【艦これ】うゆりひの飛龍 (114)





ゆらゆら。ふわふわ。

真っ直ぐなはずの水平線が、そうやって揺れている。



今でも忘れない、あのときの蒼龍が流した涙と叫び。

でもね、頭がね。

もうなにも考えられなくなっていくの。



ごめんね。

私、今から還るわ。






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なにかがそこまでやってきた

大きな影にはためくお日様。

お尻の“うゆりひ”。

そか、これがさいごの景色なんだ。




みんな、さようなら。










うゆりひの飛龍










キュコンキュコン

それはとても悲壮で、美しい音でした。



目覚めた私は帆布の寝台に寝かされ、身体には毛布が掛けられていました。

眼前の天井には鉄骨やダクトなんかが複雑に張り巡らされていて、
私の周りには無機質で、かつ複雑な空間が広がっています。

どうやらここは……どこかの部屋のようです。


すごく、びっくりした。
胸がドキドキしている。



私は、生きているんだ。








飛龍「う、いったた……」


身体を揺り起こそうとすると、海面に叩きつけられた時のものでしょうか。
あばら回りに、痛みがじんわりと広がりました。


飛龍「でも……いったいどうして……?」


まだ、頭がはっきりしません。

私はどうして生きてるの?
ここはどこなんですか?


答えてくれる人は今、私の周りにはいないようです。








キュコンキュコン

さっきから聞こえるこの音はなんだろう?
なにかの軋む音みたい。


少し高い所に丸い、窓らしいものが見える……。
でもその壁はなぜか斜めに傾いていて、今の怪我で張り付いて外を見るのはとても難しい状態でした。

仕方なく、じんじんと痛むあばらを抑えて、私はひとまず部屋を出ました。


キュコンキュコン

通路のような狭い場所に出ましたが、この音が消えることはありません。
どうやらこの部屋をはじめ、ここの建物全体が金属でできているようです。
これは、そんな音でした。


そして、ここに来て私は、あることに気付きました。

床が、揺れているんです。








歩いてすぐのところで、私は行き止まりにあたってしまいました。
そしてその壁には、上階へと続くはしごが一本。

上は開いていて、そこから僅かに冷たい風が入ってきます。
もう……選択の余地なんてありません。


飛龍「い、痛っ……!」


痛みに耐え、ゆっくりとその梯子を登ります。



飛龍「はぁ……はぁ……!」

飛龍「あと少し……もう……ちょい……!」








飛龍「あ……あ……」


そこに立って、私は全てを思い出しました。


ここは、陸なんかじゃありません。


眼前には大きな旭日旗がはためき、その向こうにはどこまでも続く大海原が広がっています。
“ここ”を飲み込もうとする荒い波が強くうねって、それに負けじと“ここ”は水平に戻ろうとする。


そして、空から“ここ”に向かって、いくつかの影が降りてくるのが見えました。

長い翼を広げ、雄々しく降り立とうとするその姿――――


私には、見覚えがありました。








大きな日の丸に、尾翼付け根の青ラインが一筋
尾翼には、三本の黄色のライン……そして、こう書かれていました。


BⅠ-310


間違いありません。

2014年8月に北太平洋を彷徨っていたはずの私「飛龍」は。


大日本帝国海軍航空母艦「飛龍」の船上にいたのです。




一旦はなれます

今回も長くなりそうです、すみません




………………
…………
……


「さぁ、掛けなさい」

飛龍「は、はい……っ」



あの後、私は艦尾の見張り台に立っていた男性に見つかってしまった。
状況が状況のため、無理矢理拘束されることも覚悟しましたが、結果から言えばそんなことはありませんでした。

丁重に艦内を誘導してもらい、私はある一室へ案内されました。



先ほど目を覚ました部屋とはうってかわり、そこは狭いながらも赤じゅうたんが敷かれ、
革張りのソファと一人掛けの椅子、そして丸テーブルの置かれた比較的居住性の良いところでした。

部屋には、穏やかな顔をした中年の黒服男性が立っています。
その姿は、私達の提督が作戦時に身に着けているものと同じ格好でした。


彼は、私にソファへ腰をかけるよう促しました。








飛龍「あ、あのっ」

「ん?どうしたのだね」

飛龍「……助けて頂いて、ありがとうございました」



さっき艦尾に立った瞬間、私は今までに起こったこと全てを思い出しました。

その記憶に従い、感謝の気持ちを深々と頭を下げて伝えます。



「礼などいい」

「それより自己紹介がまだだった……」

山口「私はこの艦の、山口という者だ」

飛龍「!」



飛龍の山口……そう聞いて、私は理解した。

この人があの「多聞丸」なのだと。








山口「……では、あなたの名もお聞きしておきたい」

飛龍「わ、私は……」

飛龍「私は、ゆう子と申します!」



もちろん、ゆう子なんて名前は出まかせでした。

「飛龍」に乗っている私の名前が「飛龍」だなんて、どう考えても混乱を招いてしまいますし、
そして何より今後……私の身柄がどうなってしまうのか、その時は予想も付かなかったからです。



山口「ゆう子さん、か」

山口「私は日本人のあなたが何故、この太平洋をその身ひとつで漂っていたのか」

山口「それを是非ともお聞かせいただきたいが……」

飛龍「っ……」


山口「今は、あなた自身も混乱をされているだろう」

山口「それはまた話せる時で良い」

山口「我々は今、それどころではないからな」








飛龍「あの、質問……良いですか?」

山口「可能な範疇であれば」

飛龍「えっと……」



私はまず、自分が置かれている今の状況を知りたかったのです。

何故、第二次大戦時の空母「飛龍」がこの時代に現れたのか?

そして何故、この人達が今……“生きている”のかを。


それを知るために、私はまず最初に確認しておきたいことから聞くことにしました。



飛龍「今は……何年の何月、何日なんですか?」

山口「……難しい質問だな」

飛龍「へ?」

飛龍(む、難しい?)




すぐ戻りますが、すこし離れますね





山口「……まぁいい」

山口「現在は1942年6月5日」

山口「時刻は……日本時間の午後4時32分だ……」

飛龍「……!」

飛龍「そ、そんな……!」

山口「……一応、な」



彼は最後に何かを呟きましたが、それは私の耳には入りませんでした。

嫌な予感が当たった……!
私は過去にタイムスリップしてしまったんだ……!
やはり、私は死人となってしまった……!


その時の私はそう思い、慌てふためいていたからです。








山口「我々は現在、単艦作戦行動中にある」

山口「あなたを日本へ返すのはそれが完遂されてからだということは、重々ご理解頂きたい」

山口「…………」

飛龍「さ、作戦……」

飛龍(作戦って……まさか)

山口「……それを今、あなたにお伝えすることはできない」



それを聞いて、私はめまいがしました。



山口「……おい」

山口「お疲れの様子だ……部屋に案内して差し上げなさい」

「はっ!」








通路で待機していた男性が、私に室外へ出るよう促しました。

私は何も考えられなくなり、ただただそれに従いました。



山口「こちらの都合もあるが……あなたは今後、“客人”として御もてなしさせていただく」

山口「今彼は席を離れられないが、いずれ艦長の加来止との挨拶の機会も設けよう」

山口「しばらくの間、ご不便をおかけするが……よろしく頼む」

飛龍「……はい……」



……
…………
………………







案内されたのは、第10兵員室と呼ばれた部屋でした。

とはいっても、私の目覚めたあの部屋と、中の様子はさほど変わりはありません。


それよりも気になったのは、先ほどの多門丸といい案内人といい……
すれ違った皆が皆、どこか表情に暗い影を落としているように思えたのです。

作戦中なのだから、当然と言えば当然なのですが……



この時感じた違和感。
私は後に、その理由を知ることとなりました。








更に言えば、私はその時……
この艦から逃げ出す方法を、必死で考えていました。

なぜなら、私自身の前世の姿でもあるこの「飛龍」に降りかかる後の出来事を、私は知っていたからです。

この艦に積まれているランチやカッターなら……いや、大きすぎるわ。
じゃあ、6m通船なら……これも一人じゃだめ。

どうしよう……




コンコンコン

飛龍「!」



そんな時でした。

突然、ドアを3回ノックする音が聞こえたのです。








「いますね?入りますよー」

飛龍「え、ちょっと!?どなたで……」


ガチャ


「おぉすごいなー、本当に女だ」

飛龍「!?」



いきなり入って来たその人は、カーキ色のツナギ型飛行服を着た青年でした。
部屋に入るなり彼はなぜか、私の全身を舐めるように見回しています。


飛龍「……あの」

「いやー、無事でよかった」

「まさか、北太平洋のど真ん中で、日本人が浮いているなんてなぁ」

「俺、ほんとびっくりしましたよ」

飛龍「え、えと……」








飛龍「もしかして、私を助けてくださったのは……」

「助けたというより、見つけたですねー」

「……あっ、そうか」


友永「申し遅れました……自分、友永と言います」

飛龍「!?」


そうです……
彼こそが、飛龍の艦上攻撃機隊隊長「友永丈市」その人だったのです。



飛龍(うわぁ~……!)

飛龍(多聞丸といいこの人といい……まさか)

飛龍(ホンモノに会うことになるなんて~っ)








友永(なんか、おもしろい顔してるなぁ)

友永「えっと……どうしたんです?いきなり、顔をくにゃくにゃさせて……」

飛龍「……はっ」


飛龍「ご、ごめんなさいっ」

飛龍「わ、私……ゆう子と申します……」

友永「へぇ~、ゆう子さんかぁ」

友永「ゆう子さん、ひとつ聞きたいんですけど……いいです?」

飛龍「え……は、はぁ」



一刻も早くこの艦を出たいという気持ちでいた私は少し迷いましたが、
目の前にいる彼は曲がりなりにも命の恩人……

無視をするわけにはいきませんでした。








友永「あなたは一体、どこから来たんです?」

飛龍「え……!」



飄々としていた彼の表情が、突然真剣なものとなりました。
まさか、そんな言葉をこうも早く聞くことになるとは……。


……そう、彼はおそらく気付いていたのです。

私がこの「飛龍」に乗っていること。

そして、私がこの「時代」にいることの違和感に……。








飛龍「……私が何を言っても、驚きませんか?」

友永「えぇ、驚きませんよ」

友永「もう、“慣れ”ましたから」



彼の“慣れ”たという一言が少し引っかかりましたが、私は意を決しました。

今置かれている本当の状況、そして経緯を全て話すことにしたのです。


ただ、私の本当の名と……彼等の最期を除いて。



……
…………
………………







友永「……なるほど」

友永「つまり、あなたは2014年の日本人で」

友永「その深海棲艦という敵と戦って、艤装という装備品が破損して漂流していたところ……」

友永「気が付いたら、この飛龍のベッドの上だった」

友永「そういうことだね」

飛龍「……はい」

飛龍「にわかには信じて頂けないかもしれませんが、本当です」

友永「いや、信じるよ」



友永「そうか、じゃあ俺たちは今……2014年の太平洋にいるのか」

飛龍「…………」



飛龍「…………え?」








友永「ん、よし……分かった」

飛龍「え、いや、ちょっと!」



友永(なるほどな、どうりであの多聞丸が……この子を丁重にもてなしているわけだ)

友永「……今聞いたことは、みんなにはしばらく内緒にしておくよ」

友永「ま、この艦で何か不便があれば俺に言ってくれればいいよ」

友永「できるだけのことはしよう」


友永「そいじゃ、もうすぐ夜間訓練なんでこれで失礼するよ」

飛龍「ち、ちょっと待ってください!私も聞きたいことが――」



ガチャ

バタン








飛龍「今が2014年……ということは」

飛龍「……私がタイムスリップしたわけじゃない……?」




飛龍「じゃあ……」

飛龍「この船は……一体何なの……?」





いくら考えても、その答えを見つけ出すことは……

私にはできませんでした。





少しだけ休憩しまちゅ




………………
…………
……



あれからしばらくの間、兵員室にいるのは私一人となっていました。

時刻が午後8時を回った時のことです。


ここで私は、あることに気が付きました。



飛龍「多聞丸の言っていた今日の日にちって、1942年6月5日だったよね」

飛龍「そして、今は午後の8時……」

飛龍「……うん、やっぱり合わない」








前世の「飛龍」の最期。それを私は、克明に覚えています。


6月5日の午後2時、米空母より飛来した急降下爆撃機24機がこの飛龍を襲ったのです。

そして、その直撃弾がもとで火災が発生した飛龍は、翌6日の午前2時10分に雷撃処分となりました。



私がおかしいと感じたのは、今この「飛龍」が護衛をつけずに何事もなくこの海を航行していること。

そして、先ほど会った友永隊長は……



飛龍「午後5時頃……いるわけがない……よね」








“そうか、じゃあ俺たちは今……2014年の太平洋にいるのか”




さっきの言葉の意味が、少しずつ分かってきたかもしれない。

そう思った刹那……私のいる部屋の外が、急に騒がしくなりました。



カツン!カツン!

「霧だ!霧だぁー!」

「うわぁぁぁぁ!」


飛龍「え!なに、なに!?」



屈強な海の男たちの、悲痛な叫びが耳をつんざいたのです。

驚いた私はあばらの痛みも忘れ、さっきの声のした方へ向かうことにしました。








「霧……またなのか!」

「おいどけッ」

「あぁぁ、もう嫌だぁぁぁ」



そこは士官も新兵も関係なく、あらゆる乗員達が我先にと昇降タラップへ殺到する光景が広がっていました。

私は少しばかりの恐怖を覚えながらも、それに付いて行くことに……



群衆はやがて、だだっ広い飛行甲板にまで上り詰めました。


飛龍「はぁ……!はぁ……!」








「うあぁぁ……あぁぁ……」

「まただ!クソォォ!」

「……ぉぉぉぉ……ぉぉ……」



驚いたことに……飛行甲板の表面は、あまりにもたくさんの人で埋め尽くされていました。

そこには、甲板に拳を打ち付け憤る人。
うな垂れ、ただ泣きさけぶ人。
懐の写真を取り出し、ぶつぶつと呟く人……。


たくさんの男たちが絶望し、膝をつくさまはまさに地獄絵図で、
そんな光景を見た私は、その場で完全に震え上がってしまいました。



そして……彼らの向こうでは、限りなく濃い「霧」が発生していることが分かりました。








友永「やっぱり、今日もだめだったか……」

飛龍「あ……友永さん!」

飛龍「これは一体、どういうことですか!?」

友永「…………」




友永「1942年の6月5日の午前9時」

友永「俺たちの時は……」



友永「ここで止まっているんだよ」








飛龍「時が……止まってる……?」


友永「ずっと……過ごしているんだ」

友永「……こうやってね」



その時……友永隊長の目からは、一筋の涙が流れ落ちていました。




……そうです。

ミッドウェーで多くの僚艦を失い、生き残った空母「飛龍」が米空母の殲滅をはかったその時から……


彼らの“時”は文字通り、完全に止まってしまっていたのです。



……
…………
………………







私はこの「飛龍」に救助されてからというもの、驚くべき出来事が何度もありました。

とりわけ、あの霧が晴れた時の衝撃は今でも忘れられません……



霧が晴れたのは、午後9時ちょうどのこと。

ついさっきまで夜空だった空は、瞬く間に快晴の朝となっていました。


つまり、午後の9時を迎えた段階を以て……

この「飛龍」は、1942年6月5日の午前9時を再び迎えることとなってしまったのです。








正確には2014年……現代の太平洋において、この船だけが午前の9時に決まった海域に現れ、

この船の乗務員すべてが当時のままの姿で過ごしている……そういうことになります。




友永「飛龍に乗艦している間、俺たちはずっと……この日を繰り返してきたんだ」

友永「俺たちの身体も、この船の燃料も、食料も……そして位置も」

友永「この時間を迎えるたび、すべてが元通りとなっていた」


友永「でも、俺たちの記憶だけが……」

友永「これだけが、ゆっくりと時を刻んでいるんだ」

飛龍「……!」








友永「自決をしても、カッターで脱出を図っても……」

友永「すべて、決まった時間に元通りとなる」

友永「それでも、記憶だけがあらゆる出来事を刻んでゆく」

友永「だからこそ……皆辛いんだ」

飛龍「そんな……ひどいよ……!」



彼らの身に起こっている、あまりにも理不尽な事象を理解した私は、情けなくも涙を抑えることができませんでした。

たくさんの味方を失って、その仇を取りに行くこともできない失意のまま、本国に残していった家族のことを想う……。

その時代の陸地に戻ることもできず、死ぬことも許されない。


そんな悲しい時間を、彼らは70年以上も過ごしているのです。








友永「……いや、ひとつだけ」

友永「いつもと違うことがある」

飛龍「違うこと……?」




友永「あなたが、この船にやって来たことだ」

飛龍「!」








友永「……これはあくまで、俺の一個人の考えだけど」

友永「この船に現れたあなたの存在が……何かを変える、一つのきっかけとなる」

友永「……俺には、そう思えて仕方がないんだ」

飛龍「……」

飛龍「私が……きっかけに……」



友永「……俺たちに協力してほしい」

友永「この止まった時から、俺たちが抜け出す術を……ともに探してほしい」

飛龍「……」

友永「お願いだ……!この通りだ……!」




飛龍「……分かりました!」








友永「ほ……本当か!」

飛龍「はい!」

飛龍「命の恩人のお願いとあれば……私も断る理由は何もありません」



飛龍「私なんかにできることが、どれほどあるかは分かりませんが……」

飛龍「このひ……じゃなかった」

飛龍「このゆう子、喜んでお手伝いさせていただきます!」

友永「……ありがとう……!」


友永「……ありがとう……ッ!」



甲板上の人がようやくまばらとなったこの飛龍の上で、私と友永隊長はひとつの約束を交わしました。

燦々と陽の差す午前9時24分……この時から、私は彼らのために働くことを心に決めました。


そしてこの日……友永隊長の上申によって、私は非公式に飛龍乗艦の軍属となったのです……


……
…………
………………



ふたたび休憩タイムです

センセンシャル!





傭人「ホラホラホラ。もっと、包丁固く握ってホラ」

飛龍「は、はいっ!」



それは、私が臨時の軍属となって間もなくのこと……

烹炊室で傭人として働くこととなった私は、1日を通してここに貼り付くことになってしまいました。


鎮守府にいた頃に一通りの料理を学んではいましたが、実際に旧艦艇で使われていた蒸気釜や電気竃(かまど)を使うとなると、
その勝手がまるで違うことに、私は驚きました。


ですがそれ以上に、この飛龍の乗員約1100人分の食事を賄うとなると、私達は常に体を動かさなければなりません。

私にとっての問題はそこで、友永隊長にこの時間漂流から抜け出すための手がかりを探すと約束をしたにも関わらず、
あまりの時間の無さが、なかなかそれを許してはくれませんでした。








主計兵「よし20分だ、次の馬鈴薯放り込んじまってくれ」

飛龍「はい!」


そう言って、私はあらかじめ調菜された大量のジャガイモを蒸気釜に放り込みます。
先に加熱されている牛肉から出たスープが釜の縁で泡となって、それが中でころころと動いている。
疲れからか、そんな様を私は5秒ほどじっと見つめていました。


飛龍「……おいしそー……」

主計将校「おい、休んでいる場合やないで新米!」

飛龍「ひゃっ、すみません!」



そういえば昼にも、麦飯を炊くための蒸気釜のバルブを開け忘れて怒られてしまいましたね……。
いけませんね、精進しないと!



……
…………
………………







飛龍「はい、どうぞ!」

食卓番「ありがとうございます……」


アルミニウムの兵食用配食器に入れられた14人分の白米とスイトンが、食卓番によって次々と運ばれてゆく。

ここで作られた料理は、各区画に運ばれてそこでさらに分けられるそうです。



飛龍「ふぅ……これで、全部かぁ……」

主計兵「お疲れさん」

主計兵「姉ちゃん初めてなのに、よく頑張るなぁ」

飛龍「えへへ、私はこの船に命を救われてますからね」

飛龍「それに、一宿一飯の恩だと思えばこんなの!」

主計兵「あはは、一宿一飯じゃこの仕事量は割に合わんなぁ」








飛龍「それにしても、主計科の皆さんはなんというか……」

飛龍「失礼な言い方ですけど、ほかの乗員さんのような暗さは感じませんね」

主計兵「あぁ……なるほど、それは確かにそうかもな」

主計兵「それは多分……日々の変化を、自分たちの手で付けられるからマシってだけだろう」

飛龍「……どういうことですか?」



主計兵「こう何十年もずっとこんな閉鎖状態が続いてると、人間ってのはいつか限界が来るのさ」

主計兵「実際に死ぬことはなくても記憶はそのままだから、精神をやられちまった奴も結構いるんだ」

飛龍「うぅ……」

主計兵「そうなるのを少しでも遅くするなら、何かしらの方法で皆の士気を上げなくちゃいけない」

主計兵「……となると、一番手っ取り早いのがやっぱり“飯”だよな」








主計兵「ここの献立ってのは本来、軍医のアドバイスの下で組み立てられるものだったんだが……」

主計兵「たかだか一日12時間ですべてが元に戻ってしまうんだ」

主計兵「だから、健康もくそもねーよってんで、兵食の献立もいつしか自由に組めるようになったんだ」

主計兵「ここの食材は“あの時間”に決まって元通りになるから、兵站に困ることはまずないしな」

飛龍「あ、確かにっ」



主計兵「……とはいえ、今日のスイトンじゃあ若い連中はちと満足しないだろうな」

飛龍「そうなんですか?とても美味しそうだったのに……」

主計兵「俺たちが美味い飯を食わせすぎたせいて、若い連中も舌が肥えちまったんだよ」

飛龍「あはは……なるほどです」








主計兵「お、もうすぐ5時だな」

主計兵「半になったら飯の時間だから、支度しとけよ」

飛龍「はい、分かりました!」



飛龍(それにしても……)

飛龍(この船が時間漂流をしてる原因って、一体なんなんだろう……?)

飛龍(それが分からないことには、限られた時間で行動に出るのは難しいな……)


飛龍(蒼龍、私……)

飛龍(……どうしたらいいんだろう?)


……
…………
………………



そろそろ寝ることにします。

この話はある程度長くなると思うので、合間にまた短編を挟むかもしれません。

ひとまずここまで読んでくださった方、ありがとうございます。おやすみなさい。





飛龍「う、どうしよう……」


午後8時30分、私は割り当てられた自室を目指していましたが、
未だに艦内のしくみに慣れないこともあり、うっかり迷ってしまいました。

いくら前世とはいえ……飛龍の中のことまでは、私自身知る由もなかったのです。


後で分かったことですが、私の第10兵員室は艦載機格納庫のすぐ下階にあったそうで、
私はその格納庫内に入り込んでしまったようです。








飛龍「……あっ、友永さん!」

友永「ん?おぉ、あなたか……」



彼は格納庫の隅で一人、ブリキの煙草盆のそばで隠れ煙草をふかしていました。

その傍らには彼の乗機と思わしき、黄帯付きの「九七式艦上攻撃機」が斜め後ろを向いて佇んでいます。
ミッドウェーで艦載機の数を大きく減らした「飛龍」の格納庫には、ゆとりがありました。


友永「どうだ、あなたも一服するかい」

飛龍「いえ……私は吸いませんので……」

友永「む、そっかぁ」


友永「……2014年になっても、煙草を嗜む女性は未だ少ないということだな」

飛龍「そういうことですね」








飛龍「友永隊長は……」

友永「あぁ、友永でいいよ」

飛龍「は、はいっ」



飛龍「友永さん、今夜は……甲板には行かれないのですか?」

友永「……うん」

友永「自ら動かない事には何も変わらないんだって、昨日気付いたからね」

友永「だから、決心がついたのさ」

友永「あうあう泣いてる暇があったら、こうやって煙草をふかして考え事をする方がよっぽど生産的だしね」

飛龍「そう……ですか」








飛龍「友永さん……今日も訓練を?」

友永「あぁ、もちろん」

友永「もし……俺たちが“帰れた”としても」

友永「目の前に突然米空母が現れた……なんてことになったら、すぐにでも飛ばなくてはならないしね」



友永「敵の姿が見えなくなってから、約70年……」

友永「この訓練が一体誰と戦うためなのか、時折忘れそうになる」

友永「それでも俺たちは、欠かさず訓練を行い続けているよ」

友永「あのヨークタウンを沈める……そんな瞬間を夢見てね」

飛龍「…………」


……
…………
………………



早いですが、仕事逝きます

すみません

うわぁぁぁぁぁ
>>42で友永さんって言ってるぅぅ

>>42は友永隊長に置き換えて頂けると幸いです……センセンシャル!

>>62でも友永さん言ってる……疲れてんだな僕(白目)

もう>>63の最初のやりとりをなかったことにします、ほんとすみません





飛龍「友永さん、今夜は……甲板には行かれないのですか?」

友永「……うん」

友永「自ら動かない事には何も変わらないんだって、昨日気付いたからね」

友永「だから、決心がついたのさ」

友永「あうあう泣いてる暇があったら、こうやって煙草をふかして考え事をする方がよっぽど生産的だしね」

飛龍「そう……ですか」







次のお昼のこと……私は多聞丸に呼ばれ、先日(?)の艦長室に足を運んでいました。
多聞丸の計らいで、共に食事をする機会をいただけることとなったのです。



飛龍(傭人に従事してる時でも、こうやって呼ばれることもあるんだ……)

飛龍(昨日……といっても4時間ほど前のことだけど、早速会う機会が巡ってくるなんてね)


飛龍(今さらだけど、なんかスパイみたいで気が引けるなぁ……)

飛龍(いやいやっ、ここでしっかり情報を集めないと!)

飛龍(そうじゃないと、いつまで経っても何も変わらないんだから!)



そう頭の中で一人問答していると、いつしか「室憩休長艦」とプレートに書かれた部屋の前までやってきていました。

……そんな時です。
中から、二人の男の会話が聞こえてきたのです。



「航路は――――」

「そうだ――――」








私は4時間前に、友永さんからある頼みを受けてここまでやってきています。
それは、この艦の上層でしか知り得ない情報を多門丸から聞き出すことでした。


飛龍(多門丸の声も聞こえるね……もう一人は誰かな?)

飛龍(こっそり聞いてみよう……)




「まだ、ご意志を曲げるつもりはございませんか」

「あぁ」

「……士官も兵も、皆消耗しきっております」

「このままでは元の時代に戻れたところで、米空母の殲滅を遂行できるだけの士気を保持することはできません」

「司令……私は何度でも申し上げますが」




「本艦は、ヨークタウンの追撃を再開すべきです」








飛龍「!?」


「……ならん」

「何故なのです!?我々がこの撤退の航路をとって、既にどれほどの時が流れたか……!」

「そもそも、この未知の現象に突入したことも……」

「すべて、司令が撤退の御決断をされてからのことなのですぞ!」



「艦長……敵艦載機収容の機を見て行った第一次波撃隊の爆撃でさえ」

「小林隊長をはじめとした多くの優秀な搭乗員を失う結果となったことは貴官も知っているな?」

「それが、大した成果に繋がっていないことも」

「……えぇ」








「我が国がこの戦争に勝つには、今後も優秀な航空戦力……そして優秀な搭乗員の力は必要不可欠だ」

「敗北不可避のこの海戦で、我が第二航空戦隊をむざむざ壊滅させることは愚策……あの結果を見て判断した」

「……今後も私の考えを曲げるつもりはないよ、艦長」

「っ……!」

「元の世界へ……という言い方も可笑しな話であるが」

「そちらへ戻る方法は、いかようにも考えられよう」




飛龍(飛龍が……撤退?)

飛龍(どういうこと……これじゃ……史実と違うじゃない!?)








「……失礼します」

「あぁ」



ガチャッ


飛龍(ひゃっ!)

加来「…………」


スタスタ……


中から出てきた男性はドア近くにいた私には目もくれず、足早にその場を後にしました。



山口「ん……来ていたか」

飛龍「あ……は、はい!」

山口「今のやり取りを聞いていたか?」

飛龍「い、いえ、何もっ」

山口「……そうか」

山口「まぁいい、入りなさい」


……
…………
………………







山口「どうだ、士官食は……」

飛龍「はい、とても美味しいです」

山口「そうだろうそうだろう」



山盛りの食事を前に多聞丸はそう言って、私に向かってはにかんで見せました。

私が傭人として作っている兵食と士官食の内容はだいぶん異なっていて、
目の前に並んでいるのは伊勢海老の串焼きにセロリのサラダ、マカロニナポリタンにケーキ……。

それまで私がイメージしていた軍艦の食事とはずいぶんかけ離れた、華のあるものでした。



山口「それにしても、君が傭人で働きたいと言ってくれるとはな」

山口「客人として寛いでいてくれれば、それでよかったものを……」

飛龍「いえ、そんな……」

飛龍「皆さんが頑張っていらっしゃるのに、私だけというわけには」








山口「まぁ、その気持ちはこちらも嬉しく思うよ」

山口「君も見ての通り、ここはこんな陰鬱とした男臭いところだ……」

山口「君のような美しい娘が一人でも居てくれれば、乗員達の目の保養にもなるな」

飛龍「う、うつっ……!?」

山口「はっはっは!“でりかしぃ”に欠ける話だったな、すまん!」

飛龍「うぅ~!」


飛龍(あれ、私何しに来たんだっけ……?)

飛龍(……あ、そっか)








豪華な食事と軽いお話を前に、私は本来の目的をあやうく忘れてしまうところでした。



飛龍「あの、山口司令……」

山口「ん?」

飛龍「……この船は、同じ日を何度も繰り返しているのですよね?」

山口「……あぁそうだ」


山口「別に隠すつもりはなかったのだが、その目で直接見てもらう方が理解が早いと思ったのだ」

飛龍「はい……」

山口「だが、ゆう子さん」

山口「この我々にとっての数十年間、本艦へ新たに迎えることのできた人間は……君が初めてだ」

飛龍「……!」








山口「言い方は失礼かもしれないが、君は一見……ただの一人の乙女でしかない」


山口「……だが、戦いに身を投じる人間の目をしている」

飛龍「!」


山口「我々の漂流に関係していることかもしれない」

山口「……はっきり言おう、君の素詳を教えて欲しい」

飛龍「……」



飛龍「私は……」



……
…………
………………







そこで彼に告げたことは、私が最初に友永さんに伝えたことと同じ旨の話でした。



山口「驚いたな、今が2014年……」

山口「いやそれ以上に、こんな生身の少女が戦闘に出ている時代だとは……」

飛龍「……やっぱり、おかしいでしょうか?」

山口「気がふれているとしか思えん……上の連中は何を考えているんだ?」



これにはちゃんとした理由があるのですが、その理由を今……多聞丸に話すわけにはいきませんでした。



山口「…………」

飛龍「……聞かないのですか?」

山口「……あぁ」



山口「私には……この戦争の行く末を知る勇気は……無い」

山口「それは、何も言うな」








山口「私はただ……内地に残した妻と子が」

山口「今後も日本という国で暮らしてゆける……それが分かっただけでも十分だ」


彼はそう言って、懐に閉まってあった写真を私に見せました。


飛龍「……この人が……」

山口「……あぁ、私の妻だ」

山口「また、会いたいな……」

山口「……そのためにも、この連鎖を抜け出してみせる」

山口「そして……生きて、妻と会うのだ……必ずな」

飛龍「っ……」



……
…………
………………



すこしぬけます





友永「なに、撤退?」

飛龍「友永さんは、何かご存じでは……」

友永「いや、俺も初めて聞いたよ」

友永(どういうことだ……?俺たちは二次攻撃に移るよう指示を受けていたはずだが……)

友永「何か引っかかる……調べてみる価値はあるな」

飛龍「えぇ、そうですね」



「貴様ッ!なんださっきの着艦は!」

飛龍「!?」

友永「あーあ、始まったな」








「たるんどるッ!気合を入れ直してくれる!」


バシッ!


あまりに痛そうなその音に、鳥肌が立ってしまったことを……私は今でもよく覚えています。



友永「零戦隊の大野二曹がやられてるなー」

友永「甲板上からここ(格納庫)まで響いてくるなんて、すごいなー」

飛龍(か、軽い……)


飛龍「友永さん、あの声……」

友永「あぁ、みんなに“ヒトゴロシ多聞”と呼ばれてる男だよ」

友永「飛ぶことに関しては、とことん厳しい人だからなぁ……」








友永「でも、あの大野二曹はさっきの訓練で零戦の前輪を折ってるんだ」

友永「常習犯だ、これでもう5000回は越えてるんじゃないかな?」

飛龍「ご、5000回ですか……」

友永「適当な数字だけどね、元通りになるとはいえ……まぁ今回もあいつが悪いよ」



友永「それより、今日は烹炊室には行かなくていいの?」

飛龍「あ、そうだった……そろそろ行かなきゃ!」

友永「ははは、今日も有力な情報をありがとう」

友永「お気を付けてね」

飛龍「はい!」



……
…………
………………







チャプ…


飛龍「あぁ~、生き返るわぁ~」


ここは友永隊長の士官室に隣接した、将校用浴室です。
その時、私はこの船に来て初めてのお風呂を堪能していました。

お風呂に入れる日は限られているので、体臭の気になっていた私には有り難いことでした。


……とは言っても、その洋式浴槽に溜まっているお湯はなんと、海水のまま温められたものだったのです。
身体に付いた塩は、隣に置かれている桶の中の清水で洗い流すのだとか……。


飛龍「うへぇ……」

飛龍「……私も早く日本に帰りたいな……」



飛龍「…………」








一人になった今……

些細なきっかけで、私の抑え込んでいた感情が一気に湧きあがってきてしまいました。



飛龍「みんな今、どうしてるんだろ……」

飛龍「MI作戦は……うまくいったのかな?」


飛龍「提督……赤城さんに加賀さん」

飛龍「……蒼龍……」



飛龍「……みんなに……もう一度会いたいよぉ……」



……
…………
………………



仕事に行きますので、また夜に書きます

ここまで読んでいただいた方、ありがとうございます。

男しかいない空間に飛龍みたいな別嬪さん一人とかアカンわ

>>89
べつ……むこ……?





飛龍「……はっ」


私は急いで涎を拭いて、周囲を見渡しました。
ここは、友永さんの士官室……机に突っ伏していた私。

これが意味することは、ただ一つ。



飛龍「わぁ~!どうしよう!」

飛龍「私、もしかしてここで寝ちゃってたの!?」



同じ時間を繰り返すこの「飛龍」において、睡眠を必要とする人間。
それは、外からやって来た私ただ一人だけでした。



飛龍「い、いまは……午後の3時!」

飛龍「今から炊烹室に向かっても、もうほとんど仕事がないよ……」

飛龍「どうしよ~!また主計将校さんに怒られちゃうよーっ!」








そんな時でした。

机の上に置かれたメモの存在に、私はようやく気付くことができたのです。



飛龍「あれ、いつの間に……」

飛龍「えぇと、これは……友永さんからだ!」

飛龍「なになに……?」


飛龍『上には俺から言伝してある。次の九時を迎えるまでは安心して休んでもらっていい』

飛龍『本当の夜が来ない俺たちにとって、すやすやと眠る君の姿は……』

飛龍『君が外から来た人間なのだと言う、確証と安心をもたらしてくれた』

飛龍『感謝するよ……以上』



飛龍「……よかったぁ~……」








飛龍「ニンゲンたるもの、やっぱり睡眠はとらなきゃだよねっ」


自分自身にそう言い聞かせ、私は勝手に納得していました。


ただ……暇を頂いたとはいえ、いつまでもこの部屋に居座るわけにはいきません。
第10兵員室に戻らなきゃ……。


ブロロロロロ……


そう思った矢先のこと……

軽快なレシプロエンジンの音がすぐ近くに響き渡るとともに、部屋の丸い窓にいくつもの影が映りました。








ブロロロロロロロロロロ……


飛龍「あれは艦攻隊……友永さんの隊だ!」


飛龍の左舷で組まれた編隊の先頭を行く、派手な黄色ラインの九七式艦攻を確認した私は、これがすぐに襲撃運動の訓練だと分かりました。
これは私達の鎮守府でも頻繁に行っているもので、つまるところ実戦を想定した雷撃訓練です。

もっとよく見ておきたい……そう思った私は、急いで航空甲板まで駆け上がりました。




ギィ……


ハッチを開けるとすぐさま北太平洋の海風が吹き込み、私の短く切られた髪をバタバタと舞い上げました。

到着に合わせて息を切らしながら、すでに遠方となった彼らの編隊が先ほどまでの陣形を保っているのを見て、安堵しました。
これから隊長機の合図に合わせて陣形を解散し、単縦陣を作ると所だと思われます。

とはいえ、実物の九七式艦攻を用いた訓練を見るのは私だってもちろん初めてです。
遠方に見えるとはいえ、私達が用いているミニチュアのような艦載機とはやはり迫力が違いました。








飛龍「へぇ~、あの連なった浮きが標的かぁ」

飛龍「工夫されてるなー……あ、もう始まるっ!」


編隊の二番機、三番機と、思い思いの高度と方角に向かって、機が次々と離れて行きます。
ほぼ横並びだった中隊が小隊単位の数となって、やがて陣形は完全にばらけていきました。


飛龍「ほぇ~、完全にバラバラだぁ」

飛龍「確かに実戦的だけど、あれでちゃんと単縦陣ができるのかな……」


そう思いもしましたが、それは完全に杞憂でした。

友永さんの隊長機が三日月のような鋭い弧を描いて標的の浮きの側面を狙ったコースを取り、
バラけていた全ての後続機がまるで一つの意志を持っているかのように、その後ろにトントンと並んで行ったのです。


飛龍「は、早っ!」








その高度は、海面から20mをも下回る低さでしょう。
いつ、波打つ海にプロペラを叩きつけてしまってもおかしくない危険な高度……。

そんな超々低空を疾走する艦攻隊はやがて文字通りの単縦となり、一糸乱れぬ編隊を見事に再構築したのです。


彼らの極まった練度を実感した私は、光惚の表情でそれを見ていたことでしょう。



山口「今日は遅っせぇなぁ」

飛龍「ひぁっ!」


そんな時に傍から突如声がしたため、私は尻もちをついて驚いてしまいました。

山口「おい、大丈夫か?」

飛龍「あはは……すみません、ちょっとびっくりして……」








そんな中、艦攻隊の積んだ魚雷(おそらく模擬魚雷)が次々と投下されてゆきます。 
気が付けば、彼等の編隊は標的のすぐそばまでやってきていました


標的のギリギリで機首を持ち上げ、すべての機が斜め上方へその身を逸らして行ったところで、
標的に当たったと思わしき模擬魚雷が浮かんでくるのが見えました。

その様子を双眼鏡を通して見ていた多聞丸がその時つぶやいた言葉は、今でも記憶に新しいことです。


山口「10機中、命中6……」

飛龍(す、すごい…… )


山口「カスだな」

飛龍「!?」





ここらで仕事に行きます
途中で寝てしまい、申し訳ありません

今夜あたり、一度短編を挟んでお茶を濁しますね
ここまで読んでくださった方、ありがとうございます


お茶濁したら誤魔化したっぽい感じになりますよ

>>103
あっ、そっか(痴呆)
誤用です、申し訳ないです……

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