【ごちうさSS】眠れぬ少女と眠らない羊 (10)
広大な草原に群がる百万頭の羊を見たことがあるだろうか。
おぼろげに光る月に照らされて、その羊たちは律儀にも一列に並び草原に建てられた木の柵を飛び越えて地平線の彼方へと駆けていくのだ。
羊の列は一向に終わりが見えてこない。
あぁ、今日も私は眠れないのだろうか……………………
さん……ココアさん………起きてください!」
ココア「ん……もう朝…………?」
チノ「ココアさん、早くしないと遅刻しますよ。」
ココア「おはよーチノちゃん………もうこんな時間!?学校に遅刻しちゃう!」
チノ「だから早く起きてくださいって……私も遅刻しちゃいますから先に行ってますよ。朝ご飯は下に置いてあるのでちゃんと食べてくださいね。」
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ここ最近、毎日こんな調子だ。眠れないと思ったらいつの間にか朝になっている。"いつの間にか"というからには、どこかのタイミングで寝ているのだろうが、もう3日間も寝た心地がしない。
こんな連続で遅刻したら先生に大目玉を食らってしまう。急いで登校の準備をし、朝ごはんを水で流し込むようにして家を出た。眩しい朝日が私の目を焼くように差し込む。急がなきゃ、フラフラとした足取りで学校へ向かった。
結局、学校には遅刻してしまったが。
千夜「ココアちゃん、最近顔色悪いわよ。食事と睡眠はちゃんとしなきゃダメよ?」
ココア「えへへ、食事は抜かないようにしてるんだけど、どうしても夜に眠れなくて………」
千夜「ココアちゃん、目の下にクマができてるわよ。昼寝はしてないようだし、なんで眠れないのかしらね……」
ココア「まぁ眠った気がしないだけで、本当は眠ってるみたいだから…疲れてるのもきっと気のせいだよ。」
千夜「そう……お大事にね。」
私は学校では寝ない。いや、つい数日前までは寝ていたが羊を数え始めてからは眠れない。
ウツラウツラと船を漕ぎながら私は帰路についた。
リゼ「ココアが不眠症?」
チノ「そうみたいなんです。ここ数日間、眠った気がしないらしいです。」
リゼ「それはツラいな……ココア、疲れてるなら休んでもいいんだぞ。」
ココア「ううん、大丈夫。休んでも寝れないからね…あはは」
リゼ「相当疲れてるな……」
チノ「ココアさん、眠れない時は羊を数えるといいらしいですよ……」
リゼ「それはsheepとsleepが似ているっていう言葉遊びじゃなかったか?」
ココア「羊……羊が…………」
チノ「コ、ココアさん?」
私は二人に話した。
毎晩、大量の羊を数えさせられること。
羊は一向に減らないこと。
いつ終わるのかもわからないのが怖いこと。
夢を見ているのか、それとも私が思考しているのかはわからないこと。
リゼ「それは災難だな。」
チノ「……………」
リゼ「そうだ!明日は土曜日だし、ココアがちゃんと寝れてるか見ててやるよ!」
ココア「そんな、悪いよ……」
リゼ「大丈夫だ、夜更かしには慣れてる!親父に連絡してくるよ!」
チノ「ココアさん……」
夜も更け、私が床につくと 彼女はベッドに背を向けて胡座をかきながらこう言った。
リゼ「私がいるから安心しろ。羊だって一緒に数えてやる。」
さぁ、今日も羊を数える夜が始まる。
いつもと変わらず羊がいて、いつもと変わらず柵を飛び越える。そしていつもと変わらず数え始める。
羊が1匹、羊が2匹、羊が3匹…
ココア「羊が7783匹……羊が7784匹……羊が」
リゼ「おい、ココア!」
ココア「リゼちゃん!?どうしてここに……本当にいっしょに数えてくれるんだね!」
リゼ「いや、私もどうしてこんなところにいるのかわからないんだ……」
ココア「リゼちゃんも私の作り出した幻影なのかもね、でも心強いよ!」
リゼ「幻影か……それでもココアの気持ちが紛れるならそれでいいよ。」
リゼ「それで、ココアの言ってた羊ってこれか?」
ココア「うん、終わりも見えないしキリがないよ。きっと数え終わったら私は眠れるんだ。」
リゼ「そもそもなんで羊を数えてるんだ?」
ココア「なんでって、羊が1匹ずつ柵を越えてるんだから数えるでしょ?」
リゼ「つまり、なんとなく ということか……」
ココア「そんなこと言っても他にやることないし……」
リゼ「じゃあ羊がどこに行ったか追ってみよう。たまには違うことをすると楽しいぞ!」
ココア「私は早く数え終わりたいんだけど……」
リゼ「こんなところで羊ばっか数えてたらおかしくなっちゃうぞ。ほら、とにかく柵を越えていこう!」
ココア「もう、仕方ないなぁ……」
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