提督「艦娘達から好奇の視線を向けられる」 (67)

※山なし、谷なし、オチなし

※ほとんど地の文

それでも良いという方はどうぞ。

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俺は提督。とある鎮守府で、深海棲艦と戦う艦娘達を指揮している。

俺が鎮守府に着任してからもう随分経つが、未だに俺は艦娘達から好奇の視線を浴びている。

いや、これでも大分落ち着いた方だ。着任したばかりの頃はもっと凄かった。

理由は分かっている。




俺が左利きだからだ。

司令室で書類に目を通しつつ、左手に持ったペンを走らせている時、

秘書艦は大抵その様子をチラチラ見てくる。

本人は気付かれないように見ているつもりかも知れないが、申し訳ないがバレバレだ。

食事の時はその視線がさらに多くなる。

俺は食事をしているだけなのに、箸を持つ手が左であるというほんの些細な理由で注目を集める。

その大半は好奇心旺盛な駆逐艦の娘だ。

中には食い入るように見つめている者もいる。

食べにくいことこの上ない。

艦娘は人間のようで、人間ではない。

身も蓋もない言い方をすれば、人間の形をしたロボットのようなものだ。

だから予め、日常におけるあらゆる動作を右手で行うように造られているのだと俺は思う。

右手で箸を持ち、右手で字を書く。空母なら右手で弓を引き、射る。

それが当然であるように設計、建造されたのだろう。

実際、前述の動作のどれか一つでも左手で行っている艦娘を、俺は知らない。

故に俺という存在が、物珍しくて仕方ないのではないか。

そもそも艦娘には利き手という概念すら存在しないようだ。

俺が提督になって間もない頃、当時の秘書艦だった蒼龍に、

「提督はどうして左手にペンを持ってるの?」

と聞かれたことがある。

艦娘についてまだ理解の浅かった俺はその問いかけに若干戸惑いながら、「左利きだから」と答えた。

すると蒼龍は、

「え? なに、ヒダリキキ? なにそれ、美味しいの?」

と返してきた。

俺が艦娘について、一つ賢くなった瞬間だった。

またある時、新しく着任した艦娘が司令室に挨拶に来た。

「卯月でっす! よろしくお願いしまっす!」

「この鎮守府の提督だ。卯月、と言ったな。期待しているぞ」

「……よよよぉ? 司令官、左手にペンを持ってるね」

「ん? ああ、俺は……」

「ということは、左手でも字が書けるってこと? すごいぴょん! うーちゃんにもコツを教えて欲しいぴょん!」

そう、確かに言った。

左手『でも』と。

それはつまり彼女にとって、右手での筆記は誰もが持っているスキルということだ。

しかし残念ながら俺は両利きではない。その旨を伝えると、卯月はとても驚いた表情を見せた。

「左手でしか書けないの? 司令官って、変わってるぴょん」

確かに変わっているかも知れない。全人類の中でも一割程しかいないのだから。

左利きに関して理解のある艦娘もいた。

金剛は俺が左利きだと知ると、

「Oh! テートクはLeftyデスカ! Rareデスネー!」

と、何故か嬉しそうだった。

聞いたところによると、金剛は俺以外にも左利きの提督の下に所属していたことがあるそうだ。

亀の甲より……いや、やめておこう。

そんなわけで艦娘達から好奇の、さらに一部の艦娘からは尊敬の眼差しを受けるようになった俺だが、

着任当初は不便を感じることが多々あった。

艦娘全員が右利きで、唯一の人間である提督も約九割の確率で右利きなのだ。

その為、鎮守府のあらゆる場所で右利きであることを前提とした工夫がなされていた。

それが顕著だったのが二箇所。

まず司令室。

ここにはお茶を淹れられるように急須と湯呑みが備品として置かれているのだが、この急須が問題だった。

注ぎ口を正面に見て右側に取っ手がついている、右利きにとっては便利だが、

左利きにとっては相性最悪のものだったのだ。

着任初日にこれに気付いた俺はその日の内に鎮守府近くの雑貨屋に行き、

注ぎ口の後方に取っ手がついているタイプの急須を購入した。

元々あった右利き専用の急須は、今頃戸棚の奥で埃をかぶっていることだろう。

そして食堂。

この鎮守府の食堂はいわゆるビュッフェ形式なのだが、

汁物を椀に入れる際に使うレードルの左側が尖っていた。

俺がこの世で最も忌み嫌っているものだ。

先程の急須もそうだが、これ以上に左利きを愚弄しているものがあるだろうか。

最近では左利き用の製品もあるようだが、右利き用のそれと比べれば普及率などたかが知れている。

これは流石に我慢できず、即刻普通のレードルに変えてもらった。

シンプルイズベストとはよく言ったものだ。

一旦ここまで。


左利きあるある

知らない人でも、その人が左利きだと分かると妙に親近感が湧く。

利き手を選べるゲーム(野球・ゴルフ・テニスなど)をやると、何となく左を選択しがち。


自分だけですかね?

再開。
もう少しだけ続きます。

また、これは鎮守府での生活に限ったことではないが、

俺は多人数で食事をする時は必ずテーブルの左端の席に座るよう心掛けている。

理由は言わずもがな、左隣に右利きがいると腕がぶつかる可能性があるからだ。

しかし、ここではそれは至難の業だった。

夜はまだしも、朝と昼は皆がほぼ同じ時間帯に食事を摂るのだ。

食堂は必然的に艦娘でごった返す。

左端の席がそう都合よく空いているはずがない。

確保出来ればしめたものだが、出来なければ他の席で、

腕が当たらないよう細心の注意を払って食べるしかなかった。

そんな俺を見かねた一部の艦娘―金剛や榛名、如月など、俺を特に慕ってくれている娘達だ―が一致団結、

いつしか食堂の一角に小さなテーブルが用意され、そこには「提督専用」と書かれた三角錐が。

椅子も他と違うものが置かれていた。

それ以降、俺が食堂に入った時、どんなに混んでいてもそこだけは空いている。

俺に余計な苦労を掛けさせまいというその心遣いは非常にありがたいし、また嬉しくもあるのだが、

ここまでする必要はあったのかと思わなくもない。

考えてみれば、艦娘に右利きしかいないのはこういった不便があるからだろう。

前に一度、左利きの艦娘を建造出来るのか上に聞いてみたことがある。

その回答は、

「出来ないことはないが推奨はしない」

というものだった。

周りが右利きばかりで、鎮守府も、社会のあらゆるものもそれを前提として造られているのだ。

わざわざ他とは違う艦娘を建造する理由がない。そういうことだろう。

それだけ大きな隔たりが、右利きと左利きにはある。

さて、左利きのデメリットばかり挙げてきたが、

左利きに育ったことを後悔しているかと言われるとそうでもない。

俺は自身が左利きであることに嫌悪感は持っていない。むしろ誇りに思っている。

確かに社会的に不遇だと思う。それ故にストレスが溜まりやすく、短命だというのも頷ける。

しかし左利きは右利きより希少な存在である。

自分は周りとは違う、特別な存在である。

そう考えると、ちょっとした優越感に浸れるのだ。

小さなことかも知れないが、俺にとっては大事なことだ。

ここまで長々と話をしてきたが、最後に、俺の夢について語らせてもらおう。

俺には一つ、叶えたい夢がある。

それは―

金剛「……ウーン、ここで終わってますネ」

提督「だから言っただろう、未完成だって」

金剛「それにしても、テートクがこんなものを書いていたなんて気付かなかったデース」

提督「そりゃ気付かれないように書いていたからな……けれどまさか金剛にバレるとは」

金剛「ワタシとテートク、二人だけのSecretデスネ!」

提督「まったく……調子のいい奴だ」

金剛「……ところでテートク」

提督「何だ」

金剛「テートクのDreamって何デスカー?」

提督「人の部屋にノックもせずに入ってくる奴には教えん」

金剛「んもーぅ! テートクのイケズー!」

金剛「じゃあせめてこれだけは教えて下サーイ」

提督「……今度は何だ」

金剛「ここにある、『亀の甲より』って何デスカー? どうして途中でやめてるノ?」

提督「え? あー……」

提督(しまった、そんなことも書いてたっけ……)

提督「……それも教えん」

金剛「Why!? 何だかテートク、とってもイジワルデース! Knockせずに部屋に入ったこと、まだ怒ってるんデスカー!?」

提督「何でもいいだろう。ほら、もう夜も遅いんだ、早く自分の部屋に帰れ」グイグイ

金剛「ちょっ、ちょっとテートク、ワタシの話を……」

ガチャッ バタン

提督「……ふう、危なかった」

数十分後―

提督「……さて、そろそろ寝るか」

提督「と、その前にトイレ行っとこう……」ガチャ

金剛「……」

提督「うおっ!? 何だ、金剛か……どうした、まだ何かあるのか?」

金剛「……テートク」

提督「……うん?」

提督(何だかさっきと雰囲気が違うな……)

金剛「『亀の甲より』って、正確には『亀の甲より年の功』と言うらしいデスネ……」

提督「ああ、そうだが……どうしてそれを?」

金剛「さっき、霧島に聞きマシタ……もちろん、言葉の意味もデス」

提督「……Oh……」

提督(ヤバい……金剛から何やらただならぬ気配が……)

金剛「……テートク」

提督「……はい」

金剛「……ちょっと、テートクの部屋でお話しまショウ?」ゴゴゴゴ

提督「……さらばだっ!!」ダッ

金剛「あっ!? テートク、待つデース!」ダッ

提督「待てと言われて待つ奴はいない!」

金剛「お話よりステキなPartyの方が良いデスカー!?」

提督「それ夕立! っていうか素敵なパーティって何だ!」

金剛「もちろん、ステキなParty(意味深)デース! ワタシのBodyの魅力、教えてあげマース!」

提督「大声で何口走ってんだ!? とにかくどっちもするつもりはないからな!」

次の日の鎮守府内新聞には、

『提督、すでに想い人が!? バーニングラブ、通用せず』

という見出しと共に、仲良く追いかけっこをしている俺と金剛の写真が一面を飾っていた。

ご丁寧に会話の内容まで記載されていた。よくもまああんな会話を文字に起こそうと思ったものだ。

とりあえずこの記事を作成した某重巡洋艦には潜水艦隊の演習相手になってもらった。


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俺には一つ、叶えたい夢がある。

それは―




左利きでも快適に過ごせる鎮守府にし、左利きの艦娘に着任してもらうこと。

そして、左利きの艦娘のみで編成した艦隊、名付けて「サウスポー艦隊」で海域を攻略することだ。


終わり

ちなみに自分は元々右利きでしたが、親が左利きに矯正したようです。
自分と同じ人っているんですかね……?

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2016年05月28日 (土) 20:00:51   ID: gdUCe9UX

乙です。あたいは左利きを右利きにさせられた(3歳のとき)。でも20越えてから左でも使えるように訓練したら物書きと箸は両利きになったよ(笑)

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