前々作
提督「ウチは平和だなぁ」艦娘「表面上は」
前作
提督「ウチは平和だなぁ」艦娘「表面上は」 その2
提督「ウチは平和だなぁ」艦娘「表面上は」 その2 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1431193228/)
以前の続きです。
続きからなのでこれから読むと意味分からんと思います。
一応最後まで書いては居ますが、今読み直すと色々辛い所も多々あり、
色々直したり、書き足したり、セリフや構成変えたり手直ししながら投下していきます。
伸ばすつもりもないので、この3で終わりますが、多分1000まで大幅に余ると思うので
多少書き足すかも。
作者はこのシリーズが処女作で文章を書きなれて居ないので
チェックをしても所々、文章的に怪しいところや、おかしい所もあるかもしれませんが
大目にに見ていただけると助かります。
更新は週1~2回程度、
新しく入った数人のバイト君が翌日逃げる程度のブラック企業に勤めているので
長期更新がない場合は数日家に帰れてないか、残業でPC立ち上げる気力がない時等、
イレギュラーが発生している場合があります。
稀に少し時間が開くかもしれませんが、生暖かく見守って頂ければ幸いです。
途中でトンズラして放置ということはありませんぜ!
ちょっと忙しさと、トラブルで更新できずにいましたが、
気付いてた前スレ落ちてたみたいで申し訳ないです。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1455394735
執務室は緊張に包まれていた。
今現在、部屋に居るのは提督と南方棲鬼、海野、榛名、金剛、瑞鶴、電の7名。
何やら重大な話があると言われた提督は南方棲鬼、海野を来客用のソファに座るように言い、
自身は2人と向かい合うように腰をかけた。艦娘4名は提督の後ろに休めの姿勢で立っていた。
この4名が同席しているのは金剛、電は提督に次いで鎮守府のことを把握しているベテランである為。
少し前まで長門も居たのだが、他の艦娘達が執務室前に押し寄せてきて、騒がしいので食堂に引率していった。
その為、長門に変わり榛名と、南方棲鬼達を連れてきた成り行きで瑞鶴がそのまま居ることになった。
提督「・・・本当ですか?」
南方棲鬼「ええ、信じられないでしょう?」
提督「・・・いえ」
以前、南方棲鬼が実の母だと部下から聞いたことがある。
だが、考えないようにしていた。
何をそんな馬鹿なと思った。
それはそうだろう。
母は艦娘で、解体されて人間になった。
そう、人間に。
それが深海棲艦に? 人間の敵に? 自分達と戦っていた?
そんなことがあるわけがない。そう思いたかった。
だけど、分かるのだ。
肉親であるが故の無意識の共感とでも言うべきか。
自分はこの人を知っている。そしてどこかで感じていた。記憶の底にあった懐かしい、暖かい匂いを。
だから本人の口から聞いても、思っていたよりは驚かなかった。
提督「本当に貴女は俺の・・・いえ、私の母なのですか?」
南方棲鬼「はい。貴方は私の血を分けた息子です。間違いなく」
提督は何も言わない。
誰も何も喋らない。少しの間、静寂が続いた。
提督「そうですか・・・分からないものです。このような時はなんと言えばいいのでしょうか」
何も感じない。喜びも、怒りも、悲しみも・・・ただ無の感情。
自分でも自分の感情が分からない。
普通なら涙を流して喜ぶべきことだろう。
非業の死を遂げたと思われた実の親がこうして生きている。それは奇跡であり、大変喜ばしいことだ。
だけど、現実感の無さがその感情を阻む。
自分の母親だと言うのに、どう喋っていいかも分からない。
提督(俺は昔、どうやって会話をしていたのだろう)
南方棲鬼「いきなりでごめんね。だけど、これは言わなきゃダメなことだから」
何度も頭を下げる。私に言う勇気が無かったと。
南方棲鬼もまた、どうやって接していいかが分からない。
名乗り出るまでは恐かった。軽蔑されるのではないか、拒絶されるのではないか、
両者共が接し方が分からず、お互い事務的に、まるで他人同士のように確認作業が続く。
電「一応、これが集められるだけ集めた当時の資料なのです。証言は全て一致しているのです」
提督「ありがとう」
資料を受け取ると目を通さず、机に置いた。今は見る気分ではなかった。
提督「正直、生きていたことは嬉しい・・・と思います。だけど自分の中で・・・」
南方棲鬼「分かっているわ。気持ちの整理がついていないのでしょう」
提督「・・・すいません。ですが何故、今になって突然・・・打ち明けたのですか?」
南方棲鬼「時間が掛かったのは私に勇気が無かったから。拒絶されるのが恐かった・・・」
提督「・・・・・・そうですか」
南方棲鬼「それと・・・今後の為。深海棲艦の別勢力接触する為」
提督「・・・例の穏健派ですか? お・・・貴女のお知り合いで?」
お母さんと呼ぼうとして、どこかで躊躇ってしまい呼べなかった。
南方棲鬼「彼女達とは何回か接触したことがあって・・・もうしかしたら取り次げるかもしれない」
海野「ようするに、南方棲鬼を一度開放して海に戻ってもらうんです。そして内通者として・・・」
提督「・・・取材の方が来るとは聞いていましたが、まさか青姉とは・・・連絡くらいくださいよ」
海野「いきなりの方がびっくりするでしょ?」
彼女には幼い頃によく面倒を見てもらった。
父の部下の艦娘で青葉。今は解体されて海野と名乗っているが、
自分にとっては「青姉」の方がしっくりくるのでそう呼んでいる。
よく「お母さんって呼んでいいんですよ」と当時、両親を無くしたばかりの自分によくしてくれた。
会うのは数年ぶりで、すでに人間になっているので、外見年齢に変化はあるものの、かつての面影をどことなく残していた。
ジャーナリストになるとは聞いていたが、上手くやっているようだ。
提督「確かにビックリしましたけど・・・」
海野「でしょ?」
南方棲鬼と並んで座って、お互いどこか長年付き合いのある関係にも見えることから
間違いなく、南方棲鬼は自分の母親なんだなと再認識した。
提督「話を戻しますが・・・どういうことでしょうか」
南方棲鬼「私が一度深海に戻り、穏健派と接触してこちらについて貰うの」
海野「聞けば、その穏健派の数が日に日に増して居て、深海棲艦の中でも無視できない勢力なっているんですよ」
提督「私としても、彼女達との接触は考えていましたが・・・可能なのですか?」
南方棲鬼「恐らく高い確率で可能だと思う」
南方棲鬼が顔が利くと言うならば、自分達よりは接触出来る可能性はかなり上がる。話も聞いてもらえるだろう。
海上から延々と当てもなく探すのとはワケが違う。
彼女達と接触し、協力関係を結び、友好的な関係を築ければ多くの物事が前に進む。
協力者として共闘することで、深海棲艦も自分達と同じ様に感情を持ち、知恵を持ち、
意思疎通の出来る相手であると人類側に証明が出来る。
現状の人類と深海棲艦、どちらか一方が滅びるまでの際限の無い争いを終わらせる事が出来るかもしれない。
深海棲艦は感情も個性も無く、人間をただ攻撃するだけの悪意を持つ未知の存在とされる今の人類側の既存概念を覆すことになるだろう。
そして、協力者の深海棲艦の手を借りて深海棲艦側の指導者とされる南方棲戦姫と接触する。
最大の目標は深海棲艦側との終戦交渉。
今までで分かった事だが、深海棲艦側にも戦いを望まない者が居るという事実も大きい。全ての固体が争いを望んでいるわけではないのだ。
なら、終わらせることが出来る可能性は大いにある。
人間と艦娘と深海棲艦。3者が歩み寄って、新しいこれからを作っていける未来は夢物語ではなく、
足掻いて、手を伸ばし続ければ叶う所まで来ているように感じた。
それは提督が生涯を賭してでも叶えたい事だった。
南方棲鬼「穏健派と組むことだけなら、難しくないでしょう」
艦娘全員は頷いた。(そりゃ提督を神と崇めているからなぁ)と。
提督「我が国の持てる戦力、総数は分かりませんが、かなりの数とされる穏健派・・・」
単純な数による戦力的なアドバンテージはこちらに一気に傾くかもしれない。
提督「最終的に南方棲戦姫との・・・話し合いの席を設けることは可能だと思いますか?」
これが人間同士の国の戦争であれば、話し会いの場を設けることは可能かもしれない。
保有戦力、兵器、相手が手を出す事を躊躇う力。抑止力。それがあると無いとでは違う。
だが相手は深海棲艦。どこまで人の世界の道理が通じるか。
南方棲鬼「・・・正直なんとも。アレは生粋の生まれもっての悪。ただ命を奪うことに快楽を覚える醜悪な相手だから。人の道理がどこまで通じるか・・・」
今ある情報では彼女こそが深海棲艦を率いていると言って等しいらしい。
南方棲鬼「正直、話し会いが通じる相手であるとは思えない」
どんなに戦力的に不利だろうが、アレは殺戮を止めない。
憎悪を撒き散らし、人類や艦娘の死を心の底から楽しんでいる。
かつて記憶を消された自分が母と呼んだ存在。
自分をこんな姿に変えた存在。
自分に仲間を殺させた存在。
愛する夫を殺した存在。
その存在、全てが憎い。殺しても殺したりない存在。
南方棲鬼「アレは強いわ。この世界の何もかもを憎んで、留まる事のない憎悪を力に変えるから」
榛名「それって・・・」
思い出すのは泊地水鬼。限界を超えた憎悪は彼女をより強いバケモノへと強化させた。
アレを上回る存在だと言うのであれば、この鎮守府の全戦力をもっても少し苦戦するかもしれないと榛名は思った。
最悪、この鎮守府から犠牲者も出るかもしれない。
提督「戦うとなれば、恐ろしい存在・・・という分けですか」
南方棲鬼「だけど、それは深海棲艦だけの特権じゃないのよ」
提督「・・・と言いますと?」
南方棲鬼「確かに、常軌を逸した強い負の感情は深海棲艦に無尽蔵に力を与える、だけど艦娘も同じことなのよ」
艦娘が沈んで、それは深海棲艦へと変わる。
逆も然り。
それは大本営は言葉を濁しているが殆どの提督達は知っている。
裏と表の表裏一体。
深海棲艦が影なら艦娘は光。
両者は違う存在でありながら、実は非常に近い関係にあるのだ。
まるでコインの裏と表のように。
南方棲鬼「深海棲艦が憎悪なら、艦娘は愛で強くなる」
提督「・・・愛? 愛ですか?」
金剛の指に、榛名の指に、瑞鶴の指に、電の指にそれは光る。
ケッコンカッコカリ。
強い絆を結んだ艦娘と提督のみが進める限界の先。
指輪をつけることで限界を迎えた艦娘はさらなる強化が可能になり、
レベル150までの強化が可能になる。
海野「そういえば最近、上限が155になったとか聞きましたね」
提督「はい、彼女達と他数名は上限に達していますよ。何時の間にかなっていました」
提督の後ろで4人はちょっと誇らしげに胸を張る。
瑞鶴は金剛と榛名の間に居たので2人の揺れる胸元と自分の胸元を見比べて凹んだ。
電だけが察して同情の視線を送った。
南方棲鬼「何故155まで可能になったと思う?」
提督「さぁ・・・? 技術が向上したせいでは?」
南方棲鬼「もし、本来は155よりも上に行けるとしたら? 愛を感じるほど、再現なく上がるとすれば?」
提督「え?」
南方棲鬼「私が思うにね、これはリミッターだと思うのよ」
提督「リミッター・・・ですか?」
南方棲鬼「そう、限界以上の力を出さないようにする為の安全装置みたいな感じかしら」
提督「そうだとすると、155まで可能になったのは?」
南方棲鬼「深海棲艦側に対抗する為に検討を重ねて、そのラインであれば大丈夫だと、判断の基準を更新したとは考えられないかしら?」
提督「・・・そんなこと、考えたこともありませんでした。本当なのですか?」
南方棲鬼「・・・あくまで私の推論。でも間違ってはいないと思う。真実だとしても、ソレを知るのは大本営の妖精達くらいかしら?」
実はこのケッコンの詳しい理論は分かっていない。
妖精が提案して出してきた技術で、最近のレベル上限が上がったのも突然だった。
提督「では、彼女達はもっと強くなれると?」
南方棲鬼「ええ。現に、そこの榛名はそうして見せた。私との戦いで」
提督は振り返り榛名を見た。榛名は分かっていないのか首を傾げた。
南方棲鬼「愛の強さが艦娘に力を与えるの。そして貴方の艦隊はこの世界で唯一、アイツ・・・あの南方棲戦姫に対抗できる」
提督「・・・何故、自分のところだけが?」
南方棲鬼「だってここの艦娘、皆が貴方を心から愛しているから。心の底から・・・強く。それこそ精神を病んでしまう程に。気が狂ってしまう程に」
提督「・・・え?」
電(・・・それを言ってしまうのですね)
南方棲鬼の発言に電は少し顔を顰めた。
あまり意識して欲しくはなかった。終戦へと動くかもしれない、このタイミングで。
提督に心を乱す余計な要素を与えたくなかった。
提督「愛されているのよ貴方は。尋常じゃないくらいに・・・」ハイライトオフ
ここの艦娘達の度が過ぎた行動を思い出して少し悪寒が走った。
海野「すごいですねー 私達の頃より全然すごいし。私達もここまではしなかったですよー」
そう言って海野は提督に見えないように、艦娘だけに見えるように盗聴器とカメラを見せた。
この部屋に仕掛けてあったものだ。
金剛達は少し居心地が悪そうに目を逸らす。
提督「よく話が見えないですが、艦娘達に慕われているってことですか? そりゃそうですよ家族ですから」
南方棲鬼「鈍いのは父親譲りか、それとも、わざと気付かないようにしているのかしら?」
提督に嫌な汗が流れた。
その先は聞きたくなかった。
南方棲鬼「本当は分かっているんでしょ?」
提督「何を・・・ですか」
南方棲鬼「皆が貴方を異性として好いているって」
それは頭を鈍器で殴られたような衝撃だった。
否定して欲しくて後ろを見る。
4人は少し頬を染めて、まっすぐと自分を見ていた。
否定の言葉はない。
それは肯定を意味していた。
南方棲鬼「アレを話し会いの席に引っ張り出したとしても、交渉が決裂した場合は? 間違いなくその場で襲い掛かってくるわ」
一呼吸置いて言葉を紡ぐ。
南方棲鬼「言葉だけでは無く、アレを制することが出来る力がいるのよ。そして、それを貴方とこの鎮守府の艦娘は持っているわ」
上手く頭が回らない。
南方棲鬼が実母であることでも頭がいっぱいなのに、
部下全員が自分を異性として好いていると言われ、それどころじゃなかった。
提督(何をしている。しっかりしろ・・・)
今は考えないように、頭を切り替える
提督「・・・一応、話は分かりました。少し時間を頂けますか」
南方棲鬼「決めるのは提督である貴方です」
提督「私一人の一存ではすぐには決められません・・・」
海野「でしたら一度よく考えて、元帥に連絡をしてみては? 良いですよね?」
南方棲鬼「彼だったら私のことを話しても別に構わないわ」
今後、やるべき事。
深海棲艦の穏健派と接触、味方に付ける。そして深海棲艦との共存の可能性を
上層部に報告し、同時に南方棲戦姫に話し合いの意思があることを伝える。
そして人類と深海棲艦との間で一度会合し、終戦へこぎつける。
言葉にするのは簡単だが、両者に認めさせなければならない。
人類側には深海棲艦とも共存が出来るという事を。
南方棲戦姫には話し会いに応じようと思う程度の力を。
なんとしてでも、それを実現させるのが、何時からか強く願っていた自分の役目だと思っている。
そんなつもりは無いが、もし、自分がダメだとしても、命を落としたとしても、
今の考えを変える事が出来れば、自分の後に続く者は必ず出てくるハズだ。
海野「一旦、整理する時間が必要でしょう。今日はこれで終わりましょう。所で・・・覚えていますか?」
提督「・・・何をです?」
海野「子供の頃の夢を」
提督「・・・? いえ、すいません」
海野「まぁそうですよね。それならいいんです」
海野と南方棲鬼は執務室を出ていき、慌てて榛名と瑞鶴も追った。
捕虜の移動は艦娘を付けてとのことで、その命令は取り消されていないので
一応は着いていく事にしたのだ。
電「司令官?」
提督「・・・すまん、少しでいいんだ。一人にして欲しい」
金剛と電は思うところはあったが、執務室を後にした。
海野は振り返り、執務室のドアを見る。
今日は彼にとって怒涛の一日だっただろう。
気持ちの整理の為にも少し時間が必要だ。
海野(英雄になりたい。覚えていないなら、いいんですよ。だって英雄はなろうとしてなるものじゃないから)
幼い頃に言っていた夢。恐らくもう覚えていないだろう。
だけど、知らずにそうなろうとしている。
そして歴史に名を馳せた英雄はその多くが活躍した後は不幸になった。
提督にそうなって欲しくはなかった。
海野「司令官は・・・どう思うんでしょうかねぇ」
思うのは心から愛した人。
彼の忘れ形見が、自分達から幸せだった日常を奪った元凶と対峙する。
因縁のある者同士。まるで、それが定められた運命のように感じた。
その手助けをするのが愛した人と、死んでいった戦友達の何よりの手向けになる。
それが出来るのは、今までその時に備えて準備をしていた自分達だ。
海軍と犬猿の仲とされる陸軍では提督個人のすることなら協力をすると言うシンパもいる
憲兵隊にも提督を熱狂的に支持するシンパがいる。
両者とも既に接触済みだ。憲兵隊に限っては、新しく上になった元副官の男と部下の男の
目がヤバかったのを思い出して冷や水を垂らす。
海野(何をされたら、あそこまで狂信的になれるやら・・・貴方の息子さんはとんでもない子になりましたよ?)
提督が損得を考えずに、無意識で行ってきた善行や様々な事が海軍という限られた場所以外にも
本人も意図せずに多くの協力者を作った。提督の為とすれば陸は反対しないだろう。
問題は身内である海軍内部。それも元帥とは違う派閥。
もう、かつてと同じことはさせない。
提督も、提督の艦娘達も人間同士のくだらない争いを足枷にさせない。
全てが壊れた自分達の楽しかった日常。あの日からずっと準備をして来た。
海野(今度こそは・・・)
南方棲鬼「どうかした?」
海野「・・・別に? それより大丈夫でした?」
南方棲鬼「思ったよりも落ち着いているわ・・・」
海野「それは良かった」
南方棲鬼「・・・呼んでくれなかったな」
海野「・・・?」
提督は一度も「母さん」と呼んでくれなかった。
いきなりの事で混乱もあっただろう。
状況は理解している。だけど、少しだけ悲しかった。
提督は執務室で考える。
今までのことを。これからのことを。
母の・・・南方棲鬼の提案を受け入れる。
今、考えているのは別の事だ。
提督「好きか・・・」
どこかで思っていた。彼女達が自分に向ける視線や仕草。
それは思いを寄せる異性にするような事だと。
だけど、それは違うと言い聞かせて、知らない振りをして自分を騙し続けた。
小説や創作物で恋愛と言う概念そのものは知っている。
だけど、その感情が自分に向けられるとしたら・・・
恋愛という感情がワカラナイ。
考えようとしたことがないから。
自分が望むのは平和。
もう自分のような境遇の人を増やさない。
ただそれだけ。それだけの為だけに生きてきたように思える。
その望み以外は考えてこなかった。
自分には無縁のものであると決めていたから。
自分では彼女達を幸せには出来ない。
自分ではその未来へは行けない。
提督「俺にはそんな資格、ないんだよ・・・無理なんだ」
誰に言うわけでもなく、小さく呟いて緊急用の回線で元帥に連絡を入れた。
海野に盗聴器を取り除かれていたので、その言葉は誰も聞けなかった。
提督が艦娘からの恋愛感情を自覚する。ただそれだけの事だが、
それは鎮守府内の空気を一変させるには十分な理由だった。
翌日には全艦娘に伝わり、鎮守府の空気は提督の見えない所で過去最悪となっており、
何時姉妹や友人に出し抜かれるか分からないという疑心暗鬼から、鎮守府内は争いが何時勃発してもおかしくない状況になっていた。
投下しました。
前スレで長期不在にしてしまい、申し訳ありませんでした。
次は来週のどこかのタイミングで行う予定です。
では仕事行って来ます。
場所は横須賀鎮守府。
応接間には2人の男が居た。
一人は元帥。
もう一人はスーツを着た元帥と同じくらいの年齢の男。
それは国民の誰もが知っている人物であった。
日本の総理大臣。
元帥「まだ他の者には話していないが・・・」
元帥は総理に事の経緯を話していった。
総理「・・・深海棲艦との和平か」
元帥「そうだ。どう思う?」
総理「荒唐無稽と言うべきか・・・」
元帥「・・・だろうな」
深海棲艦を人類と同等と考え、話し合いをするという考えは今まで無かった。
人ではない相手との交渉。
果たして本当に、そんなことが出来るのか疑問だった。
総理「それを言い出したからには、出来るという目処はあるのか?」
元帥「これを見てほしい」
執務室のモニターに映像が流れる。
南方棲鬼、泊地水鬼、カ級がとある鎮守府で生活をしている映像。
行動や応答が細かく記録されており、まるで普通の人間のように喋り、言葉が通じ、あまつさえ遊んでいた。
それは深海棲艦のイメージとは遠く離れたもので、総理は面を喰らった。
総理「これはまた凄いものを持ってきたな。この役者はどこで揃えたんだ?」
茶化すように笑うが、元帥の顔を見て事実であることを悟り、態度を改めた。
総理「この深海棲艦達だけが特別であるということではないのか?」
元帥「いや、違うらしい。深海棲艦、彼女達には人間と同じように知性がある。我々と同じ様に思考し、動いている」
総理「意思の疎通が可能だと? この記録は興味深い。これが事実であるなら・・・難しいと思うが和平も可能性は0ではないかもしれん」
元帥「そうだ。この戦争にも終着点が見えてきたと思わないか」
総理「これはアイツの・・・君の義理の息子がいる鎮守府のものだな?」
元帥「そうだ。アイツも連れてきている。話を聞いてはくれないか」
総理「初めから合わせる気だったのだろ?」
元帥は苦笑いをして提督を呼ぶ。
ノックの後に提督が入室し、敬礼をした。
お手本のような綺麗な敬礼に少し見惚れたが、今はどうでもよかった。
総理「そういうのはいい。私は軍属ではない」
提督「失礼しました!」
顔立ちは父親に似ている。あの幼子が立派になったものだと
感慨にも似た感情を抱きながら、幾つかの質問をした。
どれもハキハキとした軍人らしい口調で返し、ますます父親に似ていると総理は思った。
総理「君の考えは分かった。だが、他の提督の多くは反対すると思うがそれについては?」
深海棲艦を討つべし。そんな考えに固執している者は多い。
最もそれが普通の事であるのだが・・・
一部の提督は「ほっぽちゃん」等と愛称を付けて、敵の深海棲艦に熱を入れる者も居るが、
極一部の変質者として憲兵隊のお世話になるか、艦娘からの通報で「思想に問題あり」として
提督の地位を剥奪されるので、そういう連中の意見は数には入らなかった。
提督「恐れながら、場を与えていただけるのであれば、必ず説得して見せます」
総理「そんなに簡単にいくかね? 人はね、誰もが自分を一番だと考える。そして、自分に脅威である者は排除しようとする」
提督「・・・・・・」
総理「彼らにとって若い君が陣頭に立ち、動くことは面白くないだろうね」
提督「それは理解しております」
総理「醜いものだよ。人間の嫉妬は。他者を落としてでも自分は上に行く。それがこんな戦時下でも・・・」
一呼吸置いて続ける。
総理「きっと人類は自らが滅ぶ瞬間まで、互いに互いの足を引っ張るだろう」
提督「そうかもしれません。それでも互いを理解して、認め合えば自分達の未来のために、これからの為に、力を合わせることが出来ると信じています」
総理「・・・それは理想論だよ」
提督「理想だからこそ、そこに辿り着こうと努力しなくては行けない。自分はそう考えます」
総理「全ての人類がそうであれば、争いも起きないだろうね」
提督は元帥に視線を向けるが、「お前のやりたいようにやれ」と言わんばかりに
事のなりゆきを見守っていたので構わず続ける事にした。
提督「総理は、人がお嫌いなのですか?」
総理「いや。そうではないよ。人が持つ欲望は大事だ。それこそが人の力の源になるからね。欲がなければ人ではない」
提督「問題はその欲望の抑えどころという事でしょうか?」
総理「そうだね。欲望をコントロール出来ない者は醜い。君の持ってきた事案はそれを助長するのではないか?」
自分と同じ、もしくは下の地位の者が、戦争終結という大事を成す。
それは他の提督にはどう写るか。無論賛成してくれる人もいるだろう。
懐疑的になり、そんなことは出来ない、被害を恐れて反対する者もいるだろう。
どっち付かずで様子を見る者も居るだろう。
そして・・・そのような大役をオマエなんぞにと妬む者も居るのは容易に想像がついた。
提督「それでも、最後は人の善意が勝つと信じます。それが理想論だとしても、人には生まれもっての善意と理性があると考えるからです」
総理「そうかい? 君の父親はその人間同士の悪意の果てに亡くなったのに?」
提督「・・・!?」
総理「初耳か?」
元帥に目をやるが、申し訳なさそうに顔を下に向けた。
総理「君には聞く権利がある。私もね・・・かつては提督だった」
提督「はい。それはここに来る前に元帥殿から聞いております」
総理「そして君の父ともね、友人だったんだ。知っていたかね?」
提督「いえ、それは初耳です・・・」
そして語りだした。
初めての姫級の出現。
当時、その驚異的な戦闘力を持つ敵に対して、具体的な対抗策も、
敵のスペックも分からない状況で、急過ぎる提督父の南方海域への出撃。
佐世保から来るはずだった味方艦隊が来なかったこと。
総理「ハメられたんだよ。アイツは。当時の元帥に」
元帥「・・・俺の2つ前の元帥だ」
提督「何故?・・・何故そのような?」
いきなり父親の死の話を聞かされて戸惑う。
総理「アイツは優秀でな・・・当時、他の鎮守府では配備されていなかった装備も優先的に回された」
提督「確か烈風改が最優先で回された・・・と言う話は聞いたことがあります」
総理「非の打ち所がない奴だった。良い奴だった。だけどな、人として正しくて、実績もあって・・・そんな人間だからこそ」
元帥「・・・恨みを買って行った。知らないうちにな」
戦艦大和の第一号の配備。
当時の元帥、旧元帥は若い提督父の艦隊に、大和を配備することを良しとせず、自分の派閥の者か、自分自身の艦隊に組み込もうとした。
しかし、それは叶わなかった。
大本営で行われた会議と、内閣での話し会いの末に、大和は戦果を挙げて注目されていた提督父の鎮守府への編入となった。
思想、人格的にも問題がなく、多くの人が彼なら上手く扱えると賛成に回った。
それが当時の元帥のプライドを酷く傷つけた。
その後、大和は多くの資材を消費し、製造が安定しないものの、どこの鎮守府でも生産が可能になった。
さらに、この後の2つの事柄が旧元帥を狂気へと走らせた。
ひとつは最初に大和を手に入れた提督父の快進撃が続き、提督父を支持する者が多くなり、派閥が生まれたこと。
もう一つは、多くの戦果を挙げて、それだけの力を見せ付けながら大和を躊躇うことなく解体して、結婚したこと。
旧元帥は、ようやく大和を建造し、艦隊へ配備した自分をコケにされているように感じた。
自分には大和以外の戦艦でも、元帥殿と同等の戦果を挙げてみせますよと言われたように思えた。
これが決定打となった。
そんな事を提督父は思っても居なかったが、一度そう思い込んでしまったらもう止まらない。
どんどん下からありえない速さで力を付けて来る若者。その存在に恐怖した。
負の感情は膨れ上がり、ついに理性の器を破壊した。
それらしい理由をつけて、緊急出撃させ、当時出現したばかりで詳細が不明な姫級の強襲へ当たらせた。
彼の派閥に用意周到に準備され、知らない間に加担させられた者も居た。
当時は佐世保で提督をしていて、提督父の支援に回る予定だった総理もその一人だ。
旧元帥の派閥の息が掛かった整備兵が、提督父と合流する為に航行中の護衛艦を故意に行動不能にした。
その為、合流が出来なくなった。
その結果、提督父は本来の艦隊戦力よりも劣る状態で戦闘に入り、全滅したという。
提督父の乗る護衛艦も細工が施されており、行動が思うように出来なかった事も大きな要因になった。
仮にそこで生き残っても、護衛艦に爆薬が仕掛けられており、どの道敵の襲撃に見せかけて殺す予定だったらしい。
全ての嫌疑は佐世保の提督であった総理に向けられた。
これも旧元帥のシナリオ通りであった。
総理「人類の危機に対して・・・あの事件の真相はコレだ。呆れてモノも言えんだろ?」
友人を失い、その汚名を着せられて一時的に服役したものの、一貫して無罪を主張した。
提督「その・・・・当時の元帥は・・・今も?」
総理「死んだよ。あっけなく。ある日突然、彼のスキャンダルが流出した。かなりのスピードで。癒着や汚職、挙げればキリが無い」
元帥「まるで『誰か』が復讐をしているのかって勢いで追い詰められていった」
総理「それでマスコミから逃げる途中で車は衝突事故を起こした。即死だったよ。因果応報というか・・・最後は哀れなものだった」
提督父の事件の真相は軍上層部、内閣を震撼させた。
事件は口外を禁止され、軍部の汚点として永久封印された。
総理は無罪となり、国民は事件の詳細を細かく知らないものの、友人を殺したという罪を着せられたが、
事件の真犯人の悪行が明るみに出た事で無実を証明した奇跡の人として人気を集めた。
ドラマのような逆転劇が、支持を集めるのに買い今の地位まで上り詰めた。
提督「初めて・・・知りました」
総理「その割には落ち着いているね」
提督「十分驚いています」
元帥「それから色々変わった。派閥を作らない環境に、それと鎮守府には人間の提督は一人と、スタッフは妖精と決められた」
提督「妖精は十分に整備もやってくれますが、何故当時は人を使っていたのですか?」
元帥「まだ妖精と出会ってすぐの時代だったから、整備を任せるのに不安があったと聞いている。どこまでやれるかの線引きが出来ていなかった」
総理「提督、人間ってのは醜い。出る杭は打たれる。突出した者は周囲が許さない。それでも君は先頭に立ち皆を説得するかい?」
提督「・・・はい。心変わりはありません」
総理「その結果、他の提督からの悪意を一身に受けても?」
提督「この戦争を終わらせる。それが出来るのであれば悔いはありません」
総理「それは・・・何の為に?」
提督「何の・・・? ですか?」
戦争を終わらせることに理由がいるのだろうか。
例えば、海辺は危険とされ、海に通じる川の近くですら立ち入るのを規制する今の社会。
それは正しいのだろうか?
海沿いに防衛用の砲台が幾つも並ぶ、禍々しい海岸が正常な世界なんだろうか?
もしも、国を警護する鎮守府が陥落し、海辺から艦砲射撃を受ければ?
国民にどれだけ犠牲が出るか。
今の世界はとても危うい。何時、突然に大勢の人が死ぬか分からない。
それが何時起きても不思議じゃない。
だけど、それを意識している人は殆ど居ない。
誰もが、本当は危険なことを分かっていても、自分だけは大丈夫だと仮初の平和の世界で生きている。
すぐそこに脅威があり、艦娘が破れ、鎮守府を失ったら?
今は維持されている国土の絶対防衛ラインを失えば、かつての戦争と同じ様に空襲だって起きるかもしれない。
それでどれだけの人が犠牲になるかは想像もつかない。
だから終わらせる。
その事に『何の為に』という理由が何故居るのかが分からなかった。
総理「人はね。欲望そのものなんだ。誰だって自分の欲望の為に生きている」
そんな事はないと否定は出来なかった。
その言葉は重みがあったから。
長年生きてきて、経験して、自分なりの答えを出した者が口にする言葉は軽くない。
総理「だから自分を捨てて人の為に、世界の為にって考えは、人としては異常なんだ。それが建前じゃないならね」
提督「・・・・・・」
総理「これから君は多くの敵を作るかもしれない。それを跳ね除ける君の欲望は何か、それを聞かせて欲しい」
提督「自分の・・・欲望・・・」
総理「元帥の保護下に居たから、今までは大きな反対勢力は無かったかもしれない。だけど今後はそれも変わるかもしれない」
元帥は考える。提督はまだ若い。
この年齢で、人類と深海棲艦との戦争終結の立役者にでもなれば、国民は熱狂するだろう。
彼らは何時も英雄を求めている。理不尽な世の中や、強者を倒すヒロイックな存在を。
だけど、同じ立場である他の提督達はどうだろうか。
素直に絶賛する者も居れば、快く思わない者もいる。
提督の意見を前面に出す以上は彼に注目が集まるだろう。
元帥(それがどう牙を向くか・・・)
総理「欲望はマイナスのイメージがあるがね、それだけではない。欲望こそが人を前に進ませる原動力でもある。この世界を変えるだけの欲望を君は持っているのか?」
提督(俺の欲・・・)
欲望とは何か。
成したいこと? 叶えたいこと? なんだろう。
考える。考えて、考えて、考えて、至った答えは一つだった。
提督「自分の欲望は・・・」
その答えを聞いた総理も元帥も唖然として、少し間を開けて笑い出した。
総理「まぁいい。面白い。それも一つの欲望か。和平が実現すれば、こちらにもメリットはある」
提督「といいますと?」
総理「現状、世界各国は分断され、成す術もなく奴らに追いやられている。もしも、それをこの国が終わらせることが出来たら?」
提督「諸外国に対しての日本の発言権が増す・・・という事でしょうか?」
総理「そう。戦後の国際社会でこの国は、どの国よりも大きな発言権を得ることになる」
元帥「戦後と戦前で各国のパワーバランスが変わってくるな」
総理「現在でも南方への石油資源と引き換えに、石油産出国を事実上、警護していることは知っているね?」
提督「はい」
総理「彼らは深海棲艦に対して対抗手段を持たない。だから我々が手を引けば・・・」
提督「深海棲艦側の勢力地になり・・・攻撃される?」
総理「でも、こちらも油がないと兵器は動かせない」
元帥「一見、対等な関係に見えるが違うのだ」
総理「既に我が国では石油と同質の燃料を人工的に作る技術を生み出した」
提督「では、海外へ頼らずとも、今後は国内で燃料が?」
元帥「まだ時間が掛かるがな・・・」
総理「だが、それを匂わせ、実際にデモンストレーションをすれば? 産出国はどう思う?」
提督「・・・困るでしょうね。自分達を守る存在が居なくなるのは」
総理「そう。実際に安くてもいいから石油を買ってくれと相手が媚びているのが今の現状だ。もはや対等ではない」
提督「・・・・・・」
総理「酷いと思ったかい?」
提督「それは・・・」
総理「綺麗ごとだけじゃ何も得られない。私にはこの国を、国民を守る義務がある。だから自国の為にやる。汚いことでもね。それをいちいち酷いとは思わないよ」
提督「仰っている事は理解は出来ます」
総理「君が世界を救いたい、それと同じくらいに私はこの国を豊かにしたい。君の提案する和平が実現すれば・・・その実績は戦後大きな意味を持つ事になるだろう」
提督「では」
総理「議会の方はなんとかしよう。その提案、受け入れる」
提督「ありがとうございます!」
元帥「事が事だけに、時間は掛かる。それまでにオマエはこれまで通り任務を遂行して欲しい」
提督「はっ! 了解しました!」
かつての大本営と、今の大本営。それは名前こそ同じものの、
組織構造が異なっている。
深海棲艦の出現、制海権、制空権の殆どを奪われた事で他国との連絡手段はほぼ途絶えた。
そこで偶然が幾つか重なり今の体制が出来た。
その一つは過去の戦争の戦勝国であるアメリカとの国交が途絶えた事。
これにより、未知の敵からの脅威の対処を主張し、軍隊が作られた。
自衛隊とは別の、対深海棲艦用の戦力として。
対人戦を考慮していない為に、これは人間同士の戦争ではなく、憲法には違反しないと当時の首相がごり押しした。
そこで大本営が再度作られたが、過去の戦争の過ちや問題点から内部構造は少し変化した。
まず天皇が頂点に居ない。これが最も大きな違いだった。
基本的には陸軍参謀本部、海軍司令部、そして内閣この3つからの選ばれた代表者達が議論を重ねる。
そして、総理は軍外にては最も強い発言力を有しており、
国として『深海棲艦と和平の道を選ぶ』と決断するには彼の支持は絶対に不可欠だった。
彼が理解を示しても、周囲が反対すれば実現できない可能性はある。
だが、それでも総理に理解を得られる事が出来た事に提督は安堵した。
海は元帥と自分で説得する。
提督(後は陸だが・・・どうでるか・・・)
総理「話は変わるが・・・君は議事堂の4つ目の像を知っているかね?」
提督「4つ目の像・・・ですか?」
国会議事堂の中央広間には3つの銅像がある。
板垣退助、大隈重信、伊藤博文。
彼ら3人は日本の憲法に貢献したとされる偉人だ。
しかし、4つ目は空の台座のみが置かれている。
元帥「それは色々な説があるんだが・・・」
誰を置くか決まらずに空席のままであるという説。
政治は常に未完成であるという説。
様々な諸説があるが、その中の一つで、
4人目として飾られる程の、偉大な政治家になれと言うものがある。
総理「私はね、その4人目になりたいんだよ。そう約束したからね」
提督「約束・・・ですか?」
総理「それが私の最も大きな欲望だ。提督、君はもっと欲を持て。どんなものでも構わない」
総理「そういった欲は人を曲げてしまうこともあるが・・・人を強くすることも出来るんだ」
提督「はい。心に刻んでおきます」
総理「後のことは任せてくれ。それと元帥とは内密な話があるんだが・・・」
提督「分かりました。自分は外します」
総理「すまんね」
部屋から出て行こうとする提督に元帥が声を掛ける。
元帥「すまなかった・・・父親の事。何時か話そうと思っていたが・・・」
深海棲艦との戦いで命を落とした。
だが、そうなるように仕向けられた。
その事実を知ったとき、どうやって伝えるか迷った。
それが提督の人格にどう影響を与えるか分からない。
だから、話すタイミングを失って今日まで来てしまった。
提督「いえ、お気になさらずに。状況を考えれば言えなかった理由も分かります」
元帥「本当にすまない」
提督「今日、その真実を聞けただけでも良かったです。では、失礼します」
再び敬礼を取ろうとして、慌てて取りやめると部屋を出て行った。
総理「あまりに真っ直ぐ過ぎるのも考え物ではあるが、中々好青年に育ったじゃないか」
元帥「だろ?」
どうだとばかりに元帥は胸を張る。
総理「アイツも天国で喜んでいるだろう」
元帥「そうだといいな」
提督の父と総理と元帥。共に同じ時を提督として活躍した友人同士。
彼らは共に理想を語り、時には意見をぶつけながら青春時代を過ごした。
元帥「4人目の像か・・・」
事件後、軍部に嫌気が差した総理は提督を辞めた。
そして元帥と共に訪れた提督父の墓前で誓った。
「4人目の像になるくらいの政治家になり、今回のような事を二度と起こさせない」と
4人目の像。それは提督父、元帥、総理が職務で大本営に出向いた際、見学した議事堂で見た。
その際に「ここに像が建つくらい偉くなれば、なんでも出来そうだな」と言った言葉が今日までの原点。
元帥も軍内部の汚職の告発や、内部での権力争いに勝ち抜き、戦闘での実績で発言力を強めて
今の地位まで上り詰めた。
長かった。提督の父の死から、どこか2人は距離を置いていた。
総理は政治の世界で、元帥は軍内部で、それぞれ力を付けた。
かつて3人で語った理想の為に。それが友への弔いだと信じて。
そして彼の息子がとんでもないことをやらかそうとしている。
まるで初めからそうさせる為に運命に仕組まれたように・・・
自分達はそれを成す為の、手助けが出来る立場にいる。
元帥「まるでアイツの魂が、俺達を導いているようだな・・・」
総理も否定はしない。
総理「なら付き合うまでさ。最後までな」
元帥「全てが済んだら、墓参りに行くか。長年行ってないだろう」
総理「いや、毎年行ってたさ。自分を奮い立たせる為に」
元帥「・・・忙しくなるな。これから」
総理「忙しいくらいがちょうどいい。感傷に浸らずに済む」
元帥「・・・違いない」
総理「海軍はどうするつもりだ」
元帥「どうとは?」
総理「話次第では最悪の場合、オマエは軍には居られなくなるかもしれない」
元帥「・・・それでもやるよ。それに多分上手く行く」
総理「それは何故?」
元帥「そんなもん決まっている。義理とは言えアイツが俺の息子だからだよ。きっと上手くやる」
総理「そうか・・・くくっ・・・」
迷い無く言い切った元帥の言葉を聞いて面白そうに笑う。
総理「そういう回答は好きだな私は。実に分かりやすい」
元帥「・・・そうか」
総理「そういうのでいいんだよ。理由なんてものは。どんなに言葉を飾っても物事の根底の動機なんてものは単純なものだ」
元帥「では、次回の会議で正式に取り上げよう。それでこの提案を国家の意思として支持するかの答えが出る」
大方の今後の行動を決めた。
とても大きな事で、困難を極める道のりであるというのに2人は楽しそうだった。
総理「・・・所で、娘は元気か?」
元帥「・・・会えばいいだろう。お前の実娘なんだから」
総理「中々機会が無くてな・・・避けられているのだろうか」
元帥「以前会った時は相変わらず破天荒な娘さんだったよ」
総理「・・・私の娘だからって特別扱いはしなくていいんだぞ? むしろ厳しくだね・・・」
元帥「してらんよ。そもそもオマエと俺が友人という事も知らないだろう」
総理「最後に話をしたのは何時だったかなぁ・・・」
元帥「互いに子を持つと変わるものだな・・・大事で仕方がない」
総理「それはそうだろう。家族なんだから」
総理はそれから世間話を少しした後、秘書が来て帰っていった。
元帥(他の連中を納得させることが出来るかどうかは・・・最後の一押しは立案者である提督次第か)
少し前、元帥と総理の対談から一足先に抜けた提督は
外で待たせていた秘書艦と合流した。
提督「すまん、待たせた」
金剛「もう終わったんですか?」
提督「ああ、帰るか・・・と言いたい所だけど・・・」
金剛「・・・?」
提督「少し東京を見て回るか?」
金剛「え? いいんですか!? 本当に?」
金剛とて状況は分かるので、嬉しいけど本当にいいものか迷う。
それも数秒。
鎮守府には提督代行で扶桑が居るし、あの仲間達なら
任せていても安心なので防衛面に対して不安は無かった。
金剛「そういえば、あきつ丸は上手くやっているでしょうか? 心配ですねー」
提督「ああ、俺より少し後に出たハズだから・・・そろそろか。大丈夫。上手くやってくれる」
陸軍側の承諾も必要だったので後日、向う予定だったが、
陸と強固なパイプを持っているわけでもなかったので、どうするか考えていた所、
あきつ丸が自ら行くと進言してきた。
何故か赤城も賛同して彼女達に任せることにした。
本来は自分が行くべきではあるが、海と陸の確執がある以上、悪いほうへ転んでは困るのと、
純粋に自分のやろうとしている事に理解を示し、協力してくれる彼女達の提案が嬉しかった。
提督「あきつ丸からの報告を待とう」
金剛「ですねーきっと上手くやるでーす」
提督「どこへ行きたい? 行きたい店はあるか?」
金剛はこんな展開があると思っていなかったので戸惑った。
意外と不意打ちに弱いのだ。
金剛「でも、なんで私を指名したんです?」
何時もなら秘書艦の順番で決まるのに、今回は何故か金剛を指名した。
これには本日の秘書艦だった扶桑もびっくり。
提督と出かけられる!と喜んでいたのに自室に篭って3日間出てこなかった。
しかし、「留守中、君に代行を頼みたい」と提督が言った所、
ころっと態度を改めて、自分は信頼されている!と自信を取り戻し、
その浮かれぶりに珍しく山城が敬愛する「扶桑姉様」を疎ましがった珍事が起きた。
提督「以前、一番戦果をあげたらなんでも言う事聞くって約束しただろ?」
金剛「はい、一緒にショッピングにいきたいなって・・・では・・・?」
提督「普段はなかなか時間が取れないからな・・・たまにはいいだろ?」
そう優しく、少し恥ずかしそうに笑う提督を本当に愛おしく思って金剛は提督に抱きついた。
金剛「提督ぅぅぅぅぅーーーーー!!!」
提督「ちょっ・・・いきなり抱きつくな!?」
勢い任せて飛びついたので、そのまま2人して転んだ。
提督は起き上がると、金剛に手を伸ばしす。
提督「帰りの電車は18時。4時間程度ではあるが、金剛が行きたい所に付き合うよ」
提督の手に掴まり起き上がった金剛は提督の腕を掴んで歩き出す。
提督「そんな急かすなっ・・・」
金剛「ダメでーす!! たった4時間しかないんですから!!」
こんなに喜んでくれるなら、金剛を連れてきて良かったと思った。
男の自分にはよく分からない店を何件か回り、金剛に服を買ってあげた。
とても喜んでくれて提督も嬉しくなった。
提督「こういう服・・・榛名や扶桑も似合いそうだな」
何気なく言った一言で、少し金剛の機嫌が悪くなり、なんとかしようと頑張った。
そんな姿に金剛は「別に本気で怒ってないけど、今は他の娘の話はしちゃだめでーす!」とのこと。
提督は気をつけようと思った。
時間が立つのも忘れて、提督も楽しんだ。
提督としてではなく、一人の若者としての時間なんて忘れて居た。
はしゃぐ事になれていなかったので、2人とも少し疲れを感じて公園のベンチで休憩を取った。
提督「あれは・・・クレープか。食べるか?」
金剛「はい!」
2人はそれぞれ違う種類のクレープを頼む。
再びベンチに戻り、一口。
提督「こういうものを食べるのは何時以来だろう」
金剛「提督のおいしそうですねー」
提督「食べるか?」
金剛「では・・・失礼して・・・」
一口。可愛らしく小さな口で頬張った。
金剛「じゃあ私のもどーぞ?」
差し出されて食べないのも可哀想なので好意に甘え、一口貰う。
提督「こっちも旨いな」
金剛は内心でガッツポーズをしつつ、バクテンをして、さらには3回転ジャンプを華麗に決めた。
提督「・・・? なんで片腕をそんなに振っているんだ?」
金剛「体操は健康にいいからでーす!!」
提督「そうか。そうだな」
提督はよく分からなかったがとりあえず同意した。
楽しい時間だった。
こういう時間も悪くない。
だけど、心のどこかで何かが引っ掛かる。
『そんな資格は俺には無い』という感情。
こんな事しても、最終的に悲しませるだけなのに。
そんな自分でもよく分からない感覚を感じた。胸が苦しかった。
金剛「どうしました?」
提督「なんでもないよ」
その時、通りすがった女子高生達が言った一言がこの時間を壊した。
「見て見て、あのカップル。超お似合いじゃない?」
「ほんとだー 彼氏かっけー あんな彼氏ほしいなー」
「女の人めっちゃ美人じゃね? 女優さん?」
彼女達は別に悪意もなく、ただ思った事を口にしてケラケラ笑いながら通り過ぎていった。
金剛はカップルに見られたのを嬉しく思い、頬を染める。
提督は逆に何か重たいモノが圧し掛かった感覚を感じた。ズシリと。
提督「俺達は・・・カップルに見えるのか」
金剛「そうみたいですねー」
金剛は嬉しそうだ。本当に。
提督「金剛、オマエは嫌じゃないのか?」
金剛「どうしてです?」
なんで、そんな事を聞くのかと本当に分からないような、きょとんとした表情。
提督「だって・・・恋人同士だって思われたんだぞ俺と」
自分でも止めておけと思ったが、止まらなかった。
提督「恋人でもない男とさ・・・その・・・」
金剛「私は、提督が好きです」
その言葉に心臓が跳ね上がる。
提督「それは上司として、仲間として・・・家族としてだろう?」
それを強く肯定して欲しかった。
金剛「違います」
ハッキリと、透き通るような声で言葉を紡ぐ。
金剛「私、金剛は提督を一人の男性として愛しております」
頭を殴られたような衝撃。
金剛「私は貴方が好きです。他の誰よりも・・・」
言葉に迷いはなく、提督を見つめて口にする。
金剛「たとえ姉妹を出し抜いても、仲間を蹴落としても・・・」ハイライトオフ
彼女の瞳から、目を反らせられない。
金剛「貴方を手に入れたいし、貴方の一番でありたい。提督、私は貴方を愛してます」
提督「俺は・・・」
何もいえない。考えないようにしていたのに。
皆が俺を恋愛対象に見ている。
それは母から聞いた。
だけど、そんなはずはないと否定して何時もの自分に戻った。
どうすればいいか分からない。
金剛はそっと目を閉じた。
鈍い自分にも分かる。これは口付けを望んでいると。
提督「金剛・・・」
それは男としての本能か、その唇を奪いたい衝動に駆られた。
だけど、だけど・・・
提督「・・・ごめん。俺にはまだ分からない」
金剛が目を開ける。
提督「恥をかかせてしまって本当にすまない・・・」
金剛「いいえ、大丈夫でーす。今のは冗談ですから」
提督(金剛・・・)
冗談のワケがない。今のは本気だ。
だって金剛の目に涙が浮かんでいたから。
自分が情けなく思った。
提督(俺は何をやっているんだろう)
2人は帰路へついた。
歩いているときも、電車に乗っている時も、
常に2人は隣に居たが会話は無かった。
提督(もし金剛の好意を受け入れたら?)
そもそも自分は金剛を好きなのか?
好きだと言える。
頼りになるし、付き合いも長いし信頼も置ける、
女性としてもとても綺麗で、その明るさには何時も助けられた。
じゃあ問題ないじゃないかと思った。
だけど・・・その後は?鎮守府は?他の艦娘は?
もし母の言葉を信じるなら皆が少なからず思ってくれている。
今までの自分達の日常が瓦解する。それが恐かった。
だけど、それは本心を誤魔化す為のカモフラージュ。本当の理由は分かっている。
だからこそ、金剛を、彼女達を受け入れられなかった。
その先の彼女達の未来を思う故に。
その後も両者は無言のまま鎮守府に帰った。
提督達が対談をしてから遅れる事、数日後。
陸軍参謀本部では海軍から出された提案について議論が行われていた。
「深海棲艦と和平?何を馬鹿な・・・」
「一体どこのバカだ、そんな夢物語を描いている頭がお花畑のアホは」
「現実味が無さ過ぎる」
どれも否定的な意見ばかり。
統帥部長はまぁ当然かと思ったが、静まり返るまで待った。
統帥部長「反対の者は挙手を」
ほぼ全員が手を挙げた。
「大体、そのような事が可能と考える根拠をお聞かせ願いたい」
統帥部長「まぁ当然の意見ではある」
かつても海と陸は仲が悪かったが、新設された軍でも仲が悪かった。
単純に予算の配分が違うこともあるが、一部は違う事情で毛嫌いしていた。
陸軍の艦娘があきつ丸、まるゆだけ。
海は沢山の艦娘が居るのに陸は2人だけ。しかも建造された艦娘は殆どが海へ行く。
所謂、僻みの様なものを持つ者も中には居た。
かつても仲が悪かったという事実もあるので陸は海を嫌って当然という
暗黙の了解みたいな雰囲気が組織を支配していた。
無論、全てがそうではなく、純粋に国を守りたい、陸軍の方が好きという者もいる。
統帥部長「では海からの客人を呼ぶので判断して欲しい」
そう言うと室内に女性が入ってきた。
陸軍の人間なら、誰もが知っているあきつ丸。
しかし、自分達もよく知るあきつ丸であるハズなのに、
誰もが一瞬喋る方を忘れてしまうくらい有無を言わせない迫力があった。
あきつ丸「自分は舞鶴第二鎮守府所属のあきつ丸であります」
その言葉で再びざわめく。
「え? あの鎮守府の?」「どうりで・・・」「まさかさっきの案って・・・」
あきつ丸「この映像を見て欲しいであります」
流されたのは鎮守府の映像。
不自然な所もなく、和気藹々としており、皆楽しそうだ。
しかし、そこにありえないモノが居た。
深海棲艦。
誰もが言葉を失う。
深海棲艦が普通に食事して、艦娘と混じって談笑したり、ふざけあっている。
それは外見とは裏腹に人間と大差なく見えた。
あきつ丸「彼女達は『捕虜』として捉えた深海棲艦であります。ご覧頂いた映像で分かると思いますが・・・」
そこから捕虜となった経緯、提督のやろうとしていること、それを成す事で世界がどう変わるか・・・
それを提督の言葉を借りて説明した。
統帥部長「私はね、賛成して見たいと思う。諸君達はどうか」
少し静まり返った後、一人の男が立ち上がる。かつて憲兵隊の副官を務めた男。
元副官「やりましょう。これはやる価値があると見ました。あの神・・・いえ、提督殿の考えであるなら間違いはないでしょう」
以前、提督に助けてもらい、命を救われた経験のある者達も賛成に回った。
「あの鎮守府に敵意は見せるな」、「特にあそこの艦娘には」と数名も虚ろな目でかつて味わった恐怖から震えながら賛成した。
場は賛成多数。とりあえず陸軍は珍しく海軍側の意見を承諾した。
統帥部長「では提督殿にはそのようにお伝えください」
あきつ丸「ありがとうであります。大倉井殿。いえ、統帥部長殿」
これは今まで提督が意図せずやってきた善行の結果や、艦娘の行動が上手く働いたおかげと言えた。
あきつ丸(内閣と陸は賛成。問題は自らの陣営の海軍内部でありますか・・・)
何はともあれ、陸の方は説得できたので提督に褒めてもらえる事を想像し、
すれ違う通行人が何事!?と振り返るくらい、だらしの無い笑みを浮かべ妄想の海に浸りながら、あきつ丸は帰路へ付いた。
鎮守府、執務室。
提督「今戻った。扶桑、ありがとう。留守中に何かあったか?」
扶桑「いえ、特に問題はありませんでした」
提督「そうか。それなら良かった」
扶桑「・・・何かありました?」
提督「え?」
扶桑「何やらお疲れのようですけど・・・」
提督「別に大した事はない」
扶桑「・・・私にはお話出来ないことでしょうか?」
あまりに扶桑が落ち込むのでどうしたものかと思った。
提督「俺だけの問題じゃないからな・・・話す事は・・・」
そう、事情を話せば金剛も恥を書く。だから本来言うべきではなかった。
だけど、この日の扶桑は何時もと違った。
提督代行を頼まれたからか、とても自信に満ちていてかなりポジティブになっていた。
だから疲れた提督を労おうと自室に半ば強制的にお招きして酒盛りを始めた。
同部屋の山城は「お姉さま会議」なる謎の会合に参加して不在だった為に、
部屋には提督と扶桑の2人きりだ。
提督は疲れや悩んでいた事もあり、扶桑の注ぐ酒をひたすら飲んだ。
酒は摂取量によって、アルコール酔いを起こす。
そして、それは判断力を低下させる。
これが軍機であるなら口を割らなかっただろう。
だが、金剛と扶桑が仲が良いと思っていた提督は、つい今日あった出来事を口にしてしまった。
優しい扶桑ならば、何か心の迷いを晴らすような事を口にしてくれる。
そんな身勝手な甘えからだった。
恋愛という無意識に自分から切り離したつもりの感情。
それが自らの母の手で否が応でも意識させられて、免疫のない提督に取って毒だった。
だからどうしていいか分からない。
どうすればいいか分からない。だから本来言っては行けない事を口にした。
失態だった。いつもの自分なら絶対に口を割らなかったのに。
扶桑「・・・へぇ 金剛さんがそんな事を」ハイライトオフ
提督「・・・俺はその感情がよく分からない。どうすればいい?」
だって分からないようにしてきたから。
扶桑「提督」
提督「・・・なんだ?」
扶桑「その感情を教えて差し上げます」
そう言うと、提督の返事を待たずに強引に口付けをした。
提督「扶桑!?」
一気に酔いが覚める。
扶桑「どうですか?」
提督「なんで・・・」
扶桑「だって私も提督の事が大好きなんですもの。金剛さんよりも・・・」
皆が好意を寄せている。
しかし、程度の差はあれど、ここまで本気だと思わなかった。
もっと慎重に行動すべきだったし、こんな話をするべきじゃなかった。
扶桑「提督は・・・私をお嫌いですか?」
そんな事はない。だけど口が動かない。
扶桑「答えてください」
提督「・・・好意は抱いていると思う」
そんな言葉しか出ない。
だけど扶桑にはそれで十分だった。
扶桑「じゃあ、いいじゃないですか。男と女。愛し合うのになんの問題が?」
そして再び口付け。
扶桑「金剛さんに抜けがけされそうでしたけど、もう条約も何もありませんよね」
体に力が入らない。
条約?何を言っているか分からない。
突然ドアが開く。山城が帰ってきたのだ。
山城「姉さま!! ただいま帰りまし・・・」
そして提督を押し倒し、口付けをする姉の姿を見て固まる。
扶桑「・・・山城?」
扶桑も妹が帰っていることに気付いて口づけを止めた。
自分の口と扶桑の口を結ぶ唾液がとても妖艶に見えた。
山城「・・・何・・・しているんですか」
冷たい声。軽蔑するような目。
仕方が無い。だってこんな事になっているのだから。
山城に嫌われたなと、どこか他人事のように思った。
だが、その怒りは提督に向いて居なかった。
山城「姉さま、何をしているんですか!! なんで!! なんで!!!!」
ヒステリックに叫ぶ山城。
その顔はとても恐ろしく、姉に向ける顔ではない。
山城「私が提督の事を好きだって知っている癖に!!」
扶桑「貴女だって私が提督を愛しているって知っているでしょ」
山城「提督から離れてください!!」ハイライトオフ
何時もの姉を敬愛する山城からは考えられない言動。
2人はお互い出し抜かれたことを言い合って姉妹喧嘩になった。
こんなに姉に対して、敵意を見せる山城を見るのは初めてだった。
だから自分がとんでもないことをしてしまったと放心した。
もう何もかも分からない。
ついには2人で殴り合いになって、艤装を展開、止める間もなく部屋の壁を破壊した。
その衝撃で提督は気を失った。
騒ぎを聞きつけて、何事かと戦艦勢が駆けつけて、寝ていた他の艦娘達も驚いて飛び起きた。
その中には金剛も居た。
事情を聞いて、みんな無言になった。
扶桑「元はと言えば、金剛さんが出し抜こうとしたから!」
金剛「それは謝ります。ですが扶桑、自分が何をしたか分かっていますか?」ハイライトオフ
気絶している提督を見る。怪我はないように見えた。
扶桑「ええ、分かっているわ。でもね、後悔はしていないわ」
金剛「こんな状況になっているのにですか?」
扶桑「・・・だから? なんで? なんで何時も貴女なの!!」
大声で叫ぶ。
扶桑「最初に着任した戦艦だから? だから何? なんで貴女ばかり提督から想われるの?」
ずっと金剛が憎かった。
戦艦の中で一番信頼されているであろう彼女が。
何時も、何時も、何時もそうだ。
提督が不在時には彼女か電が指揮を執る。
出会いの長さなんて自分にはどうすることも出来ない。
どんなに頑張っても、付き合いの長さという武器には勝てない。
だから心底憎たらしかった。
扶桑「だから・・・だから私は・・・なんで・・・なんで何時も貴女なの?」
金剛「それは違います。私も貴女も、愛されていたよ。平等に」
扶桑は泣いた。山城は扶桑を睨んでいる。
事態を見守っていた長門が前に出た。
長門「とりあえず、提督を医務室へ運ぶぞ。怪我があるといけない」
それから壊れた壁の撤去やら矢次に指示を出す。
何事かと集まって来た艦娘達を散らせた。
金剛「ありがと長門」
長門「なに。あのままじゃ何時までも終わらないからな」
山城「・・・泥棒猫」
扶桑「・・・お互い様でしょ。貴女だって・・・」
陸奥「ほら、2人とも離れて。とりあえず今は興奮しているから今日は別々に休みましょ?ね?」
伊勢「そういうことなら山城、私の部屋おいでよ 今夜は一緒に休も?」
陸奥「じゃあ扶桑は私達の部屋ね」
日向「じゃあ布団運ぶぞ」
山城「・・・ごめんなさい」
日向「まぁいいさ。今日はな」
金剛「・・・扶桑」
扶桑「ごめんなさい。私、提督を盗られたくなくて・・・分かっているのに!こうなるって分かっていたのに・・・」
金剛「今夜は休みましょ? お互い血が上り過ぎているから・・・」
扶桑は陸奥が自室へ連れて行った。
半壊した扶桑山城の部屋を軽く片付けた後、長門と金剛もそれぞれ自室へ戻る。
金剛「・・・長門ごめん」
長門「いや、いい」
金剛「・・・・・・ありがと」
長門「勘違いするなよ? 私だってオマエや扶桑の行動は腸が煮えたぎるくらい面白くない」
金剛「でしょうね」
長門「あそこで私や他の者まで怒りに身を任せればどうなるか・・・」
金剛「それは提督を悲しませるだけですからね」
長門「そうだ。今日の事、明日には知れ渡るだろう。どうなると思う?」
金剛「扶桑までいかないにしても・・・似たような事は起きるかもしれません」
長門「そうなれば鎮守府の機能は失う。戦いどころではなくなるだろう」
金剛「・・・私のせいなのかな」
長門「・・・多分、私がオマエの立場なら同じ事をしたかもしれない」
金剛「いい奴ですねー長門は」
長門「ビックセブンだからな。惚れるなよ?」
金剛「提督一筋ですからー」
長門「奇遇だな。私もだ」
2人して笑う。少し気が楽になった。
誰か一人が結ばれる。それは世間的には当たり前の事。
だけど、それじゃダメだ。私達の進むべき未来ではない。
仲間を、姉妹を、その関係を壊さないで皆が幸せになれる道。
やはり以前から構想していたアレを皆に納得させるしかない。
金剛「やはり提督には私達全員と結ばれてもらいますね・・・」
長門「・・・提督は納得しないだろうな」
金剛「だから話をするんです。私達艦娘と、提督で」
この鎮守府の全艦娘に同意を得る。その上で提督と話し合おう。
戦争の行く末だけじゃない。その後を・・・
提督と艦娘、私達のこれからを。
この事件後、長門と金剛の予想通り鎮守府の雰囲気は最悪になった。
資材を届けに来た大本営の人間が立ったまま気絶する程に。
提督は自らの行動を気に病み、艦娘と一定の距離を取る事を意識した。
艦娘は条約の効果がもはや無くなり、他の誰かに先を越されるかもしれないと
疑心暗鬼になり、それが悪循環となった。
次の大きな会議で提督は自らの発案を海軍全体に発表する。
そこで支持を集めて初めて国の総意として、和平の選択が出来る。
だが、海軍を説得する前に自らの鎮守府がこのような状況。
本来信頼を寄せて、共に歩むべき仲間達が今は・・・
提督(全部俺の責任だ・・・何を間違えたんだろうな・・・)
早くなんとかしなくては・・・そうしないと・・・
幸いまだ会議までは数ヶ月あまり時間がある。
今までどおり大本営の命令に従い、任務を遂行した。
部下達はぎこちないながらもよく働き、
大きな作戦を何度も遂行して、特に被害もなく乗り切った。
その度に新しい艦娘が配属されては、この鎮守府の空気に染まり、収集が付かなくなっていった。
あれから一月程。
今日も何時ものように任務をこなす。
皐月「はい。今日の指令」
提督「補給艦の撃破か。編成は・・・」
皐月「了解。いつもの通りね」
改造2に改装された皐月は軽い足取りで、提督に近づくと頬をつねった
提督「痛っ なんだ?」
皐月「まーた考え込んでいる」
提督「・・・すまん」
皐月「大丈夫だよ。きっとボクも司令官もみんな幸せになれるから」
提督「・・・皐月?」
皐月(アレを否定するって事は司令官に牙を向くってことだよね)
皐月「その時はボクがなんとかするから安心してね!」
皐月(そんな艦娘いらないよね)ハイライトオフ
提督「何を言っているんだ? 皐月?」
皐月「だから、司令官は心配しないで? ね?」ハイライトオフ
微笑む皐月。可愛らしい笑顔のハズなのに、どこか寒気がした。
平和だった日常が狂っていく。何かが。それが何か分からない。
だけど、このまま自分がふがいないままだと、きっと皆を不幸にする。それはやってはいけない。絶対に。
皐月(また見ている・・・邪魔だなぁ)
執務室のドアが少し開いて、鹿島が覗いていた。
少し前の作戦で仲間になった艦娘だ。萩風、嵐、グラーフ・・・
新たに迎えた仲間もあっという間に染まって同類になった。
恐らく明日、彼女が秘書艦になっているので仕事の様子を見て
失敗がないようにしようとしているのだろう。
皐月(・・・あざとい女)
グラーフ、萩風や嵐もほぼ一瞬で陥落し、そこまでは何時もの事。
しかし・・・鹿島。あの女は一気に自分達と同じか、それ以上に落ちた。
女の武器の使い方をよく熟知しており、他の艦娘から徹底マークされていた。
それすらも理解した上で鹿島は動いている。
皐月は自分の子供らしい体と鹿島の豊満な女性らしい体を比べて想像して、少し腹が立った。
皐月(ボクだって艦娘を引退したらアレくらい育つもん)
艦娘である間は肉体の外的年齢は変わらない。
だけど、将来的に結婚して引退したらあれくらいにはなると自分を元気付けた。
皐月「鹿島には気をつけないと」
提督「え? いい子じゃないか」
皐月「あれ? ああ、ドジっぽい感じだから書類ぶちまけそうだなーって思って・・・」
心の中で発したつもりが口に出ていたらしい。
気が付くと鹿島の視線は自分に向いていて、睨んでいた。
皐月(昨夜、夜這いかけようとしたの知っているからね)
そう口の形を動かした。鹿島に分かるように。
唇の動きから鹿島は理解して、「早いもの勝ちってききました!」と返した。
皐月『この状況を悪化させるでしょ』
鹿島『誰かがくっつけば終わります』
皐月『その誰かはアンタじゃない』
鹿島『それを決めるのは貴女じゃない ちんちくりん!』
皐月『うっさい ちじょ!!』
鹿島『ちじょじゃないもん!』
皐月『ちんちくりんじゃないもん!』
お互い読唇術で牽制しあう。
提督「どうした? 口をぱくぱくさせて」
皐月「んー なんでもなーい」
表面上は普通に、いつものように職務に当たる。
それは艦娘も同様だった。
表に出さない内面では連携も糞も無かったが、怒りの矛先と発散先を深海棲艦に向けていた。
つい最近の大規模戦闘では集積地棲鬼は最後は戦わず逃げ出した。
最初は抵抗し、「帰えれよォォ!!」と叫んでいたが「帰ってくださいィィィ」と懇願に変わり、燃料補給後に
最終攻撃部隊(殺意MAX)を送ったところ白旗が置いてあり、蛻の殻だったらしい。
また、鎮守府海域に強行偵察に来ていた深海棲艦の部隊は艦娘のストレス発散に都合のいい存在として
敵ながら同情するレベルでボコボコにされ、楽に成れるという理由で自ら死を選ぶか、戦う前から逃げ出した。
仲間同士連携は最悪レベルであったが対深海棲艦戦に置いて防衛の面では問題は全く発生しなかった。
それどころか、深海棲艦側から今まで以上に恐れられ、『目が合っただけで死ぬ』とか『気が付いたら背後にいる』とか
恐怖の対象として鎮守府の名前を聞いただけで、任務を放棄し逃げ出す者も今まで以上に後を絶たなかった。
このようにして、戦線を勝手に離脱した敗残兵の深海棲艦は人類側と争いを望まないヲ級の勢力に合流し組み込まれ、勢力を増していった。
前回からかなり間が開いてしまい申し訳ないです。
ちょっと短期入院したり単に忙しかったりしたのもあるんですが、書き溜めた奴が気に入らなくて大部分直したり入れ替えたりしてました。
長期更新を出来なかったので大量投下したつもりです(汗
え?少ない?すいません!
前回の更新で一部を直前に短縮したせいでセリフの名前の位置がおかしくなっていたようです。すいません。
今回数回分まとめて投下しており、十分にチェックはしてますが、どこか誤字やミスがあったらごめんなさい。
おやすみなさい
演習場では激しい戦闘音が響いていた。
対峙する2つの艦隊。
一方の艦隊は提督の所の艦娘達。
対するのは提督の学生時代の先輩である夜曾野(よその)提督の艦隊だった。
夜曾野提督は黒い長髪を後ろに束ね、軍帽を深く被っている。
一見すると中性的な美青年のように見えるが性別は女性である。
女性であることで、舐められないようにサラシを巻き、男装をしていると言うのが本人の弁。
夜曾野「演習の約束したよね? なんで連絡全然寄越さないの? 先輩舐めてるの? バカなの?」
と突然やって来て今に至る。
色々な事があって、提督も余裕を無くしており、それどころじゃなかったのだ。
夜曾野「てきとーに やれー どかーんって感じでー」
右手をひらひらと振りながら、やる気が無さそうに支持を出す夜曾野。
五月雨「なんですか!その適当な指示!!」
それに対して夜曾野の秘書艦である五月雨はぷんすかと怒りながら応答する。
別に本気で怒っているワケじゃない。
互いをよく知っているので、そのやり取りは彼女の艦隊ではお約束のようなものだった。
夜曾野は言っていることは破天荒で滅茶苦茶だが、艦隊は臨機応変に対応を見せる。
長い時間をかけて培った信頼があってのことだろう。
それに引き換え、提督の艦隊は個々が自由に動き、連携も何もあったものじゃない。
明らかな異常に夜曾野は目を細める。
連携して応戦するというよりは、隙が在らば、相手を潰す事を意図しているような動き。
鈴谷「ちょっとっ!! どこ狙ってるの!?」
熊野「ごめんなさい。手が滑りましたわ」ハイライトオフ
鈴谷「今さ、私ごと狙ったでしょ・・・」ハイライトオフ
熊野「そんなことするわけないでしょう 演習ですから死にませんわ」
2人が言い合っている所へ魚雷が迫る。
磯風「すまん、手元が狂った」
熊野「・・・」
熊野が舌打ちをする。
鈴谷「そっかー しょーがないねー こっちも手が滑りそうだわー」
磯風「そう怒るな。演習だ。誰も沈みはしないだろう。怪我はするだろうが」
熊野「なら貴女を大怪我させてもよろしくて?」
磯風「ほう、やれるものなら・・・」
そこに艦爆が飛来して大きな水柱を挙げた。
加賀「そんな所にまとまっていると危ないわ」
鈴谷「・・・喧嘩売ってますか加賀さん。買いますよ」
加賀「・・・そう」
そんな言い合いをしている間に羽黒が艦隊を離れて、夜曾野の艦隊に攻撃を仕掛けた。
熊野(先をこされましたわ・・・)
羽黒「五倍の相手だって・・・支えて見せます!!」
味方は醜く、身内同士で争っている。
連携の取れない仲間は当てにしない。自分だけでもしっかりしないと。
きっと司令官さんは自分を褒めてくれる。
羽黒(私は・・・あの人たちとは違うから)ハイライトオフ
自分なら司令官さんを苦しめないし、悲しませない。
何度も「司令官さん」と呟きながら、光を失った瞳で迫り来る羽黒に対して夜曾野の艦隊は
若干の戸惑いと恐怖を感じたものの、
五月雨は即座に自分の艦隊に支持を出し、陣形を変えてきた。
羽黒(対応が早いっ!?)
プリンツ「Feuerーーーッ!!」
羽黒の後を追ってきたプリンツが羽黒の支援に回る。
羽黒「プリンツさん!?」
プリンツ「もー ずるいなー 」
羽黒「・・・何がです」
プリンツ「一人だけそうやってポイント稼ぐ気でしょ?」ハイライトオフ
羽黒「・・・・・・」
返答が無いのは肯定だと受け取ったプリンツは羽黒に持ちかける。
プリンツ「あっちは連携とか無理そうですんで2人で艦隊組みません?」
後方を見るとまだ鈴谷達は諍いを起こしている。
敵艦隊の一隻は開戦と同時に加賀が大破判定を出した。
敵の総数は残り5隻。一人で5隻の相手をするより2人の方が無論いい。
羽黒「そうですね。 よろしくお願いします」
プリンツ「よろしく。重巡同士、仲良くしましょ!」
握手をするが手柄を譲る気は無かった。
誰かが前に出ようとすると、他の誰かが邪魔をする。
個々が勝手な行動をして、もはや艦隊として機能していない。
提督もどこか上の空で様子が変だった。
そのあまりに無様な惨状に、とうとう夜曾野が激怒した。
夜曾野「止めだ!止め!! こんなんじゃシュミレーションゲームの方がマシだっつの!!」
演習を終えた提督の艦娘達は夜曾野の艦娘達とドッグ(風呂)に向かった。
夜曾野と提督だけになる。
提督は突然殴られて、地面に倒れた。
夜曾野「一体なんのつもりだコノヤロー!」
提督「・・・すいません」
夜曾野「何があった? この無様な戦いはなんだ?オイ?」
ただでさえ、母親との距離感を掴みきれず、また次々起こる予想外の事実に
精神的に疲れている所に艦娘達が自分と付き合って欲しいと申し出てくる。
それも所属艦娘全員が。
どう対応していいか分からず、
なんとか、のらりくらりと交わしていたが、その事で事態は悪化、
さらに新人の鹿島が、カンフル剤の役目を果たして混迷を極めている。
自分を責め、どうすればいいか分からず、どんどん疲弊していった。
誰かの為にという理由であればなんでも出来た。
だけど、自分の事になると正しいやり方がワカラナイ。
恋愛なんて無縁だと思っていたし、考えた事がなかったから。
親を失った悲しみは、戦争を終わらせる事で乗り切れると思い込んだ少年は何時しかそれだけが生きがいだった。
誰かの為に。国の為に。そうやって正しい事を続けて来て、正しい在り方であろうとし続けて、青年になった。
その歪な道程が彼を正しい模範的な人間としては育てたが、人間個人としてはとても歪んでいた。
提督「・・・情けない限りです。俺はどうすることも出来なかった。どうしていいか分からなかった」
焦燥しきった様子の提督に夜曾野は深く帽子を被りなおし呟いた。
夜曾野「・・・ちっと夜付き合え」
提督「・・・え?」
ドックでも提督の艦娘達は、お互いを敵視しているように見えて、夜曾野の艦娘達は首を傾げた。
鈴谷「お久しぶりー」
五月雨「あっ お久しぶりです」
鈴谷とは以前、東京の会議で会っているので顔見知りだった。
五月雨「・・・一体何があったんですか?」
鈴谷「・・・やっぱり分かる? そりゃそうだよねー」
あははーと笑う鈴谷の様子は特に不自然ではなく、おかしなところはない。
何が起きているか分からなかった。
五月雨「なんか皆さん、互いを警戒しあっているというか・・・」
それは味方同士に向ける視線ではなく、ピリピリした様子に五月雨は悪寒を感じていた。
まるで猛獣の居る檻に放り込まれたような感覚さえする。
鈴谷「実はね・・・」
提督が艦娘全員が自分に恋愛的な好意を寄せていることをようやく自覚した。
一番の原因はそれ。
これまでは、鈍感で気付いていないと言うことが前提であった為にお互いに条約を結び、
水面下での駆け引きで平穏が保たれていた。
余談ではあるが、そのルールは分厚い本になるくらいであったという。
全員の好意を知られた事で、もはや直接的な好意を隠す意味は無くなったと捉える者が出てきた。
それが引き金になり、どうにか提督に射止められようと過激派が行動に出た。
状況の理解が追いつかない提督はのらりくらりと逃げ続け、
埒が明かなくなり、先に邪魔な恋敵を排除するか、自分をより強固にアピールして
気に入られようとした為に、相手を出し抜き、騙し、相手の評価を落とさせようとする者もでる始末。
さらに表面上は仲良しだった扶桑姉妹の対立から姉妹同士の辛うじて存在した信用も地に落ちた。
姉妹間でも冷戦のような水面下の駆け引きが行われている。
誰もが相手に対して疑心暗鬼になっており、体裁を取り繕う余裕が無い娘が半数以上を占めた。
提督は無自覚に艦娘を娘や恋人のように大切にしてしまった結果、相手の心をがっちり掴みすぎて
このような事態になり憔悴。精神的にも参っていた。
また艦娘も病的なレベルで提督を愛してしまった結果、恋愛感情を暴走させて醜く女の争いを起こした。
その為、鎮守府の空気は少しだけ悪化していた。
とは言っても、憲兵が所要で立ち寄ろうとして施設内に入ったとき、寒気を感じて立っていられなくなり、
まるで心臓を鷲づかみされたかのような感覚に陥って腰を抜かして糞尿を垂れ流して泣き叫んでいた所を保護されるレベルでまだ済んでいる。
誰もがこの状態がさらに悪化するのは避けたいが、弱みを見せたところを付け込まれると思い込んでおり、
互いに大きく動かないように牽制しあいながら居るのが今の現状だった。
五月雨「なんですかソレ!? ギスギスしすぎですよ!!?」
鈴谷「ウチらも不味いとは思っているんだけど、一度互いに疑いだすとね・・・」
五月雨「・・・どうするんですかこの状況」
鈴谷「長門さんや金剛さんは緊急会議をやろうとしているんだけどねー」
五月雨「すべきでしょ今すぐ」
鈴谷「それすら罠じゃないかって疑っている娘も居るんだよね。戦艦の力で一網打尽にして黙らせようとしているんじゃないかって」
五月雨「深読みしすぎですよ!!」
鈴谷「早くなんとかしないと・・・なんだけど」
五月雨「鈴谷さんは大丈夫そうですね」
鈴谷「私はまだまだ平気だよ。もっと酷い娘沢山いるもの」
五月雨「そっ・・・そうなんですか?」
鈴谷「昨日は言い合いから撃ちあいになってた娘も居たし」
五月雨「そういえば壁に弾痕が・・・」
どうやったらそこまでの状態になるんだろうと五月雨はぶるっと震えた。
鈴谷と五月雨はドッグを出て食堂に向かった。
鈴谷「オバちゃん。コーヒー牛乳2本」
間宮「・・・オバちゃん? 誰のことかしら?」
鈴谷「あっすいませーん。間違えましたー」
五月雨(すごい棒読み)
間宮「はいどうぞ。今度から気をつけてくださいね」ハイライトオフ
鈴谷「わかりました。おばさん」ハイライトオフ
間宮「・・・・・・」
五月雨(あわわわわ・・・)
2人は空いている席についてコーヒー牛乳を口にする。
鈴谷「やっぱりお風呂のあとはこれだよねー」
五月雨「あの・・・ああいうのは良くないかと・・・」
鈴谷「・・・え?」
五月雨「さっきのですよ!! 間宮さんって言ったら艦隊のアイドルじゃないですか!!」
どこの鎮守府でも間宮は大人気だ。彼女を悪くいう者なんて居ない。
少し離れたテーブルで那珂が舌打ちをしたが五月雨は無視した。
那珂の目が据わっていて恐いから。
五月雨「間宮さんの事、お嫌いですか?」
鈴谷「ううん。割と好きだよ」
五月雨「じゃあなんで・・・」
鈴谷「あの間宮はダメ」ハイライトオフ
五月雨「何故ですか?」
鈴谷「だって提督の夜食に媚薬盛って、持って行こうとしたんだよ? いやらしい下着付けてさ。ないよねー」
間宮に聞こえるような大きな声で言う鈴谷。
周囲の艦娘も改めて軽蔑するように間宮を見て、間宮は肩を震わせながら顔を伏せた。
何故か翔鶴も心当たりがあるのかビクッと震えた。
五月雨(本当にここの間宮ダメだった!!)
周囲を見渡す。
少し離れた席に愛宕、高雄、摩耶、鳥海が居た。
五月雨(愛宕さんってどこの鎮守府でもおおらかだしあそこは平和そう)
と思った。
摩耶「んだよ姉貴」
愛宕「んー そういう態度ツンデレって言うんでしょ? おねーちゃん流行らないと思うけどなー」
摩耶「別にそんなつもりじゃねーし。今だから言わせて貰うけどな、姉貴のパンパカパーンも意味わかんねーんだよアホか」
愛宕「そのまんまの意味だけど? 摩耶ちゃんは頭がちょっと弱いから分からないのかしら~」
摩耶「あ? 姉貴こそ脳みそ腐ってんじゃね? 胸にばっかり栄養行ってさ」
愛宕「・・・・・・ふふ」ハイライトオフ
高雄「止めなさい。みっともない」
鳥海「影の薄い長女は黙っていてもらえます?」
摩耶「だよなー 愛宕姉の方が長女みたいだし」
愛宕「そんなことないわよ。高雄ちゃんだって頑張ってるのよ。報われてないけど」
高雄「・・・・・・」ハイライトオフ
一見すると普通にお茶を飲んでいるだけ。
だけど会話は今にも殴り合いが始まりそうな内容だった。
きっと普段心の奥底でなんとなく思っていたけど、本来けして言わない言葉がこの空気のせいで出てきているのだろう。
五月雨(・・・・・・)
別の席には駆逐艦が居た。
五月雨(幼い駆逐艦なら!! もっと平和なハズ!!)
陽炎「・・・・・・・・」
不知火「・・・・・・・」
そこは陽炎型が陣取っており、普通に見れば姉妹で集まってお菓子を食べながら談笑しているように見える。
陽炎型は人数が多い。
その全員が一切言葉を発しない。
比較的に精神が幼い傾向にある雪風も無言。
と言うより皆、表情がない。怒っているわけでもなく、楽しそうでもなく、能面のように無表情。
空気がピリピリしている。
浜風が動いた。お茶を一口。その動作だけで豊かな胸元が揺れる。
それに数名が舌打ちをする。
浜風はそれに対してどうするわけでもなく、ただただ無言。
誰一人言葉を発しないのが本当に恐い。
五月雨(見ているだけで・・・胃に穴があきそう)
いや、あそこが異常なだけ。
さらに別の机では、どこの鎮守府でも大活躍する2人が居る。
北上と大井。
雷巡に分類される彼女達の雷撃力の評価はどこでも高い。
ならきっと仲良くやってるハズだと思った。
五月雨(そうだよね。たった2人しか居ない雷巡だし・・・)
と木曾が聞いたら怒りそうな事を思いながら目を向ける。
北上「・・・大井っちさ、ぶっちゃけ提督のこと好きだよね」
大井「はい。それが?・・・何かいけないですか?」
北上「別に・・・何時はあんなに悪く言うくせにさ、少し勝手じゃないかな」
大井「・・・それ関係あります? 別に誰を好きになろうが関係ないでしょ」
北上「あるよ。提督は私が貰うから。アンタにはあげない」
大井「なんでアナタと結ばれるって思っているんですか?」
北上「私は欲しいものは手に入れる主義だからさー」
大井「それは私もです」
北上「嫌いって言ってたくせに」
大井「最初はそうでしたよ。出会って12時間くらいまでは。でも好きになっちゃったんですから」
北上「私の方が最初に好きになったんだけど? 後から来たくせに」
大井「好きになるのに順番とかありますか?」
北上「そう、じゃあ私達ここまでだね」
大井「そうみたいですね もう隠さなくていいんですし」
五月雨(・・・こわい)
何時、魚雷を打ち合うのかとヒヤヒヤした。
生きている心地がしない。
五月雨(だけど、大井さんでコレって・・・)
基本的にどこの鎮守府でも大井は北上を敬愛しており、このような言い合いは非常に珍しい。
五月雨(所属する鎮守府によって艦娘も性格変わるからなぁ・・・)
同じ艦でも結局はよく似た他人でしかない。だから多少の性格の変化はあるものの
ここまでのものは珍しかった。
別の机では、どこの鎮守府でも提督にキツイ物言いをすることで星3つを貰う程に定評のある3人が同席していた。
満潮、霞、曙。
曙「だから誰が嫌いなんて言ったのよ!! 何時何分?地球が何回、回ったとき?」
満潮「知らないわよ! 何時も自分で言っているじゃない。糞だって」
曙「本心じゃないし。アンタに関係あんの? アンタだって・・・」
満潮「何よ。アンタよりマシよ!!」
霞「止めなさいよ馬鹿馬鹿しい。アイツに迷惑掛けることはしないでよね」
曙「は? 何その態度。もう正妻気取り? 寒いんだけど」
満潮「アンタさ、改2になったからって調子のってない?」
霞「何? 嫉妬? 無様過ぎて笑えるんだけど」
こちらも今にも殴り合いが始まりそうだった。
どこを見ても、何時撃ちあいが始まってもおかしくない雰囲気。
五月雨(鈴谷さんは平気そうでよかった・・・)
流石に相席している鈴谷までアレだったらどうしようかと思った。
鈴谷「何・・・皆、好き勝手言ってんの」
小さく、辛うじて聞き取れるレベルの小声。
五月雨「鈴谷さん・・・?」
鈴谷「なんなのよ!! あいつ等!! どいつもこいつも!! 提督は私のだ!! 私の提督なのに!!」
五月雨「え? あの!!? 鈴谷さん!?」
鈴谷が叫ぶ。その豹変ぶりに五月雨は驚いた。
鈴谷「提督は私の全てなの!! あの人が私を救ってくれた!! あの地獄から! 死のうって思ってたのに!!」
興奮した鈴谷に五月雨はどうしていいかわからない。
鈴谷「私の命は提督に救われたの。だから提督が居ないセカイなんて意味がないのに!!盗らないでよ!!私の最後の拠所なのに!!
私が大好きな提督を盗らないでよ!! 誰にも渡さないから!! 私と提督だけが居ればいいんだよ!! ホカは イラナイッ!!!」
周囲も注目するくらい大声で泣き叫んで、鈴谷は艤装を展開した。
鈴谷「私と提督以外は皆消えればいいんだ!!! 皆!! ミンナ!!!」
五月雨(あれ?・・・鈴谷さんの目が・・・青白く光って・・・)
流石に不味い。鈴谷は何時主砲をぶっ放してもおかしくない。
その時、長門が現れて鈴谷を取り押さえた。
鈴谷「何するの!? 話して!! 盗られちゃう!! 提督が!! 提督が!! ダメだから!!それはダメだから!!返せ!!返せ!!!返せ!!!」
長門「落ち着け!! 明石!早く!!」
明石「はい!!」
駆け寄ってきた明石が鈴谷の首筋に何かをすると鈴谷は動かなくなり、眠ってしまった。
五月雨「え? え? 何が・・・」
明石「鎮静剤が効いたみたいです。医務室に運びますね」
長門「すまない。騒がせた。君は夜曾野提督のところの艦娘だな?」
五月雨「はい。あの鈴谷さんは・・・?」
長門「何、少し寝ているだけだ。すぐに元気になるさ」
五月雨はもう「そうですか」としか言えない。
意味不明で脳が考えるのを拒絶している。
長門「それと君の仲間も先ほど保護した」
五月雨「保護!? 何があったんですか!?」
長門「ちょっと暴動に巻き込まれたが、暴徒は鎮圧した。彼女達は無事だよ」
五月雨「暴徒ぉ!?」
長門「榛名、彼女を客間に案内してくれ」
榛名「分かりました。さぁどうぞ」
五月雨「え? はい」
何がなんだか意味が分からないが、思っていることはあった。
五月雨(とりあえず早く帰りたい)
榛名に連れられて、客室に行くと仲間達はみんな涙目になって抱き合って震えていた。
何があったか聞きたくなかったので、あえて触れなかった。
五月雨「あの・・・なんで布団があるんです?」
榛名「今日は泊まって行くと聞いておりますけど?」
五月雨(聞いてない!!!)
他の仲間も心の中で悲鳴を上げた。
榛名「夜曾野さんでしたら、先ほど『私』の亭主と飲みに行かれましたよ」
五月雨「そうなんですか・・・」
榛名の言い分には何も突っ込まない。
優しそうな笑顔の美少女ではあるが、凄みというか、言葉を間違えたら自分達は
一瞬で塵にされそうな空気を感じた。
内心で自分達を置いて行った夜曾野に『あの糞提督』と文句を言う。
榛名「部屋の中はトイレ、洗面台、一通りあります。冷蔵庫には飲み物もありますのでご自由に」
五月雨「ありがとうございます」
榛名「すいません、今ちょっと鎮守府がアレなので・・・」
アレって何だよと全員が思ったが口に出さない。
榛名「部屋の鍵をしっかりかけて、無闇に外に出ないようにお願いします。今本当にアレなんで危険です。下手したら命が・・・なんでもないです!大丈夫です!」
恐いですねーと笑いながら、可愛い顔して何かトンデモないこと言われているが、とりあえず全員が頷いた。
というより頷くしかない。大丈夫って何が?と聞きたかったが聞き返すのは恐かった。
榛名「それにしてもいいですね。夜曾野さんは確か提督と学生時代の友人でしたっけ? 友情っていいですねー」
そう言って榛名は出て行った。
誰もが言葉を失い、唖然としていたが、やがて落ち着きを取り戻した。
お互いを落ち着かせるように「大げさよね」とか「大丈夫大丈夫」と言った。
その顔は脂汗が浮かび、明らかに大丈夫ではないが、そう口に出す事で自分を落ち着かせた。
何度も部屋の外が危険?ハハハ何言ってんの。そう笑う。笑うことで恐怖は和らいだ。
五月雨「もう!そうですよね!!榛名さんも鈴谷さんも大げさなんだからー」
五月雨自身も、仲間も、自分に言い聞かせるように笑って、その考えを肯定させようと部屋のドアの鍵を外しドアを開けた。
泊地水鬼「・・・?」
何やら、とんでもないヤツが廊下を歩いていて五月雨を初め、全員がフリーズした。
何故!? 何故ここに深海棲艦が!?
頭が回らない。自分達には今武装がない。好意に甘えて修理を受けていた為だ。
ひんやりとしたものが背中に流れる。
泊地水鬼が動いた。
五月雨達は突然訪れた自分達の死に恐怖したが、最後の瞬間は訪れない。
思わずつぶってしまった目を開けると、泊地水鬼が何かを差し出していた。
泊地水鬼「あげる。見ていたから・・・欲しかったんでしょ」
五月雨「ドウモ アリガトウ」
カタコトになって受け取ったのは食べかけのポテトチップス。
泊地水鬼「いいよ。もっちーにまた貰うし。おやすみー」
そう言って廊下を歩いて消えていった。
蛇に睨まれた状態だった五月雨は、ハッと我に帰り、急いでドアを閉めた。
鍵を閉めて、何度も何度も閉まっているか確認した。
五月雨を初めとする6人の艦娘はまるでテープを早送りするかのように行動し、
ドアの前にテーブル等を置いてバリケードにした。
流れるような作業をしてとりあえず落ち着いた五月雨が叫んだ。
五月雨「深海棲艦が居た!!!」
仲間が答える「居た!!確かに居た!!」
五月雨「ポテチ貰っちゃいました!!!」
仲間が叫ぶ「なんかフツーに歩いてた!! ポテチ喰いながら!!」
もはや理解を超えていて恐怖しかない。
なんなのだこの鎮守府は・・・
その時、建物のどこかで砲撃音が響いた。天井からパラパラとホコリが落ちて、窓が震えた。
五月雨「ひゃ!?」
砲撃が止んだ後に叫び声がする。
「ふざけないでよ!!アンタ達なんて提督に相応しくない!!」
「落ち着いて!! 艤装をしまって!!」
「鎮圧用比叡弾を使う!!」「ダメです! 施設内で使用すると汚染されます!」「なら磯風弾なら」
「あれは生態系に悪影響を与えるので中庭の木が枯れるぞ」「素手で抑えろ!」
「取り押さえろ!!」「衛生兵!!」「患者だ!!興奮している!!」と遠くで叫んでいる。
鎮守府に居るのに戦場のような怒号。
もう全ての音をシャットアウトしたかった。
全員、部屋に敷いている布団に潜る。
そして小声でこれからのことを話し合った。
とりあえず泊地水鬼の件は、恐怖で艦娘がそう見えただけ。
きっと疲れで瑞穂か瑞穂を見間違えたのだと、全ては目の錯覚で片付けた。
常識で考えれば深海棲艦が鎮守府に居て、ポテチを持って歩いているなんてありえない。
きっと誰かの仮装でしょと無理に納得した。
今、問題は別にある。
夜曾野は一見すると美形男子に見えるが、サラシを取って、帽子を外して長い髪を解けば・・・
どこぞのご令嬢ですか?と言うくらいの美人になる。
演習中の格好から、面識がない大半の艦娘は男だと思っているのだろう。
五月雨「いいですか!! この事はここの艦娘には絶対バレないように!!」
その言葉に全員が何度も頷く。凄い勢いで。
今のコレが男女の恋愛のイザコザが根底にあるのであれば・・・
確か提督と2人で飲みに行っていると聞いた。
つまり男女で飲みに行っているという事。
これが知られたら・・・
夜曾野が女だとバレたら? どんな恐ろしい事に・・・
そう思うと全員が体をガタガタと震わせた。
何度も何度も布団から抜けては部屋の鍵が閉まっていることを確認して、
バリケードを組みなおして、6人中誰か一人は番をする体制を取る。
五月雨(早く!! 早く帰ってきて!!)
全員は強く願った。夜曾野が戻ってきて平穏無事に自分達の鎮守府に戻ることを。
五月雨(はやく・・・早く朝になってぇぇ!!!)
夜明けまでが遥か遠くに感じる。
そして長い夜が明けて、結局誰一人ゆっくり休めなかった。
五月雨「眠れませんでした・・・」
皆げっそりしている。
その時、コンコンと音がした。皆がギョっとする。
ドアをノックする音。「朝食持ってきた」
その一言にほっと安心した。
五月雨「今あけますねー」
ドアを開ける。
泊地水鬼「もっちーの変わりに持ってきた。ここ置いておくね」
五月雨「・・・・・・・」
変な姿勢で固まっている客人に泊地水鬼は首を傾げた。
五月雨たちは立ったまま気絶していた。
今日は少し朝ゆっくり出来るので投下。変な時間ですいません。
前回投下した辺りから休日ないんで放置しちゃってました。
6月入れば割と時間あくからもう少しなんとかなりそうだけど未定です。
なるべくまとめてコンスタントに投下したいです。
糞忙しい時にイベント来てて、ビジホ予約して貰っているのにネカフェ出向いてほぼ徹夜でイベントやってました
朝食バイキングくらいしか利用してなくて、ちょっと勿体無い事した感じ。
イベントは少し出遅れて7日だか6日くらいにクリア済みです。
運よく攻略中に親潮、春風も揃ったのでコンプ維持出来ました。それが一番嬉しかった感じ。
ではまた近いうちに。
このSSまとめへのコメント
お仕事頑張って下さい‼
更新楽しみにしております‼
ついに・・・三スレ目ダァァァァ!!
イヤッホォォォォォウ!!!!!!!
タイトルでねぇ…
遂に向かい合う時が来たか
合金島風を見た時にこのスレ1を思い出しました 笑
更新頑張って下さい。
だんだん終局に向かっているみたい。
どんな結末になることか・・・
気が付いたら2時間もワープしてた⁉とっても面白かったです(`・ω・´)
体調に気を付けて頑張ってください!('◇')ゞ
榛名が随分おとなしいような・・・はッ!
榛名「・・・」←戦闘準備中+ハイライトオフ
話が安定していて読みやすいな
深海勢が癒し要素ってどゆことなのwww
艦これやっててシュミとシミュを間違えるのはちょっと…
確かにみんな欲望で動いてますね・・・
人を動かすのも人を狂わせるのも欲望、はっきりわかんだね
流石に三ヶ月も放置だとエターってことなんだろうか。残念。
話を広げすぎたんだろ、ラブコメみたいに誰かを選ぶ瞬間でend次回作にご期待くださいの打ち切りです。
どうしてこうなった
ヤンデレ以外の要素も面白かったのだが…
中途半端でエタって残念
頑張ってください!!
もうダメかな。。
結構好きだったのに
何度も話は最後まで書き終わってるって言いながらこれだものなぁ。
終わらせられないなら最初から書くなっつーの。
最後まで書いてあるので絶対終わらせます(嘘
まぁ元のスレが落ちちゃってるしね、しょうがないね
4つ目のスレたってないかなぁ...
続きこんかなあ
えたるやつはみんな同じことを口走るのはなぜだろうか…。そして流れも
どんどん話を広げる→シリアスになっていく→えたる
面白い。
いつまでも待ってる。
まってる...
ばっくれ
解せぬなぁ
上の乞食どもが好き勝手に言ってるが気にすんな。
気が向いたらまた書いてなー。こっちもたまに見に来るわw
✳︎完結しなくて、ごめんなさい。このss終わりました。後は想像に任せます。
↑嘘やろ!?
ダニィ!?
気が向いたらでいいので完結させてほしい
続きが気になって夜しか眠れない
ふざけやがってぇ…!
まぁ頑張ってくれ
続きを楽しみにしています。
気になって夜しか眠れません
続き楽しみにしています
気になって朝も起きれません
まだ待ってます
もうすぐ艦これ10周年
ですから続きを.....