ぐだお「カエサル、ハサン、小次郎……みんな無事か?」 (56)

カエサル「ぐっ……ここまでくれば、逃れたと言ってもいいだろうな」

「カエサルか。貴様がそこまで傷つくとはな」

カエサル「……それは私の台詞であろう、呪われた腕のアサシンよ。気配遮断を持つ貴様が手傷を負うとはな」

ハサン「……少しばかりぬかったのは否定出来ん」

カエサル「当然と言えば、当然なのかもしれぬ。今回ばかりは、この私であっても相手が悪い」

小次郎「今までの相手とは訳が違うということよ。死をあれほど間近に感じたのは久方ぶりだ」


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カエサル「貴様も無事か。喜ぶべきであろうか」

小次郎「どうかな。死を眼前に感じる回数が増えるだけかもしれん」

ハサン「言うな。今ばかりは傷を癒し、英気を養わなくてはならぬ。心が折れた時が我らの死よ」

カエサル「全く持ってその通りだな。体と心を弱くして勝てる相手ではあるまいよ」

ぐだお「ハッ、ハアッ、ハァ……カエサル、ハサン、小次郎。みんな、無事か?」

ハサン「無事でしたか、マスター!」

カエサル「まぁ、我らがまだここにいることが無事の証ではあったが」

小次郎「すまないな。我らの力不足故にそなたを危険にさらしてしまった」

ぐだお「いや。自分の身すら守りきれない俺が悪い。とにかく、みんな無事で良かった」

ハサン「して、マスター。我ら以外の者たちは?」

ぐだお「分からない……みんな襲撃を受けて、散り散りになってしまった」

カエサル「マシュはどうした?」

ぐだお「……分からない。気づいた時には、もういなかった」

小次郎「そうか……そうか。これはいよいよ以て、某らが最後の生き残りかもな」

カエサル「アサシンが2人。戦力的にはかなり厳しいということを認めなくてはなるまい」

ハサン「貴様、セイバーであろうが」

カエサル「セイバー! そう、なるほど確かに貴様の言うとおり私はセイバーだ。だがしかし、この剣による武勇は他のサーヴァントに遠く及ばぬ。斬り合ったところで高位の戦士達には敵わぬよ。剣以外での業績も含めれば誰にも負けぬ自信があるがな」

小次郎「酷く殊勝な物言いであるよ。らしくもない」

カエサル「私とて、到底敵わぬ圧倒的力を見せつけられればこうもなる」

ぐだお「……すまない。俺がもっとしっかりしていれば」

カエサル「その通りだ……と、普段なら言うところなのだがな。今回ばかりは相手も悪い。貴様を責める気にはならん」

ハサン「ふっ。貴様、魔術師殿には存外寛大よな」

カエサル「これでも気に入っているからな。一見凡庸にしか見えぬが、内に秘めた物を感じる。世界を取るのは存外そういった者だ。余も権謀術数には飽きた、たまには勇者に仕えて剣を振るうのもよいだろう」

ぐだお「……ありがとう。絶対に、皆で生き延びよう。そして、いつものカルデアを取り戻す!」

小次郎「おうともよ。某は一振りの刀。主殿の前に立ちふさがる障害を排除して見せよう」

ハサン「うむ。魔術師殿。我ら決して武勇に優れたサーヴァントではありませぬが、存分に使って下され」

ぐだお「ああ!」

『……かい。聞こえるかい、ぐだおくん!』

ぐだお「ドクター! 無事だったんですね!」

ロマン『なんとかね。って、僕の事はどうでも、よくはないけどとにかくそこを離れるんだ! 彼女達がすぐそこに迫ってる!』

ぐだお「くそっ、もう嗅ぎ付けられたのか!」

カエサル「早くも黄金の剣の出番か。出来る事ならばもう少し後回しにしたかったものよ」

小次郎「覚悟を済ませる暇も無かったな」

ハサン「勝てばいいのだ。それだけよ」

バァン!(ドアが蹴破られる音)

「シグルド……ああ、シグルド! やっと見つけた……見つけたから。殺し、ますね」

「貴方達からは毒の臭いがします。いくらカルデア内の衛生環境を良くしたところでそこに住まう人々が清潔でなくては意味がありません。よって。殺菌します。消毒します。滅菌します」

ぐだお「ブリュンヒルデ……!」

ブリュンヒルデ「マスター。優しい、マスター。あなたは、シグルドの生まれ変わりだったのね。愛しい、シグルド。だから、殺しますね」

ぐだお「言葉が前後でぶっ飛び過ぎてるよ! そもそも俺はシグルドじゃあない!」

ブリュンヒルデ「シグルド……? 何を言っているのシグルド。あなたはシグルド。私の、あなた。私は……愛した人を、殺さなきゃ……」

カエサル「あの女、何故バーサーカーではないのだ?」

小次郎「男に惚れなければ良識的なんだろうさ」

ナイチンゲール「口を開いたならば声を出す前にすすぎなさい。そして手を洗いなさい。特にミスター・黒マント。貴方から濃く毒の臭いを感じます。一刻も早くその右手を洗った方がいい。いいえ……もうここまで来ては手遅れです。切断しましょう」

ハサン「私の腕は呪われてこそいるが、毒ではない。そこははき違えないでもらおう」

ナイチンゲール「それほどまでに長く変質した、毒の臭いのする腕に異常が無いはずがありません。それに貴方。顔面のあらゆる部位を削ぎ落としていますね。そのようなことをする精神が病に侵されていない訳がない。治療します。腕は切断します」

小次郎「臭うらしいぞ?」

ハサン「黙れ。話が通じぬのは分かりきっていたことよ」

ナイチンゲール「それから、貴方。ミスター・レッド」

カエサル「ほう。この私をご指名か?」

ナイチンゲール「開いてみるまでは分かりませんが、それほどまでに大きく膨らんだ腹部に異常がない訳がありません。開きます。必要があれば部位を切除します」

カエサル「なるほど。この女は紛れも無くバーサーカーだ」

ハサン「どちらかと言うとこちらの言っている事の方が分かるのだがな」

カエサル「人の話を聞かない女は、私が苦手とする数少ないものだ」

小次郎「だろうな」

ハサン「しかし、かのナイチンゲール女史と戦乙女が相手である。我らの刃は届くだろうか」

小次郎「届けなくてはならぬ。我らが倒れればカルデアは婦長殿に支配され、殺菌消毒で肩身が狭くなった我々は霊体化するしかあるまい」

カエサル「腹を掻っ捌かれる訳にはいかぬ。黄金の剣を存分に振るうまでよ」

ぐだお「負ける訳にはいかない。ナイチンゲールが天下を取った時、バーサーカー達や黒髭に手を洗うよう言い聞かせるのは絶対俺の仕事になる」

ハサン「……魔術師殿はそれより命の心配をした方が良いのでは?」

ブリュンヒルデ「愛しているわ、シグルド……!」

ぐだお「その通りだった。ブリュンヒルデを見ると背筋がゾクゾクして心臓が痛い」

小次郎「3対2ではあるが、不利なことに変わりはないぞ。相手の格が高すぎる」

カエサル「あの2人は標的が同じであるようだが、目的は違う。上手くやれば争わせることも出来るだろう」

ハサン「魔術師殿に令呪はあるが、我ら三人が力尽きた時点で魔術師殿の命も無いだろう。令呪による復活は考えない方がいい」

ぐだお「そうだな。あんまり考えない様にしてたけどやっぱり死ぬよな、俺」

カエサル「そうならない為に我らが全力を尽くすのだ。お前も持てるもの全てを使って足掻いて見せろ」

ぐだお「そうだな……やれることを、やる……!」

小次郎「……ほう? 秘策でもあるのか、主殿?」

ぐだお「令呪による全体蘇生は使えないと見た方がいい。だから、始まる前に使い切る!」

カエサル「……ほう。そうきたか」

ぐだお「……第一の令呪を以て命ずる。ガイウス・ユリウス・カエサルよ、その黄金の剣を以て、我らが窮地を打開して見せよ」

カエサル「うむ。いいだろう、たまにはな、まれにはな」

ぐだお「第二の令呪を以て命ずる。ハサン・サッバーハよ、その腕を以て、我らが苦境を打ち砕いて見せよ!」

ハサン「……承知」

ぐだお「第三の令呪を以て命ずる! 佐々木小次郎よ、その刃を以て我らが困難を切り裂いて見せよッ!」

小次郎「……任された!」

ぐだお「よし……いくぞ、みんな!」

「「「応ッ!」」」

~~

ナイチンゲール「さぁ洗いなさい。その腕に染みついた毒が消えるまで。さもなくば切断します」

ハサン「だから私の腕は呪われているのであって、毒ではなくて、洗って消える物では」

カエサル「黙って置け。切断されるぞ」

ナイチンゲール「手に取る物もいつだって清潔に。例え武器であったとしても同じことです」

小次郎「某は刀匠ではないのだが……」

ブリュンヒルデ「シグルド! ああ、シグルド!」

ぐだお「あああああああああああああああああああああああああああああああ!」

ハサン「おう、逃げておられる」

小次郎「いつまで持つかな、主殿は」

ハサン「言っている場合か。助けなくてはならんだろう」

バァンッ!

ナイチンゲール「口を開く前に手を洗いなさい」

ハサン「……分かったので耳元での発砲は止めてもらいたい」

ブリュンヒルデ「好き。嫌い。好き。嫌い。好き。好き。好き。好き。好き……!」

ぐだお「ほっ宝具は不味いって! 死ぬって!」

ブリュンヒルデ「そうよ、シグルド……私が、愛しているから貴方を[ピーーー]の……!」

ぐだお「動きを止めなきゃ俺が死ぬッ! ガンドッ! ガンドォッ!」

ブリュンヒルデ「いたっ……ああ、痛い。これは夢じゃないのね、シグルドっ!」

ぐだお「ああああああああああああああああああああっ!」





~~

ぐだお「しぬかとおもった」

ハサン「隙を突いて逃げてきた訳ではあるが」

小次郎「力ずくでは敵わないことが分かったな。1対1でも無理だろう。星の数が足りん」

カエサル「貴様らはアサシンであるしな……心臓を潰すことは出来なかったのか?」

ハサン「潰した。あの婦長の心臓は、確かに潰した……はずなのだ」

小次郎「バーサーカーの恐ろしい所よ。恐らく既に自然回復しているだろう」

ハサン「自信を無くす……」

カエサル「……そもそも、令呪を我らの強化に使わずにあの女たちの隷属に使えばよかったのではないか?」

ぐだお「……」

カエサル「おい、貴様まさか」

ぐだお「……お前だってノリノリだっただろ!」

カエサル「あれは貴様が価値を確信した表情で、言葉を挟む前に言うからだろう! 令呪も使っていたしな!」

ハサン(初めの令呪使用の時点で気づかなかった我らにも落ち度が……)

小次郎(黙っていよう)

ぐだお「で、だ。あの二人を止める方法なんだけど」

小次郎「いつも通りやればいいだろう」

ぐだお「……いつも通り?」

小次郎「抱けばいい」

ぐだお「……はっはあああああああああああああああああ!? 俺がいつ誰を抱いたって話だよ!?」

小次郎「それはもう、主殿は困った時いつも女を抱くことで解決を」

ぐだお「してねぇよ! あれは何もなかったって何度も言わせるんじゃあねぇ!」




小次郎「ホントにござるかぁ~? だって主殿、修羅場を回避しようとした時など最後にはノリノリで」

ぐだお「なにもなかった!(半ギレ)」

小次郎「デオン殿と風呂に入った時は?」

ぐだお「な に も な か っ た ! ( 半 ギ レ ) 」

小次郎「ナーサリーライム殿や沖田殿は?」

ぐだお「それこそ何もなかった!」

小次郎「それこそぉ~? つまり他では何かあったのではござらぬかぁ~?」

ぐだお「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお佐々木ぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」

ハサン「お、落ち着いてくだされ魔術師殿おおおおおおおおおおおおおおおおお!」

ぐだお「離せハサン! 元を辿れば大体こいつが悪いんだ! 佐々木が! 佐々木がやれって言うから!」

小次郎「ふっふふふふふ」

ぐだお「笑うなぁあああああああああああああああああああああああああああ!」

カエサル「お主、本当に性格が歪んでおるよな」

小次郎「何度もひっかかる魔術師殿が悪いのだ」

カエサル「ついに反論すらしなくなったか」

ぐだお「佐々木を! 殺して! 俺も死ぬ!」

ハサン「落ち着いて、落ち着いてくだされ魔術師殿! 貴方が倒れたら誰が世界を修復するのですか!」

ぐだお「そんなもん知るかくそおおおおおおおおおおおッ!」

カエサル「……まぁ騙される方も騙される方という言葉もあながち間違ってはいないのか」

ぐだお「な゛に゛も゛……な゛に゛も゛な゛か゛っ゛た゛」

カエサル「完全に喉が潰れておる」

ハサン「それはそうよ。あれほど声を張り上げればな」

小次郎「仕方あるまい。ほれ主殿、水だ」

ぐだお「……お前からもらうのが釈然としないよ」ゴクゴク

カエサル「水などとどうして持ち合わせていたのだ? 我らに必要なものでは無いだろう」

小次郎「無論、酒だから持っておった」

カエサル「は?」







小次郎「面倒くさかったのでな。前も酒を飲ませれば万事解決したのだ、今回も飲ませてさえおけばどうにかなる」

ハサン「……あの時女子達から主殿を守るのにどれほど骨を折ったと思っている?」

小次郎「3本ぐらいか?」

ハサン「鈍い振りで誤魔化そうとするな!」

ぐだお「……zzz」

カエサル「……どうするのだ? これ」

小次郎「このまま廊下にでも転がしておけばいい。我らは一晩霊体化しておけば、少なくとも1人は問題解決しているだろう」

ハサン「薄い青のランサーに見つかったらどうするのだ。眠っていては逃げられもすまい」

小次郎「気になるのならばお主、霊体化した上で見張っておけばいいだろう。ランサーが来たなら隠せばいい」

ハサン「どうして私が見張らなくてならぬのだ。発起人のお前がやるべきだろう」

小次郎「某を信用していいのかぁ?」

ハサン「お主なぁ……」

カエサル「やはり世界を救うに当たって、この男が最大の障害なのではなかろうか……」

ハサン「私も同じことを考えていた……仕方あるまい。私も見張るから、お前も……どこに行った?」

カエサル「……消えたな。既に霊体化したか」

ハサン「さぁさぁきぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」




ナイチンゲール「殺菌。滅菌。殺菌……カルデア内のありとあらゆる場所の殺菌は完了しました。軽薄なドクターもお風呂に沈めて来たので殺菌されたでしょう。カルデアは医療の場として適切になりました。しかし……ここにいるサーヴァントも、職員もみな健康。今ここで私がすべきことはもうありません。戦場に行かなくては。戦場に治療を必要とする者が、衛生状況を軽視したことが原因の地獄が私を待っています」ブツブツブツブツ

ぐだお「……zzz」

ナイチンゲール「司令官。何をしているのです? 確かにカルデア内のありとあらゆる場所を殺菌したとは言いましたが、どこで眠ってもいいことを意味するわけではありません。眠るのならば、清潔なベッドの中へ」

ぐだお「……zzz」

ナイチンゲール「全く……仕方のない司令官ですね。貴方が倒れてしまってはこれから私が治療するはずの患者も治療できなくなります。聞いているのですか」

ぐだお「……zzz」



バァン!

ぐだお「うわっ!? なんだ!?」

ナイチンゲール「人の話はきちんと聞くように、司令官。貴方の意識1つが部下の生死を分けるということを忘れずに」

ぐだお「な、ナイチンゲール? ここは……廊下? 俺はどうしてここに……っ! つぅ、頭が、痛い……」

ナイチンゲール「……頭が? 痛い? 具体的には、頭のどこがどのように痛むのです?」

ぐだお「どのようにって、言われても……頭の全部が」

チャキッ

ナイチンゲール「頭のどこが、どのように、どれほど痛むのか。はっきりと言ってください。さもなくば、この貴方の口へ突っ込まれた拳銃を撃たなくてはいけません」

ぐだお「わ……わふぁった。わふぁったはら、銃を、どけてふれ(分かったから銃をどけてくれ)」

ナイチンゲール「よろしい」


ぐだお「頭の、こめかみのあたりが酷くズキズキして、あと頭が凄く重たい。胃の中で何かが燃えてグルグル渦巻いているような感じもする」

ナイチンゲール「ふむ……酷くアルコールの臭いがするので、恐らくただ単に飲み過ぎただけでしょうが……念の為と言うこともあります。今晩は私も貴方の部屋で過ごすことにしましょう」

ぐだお「えっ」

ナイチンゲール「幸い、ここには他の患者もいませんので。貴方の治療に専念できます」

ぐだお「……もしかして、暇なのか?」

ナイチンゲール「は?」チャキッ

ぐだお「頼むから拳銃を気軽に出さないでくれ」

ナイチンゲール「良いですか。アルコールを摂取した際に起きる症状としては運動失調、意識障害、昏睡、呼吸抑制、血圧の低下などが挙げられます。重症の場合には詩にも至ります。今回の場合、司令官と私の間で交わされる会話が成立しているので重症ではないと思いますが」

ぐだお「会話成立してるんだ?」

ナイチンゲール「では司令官、今から貴方を抱き上げますが抵抗なさらない様に」

ぐだお「やっぱり成立してないよね?」

ナイチンゲール「先ほど上げたのは飽くまでアルコールの摂取による直接的な症状です。運動失調による転倒から頭蓋内出血を起こす可能性もあります。また、脱水、血圧が低下することで脳梗塞が発症することもあるので、私が司令官を担いで部屋まで運び、一晩監視するのが最も生存率が高い選択です」

ぐだお「分かったよ。抵抗したら撃つんだろう?」

バァン!

ぐだお「抵抗してないのに!?」

ナイチンゲール「では、失礼。抵抗をしないように」

ぐだお「はい……って、この姿勢……お姫様抱っこでいくのか?」

ナイチンゲール「ええ。この体制でないと、貴方の様子を目で確認しながら運ぶことが出来ないので」

ぐだお「……分かったよ。恥ずかしいなんて言ったら怒るだろう」

ナイチンゲール「無論、怒ります。生存の確立を上げるためには恥や外聞など捨てなさい」

ぐだお「そうだな。どうせ今ここには俺達しかいないし……なぁ、ナイチンゲール」

ナイチンゲール「フロー、とお呼びなさい。ナイチンゲールも、フローレンスも貴方にとっては長いでしょうから。それに、あまり好きな名前ではありません」

ぐだお「……有名になり過ぎたから?」

ナイチンゲール「ええ。医療の場の衛生向上の為、看護士の地位向上の為、利用できるのならばと広告塔になることを受け入れてはいましたが。逆に私が利用され過ぎてしまいました」

ぐだお「……聞いたことがある。君は、墓標にイニシャルと生まれた日、亡くなった日以外を刻むことを許さなかったと」

ナイチンゲール「忌々しいことです。私は患者の治療と、その術を後進へと叩き込むことと、医療体制を充実させることと、その障害となるものを排除すること以外に興味はありませんので。名声を得れば得るだけ動きにくくなってしまった。まぁ、突き進みますが」

ぐだお「……やっぱり、君は白衣の天使だ」

ナイチンゲール「白衣の…天使? 私が天使? おかしな事を仰る司令官が居たものね。天使、ですって?」

ぐだお「ああ。君にそのつもりが無くても、天使だったんだろう。怪我をして、汚い場所に押し込まれた患者たちにとって。自分達を救うために、自らの身を犠牲にしてありとあらゆる手段をとろうとした君の姿は、彼らにとって白衣の天使そのものだったんだろう」

ナイチンゲール「天使とは美しい花を撒く者で無く、苦悩する誰かの為に戦う者よ」

ぐだお「とても君らしい言葉なんだろうと思うよ。まだ付き合いは短いけど、それは分かる。自分が、高潔で美しい存在ではないと言いたいんだろ? だけど……君が苦悩する誰かの為に戦う姿は、その誰かにとっては気高く、美しい花だったんだよ。きっと」

ナイチンゲール「……何故、そんなことが貴方に分かるのです?」

ぐだお「俺が今、そう見えているから」

ナイチンゲール「は?」

ぐだお「フロー、君は美しい白衣の天使そのものだ。例えどれだけ血で汚れていようと、どれだけ気難しい表情をしていようと。俺の為に最善を尽くそうとしてくれる君が、俺には天使に見える。戦場の人は、君が強く眩しく見えただろう。生きられるかもしれないっていう、希望の形そのものに見えたんだろう……君ほど強く、高潔で、愛に溢れた女性を俺は知らない。フローレンス・ナイチンゲール。君は天使だ。俺達患者にとって、紛れも無く」

ナイチンゲール「おかしな人ね。言っていて恥ずかしくないのかしら」

ぐだお「酔ってるからな。それに、恥を捨てろと言ったのは君だろ」

ナイチンゲール「……その称号も、ランプの貴婦人も好きではありません。貴方の手によって完全治療遂行者、完全なる治療機械と化した私には最早不要のものと言ってもいい。もうその名では呼ばない様に」

ぐだお「……ああ。分かった」

ナイチンゲール「…………ですが。この私が患者の希望であったと言うのならば。今までより少しだけ、誇りに思えるかもしれません。見識を広げてくださった貴方に、感謝を」

ぐだお「……うん」

ナイチンゲール「無駄話が過ぎました。改めて、部屋へ運びます」

ぐだお「俺、もう酔い覚めてるんだけど?」

ナイチンゲール「……駄目です。この体制のまま、私が、貴方を部屋へと運び、そして寝かしつけます」

ぐだお「……そっか。じゃあ、お願いします」

ナイチンゲール「はい。寝つきが悪いようでしたら、殴ってでも寝かせますが」

ぐだお「それは止めてほしいな……」

ブリュンヒルデ「シグルド……今までどこにいたの? 探したわ」

ぐだお「ゲェーッ! ブリュンヒルデ!」

ブリュンヒルデ「今……貴方の事を[ピーーー]わ」

ナイチンゲール「待ちなさい。貴女、今、[ピーーー]と言いましたか? 私の患者を?」

ブリュンヒルデ「彼はシグルドよ。貴方の患者では無く、わたしのあなた。だから、殺さなくてはいけないの。ああ、愛しのシグルド!」

ナイチンゲール「何を言っているのかさっぱり分かりませんが、私の患者を、いえ私の患者でなくとも人の命を奪おうなどと言う貴女は私の敵です。そして、貴女は病気。例え私の命に代えても司令官は守りますし、私と司令官の命に代えても貴女を治療します」

ぐだお「俺の命も代えられちゃうの?」

ナイチンゲール「当然。貴方は私の腕の中にいる以上、一心同体であり、未来を共に進む義務がある。さて、しかし足だけで彼女を治療することが出来るかしら」

ぐだお「……えっ!? 俺を抱きかかえたまま戦うつもり!?」

ナイチンゲール「ええ。一度治療を開始した患者を放棄することなどできません。しかし、これでは拳銃も使えない。固定用バッグを持ってくるべきでした」

ぐだお「いや、俺は大丈夫だから。万全の状態で戦わないと神話出身の相手には勝てない!」

ナイチンゲール「関係ありません。私は貴方も、彼女も治療する。それだけの事」

ぐだお「フロー! 人の話を聞こう!」

ナイチンゲール「患者は暴れないで安静にしていなさい!」

ブリュンヒルデ「痛みは……一瞬です……」

ぐだお「駄目だ。終わった」

ガキィィィィィン!

ぐだお「……生きてる」

デオン「ああ、そうさマスター。ご主人様。君はまだ生きている」

ぐだお「デオン!?」

ナイチンゲール「貴女は。彼女の治療を邪魔するのですか?」

デオン「いいや。だが、彼女の治療は私に任せてもらおう。行きたまえ、ナイチンゲール女史。ここはこのシュヴァリエ・デオン・ド・ボーモンが引き受けよう」

ナイチンゲール「そういう訳にはいきません。彼女も治療しなくては」

デオン「ごもっともだ。だがしかし、ここでマスターを失う訳にはいかない。ここで彼を失えば、この世界の人々は全て傷ついたまま終わりを迎えたことになる。それは君の望むところではないだろう?」

ナイチンゲール「……」

デオン「フローレンス・ナイチンゲール。君は誰よりも強い女性だ。だから、君は決断できる。私はこのランサーを必ず治療して見せる。だから、ここは私に任せて行きたまえ」

ナイチンゲール「……」ダッ

ブリュンヒルデ「シグルド!」

デオン「行かせる訳にはいかない。白百合の騎士の名に懸けて、私は彼女との約束を果たす」

ハサン「……助太刀致そう、騎士殿」

カエサル「仕方あるまいな。一対一ではそう簡単に勝てる相手ではあるまい」

デオン「君達……いたのかい。ずいぶんと、趣味が悪いんじゃないかい?」

カエサル「そのまま貴様に叩きつけてやろう」

ハサン「我ら全員、出るタイミングを逃した同じ穴のムジナよ。この罪悪感をかき消すためにも、ここは命を張らせてもらう」

カエサル「罪悪感も何も、酔っ払いが小恥ずかしいことを言っているのを聞いていただけだがな。ともわれ我らも生きて帰らねばならないのは変わりない。このあとやらねばならない事もある」

デオン「やらなくてはならないこと?」

ハサン「ああそうだ。我らにとって歴史の修復に次ぐことよ」

カエサル「ああ今度こそ、達成せねばなるまい。我らはここを生き延び、そしてその後で」

ハサカエ「「佐々木を斬る!」」

ナイチンゲール「……屈辱です。私が患者と断定した相手から逃げるなどと」

ぐだお「……ごめん。俺の為に」

ナイチンゲール「ええ、これとない屈辱を今味わっています。これを償いたいと言うのならば」

ぐだお「ならば」

ナイチンゲール「次の戦いの場において、私に治療をさせなさい。貴方が言う天使の振る舞いをさせなさい。最前線で、戦場で、私の治療を待っている患者がいる……!」

ぐだお「分かった。約束する。次のグランドオーダーは、必ず君を連れていく」

ナイチンゲール「よろしい。そして、貴方は決して無理をしないと約束なさい」

ぐだお「……出来ればそうありたいけど。どうして?」

ナイチンゲール「先ほどからどうにも胸が痛い。もしも貴方に何かあれば、私は悲しいと言うことが分かりました。貴方を治療、看護する喜びは、貴方が傷ついた悲しみに打ち消されてしまう。なので、貴方は決して無理をせず、倒れないこと。常に殺菌清潔を心掛ける事。よろしいですね?」

ぐだお「……分かった。最善を尽くすことを約束する」

ナイチンゲール「よろしい……それで、よろしい」

ぐだお「ありがとう、フロー。君はやっぱり、クリミアの……」

バァン!

ぐだお「だから耳元で発砲しないでくれ!」

小次郎「ぶえーっくしょい! ……サーヴァントも風邪にかかるのだろうか……」

おわりです
読んでくださった方がおられましたらありがとうございます

本当はブリュンヒルデもヒロインにするつもりでしたがナイチンゲールで纏まってしまったので出来ませんでした。
ゆるして

ナイチンゲールやクリミア戦争に興味のある方は藤田和日郎先生の「黒博物館ゴーストアンドレディ」を読もう(ステマ)
ナイチンゲールの生涯を少しだけオカルティックに脚色したコミックで上下巻の2冊、みんな大好きシュヴァリエ・デオンくんちゃんもでます

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