ヒカル「佐為が消えた日」 (24)
ヒカル「……5月5日、子供の日」
ヒカル(そういえば、佐為が消えた日って今日だったよな)
ヒカル(あれから5年かぁ)
ヒカル(随分前のような気もするけど、つい昨日の事だったみたいな気もする)
ヒカル「あれから少しは、佐為に近づけたよな、オレ」
ヒカル「……」
美津子「ヒカルー。遅れるわよー」
ヒカル「はーい。もう行くよー」
ヒカル「さてと、じゃあ行きますか!」
5月5日。
日本棋院主催の、子供の日用イベントに進藤ヒカルは向かっていた。
5年前のこの日。
進藤ヒカルは恩師であり一番の友人と別れた。
友人の名は藤原佐為……彼は幽霊だった。
佐為とヒカルは囲碁を通じてかけがえのない日々を過ごした。
しかしそんな日々も永遠には続かない。
佐為の成仏を以て、二人は別れることとなったのだ。
突然の別れにヒカルは悲しんだが、再び佐為と相まみえることはなかった。
それから時間が経ち、ヒカルは佐為の喪失から立ち直り、再び前を向いて歩き出す。
そうして、いつしか日々は過ぎ去り、5年が経った。
ヒカル「ふぁ……」
イベント会場に行くのに駅に向かう。
春の陽気にふと欠伸が出た。
――と、横断歩道で信号が青になるのを待っていたら、耳をつんざくような音が聞こえてきた。
ヒカル「え?」
ヒカルがそう言った瞬間、白い乗用車が目の前にいた。
そしてそのまま……ヒカルを思いっきり轢いた。
ヒカル(ちょっ……)
声をあげる暇もなく、ヒカルは意識を手放した。
ヒカル「ん……」
ヒカル「……」ボー
ヒカル「あれ、どこだココ」
目が覚めたら知らない場所にいた。
ヒカル「えーっと。オレ何して……って、ああ!」
ヒカル「そうだ!オレ、車に轢かれて……ん?」
身体を確認するも怪我はなかった。
ヒカル「無事……だったのか」
しかし身体を確認していると、奇妙な事に気がついた。
ヒカル「なんか、身体小さくなってねえか?」
どうにも手や腕が普段と大きさが違う。
そう思い、鏡がないかヒカルは辺りを見渡した。
そして。
ヒカル「お、あったあった」
白い壁に掛けてあった鏡を見てヒカルは驚愕する。
ヒカル「えええええええええっ!?」
ヒカル「こ、子供になってる!?」
自分の姿が子供になっていることに。
美津子「ヒカル!気がついたのね!」
ヒカル「か、母さんっ!?」
ヒカル(若っ)
驚いていると、母、美津子が病室に入ってきた。
美津子「心配したのよ!痛くない?大丈夫?」
ヒカル「う、うん……?」
美津子「良かったあ。泥棒に気絶させられたって聞いたときには、心臓止まるかと……」
ヒカル「泥棒?」
美津子「そうよ。あなた、おじいちゃん家の蔵で泥棒に会ったのよ。覚えてないの?」
ヒカル「えっと……」
ヒカル(覚えてねー!それより蔵に泥棒……?)
ヒカル「あ、あのさ。蔵の方は大丈夫だったの?何か盗られちゃったりしてない?」
美津子「さあ。蔵の中身よりも、あなたの方が大事なんだからまだ確認もしてないわ」
美津子「って、そういえばお医者様呼んでこなくちゃ!」
美津子はバタバタと病室を出ていった。
翌日。
退院したヒカルは祖父の家に向かった。
平八「ヒカル。もう大丈夫なのか?」
ヒカル「うん。それよりじいちゃん、蔵の中見てもいい?」
平八「そりゃあ構わんが……」
ヒカル「じゃ、鍵借りるねっ」
蔵の鍵片手にヒカルは走った。
そして……。
ヒカル「ウソだろ……」
ヒカル「は、ははっ……!?」
蔵の中をどんなに探しても佐為が宿っていた碁盤が見つからない。
ヒカル「じいちゃんっ!」
平八「おお、ヒカル。どうしたそんな血相変えて」
ヒカル「ご、碁盤っ。碁盤はどこにあるの!?」
平八「碁盤ならここに」
ヒカル「違う!そっちじゃなくてお蔵にあった碁盤だよっ」
平八「ああ。ありゃあこないだの泥棒に盗られちまったよ……」
ヒカル「そんな……」
平八「一応警察に被害届は出しとるが、難しいかもしれんなあ」
平八「そういえばヒカルは犯人の顔は見とらんのか?」
昨夜警察にも聞かれたが、残念ながらヒカルは犯人の顔を覚えていなかった。
というよりも、病院のベッドで寝ていた以前の記憶がない。
ヒカルは拳を握りしめた。
数日後、学校。
あかり「……」
ヒカル「……」
あかり「……」
ヒカルの幼馴染みである藤崎あかりはヒカルを気に掛けていた。
常日頃活発なヒカルの元気がなく、口数も少なくなっていたからだった。
あかり(やっぱり、こないだ入院したせいなのかなぁ)
あかり(泥棒に気絶させられたんだよね。きっと怖い思いしたんだ……)
ヒカル(なんで蔵の碁盤が……。佐為に会えないんじゃオレが戻ってきた意味なんて、ねーじゃねーか)
学校からの帰り道。
ヒカル「……」
あかり「……」
やっぱり無口なヒカルを、あかりは何とか励ましたいと思っていた。
あかり「ねえ、ヒカル」
ヒカル「ん。どした、あかり」
あかり「え、えっとね。えーっと、今日、一緒に遊ばない?」
ヒカル「?別、にいいけど」
あかり「ほんと?」
ヒカル「ああ」
こうしてヒカルはあかりの家に足を運んだ。
●あかりの家○
あかり母「あらヒカルくん、いらっしゃい」
ヒカル「お邪魔します」
あかり母「そうだヒカルくん。こないだ入院したんですって?身体はもう大丈夫?あかりったら最近ずっと心配しててね」
あかり「お、お母さん!」
あかり母「あら、本当の事じゃない」
あかり「わ、私たちこれから遊ぶんだから邪魔しないでよ!」
あかり母「あらあら。じゃあお邪魔しないようにしないとね」クスクス
あかり母「後でお菓子持っていくからね」
あかり「わ、分かったから!」
あかり「ヒカル、早く行こっ」
ヒカル「あ、ああ」
あかりの部屋
あかり「もう、お母さんったら!」プンプン
ヒカル(あかりの部屋かぁ。なんか随分久しぶりに来たなあ)キョロキョロ
あかり「ヒカル、どうかした?」
ヒカル「いや、あかりの部屋に来たの久しぶりだなぁって」
あかり「あっ、そうだね。前に来たのってヒカルが入院する前だったもんね」
ヒカル「あー、そうだったかな?で、それよりあかり。何して遊ぶんだ?」
あかり「ヒカルは何したい?今日はヒカルがしたいことで良いよ」
ヒカル「オレがしたい事っていやあ、そりゃあ……」
ヒカル(碁を打つことだけど……この時代じゃちょっと無理があるかな)
ヒカル(オレもあかりも、まだ碁石も触ったこと無いはずだし)
あかり「ヒカル?」
ヒカル「あ、ああ悪い。パッと思い浮かばねえなあ。あかりはしたい事ねえのか?」
あかり「私?私はヒカルが一緒に遊んでくれるなら何だって楽しいよ」
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