咲「ま、また迷っちゃった」末原「……清澄の大将?」 (28)

末原「こんな所で何をしとるんや?」

咲「あなたは姫松の……二位の人?」

末原「喧嘩売っとるんか?」

咲「あ、いや。そんなわけでは」

末原「……ええわ。事実は事実やし。次は負けへんけどな」

咲「は、はい。よろしくお願いします」

末原「それで、こんなところで何しとるんや? 買い物か?」

咲「あの……迷っちゃって」

末原「なんや、迷子か」

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末原「一緒に買い物に出た友達とはぐれたんか」

咲「はい……」

末原「でもそんなん携帯で連絡取ればええやん。スマートフォンあるなら、それで地図検索してもええし」

咲「私、携帯持ってなくて……」

末原「え? 持ってないって、ガラケーも?」

咲「が、ガラケー?」

末原「……スマートフォンとか色々出てる時代に、携帯電話自体を持ってない女子高生がおるとは思わんかった」

咲「す、すみません」

末原「いや謝ることではないけどな……」

末原「仕方ないなぁ。このまま放っておくのも心苦しいしな。送っていってやるわ」

咲「あ、ありがとうございます」

末原「清澄が泊まってるとこってどこや? 調べてやるから」スマフォ

咲「あ、えっと……分かりません」

末原「……は?」

咲「いや、その。覚えてなくて」

末原「な、名前も?」

咲「……はい」

末原「」

末原「自分の泊まっとる宿くらい覚えとけや」

咲「す、すみません」

末原「……何と言うか、色々な意味で私の想像を超えていくやつやな」

咲「ど、どうすればいいでしょうか……?」

末原「どうすればと言われても、名前も分からんとなれば検索のかけようもないしな……友達の携帯の番号とか覚えて」

咲「ないです」

末原「まぁ、そうやろな」

咲「……も、もう帰れないんですか?」

末原「そないな顔するなや。大丈夫、一生帰れないなんてことは無いわ」

末原(……たぶんな)

末原「しかしどうしよ……そこらの小さな田舎町やないし、適当に歩いとれば見つかるという訳でもないやろな」

末原「日本一人口の多い首都で、その友達に見つけるっていうのも無理ありそうやしなぁ」

咲「……ごめんなさい」

末原「何を謝っとるんや?」

咲「その、ご迷惑かけて」

末原「何や、そんなもん困ったときはお互い様やで。そんな謝るようなことされてない。大阪人の人情舐めるなや」

咲「ごめんなさい」

末原「そういうときは謝るよりありがとうって言いや。ちゃんと送り届けられたあとにな」

咲「……」

末原(……何か調子狂うなぁ)

咲「……」

末原(麻雀やっとったときは威圧感あったけど、今はそんなことないな)

末原(……そうやな。麻雀で化け物とか魔物とか言われても、中身は結局高校一年生。全国も始めてやろうし)

末原(知らん土地で仲間とはぐれれば不安にもなるし、怖くもなるか)

末原(案外、龍門渕の天江とか、永水女子の神代とかもこんな感じ何やろか……白糸台の宮永照も)

末原「大丈夫や。年上としてちゃんと送り届けてやるわ。な?」

咲「はい、ありがとうございます」ニコッ

末原「……う、うん。任せとき」

末原(……威圧感なければ、結構可愛いなぁ)

末原「しかし、やっぱり困ったなぁ。全く手がかりがないし……電車とか使ったか?」

咲「あ、電車使いました」

末原「駅名は?」

咲「えっと、話しながら来たので、覚えてません」

末原「……まぁ、予想はしてたわ」

末原「東京は迷路やしな、慣れてないから何駅くらい乗ったか聞いてもわからんやろなぁ」

咲「……」

末原「ま、まぁまぁ。どうにかなるやろ! ポジティブにいこうやポジティブに」

咲「はい……」ションボリ

末原(……しょんぼりすると、よけい可愛いなぁ)

末原「仕方ないなぁ。うちに来るか?」

咲「え?」

末原「確かうちの部長が清澄の部長と仲良いとか言っとったから、清澄の泊まってる場所知ってるかも……」

咲「ほ、本当ですか?」

末原「う、うん……どっちにしろ、いつまでもここで突っ立ってるわけにもいかへんしな」

末原「待ってたら友達が迎えに来てくれるって気配でもないし、とりあえずはうちのホテルに帰って考えようや」

咲「はい。あの、ありがとうございます」

末原「うん……私とははぐれんようにな」

咲「分かりました」

末原「……心配やから、手繋いどこうか」

咲「はい」

——姫松宿泊所——

末原「みんな帰っとらんか……。せめて部長一人残ってくれてたら良かったけど」

末原「まぁでも出かけたのは朝やし、もうそろそろ帰ってくる頃やろ。もうちょっと待っててな」

咲「は、はい!」ビクビク

末原「いや、そない緊張せんでもええよ。取って食おう言うわけでもあらへんし」

咲「はい」ビクビク

末原「……清澄の」

咲「は、はい、何ですか?」

末原「……」ギュッ

咲「!?」

末原「安心せえや。ちゃんと送る言うとるやろ。そんな震えんでも大丈夫やから」

咲「……はい」

——10分後——

咲「」スースー

末原「安心せえ言うたけど、まさか寝るとはな……やっぱりこの子、想像を超えるわ」

末原「ある意味大将の器やな。私もこれくらいできひんといかんのやろか……?」

咲「……みん、な……」スースー

末原「……という訳でもないか。普通に疲れてたんやな。私を信頼して、安心して眠ったんや」

末原「この子も普通の高校一年生。かなりか弱い部類に入る一年生やんな」

咲「」スースー

末原「……寝顔、可愛いなぁ」ナデナデ

咲「」スースー

末原「……」ジー

末原「何というか、こう無防備で居られると、ちょっと悪戯したくなるな……」

末原「い、いやあかんで自分! この子は私を信頼して寝てるんやから。信頼には応えんと!」

咲「」スースー

末原「で、でも、ちょっとくらいなら……その、頬にキスとか、その程度ならあとに残らんし、ええかな」

咲「」スースー

末原「……」チュー

洋榎「ただいまやでー」

末原「ふなっは! しゅ、主将!?」

洋榎「ん? ふなっは? 何やねんそれ。挨拶か?」

末原「は、はぁ……」

洋榎「朝は『おはふなっは』、昼は『こんにちふなっは』、夜は『こんばんふなっは』やな」

末原「え? いえ、ちゃいますよ」

洋榎「ちゃうんかい」

末原「朝は『はなっは』、昼は『ふなっは』、夜は『ほなっは』」

洋榎「なるほど、時間が経つとはひふへほ順で下がるんやな。じゃ『ひなっは』と『へなっは』はどこやねん」

末原「朝と昼の間と、夕方」

洋榎「なるほど、そういうことか……ってそんな挨拶聞いたこと無いわ! 何やねん。下らんことで長話すなや」

末原「話広げたんは主将ですよ……」

洋榎「ええけどな。時は金なり言うけど、一分二分のはした金くらいでけちけちせんわ。許したる」

末原「いや、だから話を広」

洋榎「ところでその子、誰やねん」

末原「え? ああ、清」

洋榎「ああ! 清澄の大将か。思い出したわ」

末原「主将。台詞を最後まで言わせてくだ」

洋榎「なるほどなぁ。なるほどなるほど」

末原「……」

洋榎「それで? 何でこの子、ここにおんねん」

末原「いや、さっき街中を歩いてい」

洋榎「拾ってきたんか?」

末原「……まぁ、そんなところです」

洋榎「そうか……よし分かったで! つまりその清澄の子を調べようってことやな!」

末原「……は?」

洋榎「油断して眠っている間に、あの驚異的な場の支配の秘密を探ろうや。体を隅から隅まで調べてな」

末原「調べる?」

洋榎「何かわかるかもやで」

末原「隅から、隅まで……?」ゴクッ

末原「……」

洋榎「なんてな。まさか対戦相手にセクハラなんてできへんわ!」

末原「」ジー

洋榎「きょ、恭子? 冗談やで?」

末原「え? は、はい。分かってますよ。まさか本気にするわけないですよ」

洋榎「……恭子、そういえばさっきその子に何かしようとしとらんかったか?」

末原「え? いや、そんなまさか……」ダラダラ

洋榎「ま、まさか恭子……」

末原「いや、ちゃいますよ……?」

洋榎「その子に改造手術を!?」

末原「……は?」

洋榎「あかんで恭子! いくら強敵や言うても改造手術で能力奪ったり、記憶操作して私たちの味方にしちゃあかんで」

洋榎「勝負は正々堂々とやで!」

末原「そんなことしません」

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