財前時子「アルバイト? この私が?」 (62)

(´・ω・`)ときこさまー

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ちひろ「あら、郵便受けにチラシ……」

ちひろ「駅前のスーパーのバーゲン……、電気屋の売り尽くしセール、自衛官募集……。あら?」

ちひろ「新聞配達のアルバイト募集。……懐かしいなぁ、まだこういうの募集してるんだ」

ちひろ「私は朝起きれなかったし原付免許持ってなかったからしなかったけど……」

ちひろ「うぅ、寒い寒い。早く中に入ろう、っと」

ちひろ「プロデューサーさん、こんなチラシ入ってましたよ」

P「はい? 新聞配達バイト募集……。あー、懐かしいですねぇ」

ちひろ「プロデューサーさんは何かアルバイトしてましたか?」

P「俺は高校の時はファミレスのバイトからそれこそ新聞配達までやったもんですよ」

ちひろ「わぁ! 学生の頃から早起き出来てたんですね!」

P「原付免許持ってなかったんですけどチャリを本気で転がしたもんです。ちひろさんは?」

ちひろ「私は知り合いのお店にたまーに出向いて手伝ってましたね」

P「……っても、アイドル事務所にこんなチラシ持ってこられてもなぁ」

ちひろ「いつもの所に置いておきますね」

ガチャ

時子「戻ったわよ」

ちひろ「あら、時子ちゃんおかえりなさい。あっ……」ヒラリ

時子「ほら、鈍臭い事してないの。……ん、チラシ」

ちひろ「電気屋さんのもありますよ」

時子「それ貸してくれるかしら。ちょうど加湿器を見ておきたいのよ


P「あ、ときこさまー」

時子「床へ這いつくばってなさい。……なによこれ、加湿器載ってないじゃない。あんたみたいに役に立たない愚図ね」

P「それはそうと、それの下のチラシ見てくださいよ」

時子「新聞配達? それがどうしたのよ」

P「時子さんはなんかアルバイトやってなかったんですか?」

時子「ハン。この私が? そんな小遣いのない馬鹿共みたいな事、するわけないじゃない」

P「悪かったですね、月2000円で」

時子「で、どうしたのよ。こんなものが」

P「いや、ちょっと気になっただけで」

時子「そんなくだらない事に興味向けてないで、少しは私を悦ばせるなにかを用意してきなさい。それがあんたみたいな下僕が唯一行える私への奉仕よ」

P「はいはい。……あっ、ちひろさん、そういえば◯×テレビから声かけて貰った例のアレって」

ちひろ「えーっと……。ああ! アレはまだ返事してないですよ」

P「じゃあ人が決まったと連絡お願いします」

ちひろ「はい! わかりました!」

時子「ちょっと、勝手に話を進めてるんじゃないわよ」

P「いやー、ちょうど欲求不満気味な時子さんにちょうどいい大きな仕事が入ってたのを思い出して」

時子「そう、ね。たしかにここの所規模の小さい仕事ばかりで飽き飽きしていた所なのよ」

時子「下僕が用意したステージを軽々クリアして見せるのが主人の勤めだわ」

P「そう言ってくれると思ってましたよ」

P「あぁ、あと明後日のレッスンはキャンセルになりましたんで、お休みに変更です」

時子「へぇ。あんたにしては伝達が早いじゃない。まるで今思いついたかのようね」

P「ぎくっ……」

時子「…………」ギロリ

P「それで、休みにはなったんですけどひとつお願いがありまして……」

時子「……なによ」

P「楓さんの友人が経営してる雑貨屋さんがですね……」

時子「拒否」

P「そのご友人のご友人の結婚式に参加しないといけないのに人が足りなくて困っているそうなので……」

時子「ちょっと、この豚。聞こえているならいますぐその小汚い額を床に擦り付けながら私の靴を舐めなさい」

P「ちょうどいい機会なのでアルバイト経験も兼ねて1日の間お願いしますね」

時子「…………チッ」

ちひろ(押し切った……)

時子「フンッ! ほら、これ出先で受け取った書類! アンタの態度が気にいらないからもう帰るわ!」

P「ああ、おつかいありがとうございます」

時子「この私にこんな雑務を押し付けるなんて、下僕としての自覚が足りていないのよ。……こんどみっちり主従関係というものを叩き込んであげるわ」

P「じゃ、お疲れ様でした。明後日は朝9時までに××駅の角の方にある雑貨屋さんに来てくださいね」

時子「チッ……!」

バタン!

ちひろ「……だ、大丈夫ですか? 怒らせちゃったみたいですけど」

P「いえいえ、全然怒ってないはずですよ。ときこさまにお願いをする時は一方的に押し付けるようにすると文句言いながらやってくれるんで」

P「案外押しに弱いんですよ」

ちひろ「流石、心得てますね……」

P「ええ、これくらいじゃないとあの人の下僕は務まりませんからね」

ーー当日ーー


時子「…………」

楓「いえーい」

P「ふぅー」

時子「ねぇ、アンタはともかく、なんで楓までいるのよ」

楓「楓ちゃんじゃありません。1日店長です」

P「流石に時子さんひとりにお店の事全てを任せるわけにはいきませんから」

楓「だからアイドルになる前からよくここのお手伝いをしていた私が1日店長です」

楓「あ、ちなみに時子様を推薦したのは私ですよ?」

時子「か、え、でえぇー……! アンタの仕業かぁぁー………!!」グニー

楓「いひゃいへす。ほっへはらひてふははい」

P「じゃあ楓さん、後は任せました」

楓「はい。任されました」

時子「…………」

楓「さ、時子様。一緒にお店を切り盛りしましょう」

時子「却下」

楓「ちゃんとお給料も出ますよ」

時子「いらないわよ」

楓「じゃあ、時子様は今日1日ただ働きと言う事で」

時子「ちょっと」

時子「給料って言うのは人の働きを認めて、それを金という形で受け渡すものよ」

時子「この私を認められないというのは、聞き逃せないわ……!」

楓「じゃあちゃんと働いてくださいね」

時子「……ふんっ!」

楓「Pさんの言った通り、強引に押せば合意してくれる。フフ……」

時子「楓! 早く来なさい!」

楓「はーい」

ーーーーー………


時子「…………」

楓「じゃあ、もう一回やりますよ。これで四回目ですからね」

時子「…………」

楓「商品の大まかな分類のボタンを押して、商品の金額を打ち込んで精算……」カチャカチャカチャカチャカチャカチャタッーン! チーン

楓「ね、簡単でしょう?」

時子「……ゆっくりやりなさいよ」

楓「レジ打ち覚えられないときこさま本当に可愛いです」

時子 「なんで普段すっとろいあんたがこんな機械を手早く扱えるのよ……」

楓「それはもちろん、1日店長ですから」

時子「理由になってないわよ!」

楓「ま、こっちの電卓で計算して商品の入荷表に正の字を書き込んでいくのもありますよ」

時子「さっさとそっちを寄越しなさいよ!」

楓「いやぁ、レジ打ちが出来ると今後困らないかなぁ、って」

時子「こんなもの、後にも先にも一度きりで十分よ」

楓「そうですか? じゃあ、そろそろ開店時間なので朝礼でもやってみますか」

時子「アァン? そんなくだらない事に時間をついやしてないで、他にやる事があるでしょう」

楓「ぱちぱち、朝礼、始まりまーす」

時子「マイペース過ぎよ、あんたねぇ!」

楓「えー、ときこさまはアルバイトは初めてですが、リラックスして行きましょう」

時子「言われるまでもないわよ」

楓「それでも、お仕事という事には変わりません。普段アイドルとしてのお仕事と同じようにカメラが回っているという気概をもって取り組みましょう」

時子「あ、あんたにしてはまともな事言うじゃない……」

楓「以上、1日店長楓ちゃんからでした」

時子「なんであんた自分の事ちゃん付けするのよ」

楓「私、店長って一度なってみたかったんです」

楓「あ、11時です。では、お店番お願いしますね」

時子「ん、あんたはどこに行くのよ」

楓「休憩です」

時子「おい、1日店長」

楓「接客の基本は笑顔ですよ?」バタンッ

時子「ちょっと! どこ行くのよ!」ガチャガチャ!

時子「クソッ! 鍵付きの扉じゃないのに開かない……! あいつどれだけの力で抑えてるのよぉぉ……!」グギギギ…!

ーーーーーー………


時子「…………」

時子「……はぁ」

時子「何やってるのよ、私……」

< …………

時子(ん、下衆な視線でジロジロ中を見てる男……)

時子(あんた相手に売るもんはないのよ。帰りなさい……!)

< ……!

時子「逃げたか……。よし」


楓「よし、じゃないです。お客様を威嚇しちゃ駄目ですよ」

時子「なんでこの私があんな奴らに媚へつらわなきゃあならないのよ」

楓「私達、店員。お客様 いず ごっど」

時子「……チッ。何年前の思想よ」

楓「さぁ? いつくらいですかね」

時子「って、そんなドアを中途半端に開けて覗いてないで出てきな……」

バタンッ!

時子「…………」

ーーーーーー………


時子「……案外、客って来ないものなのね」

時子「……私にはこの時間も惜しいと言うのに、何をやっているんだか」

カランカラン

女性A「ここ? おしゃれな雑貨屋さんって」

女性B「そうそう、可愛い小物とかいっぱいあるのよー」

時子「クッ……!」

楓「ときこさま、いらっしゃいませ」

時子「う…、い、い……」

時子「いらっしゃいしゃいせ……」

女性A「……ぷっ」

女性B「ちょっと、悪いよ……! ふふ……!」

時子(死にたい)

女性A「ふぅ……。ねぇ、あっちのストラップとか見ようよ」

女性B「うん」

楓「ときこさま、お客様が何をお探しか、何を求めているのか、満足して貰うためにはこっちから話しかけるのも大事ですよ」

時子「……ゆっくり選ばせてやりなさいよ」

楓(耳まで真っ赤)

女性A「すみません、これください」

時子「……はい。765円が一つです……」

女性B「……あれ? アイドルの時子様ですよね?」

時子「……そうよ」

女性A「なんで雑貨屋でお仕事を?」

時子「……ありがとうございました」

女性B「あ、はい……。帰りますね……」

カランカラン…

時子「…………」

楓「お客様を追い出しちゃ駄目ですよ」

時子「……うるさいわね! うるさい! うるさい! うるさいっ!!」

時子「そもそも私はこんな客商売なんて初めてなのよ! 楓! あんた手本を見せなさいよ! 手本を!」

楓「ふふ、なら仕方ないですね。私の、1日店長の実力をお見せしましょう」

カランカラン

時子「ほら! ちょうど来たわ……」

チンピラ「…………」

時子「よ……」

楓「いらっしゃいませー」ペコリ

チンピラ「ああ、すんません。おじょ……、中学一年生くらいの女の子にウケるようなもんあるっすかね?」

楓「はい。その女の子は可愛いものはお好きですか?」

チンピラ「そりゃあもう! ペットの錦鯉なんかも可愛がってるんすよ」

楓「あら、それは可愛らしいですね♪」

時子「ちょ、ちょ、楓来なさい。楓!」

楓「なんですか? お客様を待たせるのはよくないですよ」

時子「何あの変な柄のポロシャツの男。どう見てもアッチじゃないの」

楓「……そうですか?」

時子「わかった、あんたの目は節穴ね。この節穴女」

楓「もう、接客に戻りますからね」

時子「ちょっ」

楓「お待たせしました。すいません、彼女新人なもので」

チンピラ「いえいえ、で、女の子に受けそうなものは……」

楓「はい、こちらに各種錦鯉のガラス細工を取り揃えております」

楓「スタンダードな紅白、丹頂紅白や落ち葉しぐれ、紅九紋龍に緋写り。極楽寺の人面鯉まで……」

時子「すらすら言えるあんたもおかしいけど、なんでそんなに錦鯉取り揃えてんのよ」

チンピラ「じゃあこれとこれにするっす」

楓「まぁ、ありがとうございます。ではレジの方へお願いします」

楓「えーと、錦鯉の緋写り一つと極楽寺人面鯉(金ver)の2点で4890円になります」カチャカチャカチャカチャカチャカチャ

時子「たっか」

チンピラ「じゃあ五千円からで」

楓「五千円お預かりしてお釣りは、110円ですね」カチャカチャタッーン! チーン

チンピラ「これなら喜んで貰えそうです! ありがとうございました!」

楓「またのご来店をお待ちしております」

時子「…………」

楓「……ね?」

時子「ね? じゃないわよ」


楓「では、こんな感じでお願いしますね」

時子「そんな錦鯉の柄なんて知らないんだけど」

楓「気合でカバーしてください。では、休憩してきますね」バタン

時子「ちょ! また逃げるの……! って! どうしてこんなに力が強いのよ!」グギギ…

時子「……はぁ。ま、どうせ来たとしてもあと二人か三人くらいでしょ……」

カランカラン

時子「……っ! いらっしゃいま、せー……」

P「いらっしゃいました」

時子「チッ」

P「えー、なんですかその舌打ち。お客様に向かって失礼ですよ」

時子「下僕に売るようなものはないわ。帰りなさい」

P「いやー、ちょっと彼女にプレゼントでも渡そうと思って。なにかいいものありますかね」

時子「……あんたに女がいるの?」

P「こう言った方がよく接客してくれるかと思って」

時子「はぁ……。で、何が欲しいのか、もっと具体的に言いなさい」

P「そうですねー。指輪とかそんな派手なものじゃなく、普段から身につけていられるようなもの、ですかね」

時子「そうじゃなくて、ストラップとか錦鯉とか、そういう分類で言いなさいよ。この愚図」

P「じゃあ錦鯉以外で」

時子「…………ッ!」

P「あ、この髪留めみたいなやつ可愛いですね」

時子「それはブローチ、服につけるものよ。そんな事も知らないなんて、よほど学の無い……」

P「じゃあ、これにします」

時子「…………」

楓「あら、Pさん。いらしてたんですか」

P「はい、ときこさまの華麗なる仕事振りをこの眼に焼き付けようと」

時子「どの口が言うのよ!」

楓「さ、ときこさま。今こそレジ打ちに挑戦する時ですよ」

時子「……っ!」

楓「ときこさまのグランドピアノでアメイジンググレイスを弾くかのような手捌きでレジ打ち、お願いします」

時子「ちょっ」

P「え! ときこさまそんな事できるんですか! 録画しますね!」

時子「そのカメラどこから取り出したのよ、あんた!」

楓「さ、ときこさまが電卓と入荷表に書き込んだ分をあとで私がレジに打ち直さないといけないので、是非」

時子「うぐっ……」

時子「えーと、1296円が1点で……」カチャ…カチャ…

P「はい」

時子「1300円お預かりして…、して……」カチャ…カチャ…

時子「…………」カチャ…

時子「…………」チラッ

楓「右下の黄色いボタンです」

時子「ふん。4円のお返し、です」タンッ チーン…

P「ありがとうございます」

時子「ありがとうござい…、ました……」

P「…………」

時子「いつまで撮ってんのよ!」

P「じゃ、残りの営業時間もしっかりお願いしますね」

時子「……ええ」

楓「では、またのお越しをお待ちしております」

カランカラン…

時子「クッ…! この私の下僕がからかいに来るなんて……! 見てなさい、キツい調教で主人に一生逆らえないように……!」

楓「ふふふ、物騒な事は置いといて、引き続き店番お願いしますね」

時子「ククク……! 鞭も新調して、ロウソクも特に高温のものを……!」ブツブツ…

楓「……楽しそう、ふふっ」

ーーーーーー………


時子「……あれから客、来ないわね」

時子「ま、楽でいいけれど」

カランカラン

女の子「おじゃましまーす」

時子「子供? ふん、いらっしゃい」

女の子「売り物見ていいですか?」

時子「ええ、好きになさい」

女の子「わぁい!」

時子「…………」

時子「小学校低学年かしら。こんな店で何を買うのやら」

時子「…………」

女の子「んしょ、あれ、届かな……」

時子「……ふあぁ」

ガシャンッ!

時子「ッ!? なんの音よ!」

女の子「あ、あぅ……」

時子「……あぁ」

女の子「あ、あの、ごめんなさい! べ、べんしょう、します……」

時子「……はぁ、別にいいわよ。こんなもの、せいぜい500円程度……」チラッ

【148,000円(税抜き)】

時子「」

時子「はぁっ!? なんでこんなもんが十五万もすんのよ! 消費者舐めてんの!?」

時子「ちょ、楓! 楓ぇ! あんた店長でしょ! 出てらっしゃい!」

時子「チッ…! こんな時に限ってなんでいないのよ……!」

女の子「ひっく…、うわあぁぁぁん……!」

時子「くっ…! あんたも泣かないの! 女が簡単に涙なんか見せるとねぇ、男に舐められるのよ!」

女の子「うぅ……?」

時子(私でも少しは躊躇うような高額商品だし、責任者の楓もいない……!)

時子(しかも、壊したのも支払えるような歳でもないし……)

時子「クッ……!」

時子「ほ、ほら、お金はいいから。今日はもう家にお帰り」

女の子「で、でも……」

時子「フンッ! こんなもの、大人の私からすればた、大した物じゃないの!」

時子「だから子供は変な気を使わくてもいいのよ!」

女の子「う、うん……」

時子「……ほら、なんならこれでもあげるから」

女の子「わぁ! かわいい……! でも、これ、売り物……」

時子「いいから、もういいのよ!」

女の子「う、うん……」

女の子「お姉ちゃんごめんなさい……。それと、ありがとう……」

時子「ハン……。どういたしまして」

カランカラン…

時子「…………」

時子「どうするのよ、これ……」

楓「……商品をあげちゃダメですよ?」

時子「うっ……。って、楓ぇ! さっき私が呼んだときどこに!」

楓「ほらほら、ガラスの破片も片付けますよ? 危ないですから」

時子「う、う……」

ーーーーーーー………


時子「…………」

時子「……はぁ」

楓「……随分と気が滅入っちゃったようですね」

prprprprprpr……

楓「……あ、プロデューサーさん? そろそろ迎えに、はい、お願いします。……では」ピッ

楓「時子ちゃん、そろそろ店じまいにしましょうか? オーナーからは今日は早めに閉めるように言われていますし」

時子「……ええ」

楓「……ほら、お店の物を壊したと言っても、そんなに気にしちゃダメですよ?」

時子「…………」

時子「ねぇ、楓……」

楓「なんですか? 時子ちゃん」

時子「私って、こういうのは向いていないのかしら」

楓「……ふふ、どうでしょう。今日は調子が悪かっただけかもしれません」クルリ

時子「……そう」

楓「…………」

時子「店じまいなら、最後の片付けよね」

楓「へ? ええ」

時子「……それくらいはやるわ」

楓「……助かります」

楓「……では、在庫チェックよし、レジの確認よし、電気よし」

楓「最後に戸締りもして……、時子ちゃんの初めてのアルバイト、終了です」

時子「……お疲れ様」

楓「はい。……あ、そうそう、どうぞ」

時子「……これは?」

楓「お給料です。820円が6時間、それにちょっと色をつけて5000円です」

時子「……バイトの給料って、こんな物なのね」

楓「不服ですか?」

時子「いえ、満足よ……」

楓「あ、プロデューサーさんの車が来ましたよ」

時子「……あいつ」

楓「まあまあ、プロデューサーさんのおかげで初めての、いい経験ができましたね」

時子「……それでも、もう、ごめんよ」

楓「ふふ。さ、事務所に帰りましょうか」

ーーーーーーー………


凛「ねぇ、ありすがソファに寝っ転がって凄い笑顔だったけど、どうしたの?」

まゆ「Pさんに突然ブローチを貰ったそうですよぉ? 珍しくあんな格好して、足をパタパタ振って可愛いですねぇ」

凛「……水色だったね」

まゆ「水色でしたねぇ……」


P「さ、時子さん。人生初のアルバイトはどうでしたか?」

時子「屈辱的よ。この私が『いらっしゃいませ』だの『またお越しくださいませ』だの。反吐が出るわ」

P「しゃいしゃいせー」

時子「アァン!?」

P「ま、言うまでもないですが、こんなお仕事もいい経験になります」

P「今後も、たまには普段と違うことをやって見聞を広め、それをアイドル活動に活かしていきましょう」

時子「普段と違う事、ね……」

時子「ククク……! ならば、主たるこの私にあんな思いをさせた豚は、よく料理してやらないとねぇ……!」

P「へっ? ときこさま! そんな鞭どこから取り出したんですか!?」

時子「私の受けた屈辱! その身体で存分に味あわせてあげるわ!」ピッシイィィィン!!

P「危ねっ!? だ、だれか! ヘールプ!!」

時子「逃げるなァ!!」ピッシイィィィン!!

P「うわあぁぁぁ!!?」

ーー数日後ーー


P「うつつ…、まだ痛いや……」

ちひろ「鞭、見事にヒットしましたもんねぇ」

楓「癖になりそうですか?」

P「なりませんよ…。ヒリヒリする……」

時子「フン、あんたが悪いのよ、全部」

P「それは失礼しましたね」

薫「あ、せんせぇ! ここでテレビ見てもいーい?」

P「おう、いいぞー」

千枝「わぁい……!」

仁奈「ちひろおねーさんのお膝の上で見るですよ!」

ちひろ「あら、いらっしゃい♪」

TV『初めてチャレンジー』

薫「わぁ、始まった!」

楓「あ、これ子供が初めてお料理したりお使いしたり、外国人が旅館の女将をやったりする番組ですよね」

ちひろ「はい、ゲストの初々しい姿に心惹かれるいい番組ですよね」

P「ええ、テレビの企画を通して色々な体験ができるから、いい番組です」

時子「…………」

時子「……ん?」

TV『今回初めてアルバイトに挑戦するのはメディアの女王にてアイドル、財前時子さまっ!』

千枝「わぁ! 時子さんです!」

P「…………」

時子「…………」

TV『それではVTR、どうぞ!』

楓「…………♪」

ちひろ「…………」

仁奈「時子おねーさんの仕事ぶり、楽しみでごぜーますな!」

TV『楓さんのご友人の雑貨屋をお借りしています。そしてお店のあらゆる所にしかけた隠しカメラ!』

TV『「普段アイドルとしてのお仕事と同じようにカメラが回っているという気概をもって取り組みましょう」。
あー! 白々しい! 仕掛け人楓の一言で時子様の眼も仕事モードにはい……、ったかなぁ?』

時子「…………」

楓「……?」

TV『最初の仕掛け人がお店にはい、れない! 時子様の凄まじい眼光に押され仕掛け人、あえなく撤退!』

薫「あははー! 時子お姉さんこわーい!」

TV『続いての仕掛け人の女性2人はお店に入った、その時!
「いらっしゃいしゃいせー」
噛んだ! メディアの女王、噛んだ!』

ちひろ「ふふっ……!」

ーーーーーー……

TV『そして今回の山場、スタッフが事前に用意した100円のガラスの置物に嘘の値段シールを貼ります。それを仕掛け人の女の子が落として壊してしまいました!』

TV『時子様! 一瞬固まるも店長である楓さんをまるで迷子になった子猫が親猫を探すかのように呼びかけます!』

TV『だが店長、来ない! 店長はこの時別室でモニターから鑑賞中。そんな事もつゆ知らず……』

時子「…………!」

楓「ふふふ……」

ーーーーーーー………

TV『女の子の代わりに罪を背負った時子様、楓さんに自分の仕事ぶりはいかがなものかと問いかけます』

TV『「……ふふ、どうでしょう。今日は調子が悪かっただけかもしれません」
さすが大人な対応をして身を翻す楓さん、しかし、カメラは捉えたのです……』

TV『時子様に背を向けて、必死に笑いをこらえる楓さんの表情! 視聴者の皆さん、お宝映像ですよ! お宝映像!』

時子「楓ぇえええ!!」

楓「もう、怒っちゃめっ、ですよ?」

時子「こいつぅぅぅ……!」

TV『……そして無事営業を終えた雑貨屋さん。時子様の初めてのアルバイトはなかなか波乱万丈でしたが、きっと良い経験となったでしょう!』

TV『なお、時子様のプロデューサーさんの意向により、まだネタばらしはしていません』

TV『では、初めてチャレンジ、また来週もみてくださいね!』

ちひろ「ふう、面白かったですね!」

千枝「けど、これってただのドッキリ……」

楓「しー……」

時子「…………」ギロリ

P「ひゅ、ひゅー、ひゅー?」

仁奈「口笛吹けてねーですよ」

時子「アンタ、ちょうどいい大きな仕事って」

P「ひゅー……」

時子「レッスンをキャンセルしたのも」

P「ひゅ、ひゅー?」

薫「せんせぇ、口笛できないのー?」

時子「…………」ギロリ

P「ひっ!」

時子「…………」

時子「……はぁ。もう、いいわよ」

P「ほっ……」

楓「あら、今日のときこさまはお優しい」

時子「けれど楓、あんたは許さないわ」

楓「えっ?」

時子「あの日1日私の面倒をみてくれたお礼に私から、キツーイお仕置きをしてあげるわ……! いらっしゃい」

楓「あ、あーれー……」

バタン

P「ふぅ、助かったー」

ちひろ「もう、プロデューサーさんも趣味が悪いんですから」

P「でも、ときこさまがおろおろする姿は新鮮で可愛かったですね!」

ちひろ「そうですけど……」

P「よし、録画もちゃんとしたし、DVDも買って、また今度時子様と一緒に見るぞー!」

ちひろ「ど、ドS……」




(´・ω・`)おつきあいありがとう。おしまいね。
(´・ω・`) …………
(´・ω・`)とくにいうこともないから、ねたがうかべば、またいつかね

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