朱然が病に倒れた。
その言葉を聞いたとたん、私は頭の中が一気に真っ白になった。
今すぐにでも見舞いに向かいたかったが、呉帝として都を離れるわけにはいかない。
思わず己の身分を呪いたくなったが、孫呉の皇帝として取り乱すわけにもいかず、毅然とした態度で伝令と使者に命を下した。
「すぐに薬と酒を手配する。それを朱然の屋敷まで送ってくれ」
「承知致しました!」
支度のため玉座の間を後にする伝令たちに次いで、私も薬の準備に取りかかかる。
「もしも朱然が死んでしまったら……」想像するのも恐ろしいことばかりが脳裏をよぎっては、私の心をかき乱した。
来る日も来る日も私は朱然に使者を送った。薬はもちろん、朱然の大好きだった果実酒も袋に詰め込んで。
直接顔を見に行くこともできず、私は悔しさのあまりきつく唇を噛んだ。じわりと血の味がした。
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朱然が病に伏せてからどれくらい経っただろう。
そう考えると軍議にも全く集中できなかった。
「孫権様、朱然殿のことですか?」その姿を見かねた練師が優しく声をかけてきた。
「ああ……」私は力ない声で答えた。
「会いに行ってください」と練師が勧めてくる。
「しかし、私は……」
「留守は私たちが守りますから」にっこりと笑って練師は言った。
「練師、皆……すまない!」
私は荷物を抱え、急いで朱然の屋敷へと向かった。
(無事でいてくれ……!)
その想いだけを胸に、ひたすらに馬を走らせた。
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神様は残酷なものだ。
着いたころにはもう、朱然は危篤状態になっていた。
寝台に駆け寄り、私は朱然の手を固く握った。
「孫権……様……来て……くださったんですね……」
以前のはつらつとした様子とはうって変わり、か細く弱った声で、絞り出すように朱然は喋った。
「すみません……ご心配をおかけして……ごほっ!ごほっ!」
「もう、喋るな……!」
「大丈夫です……」
朱然は震えながら私の手を握り返してくれた。元からしなやかで細めの手指が、更に痩せ細って骨ばっている。
「すまない、ずっと会いに来れなくて……」
「謝らないでください……嬉しかったです、果実酒……昔、孫権様と桃の木の下で、飲み交わしたのを……思い出します」
「そうだな……」
朱然の手を擦りながら私は頷き、過去の記憶に想いを馳せた。
「でも、孫権様……お酒は程々にしてくださいね……」
病人にまで酒癖の悪さを指摘されるとは、私も情けないな……。
「……孫権様」
「なんだ?」
「孫呉の……未来を……」
言葉はそこで途切れた。
朱然は息を引き取った。
握っていた力を弱めると、朱然の手はするすると私の手をすり抜け、寝具の上へと落ちていった。
「朱然!朱然ーっ!!」
私は彼の名を何度も叫んだ。
異変に気付いた医者たちが次々と部屋の中へと入ってくる。
「孫権様!朱然様がどうかなされましたか」
「朱然が……死んでしまった」
私は項垂れて皆の顔も見ずに返答した。
「しばらく一人にしてほしい」
とても他人と顔を合わせられる状況ではなかった私は、半ば追い出すように皆に告げた。
医者たちは察したのか、何も言わずに部屋から出ていく。
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部屋には私とすでに息絶えた朱然だけになった。
そっと頬に触れてみる。まだ死後硬直が始まっていないのか、生温かい。眠っているかのように穏やかで美しい死に顔だ。
少しはだけた着物の合わせ目に目をやると、浮き出た鎖骨と艶かしいほどに真っ白な肌が覗いていた。
そして、信じたくないがそれに興奮している自分がいる。
気がつくと、無意識に死体の上に馬乗りになっていた。二人分の重みに、寝台がぎしぎしと軋む。
腰紐をするすると解き、上衣を、下裳をも手際よく脱がせていく。
朱然の裸体を目の前にして、私は衝動を抑え切れず、胸の尖りにむしゃぶりついた。
ちゅ、ちゅっ、とわざと音を立てて啄むように吸い付いたり、指で摘まんで弾いてみたりを繰り返す。
後孔も入念にほぐしていき、指が三本入ったところで引き抜いた。
はきちれんばかりに勃起した陰茎を小さな孔に埋め込んでいく。
「はぁっ……さすがにきついな……」
根元まで挿入したところでひとつ深呼吸をして、ゆっくりと腰を動かしていく。
中はまだぬるく、先走り液でなんとか抜き挿しできるほどだった。
ぱん、ぱんっ、と肌を打ち付ける音、ぐちゅぐちゅと中が掻き回される音とが室内に響く。
「朱然……!ああっ、朱然……!い、いく……!」
名を呼びながら、私は朱然の後孔へと熱い精液を放った。
ひとしきり犯した後は、虚しさだけが残る。
当然、行為中に朱然が喘いだり身を捩らせることもなかった。
私はようやく朱然が死んだと身に染みて感じたのだ。
ただ、涙だけが止めどなく流れ続けた。
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炎に包まれ焼かれていく朱然の遺体を、ただ、ぼうっと眺める。
火葬が終わると、私は人目を盗み、灰の中から朱然の骨をひとつ取りだし、がりっと噛んで食べた。
朱然の魂と私の魂がひとつになる。
「これでいつまでも一緒だな、朱然……」
ここまでです
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