部屋でくつろぐ二人を見て、にこは不満げに鼻を鳴らすが、侵入者は気に留めた様子もなく、にこにことしている。
穂乃果「にこちゃんおっそーい!」
絵里「先にいただいてるわよ。にこ」
勝手知ったる他人の家とばかりに、にこ愛用の器を引っぱり出してのん気に三時のお茶を楽しんでいた。
にこ「今日は何なのよ?」
髪が乱れるのも構わずにリボンを外して、茶器の横に叩きつけるように投げ出す。
にこ「どうせ何かやらかしたんでしょ」
決め付けて睨みながら髪のリボンを完全に解いてしまって、ソファーに腰を下ろし、大げさに足を組むと、腹立たしげな風が伝わったのか、横に座られた穂乃果の体に緊張が走った。
穂乃果「ぅええ?何の事かな。にこちゃん?」
とぼけて見せようとするが、唇の端が妙に固くなっているのをにこは見逃さない。
にこ「どうせ、ことりと希にお仕置きされて家に帰れないんでしょう」
穂乃果「イヤ、別に、何もないよね? 絵里ちゃん?」
絵里「ええ。単に遊びに来ただけだわぁ」
絵里は割合手際よく、カップに茶を注いでにこに手渡してくる。
お茶だけ入れてミルクの配分は相手に任せると言うあたり、わかってきたなとにこは思うが、それほどにこの自室に入り浸っている証左でもあった。
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穂乃果「そう、そうだよ。友達の家に遊びに来ただけだよね!」
にこ「友達ねぇ? 私には不法侵入者が二人ほど見えるだけだけど」
お茶は少し苦かった。まだ絵里では微妙な茶葉の入れる時間を調整するのは難しいようだ。次には、ここをキチンと教えなければと、にこは心の中にメモしておくことにした。
穂乃果「またにこちゃんったらー」
絵里「にこはいつも面白いわね」
かなり本気の入った嫌味も、この二人組には通用しそうにない。そういえば絵里はいちいちあやまっていた可愛い時期もあったな、と思い出す。
にこ「特に用が無いってことはわかったわ。そのかわりお茶が済んだらまっすぐ帰ってよね」
にこは背をだらしなく持たせかけながら、肘をついた格好で言った。ちらりと二人の視線が寝室に行ったのを、にこは見逃さない。
駆け出しアイドルとして覚悟を決めたにこのアパートは人を泊めてもある程度の余裕があり。何度も目線が寝室へ向かうのは、今日も二人は泊めてもらうのを当てにしてのことだろう。
穂乃果「あ~、えーっとね」
絵里「実は……」
黙ったままのにこにごまかしは通じないとあきらめたのか、恐る恐ると言った風で切り出してきた。
穂乃果と絵里は交互ににこのアパートににやってこようということになった経緯話してくる。
にことしてはいちいち聞くまでも無いことだったが、穂乃果はいつも通りことりのドが過ぎる求愛に対して、逃げてきており。
絵里は絵里で全くいつもと変わらず、希のスピリチュアルなお遊びに付き合わされて、気まぐれが通り過ぎるのをやり過ごそうと、部屋を飛び出してきたのだった。
穂乃果は絵里を当てにし、絵里は穂乃果を当てにしていたところ思惑が外れ、最後の手段としてにこのところを尋ねて来たらしい。
にこ「いやよ」
それが二人の話を聞いたにこの第一声だった。
穂乃果「ええ!?ぅ絵里ちゃん!どうしよう!」
絵里「そんな…一晩だけでいいの。一日もしたら希は忘れてしまうから!その間をやり過ごすだけでいいのよにこぉ…」
絵里のほうが穂乃果よりもよほど家に帰りたくないのか、にこの返答に気色ばんで詰め寄ってくる。
にこ「だってねぇ。私の部屋を何かあるたびの避難所にされたら、あんたらを三日に一度は泊めないといけなくなるでしょうし」
穂乃果「私はにこちゃんのうちに泊まるの楽しいよ?」
にこ「う///…まぁ。遊びに来てくれるのだって、本当を言えばうれしいわよ。でもね、だからこそ便利屋みたいに扱われるのは嫌なの。そんなの対等の関係じゃないでしょうに」
穂乃果「ううぅ、そう言われると……」
根が真面目な穂乃果は、にこに正論を持って諭されて考え込んでしまう。
絵里「…………にこの言うとおりよ。穂乃果、今日のところはあきらめましょう?」
穂乃果「うー、そうだよね、私達友達だもんね。にこちゃんの言うとおり甘えて便利屋につかっちゃいけないよね」
絵里「そうよ。今晩は二人で野宿でもするわよ。にこに迷惑をかけるわけにはいかないし…ね」
穂乃果「にこちゃん!ごめんね。私、友達ってことに甘えてた、ごめんね」
穂乃果は目尻に涙すら浮かべている。
全く真面目で融通が利かないんだから、とにこの目も潤みそうになる。
スクールアイドルとして輝けるきっかけを作ってくれた。部員一人のアイドル研究部が存続できた。
μ'sでも、勿論卒業してからも二人をずっと近くににこは感じていた。
穂乃果「にこちゃーん、ごめんね」
絵里「それじゃにこ、私たちはこの辺で失礼するわ、穂乃果行くわよ」
黙りこくったにこに耐えられなくなったのか、絵里は腰を上げ、穂乃果を促した。
穂乃果「うん……、行こっか」
にこ「…仕方ないわねぇ。話は終わったわけじゃないわ。話中に立ち去るなんて失礼じゃない?」
目を拭って立ち上がった穂乃果を、手を突き出して制した。
にこ「都合よくは扱われたくないけど、二人を見捨てるなんて言ってないわよ」
絵里「えっ」
穂乃果「それじゃあ」
にこ「泊めてあげるつもりがないのは変わらないわ。でも、問題の解決には協力は惜しまないわよ。だって…と、友達同士でしょ、私達」
穂乃果と絵里が困り顔を見合わせて、次の瞬間、破顔した。
絵里「にこっ」
穂乃果「にこちゃんっ」
感動し、座ったままのにこに圧し掛かるように飛びついてくる。
にこ「重いわよっ!二人して!」
穂乃果「もうにこちゃん!」
絵里「ちょっと感動しちゃった」
にこ「もういいわよ。困った時はお互い様でしょ」
――――
絵里「穂乃果、ねぇ、ひょっとして後悔してる?」
穂乃果「あたりまえだよぉー。あー、にこちゃんがいじめっ子なの忘れてた!」
絵里「にこはね本当…たまに、信じられないぐらいイジワルよね 」
穂乃果「あっ、絵里ちゃんっ、あんまり大きな声出すと、にこちゃんに聞こえるから」
絵里「う…そうよね 」
丸聞こえよ、とにこはよほど言いたかったが、上機嫌のため見逃してやることにした。
すぐ横のベッドの上で二人は飽きもせず恨み言を重ねているが、にこは気にすることなく、ボウルの中の液体を泡立てることに専念する。
穂乃果「あ~、あれを使うんだ。嫌だなぁ…」
絵里「い…でも、私なんて、お尻よ、お尻。」
穂乃果「絵里ちゃんはいいじゃん。私なんて毎日家でことりちゃんに弄られてるし」
絵里「けど…そもそも穂乃果はお尻苛められるのが嫌でにこに相談したんでしょ?それを、いいじゃんって何よ?」
穂乃果「絵里ちゃんだって、希ちゃんに食べもの塗りたくられてエッチするのが嫌で逃げてきたんでしょ!一緒だよ!」
絵里「いやだって、おかしいじゃない食べものよ? 食べものは飢えを満たし、命を支えてくれる尊いものよ。エッチなことにつかったりしたらいけないっておばぁさまも 」
穂乃果「じゃあ、やっぱりお尻でいいよね♪」
本日にこの用意したクリームは、特に乳脂肪分が高いものだった。
にこの好みとしてケーキを作るときは、乳脂が三割前後のものを、サラリとした食感を与えるように泡立ても控えめにする。
今日はお遊びに使うので、乳脂肪分は奮発して何と五割。時間が経っても溶けにくいように、バターに近いくらいになるまで執拗に掻き混ぜて、ペー ストを思わせるほど濃く仕上げている。
絵里「穂乃果あなた」
ガンッ ――――――――――――――――――――――――――――――――――
ホイッパーをボウルに打ち付ける金属音が寝室に響き渡ると、言い合っていた二人がとたんに大人しくなる。
にこ「始めるにこ?」
アイドルモードでおどけるその迫力に、穂乃果が思わずと言った感じで、手を伸ばして絵里の袖口を掴む。
にこ「ええー? 穂乃果ちゃん 、絵里に触れたりして。そんなに絵里にイジメてもらいたいんだ ~」
穂乃果「うええっ、イヤッ、それは――――」
いやらしく指摘すると、あわてて熱いものに触れでもしたように手を放す。
絵里「(ねぇ……、にこ…。ちょっとい?)」
にこ「(何よ?ひょっとして怖気づいた?)」
絵里「(いや、その、私、実は希にはイジメられる一方で、実は―――、その攻めというものが全然わからないのよ…どうしたらいいか…)」
にこは顎に手を当てて考え込む。
今の絵里は今はなつかし生徒会長時代とは違い、イジメてくれオーラを全身から出している「受け」そのもの。
相手役の穂乃果にしても、明るく能天気に振舞ってはいるが、性的な推しにだけは弱いこれまた「受け」そのもの
。
自分の方が家では酷い目にあっていると言い張る二人を、自分の方がと言うなら、やられていることを相手にやってあげたら、どっちのほうが苦労してるかわかるんじゃないの、と強引ににこが話を持っていったのだった。
両者とも「待ち受け」タイプとは言いざとなると、どうしていいかわからなくなることまでは、にことしても想定外だった。
しばらくにこは考え込んだが、ふとあることを思いついたので、言ってみることにした。どちらにしても、にこがリードしないことには、このままだと「受け」同士で、話が全く進みそうになかった。
にこ「絵里、あんたはしょっちゅう希にイジメられてるわよね」
絵里「う…、それはもう、毎日のように……、なんだか日を追うごとに酷くなっていっているような気がするわ」
にこ「じゃあ簡単なことよ、絵里をイジメる時の希に成りきればいいのよ。散々やられているなら想像がつくでしょうに。絵里、希の事を本当に好きなのなら出来るはずよ」
絵里「私が希に……、希が好きならば 出来るはず……」
絵里は迷うように数瞬視線を泳がせたが、表情が段々と別人のようになっていく。
穂乃果「ねえ……、ちょっと絵里ちゃん」
絵里「穂乃果ちゃん」
穂乃果「ええっ」
何処を見ているのか分からない視線に、忘我の心地で、心を宙に遊ばせて微笑む表情は、完全に東條希だった。 曇った瞳で色香が薫るように流し見られ、名を呼ばれただけで穂乃果は腰がくだけて動けなくなってしまっている。
絵里「穂乃果ちゃん、コレ、どうやって使うかわかる?」
横合いからにこが生クリームで満たされた容器を差し出すと、絵里は硬直した穂乃果の手を掴んで引き入れた。
穂乃果「うあっ、うああっ、ぬるぬるしてるっ」
悲鳴を上げる穂乃果の手をボウルから引き上げると、手の平を合わせて、間で擦り潰す。握り合った二人の手の隙間から、圧された白いペーストが流れ出てくる。
穂乃果「あう…」
絵里「ぬるぬるしてて気持ち悪いやん? それとも穂乃果ちゃんは気持ちいいのかな、クスクスッ」
絵里は元々希に対して強い憧れを持っていたせいか、希を演じてなりきることに、ハマってしまったようだった。
絵里「穂乃果ちゃんはコレでどうやって遊ぶのかわからないの?コレはね、体に塗って遊ぶものなんよ。」
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