悪魔「俺を召喚したのはお前か?」女「そ、そうです・・・」(194)

女「ほ、本当に召喚できた…」

女「え、えと、私の願いを叶えてもらえますか?」

悪「いいぜ。それが仕事だしな。だがお前貧乏くじを引いたな。」

悪「一生に一回しかできない悪魔の召喚で俺みたいな悪魔を呼び出すなんて。」

悪「俺は悪魔は悪魔でも知恵の悪魔だ。知恵や知識に関すること以外の願いはかなえられない。

悪「つまり不老不死や世界征服みたいな壮大な願いは無理ということだ。残念だったな。」

女「そうなんですか?でも大丈夫です。」

女「それならそれで叶えてほしい願いがありますから。」

悪「そうか、それでお前の願いは?」

女「私に今までにない最高の経済学の理論を教えてください!」

悪「…変わった願いをする奴だな。まあ、いい。じゃあ契約の最終確認をするぞ。」

悪「俺は契約に則り、お前の願いを一つかなえる。そしてその代償として死後、お前の魂を頂く。なにか質問は?」

女「えと、魂を取られるとどうなるんですか?」

悪「お前は死後永遠に魔界で俺の下僕、奴隷になることになる。」

女「…わ、わかりました。それでいいです。」

悪「本当にいいのか?今ならまだ引き返せるぞ?」

女「だ、大丈夫です。契約して下さい。」

悪「分かった。じゃあ、この契約書にサインしろ。それで契約成立だ。」

女「悪魔さんとの契約も契約書なんですね。もっと禍々しいものかと思ってました。」

悪「まあ、そういうやつもいるが、俺はこれが一番好きなんでな。」

女(スラスラ)「はい、できました。」

悪「では、契約成立だ。お前の願いが叶うのを待っているがいい。」

~~~翌朝~~~

女「ん~よく寝ました~。さて、さっさと準備して研究所に行かないと。」

女(そういえば、昨日ので契約ってちゃんと成立したんですかね?出てきた悪魔さんもあまり悪魔っぽくなかったですし…。まさか夢オチなんてことはないですよね…)

悪「ああ、おはよう。朝ごはんできてるぞ。」

女「ふえ?…キャーーーーーーーー!!!!」

女「な…なんで悪魔さんがここにいるんですか?」

悪「ああ、それなんだが、昨日あのあとお前の願いを叶えようと色々準備を始めたのだが、どうにもお前の言う『最高』の意味が分からなくてな。お前に聞きに来たんだ。」

悪「だが、気持ちよさそうにお前は寝てるし、起こすのも悪いんで、こうして暇つぶしに朝飯を作りながら待ってたわけだ。」

女「そこは起こして下さいよ!恥ずかしいじゃないですか?!」

悪「だからそれが悪いくらい気持ち良さそうに寝てたんだよ。」

悪「だが、まあ、そのなんだ。女が涎垂らしながら寝るのはちょっとどうかと思うぞ…」

女「イヤーーーー!」ジタバタ

悪「まあ、そんなことは置いておいてだな。本題戻るがお前の言う『最高』の意味って何だ?」

女「え、えと、それはですね。今までのどんな経済学の理論よりも素晴らしいという意味です!」

悪「だからそういうあいまいなのでは困るんだ。『素晴らしい』と言われてもお前の言う『素晴らしい』と俺の考える『素晴らしい』に齟齬があるかもしれないからな。」

女「意外と細かいんですね。悪魔さんたちってもっと大ざっぱな生き物だと思ってました。」

悪「おい。それは偏見だぞ。」

悪「まあ、理由を説明するとだ。魂という対価を頂いてる以上、悪魔には相手の願いを100%完全にかなえる義務がるんだ。」

女「は~悪魔さんたちって職業意識高いんですね。常にお客様満足度100%を目指すとは。」

悪魔「変なところに感心している場合か。」

悪「で、察するに結局お前の願いは昨日言った以上には固まってないんだな?」

女「は、はい。その、悪魔さんに頼んだらなんとかなるって思ってました…」

悪「ハア…なら、仕方がない。俺はしばらくお前に取りつく。お前を観察してお前の願いの詳細を探ることにする。」

女「え、えええええええ?!そ、そんな困ります!」

悪「仕方がないだろう。他に方法がないんだから。」

女「無理です、無理!だってそれって男の人と四六時中一緒ってことじゃないですか?!」

悪「まあ、そうだな。でもそれなら大丈夫だ。別に襲ったりなんかしねえよ。俺は貧乳には興味ないしな。」

女「う~ヒドイです。気にしてるのに。安心できたのになぜか釈然としません…」

悪「嫌だったらさっさと願いを詳細まで詰めるんだな。それを俺に伝えた時点で俺は願いを叶えて消えるから。」

女「はい…」

悪「まあ、話が済んだところ聞くが、朝飯は食べるか?」

女「あ、じゃあ頂きます。なにがあるんですか?」

悪「とりあえずご飯とみそ汁は作った。希望があれば他にも作るが?」

女「いえ、それだけあれば大丈夫です。」

女「それにしても私、こんなに豪華な朝ごはんは久しぶりです。いつもは食べないことも結構あるんで。」

悪「そんなだから胸が小さいんじゃないか?」

女「またそれを言いましたね?」

悪「はは、冗談だ。さあ、食べるぞ」

悪・女「「いただきます」」

~~~少したって~~~

女「ご馳走様でした~」

悪「お粗末様でした」

女「悪魔さんって料理上手なんですね。」

悪「この程度は誰にだってできる。」

女「そんなことないですよ。前に私が味噌汁を作ろうとしたらお鍋が爆発しましたから。」

悪「…は?」

女「いえ、だから爆発したんです。」

悪「俺は知恵の悪魔だが、俺でも味噌汁を爆発物に変える方法は知らないな。」

悪「お前、錬金術師の才能でもあるんじゃないのか?」

女「そんな才能いらないです」

悪「それもそうか」

悪「ところで、お前さっき研究室に行かないととか行ってたが、時間はいいのか?」

女「え?」

女「あー!もう遅刻確定です!色々あり過ぎて完璧に頭から消えてました!どうしてくれるんですか?」

悪「俺のせいにするな。のんびり朝飯食べ出たくせに。」

女「だからそれも原因なんですよ!あんなに美味しく作るから。」

悪「知らん!いいからさっさと準備しろ!」

ギルクラ見ながらになるから少しの間ペース落ちるかも

~~~女宅前~~~

悪「用意できたか?」

女「はい」

悪「つか、急がなくていいのか?走ったりすれば間に合うんじゃないのか?」

女「…いえ、もうさっき体調不良で遅刻しますって連絡を入れましたから大丈夫です。」

女「どうせ間に合わないんですからゆっくり行きましょう」

悪「嘘吐きは地獄に落ちるんだぞ。」

女「私は吐かなくても落ちますから。」

悪「…そうだな。」

女「あ、忘れ物をしてしまいました。すぐ取ってくるので少し待っていてください。」

悪「ああ、わかった。」

バタン

ジャー

悪(? 水の音?)

バタン

女「お待たせしました~」

悪「あ、ああ。つか、さっき蛇口の音がしたんだがどうかしたのか?」

女「あ、いえ、ちょっとお喉が渇いたのでついでにお水を飲んでました。」

女「さ、そんなことよりも行きましょう?」

~~~駅までの道中~~~

悪「しかし、人の世はいつ来ても面白い。常に変化と活気に満ち溢れている。」

女「あ、やっぱり今までにも召喚されたこともあるんですか?」

悪「ああ。前に召喚されたのは5,60年前くらいかな。その時は確かウォーレン・バフェットとかいうおっさんに呼び出されたな。」

女「…なんですかそれ?!悪魔さん、あんな凄い人と契約したんですか?!」


悪「違う逆だ。俺が契約したからあいつはあそこまで凄くなったんだ。ちなみにあいつのその時の願いは『どのような時でも利益を出すことのできる投資法を教えて欲しい』だったな。」

悪「正直、そんな願いをするくらいだから金の亡者なのかと思っていたが、なかなかどうして。面白い慈善家になったものだ。」

女「…」(ポカーン)

悪「要は俺をうまく使えばお前でもあいつクラスの人物になれるということだ。賢く使えよ。」

女「は、はい」

女「あ、そうだ。ひとつ気になってたんですけど、悪魔さんってよく漫画とかにあるみたいに私以外には見えなかったり触れなかったりするんですか?」

悪「他人からの見え方に関しては切り替えられるようになっている。願いによってその辺は変わるからな。融通が利くようになってるんだ。」

悪「ちなみに今は両方できない設定になっている。お前を観察するにはそっちの方が便利だからな。」

女「あ、じゃあ、別に悪魔さんの分の電車賃とかはいらないわけですね。」

悪「そういうこと。まあ、外で俺に話しかけるときにはせいぜい気を付けるんだな。」

アイムバック…心折れそう

~~~ホーム~~~

悪「これが日本のラッシュアワーというやつか…」

女「はい、毎朝憂鬱になります。」

悪「…どうやって乗るんだ?これ?」

女「そこは気合です!さあ、乗りますよ。」

悪「ま、今霊体みたいな俺には関係ないんだけどな。」

女「…ずるいです、うらやましいです。」

女「あ、さすがに電車の中では喋れないので。」

悪「ああ、了解」

ぞろぞろぞろぞろぞろ

悪「しかし見れば見るほど凄いな。」フヨフヨ

悪「なるほど、この中吊り広告というのは面白い。電車内で手持無沙汰な人間の目が行くのを狙っているのか。人は無意識に文字を読もうとするからな」

女「…」

女「ん、んん…」モジモジ

悪「…あいつ何やってるんだ?」

女「あ、あの止めて…下さい…お願いします…」

痴漢「へへへ」

悪「ちっ!」ガシッ

悪「おい、人の連れになにしてくれてるんだ?」

痴「え、ちょ、お前、いったいどこから・・・?」

悪「ごちゃごちゃうるさい。いいから離せ。」

痴「ヒ、ヒイイ」

プシュー○○駅~○○駅~

痴(今だ!)ダッ

悪「あ!くそ!ちっ…」

悪「おい、大丈夫か?」

女 コクコク

女「あ、あの助かりました。」

女「ありがとうございます。今までにも何度かされてて困ってたんです…」

悪「別にいいさ。それに安心しろもう二度とあいつに悩まされることはないから。」

女「どういうことですか?」

悪「あいつに呪いをかけておいた。今後一生あいつは女に触れるたびに死ぬほどの腹痛に襲われる。」

悪「痴漢どころか一生女性と手も繋げまい。」

女「ちょっと可哀そうな気もしますね。」フフッ

悪「お、やっと笑ったな。まあ、嫌なことはさっさと忘れることだな。」

女「そうですね。あ、着きましたよ。この駅です。」

~~~大学の研究室~~~

女「おはようございます。」

教授「ああ、女君。おはよう。体調の方は大丈夫なのかね?」

女「はい、もう大丈夫です。ご心配をおかけしました。」

女「教授、今日はなにをお手伝いすればよろしいでしょうか?」

教「そうだねえ…今日はこの論文に必要なデータの収集をやってもらおうかな。」

女「…はい。承知しました。」

女「ハア…いやいや、始めないと」

悪「ふむ、ここがお前の働いている研究所というやつか。面白そうだな。俺はまあ適当に色々と見ているぞ。」

女「どうぞ~。あ、今はまた見えないようになってるんですね?」ヒソ

悪「ああ、そうだ。だから気にせずお前の研究をしているがいい。」

女「…できないですよ。教授の研究のお手伝いがありますから」ヒソ

悪「ああ、なるほど、あの教授とやらがお前の上司なのか。んで、お前はあの教授の研究を手伝いつつ、自分の研究をしてると。」

悪「んで、まあお前は自分の研究の方に俺の力を貸してほしいといったところか。」

女「そうです。」ヒソ

悪魔「ふむ、じゃあ、お前の研究をするときになったら教えてくれ。それまで俺はその辺でうだうだしている」

女「分かりました」ヒソ

女「(カタカタカタカタカタカタ・・・・・)」

悪「…」ジー

女「(カタカタカタカタカタカタ・・・・・)」

悪「…」ジー

女「(カタカタカタカタカタカタ・・・・・)」

悪「…おい、いつのなったらお前の研究に移るんだ?」

女「ははは…仕方ないですよ。平の研究員に自分の研究をする時間なんてほとんどありませんから…」

悪「変な話だな。それでは新しい人材がいつまでたっても育たないじゃないか」

女「そうですね。でも、仕方ないですよ。そういうことになっていますので…」

悪「ふむ…」

悪(しかしこれじゃあ、らちが明かないな。こっちとしてはさっさとお前個人の研究に取り掛かってほしいのだが…。あ、そうだ!)

悪 スタスタ

女(あれ、悪魔さん教授の方に行ったけど、どうしたんでしょう? )

悪「ふん!」ヴォン

教「あばばばばばばばばばばばばばばばば!!!!!」

女「教授、どうかされましたか?!今なにかすごい悲鳴が・・・」

教「いや、なんでもないよ。ところで女君。私の研究の手伝いの方はもういいよ。それは悪魔君がやってくれるそうだから。君は自分の研究に専念しなさい。」プシュー

女「は。はあ。ってなんで悪魔さんが?!」

悪「いやいや。女さんひどいですよ。僕もこの研究所の一員じゃないですか。教授のお手伝いするのは当然ですよ。」

悪「ささ、僕は今個人的に取り組んでいることはないんで、こっちは僕に任せてください。」

女「…」

~~~昼休み~~~

女「え、えと、説明してもらってもいいですか?」

悪「うむ、あのおっさんを洗脳して俺も研究所の一員だということにした。」

女「さっきの痴漢の件でも思いましたけど、悪魔さんってなんか、こうメチャクチャですね」

悪「お前には自分の研究に専念してもらわないと困るんでな。俺はそれを見ながらお前の願いを考えることにする。」

悪「お前はお前で研究をやりながら願いが明確化されたらすぐに言えよ。その場で叶えてやるから。」

女「分かりました」

女「…でも正直に言うと助りました。今まで教授の手伝いばかりで自分の研究に専念できたことなんてなかったですから。」

女「データ集めも大事な過程ってのは分かってるのですが。やっぱり作業っぽくてつまらないですし、自分の好きな理論のことを考えてる時が一番楽しいです。」

女「…あ、ごめんなさい。愚痴っぽくなっちゃって。」

悪「別にいいさ。それに人のダメなところを受け入れて肯定するのが悪魔って存在らしいぞ。」

悪「さて、じゃあ話も終わったし、昼飯行こうぜ。この辺りに何か美味しい店ないのか?」

女「そういえば悪魔さんって意外と食い意地張ってません?」

悪「まあな、久しぶりの人間の食事だから懐かしくてな。」

女「5,60年ぶりですもんね。あ、なにか食べたいものありますか?」

悪「そうだな、せっかく日本人に召喚されたんだ。日本食がいいな。」

女「そうですね。でしたらお蕎麦とかどうですか?」

悪「蕎麦か。日本の麺だな。知識では知っているが食べるのは初めてだな。よし、そこにしよう。」

~~~蕎麦屋~~~

女「あ、そうだ。さっきの痴漢のときのお礼に私が奢ります」

悪「あーいいよ別に。そういうつもりで助けたわけじゃないしな。」

女「そうですか? あ、でも悪魔さん、お金大丈夫なんですか?」

悪「それなら大丈夫だ。悪魔だからな。お金位いくらでも作り出せる。ほら。」じゃらじゃら

女「…やっぱり私が奢ります。」

悪「ふむ、別に贋金ってわけじゃないから問題ないぞ」

女「そういう問題じゃありません!」

女「…いいですか、お金っていうのは頑張ってる人に与えられるものなんです。」

女「会社はサリーマンの人たちが頑張って働いているからお給料を払います。」

女「人々は会社が頑張っていい商品やサービスを提供するからそれにお金を払います。」

女「そして、私もここの蕎麦屋のおじさんが頑張って美味しいお蕎麦を作ってくれるからそれにお金を払います。」

女「たとえお金自体は本物でも、偽物の頑張りで作り出されたお金で対価を払おうとするのは、頑張っている人たちに失礼です!」

悪「…」

女「…ごめんなさい。その、言いすぎました。」

悪「…いや、謝るな。お前が正しい。そして俺が間違っている。」

悪「ごめんなさい」ペコリ

女「わ、分かればいいんです。さ、顔を上げてください。お蕎麦を頼みましょう。」

女「おじさん、ざるそば二つ。」

店主「あいよ~」

・・・

女「あ、来ましたよ。食べましょう」

悪「ああ」

女「頂きます」

悪「頂きます」

女「スルスル」

悪「ズルズル」

女「ね?おじさんが頑張って打ってくれたお蕎麦は美味しいでしょう?」

悪「…ああ」

悪「…よし、決めた。俺は今夜からバイトをするぞ!」

女「へ?」

悪「悪魔は寝なくても平気だし、お前が寝ている間は観察していても無駄だしな。その間に働くことにする!」

女「は、はあ…が、頑張ってください!」

悪「うむ、頑張る」

・・・

悪「そういや気になってたんだけどさ。」

悪「あんたってなんで経済学の勉強してるんだ?願いも経済学がらみだったし。」

女「…」

悪「どうかしたか?」

女「いえ、そんな話すほど大した理由じゃないですよ?ただ単に進学するときに潰しが利く学部を選んだら、思いのほか好きになっただけです。」

女「あ、もうそろそろ昼休みが終わっちゃいますよ。早く食べ終わって戻りましょう!」

悪「…ああ。」

続き考えながら寝やす。

~~~一週間後、女宅にて~~~

女「あーあ、今日も全然進みませんでした~」

悪「見ていたところお前自身なにを目指しているのか分かっていないみたいだったが?」

女「そうなんですよね~。私のやりたいことが経済学にあるのは分かってるんですけど、具体的に経済学でなにをしたいのかが自分でも突き詰めれてなくて…」

女「ちょっと急がないといけないですね。悪魔さんをずっとこうやって拘束するわけにもいかないですし。」

悪「まあ、そう気にするな。俺自身は結構お前との生活気に入ってるんだぞ。」

女「…え?あの、それって…」

悪「今までに契約したことのないタイプの人間だからな。悪魔として興味深い。」

女「…」

悪「? どうした? 不満そうな顔して? 俺何か悪いこと言ったか?」

女「別に何でもないですー」

悪「そうか、ならいいが。」

女「ところで興味深いってどんなところがですか?」

悪「そうだな、ほとんどの人間は召喚したとき俺たちにかなり具体化した状態で願いを言うんだ。」

悪「なぜなら、具体性のないぼんやりとした願いを悪魔を呼び出すに至るまでの執念で抱き続けるなんて基本は不可能だからな。」

悪「だが、お前はそうではなかった。しかし、その願いを叶えること自体に対する執念は嘘ではないらしい。その辺が俺の好奇心をそそるんだよ。」

女「…」

悪「…でな、ここで一つ相談なのだが、俺を呼び出した理由をそろそろ全部ちゃんと話してくれないか?」

女「えと、どういうことですか?」

悪「だからさっきも言った通り、具体性のない願いを悪魔を召喚するほど強く持ち続けるなんて基本は不可能なんだ。だが、お前はそれしている。そして、俺は願いを叶えるものとしてその理由を知りたい。」

悪「正直言うと気持ちが悪いんだ。その辺の理由が不透明なまま願いを叶えるというのは。」

女「別にそんな特別な理由なんてないですよ。きっとただ単に私の研究者としての名誉欲が人よりも強いだけですよ。」

悪「いや、お前はどう見てもそういうタイプじゃない。それくらいは俺にも分かる」

女「じゃあ、私にも分からないですね。」

女「それにそんなこと契約に関係ないじゃないですか? 私にも一応プライベートはあるんです。必要でないなら聞かないでください。」

悪「…分かった。まあ、言いたくないなら無理には聞かないさ」

女「…」

しばらくは書き溜めがあるから早いかも

悪「…さ、気を取り直して晩飯にしようぜ。今日はシチューの予定なんだが、それでいいか?」

女「いいですねー、美味しそうです。」

女「それにしても悪いですね。毎日朝晩とご飯を作らせてしまって。」

悪「まあ、仕方ないとはいえ居候の身だしな。」

悪「それにお前の料理の腕前は初日の晩で分かったしな…」

女「そ、それは言わないでください…」

・・・

悪「さてと、じゃあ俺はバイトに行ってくるわ」

女「今日も工事現場ですか?」

悪「ああ、今日も朝帰りになると思うから先に寝ててくれ」

女「分かりました。頑張ってきてくださいね。」

悪「ああ。じゃあ、行ってくる。」

バタン

女「…」

女「特別な理由か…」

女「私の場合、間違いなく『アレ』ですよね…」

女「やっぱり、いつかは話した方がいいのでしょうか…」

・・・

~~~工事現場~~~

悪「こんばんは。お疲れ様です。」

作業員「おう、悪魔のあんちゃんか。お疲れ!」

悪「今日も頑張りましょうね。」

作「おうよ!」

悪「ふんっ」カツーン

作「おりゃ」カツーン

悪「ふんっ」カツーン

作「おりゃ」カツーン

作「ところでよ、あんちゃん。今日なんかあったんか?妙に元気がなさそうだが。」カツーン

悪「…まあ、ちょっと」カツーン

作「また彼女さん絡みでなんかあったんかい?たしか、あんちゃんがここで働きだしたのも彼女が原因だって言ってたよな?」カツーン

悪「彼女じゃないですって。ただの同居人ですよ。でも確かに今回も彼女が原因ではあるんですけどね。」カツーン

作「どうしたんだい?」カツーン

悪「実は彼女ちょっと隠し事をしてるみたいで。そのことを聞いてみたら怒られてしまったんです。」カツーン

作「ほう」カツーン

悪「たとえ同居人でも他人のプライベートに首を突っ込むべきではなかったですね。」カツーン

作「…いや、時には他人の心の中に入り込んでいかないといけない場合もある。」カツーン

悪「そうですか?」カツーン

作「ああ、あんちゃんみたいに他人と距離を置いてるような奴は特にな」カツーン

悪「いや、俺は別に他人と距離なんて…」カツーン

作「いんや、明らかに目に見える形で拒絶してないからそう見えないだけで俺には分かる。」カツーン

作「あんちゃんはいつも相手が一歩近づいてきたらさりげなく一歩引いて近寄らせないようにしてる。」カツーン

作「心の底から人間を嫌ったり、怖がったりしてるやつの特徴だ。」カツーン

悪「…」カツーン

作「俺も昔そうだったからな。わかっちまうんだよ。」カツーン

悪「え…?」ピタ

作「ある日いきなり妻に男と逃げられてな。なんとなく、怪しい雰囲気は漂わせてたんだが、その時の俺には問い詰める勇気がなかった。」

作「それである日帰ったらいないときた。流石にあんときはショックだったよ。」

作「それで人間ってやつが信じられなくなってな。酒浸りの毎日を送ってた。」

作「でもまあ、ある日そんなんじゃあダメだって思えてなあ。なんとか立ち直って今こうしてるって訳だ。」

作「それでもなあ、あんちゃん、今でも時々あのとき踏み込んでればなあって思っちまう。後悔しちまう。」

作「だからな、あんちゃん、今日はもう上がれ。帰って彼女さんと話してこい」

悪「え、いや、それじゃ…」

作「いいから、あんちゃんがここんところ毎日出てくれてるおかげで予定より進んでるし、風邪ってことにして帰っちまえ。親方には俺から言っておく」

悪「…ありがとうございます」

作「おう」

・・・

女「さてと、悪魔さんが帰ってくる前に早く済ませてしまいましょう。朝帰りとは言っていましたが念のため。」

女「まあ、どうせ気休め程度のものなんですけどね」

女 (ガサゴソ)(ジャー)(パキッパキッ)

バタン

悪「ただいま。先輩が今日はもういいって早めに上がらせて…」

女「あ!」ポト サッ

悪(あれはっ・・・)

悪(どうする…見なかったにもできる。だが、それじゃあ今までと一緒だ。)

悪(今回だけは逃げない!)

悪「これが理由か…」

女「…なんのことですか? ちょっと今日は寝つきが悪いから睡眠薬を飲もうと思っただけですよ?」

悪「…とぼけるな。悪いが俺は薬学にもしっかりと精通しているんだ。お前がさっき落とした薬は…」

悪「心臓病の薬だ…」

女「あ~あ、ばれちゃいました。はは。最後までなんとか黙っておくつもりだったんだけどなあ…」

悪「…どうして黙ってた?」

女「いや、だって格好悪いじゃないですか?『死期を悟った女が最後に生きた証としてなにかを残すために悪魔と契約した』なんて思われたら。安っぽいドラマみたいじゃないですか?」

悪「…そんなに悪いのか?」

女「はい、お医者さんにはもってあと3か月って言われました。『もうどうしようもない状態だから残りの時間は好きにしなさい』って匙を投げられちゃったくらいです。」

女「せめてもの気休めとして薬は飲み続けてたんですが、それでばれちゃいましたね。はは…」

女「…」

悪「…」

女「…」ポロ、ポロ

女「ぐす、ごめんなさい。ばれたら、ぐす、色々と緊張が緩んじゃったみたいです。今まで、ぐす、誰にも、ひく、言って…なかったので…」

悪「…」ポン

~~~数十分後~~~

女「ありがとうございます。だいぶ落ち着きました。」

悪「気にするな。」

悪「しかし悪かったな。隠してたことをこんな形で暴いてしまって。」

女「ううん、気にしないで下さい。どうせきっと遅かれ早かれいつかはばれてたことですから。それに逆にすっきりもしました」

悪「そうか」

女「あの、この際だからもっとお話ししませんか?」

女「どうせここまで知られたなら悪魔さんにもっと私のことを知ってもらいたいですし、その………私ももっと悪魔さんのことを知りたいです。」

悪「そうだな。そういうのもいいな。」

女「じゃあ、言い出しっぺの私から話しますね。」

女「実はですね、こう見えて私いいところのお嬢様だったんですよ。」

悪(あーだからこんなに色々ととろいのか・・・)

女「今何か考えてませんでしたか?」

悪「いや、なにも」

女「…まあ、いいです」

女「父が事業をしていて、本当に冗談みたいな豪邸にも住んでたんですよ。」

女「でも、その事業がある日完璧に傾いてしまったんです。」

女「最初はちょっとしたミスってレベルだったんですけど、そこをどんどんライバル会社に付け込まれちゃって、それで完璧に倒産しました。」

女「それで父と母は蒸発して、私だけが残ったんです。」

悪「…」

女「別に私はそのライバル会社の人たちを恨んでるわけじゃないんです。」

女「競争相手を倒そうとするのは会社として当然の動き方ですし、両親も同じことを言ってましたから。」

女「前にお蕎麦屋さんで聞かれて誤魔化しましたけど、実は私が経済学を勉強しようって思ったのはこれが理由なんです。」

女「私はあの件のことを恨んでるわけじゃないですし、別段苦労もしませんでした。引き取ってくれた叔父さん夫婦がいい人たちだったので。」

女「ただ、そうじゃない人たちだって世の中にはいくらでもいるんです。」

女「私はそういう人たちを少しでも減らせるような、少しでも今より幸福が多いような世界を作れないかなって思って経済学を勉強しだしたんです。」

女「まあ、残念ながら、それを実現できるほどの頭は私にはありませんでしたけど…」

悪「大丈夫だ。そのために俺がいる。」

女「…そうですね」

女「ごめんなさい、暗い話になってしまって。」

悪「大丈夫だ。前にも言っただろ、人のダメなところをすべて受け入れて肯定するのが悪魔だって。」

女「…はい」

女「私が悪魔さんに隠してたのはこれくらいですね。あの、今度は悪魔さんの話を聞かせて下さいよ。」

女「ほら、悪魔さんたちがどういう風に生まれるのかとか気になりますし。」

悪「そうだな。まあ、期待しているところ裏切って悪いが俺は生まれつき悪魔だったわけじゃないんだ。」

悪「俺は元々人間だったんだよ。」

女「え?!えと、どういうことですか?」

悪「まあ、最初から全部話そう。」

悪「俺は人間だったころは俗にいう天才って奴でな。どんなことでも理解できたし、解き明かすことができた。」

悪「そんなだから周りもこぞって俺に勉強させたし、俺自身も知識欲や好奇心はあった方だからひたすらに勉強したよ。」

悪「それで勉強して、勉強して、勉強して、そうしているうちに俺はこの世のすべてを知り尽くしていた。」

悪「知らないことはなくなってたし、あっても持ってる知識の応用ですぐに解き明かすことができた。」

悪「でもな、当然だがそのすべてってのには目を瞑りたくなるような醜いものも含まれてるんだ。」

悪「特にきつかったのはやっぱり人間のそれを完全に知ってしまった時だな。」

悪「賞賛をしながら嫉妬をする。侮蔑の念を抱きながら友達面をして一緒にいる。相手のためと言いながら自分の評判を気にする。言い出したらきりがない。」

悪「それが分かってからは周りの人間をまともに見れなくなったよ。ありていに言ってしまえば怖くなったんだ、人間が。」

悪「そうして人間に絶望して、人間でありたくない、人といたくないって思いながら過ごしているうちに気が付いたら悪魔になってた。」

悪「それで、今に至るって感じだな。」

女「…」

悪「まあ、でも今は気楽に悪魔として生きてるから。そんな顔するなよ。」

女「やっぱり人間に戻りたいとはもう思わないんですか?」

悪「そうだな。俺を含めて悪魔といっても全員変な能力を持っていること以外はほぼ人間と変わらないし。魔界も悪魔にとってはこの人間の世界と別段変わらないしな。」

悪「それにやっぱり、悪魔には俺の能力が利かないのは俺にとって大きいんだ。さっき言った負の側面を見なくて済むからな。」

悪「まあ、それでも悪魔の仕事には時々嫌気がさすことがあるけどな。」

悪「やっぱり同意の上とはいえ魂をもらうってのは罪悪感もあるし、やっぱり悪魔を呼び出すほどの執念をもった願いってのは人の負の側面を見させられることが多いんだよ。」

悪「聞こえのいい願いを言っててもその裏に物欲や名誉欲、自己顕示欲が透けて見えるなんてことはごまんとある。」

悪「そして時には『あいつを社会的に陥れて復讐したいから知恵を貸してほしい』なんてストレートなものもある。」

悪「俺が悪魔になった経緯と合わせて、そういうのはやっぱり・・・つらいな。」

女「ごめんなさい…そうとは知らずに、私…」

悪「気にするな。それが悪魔なんだから。」

女「あの、悪魔さんと話していて私の願いが決まりました。いえ、決まったというよりも思い出したって言った方がいいですね。」

悪「なんだ?」

女「私に、可能な限り誰も不幸にならなない、みんなが幸福でいられる経済モデルを教えて下さい。」

女「これぐらい具体的なら大丈夫ですか?」

悪「ああ。しかしな、実をいうとだ、あの悪魔が相手の願いを100%完全にかなえなきゃいけないというのは嘘だ。」

女「ほえ?・・・・嘘お?!」

悪「ああ、本当は俺の解釈で適当に叶えても問題はない。騙してすまなかった。」

女「…それにしても、なんでそんな嘘ついたですか?」

悪「賭けてみたくなったんだ。お前は今までに見たことのないタイプの人間だったからな。」

悪「ふと、もしかしたら、こいつならもう一度俺に人間を信じさせてくれるかもしれないって思えてな。近くで観察してみたくなったんだ。」

女「…私なんかに賭けたら、後悔するかもしれないですよ?」

悪「ああ、かもな。だが、それでもいい。そもそもが賭けなんだからな。」

女「…そうですか」

悪「ああ」

昼飯行ってきやす

女「ん。じゃあ、もう遅いし寝ましょう。明日はやることがありますし。」

悪「? 研究やあのおっさんの手伝いか?」

女「いいえ、それよりもっと大切なことです。」

女「まあ、明日になれば分かりますよ。」

悪「まあ、いいか。おやすみ。」

女「おやすみなさい。」

~~~翌日~~~

悪「しかし、まさかあんなにきれいさっぱり研究所を辞めるとはなぁ」

悪「あれでよかったのか?」

女「いいいんです。私の願いはほぼ決まりましたし、残った時間を有効に使うためにも、もうあそこにいる理由はないですから。」

悪「そうか。」

悪「んで、お前はこれからどうするんだ?」

女「そうですねえ。とりあえず、とにかく色々と今までできなかったことをやりたいですね。」

女「…悔いが残らないように。」

悪「…そうだな。」

女「まずは旅行ですね。色々なところを回りたいです。」

悪「楽しそうだな。だが、あまり無理はするなよ。」

女「大丈夫ですよ。無理な運動とかをしない限りは基本は問題ないですから。」

悪「なら、まあいいが。少しでも何かあったらすぐに言うんだぞ。」

女「はい」

~~~数日後~~~

女「さてと旅行の第一弾ですよ」

悪「どこに行くんだ?」

女「○○神社です。日本で五本の指に入る有名な神社です。すごくきれいらしいです。」

女「あ、悪魔さんって神社とかって大丈夫ですか?成仏とかしちゃいませんよね?」

悪「成仏って…。まあ、大丈夫だ。多少きついかもしれないが浄化とかをされる心配はない。」

悪「こう見えて俺は地獄では魔王の次に位が高い悪魔だからな。低級の悪魔とかとは違ってよほどのことがない限りは大丈夫だ。」

女「…悪魔さんって意外とすごい人だったんですね。」

悪「意外とは余計だ。お前は今まで俺のことをどう思ってたんだ…」

女「だってほら、最初に合った時に自分のことを『貧乏くじ』って言ってたじゃないですか。それでてっきり結構卑屈な下っ端の悪魔さんなのかなあと…」

悪「…まあ、お前の命を助けられない時点で確かに『貧乏くじ』なんだけどな。俺が命の悪魔だったらよかったんだがな。」

女「そんなことないですよ?私は悪魔さんと一緒にいられて毎日楽しいですから。」

女「それに調べたんですけど、命の悪魔さんは対価として他人の命を要求するらしいですね。」

女「私は他人の命を犠牲にしてまで生きたいとは思いませんから。」

女「それに私の目的は生きることじゃありませんから。」

女「だから、私は悪魔さんと契約で来て幸せですよ?」

悪「…ありがとう」

女「だからそんなつらい顔しないでください。ね?」

女「さ、湿っぽい話は終わりにしてそろそろ出発しましょう?新幹線に遅れちゃいますよ。」

悪「そうだな」

悪「荷物をよこせ。持つから。」

女「大丈夫ですよ、これくらい。」

悪「いいから。俺が持ちたいんだ。」

女「フフッ 変わった悪魔さんですねえ。でも…ありがとうございます。」

~~~○○神社~~~

女「着きましたー」

悪「綺麗なところだな…」

女「ですねえ…でも、本当にすごいのはここからですよ。さ、本堂の方に行きましょう」

悪「ああ」

悪「しかし平日なのに案外人が多いんだな。」

女「そうですね。観光地として魅力的ってのもあるんでしょうが、やっぱりそれだけ神様にお願いしたいことがある人が多いんでしょうね。」

悪「…なあ神は人の願いを叶えないって話知ってるか?」

女「え、なんですか?それ?」

悪「神には毎日何千何万って数の願いがされるだろ?」

悪「だが、それだけの数の願いが集まれば、ある願いを叶えることによって別の願いを潰してしてしまうといった矛盾が必ず生まれる」

悪「例えばある人に幸せになってほしいって願いと不幸になってほしいって願いを同時にされたらその時点で両方を叶えるのは不可能だろ?」

悪「そして神は可能な限り平等でなくてはならない。選り好みしてある人の願いは叶えるが別の人の願いを叶えるってのはあってはならない。そんなことをすれば世界は崩壊するからな」

悪「そしてそんな状況で神に取れるもっとも平等な選択って何かわかるか?」

女「…誰の願いもかなえないこと」

悪「正解」

悪「神は平等に誰の願いも叶えない。そして矛盾の発生しにくい、わざわざ願わなくても簡単に叶うようなとても小さな願いだけに応える。そんな存在なんだよ。」

女「…それでも私は祈りや願い事が無意味だとは思いません。」

女「だってそれは人に許された最後にできる行動ですから」

悪「…そうだな」

女「あ、着きましたよ!さ、お参りしましょう?たとえ無駄だとしても少しは効果があることを祈って。」

悪「ああ…」

女「…」パンパン

悪「…」パンパン

女「悪魔さんはなにをお祈りしたんですか?」

悪「ククッ 内緒だ。こういうのは言うと効果がなくなるんだろう?そういうお前は?」

女「フフッ じゃあ、私も内緒です」

悪魔「そうか」

悪「…なあ、実はさっきの話には続きがあるんだ。」

女「え?」

悪「神が誰の願いもかなえないのではあまりにも人間に救いがなさすぎる。そこでそれを解決する存在が必要になった。」

悪「そうして作られたのが平等性などを一切考慮せず、代償を要求することでバランスを取りながら、ただされた願いに応える存在。」

女「それって…」

悪「ああ、俺たち悪魔のことだ」

女「…」

悪「まあ、その、なんだ俺が言いたかったのはだな…救いはこうやってちゃんと用意されてるってことだ。」

悪「あの夜からお前が病気について吹っ切れたのは素直に嬉しい。だが、反面少し無理をして明るくしているようにも見えてな。」

悪「…まあ、だから少し安心して欲しかったんだ。お前にはちゃんと俺がいるって。」

女「…そうですね。確かに少し空元気だったかもしれません。気を付けます」

悪「ああ、それがいい」

女「それじゃあ、今日はホテルに戻りましょうか?」

女「今日は結構歩きましたし、明日も…ウッ」グラッ

悪「おい!?どうした!?大丈夫か?!」

悪「ちっ…救急車!」

三日後、病室

女「…」

悪(あの日倒れてからこいつはまだ眠り続けている)

悪(とりあえずは安定したが、それでも今後どうなるかは分からない)

悪(…あいつに残されてた時間はもうそんなになかったんだな)

回想

医「とりあえずは安定はしているが、それでも油断は許されない状態だ」

悪「そうですか」

医「…その、こんな時に言うのもなんなんだが、心の準備はしておいあ方がいい」

悪「え…」

医「女君の心臓はもう限界に近い。もうそんなに長くはない。いつそうなってもいいように覚悟だけは決めておきなさい」

悪「…」

医「では」

悪「…待て」

医「なんだね?」

悪「あいつのカルテとこれまでの検査結果を全部見せろ。俺なら治療方法が分かるかもしれない!」

医「いや、病院には守秘義務があるのでね、たとえ親族などであっても見せられない決まりに…」

悪「うるさい!いいから見せろ!」ヴォン

医「あばばばばばばばばばばばば」バリバリバリバリ

回想終わり

悪(だが、それでも分かったのは女の病気は生物学的に治療が不可能だということだけだった。)

悪(それにおそらく次の発作にあいつの心臓は耐えられない。リミット長くてもあと一ヵ月といったところか。)

悪(…俺は本当に無力だ。あいつの願いを叶えることはできても、あいつを助けることはできない。)

女「ん…」

悪「!」

女「あれ…悪魔さん…?ここは…?」

悪「目が覚めたか!ここは病院だ。お前は発作で倒れたんだ。」

女「そう…でしたか。すみません…またご迷惑を。」

悪「いいんだ。とりあえず俺は医者を呼んでくる。おとなしくしてるんだぞ。」

女「はい…」

~~~数分後~~~

医「うん、今は安定しているね。でもしばらくは絶対安静だ。ベッドでおとなしくしているように」

女「はい、分かりました…あの、先生」

医「ん?なんだね?」

女「私の命、あとどれくらい持ちそうですか?」

医「っ…」

女「隠さなくてもいいですよ?自分のことですから、なんとなく分かるんです。私はもう長くないですよね?」

医「ああ…おそらくだが君の心臓は次の発作には耐えられない。それが来たら…」

女「そうですか」

医「力になれなくて申し訳ない…」

女「仕方ないことですから」

医「…それでは私は失礼させてもらうよ。」

女「はい」

女「…覚悟はしていてもいざ目の前のこととなると結構きついですね」

悪「そうだろうな。」

女「…少し一人にしてもらってもいいですか?」

悪「ああ…分かった」

悪「だが、その前にこれだけ渡しておく。」バサッ

女「なんですか、これ?」

悪「お前の願いだ。『可能な限り誰も不幸にならない、みんなが幸福でいられる経済モデル』の理論がまとめてある」

女「ありがとうございます…これで私たちの契約も終わりですね。」

悪「ああ…だが、ここまで来たのなら最後まで付き合うさ。」

女「そうですか…」

悪「…またあとでな。多分、下のどこかにいるからなにかあれば呼んでくれ。」

女「はい」

中庭のベンチ

悪「はあ…契約を終わらせた悪魔は魔界にすぐ帰らなければならないことになっているが、まあ今回みたいなケースなら許されるだろう。」

悪「どうせ…そんなに長く残るわけじゃないしな。」

悪「俺もなに考えてるんだか。残ったところで、あいつになにかしてやれるわけじゃないのに…」

悪「はあ・・・」

悪「ん…なんだあれ?」

屋上 メラメラ

悪「!屋上でなにか燃えてる!」ダッ

五日も間が空くとか…

屋上

悪「一体何が…」

女「…」

悪「ってお前いったいそこで何してるんだ?!」

女「ああ、悪魔さんじゃないですか」

女「見てわかりませんか?燃やしてるんですよ、悪魔さんに貰った論文を。」

悪「…理由を聞いていいか?」

女「そうですね、もう私にとって必要も意味もないものになってしまったからでしょうか?だからせめてもの反逆としてこういう形で利用させてもらいました」

女「あの日、神社であなたの話を聞いてしまった時点で私の願いは潰えました。」

悪「…どういうことだ?」

女「…悪魔さん、私は神様に復讐をしたかったんです。」

女「私の人生は常になにかを奪われることの連続でした。」

女「会社を奪われ、両親も奪われ、幸せな家庭も、なにもかもを奪われました。そして今は私自身の命さえ奪われかけています」

女「私は私にそんな人生を強いた神様に復讐したかった!少しでも抗いたかった!」

女「だから悪魔との契約に手を伸ばしました。悪魔の力を借りて何かをなせば、それが神様への反抗になるんじゃないかと思って!なのに…」

女「その悪魔でさえ、結局は神様が生み出したシステムの一つだった!」

女「…結局、私は神様の掌の上で踊り続けるしかなかったんです。」

あ、id変わりましたけど1です。

女「ちなみに神社に行った時もお願いなんてしてません。私は宣戦布告をしたんです。」

女「私はあなたの望み通りには死んでやらない!この人に力を借りてあなたに抗ってみせる!って」

女「まあ、それも無駄でしたけど。」

悪「…」

悪(すべては俺のせいだったというわけか…)

悪(ははは…笑えるな。俺はあいつの力になるどころか、あいつの夢を潰しただけじゃないか。)

悪(やっぱり俺は最後の最後まで貧乏だったということか…)

女「私はもう疲れました…」

女「抗って抗って、最後の手段に手を出したのに、それさえも無駄だった。」

女「もう…いいですよね?」

悪「ああ…」

悪(俺には…なにも言うことはできない…)

女「色々とお世話になりました。」ガシャンガシャン ストッ

女「そういえば私はここで死んだあと、魔界で悪魔さんの奴隷になるんでしたっけ?」

悪「ああ…」

女「聞くのを忘れていましたが、私の記憶や意思って残るんですか?」

男「なんでそんなことを聞く?」

女「いえ、研究者ってお仕事自体は好きだったので、魔界に行った後も空いた時間で研究とかが出来たらいいなと思いまして。」

悪「…結論から言うとどちらも残る」

女「そうですか…」

悪(嘘だ…俺との契約は生前の知恵を与える代わりに死後の自我を奪う。)

悪(一旦、奴隷になってしまえば、俺に仕えること以外は考えられないようになる。)

悪(だがな…悪いがそんな残酷な現実をここでお前に叩きつけられるほど俺は強くないんだよ。)

悪(だから、せめて優しい嘘で見送らせてくれ。)

悪(弱い俺を許してくれ)

女「…これから長い付き合いになるのに始まりがこんなことになってしまってすみません。」

悪「いいさ、お前の気持ち…少しわかるからな」

悪「俺は人間のすべてが信じられなくなって絶望した。お前はそれが神様なだけで状況は一緒だ。」

悪「俺にお前を否定する権利はない」

女「…ありがとうございます、責めないでくれて」

悪「言っただろ。悪魔は人のダメなところを受け入れて肯定する存在だって」

女「そういえばそうでしたね」

女「…それでは、そろそろ逝きますね」

悪「ああ」

女「…こんなことを言っても無理かもしれませんが、今回のことはあまり気にしないでください。」

女「私がここで死ぬのは勝手に私が選んだだけで悪魔さんのせいではありません。」

女「だから悪魔さんが気に病むことはなにもありません。」

悪「…ああ」

女「こんなフェンス越しですけれども、せめてもの謝罪とお礼を言わせてください」

女「こんな終わり方になってしまって申し訳ありません。でも、あなたと最後に過ごせた日々は楽しかったです。ありがとうございました。」

悪「俺もだ。」

悪「結局、お前の力になれないどころかお前の夢をつぶす結果になって申し訳ない。だが、俺もお前と過ごした時間はけっこう楽しかったぞ。」

女「フフッ 最後の最後でまったく同じこと考えるなんて、私たち案外相性はよかったのかもしれないですね」

悪「そうだな…」

女「それでは、また。」

悪「ああ、またな」

女 トンっ

ヒューーーーーーグシャ

~~~数年後、魔界の悪魔の家~~~

悪(今の俺を見たらお前はなんて思うだろうか)

悪(未練がましく、惨めに、お前の真似事をしている今の俺を見たら…)

悪(人間の世界を劇的に変えるような研究をしてそれが完成しては人間界に送り込む)

悪(悪魔による人間界への干渉は禁止されているが、だからこそそれがお前のしたかった反抗になるのではないかと信じて)

悪「…無様だな、俺は」

コンコン

悪「…入れ」

奴隷「失礼します」

奴「先日、承った『腐敗の発生しない官僚制度』を作り上げるために必要なデータの収集が終わりましたのでご報告に」

悪「そうか、ありがとう。今日はもういいぞ。」

奴「はい。…失礼ですが悪魔様少し御顔色が優れないようですが?」

悪「…お前に似てる人のことをちょっと思い出してな。そのことを少し考えていただけだ」

悪「特に問題はない。もう下がっていいぞ。」

奴「そうですか。では、失礼します。」

悪「ああ…ご苦労様。」

バタン

悪「…女」

~~~bad end~~~

終わりです。

コンコン

奴「はい、どちら様でしょうか?」

?「私よ、女悪魔よ。入れてもらえるかしら?」

奴「それは失礼いたしました。本日はどのようなご用件で?」

女悪魔「悪魔に会いに来たの。開けてもらえるかしら?」

奴「承知いたしました。どうぞお入りください。」キー

アフターというかトゥルーのようなものです。

~~~悪魔の家の廊下~~~

奴「失礼ですが一つ質問をしてもよろしいでしょうか?」

女悪魔「いいわよ、答えるかどうかは知らないけど」

奴「女悪魔様は時々いらっしゃいますがご主人様とはどのようなご関係なのですか?」

女悪魔「恋人」

奴「…」

女悪魔「冗談よ。そうね、あいつの保護者ってところかしらね。」

奴「というと?」

女悪魔「あいつが生粋の悪魔じゃないのって知ってる?」

奴「はい、たしか元々は人間である日突然悪魔になって魔界に来たと以前お話しされてました。」

女悪魔「うん、その通り。それでいきなりの魔界で右も左もわからずに困っていたところを助けて保護したのが私なの。」

女悪魔「それがきっかけでこうしてズルズルと腐れ縁が続いてるってわけ。」

奴「そうでしたか」

女悪魔「しかし、あの時はあいつがこんなに出世するとは思わなかったなー。今では魔王の次に位の高い悪魔の一人にまでなるなんて」

奴「私もそのような方にお仕え出来て鼻が高いです。」

女悪魔「逆に私からも一つ質問してもいい?」

奴「はい、なんなりと」

女悪魔「あなたがここにきてもうしばらくたつけど、どう?あいつは優しい?」

奴「はい、それはもう!ご主人様は私に大変良くして下さいます。」

女悪魔「そう…それはよかった」

奴「あ、着きました。こちらです。」

女悪魔「ありがとう。」

コンコン

奴「失礼します。お客様をお連れしました。」

悪「…今は会いたくない。帰らせろ。」

奴「ですが…」

悪「いいから!」

女悪魔「うるさいわね!それこそいいから入れなさい。」ガチャ

悪「…また説教に来たのか?」

女悪魔「ええ、あなたの保護者としてね。」

悪「お前が勝手に名乗ってるだけだ。」

女悪魔「そうね、でもあの時の仮があるのも事実よ。」

悪「…」

悪「奴隷、とりあえずお前は下がれ。またなにかあれば呼ぶ。」

奴「承知しました」バタン

女悪魔「あの子に格好悪いところを見せたくない?」

悪「うるさい」

女悪魔「で、いつまでそうやってウジウジしてるつもり?」

悪「お前には関係ない。」

女悪魔「それがそうでもないのよね。あなたが人間界にしていることが神や魔王に感づかれ始めてる。おかげで監視が厳しくなって私たちも行動しにくい状況なのよ」

悪「それは悪かったな。だが、それでこそ意味がある。」

悪「神が動いてるということは俺がしていることが奴への反抗になっているということだ。」

悪「それで最後に俺を疎ましく思った神に消されれば最高だな。」

悪「どうせそんなに時間はかからないはずだ。もう少しだけ我慢してくれ。」

女悪魔「そうやってまた逃げるの?」

悪「…なんだと?」

女悪魔「だから、また逃げるのって聞いてるの。」

悪「俺は逃げてなんかいない。あいつがしたかったことを代わりにしてるだけだ。」

女悪魔「嘘ね」

女悪魔「あなたはただそれを言い訳に逃げているだけ。」

女悪魔「あの件で傷ついたあなたはただすべてを怖がって逃げているだけよ。」

女悪魔「生きて行動を起こしてまた前みたいになってしまうのは怖い」

女悪魔「でも、すべてを捨てて死ぬほどの勇気もない」

女悪魔「そして何より自分の無力さを認めてしまうのが怖い」

女悪魔「だからこうして『あいつの代わりに』を言い訳に意味のないことをしながら誰かに殺してもらえるのを待つ。」

女悪魔「それが今のあなたよ」

悪「勝手に決めつけるな。お前に俺の何が分かる?」

女悪魔「そうね。もちろんすべてを分かり切ったつもりはないわ。」

女悪魔「でも、一つだけ分かることを言ってあげる」

女悪魔「最後の最後に諦めたけれども、あなたが力になろうとした彼女はあなたよりもずっと頑張っていたわ。」

女悪魔「本当の最後の最後まで、打てる手がなくなるその時まで神に抗おうとした」

女悪魔「あなたと彼女、どちらの方が一生懸命に生きようとしているか。頭のいいあなたなら少し考えれば分かるわね?」

悪「…」

悪「だが…俺は所詮知恵の悪魔だ。お前のように直接的に彼女を救う力はない。それに時間が経ちすぎている。もう無理なんだよ。」

女悪魔「だったらひたすら考えなさい。どんなに無理に見える状況でも覆すような一手を考えだせる。それがあなたの力なんだから。」

女悪魔「かつてその知恵で魔界を建て直した時の力をもう一度今度は自分のために使いなさい。」

女悪魔「それが本当の『あいつのために』なることでしょう?」

悪「…」

女悪魔「私は伝えたいことは全部伝えたわ。あとはあなたが一人で決めなさい。」

バタン

~~~数日後~~~

悪「少し女悪魔のところへ行ってくる。帰りは遅くなる。」

奴「承知しました。いってらっしゃいませ。」

バタン

~~~女悪魔の家~~~

コンコン

女悪魔「どちら様?」

悪「俺だ。」

女悪魔「いらっしゃい。どうしたの?」ガチャ

悪「頼みごとをしに来た。」

女悪魔「頼みごとって?」

悪「俺はこれから少し大きな勝負に出る。結果によっては生きて帰ってこれないかもしれない。」

女悪魔「…」

悪「だからそうなったときのために後のことを頼みに来た。」

悪「俺をここまでけしかけたのはお前なんだからな。嫌とは言わせないぞ。」

女悪魔「…分かったわ。で、具体的にはどうすればいいの?」

悪「使用人たちのことを頼む。適当に家や土地を売って退職金として渡しておいてくれ。」

女悪魔「分かったわ。」

悪「あと…」

女悪魔「あと?」

悪「あいつだけはお前のところで雇ってやってくれないか?」

女悪魔「いいわ。なかなかいい子そうだし、気も利きそうだし。」

悪「恩に着る」

女悪魔「で、そういうことをわざわざ私に頼みに来たってことは期待していいのね?」

悪「ああ」

女悪魔「ふ~ん…いい顔になったじゃない。少し前とは大違い。」

悪「色々と覚悟がきまたからな。」

女悪魔「そう。まあ、頑張ってらっしゃい。それで駄目だったとしても、またあの時みたいに私が拾ってあげるわ。」

悪「ありがとう。じゃあ、またな。」

女悪魔「ええ」

~~~魔王城~~~

側近「魔王様、知恵の悪魔が来ました」

魔王「通せ。」

スタスタ

魔「久しぶりだな、知恵の悪魔よ。貴様の方から儂に会いたいとは珍しい。」

悪「そうですね。前回お会いしたのは今年の社会情勢の予測とそれへの対応策をお伝えに来たときですから、丁度半年前ですかね。」

魔「うむ、お前には毎度世話になっておる。ところで今日は急にどうした?ついに儂の側近になりたくなったか?」

悪「いえ、そうではないです。」

魔「そうか、それは残念だ。貴様ならかなりの待遇で迎え入れたいのだがな。」

悪「あまりそういうのには興味がないので。」

魔「そうか。では、今日はなんの用だ?」

悪「今日は魔王様に私のお願いを申し上げに来ました」

側「貴様!魔王様を呼び出すだけでなく、その上要求をしようなど無礼な!今すぐつまみ出すぞ!」

魔「よい。ふむ、貴様には大きな借りがあるからな。とりあえずは聞こうか。」

側「…」

悪「それでは申し上げます。私の要求は三つです。」

悪「一つ、悪魔である私に悪魔と契約召喚する権利を与えること」

悪「二つ、本来は契約召喚時に無作為に選ばれる悪魔を私に選べるようすること」

悪「三つ、一生に一度しかできない悪魔の契約召喚を二度まで可能にすること」

悪「以上の三つです」

魔「…貴様なら当然自分がなにを要求しているのか理解しておるよな?」

悪「はい」

魔「貴様が要求したことはどれも禁忌とされていることだ。」

魔「当然だな。そのどれか一つでも認めてしまえば世界はたちどころに崩壊するであろう。」

魔「特に一つ目は最高位の禁忌の一つだ。元々特別な力を持つ悪魔に更に別の悪魔との契約をさせればなにが起こるかわからないからな。」

魔「…だが、このような願いをただ儂に言う貴様ではないよな?」

悪「はい」

魔「言え、もし儂が貴様の要求を聞かなかった場合には何が起きる?」

悪「…私は悪魔になって魔界に来て以来、混沌にあった魔界のあらゆるものを建て直しました。」

側「貴様!くだらないことをぺらぺらと喋っておらず、さっさと魔王様の質問に答えろ!」

魔「貴様は少し黙っておれ!…続けろ。」

側「…」

悪「有事の際に備えて私はそれらを建て直す際に時限式で発動する罠を仕掛けておきました。」

悪「今までは毎年魔王様にお渡ししている対応策にそれを防ぐものをさりげなく織り交ぜていました。」

悪「ですが、私がそれを止めれば魔界の経済、政治、福祉、行政などはたちどころに崩壊し、魔界は私が来る以前以上に衰退するでしょう。」

悪「そうなれば非難を受けるのは表向きではそれらをすべて成したことになっている魔王様です。」

悪「要約すれば、今の地位を失いたくなければ私の要求を飲んで下さいということです。」

魔「…」

魔「一つだけ儂の質問に正直に答えろ。」

魔「貴様ほどの悪魔がここまでする理由はなんだ?」

悪「…女のためだ。俺には助けきれなかった女がいる。俺は今度こそあいつを助けたい。だからお前の協力がいる。それさえ叶えたら他には何もしない。」

魔「…分かった。お前の要求を飲もう。」

悪「感謝する」

側「魔王様、そんな下種の要求など聞く意味ありません!今言ったこともきっと嘘です。」

側「兵士に捕えさせて拷問にかけましょう?!それで罠を発動させない方法を吐かせればいいんです!」

魔「無駄だ。こいつはそんなことで吐く奴じゃない。それにたとえ拷問にかけたとしても自殺でもされればその瞬間に儂たちが終わりなのは一緒だ。」

魔「おい、知恵の悪魔、こっちへ来い」

悪「…」スタスタ

魔「ふんっ!」ヴォン

魔「これで終わりだ。」

悪「…案外あっけないもんだな。まあ、いい。俺はもう行くぞ」

魔「そうか。ああ、その前に最後にもう一つだけ儂の質問に答えてから行け。」

魔「貴様はこの交渉の間に儂に対して何回嘘を吐いた?」

悪「…一回だ。」

魔「…やはりお前の作ったシステムは完ぺきだということか。やっぱりお前は儂の側近にしたい。」

悪「悪いがそれはできない相談だ。他を当たってくれ。」

魔「そうか、残念だ。」

悪「じゃあな。」

魔「うむ」

バタン

側「魔王様、今からでも遅くはありません。どうせ結末が一緒ならあいつを殺してしまいましょう!今すぐに選りすぐりの兵士を手配します。」

魔「…貴様はまだ分からんのか?」

側「というと?」

魔「あいつは儂らのために先の交渉をしに来たのだ。」

側「は?」

魔「考えてもみろ。本当にあいつが言ったような仕掛けがあるのなら、それを誰にも言わずに放置すればよい。」

魔「それで魔界が崩壊し、その責任で儂らが追放されたあとに今度は奴が表だって崩壊した魔界を建て直せばよい。一度同じことをした奴にしてみれば簡単なことだろう。」

魔「そうすれば次の魔王として君臨できるのは確実だ。その後、魔王の権利として堂々と禁忌に関する法を変えればよい。これが一番簡単だ。」

魔「だが、奴はそれをしなかった。」

側「そ、それはあやつが言った仕掛けとやらが嘘やハッタリだからでは?」

魔「だとしても、また別な方法で魔界の社会を衰退させ、クーデターや革命でも引き起こせば同じことだ。」

魔「直し方を知っているということは壊し方も知っているということだからな。」

側「…」

魔「分かるか?奴は儂が脅迫されて仕方なく禁忌を犯したという形を作るためにわざわざこんな手の込んだことをしたのだ。」

魔「いくら儂が魔王だとはいえ、最高位の禁忌を犯したということが明るみになれば当然かなりの非難は受ける。」

魔「だが、儂の地位と魔界の衰退を叩きつけられたということにできれば、そこまで致命的なダメージにはならない。」

魔「奴はそこまで計算していた。そして儂はそれに気が付いたから、あやつの要求を飲んだのだ。」

側「…」

魔「今後はその口を軽率に開かないことだな。」

魔(だがな、知恵の悪魔、儂はそんなことをされなくとも貴様の願いなら聞き入れるつもりだったぞ。)

魔(儂が貴様にこれまでにどれほどの借りを作っていると思っている。それに比べれば禁忌の一つや二つ犯すくらいなんてことはない。)

魔(…お前の本当の願いが叶うことを願っているぞ)

疲れたので休みます。
明日にでも完結できたらいいなあ。

~~~魔王城の前~~~

悪(ふう…)

悪(魔王が投げやりになって向かってくるのとあのバカな側近が血迷うことだけがリスクではあったが、なんとかなったな。)

悪(しかし、あいつも伊達に魔王はやってないんだな。俺の本当の真意まで見抜いてくるとは。)

悪(…今回のことがなければあいつの部下として生きていくのも悪くなかったかもしれないな。)

悪(とにかく、これですべての準備は整った。あとは実行に移すだけだ。)

悪「待ってろよ…」

おおう、またidが変わってる…
1でございます。

~~~魔界のはずれ~~~

悪「これでよし…」

悪「まずは…出でよ!時間の悪魔!」バリバリ

時間の悪魔「我を呼び出したのは汝か…?って知恵の悪魔様!?」

悪「よう」

時「え、な、なんで知恵の悪魔様がわっしなんかを!?というか悪魔は悪魔を召喚できないはずじゃ…」

悪「まあ、色々と事情があってな。詳細は省くが今の俺にはそれができるんだ。」

悪「そんな訳で悪いが俺と契約してもらうぞ。」

時「は、はあ…分かりやした。」

時「それで知恵の悪魔様の願いはなんでございましょう?」

悪「俺を五年前にタイムリープしてくれ。」

時「過去への時間移動ですね。承知しやした。」

時「それでは契約の確認を致しやすね。わっしは知恵の悪魔様を五年前に時間移動させやす。そしてその対価として悪魔様の積み重ねたものを頂きやす。」

悪「積み重ねたもの?」

時「はい。時間とは積み重ねでございやす。過去に戻る…つまりはその積み重ねをやり直す対価としてわっしは今まで積み重ねてきたものを頂いているんです。」

悪「なるほどな。具体的には俺はなにを差し出せばいい?」

時「そうですねえ…知恵の悪魔様であれば今の魔界での地位や立場であれば十分対価になるかと。」

悪「分かった。それで構わない。」

時「本当にいいんでございやすか?わっしなんかにせっかく手に入れた今の地位を差し出してしまって。」

悪「問題はない。もとよりそんなものに執着はないさ。」

時「左様でございやすか。」

時「では、契約成立の証としてわっしと成約の握手を交わしてください。」スッ

時「この手を握り返した瞬間に対価が支払われ、わっしは知恵の悪魔様を過去に飛ばしやす。」

悪「分かった。頼んだぞ。」グッ

時「では!」バシュン

時「…あなた様のような方がなぜこんなことをされのかはわっしには分かりやせんが、成功をお祈りしていやす。」

~~~病院~~~

悪魔「ハッ…」

悪魔(病院…ってことは時間移動は成功ってことか。)

悪魔(とりあえずあいつの病室に行ってみるか…)

~~~女の病室~~~

女「…」

悪「よう…久しぶりだな。…大分寄り道することにはなったが、やっとここまで来たぞ。」

悪「待ってろ。次ですべてが終わる。」

~~~夜、病院の屋上~~~

悪「準備完了っと。これで最後だ…出でよ!」バリバリ

女悪魔「私を呼び出したのはあなたかしら?ってなんだ悪魔じゃない?どうしたの?」

悪「決まってるだろ。悪魔を召喚をしたのならばやることは一つだ。お前と契約がしたい。」

女悪魔「悪魔による悪魔との召喚契約は禁忌として禁止されているはずだけど?」

悪「それなら大丈夫だ。魔王を脅迫してその権利を手に入れた。」

女悪魔「…あの口ぶりからかなりのことをしでかすとは思ってたけど、まさかそこまでやるとはね。」

悪「…ちょっと待て。なんでお前がそのことを知っている?」

女悪魔「あなたこそなにを言ってるの?わざわざ私の家まで来てそのことを言いに来たじゃない。」

悪「…俺は魔王に会った後、時間の悪魔と契約して5年前に時間移動したんだ。」

悪「だからここで召喚されるのは五年前のお前のはずだ。そしてそのお前があの時の会話のことを知っているはずがないんだ。」

女悪魔「…きっとこういうことじゃない?」

女悪魔「あなたは時間転移したとはいえこの時代から見ればどこまで行っても未来の存在。だから悪魔を召喚しようとすると元いた時代の悪魔が呼び出される。」

女悪魔「きっと時間の悪魔も知らなかったことでしょうね。今までに二度も悪魔の契約召喚をした例なんてあるはずがないもの。」

悪「ふむ、まあいい。そういうことなら話は早い。」

悪「さっきも言ったが俺と契約してくれ。女悪魔、いや今は命の悪魔って言った方がいいか。」

命の悪魔「…それもやっぱりあの彼女のためよね?」

悪「ああ」

命「あなた、私との契約の対価を知らない訳じゃないわよね?」

悪「ああ、契約者自身の命を救う場合は他者の、他者の命を救う場合には契約者の命だろ?」

命「…ねえ、契約の前に答えて。あなたがそこまでする理由はなに?いえ、聞き方がずるいわね。彼女にあなたがそこまでする価値はあるの?」

悪「今まで散々俺をけしかけてきたお前がなんで今更そんなことを問う?」

命「折角助けた命をくだらない意地や大した価値もない人間のために使って欲しくないのよ。それが気に入っている悪魔のなら尚更ね。」

悪「…」

命「正直に言うとね、私はあなたがここまでやるとは思ってなかった。流石に途中で挫折するだろうと思ってた。」

命「それはそうよね。だって超えないといけない問題の数とレベルがおかしいもの。」

命「ううん、それよりも人間嫌いのあなたが誰かのためにそこまで動くこと自体が最大の計算外だった。」

悪「だったらなぜそもそも俺をけしかけた?放っておけばよかっただろう?お前が俺を焚き付けるようなことをしなければ俺は動かなかった。」

命「それも理由は簡単よ。気に入ってる悪魔の情けない姿を見たくなかった。それだけよ。」

悪「我儘だな。」

命「ええ、でも女ってそういうものよ?」

命「私はあなたが彼女を救えなかったという自責の念や意地でああなっていると思ってた。」

命「だから、あなたをある程度頑張らせて、それに失敗しつつもそれであなたが義理を果たせたと感じて、元のあなたに戻ればそれでいいと思った。」

命「なのにまさか本当に彼女を救うところまでやってくるとはね…」

命「だからねえ、答えて。あなたをそこまで突き動かすものはなに?」

悪「…お前には関係ない。お前には辛いかもしれないが悪いが契約をしてもらうぞ。」

命「出来ないわよ」

悪「は?」

命「人間に悪魔との契約という一生に一度の好機が与えられているように、悪魔にも一生に一度の反抗が許されている。」

命「まず使われない権利だから忘れてたみたいね?それとも私があなたに敵対するとは思わなかった?」

悪「まさか…」

命「そうよ。悪魔には一生に一度だけ召喚した人間との契約を断る権利が与えられている。」

命「あなたは悪魔だから確実に有効かは分からないけど、多分問題はないはず。」

悪「頼む…後生だ。」

命「だったら私の納得させてみなさい!証明しなさい!あの彼女は私に愛した男を殺させるほどの価値があると!」ポロポロ

悪「…」

本当にコロコロとidが変わるな…
毎度おなじみ1です。

ここからは書き溜めがないのでまたペースが落ちます。
一体いつになったら終わるんだろう…

悪「俺は…俺はもう一度だけ人間を信じてみたい。」

悪「人間には価値があると、人間嫌いの俺がすべてを捨てて助けることで証明したい。」

悪「人間の醜さを嫌というほど見せつけられた俺だからこそ、その奥にある人間の素晴らしさを信じてみたい。」

悪「確かにあいつの心の底にあったのは神への復讐心だった。」

悪「だが、その隣にはちゃんと世界をよくしたい、自分と同じ境遇の人を少しでも減らしたい、自分の願いでみんなを幸せにしたいって思いがあった。」

悪「人間に絶望した俺には絶対に抱けない思いだ。だから俺はそれに賭けたい。応援したい。」

悪「だから俺はあいつを助けたい。」

命「…あなたらしくないわね。言ってること、支離滅裂で意味不明よ。なにを言いたいのかさっぱり分からないわ。」

命「でも、あなたが本気だってことだけは分かったわ。」

悪「だからさっきからそう言ってるだろう!」

そしてまた変わるid…もう慣れたわ。1です。
あと、ここからはしばらく書き溜めです。

命「でも私はまだ納得はしていない。」

悪「なんでだ?!」

命「だってあなたは賭け終った段階でもうこの世にいないじゃない!」

命「自分の命を賭けるだけ賭けておいて、捨てるだけ捨てておいてその結末を見届けずにいなくなるなんてあんまりよ…」

悪「それは…」

命「あなたが契約することで救われる者や残される者の気持ちをあなたは考えたことあるの?!」

命「そんなのどれだけ本当に彼女のためだったとしても自己満足以外の何物でもないわ!」

悪「だったらどうすればよかったんだ?!」

悪「これが俺に取れる最善の手段だったんだ!これなら最小限の犠牲で、俺の命一つであいつを救える!魔界への影響も少ない!」

悪「俺にこれ以上どうしろと言いたいんだお前は?!」

バチン

命「もっと他人を頼りなさいって言ってるのよ!」ポロポロ

悪「…」

命「あなたはいつもそう!…なんでも分かるくせに周りの気持ちには気付かずに自分のことを最後にして他人を助ける!」ポロポロ

命「私は確かにあなたに考えなさいと、頑張りなさいと言ったわ!でも、一人で全部やりなさいとは一言も言ってない!」ポロポロ

命「なんで一言私に相談してくれなかったの?!私はあなたの頼みだったら契約なんてなくても力を使ったのに…」ポロポロ

悪「…人間界に対して契約外のことで悪魔の力を行使すればペナルティが発生する。ちょっとした呪いとかならともかく悪魔の能力となれば…」

命「そんなこと知ってるわよ!それでも言ってるの!」

悪「…」

命「それにそれだけじゃない。私が納得していない理由はもう一つある。」

悪「…なんだ?」

命「あなたは人間の醜悪さを忘れている。それはあなたが言っているほど、善性に目を向ければ霞むほど甘いものじゃない。」

悪「かもしれない…。少し長い間魔界にいたからな。俺はそれでも…」

命「違う、そうじゃない。」

悪「?」

命「あなたは忘れているけど、あなたは前に一度同じことをしたことがあるの。そして、その結果は凄惨たるものだった。」

悪「なんのことを言っている?」

命「今から私は封印したあなたの記憶引き出す。」

命「それを思い出してから、もう一回考えてみなさい!」ヴォン

悪「ぐああ!!!」バタリ

~~~回想~~~

少年「ご依頼の作戦計画書です。」

大将「おお、ご苦労であった。これでまた次もいい戦果が挙げられそうだ。」

少「それはなによりです。」

大「うむ、では儂は失礼させてもらうよ。」

少「はい、では。」

ガチャ

父「どうだった?大将はお喜びされていたか?」

少「はい。」

父「よくやった。お前は我が家の誇りだ。これからもこの調子で頼むぞ。」

少「分かりました。」

少「父さん…少し疲れたので庭で休んできます。」

父「おお、分かったぞ。だが、ほどほどになお前には軍から新兵器の設計依頼も来ているんだからな。」

少「はい」

~~~庭~~~

少「ふう…」

少(我が家の誇りね…。父さん、労いのつもりなんだろうけど国に恩を売って会社を大きくすることしか考えてないのが見え見えだよ。)

少(しかし、さっきの大将の目はつらかったなあ。『軍のエリートである儂がなぜわざわざこんなガキのところまで…』とか考えてたんだろうなあ。)

少(それにしても疲れた。こうして一人で庭のベンチに寝転がっているときが一番休まる。)

少(ん…なんだあれ?鳥?にしてはやけに大きいな。)

~~~上空~~~

命「ふい~疲れた~。といっても契約して願いを叶えただけだけど。」パタパタ

命「契約はつらいけど、こうして終わった後人間界を散策できるのはちょっとした救いよね。今の魔界はなんにもないし。」パタパタ

命「あら?誰か私のことを見てる?そんな訳ないわよね?ちゃんと人間には見えないように…忘れてた。」パタパタ

命「…」ピュー

~~~庭~~~

少(あれ、シルエットからすると多分人間だよね?でも、パラシュートも何もつけてないみたいだし…ってこっち来た?!)

命「ねえ、あなた、私のこと見てたわよね?」スタッ

少「は、はい…」

命「あの、実はね、私は悪魔なの。いつもは人間には見えないようにしてるんだけど、今日はうっかり忘れちゃっててね。」

少「は、はあ…」

命「人間に知られると色々と不都合だから悪いけどあなたの記憶を消させてもらうわね。」

少「…どうぞ」

命「…と思ったけど、止めるわ。」

少「え、なんで?」

命「だってあなた今にも死にそうな顔してるんだもの。特に目、ひどいわよ?なんの光も宿ってない。」

少「…」

命「そんな子からいきなり記憶を奪うほど私は外道じゃない。ほら、こうして会ったのもなにかの縁だと思って悩み事とかあるのなら私に話してみなさい。」

少「…なんで、僕に構うんです?そんな面倒なことせずにさっさと記憶を消していけばいいじゃないですか?」

命「私はね、命の悪魔なの。人間と契約して誰かの命を代償に別の誰かの命を助ける、そんなお仕事をしているの。だから命の大切さは誰よりも知ってるつもり。」

命「そんな私の前に今にも死にそうな顔してる人がいたらそりゃ話しかけるわよ。」

命「…ってこんな話をいきなりしても信じられないか。」

少「…いえ、信じます。お姉さんを見てもなにも分かりませんから。」

命「どういうこと?」

少「僕は見て少し考えただけでなんでも分かってしまうんです。本当になんでも。」

少「でも、お姉さんは見てもなにも分からない。多分、人知とかを超えた存在ってことなんでしょうね。」

命「…なるほどね」

命「察するにあなたがつらそうにしてるのもその力が原因ってところかしら?」

少「そうです。他人の考えてることが全部筒抜けみたいなものですからね。本当につらいですよ?」

命「…そう。」

命「…ねえ、あなた、私と契約しない?」

命「私は今誰とも契約していないから長くは人間界にいられない。でも、あなたと契約すればそれを遂行するまではあなたと一緒にいられる。」

命「見てもなにもわからない私となら一緒にいても平気でしょ?私があなたの相談相手になってあげる。」

少「でも、僕別に助けたい命とかないですよ?」

命「別にいいわよ。悪魔との契約はすぐに遂行する必要はないの。いつか助けたい命ができた時にでも遂行すればいいわよ。最後までできなければ契約を破棄すればいいしね。」

少「でも、それってお姉さんに迷惑なんじゃ…?」

命「ううん、全然。人間界は好きだし。今にも死にそうな人間を見捨てることの方がよっぽどストレスだわ。」

命「だから、ほら子供は余計なこと考えずに大人の好意に甘えておきなさい。」

少「…分かりました。じゃあ、お願いします。」

命「じゃあ、契約成立ね。」

少「はい」

命「じゃあ、契約成立の証として傅いて私の手の甲にキスしなさい。」

少「え…//////」

命「それが私との契約の方法なの。子供にはまだ早いかもしれないけど頑張りなさい。」

少「///////」チュ…ピカー

命「はい、これで契約成立よ。」

少「は、はい。えと、これからよろしくお願いします、お姉さん。」

命「こちらこそよろしくね。でも、そのお姉さんは止めてもらえるかしら?その、恥ずかしいから…」

少「すみません。じゃあ、なんて呼べばいいですか?」

命「うーん、そうね…女悪魔でいいわ。」

~~~数週間後~~~

少「どうぞ、ご依頼の新兵器の設計図です。」

大「おお!待っておったぞ!これで大分戦争を有利に進められるはずだ!感謝する!」

少「いえ、恐縮です。」

大「それでは儂は失礼させてもらう。すぐにこれを軍本部に届けなくてはならないのでな。」

少「分かりました。では。」

大「うむ。」

ガチャ

少「ふう…」

女「あなたはいつも人と会った後は疲れ切ってるわね?」

少「仕方がないよ。やっぱり人の本音が透けて見えるからね。」

女「ちなみにあのおやじはなんて考えていたの?」

少「『まったく次から次へと画期的な案や匹を出しおって。頼りになるのは確かだが、気持ち悪い』だと思う。」

女「分かったわ。あのおやじ殺してくる。」ゴゴゴゴゴゴ

少「い、いいよ!ある意味当然の反応だし。」

女「…そう。」

女「そういえばあなた、なんでこんなつらいこと続けてるの?そんなに嫌なら家出でもしてどこかで一人で暮らしていけばいいじゃない?」

女「昔なら無理だったかもしれないけど、今なら私がいるわよ?」

女「あなたの両親に義理立てしてるというならもう十分したと思うけど?」

少「違うよ。」

女「じゃあ、なんで?」

少「僕が軍に協力しなければそれだけ戦争が長引く。そうすればより多くの人が死んでしまう。」

少「他のこともそう。僕が薬を開発しなければ、それだけ病で死ぬ人が増える。僕が安全な機械を発明しなければ、それだけ昔の危険な機械で怪我をする人が増える。」

少「でも、たとえそれらを考えれたとしても世に出すには他の人の力がいる。」

少「だから僕はこうして頑張るんだ。それがこんな力を持って生まれてしまった僕の使命だと思うから。」

女「…」ウルウル

少「それに今は女悪魔がいるからね。前ほどはつらくないよ。」

女「…うん」

少「だから泣くのを止めていつもみたいに面白い話をしてよ。」

女「…分かったわ。任せなさい。」

~~~数年後~~~

少年改め青年「やっと戦争が終わったか…」

女「そうね。あなたが協力したからあの規模の戦争がこの短さで終わったのよ。誇っていいわ。」

青「いや、それでもかなりの被害が出ていることには変わりはない。これからは復興の方に協力することになるだろうな。」

女「そうね。でもいいじゃない、そっちの方がお人よしのあなたには向いているわ。」

青「だな。」

女「それにしても最近のあなたはいい顔をしてるわね。」

青「そうか?」

女「ええ、昔のあなたとは大違い。」

青「まあ、今は女悪魔がいるからな。普通に話すことができる存在がこんなに尊いとは思わなかった。」

女「フフッ」

青「それに頑張れば女悪魔に褒めてもらえるからな。他の人間の薄っぺらいお世辞とは違う本物のな。」

女「じゃあ、もっと頑張らないとね?」

青「そうだな。今日は確か大統領が来るはずだ。挨拶がてら復興案について話に行ってくるよ。」

女「いってらっしゃい」

~~~そのころの応接間~~~

父「どういうことですか?!」

大統領「先程から何度も説明している通りだ。」

大「あなたのの息子が開発した兵器や戦術は確かに戦争の早期決着に貢献した。だが、そのあまりの効果故今では世界中から非人道的であったとの非難を受けている。」

大「そのような者や家族を表彰するわけにはいかん。悪いが諦めてくれ。」

父「そ、そんな…」

大「あなたたちに責任を負わせないだけ感謝して頂きたい。それではもう失礼させて頂くよ。ここにいることさえ私にとっては危険なのだからね。」

父「…」ガク…

~~~応接間~~~

青「失礼します。」

父「…」

青「あれ?お父様、大統領はどちらですか?たしか今日いらっしゃる予定では?」

父「…帰られたよ。」

青「え?意外とお早いお帰りですね。やっぱり忙しいんで…」

父「お前のせいだ!」

青「!」

父「お前の考えた兵器や戦術は効果がありすぎて非難されているそうだ!」

父「そのせいで大統領からは今後の協力はおろか表彰さえ断られてしまった!」

父「この戦争を機に会社を成長させる私の計画がこれでパアだ!どうしてくれる?!」

青「お父様、僕は…」

父「まったく、昔から気持ちが悪いガキだったが頭はよかったから今日まで育ててみたものの…その結果がこれか。」

父「ああ、お前のような奴に期待した私が馬鹿だった。もういい、貴様にはなんの価値もない!どこへなりとも消えろ!」

青「…」フラフラ

~~~物置~~~

青「ははは…」

青(俺はやっぱりそういう存在だったということか…)

青(いや、それはいい。分かっていたことだ。俺は人間から見れば訳の分からない気持ちの悪いものだってことは。)

青(しかし、そうか、俺が今までやってきたことは無意味だったということか。)

青(ああやって世界のためにって頑張っていけばいつかは認めてもらえるんじゃないかって期待していたが駄目だったか。)

青(俺が世界のためとか言ってやってきたことはすべて無価値な自己満足だったということか。)

青(いや、無価値どころか非人道的ときたか。ああ、そうか、人間じゃないってことか。)

青(もう無理だ。俺にはもう人間と一緒に生きていける自信がない。人間でいようとしていられる自信がない。)

青(女悪魔、悪いな。せっかく助けてもらった命だけど無駄になりそうだ。)ガシッ

青「…本当にすまない」カチ

バン!!!!!!!

~~~青年の部屋~~~

女「なに?!今の音!?拳銃!?」

女(物置の方からだったわね。…嫌な予感がする!)

~~~物置~~~

女「!」ダッ

青「…」グッタリ

女「あなた、なにをしたの!?」

青「…俺と…俺のしてきたことは…人間にとっては無価値の…気持ち悪いものらしい…だから…」

女「もういい!喋らないで!」

青「そうか…悪かったな、こんなことに…ガフッ」

女「青年!!!」

女「…そうだ!契約よ!私とした契約を今果たすわ!」

女「生きたいと願いなさい!そうすれば契約が遂行される!多分、あなたの父親あたりが犠牲になるけど、あなたは助かる!」

青「いや…いい」

女「なんで?!」

青「俺は…誰かを犠牲にしてまで…生きたいと思わない。」

女「馬鹿!そんなこと言ってる場合じゃないでしょう!それにあんな父親なら別にいいじゃない!」

青「それに…」

女「それに?」

青「俺にはもう…人間と生きていく自信がない。人間として生きていける…自信がない。」

青「もう…死なせてくれ」

女「だったら!悪魔として生きていけばいい!」

青「?!」

女「私は今から残っているあなたの人間としての命を対価にあなたに悪魔としての命を吹き込む!これならいいわね!?いえ、断ってもするわ!」

青ああ…分かった。頼む。」

女「じゃあ、やるわよ!はあ!!!!」ピカー

~~~魔界~~~

悪魔「…」

女(…なにがあったのかは記憶を読ませてもらったわ。)

女(あれはあまりにも悲惨なものだった。だから、あなたのために封印させて貰ったわ。)

女(私と出会ってから数年間の記憶を…)

悪「ん…」

女「目が覚めた?」

悪「ここは…どこだ?」

女「魔界よ。」

悪「…魔界?俺はなんでこんなところに?」

女「あなたはしっかりと覚えてないかもしれないけど、あなたは人間から悪魔になったの。きっと人間を嫌いになりすぎたせいね。」

悪「ああ、なんか断片的に覚えてるな。ところでお前は?」

女「私は女悪魔。魔王の命であなたの世話係になったの。」

女(嘘だけど…)

女「まあ、そんなだからよろしくね。」

悪「あ、ああ」

~~~回想終わり~~~

命「…どう思い出した?」

悪「ああ…」

命「あなたはあの時と同じことをまた繰り返そうとしてる。」

命「人間に認めてもらおうと、人間を信じようとして、自分を犠牲に人間を助けようとしている。」

命「でも、これで分かったでしょ?それは報われないって。」

命「あなたが人間のためなんかに犠牲になる必要はない。あなたは悪魔のまま生きていくのが幸せなの。」

書き溜め終わり!
そして、どうしよう?ここからハッピーエンドに持っていける気がしないw

やっと書き終わった…
ここから一気にラストまで行きます。

悪「…お前は優しいな。こうまでして俺を止めようとしてくれるなんて。」

命「違うわ。私は私のエゴでやっているだけよ。ただ、あんたを人間なんかのために不幸にしたくないっていうね。」

悪「それが優しいっていうんだよ。」

命「ふん…」

悪「なあ、考えたんだけどさ。俺とお前は要は同じなんだよ。」

命「なにが?」

悪「お前が俺に優しくしてくれるように、俺も人間に、あいつに優しくしたい。ただそれだけなんだよ。」

命「あなた、まだ諦めてないの?」

悪「ああ」

命「だって全部思い出したんでしょう?」

悪「ああ」

命「あなたは自分の心を削りながら人間のために頑張って、結果すべて報われずに終わってしまった。」

悪「そうだ。」

命「なのになんでまだ人間のために頑張るなんて言えるの!あなたまさか辛すぎる記憶を見たせいでおかしくなったんじゃないの?!」

悪「そんなことはないさ。」

命「だったらなんで?!」

悪「今度は逃げないって決めたからさ。」

悪「思ったんだ。もし、俺があの時諦めずに自分の命を絶つようなことをしなければ、ちゃんと人間と向かい合い続けてればいつか認められる日が来たんじゃないかって。」

悪「でも、俺は逃げてしまった。目の前のことがあまりにも恐ろしすぎて。だから、あんな結果で終わってしまった。」

悪「だから今回は逃げない。最後まで見届ける。どんなに途中に辛いことがあっても最後にはいいことがあったってお前に報告できるように。」

命「あなたはなにを言ってるの?!あなたは私との契約で命を対価として奪われる。最後まで見届けるなんてことはできない!さっきそう言ったじゃない!」

悪「そうだな。だから…力を貸してくれ。…お姉さん。」

命「!」

悪「この年になってお姉さんは恥ずかしいな。でも、なんか妙にしっくりくる。」

命「やっやめなさい!恥ずかしいのはこっちよ!」

悪「ははっ 久しぶりにいつもの顔を見た気がするよ。ずっと泣き顔か怒り顔しか見てなかったから。」

命「ふん…」

命「で、あなたはなにを考えているの?とりあえずは聞かせてもらおうかしら?力を貸してくれってことは私もないかしなければいけないんでしょう?」

悪「ああ簡単だ。今から俺がすることを黙って見ていてくれ。あと多分、お前を全力で走らせることになると思う。」

命「?」

悪「この方法なら多分、俺もあいつも助かる。場所がよかった。もしかしたらお前に少しペナルティが発生するかもしれないが、そんなに重くはないはずだ。」

命「あなた、さっきからなにを言って…」

悪「なあ、魔王、魔界と悪魔の管理役のお前なら今も見ているんだろう?聞いてくれ!」

悪「俺は過去にこの命の悪魔と契約した際に不当に契約を遂行された!」

命「なっなにを!?」

悪「この命の悪魔はかつて俺に対してこう述べた!『私は今から残っているあなたの人間としての命を対価にあなたに悪魔としての命を吹き込む!これならいいわね!?いえ、断ってもするわ!』と。」

悪「俺はこの言葉に押し切られて、とっさに権利を遂行してもよいと返事してしまった!」

悪「しかも、この悪魔はそれだけでなく、そのことを隠ぺいしようと俺の記憶を今まで封じてきた!」

悪「これを不当と言わずになんというのだろう!」

悪「よって以前の契約の遂行を無効とし、またそれによって俺が失った時間と被った被害の補填として、この悪魔との対価の存在しない契約を認めてほしい!」

魔王『…承知した。貴様の要求を認めよう。』

悪「さあ、これですべての問題は解決した。俺と契約してもらおうか?」

命「あなたって本当に悪知恵が働くわね。まさかこんな方法で対価をなくすなんて。」

悪「まあ、知恵の悪魔だからな。さて、じゃあ時間もないしさっさと契約をしてもらうぞ。」

命「分かったわ。」

悪「えと、確か傅いて手にキスをすればいいんだったな…」

命「…いいえ。こっ今度は口にしなさい////」

悪「なっ…お前、ふざけてる場合じゃ…」

命「ふざけてなんかないわ!…私がどれだけあなたのことを心配したのか分かってるの?」ウルウル

命「死んじゃうかもしれないって…何回思ったことか…」ポロポロ

命「これぐらいしてもらわなきゃ…割に合わないわよ…」グスッ

悪「分かった。…悪かったな。」

命「ふん…」

悪「じゃあ、いくぞ…」ス…

命「え、ええ…」ス…

悪「ん…」

命「ん…」ピカー

命「それじゃあ、あなたの願いを言ってもらえるかしら?」

悪「ああ、俺の契約者である女の心臓病を直して、あいつの命を救ってやってくれ。」

命「分かったわ。今回の契約は特例により対価はなしよ。」

悪「ああ、頼んだぞ。…お姉さん。」

青「あと…急いで医者…呼んできてくれ…」ガフッ バタリ

命「え…?」

命(そうか!私との最初の契約が無効になれば、私が契約を遂行して悪魔にすることによって命を助けたという事実も無効になる。)

命(この馬鹿!いや、怒るのは後よ!まずは急いで医者を呼んでこないと!)

命(だからさっき、走らせることになるかもって言ったのね!)ダッ

~~~三日後、青年の病室~~~

青「…」

命(医者による処置が間に合い、あいつはなんとか一命を取り留めた。)

命(医者によれば太い動脈を打ち抜かれており、あと少し遅れていたら間違いなく死んでいたそうだ。)

命(そんな命にかかわる大怪我だったらからか、手術が終わって三日たった今もあいつはまだ眠っている。)

命「…それともやっと色々な重荷から解放されたからかな?…あとはお姉さんに任せて今はゆっくりお休みなさい。」

命「それじゃあ、私こいつとの契約を果たしに行きますかな。たしかそろそろ目を覚ますはずよね。」

~~~女の病室~~~

女「ん…」

命「おはよう。」

女「…ここはどこですか?あと…どちら様ですか?」

命「ここは病院よ。あなたは悪魔との旅行中に発作で倒れてここに運ばれたの。」

女「そうでしたか…あれ?でも、なんで悪魔さんのことを知ってるんですか?」

命「ごめんなさいね、自己紹介が遅れたけど、私も悪魔なの。」

女「え?」

命「私は命の悪魔。知恵の悪魔との契約であなたの命を救いに来たの。」

女「あ…悪魔さんは無事なんですか!?だってたしか命の悪魔さんとの契約の対価ってその人の命なんじゃ…うっ」

命「ほら、まだあなたは病人なんだから大きな声出さないの。」

命「大丈夫、無事よ。一回死にかけはしたけど、命は無事なはず。」

女「よかった。」

命「あなたには一回全部最初から説明したほうがよさそうね。少し場所を変えて話さない?」

女「わ、分かりました。」

命「じゃあ、車いすに乗ってもらえるかしら」

女「はい」

~~~病院内、廊下~~~

命「~というわけ。」

女「そんなことが…」

女「悪魔さん…私なんかのために…そこまで」

命「ねえ、あいつとの契約を遂行する前にいくつか質問してもいい?」

女「どうぞ」

命「…あなたはまだ神様へ復讐したいとかって思っていたりする?」

女「…」

命「前にあいつがあなたにした話は本当よ。悪魔は人間の願いを叶えるために神様に作られたシステムの一つでしかない。」

命「つまり悪魔が今回あなたの命を助けるのも、所詮は神様の掌の上の出来事なの。」

命「言うなれば、あなたの人生が神様に振り回されっぱなしって事実にはなんの変化もない。」

命「あなたはこの事実を受け止めたうえで今後どうするの?」

女「私は…」

女「私は…また世界のためになるような研究を始めたいと思います。今度は神様とか復讐とかそういうのは関係なく。」

女「悪魔さんが命を賭けて助けてくださった命ですから、これからは純粋に自分のために使いたいと思います。」

命「世界のための研究をすることが自分のためになるの?矛盾してない?」

女「はい。多分してると思います。でも、これが今の私の正直な思いです。」

女「悪魔さんは他人である私のために命までかけて力になってくれました。だから今度は私がどこかの誰かのために全力で力になりたいんです。」

女「それが本当の悪魔さんに対する恩返しになると思うので。」

女「それに…」

命「それに?」

女「悪魔さんは私を助けることで人間をもう一度信じようとしました。だから、まずは私が頑張って悪魔さんに人間のいいところを見せてあげたいんです。」

命「そう…」

命「分かったわ。いいんじゃないかしら?それで。」

女「私にも本当にそれでいいのかは分かりませんけどね。」

命「そんなのきっと誰にも分からないのよ。」

命「でもよかったわ。あなたがあいつに救われた命を無駄にしなさそうで。」

命「正直に言うとね、私はあなたを試していた。この人間はあいつが命を賭けるに足るのかどうかを。」

命「不合格だったらどんな罰が待っていようと契約を破棄するつもりだったんだけど…」

命「どうやらなたは合格みたいね。…頑張りなさい。」

女「はい」

命「そろそろ病室に戻るわね。…そこで契約を終わらせるわ。」

女「はい、よろしくお願いします。」

~~~女の病室~~~

命「じゃあ、いくわよ。」

女「はい!」

命「これが終わったら私は契約完了ということで魔界に変えるけど…あいつのことをよろしくね。やっぱり最初のうちは誰かの支えがいると思うから。」

女「分かりました、任せてください。」

命「じゃあ、頼んだわよ。…はあ!!!」ヴォン

女「んっ…」

命「はい、これでおしまい。」

女「ありがとうございます。本当に色々と。」

命「どういたしまして。」

女「あの…悪魔さんに会っていかなくてもいいんですか?」

命「悪魔は基本的に契約時以外はあまり人間界にいちゃいけないことになってるの。どんな影響があるかわからないからね。」

命「それに…いえ、なんでもないわ。」

女「そ、そうですか?」

命「それじゃあね。お元気で。」

女「は、はい!本当にどうもありがとうございました!」

命「いいえ。あとはよろしくね。」バシュン

女「は、はい…」

~~~魔界~~~

命(…言えるわけないじゃない。会ったらやっと着いた決心が揺らぎそうだから、なんて。)

命(人間に戻ったあいつに悪魔である私はもう会えないし、会うべきではない。)

命(頭では分かってるのに…)

命(どうしてこんなに泣けてくるんだろう…)ポロポロ

命(ダメね。最近、泣いてばかり。頑張らなきゃ。)グスッ

兵士「命の悪魔様ですね?」

命「そうだけど…」

兵「人間界からお帰りになったばかりでお疲れのところ申し訳ありませんが魔王様がお呼びです。」

命「ああ…」

兵「あなたが犯した罪に対して審議を行うそうです。」

命「そう…」

~~~数日後、青年の病室~~~

青「ん…」

女「あ、目が覚めたんですね。よかったです。」

青「…よう。」

青「その様子だとあいつはちゃんとお前の心臓を直してくれたみたいだな。」

女「はい!もう完全に健康体だそうです。」

青「それはよかった。で、あいつは?」

女「それなんですが…もう契約を果たしたということで魔界にお帰りになりました。」

青「え…?」

女「引き留めはしたんですが…」

青「あいつ、なんで…」ガバッ

女「あ、まだ動いたらダメですよ!死んでもおかしくない怪我だったんですから。」

青「なんで…せめて最後にお礼くらい言わせてくれよ…」

女「悪魔さん…」

~~~数か月後~~~

女「やっとリハビリも終わって晴れて完全に退院ですね。」

青「そうだな。」

女「悪魔さん…じゃなかった、青年さんはこれからどうするんですか?」

青「そうだなあ。まずは仕事を探さないとなあ。これからは人間として食っていかきゃいけないわけだしな。」

青「そう言うお前に方は大丈夫なのか?旅行の前に盛大に働いてた研究所を辞めていったが。」

女「はい、それは大丈夫です!事情を説明してから土下座をしまくってもう一回雇ってもらいました。」

女「今までの貯金もありますから安心して下さいね。しばらくは青年さんを養えます。」

青「ヒモはやだなあ…」

女「じゃあ、頑張らないとですね。」

青「ああ、そんなんじゃあいつにも恰好がつかないしな。」

女「そうですね…」

?「ふ~ん、まだちゃんと覚えていてくれたんだ?」

命「…久しぶり。」

女「い、命の悪魔さん!?」

青「な、なんでここに?!」

命「私も人間になったの。だから正確には元・命の悪魔ね。」

青「ど、どうやって…」

命「それはね…」

~~~回想~~~

魔王「それでは命の悪魔による不正な契約の遂行に対する審議を始める。被告人は前へ!」

命「…」スッ

魔「貴様は以前、契約を交わした際に二つの罪を犯した。」

魔「一つは契約者の意思を無視して契約を遂行したこと。」

魔「二つ目はその後契約者の記憶を改ざんし、その事実を隠ぺいしようとしたこと。」

魔「以上で間違いはないか?」

命「ないわ」

魔「随分と素直だな。弁明があれば聞くぞ?」

命「別にいいわ。だってもうどうだっていいもの。」

魔「そうか。では貴様の罪が確定したということで次は罰の決定に移るぞ」

命「ご自由に。」

魔「貴様が犯した罪は契約者の意思を無視するという人間の願いを叶える悪魔という存在の意義を完全に否定するものである。」

魔「更にはそれを隠ぺいしようと契約者の記憶を改ざんしたというのであれば、これは厳罰に処さざるを得ない。」

魔「よって命の悪魔、貴様の悪魔としてのすべての権限、能力をはく奪し、人間として人間界で生きていく罰を貴様に与える!」

命「え!?」

魔「聞くに貴様はなかなかの人間嫌いだそうではないか。ならばそれと同じ存在になり、それと生きていくのは十分な罰になるであろう。」

命「…ありがとうございます」

魔「ふむ、聞こえんな。まあいい、罪人の戯言になどに耳を貸す価値はあるまい。」

魔「それでは今から刑を執行するが、最後に何か言いたいことはあるか?」

命「ありがとう。あなたは最高の魔王よ。」

魔「ふん…あいつに会ったら伝えておいてくれ。『これで借りは返したぞ』とな。」

命「分かったわ。必ず伝える。」

魔「ではな。ふん!」バリバリ

~~~回想終わり~~~

命「というわけ。」

青「あいつも味な真似をしてくれるな。」

女「フフッ 素敵な魔王様じゃないですか?」

青「で、お前は今何をしているんだ?」

命「無職よ。だって人間界に来たのは昨日だもの。」

青「…お互い大変だなあ。」

命「…そうね。」

青「まあ、こうしてずっと立ち話をしていても仕方がないしな。みんなで人間としてこれからも生きていくことになったお祝いでもしようぜ。」

命「面白そうね。」

女「いいですね!でも、お金は大丈夫なんですか?」

青「ああ、工事現場で働いていた時のお金がそのまま残っているはずだ。」

女「なるほど!」

青「じゃあ、行くか!」

女「はい」

命「ええ」

~~~true end~~~

これで本当に終わりです!

気が向いたらエピローグや書けなかった悪魔と女悪魔が魔界を建て直す話を書くかもしれないので、
その時はまたよろしくお願いします。

1です。
なんだか今更感が凄いしますが、エピローグを書かせて頂きます。

~~~数十年後~~~

命「で、どう?数十年間こうして人間界で暮らしてみて?あなたの望む結果は得られた?」

男「そうだな…長いことここで暮らしてみたが、分かったのはやっぱり人間という存在は最悪だってことだな。」

男「自己中心的で、見栄っ張りで、強欲で、臆病で、欠点を言い出したらきりがない。」

男「でもな、今なら確信を持って言える。あのとき人間を信用しようとしたのは間違いではなかったと。」

男「見てみろよ。」バサッ

命「なになに…」

新聞「快挙!日本人初のノーベル経済学賞受賞。受賞者は女氏。」

新「女氏は『誰も不幸にしない経済モデル』と呼ばれる画期的な経済理論を開発し、その功績を称えて今回受賞が決定した。」

命「へえ…」

男「なあ、覚えてるか?あの日、三人でお祝いに行った時のこと。」

命「ええ、今でも忘れられないわ。」

~~~回想~~~

女「そういえば水を注すようで悪いのですが一つ気になってることがあるんです。」

青「なんだ?」

女「私と悪魔さんが交わした契約ってどうなってるんでしょうか?」

青「ああ…。おそらくだが中断ということになっていると思う。契約を遂行する前に俺が人間に戻ってしまったからな。」

女「そうですか。」

青「お前に非があるわけじゃないからな。魔王にでも申し出れば他の悪魔との再契約くらいなら認めてもらえるんじゃないか?」

青「それか、なんだったら俺が今から契約のときに言ってた願いを叶えてもいいぞ?俺は人間にはなったが能力を失ったわけじゃないからな。」

女「そうですねえ…」

女「じゃあ、どれもお断りさせて頂きます。」

青・命「「は?」」

女「あれ?私そんな変なこと言いましたか?」

青「いやだって、普通にもったいないだろ?!」

女「かもしれませんね。でもいいんです。私にはもう必要も意味もないものですから。」

青「!」

女「どうかしましたか?」

青「…いや、なんでもない。で、なんでもういらないんだ?」

女「そうですね。私も青年さんがそうしたように人間の素晴らしさを証明したいんです。」

女「人間は悪魔の力や神の力なんて借りなくても十分すごいんだってことを見せつけてやりたいんです。」

女「だから今度はどれだけ時間がかかっても私一人の力でやり遂げたいんです。」

女「なので、凄く勿体ないお話ですけど、どちらもお断りします。」

青「そうか。…頑張れ。」

女「はい。」

女「あ、でも折角なので魔王さんに一つだけお願いしてもいいですか?もし、聞いているのならですけど。」

魔王「…なんだ?」

女「私と知恵の悪魔さんが交わした契約は遂行されないまま中断してしまいました。」

女「なのでその代りに神様に会った時にこう伝えておいてください。『人間の力を見せてあげます!その日まで楽しみにしておいてください!』と。」

魔「…承知した。」

~~~回想終わり~~~

男「で、その結果がこれだからな。凄いよ、あいつは。」

命「…そうね。」

男「この結末を見れただけでも俺がしたことは無駄ではなかったって思えそうだ。」

命「ふ~ん、あっそ。」

男「…なんでさっきからそんなに不機嫌なんだよ?」

命「別に不機嫌じゃないわよ。」

男「いや、どう見ても不機嫌だろ。理由を言えよ。」

命「…それがどんな理由であろうと、夫が他の女のことをイキイキと話すのは妻にとっては面白くないことなのよ。」

男「…ガキか、お前は。」

命「女ってのはそういうものなのよ。」

男「あっそ…。で、どうやったら機嫌を直してくれるんだ?」

命「…キスしてくれたら許してあげる。」

男「…お前はそればっかだな。…分かったよ、ほら、こっちに来い。」

命「ん…」ス…

男「…」ス…

チュ

男「…これで満足か?」

命「…い、今はこれだけで勘弁しておいてあげる。帰ったらもっと色々としなさい…。」

男「…分かったよ。」

男「さてと、じゃあ、俺はそろそろ仕事に行ってくるかな。」

命「分かったわ。いってらっしゃい、大学教授殿。」

男「…からかうなよ。自分の能力を最大限に活用できる職業を選んだ結果だ。」

命「まあ、たしかに適職といえば適職ね。」

男「そういうお前だって人のこと言えないだろう?医者なんだから。」

命「私はあなたとは違うわ。私は能力を失くしても大切な人を助けられるようになりたかっただけよ。」

命「今ではこうして守らないといけない家族がいるわけだしね。」

男「…そうだな。」

男「さてと、もう出ないとな、遅刻しちまう。お前もあんまりゆっくりしすぎるなよ?」

命「残念、今日は非番よ。だから家のことは任せておきなさい。」

男「うらやましい限りだ。まあ、よろしく頼むよ。」

男「じゃあ、いってきます。」

命「いってらっしゃい、あなた。」

~~~the end~~~

終わり終わりと言いながら今までズルズルと続けて申し訳なかったです。
これで本当に書きたいこと全部出しきったんで終わりです。
今まで支援してくれた人ありがとうございます。

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年07月21日 (月) 06:58:59   ID: yeYeeKwd

素晴らしい物語でした(`・∀・´)

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