P「もうPなんてしない」 (26)
・書き溜めのためノンストップでラストまで
・地の文多し
・マッキーの「もう恋なんてしない」が元ネタ
・都合のいいラスト
以上をご了承の上読みすすめてください。
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そういえば今は何時だったかと思い顔を上げると時計は既に20時を指していた。
日が沈み事務所の窓から差し込んできていた赤い光はなくなり代わりに街灯の明かりだけが見えていた、どうやら随分と仕事に集中してしまっていたようだ。
P「おーい、雪歩」
こんな時間まで帰るよう指示を出すのを忘れていた失態を思い出して声をかけるも、それに返ってくる声はない。
そりゃそうだ、この事務所には今俺ひとりしかいないのだから。
P「そうだ、雪歩は一昨日引退したんだった」
俺に与えられた一年という期間。
最初は十分だと思っていた。
しかしそれは、まともにプロデュース経験のない俺にはあまりにも短い時間だった。
なれないプロデュース作業、企画の立案にアイドルのレッスン、やることの多さに俺は当時驚いてばかりだった。
俺のはじめての担当アイドルだった雪歩にはたくさんの苦労をかけてしまっただろう。
雪歩は俺というプロデューサーと、そして一年という短い期間でどうにかDランクアイドルまでは上り詰めた。
しかしそれは、十分とは言い難い成績で俺の出番は終わってしまった。
そして俺がプロデュースする萩原雪歩としてのアイドル活動を終えた雪歩は、そのまま芸能界を去り日常生活へと戻っていった。
P「仕方ない、自分でお茶入れるか」
椅子から立ち上がり背中を伸ばすと給湯室へ向かった。
ヤカンに水を入れて火にかけ、その間に雪歩が持ってきてくれた湯呑を用意して気づく。
P「……あいつ、茶葉どこにしまってたんだ?」
しまったな、いつも完全に雪歩任せだったからお茶っぱの場所がまったくわからない。
とりあえず給湯室の棚の中を探してる間に茶葉が入った筒を見つけた、まだいっぱいに入ってる茶葉はきっとみんなに振舞うために補充したばかりだったのだろう、本当にやるせない気持ちになる。
とにかく急須に茶漉しを乗せて茶葉をいれ、沸いたばかりのお湯を急須に注ぐ。
お茶ってどれくらい蒸らせばいいんだ?
お茶の淹れ方も満足に分からない。
とりあえず適当に湯呑に注いで一口。
P「あっつ……」
そうか、沸騰したお湯で淹れちゃいけないのか、しかも味は渋くてまずい。
雪歩が淹れてくれたお茶がまずかったことなど一度もなかっただけに、本当にまずい。
眠気覚ましにはなるから、これを飲みながら仕事を続けよう。
事務室に戻って作業を再開する。
カタカタと俺がキーボードを叩く音だけが事務所に響く。
それは以前、まだ雪歩がこの事務所に来ていた時も同じだ、この時間にはいつも俺以外誰もいないのだから。
だというのに、どうして今日はこんなにも淋しく感じるのだろう。
事務所が無駄に広くなったようにすら感じる、そんなことはないのに。
作業が手に付かず、内ポケットからタバコとライターを取り出して屋上へ出る。
もう春だというのに夜は相変わらず肌寒いが、それが心地いい。
タバコに火をつけて紫煙を揺らめかせながら夜空を眺める。
あの日も確かこんないい夜空だった、ライブが終わって、そして最後の帰り道を雪歩と一緒に歩いたんだ。
あの時「さよなら」と言った雪歩はどんな気持ちだったのだろう。
不甲斐ない俺への恨みだろうか。
それとも未来へも不安だろうか。
その気持ちを俺に推し量ることはできない。
だが、たとえどんなに恨まれようとも一つだけ絶対に言わないと決めている言葉がある。
たとえそれが強がりであったとしても、俺はプロデューサーをやめるとは絶対に言わない。
雪歩に辛い思いをさせてしまったから、だから俺はプロデューサーを続けるんだ。
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真美「ねぇねぇ兄(c)、この湯呑ずっと置いてあるけど誰も使ってないよね、誰の?」
俺が給湯室でお茶を淹れていると後ろから俺の今の担当アイドルである双海真美が食器棚の一番奥の隅に置かれて埃をかぶっている雪歩の湯呑を指差して訪ねてきた。
P「ん?あぁ、それは俺の昔の担当アイドルのだよ、そういえば片付け忘れてたっけ」
雪歩がこの事務所を去って何年が経っただろうか。
765プロは今や業界きっての大手事務所となり、俺も複数のアイドルを持つ名プロデューサーとなった。
真美「そういえば衣装ルームにも誰も着てない和服とかあったけど、あれも兄(c)の昔の担当アイドルの?」
P「そうそう、事務所移転の時にもそのままこっちに持ってきちゃったんだった」
うっかりのように言っているが、うっかりなどではなくわざとだった。
男らしくないとは思うが、俺にはどうしても処分することができずにいた。
あの頃は毎日わからないにはわからないなりに毎日走り回っていて本当に楽しく充実していた。
雪歩の笑顔には幾度も助けられたし、何度も泣かせてしまった。
気丈に振舞ってはきたがなんともセンチメンタルな男だ。
雪歩が使った道具はどれも処分などしていない。
彼女の抜け殻ばかり集めてあの頃を思い出す、まるでストーカーのようだと思うがそれでも俺は間違いなく幸せだった。
雪歩がアイドル活動をやめてしばらく経っても復活を望むファンレターがたくさん届いていた。
どうして俺はもっと強く雪歩を止めることができなかったのだろう。
いや、止めていたとしてもあの頃の事務所に俺以外のプロデューサーはいなかったのだから止めたところで再び活動などできなかったか。
そういえば雪歩は今頃どうしているだろうか。
男性恐怖症の彼女が無事に過ごせているか心配になるが、俺が心配するだけ無駄だろうか。
雪歩とではたどり着くことができなかったIAやIUの優勝にたどり着いたこともある。
雪歩が聞けば驚くだろうか?
当然か、あの頃の俺は本当に役に立たないプロデューサーだったからな。
もし俺が彼女を担当したのがもっと後だったなら、彼女ともあの頂からの景色を見ることができただろうか。
考えるだけ無駄だろう、時は巻き戻ったりしないのだから。
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本当に、本当に、雪歩のことが好きだった。
プロデューサーとしてじゃなく、ひとりの男としての気持ちだ。
プロデューサーとしてあってはならない気持ちだろう。
それでも、だからこそ。
P「すいません、私こういうものなのですが」
俺はプロデューサーを続ける。
P「私と一緒に、アイドル活動してみませんか?」
それが、彼女のためだから。
雪歩「……はいっ喜んで」
おわり
くぅ疲w
というわけでもう恋なんてしないを使ったアイマスの動画を見ていたら突然思いついてしまったので30分くらいでやっつけで書いたSSでした。
もし少しでも楽しんでもらえたら、嬉しく思います。
マッキーの曲っていいですよね、というわけで他の曲は誰か書いて。
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