーんて。

……なんて。

隣には、男さんの荷物があるわけですから。

私たちにとっての花火の花言葉は約束なのですから。

きっと、きっと、戻ってくるのです。

だったらやることはひとつでしょう。

夏を倒すための最終兵器の準備です。

敵の包囲網は例年通り。対策はバッチリです。……なんて。

……なんてっ!

015

男「ただ……いま……」ゼーハー

ぜぇ、はぁ。ぜぇ、はぁ。
どんどん、ぱらぱら。

花火の破裂音に男さんの息切れが混じります。

少女「もう、遅いですよ」

男「これでも全力失踪で来たんだよ」

少女「……むぅ、そのようで。戦況の方、いかがでしたか?」

男「戦況……?まぁいいや。フラれなおしてきた」

少女「フラれちゃいましたか」

男「あー……まぁ、フラれちゃったな」

なんて言いつつも、男さんはどこかすっきりしたような顔で。

……いえ、むしろそれも今まで私が見落としていた……見ようとしなかったもののひとつなのかもしれません。

どこか物憂げな、どこかで何かが引っ掛かっているような。そんな表情ばかりを目にしていたのかも、しれません。

少女「言いたいことは、言えましたか?」

それでも、わかりきった愚問を呈してみます。

男「そりゃもう、わがままをありったけ」

少女「ひゅーひゅー、青春ですね」

男「うるせぇ」

少女「では最後に、ひとつだけ」

わたしからも、ありったけのわがままです。

私は準備しておいた最終兵器に被せておいた布を奪い去ります。

少女「"夏"を作りましょう?」

そう。
今、ここから、新しい"夏"が生まれるのです!

男「……ちょっといいか?」

少女「えぇ、どうぞ」

男「なんだそれ」

男さんが最終兵器を指差し問いかけます。

少女「夏をぶっ倒すための最終兵器です」

男「……えー」

少女「えーってなんですかえーって」

男「え?それマジな感じの大砲?」

少女「マジな感じの大砲です」

男「えっ?ここにあったの?」

少女「廃墟にありました」

男「考えうる限り最悪の出どころじゃねぇか」

男「えっと?それをわざわざ廃墟から運んできたのか?」

少女「えぇ、まぁ。玉はそれなりに重いですがなんとか持てる重さではありますし、大砲なんかむしろ玉より軽いくらいですよ」

男「えぇ……密度とかどうなってんの?」

少女「光るこけしとかやたらめったやら輝く剣に比べたら重さの違和感くらいは誤差かなって」

男「最早違和感の物差しが誤ってるな……」

男さんは大砲へと歩いていくと大きな大砲を押します。

男「うわ軽っ。なにこれ」

少女「ちなみに玉は既に装填してあるので玉込みの重さがそれですよ」

男「えっ……これミスリルとかオリハルコンでできてないよな?」

少女「本当にそれらの類いでできてそうなのでやめてください」

やめてください。

少女「まぁ実はこれ、"花火"と書いてあった木箱の中身なんですけどね。説明書つきですよ」

男「街ひとつぶっとぶレベルの大輪が空を覆うことはないよな?」

やめてください。

少女「やってみればわかりますよ」

男「やめよう」

確かに若者一人二人の青春のために街ひとつ吹き飛ぶのは最早悲劇どころじゃないです。

少女「まぁ表記も爆弾とかじゃなく花火でしたし、説明書の注意書きも普通の花火と大差なかったですし大丈夫ですよ」

たぶん。

男「廃墟にながらく放置されてたなら湿気でやられてるんじゃないか……?」

少女「大丈夫です。ググって出てきた対処法通りに日中に日光に当てて乾かしておきました」

男「リスキーすぎる」

少女「まぁ、なんといいますか。そんなパンドラボックス的なものだからこそ私はこれで夏を倒したいのです。……私の中の夏のイメージを上書き保存したいのです」

男「上書きするまでもなく人生の電源オフボタン押されないかなこれ」

少女「ではあちらの花火が終わったらこちらのマッチを大砲の筒の中に投げ込んでください」

石段の向こう側、街明かりをバックに依然輝き続ける花火のパレードを指差します。そろそろラストスパートといったところでしょうか。

男「えっ導火線とかないの?」

少女「ないです!女々しいですよ!覚悟決めてください!」

男「フラれたショックで自殺を図る気分だ」

読み返してから書こうと思ったんだけど読み返す気力なんてなかった。

やっと終わりそうです。
……が、終わったら終わったで男視点の話も書かなきゃだめだよなぁこれって思ってるのでアレ。

どん、どん。

遥か遠くから、依然花火の音が暗闇に響き渡ります。

少女「まぁ、あとはその火種を中に投げ込むだけで発砲されますから」

男「物騒だし発砲じゃなくて発射って言ってくれ」

少女「ふふっ……そうですね」

あと、少しだけではありますが、花火は続きます。

……ですから。

少女「終わるまでは、ここで花火を眺めましょう?」

そう言って、預かっていた荷物からりんご飴を渡します。

こうやって、誰かと二人で並んで、いつもの花火を観る。……そんな当たり前も私にとってはひとつの新しい夏の形なのですから。

男「……俺のチョコバナナは?」

少女「遅いので食べちゃいました」テヘッ

てへぺろ、です。

016

花火を観ながら、石段に二人。
相手は違えど、それはいつも心の隅でずっと願っていた光景でした。
幼馴染ちゃんとも、またいつかここで花火を観れたらいいなぁ。

男「しかしやっぱりすごいな。すごく綺麗だ」

少女「よく言われます。ありがとうございます」

男「お前じゃなくて花火だよ」

少女「真っ向から否定とはデリカシーに欠けますね」

男「はいはい、お前も綺麗だよ」

少女「そこはお前の方が綺麗だよ、ですよ」

あと、あからさまに流されるのはむむって感じです。

男「この花火に勝てる自信があるのか?」

少女「負け戦はしない主義です」

ふふん。私は得意気に後ろに控えた最終兵器を指差します。

男「そういう意味じゃねぇよ」

こつん。おでこを小突かれちゃいました。

男「下、川沿いで見てる人の数もすごかったぞ」

少女「まぁ、川に近づけば近づくほど迫力はありますからねぇ……ある意味、ここの弱点はそこやもしれません」

男「確かに下で走りながら見てた花火の迫力はすごかったな」

少女「草むらに夕方からレジャーシートが密集するくらいですからねぇ……でも、私はこれくらいの距離感を保って観るこの花火も好きですよ」

男「……あぁ、そうだな」

少女「正直ここが好きというよりあの人混みに混ざりたくないという感情が強いんですけどね!!!!」

男「そうだな!!!!」

少女「あっ。でも屋台沿いは花火が始まる前に比べると随分と通りやすくなってたでしょう?」

男「確かに。屋台ほっぽって花火見てる屋台の人もいたしな」

少女「怒られないんですかね……?」

少女「私、ずっと青春の作り方について考えてたんです」

男「作り方?」

少女「一人じゃ無理ですが、今年は男さんがいますから。いつも通りじゃないから、何かできるんじゃないかって。何か変われるんじゃないかって」

男「ははぁ……なんだか夢を追いかけてるみたいだな」

少女「夢……ですか」

私はふと、あの駅前で歌っていたミュージシャンの人を思い出しました。

少女「私は……私にとっては確かに青春は夢のようなものなのかもしれません」

身近にあって、どこにもなくて、見えないけれど、どうしても目の前をかすめていく青春。

そんな、近くに転がっている青春にも一人じゃ、手が届かなくて。

男「青春なぁ……」

眺める先の空では青春の象徴達が次々と花開きます。

……そう。
私は、あんな風に。

やっと追い付いた
亀だけどあなた勇者の剣の人でもあったのか、毎度ありがとう

少女「私、輝いてますか?」

男「……は?」

少女「私、キラキラしたいんだと思います……いえ、キラキラしたいんです」

言ってみて、なんてありふれていて、なんて抽象的な願望なのだろう、と思いました。
でも、男さんは少し間をおいて、笑って。

男「ははっ……そういうときはな、周りを見るんだよ」

少女「周り……ですか?」

それは、すごく予想外な言葉でした。

男「周りっていうか、世界ってのは鏡みたいなものでな。自分の見えてる世界がキラキラしてたらそれはそいつがキラキラしてるってことなんだよ」

……キラキラ。
私の、見えている世界。
それは……。それは。

少女「今は、ちょっと眩しいくらいですね。ラストスパートでしょうか」

男「花火の話じゃねぇんだよ」

……ちょっとした、照れ隠しです。

なーんて。

少女「……ところで、今日の私の水着、雨のようで素敵でしょう?」

男「うぉっホントだドロップ型になってる。ただの水玉だと思ってた」

少女「えっ……気づいてなかったんですか……」

男「まじまじ見てると変態みたいじゃん?」

少女「全く見てないのは女心のわかってない人みたい……じゃないです。女心のわかってない人ですよ」

男「あっ、でもあれだな。あの日と同じような青色だな、とは思ったぞ」

少女「あの日?」

男「あぁ、七夕祭りのときの少女の浴衣だよ。覚えてるつったろ?」

少女「ははぁ、そういえば青色でしたっけ。たまたまですよ」

男「女心がわかる気がしないな……」

本当は覚えている、だなんてことはないしょです。

水着じゃねぇよ浴衣だよ煩悩が出てきてるよばーかばーか(自戒)

少女「そういえばですね」

私が言いかけた、そのときです。

どぉん。

それまでの花火の破裂音と比べても一際大きな音が鳴り響き、空一面が夕焼けのような赤色に染まります。

まるで夕刻のように明るくなった景色が、祭の終わりを告げるのです。

毎年毎年、その景色が告げる終わりは、友達にさよならを告げる夏の夕方のようで、寂しさをどこか助長させるような気がしました。

少女「……終わりですか」

男「すっげぇ……」

少女「ほら、男さん。やりますよ」

男「余韻にくらい浸らせてくれよ」

少女「だめです」

だって、私たちの夏の終わりはこれから始まるのですから。

017

街明かりと星の光が照らすのみになった、神社にひとつ、マッチの光が足されます。

男「遺書書き忘れたんだけど」

少女「いらないです」

私は書いてきましたけど。

男「なんでその防弾シールド持ってきてんの」

少女「大砲を運ぶついでです。効果があるかはわかりませんが死にたくないてすからね」

男「俺を殺したいんだな!?事務机の引き出しより絶対、危険度高いからなこれ!」

少女「事務机の引き出しに危険を感じる人生が危険ではないでしょうか」

男「うるせぇ!」

ぽんっ。
虚ろげな灯りが筒の中へと放り出されます。

どんっ。

おそろしく大きな爆発音が耳をつんざきます。

直後、どこにそんなに隠れていたのかという量の鳥達が神社回りの木々から空へと飛び立ちます。焼き鳥になりますよ。

放たれた花火の光はまっすぐに空へと飛んでゆき、石段の真ん中ほど、遥か彼方の上空まで辿り着き。

ばんっ。

破裂しました。
これまた一際に大きな破裂音。

瞬間、七色が景色を覆います。

今までにみたこともないような大輪が空一面に花を開き、七色の光が雨のように街に降り注ぎます。

光を散りばめるのではなく、光で塗りたくったような空。

まるで、クリスマスのイルミネーションをまとめて空に閉じ込めたような空でした。

少女「……」

男「……」

世界は光と色を徐々に失っていき、世界がまた暗闇の海に沈んでも尚、七色の光の残骸が目と頭の中を駆け巡ります。

数拍置いて世界が浮き上がり、祭囃子と喧騒が再び頭の中に流れこんできました。

男「……生きてるよな?」

少女「生きてますね」

男「筆舌に尽くしがたいな」

少女「夢のようでした」

男「青春だろ」

少女「ふふっ……そうですね。青春は青色ではなく、虹色のようです」

そう言って、振り向いた先には……あれ?

少女「おや、大砲がないです」

男「いやいやいや、どこに消えるんだよあんなもん」

少女「説明書には使い捨てって書いてましたが……こういうことでしたか……」

男「RPGの消費系攻撃アイテムかよ」

少女「でも好都合ですね。あのままだと不審に思った人が登って回収しにきちゃいますよ。オリハルコン流出とかあの廃墟の管理者に消される可能性すら……」

男「なんで青春にそこまで命かけてんだ」

少女「そうなったらそうなったで謎の組織に追われる女子高生ってかっこいいかなって」

男「すぐ捕まって終わると思うぞ」

少女「まぁまぁ、今回はそんなことにはならないようですし……」

くるくる。からんからん。
景色と音が暗闇を舞います。

少女「それでは、帰りましょうか」

そう、今年も。

夏の終わりがここから始まるのです。

018

帰り道、石段を降りた、人通りの激しい屋台通り。
祭りの余韻を引きずりながら、帰路につく人で溢れかえります。

少女「ここぞとばかりに屋台の人も気合い入れてますねぇ」

男「まぁ今が一番人通りすごいだろうしな」

少女「では、人混みを極力避けるためにも奥まで進んで出口から出たところで少し住宅街の中を通って駅まで行きましょうか」

男「土地勘って武器だな」

少女「ふふふーん。来年も頼ってくれていいんですよ」ドヤァ

男「あぁ、そうするよ」

私は、空いている方の手の小指を男さんに、差し出します。

少女「"約束"、ですよ」

二人だけの花火の花言葉は"約束"なのですから。

男「あぁ。約束、だな」

とびっきりの笑顔で、約束を。

019

【おまけNo.1:告白】

少女「ところで女さんにはなんて言ったんですか?」

男「秘密だ」

少女「えーっ、気になりますよぉー」

男「少女もデリカシーがあるとは思えないよな」

少女「いいんじゃないですか?似たもの同士で」

男「最悪の共通点だな」

少女「何も共通点がないよりはいいでしょう?」

男「まぁ、言ったのは少女に対してと同じようなことだよ」

少女「えっ。私、告白されました?……ちょっと三年くらい考えさせてもらっていいですか?」

男「ちげぇしなげぇよ」

【おまけNo.2:荷物】

男「ところで防弾シールドはどうしたんだ」

少女「とりあえず神社の下の微妙な隙間があるじゃないですか。なんかシロアリが柱を食べてそうな感じの」

男「わかんねぇよ」

少女「とりあえずあそこに差し込んで隠しておきました。後日取りに行きます」

男「めっちゃ罰当たりじゃねぇのか……?」

少女「神社から花火飛ばしてる時点で毒を食らわばなんとやらってやつですよ」

男「えー……」

【おまけNo.3:たこ焼き】

少女「そういえばたこ焼きの屋台、見つかりませんでしたね」

男「マイナー……ってわけではないよな?」

少女「おそらく。まぁないならないで駅前のたこ焼き屋さんに寄って帰ればいいんですよ」

男「祭りの帰りにたこ焼き屋に寄るってなんか敗北感ないか?」

少女「いったいたこ焼きと何のバトルを繰り広げているんですか」

020

少女「あーっ!ありましたよ!たこ焼き!端も端!最後の希望ってやつですね!」パタパタパタ……

なんとなくテンションが上がってしまい、走って屋台に向かいます。

男「おーい、そんなに走ってたらあぶな……」

少女「うひゃっ!!」

どんがらがっしゃーん。
うぅ、こけてしまいました。
しかし、七転び八起き。乙女というものは倒れても立ち上がるものなのです。

少女「よーっし!って、へ?」

どんがらがっしゃーん。
まさに踏んだり蹴ったりです。

男「あー、鼻緒が切れてるじゃん」

少女「えっ……わ、ほんとです」

男「今日はビーチサンダルはないぞ?」

少女「仕方ないですねぇ、ではたこ焼きを食べて待ってますので荷台を神社の上から持ってきてください」

男「荷台に乗せられて運ばれる女子高生ってなんなんだよ」

男「はぁー。お約束をなぞっていくなぁ……」

少女「えへへ」

男「んっ」

男さんがしゃがみこみ、私に背を向けます。

少女「へ?」

男「おんぶ。こういうときの"お約束"だよ」

少女「えっ、えーっ。照れくさいですよぅ」

男「荷台に乗せられて運ばれるのはセーフなのにか……」

少女「むー……重たいですよ?」

男「大丈夫大丈夫、俺も男だから」

少女「……そういうときはですねぇ。……まぁいいです」

こういうときは、お言葉に甘えておくのもひとつの"お約束"なのでしょう。

そして、お約束というものは青春っぽくて嫌いではないです。

私はおそるおそる男さんの背中に乗ります。
……ちょっと暑苦しいですね、これ。

男「思ったより重いな」

少女「殴りますよ」

なんだか思っていたのと違いますねこれ。


……………

………

……

幼馴染ちゃんへ。


毎日連ねた手紙もこれで最後です。

夏を置き去りにしちゃうくらいめいっぱい今を駆け抜けてみましたが。

私の秘密基地は探せばなんでも転がっているような、辺鄙な場所で。

私の街の祭は多くの人々の幸せのトリガーで。

私の青春は思ってたよりずっと、きらきらしているみたいです。

きっと、きっとね。そう。あの廃墟じゃなくたって、世の中探せばなんでもあるもので。

フラれちゃったり、大人になりきれなかったり。思ったように上手くいかなくたって、思ったよりも楽しいこともどこかに転がっていたりして。

……そう。そうなんです。

幸せや、夢や、青春のようなものは気がつかないだけで、案外とそこらへんに転がっているのかもしれません。

でも、青春や夢は一人じゃ、描けませんから。

いろんな人と一緒に作り上げていくものですから。

来年は幼馴染ちゃんも一緒に、そんなどこにでも転がっているようなきらきらした青春を一緒に拾っていけたらな、なんて思います。

だからね。

来年は是非、この街に遊びに来てください。

そうやって幼馴染ちゃんと一緒に描く"夏"もきっと、今までの夏を倒しちゃうような、素敵な夏になるでしょうから。

来年こそは、一緒に。

花火のようにきらきらとした一瞬一緒を重ねていきましょう。

それじゃあ、またね。

少女より。

はい、日付変わってますけど、今週末。今週末。
おしまいです。

男視点のは描く部分ほぼ告白シーンしかないのでどう書いたものやら……って感じなんですけど自販機SSとかカニSS程度の長さでまた別スレ建てます。たぶん。
気が向いたらここに投げるかも。

あっ、余計なお世話かもしれませんがまとめる際は間々のぼくの小言は最後に回すか抜くかしていただく方がテンポ的によいかなと思います……。

>>148
いろいろ読んでいただけてうれしいです。ありがとうございますます。

ひとまずは乙
楽しかった!

ではとりあえずなんとか締めたのであとがき書きます、あとがき。

少女「雨宿りですか?」を書いた際に一年後の夏に夏祭りの話書こうって雨宿り書き終わってから決めてたのでとりあえず書きました。

地の文込みでお話を書く練習にも使ってるので、読みにくいかもしれません。滝とかに打たれて修行します。

少女「おにぎり食べる?」勇者の剣「食えん」は特にそういう時期は決めてないですがいつか続き書くと思います。
まとめサイトのコメントとかで誤字すごいボロクソだったのでカクヨムに校正したのあげてるのでよかったらカクヨムもよろしくね!雨宿りのSSも置いてあるよ!

https://kakuyomu.jp/users/yukiny


あと最近マンガとかゲームとかのシナリオ書きたいなぁって思ってるのでよかったらTwitterとかに気軽に声かけてください……。

以上、ひとまずお付き合いいただきありがとうございました。

ゆきの(Twitter:@429_snowdrop)からのお届けでした。

フォロワー増える度にによによしてるから!!!まとめさんは!!!あとがきもまとめてくれると!!!嬉しいな!!!

>>168
ありがとう!!ございます!!!!

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