海未「光が消え、穂乃果は声を出せなくなりました」 (14)

音ノ木坂学院

恵海「…」

恵海「え?」

恵海「あれ?」

恵海「ここは……どこ?」

恵海「!…」

恵海「……音ノ木坂学院」

恵海「穂乃果たちの、学校」

恵海「これは…夢?」

恵海「!!」

恵海「あれは…」

恵海「…………穂乃果」

恵海「…」

恵海「」タタタ

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部室

ことり「…え?」

ことり「海未ちゃん。今、何て?」

海未「全てを成し遂げ、今、私たちは夢の後にいます」

海未「光はひとつになって、そして、消えました」

海未「ライブも。夢も。美しくて、儚いものです」

海未「例えるなら、それは雪のまばゆさに似ています」

海未「美しいけれど、美しいのはその時、その間だけ」

海未「何もかもが終わり、光が消えた先に待っていたのが何か」

海未「私にはそれが何なのか分からないですが…」

ことり「ちょっと。海未ちゃん…? さっきから何を」

海未「穂乃果の声が、出ません」

海未「穂乃果の声が、出ないのです!!」

とても辛い思いをした。

何だろう。

私にはそれが何かがよく分からない。

けど。

心臓の奥。私の「命」が、悲痛な叫びを上げているのが分かる。

奇跡のように全てが繋がって。

最後までやり遂げて。

その後。どうしたっけ…?

よく憶えてないや。

私は、高坂穂乃果。16歳。

穂乃果は、μ'sのセンター。多分。

高坂穂乃果は、やりきったはず。

なのに、この痛みは何?

助けて。助けて。

痛いよ――。

朝 通学路

絵里「…ねえ」

希「うん?」

絵里「私たち、何で…登校してるの?」

希「うちにもよく分からないけど…」

絵里「今。何月何日?」

希「ええと」

希「4月2日やね」

絵里「……4月2日?」

絵里「学校。やってたかしら」

希「何でこうして登校してるか。今が本当に4月2日なのか」

希「何もかも分からないけど…」

絵里「……行かなきゃ行けない気がするのよね。何故だか…」

同時刻 別の通学路

凛「かーよちん!」ガバッ

花陽「わっ。…凛ちゃん」

凛「おはよう!」

花陽「……おはよう」

凛「元気、ないね。大丈夫?」

花陽「…凛ちゃんこそ」

凛「……分かる?」

花陽「今。何月何日だと思う?」

凛「4月の…」

真姫「2日」

凛「真姫ちゃん!」

真姫「おはよう」

花陽「ねえ。真姫ちゃん…」

真姫「私にも何がなんだか…。意味わかんない」

真姫「……昨日」

真姫「私がラブライブ決勝の後に作った、あの曲」

真姫「データが全て破損してたのよね」

同時刻 屋上

にこ「…」

にこ「何で私……ここにいるの」

にこ「全部、やり遂げた筈じゃない」

にこ「何かが…あったような」

にこ「そんな気がするわ」

にこ「…」

にこ「私はアイドルが、スクールアイドルが、好き」

にこ「皆を笑顔にする、元気にできる、アイドルという存在、ライブという時間と空間。全部が」

にこ「全部が、好き」

にこ「皆を元気にしたくてやってきた」

にこ「実際、元気にしてきた」

にこ「けど…」

にこ「アイドルは、とびっきりの元気を与えることのできる存在は。きっと」

にこ「きっと……」

にこ「……」

にこ「…」

にこ「楽しい、だけじゃない」

にこ「まだ私たちは、試される」

にこ「全てが終わってもまだ試されるのなら…」

にこ「ううん。終わってない」

にこ「…………夢に、さようならなんて、しない」

にこ「皆に会わなきゃ」タタタ!

部室

海未「…」

ことり「…」

絵里「…」

希「…」

花陽「…」

凛「…」

真姫「…」

にこ「…ねえ」

にこ「空気、重くない?」

真姫「重いわね」

希「重いのは、場の空気って言うよりは…」

絵里「何かしら。世界が、重いわ」

花陽「私…。今、変なこと、言っていい?」

凛「凛も…」

ことり「多分…私も。ううん、皆も」

海未「ここは…」

海未「ここは、私たちが過ごしてきた世界ではありません」

凛「それは何となくわかるにゃー」

絵里「いつもの風景の中にいるのに、何か、違うのよね」

花陽「意識がはっきりしたまま、夢の中にいるような…」

真姫「深海の中にいるみたい。変な気分」

ことり「夢をμ's皆で共有してるのかなあ」

希「そんな不思議なことってある?」

にこ「で…海未。さっきから何か言いたげだけど?」

海未「穂乃果の声が出ません」

ことり「…」

花陽「……え?」

真姫「な、に?」

海未「目が覚めたらすぐ前には穂乃果がいました」

海未「穂乃果を見たその瞬間に、何故だか私はここがいつもいる場所ではないことが分かりました」

海未「記憶では、光がひとつになったその直後なので。ここを『夢の後』と捉えています」

海未「目の前の穂乃果は、泣いていました」

海未「…泣いて、いました」

海未「目当ての購買のパンが買えなかったような穂乃果じゃなく」

海未「テストの点数が悪かったことで小遣いを減らされた時のような穂乃果でもなく」

海未「友達と喧嘩し、その仲を直すためにどうすればいいか真剣に悩んでいるような穂乃果でもなく」

海未「……ことりの気持ちを察することができず、結果としてすれ違ってしまったあの時の穂乃果でさえなく…」

海未「今まで、見たことのない」

海未「見たことのないほどに…」

ことり「海未ちゃん……」

海未「…傷付いて、深く、傷付いて」

海未「とても苦しんでいる穂乃果が、そこにはいました」

海未「どうしたのかと手を差し伸べようとしました」

海未「でも穂乃果は、遠くて」

海未「すぐ目の前にいた筈なのに。とても遠くて」

海未「まるで幻のように、うんと早く遠のいて、そして」

海未「どこかへ行ってしまいました」

海未「触れることはできませんでした」

海未「涙が零れ落ちていったのを見ました」

海未「呆然と立ち尽くしているところに…、ことりがやってきたのです」

希「それだけで声が出ないって分かるん?」

海未「喉を押さえながら信じられないような表情をしていましたから」

海未「それが一番印象的でした」

海未「泣き叫んでいました。…何も声にはなっていませんでしたが」

海未「助けて――と、言っているように見えました」

ことり「光がひとつになった記憶が、ここに来るまでに見た最後の光景だっていうのは、私も同じだよ」

凛「凛も!」

花陽「」チラ

真姫「皆そうでしょ。多分」

絵里「ええ…」

にこ「……何にしても、この気持ちの薄暗くなる世界から抜け出さないといけないわね」

花陽「海未ちゃんの言うことが本当なら…」

真姫「まあ穂乃果、もしくは穂乃果の声が、ここを脱出するための鍵になる…っていうのが」

希「ファンタジーなんかやと定番やね」

絵里「カードは何て?」

希「それがここじゃうんともすんとも…」

にこ「肝心な時に役に立たないわね!」

ことり「とにかく穂乃果ちゃんを探さないと…っ」

花陽「そ、そうだよ。ここで話してても始まらないよ」

絵里「海未の話だと、この学校よりももう外へは行ってしまってそうね」

にこ「見つけたとしても、どうするの?」

凛「めいっぱい励ますに決まってるにゃー!」

真姫「ここがどこだか知りたいのもあるけど…穂乃果が落ち込んでいる理由が分からないと」

希「この不思議な世界で一番に不思議を体験したのは海未ちゃんになる訳やけど…」

希「やっぱりそうなると穂乃果ちゃんがキーになってくる可能性は高いもんなあ」

絵里「目の前にいきなり現われて、また消えていったんでしょう?」

海未「ええ。走り去っていったというよりはもう、本当に、幻のようにふっと遠くへ」

にこ「私たちは光がひとつになった光景が最後だけど、穂乃果はここにくるまでにまだ何かあった筈よ」

花陽「話を、聞かないとね」

ことり「」ダダッ!

海未「あっ」

真姫「ちょ、ちょっと」

凛「ことりちゃん!」



ことり「――――!」タタタタタ…!

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