四月
シンジ「四月といえば桜の季節なんだって」
アスカ「桜、ねぇ」
シンジ「日本の桜は綺麗だったって、ミサトさんがしょっちゅう言ってたんだ」
アスカ「ふーん。まあ、確かにこういう景観も悪くないわね」
シンジ「お花見なんてさ、アスカもはじめてでしょ?」
アスカ「わざわざ花を見たってしようがなかったし。それよりも、ほら。早くお弁当」
シンジ「お弁当もいいけどさ、もうちょっと景色を楽しむとか、風流をさ……」
アスカ「風流も素敵だけど、花より団子よ。そこがお目当てなの」
シンジ「こういうのをアスカと見に来たのは間違いだったかなぁ」
アスカ「なによ、どうせ他に一緒に見に行く相手もいないくせに」
シンジ「そんなこと言わなくていいだろ。ほんとにさ、アスカには初めてのこの感動が伝わらないの?」
アスカ「感動でお腹は膨れないの。お弁当食べたら感動してあげる」
シンジ「なんだよそれ」
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シンジ「アスカには付き合いきれないや」カチャカチャ
ザワワ
シンジ「あ……」
アスカ「きゃっ、何よこれ!」
シンジ「うわ、すごい!すごいよ、風に吹かれて桜の花びらが飛び散ってる!」
アスカ「それもいいけど、これじゃお弁当が食べられないじゃない!」
シンジ「ほら、お弁当なんていいからさ、アスカも見てごらんよ!」
シンジ「まるで木が泣いてるみたいだ」
アスカ「木が……?」
アスカ「……雪だわ」
シンジ「え?」
アスカ「昔何かで見たの。地球の冬には、雪が降るのよ。確かこんな風だった」
シンジ「あ、それ僕も聞いたことがあるよ。……そうだ、確か桜吹雪とかって」
アスカ「桜吹雪……か、結構洒落た名前つけるじゃない」
アスカ「散り際がこんなに綺麗だなんて、何だか皮肉よね。でも、この景色を今見ているのはあたし達2人だけかぁ」
シンジ「幻想的だけど、少し寂しいね」
アスカ「ん。それよりも、早くお弁当」
シンジ「はいはい、分かりましたよ。今日はいつもより頑張ったからね」
アスカ「期待してるわよ」
アスカ「ねぇ、来年も見れるかしらね、桜」
シンジ「うん。次来る時はさ……みんなと一緒に見れたらいいのにね」
アスカ「……」
花見:日本古来の風習で、主に桜の花を鑑賞しながら新春の到来を言祝ぐイベントのこと。
五月
アスカ「子供の日?」
シンジ「そうだよ、五月といえば子供の日。端午の節句さ」
シンジ「だからさ、はい」
アスカ「なにこれ、変な匂い」
シンジ「柏餅だよ、知らない?匂いがあるのは多分、この葉っぱの部分かな」
シンジ「サルトリイバラって言うんだよ」
アスカ「ふーん。お餅なら食べられるのよね、いただきます」
シンジ「葉っぱの部分は取って食べてね」
アスカ「どれ」パクッ
シンジ「どうかな?僕は結構好きな味なんだけど」
アスカ「ふむ」モグモグ
アスカ「うん、悪くないわ。お腹も膨れていい感じ」
シンジ「そっか、美味しそうで良かったよ」
アスカ「それにしても、よくこんな食べ物見つけてきたわね」
シンジ「まだ何とか残ってたから、せっかくならと思ってさ」
アスカ「へえ、気が効くじゃない。それにしても子供の日かぁ。なんか面白そう」
シンジ「英語にするとチルドレンズデイ、僕らのことだよね」
シンジ「子供の日は他にも、鯉のぼりを浮かべたり兜を飾ったりするんだよ」
アスカ「鯉のぼりぃ?」
シンジ「うん。鯉の形をしたお飾りだよ」
アスカ「鯉って、あれよね?あの、魚の」
シンジ「うん、そうだよ。魚の鯉」
アスカ「変なもんを飾るのねぇ」
シンジ「変かな?」
アスカ「変よ」
シンジ「そうかなぁ。アスカにも見せてあげたいけど、あったかな」
アスカ「いいわよ、別に。大して興味無いし。それよりもあと、何ですって?兜を飾るの?」
シンジ「ああ、そうそう。お金持ちの家はね、本物の兜を飾ったりするんだ」
シンジ「僕は1人で折り紙で作ってただけだけどね」
アスカ「折り紙、ねぇ」
シンジ「アスカ、折ったことないでしょ?ね、どうせなら一緒に折ろうよ。兜」
アスカ「折り方分かんないわよ」
シンジ「簡単だよ、決められたように折っていけば出来上がるんだ、見てごらんよ」カサッ
シンジ「こうやって……と」
シンジ「ね、丁寧に折り目をつけて、何度も何度も爪でなぞるんだよ」
シンジ「ほら、段々と出来上がっていく様子が何だか気持ちいいでしょ?」
アスカ「はぁ?折り方が決まってるなら当たり前じゃん」
シンジ「それを出来るだけ綺麗に折るのが楽しいのさ。さ、やってみなってば、僕の通りにさ」
アスカ「そーいうもんかしら。じゃ、どれどれ」
アスカ「まずはここをこうして……っと」フンフン
こどもの日:こどもの幸福を願い、祝うと共に、母親に感謝することを趣旨とする祝日。五節句の一つ。
六月
シンジ「ここの所雨が続くね」
アスカ「ジメジメしててつまんないの」
シンジ「確か、この時期は雨がよく降るんだよ。梅雨とか五月雨とか言ってさ」
アスカ「地球って気まぐれなのねぇ」
シンジ「まあセカンドインパクトなんて起こしちゃうくらいだしね」
アスカ「ジョークになってないわよ」
シンジ「どうせもう終わったことじゃないか」
アスカ「バーカ、だからでしょ」
アスカ「それにしても、暑い上に雨のせいで外に出ることもできないたぁ最悪ね」
シンジ「……そうだ。外、見てみようよ」
アスカ「なんでよ、降ってるじゃない」
シンジ「傘ならあるよ。家にいたって退屈なんだろ?」
アスカ「えー、めんどくさーい」
シンジ「いいから、ほら、行くよ」
ザーザー
アスカ「なんでこんな時にわざわざ」
シンジ「たまには雨の中出かけるのもいいじゃない、駅の方まで出てみよう」
アスカ「もー、お洋服が濡れちゃうじゃない」
シンジ「雨が降ってるんだから当然だろ」
アスカ「あんたはそうかもね!」
アスカ「……それにしても静かね」
シンジ「雨だからね」
アスカ「雨の日って静かなの?」
シンジ「うん、そうらしいよ。よく分かんないけどさ」
アスカ「なにそれ、変なの」
アスカ「……あら、何か変な生き物がいる」
シンジ「え?どれどれ?」
シンジ「あ、これデンデンムシだよ!」
アスカ「デンデンムシ?虫なのこれ?」
シンジ「虫……かは分かんないけどさ、確かカタツムリってやつ。そっか、雨が降ったから出てきたんだ」
アスカ「変なヤツ。こんな奇妙な姿でよく生きていけるわ。それもわざわざ雨の日に出てくるなんて、変わり者ね」
シンジ「こいつらは水がないと生きられないんだよ。だからこの時期に見つかるんだ」ツンツン
アスカ「あんた、よくこんなの触れるわね」
シンジ「ほーらほら、角だせ槍だせ」ツンツン
アスカ「なに、こいつらそんな物騒なモンを出すの!?」
シンジ「はぁ?違うよ、目ん玉のことさ。アスカってこういうの何も知らないんだね」
アスカ「な、何よ!別にいいじゃない、知らなくたって困らないんだし!」
シンジ「社会常識だよ。案外貧相な人生送ってきたんだね」
アスカ「貧相で悪ぅございました!」
シンジ「そのくらいで怒んないでよ」
アスカ「ふん、しーらない」
アスカ「……それにしても、こんな場所で生きていこうなんてさ、カタツムリだっけ?あんたほんと変わり者よね」
シンジ「わっ、もしかして本気でカタツムリに語りかけてるの?」
シンジ「アスカってさ、なんていうか結構ロマンチストなんだね。ピンク色な感じ」
アスカ「……」
シンジ「待って!殴る前にまず僕の言い分を聞いて欲しいんだ」
シンジ「正直悪かったと思ってるんで痛いのだけは勘弁してください」
アスカ「フン!」バキ
シンジ「あばぅっ」
梅雨:東アジア地域に主に見られる、夏場に曇りや雨の多い時期が続く気象現象のこと。
七月
アスカ「なによいきなり、こんな夜中に外に連れ出したりして」
シンジ「ちょっと、一緒に星でも見ようかと思って」
アスカ「星?星なんていっつも出てんじゃない」
シンジ「今日は特別なんだよ。ほら、あの丘の上からならよく見えるよ」
アスカ「なんなのよ、藪から棒に」
シンジ「なにって、今日は七夕じゃないか」
アスカ「たなばたぁ?」
シンジ「そうだよ。七夕の日」
シンジ「笹に願い事を書いた短冊をつけると叶えてくれるんだ」
アスカ「願い事、ねぇ」
シンジ「アスカってそういうの好きでしょ?」
アスカ「喧嘩ならもう少し分かりやすく売ってくれるかしら?」
シンジ「ごめんごめん、冗談はともかくさ。一つ願いが叶うとしたらアスカはどうする?」
アスカ「願いなんてないわ」
シンジ「え、そうなの?」
アスカ「そうよ。だって願わないもの」
シンジ「ふーん、変なの」
アスカ「ねえ、それよりその七夕だからってなんなのよ、星を見ようなんて」
シンジ「なーんだ、やっぱり知らないのか。天の川を見せてやろうと思ったんだよ」
アスカ「天の川?」
シンジ「うん。ほら見てみなよ、空」
アスカ「んー?」
アスカ「……わお」
シンジ「星が連なってさ、まるで空に川が出来てるみたいでしょ?だから、天の川」
シンジ「夏の時期によく見えるんだ。特に今は街の灯りもないしね」
アスカ「へぇ、まさしく空の神秘かぁ」
シンジ「綺麗でしょ?でね、ほら。天の川を挟んで明るい星が二つあるんだけど」
アスカ「どれ?」
シンジ「あれだよ、あれとあれ」
アスカ「あれってどれよ」
シンジ「だからあれ!ほら指さしてるだろ」
アスカ「分かんないわよ、星なんてたくさんあるんだから!」
シンジ「じゃあもういいよ!とにかく、明るい星があるんだって。確か、ベガとアルタイルって言うんだ」
アスカ「なんだ、それってこと座α星とわし座α星ね。宇宙に二十一個ある一等星だったかしら」
シンジ「そういうのはごめん、よく分かんないけど」
シンジ「でね、その二つの事を日本では織姫と彦星って呼んでるんだよ」
アスカ「どっかで聞いたことあるかも」
シンジ「昔話だよ」
シンジ「二人は夫婦なんだけど、父さんに怒られて会えなくなっちゃったんだ」
シンジ「でも一年に一度、七夕の日だけは会っていいんだって。あの二つの星をそういうお話で例えてるんだよ」
アスカ「初耳ね。それで毎年、律儀にああして再会してるんだ」
シンジ「実はもう二人も面倒くさかったりしてね」
アスカ「そのくらいがいい気味だわ」
シンジ「アスカと一緒だと七夕のカタルシスさえ吹き飛ぶのかぁ」
アスカ「感動的でしょ?」
アスカ「まあでも、そうね。せっかくだし、もう少しこうして見ているのもいいかもね」
七夕:子供の成長を祝う節句の一つで、神話上の伝説が元になっている。願い事を提げた笹の枝が立てられる風習がある。
八月
シンジ「いやー、夏真っ盛りって感じの夜だね」
アスカ「盛らなくていい。暑いわよ」
シンジ「クーラーが動いてよかったね。僕達じゃ壊れてたら修理とかできないし」
アスカ「シンジに無理やり直させるから平気よ」
シンジ「また無茶苦茶言うなぁ」
アスカ「それより、早く用を済ませて家に戻るわよ。蚊に刺されちゃう」
シンジ「ちぇ、すっかり現代文明に浸かってるよ。せめて虫の鳴き声を聞くとかさ」
アスカ「羽虫の合唱コンクールのために出てきたわけじゃないでしょ」
シンジ「……はぁ」
シンジ「こういうのはアスカとやるべきじゃないんだよなぁ」ガサガサ
シンジ「じゃあ、はいこれ」
アスカ「……?なにこれ?」
シンジ「普段頭いい振りしてるのに本当に何も知らないんだなぁ。花火だよ花火」
アスカ「花火ぃ?あー、なんだっけ?ピューって浮かんで弾けるやつ?」
シンジ「間違っちゃいないけど、これは違うよ」
シンジ「花火も知らないなんて、僕がアスカじゃなくてよかった」
アスカ「余計なお世話よ!」
シンジ「ほらこれね、よく見ててよ。こうやって火をつけるんだ。それで……」
シュボッ
アスカ「!」
シンジ「ほら、いい感じだろ?夏と言ったらやっぱり花火は外せないよ」
シンジ「打ち上げ花火みたいにハデなのは出来ないけどね。アスカもつけてみたら?」
アスカ「う、うん。危なくないのよね?」
シュボッ
アスカ「わあ!」
シンジ「ね、綺麗だろ?あとはほら、こうやって振り回したり!」ブンブン
アスカ「きゃっ!ちょっと、いきなり何すんのよ!」
シンジ「はは、びっくりした?アスカの顔、花火の灯りで真っ青だよ」
アスカ「あんたこそ真っ赤っかじゃない!」
シンジ「それがいいんじゃない。もっと楽しみなよ」
シンジ「ほーらほら!」アハハ
アスカ「やっ!ち、近づけないでよ!」
シンジ「ははは、花火の光でアスカが出たり消えたりするよ!」
アスカ「むぐううう、ずいぶん良い声で笑うようになったわねぇこのバカぁ!!」ブンブン
シンジ「お、やる気になった?……っと?」
シュッシュッ……シュー
アスカ「あら、消えちゃった」
シンジ「無理させすぎたかな。終わったらちゃんと水入りバケツに突っ込んでね」
アスカ「むうう……」
シンジ「花火はまだいっぱいあるからがっかりしないでよ」
シンジ「まあ、本当は人数が多いほど楽しいんだけどね」
アスカ「……ふーん」
シンジ「あ、次はこんなのどうかな?」
アスカ「なにこれ、細くて情けない感じ」
シンジ「失礼なこというなよ。線香花火っていうんだ」
アスカ「センコーハナビぃ?」
シンジ「そう。ほら、これアスカの分ね。こうやって持って……」
シンジ「はい、こうして同時に火をつけるんだ」シュボッ
アスカ「……?」
シンジ「ほら、しっかり持たないと蕾が落ちちゃうよ」
アスカ「えっ。ちょっと、なによこのみみっちいの!」
シンジ「静かに。線香花火はこの蕾を落とさないようにじっと見守るんだよ」
アスカ「はぁ?このちっちゃなのを?」
シンジ「……」
アスカ「……ふん」
シンジ「…………」
アスカ「…………」
チリリリリリリリ
シンジ「…………」
アスカ「…………」
リーンリーン
シンジ「こうやって黙ってると、虫の声がよく聞こえるね」
アスカ「……」
チルチルチル
アスカ「……そうね」
シンジ「こうやって聞くと結構いい音じゃない?」
シンジ「明日は虫の声を聞きに行ってみようか?」
アスカ「……」
アスカ「あんたがどうしてもって言うならついて行ってあげる」
シンジ「あ、あはは、光栄だな……」
アスカ「……それより見なさいよ、あんたのその情けない蛍火!」
アスカ「あたしの花火の方が数倍華やかでイかしてるぅ!」
シンジ「……どうかな、最後まで見てみなきゃ分かんないよ?」
アスカ「ふっふーん、強がっちゃって!」
アスカ「やっぱりこういう所にも才能の差ってのがありありと表れてん……」ポロッ
アスカ「……へ?」
シンジ「やった!僕の勝ちだ!」
アスカ「うっそぉ!?なんでよ、だってシンジのよりあたしの方が全然燃えてたじゃない!」
シンジ「花火もね、派手に命を燃やしすぎると早死にするんだよ。適度に力抜かないと」
アスカ「な!」
アスカ「ずっるーい!インチキ!卑怯者!!」
シンジ「別にインチキってことないだろ!そういうモンなんだから!」
アスカ「インチキよ!まだやり方も分からないあたしを弄んだの!!さいってーね!!」
シンジ「そ、そんな事言うならもう一回やってみればいいじゃないか!今度は当てつけはなしだからね!」
アスカ「言われなくても!早く次、貸しなさいよ!」
花火:日本でポピュラーな夏の風物詩。種類も多様だが、特に大規模な花火の打ち上げは花火大会と呼ばれる。
今日はここまでです
おやすみなさい
二人ぼっちだけど、こういうのも確かな優しい世界か……
誕生日おめでとう綾波
ということで続き書いていきます
九月
アスカ「あら、なにこれ!すごい数のお団子ねぇ」
シンジ「もうすぐお月見の頃だからね。たくさん作らなきゃと思ってさ」
アスカ「お月見ぃ?」
シンジ「そうだよ。八月とか九月の夜に満月を眺めて団子を食べるんだよ。兎がお餅をついてるってやつね」
アスカ「お花見だったりお月見だったり、風流ですこと」
シンジ「九月はお月見だけじゃないよ。菊の節句っていうお祭りもあるんだ。もう過ぎちゃったけどね」
アスカ「忙しいのね」
シンジ「楽しいんだよ。小学校なら運動会とかもあるだろうし」
アスカ「そーですか。っと、もーらい!」ヒョイ
シンジ「あ!こら、ダメじゃないか!ちゃんと飾ってからじゃないと」
アスカ「どうせ食べるんならいつ食べたって同じじゃん」
シンジ「こういうのは気持ちとか雰囲気の問題なんだよ。ほんとに浅ましいなぁ」
アスカ「いーでしょ、食べたいものは食べたい時に食べんのよ」
シンジ「そういうの、動物的って言うんだよな」
アスカ「結構結構、否定はしないわよ。動物なんだし」
シンジ「はいはい、分かったからもう少しゆっくりしてなよ」
アスカ「なによー、いけずぅ」
アスカ「……ねえ、お月見ってんならさ。月、一緒に見てもいいわよ?」
シンジ「そのためにこんなにお団子作ってるんだろ。だから待っててって言ってるのさ」
アスカ「これはどーもすみませんでした!邪魔者は消えますよー」
シンジ「その邪魔者のためにこうしてお団子作ってる僕の身にもなってよ」
アスカ「じょーだん!あたしのことが好きなくせに」
シンジ「もう何でもいいからさ、静かに作らせてよ」
アスカ「ちぇーっ!いいわよもう!べーっ」ドタドタ
シンジ「なんだよアスカのやつ」
シンジ「せっかくだから上手に作ってやろうと思ってるだけなのに」
シンジ「……よし、お団子といい感じに夜ご飯!」
シンジ「後は……っと」ガチャ
シンジ「ビール……か」
シンジ「……」
シンジ「一応、出しておこうかな。もしかしたら帰って来るかもしれないしね」
アスカ「シーンジぃー!!まーだぁ?」
シンジ「うん、今行くよ!」
月見:秋の風流で満月を眺めて楽しむこと。古来には忌むべき風趣として見られていたという説もある。
十月
シンジ「じゃーん!どうかなこれ!」ドッカリ
アスカ「なにこれ……カボチャ?」
シンジ「そうだよ、ほら、すっごいでしょ」
アスカ「んー、確かに大きいけど、なんでよ?」
シンジ「ハロウィーンだよハロウィーン!トリックオアトリート?」
アスカ「はー、またモノ好きなイベントのことを」
シンジ「モノ好きなもんか。楽しめるものは楽しんでおかないと」
アスカ「あたしはそれよりオクトーバーフェストがよかったー」
シンジ「おくと……なに?」
アスカ「オクトーバーフェスト!知らないのあんた?」
シンジ「聞いたことないけど」
アスカ「げぇ、嘘でしょあんた?えー、マジ……?」
シンジ「なんだよ、そういうのいいからさ、早く教えてよ」
アスカ「あんたねぇ、こんなのもうジョーシキよジョーシキ。知らないなんてありえないんだから」
アスカ「十月といえばオクトーバーフェスト!大きなビール祭りよ!これくらいちゃんと知っておきなさい!」
シンジ「ビールぅ?そんなことやったって、どうせ僕ら飲めないじゃない」
アスカ「飲めなくたっていいの!お祭りを楽しむのが本命なんだから!」
シンジ「へえ、まあ楽しいならいいんじゃない?」
シンジ「それよりさ、ハロウィンの飾り付けをしようよ!お菓子もほら、こんなに用意したし」
アスカ「あんたと二人でハロウィンパーティなんかしようって?」
シンジ「なんだよ、僕じゃ不満だとでも?」
アスカ「イかさないし刺激もない!」
シンジ「ハロウィンに刺激求められても困るよ!……大体、僕がイかさないって言うの?」
アスカ「事実じゃない」
シンジ「言ったね。じゃあ試してみようか?」
アスカ「えらそーに、ガキのくせしてさ」
シンジ「バカにすんなよな!あの時の僕と同じだと思ってるんだろ」
アスカ「同じだったら蹴り殺してるわよ。ほら、早く飾りを出しなさいよ」
シンジ「自分だって充分子供のくせに」
アスカ「次の一言には気を使った方がいいわよー」
シンジ「うっ……あの、僕はカボチャくり抜くんで……蝋燭とかのセットをお願いします」
アスカ「そうそう、最初からそうやって頼めばいいのよ」
シンジ「あ、そういえば。あとこれね」
アスカ「なにこれ、服?」バサ
シンジ「そう。ハロウィンといえばさ、やっぱり仮装だと思って。いわゆるコスプレ」
アスカ「にしたって、これは一体なんの仮装よ。やけにヒラヒラねぇ」
シンジ「えろっ娘まじょか……じゃなかった魔女っ娘えりかちゃんだよ、知らない?」
アスカ「もしかしてステッキで変身する系?」
シンジ「うわ、そのジャンルやっぱり興味あるんだ……」
アスカ「な!別にそんなこと言ってないでしょ!てゆーかあんたこそ、ハロウィンにかこつけてこんなの着せようとして!」
アスカ「普通お化けとか怪獣とかに化けるもんじゃない!ヘンタイ!」
シンジ「今どきそんなベターなの受けないよ」
シンジ「まあ僕ももう少しスタイリッシュなのがいいかなぁと思ったんだけど、なんたってアスカの体型だとフィットする層がどうしても限らはぎぃ!」
アスカ「え、なに?次はふくらはぎにやってほしいの?」
シンジ「ごめんなさいもう言いません許してください」
ハロウィン:元来はケルト(古代のドイツ辺り)民族による冬の到来を祀った宗教的な行事が起源とされるお祭り。お菓子をくれなきゃ悪戯するぞ。
十一月
アスカ「わー、綺麗ねぇ」
シンジ「紅葉で景色が真っ赤だね。秋模様っていうのかな?」
アスカ「秋ってすごいのね。まるで山が燃えてるみたい」
シンジ「ね、苦労して見に来てよかったでしょ?」
アスカ「あんた、知ってたの?」
シンジ「習ったことはあったよ。もちろん実物を見たのははじめてだけど」
シンジ「ちょうど町のイチョウが黄色くなってたからさ」
アスカ「ふーん。それで、わざわざ歩いてこんな所まで連れてきたのね」
シンジ「一人で見に来ても面白いことないしね」
アスカ「そうよねぇ。シンジはあたしと来れて嬉しいわけだ」
シンジ「まあね。ねえ、登ってみようか」
アスカ「この山を?」
シンジ「うん、紅葉狩りしようよ」
アスカ「紅葉狩り、ねぇ」
スタスタ
シンジ「ほら、すごいよ。一面赤と黄色でいっぱい!カラフルなトンネルをくぐってるみたいだ!」
アスカ「……うん」
シンジ「モミジやカエデがたくさん落葉して、まるで絨毯みたいだね」
アスカ「そうね」
シンジ「たまに風に吹かれてさ、ひらひら葉っぱが落ちてくるのなんか、いい感じだよね」
アスカ「ええ」
シンジ「……。あのさ、なんでそんなに釣れないの?」
アスカ「えー、だってあたしがなんか言ったらまた雰囲気がどうだの言われるかと思って」
シンジ「いいよ、気にしなくて。らしくもない」
アスカ「失敬な!あたしだって空気くらい読むわよ!」
シンジ「そういうのは空気を読むのとは違うよ」
シンジ「その気があるんなら、アスカもしっかり景色を楽しんで僕と話を合わせほしいんだけど」
アスカ「……景色ねぇ」チラ
アスカ「……」
シンジ「……」
アスカ「……」
シンジ「……?」
アスカ「……」ポケー
シンジ「……ねえ」
アスカ「!」ハッ
シンジ「今、見とれてたでしょ」
アスカ「な、別に!」
アスカ「大体、何よ!たかが葉っぱくらいでさ!そんなんで見とれるような単純な馬鹿、あんたくらいだっての!」
シンジ「そんなムキになることないだろ。どうしてそこで意地を張るのさ」
アスカ「張ってない!」
シンジ「はぁ、やれやれ」
アスカ「……」
アスカ「……ねえ、その」
シンジ「?」
アスカ「き、綺麗ね、もみじ……」ボソ
シンジ「……うん、また見に来ようね」
紅葉狩り:秋の終わりにかけて、紅や黄に色変わりした山野の紅葉を楽しむこと。時には果物や松茸などを採る場合もある。
十二月
シンジ「やあ、見てよ!雪が降ってる!」
アスカ「すっごーい!あたし、雪って初めて見たわ」
シンジ「これが本当の初雪だね」
アスカ「へー、白いのがフワフワして落ちてきてる。不思議ねぇ、本当にこんな事まで起きるなんて」
シンジ「積もったらきっと綺麗なんだろうね。今日はイヴだから、いわゆるホワイトクリスマスか」
アスカ「メルヘンチックね。あ、そうだ、イヴといえば当然今晩はご馳走よね?」
シンジ「そしてアスカがメルヘンを壊すのか……」
シンジ「ま、ご飯は安心してよ。今日はしっかりケーキも取ってあるからね」
アスカ「賞味期限とか大丈夫なんでしょうね」
シンジ「第三新東京市はシェルターの役目もあるからそういう所はしっかりしてるんだよ」
シンジ「食糧なんて僕らが一生かかっても備蓄は食べ尽くせないよ」
アスカ「それは幸運なことで」
シンジ「後はお決まりの七面鳥とか、お寿司とか」
アスカ「わお、ぜいたくぅ!」
シンジ「たまの祝日だし、これくらいはいいかなと思って」
アスカ「そうそう、たまにはパーッとハメを外さなきゃ!」
シンジ「うん、そう言うと思った」
シンジ「じゃあご飯の安心も出来ただろうし、雪、見に行こうか」
アスカ「さんせーい!」
ガチャ
シンジ「結構寒いよ、大丈夫?」
アスカ「暑さはともかく寒さにはまだあんま慣れないのよね」
シンジ「冬なんて初めてだからね、もう少し上着着てくる?」
アスカ「ん、大丈夫。こうすればいいのよ」
ギュッ
シンジ「わっ!?ち、ちょっ!?」
アスカ「こうやって、二人でくっつけばあんたも暖かいでしょ。あ、変なこと考えたらコロすからね」
シンジ「え、あっ、う、うん、そうだね」ドキドキ
アスカ「ほら、ね?少しはマシになった」
シンジ「う、うん……」
シンジ「……そっか、二人でくっつけば寒い時でもこうやって暖かいんだ。だから人間は、みんなで集まって生きてたのかな」
アスカ「やーん、てっつがくてきぃ!」
シンジ「むっ」
アスカ「ふふん!難しく考えなくてもさ、詰まる所、寒い時は暖かくなる努力をして、暑い時は涼しくする努力をする」
アスカ「人間ってそういう事よ、それ以上の意味なんてあるわけないじゃん!」
シンジ「うーん……」
アスカ「要は、熱膨張よ!」
シンジ「熱膨張?」
アスカ「物は温めれば大きくなって、冷やせば小さくなる」
アスカ「あたしとこんな風に密着してるから、あんたも熱膨張してきてるってわけよね」
シンジ「わっ!わっ!ば、バレてたんなら言ってよ!」サッ
アスカ「変なこと考えないでって言ったでしょ!この程度のスキンシップでタジタジな男なんてゲンメツぅ」
シンジ「なんだよ」ムカッ
シンジ「そんなに言うならこうだ!」ガバッ
アスカ「えっ、ちょっ!?」
シンジ「……」ギュッ
アスカ「やっ!?あ、あの!」タジ
アスカ「ちょっと、シンジ……!」
シンジ「……ふーん」
シンジ「意外、アスカも案外この程度でタジタジな女の子なんだ」
アスカ「!」
シンジ「分かってるよ、熱膨張だよね?」
アスカ「〜〜〜!」カーッ
シンジ「ほら、それよりも雪を見ようよ」
アスカ「待ちなさいよ、そんなこと言って……!」
シンジ「ほーら!ね、暖かいね」
アスカ「えっ……う、うん」
シンジ「雪が綺麗だ。きっと明日には積もってるよ」
アスカ「……うん」
シンジ「そしたら、雪だるまっていうのでも作ってみようか。あとは雪合戦したり」
アスカ「……うん」
シンジ「しばらくこうやって雪を見てるのもいいかもね」
アスカ「……うん」
クリスマス:元はイエスの降誕を祝うお祭りのこと。年の終わりに向けて、街を賑わす足音の数が増え始める。ジングルベルの鐘の音が世界中を駆け回る。
一旦終わります
明日の朝書ければ書く
乙。旧劇のアフターかな?
一月
アスカ「新年明けまして」
シンジ「おめでとうございます」
アスカ「あっという間だったわね」
シンジ「去年は色々あったからね」
アスカ「色々、ねぇ」
シンジ「楽しいことばっかり、ってわけにもいかなかったけど」
アスカ「つまり充実してたってことね」
シンジ「どうもお陰様で」
アスカ「ふむ、で?冗談はそれくらいにして、今日は何をしようってわけ?」
シンジ「なにをって?」
アスカ「とぼけんじゃないわよ。あんたの事だから、また奇特なイベントを紹介して遊ぼうってんじゃないの?」
シンジ「え?……あぁ、そういうことか。うーん」
シンジ「いやぁでも、お正月くらいはこうしてこたつに篭って、みかんでも食べながらのんびり過ごすのも悪くないかなってちょっと」ヌクヌク
アスカ「のんびりもいいけど、今のあたし達、まだまだやることがあんじゃないの?」ヌクヌク
シンジ「そういうアスカだってすっかり浸かってるじゃない」
アスカ「いいのよ。外は寒いんだもん」
シンジ「それって僕だけ働けって意味かな……」
アスカ「べっつにぃ」
シンジ「……はぁ、じゃあそうだなぁ」
シンジ「凧でもあげに行こうか。動いていれば体も暖かくなるしね」
アスカ「行ってらっしゃぁい」
シンジ「何言ってんだよ、早くこたつから出なって。ほら、電源切るよ」パチッ
アスカ「なにすんのよー、人がせっかく気持ちよく丸くなってる時に」
シンジ「アスカの言う通り、やらなきゃいけない事沢山あるし。気分転換に外に出よ」
アスカ「1人で行ってきなさいよ」
シンジ「子供は風の子、寒い時こそ外で元気に行かなきゃ」
アスカ「いーぬーはよーろこびにーわかけまわりー」
シンジ「ねーこもいーっしょにかけまわるー」
アスカ「……」ジト
シンジ「……ついでにおせち料理も探しに行こうかな」ボソ
アスカ「ちょっとだけ待ちなさいよ、すぐに準備するから」
元旦:元日の夜明けから日の出を指す。一年の最初の朝として祝われるが、初詣帰りで眠っている人間も多い。そのまま寝正月になる人間も多い。
二月
シンジ「アスカ、何見てんの?」
アスカ「テレビよ、特番番組の録画を見てんの」
シンジ「特番の録画?なんでわざわざそんなのを?」
アスカ「時間感覚無くさないためよ。前のこの時期はどういう日だったのかとか、しっかり確認しておかないと」
シンジ「あぁ、なるほどね。そういう所は考えてるんだ」
アスカ「こちとらあんたみたいにノータリンで過ごしてないのよ」
シンジ「ちぇっ、自分が考えてることばっかり取り立てるんだもんな」
アスカ「なによ、あたしのナイスなアイデアに不満なわけ?」
シンジ「いちいちつっかかるなよ。あ、でもそういうことなら僕も季節感無くしたくないし、見てもいいよね」
アスカ「ごじゆーに」
シンジ「よっと」ポスン
テレビ『えー本日は、街中インタビューにやって参りましたー!』
テレビ『ではさっそく、道行く男女達に声をかけてみたいと思います!』
テレビ『どうですか?もう好きな男性にチョコは渡しましたか?』
シンジ(……ああ、今日はバレンタインの日なんだ。すっかり忘れてたな)
シンジ(本当に時間感覚無くなって来てるのかも)
テレビ『どうしてお付き合いされてるんですか?』
テレビ『だって私の彼って、たまに釣れない所もあるんですけど、かっこよくて頼りになるし、優しいし、料理も結構上手くて素敵なんですよー!』
シンジ(……ふーん)
アスカ(ばっかばかし。建前ばっか並べて取り繕ってる感じ)
シンジ「ねえ」
アスカ「ん?」
シンジ「あの……変なこと聞くみたいだけど、アスカが僕と一緒にいるのってさ、たとえば」
シンジ「かっこいいから……とかだったりする?」タハハ
アスカ「……はぁ?」
アスカ「えぇ?あんたが、カッコイイって?」
シンジ「う、うん」
アスカ「アハ!ちょっと、冗談やめてよ!百歩譲って顔が良くてもあんたがカッコイイは有り得ないわよ!」プッ
シンジ「なっ!」ガーン
アスカ「あはは、その理由だけは絶対ないから安心しなさい」
シンジ「な、なんだよそれ……割とショックなんだけど……」
シンジ「……えと、じゃ、じゃあさ、もしかして優しいから、とか?」
アスカ「優しい?」ピク
アスカ「ほー、あんたがあたしに優しくしてたって?」
シンジ「あ、いや……」
アスカ「勝手なもんね。あんたがあたしに何したか忘れたと思ってんの?」
シンジ「そ、その節は本当に……」
アスカ「お世話になりました……って違う!」
アスカ「とにかく、そんなバカな理由でもなし。優しくしてくれりゃ誰とでも寝るほど尻軽くないわよ」
シンジ「別にそういう意味で言ったんじゃないよ!」
アスカ「ふん!」
シンジ「……」
シンジ「あ、ならその、僕が料理が上手いから、とかだったりして!」ハハ
アスカ「んん?」ジト
シンジ「うっ……」
アスカ「あのね、あんたが料理作れるのはそりゃー結構なことだと思うわよ」
アスカ「でも勘違いしないで、腕前は精々『そこそこ』だから」
シンジ「そんなぁ」
アスカ「大体、美味しいもの食べたいだけなら自分で練習するわよ!そうでなくたって、あんたじゃなくてもどっかのシェフにでも取り付けばいいじゃない」
アスカ「……今はいないけど」
シンジ「まあ、ごもっともです」
アスカ「ったく、これだからあんたといると」ハァ
シンジ「しゅん」
アスカ「……」
アスカ「ねえ、そんな理由で嬉しい?」
シンジ「え?」
アスカ「だから、かっこいいとか、優しいとか、料理が上手いとか、そんな記号みたいな代わりの効く理由であんたは嬉しいわけ?」
シンジ「それは……何も無いよりは、嬉しいけど」
アスカ「何かあるから一緒にいんでしょ!」
シンジ「なに怒ってんだよ」
アスカ「怒ってなーい!よく考えろって言ってんのよ」
アスカ「かっこよくもない、優しくもない、料理の腕もそこそこの奴とわざわざ一緒にいる理由、本気で分かんないの!」
シンジ「え……」
シンジ(そんな人を好きになったりするものかなぁ……)
シンジ(……あれ?ってことは)
シンジ「……あ」
アスカ「……」
シンジ「あ、あの、分かった……かも」
アスカ「……今頃気づいても遅いっての」
シンジ「でも、本当にそうかな……なんか自信ないや」
アスカ「あんたの自信と何の関係もないんだけど」
シンジ「うん、その……そうだけど」
シンジ「あの、だから確認したいんだけど!」
シンジ「も、もしかしてさ……」
バレンタインデー:世界各地における、様々な愛の誓いの日とされる。日本ではお菓子業界の一大販促イベントでもある。
三月
アスカ「やっと少し暖かくなってきたわね」
シンジ「春の足音って感じかな」
アスカ「その足音に乗っかるにしては随分面妖な飾りつけね」
シンジ「毒づかないでよ。今日は日本の女の子の間で一番人気の日なんだから」
アスカ「ヒナマツリ、だったかしら」
シンジ「うん。こうして雛人形を並べてさ、ほら、アスカもなんか思うところないの?」
アスカ「別に。あたし人形とかそんなに好きじゃないから」
シンジ「へー、女の子なのに変なの」
アスカ「この歳になって人形遊びもないわよ」
シンジ「本当に窮屈な生き方してるなぁ」
アスカ「お生憎様、窮屈なくらいが一番快適なの。で、この偉そうな顔をしてるのが?」
シンジ「うん、お雛様。隣がお内裏様で、その下に三人官女と五人囃子で、一番下が大臣と仕丁かなかな」
アスカ「賑やかなのね。人形の方があたし達より楽しそうだなんて、なんか癪だわ」
シンジ「そりゃそうさ、お祭りだからね。で、はい」
アスカ「ん、なにこれ?」
シンジ「ひなあられ。お菓子だよ、食べてみな」
アスカ「毎度毎度、よくこんなの見つけてくるわねぇ」ポリ
アスカ「あら、美味しいじゃない」
シンジ「甘酒と菱餅もあるから好きに食べてよ」ムシャ
アスカ「へぇー、ヒナマツリって美味しいイベントなのね!」
シンジ「美味しいのはそうだけどさ、せっかく苦労して並べたんだからお雛様も見てよ」
アスカ「だってこんな大げさなの並べたって、狭い部屋が余計狭く見えるだけじゃない」
シンジ「うわー、無感動」
アスカ「あんたに言われたかないわよ!」
アスカ「ま、お雛様ってんならさ、例えるなら当然あたしが一番上のお雛様で、あんたはそうねぇ……」
アスカ「うん、まあ仕丁ってとこね」
シンジ「ひ、ひどい、せめて五人囃子に……」
シンジ「というか、そんなこと聞いてないよ」
アスカ「フフ、せいぜいしっかりあたしに仕えなさいよ!」
シンジ「ぼ、僕は本当にこのままで良いのだろうか?」
ひな祭り:子供の成長を祝う五節句の一つで、中でも主に女の子の為の行事。幸せな結婚が出来るようにという願いも込められている。
四月
シンジ「去年の四月は、はじめて桜を見たよね」
アスカ「もう一年……かぁ」
ザザー……
シンジ「あれから何度もここに来てるのに」
シンジ「今日も誰もいないね」
アスカ「……」
アスカ「ね、折角だし今日はここで少しゆっくりしない?」
シンジ「え?いいけど……どうしたの?」
アスカ「何となく、腰を下ろしたくなっちゃった」
シンジ「そう。なら別いいんだけどさ」
アスカ「……」
アスカ「ねえ、海は赤くても青くても、どこまでも広がってる。それって変わらないものだと思う?」
シンジ「どういう意味、かな?」
アスカ「……あたし達に見えてる世界って、結構ちっぽけなんだなぁってちょっとね」
シンジ「?」
アスカ「だから!もう自分に嘘ついて生きる必要もないし、どうせだから言うけど。ほら、この一年さ」
アスカ「色々あんたが教えてくれたじゃない。桜もそうだけど、他にもね」
シンジ「ああ、うん。そうだね」
アスカ「あたしはね、小さい頃からずっとエヴァに乗ることしか知らなかったし、それしかなかった」
アスカ「だから世界もちっぽけで、あんなに色々な生き方があるなんてことも知らなかった」
アスカ「それをあんたが教えてくれたのよ。だから、その……」
シンジ「楽しかった?」
アスカ「……まあ端的に言えばそうかもね」
シンジ「なら良いんだ。そのためにやってきたんだから」
アスカ「だから、そういうのもうやめなさいっての」
シンジ「……」
アスカ「あたしに引け目感じてるんでしょ」
シンジ「別にそういうわけじゃないけど」
アスカ「そういうわけよ!ほら、深呼吸して」
シンジ「え?」
アスカ「息を吸って吐くのよ!それくらい一人で出来るでしょ」
シンジ「う、うん」
シンジ「すー」
シンジ「はぁー」
アスカ「どうよ?」
シンジ「……」
シンジ「なんか、胸が透き通った感じかな」
アスカ「あんたが考えてた事の馬鹿らしさ、わかった?」
シンジ「馬鹿らしかったかな……」
シンジ「でも、なんかすっごい小さなことだったような気がする」
アスカ「でしょ?どうせちっぽけなのよ、あたし達は」
アスカ「ちっぽけで、いてもいなくても変わらないの」
シンジ「そう……かもね」
シンジ「僕がいなくてもいいんだ。でも、いてもいいんだ」
シンジ「それに、アスカがいてもいいし、いなくてもいい」
シンジ「でも、いてもいなくてもいいなら、僕もアスカもここにいて欲しいな」
アスカ「そう。だから、今この瞬間がさいっこーにラッキーなのよ!」
シンジ「はは、確かにね」
アスカ「それが分かった時、戻ってくるわよ。きっとね」
シンジ「……うん。そうだね」
シンジ「僕らだけで生きるにはここはちょっと勿体ないくらいだしね」
アスカ「それにちょっと広すぎる気がするわ」
シンジ「なら僕らでその分楽しめばいいかな」
アスカ「そんなのは当たり前の話。じゃなきゃ損じゃない!」
シンジ「だね。あーあ、なんかやる気出てきちゃった」
アスカ「なら、そろそろ行く?誰かさんも元気出てきたみたいだし」
シンジ「どうせだし、もう少しだけいようよ」
アスカ「ん。次は海、いつ来るの?」
シンジ「……いや」
シンジ「もう来ないよ、これで最後」
アスカ「ふーん、いいんだ」
シンジ「いいよ。僕達が来たって多分何も変わらないもの」
アスカ「無感傷なのねぇ」
シンジ「そうかな?それよりもさ、明日のこととか考えないと」
アスカ「まあそうね。ずっとここで生きていくんだもんね」
シンジ「うん。来年も再来年も、ね」
アスカ「せいぜい頑張りましょ」
シンジ「あ、ほら見てよ!そろそろ水平線に夕日が沈んで行くよ」
アスカ「沈む夕日って、何だかいつもより大きく見えるわね」
シンジ「幻想的でいいじゃない」
アスカ「さながら、世界の終わりって感じ」
シンジ「……」
シンジ「アスカ」
アスカ「なに」
シンジ「ずっと見てようか、夕日」
アスカ「嫌だったら勝手に帰るわよ」
シンジ「うん、そう言うと思った」
みどりの日:国民の祝日の一つ。祝日法によると、「自然に親しみ、その恩恵に感謝しながら豊かな心を育むこと」を趣旨としている。
終劇
乙、良かった!
でも、雛壇の最上段は「男雛」と「女雛」ね。
「お内裏様とお雛様」ってのは、内裏雛(男雛と女雛のみの雛飾り。江戸時代ごろに始まった)を作詞家が勘違いした物。
段飾りの場合、一対揃って「内裏」と呼ぶのが正解。
男雛と女雛は通常天皇と皇后を表し、その住居となる場所を「内裏」と呼んだことからその名が付いたのよ。
>>69
そうなんだ、ありがとう
2人がそこまでは知らなかったということにしておいてください
そういや旧劇の海って最後青だっけ赤だっけ?
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