小早川紗枝「実家に帰ろう」 (44)
モバマスss
地の文有り
書き溜め有り
読みにくいかもしれませんが、方言を多用しています
意味が通じなければ適宜聞いてやってください
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P「くれぐれも、切符はなくすんじゃないぞ」
紗枝「きちんとお財布にいれてますえ」
P「かなり昔になるけど、遠出したときに切符なくしちゃったことがあって、駅員さんにこっぴどく叱られたことがあってな……」
紗枝「へえ。いつの話です?」
P「俺が大学に行ってたときだよ。一人旅が趣味でな」
紗枝「なんやPはん、そないな趣味あらはったんどすか」
P「似合わないか?」
紗枝「そうは言うてません、ていうより、逆に似合う思いますけど」
P「ありがとう、逆に似合ってたか」
そのとき、出発を告げるベルが鳴り出した。
いまの時代、新幹線を使えば、二時間半足らずで京都まで行くことができる。
うちの芸能プロダクションは、本社が東京にあって、地方に実家がある娘の為に、プロダクションのすぐ近くに女子寮というものが存在する。
そして、女子寮を利用するアイドルの担当プロデューサーは、一定期間ごとにアイドルの保護者の元に赴いて、そのアイドルの仕事の出来や近況を報告するという決まりごとがある。
これをうちのプロダクションでは、家庭訪問と呼ぶ。
俺の担当しているアイドルは、名前を小早川紗枝という。
こてこての京ことばを話す、いかにも京美人というタイプの女の子だ。
今日は彼女の家庭訪問に行くため、東京は品川駅から、京都に向かう。
紗枝「Pはん、お菓子食べはります?」
P「いま出たばかりだろ? もうお腹空いたのか?」
急に自分の鞄を開けたかと思えばそんなことを言うので、驚いた。
紗枝「ちゃいます、ちょっとはりきってお菓子買いすぎてしもたんです」
自分で自分の言ったことが恥ずかしかったからか、弁明した彼女が微かに頬を染める。
紗枝「……って、Pはん? 女の子にそないなこと言わさんといてください」
P「すまんすまん、野暮だった」
紗枝「うちやから、特別に許してあげますけど。……で、どうしはります? なんなとありますえ」
久々の帰郷で気分がいいのか、すぐに爛漫な笑顔に戻った彼女が尋ねてくる。
P「そうだな、じゃあ歌舞伎揚げ食いたい」
紗枝「はあい、ちょっと待っとってくださいな」
楽しそうな彼女を見ていると、なんだか小旅行をしている気分になる。
大学生の長期休暇は、想像している以上に長く、そして退屈だった。
しがない学生をしていたころの俺は、惰性的に続けていたアルバイトと飲み会のループを断ち切ってなにを思い立ったか、ある日旅に出ることにした。
貯金をおろして、着の身着のまま電車に乗った。行き先もよく確認せず、行ける所まで行こうと思った。
旅に行くぞ、と意気込んでどこかに向かうのではなく、気の向くままにふらふらとさまようのが良かった。
知らない街を歩くのはたまらなく楽しくて、右を見ても左を見ても、なにもかもが新鮮だった。
紗枝「Pはんが旅行先としておすすめしはるなら、どこ挙げはります?」
俺はいま食べている歌舞伎揚げをのみこむまでの間に、自分の記憶を参照した。
どこであったとしても、それなりに楽しめたように覚えているが。
P「んー、そうだな。広島、福岡、京都あたりかな」
俺がそう言うと、悪戯っぽく笑われた。
紗枝「あら、気使わんでもええのに」
特に気を使ったつもりはなかったのだが、よく考えればそう捉えられても仕方なかった。
P「なんでだよ、京都はいいところじゃないか」
紗枝「へえ。そうどすか?」
彼女のその言葉には、否定的なニュアンスが見え隠れしていた。
彼女が表情を曇らせてしまったことが気がかりで、尋ねる。
P「京都出身のお前がそんなことを言うのか?」
紗枝「……皆さん、京都はええとこや言うてくれはるんは、嬉しいんどす」
紗枝「せやけどうちは、手放しにええとこや、なんてよう言う気にはなれまへん」
京都出身のお前が。ついさっき俺は彼女にそう言った。
でも、もしかしたら京都出身だからこそ見えてしまう、京都の悪いところがあるのかもしれない。
紗枝「あすこは周りが山に囲まれた盆地やさかい、夏は暑いわ冬は寒いわ、しんどいし」
紗枝「年中どこかしらで道路工事してるから、うるそうてかなわんとこどすえ」
外の景色を見ながら、彼女はこともなげに言ってみせた。
そしてパーティー開けされた歌舞伎揚げの大袋から、薄べったい一枚を摘みあげて、口元へ運ぶ。
それを小さな口で齧る姿が、それでいてどことなく寂しげな瞳が、この娘が天性のアイドルであることを現在進行形で証明し続けている。
俺はというと、そんな彼女の憂いを帯びた表情に見惚れていた。
紗枝「……Pはん?」
P「悪い、お前があんまりいい表情だったものだから、見惚れててなんにも聞いてなかった」
紗枝「な、なにを言いはりますのん急に」
彼女は元が白い肌をしているので、照れるときは見事なまでに頬が染まる。
紗枝「もう。すぐそうやって誤魔化さはる」
口調は穏やかではなかったが、満更でもないといった表情だった。
P「別に、京都には嫌なところもあるけど、だからって嫌いなところでもないんだろ」
俺がそう言うと、彼女は曖昧な感じに頷いた。
紗枝「それは……まあ……」
P「故郷なんて大体そういうものだと思うがな」
紗枝「Pはんも、そうなんどすか?」
P「ああ。俺のところは道路は汚くて、娯楽施設が少ない、ドがつくほどの田舎だった」
そう言って思い出すのは、小さかったころのこと。それも決まって、夏の暑い日。
親が湯がいてくれた素麺と、きんきんに冷やした西瓜。
P「俺も、お前ぐらいの年齢のときは故郷が好きになれなかったものだが、東京に出てみれば、不思議と時々帰りたくもなる」
思い出として想起される過去は、補正がかかっているからだろうが、やはり良いものとして映りやすい。
紗枝「……でもそれわかります、たしかに、ほんのたまに、うちも京都が恋しなるときあります」
P「まあ俺も、別に故郷を好きになれって言いたいわけじゃなくて、」
P「無理に嫌わなくてもいいんじゃないかって、つまりはそういうことだ」
ふと、どうして自分はこんなに偉そうなことを言ってるんだろうか、と思う。
まるで目の前の彼女に過去の自分を重ねて、後悔の芽を摘んでいる心地さえする。
なんとなく、という理由が積み重なって、長いこと故郷に、そこに住む親に会っていなかった。
数年前、仕事も安定してきてやっと満足に親孝行ができるようになった矢先に、親が他界した。
以来故郷には、葬式や法事の際にしか帰っていない。
紗枝「なんやPはん、先生みたいやね」
P「俺がか? ないない」
紗枝「結構それっぽい思いますけど?」
P「どこがだよ」
苦笑混じりに尋ねると、くすぐったそうに答えてくれた。
紗枝「うちの知らん世界をいっぱい教えてくれるとことか」
紗枝「ほんでPはんは、京都のどこがええ思うんどす?」
P「道がわかりやすい」
即答すると、彼女が声を出して笑った。
紗枝「あははっ、たしかにわかりすうなっとるけど」
P「だろ? あとは電車がわかりやすい」
この答えも彼女にはウケたようだった。
紗枝「わかりやすいばっかしやおまへんか」
P「その方が旅するときは楽だったからな」
紗枝「まあ地下鉄なんて二本しかあらへんしね」
P「あとは……そうだなあ。案外普通の街だったところかな」
紗枝「普通の街のがええんどすか?」
P「だってその方が魅力あると思わないか」
紗枝「そうですやろか……?」
彼女がしっくりこないといった様子で首を捻る。
P「わかりやすいところに掲げられた魅力に気付けるひとは多いけど、そうじゃなくて、ちょっとした良いところに気付けると、嬉しいって思う」
P「たとえばお前なら、黒髪とか京ことばに関心が向きがちだが、目だって印象的だ」
紗枝「目、どすか」
P「お前の目は強い武器だと思う。芯の通った眼差しも、揺らせば散るような儚さも持ち合わせてる」
その目が、少しだけ開かれる。
紗枝「そんなん言うてくれんの、Pはんぐらいやわ」
P「そりゃ、ファン一号として誰よりもお前のことを見てるからだろ」
やっぱり彼女は、照れるとわかりやすい。
紗枝「あ、思い出した」
P「どうした、なにを」
紗枝「京都にいたころに、うちが好きやったこと」
P「お。なんだ?」
紗枝「学校やら友達の家から帰ると、お母さんが夕飯作ってて、おかえり、て言うてもらえるんが、好きやったなあ」
紗枝「なんか、無条件にうちを迎え入れてくれる感じが良かったんかもしれまへんね」
紗枝「あと、小さいころは、休みの日にお父さんに公園に連れてってもらえるんが嬉しかったんどす」
紗枝「いつもお仕事で忙しいはずやのに、せやのにたまの休みに遊んでくれはって。……ってこれ、京都関係ないかなあ」
いくらしっかりしているからといって、彼女はまだたったの十五歳なのだということに、気付かされる。
東京に移ってきたときに別れてしまった友達も、たくさんいただろう。
彼女の、しみじみと思い返すような言い方に、俺は尋ねずにはいられなかった。
P「……あー、紗枝」
紗枝「はい?」
P「今更こんなこと聞くのもどうかと思うが、ご両親と離れ離れになって、寂しかったよな」
紗枝「んー、寂しない言うたら嘘なりますけど、もう慣れましたえ」
P「あれだったら、もう少し休みを増やせるように上に掛け合ってみるが」
紗枝「ううん、構いまへんよ」
そして、きっぱりと彼女は言い放った。
紗枝「うち、アイドルが楽しゅうてたまらんのです」
紗枝「歌を歌うんが好き」
紗枝「踊り踊るんが好き」
紗枝「皆と仲良うすんのが好き」
紗枝「世界がきらきら輝いてるんどす」
紗枝「……たまに、しんどいとか、辛いとか思うときもあります」
紗枝「うまくいけへんことも、たくさんありますけど」
紗枝「うちはもっと、輝いてみたい」
紗枝「ファンのひとに、輝いたうちを見てもらいたいんどす」
この娘の担当プロデューサーをしていて良かったと思う瞬間は、いままでだって何度もあった。
でも、これほどまでに心を動かされたのは、初めてだった。
P「着いたな」
紗枝「着きましたねえ」
P「電車に忘れもの、しないようにな」
紗枝「あれ、切符が……」
P「あれだけ言ったのにか!?」
紗枝「冗談です、ちゃあんとありますさかい」
P「お、驚かさないでくれ」
紗枝「うふ。すんまへんなあ」
P「……あまり反省の色が見られないが?」
紗枝「そんなことない思います」
顔を見合わせて、二人して笑い合う。
P「やっと帰ってこれたな」
門の前で足を止めた彼女に声を掛ける。
彼女は茫然と、生家を眺めていた。
駅に着いたときとは打って変わって、緊張した面持ちをしている。
紗枝「……なんや、めっちゃ懐かしい気がするんは、気のせいでしょか」
P「ここのところずっと働き詰めだったんだ。不思議じゃないと思う」
彼女が、少し震える指でインターホンを鳴らす。
ややあって、玄関の扉が開いた。
彼女によく似た、綺麗なひとがそこから現れる。
紗枝「お母さん、」
いつの間にか俺の傍らには、アイドルではない一人の少女がいた。
紗枝母「おかえり、紗枝」
紗枝「ただいま、お母さん」
彼女が母親の元まで駆け寄って、抱きつく。
彼女の母親は、それを優しく抱きとめながら微笑んだ。
紗枝母「お久しぶりです、プロデューサーさん。いつも娘が世話掛けてます」
P「いえいえ、そんなことないです。紗枝さんは頑張ってくれていますよ」
紗枝母「立ち話もなんですし、お上がりください」
P「そうさせていただきます」
そのまま家庭訪問は始まる。居間のダイニングテーブルについて、彼女の両親を迎えて四人で。
P「CDも無事発売することが叶いましたし、売れ行きも上々です。紗枝さんはこれから、いま以上にもっと活躍していきます」
紗枝母「まあ! そう言っていただけると安心します。ねえ、お父さん」
紗枝父「うん。どうなることやて心配してましたが、うちの娘も頑張ってくれとるようで、良かったですわ」
P「CDを足掛けに知名度が上がりましたからね。一気に人気が増えると思います」
紗枝「なんや、恥ずかしいわあ、居づらいわあ」
自分を褒めちぎられるむず痒さに耐えられなかったのか、顔を赤くした彼女が声を上げる。
紗枝母「こら、紗枝。そないなこと言わんの」
紗枝父「そうや、プロデューサーさん。うちの娘が迷惑かけてませんか?」
紗枝「お父さん、なに言いだすん!?」
P「迷惑なんて、とんでもない。逆に紗枝さんには助けられているぐらいで」
紗枝「Pはんも! そんなん初めて聞きましたえ!?」
紗枝父「おっとりしとるようでそそっかしいとこもありますが、今後もよろしゅう頼みます」
P「ええ。彼女は必ず、トップアイドルになりますから」
紗枝母「頼もしい限りやねえ」
紗枝「うち、恥ずかしゅうて死んでまいそうや……」
話も落ち着いて、もう少しで夕方に差し掛かろうかという頃合い。
そろそろ今日の宿を抑えなければ、取れなくなってしまうかもしれない。
P「じゃあ紗枝。明日の夕方に、ここに迎えに来るから」
そう言ってお暇しようとした俺を、彼女が引き止める。
紗枝「あれ? Pはん仕事に戻らはるんどすか?」
P「いや、俺もお前に合わせて明日まで休みだが」
紗枝「ほんなら、いまからどこ行かはるの?」
P「駅前辺りのホテルでも取りに行こうかと。そのまま観光でも、なんて」
紗枝母「うちでよければ、泊まっていかはったらどう?」
P「えっ、悪いですよ。久々の家族団欒なのに」
紗枝父「君もお疲れだろう、気にせず是非泊まっていきなさい」
紗枝「観光やったら、明日うちが案内しますさかい」
ここまで言われてしまっては、無下に断るのは失礼になる気がした。
P「あの……お邪魔でないようでしたら、お世話になります」
それから美味しい夕飯をいただいて、少ししたころ。
夜も更けて、居間で休憩していたときのことだった。
紗枝父「……君は、紗枝のことをどう思いますか」
夕飯の後、彼女と彼女の母が後片付けをするタイミングで、彼女の父から急にそんなことを言われた。
そういう意味合いがないことはわかっていても、少しだけ、どきっとしてしまう。
P「とてもいい娘だと思いますよ。しっかりしていますし」
紗枝父「しっかり、か。たしかにそう映るかもしれませんな」
彼は、少し眉をひそめて言った。
紗枝父「実は、あの子が小さいときは、私も妻も仕事が忙しくて、あんまり構ってやれへんかったんです」
P「……そう、だったんですか」
紗枝父「妻はその中でもなんとか時間を見繕って、あの子の傍にいてくれてましたが……私はたまの週末ぐらいしか、ろくに時間を作れなくてね、」
P「……」
俺は、新幹線の中でのやりとりを思い出した。
紗枝父「あの子にとって、無理にでもしっかりならざるを得ない家庭環境だったのではないかと、後悔している部分もあります」
紗枝父「しかし、まだあの子は十五歳。心の奥では、本当は寂しがってるんやないかと、そればっかりが気がかりなんです」
紗枝父「だけど、いまや私達夫婦よりも、君や、あの子のアイドル友達の方が、あの子と強い信頼関係を築けているのかもしれない」
紗枝父「だから、私から、君に改めて頼みたいことがあるんです」
彼は、緊張した面持ちで、まっすぐこちらを見据えた。
P「は、はい」
紗枝父「あの子を、トップアイドルにしてやってください」
紗枝父「あの子の夢を、叶えてやってください」
彼は、そう言って深々と頭を下げた。
P「勿論です。この身にかえましても」
紗枝父「……ありがとう。恩にきります。」
そう言って彼は立ち上がり、
紗枝父「おうい。もう寝ることにするわ」
台所の方に声を掛けて居間から退出してしまった。
暫くして、彼女が姿を見せた。
紗枝「Pはん? 客間の方にお布団敷きましたえ?」
P「ああ、ありがとう」
紗枝「……Pはん?」
P「紗枝、ちょっと話がある。いま、いいか?」
紗枝「別に、構いまへんけど」
P「お前、――――」
次の日は、朝から彼女と京都を散策した。
たしかに彼女の言う通り、そこかしこで道路工事が行われていたことには驚いた。
なんでもない街並みを歩きながら、気の向くままにお店に入ったり、公園で休憩したり、俺達は休日を満喫した。
そして昼過ぎごろに彼女の家に戻り、荷物をまとめる。
紗枝「ねえ、お父さん、お母さん」
彼女が話し始めたのは、出発の直前のことだった。
紗枝「うち、アイドルが楽しい」
紗枝「ファンの皆に幸せになってもらえるんが、嬉しい」
紗枝「アイドルやってて良かったって、ほんまに思うし、これからも、ずうっと続けたい」
紗枝父「さ、紗枝? 急にどうしたんや?」
彼女の声は、どこまでも優しかった。
紗枝「でもな、アイドルよりも好きなもんもあるよ」
P『紗枝、ちょっと話がある。いま、いいか?』
紗枝『別に、構いまへんけど』
P『お前、お父さんとお母さんは好きか?』
紗枝『そりゃ勿論好きどす』
P『それを、本人達に伝えたことは?』
紗枝『……ありまへん、けど』
P『どうして?』
紗枝『だって……恥ずかしいやおまへんか』
P『せっかく直接言える機会なんだから、伝えたらどうだ。明日には東京に帰るわけだし』
紗枝『そ、そんな、急に言われても』
P『……まあ別に、無理にとは言わないけどな。……俺だって、お前の立場だったら、ためらうさ』
P『でも、想いはきちんと言葉にしないと、伝えたくても伝わらないってことは、わかっておいてくれ』
紗枝「うちが、アイドルより好きなもん。それはね、」
紗枝「お父さんと、お母さんやで」
紗枝「こんなこと、言うたことなかったけど、二人のことが大好き」
紗枝「いつも感謝してもしきれんぐらい、感謝してます」
紗枝「……えっと、うちが言いたいのは、これだけどす」
目の前で両親に抱きしめられる彼女を見ながら、今度の休みは実家に帰って墓参りに行こうと、俺は心の中でそう決めた。
紗枝「Pはん」
P「うん?」
帰りの新幹線の中で、彼女が話しかけてきた。
紗枝「色々、おおきに」
P「別に大したことはしてないが」
紗枝「Pはんは、魔法使いみたいなひとや」
P「魔法使い?」
紗枝「幸せで心がぽかぽかするもん。まるで魔法にかけられたみたいに」
俺には勿体ないほどの言葉だった。
P「それなら、よかったよ」
紗枝「……ねえ、Pはん」
P「今度はなんだ?」
紗枝「うちが、お父さんとお母さんの他にも、好きなもんがあるって言ったら、」
紗枝「Pはんはそれがなにか、知りたい?」
数年後。
P「なんとか定時で上がれたな……お腹空いた……」
デスクワークが多いので、最近は健康を意識して、エレベータではなく階段を使うようにしている。
といっても、自宅はマンションの三階なので、大した運動量でもないのだが。
鍵を使って、自宅の扉を開ける。
部屋の奥から、カレーのいい匂いが漂ってくる。
紗枝「ちょうどええ。いまできたとこ」
ぱたぱたというスリッパの足音が近づいてくる。
P「ただいま。紗枝」
俺がそう言うと、優しい声が返ってきた。
紗枝「おかえりなさい、Pはん」
以上になります
読んでくださったひとがいたなら、ありがとう
ちなみに広島は牡蠣とお好み焼きが美味しいので、また福岡はモツ鍋と明太子が美味しいので、という勝手な理由です
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