橘ありす「子供はまだ知らなくていい、ですって!?」 (179)



※キャラ崩壊

※長い

※いつものネタ

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ガチャ

ありす「おはようございます」

島村卯月「あ、ありすちゃん。おはようございます」

ありす「島村さん、おはようございます」

ありす「……あと、橘です。名前で呼ばないでください」

卯月「あっ、ごめんね……橘ちゃん」

ありす「いえ……」



卯月「あれ? あり……橘ちゃん、今日はオフじゃありませんでした?」

ありす「いえ、その……。母が、ですね……」

ありす「私はまだアイドルになりたてで、芸能界について分からないことも多いですから」

ありす「オフの日でも、事務所に顔を出して――皆さんと交流を持っておけ、と……」

ありす(本当は、みんなともっと仲良くなれるように……って、言われたんだけど……)

卯月「そ、そうなんだ! なんだかすごいなぁ……」

ありす「島村さんも、今日の予定はないようですが?」

卯月「え……! あの、その……」

卯月「い、家にいたら、ママに部屋を片付けろって叱られちゃって……」

ありす「それで事務所に逃げてきたんですか?」

卯月「あ、あはは……」



ありす「もしかして、それでそんなに落ち込んで?」

卯月「えっ……!?」

ありす「あ、いえ……その……すみません」

ありす「ただ、今日の島村さんは少し、雰囲気が暗いように見えたので」

卯月「あはは、もう、やだなーありすちゃん!」

卯月「いくら私でも、そんなことで落ち込んだりはしないよっ! あはは……」

ありす「橘、です」

ありす「……なら、何か他のことが原因ですか?」

卯月「あ、それは……」



ありす「――いえ、すみません」

ありす「そんなこと、私が聞ける筋合いはなかったですね……」

卯月「う、ううん! そんなことないですよ!」

卯月「……じゃあ、ありすちゃんにちょっと聞いてもらおうかな」

卯月「……ママに叱られて、じゃないですけど――家に居辛かったのは本当なんです……」

卯月「一人で部屋にいると、ちょっと色々考えちゃって……」

ありす「色々?」

卯月「はい……」



卯月「ありすちゃん、凛ちゃんと未央ちゃんは知ってますよね?」

ありす「はい。お二人とも島村さんと同じユニットで……プライベートでも仲が良いと聞いていますが」

卯月「うん! 凛ちゃん、未央ちゃんとはよくお話ししたり、お買い物に行ったりして、とっても仲良しなんですっ!」

卯月「なんですけど……」

卯月「……でも最近、たまに分からなくなることがあるんです」

ありす「分からなく……?」

卯月「うん……」

卯月「なんて言うのかな……なんだか最近、二人の話題についていけないことが多いんです……」

卯月「二人が何について話しているのか分からなくって……。私の知らない単語とかが出てきたりして……」



卯月「それでなんだか――私だけ取り残されちゃったような気がして……」

ありす「……ふむ」

ありす「こう言ってはなんですが……ちょっと信じられないですね」

ありす「まだ事務所に入りたての私から見ても、お三方の関係はその……」

ありす「親友、と呼んでも差し支えないものだと思います」

ありす「いつも落ち着いた雰囲気の渋谷さんは、島村さんを置いてきぼりにして盛り上がったりはしないでしょうし――」

ありす「本田さんなどは、むしろそんな島村さんを、積極的に話に巻き込んでいくように思えるのですが……」

卯月「別に二人と喧嘩したとか、そういうわけじゃないんですよ!?」

卯月「でも……」

卯月「でも、だから余計に、いろいろ考えちゃうのかな……」



ありす「……なるほど」

ありす「しかしそれならば、一体何を話題にしているのか、お二人に聞けば良いだけでは?」

卯月「あはは……そうだよね」

卯月「うん……もちろん、聞いてはみたんだけど……」



本田未央『し、しまむーは知らなくていいからっ!』



卯月「って、言われちゃって……」

ありす「そうですか……」

卯月「やっぱり、私が知らないだけで、みんなにとっては当たり前のことなのかな……」

卯月「私――みんなより、遅れてるのかなって……考えちゃって……」



卯月「ご、ごめんね!? こんな話、聞かせちゃって……」

ありす「――いえ」

ありす「私にも、島村さんの気持ち、少し分かります」

卯月「ありすちゃんも……?」

ありす「……はい」

ありす「私もよく言われるんです――」

ありす「『子供はまだ知らなくていい』って……」



ありす「まだ小さいから、子供だから――そう言われて……、言い負かされて、言いくるめられて――」

ありす「大人になったら分かると誤魔化されて――」

ありす「知りたいことが分からない、教えてもらえないということが、たくさんありました……」

卯月「ありすちゃん……」

ありす「大人になったら分かるですって……?」

ありす「しかし大人というのは、数多くの知識を得て、それらを自らのものにしてなるもののはずです!」

ありす「なのに――そんな安易な誤魔化しで真実に蓋をし、知識の探究、物事への理解を阻むなんて……、それこそ大人のすることではありません!!」



卯月「で、でもほら……! ありすちゃんは、タブレット持ってましたよね?」

卯月「誰かから教えてもらえなくても、それで色んなこと、調べられるんじゃありませんか?」

ありす「……確かに、このタブレットは情報収集には役立っています」

ありす「でも、これも万能というわけではないんです……」

卯月「そうなんですか?」

ありす「はい……。これは、母が私に買ってくれたものなんですが――」

ありす「購入の際に、保護者の権限によるフィルターをかけたみたいでして……」

ありす「そのフィルタリングが邪魔をして、検索結果に目的のものが表示されないこともあるんです」

卯月「そ、そうなんですか」



ありす「母は――私が危ないものや、怖いものに触れないように、と言っていましたが……」

ありす「危険なものは、その危険性を理解していなければいつまでも危険なままですし……、怖いものは未知のままでは、いつまでもその恐怖は拭い去れません!」

ありす「これを買い与えてくれた母には感謝していますが――それでも、やはりその点は不満です……」

卯月「そっか……」

卯月「でも、ありすちゃんはすごいです」

ありす「え……?」



ありす「すごい……? 私がですか?」

卯月「はいっ!」

卯月「『知る』ってことに対して、そんなにしっかりとした考えを持っていて、主張を持っていて……」

卯月「その――探究心って言うか、強い意志があるなんて」

卯月「私から見ればありすちゃんは、とっても立派な大人だって思いますよっ!」

ありす「え、そ、そんな……///」

卯月「それに比べて、私は駄目ですね……」

卯月「一応、お姉さんなのに……こうしてうじうじしてるだけで……」

ありす「…………」



ありす「……島村さん」

ありす「もし、良ければ――私と一緒に見つけませんか?」

卯月「え? 見つける……?」

ありす「はい」

ありす「渋谷さんと本田さんが話していたこと――島村さんが分からなかったことが、なんだったのか……」

ありす「その答えを、一緒に見つけてみませんか?」

卯月「え、ええ……!?」



ありす「島村さんは知りたくないんですか? お二人の話題について」

卯月「そ、それは私も、知りたいって思います!」

卯月「そうすれば――また私も、凛ちゃん未央ちゃんと、楽しくおしゃべりできるんじゃないかって……」

卯月「でも、そんな……、ありすちゃんを付き合わせちゃうなんて、悪いですよ……」

卯月「もしかしたら二人が話してたことだって、本当に大したことのない――ちょっとしたことだったのかもしれませんし……」

ありす「島村さん」

ありす「――この場合重要なのは、情報の価値の大小ではなく――それを得ようとする姿勢です」

卯月「姿勢……?」



ありす「今日――インターネットがますます普及し、私たちの周りには情報が溢れています」

ありす「そんな情報化社会において、情報――知識というのは、善悪、損得の判断を下し、自分にとって正しい選択をしていく上での力となります」

ありす「――と同時に、そんな世の中で必要とされるのは、いかに自分の欲しい情報にアクセスするかという、その方法、手腕を自らのものとすることです!」

ありす「与えられるだけの受け身ではなく、積極的に自ら情報収集に奔走し、努力するその意識――」

ありす「そんな貪欲とも言える姿勢こそ、尊重すべき、価値のあるものなんです!!」

卯月「――!!」



ありす「だから、その……」

ありす「すみません……。なんだか一人で熱くなってしまって……」

卯月「……ううん、そんなことないですよ」

卯月「ありがとうございますっ!」

卯月「ありすちゃんとお話しして、なんだか私も元気が出てきました!」

卯月「私の方こそお願いします!」

卯月「ありすちゃん――私と一緒に、まだ知らないことを見つけにいきましょう!」



卯月「――って、ごめんね!? さっきから、ありすちゃんありすちゃんって……」

卯月「ええと……橘、ちゃん……」

ありす「――いえ」

ありす「ありすと――名前で呼んでください」

ありす「だから、その代わりに私も……卯月さんと、呼んでも……」

卯月「……ふふっ!」

卯月「はいっ! よろしくね、ありすちゃん!」

ありす「はい、卯月さん……!」



ありす「では――早速、探究を始めましょう!」

ありす「まずは、卯月さんがお二人の話を聞いていて、分からなかったという部分を聞かせてもらえますか?」

卯月「うんっ!」

卯月「――って言っても、私自身、理解ができてなかったから、うろ覚えなんですけど……」

卯月「確か――」




渋谷凛『うん、ホントに最高だったよ』

凛『さすがに三日もののワイシャツは違うね』

凛『もう連続で五回もイっちゃってさ』

凛『賢者タイムになってる暇もなくてね』

卯月『いっちゃう……? 凛ちゃん、どこかに行ったんですか?』

未央『し、しまむーは知らなくていいからっ!!』




卯月「こんな感じだったかな」

ありす「なるほど」



ありす「意味が分かりませんね、全体的に」

ありす「ただ特に分からないのは――卯月さんも触れている部分、『いっちゃって』と『賢者タイム』ですか……」

卯月「やっぱり、ありすちゃんにも分かりませんか?」

ありす「残念ながら……」

ありす「しかし、いきなりここで判明してしまっても拍子抜けではありますからね」

ありす「調べ甲斐がある、と考えましょう!」

卯月「ありすちゃん、なんだかカッコいいですねっ!」

ありす「そ、そうですか? ふふふ……///」



ありす「コホン……。では、順番に整理していきましょうか」

ありす「まずは、『いっちゃって』というこのワードです」

卯月「『いっちゃって』……。私は、どこかに行くんだと思ってたんだけど……」

ありす「『行っちゃって』、ということですよね」

卯月「あとは、『言う』が当てはるのかな?」

ありす「『言っちゃって』……ですか」

ありす「『行く』と『言う』……。渋谷さんは、どちらの意味で使ったんでしょうか」



卯月「あ、そういえば!」

卯月「ちょっと思い出したんですけど――凛ちゃん、そのやり取りの後にも、何度も『いく』って単語を言っていました!」

ありす「ふむ……では『行く』――英語の『go』として使われたのでしょうか?」

ありす「『五回も行った』……。その前の発言から考えると、どこかに通い詰めているように受け取れますが……」

卯月「うーん。でもこの話は確か、夜に、凛ちゃんの部屋での出来事だったと言ってましたし……」

卯月「そんな時間に、五回もどこに行ったんでしょうか?」

ありす「お手洗い……、しかし『連続で』と言っているあたり、短時間での出来事のようですし……」

卯月「凛ちゃん……お腹壊しちゃったのかな……?」

ありす「だとしても、それを喜々として話しはしないでしょう」



ありす「……あとは、そうですね」

ありす「『逝く』、人が亡くなったことを言う時に使われますが……」

卯月「え、そんな……凛ちゃん……」グスッ

ありす「ちょ、ちょっと!?」

卯月「う、うえぇ……」ジワァ

ありす「泣かないでくださいっ! 渋谷さんの元気な姿なら、卯月さんが見ているでしょう!?」

卯月「りんちゃぁぁん! いやぁー! げんきになっでぇぇー!」ビエー

ありす「正気になってください!!」



卯月「ご、ごめんね……? ありすちゃん」

ありす「いえ……」

ありす「――ではとりあえず、それついては置いておきましょう」

ありす「次はもう一つの方――『賢者タイム』についてです」

卯月「『賢者タイム』……。なんだか聞けば聞くほど、実態が掴めないですね……」

ありす「『賢者』は、賢い人――多くの知識を持ち、物事に精通、あるいは達観したような人物のことですね」

ありす「『タイム』は、英語の『時間』――『time』でいいんでしょうか?」

卯月「そういえば、タイムってハーブがありますよね?」

ありす「賢者タイム。それだと、なんだか危ないクスリみたいなイメージですね……」

卯月「えぇ!? 凛ちゃんはそんなものに手を出していたんですか!?」

ありす「落ち着いてください。あくまで推測――というか、これはただの根拠のない妄想です」

卯月「あ、ごめんなさい……」

ありす「こちらも、私たちの既存の知識では判断しかねますね……」



ありす「では、とりあえずその二つの単語について、ネットで調べてみましょう」

卯月「わぁ、ありすちゃんのタブレット捌きが見れるんですね!」

ありす「いえ、そんな大したことはしませんが……///」

ありす「えーと……まずは『いく』からです……」スッスー

ありす「………………」

卯月「……どうですか?」

ありす「『育』……『生』……『幾』……『畏懼』……」

ありす「『生弓矢』……『幾星霜』……『育ちゃんファンクラブ』……」

ありす「ダメですね。どれを見ても、関連があると思われるものは……」

卯月「あっ! ネットの知恵袋に何かありませんかね?」

ありす「確かに! いいアイデアです!」

卯月「えへへ!」



ありす「では、それで調べてみましょう……」

ありす「――あ、ありました! これはどうでしょう」

卯月「どれですか?」じっ




『いく』って、『行く』以外に使われますか?

CHIEHUKUROU-0607さん

この前、年上の人が『いくー!』ってさけんでいたんですが、どういう意味で使われたのでしょうか?
『行く』や『育』という使われ方ではありませんでした。



ベストアンサーに選ばれた回答

owl wing30さん

翌朝のお父さんかお母さんに聞いてみなさい(ゲス顔)




ありす「…………」

卯月「…………」



卯月「うーん……。具体的なことは書いてませんね」

ありす「これ以外の回答も、同じようなことばかりですし……」

ありす「全く――こういうのはあまりいい気がしませんね!」

ありす「安易に人に頼るなと言いたいのかもしれませんが、それだってこういう書き方はないと思いますっ!」

ありす「からかうならよそへ行ってほしいですね!」

卯月「まあまあ、ありすちゃん……」



卯月「うーん……。具体的なことは書いてませんね」

ありす「これ以外の回答も、同じようなことばかりですし……」

ありす「全く――こういうのはあまりいい気がしませんね!」

ありす「安易に人に頼るなと言いたいのかもしれませんが、それだってこういう書き方はないと思いますっ!」

ありす「からかうならよそへ行ってほしいですね!」

卯月「まあまあ、ありすちゃん……」



ありす「……気を取り直していきましょう」

ありす「次は『賢者タイム』についてです」

ありす「卯月さんも言う通り、これはそもそも日常では耳にすることのない言葉です。なので、何かの専門用語である可能性が高い」

ありす「ならばこちらの方が検索する上では、やりやすいかもしれません」スッスー

卯月「せ、専門用語……」

ありす「検索っと――」

ありす「出ました……が……」

卯月「ヒット数……、一件?」

ありす「恐らく、フィルタリングの影響ですね……」



ありす「とにかく、一件を見てみましょう」

卯月「どんな見出しですか?」



『うはwww育ちゃんシコれ過ぎwww賢者タイムが追いつかないwwww』



卯月・ありす「「………………」」



卯月「『シコれ過ぎ』……?」

ありす「新しい言葉が出てきましたね……」

ありす「どんな内容のページなんでしょうか。タップして……」




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卯月「ありゃ……」

ありす「ぐぬぬ……」



卯月「謎が謎を呼ぶってこのことでしょうか……」

ありす「いえ――ですが、意味は分からなくても、これだって手がかりには違いないです」

ありす「渋谷さんの話と、今の情報を統合してみるに――この三つの単語は関連しているはず……」

卯月「『シコれ過ぎ』……。えーと、『シコ』をやり過ぎたってことでしょうか?」

ありす「『シコる』ことが、何度でもできる、みたいな意味でしょうけど……」

卯月「『シコる』……? うどんのコシの話?」

卯月「それに、『育ちゃん』っていうのは……?」

ありす「ファンクラブがあるようですが、何か関係があるんでしょうか?」



卯月「うーん……、でもちょっと手詰まり、ですかね……?」

ありす「いえ、むしろ本番はここからですよ」

卯月「え、でも……これからどうするんですか?」

ありす「決まっているじゃないですか!」


ありす「聞き込み調査です!」


卯月「!!」

ありす「大体、昔にはネットなんてものありませんでしたからね」

ありす「しかし――それでも先人は情報を収集し、未知を探究し、真実を解明していたんです! 私たちもそれを踏襲しましょう!!」

ありす「情報は足で稼ぐ! 時にはアナログの方が勝ることだってあります!」

卯月「さすがありすちゃん! 私なんだか感動しました!!」

ありす「えへへ……///」



卯月「それじゃあ、早速、聞き込み開始ですね!」

卯月「誰か知っていそうな人……やっぱり、大人の人に聞くのがいいですかね?」

ありす「そうですね。やはり私たちより人生経験豊富で、知識量もあるでしょうし」

卯月「じゃあ……えーと……」

卯月「やっぱり、プロデューサーさんかな? すっごく頼りになりますし――」

ありす「いえ、待ってください」

卯月「へ……?」



ありす「大人の方に聞くというのは賛成ですが……、誰でも良いというわけではありません」

ありす「特に、プロデューサーのような人に聞いても、教えてくれない可能性があります」

卯月「え? でもプロデューサーさん、いつも私たちのために色々してくれて……とっても頼もしいですよ?」

ありす「確かに、プロデューサーがそういった点で信用に足る人物なのは認めますが――」

卯月「ふふっ。ありすちゃんもプロデューサーさんを信頼しているんですね!」

ありす「こ、コホン!!」

ありす「――こと、今回に限っては……その信頼度の高さが、逆に働く公算が高いです」

卯月「どういうことですか?」



ありす「先ほどの私の話とも通じますが――」

ありす「プロデューサーのような、いわゆる『しっかりした大人』こそ――『子供だからまだ知らなくていい』と言うものなんです」

ありす「しっかりした大人としての責任感が邪魔をして、下手なことを子供に教えようとしないのでしょう」

卯月「じゃ、じゃあプロデューサーさんは当てにできないんですか?」

ありす「ええ。プロデューサーも――同じようにしっかりした他の大人も、今回は聞き込みのターゲットとしては不適格です」

卯月「じゃ、じゃあどうすれば……?」

ありす「安心してください。『しっかりした大人』がダメなら、そうではない人を標的とすればいいんです」



ありす「ずばり言えば――今回、私たちが聞き込みのターゲットとするのは『ちょっとだらしない大人』です!」

卯月「ちょっとだらしない……?」

ありす「ええ」

ありす「大人としての知識量は持ちつつも、『しっかりとした大人』が持つ、子供に対する責任感がなかったり、薄い――今回狙うのは、そういう人物です」

ありす「そういう人なら、子供だからなんだと細かいことを気にせずに、情報を提供してくれる可能性が高い!」

卯月「な、なるほど……!」



卯月「でも……うーん……」

卯月「うちの事務所に、そんな『ちょっとだらしない大人』っていますかね?」

卯月「皆さんしっかりしていて、とっても頼りになる人ばかりですけど――」



姫川友紀「かぁー! なんで振れないかなそこでー!」バンバン

友紀「あーん、もう! ビールもおいしくないー!」グビグビ



ありす「いました! ちょっとだらしない大人です!」

卯月「えぇ……」



ありす「おはようございます、姫川さん」

卯月「お、おはようございます!」

友紀「あれ? ありすちゃんに卯月ちゃんじゃん! おはよー!」

ありす「橘――いえ、今はいいです……」

ありす「それより姫川さん、少々お聞きしたいことがありまして……」

友紀「おお、なになに? いいよ、あたしで力になれるならまかせてよー!」

卯月「ホントですか!? じゃ、じゃあ――」



友紀「野球の話でしょ?」



ありす・卯月「「えっ……?」」



友紀「もー聞いてよー! キャッツのこの選手がね――」

ありす「いえ……あの、そうではなく……」

友紀「あ、監督の話? そうそうこの人ね、前まで――」

卯月「え、あの……ええと……」

友紀「今年は球団がさ――」

卯月「えっ……えぇ……」

友紀「で、この人ようやく復帰して――」

ありす「………………」

友紀「それでね、ドラフトで――」

友紀「この時の犠牲フライが――」

友紀「打率がさ――」

友紀「年俸が――」

友紀「リーグで――」

友紀「レーザービーム――」

友紀「サブマリン――」


――――――
――――
――



ありす「……駄目でしたね」

卯月「うぅ……やきゅう……やきう……」グルグル

ありす「まさか、のっけからこちらの話を聞いてくれないとは……」

ありす「何事も理論だけでは立ち行かない、ということでしょうか」

卯月「あ、ありすちゃん……クレメンスってなんでしょうか……」グルグル

ありす「……いえ、卯月さん。知らなくていいとは言いませんが……、しかしそれは今、恐らく関係のないことです」

卯月「そ、そっか……」グルグル



ありす「切り替えて次に行きましょう! トライアンドエラーを繰り返して、人は強くなっていくんです!」

卯月「は、はい!」

ありす「さて、次のターゲットは――」


「さけだーっ! さけもってこーい!!」


ありす「ん? この声は……給湯室から?」

卯月「早苗さん、ですね。なんだか酔っぱらってるみたい……」

ありす「片桐さんですか。ふむ……」



ありす「――丁度いいですね」

卯月「え? ありすちゃん、まさか早苗さんにも聞いてみるんですか!?」

ありす「ええ」

卯月「で、でも……! 早苗さんは元警察官ですし……」

卯月「『しっかりした大人』って言うなら、まさしく該当するんじゃ?」



ありす「確かに、片桐さんなら『しっかりした人』にも『教えてくれない人』にも該当するでしょう」

ありす「しかし、それは平常時の話!」

ありす「今の彼女はどうやら酩酊状態……。ならば、このチャンスを利用しない手はありません!」

卯月「ちゃ、チャンス……?」

ありす「物語などでもよく見るじゃないですか。相手を酒に酔わせて前後不覚にし、必要な情報を聞き出す手口というのは」

ありす「私たちもそれに倣い、片桐さんの責任感や判断力が落ちている間に、色々と聞き出そうという作戦です!」



卯月「で、でも……酔ってる早苗さんって噂じゃすごいらしいし……」

卯月「それに酔っぱらってるから、かえってしっかり受け答えできなんじゃ……?」

ありす「まあ確かに、その可能性もありますが……」

卯月「だったらやっぱり、素面の時に聞いてみた方がいいんじゃないかな?」

卯月「……ちゃんと説明すれば、早苗さんにも分かってもらえません……かね……?」

ありす「……別に私だって、大人を全く信用していないわけではありません」

ありす「もしかしたら――私たちが誠心誠意、本当に知りたいという姿勢を見せれば、片桐さんだって教えてくれるかもしれません」

卯月「じゃ、じゃあ――」

ありす「しかし――同時に、やはり教えてくれないという可能性も十分にあります」

ありす「そして片桐さんがそうであった場合――最悪、教えてくれないだけでなく、私たちはまだ知る必要がないんだと、彼女に説得されてしまう危険性もあります」

卯月「説得?」

ありす「ええ。それで私たち自身が、『別に知らなくてもいい』と意識を変えられてしまったら最後――」

ありす「元の木阿弥、私たちの知識探究の決意が水泡に帰してしまいます。それは現状、最も危惧すべき事態です」

卯月「そ、そっか……」

卯月「確かに――私もママに説得されて『部屋片付けなきゃ』って思わされるようになったら、嫌です!」

ありす「いえ、それはその方が……」

卯月「さすがありすちゃん! 発言がとっても論理的ですね!」

ありす「そ、そうですか? ふふふ……///」



ありす「ただ、その……」

ありす「……どうしても怖いというのなら、無理強いはしません」

ありす「卯月さんは、ここで待っていてください」

卯月「ありすちゃん……」

卯月「――ううん。私も行かせて」

卯月「こんな私でもお姉ちゃんだし――」

卯月「それに、ありすちゃんと一緒なら、何があっても大丈夫な気がするんです!」

ありす「卯月さん……!」

卯月「行きましょう! ありすちゃん!」

ありす「はい! では――」

ガチャ



片桐早苗「さけだぁーー!! さけもってこーーい!!!」ブンブン

早苗「あいちゃーん!? はれーー!? おーーい、あいちゃんどこーー!!」

早苗「かわいいかわいい早苗ちゃんがお呼びだぞーーー!!」

早苗「もーーう! なーにが結婚よー! あたしだってねーー!!」

早苗「あだしだっでーーー!!!」バンバン



ありす・卯月「「うっわ……」」



ありす(い、いました……ちょっとだらしない大人……)ヒソヒソ

卯月(っていうか、荒れてますけど……)ヒソヒソ

ありす(怯んではいけません……! 何もとって食われるわけではないですし……!)ヒソヒソ

ありす(とりあえず……コンタクトを取りましょう……)ヒソヒソ


ありす「お、おはようございます、片桐さん」

卯月「お、おはよございますっ!」

早苗「おろ……?」ピクッ

早苗「はれー? ありすちゃんと卯月ちゃんじゃなーい!」フラフラ

早苗「わぁーい! カワイイ女の子が来てくれたーー」ダキッ

早苗「聞いてよぉ~、二人とも~。あたし、あいちゃんに振られちゃって、傷心なの~」ヒック

早苗「だからー! かわいい二人に慰めてほしーなー!!」ヒック

ありす「さ、酒くさ――もがっ!?」゙

卯月(あ、ありすちゃん! 抑えて! ここは抑えて!)モガモガ

ありす(わ、分かりました……!)

ありす(と、とりあえず……聞き込みを……!)



ありす「あ、あの……片桐さ――」

早苗「『片桐さん』なんて、よそよそしいこと言わないでよ~!」

ありす「……では、早苗さん」

ありす「慰めるのはいいですが、その前にちょっと聞きたいことが」

早苗「んー? なになに~~?」

早苗「いいわよぉ~! なぁーんでも教えてあげるわ~!!」

ありす「じゃあ――」


早苗「『早苗おねーちゃん』って呼んで、可愛くお願いしてくれたらねっ!!」


ありす「――――!!」ピシッ

卯月「あわわわ……」



ありす(お、臆するな! 橘ありす!)

ありす(己が体、精神を投げ捨てる覚悟なら、この修羅場に足を踏み入れた時に決めた筈――!)

ありす(身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ――!)

ありす(たとえ私の肉体、心が砕けようと――その志は折れず、砕けず、突き通すのです――!!)

ありす(そ、それに……)チラッ

卯月「あわわわわ……」

『私から見ればありすちゃんは、とっても立派な大人だって思いますよっ!』

『ありすちゃん、なんだかカッコいいですね!』

『それに、ありすちゃんと一緒なら、何があっても大丈夫な気がするんです!』

ありす「ふっ……」

ありす(いざ――!!)



ありす「さ、早苗おねーちゃん……?」グギギ


ありす「あ、ありすぅ……、分からないことがあるからー……、おねーちゃんに……、教えてほしいのっ……!」グギギギギギ゙


早苗「いやーーん! かわいいーー!!」ギュウウ

早苗「いいわよー! なんでもおねーちゃんが教えてあげちゃうー!!」スリスリ

ありす「わーい! ありすうれしいー!」ギギギ

卯月(ありすちゃん……!)



早苗「んでんで~? かわいいーありすちゃんは何がききたいの~」ヒック

早苗「――あ、卯月ちゃん! お酒ついで~」

卯月「は、はい! 頑張ります!」トクトク

早苗「へへ~、ありがとー」ンクンク

早苗「ぷっはぁー! やっぱ美少女に注いでもらうとおいしー!」

ありす「も、もう! 早苗おねーちゃん! ありすのお話も聞いてほしいなっ!」ギギギギ

卯月(ふふっ。ああいう子供っぽいありすちゃんも可愛いなぁ)

卯月(なぜか目は死んでるけど)

早苗「わかってるわよ~。それで、ありすちゃんはなにがききたいのかな~?」ヒック

早苗「今のおねーさん気分がいいから、なんだって教えちゃうわよ~!!」

ありす「ホントー!? わーい、早苗おねーちゃん大好きー!」ギギギギギギギ

卯月(いつも大人びてるけど……本当はあれが、等身大のありすちゃんなのかもしれないですね!)

卯月(なぜか顔も死んでるけど)



早苗「うーん! ありすちゃんはいい子だね~」ナデナデ

ありす(よ、よし……仕掛けます……!)

ありす「え、ええとねー? あのねー?」

ありす「早苗おねーちゃんは――」



ありす「『いく』と『賢者タイム』と『シコる』って言葉の意味、わかる~?」



早苗「…………」



早苗「……ありすちゃん」

早苗「それ、どこで聞いたの?」

ありす「え……いえ、あの……」

卯月「あ、あの! 私が凛ちゃんから聞いた言葉で……、意味が分からなくて二人で調べてたんですっ!」

早苗「………………」

早苗「……そう」スッ

ありす「あ、あの……早苗、おねーちゃん……?」



早苗「ごめんなさい、二人とも」

早苗「あたし、ちょっと野暮用ができちゃったから、行かなくちゃ」

早苗「ここの片付け――お酒だけ、小さい子が間違って飲まないように、しておいてくれるかな」

早苗「他はあたしが後でやっておくから」

卯月「あ、あの……早苗さん……?」



早苗「それと――ありがとね。こんな酔っ払いの我が儘に付き合ってくれて」

早苗「二人はとても良い子だけど――本当に嫌なら、ちゃんと断れるようにしなきゃダメよ」

早苗「あと、今言ったその言葉のことは忘れなさい」

早苗「じゃあね」

ガチャ


卯月「い、行っちゃいましたね……」

ありす「正直な話――なぜ、あんな人が警察官になれたのかと、不思議だったんですが……」

ありす「物事には、何事にも相応の理由があるんだと……なんだか今、実感しました……」



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


――????――


凛「こんにちは、早苗さん。そんなに急いでどうしたの?」

早苗「あら、凛ちゃん。それは、あなたが一番分かってると思うけど?」

早苗「この前、注意したばかりなのに――また性懲りもなく、Pくんの家に不法侵入してるみたいね?」

凛「不法侵入……? それってあれだよね。窓を割ったり、ピッキングしたりして、勝手に家に押し入るやつ」

凛「でも私はカギを使って、普通にドアからお邪魔してるだけだから、関係ないかな」

早苗「まあ、その辺りの事をここで問答しても仕方なさそうね……」

早苗「ワイシャツの匂いだかなんだか知らないけど――いい加減、あなたの変態行為も見逃せなくなってきたわ」



凛「変態……? その言われ方は心外かな」

凛「私はプロデューサーへの愛ゆえに行動しているだけ……例えそれが偏っていたとしても」

凛「だから強いて言うなら――『偏愛』って言ってほしいな」

早苗「そう、それはごめんなさいね。今度があれば気をつけるわ」

凛「分かってくれてありがとう……。お礼にいいことを教えてあげるよ」



凛「偏愛はあと、五人いる」



五十嵐響子「偏愛2号、五十嵐響子。Pさんの洗濯物の扱いなら大得意です!」

佐々木千枝「偏愛3号、佐々木千枝。脱ぎたてと三日ものの違いが分かる大人です」

緒方智絵里「偏愛4号、緒方智絵里。Pさんのワイシャツは、クローバーよりお守りです」

佐城雪美「偏愛5号、佐城雪美。Pのワイシャツ……Pとの絆……」



佐久間まゆ「偏愛0号、佐久間まゆ。Pさんの全てはまゆのもの。ワイシャツも、その匂いも……」



凛「……さて、早苗さん」

凛「いくら早苗さんでも、この人数を相手にどうするのかな……?」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



卯月「結局、早苗さんからも収穫はなし、ですか……」

卯月「うーん……。ホントに一体、凛ちゃんたちは何について話していたんでしょう……」

ありす「言ってもまだ二人目ですからね」

ありす「まだまだ諦めるには早いです!」



ありす「さて、次の人は――」



佐藤心「今日も元気にスウィーティ~、明日も元気にスウィーティ~」トクトク

心「腰いてえなぁ……、こりゃ明日、ちっとヤベーぞ……」コクコク

心「後で清良ちゃんに湿布もらわないとな……」コクコク



ありす「いました! ちょっとだれている大人ですっ!」

卯月「あ、心さんですねっ!」

ありす「……というかなぜ、この事務所は至る所で昼間から酒盛りが行われているんですか?」



ありす「おはようございます、佐藤さん」

卯月「おはようございます!」

心「おっ、ありすちゃんと卯月ちゃんじゃ~ん! おはよっ☆」

心「あと、はぁとのことは、しゅがーはぁとって呼んでね、ありすちゃん!」

ありす「橘です。橘と呼んでください」

ありす「――では、しゅがー・はぁと・心さん。昼間から飲酒はどうかと思います」

心「タイガー・ジェット・シンみたいに言うなよ☆ あとこれ養命酒だから、勘弁してくれ☆」

卯月「えっ? 延命酒?」

心「薬酒って意味じゃ間違ってないけど、その呼び方はやめろ☆ なんか傷つくから☆」



ありす「それでですね、佐藤さん。少々、お聞きしたいことがあります」

心「お、なになに? スウィーティーなシュガシュガアイドル、はぁとおねーさんのスウィーティーなひ・み・つ――は、お子ちゃまが知るにはまだ早いぞ☆」

ありす「こ、子供扱いしないでください!」

心「えー? でもでも、大人って言うからには……、はぁとみたいな、アダルトボディーじゃないとね~?」

卯月「そうですよねっ! 心さん、ホントに私より一回りも二回りもオーラがあって……。スタイルだって、私よりすごいですよねっ!」

心「純真な卯月ちゃんの言葉が煽りに聞こえてくるあたり、はぁとも結構、汚れちまったかもなぁ……」

卯月「おいくつなんですかっ!?」

心「二重の意味で泣かせにくるのはヤメロ☆」



心「んで? 聞きたいことだっけ? はぁとで良ければどうぞ~」コクコク

ありす「では――」



ありす「『いく』、『賢者タイム』、『シコる』という言葉の意味を、ご存知ないですか?」



心「!?」ブフッ



心「ゴホッ……ゲホッ……」

卯月「し、心さん!? だ、大丈夫ですか!?」サスリサスリ

心「だ、大丈夫だから……。卯月ちゃんサンキュー……」ゴホッ

心「そ、それで……えーと……」

ありす「『いく』、『賢者タイム』、『シコる』の意味を知っていたら、教えてほしいんです」

心「あ、あのね……ありすちゃん……」

ありす「『いく』、『賢者タイム』、『シコる』です」

心「ありすちゃん、ちょっと落ち着て――」

卯月「『いく』、『賢者タイム』、『シコる』について教えてください!」

心「卯月ちゃんも、あの――」

ありす「『いく』! 『賢者タイム』! 『シコる』!」

卯月「『いく』! 『賢者タイム』! 『シコる』!」



ありす・卯月「「『いく』! 『賢者タイム』! 『シコる』!」」



心「マジ落ち着け☆」



心「う、卯月ちゃんも知らないの……?」

卯月「はい……。凛ちゃん、未央ちゃんは知ってて、よく話題にしてるんですけど……」

心「そ、そう……」

卯月「だから私も二人についていけるように、ちゃんと知りたいんですっ!」

卯月「『いく』のこととかっ!」

心「イ、いく……。はぁとは、スパとか行きたーい……」

卯月「『賢者タイム』のこととかっ!」

心「あー……き、気合入れて衣装作った後とか……?」

卯月「『シコる』のこととかっ!」

心「力士さんが、よくやるやつかな~……?」

これには心さんも苦笑い


>>78 心さんが辛酸をなめるんですね~、ふふっ


心「ごめんね~? はぁと、スウィーティーなアイドルだから、ちょっとよく分かんないー☆」

卯月「そ、そうですか……」

心「力になれなくて、本当に――」

ありす「待ってください」

ありす「今のやり取り……少し、おかしくありませんでしたか?」

心「えっ……?」



ありす「『いく』に対して、『スパに行きたい』、『シコる』に対して『力士の四股』を連想するのは分かります」

ありす「しかし――『賢者タイム』に対して『衣装作り』というのは、いささかおかしい……」

ありす「『賢者タイム』という言葉の中で、一見して、裁縫や服飾について関係する単語は見当たりません」

ありす「なのにそれを知らない――初めて聞いたのにも関わらず、なぜ佐藤さんは『衣装作り』という連想ができたんですか?」

心「あ、あの……えーと……」

心「ほ、ほら、『○○タイム』だしっ! 趣味の時間のことかなーって♪」

卯月「なるほどっ! 裁縫が趣味の人の間では、衣装作りのことを『賢者タイム』って言うんですねっ!」

心「いや言わねえよ!? やめろ怒られるだろ☆」

ありす「違うんですか?」

心「そ、その……」ダラダラ



ありす「佐藤さん……やはり、何か知っていますね?」

ありす「これら三つのワードについて心当たりがあるからこそ、先ほどのような連想が可能だった……」

ありす「違いますか!?」

心「ギクッ……」ビクッ

卯月「お願いしますっ! どうしても知りたいんです!」

心「いや……あのね……」ダラダラ

ありす「――『シコる』」

心「あー……こう、なんと言うか……上下に振るんじゃねぇの……?」

卯月「振る……?」

ありす「――『賢者タイム』」

心「よ、よく分からないんじゃね……? 女の子には……」

卯月「……?」

ありす「――『いく』」

心「あの、ええと……」

心「み、美波ちゃんみたいな……カンジ……とか……」

卯月「美波ちゃんみたいな……?」



ありす「……それは、どういう――」

心「あっ、そうだっ!」ガタ

心「ごめんねっ! はぁと、これからちょっとレッスンでした!」

心「いやーんっ! 遅れたら、あのハートを卍固めしてきそうな鬼軍曹顔負けのトレーナーさんに、胃液吐くまで走らされちゃうー☆」

卯月「そ、そうなんですか!? それは大変ですねっ!」

卯月「心さん、付き合ってくださってありがとうございました!」ペコリ

ありす「ふむ……。確かに、ヒントは得られましたしね……」

ありす「お時間を取らせてしまってすみませんでした、佐藤さん」ペコリ

心「だ、大丈夫、気にしないでー……」

心「それじゃあ……」

ガチャ



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


凛「5クンカだよ。5クンカ以内にアンタを倒すと宣言するよ」

響子「本当の『嫁力』というものを教えてあげましょう」

千枝「小さいからって甘く見ないでくださいね。私には既に、あなたの致命的な弱点が見えています」

智絵里「ちょっとはできるみたいですね。クローバーのリミッターを『弐』、いえ『参』まで開放しましょうか……」

雪美「……まさか私が……出ることになるなんて……。褒めて……あげる……」

まゆ「Pさんを諦めるということも、Pさんのワイシャツも――『せんたく』なんてしませんよ♪」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

ちょいちょいどこかのめだかボックスナントカさんちの変態許婚の偽者達入れるのやめろ。元ネタわかんねーんだよ



卯月「心さんのおかげでちょっとだけ前進、ですねっ!」

ありす「ええ、それに――かなり重要なヒントも得られました」

卯月「ああ確か、『シコる』が『上下に振る』ことと……」

卯月「あと『いく』が、『美波ちゃんみたいな状態』っていうことですね!」

ありす「いえ、それもそうですが――もっと重要なことです」

卯月「……?」

ありす「私たちは――どうやら少し勘違いをしていたかもしれません……」


>>87 『僕は悪くない』


ありす「先ほどの佐藤さんとの会話を、思い出してみてください」

卯月「会話……?」

ありす「先ほど、佐藤さんはこう言っていました――」


『う、卯月ちゃんも知らないの……?』


卯月「そういえば、言ってましたけど……」

卯月「でも、それがヒントなんですか?」

ありす「ええ……」

ありす「佐藤さんのあの発言、それは言い換えれば――『いく』、『賢者タイム』、『シコる』というワードは、『卯月さんなら知っているようなことだ』と受け取れます」

卯月「う、うん……そうだね?」

ありす「そしてもっと言えば――『卯月さんの年代なら知っているようなこと』と、捉えられないでしょうか?」



卯月「え、ええと……つまり、やっぱり私が物事を知らな過ぎるだけって話ですか?」

ありす「そうではありませんが……」

ありす「私が言いたいのは――あの三つの単語は、卯月さんの年代、世代において広まっている言葉なのではないか、ということです」

ありす「佐藤さん自身、知ってはいてもよくは理解していなかった風ですし……」

ありす「『いく』も『賢者タイム』も『シコる』も――いわゆる、若者言葉や文化の類なのではないかと」

卯月「えーと……、最近流行った『おこ』とか『とりま』とか……あと、ちょっと昔で言うギャル文字とかみたいな……?」

ありす「ええ」



ありす「そもそも、話題にしていた渋谷さん、本田さんも同世代なことを考えても――可能性は高いと言えます」

卯月「な、なるほど……!」

卯月「さすが、ありすちゃん! なんだか名探偵コナンみたいですっ!」

ありす「ふふふ……///」

卯月「ドイルって呼んでいいですかっ!?」

ありす「ふふふ……それは褒め過ぎですよ……///」



卯月「……でも――じゃあなんで早苗さんは、『その言葉のことは忘れなさい』なんて言ったんでしょう?」

ありす「まぁ……往々にしてそういった若者言葉は、フォーマルな場面での使用は不適切ですからね」

ありす「アイドルとして、大人とも関わる機会の多い私たちが安易に使わないように、との配慮でしょう」

卯月「そっかー!」



卯月「うーん……。でも、なら尚更、私が知らないのはおかしい……ですかね……?」

ありす「――いえ。そもそも、自分の世代のトレンドを全て網羅している人なんてあまりいませんよ」

ありす「ゲームが好きなら今流行りのゲーム、漫画が好きなら今人気の漫画について知っていても……、スポーツやファッションに興味がなければ、今活躍する選手は分からないし、

流行の着こなしなんて、気にも留めないでしょう」

ありす「……しかしそう考えると、今までの方針を改める必要が出てきましたね」

ありす「これからは大人ではなく――卯月さんと同年代、同世代の方へターゲットを絞るのが良さそうですね」

卯月「同世代――って言うと、女子高生ってことですか」

ありす「そうですね」

卯月「女子高生なら、事務所にもいっぱいいますよねっ!」



卯月「例えば――」

脇山珠美「おや、卯月殿! おはようございます!」

卯月「あっ、珠美ちゃん! おはよう!」

西川保奈美「おはよう、卯月ちゃん」

卯月「あっ、保奈美さん! おはようございます!」

安部菜々「卯月ちゃん! おはようございます!」

卯月「あっ、菜々さん! おはようございます!」

卯月「………………」

卯月「あれ? 案外いないね? 女子高生」

ありす「ちょっと間が悪いのかもしれませんね」



卯月「うーん、女子高生、女子高生……」



ガチャ

若林智香「おっはよーございまーす」



卯月「あっ、智香ちゃん! いいところに!」

ありす「ふむ、若林さんは卯月さんと同い年でしたね……」

智香「卯月ちゃん、ありすちゃん、おはよっ!」

卯月「おはようございます!」

ありす「若林さん、少し聞きたいことがあるのですが……」

智香「ん? なにー?」



ありす「卯月さんと同じ17歳として、答えてほしいのですが――」

ありす「『いく』、『賢者タイム』、『シコる』――この言葉の中で、知っているものはありませんか?」

智香「えっ……!」

智香「あっ、いや……その……」

卯月「知っていたら、教えてほしいんですっ!」ズイッ

ありす「お願いします!」ズイッ

智香「そ、それは……」

卯月「それは?」

智香「それは……」

ありす「それは?」



智香「ごめんっ! アタシも分かんないっ!」パシッ

ありす「そうですか……」

智香「ごめんね? 力になれなくて……」

卯月「そ、そんな、気にしないでくださいっ!」

智香「二人は、その言葉について調べてるの?」

ありす「はい。卯月さんが、渋谷さんや本田さんから聞いたそうなのですが……」

智香「うーん……、何かのスポーツ用語、とか?」

智香「でも、アタシも聞いたことないなぁ……」

智香「特に『賢者タイム』と『シコる』なんて、今初めて聞いたよ」



ありす「佐藤さんが言うには――『シコる』は、上下に振る動きが関係しているそうなんですが……」

智香「振る……? アタシも応援する時、ポンポンとかこんな風に振るけど……」シュッシュッ

智香「『いく』ってのは、『イケイケゴーゴー!』みたいに使うけど……。そういうのとは、違うんだよね?」

ありす「ええ。一般的な用法ではないようです」

智香「そっかー。世の中には、色々不思議なことがあるんだねー」



智香「――よしっ!」

智香「力にはなれなかったけど――でも、せめて二人の調べものが上手くいくように――」

智香「アタシ、若林智香っ! 精いっぱい応援しちゃうよーー!!」

智香「ファイト! ファイト! がんばれがんばれっ、卯月っ!!」シャンシャン!

智香「イケイケ! レッツゴー! がんばれがんばれっ、ありすっ!!」シュッシュ!

智香「イェーーイッ☆」

卯月「いえーーいっ!!」パチパチ

ありす「あ、ありがとうございます」パチパチ

智香「えへへっ! 二人とも、頑張ってねっ!」



智香「それじゃ、レッスン行ってくるねー!」ガチャ


卯月「わぁ……智香ちゃん、アクティブですねっ!」

ありす「さすがパッションです」

卯月「でも、智香ちゃんも知らないかぁ……。スポーツ系の用語でもないのかな?」

ありす「何か、もっとマイナー、あるいはマニアックなことに関連しているのかも……」



ガチャ

相葉夕美「でね、その時――」

高森藍子「ふふっ、そうなんですかっ!」




卯月「あっ、あの二人はどうでしょう?」

ありす「そうですね、聞いてみましょう」



卯月「夕美さん、藍子ちゃん! おはようございますっ!」

夕美「あっ、卯月ちゃんにありすちゃん! おはよー!」

ありす「おはようございます」

ありす「あの、お二人に教えてほしいことがあるのですが……」

藍子「私たち二人に? 何かな?」

卯月(ありすちゃん、ありすちゃん……)ヒソヒソ

卯月(ここはまず、私に任せてくれませんか?)ヒソヒソ

ありす(構いませんが……、何か秘策が?)ヒソヒソ

卯月(はいっ。ちょっと思いつきですけど……)ヒソヒソ



卯月「夕美さんっ! ちょっと聞きたいんですけど……」

夕美「うん、なに?」

卯月「夕美さん、タイムって植物、知ってますか?」

夕美「タイム? うん、ハーブとしてお料理にも使われるよね?」

卯月「そのタイムの――花言葉って、何かありますか?」

夕美「えーと、確か――『活力』とか『勇気』、とかじゃなかったかな」

卯月「活力……勇気……」



卯月(――ありすちゃん、どう思います?)ヒソヒソ

ありす(『賢者タイム』……、つまり、『賢者の活力』……ですか?)ヒソヒソ

ありす(うーん。どっち道、麻薬みたいなイメージですね……)ヒソヒソ

卯月(凛ちゃんの家、お花屋さんだから、花言葉とかそっち方面のワードだと思ったんですけど……)ヒソヒソ

ありす(そうですね……。発想としてはいいと思いますが……)ヒソヒソ



夕美「ええと……ごめん、何か不都合だったかな?」

藍子「二人とも、ハーブについて知りたいんですか?」

ありす「相葉さん」

夕美「は、はい」

ありす「では、もう一つお聞きしたいんですが――」

夕美「うん、どうぞ?」



ありす「『賢者タイム』というタイムを、知っていますか?」



夕美・藍子「「!?!?」」




夕美「ちょ……ええ!? け、賢者タイムって……」

卯月「何か知っているんですかっ!?」

夕美「いや、あの……、ある程度、知ってはいるけど……」

ありす「どんな花言葉なんでしょうか?」

夕美「花言葉!?」

卯月「やっぱり、『活力』とか『勇気』ですか?」

夕美「えっ、いや……どっちかって言うと……」

ありす「言うと?」

卯月「言うと?」

藍子「ちょっと、二人とも待って――」



夕美「虚無感……///」



藍子「夕美さん!?」



藍子「あの、二人ともっ! 一体なんでそんなことを……!?」

ありす「実は他にも『いく』、『シコる』について、調べているんですが――」

藍子「!?」

ありす「なるほど。これらは――『イク』、『シコル』という花の名前の可能性もありますね」

卯月「だったら夕美さん詳しいですよねっ!!」

夕美「!!?」

ありす「良ければ『イク』、『シコル』の花言葉も教えて頂きたいのですが」

夕美「えっ、いやあのね……」

卯月「そもそも、どういう花なんですか?」

夕美「ええっ!? 花っていうかあの……、花びらが……あの……///」

ありす「どんな感じなんですか?」

夕美「感じ!? その、あの……」

藍子「二人とも、落ち着いて――」



夕美「栗の花……///」



藍子「夕美さん落ち着いてっ!!」



藍子「ふ、二人ともっ!」

藍子「その……二人が調べてる言葉は、花の名前じゃないから……」

藍子「だ、だから、夕美さんに聞いても困っちゃうと思いますよ……?」

卯月「そうなんですか……」

ありす「なるほど、そうでしたか」

藍子「う、うん……。だから――」

ありす「ということは、高森さんはご存知なんですね?」

藍子「!!?」



ありす「高森さんが知っているとなると……高森さんの趣味に関連したものなのでしょうか?」

卯月「藍子ちゃんの趣味――『おさんぽ』ですねっ!」

藍子「ちょっ、待って――」

卯月「そっかー!」


卯月「『いく』も『賢者タイム』も『シコる』も――『お(ひっ)んぽ』に関係した言葉だったんですねっ!」


藍子「!!??」



ありす「卯月さん、大丈夫ですか?」

卯月「ごめんなさい……突然、しゃっくりが……」

藍子「あ、あの――」

卯月「でも『いく』はまだしも――」

卯月「『賢者タイム』とか『シコる』とか……どういう風に、『お(ひっ)んぽ』に関係しているんでしょう?」

藍子「やっ、あのね――!?」

卯月「藍子ちゃんは、よく近くの公園で『お(ひっ)んぽ』をしているんですよね?」

藍子「待って!? 違――!!」

夕美「藍子ちゃん……」

藍子「夕美さんも待って!?」

卯月「うーん。私も、青空の下で『お(ひっ)んぽ』すれば、何か分かるのかな?」

藍子「アウト! それアウトだよっ!」

卯月「え? じゃあ、藍子ちゃんと一緒に『お(ひっ)んぽ』したらいいですか?」

藍子「なおさら! なおさら駄目だからっ!!」

夕美「//////」プシュー



ありす「そういえば……」

ありす「高森さんは、散歩中に写真も撮られているんでしたよね?」

藍子「!!」

藍子「そ、そう! そうですよっ! さんぽ中に――」

卯月「そっか! 藍子ちゃん、『お(ひっ)んぽ』してる時に、撮影もしてるんですよねっ!」

藍子「待って! お願いだから――!!」

ありす「ならば、写っているものの中に、手がかりがあるのでは……!?」

藍子「あ、あの、一旦おちつ――」

卯月「確かにそうですね!」

卯月「藍子ちゃん、『お(ひっ)んぽ』しながら撮った写真、見せてくれませんか?」

藍子「ホントに! ホントに待っ――」

ありす「私たちの後学のためにもお願いします!」


ありす「高森さんの、いつもの『お(ひっ)んぽ』風景を見せてくださいっ!」


藍子「お願いだからやめてぇぇぇえええ!!!」



卯月「あはは。ありすちゃんにも私のしゃっくり、うつっちゃいましたね」

ありす「うぅ……///」

卯月「それで、藍子ちゃ――」

藍子「あ、あの……ごめんね……」

藍子「私も、よくわからないから……」

藍子「ぜんぜん……わからない……から……///」

夕美「/////////」プシュー

卯月「そ、そうですか」

藍子「わ、わたし……かみんしつ……いってくる……///」トボトボ

夕美「わたしも……///」トボトボ

ありす「お二人とも、どうしたんでしょう?」

卯月「うーん。悪い病気とか流行ってなければいいですけど……」



ありす「それなりに情報は集まってきましたが……、まだ断片的ですね」

卯月「確かに、結局、何を指しているのかまでは分かりませんし……」

ありす「誰か、もう一人くらい聞き込みをしたいところですが――」


城ヶ崎美嘉「おっ、ありすちゃんと卯月じゃん。おはよ★」



卯月「あっ、美嘉ちゃん!」



ありす「おはようございます、城ヶ崎さん」

美嘉「あれー? ありすちゃん、アタシのことは名前で呼んでって言ったじゃん★」

ありす「あの、それは……」

美嘉「アタシとの約束、忘れちゃったのー?」

卯月「美嘉ちゃんも、ありすちゃんと仲良しなんですねっ!」

美嘉「まあねー! アタシだってコミュ力高いんだぞ♪」

ありす「こ、この事務所には、城ヶ崎姓が二人いるので、混同しないようにですっ///」

美嘉「あはは! まあ、そういうことにしといてあげる」



美嘉「それで? 二人で仲良く何してんの?」

卯月「あっ、そうでした!」 

卯月「美嘉ちゃんに聞きたいことがあるんですっ!」

美嘉「聞きたいこと? いいよ、美嘉おねーさんに任せてー!」

ありす「では――」


ありす「『いく』、『賢者タイム』、『シコる』って、どういう意味ですか?」



美嘉「★!?★?!☆!?」




美嘉「ちょっ、何言ってんの!?」

ありす「美嘉さん、知っているんですか?」

卯月「さすがカリスマギャルですねっ!!」

美嘉「え!? いや――」

卯月「実は、凛ちゃんと未央ちゃんが話題にしてたんですけど……私だけ、意味が分からなくて」

美嘉「あの二人は何してんの!?」

ありす「なので、二人で事務所の皆さんに聞き込みを行っていたんです」

美嘉「アンタたちも何してんの!?」



美嘉「いやその……悪いことは言わないから……」

美嘉「そういうこと、あんまり聞かない方がいいよ……?」

卯月「でも、それなりに情報は集まってきたんですよっ!」

卯月「まず『いく』って言うのは、美波ちゃんみたいな状態で――」

美嘉「どういうこと!? 美波ちゃんってそうなの!? 常時!?」

ありす「『賢者タイム』は、藍子さんの趣味と関係があるようです」

美嘉「藍子ちゃんが!? ゆるふわってそういうこと!?」

卯月「あ、写真は見せてもらえませんでしたね……」

美嘉「撮ってあるの!?」



卯月「あとは……えーと……」

ありす「『シコる』は、若林さんが真似てくれましたね」

美嘉「何させてるの!?」

卯月「そのまま応援もしてもらいましたっ! 『がんばれー!』って」

美嘉「だから何させてるのっ!?」

卯月「あとは……『育ちゃん』って方は、とってもシコれるそうですっ!」

美嘉「ちょっ! そんなサイト見ちゃだめだよっ!!」

ありす「いえ、フィルタリングで詳細は見られなかったのですが」

美嘉「あ、ああ、そう……」

卯月「凛ちゃんは、五回もいっちゃうらしいんですけど……」

美嘉「ホントに何してんのよ……」



美嘉「オッケー……、大体事情は分かったから……」

美嘉「卯月もありすちゃんも、もうその言葉について調べるのはやめときなさい」

美嘉「それは、まだ知らなくてもいいことだから」

卯月「で、でも……」

ありす「……美嘉さんも、そう言うんですね」

美嘉「ありすちゃん?」



ありす「同じ、なんですか……」

ありす「美嘉さんは、アイドルになりたてで、右も左も分からない私にも優しく――色々なことを教えてくれました……」

ありす「正直――芸能事務所というのは、上下関係に厳しく、もっとギスギスしていると思っていました」

ありす「でも美嘉さんは、先輩とか後輩とか歳の上下とか関係なく、垣ねなく、こんな私にも接してくれて――」

ありす「私に、ここの人たちが、みんな優しくて温かい方たちなんだと……、最初に気づかせてくれたのは美嘉さんなんです……」

ありす「でも――美嘉さんも、結局は同じなんですか……?」

ありす「私に『知らなくていい』と――言い訳して、誤魔化して、はぐらかしてしまう人たちと、一緒なんですか……?」

ありす「私なんか……まだ、ちっぽけな子供で……何を言ってもしょうがない奴だって……思ってるんですか……?」

卯月「ありすちゃん……」



美嘉「あはは……。ありすちゃんに、そこまで信頼してもらってたなんて嬉しいけど……」

美嘉「そうだなぁ……」

美嘉「アタシもね、分かるよ。ありすちゃんの気持ち」

美嘉「『アンタはまだ知らなくていい』ってやつ、アタシもよく言われてたっけ……」

ありす「美嘉さんも……?」

美嘉「そうそう! 莉嘉もまだちっちゃかった頃にね……」

美嘉「お母さんの見よう見真似で、初めてメイクした時だったかな」

美嘉「『そういうのは、アンタにはまだ早い』って、怒られちゃってさー」

美嘉「そりゃあ、アタシも不満だったよー! お母さんだってやってるし、みんなだってやってるのに――なんで自分はダメなのかって……」

美嘉「怒って、むくれて……拗ねたりしたっけ……」

美嘉「まあ、そのアタシの影響を多分に受けて、莉嘉も今そんな感じだけど……。それは置いといて」



美嘉「――でもね、ありすちゃん」

美嘉「アタシだって、説教ができるほど人生経験してないけどさ」

美嘉「それでも言うなら――物事にはなんでも、それに適したタイミングってやつがあるって、思うんだよね」

ありす「タイミング……?」

美嘉「そうそう。えーと、さ……」

美嘉「例えば――道路交通法ってやつ、あるでしょ?」

美嘉「まあ、『車は車道を走れ』とか『赤信号で止まれ』とか……そういう、当たり前のことでいいんだけど……」

美嘉「でも――もし、そういうルールを全く知らない人に、車の運転の仕方だけ教えたら……、どうなると思う?」

ありす「どうなるなんて……それは……」

ありす「危険過ぎます。運転すれば、絶対、事故を起こすでしょう」

美嘉「だよね。そりゃそうだよ」



美嘉「あとは……そうだな……」

美嘉「そうお酒! お酒ってあるでしょ?」

美嘉「美味しいらしくって、大人組の人たちがよく飲んでるけどさ――」

美嘉「アレ、なんで未成年は飲んじゃダメかって、知ってる?」

ありす「……学校で習ったことによれば――アルコールには、依存性や、摂取量に応じた脳を始めとする身体への影響があります」

ありす「だから、未成年の――まだ、成長途上でしっかり体の機能ができていない子供が飲むと、より強い影響が出て――悪影響が出ていけない、と」

美嘉「おおー、ありすちゃんは優秀だねー★ まあ、そんな感じだよ」

美嘉「じゃあ、ありすちゃんが言った通り――そんな依存性のあるお酒を、まだ身体か未発達な子供の頃に、大好きになっちゃったら、どう?」

ありす「それは……良くないことかと……」

美嘉「うん、そうだよね。モラルとか法律とかを抜きにしても、きっとその子にとって何かしらの悪影響が出る――そんな可能性が高いよね」

細かい訂正

>>125

ありす「『賢者タイム』は、高森さんの趣味と関係があるようです」



美嘉「まあ、それがアタシの言いたいタイミングってやつかな」

美嘉「車の運転だったら、まずは安全に運転するためにはどうしなきゃいけないかを、きっちり教わらないとだし……」

美嘉「お酒の味を知る前には、年齢的なこともあるし――それに、お酒の飲み方ってのも知っとく必要がある」

美嘉「同じものでも、それを得るタイミングが違えば、結果も全然違っちゃうことってあると思うよ」

美嘉「特に、子供の頃ってさ――色々新鮮で、なんでも敏感に感じちゃうものだから……」

美嘉「だから今考えると、あの時なんであんなに拗ねてたんだろう、なんて思うこともあるけど――」

美嘉「でも、その新鮮さ――鮮烈さが、敏感な子供の感性には強すぎるってこともあるんだよ」

美嘉「子供の頃にその感性で、それを怖い、恐ろしいって感じたせいで……、それが大人になってまでトラウマとして残るってことも、ある」

美嘉「かわいい大切な子がそんなトラウマを抱えちゃって、物事への見方が歪んじゃったら可哀想――」

美嘉「多分ね……、ありすちゃんの質問に答えてくれなかった人たちも、そう思ったんじゃないかな」

美嘉「――だから言ったんじゃない?」

美嘉「『まだ』知らなくていいって」

美嘉「それは、もう少しありすちゃんの心の準備ができてから、知ればいいって」



ありす「美嘉さんの仰りたいことは分かりました……」

ありす「でも、じゃあ卯月さんは……?」

美嘉「卯月?」

ありす「卯月さんも、渋谷さんや本田さんから言われたそうです……『あなたは知らなくていい』って……」

ありす「それで、卯月さんは悩んでいて……」

卯月「ありすちゃん……」

美嘉「う、うーん……」



卯月「美嘉ちゃん……」

卯月「私……凛ちゃんや未央ちゃんの会話にもついていけなくて……」

卯月「私って、やっぱり無知過ぎるんでしょうか」

卯月「私って……遅れているんでしょうか……」

美嘉「……確かに――そういう知識を普通より多く持っているってのを『進んでる』、そうじゃないのを『遅れてる』って言うのかもしれない」

美嘉「でもね、アタシはそれが『劣ってる』ってわけじゃないって思う」



美嘉「アタシは、物事には、それを知るタイミングがあって――」

美嘉「それでもって人には――それぞれの歩み方ってのがあると思う」

卯月「歩み方……?」

美嘉「そう、歩み方。進み方」

美嘉「卯月にはさ――卯月のいいところ、卯月らしさがあるよ」

美嘉「特にアイドルやってるんなら、それはとっても大切なものだと思う」

美嘉「それを大事に育んでいくためには――その卯月のスピードで進んでいくことが大事なんじゃないかな」

卯月「私の……スピード?」

美嘉「人間、走ると転びやすい。莉嘉もよく転ぶしね」

美嘉「それにはやく走っちゃうとさ――周りの景色とか、雰囲気とかをゆっくり楽しめないでしょ?」



美嘉「これはありすちゃんにも言えることだけど……」

美嘉「さっきも言ったように――子供の頃や物事の経験が少ない頃の感性は、とっても精密で敏感だよ」

美嘉「だから時には、そこで感じたことが恐怖に繋がることもあるけど――」

美嘉「でも反対に、その時に感じた感動や喜びや憧れが、大人になってからの宝物になることだってある」

美嘉「その想いを原動力に前に進むことだってできるんだよ」

美嘉「だからさ、背伸びしたいのは分かるけど……」

美嘉「今現在、今の自分が、今の自分で感じること、感じられることを大切にするってことも忘れないで」

美嘉「ゆっくりのんびり、過ぎていく風景に想いを馳せるってことにも、価値はある」

美嘉「ぶっちゃけ、歳なんて否が応でも、泣いても笑ってもとるもんだからさ」

美嘉「だから――今のアンタたちがする、泣いたり笑ったりした経験を、もっと大事にしてほしいの」



美嘉「無理に変わろうとしないでいい」


美嘉「二人は、そのままでいいと思うよ」


美嘉「そのままの純粋なありすちゃんで――」


美嘉「そのままの純真な卯月が、かわいいよっ!」


美嘉「かわいくって、魅力的だよ★」


卯月「美嘉ちゃん……」

ありす「美嘉さん……」



美嘉「一応姉キャラとして、アタシが言えるのはこのくらいかなー」

美嘉「ありすちゃんも、今日一日で事務所の色んなメンバーと話せたみたいだし――」

美嘉「それでオッケーってことで、納得してくれない?」

ありす「……まあ、その」

ありす「幸せの青い鳥――ではないですが……」

ありす「先ばかりでなく――目の前の、今の私も、もう少し大切にしてみようと、思います」

美嘉「ふふっ。そうだね」

美嘉「それと――卯月」

卯月「は、はい!」

美嘉「凛と未央には――っていうか、凛にはアタシからよく言っといてあげるから、心配しないで」

卯月「ほ、ホントですかっ!」

美嘉「うん。同い年だけど、おねーさんに任せなさい★」

卯月「はいっ!」

美嘉「うんうんっ!」

ありす「ふふっ……」

卯月「えへへ!」

美嘉「ふふふっ……★」



美嘉(危ねぇぇーー!!!)

美嘉(オッケーアタシ、よく乗り切った……。マジで自分を褒めてあげたいっ!)

美嘉(イクとか……賢者タイムとか……し、しこ……なんて恥ずかしいこと、言えるわけないじゃん///)

美嘉(カリスマギャルとして、伊達に女子同士の下ネタ会話を切り抜けてきたアタシじゃないよ!)

美嘉(さて……こういうことが再発しないためにも――凛にはお灸を据えておかなきゃ……)

美嘉(って、メール来てる。未央から?)

美嘉(『早苗さんにお仕置きされた、しぶりんたちを運ぶの手伝って』……?)

美嘉(まったく……)

美嘉(ホント、何してんだか……)



――翌日――


ありす(そのままの私がかわいい、ですか……)

ありす(そうですね……。『ありす』というこの名前も、もうちょっと、好きになってみるべきかもしれませんね……)


「本当に申し訳ありませんっ!」


ありす「……ん?」



千川ちひろ「そんな、頭をあげてください」

ちひろ「このくらいのミスは、よくあることですし、特に損害もなかったんですから……」

「いえいえっ! 本当に、うちの高木がご迷惑を――」


ありす(千川さんと誰かが話していますね)

ありす(外部の方のようですが……)


「今後とも、我がプロダクションをよろしくお願いしますっ!」

ちひろ「こちらこそ、今後ともよろしくお願いします」



「では、失礼します!」

ガチャ

「はぁ、もう全く社長ったら。頼りになるのかならないのか分からないんだから……」

「でもそういうお叱りは、今頃、律子さんがやってるかしら」

「さて。戻るついでに備品を買い足しておきましょうか」

「えーと、お財布お財布」ゴソゴソ

パサッ


ありす「……!」


「ああそうだっ! 今日中にあの資料をまとめて……」

「書類も溜まってるし……早く戻らなくっちゃ!」タッタッタッ


ありす「あ、あの……、何か落として――」

ありす「……行ってしまいました」



ありす「何でしょう、コレ……」

ありす「……ばかに薄い冊子ですね。何かのパンフレットかな?」

ありす「何か重要なものだったら、届けないとですが……」ペラッ


『信じて送り出したきゃぴきゃぴ系乙女が親友の変態穴掘り調教にドハマリしてイケメン王子様姿でビデオレターを――』


ありす「なんですかコレ……。ずいぶん長いタイトルですね……」



ありす「表紙は題だけでよく分かりません……」

ありす「一体、なんのパンフレットでしょう――」ペラッ



『おほっ! だめぇ! ボクはきゃぴきゃぴ系のおんなのこにゃのぉお!!』


『ひぎぃ!! らめにゃのぉ!! イケメンおうじさまなんてなりたくないぃいん!!』


『あひぃん!! らめぇ! しょこをシコシコしないでぇ!!』


『ちがうのぉっ! 自分からシコってなんていないのぉっ!!』


『あへぇぇええ!! むりぃ! 賢者タイム中もイクっ! イっちゃうのぉぉぉおおおお!!!』


『おっほ……くりゅ……きちゃう! きちゃうからぁ!!』


『もうどうでもいいっ! きゃぴきゃぴ乙女なんでどうでもいいからぁっ!!』


『なっちゃう! おうじさまにぃ! きらきらいけめん王子になっちゃいましゅぅうう!!!』


『んほぉおおおお!! イグッ! イグイグイグゥゥゥウウウウウ!!!!!!!!』



ありす「…………………………」



凛「はぁ……。ワイシャツ全部没収されちゃった……」

凛「早く次の手を打たないと……」

未央「やめなよしぶりん。早苗さんに、きつーく怒られたんでしょ?」

未央「聞いてよしまむー。気絶したしぶりんたち運ぶの、大変だったんだから」

卯月「ふふっ、そうなんですか?」


ガチャ

ありす「おはようございます……」


卯月「あっ、ありすちゃんっ!」



ありす「あっ、卯月さん……」

卯月「ねぇねぇありすちゃん!」

卯月「美嘉ちゃんにはああ言われましたけど……。でも一日たったら、私やっぱり気になっちゃって……」

卯月「もし良かったら『いく』、『賢者タイム』、『シコる』について、また二人で調べてみませんかっ?」

ありす「……いえ、その……なんていうか……」

卯月「……?」




ありす「卯月さんは、まだ知らなくていいと思いますよ……」



卯月「へ……?」








きっと推理ものが書きたかった

誤字脱字、無駄に長くてごめんなさい

読んでくれてありがとう

…念のために聞くけど乳首ロックの人じゃあないよな?

>>163
別人ですよー
あの作品大好き


つ「育ちゃんの歯ブラシ」

愛と貴音が「セ○クスって何ですか」って聞いて回る動画思い出した

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