王「勇者よ、よくぞ魔王を倒してくれた」
勇者「勇者として当然のことをしたまでです」
王「ほほ、相変わらずだのう。さて、さっそく褒美の手配をしよう」
勇者「ありがたいお言葉ですが、褒美のために魔王を倒したわけではありませんので」
王「そうは言っても、魔王を倒した勇者に何もやらないとなると、民も納得しないだろう。わしの顔を立てると思ってどうかもらってくれ」
勇者「そこまでおっしゃられるのでしたら」
王「よし、では何が良いかのう。あれが良いか、それともあちらの方が良いか……」
勇者(なんでこんなに楽しそうなんだろう)
王「そうだ! わしにはちょうどお主ぐらいの娘がおっての」
勇者「はあ」
王「わしの娘の婿にならんか?」
勇者「え、それはちょっと……」
王「遠慮することはないぞ? それとも王女では不満か?」
勇者「いえ! 決してそういうわけではないのですが……」
王「親のわしが言うのも何だが、王女は国一番の美女だぞ?」
勇者「はい、初めてお会いした時には思わず見とれてしまいました。素敵な方だと思います」
王「では何か問題でもあるのか?」
勇者「えっと、王女様も自分のような者が相手では嫌でしょうし……」
王「それならば問題ない。王女も勇者のような人物が憧れだと言っておってな」
勇者「えええ、まじですか」
王「まじまじ。ま、もう少し考えてみてくれ」
勇者「そう言われましても」
王「まあ、長旅で疲れているだろうし、とりあえず今日のところは城に泊まるといい」
勇者「ありがとうございます。てか、話そらしましたよね?」
王「ああ、そうだ。勇者よ、もう一つだけ言っておこう」
勇者「あれ、無視ですか」
王「お主なら、わしの後を継ぐのにふさわしいと思っておる」
勇者「…………」
王「もう一度、よく考えてみて欲しい」
勇者「はい……」
【城内の客室】
勇者「はあ、どうしよう……」
コンコン(ノックの音)
???「勇者さま、少しよろしいでしょうか」
勇者「あ、はい。どうぞ」
王女「失礼します。お久しぶりです、勇者さま」
勇者「お、王女!?」
勇者(うわー、いつ見ても羨ましいくらいの美人だなあ)
王女「あら、そんなに驚かなくても」
勇者「す、すみません」
王女「ふふ、相変わらずですね。魔王を倒しても全然いばっていない。さすが勇者さまだわ」
勇者「そんな、自分は勇者として当然のことをしたまでですので」
王女「もしかして、父にもそう言ったんじゃないですか? 勇者さまは自分の努力を高く評価しても良いと思いますよ?」
勇者「そうでしょうか……」
王女「ええ。だって私の憧れの方ですもの。残念ながら振られちゃったみたいですけど」
勇者「え、ちょ、まさか王から何か聞いて……!?」
王女「はい。私の魅力が足りないばかりに婿に来てもらえないと……。ぐすん」
勇者「いやいやいや! そんなことは全くないです! 王女さまは本当に素敵な女性です!」
勇者(全く、何適当なこと言ってんだあのおっさん!)
王女「ふふ、ありがとうございます。でも、結婚はしてもらえないんですよね」
勇者「それは……」
王女「いいんです。気にしないで下さいね。父はちょっと強引なところがあるのであれですが、私から言っておきます」
勇者「すみません。決して王女さまに不満があるわけではないんです。それだけはわかっておいて下さい」
王女「ええ。……本当は、私も勇者さまが断ってくれてほっとしているんです」
勇者「あ、ですよねー」
王女「違います。勇者さまに憧れているのは本当です。でも、結婚したいとかそういう対象じゃないんです」
勇者「と言いますと?」
王女「私は城からあまり出たことがありません。身の回りの世話もやってもらっています。王の座は私と結婚した人が継ぎますから、寝る間を惜しんで帝王学の勉強をすることも、厳しい武術の訓練をすることもありませんでした」
勇者「…………」
王女「私は今まで、何不自由なく、蝶よ花よと育てられてきたんです」
勇者「しかし、王女という肩書は重いでしょう?」
王女「そりゃあ、王女にふさわしい振る舞いをしなければならないのは大変ですけど、もう慣れました。国内の政治も隣国との関係も安定していますから、殺される心配もほとんど無いでしょう」
勇者「王女であることを、嫌だと思ったことは……?」
王女「ふふ、実はちょっとだけ。でも、勇者さまはもっと大変だったのでしょう?」
勇者「いえ、自分は勇者として生まれてきたことを誇りに思っていますから」
王女「そう言うと思っていました。でも、ちょっとくらい弱音を吐いたっていいと思いますよ? 秘密を隠し続けるのも辛いでしょうし」
勇者「……秘密?」
王女「勇者さまが断ろうがどうしようが、私たちは結婚出来ないってことです。いくら髪を短くして男らしい恰好をしていたってわかります」
勇者「知って、いたんですか?」
王女「ええ。同じ女性として、厳しい状況の中でも強く生きようとするあなたに憧れていましたから」
勇者「王女さま、自分は……」
王女「もう、魔王はいなくなりました。勇者さまを縛りつけているものは、もう無いんです」
勇者「それでも、自分は勇者です。勇者の家系に生まれ、勇者として生きてきました」
王女「勇者さま……」
勇者「今まで国民に対して、自分を男だと偽ってきました。いまさら女だといっても失望させるだけでしょう」
王女「そんな、男も女も関係ないわ! 勇者さまはみんなのために戦ってくれたのよ!」
勇者「ありがとうございます、王女さま。しかし、これは自分で決めたことなんです。昔の……女としての自分はとても弱かったから、女の自分を封じ込めて、勇者としてだけ生きようって決めたんです。自分は勇者なんです」
王女「でも、もう魔王はいなくなったのよ? 勇者は魔王を倒す存在でしょう? あなたはこれからどうするの?」
勇者「あはは、実はまだ決めてないんですよねー。なんだかんだで、勇者として決められた道を歩いて来ただけですし。魔王を倒した後はどうしよう、なんて考えたことありませんでした」
レス下さった方々、ありがとうございます。
初めてスレ立てたんですが、自分のssに反応があるとこんなに嬉しいものなんですね。
実は深夜のノリで書き始めたので、勇者と同じくここから先はまだ考えていません。
需要があるかはわかりませんが、のんびり書き進めていく予定です。
おそらく明日あたりにはまた続きを書いていくと思います。
いろいろと反省
続きも思い浮かばなかったし、とりあえず今から投下分で完結させる
王女「ねえ、勇者さま。女の子として生きてみる気はないのでしょうか?」
勇者「はい。女としての自分はもう捨てましたから。それに、先ほども申し上げましたが、国民を失望させたくありません」
王女「性別がそれほど重要なことかしら。実力は十分ですし、魔王を倒したことも事実じゃないですか」
勇者「それでも、です。……例えば、もし自分が王家に仕えることになったとしたら、きっと軍での任務に就くでしょう」
王女「ええ、そうなるでしょうね。勇者さまの力とカリスマ性は他に類を見ないものですし」
勇者「自分で言うのもあれですが、きっとそれなりに高い地位になると思います」
王女「それは当然でしょう」
勇者「この国では、まだ女性の地位は高くありません」
王女「ええ、そうね……」
勇者「王の娘が王女となることもありません。養子をもらってくることになっても、男性を次の王の位に就かせます。軍の要職も全員男性です」
王女「…………」
勇者「それを批判するつもりはありませんが、自分が女だとばれれば、軍の調和が乱れることは間違いありません。剣の稽古にしても、女性に優しくせよと教えられてきた騎士たちが、女である自分に対して剣を振るえるでしょうか」
王女「なら、軍での仕事に就かなければ良いではないですか」
王女「ねえ、勇者さま。女の子として生きてみる気はないのでしょうか?」
勇者「はい。女としての自分はもう捨てましたから。それに、先ほども申し上げましたが、国民を失望させたくありません」
王女「性別がそれほど重要なことかしら。実力は十分ですし、魔王を倒したことも事実じゃないですか」
勇者「それでも、です。……例えば、もし自分が王家に仕えることになったとしたら、きっと軍での任務に就くでしょう」
王女「ええ、そうなるでしょうね。勇者さまの力とカリスマ性は他に類を見ないものですし」
勇者「自分で言うのもあれですが、きっとそれなりに高い地位になると思います」
王女「それは当然でしょう」
勇者「この国では、まだ女性の地位は高くありません」
王女「ええ、そうね……」
勇者「王の娘が王女となることもありません。養子をもらってくることになっても、男性を次の王の位に就かせます。軍の要職も全員男性です」
王女「…………」
勇者「それを批判するつもりはありませんが、自分が女だとばれれば、軍の調和が乱れることは間違いありません。剣の稽古にしても、女性に優しくせよと教えられてきた騎士たちが、女である自分に対して剣を振るえるでしょうか」
王女「なら、軍での仕事に就かなければ良いではないですか」
勇者「それこそ、無理な話です」
王女「……勇者さま?」
勇者「自分から戦うことを取ったら、いったい何が残ると言うんですか……!」
王女「…………」
勇者「自分は、剣を振るうことしか知りません。歴代の勇者たちは皆、魔王を倒すために生きてきました。それが存在意義だった。でも、魔王はもういない」
勇者「少しだけ、魔王が復活してくれないかと思うんです。そうすれば、何も考えずにまた生きていけるのに。最低ですね」
王女「……勇者の肩書きは、重いものなのですね」
勇者「そうかもしれません。でも、この生き方に後悔はありません」
王女「そうですか。では、私はもう何も言いません。ただ、一つだけお願いが」
勇者「何でしょうか?」
王女「これからも、時々私のところに来てくれないかしら?」
勇者「それはいったい……」
王女「一緒にお茶を飲んで、お話しましょう。王女っていうのも退屈なものなのよね」
勇者「はあ」
しまった、ミスった
王女「もう。お友達になりましょうって言っているんですよ」
勇者「はい!? 自分とですか?」
王女「ええ、もちろん。勇者の肩書きに押しつぶされそうになったら、私のところに来てください。私の前では勇者の肩書きなんて取ってもらって構いません」
勇者「しかし……」
王女「ふふ、同年代のお友達って初めてなんです。お茶会が楽しみだわ」
勇者「ちょ、話を進めないで下さいよ! あ、そういえばもしかして……」
王女「どうされました?」
勇者「自分も、友達というものはいないかもしれません。一緒に旅をした者たちは、友達というよりも仲間でしたし」
王女「あら、じゃあ決まりじゃないですか。お互いに初めてのお友達ですね」
勇者「あ、えと。じゃあ、よろしくお願いします……」
王女「でも、あんまり仲良くしすぎると婚約の話を進められてしまうかもしれませんね」
勇者「しまった、忘れてた!」
王女「いっそ結婚しちゃいます?」
勇者「冗談やめて下さいよ……」
王女「ふふ、ごめんなさい。それじゃあ改めて、こちらこそよろしくお願いします」
勇者「はい!」
終わり。
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