《君の『   』と同じ色》 (21)

「……………何?」
 放課後の教室。プリントの上で腕を動かす事を止めると、彼女はそう言った。
 彼女をじっと見つめたまま僕は言う。
「何、ってこっちのセリフだよ。なんで手を止めているんだい?そのプリントが終わらないと僕達は帰れないんだけど」
 僕は今、居残り勉強をさせられている彼女を、教室で二人きりで待っていた。



※完全オリジナルです。

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「いや、だから先に帰っててって言ったじゃん。あと、そんなにじっと見られてたら集中できない」
 彼女は僕のことをうざったがるように喋った。
「察してくれよ、君と一緒に帰りたいのさ」
 僕のその一言で、彼女は頬をピンクに染めた。
 可愛いなぁ。
「またそういうことサラッと言う……」
 彼女は目をどこかに逸らしながら、手元のシャーペンをくるくると回す。
 照れた時に手元が忙しくなるのは、彼女の癖だ。
 可愛いなぁ。
「あと、じっと見つめていたのはごめんね。君があまりにも美人だから君のパンツの色を推理していたんだ」
「またそういうことサラッと……おい今なんつった」

 臆することなく僕は言ってのける。
「聞こえなかったかい?『君のパンツの色を推理していたんだ。』三度は言わないよ」
「三度も聞きたくない!アンタ何言ってるか解ってる!?」
 彼女がシャーペンを手離して机を叩く。
「決めた。君の今日のパンツは純潔の白だ」
「話聞いてる!?」
「ファイナルアンサー」
「聞いてないし、訊いてない!」
 彼女がもう一度机を叩いた。
「で、どうなんだい?僕の推理は正解かい?不正解かい?そのスカートを巻くって確かめさせてくれよ」
「するわけないでしょ!」
 彼女は顔を真っ赤にして言った。
 大声を出しているからか、それとも恥ずかしいからか、はたまた両方か。

「じゃあオセロで決めよう。負けた方は勝った方の言うことをなんでも一つ、聞くこと」
 僕はスマホの電源を入れた。
「するわけないで……ちょっと待って今アンタなんでもって言った?」
 彼女がこちらに顔を向け直した。 そういうリアクションをすると思った。
「うん。言った」
 僕はスマホのロックを解いた。
「なんでもって。なんでも?」
「なんでも」
 僕はスマホのホームをスライドした。
「君が焼きそばパンを買って来いと言ったら買ってくるし、金を出せと言えば出すし、靴を舐めろと言ったら喜んで舐め回すよ」
「なんで最後だけ喜んだのか解んないけど、本当に『なんでも』なのね」
「うん。なんでも」
 僕はオセロのアプリを起動させた。
「けど、覚えといて欲しいな。それは同じプレイヤーである君にもそのまま適用されることを」
 僕は机の上にスマホを置いた。
 画面に『GAME START!』のボタンが浮かんでいる。
 僕は言う。

「宣言しよう!僕はこの勝負に勝った暁には君にこう命令を下そう!『パンツを見せろ』とな!君の家に干しているパンツじゃないぞ!スパッツでもないぞ!いやそのどちらかでも十分嬉しいけれど!
僕が要求するのは!僕が命令するのは!
君が今、直に穿いているパンツだ!」
 僕は言う。笑顔で。
「それでも、やるかい?」
「愚問ね」
 彼女はスマホの画面を叩いた、
 彼女は言う。僕なんて及びつかない程の笑顔で。
「ゲームスタートよ」
 スマホから小気味の良い電子音が、放課後の教室に響いた。

「じゃあ先攻後攻を決めようか」
 僕はポケットから、オセロの石を一枚取り出した。
「……?何?オセロはこのスマホでやるんじゃないの?」
 彼女が訊ねる。
「そうだよ?この一枚は先攻後攻を決めるためにつかうのさ」
 スマホの画面には、先攻を決めてくださいという文字が浮かんでいる。
「………?」
 彼女はまだピンと来ていないようだ。
「知らないのかい?将棋に振り駒、囲碁にニギリが有るように、オセロにはオセロの先攻後攻の決め方があるのさ」
「そうなの?初耳だけど」
 まぁ、よほど興味がなければそんなこと知らないだろう。
 大抵はじゃんけんで済ませてしまうし。
 最も、僕が偶然このルールを知ったからこそ、こうして勝負を挑んで居るわけだけど。

「こうやって」
 僕はオセロの石をコイントスのように上に弾いて、落ちてきたところを、素早く手で覆った。
「そして相手は、表が白か黒かを当てる。当てたら先攻。外したら後攻」
「解ったわ」
 彼女は了承した。了承してしまった。
「フフッ」
「何?急に」
「いや?なんでも?」
 彼女は既に僕の策略に嵌まってしまったことに気づいていない。
「じゃあ、ほら」
 僕は彼女にオセロの石を渡した。
「………私がサーバーなの?」
「君の方が誕生日早いだろ?サーバーは年上が務めるものだよ。それが作法。マナーだ」

「そう。じゃあ」
 彼女がさっきの僕と同じように、石を弾き、覆う。
「Black or white?」
 彼女が何故か英語で訊ねる。
 自分の知らないルールを聞かされたから自分も何か通ぶりたかったのかもしれない。
 オセロは日本発祥なんだけれど。
「そうだな………。その石は今、どちらの色の面を上にしているか。それは」
「なに深く考えてんのよ。先攻だからってそこまで有利不利はないでしょうに」
「君の『パンツ』と同じ色。だ」

「……………はぁ?」
 彼女は露骨に首をかしげた。
「君のパンツと同じ色。だ。宣言は済んだ。石を見せてくれよ」
 彼女がゆっくりと覆っている上の手を外す。
 石は白の面を上にしていた。
「僕の推理通りなら君のパンツの色は純潔の白だから、僕の先攻だけど……さて答えは」
「何言ってるのよアンタは!ちっ、違うわよ!私のパンツは白じゃない!」
「いいやっ!信じられないねぇ!確かめさせてもらわなきゃっ!さぁ巻くってよ!そのスカート!」
「はっ、はぁぁぁぁ!?なんでよ!」

「もしかしたら君が嘘を吐いて、自分を先攻にしようと思っているかもしれないじゃないか。そんなイカサマは認められないね」
「どうでもいいじゃないそんなの!」
「どうでもいい?僕達は『なんでも』を賭けているんだよ!?それを……」
「じゃあ私が後攻でいいから!」
「いいや。後攻が有利という説もあるんだ。それも認められない」
「じゃあどうしたらいいのよ!」
「さっきから言ってるじゃあないか」
 僕は言う。
「『パンツを見せろ』」
「……妙な知識を披露したかと思えば…最初からこれが目的だったのね」
 彼女は苦悶の表情で僕を見据えた。
「もちろんさ。さぁ、早く」
 彼女はうつむくと、プルプルと肩を震わせた。その手は膝の上で固く握られている。
 しまった。やりすぎた。ここらが引き時。

「なぁんてね。君をからかいたかっただけだよ。さぁ早くプリントの続きを進めてよ」
「……解ったわ」
 うつむいたままの彼女から了承の声が聞こえる。
 が、しかし彼女が手に取ったのはプリントではなく、彼女のスカートの端だった。
「…………えっと、何をするつもりだい?」
「あなたにパンツの色を確認してもらうのよ」
 彼女は僕の目を真っ直ぐに見てはっきりと言った。
「やめなさい嫁入り前の女の子が年頃の男子にそんなはしたない」
「やれと言ったのはあなたよ」
「いやそれはただの」
「良い?行くわよ?行くわよ!?」
「やめてやめなさいやめろ」
「えいっ!」
 僕の制止もむなしくそのスカートは捲られた。
 いや、捲られたなんて物じゃない。
 今やスカートの端は、彼女の首元まで上がり、完全に壊れた傘状態である。
 して、そのパンツの色は、僕の推理から外れた。
 セクシーにセクシーでセクシーな。
 真っ黒なパンツだった。
 彼女は恥辱にまみれ、真っ赤な顔で勝ち誇る。
「私の先攻ね」

「……解った。解ったからそのスカートを降ろしてくれ」
 しかし彼女の反撃(?)は終わらない
「嫌よ」
「…………………え」
「一度見られたら後は何回何秒見られたところで同じよ」
「えぇ!?いや、だとしてもずっと見せている必要は」
「ところであなたは大丈夫なの?」
 彼女は言う。不適な笑みを浮かべて。
「年頃の男子が!私の!私の様な美少女の!セクシーな下着を見せられながら!まともにオセロなんてできるのかしら!?」
「なっ………!」
 彼女はスマホの画面のオセロ盤のマスを指で叩いた。
 先攻は、黒。

「さぁ、あなたの番よ」
「くっ………!」
 僕が指す。
 彼女が指す。
「私のパンツの色の方が今の所は多いわね」
 僕が指す。
 彼女が指す。
「あら、私のパンツの色の石が少なくなっちゃったわ」
 僕が指す。
 彼女が指す。
「なんてね。今のフェイクよ。私のパンツの色の石を増やすためのね」
 僕が指す。
 彼女が指す。
 ……だ、駄目だ。どうしても意識が黒に向いてしまう。向けられてしまう。盤がまともに見れない。
「あら、そこでいいの?」
「え?あ」
 そこで決定的な一手を打たれてしまった。もう戦局が覆ることはないだろう。
「ふふふ。盤上が私のパンツの色の石でいっぱいね」
 彼女がスカートをヒラヒラさせながら言った。
 もう勝ちが確定したような物なのだから、その自虐も丸出しも意味ないと思うんだけど。

「はぁ………降参だよ。僕の負け」
 彼女は僕の敗北宣言を聞くなりすぐさまスカートを降ろした。
「ふふん!ほれ見たことか!」
 勝ち誇るも彼女の息は荒い。やっぱり相当恥ずかしかったんだろうなぁ。
「さぁ、何を命令しましょうか」
 …まぁ、パンツも見せてもらったし、何を命令されようと僕にとっては大勝利だ。甘んじて受け入れよう。
「一生私の命令に従いなさい」
「…それはちょっとズルくないかい?」
「そうね。まずはこのプリントを手伝いなさい」
 僕の言葉を無視して、彼女はプリントの何枚かを僕に渡した。
「…まぁ、元から僕達ってそんな感じだよね。いいよ。手伝う」
「いい?一生よ?一生だからね?」
「はいはい」
「………一生、一緒だからね」


《君の『   』と同じ色》
      ー終わりー

改行した方が見易いで?

以上になります。
読んでくださった方。
ありがとうございました。

>>15

ご指摘ありがとうございます。

読みやすいSSを心がけます。

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