【咲】泉「新しい家族と新しい日々」 (191)
二条泉ちゃん主人公のファンタジーのような違うような話です
書き溜めはそんなにしていないのでゆっくり更新します
よろしくです
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?「早く起きなさい、こら泉!」
相変わらずうっさいお母さんや。
あと10分くらい寝かせてくれてもええのに。
泉「あとちょっとー…ムニャムニャ」
?「早くしなさい!泉!!」
泉「っだぁぁ!!うっさいわぁ!!」
耳元で大声で名前を呼ばれて飛び起きた。
?「やっと起きたか、夜更かししすぎなんだよバカが」
頭をコツンと叩かれる。もう、痛いなぁ…ん???
待て待て、…あれ?
ちゃう、声がお母さんの声ちゃうやん。
でも聞き覚えあるような…
えっ!?
ガバっと顔を上げて母を見上げるとそこには…
泉「は…?」
?「バカみたいな顔してないでさっさと顔でも洗え」
泉「いやいや!」
?「あ?なんだ?朝ごはんはもう出来てるんだから早くしろ」
めんどうくさそうな顔で言われる。
でも、ちょっと待って欲しい。おかしい、これはおかしい。
泉「いやおかしいおかしい!自分、弘世菫やん!!」
そう、このエプロン姿はどう見ても白糸台高校3年弘世菫や。
うちが痛い目に合わされた声の低い綺麗なお姉さんや。
なんでここにおるんや?え、なに、どういうこと?
頭がパニックを起こしている。
菫「自分の母親をフルネームで、しかも旧姓で呼ぶってどういうことだ」
泉「は、母親!?は?なんでやねん!」
菫「朝からテンション高いやつだな、うるさい」
泉「って旧姓!!?結婚したん!?え、誰が相手!?」
あかんもうなんもわからへん…
母親?誰が?弘世菫?いや、そんなわけないやろ!
菫「誰って寝ぼけてるのか、お前のお父さんだろうが」
泉「は?え、なに?お父さん?」
うちのオヤジが弘世菫と結婚したってことなん?
まさか、だって離婚なんかしてへんで!そんな、ありえへん!
?「菫ーパン焼いてよー」
菫「ほら、お父さんが来たぞ泉」
?「え?なに?あ、泉起きたなら早く顔洗いなよー」
泉「お父さん?え、この人が?」
菫「そうだ、何を寝ぼけているんだ泉」
お父さんと名乗る人がうちの顔を覗き込んでくる。
よく知った顔、日本全国の人が知ってる顔。
?「泉がどうかしたの?菫」
菫「いや、私のことを旧姓のフルネームで呼んだりするからな、」
?「弘世菫?ふふ、懐かしいね」
雑誌で見たような笑顔を浮かべてる。結構可愛い。
ってそういう問題ちゃうねん!
菫「まあな、ほら、泉起きろ」
泉「…おかしい、これはおかしい…」
どう考えてもおかしい!
?「なにがおかしいの?お父さんに言ってみ?」
お父さん?誰が?あんたが?そんなわけない。
だって、だって、
泉「…お、お前宮永照やんけー!!!!」
思いのほか大声が出て一瞬だけ焦った。
でも、それくらいの気持ちがこもってた。
菫「こら泉、お父さんを呼び捨てにするな」
お母さん、らしい弘世菫に怒られる。
泉「いやいや!もう!これなんかのドッキリですか?
いやむしろそうって言うて欲しいんですけど!」
照「私は泉が何を言っているのか分からないなぁ」
菫「変な夢でも見たんだろ、ほらいい加減に支度しろ」
照「もう妹は着替えてるよ、泉」
泉「は!?妹!?」
菫「じゃあ照、私は先に降りるからお姉ちゃん起こしてきてくれ」
泉「は!?お姉ちゃん!?」
照「おっけー」
うちは一人っ子や!妹もお姉ちゃんもおらへん!
なんやこれなにがどうなってんの!?
宮永照がお父さん?弘世菫がお母さん?
そんなわけないやろ…
家はそのままうちの家なわけやし…やっぱドッキリ?
そ、そうに違いない。でなかったらそんな…なぁ?
照「泉、お姉ちゃんを一緒に起こそうか」
お父さんこと宮永照が悪戯っぽい笑顔で言う。
泉「え、…あぁ」
ま、とりあえずお姉ちゃんとやらの顔でも拝んだろか。
ドッキリなんやったらなんかボロでも出すやろうし。
疑問符ばっか浮かべとってもしゃーない。
とりあえずは、この茶番に付き会ってみよか。
とりあえずこれだけー
まだ全然書けてないけど長くなりそうな気配はあります
勢い優先なのでパタっと更新止まったらすいません
ではまた
お姉ちゃんの部屋は隣らしい。
隣は空き部屋で倉庫みたいに使ってたはずなんやけど。
ガチャリとドアを開けると、そこには見たことのない部屋が広がっていた。
泉「え…うそ…」
部屋の左隅にはベッドがあり、カーテンがあり、
勉強机みたいなものもあるし、手前には小さなソファもある。
全体的にピンクっぽくて可愛らしい感じや。
けどどれも見たことのないものばかり。
ど、ドッキリってここまでやるん?
照「どしたの泉、ほら起こして」
泉「あ、あぁ」
カーペット敷きの部屋の中を進んでベッドまで近づいた。
背中を向けて眠る人物が誰なのかよくわからない。
泉「あ、あの朝…やけど?」
声をかけても反応なし。ゆさゆさと身体を揺すってみる。
照「朝だよ、起きて。お姉ちゃん、朝だよ!」
後ろから「お父さん」も声をかける。
お姉ちゃんは寝起き最悪って設定なんやろか?
ビクともせぇへんし、動く気配がない。
泉「朝やって言うてるやろこら!!!」
そういう時は思いっきりたたき起こすに限る。
ま、うちも「お母さん」にたたき起こされたわけやけど。
?「んー…うっさいなぁ泉は」
泉「…え、うそ」
嫌々起き上がる「お姉ちゃん」を見て固まった。
父母も驚くけど、これもなかなか…すごいドッキリやな。
泉「あ、新子…憧…」
ポツリと呟くと、
憧「あんたお姉ちゃんを呼び捨てにしてんじゃないわよ!」
べしっと肩を叩かれる。
さっきまで寝てたくせにすごいテンションや。
うちもまあそうやったけど。
照「起きたね憧、ご飯できてるよ」
憧「あーはいはい、お父さん」
照「先に下りるよ、憧、泉」
憧「へーい」
泉「あ、はぁ」
憧「なにボケっとしてんのよ、邪魔だから出てよ」
泉「え?あぁ、ごめん」
そそくさと新子憧の部屋を出た。
はあ?あれがお姉ちゃん?同い年やん!
めっちゃ同い年やん!ドッキリでもええけど、
年齢はちゃんとしようや!
って思ったけどお母さんお父さんの時点でもう
そういうの関係なかったわ!
泉「…なんやこれ」
ため息が零れる。ドッキリなんやったら
はよ終わらせようや…。
20分かそこらしか経ってへんけど、もうええやろ…
心底疲れたわ。
?「お姉ちゃんどしたの?」
後ろから声がした。
あぁ、そやったそやった。妹もおるんやっけ?
疲れたけど、顔くらい見るわ…で、誰やろ?
?「お姉ちゃん?」
泉「…うわ、そうきたか」
?「お母さんが早くご飯食べろって」
泉「あ、あぁ…うんそうするわ。ありがとう」
年齢むちゃくちゃにもほどがあるやろ…。
あーあ、なんやこれ。
この人、この家を5人家族とするなら一番年上やんけ!
そのくせ一番年下の妹やと!?アホか!
もうちょっと上手く設定せなあかんやろ!
とか思ってたらドアが開いて、「お姉ちゃん」が出てきた。
憧「あ、健夜~今トイレ空いてた?」
健夜「うん、空いてるよー」
憧「サンキュ~。って泉はいつまでそこでボサっとしてんの」
健夜「そうだよーお母さん怒ってるよー」
アラサーの国内最強プロ雀士にお姉ちゃんって呼ばれるなんて…
なんやこれは…。ほんでなんか自然に馴染んでるし…。
もはや本人にツッコミを入れる気にもならへん。
泉「あ、あ、うんわかってるで」
笑顔を作ってみるけど不自然な気がしてならない…。
ってプロ雀士まで出てきたってことはやっぱりTVか。
そやったら絶対どっかにカメラがあるはず!
と、思ってキョロキョロ見回してみたり
部屋の中をある程度探し回ってもそんなものは出てこない。
泉「あれ、おかしいなぁ…」
そんなはずはないんやけどな、けど、なんでうちなんかに
ドッキリを?全国的に大した知名度もないし実績もないし…
こんなしょうもないやつにドッキリ仕掛けたところで
面白いとも思えへんし、設定も明らかに変やしなぁ。
泉「変な世界に紛れ込んでしもたんやろか?」
いや、そんなまさか…宮永照がお父さんの変な世界?
そんなわけないない。
ここまででっす
支援感謝
あ、そうや!アルバムや!家族のスナップを集めたアルバムが確か…
そう、この棚の右端に…お、あった!!
ゴクリと唾を飲み込む。
お父さんの写真があるはず、うちの知ってるお父さんの…
目を閉じながら表紙をめくり、ゆっくりと目を開ける。
そこには…
泉「んなアホな…」
1ヶ月前のお父さんの誕生日に撮影したスナップ写真があるはずやった。
でも、目の前にあるのは…。
泉「…宮永照やん」
うちの居間でピースサインを送る宮永照の写真。
テーブルにはケーキ。
周りには「家族」が写っている…そんなまさか。
い、いやでもこれは誰が撮影したかわからへんし!
次のページにはお父さんが撮影したお母さんとの2ショットがある。
それを見れば、うん、…
ページをめくって出てくるのは…全く見覚えのない、
弘世菫との2ショット写真。
2人とも楽しそうに笑っている。右端には…「妹」が見切れていた。
家族?これが?これが私の家族?
そんなはずは…ない、よなぁ?
どんどん自信がなくなってくる。ドッキリじゃないような気もする。
じゃあなんで?なんでこんなことに?
家族と仲が悪かったわけやないのに…。
お母さんに会いたいなぁ…どこにいるんやろ?
そんなことをふと考えた時、開けっ放しにしていた
部屋に「お母さん」が入ってきた。
顔を見れば怒っていることが一目瞭然にわかる。
菫「何をしているんだ、いい加減にしろ。さっさと食べて用意しなさい」
泉「…うん、ごめん」
さっきまでの元気がなくなった。保ち続けていた気持ちが
プツリと途切れてしまったような気がする。
これはドッキリで、何もかも変だと思えなくなっていた。
だって「お母さん」はリアルやし、演技には見えへん。
「お父さん」だって「妹や姉」だってそう。
とてもナチュラルで、ほんとうの家族のよう。
いや、本当の家族なのかもしれへん。私だけが変なんや。
…そんな世界に、紛れ込んでしまったのかもしれない。
なんて現実感のない妄想のような戯言…
でも、それをリアルに感じてしまう。
菫「どうかしたのか?起きた時から何か変じゃないか。
体調が悪いのか?休むか?」
泉「う、ううんそんなんちゃうねん。大丈夫や」
菫「そうか、まあ無理はするなよ」
泉「ありがとう、うん」
「お母さん」はそのまま階段を下りていった。
さっきあんなに怒ったり怒鳴ったりしていたのに、優しかった。
そうや、お母さんってやつは本当に辛い時は優しいんや。
だからやっぱり、弘世菫はお母さんなんや。
いや、そうとちゃうけど、でもここではそうなんや。
そう思わずにはいられない。
…あ、家族がこんなに変なら、学校は?
私はどこの学校に通っているんやろ?
ていうか家族全員標準語やったし…それもまた変やなぁ。
思い切ってクローゼットを開けた。
そこには…見覚えのある制服があった。
泉「制服は一緒なんやな…なんかホっとするわ」
夏服の袖を勝手に改造した制服。
胸のタイはつけないのが私流。
学校は普通でありますように、小さくそう祈ってから
階段を駆け下りてダイニングへ向かった。
ダイニング
健夜「もーお姉ちゃん遅いー」
アラサーのプロ雀士が口を尖らせる。
正直きついけど、これがうちの妹らしい。
…まあ、とりあえずは慣れへんとな。
泉「す、すまんすまん」
なんて謝りながらテーブルにつくと、お母さんが牛乳を入れてくれた。
お母さんの方を見ると、ニコっと笑いかけてくれる。
妙に安心してしまった。弘世菫やのに、…やっぱお母さんなんや。
憧「あんた早くしないと愛しの彼女が来ちゃうじゃん」
なんて、ニヤニヤしながらお姉ちゃんは言う。
いや、新子憧。…ん、ひょっとして宮永なんかな?
ほなうちは宮永泉?うわ、なんか強くなった気だけするな。
泉「え、…?」
いや、待て待て、ここに慣れるって思ったけど、でも、え、なに?
彼女?は?
この世界のうちには恋人までおるんかい。
…誰かなー楽しみやなぁ。…なんて、そんな訳ないけど
そう思わないとやっていられない。
照「泉はマセてるよねーほんとにー」
パンをかじりながらお父さんが言う。
…この人、正直お父さんって感じがしない。
よく言えばのほほんと、ふわりとした印象がする。
悪く言えば頼りない感じがする。大丈夫か?って感じ。
それでもお父さんなんやからなんか仕事でもしてるんかな。
なんやろう?やっぱりべらぼうに強いわけやし、プロ雀士?
菫「照、今日は遅くなるのか?」
照「いや、対局終わったらすぐ帰る」モグモグ
菫「そうか、じゃあ家で食べるってことでいいな」
照「うん、頼んだー」モグモグ
憧「なーんでこんなのがトッププロなんだろうねぇ、健夜」
健夜「お父さん強いしかっこいいよ!」
憧「かっこよくないじゃん、なんかもっさいし」
照「う、うぅ憧ぉぉ」
憧「ほら情けない」
菫「お父さんいじめてないでさっさと食べろー」
健夜「わ、私はいじめてないよ!」
やっぱプロ雀士、しかもトッププロか。さすがやな。
あの小鍛治健夜に強いって言われるなんて…
いや、ここでは娘なわけやから宮永照の方が強いんかな?
てかみんな麻雀部?あ、年齢はどうなってんのやろ?
うちが1年やし、妹は中学生か?姉は…?
聞きたいけどそんなん聞いたら不自然やな。
お父さんはちょっとへたれなプロ雀士。
お母さんはちょい怖いけど優しい。
お姉ちゃんはお父さんに厳しい。
妹は少し甘えん坊っぽい。アラサーやけど。
…絵に描いたような家族やな。
まるでドラマみたいやん。…いや、まだその可能性もあるか?
いやいや、もうそれは捨てたんやった。
とにかく慣れる、うん、それしかない。
もっと知りたいことがあるし、それでいく。
ここまでです
支援ありがとうございます
ピンポーン
憧「お、きたきた」
健夜「お姉ちゃん、時間だよー」
泉「へ?」
菫「先にちょっと出て来い」
泉「え、あ、うん」
みんなに急かされて玄関へ走る。
姉が言うとった彼女とやらなんかな。
…うわ、誰なんやろ?緊張する。
「はーい」と返事をしてドアを開けた。
?「…おはようございます、あれ、まだパジャマですか?」
泉「…っ!」
目の前にいる人物を見て絶句した。
そうきたか…。
?「泉?どうかしましたか?」
泉「いや…ちょいびっくりしただけで」
ちょい、ではなくかなりやけどな。
うちが勝手にライバルやと思ってるその人、そう、
原村和。
和「びっくり?なにかありましたか?」
泉「う、ううんなんでもないで」
和「そうですか…って早く着替えてくださいよ」
泉「え、あ、ごめん!」
和「もう、いつもそうなんですから」
口を尖らせて怒る原村和。
…ちょっと可愛い、かもしれない。
これはその、えっと、彼女…ってことやんな?
ってこの原村和にも演技とかそういう気配はないし、
制服も千里山女子のを着ている。
…相変わらずでっかいことで、その胸。
和「ほら、早く!」
泉「う、うん!」
原村和に追い立てられて洗面所へ急ぎ、
顔を洗って歯を磨いて、階段を駆け上がった。
慌てて制服に着替えてカバンを手に取る。
あれ、ところで今日って何日?
机に放り出された携帯電話を手に取った。
表示されている日付は思っていた日付と同じ。
時間軸?というのは変わってないっぽい。
インハイも終わり、夏休みも終わって
部活では3年生が引退した9月上旬や。
泉「うーん、時間割…ま、ええか」
違っててもまあ、それはしゃーない。
だって、ほら、すでにもういろいろおかしいから。
ダダダーっと階段を駆け下りると、
玄関の段差に腰掛ける原村和がいた。
菫「バタバタうるさいぞ泉ー!」
ダイニングからそんな声も聞こえる。
和「慌てすぎですよ、ほら、お弁当は?」
泉「あ、そやった!」
また慌ててダイニングへ駆け込むと、
妹こと小鍛治健夜が私の前に立ちふさがった。
健夜「はい、泉お姉ちゃん」
と、手渡されたのはいつもの、見慣れたお弁当の包み。
…これは、変わらへんのか。
菫「ったく、早く起きないからこうして慌てるんだぞ」
照「そうだよー泉ー」
泉「は、はいはい!ほな行ってきます!」
説教が長くなりそうな気配を察してその場を立ち去った。
玄関へ行くと、新子憧が原村和と話をしていた。
そういや、幼馴染なんやっけこの2人。
奈良にいたときにどうのーってインタビュー見たかも。
いや、そんなんここでは関係ないんかな。
和「やっと来ましたか、じゃあ行きますよ」
泉「う、うんごめんな」
憧「あんたそんなことばっかやってると愛想つかされちゃうよー。
ねー、和、そうだよねー」
和「い、いえ、そんな、私は待つの嫌いじゃないですし…」
姉の言葉に下を向いてなんだか照れている。
…なんか、可愛い。
ここまで
泉「ほな、行こ。この家みんなうっさいわ」
和「はい、行きましょう」
憧「ばーかばーか」
姉のアホ発言を背中で聞き流しながら、2人で家を出た。
外へ出て改めておかしな状況だと再認識する。
変な家族がいて、彼女が隣にいる。
恋愛とかそんなん考えたこともなくて、
麻雀だけが唯一の恋人くらいに思っていたのに。
なのに、隣には彼女らしい、原村和がいる。
通学路は同じ。足は自然と学校へ向かう。
和「泉、いい加減に進路は決めましたか?」
泉「進路?え?なんで?」
まだ1年生、進学校ならいざしらず、千里山はそこまでの学校ちゃうし、
時間はまだまだある。なのに、進路の話やなんて。
和「なんでって…先生が早くしろって言っていたじゃないですか」
泉「そ、そうやっけ?」
覚えがない。と、いうことはこれもこの世界ならではの話か。
和「危機感が足りないですね、泉は。もう2年生、しかも9月なんですよ?」
泉「…ん?」
あれ、今なんて言った?…に、2年生?誰が?え?
そういう設定というか、あれなん?
いきなり1年進級してもうてるやん…。
泉「ま、まあなんとかなるんちゃう?」
和「もう!受験はそんなに簡単なものじゃないんですよ?」
泉「あ、ほ、ほら!うちって特待生やん?そやから推薦とか、ほら」
和「まあ、それはそういうことも考えられますけど、
でも、将来の目標はしっかりしないとだめですよ?」
ほっとした。特待生というのはそのままらしい。
泉「だ、大丈夫やって」
和「しっかりしてくださいね」
泉「う、うん。ありがと」
お礼を言うと、原村和は「いえ…」と下を向いて照れた。
うん、これやっぱ可愛い。
これはあれか、恋人やから的な?
おぉ、なんか嬉しいかも。
それからしばらく会話が途切れて、黙々と歩きながら学校を目指す。
徒歩でだいたい15分くらいの距離や。
半分くらい来たところで、急に原村が立ち止まった。
泉「え、どしたん?」
和「そ、それはこっちのセリフです!」
泉「へ?なに?」
和「な、なんで、なんで…」
泉「ん?」
なぜが泣きそうな顔の原村。あれ、なんかやってしもた?
和「…手を繋いではくれないんですか?
いつも、家を出たら繋いでくれるじゃないですか」
泉「あ、ご、ごめん!なんかちょっと考え事してて…」
ほんまに泣きそうな顔で言うから慌てて言い訳した。
毎日手を繋いで登校ってラブラブすぎるやん…。
うちほんまにそんなことしとったんかな。
恥ずかしいな…。け、けど、急にやらへんとそら不安になるよな。
和「私よりも大切な考え事なんですか?」
泉「い、いやそんな!そんなわけないって!な、ほら!」
慌てながら原村の手を握り締めた。
少し冷たくて柔らかくて気持ちがいい。
和「…あ、ありがとうございます」
泉「ううん、ごめんな」
手を繋いだまま、再び歩きだす。
あわわ、これ恥ずかしすぎるんちゃう?
やば、手に汗かいてるかも…うわー
だ、だってこんなことしたことないし!
し、しかも相手が今までライバルとして散々意識してた相手やし!
恥ずかしいし、何か喋って余計なことを言ってはいけないと
思うと口数が減って、結局はそのまま学校へついた。
喋らへんと悪いかなぁ、怒るかなぁと思ったけど
原村は手を繋ぐだけで満足やったみたい。
うちは対局のときの原村しか知らんから、
照れたり怒ったりする原村はとても新鮮に思えた。
強気で勝気で、それでいて正確なその打ち筋に完敗し、
次は負けないとライバル心を燃やしてきた相手の知らない顔。
意識せずにはいられない。
緊張とか恥ずかしいとかそういうドキドキで
心臓がうるさくて、…。
ここまでです
話し進んでませんすいません
次からちょっと動くと思います
いちゃいちゃすばらっ
憧ねーちゃんは学校別なんかな
学校へ着いて靴を履き替えるときに手を離した。
幸いそんなに汗はかいていなかったけど、
手が離れた瞬間、安堵の気持ちが現れて。
でも同時に、少し寂しいような気もした。
なんでってそれは、その…手を繋ぐのはうれしかったからかも…かも、ね。
で、不審に思われへんように自然に2年生の下駄箱へ向かう。
あ、でも何組なんやろ?えーどうしよ…。
一瞬の間ができて、後ろにいた原村が首をかしげた。
和「泉?もう、早く履き替えてくださいよ。そっち」
さりげなく原村が指差したほうを見ると、泉という文字を見つけた。
苗字は宮永…じゃ、ない…だと…。
『2-○ 弘世泉』
うわーそっちのパターンかー。
無駄に細かいこの設定はなんやねん…。
じゃあつまり婿養子なわけか、あの宮永照、いや、弘世照は。
まあぶっちゃもうどっちでもええけども。
泉「あ、うん」
原村に返事をして靴を履き替える。
上履きはいつもと同じ。汚れも、踏み癖も変わりなかった。
何が一緒で何が一緒じゃないのか。
その共通点がよくわからない。
で、原村はと言うと、違うクラスらしく、
隣のロッカーのブロックへと履き替えに向かった。
違うクラスかー。残念なような安心なような。
手を離したときの不思議な気持ちは継続中。
とかなんとか考えていたら、同じクラスの下駄箱に
なんかちょっとおかしいというか、ツッコミを入れたいけど
でも、知っている名前を見つけた。
字面だけで、なんだか安心できる。
今まで出てきた連中は、面識や顔を知っていることはあっても
直接きちんと喋ったことのない人ばかり。
でもこのクラスメイトは違う。…よく知っている。
一応、元では先輩のはずやけど、ここではクラスメイトらしい。
そう、『2-○ 清水谷怜』
うちの尊敬する先輩の一人、千里山女子のエース園城寺先輩や。
もうこの際苗字はスルーや、学年もどうでもええ。
こんな不思議な場所で先輩に会えるだけでうれしい。
学校には来てるんやろうか?そっと下駄箱を開けると、
その中にはローファーが見えた。よし、登校済みやな。
ちょっとテンションが上がってきた。
これからどうしようかと思ったけど、少しはマシになった。
あ、でも先輩のことなんて呼べばいいんやろ?
てか友達かな?違う可能性もあるよな…
あ!!!ケータイやん!そうや、友達なんやったら
アドレス登録してるやろ…
そ、それにほかの人のも登録されてるかも!
なんで今まで気づかへんかったんや!
学年とか、どういう関係とかケータイ見たら一発やん!
えーっとケータイはカバンに…
とカバンに手を突っ込もうとしたらその手をガシっと掴まれた。
和「もう泉!さっきから何度も呼んでいるんですけど!」
泉「へ?そやった?」
和「そうですよ!なんかボーっとした顔で考え事しちゃって…」
泉「ごめん」
素直に謝ると、頬を膨らませて少し怒ったような顔になった。
うん、まずかったよな。恋人と一緒やのに考え事ばっかり。
恋人ってなんか面倒ってか大変なんやなぁ。
和「今日は少しおかしいですよ」
泉「そ、そんなことないで」
笑いかけてみると、膨れた頬も少しはマシになって
和「まあいいですけど…ほら、教室へ行きましょう」
泉「お、うん」
腕を引かれて廊下を進み、階段を上った。
そうや、2年生の教室なんやった。
和「じゃあ私はここで」
泉「あ、うんじゃあまたあとでな」
手を振り、原村と別れて『2-○』へと一歩踏み出す。
園城寺先輩がおるはずや…どこや?
キョロキョロと見渡す…けど、どこにも姿が見えない。
クラスメイトの顔をよく見るとほとんどは元いた場所と同じメンツ。
みんな知らんうちに2年生になったわけやな。
泉「あっれー?…って席どこやろ?一緒かな?」
元々の席まで近づくと、机に引っ掛けられた忘れ物の手提げ袋を見つけた。
おぉ、これうちのや。席は一緒なんやな、よかった。
一息ついて、カバンを机の上に置いて、
席に座ると「はぁ…」と深いため息がこぼれた。
ここまでです
>>55
同じです
そのうち出てくると思います
そうですね、旧姓じゃないですねww
小ネタのつもりが恥ずかしいミスになってしまったww
もう普通に宮永泉ちゃんでいいです、ごめんなさい
>>56の最後の行と>>57の最初の5行はサクっと削除でお願いします
ほんと、すいませんでした
あ、そうやとりあえずケータイを…。
カバンの中から引っ張り出して、アドレス帳を開いた。
さぁ、見ようかと体を前のめりにしたときポンポンと肩をたたかれた。
びっくりしてケータイを落としそうになりながら、振りかえる。
怜「よっ、泉」
そこには、よく知る顔、よく知る笑顔の園城寺先輩がいた。
いや、清水谷先輩か。いやいや、先輩じゃない同級生や。
あーもうややこしい、園城寺先輩でええわ。
で、再会が嬉しくてすでになんか懐かしくてなみだ目になる。
泉「うぅ」
怜「え、なに?どしたん?」
あわてた顔の先輩。
おっとマズイマズイ。変に思われたら大変や。
泉「い、いえなんでもないです」
怜「プッ、なんで敬語なん」
園城寺先輩はそれに噴出して笑い出した。
つまり、やっぱり先輩ではなく同学年のクラスメイトか。
こうやって声をかけてくれたってことは友達なんやろうな。
よかった。話ができて。それが救い。
泉「え、ちょっと言うてみただけ」
怜「あ、そういえば今日もラブラブ登校やったなぁ」
ニヤニヤ、クスクスと笑われる。
うぅ、そらあんなに引っ付いて登校してたらそう言われるよなぁ。
恥ずかしい…しかも相手が原村和やしなぁ。
嫌いじゃないけど、でも、好きでも…ないし。
泉「と、怜にはそんな相手はおらんの?」
うぅ、先輩を呼び捨てなんてめっちゃ緊張する。
江口先輩や部長が呼んでいたように、自然に名前を口にした。
怜「おるわけないやろーアホー」
ポコっと頭をたたかれる。痛くない、なんかかわいい。
先輩はうちより小さいし、病弱やし、こう
守ってあげたくなるような儚さがある。
江口先輩も清水谷部長もそんなところを刺激されて
「怜、怜」とかまっていたのかもしれない。
もちろん、無二の親友やってことはわかってるけど
その存在はどうしても母性本能とかをくすぐるから。
泉「ふふ、怜はかわいいなぁ」
何だか目尻が下がった気がする。
こんなこと、園城寺「先輩」には絶対言えないけど、今なら言える。
怜「あ、アホか…アホ!」
照れたのか、またたたかれる。次は、ペシって感じ。
痛くない。やっぱりかわいい。
泉「ってやることあるんやった」
そうや、ケータイ!江口先輩とか、アドレスに入ってるかも。
それに、清水谷怜と清水谷竜華の関係も気になるところ。
家族ってことになるんやろうし…。
怜「えーなに?」
泉「あ、うんちょっと」
と、ケータイに目を向けたうちに、
怜「まーたラブラブメールかー。さっきまで一緒やったくせにー」
とまたも冷やかされる、まあええ、そんでええ。
泉「うらやましいやろー」
怜「ふん、あほー!」
と、先輩はそれだけ言って自分の席に戻っていった。
泉「えーっと…」
先輩は先輩と書いてあるからいいとして、
同級生と後輩は名前が入っているだけやからどっちかわからへん。
園城寺先輩みたいに、苗字が違うケースもある。
でも、いくつかの名前に下駄箱で園城寺先輩の名前を見つけたときみたいな衝撃が
ぐわーっと一気に襲ってきていろいろとやばい。
…まあ、校内ウロついてたらそのうち出会うやろ。
放課後には部活もあるわけやしな。
後輩は…そう、後輩なら敬語やろうし、それでわかるか。
会うまでわからんのがあれなところやけどさ。
さて、予鈴も鳴ったしそろそろ担任が来るはず。
ここまでです
昨日はしょうもないミスすいませんでした
と、大した身構えもせずにカバンの中身を直していたら…
?「おーみんなおはよー!今日はええ天気やなぁ」
と、スーツ姿の…
泉「…なるほど」
愛宕監督の名前も、監督の娘こと南大阪の愛宕洋榎の名前も
アドレスに登録されていた。けど、妹の名前はなかった。
それはつまり、
絹恵「なんやみんな元気ないなぁ。じゃあ出席とるでー」
担任っちゅうことやったみたい。
びっくりしたけど、もうそんなツッコミばっかり入れへんで?
…これは慣れか、自衛か。
スーツでメガネで巨乳やし愛宕監督にそっくりや。
監督みたいに厳しい感じはせーへん、柔らかい雰囲気の子。
絹恵「園城寺ー」
怜「はーい」
絹恵「身体はどーや?」
怜「おかげさんでばっちりです」
絹恵「そうかーよかったなぁ」
先生はえらい嬉しそうに笑いかけて出席簿にチェックを入れた。
とても微笑ましく映る。
なんてボーっとしていたら、
絹恵「宮永ー、おーい」
泉「……」
絹恵「宮永ー!」
泉「…!あ、うちか!」
絹恵「宮永は他におらへんやん」
泉「そ、そうでした…すんません」
絹恵「しっかりしてや~」
周りからクスクスと笑われて赤っ恥。
…うぅ、恥ずかしい。宮永って言われてもすぐにわからへんって。
そのまま先生は出席を取り終えて、連絡事項を伝えた後に
そそくさと教室を出て行った。
愛宕絹恵で教師か…ん、なんか覚えがある。
あれ、なんやろう?なんか引っかかった気がするのに。
えーっと、うーん…う、思い出せへん。
気持ち悪い感じがするけど、結局何も思い出せないまま、
1時間目の始まりを告げるベルが鳴り、
教室には別の教師が入ってきた。
…あっ!!!
そうや、これはそうや!これは多分…
由子「ほーら早く席につくのよー」
これは現代文。
恭子「ほな始めるし、静かにしてやー」
これは数学。
漫「さて!今日は誰を当てよかなぁ」
これは社会。
赤阪「なんやあんたらこんなんもわからへんの?」
これは化学。
そんで、昼休み。
赤阪さんまで確認して、仮定に確信が持てた。
あぁ、やっぱりそういうことかと。
あれはインハイ予選の前やったか、合同練習をしたときや。
姫松の人らはなんか個性が強い人が多くて、
そのキャラに圧倒されたのを覚えてる。
で、ふと愛宕絹恵を見たときに思い浮かんだことがあった。
この人はお母さんによく似てる、雰囲気は先生っぽい。ってそう思った。
それで、ほかの人を勝手に教科に当てはめたことがあった。
ちょっとした空き時間に、そんなことを考えていた。
それが、そのまま、ここに現れた。
だとしたら、愛宕洋榎がアドレス帳に先輩と書かれていたことにも
かなりの納得がいく。
この人は先生よりも先輩におったほうが面白そうって
確かそんなことを考えた。だから、先輩。
思っていたこと、考えたことが設定になっているっちゅうことなんか。
じゃあ、園城寺先輩は?
クラスメイトなのは…そうならいいのにと思ったから?
ていうか家族は?そんなこと考えたことないけどなぁ…。
だ、だいたい原村和が恋人ってそれこそ
考えたことがあるはずもないし…うーん。
で、でも!姫松の人らがこうして考えてたとおりに
出てきたって事は何かのヒントになるはず!
ここまでです
>>77の怜の名字間違ってませんか?
ややこしいからつらいなwwww
>>82
間違ってます
重ね重ね間違いだらけですね、すいません本当にごめんなさい
>>77
は絹ちゃん先生が「清水谷ー」と呼びかけたことにしてください
すいませんがお願いします。
>>83
自分で始めといてすいません
では今日の分いきます
考え事をしながらお弁当をカバンから取り出していると、
目の前に誰かが立っている。
誰だろう…と顔を上げると、原村和がいた。
顔よりも、胸でその存在を確認する。
和「もう、どうして迎えに来てくれないんですか?」
泉「え?」
なんやそれ…そんなん知ってるわけないやん。
まあ、いつもの決まりやったんかな。
和「待っても来ないから私から来ましたよ、もう」
時計を確認すると、昼休みが始まって10分くらい経過してた。
あれ、私そんなに考え事してたのかな…。
泉「ご、ごめんな。考え事してて」
って言ってから、ヤバ!と思った。
今朝それで怒らせたばかりじゃなかったのか。
和「…ほら、行きますよ」
うちの言い訳を聞き流した原村は私を引っ張って教室を出た。
ちらっと振り返ると、園城寺先輩がニヤニヤしながら手を振っていた。
また冷やかされるんやろなぁ。
しかし、恋人って結構面倒なもんやな。昼も一緒なんか。
いや、それが悪いってわけちゃうし、恋人なら当たり前かもしれへんけど、
でも慣れへんうちはちょっと面倒って思ってしまう。
で、どこかで誰かに会うかもと思ってあたりをキョロキョロしていると、
おもっきり見たことのある人が、前方に見えた。
?「あ、先輩方、こんにちはー」
和「あぁ、こんにちは」
泉「(うわ…うわぁ)こ、こんちは」
和「雅恵もお昼ですか?」
雅恵「はい、これからです」
小鍛治健夜が妹なんや、これくらいでは…いや、でも、これは
面白い、う、やば、笑いそう…
か、監督が、せ、制服…コ、コスプレやん!あぁ、突っ込んでしもた!
今朝見た小鍛治プロよりも衝撃的やでこれは…。
朝は忙しくて慌てててツッコミ損ねたけども。
和「じゃ、私たちはこれで」
雅恵「ほなまた」
泉「またなー」
自然に言うたつもりやけど緊張した…。
「泉!誰に向かって言うてんねん!」って言われたらどないしよ。
愛宕雅恵、千里山女子の名監督。厳しい中にも優しさがある、
うちも尊敬する監督さん。
それが後輩やなんて…そんなこと、、考えたことあるんか?
いや、ないとは思うけど…うーん。
とか考えているうちに、中庭へと着いた。
木陰の涼しいベンチに隣同士に座ってお弁当を広げる。
和「泉は今日はやっぱり少しおかしいですね」
泉「そ、そんなことないやん?」
和「おかしいです、だって…」
泉「ん?」
和「一度も名前を呼んでくれませんし…主体的じゃないっていうか」
泉「や、それは、その」
和「いつもの積極性がないです。何かありましたか?」
泉「…あった、何かはあった。でも、」
和「でも?」
泉「今それを、の、の、和に言うわけにはいかんねん」
和「…どうして?」
泉「ごめん…」
自分でも整理し切れていないこんな不可思議なことを
原村に話してもどうにもならないし、
不安をあおるだけのような気がする。
それに、どうせ、こんなの信じてもらえるはずない。
今は情報を集める方が先や。
だから、
泉「ごめん」
和「…そうですか、泉…残念です」
原村は下を向いて泣きそうな顔をしている。
胸が痛い。自分が好きな人にそんなこと言われたら
やっぱり辛いし、悲しいと思う。
原村はきっとそんな気持ち。
でも、ごめん。
うちは、原村とその気持ちを共有できない。
だって、恋人であって恋人じゃないから…。
それから原村は一言もしゃべらなくなって、
先に教室へ戻ってしまった。
引きとめようかと思ったけど、引き止めてもどうしようもないと思って
追いかけるのはやめた。
空を見上げると、まだまだ暑い夏の空色。
ふっと吸い込まれそうな青色。
まだ、会いたい人や顔を見たい人がいる。
姫松の人に関してはなんとなくわかったし、
ほかの人も追々思い出すかもしれない。そう、家族だって。
私の何かの思い込みやちょっとした想像が生み出したのかも。
行動に出なければ、そう思い、ベンチから腰を上げた。
ここまでです。
突っ込みを入れられる前に…
>>87は愛宕雅「枝」です、また間違えました
ミスだらけで申し訳ないです
お昼休みはあと20分。まず向かうのは麻雀部の部室。
アドレス帳に部長と書かれていた人に会いに行く。
うちもよく知るあの人。
お昼はいつも部室で食べていることを知っている。
部活を引退したあとでもそこにいてくれるかと
少し不安に思ったけれど、
部室のドアを開けたら、やっぱりそこにいた。
泉「船久保先輩」
アドレス帳でも、船久保浩子。つまり、まったく同じ名前。
先輩なのも同じ。学年が1つ上なのも同じ。
違うのは私が2年生で、先輩が3年生の部長だということだけ。
浩子「おー泉、どないしたん?」
泉「あ、昨日忘れ物したかなーって」
浩子「そうなん、あ、手伝う?」
泉「いえいえ、大丈夫ですよ」
浩子「そう、わかった」
うちの知ってる船久保先輩と同じ、会話も自然になる。
今朝からずっと不思議な感じやったけど、
初めてこの自然な感覚を味わった。
泉「うーん、どこやろなぁ」
浩子「何忘れたん?」
先輩はタブレットで牌譜を見ながら声をかけてくる。
相変わらずの研究者や。
泉「ボールペンなんですけど…」
雀卓の下の方を探すふりをしながら、ポケットから出した
ボールペンを転がした。
泉「おーあったあった」
浩子「よかったやん」
泉「はい、おかげさまで」
浩子「あー泉、秋の大会やねんけど、」
泉「はい」
浩子「監督が泉を使いたいって言うてたで」
泉「へぇ、そうですか」
一瞬どういう意味かわからなかった。
夏のレギュラーやったんやから、秋も使うはずやのに。
何をいまさら?
浩子「反応薄いなぁ、やっとレギュラーになれるかもやのに」
泉「へ?あぁ、そ、そうですね」
これは、きっと…
浩子「泉が頑張ってるのはみんな知ってるけど、
夏はどうしても5人のレギュラーに届かへんかったよな」
泉「…はい」
浩子「やっと出番が来たな、おめでとう…あ、発表まだやし内緒やで?」
泉「はい、わかりました。…あの、ありがとうございます」
…私、夏はレギュラー違ったんか。
あっちの世界では1年生でレギュラーやったのに、
ここでは2年の夏にすらレギュラーじゃなかったんやな…。
アドレス帳のメンツを見たのにそのことに気づけなかった。
確かにあのメンツを思えば、レギュラーじゃなくてもおかしくはない。
泉「あ、そういえば夏の大会の写真ってありますか?」
浩子「んー、あ、そこの引き出しにあるで」
泉「ありがとうございます」
指差された戸棚の引き出しを開けると1冊のアルバムが出てくる。
『インターハイ!』と表紙に書かれている。
今朝のようにつばを飲み込んでから、ページを開いた。
笑顔で表彰状とトロフィーを手にした5人と監督の姿が写っていた。
写真の下に「祝!北大阪優勝!」と書かれている。
右端に部長の船久保先輩。
その隣に原村和。
その隣で、左端に…これは、白水哩か。
左端には監督…と、思う。
原村の前には、園城寺先輩。
その隣に、愛宕洋榎。
船久保先輩、園城寺先輩、愛宕洋榎、白水哩はまあいい。
納得できる。
でも、原村がいるのは…現実をわかっていても、
うちとの実力差が確かに存在するとわかっていても、
自分がいなくて原村がいるという状況はおもしろくない。
それに、…あれ、小鍛治プロは?愛宕監督は?
あの人ら一個下の設定なんやろ?
トッププロや監督がレギュラーに入ってない…?
北大阪優勝の写真の下には十数人が写された写真がある。
最前列にうちがいる。これは補欠の集合写真かな。
その右隣で小さくなっている小鍛治健夜を見つけた。
中段には監督、愛宕監督の顔も見える。
麻雀部であることはほぼ確定。なのに、
なんでや、あっちの世界の実力どおりなら
レギュラーにおらへんのはおかしい。
でも、このメンツなら仕方がない。
ズラっと並ぶ補欠のメンバーの中に知った顔はあるけど、
うちが選んでも、レギュラーはあの5人になると思う。
浩子「それ懐かしいなぁ」
泉「あ、はい、そうですね」
いつの間にか後ろに来ていて、うちの手の中にあるアルバムを
覗き込んでいた船久保先輩が言う。
存在しない記憶やから懐かしくはないけど、相槌を打つ。
浩子「なー泉、すこやんってなんでこんな顔なんやろなぁ」
泉「え?」
浩子「なんかいっつも自信なさそうやん?」
泉「ですかね…」
浩子「憧や 泉の妹とは思えへんくらい弱気な子や」
泉「まあ…ですね」
浩子「堅実でいい打ち手やけど、決定打に欠けるなぁ」
泉「よう言うときます」
浩子「や、言わんでもええけど…うん、そう思ってるだけや」
泉「そうですか」
返事をしながら疑問符が浮かびまくっていた。
この世界の宮永照はトッププロやし、
千里山のレギュラー5人もほとんど力に応じた感じになってる。
なのに、なんで小鍛治健夜は補欠で、しかも決定打に欠ける、なんて
そんなことを言われてしまうんやろう?
あれは人の心を折るほどの恐ろしい力を持った
元世界2位のトッププロ中の、トッププロ。
…なんでやろう?なにか、あるんかなぁ。
大人は実力どおりじゃないということなんかな?
それならそれなりに納得もできるけど、その理由はよくわからない。
写真をまじまじと見つめながらそんなことを考えていた。
ここまでです
ちょっと多めです
今回は間違いがないといいな…
そしたら、ガラっとドアが開いた。
うちが会いたかった人の一人。この世界では麻雀部の監督らしい、
そして、園城寺先輩の、おそらく母親か姉。
リクルートスーツっぽいのを着た、清水谷先輩や。
竜華「お、泉と浩子やん~。どしたん?」
浩子「うちはいつもどおりです、泉は忘れ物を探しに」
泉「あ、はい。見つけました」
竜華「そっかそっか。あ、泉聞いた?秋季大会やけど、」
泉「聞きました!あの、ありがとうございます」
竜華「ううん、ええんや。泉の努力の結果やん」
笑顔でそう言われた。
そう言えば、清水谷部長に褒められるのが好きやった。
今みたいに、こうして笑顔を浮かべて「よかったやん泉!」って
そう言ってもらえるのが嬉しかったんやっけ。
立場は違っても、その嬉しさは同じ。
泉「いえ、そんな」
竜華「秋は新部長の和、怜、泉の3人を中心に考えてるからな。
1年ながら頑張ってる哩もやけど」
ふーん、原村が新部長か。2年生では一人だけのレギュラーやったんやし、
あの性格やし、まあ適任かもしれへん。
んで、白水哩は後輩か。
アドレス帳には先輩なら先輩と書いてあるけど
後輩や同学年の場合それがないからどっちかわかりにくいのが難点や。
白水哩といえば鶴姫こと鶴田姫子やけど、
白水が1年生で、写真に鶴田姫子を見つけられへんから、
あのコンビ的なやつは使えへんのか。ま、地力十分やけど。
鶴田姫子もどこかにいるんやろうか。
アドレス帳には名前がなかった。
泉「はい!頑張ります」
竜華「うんうん、あ、そろそろ教室戻りや~?」
浩子「はい、そうします」
泉「あ、はい!」
そう言われてそそくさと部室を出て教室へ向かった。
さりげなく、アルバムを持ち出した。
いろんなことあったけど、船久保先輩にも清水谷先輩にも会えた。
うん、嬉しい。園城寺先輩もいるし…あとは、
江口先輩か。
この人はアドレス帳に登録されていなかった。
知り合いじゃないのか、誰かの親なのか。
うーん…実際のところ一番会いたい人やねんけど…なんてな。
どこにいるんやろう?
そんなことを考えながら、午後の授業を迎えた。
午後は滞りなく終了し、先生も元々知ってる先生ばかりで
目新しいことは何もなかった。
愛宕妹の担任がHRを済ませ教室から出て行くと、
うちは部活へ行く準備を始めた。
そこへ、園城寺先輩が近寄ってくる。
怜「泉ー部活行こうや」
泉「あ、うん。じゃあ行こか」
怜「なー、泉さ、和とケンカしたん?」
泉「え、なんでですか?」
カバンを手に、部活へ向かいながら話をする。
思いがけない言葉につい敬語になってしまう。
先輩は気づいてへんみたいやけど。
怜「お昼に一人で肩怒らせて歩いてる和を見たからな、
あーなんかあったかなぁって」
泉「…いや、なんもないで」
怜「ほんま?」
泉「うん、もちろん」
怜「ふーん、そっか…あ、セーラ!」
泉「えっ!!?」
過剰なくらい驚いた。
園城寺先輩が大きな声で呼びかけ、手を振った相手が
ずっと会いたいと思っていた江口先輩やったから。
ジャージ姿の江口先輩は、豪快に笑いながら近づいてきた。
う、やばい。なんか緊張する。
とか考えていると、そばに見たことのある顔も見えた。
その人はアドレス帳で確認している。
ただ、名前だけで学年はわからへんかった。
ここまでです
結構長くなってきた
泉はセーラが好きなん?
単なる憧れてる先輩なだけか?
続き期待
セーラ「おー怜~元気か?」
怜「うん、最近ばっちりやで」
セーラ「そーか。よかったよかった」
怜「ちょっともう髪くしゃくしゃにせんとってや~
先輩なんやからもっと優しくしてーや」
セーラ「すまんすまん」
髪を撫でられた園城寺先輩は苦笑い。
謝る江口先輩も苦笑い。
園城寺先輩が「先輩」って言うたってことは
江口先輩は3年生なんか。
でも、私の直接の知り合いじゃないということかな。
穏乃「お久しぶりです、怜先輩」
怜「穏乃ちゃん相変わらず頑張ってるやん」
穏乃「えへへ、まあって、あ!泉先輩!」
泉「え、な、なに?」
高鴨穏乃、阿知賀の大将。
でも確か同い年のはずやから…この子は1年生のままか。
穏乃「この間の話なんですけど、考えてもらえました?」
泉「え、なんやっけ?」
セーラ「そうやそうや!あれ考えてくれた?」
怜「まーためんどくさいことを泉にお願いしてるなぁ」
穏乃「もう!駅伝の話ですよ!泉先輩にぜひ出てほしいんです!」
セーラ「正直、うちの陸上部ヤバイねん頼むわ!」
泉「えぇ、でも…」
何の話なんや。駅伝?え、ってか江口先輩も高鴨も陸上部?
麻雀部におらへんと思ったらそういうことか。
そらまあなんかイメージにぴったりやけど。
うちは運動は結構好き。んで、走るのも好き。
長距離を走るのが一番好き。
でもそれは好きって程度で、
陸上部の大会に出るようなレベルじゃない、と思うんやけど…。
セーラ「1、2年生しか出れへん大会やから俺は出られへんし、
2年の次期部長はケガしよるし、」
怜「あぁ、もうえりちゃんケガ多いなぁ」
ん?えりちゃん?…えり?誰やっけ?そんなんいた?
穏乃「そうなんです、部長の針生先輩はケガしちゃって出られないし、
もう一人の2年生も最近調子悪くしてて…」
針生…あぁ、針生えり、アナウンサーか!
確か2回戦の実況やってて、三尋木プロに怒ってた人や。
なんかえらい美人の背が高い人ってくらいのイメージしかないけど、
そんな人まで出てくるんか、この世界。しかも、同い年で
泉「もう一人の2年生って?」
穏乃「この前言ったじゃないですか、和先輩と同じクラスの
ほら、亦野誠子先輩ですよ!」
亦野…亦野といえば…あぁ、白糸台か。
うちの両親こと宮永照と弘世菫の後輩にあたるやつやな。
あぁ、もうめんどくさい関係性…。
泉「あぁ、なるほどね…」
怜「反応薄いなぁ、泉」クスクス
隣の園城寺先輩は他人ごとやからって笑いすぎや。
うーん…どうしたらええんやろ?
?「こんなとこでなんしよーと?もうすぐ練習が…」
廊下で話し込んでいたうちらのところに、
またしても見知った顔がやってきた。
ほう、そうきたか。
穏乃「あぁ、姫子!あのね、泉先輩にお願いをしてたんだよ!」
?「あぁ、この間話しよった先輩やね」
セーラ「姫子、お前からもお願いせえ!」
姫子、鶴田姫子。ここにおったんか。
白水とのコンビはどこに行った。
この世界じゃ、二人は知り合いちゃうんかな。
ちなみに、鶴田姫子もアドレスに登録はなかった。
姫子「はぁ、えっと、人数が少なかやけん、ぜひお願いします」
泉「こ、困ったなぁ」
そんなもん出たいわけない。だってうち文化系やで。
運動が得意と運動が好きは別もんやし。
でも、江口先輩のことを知るチャンスというか
知り合いになれるチャンスかもしれない。
憧「あっれーあんたらこんなとこで何やってんの」
怜「あ、宮永先輩」
園城寺先輩の言葉に一瞬だけびっくりした。
いるはずないけど宮永照がいるような気がしたから。
そうや、うちらの家族全員宮永やったわ。
相変わらず慣れへんね…。
憧「さっさと部活行けっつーの、このアホ妹」
泉「はぁ!?」
姉とはわかっていても、むかつく。
穏乃「わ、ちょ!すいません、憧先輩!私らが引き止めちゃって!」
セーラ「そやねん憧、ごめん!」
憧「そうなの?あぁ、あれか。駅伝だっけ?」
セーラ「そうそう、泉ちゃんの力が必要なわけや」
憧「あんた、出ないの?」
泉「さぁ、まだ全然考えてへんし」
憧「ま、ちゃんと考えてやってよ。ほら、部活いきな」
怜「ほ、ほな!」
泉「じゃあ、また」
穏乃「お願いしますよー!」
新子憧に急かされてその場を足早に後にした。
高圧的なお姉ちゃんや。
もうちょっと可愛らしくてもええのに。
そう思ったら、園城寺先輩がこんなことを言った。
怜「泉のお姉ちゃんはやっぱちょい怖いな」
泉「いつもあんなんやな」
怜「でも、セーラとおるときは顔つき変わるけどな」
先輩はちょっと下世話な感じで笑った。
ん?どういう意味なん?
怜「あれ、泉知らんの?あ、やば、ごめん忘れて」
泉「なんのこと?」
怜「や、えっと…セーラと、宮永先輩が付き合ってるっていう話やねんけど…」
自分から言い出したくせに園城寺先輩は言いにくそう。
…その言葉に、一瞬すべてが動きを止めたように感じた。
付き合っている?誰が?誰と?何のこと?
ちょっと自分でも信じられないくらい動揺していた。
付き合っている?なんで?そんなアホな。
わかってる、この世界がおかしいのはわかってる。
園城寺先輩の苗字が清水谷なくらいやから、おかしいんや。
だから何が起きてたっておかしくない。
うちが原村和と付き合っているくらいなんやから
新子憧と江口先輩が付き合っててもおかしくない。
でも、なんやこれ…なんで、こんなに…動揺してるんやろ。
なんでこんなにショックを受けているんや。
怜「泉?ごめんな、えっと…」
泉「…だ、大丈夫やから」
怜「あ、うん…」
確かに、さっきの新子憧はなんか嬉しそうやった。
そういうことか、なんやそういう…。
大丈夫と言っていても、大丈夫じゃないのは明らかやった。
元にここにいた「宮永泉」は知っていたんやろうか。
どうかな…どうでもいいか…。
うち、江口先輩のこと好きやったんかな。
意識したこともなかったし、恋人は麻雀やと思ってたけど
でも好きやったんかな。だからこんなにショック受けてるんかな。
たくさんお世話になった先輩。
インハイではチームに大きな失点を与えてしまったうちを
励ましてくれた熱い先輩。
すごく尊敬してる。でもそれは、他の先輩と同じだと思ってた。
でも、…この感じは同じやないかもしれへん。
あーなんかモヤモヤして気持ちが悪い。
ちょっと多めですここまでです
>>110
なんかこういう感じ
急いで部室へ向かったおかげか、遅刻にはならずに済んだ。
監督の清水谷先輩が今日のメニューを伝えて、麻雀部の練習は始まる。
3年生は誰も来ていなかった。
昼休みにはいた船久保先輩すらいない。と、思ったら
灼「受験勉強から逃げて来ちゃった…」
竜華「おーよう来てくれたなぁ。歓迎歓迎、息抜きも必要やで」
灼「そんな感じ…」
という3年生が練習に参加していた。
鷺森灼、…あれ、この人って元々何年生やっけ?
思い出せへんな…でもたしか阿知賀の部長やった。
この人も新子憧と同じで、3年生のレギュラー外選手。
麻雀部の層厚すぎやろ…。
でも、インハイでは優勝できなかったらしい。
さっき持ち出したアルバムには準優勝と書かれていた。
じゃあ優勝はどこやったんやろう?やっぱ白糸台かな。
何局か打ち終えたあとの休憩時間。
怜「哩ちゃん今日も絶好調やなぁ」
哩「や、そげなことなかです」
怜「いやいやー、なぁ、泉?」
泉「うん、そうやな」
哩「まだ1年生やけん、もっと強くなりたか」
そもそも白水に勝てるような力のないうちからすれば
一緒に打てるというだけでとても勉強になる。
けど、ここでは先輩やから威厳とかも必要やし…
だからちょい上から目線で頷いた。
1軍にあたる何人かと打ってわかったのは
この中でエースにふさわしいのは園城寺先輩と白水哩の二人。
原村は部長やけど、実力では一歩後退って感じ。ま、主観でな。
その、まだ後ろにうちはいる。清水谷先輩が期待してると
言ってくれているわけやから、もっと頑張らなあかんよな。
で、レギュラーにもう一人入ってくるとすれば…。
宥「せんぱぁい…あ、あのぉ、…暖房入れてもいいですか?」
とか9月の頭にアホみたいなことを言うてきた松実姉か。
仁美「なんもかんも政府のせい」
とかいう言い訳をかましてきた新道寺のモコモコヘアーさんか。
ちなみにどっちも1年生。…って待て待て。
監督が期待してるって言うてくれたけど、
松実姉はめっちゃ強い、インハイで身をもって体験してる。
あれは実質、阿知賀のエースやった。
新道寺の江崎仁美は正直そんなに怖くないけど、
でも強豪新道寺の中堅を務めた人なんやし、やっぱ強い。
…あれ、うちこそ当落線上ちゃうんやろうか。
うぅ、もっともっと頑張らな。
健夜「お姉ちゃん」
と呼ばれて一瞬気づかずにスルーしかけて、
それでも小鍛治プロの声に気づいて振り返った。
泉「ん、どした?」
健夜「哩ちゃんも宥ちゃんも、みんなすごいよね」
泉「す、す、健夜も同じ1年生やし、まだまだやんか」
健夜「私はだめ。お姉ちゃんたちにくっついて麻雀やってるだけだし…」
泉「そうかな…うちは健夜、麻雀に向いてると思うで?」
健夜「ううん、だめ…自信ない」
シュンとなった小鍛治健夜。なんか、ちょっと、うん、可愛い。
「大丈夫」って髪を撫でると「うん…」って笑ってくれる。
船久保先輩が言うてたのはこういうことか。
堅実な打ち手やけど、決定打に欠けるやっけ。
あぁ、そういえば愛宕監督もそんな感じやった。
めちゃくちゃ強いこの人も、パっとせん麻雀を打っている。
二人ともイメージからは程遠い。
何が理由なんかな…大人以外の実力が元の世界と
だいたいは同じなだけに、なんだか変な感じがする。
泉「うちらの姉妹って、お父さんはプロやのに、あかんなぁ」
健夜「…うん」
泉「でも、伸びシロがあるってことやし、できるって!」
健夜「じゃあもうちょっと、頑張ってみる…うん」
年上のトッププロに正直偉そうかなって思うけど
ここでは妹なわけやし、仕方ない。
泉「よし、いい子や」
そうこうしているうちに休憩は終わり、対局は再開する。
ここまでです
うちと同じ2年生に小鍛治プロの相方がいる。
その人と、健夜と、うちと、松実宥が卓を囲む。
どうやらここでも健夜とその相方は結構仲良しみたいで、
健夜はいじられている。
そう、
恒子「すっこやーん、それポーン!」
健夜「もうこーこちゃんうるさいって」
自信なさげな小鍛治プロも福与アナには強気らしい。
そこは元の世界と同じらしい。
恒子「んもうすこやんは堅いなぁ」
健夜「こーこちゃんが自由すぎるんです」
宥「ねぇ健夜ちゃん、暖房入れてもいいかな?」
健夜「いや、それは、いらないと思う…けど…」
恒子「もうちょっと我慢しようよ、宥」
宥「はぁい…うぅ」ブルッ
ずいぶん楽しそうな部活なこって。
でもほら、あんま自由やと…
和「ちょっとそこ!静かにしてください!」
泉「す、すんません」
静かに打っていたうちがとばっちり…。
和「泉が率先して注意しなくてどうするんですか」
泉「…ごめん」
恒子「ま、まあ和、ちょい落ち着いて」
和「だいたい!福与さんが騒ぎすぎなんです、対局中ですよ?」
健夜「そうだよこーこちゃん」
恒子「…ごめん、2年生なのに騒いじゃった」
宥「ごめんなさい…」
和「や、松実さんはいいんですけど…とにかくちゃんとやってください」
泉「うん、ごめん和」
和「…いえ」
原村は機嫌が悪そうやった。うちのせいかな、やっぱ。
ごめんみんな。でも、やっぱちょいうるさかったで?
会話を静かに聞いていると、恒子ちゃんこと福与さんは
うちの近所に住んでるらしく、幼馴染って感じらしい。
うちが和と登校するように、健夜も福与さんと登校してるとか。
あっ…じゃあ、憧、新子憧は江口先輩とってことかな…。
うぅ、複雑…。なんでよりにもよってあんなんと。
べ、別に悪いわけじゃないし…でも、やっぱり面白くはない。
だからやっぱり、うちは…江口先輩のこと、
好きかどうかは置いといて、そういう意味で気になってる。
練習が終わり、帰る前にトイレに行こうと部室を出たら
セーラ「よぉ、待ってたで」
泉「あっ…どうも」
気になっている人が目の前に現れた。
どうやら練習が終わるのを待っていたらしい。
セーラ「なぁ、ちょーっと付き合ってくれへん?」
泉「へ?」
セーラ「ほら、駅伝の、…な?」
泉「でも…出るか、決めてないですし」
セーラ「まあ、ええやん。とりあえず部員紹介するし」
泉「や、だから、あの、」
セーラ「ほら、荷物持ってきて!な?」
話を聞いてくれない強引さ…。
でも、部員とやらも気になるし、江口先輩のことを知りたい気もする。
まあ、話を聞くくらいなら…と思って、荷物を取りに戻った。
和「あ、あの、泉…このあと、どこかでお茶でもしてから帰りませんか?」
原村がなんだかモジモジしながら声をかけてきた。
言いたいことはわかる。仲直りというか、
微妙な感じになってしまったのをなんとかしたいんやと思う。
泉「えっと、ごめん。ちょっと寄るとこあるし、先に帰って?」
和「えっ……わかりました、じゃあまた」
泉「うん、またな」
ごめん、原村和。でも、うちの中での優先度は低い。
恋人だなんて思えない。可愛いとは思うけど、好きじゃない。
ほんま、ごめん。
ここまでです
途中でトイレに寄ってから、
江口先輩に連れられてグラウンドへやってきた。
ナイター設備の電灯がいくつか点いていてそこそこ明るい。
数人が集合している場所へ行くと、さっきの二人もいた。
相当走りこんだのか、みんな汗びっしょりや。
でも、清々しい感じがして気持ちがよかった。
穏乃「泉先輩!来てくれたんですね!」
泉「や、とりあえず話だけって…」
姫子「ありがとうございます」
泉「あ、うん…」
なんやこの期待されようは…この陸上部そんな弱いん?
グラウンドの隅のベンチへ移動してそこで少し話をした。
今度の大会はこの地区にある高校の交流試合みたいなお祭り的大会で、
1、2年生のための大会になってるらしい。
ただ、お祭り的といえど各校真剣勝負でくるために気は抜けないとか。
だから千里山陸上部も必死みたいや。
大会は今から1ヵ月半後。麻雀部の秋季大会よりもあとに行われる。
うわぁ、時間ないんやな…
毎年そこそこの成績を残してきたけど、
今年は次期部長がケガ、次期エースは体調不良でピンチ。
その次期部長さんがこちら、
えり「あの、ほんとに申し訳ないです…」
足首をテーピングみたいなやつでぐるぐる巻きにした
針生アナが頭を下げた。ジャージには着替えてるけど、
汗かいてないっぽいから見学かな。
ほんと、この人は美人や。部長がぴったり。
そういや健夜と福与さんは仲良しみたいやけど
針生アナの相方といえば…三尋木プロ…は、見当たらない。
泉「いえ、まあ…出来ることならやります」
あ、やりますって言うてしまった。
セーラ「やるって言うたなー!?」
泉「あー…はい、頑張ります。で、でも麻雀部最優先なので!」
誠子「そりゃもちろん!それは当然だよ!」
体調不良のエースさんがそんなん言うてる。
原村のクラスメイトなんやっけ。
美子「はぁ、これで安心したとー。宮永さんやったら戦力になる」
安河内美子…新道寺の次鋒さんや。
うちが弘世菫、松実宥と共にインハイで卓を囲んだ人。
会話からおそらくは2年生。
穏乃「ほらのよりん、挨拶しなきゃ」
理沙「…すごい!」
泉「え?」
理沙「速い!」
姫子「たぶん、泉先輩がすごく速いから頼もしいとかなんとか
そんな感じのことを言っとーとです」
泉「なるほど!」
口下手やのにインハイで解説してた野依プロやんか。
正直そんなにこの人のことを知らんけど、
でも間違いなく野依プロや。1年生かな。
そんで、もう一人。
セーラ「あ、ほんで、これは尭深、渋谷尭深。マネージャーやで」
泉「ま、マネージャーもおるんですね」
尭深「あの、よろしくお願いします」
渋谷尭深といえば役満。江口先輩が親かぶりしてたっけ。
白糸台の超攻撃布陣の一角を担ってる人。
メガネと大人しい感じが確かにマネージャーっぽい。
泉「こんだけですか?」
セーラ「1、2年はそんだけや。あと3年がもう2人…」
咏「おぉー宮永泉ちゃんはっけーん!」
セーラ「遅いねん咏、どこ行ってたんやもう」
咏「やー、トイレだだ込みでさーごめんよー」
えり「この時間に込んでるトイレなんかありません」
咏「えりちゃんきっつーい!」
えり「次の大会は1、2年生ですけど、
3年生だってまだ全国の予選会あるんですから!」
咏「はいはい、わかってるよー」
えり「もう…」
セーラ「ごめんなぁ、こいつら幼馴染で」
泉「は、はぁ」
ほう、うちの部の小鍛治福与ペアとまったく一緒やな。
しっかし三尋木プロちっちゃ!可愛いなぁ!
でも身軽そうやしかなり速そうや。
セーラ「で、晴絵どこや?」
咏「あー、きたきた。おーい!」
晴絵「ごめーん!クラスの子に会ってしゃべってたー」
セーラ「アホ、一応まだ練習中やで」
晴絵「ごめんセーラ…あー憧の妹だ。私が一応部長です」
泉「あの、よろしくお願いします」
晴絵「おー頑張ってね。憧も期待してたよ、だいたい憧の推薦だしさー」
泉「え、そうなんですか?」
晴絵「あ、これ言っちゃいけないやつだったかも」
セーラ「おいおい晴絵ー」
晴絵「ご、ごめん。聞かなかったことに…」
泉「は、はぁ」
うわ、あのお姉ちゃん余計なことを…。
で、これは阿知賀の監督の赤土晴絵か。
小鍛治プロとの因縁がどうのって、確か船久保先輩に聞いたことがある。
でも全く喋ったことないし初対面みたいなもんや。
この人は背が高いし体格もいい。
三尋木プロとは別のベクトルで速そうな感じがする。
穏乃「こんな騒がしい感じなんですけど、これからよろしくお願いします!」
高鴨穏乃が深々とお辞儀をした。
同い年にそんなことされるとなんだかむずむずする。
でも、期待されてるのかと嬉しくもなる。
このあと、みんなとアドレス交換をして、
練習の簡単なメニューを組んでもらってから解散した。
麻雀が第一。それは絶対。監督の期待は裏切れない。
でも、必要とされるなら、出来ることをしたい。
なんて、何も満足に出来ないくせに欲張りすぎかな。
でもええよな、だって、これは現実じゃないし。
だからこそできることもあるはず。
失うものなんか何もない。よーし、頑張ってみるか。
ここまでです
ちょい長め
泉「た、ただいまぁ」
遅くなってしまった、これが元のお母さんやったら
めっちゃ怒る。「連絡せえ!」って怒る。
さて、弘世菫は?
菫「泉、何時だと思ってるんだ。同じ時間に部活を終えた
健夜はもうとっくに帰ってきてるんだぞ」
怒鳴られへんだけマシやけど、まあ、怒ってるな。
泉「ごめんごめん、寄るとこあってん」
菫「寄るとこって?」
泉「ん~…お姉ちゃんが知ってると思うで」
当然、江口先輩から新子に連絡が行ってるはず。
恋人なんやからなぁ?…なんて、嫉妬か、うち。
菫「憧?どうして?」
泉「さぁ、なんでやろう?あ、おとーさんは?」
菫「さっき試合会場を出たってメールきてたぞ」
泉「そっか、ほなさっさと着替えるわー」
菫「いや、こら、泉!」
後ろからなんか聞こえるけど無視して階段を上がる。
うん、変に意識せんでもええんや。
お母さんなんや、うん、だから、普通でいいんや。
部屋に入って「ふーっ」と大きくため息。
なんか疲れる一日やった。
なんか何日も経ったみたいな濃い一日や。
いろんなことがあって、駅伝を走ることになった。
もうなんやようわからへん。けど、走ることになった。
泉「とりあえず着替えるか…」
カバンをベッドに投げ出して、制服を脱いだ。
さっさと家着に着替えて、ベッドに寝転がる。
泉「あぁ疲れた…」
なんかもう眠い…あ、でもご飯食べなあかんな…
脱いだものも洗濯機に放り込まなあかんし…
お弁当も出しておかへんと洗ってくれへんし…
あぁ、でも、眠い…。
自然と、すーっと寝入ってしまう。
あれもこれもと思いながら、さっさと意識を手放していた。
憧「こら、泉!泉!」
目を覚ましたのは、姉の大声やった。
うっさい…マジでうっさい。
泉「…うるさ」
憧「晩御飯だっつーの!起きろ!」
泉「うぅ…はい」
目を擦りながら起きて、時計を見ると30分も経っていなかった。
それにしては深い眠りやったかも、疲れも少しはマシ。
憧「陸上部の話、お母さんにしといた。やるんでしょ、駅伝」
やっぱ知ってたか。
やっぱ…付き合ってるんやなぁ。
ま、友達って線もあるけど園城寺先輩の話を聞いた以上、
その仮定は無意味か。
泉「あ、うん…一応そのつもり」
憧「やるからには、しっかりやんなさいよ」
泉「わかってるで」
憧「それから…いや、いいや。ほら、ご飯だよ」
泉「んーすぐ降りる」
何かを言いかけた新子憧は何も言わず、
そのままうちの部屋を出て行った。
なんやったんやろ…?
お弁当箱や洗濯物を持って階段下りると、「だからね、」
と宮永照が話す声がした。
帰ってきてたか、おとーさん。
洗濯物を洗濯機へ放り込んでダイニングへ向かう。
ドアを開けると、うち以外全員席についていた。
どうやら待ってくれていたみたい。
それがなんだか嬉しかった、だって、「家族」みたいで。
菫「よし、食べるぞ」
泉「うん、ごめん」
お弁当箱をキッチンに置いてから席に着くと、
いただきます、と声があってみんな食事を始めた。
朝も、お昼も思ったけど当然弘世菫とうちのお母さんの味は
全然違う。でも、おいしい。つい、食べ過ぎる。
照「泉、駅伝走るんだってね?」
泉「まあ…うん」
菫「お前は昔から足が速いからなぁ」
健夜「お姉ちゃん、麻雀部やめないよね?」
健夜が不安げな顔で言う。どれだけ自信がないんや。
そーいうの、なんか可愛いって思ってしまうけどさ。
泉「やめへんよー。その大会で走るだけや、うん」
健夜「よかったぁ」
憧「麻雀部やめなきゃいけないようならやらせないって」
泉「あ、赤土先輩に推薦したらしいな。ったく余計なことを!」
憧「いいじゃん、ちょっとくらい」
泉「はいはい」
健夜「お姉ちゃんがんばってね、応援行くから!」
泉「健夜はお姉ちゃんと違ってええ子やな」
憧「はぁ?」
照「こら、やめなさい。あ、それより今日のお父さんの試合見た?」
菫「すまん照、夕食の準備でつい見逃した」
憧「あたし勉強してたー」
健夜「ごめんお父さん、恒子ちゃんとつい話し込んじゃって…」
泉「うちはまだ学校におったから…」
照「…そっか。うん、そうだよね、勝ちすぎるとそうなるんだよね…」
菫「どうした?」
照「スポンサーさんからさ、一方的な試合展開だと
視聴者が離れるって言われて…でも手加減や手を抜くのは違うし…」
トッププロもいろいろ大変らしい。
お父さんは今日も、いろんなものと戦ったということか。
泉「あ、明日から朝はランニングするしな」
菫「自分でちゃんと起きないとな」
泉「そらちゃんと起きるで!」
菫「どうだかねぇ…」
うぅ、信頼がない…。
そら今朝は起こされたけども。
照「がんばれ泉」
菫「まあ、無理のないようにな」
泉「うん、ありがと」
みんなに応援されてしまった。
なんだかこの家族に愛着がわいてくる。
何もかもおかしいこの家族と一緒にいて、
寛いでしまっている。慣れてしまっている。
いいのか悪いのか…いや、いいに決まってる。
いつ戻れるのかわからへん以上はこれでいいんや。
キリのいいところまでと思ったら長くなりました
ここまでです
憧が何を話そうとしたか気になるな
続き期待
夕食後、片づけを手伝ってから部屋に戻った。
お風呂は小鍛治プロが入ってるから、そのあと。
それまで人間関係でもまとめていようか、とノートを開いたとき
ノックもせずにドアが開いて、姉が入ってきた。
憧「あのさ、ちょっといい?」
泉「ノックしてーやー。で、よくはないけど、なに?」
憧「…今日、あんたのせいで和が泣いてたんだけど」
泉「へ?」
憧「どういうつもり?」
泉「いやいや待って、何の話?」
はぁ、と大げさなため息が姉から漏れる。
呆れられてるみたい。でも、心当たりはない。
きついこと言ったかもしれんけど、
泣かせた覚えなんか…。
憧「帰り道で和に会ったら元気ないから、どうしたのって聞いたら
急に泣き出して、泉に嫌われたって…これどういうこと?」
泉「どういうって…別に何も?」
憧「うそつくな、和に冷たくしたんでしょ?
恋人に隠し事までしてなにしてんの?」
う、全部しゃべったわけね、原村和は。
新子憧と原村和は仲がいいのかな。
毎朝うちのこと迎えに来るってことは
幼馴染とかそんなんかもしれへん。
泉「別に何もないって。嫌いになったわけでもないし」
憧「あんたさ、なんか変わったね。和のことになったら
顔真っ赤にして照れてたくらい好きだったんじゃないの」
それは「宮永泉」やろ。うちは二条泉やから。
原村は同学年のライバル、ただそれだけ。
恋人なんて、そんなんすぐに受け入れられるはずない。
泉「さぁ、わからへん」
憧「和は…泉のこと好きなんだよ。大好きで、
今日みたいに泣いちゃうくらい好きなんだよ」
泉「それは、知ってる。でも、言えんこともあるやん」
あぁ、面倒くさい。恋愛ってこんなに面倒なん?
ちょっと冷たくしたら泣かれて、姉に説教されるなんて
面倒以外の何者でもない。
恋とか、憧れはある。江口先輩のことだって、気になる。
でも、こういう面倒ごとにいちいち向き合うとなると
嫌気が差してくる。
それは本当に好きな人に出会ったことがないとか
そんなん言われそうやけど、でも、
まだ16才のうちは面倒にしか思えない。
憧「あのね、泉が思ってるよりもずっとずっと、
和は泉が好きなんだよ。それはもう小さいときから…」
泉「え?」
憧「あんたは高校に入って告白されたから知らないだろうけど、
和は昔から泉が好きでね、私はいつも相談にのってた」
泉「……そう、なん」
宮永泉も知らんかったんかな。
ずいぶん愛されてるみたいや、そんなに想われているとは。
一途に想ってきたってことか…。
今朝の、お昼の、部活後の、
寂しそうだった悲しそうだった原村の顔がふっと浮かんでくる。
すると、一気に罪悪感が襲ってきた。
憧「泉が告白を受け入れたとき、和は泣き笑いしてさ、
『嬉しい、嬉しい』ってあたしまで嬉しかった」
泉「何で内緒にしてたん?」
憧「和が恥ずかしいし泉には言わないでって言うから。
でも、…泉が全然わかってないから言っちゃった」
泉「…えっと…明日ちゃんと謝るわ」
面倒やって思うのは変わらない。でも、胸が痛かった。
そんな風に思ってくれている人に冷たくしてしまった。
宮永泉はきっとそんなことしないやろうに。
恋人なんかじゃないって避けようとしたのはまずかった。
もっと優しく出来たはずやのに、好きじゃないなんて
そんな風に思ってしまったのはよくなかった。
恋人として好きじゃない、これは仕方がない。
でもフリくらいはできるはず。
それを怠ってしまったのがよくなかったんや。
娘や姉や妹のフリができるんやったら、
恋人のフリができないはずがないのに。
原村からしてみれば何の落ち度もないのに
急に隠し事されて話をしても相手は上の空で、
挙句一緒に帰ろうという誘いまで断られた。
嫌われたって思うのも仕方がない。
そんだけのことをしてしまった。
自分に余裕がなかったり混乱してたのも大きな原因のひとつやけど、
やっぱり恋人なんて認めたくないって気持ちが勝ってたのかも。
ごめん、傷つけて、ごめん。
憧「うん、それでいい。あんたらお似合いなんだからさ」
姉は納得したような顔でうなづいた。
泉「なぁ、…江口先輩と付き合ってるんやろ?」
ちょっと不意打ち。
憧「は!?ちょ、それ誰に!?」
えらいびっくりしてる。やっぱ内緒やったんやな。
泉「さぁ、でも、…そっちもお似合いやん」
憧「あ、あはは…か、かもね」
急に照れた顔になって、頭をかいてる。
この世界に来てはじめて新子憧の可愛らしいとこを見た気がする。
このお姉ちゃんはこんな風に笑うんやな。
憧「と、とりあえず駅伝も和のことも頑張ってよ」
泉「うん、もちろんや」
憧「…うん、ならいい。じゃあね」
泉「ありがと」
憧「いいよ、泉じゃなくて和のためだから」
泉「はいはい」
お姉ちゃんは手を振ってうちの部屋を出て行った。
なんか、お姉ちゃんっていいな。
新子憧であることに引っかかる部分はあるけど、
でもこんなに心配してくれる人がいるのは嬉しい。
一人っ子やったから、昔から姉妹が欲しかった。
その夢が叶ったような気がする。
ここまでっす
>>161
こんな感じで
泉「あ、そうや…」
原村にメールをしておこう。
傷つけた分、優しくしてあげた方がいいやんな。
けど、電話はちょっと恥ずかしいからメール。
『今日はごめん。明日、一緒に学校行こう』
そんな感じでメールを打って、送信した。
送信先の名前は「瑞原和」。
どうやら原村は瑞原プロの娘らしい。
ちなみに瑞原プロことプロ雀士界のアイドル、はやりんは
お父さんこと宮永照が本日対局した相手でもある。
さっきTVの麻雀ニュースでやってたけど、おとーさんが圧勝しとった。
確かに手に汗握る面白い対局とは言いがたかった。
って娘同士が付き合ってるってどうなんやろ…ええんかな。
まあ、成立してるってことはええってことか。相変わらず変な世界や。
ん…?あれ?
小鍛治プロや愛宕監督は正直弱くなってる。
三尋木プロや野依プロ、姫松の赤阪さんに至っては麻雀部ですらない。
なのに、瑞原プロはプロ雀士?
けど、瑞原プロみたいなトッププロが
宮永照に完敗するほど弱いとも思えないから、
やっぱり大人はみんな弱くなってるってことかな?
あぁ、もう、法則がようわからへん…!
で、メール送ったら速攻返事。
『当たり前です。ちゃんと着替えててくださいね』
あまりにも原村らしい内容で笑った。
同時にほっとした。
好かれていることをもっと自覚して、優しくしてあげよう。
恥ずかしいけど、手もつなぐし積極的に喋ろう。
下手に不安にさせたくはない。
何度かメールのやりとりを続けてからお風呂へ入って
部屋に戻ってきたら江口先輩からメールが来てた。
『今日はありがとう。これから、よろしく』
それだけの内容。でも、江口先輩の顔が浮かぶ。
姉の恋人で、陸上部のエース。
…気になる人、尊敬している人。
原村に優しくすると決めたばかりなのに
どうしても頭に浮かんでくる。
だからそれを振り払うためにノートと向き合った。
今日出会った人たちとの関係性を書き出してみよう。
家族。(宮永家)
宮永照:父 トッププロ、強すぎてクレーム
弘世菫:母 たぶん専業主婦、怖い
新子憧:姉 高3、江口先輩と付き合ってる、
小鍛治健夜:妹 高1、麻雀弱い、弱気
学校、先生。
愛宕絹恵:担任 愛宕妹で教科は不明
真瀬由子:現文 姫松の次鋒、語尾がおもろい
末原恭子:数学 教えんの上手かった
上重漫:社会 生徒にめっちゃいじられてた
赤阪郁乃:化学 (名前自信ない)なんか怖かった
麻雀部、同学年(2年生)
原村(瑞原)和:恋人 幼馴染で恋人、新部長、瑞原プロの娘かな
園城寺(清水谷)怜:クラスメイト まさかの同級生
福与恒子: 小鍛治プロと仲良し、ちょいうるさい
先輩(3年生)
愛宕洋榎: まだ喋ってない、インハイでは大将
船久保浩子:元部長 インハイでは副将、いつもどおりの先輩
鷺森灼: レギュラー外の3年生 なんか暗い
後輩(1年生)
松実宥: 寒がり、でもやっぱ強い
愛宕雅枝: まさかの後輩、喋りにくい…あと、あんまり強くない
白水哩: 1年でインハイレギュラーで中堅、訛ってる、強い
江崎仁美: (名前合ってるっけ?)髪が羊みたいや!
陸上部、同学年(2年生)
針生えり:次期部長 現在怪我してる、美人
亦野誠子:次期エース 体調不良で走れてない
安河内美子: 新道寺のメガネ、あんま印象がない
先輩(3年生)
江口セーラ:エース お姉ちゃんの恋人、相変わらずかっこええ
三尋木咏: まさかの三尋木プロ、針生さんと仲良し
赤土晴絵: 姉の友達、背が高い、あんまり知らん
後輩(1年生)
高鴨穏乃: 積極的に誘ってきた、スタミナがすごいらしいで
鶴田姫子: サバサバした人やった、あんまり印象がない
野依理沙: まさかの野依プロ、何言うてるかわからへん…
渋谷尭深:マネージャー 口数は少ない、よくわからへん
他
瑞原はやり:プロ雀士 おそらく原村の親やと思う
泉「ふー」
園城寺先輩の名前が清水谷になってたから
みんな結構苗字もちゃうんかなって思ったけど、
こうアドレス帳を見ながら書き出すと、
苗字が違うのは宮永家と瑞原家と清水谷家だけっぽい。
あくまで、わかってる中での話やけど。
さて、このメンバーに何か共通点はあるんかな。
麻雀…なんて、そんな簡単なわけはないなぁ。
うーん…。
でも、インハイで戦った相手とか解説とかそういう…。
インハイで戦った…ん、あれ、なんか引っかかる。
なんやろう?うーん?
すいません
>>178
一行目に、
>麻雀部、監督
>清水谷竜華: 監督 優しい監督。園城寺先輩の親か、姉妹か。
これを入れてください
インハイ準決勝の相手は、阿知賀、白糸台、新道寺や。
だいたいはそのメンバーがごちゃごちゃに現れてる。
同じ大阪の姫松や原村、プロとかアナとかはようわからんけど、
でも、ほとんどはその3校のメンバーと千里山で……。
泉「…あぁ、そうか」
ノートに書いた名前を見つめていて、ピンときた。
阿知賀も、新道寺も、白糸台も、1人足らん。
そうや、なんか少ないと思ってたんや。
これはうちが知らんだけか?
学校のどこかにはいるか、誰かの家族とかかな。
でもそうなった場合探しようがないし…。
阿知賀、松実妹
新道寺、花田煌
白糸台、大星淡
ノートに書き出して考える。
共通点ってあるんかな、この3人。
ドラゴンロード、トバん人、ダブリーで角の人…。
学年も一緒ってわけやないし、んー?
共通点…オカルト染みた能力者であるのはそうやけど、
それだけ?…なんかしっくりこない。
あぁ、考えても答えなんか出るわけないか…。
泉「もう寝よ…」
考えるのを諦めて、明日の準備を済ませた。
起きたら朝のランニングをする。
走る習慣が大事って言われたからなー。
うーんと背伸びして、ふと本棚を見ると
「高校麻雀 インターハイ特大号」という雑誌を見つけた。
千里山の記事はあるかな…と、それを手にとった。
そんで、表紙を見て驚いた。
表紙の見出しは「最強軍団がインハイを完全制覇!」とある。
白糸台の制服姿でピースサインをして表紙に収まっている5人。
泉「…ほうほう、そら勝てんわ」
そりゃ千里山は優勝できないはず。
こんだけ集めたらフツーは優勝する。
関西最強の荒川憩、九州の魔物神代小蒔、
宮永照の後継者大星淡、宮永照の妹宮永咲。
そんで、去年のインハイで伝説的な活躍を見せた天江衣。
誰かが言っていた、「魔物」が5人。
牌に愛された選ばれし人たち。
大星淡はここにいたんか。
中身を見ようとページをめくる。
インハイでの激闘が写真つきでまとめられていた。
千里山の先輩たちの写真もある。
そして中ほどに、「5人を支えた6人目の選手」として、
花田煌の写真が掲載されていた。
そこにいたんやな、あの、「すばら!」って口癖の人。
んでその横の記事には、白糸台の監督姿。
泉「うわマジか…」
殊勝な顔してインタビューに答える姿。
泉「松実玄が監督とかなんじゃそら」
思わずそんな声が漏れる。
あぁ、もう全然わからへん。
この5人はわかる。うちが強いと認めてる5人やから、
ライバルとして立ちふさがってるってことやろ?
それは納得できる。でも、松実玄ってなんやそれ。
監督?あの子が?全然似合ってないやん…。
わからんわからん…。
いやいやわからんのは全部そうや、これに限ったことじゃ…。
でもでも!
雑誌を手にベッドに寝転がって記事を読む。
「千里山のエースが躍動!」
という見出しには園城寺先輩の雄姿が。
先輩は2年生エース、つまり先鋒かー。
まあ、そんな当たり障りのない内容だけどつい読みふけっていた。
そのままベッドに突っ伏して眠っていた。
はちゃめちゃな一日がようやく終わる…。
The end of the first day...
ここまでです
勢いで書き溜めていたんですが、
ここで終わってしまいました
着地点は一応考えているので
ある程度形が出来上がってからまたスレ立てします
読んでくれた人、支援してくれた人どうもありがとうございました
またスレ立てしたらよろしくお願いします
それではHTML化を依頼してきます
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