【孤高のキラークイーン】 (44)

【吉兆に迫る影】
私はツイていない。産まれてこの方色恋沙汰に縁はなく、けどそれでも良いかと生きてきた
十代の頃はそれで良かった。いずれ素敵な人の方から来るのだろうと楽観視しているだけなのだから

私は醜いと言うほど酷いわけでもないし(お世辞にも可愛らしいと言えるわけではないんだけど)性格も人に言われるほど難があるわけじゃあない
多分自分を磨くことをしてこなかったが故に誰にも言い寄られず生きてきたと言うわけだ
流石に20後半に差し掛かってきた私は危機感を覚えた。そして遂に、自分を磨く決心をしたのだ

「ここね…【エステ・シンデレラ】」

友人に勧められた美容エステには何やら「愛と出逢うメイクいたします」だなんて大袈裟な事が書いてあった
愛と出逢うだなんてそんなことあるわけないじゃあない。だなんて私に一笑に伏す余裕はなかった
仰々しい謳い文句の万が一の可能性にだってすがり付きたい私は恐る恐る期待しつつ入ってみることにした

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「あら、いらっしゃいませ~…お入りになって?」

こじんまりとしたお店の中には何だか低血圧の様な雰囲気を纏っている可愛らしい女性がいた
こちらまでダラっとしてしまいそうな雰囲気を持っている

「あのぉ…友人の紹介で来たんですけど…」

何だかこの雰囲気に少しだけ不安感を覚えてしまう。本当に大丈夫なのか?この店もこの人はと

「言わなくてもわかるわ…このお店にいらっしゃるお客様は皆同じ事をお考えになってらっしゃるもの、フゥ~…」

くるくる回る椅子に座りながら彼女は気だるげに話し掛けてくる

「【愛と出逢うメイクいたします】…この看板に偽りなしよ。絶対に愛に出会わせてあげるわ」

私はゆっくりと彼女の差し出した椅子に座る
すると壁に飾ってある賞状が目についた
パリ、ロンドン、ニューヨーク…と世界各国のコンクールで優勝した賞状が所狭しと飾ってあるのだ
もしかして本当にスゴい人なんじゃないかなと期待が膨らむのを感じる。無論話し方以外はだが

「貴女の場合…手はとても魅力的ねぇ…フゥ…見とれてしまうほどに美しい。けれどまるで愛を引き寄せないわね。寧ろ…初回サービスで手もいじらせてもらうわ。顔は眉を少し弄ればとても良くなるわね。早速始めましょう」

私はベッドに寝転がされると静かに目をつぶった
期待と不安を織り混ぜた気持ちはまるで何時間も過ぎ去ったかのように感じてしまう

「良いわよ…フゥ…効果はたった『30分』。けれどその『30分』の間だけ貴女はシンデレラになれる。愛と出逢うシンデレラにね」

私はお金を払い短くお礼を言うとすぐに表に出た
貴重な『30分』を無駄にしたくない一心だったのだ。何かを彼女が言いかけていた様な気もしたが私は結局聞かずじまいだった


エステ・シンデレラで辻彩は気だるげにまた椅子にもたれ掛かった。さっきの彼女に気になることが一つだけ残っていた
あの手…見とれてしまうほどに美しいあの手だ
一言やはり気を付けてと言うべきだったろうか?
美しいものは時に妖しいモノすら惹き付けてしまうかもしれないと言うことを
今度来たときに言おうかなと考えるのをやめて彼女は気だるげに一息ついた

何だか周りが私を見ている気がする
まるで不思議なことに気分は高翌揚して今までの自分と違ったかのように感じていた

「きゃっ!」

そうやってふわふわと歩いていたせいか不注意に誰かにぶつかってしまった
直ぐ様ぶつかった人は手を差し伸べてくれたのだ。コレも愛と出逢うメイクのお陰なのだろうか?

「あ、ありがとう…ございます」

顔を上げた先に居た人は高級ブランドのスーツを嫌味なく着こなし、目鼻立ちが整った気品溢れる顔をしていた
あのエステは本物だったに違いない

「いえ…ボーッとしていてすいません。お詫びといっては何ですが…あのカフェでお茶でもいかがですか?」

こんな素敵な人が私を誘ってくれている。やはりあのエステは本物だった!私はやっと人生初の愛と出逢うことが出来たのだ!
私は降って沸いたかのような幸福に酔いしれながらはいと返事させてもらった

「すいませんでした…仕事終わりはどうも気が抜けてしまって…あぁ、自己紹介が忘れてましたね。私の名前は吉良吉影と言います」

彼は私の目をじっと見ながらそう名のって見せた

「ここら辺で良いかな…?人気もなくてとても静かで美しい場所だよ…」

清らかな風が私の髪を撫でる。心にまで吹くかのような風は私の中のネガティブな感情までも拭い去っていく

私は今、幸せの絶頂に居た。確実に私は幸せの絶頂に。時計をちらりと見ると『30分』はとうの昔に過ぎ去っていたようだった

不意に私は彼に名前を呼ばれる。私は幸せを感じながら彼へと振り返った

唐突に彼の両腕が私の首筋に伸びた。万力のごとく容赦せずに彼は私の細い首をへし折るかのように締め上げる

「人気もなくて…とても静かで…ここなら誰も…来ないさ…」

叫ぼうにも声がでない。涙で前が霞む。彼の表情は今までに見たこともないほど恍惚としていて狂喜すら感じさせる笑みをたたえていた

どうして?私は幸せの絶頂に居たんじゃ…コレはきっとそう、そうに違いないの

「こ……れ…は…悪い……ゆ……め…よ…」

きっと今に醒める、今に元の世界に。幸せに満ちた少し前に…幸せな『30分』へと戻れる…

その時気付いた、私の幸せは、幸せな『30分』はもう終わってたことを。とうの昔に、幸せは過ぎ去っていたようだったことを

幸せは絶望へと転落し、私の意識は一瞬で暗闇に堕ちていった

私は動かなくなった彼女を地面に落とした。体力が落ちてきたのだろうか?そろそろジムにでも通うべきだろうか。おっさん臭くてたまらないことを考えてしまうのは嫌だなぁと思った

「こんなにも…」

私は切り落とした彼女の左手を後生大事に抱えると残った余分な部分を消すことにした
ついでに前の『彼女』も。一緒に消してしまうことにした
ガスの漏れるような音を立てながらゆっくりと消え去っていく。跡形もなく、まるで音もなく爆破されていくかのように

やはりここ最近は爪の伸び方からして調子良かったようだ。こんなにも綺麗な手に出逢えるなんて

「私はツイているかも…な。さぁいこうか。まだまだ君と色々なところに行きたいんだよ」

私は胸ポケットに入った新しい『彼女』にそう告げるとこの場所を後にした


END

以上【吉兆に迫る影】でした
読んでくださった方いらっしゃればありがとうございました!
久々に書くとコテハンミスっちゃうしダメだなぁ…誤字とかもしあれば脳内補完してもらえると嬉しいです

【銀の騎士の凱旋】

フランス某所の墓地
昼下がりの木漏れ日が死者達の眠りを優しく包んでいた
そこへフラりフラりと一人の青年が歩いてきた

銀色の頭髪は円柱のようにセットされていて鍛え抜かれた両腕が露出している
耳の半分に割れたハートのイヤリングは風に遊ぶかのように揺れていた

だがもっと目を引くのは至るところに巻かれた彼の包帯に生々しい傷跡だ。左手の指はまるで削ぎ落とされたかのように二本無かった

「ただいま…シェリー…」

彼―ジャン・P・ポルナレフはそっと美しい花束を大切な女性の墓へと供えた

妹の墓前に来るといつも彼の脳裏に思い返されるのは彼女といた日々だった

彼女は自分を慕い、また自分も兄として彼女を守り愛している。今でも
時に喧嘩もした。子供の頃自分の飼っていた熱帯魚を猫に食べさせられた時には怒ったが今ではそれは良い思い出だ

『兄としてシェリーを守りなさい。一人の紳士として、そして兄として』

父から常に言われ続けた言葉は一つの指針となり、心の支えとなった
彼女を護る。どんなものからも守ってみせる
さながら姫に仕える騎士のように彼女を守って見せる

そう自分は誓っていた。だから生まれつき持っていた『力』も間違った振るい方をせずにいられた

だが自分は彼女を護ることが出来なかった

あの雨が降った忌まわしい日
プレゼントした傘を嬉々として持っていく彼女があんな無惨な最期にならなくても良かったんじゃあないのか?
雨だから少し面倒だなんて考えずに彼女を迎えに行ってやれば。俺が側についていれば
あんな辱しめを受けて死ぬことなんて無かったんじゃあないかって

彼は呪った。自分の運命を、無力さを
そして奇跡的に意識を取り戻した妹の友人から聞いた『両手とも右手の男』を殺して見せると誓った。自分の護るためだけのハズだった『力』で復讐を果たしてみせると

ただひたすらに自分を鍛え続けた。精神だけでなく肉体を鍛え、技を鍛えた
空を裂く程の剣捌きを身に付け、自分の身体を動かすよりも精密に動くように鍛練を積み、残像を残すほどの速度で動けるように

どんな過酷で厳しい訓練も鍛練も、妹の無念を晴らす為ならと10年耐え続けた
そして敵討ちのための戦いへ赴いた

「シェリー……俺は…その敵討ちのための旅路で『友』に出会ったんだぜ?」

俺はその敵討ちの旅路のことを彼女へ話した
自分の『力』だけで必ず仇を討とう。たとえ刺し違えてでも奴を殺してみせよう
そんな俺に、誰かのために使うための『力』だってことを身を呈して思い出させてくれた熱血漢がいたこと
カッコ良く犠牲になろうなんて自分の命を省みない俺をカッコ良く助けた世界で一番カッコいい犬がいたこと

そしてたった45日間の旅路で辛いことも楽しいことも乗り越え、本当に『友』としての絆を育むことの出来る人に出逢えたこと

復讐のために始まった旅路で俺は本当に大切な事をやっと思い出すことができた
自分にとってどんな『力』が必要だったのかを
誰かを殺める『力』なんて願っていた訳じゃあないんだってことを

俺が本当に欲していたのは誰かを護ることの出来る『力』だってことを思い出させてくれたんだ

「だから俺は…今度は誰かのためにこの『力』を使ってみせる。お前が好きだったこの故郷は…俺が護ってみせるから」

俺は彼女へそう決意を告げると俺を送り出すかのような優しい暖かい陽の光に包まれて墓地を後にした
風で小さく、笑うように墓前の花が揺れた

END

【銀の騎士の凱旋】完結です。読んでくださった方いらっしゃれば感謝します

ジョジョ限定ですがもしリクエストがあれば全力で書かせていただきます。よろしくお願いします

見たいリクエスト
・由花子が康一に惚れた理由(彼女だったら一目惚れもありそうだけど、何かしらきっかけはありそう)
・ディアボロの過去の真実(なぜ母親ず家の地下にいてああなったのか神父を殺した理由は見つかっただけなのか?)
・エシディシがなぜカーズに付いて行ったのか
・七部スタンド使いが大統領と出会った話
・承太郎が家族と離れていったわけ


駆ける者だけでいいので書いてください。お願いします!

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