この前、vipで 一夏「俺が殺し屋に?」 男「そうだ」 のssスレを立てたんだけど、
読み返してみると手直ししたい部分が結構あったから、再挑戦ということで書きます。
is学園 夏
ここ連日の猛暑と湿気、さらにisを使用しての野外授業。
そして放課後の特訓。精神的にも肉体的にも疲労が溜まる。
「今日も疲れたなぁ」
isスーツを脱ぎながらひとりごとがポツリと口から自然と出る。
俺はシャワーを浴び、俺と同じように疲れきったと言わんばかりの夕日を左手に見つめながら、寮への帰路を歩いていた。周りには誰もいない。夕日が作る
オレンジ色の世界。
疲労からだろうか、俺の注意不足からだろうか、その男の気配に気付かなかった。
男「貴様が織斑一夏か?」
俺の後ろから突然声がした。
俺は突然の問いかけにゆっくりと振り返る・・・・。
細長いめがねを付け、無精髭を生やし、髪がぼさぼさの男がそこにいた。身長は俺と同じくらい、歳は30代後半といったところだろうか。
真っ黒なスーツにノーネクタイ。暑さからだろう、yシャツのボタンは第二ボタンまで外されている。
yシャツの隙間から見える体と、黒という収縮色にも関わらず伝わってくる無駄の無い筋肉質な体。
まるで総合格闘技の選手のような体付きだ。
男は俺の顔を品定めするかのように見ていた。
俺は明らかに自分の置かれている状況が非常事態であると咄嗟に判断する。
タイミングを見計らう。
・・・・今だ!
俺はカバンを男に向けて放り投げ一気に逃げ出す!
しかし、男はその動きを予測していたかのように体を左へ90度回転させる。
鞄は、バタンという音を立てて虚しく地面に落ちる。
気付いた時には、男は俺の顔に向けて拳銃を向けていた。
カチッ
安全装置の解除される音。俺は男の顔を見ながら、体を若干崩れた大の字のような形にさせ静止した。
夕日が沈みかけながら、俺達の影を実物よりも数倍に引き伸ばす。そこにある銃と言う名の『異物』と共に。
夕日により引き伸ばされた『異物』の影の大きさは、その物のサイズよりも、存在感を主張するようだ。
『人違いだ』と言っても、俺の風体からしてまったく説得力が無い。isを使える唯一の男・・・。
相手を刺激するだけだ。発砲されては元も子もない。
数秒だろうか、数十秒だろうか時が過ぎる・・・・。
そして俺は諦めたように自然体になり、男を睨み付けながら答える。
「・・・・・そうだ。」
俺の答えを聞いた瞬間、男は少し口元に笑みを浮かべ、銃を向けながらゆっくりと俺の方へ歩いてくる。
そして、もう片方の手でポケットを探る。開閉式の白い輪のようなものを取り出した。非常に細い。
銃は遂に俺の眉間に押し当てられた。男の笑みが消える。
指は既に引き金に置かれていることが確認できる。
俺の思考が混乱する。死ぬのか?死にたくない。体は動かない。心拍数が上がる。
男「・・・・・右腕をゆっくり前に突き出せ。」
俺はその言葉に、『そうすれば解放してやる』という意味を含めていることに気付き、ゆっくりと・・・奴に向けて右腕を差し出す。
男は俺の右腕を見て、また少し口元を緩ませる。
そしてゆっくりと、俺の右腕、待機状態になっている白式のガントレットの少し上の辺りに白い輪をはめ込む。
パチッ・・・
軽い音を立てる。細長い針金のような輪。しかし、まるで手錠を付けられたような錯覚を覚えた。
男は銃を降ろしながら、この輪について説明を始めた・・・。
男「俺を殺せば、その輪からナノマシンが血液中に注入されて貴様は死ぬ。外そうとしても死ぬ。」
男「そして、遠隔操作でも俺はお前を殺せるようになっている。」
これは完全なる脅迫だ。俺の目を真剣に見つめる男。
眼鏡越しに見えるその目は、細長い眼鏡のせいもあってか、俺に命令するかのようだった。
「・・・・・あんたの目的はなんだ?」
俺は思ったことを言う。これ以上事態が悪化することは無い。そう踏んでの発言だった。
男は夕日に背を向けて俯く・・・・・。まるで陰と陽。悪魔と天使。
・・・・・夕日は男の発言が悪魔の言葉であると教えてくれる。
男「貴様には・・・・殺し屋になってもらう。」
俺の思考の抑えていた物が弾ける・・・。
「理由は?!」
「なぜ俺なんだ!?」
「お前は誰だ!?」
咄嗟に思いついた3つのキーワードをまくし立てるように男にぶつける。
男は何も答えず、俺のカバンをゆっくり拾い上げ、土を払って俺に返す。
男「いずれ分かる・・・・・こっちだ、付いて来い。」
男はそういうと、正門の方向ではなく庭を走りぬけ、森も走り抜ける・・・・・。
こちらは付いていくので精一杯だ。男は余裕な様子で走る。俺に合わせてくれているようだった。
壁が見えてくるが、既に縄が架かっている。
それを伝い、また森を走り抜ける。
そこには車の通りが疎らな道があり、道の端に黒いセダンが停まっていた。
男は、急かすように助手席に乗るよう指示してくる。
俺は車に乗り込む。
車はこの静かな空間に自己主張をするかのようなエンジン音を立てて走り出す。
だが俺という存在は逆に薄れていく・・・・。
車内での会話は無い。男はラジオのニュースを流し始める。
『先日、経済産業大臣が射殺された事件ですが。暴力団関係者によるものとの情報が警察から・・・・・・。』
ラジオを聴きながら、男は時折り舌打ちをする。
「クソ!また報道規制か!」
報道規制・・・?
しかし、ニュースに舌打ちする人間など初めて見た。
俺は左腕をドアに引っ掛け、顎を突いて外を眺める。夕日が沈んでどんどん空が暗くなっていく・・・。
なんとなく腕輪に目をやる。
その『手錠』は、俺を逃さないと主張するように、暗い車内で一層白く輝いて見えた・・・。
車は月極めの駐車場に付く。近くにはモノレールの駅。
男「降りろ。モノレールに乗るぞ。」
俺は男に促されるように車から降り、男の後ろを歩く。
恐らくこの男も殺し屋なのだろう。その前後に揺れる腕と手で、一体何人殺したのだろうか・・・。
モノレールに乗る。
また月極め駐車場に連れて行かれた。次は白のセダン・・・。
こいつ、車を盗んでいるのか?すごい手際の良さで施錠を外して、エンジンに火を入れる『奴』。
俺は車に乗るよう促される・・・・。
車は走り出す。高速道路を走り、大分南下しているようだった。
真上から少し傾いた三日月が、コンパス代わりになって優しく俺に教えてくれる。
港の倉庫のような所につく・・・・。
既に午後9時。人は誰もいない・・・・。
車の速度が落ちる。そしてゆっくりと『4』と書かれた倉庫へ車を入れる男。
ここがこの男のアジトなのだろう。しかし、大きい倉庫だ。
車が倉庫に入る・・・そこには20台近い車が左右に向かい合うように並んでいた。
セダン、ワゴン、suv・・・・・・。
コンパクトカーや軽まであるが数は少ない。防弾を考えてのことだろうか。
男は空いているスペースに車を止めて俺が車から降りるように促す。
男「付いてこい。」
『殺し屋になってもらう』そう言われて連れてこられた奴のアジト。
俺に危害を加えるつもりはなさそうだが、接待をしてくれるというわけでも・・・なさそうだ。
『6』と書かれた倉庫に着く。入り口に立ち尽くして中を見渡す。
4番とは大きく変わって、中には何も無い。倉庫奥にある多数のレンガ。
そして・・・・・俺の右方向には多数の重火器。俺はすぐに勘付く。ここは射撃場だ。
男「好きな銃を選べ。」
男は重火器の辺りに立ち、命令するように言う。
俺はゆっくりと銃を見ながら歩いていく・・・・暗い倉庫内にも関わらず、濃厚で重厚感を感じさせる拳銃と弾丸が並んでいた。
一目で分かる、これは本物だ。
男「ハンドガンだ。この中から握りやすいものを選べ。重過ぎて持てないものは除外しろ。」
「・・・わかった。」
そこにあったハンドガン10種類ほどを握り、銃を構え、目を瞑る。右手の感触を頼りに選ぶ。
まるで服を前後間違えて反対に着てしまったような、そんな違和感のある銃ばかりだ。
だが2つ、しっくり来るものがあった。
「これと、これだ。」
男はにやりと笑い、俺に銃の説明をする。
男「この銃はリボルバーという種類だ。警官が持ってるのに似てるだろう?」
男「誤作動を起こしにくいシンプルな構造が利点だが、弾丸が6発しか入らない。弾の交換も面倒なのが欠点だ。」
男「名前はコルトパイソン。.357マグナム弾を秒速400mで発射する。」
男「百聞は・・・・というからな。耳に指を突っ込んで向こうのレンガを見ろ。」
そういうと男は片手で40mほど離れた向こうのレンガを撃ちぬく。
レンガは粉々だ。すごい威力。そして撃ち出した瞬間に真っ暗な倉庫内が昼間のように一瞬眩く照らされる。
銃口を直視していては、ただでは済まない・・・・。そう考えながら銃口を見ていると男は物知り顔で言う。
男「・・・・・・今のがマズルフラッシュだ。夜の屋内で撃つ際は気をつけろ。目がやられて当分視界を奪われる。殺し屋としては致命傷だ。」
男「そして・・・・貴様が選んだもう一つの銃だが・・・・・。」
俺はまたレンガを見る。
男は3連射した。
1発目は1つのレンガに向かって、2発目と3発目はもう1つのレンガに撃ちこんだ。
男「レンガを見てみろ。パイソンよりも威力が低いだろう。だからあっちには2発撃ちこんだ。」
男「名前はベレッタm92f。米軍が採用している信頼性のある銃だ。」
男「利点は、装弾数と弾の交換速度だ。15発の弾数。弾の補充はカートリッジ式だ、迅速かつ確実に行える。反動も低い。」
男「欠点は、威力だ。初速は秒速360m。弾もパイソンに比べ小さい。」
男「まぁ、そんな欠点を補って余りある程に利点がでかいがな。」
俺はそのとき、はたと気付く。そういえばこの男が使っている銃もベレッタだ。
薦めている、といったところか。
「・・・・ベレッタにする。」
男「わかった。今日はもう遅い、寮まで送ってやる。4番へ来い。」
4番倉庫へ向かう俺。男はなにやら荷物を片付けているようだ。
時計に目をやると、時刻は午後10時を差していた・・・・。
空を見る。三日月が斜めを向いて・・・・不気味ににやりと笑っているようだった。
携帯の番号を登録させられた。
男「何かあったら連絡する。」
俺はまた例の森からis学園へ帰る。
車から降りる際、男がまた少し笑みをこぼしながら俺に言う。
男「良い事を教えてやる。貴様の時計で、午後11時10分21秒になった瞬間に寮の入り口から自分の部屋へ走り抜けろ。」
「あんた、何を言っているんだ?」
しかし男は俺の言葉に耳を貸さず、走り去って行った。
俺は理解に苦しむが、言うとおりにしてみる。
寮の入り口。隠れるように中を見る。
11時10分15秒・・・・16・・・17・・・18・・・19・・・20・・・21 !!
俺はダッシュする!可能な限り音を抑えてのダッシュ。周りから見たらいびつだろうが誰も居ない、知ったことか!
寮長をしている千冬姉が竹刀を持って巡回しているはずだが・・・・
俺は階段を駆け上がる・・・・・やばい、1階から俺の物音に気付いた千冬姉が階段に・・・・・
千冬姉「ぬぉっ!・・・・・なんだゴキブリか。死ね。」ぶちっ
俺がドアの鍵を開けると同時に、千冬姉のびっくりする声が聞こえた。
鍵を開ける音はそれによって掻き消され、千冬姉は俺に気付かなかったみたいだ。
俺はそっとドアノブを回しながらドアを閉めた。
しかしあの男、一体何者なんだろうか・・・・。
時間指定までしてきて・・・・・。
秒単位どころか、0.1秒の世界だったぞあのタイミングは・・・・・。
そして右手の『手錠』に目をやる。目立たないよう、ご丁寧に白式のガントレットと同じ色にしてくれて・・・・。
「殺し屋、か・・・・・」俺はまだ夢の中にいる気分だった。
頭の中で男の無精髭と眼鏡、ぼさぼさの頭・・・・・マズルフラッシュ、銃声・・・・・・色々なものが入り混じる。
携帯に目をやる。
2010年9月4日、俺の新しい人生の誕生日だ。
今日はなんてひどい日なんだろう・・・・誰かに相談・・・・・遠隔操作の可能性が捨てきれない、か。
当分このまま過ごそう。まだ殺しはさせられないはずだ・・・・・訓練させてからになるだろう。
その間に対策を練ることにすればいい。
疲れた、今日はもう寝よう・・・・・体が重い・・・・ベッドに沈み込んで行く・・・・・・・・。
2日後
朝起きると同時に、あの男から連絡が来る。どこからか監視されているのだろうか?
この腕輪が怪しい。遠隔操作と言っていたが他にも機能を持たせているのだろう・・・・。
休日だというのに・・・・少しイライラしながら電話に出る
「なんだよ・・・・」
男『今からモノレールに乗って私服でこっちへ来い。発着場のターミナルで待っている。』
そういうと同時に奴は電話を切る。特に予定は無かったのが幸い、と言ったところか。
寮から出る途中、千冬姉と会うが特に会話はない。
だが、勘付かれているだろう・・・既に俺の目が死んでいることに・・・・・・。
ターミナルへ着く。50mほど離れたところから男が俺の方を見ている。
傍にはシルバーのsuv。俺はゆっくり車へ歩いて行き、無言で助手席に乗り込む。
車の中では、俺も奴も無言だ。
例の倉庫に付く。車を4番に止め、6番へ向かう。
男「今日はナイフだ。」
そう言うと奴は、俺に木を削ってできたナイフのようなものを投げてよこした。
奴も同じものを持っている。
すると突然、奴は俺に襲い掛かってきた。俺の首を狙う。俺はそれを弾き返す。
「何するんだよ!」
男「ナイフ、と言ったろう。」
奴の攻撃は止まない、奴は動きながら言う。
男「人間の急所は頭部から真下へ向けて、並んでいる。」
男「どこかに刺せば死亡・もしくは重症を負わせることができる。」
俺は奴の攻撃を防ぐので手一杯だ。反撃ができない・・・・・。
木製とは言え、当たれば痛い。腕や足を狙われ、隙を作れば急所に容赦なく当ててくる。
男「これで5回、お前は死んだことになる」
俺の急所にナイフを当てる度に挑発するかのように言う。
1時間に15分休憩が入る。ミネラルウォーターを渡され、がぶ飲みする。
真夏の倉庫は、汗が滝のようにでるほど暑い。
あの男はスーツでも汗一つかいていないというのに・・・。
俺は、そろそろ急所に当てられることも無くなり、反撃に転じ始める。
奴はあくまで冷静に、少し笑みを浮かべて言う。
男「飲み込みが良くて嬉しいな。次のステップだっ!!」
そういい終わると突然、奴は俺の顔面に向けて左足で蹴りを入れてくる。
速い!
俺は咄嗟に右腕で頭部を守り、左腕で右腕を支えるように防御の体勢を取る。
「くっ!」
蹴りが重い・・・・。俺は踏ん張っていたにも関わらず体全体が左に少し「ジャリッ」っという音を立ててスライドする。
奴は間髪居れずに、次は俺の右足を蹴る。俺は体勢を崩してしまい・・・・。
男「これで26回目だ。」
これが次のステップだった。体全体を使っての攻撃だ。ナイフだけに意識を集中させない近接戦闘。
男「ナイフや格闘はあまり音を経てない。無音での殺人は敵の応援を呼ばれることもない。」
「解説付きの御指導とは、ありがたくて涙が出るぜ!ふんっ!」
ナイフによる殺しの練習は続く。打撃に始まり、投げ、間接技、フェイント、呼吸のタイミングをずらしての攻撃・・・・。
男「・・・もう夜か。近接戦は一通りやった。これを今後も当分続ける。」
奴は平然と、大の字になってぶっ倒れ、呼吸が荒くなった俺に言う。奴はまったく息切れしていない。
男「まずは基礎トレーニングだ。明日から始めろ。アリーナと部屋でやれば目立たないだろう。」
男「アリーナ20周、腹筋500回、腕立て伏せ200回、これらを1日でこなせ。」
男「時間が許す限り順番に、そして3日に1日は休め。あと魚ばかり食うな、肉を食え。」
「ふ、ふざけんじゃ・・・・はぁはぁ・・・・・ねぇぞ・・・・はぁはぁ・・・・・・・・」
男「今すぐできるようになれとは言わん。少しずつ、確実にやっていけ。ただ、無理はしろ。限界が来たら意地を張れ。俺の顔でも思い出してな・・・・。」
男はそう言うと、含み笑いをして車を取りに行った。
俺は次の日から言われたメニューをこなす。
アリーナは10周も周れない、腹筋は200回止まり、腕立て伏せに至っては50回が限界だった。
翌朝
箒「おい、一夏!朝稽古を始めるぞ!!」
そういえばコレがあったんだった・・・。
まだ午前5時だ。昨日の疲労がまだ取れていない。俺は箒に断りを入れる。
「頼む、今日は勘弁してくれないか・・・?」
箒の顔が歪む。何ヶ月も続けてきた毎日の朝練。
分からなくもない。
箒「一夏!貴様、気が弛んでいるのではないか!?」
箒は俺を無理やり起こそうとするが、俺は足腰が立たない。
よろよろと箒によりかかりって抱きついてしまった。
「すまん・・・・本当に今日は無理なんだ・・・・・・。」
俺が力の抜けた声で箒に言うと、初めは怒っていた箒も異変に気付いたようだ。
箒「・・・・・一夏、体の調子でも悪いのか?」
心配そうに声をかけながら、俺をベッドに座らせる箒。
「あぁ・・・・今日は学校を休むよ・・・・・・千冬姉と山田先生にも、そう伝えてくれないか・・・・・・」
さすがの箒もそんな俺に稽古をさせる訳もなく
箒「分かった。今日はゆっくり休め。」
「ありがとう・・・・箒・・・・・・・。」
俺はそこで意識が飛ぶ。気がつくと午後3時を回ったところだった・・・・。
なんとか動ける程には回復したが、筋肉痛で体が痛い。
時刻は放課後。奴から指示された筋トレを無理を承知で始める。
アリーナを走っていると、isに乗ったシャルが俺と併走しながら話しかける。
シャル「ねぇ一夏、何してるの?」
興味津々、というよりは病み上がりでランニングをしている俺を心配するように声をかけて来る。
「はっはっ・・・はっはっ・・・isの操縦をするにしても・・・・はっはっ・・・はっはっ」
「基礎体力は大事だろ?・・・・・はっはっはっ・・・・・」
シャル「うん、それはそうだけど・・・・体には気をつけてね?」
心配するシャルを横目に、俺はシャルを突き放すように走るペースを上げる。
誰も巻き込みたく無い。俺は一心不乱に走った・・・・。
次の日から、箒の朝稽古を断る。
「基礎体力を付けたいんだ。」
箒はなかなか納得してくれなかった。
箒「一夏・・・・貴様、もしかして私と稽古をしたくないのか!?」
鬼の形相で俺に迫る箒。
「そういうわけじゃないんだ。稽古をするにしても、基礎体力が無いと意味がないだろ?」
取り繕うように言う。これで当分はやり過ごせると思ったのだが・・・・
箒「な、ならば・・・・・私も付き合おう!!」
「えっ・・・・・?」
俺は固まる。箒は頬を高潮させ、左上を見上げている。
思ってもいない提案だった。断りようが無い・・・・・。
「わかった、じゃあ放課後にアリーナに来てくれ。isスーツの方が動きやすくていい。」
俺は観念して、箒の提案を受け入れる。
仕方が無い・・・・まさかこんな形で巻き込むことになるとは・・・・。
箒「よ、よしよし!そうこなくてはな!ふふん♪」てくてくてく・・・
箒も一緒なら、周りから見てもあまり気にされないだろう。
それに、あわよくば道場を使うこともできる。
まがりなりにも箒が味方になってくれたのだから・・・・。
しかし一線は引かなければならない。箒に知られてはいけない。
俺が人殺しのためにこの訓練をしているなどとは・・・・。
放課後
箒「な、なんだこのメニューは!?」
俺が手書きのメニュー表を渡すと、箒は唖然とする。
「とりあえずアリーナ20周からな。行くぞ。」
箒はメニュー表を握り締めて俺についてくる・・・
初めこそ付いてこれたが4周もすればペースが落ちて、俺とは半周ほどの差ができる。
6周目には倒れてしまっていた。完全に足手まといじゃないか、箒・・・・。
俺は足踏みしながら箒の横で言う。
「おい、箒大丈夫か?俺はあと10周あるからそのまま寝ててくれ。」
「まぁこの調子じゃあと5周が俺も限界だけどな。」
箒「き、貴様は・・・・化け物かぁ・・・・・・・。」
部屋に戻り、腹筋、腕立て伏せ・・・・・箒は途中で挫折してしまった。
完全に精神力の差だ。俺は死と隣り合わせの状況。
筋肉が悲鳴を上げれば奴の顔を思い出し、耳に蓋をする。
続けるうちに筋肉の悲鳴が逆に感じなくなる、意識が遠のいてくる。さすがにヤバイ、止めよう。
隣で箒がぶっ倒れているのに気付く。腕立てしていた状態で寝てしまっている・・・。
俺の隣のベッドで寝かせてやろう。しかし、こんな細い体でよくついてこれたな、と関心する。
次の日、箒は学校を休む。
箒「す、すまない・・・・・」
それから箒は朝稽古の話を出さなくなった。
俺は黙々とトレーニングを続ける・・・・・。
2週間経った頃からだろうか、奴に言われたメニューをこなすことができるようになっていた。
そして、また奴から連絡が入る。俺の休日を全て取り上げる気か?
今日もナイフの特訓だ。
特訓後に、奴は俺の体を触り始める。
「おい、何やってんだ」
男「ふむ。良い感じに筋肉が付いてきたな。それに、息切れもしていない。」
「あっ・・・・・」
言われて初めて気付く。俺の体は確実に殺し屋の体に近づいている・・・・。
男「メニューを一部変更する。アリーナを走るスピードを今の1.5倍まで上げろ。歩幅は変えてもいい。」
男「腹筋は3000回に変更。腕立て伏せは片腕で200回ずつやれ。」
「ふ、腹筋3000回!?」
俺は思わず言ってしまう。桁が一気に上がった。
「ふざけるな!だいいち、時間がねーよ!」
男「ペースを上げろ。1秒に1回やれば1時間で釣りが来る。余った時間でゆっくり茶でも飲めばいい。」
奴は平然と言い放つ。話としては破綻はしていない・・・・。
確かに1回1秒は可能だが・・・・3000回もできるだろうか。
「・・・・・・・・わかった」
男「よし。何かあったらまた連絡する。帰るぞ。」
帰りの車の中・・・・・
相変わらずニュースのラジオを垂れ流す男。
俺は窓の外をただぼーっと見る・・・・・。
ただの歩道。ただの街灯。ただのビル・・・・・。
なぜだ、なぜ違和感を感じる・・・・・ただの『もの』のはずだ。
必要があるからそこにある、ただそれだけなはず。
そして気付く・・・・・・・・俺がこの町にとって異物なのだ。
隣にいる男に命を握られ、毎日の特訓。
体が、脳が、心を壊さないように気遣って、俺の精神を冷酷にしていく。
俺は俯いてしまった。俺はもう後戻りできないのだ・・・・・。
そんな時、奴は言った。
男「篠ノ之箒は元気にしているか?」
「は?」
思考が停止する。体が震える。恐怖?怒り?悲しみ?
自分の感情が分からない。この男は何を言っているんだ?
俺は叫んだ。
「てめぇ、箒にまで手を出したのか!!」
俺は運転中にも関わらず奴の体を揺さぶる。
しかし、奴はあくまで冷静に、俺の腕を振りほどく。その勢いで俺は窓に頭をぶつけた。
男は、前を向きながら少し焦点の合っていない目で、呟くように言う。
男「昔の・・・知り合いだ・・・・・・。」
それでも興奮する俺に向かって奴は宥めるように言う。
男「もう、会いたくても会えないんだ。手を出す以前の問題だ。」
奴の説明が不足し尽くしている。詳細な事を言わない。
問い詰めても、答えないと言わんばかり無言の威圧感・・・。
とりあえず俺は奴の言葉をそのままとらえ、黙り込んだ。
その後は、奴から殺しの練習を指導を受ける・・・・・。
実物のナイフにカバーをつけてのリアルな訓練、格闘、重火器の取り扱い、
スナイピングの練習、トラップの仕掛け方、死体処理の方法、
思考戦、偽名による身分証名書の偽造、車の運転と盗み方・・・・・・
男「スナイピングを行う際は、風向きに注意しろ。」
男「基本的にスナイプする直線状にある旗や衣服を目印にしろ。」
男「もし無ければ目立たぬように布切れを何箇所かに設置しろ。」
男「格闘戦において重要となるのは柔軟な思考だ。周りにある物を全て使え。」
男「木の棒、鉄パイプ、砂・・・そして何よりも、引き際を見極めることだ。死んでは意味がないからな。」
奴と出会ってから4ヶ月が経った・・・・・俺は完全に殺し屋になっていた。
今の俺なら奴とやりあっても刺し違えるか、若干優勢な程に・・・・・。
1年 1組2組合同でのis野外授業。
セシリア「一夏さん?なんだかすごく体が・・・・筋肉質で男性らしいですのね・・・・・///」
isスーツ越しに見える俺の明らかな体の変化。腹筋の割れ具合。
肩幅、筋肉質な腕、若干太くなった首・・・・4ヶ月という短時間では、皆の目を慣れさせ、気付かせ無いようにするには無理があった。
「半年ほど特訓していたからな。触ってみるか?ははははは」
俺はセシリアに近づきながら、無理に冗談を飛ばし、話の方向を変える。
セシリア「い、いえ・・・・と、殿方の体を無闇に触るのはやはり気が引けますわ・・・///」
そういって俯いてもじもじするセシリア。とりあえずこれで問題ないだろう。
授業が始まる。
既に俺の殺し屋としての腕前はほぼ一流。isの操縦においてもそれは発揮される。
奴から訓練を受けたナイフ、格闘戦、そして思考戦の成果が裏目に出た。
千冬姉「おい、一夏、凰。前に出ろ。」
千冬姉「これより近接戦闘における模擬戦を行う。」
千冬姉「全員よく見ておけ。よし、ふたりとも行け。」
その日の俺は精神的に疲れていた。これまで通りの学園生活を続けるために無理に笑顔を作り、
isでの操縦ではわざと動きが悪いように見せかける・・・・・。
いつも緊張の糸が引っ張られていて、疲れていたのだろう・・・・。
この日、少し糸が緩んでしまった。
鈴「いくわよぉ、一夏!また前みたいにボッコボコにしてあげるからねぇ!」
「あぁ、望むところだ。」
ピーッ
千冬姉の開始を告げる笛が鳴る
俺は、溜息を付く。
「いったいいつまでこんなことを続けなければいけないんだ?さっさと終わらせたほうがいいんじゃないか?」
そんな、諦めとも・・・・言い訳とも言えるような思考が俺の頭の中を支配する。
開始の笛が鳴ったが俺は思考を止めることができず、少しの間自然体で止ってしまった。
鈴は、少しブーストで後ろに移動した後、一時停止した。
様子見、という感じで龍砲のチャージを行いながら左へブーストを・・・・・。
「さっさと終わらせる・・・・。」
俺の口調が・・・顔付きが・・・殺し屋になる。
俺は次の瞬間一気に左へブーストをかけ鈴の目の前に突っ込む!
龍砲を連射しながら俺の進攻先を狙い撃ちながら俺達は接近戦に移行した!
俺は両腕で雪片を振りかざす。それを防御する体勢を取る鈴。
「がら空きだぞ?」
俺の一言に我に帰った鈴が俺の顔を呆然と見つめる。
俺は右方向にブーストを一気に掛けながら鈴の右わき腹に左蹴りを叩き込む。
吹っ飛ぶ鈴。
俺は容赦しない。そのままブーストの勢いで吹っ飛ぶ鈴を追い詰める。
鈴は、態勢を立て直すため吹っ飛ばされながら龍砲で弾幕を張る。
射角がめちゃくちゃだ。当たる訳が無い。
吹っ飛ぶ鈴を右方向からから雪片で斬りつけようとする。またも防御に移る鈴。
これもフェイントだ。
鈴はまたもそのフェイントにかかる。『もっと柔軟な思考をしろ』
俺は奴に言われた言葉とまったく同じ言葉を鈴に向けていた。
俺のフェイントに気付かず両腕でガードに移行をする鈴。
またも腹ががら空きだ。俺は鈴に向かって一気にブーストをかけ、右足と左腕を使い鈴を地面に叩きつけ、踏み潰した・・・・。
マウントポジションから、逃げられないようブーストを真下にかけながらの雪片による突き、突き、突き・・・・防御しにくい攻撃だ。
まるで旗を地面に突き刺すように繰り出される、強力・迅速・確実・防御不可能な攻撃。
龍砲を撃てば自爆。
鈴は恐怖のあまり泣きそうな顔をしている。
俺の顔は太陽の逆光で、さぞや怖かっただろう。
それとも冷徹な殺し屋の眼をしていたのが怖かったのだろうか・・・・。
終了の笛が鳴る。
俺は動けなくなった鈴をかかえて千冬姉のところへ行く。
千冬姉は押し黙ってしまった。
千冬姉の眼を見る・・・・その瞳に映った俺は・・・・・『奴』と同じ眼をしていた。
ある休日の昼、男が言う。
男「試験だ。ミニバンを出せ。」
「わかった。」
俺は4番倉庫からmpvを出す。
奴は後部座席に色々と載せているようだ。
昼間だというのに、今日は冷える・・・しかし試験とは何だろうか・・・・・。
そんなことはどうでもいい。俺の冷酷な部分が心を侵食しきっていた。
それを遠くから見つめる俺がいた・・・・。
奴がナビを設定した。
番地名しか入っていない。施設ではないようだ。
民家か、空き地か、工事中か・・・。
俺がナビ通りに車を運転する。
すると突然、奴が道を指示し始める。
男「そこを左だ。そして右。あとは直進しろ。」
奴の言うルートはやたらと狭く、mpvではかなり運転しにくい。
男「よし、ナビ通り元の道にもどれ。」
俺は言われたままに運転する・・・・・。
元の道に出る・・・・。
男「バックミラーで後ろを見てみろ」
警察が検問をしている・・・・・・なぜ分かる?こいつは何者だ?
俺は問い詰めたい衝動に駆られるが、止めた。この男は答えない。
ただ1つ分かったことが、いや確信したことがある。
これまでの奴の行動や言動は、全てにおいて結果が伴っているということだ。
『この男に付いて行け』と本能が言う。
その通りだ。この男に付いて行けば、何もかもが上手く行くのだ・・・・。
(何もかも・・・・ねぇ・・・・・・人を殺すこともか・・・・・・・・・?)
上から俺を見ている、もうひとりの俺が言う。
俺は耳に蓋をし、聞こえないようにさらに冷酷で冷徹になった・・・・・・。
着いた。場所はビルの工事現場。
男「このまま車で中に入れ。ゆっくりな。」
淡々と説明を始める。
男「このビルは建設途中で建築会社が破綻してな、今は工事が一時凍結されている。」
男「後部座席のものを持って、着いて来い。」
俺は左脇のホルスターに入っているベレッタの残弾を確認し、
予備マガジンの存在を確認してから荷物を持った。
車は奥に隠し、すぐ出られるよう進行方向を出口に向けて止める。
この重量と長さ・・・スナイパーライフルだ。
恐らくいつも練習に使用しているレミントンm700。
工事用の階段をつたう。11階建てのビルだが、8階で配置に着くよう奴から言われる。
柱と床、天井しかないビル。ところどころ青いビニールシートで外から覆われている。
奴は、そのシートの陰に隠れるような場所を指定してくる。
男「あっちに銃を向けてセッティングしろ。」
やはりm700・・・えっ、セッティング・・・・・・?
「人を・・・・・撃つ・・・・・・・?」
俺は、いつかこういう日が来ると、そしてこのビルに付いた時もこうなるだろうと予測していた。
しかし今までのレンガとは違う。人だ。人間だ。俺が殺すのか?なぜ殺さなければならない?
今になってあの冷徹だった俺はどこかへ行ってしまった。少しパニックになる。
男はそんな俺に檄を飛ばす。
男「そうだ、殺すんだ。早くセッティングしろ」
俺は奴に促され、薬きょうの装填、体の固定、奴が事前に仕掛けた布切れによる風向きと風速の確認・・・・・・・。
少しずつ冷静さを取り戻す俺・・・・・そしてこの『セッティング』という名の儀式により、冷徹な心を取り戻した。
男「距離は600m。お前の腕ならレミントンでも1kmは余裕だろう?」
奴は隣で双眼鏡を構え、俺と同じように寝そべっている。観測手という奴だ。
男「正面のあのでかいホテルが分かるか?入り口の左右にクリスマスのツリーがでかでかとある。」
分かる。分かるさ。でもそんなことより分からないことがあるんだ・・・・・。
「俺は今から誰をなぜ殺す?」
男は回答を用意していたかのように、流暢に答える。
男「俺はある筋・・・警察から依頼を受けている。警察にはできない汚れ仕事をして、報酬を貰っている。」
男「そして奴は麻薬組織のno.2。かなりの大物だ。一気に麻薬ルートを掃除できるかもしれん。そんなところだ。」
殺す理由は明白。警察からの依頼・正義の鉄槌。俺の右腕の腕輪。この男の存在。
なぜ俺が殺し屋に・・・・?
スコープを覗き込み、風向きを確認。600m。
今の俺なら余裕の距離。恐らくあのホテルマンのバッジを打ち抜くことだってできる。
ドアに鍵を差込み、今鍵を回して施錠を解除した。
そしてドアノブに手を伸ばし掴んで、回した・・・・・・・引っ張れるのか?
閉じられたドアは鍵が開いてドアノブまで周っている。
後は引くだけ、それだけだが。
そこから先は別世界だ。
恐らく、ドス黒い部屋だろう・・・・・。
そんな俺を見透かして奴は言う。
男「俺も初めはそうだった・・・・・。いくら警察の依頼とは言え、相手は人だ。殺すなんてできやしない。そう思った。」
男「さらに理由が必要なようだな・・・・・もしも殺さなければ、こっちが殺されるとしたらどうする?」
男「殺すか、殺されるか。俺は今お前の生存本能に聞いている。」
男「お前が撃たなければ俺は腕輪のナノマシンを使う。」
そうだ、俺は常に生きるか死ぬかの瀬戸際だったんだ・・・・。
死にたくない、生きたい、こんなところで死んでたまるか!
俺はスコープから目を離し、奴の顔をみて言った。
「・・・・わかった。殺す。」
男「いい返事だ・・・・・。」
寝そべった俺の体をさらに冷やすコンクリートの床。
『もう冷やされるのは、間に合ってるよ。』と俺は床に言い聞かせた。
数分が経った。
俺は風向きからダイヤルをねじりスコープの調整を何度も行う。
ビル風というのは厄介なものだ。
男「来たぞ。」
「あぁ、分かってる。」
男「ホテルの入り口でボーイに鍵を渡すために、運転席から出てくる。ホテルの屋根があるが射角的には問題ないはずだ。」
「・・・黒のセダンか。」
俺の口調は自分でも分かるほどさっきとは違っていた。
俺の頭の中でドアが開いた。もう既にドス黒い部屋の中にいる。そしてドアが閉じようとしている・・・・。
男「一発で仕留めろ。一発目が当たっても外れても逃げる。」
男「・・・・黒いスーツの、禿げた50代の男だ。今、右手を上げた。」
「わかってる。」
俺は標準を奴の頭蓋骨に向ける。死の十字架。世界がスローモーションになる。
奴は笑いながら、右手を下ろし・・・・・・・ホテルの入り口の方向へ傾こうとする・・・・・・・・・。
俺は右手人差し指に全神経を集中させ、トリガーをギリギリまで絞り込む。
男「・・・・今だ。」
「・・・・・」
ドォン!
男「・・・命中確認。対象の死亡を確認!急げ!逃げるぞ!」
ドアの閉まる音が頭の中で鳴り響く・・・・・・そこに広がるのは暗闇だけ・・・・・。
大急ぎでバッグに銃を詰め込み、足の付くものが無いか確認してmpvまで突っ走る。
後は車で逃げるだけだ。
運転は奴自らが申し出た。
俺は、両手が震えていた。
殺してしまった・・・・。ただそれだけのことだ。あいつは死んでもいいような奴だったんだ。
だって警察でさえ手を焼いていたんだろ?それに俺が殺されるかもしれなかったんだ。
俺は思いつく限りの言い訳を頭の中で何度も何度も念じる。
助手席のシートに倒れこみ、天井を見つめながら・・・・・。
家に帰るがニュースにはなっていない・・・・・。
次の日も、次の日も・・・・・。
やはり、警察が手を焼くわけだ。報道規制が引かれているレベルということか。
その日から俺はニュースを毎晩見るようになる・・・・・。
その後も、一週間に1回から2回のペースで、平日も殺しに借り出される。
夜
真っ黒な上下のスーツに身を包み、サングラスをする。
路地裏での待ち伏せ。奴は300m先から狙撃による俺のバックアップ・・・・・。
俺達はボディーガードを5人相手にしての戦闘でも、かすり傷一つ付けられることなく殺せる。
ハンドガンにはサブレッサーを付け、ナイフを振り回し、ただただ静かに殺し続ける・・・・・・。
殺し屋というよりは、暗殺者のような日々を過ごす・・・・。
男「今日の標的はここだ。少し手強いぞ。」
「・・・・・・」
標的は財務省の事務次官。
下見をする。200坪ほどのでかい和風の家。壁の高さは3m程。
遠くのビルから内部を偵察する。木々に覆われ中が見えないからだ。
男「2時間後の午後8時に対象が帰ってくる。」
男は時計に目をやりながら俺に、『作戦時刻』を伝える。
「狙撃か?」
俺は男に問いかける。この距離なら殺せる。
男「いや、直接突入して殺す。俺がバックアップ、お前が先鋒だ。」
「わかった。」
俺は殺しの用意を始める・・・・。いつも使っているベレッタの異変に気付く。
スライドにひび。俺は舌打ちして、予備のベレッタを取り出しサブレッサーを付ける・・・・。
時間になる。俺達は入り口から見て右手の外壁で待ち伏せする。
対象は車ごと庭に入ってきた。確かにこれでは狙撃はできない。
男「先に行け、トラップに気をつけろ。」
俺は縄をつたい壁を登る。簡易的なトラップだ。赤外線とワイヤー。
俺は木に直接飛び移り、後から登ってきた奴に目配せで伝える。
監視カメラの目を逃れ、建物に張り付く。屋内には人の気配・・・・3人・・・・・4人。
口調と靴音から人数を割り出す。
ボディーガードが3人と対象。そう結論付ける。
二手に別れ、40mほど向こうから男が俺に目配せする。『先鋒はお前だ』ということだ。
俺は一気に障子を蹴り倒し、室内に侵入する。一瞬にして右手にいる1人の男の頭部に2発撃ち込む。
左手に居る男が3人。うち1人が対象。
しかしボディーガードの反撃が始まる。
サブマシンガンの連射音・・・・恐らくmp5。俺はコンクリートと思われる壁に隠れ、嵐が止むのを待つ。
コンクリートであれば問題無いとの判断だった。
街のど真ん中で始まった銃撃戦。今の日本には不釣合い。ド派手過ぎる。
男が俺の顔を見る。わざとサブレッサーを外したベレッタを障子越しにボディーガードに向けて連射する。距離にして80m。
有効射程を越えての連射。俺は壁の端から標的とボディーガードを確認する。「1名死亡・・・か」
奴の連射音に気付いた残り1人と対象が一瞬、奴の方向に注意を向けてしまう。
男が目配せするのを振り向きざまに一瞥し、俺は壁から飛び出し一気に突進しながら、9mmパラペラム弾を3発ずつ撃ちこむ!
ドォンドォンドォン!! ドォンドォンドォンッ!!
死亡を確認する時間は無い。対象に走り寄り、顔に残弾を全て打ち込み脳を破壊し尽す。
後は逃げるだけだ。遠くでパトカーの音。もう何をしても問題ない。
マガジンを取替え、監視カメラを片っ端から撃ち抜きながら最短ルートを走り抜ける。
外壁を飛び越え、路駐させていたsuvに乗り込んで逃げる・・・。
なんとなくニュースを見る。今回の件も情報統制されているのか・・・・。
そしてニュースが終盤に入る。最近ニュースを見始めた俺にとっては初めて知った報道内容。
isの登場後に風潮していた男性蔑視に対する、民間人の抗議活動が世界中で頻発。
アメリカでは暴動が発生しているらしい。
is学園側の立場の人間としてはあまり良い気はしない。
気付けば学園内でも噂になっていた。
親の意向で、帰郷・帰国する者が数名出始めているからだ。
ラウラ「おい、嫁。最近疲れているぞ。目が死んでいる。」
夜、俺の部屋に来たラウラが俺に突然話しかける。
俺は別に疲れてなどいない。ただ絶望しているだけだ。
前と同じように振舞うため、演技をする。
「そうか?じゃあラウラ、久しぶりに寝技でもするか?ははははは」
ラウラ「ほぉ、嫁から言い出すとは、なっ!!」
俺は飛び掛ってくるラウラを反射的にラウラをかわし、ベッドに叩きつけてしまった。
ラウラは笑みを浮かべながら、少し驚いている。
俺はこの行動を恨んだ。
ラウラ「ふっ、腕を上げたな!」
徹底的にラウラのおもちゃにされてしまった。
逃げようと思えば逃げられたが、好き放題させてやった。
次の日の夜、また殺しだ。
もう何人殺しただろうか。最近、頻度が上がっている。
男「行くぞ。」たったったったった・・・・・
「・・・・・・・・・」たったったった・・・・
パシュッ パシュッ パシュッ・・・・・・
帰りの車の中で、奴が言う。
男「大分慣れてきているな。目が据わっているぞ。」
「まぁな・・・・・・・・」
セダンを運転しながら俺は軽く受け答えをする。
冷徹、冷酷、非道・・・・・今の俺はそういう存在になっている。
感情を殺さなければ心が死んでしまう。
しかし、is学園に居る間は心が休まる。
鈴「酢豚作ったんだけど、食べる?」
昼休み、鈴が無邪気に酢豚を俺に勧める。
相変わらず美味そうだ。
「おう、もらおうか。」
鈴「・・・・なんか、あんた最近やたらと素直ね。」
「そうか?」もぐもぐ
「うん、美味い美味い!」
鈴「ま、まぁ・・・・・良いんだけどさ・・・ほら、もっと食べなさいよ・・・・・///」
俺の表の顔はどっちなんだろうか。
学園生活を送っている顔は既に裏の顔だ。
is学園を隠れ蓑にしている殺し屋。
鈴の顔をじっと見ながらそんなことを考えてしまう。
心が泣きそうになっている。考えるのを止めなければ・・・。
鈴「な、なによ!じっと人の顔みて、なんかおかしいわけ?!」
「いや、なんでも無いよ。ほら、お前も食えよ。あーんしろ、あーん」
鈴「う、うん・・・・・あーん・・・・・///」もぐもぐ
部屋に戻る。筋トレは欠かさない。
水を飲みながらニュースを見る。世界中でisの存在に対する暴動が起こり始めている。
アメリカでは軍が遂に導入された。警察内部の者からもisに対する暴動が発生し、機能が麻痺したらしい。
動きが早すぎる。ついこの前までは警察は統制されていた・・・・。
それが遂に軍まで投入・・・・?
日本ではまだ警察が押さえ込んでいる状態だ。それに、まだ暴動までには至っていない。
すると突然奴から連絡が入る。
男『2ヶ月後、ロシアに行く。旅行バッグを買うなり、準備をしておけ。』
奴らしくない、少しイライラした口調。
そして、それだけを言って電話は切られた。
俺の回答を事前に知っているからだ。
「わかった。」の一言だけなのだから・・・・・。
2ヶ月後には学校を辞めることになるかもしれないな・・・。
殺し、学校、筋トレ、ニュース
この4つが俺の今の人生だ。ニュースについては、奴から「みておけ」という指示があったためだが・・・。
それから2ヶ月経った。俺は偽造パスポートを使い「吾妻 玲二」として、奴は「梧桐 大輔」という偽名を使った。
そしてモスクワ行きの便に乗る・・・・。ロシアはまだ暴動は発生していない数少ない国だ。
機内でニュースを聞く。何気ないニュース。時おりはさまれるis関連の暴動情報。
そして、どれくらいたった頃からだろうか、隣に座っていた、『奴』がポツリと言う。
「米軍が落ちた」
何を言っているんだ?
遂2ヶ月前に投入されたばかりじゃ・・・・たった2ヶ月でそんな・・・・・。
それにこいつはなぜそんなことが分かるんだ・・・・ん?
臨時ニュースが入る。また暴動か?
『臨時ニュースです。米軍内部にて大規模なクーデターが発生した模様。』
『陸・海・空の各大統領以下の最高指揮権者と幹部全員が首謀者の模様。』
クーデター・・・・・?
米軍が落ちる・・・・・・?
このままでは世界最強の国家がisそのものに対して宣戦布告をするのは時間の問題だ。
『それに呼応するように、全世界の駐留米軍が反isとして活動を開始すると予想されます』
世界中の米軍基地の名前が読み上げられる・・・・。
『日本・・・・沖縄、佐世保、岩国、横須賀、厚木、横田、三沢』
・・・・・・しかし、まだ反isとしてクーデターを起こしたのはアメリカ本土の軍だけだ。
国内だけとは言え、アメリカ軍が落ちたとなれば大統領はどうなる?
軍がクーデターを起こした。アメリカ大統領は、実質米軍の最高指揮官という色が強い。
このまま進めば、軍の最高権限者が新しく就任し、そのままアメリカ大統領になる・・・・・。アメリカ全土が米軍に落ちる。
そうなれば世界中の米軍が・・・・・。
3時間が過ぎた頃だろうか、ニュースに速報が入る。
アメリカ大統領が退任。軍トップが実質大統領になり・・・・・。
そして次の瞬間、俺は耳を疑った。
『米軍の発表によると、アラスカ近海で篠ノ之束博士が殺害されました』
篠ノ之束博士を移動ラボごと魚雷と空爆で破壊した・・・・・・って・・・・・・・・・。
もしかして軍上層部は事前に束さんの情報を知っていて、世論が動く機会を狙っていた?
あまりにも展開が早すぎる。そして用意が周到すぎる・・・・。
さらに2時間後・・・・。
『世界中の米軍が反isとして活動を開始。イギリス、ドイツ、中国、イタリア、フランス・・・・各国の軍内部でもクーデターが発生・・・・。』
『在日米軍は一斉に日本の制圧に乗り出しています。自衛隊と衝突している模様』
『米軍が各国のis施設に空爆を開始しました。』
10分、15分置きにどんどんと新しい情報が耳に飛び込んでくる・・・・そして・・・・・。
『米軍がコアの詳細データを解析完了。ネットワークを介し、全isの機能を停止させた模様』
コアの詳細データがこんなに早く解析できるものか!!
これも事前に知っていたんだ・・・・・・・・そしてこのタイミングでの発動、か。
世界最強の武装、isが終わった。恐らく迎撃に出ていたis企業の部隊は行動不可能、そのタイミングでの空爆・・・・。
束さんも死んだ。終わりだ・・・・・。
is学園は!学園はどうなる!!
男「気を落とすな。まだ大丈夫だ。」
こいつ、全部知っていたな・・・・・・・このことが起こることを知っていて俺をこの飛行機に乗せた!
ロシアには米軍基地が無い!
is研究企業も無い!!
そして旧ソ連時代からの反米感情の根強さ・・・・。
絶対に後で問い詰めてやる・・・・。
モスクワ 夜
男「移動する。この車に乗れ。」
空港の駐車場に車?こいつ、どこまで用意周到なんだ・・・・?
しかも最近止めたばかりだ。バッテリーも上がってない。
男「聞きたいことが山ほどあるんだろう?ここから車で5時間は走る。好きなだけ考えておけ、後で全部答えてやる。」
「・・・・・・・・」
ガソリンスタンド
奴はポリタンク5つ分もガソリンを買い込んで車に積み込んでいる。もうすぐ着くというのに・・・・。
俺は何もしない。気力も湧かない。
男「食うか?」
俺に向かってサンドイッチを差し出す男。
とても食欲の湧く状態じゃない。
俺は硬く口を閉じる。
『何もかもお見通し』という口調と行動が更に俺をイラつかせる。
奴は俺の席のダッシュボードにあるドリンクホルダーに、コーヒーを置いて無言で車を出した。
それから1時間ほど走った頃だろうか・・・奴が突然車を止める。
周りは林の中。雪だらけ。何も無い。
男「降りろ。」
奴は、このロシアの冷たい空気に感化されたかのように冷たい声で言う。
俺は車を降りた。奴は降りない。
どうやら車を隠しに行った様だ。
男「こっちだ。」
雪と土を掻き分けると、そこにはマンホールのようなものがあった。
ハンドルの様なものが付いている。
男はそのハンドルをまるで、墓に入るかのような横顔を見せながら回す。
キリキリキリキリ・・・・・
という音を立て、ハンドルが回る。
中は、古い防空壕を改造したのだろうか・・・・土を掘って作った物だ。
奴が電灯をつける。どうやら自家発電のようだ。
さっきのポリタンクは発電用の灯油だったのか?
広さは教室の半分程。
そして、かなり手が加えられている。
そこら中に重火器の類、弾丸。バズーカのようなものまで・・・。
通信機らしき機材、テレビ。
1畳ほどの机と、向かい合うように置かれた2つの椅子。
男「座れ。」
おれはゆっくりと椅子に向かう。
その間に奴は色々な機材のスイッチを入れて回る。
テレビが付く。衛星放送だろうか、日本語だ。
『・・・・繰り返します。is学園が空爆され米軍が占領しました。』
『自衛隊内部においてもクーデターが発生。繰り返します・・・』
俺は一気に気力を失った。学園の仲間達、千冬姉・・・・無事なんだろうか・・・・・・。
イライラが募る。矛先を向ける相手が奴しかいない。
すると奴は、俺の向かいの席に座り、ひじを突いて俺の顔を見定めるように見てくる。
相変わらずテレビからは悲惨な話題しか聞こえてこない。
ここはそんな騒ぎなどとは無縁の世界。
まさにここは『墓の中』。俺達は死んだ人間のような、傍観者の様な存在なのだろうか・・・。
男「さぁ、質問を聞くぞ。なんでも答えてやる。」
なんだこいつは。なぜこんな状況でそんなに冷静でいられる・・・・・?
それにこの違和感・・・・こいつ、何か開き直っていやがる!!
男「その通りだ。開き直っている。」
・・・・なぜ俺の考えていることがわかる?こいつエスパーか?
男「エスパーじゃないし、心を読むこともできない。」
男「いいから、質問しろ。回答は全部用意してある。」
男は立て続けに少し含み笑いをしながら言う。
まるで赤子の相手をする母親のように。
「あんたは・・・・誰だ?」
男「俺は・・・・・お前だよ、織斑一夏。」
「は・・・・・・・?」
男「本当におもしろいな。俺とまったく同じ反応をする。」
「同じ反応・・・・・?」
男「俺も昔、『織斑一夏』としてまったく同じ理由でここに連れてこられた。」
「あ、あんたが・・・・・俺?」
男「・・・・タイムマシンは知ってるか?」
「・・・・・あんた、まさか未来の俺か!?」
男「その通りだ。そしてこの後、俺は死ぬ。そういう筋書きだ。」
男「俺が今のお前の歳の頃にも、まったく同じことをさせられ、言われ、行動した。」
男「全ては、この戦争を回避するためだった。」
「回避する?この騒動をか?」
男「そうだ。未来を変える。反is運動が起きないような未来を作りたい。」
男「その想いが、俺の前の織斑一夏、そしてその前の織斑一夏、その前の前の前の・・・・・」
男「ずっとこれを繰り返してきた『らしい』。俺も前の織斑一夏からそう聞いた。今お前に話してるようにな。」
「い、一体何回繰り返しているんだ・・・・・?」
男「分からない。万か億か兆か・・・・・だが、最低でも1回はニアミスがあったんだ。」
「どういう意味だ?」
男「さっき、篠ノ之博士は死んだ、そうニュースではやっていたな?」
「あぁ、そうだ・・・・」
男「しかし、篠ノ之博士が死ななかった世界、時間とでも言うか。それがあった。」
男「移動ラボで逃げ続ける篠ノ之博士に接触した、ある織斑一夏は、篠ノ之博士と行動を共にした。そしてタイムマシンができた。」
そう言うと、奴は俺に資料を見せた。
男「今回の騒動で死ななかった篠ノ之博士が、40歳代のときに描いた設計図だそうだ。」
男「この世界では既に死亡しているからな、もう生み出されようが無いものだ。」
男「そしてこれが、そのタイムマシンだ。」
男は俺の腕につけた、ナノマシン注入用の輪を指差す。
「こ、これは・・・・・・・ナノマシンの・・・・・・・・・」
男「悪いな、ありゃ全部嘘だ。お前に生き残ってもらうためのブラフだ。」
男「ここからが本題だ。お前に殺人術を教えた理由は今後のお前の為にある。これからお前は潜伏しろ。」
男「詳細はコレを見ろ。これまで受け継がれてきた膨大な情報だ。」
そういうと男は、sdカードと紙数枚を取り出した。
「な、なんだこれは・・・・・・」
男「今まで、未来を変えようと必死に足掻いた『未来の織斑一夏』が残した、日記のようなものだ。
男「俺達の先輩が残してくれた。sdの中にまだ大量に入っている。この紙はその一部だ。」
男「見ろ、色んなルートを片っ端から潰して、is反対運動を食い止めようとしている。」
男「×がついているだろう?そのルートはダメだったってことだ。」
男「俺もつい2ヶ月前に×をつけた。そして最後の砦、ココに来た・・・・。」
男「あと、このカードを持っていけ。暗証番号は8091だ。篠ノ之博士の口座から既に全額移した口座だ。足はつかない」
「あんたの軍資金はそこから・・・・・」
男「その通りだ。そして俺が警察からの仕事を請け負っていたというのも、嘘だ。」
男「あれは未来、反is体制派に寝返った人間だから殺して回った。先代の真似事だがな。」
男「俺なりにアレンジを加えた。だが戦争は止まらなかった・・・・。」
男「お前の知らないところでも俺は大勢殺している。恐らくお前もそうなるだろう。」
男「だが忘れるな?これを今まで受け継いできた俺達の想いを。
男「箒が元気に暮らしている未来を夢見て死んでいった先輩達を。」
「いつかの車の中での話か・・・・」
男「そうだ。俺はお前の年のころに、お前と同じように箒を失った。」
男「まぁ、この世界じゃもしかしたら生きているかもしれないが。その辺の確認はお前がやることだ。」
男「さて・・・・・・予定ではあと2時間ほどで要人殺害の容疑でここに特殊部隊が踏み込んでくる。他に質問は?」
「どうして逃げない?」
男「そんなこと、先輩達が何回もやってすぐ死んでるからだ。」
男「一番存命できる方法を俺は今採っているまでだ。アレンジは咥えたぞ?俺だって死にたくないからな。」
男「そして、その紙のココに×印をつけるのがお前の初めての仕事だ。」
「『ロシア潜伏後、対物地雷10個・自動対物ミサイル3基・自動追尾型マシンガン小銃5機による最後の戦闘』・・・・」
「俺はあんたが死んだことをここに書くわけか・・・・。」
男「そうだ。物分りがいいな、さすが俺だ。」
「タイムマシンは?いつ使う?」
男「お前が、絶対絶命になったら使え。緊急脱出装置ってところだ。」
男「使い方は簡単だ。そのつなぎ目から外せばいい。」
男「そして過去の自分にそのリングをはめこむんだ。俺と同じようにして、な。それまでは死ぬなよ?」
男「タイムマシンの起動コードを教える。」
男「コードは、俺達が始めて出会った日付、『20100904』だ。絶対間違えるなよ?どうなるかわからんからな。」
男「ほとんどの質問には答えられたはずだ。まだ何かあるか?最新の織斑一夏君?」
「ない・・・・・・。」
男「ショックなのは分かるが、これからお前は死ぬほど辛い目に遭う。」
男「偽造パスポートの手配をしておいた、ここへ来るときに使った車でナビに設定した場所へ行け。」
男「背の低い年寄りの爺がいる。もう話は通してある。全部任せろ。信用できる奴だ。俺のときもそうだった。」
男「そして、まず日本へ帰れ。そして落ち着いたら、後は自由にしろ。」
「わかった・・・・・。」
男「さて・・・・・あと30分ほどか。そろそろ逃げろ。ほれ、これが日本までのルートだ。」
男「コレに従えば絶対お前は安全だ。もしも未来が変わってしまって、ルート通りに行かないなら、タイムマシンで逃げるのもありだがな。」
「ありがとうな・・・・色々世話になったよ・・・・・・・。」
男「気にするな。俺が先輩にしてもらったことをお前にしたまでだ。」
男「さぁ、もう行け。俺への礼は過去の織斑一夏に向けてやってくれ。それが俺の望みだ。じゃあな。」ばたん
男「さぁて・・・・・足止めするか。」
男は、満足げに笑みを浮かべ、手元にある地雷用の爆破ボタンとミサイルランチャーを手に取った・・・・。
「車はここか、えーっと・・・・『ナビ通りに行け』っと。」ブルルゥウウウン・・・・ブォーン・・・・・・・
ズドドッドドドッドドド・・・・!!
「始まったか。遠くで銃声が聞こえる・・・・。」
「ありがとう・・・・ありがとう・・・・・。未来を変えてみせるよ・・・・・・。」
その後、俺は奴の手配通りに話が進むのに驚愕する。ルート通りだ。
すぐ整形手術が始まる・・・・・。一週間後、俺の顔は別人になっていた。
そして、医者はすぐに俺の証明写真を撮影、偽造パスポートと逃亡犯の完成だ。
伊達眼鏡を渡される・・・・・見覚えのある細長い眼鏡だ・・・・・。
米軍の勢いは止らない。
5年後、コアの解析を完了していた米軍はアメリカの兵器会社でついにある製造ラインを組み上げた。
コアの内部を一部変更し、男性でも起動させられる新型isの大量生産ライン・・・・・。
俺は日本へ戻り、is学園関係者の足取りを追う。
過去のルートをいくつか調べ、成功したものを片っ端から当たる。
誰も足取りが追えない・・・・俺は諦め、世界各地にアジトを作る。
束さんの口座から引き落とした金が物をいった。
それから3年後、アメリカ合衆国は全世界に宣戦布告をする。
第3次世界大戦の勃発だ。
アメリカは長距離爆撃機からisを大量に投入し、全世界の核発射施設を全て爆破、占拠。
そこを拠点に各国を占領していく・・・・・・。
2週間、たった2週間で世界がアメリカに落ちた。
そんなアメリカに反米組織がゲリラ活動を行うが、国連もeuも無い世界。正義は無い。
アメリカは反米ゲリラ組織を「テロ組織」と世界に呼称し、虐殺して周った・・・。
10年後 エジプト
俺は携行ロケットランチャー・・・fim-92を連射していた・・・。
ピピピピー!・・・ドムンッ!カチャカチャ、ガチンッ・・・・ピピピピー!・・・ドムンッ!
「くそっ!!」
砂漠用の迷彩色に塗装されたisが3機、左右にブーストをかけながらこっちに突っ込んでくる。
それを先鋒に歩兵2個小隊を展開させてくる米軍特殊部隊。
fim-92の弾が遂に切れる・・・・。
ある程度isへ有効な武器であったのだが・・・。
ドドドドドッドドドッドドドッ・・・・
6機配備していたciws・・・自動追尾型ガトリングガンの弾も尽き始める・・・。
俺は苛立ちを抑えきれず、叫びながらロシア製のkord重機関銃を掃射する。
「なんでもかんでも軍事転用してんじゃねーぞ!」
ガチンッ!ドドドドドドドドドドドッ・・・・・・!!
isを3機にして勝てるわけが無い・・・・悪あがきだ。
ここが最後のアジトだ。もう後が無い・・・。
俺は右腕に白く輝く・・・希望という輪に目をやる。
奴の顔が思い浮かぶ・・・・。
「今だな・・・」
カチャッ
俺は腕輪を外す。音声認識モード。
俺は奴らの発砲音が止むタイミングを見計らう。
そして、ここの地下に仕掛けた核弾頭の起爆スイッチを押し・・・・・思い切り叫ぶ!
「20100904!」
ヒュン・・・・・・
特殊部隊員a「おい、消えたぞ。」
特殊部隊員b「対象をロスト。捜索を続行しま・・・・・」
ズドォォオオオオオオオオオン・・・・・・
土中が瞬時に盛り上がり、数百万度の火球がプラズマを発生させながらきのこ雲を作る。
is3機と特殊部隊、後方に控えていたis補給用の車両・・・・全てを消し去り、直径3kmのクレーターを作った・・・・。
俺は、時間移動と同時に目の前が真っ暗になる・・・だが体はどこかへ向かって引っ張られている?
いや、周りが動いているのか?それとも俺が動いているのか?
何とも言えない感覚に捕らわれていると、いきなり目の前に光が飛び込んできた。
何かにつまづいてたような感覚を受ける。
俺は前のめりになりながらなんとか踏ん張った。
「はぁ・・・・はぁ・・・・着いたか・・・・・・?」
ベレッタに手を当て、辺りを警戒する。
is学園最寄のモノレール駅、夕刻。
安心した俺は、空を見上げて深呼吸をし砂漠仕様のisに向かって言うように「ざまぁ見ろ」と呟く。
そしてスーツについた土煙を落としながら、駐車場に止まっている車から目ぼしい車を探す。
黒のレガシィ、こいつにしよう。
俺は背伸びをする振りをしながら周りを見渡す。
人通りは疎ら、車の施錠を急いで解除し、乗り込む。
インパネをはがし、配線をむき出しにしてエンジンに火を入れる。
向かうはis学園。織斑一夏。
ナビの画面を見る。
「2010年9月4日か、よし!」
夕方のis学園。懐かしい風景・・・・土煙で咳き込みながら撃ち合いをしていたことなど忘れさせてくれる。
過去の俺を探す。
すぐ見つかった。人のいない校内。さらに唯一の男子だから余計に、か。
「あれか・・・・呑気に歩いてやがる・・・・・・よし!行くぞ!!」
俺は塀から飛び出し、一気に庭を突っ切り、そして過去の俺の後ろに周り込み、声をかける。
「貴様が織斑一夏か?」
不振そうに俺の顔を見て答える、過去の俺。
一夏「あぁ・・・・そうだ。」
自分の眼で自分を見る。ものすごい違和感に襲われる。
自分の声を録音し、自分で聴いている時のような違和感・・・・。
『奴』もこんな感覚を味わっていたのだろう。
その前も、その前も、その前も、その前も・・・・・・。
さぁ、『織斑一夏』との約束を叶えよう・・・・。
おわり
このSSまとめへのコメント
とてもおもしろかった!
ぜひ、ハッピーエンドも見てみたい