志希「フレちゃんがうつになりまして。」 (224)
あるひとりの少女のおはなし。
女の子は1歳のとき、部屋のすみっこに転がっていたルービックキューブに興味をもった。
カラフルな立方体をじっと眺めて、手にとって、ぺたぺたぺた。
さてはて、ばらばらに配列されたこの赤や黄色にはどうやら法則性があるらしい。構成しているのは12の端ピースと8の角ピース。
なるほどなるほど、遊び方はわかった。どうやらこの色を合わせてやればいいらしい。それじゃいっちょ戯れてみようかにゃ。
女の子は120秒で立方体のカオス状態に秩序を与えてみせた。
見守っていたダッドとママはなぜだかてんやわんやの大騒ぎ。
信じられない、うちの娘は天才だ!
写真に向けてポーズをとらされる、はいチーズ。パシャリ。
女の子は要求通りにピースサインをしながら、こんなことを考える。
あーあ、たった120秒しか暇つぶしできなかったなぁ、なんてね。
それから少女は9歳でルービックキューブの数式を有群論を用いて証明してみせて、ダッドとママには甘いケーキとお固い物理学の本をいっしょに欲しがった。
まわりのお年頃の子たちは、おとぎ話のプリンセスとかくまさんのぬいぐるみとかに興味津々だったけれど、少女の頭脳はピタゴラスの定理が成り立つ3の数を見つける方法でしめられていた。
学校のテストが、答案用紙の裏にラクガキをどれだけ多く書けるかというゲームに成り果てたころ、少女は海の向こうのユニバーシティをつぎのお遊技場に選んだ。
あそこのね、ランチはそこそこ美味しかったかな。ハンバーガーがね、手のひらよりおっきくてサワークリームがたっぷりかかってるやつ。あと陽射しは日本よりぽかぽかしててお昼寝には向いてたにゃ~。
あ、あるひとりの少女って前置きしてたけどね、これあたし、一之瀬志希ちゃんのはなしね、以後そこんとこよろしく、っていまさらか~。にゃはは。
そんじゃ話をもどそっか。
えっと、スカンクのあのキョーレツな匂いを科学的に配合できるかの話だっけ。え、違う?
あ、そうそう、大学の話、大学の話ね、うーんと、じつはあんま憶えてないんだよねー。
だって、つまんなかったんだもん。
たいそう権威があるという学会の発表会でド新米のあたしが気ままに論述してみせたあとに、教授が絶句して降参だというように一斉にペンを置いたことも。
30年かけても解を導けなかった問を君のような年端もいかぬ子供が解き明かすなんてとても信じられんなと、恨み節たっぷりにいわれたことも。
それからあたしが黒板にチョークをはしらせるたびに、おーまいがーという一言と共に四方八方からカメラのフラッシュが炊かれたことも。
ぜーんぶ、どうでもよかった。
あたしにとっては、どれもこれもルービックキューブの色を揃える程度の暇つぶしでしかなかった。
それからなんやかんやあってアイドルになって。
なんやかんやってとこは省略するね、説明すると長くなるし疲れるし、そんでそんで、アイドルになって宮本フレデリカちゃんとデュエトを組んだ。
レイジー・レイジーだって。「だらけている」2人組だって、おもしろー。
フレちゃんはね、とっても刺激的。
だってさ、このアイスおいしいねって話してたと思ったらいつのまにか南極大陸の話題を経由してペンギンはなんでお空を飛べないのかって議題にすり替わっちゃうんだよ。
それは水泳や歩行能力に特化するために飛翔能力を捨てるように進化してったからだよってあたしが答えるとフレちゃんは、
へー、じゃあ人間も昔はお空飛べたのかな、そんで雲の上をふわふわしてだらだらしてたんだけど、やっぱり地に足つけてしっかり生きていかにゃいかんって思い直して飛ばなくなったのかなー、そう考えると日本のサラリーマンってえらいねー、なんて。
あたしは教授が仏頂面でカッチリ型にはめこんで導く理論よりも、フレちゃんが笑いながらその日の気分で導く理論のほうが、好みだった。
フレちゃんは、あたしの想定を軽々と飛び越えてくる。
そんなフレちゃんがある日ぽつりと呟いたひとこと。
「なんだか、消えてなくなりたいなぁ」
あたしに何度も投げかけられた“信じられない”という言葉をひゃっぺん繰り返しても足りないくらい。
「なんだかこのままね、お空をどこまでも飛んでって、いなくなっちゃいたいかなぁ……」
フレちゃんの身に信じられないことが、起こったのだ。
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きっと、やっとの想いで絞り出せた言葉だったんだと、思う。
混じりっけのない天然モノの金髪をぐしゃぐしゃにさせて、グリーンアップルの瞳をぐらぐらに揺らしてフレちゃんはたしかにそう言った。
それでも、いつものように笑いながら呟くものだから。誤魔化すように、いつもの鼻歌を必死に鳴らすものだから。
その場にいただれもかれもが、その異常性に気付かなかったのだ。あたしも含めて。
「あははっ、フレちゃーんまるであたしみたいなこというんだねー。あたしはいつでもお空飛んで趣味のお散歩したいなぁって思ってるよー。みんなは失踪とか徘徊とかいうけどねー。でもこれからライブだしー」
「ライブ、ライブ、そっか、これからライブかぁ」
「そそっ、まぁワイヤーで吊り上げて上空から登場するって仕掛けも面白そうだしできそうだけど、あんま無茶ぶりするとまたスタッフに困ったやつみたいな顔されるし、ただでさえあたしが変なことしないかマークされてるんだよねー」
「ライブ、ライブ、ライブ……あーそっかぁ、ライブかぁ、あれ、ライブってなんだっけ?」
「えーまたフレちゃんそういうこというー? 日本語で演奏会、フランス語でコンセール、スペイン語でムジカのライブだよー」
ぼんやりと何もない空間をみつめながら“ライブ”という言葉をぶつぶつと繰り返すフレちゃん。
むむ、なにがそんなにフレちゃんセンサーに引っかかったんだろう。
フレちゃんはたまに街を歩いてると突然爆笑することがある。
なにがそんなに面白いのかときくと、炭酸ドリンクの広告看板のさわやかなスポーツマンにチョビヒゲを脳内で足してみたらどうなるんだろうと考えて実際に足してみたら、それはもうとってもお似合いだったらしい。
こんなに面白いのならスポーツ選手は全員チョビヒゲをくっつけて試合すればいいのに、そうすれば選手も観客もみんな笑顔になって世界平和だよねーハッピーニューイヤーだねー!と、真夏にフレちゃんはひとりで新年を迎える。
今回もきっと、フレちゃんは独自の宮本フレデリカ理論を駆使して、ライブというとりとめもない単語にとびきりの楽しさを与えるんだろにゃあ。
あたしはちょっぴりワクワクしながら次の言葉を待っていた。どこからなにが飛び出してくるんだろう。
鬼が出るか蛇が出るか、なんてフレちゃんから飛び出すものはいつだって、もっとポップでファンシーなものなのだけれど。
ところがどっこい、フレちゃんの口から飛び出したものはとても平凡で単純なものだった。
いや、“フレちゃんの口から”という条件に限っていえば逆に、これほど驚かされるセリフはなかったんだけど。
「うーんとね、ライブ、出たくないかも」
「え、フレちゃん、いまなんて? りぴーとあふたみー?」
「アタシ、今日はもう閉店したい」
オーウ、晴天の霹靂。24時間365日新春売り尽くしセールをやっているかと思ったフレちゃん商店はどうやら閉店の危機らしい。
ちなみに売り物はスマイルとそもそも最初からウケを狙ってないから絶対にすべらない話とほんのちょっとのフランス語(類似品アリ)とおまけにテキトーさもサービスで添えて。
そんなフレちゃんがライブを目前にもう店じまいだなんて。これはニューヨークのメガバンクが経済破綻して世界的金融危機が訪れるくらいのショックなんじゃないだろーか。
ガガーン、フレデリカショックにより石油は値上がり、車は売れず、世界の食卓からは野菜が1品消えちゃって、汗水流して働くお父さんの給料は減りつづける、そして失業者は毎年30万人のペースで膨れ上がるのでした。ちゃんちゃん。
なんてまるでめでたくない脱線話はひとまず置いといて。
いやいや、たしかにフレちゃんはレッスンが終わると「あー、疲れたから今日はおしまい、もう家に帰りたいなー、ジェット機で!」だとか冗談でいうことはあるのだけれどそれはあくまで冗談のはなしで。
たった今言った「出たくない」にも「閉店したい」にはなんのユーモアもつづかない。
ネガティブなワードがネガティブのまんま、フレちゃんからじわりとにじみ出た。
「どしたの、お腹痛いとか? 昨日ブリュレ食べすぎちゃった?」
「うぅん、昨日はなにも食べて、ないし」
「えっ、なにもってブリュレじゃなく焼きプリンは食べたよとかそういうんじゃなく、一切食物を経口摂取してないってこと?」
「ケー、コー、けーこー? こけこっこ?」
「丸一日何も口にいれてないってこと」
「え、あー、うん、そうなるかなー、なんか食欲なくて」
「へぇ、そうなんだ、ふーむ」
いつものフレちゃんだったらここで、ねぇねぇブリュレと焼きプリンの違いってねー、志希ちゃん知ってる? えっとね、私もわかんなーい☆なんて言ってくるんだけどなぁ。
ちなみに生クリームをのせて砂糖を焦がすのがブリュレ、牛乳ベースで蒸し焼きするのが焼きプリン、なんてどうでもいいか。フレちゃんが前に作ってくれたのは、どっちもおんなじくらい美味しかったし。
緊張で食べ物が喉を通らなくなることは誰にでもある、あ、私にはなかったけれど。残念無念。
たとえば、事務所のカリスマギャルこと城ヶ崎の美嘉ちゃんなんかはああみえてとっても繊細でマジメな子だから、いの一番の舞台ではお昼のお弁当にまったく手をつけないこともままにある(それでもステージでは最高のパフォーマンスをやってのけるのだから驚きだね)。
それでも、フレちゃんが緊張で何も食べられない?
だってねぇ、あのフレちゃんだよ?
あたしの宮本フレデリカ評。
なにもないつまらない、まっさらなキャンバスに七色の色彩を描ける子。要約させていただくとまぁ、大体そんな感じ。
どこからともなく、“面白さ”とか“喜び”とかの絵筆を拾ってきて、テクニックもディテールもしっちゃかめっちゃかなのに兎にも角にも立派な絵画にしてしまう。
あーゴメン、まぁ時には作品にすらならないときもあるんだけれど、それでもフレちゃんは絵具まみれになりながらけらけらと笑ってのける。あはは、楽しかったねーなんてとても満足そうに。
だから、フレちゃんはいつだってどんなときだって、きらきらと輝く絵筆を見落とさないように笑って日々を過ごしているのだ。
ライブといえば、そんな光のかけらがいっぱい落ちていて。フレちゃんがいつも、なによりも心待ちにしているものだった。
そんなライブに、出たくないと、フレちゃんはたしかに言った。
こないだのライブの前夜には楽しみで楽しみでしかたなくてご褒美のボンボン・ショコラを先取りしちゃった、なんて写真を送ってきたフレちゃんが。
ほわい?
なんとか原因を究明しようと思考をぐるぐる巡らせていると、不意にひびいたノックの音で、あたしの脳内方程式は中断させられる。
みやればそこには、ふくふくと頬っぺたをふくらませたご満悦なプロモーターさん。
レイジー・レイジーをたいそう気に入っていて、都心にビルが建つくらいのお金を投資してくれたっていうとてもお偉いお方、なり。伝聞。
「いやぁ、もうすぐ開演だね、君たちはこれまで本当に私の期待以上の成果をあげてくれたよ」
あたしの興味は彼にはなくて、どっかの本に記されていた処世術を駆使して挨拶を懇切丁寧そこそこに終わらせる。
そーりー、とてもお偉いお方。お詫びは志希ちゃんスペシャル惚れ薬なんかでどうですか、なんてあなたにとってはスキャンダルに発展しかねませんね。
ちらりと脇を見やる。フレちゃんは机につっぷして、ぴくりとも動かない。
「この公演には企業一丸となって力をいれていてね、今までの集大成のようなものなんだ、よろしく頼むよ」
電池が切れたようになんの反応も示さないフレちゃん。
フレちゃん、喋れない? ……。ふむ。そっかそっか。わかったわかった。
それじゃあたしが代わりに、言ってあげるね。正解か間違いかは、フレちゃんと神のみぞ知るー。
「あの、あたしからひとつ要望があります」
「おぉ、どうしたんだね、一之瀬くん、なんでも言ってくれたまえ」
「大変申し訳ありませんが、宮本フレデリカ、一之瀬志希、両名ともライブの出場を辞退したいのですが」
「……なんだと?」
にこにこしてた恵比寿さまのようなお顔がとたんに崩れていって。
わお、こんなとこから鬼が出てきたねー。
一之瀬じゃなくて一ノ瀬……
>>11
ぐあああ本当にすいません…
わかってたはずなのにまるで気づきませんでした…
以後重々気をつけます…
フレちゃんがあのとびきりの楽しさを拒絶するなんてまだ信じられなかった。
だけどそれでも、とても弱々しいものだったけれどあたしに意志を示したのだ。かの哲人曰く、自由意志は尊重されて然るべき、なり。断定。
ま、脳科学でも物理学でもそんな自分勝手な意志なんて存在しないって否定されてるんだけどさ。それはともかくここでは存分に活用させていただきますか。
「フレデリカちゃんの体調が優れないようですので、このままではとても2人でステージにあがれません」
「……冗談だろう、もう満員の客が君たちを待ち望んでいるんだ。さぁ、立ちあがってくれ。10分後には数千人の前に顔を出すんだ」
「この埋め合わせは、のちに必ず」
「そういう問題じゃない! 君たちは今回のイベントのメインアクターなんだ、いまさら出演できませんで済まされるか! 我が企業の信用問題に関わる!」
「ですが、無理をおしてまで出演し中途半端なパフォーマンスを披露してしまうこともまた、ファンとイベントの信頼を失ってしまうのでは?」
「……っ体調が少しくらい悪いくらいでなんだ、君たちはプロなんだろう! プロならどんな状況でもやり切ってこそだろ、それで金を貰ってるんだろう!」
「プロである以前に、わたし達はひとりの人間です、せめて1時間でもいいですから延期させてくれませんか」 にゃはっ、それにしてもなんともあたしらしくないセリフ。
「できん、自分勝手な子供のわがままに付き合えるか! この公演には大金を支払って各界から著名人を呼んでいるんだぞ! 私の面子を潰す気か! いいか、一分の失敗も許されない、やるんだ!」
あぁ、それが本音ね。さてはて、困ったにゃあ。
あたしが知ってる、この手の業界人にはひとつやふたつは沸いてでてくる黒いウワサをつっついたら逆上させちゃって効果は薄そうだし。
延期すらも許さないとなると、予防線を張っておいたあたしひとりで出演するという譲歩案もまかり通りそうにない。
いっそ、失踪しちゃう? あたし的にはお散歩と言っていただきたいのだけれど。まぁどっちでもいいけどね。
んーでもそれはさすがにヤバいかなー。あたしが原因で日本の失業率を増やしちゃうかも。ま、0、1%くらいだろうしさほど影響ないかな、ダメか。
そんなことを考えていると。
「……うっそー☆」
あまりに不釣合いな、素っ頓狂な声が聴こえたから。
「あはは、志希ちゃんビックリした? 気まぐれネコちゃんの志希ちゃんを飽きさせないためのさー、フレちゃん流の変化球のギャグ、魔球だよー」
フレちゃんが、いつもとお変わりなく元気そうに立ち上がるものだから。
「消えてなくなる魔球、アブラカタブラ、ひらけゴマ! 食らえ必殺ビスキュイ・ド・サヴォワ~! あれ、いつのまにか洋菓子になっちゃった」
いつもの独自の宮本フレデリカ理論をあたしの前で見事に展開してくれるものだから。
つい気が抜けてしまって(フレちゃんはよくもわるくも、本当に場の空気を乱すのがお上手だ)。
あたしはこのとき最もしてはいけない、安易な解を導いてしまったのだ。
「ほんとうはね、昨日はいっぱいご飯食べたよ。あ、ご飯じゃなくてパンだけど。フランスパン。フレちゃんおフランスだからね。あれ、そういえばパンでも夕ご飯っていうよね。なんで夕パンにならないんだろ?」
なんでもない、みんなを驚かせるためのいつものただのジョークかもだなんて。
「ライブ、出るよー」
……。
そしてフレちゃんは満員のファンが待つステージの直前で
あっけなくこわれた。
ごめんね、志希ちゃんごめんね、あたしやっぱもうだめかも。
なんかさ、アタシおかしくなっちゃったかも。
よくわかんないけど、よくわかんないけどさぁ。
なんかさ。
……しにたいよぉ。
誰にでも発症する可能性がある病ってのは知識として知っていた。
なりやすい性格の傾向はあるけれど、どんな人にも頭に引き金が引かれることがある病。
人が想像することは、必ず現実になるものだとはいうけれど。
あまりに宮本フレデリカとその病がかけ離れすぎていてこれっぽちもイメージできていなかった。
ほんとうに、フレちゃんはあたしの想定を飛び越えてくる。
まさか。もう何度だって繰り返すけれど、あまりにまさか、すぎて。
いつもテキトーで悩みがなさそうだと周囲から評されるフレちゃんは。
重度のうつ病だったのだ。
今日はここまで
明日また
いつでも筆記できるように即席ラボのあらゆる場所にクリッピングしておいた付箋にさらさらと筆をすべらせる。
なんとなく医学レポートっぽい感じを出したくてドイツ語にしておいた。特に意味はない。
あ、万一フレちゃんに見られても平気なようにってのはあるか。
フランスのお人形(なぜかマトリョーシカが1匹混じってた。露仏同盟かな?)に囲まれたベッドに近づいて、掛布団をそっとめくる。
お人形に負けないくらいキレイでなだらかな曲線を描く体はきゅっと丸まっていて。
本人曰く寝癖でなったというあざやかな金髪はこれ以上ないくらいぼさぼさで。
チャームポイントのくりくりしたまんまるの瞳は窮屈に閉じられている。
額に脂汗をじわりと滲ませたフレちゃんは今まで見たことない険しい表情をしていた。
丸まった背中にそっと手のひらをあてて一定のリズムで上下にさする。
「はーい、フレちゃーんちょっと触診するねー」
「う……」
手のひらにこつこつとした硬い感触が伝わってくる。
「おーだいぶ背骨が浮き上がっちゃってるねー。よしよし、ダイエットはここまでにしておいて今日は流動食にチャレンジしてみよっかー」
キッチンに戻って、コンロに火をつける。
てってってーてってってってれー。
突然ですが志希ちゃん3分クッキングのお時間です。
本日は3分で誰でも作れる簡単お料理をご紹介します。
まずは鍋に火をつけまして30秒。そのあいだにご飯を炊く準備をするふりをしましょう。
そうしているうちに30秒たちましたね。
はい、予め用意しておいたものがこちらのおかゆになります。おしまい。
「調理も調合も組み合わせて1つのものを作るって点ではまぁおんなじようなもんだよねー。あーでも真心なる非科学的な成分を込めれば不思議な化学反応を起こすってとこは違うのかな?」
逆説的に考えればあたしの料理が通用すればあたしなんかにも真心があるっていう証明になるのかなー。
それはなんだかちょっと興味あるなー。
それじゃ早速フレちゃんに検証してもらおっか。
フレちゃんの華奢な体を抱き起こす。
スプーンにほかほか湯気がたつおかゆをのっけて、蒼白い唇の近くまで運ぶ。
「はーい、あーん。どぅ、とろわー。なんちゃってー。フレちゃん今度このネタつかっていいよー、にゃはは」
フレちゃんはあたしの手元をじっと見つめてからスプーンを口に含む。
くっ、とおかゆが通り抜ける音が、か細い喉の奥で鳴った。
ん? どうかな?
目で合図すると、一瞬、あたしとかっちり視線が合わさってすぐに逸らされる。
あーもうそんなに床をみつめてもお金は落ちてることはあるかもしれないけれど幸せは落ちてないよーってのはあたしじゃなくてフレちゃんのセリフ。
フレちゃんは、たしかめるようにお腹をさする。あたしは動作が落ち着くのを確認してからスプーンを持ちなおして。
2口目。
3口目。
4口目で。
途端。
フレちゃんは口元を手で覆って、ぶるぶると体を小刻みにふるえはじめてから。
「うっ……おぇ……」
ぱたた、とパステルピンクのふかふかな絨毯にアンバランスな色合いの飛沫が散った。
つんとしたにおいが鼻をかすめる。
内容物(といってもほとんど半透明のスープのような酸性液だったんだけれど)を吐き出したフレちゃんは、体を痙攣させて、えづきながら生理的な涙を一粒落とす。
少量の液体を吐いたあとでも、ひゅうひゅうとそれでも空気を必死に吐き出そうとする。
嘔吐反応、かぁ。
どうどう、今のはいちばん苦しい吐き方だねー。
背中をさすりながら思考をこらしてみる。
うーん、あたしの料理が吐くほど不味かったという楽観的すぎる結論はだせないなー。
明日はヨーグルトにゼラチンを混ぜたりとかもうちょっと楽に食べられるものにしよう。
ティッシュで拭き取って、くるくると丸めてお皿に乗せて立ち上がろうとすると、不意に手を掴まれた。
「ごめ、んね。シキちゃん、せっかく作ってくれたのに、おいしかったのに」
「一流パティシエのフレちゃんにそう言われるなんて光栄だねー」
「それに、よごしちゃって、ごめんね、ごめんね」
「あーいーよいーよ、白衣の替えはたくさん用意してきたし吐瀉物の処理は初めてってワケじゃないしー、まぁこれも医療行為の一環でしょー」
吐瀉物の処理が手慣れてるJKってのも我ながらあんまりカワイクないなーって思うけど。
ま、洗濯機の水道代と電気代をいただいてチャラにしておくねぇ、とフレちゃんに笑顔を向けてみせる。
あたし別に全然気にしてないからさー、だからそんな顔しないでよ。
そんなごめん、なんて何度も言わなくていいってば。
いっそ、ごっめーん☆ フレちゃん汁でちゃったー。しるぶぷれー? なんてけらけら笑い飛ばして、文字通り溜飲を下げていただきたいんだけど。
洗濯機に白衣を放り込んで、付箋に新しい文字を書きこむ。
おそらく心因性による嘔吐・食欲減退・筋肉の緊張・背中の痛み、エトセトラエトセトラ.。
あとはえっと、ヨーグルトってどのメーカーがいいのかな。
「ふむむ」
あたしは医者でも調理師でも介護士でも心理カウンセラーでもおいかわ牧場経営主でもなく、人呼んでマッドサイエンティスト。
……でもなくて、そもそもあたしはおなじ“科学者”でもケミカリストの方なんだけど訂正する機会は訪れそうにない。
だからまーあたしは付け焼刃で挑むしかないし、これからの展望を開けるほど知恵に明るくないのだけれど。
ぼふっ。
ソファに身をもたげて小さなちいさな溜息をひとつ。
「これは長期戦になりそうかなぁ」
>>44
ケミカリスト
↓
ケミスト
また明日
一応結末まで全部決まってるしそれほど長くない話のはずなのでもうちょっと書くペース早められるようがんばります
フレちゃん観察記10日目。
神経系用剤パキシル10mg。1錠。
抗不安剤ソラナックス0.4mg。3錠。
睡眠導入剤レンドルミン0.25mg。1錠。
消化管運動促進剤ガスモチン5mg。3錠。
投薬治療の影響かフレちゃんは起き上がってシャワーを浴びたりとか歯を磨いたりとかの必要最低限の生活はできるようになった。
支離滅裂な会話(元々でしょ、という指摘はシツレーすぎるよ、きみぃ)は治まり今では簡単なコミュニケーションならとれる。
あの一晩の出来事がよほど気になってたのか、あたしの顔を見るとごめんね、ごめんね、もうしにたいよぉ、しか言わなかった頃に比べればこれは月面着陸並の偉大な一歩。地球は青かった。あ、それ別の人か。
そんな偉大なフレちゃんでもお外には一歩も出たがらない、んや、出られないが正しいかな。
だから、お使いは徘徊癖、ごほん、お散歩が趣味のあたしにおまかせあれー。
「ふんふんふん」
流行り廃りがはげしくて、日々目まぐるしく移り変わるコンビニの商品棚を眺めるのはキライじゃない。飽きないから。
下調べしておいたブランドのヨーグルトを手にとって裏面をじっくり観察する。フレちゃんの身体に入るものに万が一があっちゃいけないから。
だってフレちゃんはお薬の副作用とも闘うことになるのだ。薬が切れたときを考えて、負担をなるべくでも減らしてあげたい。
成分に問題ないことを確認してから、買い物カゴに放り込む。
「ヨーグルトーチョコレートーポカリスエットー♪」
それとバナナ。最近は固形のものもイケるようになった。
うつ病にはバナナがいいらしい。それとできれば日光浴と適度な運動なんだけどそれにはまだ早いかなー。
それにしてもバナナを食ながらうっきーって炎天下のジャングルを駆け抜ける猿にもうつ病があるっていうんだからおもしろいよねー。
猿でもなっちゃうんだからフレちゃんでもなっちゃうよねー。いや、フレちゃんでもなるんだから猿でもなる? むむ、どっちだろう。
そんなことを考えてたら、えーフレちゃんお猿さんと一緒? 宮本サルデリカ? なんて脳内のフレちゃんに怒られた。にゃはは、ごめんごめん。
よーするに猿でもペンギンでもネコでもフレちゃんでも、もしかしたらあたしでも? 誰にでもなっちゃうかも知れないんだから仕方ないよねーって事を言いたいのだ。ま、そんな弁解でどうにか機嫌を直してよ。
ふと、レジに向かう途中で新聞の一面記事の見出しが目にはいった。
そこには随分と見覚えのある顔が掲載されていた。
うん、まぁ、てゆーか、あたしだけど。
『レイジー・レイジー 大舞台でドタキャン! 突然の活動停止 その真相は』
あーまぁそうなっちゃうよねー。これもまー仕方ない。
少し興味が沸いたから新聞をめくって内容を追ってみる。
なになにー。
お騒がせコンビがまたやらかした。一ノ瀬志希と宮本フレデリカの人気ユニット、レイジー・レイジーは先日報道陣の前で活動停止を宣言した。
この2人の素行は兼ねてより問題視されておりそれが魅力のひとつでもあったのだが──。ちゅーりゃく。
なおライブや記者会見に宮本は一度も姿を見せなかったことから宮本になにかしらの原因があるのではないかと専門家は指摘している。
騒動ののちに、宮本は通っている短大に一度も出席しておらず学業に集中する、という名目は建前であるという見方が妥当だろう。
ファンの一人は語る。「フレデリカちゃんは気分屋ですし、しばしば人の気持ちを考えてないんじゃないかという行動をとることがあります。その性格が災いして事務所や営業相手とトラブルを起こしたのでは」
男性問題やユニットの不仲説も囁かれおり、真相はいまだ闇の中だ。なお事務所はいまだ沈黙を貫いてる。
ふんふん。
なるほど。
好き勝手、書いてるなぁ。
ファンのきみ、が本当かどうかは知らないけど。一言だけ。
フレちゃんが気分屋なのは否定しないとして人の気持ちを考えない、という点に関してはいささか見当違いというものだ。
フレちゃんは人を楽しませることに関してはとてもとても上手なのに、こと悲しませたり怒らせたりすることに関しては絶望的に下手っぴなのだ。
あれはいつだったかなー。奏ちゃんに誘われてみんなで映画を観に行ったとき。チケットを買うときに窓口で奏ちゃんが学生3枚って言ったんだけど。
「えー奏ちゃん一般料金でしょー。年齢詐称はよくないよー」
そんなことをフレちゃんが言ったものだから奏ちゃんが「高校生に見えなくて悪かったわね」ってそっぽ向いちゃったとき。
もちろん拗ねちゃったフリで、本当はちっとも奏ちゃんは機嫌を損ねてなかったんだけどね。
フレちゃんは途端にあれあれ、奏ちゃんもしかして怒っちゃったかなって、ひょこひょこと奏ちゃんの顔をのぞかせて。あたふたしてから。
「ねねっほらほら手品してあげるから機嫌直してよー。はーい手を出してー。握ってー。はい、奏ちゃんの手にいつのまにか飴玉がー。フレちゃんマジック~」なんて、とうとう奏ちゃんを根負けさせて吹き出させるまで粘ったんだよね。
フレちゃんはみんなを上手にいじることはできるのに嫌がらせはできない、とても器用で不器用子なのだ。
そんな器用で不器用なフレちゃんは、自分が心の病気だと知られることを何よりも怖がってる。
症状を周囲に隠したがるのは典型的な心理傾向らしいんだけど、特にフレちゃんはその気持ちが強かった。
せめて両親には伝えたほうがいいんじゃないのか、という事務所の打診にもけっして首を縦に振らない。
「心配、かけたく、ないから。パパとママに元気な、フレちゃん見せなきゃ」
あたしはその言葉に対応する言葉を持ち合わせていなかった。
さ、帰ろっと。新聞をとじて、あえて一面が隠れるよう裏向きに置き直しておいた。
これぐらいは18歳のふつーのJKがするささやかなイタズラとして大目に見ていただきたい。
あたしが新聞を裏向きに置いたことでコンビニのお客さんの購買意欲が下がり新聞の売り上げが減って日々のノルマは達成できずに記者のおでこにデコピンが飛ぶ。
風が吹けば桶屋が儲かる。バタフライエフェクト。かくして仕返しはフレちゃん本人も知らぬ間に実行されたのだ。なーんてね。にゃはは
また明日
「どんなときでも一直線に全力アターーーーック! いいと思います! 元気があればなんでもできる! ド根性です!」
あぁ、もう。
だめ、なのだ。
それはだめ。
「私は応援しますよーっ! 頑張ってください!」
どこまでもポジティブに物事を考えたフレちゃんは。
今ではどこまでもネガティブに物事を考えてしまうから。
ちょっと今、フレちゃんは脳内でエラーを起こしてしまってるから。
「あれあれっ?! どうしたんですかっ! なんだかいつものフレデリカさんらしくないですね! イメチェンというものですかっ?!」
「頑張れ」も「らしくない」もいけないのだ。
フレちゃんはその言葉がいちばんこたえてしまうのだ。
フレちゃんは精一杯、頑張ろうとして、らしくあろうとして。でもだめで。
日野茜ちゃんの本来善意100%の励ましの言葉をうけて、フレちゃんの瞳が、肩が、唇が、心臓が、脳が、ぐらぐら揺れる。
次の言葉がきっかけだった。
「フレデリカさんっ! 人と話すときはっ! 目を見て喋りましょうっ!」
「……っ……!」
フレちゃんはぐらぐらの瞳に涙をいっぱいに溜めて、突然振り向いて駆け出した。
「私の燃える瞳……おぉっ?! 夕日に向かってダッシュですねっ!」
これはちょっとマズいかもしれない。あたしもすっかり怠けきった体に鞭打ってフレちゃんの後を追おうとする。
踵をあげる。ぐらり。重心が崩れて足がもつれた。
「にゃっ」
廊下とにらめっこしそうになる。すんでのところで手をついた。
あちゃー疲労のせいかー。どこまでもタイミングが悪いねー。
体を起こすと、すでにフレちゃんの姿はなかった。
それでも足を前にだす。廊下の角を曲がる。いない。
むむむ、フレちゃんはどこにいったんだろ。
フレちゃんを見かけたらあたしの携帯電話まで。番号は090……ぴー。こじんじょーほーほごほー。
あたしが探すしかないか。
「おぉ志希さんもランニングですかっ!? 青春ですねー! 頑張ってください! でも前に廊下は走るなって怒られたんで気を付けてくださいねーっ!」
茜ちゃんの熱いエールを背に、走る速度をあげる。
「にゃはっ、は、応援さんきゅー♪ 始末書書くのは慣れてるからだいじょぶー」
んーあたしには「頑張れ」はちゃんと効いてる効いてる。
ドーパミンにエンドルフィンどばどば出ちゃってる。
ようやく事態を把握しつつある寝坊助な思考をフル回転させる。
「ふっ、ふっ」
突き当りのエレベーターの前につく。使ったか使ったか。確率は半分。
多分、これは使ってない。
こういうときにじっと待つ、という選択はふつーしない。じゃあ、階段だ。
上か下か。確率は半分。
1階まで下がって、外に出たんだったらまだいい。猶予はまだあるし、もしかしたらだれか止めてくれてるかもしれない。
でも今のフレちゃんが人目につくエントランスを通り抜けることを果たして選ぶだろーか。
階段を駆け上った。
ふと、まっさきに最悪な状況を想定してしまった。
あぁもうこの病気のその結末は15%から25%にもなるっていうけど。
日本でその結末を迎える人の6割はこの病気だったっていうけど。
それにしてもちょっと突然すぎやしないかな。まだ早いよフレちゃん。まだもうちょっとその確率の輪に入らないようにしようよ。
てゆーかあたしが勝手に入らせなくしちゃうけど。
このあたしの予想は、あたしの杞憂で終わってほしい。
3階。最上階。
いくつも部屋がある。この中にフレちゃんがいる確率は……。
んや、もしかしたら。あそこかもしれない。あそこだったらかなり危機的状況かも。
間違ってるかな。でももしそこに居たとして、あたしの予想をここで外してしまったら取り返しのつかないことになるかもしれない。
もうその場限りの推測をいくつも重ねてしまったから、いる確率は低いかも……。
違う。そこにフレちゃんがいるか、いないかで、確率は半分だ。
「ふっ……ふっ……」
乳酸菌が溜まりきった筋肉を酷使して、もうひとつ階段を昇った。
ダンスレッスンもしばらくやってなかったから、しんどいねー。
鉄の扉を押しあけると、風が吹き抜けた。
屋上。
そこには。ぽつんと。
帽子からかすかにはみ出た、天然モノのキレイな金髪が揺れていた。
フレちゃんは手すりに体を押しつけて、何もない空間を見上げている。
背を向けているから表情はわからない。
「フレちゃんっ」
強い風に声が掻き消される。
だめか。それじゃあたしの次の一手は。
最短距離で、ぽきりと折れそうなほどか細い背中めがけて走る。
もう考えてる暇はない。フレちゃんの背中は目前まで迫っているから。
状況的に、最善なのは。
あたしは行動を選択した。
手を腰に回して。
背後から物理的に拘束っ。
うっ、と小さなうめき声をあげてフレちゃんの体があたしに固定される。
帽子がひらりと舞って、風に乗せられて飛んでいった。
「ふー、ふー、にゃ、にゃははっ。 捕まえっ、たー」
よーするになんてことはない。ただのハグだ。
しんぷるいずべすと。
肩で呼吸して、鼓動を鎮める。どっくん、どっくんと、血液が体中を循環しているのを感じる。
くらくらする。はーあたま全然回らない。思考にもやもやと霧がかかる。
「ここで、ふっ。ふっ、なにしてたのかにゃ?」
「アタシやっぱりぜんぜん、だめだなぁって思っちゃって、こんなんじゃシキちゃんも飽きさせちゃうし、みんな、にも迷、惑ばっかかけちゃってて」
「ふーっ、ふーっ」
どっくん、どっくん。
「こんなつまんないアタ、シもう、消えちゃった、ほうが……」
いま、言葉の選択を失敗するわけにはいかない。
あたしは鈍いあたまで、慎重に言葉を選んで、言った。
「ふー、フ、レちゃんには、居場所ちゃんとあるよー」
「えっ」
どっく、どっく。
「フレちゃんは、友達いっぱいだねー。久しぶりにみんなの顔見て、どう思った?」
あたしらしくないなぁって思う。
今日のみんなに悪意がこれっぽっちも混じってないことを勝手に期待している。
あたしにあるかわからない、不確定要素をみんなに求めている。
しかたない。書物に書かれている知識なんて、いざというときには役に立たないものなのだ。
シキ、きみは黒板一枚とチョーク一本で世界の理をすべて解き明かせるんじゃないかってセリフはプレイボーイなカレが言った、あぁきみちょっと出しゃばりすぎだよ、しーゆーねくすとあげいん。もうないとおもうけど。
あたしにもわからないこと、いっぱいあるってば。一瞬、ダッドの後ろ姿が脳をかすめた。
「みんなは、きっと久々にフレちゃん見てね、喜んでたよー、」
あたしが土壇場で試したのは、解明できない善意なんてのが、きっと人の心に届く。なんて楽観的な観測だ。
真心なんて非化学的な成分がフレちゃんの心で反応を起こすことに賭けてみたのだ。
他にあたしが今できることはハグをすることによってβエンドルフィンが多幸感を与えてくれるのを実証してみるだけ。
「フレちゃんは、久々にみんなの顔見てどう思った?」
「……」
とっくん。
とっくん。
とっくん。
風がめいっぱい通り抜ける。
もう帽子の行方はわからない。
いっぱいいっぱい時間を溶かしてから。
ようやくフレちゃんは、ぽつりと呟いた。
「……嬉しかっ、た。みんな、やさしいなって。また会い、たいなって」
とくん。
その穏やかな声を聞いて、あたしの鼓動がようやくおさまる。
「そっかー、それじゃあたしのラボにまた明日も来てくれるかにゃ? てゆーかフレちゃんの部屋だけどねー」
「……うん、アタシ頑張って、この病気、治すね」
「フレちゃんー別に頑張らなくていいんだよー。なにせレイジー・レイジーだしー。まーゆるーく地に足つけてやっていこーよ」
「ちにあし?」
「にゃはは、なんでもない」
ほっ。
あたしの予想は杞憂で無事に終わってくれた。
もしかしたら、適度、というには激しすぎる運動と日光が効いたのかもしれない。バナナはないけど。
それともただ単に、振り子がたまたま好調の方向に揺れてただけかもしれない。
とにもかくにも。
あたしのフレちゃん観察記はまだもうちょっとだけ続きそうだ。
>>103
修正
乳酸菌が溜まりきった筋肉
↓
乳酸が溜まりきった筋肉
アホすぎますね
ごめんなさい
また明日
残り4割くらい
>>103
修正
使ったか使ったか
↓
使ったか使ってないか
もうちょい投稿前に推敲します…
今更だけど男性問題の解消(意味深)ってそういう事だよな...
今更だけど男性問題の解消(意味深)ってそういう事だよな...
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