比奈「ま、ま、そんなところで立ってないで。どーぞどーぞっス」


沙紀「なんで片づけられたはずのこたつがもう一度出現してるのかは触れないでおくっすよ……」ﾓｿﾞﾓｿﾞ


比奈「いやまあ、最近寒暖の差が激しかったりなんだったりで肌寒い日があるかもなんで、すぐに片づけるのもどうかと思って」


沙紀「本音は？」


比奈「私が入りたかっただけっス」


沙紀「っすか」


比奈「っスよ。あ、みかんあるっスよ？」


沙紀「あ、いただくっす」


沙紀（およそ春の装いじゃあないっすねぇ）

沙紀「にしても」ﾑｷﾑｷ


比奈「はい？」


沙紀「や、勝手に出すとちひろさんとかプロデューサーとか怒るんじゃないかと」ﾑｷﾑｷ


比奈「プロデューサーさんは買収済みっス」


沙紀「っすか」


比奈「っス。みかん一個っス」


沙紀「安いっすねぇ、社会人って」


比奈「っス。ちひろさんはまあ……なんとかなるっスよ」


沙紀「ええ？ 割とこういうの厳しそうっすけど」ﾑｷﾑｷ


比奈「や、この前コーヒー入れて渡そうとしたときにドジってカップ落として割っちゃっても笑って許してくれましたし……」


沙紀「それはちゃんと謝りましょうよ……」


比奈「それは当然っスよ。社会人の礼儀っス」


沙紀「っすか」


比奈「っスよ」


沙紀「あ、みかんいただくっす」


比奈「どうぞどうぞ」

沙紀「あ、おいし」ﾓｸﾞﾓｸﾞ


比奈「それは何よりっス」


沙紀「っていうかあれっすね、比奈さんってもう20歳なんすよね」


比奈「あー、そうは見えないってよく言われるっスねぇ。お酒も問題ないっスよ」


沙紀「よく飲まれる方なんっすか？」


比奈「いやあ、そんなそんな。すぐいい気分になっちゃうんスよ」


沙紀「っすか」


比奈「っスよ。飲むとしても美優さんとか聖來さんとかとかるーくっスね」


沙紀「あれ、意外な組み合わせ」


比奈「以前お仕事で一緒になったことがありまして」


沙紀「なるほどっす」

比奈「沙紀ちゃんは伊吹ちゃんとかと仲いいっスよね？」


沙紀「っすね。後は忍とか櫂さんとか。あー、ほたるちゃんとこずえちゃんもたまーに面倒見るっすね」ﾓｸﾞﾓｸﾞ


比奈「あー、なんかほっとけないっスよねー」


沙紀「なんすよ。保護欲？ 母性って言うんすかね？ よくわかんないっすけど」ﾑｷﾑｷ


比奈「沙紀ちゃん自身割と面倒見いいっスからねぇ」


沙紀「っすか？」ﾑｷﾑｷ


比奈「っスよ。交友関係が広いようで日陰者にはうらやましい限りっス……」


沙紀「アイドルやっててその言い草はないっすよ。はい、あーんっす」ｽｯ


比奈「？」


沙紀「みかんっすよ。食べましょ？」


比奈「お、いいんスか？ ありがたーく頂戴するっス」ﾊﾟｸｯ


比奈「……おいしいっすねぇ」ﾆﾍﾗ


沙紀（3個上っすよねこの人）

比奈「あー、こたつから出られないっスー」ﾊﾞﾀﾊﾞﾀ


沙紀「出る気もないくせによく言うっす……。この後のご予定は？」


比奈「特にないっす。ちょっと前までレッスンで今日はもう帰宅だけっス」ﾋﾟﾀｯ


沙紀「で、こたつに捕まったんっすか」


比奈「っスよ。いやー春先になってもこたつの魔力は健在っスねー」ﾊﾞﾀﾊﾞﾀ


沙紀「足ばたばたはやめてほしいっす……伸ばしてる足にちょこちょこ当たって地味に痛いっすよ……」


比奈「あ、ごめんなさいっス」ﾋﾟﾀｯ


沙紀「わかればいいっす」


比奈（三歳下っスよねこの人）

比奈「沙紀ちゃんのこの後のご予定は？」


沙紀「んー……お仕事終わらせたんで一応報告だけしに事務所に戻りに来たんっすけど……」


比奈「んじゃあこの後は？」


沙紀「帰るだけっすね」


比奈「っスか」


沙紀「っすよ。っていうかプロデューサーは？ ちひろさんもいないですし」ｷｮﾛｷｮﾛ


比奈「私が何の用事もなしに事務所で無為に時間を過ごすと思ってるんスか？」


沙紀「思ってるか思ってないかで言ったら思ってるっす」


比奈「ひどいっス」ﾖﾖﾖ


沙紀「雑な演技にも程があるっすよ……」


比奈「いやまあ冗談は置いといて。プロデューサーは営業、ちひろさんは備品の買い出しっスよ」


沙紀「ああ、比奈さんお留守番……。それにしてももう6時っすよ。よく今の時間まで走り回れるっすね」


比奈「プロデューサーは人間やめてまスから」


沙紀「『俺は人間をやめるぞ！』 ちひろ――ッ！！」


比奈「どちらかというとあの人が石仮面作ってそうっスけどね」


沙紀「おおっと、失言っすよ比奈さん」


比奈「っスね。以後慎むっス」

沙紀「このまま帰ってもいいんすけど……せっかく戻ってきたから挨拶くらいはして帰りたいっすね」ﾑｷﾑｷ


比奈「それがいいっス。んで、沙紀ちゃんもこたつの魔力に飲み込まれるがいいっスよ」ﾑｷﾑｷ


沙紀「あんまりみかんも食べ過ぎると夕ご飯が入らなくなるんすけどね」ﾓｸﾞﾓｸﾞ


比奈「真面目っスねえ」ﾓｸﾞﾓｸﾞ


沙紀「や、アイドルですし。まがいなりにも。身体の管理には気を配らないと」ﾑｷﾑｷ


比奈「むしろ沙紀ちゃんはもっと太るべきっスよ……」ﾓｸﾞﾓｸﾞ


沙紀「いやあ、よく言われるっすけどね。油断は禁物っすよ」ﾓｸﾞﾓｸﾞ


比奈「そう言いながら4つ目のみかんに手を伸ばそうとしてる沙紀ちゃんのこと、私は好きっスよ」ﾓｸﾞﾓｸﾞ


沙紀「……っすか」


比奈「っスよ」


沙紀「……どうもっす」


比奈「耳まで赤いっス」


沙紀「口に出すのやめてもらえないっすか」

比奈「……あー」


沙紀「暇っすねえ」ｸﾞﾃﾞｰﾝ


比奈「暇っスねえ」ｸﾞﾃﾞｰﾝ


沙紀「やっぱりこたつには勝てなかったっすね」ｺﾞﾛｰﾝ


比奈「いやあ、勝とうとするのが間違いっすよ。身を委ねるのが一番っス」ｺﾞﾛｰﾝ


沙紀「間違いないっすね……。そういや、事務所の他の方々は？ いつもならこの時間たむろってる人たちがいないっすね」ﾑｸｯ


比奈「あー、早苗さんが友紀さんと菜々さんと美波ちゃん連れて花見に行くって言って飛び出していったらしいっスよ」ﾑｸｯ


沙紀「菜々さんはともかく美波ちゃんガチの未成年じゃないっすか」


比奈「まあそこはきっちりしてるとは思うっスよ。たぶん」


沙紀「元警官っすもんねぇ。比奈さんはどうしてついてかなかったんで？」


比奈「んー、入れ違いだったみたいなんスよね。私返ってきた時にはちひろさんしかいなくて」


沙紀「なるほど、で、ちひろさんから事情を聴いて」


比奈「最終的にはお留守番、っと」


沙紀「……っすか」


比奈「っスよ」

比奈「まあいいんスけどね。お留守番のおかげでこうして沙紀ちゃんとお話しできてるわけで」


沙紀「……突然そういうの言うのやめてもらっていいっすか」


比奈「あ、やっぱ照れまス？」


沙紀「や、さすがにそこまでっすけど不意打ちはよろしくないっす」


比奈「っスか」


沙紀「っすよ」


比奈「……」


沙紀「……」

比奈「……ちひろさん、遅いっスねえ」


沙紀「っすね。みかん食べましょ、みかん」


比奈「っスね。食べるっスよ。何ならここにあるやつ全部なくなるまで食べるっス」


沙紀「ここまできたらもう意地っすよ。絶対戻ってくるまで延々と食べ続けてやるっす」


比奈「その息っスよ。じゃあ景気づけに……」


沙紀「あ、いただきますってやるっすか？」


比奈「音頭は沙紀ちゃんに任せるっス」


沙紀「了解っす。それでは皆さん、手を合わせてください」ﾊﾟﾝｯ


比奈「っス」ﾊﾟﾝｯ


沙紀「では……せーのっ」


比奈「いただきま
沙紀「いただきま



ｶﾞﾁｬ


＜ﾀﾀﾞｲﾏﾓﾄﾞﾘﾏｼﾀｰ


比奈「ス」
沙紀「す」


比奈「…………」


沙紀「…………」

比奈「……クッ」


沙紀「……ふふっ」


比奈「っ……っ……あー……」


沙紀「間が悪いっすねえ」


比奈「いやあ、まったくっスよ」


＜ﾋﾅﾁｬﾝｺﾞﾒﾝﾅｻｰｲ ﾙｽﾊﾞﾝｱﾘｶﾞﾄｳｺﾞｻﾞｲﾏｽｰ!


比奈「……へへっ」


沙紀「比奈さん」


比奈「はい？ どうしたっスか」


沙紀「この後、ご飯でもどうっすか」


比奈「……あ、いいっスね。ぜひぜひ行くっス」


沙紀「っす。じゃあいい加減こたつから出ないとっすね……」


＜ﾁｮｯ、ｻｷﾁｬﾝﾅﾝﾃﾞﾏﾀｺﾀﾂﾀﾞｼﾃﾙﾝﾃﾞｽｶｰ!


比奈「やべっ」

比奈「これはちょっと怒られそうっスね」


沙紀「言わんこっちゃないっす……。しかもなんか巻き添えくらいそうだし……」


比奈「ま、ま、いいじゃないっスか」


沙紀「ま、そうっすねえ。じゃあ……」


比奈「逃げるが勝ちっスよー！」
沙紀「逃げるが勝ちっすよー！」


ﾊﾞﾀﾊﾞﾀﾊﾞﾀ･･･


＜ｱ､ｺﾗﾌﾀﾘﾄﾓ､ﾏﾁﾅｻｰｲ!







おわり