僕「カードゲーム?」幼馴染「AR技術のね!」(36)

狐耳「おまえがおれさまのしゅじんか? よろこべ! おれさまはさいきょーだぞ!」

二頭身の狐耳少女が、机の上で「ふんす!」と威張る。
30センチに満たない頭身で威張られても、シュール極まりない。
身を包む黒いライダースーツのお尻からは、赤毛の尻尾が一本はみ出ている。

僕「これが僕のアバター?」
幼馴染「めっちゃ弱そうね」

上ミス。ちょい待ち

幼馴染「こんなアバターじゃあ来月のクラス対抗戦の戦力にならないじゃない!」

僕「そもそも僕、初心者だからさっぱりなんだけど……」

幼馴染「説明してあげるわ」

僕「よろしく」

幼馴染「AR技術……、つまりオーグメンテッド・リアリティ、仮装現実技術の進歩凄まじく、ついに数年前に業界初の一般向けデバイスが発売されたわ」

僕「僕が今つけてるゴーグル型の奴だね」

幼馴染「最近ではコンタクト型も販売されてるわね! 」

僕「ちなみに軽く流したけど、そもそもARって何?」

幼馴染「そこからか......」

狐耳「おい! ばけものきょぬー! おれさまはよわくないぞ」

幼馴染「まぁ早い話が、電子の世界をそのまま現実に投影する技術よ!」

僕「ますます分からなくなったんだけど……」

幼馴染「あんたのその馬鹿でかいゴーグルをつければ見えないモノが見えるってこと」

僕「スゲぇ! AR技術スゲぇ!」

狐耳「はなしをー」


幼馴染「ゴーグルを外すと、その小うるさいのも見えなくなるわよ?」

ゴーグルを外す。
たしかに机の上に何も見えなくなった。

ゴーグルをつける。
やはり机の上にはなにもいない。
あたりを見回すと、幼馴染の頭に狐耳がかじりついていた。

僕「痛くないの……?」

幼馴染「所詮は幻影よ」

幼馴染「そして最近、馬鹿みたいに世界中で流行っているARデバイスアプリ。それが個人の性格、体質、環境を元に生み出したアバターで戦うアクティブタイムカードゲーム、ARファイターズよ!」

僕「なるほど」

幼馴染「技カードを駆使して戦うんだけど、当然アバターが強いやつが強い。アバターの生み出しは登録一回目以降は有料だから、まだ登録してないアンタに登録させたってわけ」

僕「そしてこのざまである、と」

幼馴染「勝てないじゃない!」

僕「そんなに勝ち負けって大事かなぁ」

狐耳「だからおれがよわいとおもったらおおまちがいだぞ!」

うーむ、と思考する幼馴染。

幼馴染「……よーし一度勝負してみましょうか。もしかしたら技が強いかもしれないし」

ゴーグルの向こう側の世界に、対戦申し込みというウインドウが、ポップアップする。

幼馴染の目が赤く発光する。

光を照射せずに、捻じ曲げて画面を表示するデバイス技術の副作用だ。

僕「ようし、いっちょやってみるか」


負けた。

惨敗だった。

幼馴染の鬼のようなアバターが持つ戦斧に狐耳もろとも両断された。

ARでなければ即死だった。

僕は悔しさを噛み締めてそそくさと家に帰った。

僕「おまえが弱い癖にでかい口たたくからだぞ」

狐耳「うぐぅ……でもでもダッチ」

僕「だってじゃないの?」

狐耳「わいふ!」

僕「訳がわからない……」


とりあえず暇なので、狐耳を指でつついて遊ぶ。

もちろん触れた感覚はないが、つつくたび、「あう」と反応があるので暇つぶしにはなった。

夜も更け、ベッドに寝転がっていると、突然外していたゴーグルが、赤く発光する。

覚醒したわけではない。
メールや連絡があるとああなるのだ。


ゴーグルを付ける。

ゴーグルの向こう。

生き別れの兄さんが、自室のど真ん中に立っていた。

兄「久しぶりだな……」

僕「兄さん!? 都会の大学で寮ぐらししているはずじゃ!?」

兄「……」

兄さんは「最近の技術ならこれくらい当たり前だろう」という渋い表情をした。


兄「そんなことはどうでもいい……。それより、俺が上京前に渡したペンダント……、肌身離さず持っているか?」

僕「ああ、あの石ころがついてるダサいペンダント? 大事に机の奥にしまってるよ?」

兄「つけとけや!!」

兄は怒ると面倒くさいので、しぶしぶ身につけた。

兄「ゴホン……、ではお前に危機が迫っている。最近流行りのARファイターズ……あれには裏がある。迂闊に戦うんじゃないぞ」

僕「今日始めて一戦して、さっそく負けたんだけど……」

兄「おい!」


僕「そんなこと言ったって、僕のアバターは貧弱だし」

兄「仕方ない……、いざという時だけ、このカードを使え」

視界内にポップアップしてきた’レベルアップ‘と書かれた技カード。

僕「一体どんな効果が?」

兄「アバターを一段階強くするカードだ。
くれぐれも迂闊に……」

僕「スゴイや! これをつかえばクラス対抗戦で活躍できるかもしれない!」

兄「迂闊に使おうとするんじゃないぞ‼」


兄「ではきるぞ。怪しい雰囲気の連中と戦う時だけ、そのカードを使え。ではな」

そう言うと、兄の幻影は闇へと消えた。

狐耳「ふっ、さいきょーのおれさまにそんなかーどはひつようない……」

僕「さっそく明日使おう」


明朝。

幼馴染「再戦?」

僕「ああ! 僕のアバターは最強なんだ!」

幼馴染「増長しすぎでしょ……。別に構わないけど、負けたからってまた泣きべそかかないでよ?」

僕「フフ、目にものをみせてやろう……」

幼馴染「アンタのアバターの性格は、やっぱりアンタが原因よね」

そんなわけで、僕たちは昼休み、中庭で再戦することになった。


幼馴染「それじゃあ始めるわよー」

僕「大体問題ない」

幼馴染「いきなさい! 獄卒ラゴウ!」

幼馴染の周りに展開された四枚のカードのうち、ひとつが高速で上空に弾きだされ、魔方陣とも、プログラムとも呼べない文様が展開される。

そこから召喚されるのは戦斧を持った巨大な鬼。

鬼「ブルすこファあああ!」

幼馴染「雄叫びをあげない!」


僕「ふん、昨日は一刀両断されたけど、



僕「今回はそうはならないぞ! いけ! 狐耳!」

同じく僕の周りに浮いていた三枚のカードのうち、一つが上空にはじき出され、空に文様を刻む。

そして、空から落ちてきてボールのようにバウンドする狐耳。

狐耳「ふん、おしえてやろー。おれさまがさいきよーだと……ふぇぇ」

なお、鬼は狐耳の数十倍でかい。


幼馴染「先手必勝! ラゴウ! 昨日のように両断しなさい! 技カード発動、兜割!」

幼馴染の手札が一つ燃え上がる。
技カードを使用した証拠だ。

鬼「ふぁーブルすこファー!」

勢いよく突進してくる鬼。


このままでは前回の二の舞だ!

前回は、たったひとつの技カード、狐火を使用したが、なんのダメージも与えられなかった。

今回は新たに追加されたレベルアップカードを使う!

僕「レベルアップカード、発動!」


しかし発動しない。

僕「な、なんでだ!? ちゃんとカードを押したはずなのに!?」

幼馴染「馬鹿ね! どんなカードだろうと、発動ポイントが使える量まで溜まってないと発動しないのよ!」

僕「そう言えば、そんなことを昨日いってたような!?」

僕は目の前に展開されたシステムを見る。
視界の左側に二枚の技カード。中央には時間経過で上昇していく赤いバーがあった。


中央のバーは二割にも満たず、バーの先端に‘27AP’と書かれている。

無論、確認している間にも‘28’‘29’‘30’と上昇していく。

僕はカードを見る。
右上に使用発動ポイントが書かれているからだ。

狐火は5AP。
短時間に連発可能だか威力は無い。

肝心のレベルアップは……、

僕「250⁉」


僕「こんなもん使う前にやられ……!」

鬼「あっじゃっぱぁあああ!!」

狐耳「ご、ごしゅじーん!!」

鬼による斬撃を受け、僕たちは昨日のように真っ二つにされた。

ARでなければ死んでいた。


放課後、駅のホーム。

幼馴染「さて、負けたら買い物に付き合ってくれるって約束だったわよね!」

僕「そんな約束してたっけ……」

幼馴染「してました」

僕「別に僕が付き合わなくても……」

幼馴染「負けたら買い物代も全部払うとも言ってたわね!」

僕「ひぇぇ……」


狐耳「ううっ、すまないごしゅじん、おれさまがふがいないばかりに、おっぱいおばけにいいようにされるなんてっ」

幼馴染「しかしよくしゃべるわねーこの子。口数が多いアバターの本体は色々と本音を溜め込んでるらしいけど……」

僕「なんで僕を睨むのさ……」

幼馴染「……アンタ、よく私のむ、胸をみてるわよね」

狐耳「おっぱいおばけ!!」

僕「やめるんだもう一人の僕!!」


僕「ほ、ほら、電車が来たよ。早くのりこもーぜ」

幼馴染「じー」

僕「じー、とか口でいわれても!」

狐耳「おっぱいおばけ!」

僕「やめるんだ!」

そんなわけで乗り込んだ車両には、運がいいのか誰も乗っておらず、席にすわることができた。


道化「お前があいつの弟かぁ……」

しばらく誰も乗っていない車両で小気味良いトークを交わしていると、ヘビメタ風の紫モヒカンドクロTシャツの男が、入って来た。

一周回って道化のようだ。

道化「あの男からの預かりモノがあるだろう? 渡せぇぇ……」

幼馴染「……アレ、私たちに言ってるの?」

僕「危ない人のようだし、別の車両に行こうか」

小声で話し合い、移動すると決まったので、席を立ち道化がやってきたのと逆方向の車両に移動しようとする。

しかし隣車両への扉は何故か開かない


幼馴染「な、なんでよ⁉ カギでもかかってるの⁉」

僕「この扉のカギ、電子ロックだよね……」

幼馴染「それがどうしたのよ⁉」

道化「渡すかさもなくば……」

道化の目が赤く発光する。

道化「デュエルだぁ……」

僕「なんで力ずくで奪うという選択肢がないんだ……?」

幼馴染「くっ、なんだか分からないけどデュエルするしかないみたいね……!」

幼馴染の目も赤く光る。
ARファイターズを起動しているのだろう。

僕「いや他に選択肢いっぱいあると思うんだけど⁉」

幼馴染「じゃあ今の私たちに他になにができるかいってみなさいよ!」

僕「ぐっ……!」

確かにいかにも怪しげな男を刺激しないためには話に乗るのが最善……!


幼馴染「そ、それに一応は二対一よ! 見た目ひょろいし突進すれば勝てるわ!!」

僕「そ、そうか! 名案だね!」

ARファイターズは、アバターをた


ARファイターズは、アバターで相手PLに攻撃して、相手のHPを0にするのが勝利条件のゲームだ。

もちろんアバターは原則一人につき一つなので、敵アバターを行動不能にすれば、実質勝利したも同然だが、戦力差の大きい相手ならば、アバターを狙わずに相手PLを狙うという戦闘スタイルもある。

また、ルールが曖昧なところがあり、起動している全てのPLが自分にとって敵になるので……。

僕「二対一の変則デュエルも可能……!」

幼馴染「いや暴力行為にはしってきた時に二人で突進すればなんとか倒せるでしょう?」

僕「……」

幼馴染「まず先に突進してね! あ、デュエルは私に任せなさい? アンタ弱いんだから」


僕「と、とりあえず起動だけはしとく……」

幼馴染,道化「デュエル‼」

双方の目の前に展開されるカード。

その中の一つが前方に弾きだされ、文様が浮かび上がる!!

幼馴染「獄卒ラゴウ! いきなさい!」

道化「這いよれぇぇ……、大百足」

現れたのは見慣れた巨大な鬼と、

十何mはあろうかという人でも食えそうな大百足。

本当のARファイターズが今はじまろうとしていた。

幼馴染「いきなさいラゴウ! 兜割よ!」

展開されたカードの一つを右手で払い、技を発動する幼馴染。

鬼「オオオオオオオオ!!」

狭い電車の中をかがみながらもかける鬼。
その圧倒的迫力はまさに肉の壁だ。

しかし、狭い電車の中有利なのは……。

道化「大百足ぇぇ……、 亀甲縛りだぁああ」


百足「ARRRRRRRッッぁアア!!」

狭い電車内を自由自在に動き回り、身動きのとりずらい鬼を瞬く間に縛りあげる大百足。

幼馴染「くっ、ラゴウ! 無限回転斬り……!」

道化「遅いぃい……、うわばみだ、大百足」

僕「ま、まずい……っ!」

再び道化の手からはじき出される技カード
幼馴染に向かって突進していく百足。

幼馴染「わっ……」

とっさに庇おうとするが、間に合わない!!

大百足に頭から噛み砕かれる幼馴染。

トラウマになるような映像だ。

現実ならば、当然即死。

だが、これはAR、仮想現実だ。

ゴーグルを外せば……!

僕「だ、大丈夫だよな…!」

ゴーグルを外し確認する。

確かに幼馴染には何の外傷もない。

しかし突然、貧血をおこしたかのように、僕に倒れかかってきた。

僕「お、おい……!」

道化「ひゃははははァあ、無駄無駄ぁ」

僕「くっ、お前、一体なにを……!」

ゴーグルを付け直す。

そこには倒れている幼馴染。

道化の男とその隣に戻る大百足。

その口からかいま見える幼馴染の半身が見えた。

僕「なっ……! 何の外傷もないはずなのに⁉」

道化「知らないのかぁあ? こっちは電子世界の……、いうならばそいつの魂だよぉぉ」

僕「魂……? 非科学的なことを!」

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