【ポケモン】プテラとユレイドル(94)

~古代~


ザザ~ン…。


今日も“彼女”は、延々と…同じ場所に留まっている。


ユレイドル(…はぁ。)


種族名は、ユレイドル。

彼女は、“あること”に…憧れていた。

現代にも進化前のアノプスにその名残が残っているが、この時代のユレイドルは…他の場所に自力で移動することはできない。

自身の持つ吸盤の所為である。

吸盤は地面の養分を吸い取り、彼女はそうやって今まで成長をしてきたのだ。

ただ、最近…思うことがある。


“空を、飛びたい”。


それが、彼女の願いであった。

ユレイドル(なんで私は、よりによって…ユレイドルなんかに生まれてきたのかしら…。)


自分の存在意義に、悩んでいた。


見上げれば眼前に広がる青き大空。

あの果てしなき空間に飛び立つことができれば、現状の自分を打破できるかもしれないが…。

前述の通り、彼女はユレイドルである。



ジレンマであった。

ごめん、>>2のアノプスはリリーラの間違い

~大空~

バッサ、バッサ。


???「クエ~ッ!」


今日も“彼”は、獲物を捉え…それに襲いかかる。

…生まれつき得た先天的な力。

それを少し奮えば…食糧を容易く手に入れることができる。



──彼の名は、プテラ。

当時の大空の…王であった。

ユレイドル(もしかしたら、自分の子孫は移動能力を手に入れられるのかもしれない。
…しかし、それはまだまだ先のことだろう。)

“私”は、これまでも、そして、これからも…ここに留まって、一生を終えるのだ。


──憂鬱であった。


ユレイドル「ハァ…。」


…………………………


プテラ「ハァ…。」


大空の王、プテラ。

彼もまた…嘆いていた。

プテラ(自分はいつまで、このような生活を続けるのだろうか?
いい加減に落ち着きたい。しかし、腹は減る。
不器用な自分は、こんなやり方でしか食糧を得ることができない。



彼もまた、己の生き方について…苦悩していたのである。

~数日後~


プテラ「ふぅ~っ…。」


彼は、つかの間の休息を傍受していた。


プテラ(一息ついたら、また獲物刈りかぁ。)


…。


プテラ(うん?
なんだ、あれは…?)


へば~っ…。


彼が見つけたのは…へばっていた、ユレイドルの姿であった。

プテラ「おい。」

ユレイドル「…。」


プテラ「…おい。」


ユレイドル「……。」



プテラ「…おいぃっ!?」



ユレイドル「…!」ビクッ



ようやく、気付いたようである。

プテラ「お前、ポケモンだよな…?
…なんで、へばってたんだ?」

ユレイドル「…。」カアァッ

プテラ「ん、どうした…?」


言葉が詰まった。


他のポケモンに話し掛けられることなど、初めての経験であったからだ。


プテラ「お前、そこが目だったんだな。」

ユレイドル「…ぁの、その…。」

プテラ「なんだぁ~っ!?
聞こえん。」

ユレイドル「だから、その…。」

聞くところによると、最近この辺りの土地が枯れていき、養分を得ることができなくなっていったのだという。

プテラ「ふ~ん、そうだったのか。
空にいる俺は、知らなかったな。」

ユレイドル「…この急激な土地の枯渇。
とても予想だにしていませんでした。何か…嫌な予感すらします…。」

プテラ「…見てられねぇな。」

ユレイドル「すぃませ~ん…。」


衰弱が激しかった。


プテラ「よし、わかった。
俺が…食べる物を取ってきてやるっ!!」

ユレイドル「…えっ?」


予想外の、言葉であった。

プテラ「お前の種族は吸盤による養分摂取の他にも、捕食ができる筈だ。試してみろ。」

ユレイドル「えっ?」グチュチュ

プテラ「お、おいっ!
待て…俺で試すんじゃないっ!!」

ユレイドル「あっ、駄目でしたか…?」

プテラ「…俺、気まぐれで変な奴に関わってしまったのかもしれねぇ。
まぁいい、約束したんだ。
…すぐ、取ってきてやるっ!!」


バササッ…。


プテラは、空に飛び立っていった。

ユレイドル「…凄い。」

彼女は、目を奪われた。
華麗に飛び立ち機敏な動きで獲物を捕らえるその勇姿。

私にはとてもできないものだ、と感じた。
それと同時に…“憧れ”も抱いた。

…………………………

プテラ「…なんか。」

なんか見られてるな…。
彼は、そう思った。

怖れられるのならわかるが、その視線は憧れと羨望の意を含んでいたのだから、戸惑う。


こんな感覚…初めてだ。

~空のどこか~


アーケオス「…生意気じゃな。」


かつての空の王、アーケオス。

自分が最古よりの天空の支配者であると言うのに、最近現れたプテラとか抜かす青臭い新参者。

偉い顔をし出し、我が領空にて好き勝手に暴れ呆けている。

若さに嫉妬しているのではない。

単純に、気に喰わないのだ。


だが、自分は年老いた身。まともに殺り合えば負けはしないだろうが…苦戦は必須であろう。


──どうするべきか。

──そして。

プテラ「お~い、取ってきたぞ~。」

ユレイドル「わぁっ。
…うわぁ。」


よくわからないもの『キイィ~ッ!』


えたいのしれないもの『ギャアァ~スッ!』


…気持ちは嬉しかった。

ユレイドル「」パクパク

プテラ「…結局食うんだな、お前。」

ユレイドル「」パクパク

プテラ「夢中で聞いちゃいねぇ、か。」


──その時。


タタッ。


プテラの元へ、二匹のポケモンたちが駆けつけた。


オムスター「兄貴~。」

カブトプス「お帰り~。」

プテラ「おう、お前たちか。」


彼らは、プテラを兄貴と慕っているポケモンたちである。

オムスター「兄貴…そこにいる、緑のポケモンは誰ですか?」

オムスターが、プテラに尋ねる。

プテラ「ああ、コイツはな…。
俺もたった今知り合ったばっかりなんだが…。
でもって、少し変わり者で食いしん坊な野郎なんだが…。」

ユレイドル「なんか酷いことを言ってるってことはわかります。
あと、私は女です。」

プテラ「種族名はユレイドルと言って…この海岸を住処としている奴だ。
まぁ、お前たちとは当然初対面だろうがな。」

ユレイドル「こんにちは~。」

プテラ「おいお前、こいつらは食べないでくれよ?いくら食い意地張ってるとは言え。」

ユレイドル「食べたくもないです。」

プテラ「まぁ、もっと食べる物を持ってきてやるから…ここで待っとけよ。
てか、待つことしかできないだろ?」


バササッ。


再び、プテラは空へと飛び立つ。


ユレイドル(…申し訳ないです。)


ユレイドルも、本当はプテラに申し訳なく思っていた。

しかし、この状況では致し方がない。

食べなければ死んでしまう。それは当然の摂理。

しかし、その食べる物も無いのだから、必然的に…彼、プテラに頼むしかないのだ。


──再び大空へ消えてゆくプテラの様子を、重い首を上げながら黙視していた。

プテラが飛び去ってから、ユレイドルとカブトプスたちは…いつの間にか、意気投合を果たしていた。


カブトプス「プテラ兄貴とは、どこで知り合ったんスか?」

ユレイドル「なんかチャラい雰囲気だね。
えぇと…海岸で私がへばっていたところを、偶然彼が通りかかったの。」

カブトプス「へー。あのですね、一つ言いますよ。
あのプテラ兄貴が出会い頭のポケモンに心を許すなんて、本当に…滅多にないことなんスよ!」

ユレイドル「え、そ、そうなの~?」

オムスター「そっスよ。意外意外。」

カブトプス「その“グウゼン”を、神様に感謝しなきゃいけないっスねっ!!」

ユレイドル「フフ…。
…確かに、そーね。」

ユレイドル「…今日は良い日だ。」

オムスター「え?」

ユレイドル「こうして海岸にぽつんとしてた私に、話しかけてくれた“友だち”ができた。
『私ってなんなんだろ』って思っていた時によ。」

カブトプス「な、なんか照れるッスよ~、
姉貴。」

ユレイドル「ア…“アネキ”?」

カブトプス「そっス、プテラの兄貴が兄貴だから、ユレイドルの姉貴は姉貴って呼ぶっスっ!!」

ユレイドル「…言い回しが変だけど、気持ちは伝わるよ。」

オムスター「ユレイドル姉貴…俺らも姉貴に協力するっス!
土地の枯渇が治まるまで、俺らも姉貴に食べ物を持って来るっス!!
…いつ治まるのかは、わからないっスけどっ!!」

ユレイドル「み、みんな…。
あ、ありがとう…!!」グチュグチュ

オムスター「わわっ、何俺を食べようとしてるんスか!」

ユレイドル「えっ、いやこれはその…感謝の意を伝えたくて…。」

カブトプス「アハハ。不器用なんっスね、姉貴。
そこもまた、なんか兄貴に似てるような気がします。」

…バササッ。


やがて、プテラが帰って来た。


プテラ「ふ~、疲れた。」

ユレイドル「あ、あの…。」

プテラ「なんだ?」

ユレイドル「良かったら、また…。
…来てください。」

プテラ「…食べ物が欲しいからか?」

ユレイドル「い、いえ、違います!
ただ…。」

プテラ「ただ、なんなんだ?」

ユレイドル「…。」カアァッ

プテラ「…うん、変わった奴だ。」

また、言葉に詰まった。


こうして、プテラとユレイドルの交流は、持ちず持たれず続いていくことになる。

──それから、幾ばくかの月日が過ぎ去った。


プテラ「今日もアイツのために、食糧を狩ってこないとな。」

オムスター「…兄貴。」

プテラ「なんだ、オムスター?」

オムスター「俺らは、かつて行き倒れたところを兄貴に救われ、それ以来…兄貴のことを慕い続けています。
でも、最近の兄貴は勢力を拡大することに血眼になっていて、俺らを助けた時のような感情は…もう残ってはいないのかと思っていました。」

プテラ「急になんだというんだ、お前たち?」

カブトプス「けれども今回のユレイドル姉貴の件で、まだ兄貴にはそういった感情が残っているんだってことを…再確認しましたっス。
やっぱり、兄貴は兄貴だったんスッ!!」

プテラ「フフ、よせよ…照れくさい。」

カブトプス「ハハハハ。」


──そんな時。


プテラ「…ん。」


プテラは、いち早く…その“気配”に気づいた。

プテラ「…おい。」

カブトプス「な、なんスか、兄貴?」

プテラ「いや、お前たちじゃない。それより、コソコソしてないで早いところ出てきたらどうだ?
なぁ、そこの物陰に潜んでる奴よっ!!」

オムスター「なっ…!!」


そして、物陰より声が響いた。


???「…お見事、と言ったところだな。
流石はこの時代の空を統べる王。
私としても…そうこなくては張り合いがない。」

プテラ「貴様…一体何者だ?」

???「良いだろう。私も正体を現し、正々堂々とお前を倒すことを宣言しよう。」


そして、物陰より一体のポケモンが姿を現した。


プテラ「…貴様は…。」

ゲノセクト「ゲノゲノ、私は未来の化学兵器…ゲノセクト。
とあるポケモンの命により、貴様を抹殺する!!」

プテラ「なにっ…!」


その姿はポケモンと言うよりは、この時代には存在などしない筈である…“機械”によく似通っていた。


カブトプス「な…ミライ、カガクヘイキ…。
…トアルポケモンッ!?
さ、さっぱり訳がわからんぞっ!!?」


事実、その通りであった。

ゲノセクト「貴様には、用はない…。
…ふんっ!」バシィッ

カブトプス「うわっ…。」


ゲノセクトは、カブトプスの身体を掴み上げ…勢い良く投げ飛ばした。


カブトプス「…ゲホッ!」

プテラ「…カブトプスッ!!」

ゲノセクト「どうだ?
私の力…これで十分に伝わったかな?」

オムスター「アワワ…。」

プテラ「き、貴様…許せんっ!
俺が、今すぐに…貴様を料理してやるっ!!」

ゲノセクト「そう来なくては面白味がないからな。
さあ…全力で来い!!」


かくして、プテラとゲノセクトの戦闘が…幕を開けた。

プテラ「うおぉぉっ!!
いわ…なだれえぇぇぇっ!!」ドドドド

ゲノセクト「…。」


間髪入れず、プテラは自身の得意技を放つ。


シュウゥゥ…。


オムスター「や、やっぱ凄い、兄貴!
これはやった…。」


しかし。


ゲノセクト「なにが、『やった』んだ…?」


シュウゥゥゥ…。


プテラ「…!」


彼は、プテラの攻撃を…完璧に防御していたのだ。

プテラ「そ、そんな馬鹿な…。
う、うおぉぉぉぉぉぉっ!!」ドガァッ

ゲノセクト「…ふん。」


キィ、キイィン…。


しかしゲノセクトは、プテラの攻撃を容易に全て受け止める。


プテラ「な、なぜ、なぜなんだ…。」

ゲノセクト「やれやれ、これでは勝負ではなく…一方的な虐めだな。
私の気配を察した時は、そこそこやれるかと期待したのだが…この時代のポケモンは、やはりこんな野蛮な攻撃しかできないか。」

プテラ「こ、この…“時代”、だと…?」


プテラは、その“違和感”を察知した。

プテラ「貴様、何者だ…?
この世界の出身では、ないというのか…?」

ゲノセクト「いや、確かに私はこの世界の…この『時代』で産まれ落ちた。
懐郷の念すら感じる程だ。」

プテラ「では、なぜ“ミライ”だの“カガクヘイキ”だの…先刻語ったのだ?
…この時代の出身と言うのなら、明らかにつじづまが合わないことになるが。」

ゲノセクト「…貴様が知る必要はなかろう。
ここで、貴様は私に倒され…滅する。死にゆく者にそのようなことを話して、どうなると言うのだ。」

プテラ「思い上がるなよ…。
踏み潰される…虫如きがっ!!」

ゲノセクト「その虫が、今こうして食物連鎖の上位に立つ貴様を打ち倒そうとしている。
…皮肉なことだ。
クク、精神的に動揺している貴様など…もう既に私の敵に非ず、だからな。」

プテラ「貴様っ…!!」

確かに…彼は“動揺”をしていた。

…無理もない。
今までに自身の攻撃が通用しなかった相手など…存在しなかったのだから。


──そして。


ゲノセクト「…。」スタン

プテラ「なっ…。」

なんと、突然…ゲノセクトは屈み込んでしまったのだ。

戦闘では油断は死へと直結する。
だからこそ、彼にはこの行為の意味が全く理解できなかった。

今踏み込めば…間違いなく勝利を収めることができるのであろう。
…しかし、これは何かの“策”なのかもしれない。


「「う…うおぉぉぉぉぉぉ~っ!!!!」」


数秒の間迷った挙句、プテラはゲノセクトの身体へと突っ込むことになるのだが…。


──たかが数秒、されど、数秒。
…少々、判断が遅かった。

ゲノセクト「…気付かなかったか…?」

プテラ「…なに…?」

ゲノセクト「私の背中には…砲台が装着されていたということにっ!!」

プテラ「ほ、ほーだい…!?」


『砲台』


古代に生きるプテラには、その単語の意味がわからなかった。


プテラ「な、き、貴様…もしや…!?」

ゲノセクト「例え意味こそはわからなくとも、流石に戦闘の勘が働くか!
そうだ、既に…発射準備は整ったっ!!」ウィーン

プテラ「な、なんだとっ!?」

ゲノセクト「そして、喰らうが良い…。
我が…最大最凶奥義っ!
『テクノ・バスター』ッ!!」

プテラ「…!」

そして、ゲノセクトは自身の最大の技…。

砲台からエネルギー弾を放出する、『テクノバスター』を繰り出した。


ズガガァン…。


カブトプス「兄貴…危ないっ!!」


ボシュゥ…。


カブトブス「…うおぉぉ!」

プテラ「ぐっ、ぐはぁ…。」

カブトプス「あ、兄貴っ!!」

…………………………

モクモクと、白煙が立ち込む。 


──やがて…。


ゲノセクト「ほう、これは…。」

ゲノセクト「穴…。」


プテラが居た場所には、深き穴が広がっていた。


ゲノセクト(あのカブトプス、まだ生きていたか。
奴らを連れ、穴を掘り…どこぞやへと落ち延びたようだな。)

…。

ゲノセクト(フフ、面白い。
穴の先へと渡り、追うのは簡単だが…それでは、楽しめない。)


ゲノセクト(…焦ることはない。いずれまた、相まみえることへとなるだろう。
その時こそ…始末してやることにしよう。
ゲノゲノ。)

…………………………

プテラ「あ、あぐ、げほっ…。」

カブトプス「あ、兄貴ィ…大丈夫ですかぁ!?
くそ、勢いで来たのはいいが、ここは…。
…!
そ、そうだ、ここなら!!
…ここ、ならばっ!!」

偶然か必然か、彼らが辿り着いたのは…。


…ユレイドルの棲む、海岸であったのだ。


カブトプス「あ、姉貴~っ!!」

ユレイドル「ん、どうしたの…?
カブトプス、オムスター。そんなに慌てて。
今日は…プテラは一緒じゃなかったの?」

オムスター「それが…今すぐ来てくださいっ!
あ、無理でしたね…。
とにかく、今運んで来ます。
…兄貴が重症なんですっ!!」

ユレイドル「えっ…?
プテラが…重体…!?」


想定外の事態に、彼女は慄くことになる。

プテラ「う、うぅ…。」

ユレイドル「…!
なんて、酷い傷なの…。
あのプテラが、一体…誰に…?」

オムスター「実は…。」


彼らは、ユレイドルにこれまで起こった全ての事情を打ち明けた。


ユレイドル「そんな、ことが…。」

オムスター「何とかなりませんでしょうか。アイツが居る以上、むこうには渡れねぇ。」

カブトプス「…姉貴がもう、唯一の頼み綱なんです。
無理を言っていることは、重々理解しているつもりです。」

ユレイドル「…。」

ユレイドル「…プテラを救う術、ないこともないわ。」

カブトプス「えっ、なにか方法があるんですか!?
兄貴を救う…術がっ!!」

オムスター「さすが、姉貴っス!!」

一同は、思わず感激する。

ユレイドル「二匹共、ちょっと黙ってて。」

オムスター「は、はい。」

ユレイドル「私はプテラに限りない恩がある。その恩をここで返せること…とても嬉しく思うわ。」

カブトプス「…姉貴?」

ユレイドル「じゃあ、いくわよ。
…プテラ、私の力を…あなたにわけるわ。」

ユレイドル「っ…!」ボコッ

カブトプス「えっ?」

オムスター「あ、姉貴っ!?」


なんとユレイドルは、自身の吸盤を一つ…地中より無理やりに引っ剥がしたのだ。


オムスター「姉貴、なんてことを!
そんなことをしたら、姉貴がどうなるか…わかってるんですかっ!?」

カブトプス「姉貴は、生命エネルギーを吸盤を通して地中から取り入れ…生命活動を続けている。
一歩、間違えれば…。」

ユレイドル「いいから、早くプテラの口に私の吸盤を含ませてっ!!」

カブトプス「え、姉貴…なにを?」

ユレイドル「私の吸盤には、今まで培ってきた栄養分が含まれている。
だから、プテラにその栄養分をわけることさえできれば、彼はなんとか持ちこたえることができると思うわ。」

オムスター「しかしこれは、姉貴にとって諸刃の剣とも言えます。
先ほど俺たちが言ったように、姉貴は地中のエネルギーを頼りに今まで生きてきた。」

カブトプス「だから、少しでもタイミングが遅れてしまうと、地中から得た姉貴自身の栄養源が切れてしまうと…。」

オムスター「恐らく…姉貴は成すすべなしに、死んでしまうことになるっ!!
なぜ、命を張ってまで…兄貴に、そこまでのことを…?」

ユレイドル「借りを返すのは、建前かもね。
本当は、単に…嬉しかったからよ。」

カブトプス「う、嬉しかった?」

ユレイドル「…今は、良いわ。
さぁ、早く…プテラに私の吸盤を!」

オムスター「へ、へぃっ!!」


キュプ。


彼らは、プテラの口に彼女の吸盤を含ませた。


ゴキュ、ゴキュ。


カブトプス「おぉ、これは…姉貴が兄貴に対して栄養分を送り込ませているんですね!」

ユレイドル「う、うぅ…。」

オムスター「あ、姉貴…大丈夫ですか?」

ユレイドル「だ、大丈夫…。
慣れないことでちょっと目眩がしただけよ。」


──そして。

プテラ「う、うぅっ…。」

オムスター「あ、兄貴っ!」

カブトプス「よかったぁ、姉貴!
兄貴が…兄貴が目覚めましたぁっ!!」

ユレイドル「よ、良かったぁ…。」グッタリ

プテラ「…お前が助けてくれたのか。
ありがとう…恩に切るよ。」

ユレイドル「うぅん。私は一つ、借りを返しただけよ。」

プテラ「ここは、海岸…か。
俺は、俺は…敗れたと、いうのか…。
戦闘で敗れたこと、今まで負けたことなんか、なかったと、いうのに…。」

カブトプス「兄貴…。」

ユレイドル「…悲しまないで、プテラ。」

プテラ「…?」

オムスター「姉貴…?」

ユレイドル「私は、初めてあなたに会ってから…ずっと、あなたに憧れていた。」

オムスター「姉貴?」

プテラ「…敗者への慰めのつもりか?
お前。」

ユレイドル「…慰めなんかじゃ、ないっ!」

プテラ「なんだと…。」

ユレイドル「私はこの場を動くことすらできない孤独の身。
先の見えきったこの先の生活、自身の存在意義、疎外感、全てにうち潰されそうで…とても怖かった。」

カブトプス「姉貴…。」

ユレイドル「だけどそんな時に、私は…あなたに出会ったのよ。」

プテラ「だから…なにが、言いたいんだ?」

ユレイドル「あなたに出会ったことで、私の心に一筋の光が差し込んだ。私にも友だちができたという、希望の光が。
私の中の“闇”は、“光”へと、変わった。」

プテラ「…。」

ユレイドル「あなたと話していると、心が安らいだ。あなたの大空を飛ぶ姿を眺めていると、私まで空を舞っているような感覚を覚えた。」


カブトプス(姉貴…。
…そこまで、兄貴のことを…。)


ユレイドル「つまり、あなたは私にとって、掛け替えのない…とても大切な存在なの。
だから…。」

プテラ「だから、戦闘で敗れ去ったからって…それでも良いとでも言いたいのかっ!?」

ユレイドル「…プテラ。
違う、そうじゃないっ!!」

オムスター「兄貴、なにも姉貴はそんなつもりで言ったわけじゃ…。」


プテラ「お前たちは黙っていろっ!!」


カブトプス「は、はいぃっ。」

ユレイドル「プテラ。私は、ただ…。
ずっと、私の側に…居てもらいたいだけなの…。」

プテラ「俺の命を救ってもらったことには感謝する。お前と出会えて本当に良かったと思っている。
だが…これでお前との関係は、もうご破産だな。」

ユレイドル「プ、プテラ…!?」

プテラ「じゃあな、今まで楽しかったぜ。
…もう、会うこともないだろうがな。」


バササッ…。


プテラはそう言い残し、空へと飛び去って行った。


ユレイドル「プ、プテラ…。
…どうして…。」

オムスター「…兄貴自身、感情の整理ができていないのかもしれません。」

ユレイドル「ど、どういうこと…?
それって、どういうことなの…?」


そして彼らは、ユレイドルに語りかける。

カブトプス「兄貴は、こんなに他ポケモンに頼られたことは初めてなんです。
俺らに対しても当初はそっけなかった兄貴、その兄貴がここまで心を開くのは…今までに、決してなかったことでした。」

オムスター「だから、俺たちは思うんです。
兄貴も本当は、姉貴のことが好きで好きで堪らないはずだって。」

ユレイドル「!」

オムスター「だったら、どうしてか。
そこなんです。兄貴はきっと…かつての自分を捨て切れていない。
頼られている今の自分、最凶の存在だったかつての自分、どちらの“自分”にも…甘んじてしまっている。」

オムスター「どっちつかずなんです。本当に不器用なんです。だから、あんな行動に出てしまった。
兄貴に…悪気はないんです。」

ユレイドル「プテラが、不器用…。」

カブトプス「今は、兄貴の心が落ち着くのを待ちましょう。
あんなことを言いましたが…きっと、兄貴は戻って来る。俺たちは、そう確信しています。
そうだろ、オムスター?」

オムスター「あ、あぁっ、そうだぜ!!」

ユレイドル「カブトプス、オムスター…。」

オムスター「元気出してください、姉貴。
俺たちが、付いてます…。
あっ、お腹が空いたからと言って…俺を食べないで下さいね。アハハハッ!!」

──その頃


ゲノセクト(先程の攻撃で体力を消耗してしまった。
なにか取り入れなければ、栄養を…補給しなくては…。)


…。


…“あのポケモン”が良いな…。

ゲノゲノ…。



──悪夢は、再び現れることになる。

~大空~

プテラ「…。」

(俺は、これまでどう生きてきたっけな。そして、これから一体自分をどうしたいんだ?)


今までも、これからも、ずっと同じ様に生きていくつもりだったのに…。


…アイツと出会ってから…。

そうだ、アイツと出会ってからだ!

プテラ(アイツと出会ってから、俺は、俺は…。
『自分らしく』生きることが、できなくなってしまったんだっ!!)

プテラ「…糞っ!」


俺は、俺は…俺はっ!!

プテラは、苦悩していた。

己の生き方に、己の有り方に。

自分を慕ってくれる兄弟分も彼女も、単なる仲間としか思ってはいない。

馴れ合いを通じ、変化を恐れていたのだ。


絶対的な王者で有り続けるのか、それとも…。


ヒュウゥゥ…。


風が、寒くなってきた。
少々…地響きもしたようだ。

ここ数日に渡り、それは続いている。

…………………………

そして、“それ”は…数日後のことであった。

プテラ「お、お前…!」

カブトプス「う、うぅっ…。」


プテラの元へ、傷ついたカブトプスが訪れた。


プテラ「ど、どうしたんだ、カブトプス…そのボロボロの姿は…。
そ、それに…その、手に持っている傷だらけの殻は…。」

カブトプス「…。」


カブトプスは、重い表情を浮かべ俯いた。


プテラ「おい、オムスターの姿が見えないぞ。
オムスターは…オムスターはどうしたんだっ!?」

カブトプス「…オムスターは死にました。
…『奴』に喰われて、です。」

プテラ「!」

カブトプス「今から、俺たちに起こった全てのことを話します。
このままでは…兄貴が危ないんですっ!!」

数時間前、カブトプスとオムスターは例のゲノセクトの襲来にあった。


ゲノセクトは…腹を空かせていたのである。


彼らは対抗したのだが、あえなく撃沈。
オムスターは捕食され、カブトプスは命からがら逃れたのだ。


オムスターを捕食したことにより力を蓄えたゲノセクトは、今度こそプテラを仕留めるべく…こちらへと向かって来るであろう。


…道中、更にポケモンを捕食しながら。

プテラ「…まさか。」

カブトプス「奴は俺が喰い止めます、兄貴は、ここから逃れて下さい!
もう…仲間を失うのは、嫌なんですっ!!」

…。

プテラ「…そうだな、カブトプス。仲間を失うのは、嫌なことだよな。
俺…馬鹿だな。失って、初めて…そのことに、気付かされるなんて…。」

カブトプス「兄貴。」

プテラ「…本当に馬鹿だよな、俺。
あんなことを言ってしまったが…。
“アイツ”は…許してくれるのだろうか。」

カブトプス「ア、アイツって、もしかして…。
姉貴の、ことですか…?」

プテラ「『自分らしく生きられなくなった』とか最もらしくほざいたが…なんのことはない。
…俺にはそもそも、『自分』が本当はなんなのかと言うことも…理解できていなかったのかもしれないな。」

カブトプス「あ、兄貴…?」

プテラ「カブトプス…お前はここに隠れているんだ。
お前の気持ちは嬉しいが…俺はどうしても、行かなくてはならない。」

カブトプス「え、兄貴…まさか…!
『奴』と、ゲノセクトと…戦うつもりなのですか…!?」

プテラ「それが、落とし前って奴だ。」

カブトプス「厶、無茶だっ!
だって、兄貴は現に一度…アイツに敗北しているんですよ…!?」

プテラ「過去がそうだったからと言って、今もそうとは限らない。
…それに、“仲間”を救いたいんだ…俺は。
だから、カブトプス…止めてはくれるな。」

カブトプス「…。」

プテラ「わかってくれ、カブトプス。」

カブトプス「…わ、わかりました。
兄貴がそこまで言う以上、俺は止めません。
例え止めようとしても…不可能なのでしょう…?」

プテラ「フフ、俺のこと…。
俺以上に、よくわかっているじゃあないか。」

プテラ「カブトプス…また、会えたら…。
その時は…一緒に温泉でも浸かろうか。それとも、腹一杯御馳走を喰らおうか?
色々考えてしまうな。ハハ、全く。」

カブトプス「兄貴…。
俺は、いや、俺たちは…兄貴に助けられたこと、決して…忘れません。」

プテラ「…じゃあな。
…俺のかけがえのない、“友だち”。」


バササッ…。


カブトプス(兄貴…。)



──プテラは、こうしてカブトプスの元を去って行ってしまった。

~海岸~

ユレイドル(プテラ…。)

彼女は、未だ彼のことを気にかけていた。

自分の有りのままの心情。
…それをベラベラと語ってしまったことが、彼の気を損ねてしまった。

最初から、他のポケモンのことなど思わなければ良かった。
所詮…自分は一人なのだ。


後悔していた。


同時に、悲しみに溢れ得ていた。


ゲノセクト「…。」


そんな彼女を…物陰で狙うポケモンが一匹。

ユレイドル「ハァ…。」


全ては、元に戻るのかもしれない。
プテラに出会う前の日々に。孤独だった日々へと。

だけど、自分にはそれがお似合いなのだと思う。


ユレイドル「ん…?」


そんな、矢先。


ゲノセクト「…。」


ユレイドル「え、あ、あなた…誰なの…?」



──彼女の前に、“悪夢”が訪れた。

ユレイドル「あなたは?」

──その時、彼女の前へと見知ったポケモンが駆け出して来た。

カブトプス「ハァ、ハァ…。」

ユレイドル「カ、カブトプス。
あなた、このポケモンさんと知り合いなの?」

カブトプス「気を付けて下さい、姉貴!
そいつが…例のゲノセクトなんですっ!!」

ユレイドル「え…?」

カブトプス「兄貴は、ゲノセクトが道中に海岸を通過するのを察知したんだ。だから、兄貴は姉貴の元へと飛び出した。
けれど、未だに兄貴はここにはやって来ていない。なにかあったとしか思えないが、だったら俺の使命はただ一つ。
兄貴に変わって、姉貴をお守り…。」バギャッ

ユレイドル「…!」


…ゲノセクトの攻撃により、カブトプスの身体はゴナゴナに吹き飛んだのだ。


ゲノセクト「長々と、うるさい奴だったな。
次はお前だ。お前は中々美味そうだ。
お前を捕食し…エネルギーを頂くぞ。」

ユレイドル「う、嘘…でしょ…?
カブトプス…そ、そして…私を、食べる…?」

ゲノセクト「ゲノ…ゲノォ~ッ!!!」ババッ

ユレイドル「だ、誰か…。」


自分を助けてくれるであろうポケモンなど、最早存在しないはずだった。


カブトプス…いや、カブトプスはもう…。

オ、オムスター…でも、あの子の実力じゃ、無理だ…。

お、お父さん、お母さん…。

…馬鹿だ、私。私が物心付く前に、もう死別してる…。


ものの数秒で、彼女の脳内はめまぐるしく働く。


ユレイドル(…。)


そして、彼女が最後に祈ったポケモンは…。



…あの、ポケモンであった。




お願い…。


…助けて…。




… プ テ ラ ッ ! !


──次の瞬間。


「「…待てっ!!」」


ガキィン…。


ゲノセクト「…!」ビリビリ


ゲノセクトの身体を、静止させる者が一匹。


ユレイドル「え、そ…その、声…は…!!」


そう、その…ポケモンとは。


プテラ「…フフッ。」


ユレイドル「プ…プテラッ!!」



そう…プテラで、あった。

プテラ「ユレイドル、この前は色々心にもないことを言ってしまい…悪かったな。
…助けに来たぜ。」

ユレイドル「プ…プテラ。
そ、その、担いでいるポケモンは一体…?」


プテラは、とある年老いたポケモンを抱えていたのだ。


プテラ「…こいつの名はアーケオス。
落ちぶれた、かつての空の王さ。」

アーケオス「ワ、ワシが、こんな小童にぃ…。」

プテラ「かつての栄光など見る影もない。老いたお前など、俺に勝てる訳がないのだ。
お前はさしずめ…『夢追い爺さん』だ。」

アーケオス「ワシは…ワシは…。」

プテラ「仕入れた情報によると、コイツは出しゃばり出た俺を始末したかったらしいな。しかし、当然ながらコイツは俺には敵わない。
だから、コイツは…ある行動に出た。」

アーケオス「…グウゥゥ。」

ユレイドル「ある、行動…?」

プテラ「1000年に一度目覚めるとされる、ジラーチの力を用いたのだ。
ジラーチは…あらゆる願いを叶えることのできる能力を持つ。」

ユレイドル「…ジラーチ…。」

ゲノセクト「…。」

プテラ「今年はちょうどジラーチが目覚める年。
そこに目を付けたアーケオスの『私の代わりにプテラを倒してくれ』という願いは、ジラーチを通し遥か未来のそこのゲノセクトと接触し、ジラーチの力で増長され…ゲノセクトを現代へと呼び寄せた。」

アーケオス「うぅ…。」

プテラ「そのゲノセクトはこの時代で生まれたが、未来にて化石で発見された後…何者かに改造強化され、凶悪兵器として復活を遂げた。
そして、ゲノセクトは再び元の時代へと帰って来たということだ。」

ユレイドル「そんな、ことが…。」

プテラ「来な、ゲノセクト。今度は前のようにはいかねぇ。ぶっ倒してやる。」

ゲノセクト「フン、以前とは何かが違うようだ。私をガッカリさせるなよ。
…行くぞっ!!」

ゲノセクト「…ふん。」ウィーン

プテラ「!」


ゲノセクトは身体を折り畳み、飛行に特化した姿へと…フォルムチェンジを遂げた。


プテラ「なるほど、てめぇも空を飛べるって訳か。」

アーケオス「ゲ、ゲノセクト…そいつをやってしまえっ!
若造の思い上がりごと、粉々にしてしまえぇっ!!」


バサッ…。


二匹は、空へと舞い上がった。

かくして今ここに…闘いの火蓋が、切って落とされたのだ。

プテラ「…ふんっ!」

ゲノセクト「…ゲノゲノ~っ!」


キィン、キィン…。


両者の身体がぶつかりあい、火花が飛び散る。


プテラ「…オラァッ!!」ヒュヒュン


プテラは自身の翼を広げ、ゲノセクトに体当たりを仕掛けるが。


ゲノセクト「ゲノゲノ…舐めるなよ…。
効くかぁ、こんな…ものぉぉっ!!」


ガシィ。


プテラ「ぐっ…。」


ゲノセクトは、それを容易く受け止める。

──動揺した隙を、見逃さない。


ゲノセクト「ゲノ~っ!!」ドガッ

プテラ「うぉっ…。」


プテラは思わず、よろけてしまうことになる。


ユレイドル「プ、プテラァ~、頑張って~っ!
そんなポケモンになんか…あなたが負けるはずがないんだからあぁぁぁぁ~っ!!」


ユレイドルは、彼女なりに彼を応援していた。


プテラ(ア、アイツ…。
…フフ。)

プテラ「…うおぉぉっ!!」ガシィッ


プテラは、なおゲノセクトへと突っかかる。


ユレイドル(プテラ…!)


ゲノセクト「つっ…!」

アーケオス「どうした、ゲノセクト!
お前の力は…そんなものじゃないはずだろおぉっ!?」

ゲノセクト「そ、そうだ…。
私は未来の最凶兵器。まだこんな程度で、やられる筈が…ないのだぁっ!!
…ゲノゲノォォォォ!!」ガシイッ

プテラ「…!」


二匹の攻防の応酬は、停滞することはなかった。

ユレイドル(プテラ…。)


争う二匹の姿を、ユレイドルは恐れはしなかった。
ただ、奇妙な感覚が彼女には湧いていた。


『憧れ』とも言うべき感情。

空を自在に舞う二匹の勇姿に…それを重ねていたのだ。


どちらが勝とうが負けようが…彼女は、“運命”に身を委ねる気でいたのだ。


──そして、決着の瞬間は、静かに訪れる。

ゲノセクト「テクノ…。」


その“瞬間”を、見逃さなかった。


プテラ「いわ…なだれえぇぇっ!!」ドガガガ

ゲノセクト「なっ…!!」


彼が岩礫を打った、その方向とは。


アーケオス「な、一体どこに向かって打ってやがるんだっ!?
ハハハ、若造…耄碌しやがったなぁっ!!」

ユレイドル「いや、違うわ!」

アーケオス「え?」

ユレイドル「プテラは、最初からこれを狙っていたのよ。
…見て、彼が岩礫を打った…その方向をっ!!」

アーケオス「あっ!
ま…まさか…!?」

カポッ…。


ゲノセクト「し、しまった…。」

アーケオス「あぁ、ま、まさかぁっ!?」

ユレイドル「そう、プテラの目的は…!」


ボガァンッ。


ゲノセクト「ゲ…ゲノラァ~っ!?」

プテラ「岩礫をお前の砲台にはめ込み、テクノバスターを暴発させるのが目的!
自身の必殺技が…己を穿つとはな!!
そして…。」


ボオォォ…。


プテラは、自身の牙に炎を纏わせる。


ゲノセクト「や、やめろぉぉぉぉっ!!」

プテラ「ほのおの…。」

ゲノセクト「う、うおぉぉぉぉっ!!」


…その時、であった。


ゴゴゴゴ…。


地面が…大きく揺れ始めたのだ。


プテラ「…キバアァッ!!」ボオォォ


ガシイィッ…。


ゲノセクト「ゲ…ゲグラァ~ッ!!?」

ドサァ…。


断末魔をけたたましく上げ、未来の兵器…ゲノセクトは地に伏し、敗北を遂げた。


今ここに、勝負が決したのである。


プテラ「ハァ、ハァ…。」


ユレイドル(プ、プテラが…。
勝った…。)


…しかし。

ボゴォン…。


プテラ「な、なんだぁ…!?」


なんと、突如上空より…隕石群が降り注いたのだ。


アーケオス「…。」


アーケオスは、既に息絶えていた。

…流れ石を受けてしまったのである。


プテラ「せめて、かつての栄光を抱えて…安らかに、眠れ。
それより、あいつは、どこに…。」


プテラ(…!)


ユレイドル「うっ、げほっ…。
ハァ…ハァ…。」

プテラ「ユ、ユレイドル…。
…ユレイドルウゥゥゥゥッ!!!」

大地が裂け、吸盤ごとユレイドルは放り出されてしまっていたのだ。


…このままでは、長くは持たない。


ゲノセクト「ゲ、ゲノゲノ…。」

プテラ「ゲ、ゲノセクト…ユレイドルを助けるのを、手伝ってくれっ!!」


──だが。


ボコォッ…。


プテラ「なっ…。」

隕石の影響で大地が盛り上がり、そのまま…ゲノセクトの身体を飲み込み始めたのだ。

ゲノセクト「さ、さらばだ、“好敵手”…。」


バゴォン…。


そのまま、ゲノセクトは地中へと…飲み込まれていった。

プテラ「くっ…。
オムスター、カブトプス、アーケオス、ゲノセクト…皆、死んじまったっ!
この様子では、他のポケモンたちも…。」

ユレイドル「プ、プテラ…。」

プテラ(…もうどうにも、ならないのかっ!?
だったら俺一匹が、なんとかしてや…。)


──その時。


「「無駄だよ。」」


プテラ「!」



突如、謎の一つの声が響いたのだ。

プテラ「お、お前は…。
…そうか、お前が…そうなのか。」


声の主は、ジラーチであった。


ジラーチ「この星は隕石の襲来により、大幅な地殻変動が置き、大規模な氷河期へと突入するんだよ。
これは運命。運命には逆らえないんだ。
例え、僕の能力であったとしてもね…。」


ヒュンッ…。


そう言い残し、ジラーチは消え去っていった。


プテラ「そうか、運命には、逆らえないのか…。」


…。


プテラ「…おい、ユレイドル。」

ユレイドル「え…?」

プテラ「お前を助けることは、すまない、無理だ…。」

ユレイドル「いいのよ、ありがとう…。」

プテラ「そしてもう一つ、俺はお前に謝らなければならないことがあるんだ。」

ユレイドル「え…?」

プテラ「あの時俺をお前が助けてくれた時、本当は…とても、嬉しかったんだ。
カブトプスたちもまだまだ弱くて、今まで俺を助けてくれようなんて奴、他に居なかったからな。」

ユレイドル「…。」

プテラ「今まで俺は、“自分”を捨てきれなかった。粗暴に、本能のままに生きてきた自分を捨ててしまえば、もう俺には…なにも残らないんじゃないかって。」

ユレイドル「プテラ…。」

プテラ「…でも、もう、皆…居なくなった。
この世界には、俺とお前…二匹が残された。
だから、もう…“嘘”は付かない。」


ドゴォン…。


隕石群は、更に降り注ぐ。


プテラ「ユレイドル…。
お前に、最後の罪滅ぼしをさせてくれ。」

ドサッ…。


ユレイドル「あ…。」


プテラは、ユレイドルを己の背中へと載せたのだ。


プテラ「お前、いつか言ってたよな…?
『空を飛びたい』って。
その願い、叶えさせてやる。
…最期までな…。」

ユレイドル「プテラ…。」


バササッ…。


“二匹”は、荒れ狂う上空へと飛び立った。

バササッ、バサ。


ユレイドル(これが…。)

プテラ「へへっ、どうだ…ユレイドル?」

ユレイドル(ああ、これこそが…。)


生まれて初めて感じる感覚。


これが、空を飛ぶことなんだ。


私が憧れていたものは…これだったのか。


…残された時間、ずっとこの感覚を味わっていたかった。



──永遠に、忘れたくなどなかった。

──やがて…。


ユレイドル「…うっ。」

プテラ「…ユレイドル?」

ユレイドル「ごめん、プテラ…。
どうやらもう、あなたとお別れするときが来たみたい。」

プテラ「ユレイドル、縁起でもないことを言うな。
お前はずっと…俺と一緒に居るんだっ!!」

ユレイドル「だけど、一つ…言っておきたいことがあるの。」

プテラ「ユレイドル…。
そ、それは、なんだ…?」

ユレイドル「私は今、とても嬉しいのよ。
プテラ…あなたは今、私のことを、呼んでくれている。…『ユレイドル』って。
今まで頑なに“アイツ”とか“お前”って呼んでたのに、今、あなたは私のことをとても思ってくれている。
それだけなのに、とても…。」

プテラ「ユレイドル…!!」


ユレイドル「うれ、しい…。」


プテラ「おい、ユレイドル…ユレイドルッ!!」


ユレイドル「…。」


しかし、もはや…彼女の口は開くことはなかった。



「「ユレイドルウゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!!」」

ゴゴゴゴ…。


プテラ「ふっ、一時代もこれで終わりってか。」


プテラが見上げた先には、この星全体をも包み込もうとする巨大な隕石。

彼は、自身の生命の終わりを…。

自らが築き上げた時代の終わりを悟った。


…。


ボオォォ…。


プテラ(思えば…色々なことがあった。)

プテラ(…ああ。)


一瞬にして、様々な記憶が駆け巡った。


生まれた時。

やんちゃしてた幼少期。

空の王と上り詰めるべく暴れ回った血気盛んな若き時。

命を助け、自身を慕ってくれた二匹のポケモン。

ふとしたきっかけで知り合ったユレイドルのこと。

ゲノセクトとの交戦。

仲間の死。



そして…。

プテラ(なあ、ユレイドル。)

俺は、誰かと一緒に死を迎えるなんて考えたこともなかった。

死ぬ時は一人だと思っていたからな、俺は…。

だけど、もう、違う。


俺には良き仲間、いや…『友だち』ができたんだ。


やっと、そのことに気づけた。

本当に、馬鹿だよな、俺…。

馬鹿で、不器用で、どうしようもない俺だけど…。


…。


最後に一つぐらい、言える権利はあるはずだ。


プテラ(父さん、母さん、カブトプス、オムスター。…ユレイドル。
本当に、本当に…。)








…ありがとう。











ドゴォン…。





──巨大隕石が、今…この星全体を包み込んだ。

~数億年後~

かつての大幅な氷河期もとうに終焉を迎え、新たなる時代では…。

ポケモンと、当時は存在しなかった人間と言う種が共存を果たしていた。

人は、ポケモンをペットとしたり、仕事仲間としたり、時には戦わせながら、今日もまた良きパートナーであり続ける。


──そして、ここはとある地方、とある発掘現場。


この地で、数人の作業員たちが…“なにか”を見つけたようだ。

作業員「おい、ポケモンの化石が見つかったぞ!」

作業員「本当だ、しかもこれは…。
ひみつのコハクと、ねっこのかせきだな。
しかもこの化石…折り重なっているぞ。何だか、微笑ましいな。」

作業員「よし、さっそく復元させてみようか。古代の情報が、なにかわかるかもしれない。」


作業員たちは、この発見を心から喜んだ。

時代は移れど、思いは消えず。



プテラとユレイドル ~完~

これにて完結です

他掲示版で投稿したものを、加筆修正を行い投稿しました

トリップを変えましたが、本人です

稚拙な表現やお見苦しい描写がありましたら、すみません

ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました

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