男「べばばばばば」(10)
男「あっばあああいああいあああいあいいああい」
・ ・ ・ ・ ・
記者「ふぅ…」
ため息をつきながら、干し柿に目をやった。
丹誠込められて作られたことが一目で分かる、実に美味そうな干し柿だ。
こんな素晴らしい干し柿を作る母親にあんな悲しい顔をさせる>>1に対し
私は段々と怒りにも似た感情が沸き上がってくるのを覚えた。
記者「馬鹿野郎が…」
会ったこともない>>1にそう吐き捨て
私は干し柿を口に運んだ。
前歯で優しく愛撫すれば
表面の甘く粉になった糖分が唾液と混ざり合い
ひんやりと口内を溶けて消えた。
記者「美味いな…」
世辞ではない。本当に美味いのだ。
これだけで群馬にまで行った甲斐があるというもの。
私は干し柿を実に楽しんだ。
こんな素晴らしい干し柿を作る女性である
>>1の母親の顔がじんわりと浮かんだ。
年相応、いやそれより老けてみえるその女性は
皺だらけの手をしていた。
ふと、よからぬ事を脳裏がかすめた。
あの皺だらけの手で、私を
まるで干し柿の仕込みのように
やや乱暴に扱われたい、と。
記者「おいおいおい…」
独り言で自らを制止した。
いけない、これはいけない。
干し柿は干し柿で
人間じゃないのだ。
そう、人間じゃないのだ。
渋い柿は干されてこそ甘くなる。
私は生憎、柿ではないから
干されても甘くなどならない。
当たり前、当たり前なのである。
じゃあこんな歪んだ発想は何だ?
私が何を考えても考えなくても
地球は回るし日は昇る。
まぬけ面した政治家は小銭稼ぎに躍起になるし
女子高生は自分を安売りする。
鎖に繋がれた犬は意味もなく吠えるし
自由な猫は箱の中で死んだり死ななかったりする。
記者「ははっ、どうしちまったのかねぇ」
乾いた笑いと共にマッチを擦った。
ぼう、と炎が現れ
慌てて咥えたタバコに火を灯した。
甘いものを食べた後は無性に吸いたくなる。
私はどうやらそういうものらしい。
あまくて、にがい。
記者「世界は、そういう風にできている…」
記者「…」
決めた。
もう一度、群馬に行こう。
あの女性に会うのだ。
会わねばならぬのだ。
このタバコの灰のように脆くはない決心だ。
記者「群馬へ…」
――貴方は…――
――また、お会いしましたね――
――や、止めて下さい…人が見ています――
――柿ってさぁ、簡単に潰れちゃうんだよ、アハハハハ!――
――>>1、君は…まさか!――
映画 『群馬』
近日公開予定…
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