【劇中劇】やよい「西部の町に」アーニャ「銃声が鳴く」 (104)

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――善人も悪人もねぇ。ただ、真実は銃だけが知ってるのさ――

プロローグ
 「血染めのアーニャ」

 
 開拓時代の西部と聞いて思い浮かべる物は人それぞれだ

――ある者は夢を追って、ある者はただ生きるため、ある者は、辛い過去から逃げて――ここにやって来る。

 
 「血染めのアーニャ」と呼ばれる女がいた。

彼女の父は、ロシア人だった。折りしもロシアは内紛の真っ最中。

父親はまだ幼かった彼女を連れてこの国へとやって来た。だが、よそ者に冷たいのはどこへ行っても変わらない。

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 父親は生きるために銃を握った。金のために人を撃った。他人の命と引き換えにして稼いだ金で、父親は娘を育てた。

娘が大きくなる頃には、彼は立派な人殺しだった。

 
 たった一つの命を守るために、父親は西部で知らぬ者がいないほどの人殺しになっていた。

 
 父親は、毎朝黙って「仕事」に出かけた。そのまま何日か戻ってこない事もあったが、娘はただ父親の帰りをじっと待っていた。

そして、帰って来た父親が言う「ただいま」に、「おかえりなさい」と返すのが娘の「仕事」だった。

 
 ある日、父親が仕事に行く前に「いって来る」と娘に言って家を出た。

初めての出来事に、娘は返事を返す事が出来ず……そのまま、父親は家に帰らなかった――――殺されたんだ。


 娘は父親の死を次の日の新聞で知った。父を殺したのは駆け出しの賞金稼ぎで、紙面ではまるで英雄のように扱われていた。

 
 娘は泣いた。それまで自分を守ってくれていた優しい父が、突然この世からいなくなったんだ。

悲しみにくれる娘だったが、同情する者は誰もいない。

父親は冷酷な殺し屋で、凶悪な殺人犯――それが世間の評価であり、全てだった――

たった一人の娘を愛した、温かな父親の事を、娘以外の誰も知らない。

 
 涙も枯れ果てた頃、娘は行動を起こす。

父親が遺した金を使い、集められるだけの情報を集めると、数日後には目的の人物の居場所を探し当てていた。

 
――寂れた田舎の酒場で、その男は酒を飲んでいた。

かりそめの栄光はすぐにボロを出し、今では誰にも相手にされぬ程に落ちぶれた男。

かつては西部中を沸かした英雄の、余りにも惨めな現実がそこにあった。

 
 後で、一部始終を見ていたと言う奴が、その時の事を詳しく聞かせてくれたよ。

 
 まず、酒場の扉を開いて一人の少女が入って来た。

その場にいた客の誰もが、その少女の髪の色――美しく光る銀髪に息を呑んだという。

 
 そして少女は迷うことなくカウンターへ向かうと、「元英雄」の男に近づいた。

二言三言、言葉を交わした後で、男が突然叫び出した。「俺は、あの人殺しを殺った英雄だぞ!」……と。

 
 酒場の客は皆、「ああまたか」と思ったそうだ。男は酒に酔うと、いつも過去の武勇伝を誰かれ構わずがなり立てた。

そして同じ話を、延々と繰り返すのだ……だが、その日はそうならなかった。

 
 突然大きな銃声が響いたかと思うと、次の瞬間には、男は全身をズタズタにされて床に転がっていたと言う。

そして、それをやったのは、ほかならぬ銀髪の少女。

 
 全身を返り血で赤く染めた彼女の右手には、銃身を切り詰めたショットガンが握られていて、

返り血で髪まで赤くなった彼女は、立ち去り際にこう言ったそうだ。

 
「私が、その人殺しの娘だ」……とね。


 その日から今日まで、彼女の姿を見た者はいない。だがな、娘が死んだわけじゃあないんだ。

なぜなら、彼女の姿を見たが最後、みんな殺されちまうからさ……そうだよ。彼女は生きるために、父親と同じ道を選んだのさ。

 
――作り話だって疑ってるのか? 

だったら、お前の後ろにいる彼女に、直接聞いてみたら良い――もっとも、それまでお前が生きていられたらの話だけどな。


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 このssは
「はい、はーい! ザ・アイマスウェスタンがはっじまっるよー!」
 の設定を練り直した物です。本来短編だったはずなのですが、長くなるためスレ立て直しました。

※ このssにはオリジナル設定やキャラ崩壊が含まれます。
※ 基本的に765もデレもミリもごちゃまぜです。
※ 暴力描写もありますし、アイドルが退場する事もあります。
※ 時代考証などは完璧ではないですので、年代等のズレがあるとは思いますが
  雰囲気優先という事でご容赦ください


※ ゆっくり更新します。では。

とりあえず今回はここまでです。

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1.「凶弾と花嫁」

 保安官が、人を撃った。
 
 多くの人間は、「それがどうした?」と思うだろう。

町ではいつでも銃声が鳴り、ギャング達が人知れず死んでいく。

自警のために持つ銃で人を脅し、日々の生活を営む輩だって存在するのだ。

 
 そんな犯罪者を保安官が撃ち殺す。誰も気に止めやしない、それがこの町の日常だった。

 
――だが、彼女の場合は少し違った。

殺した相手は善良な市民、皆から信頼される正直な男で、次の市長候補としても注目を集めていた人物。

彼は、結婚を控えていた。相手の女性は美しく、腰まで届くプラチナブロンドの髪が特徴的だった。


 花嫁は結婚式の前日に彼の家を訪れた。別に、大した用事があったわけではない。

ただ、二人きりの時間が過ごしたかった……それだけの理由だ。


 だが、家についた花嫁を待っていたのは、血の池に沈む花婿の変わり果てた姿と、その横に立つ見覚えのある女性。

 
 男の傍らに呆然と立ち尽くす彼女の右手には、鈍く光るピストル。

そして、その胸元には保安官であることを示す、星型のバッジ。

数多くのギャングによる襲撃から、この町を守ってきた優秀な保安官の姿が、そこにあった。

 
――ナムコタウンの保安官「ガナハ・ヒビキ」は、こうして追う側から、追われる側へと立場を変えた。

三角関係のもつれだとか、人知れぬ因縁があっただとか、当時は色々と騒がれたが、

花嫁を押しのけてその場から去った彼女は結局捕まらず、真相は全て闇の中だ。


 町は一夜にして善良な市民と、優秀な保安官の二人を失い。残された花嫁はこの町から去っていった。

 
 そしてこの日を境に、それほど治安の良く無かったナムコタウンは、西部でも有数の無法地帯へと姿を変えていく事となる。
 
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疑惑の保安官役 我那覇 響
http://i.imgur.com/EuJzncW.jpg

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2.「シェリフ」

 今となっては西部で最も危険な町だと噂されるナムコタウンだが、初めからそうだったわけではない。

むしろ、以前は商業の中心と言われるほど活気に満ちた、潤いの町であった。

 
 周辺の土地は荒野の中でも比較的豊かであり、大小様々な牧場が存在した。

やがて家畜や農産物の取引を目的した商人がやってくると、その中心となる場所で商売を始める。

そこに各地から様々な人間が移り住み、今のナムコタウンの原型が作られたのだ。

 
 町は牧場と共に大きくなったが、それは同時に荒くれ者達のたまり場になる事も意味していた。

牧場で雇われるカウボーイの中には、暴力と銃によって生きてきた者も多い。

 仲の悪い牧場のカウボーイ同士が酒場で鉢合わせ、そのまま銃撃戦になる事も少なくはなかったと言う。

 
――だが、一見なんでもありに見える西部にも、確かな法は存在した。


 まさに、一触即発。一つの丸テーブルを挟んで、二人の少女と三人の男が睨みあっていた。

腰に下げたピストルこそ抜いていないものの、今にも相手を撃ち殺しかねない緊張感に包まれている。

 
 その状況を、少し離れたテーブルから、隠れるようにして見ている別の少女の姿があった。

彼女の名前はノノハラ・アカネ。ナムコタウンの保安官代理である。

 
 本来ならばこのような状況をいち早く収めるのが彼女の仕事なのだが、

今の彼女は生まれたての子鹿のようにぷるぷると震えながら、目の前の嵐が過ぎ去るのを待っていた。

 
――ああ、一体どうしてこうなってしまったのか――彼女の脳裏に、ほんの数分前の出来事が蘇る。


保安官代理役 野々原 茜
http://i.imgur.com/foc2OUL.jpg


 アカネはこの日、いつものようにこの「サロン・サタケ」へとやって来た。

ここは町の中でも比較的落ち着いた雰囲気の食堂であり、

滅多な事では揉め事が起きないため、彼女のお気に入りの店でもあった。


「はいはーい! 茜ちゃんだよー!」

 いつもの調子で中に入ると、彼女がいつも使っているテーブルには、既に先客がいた。

どうやらポーカーに興じているようで、すぐには席も空きそうにない。

 一度出直そうかという考えもよぎったが、それも面倒だと思い直し、彼女は空いていたテーブル席へと腰を下ろす。

 
 簡単な定食を注文し、料理が運ばれてくるのを待つ間、彼女は何とはなしにポーカーをする彼らを眺めていた。

男達の一人が、持っていたトランプを放り出して天を仰いでうめく。

 
「イェイ、ラッキー! 何か今日の私ってついてるかも~」

 対戦していたショートカットの少女がそう言って、男達から賭け金を集めていく。どうやら彼女の一人勝ちのようだった。

 
「ちくしょう! もう一度だ!」

 先ほどトランプを投げた男が、一枚の紙をテーブルに叩きつける。

 
「お、おいおい! 熱くなりすぎだ! いくらなんでもそれはまずいぜ……」

「うるせぇ! ここで勝てなきゃ、どの道俺はスッカラカンだ!」


 負けが込んで引っ込みがつかなくなったのか、熱くなる男を連れの二人がたしなめる。

 
「別に私は勝負してもいいんだよ? まぁ、無理にとは言わないけどさー」

「これに勝てたら馬の権利書ゲットだよ! バサバサ!」


 そう言って、バサバサと呼ばれた少女がニヤリと笑う。よほど自分の腕に自信があるのか、はたまた――。

 
「イカサマでもやってたりして……なーんてっ!」

 アカネの口から、思っていたことがポロリとこぼれる。

別に彼女達がイカサマをしているところを見たわけでもないのだが、その発言は場の雰囲気をぶち壊すには十分だった。

 
 次の瞬間、テーブルに座っていた五人が一斉に立ち上がりアカネを見つめた。

突然の出来事に、アカネは身の危険を感じて距離をとる。

 
「ちょっとアンタ! 私達がイカサマした証拠があるって言うの!?」

「そーだそーだ! 横からヤリ投げてくるんじゃないよー!」


 二人組みの女がそう言ってアカネを指差す。

その時、もう人の少女、髪を左側でポニーテールにしている方の手袋の裾から、ポロポロとカードがこぼれ落ちた。

 
「こ、このアマァ! やっぱりイカサマしてやがったなぁーっ!」

 激昂した男が腰のピストルを抜こうするのを、連れの二人が慌てて止める。
 
「ちょっ、まてまてっ! アイツを良く見ろ! 保安官だぞ!」


 二人組みの片割れ、髪を左側でまとめている少女が勢い良くアカネを指差すと、

その手袋の裾から、ポロポロとカードがこぼれ落ちた。


「こ、このアマァ! やっぱりイカサマしてやがったなぁーっ!」

 それを見て激昂した男が腰のピストルを抜こうするのを、連れの二人が慌てて止める。

 
「ちょっ、まてまてっ! アイツを良く見ろ! 保安官だぞ!?」


 この時連れの男が言った「保安官だぞ」には二つの意味が込められていた。

一つは、イカサマをやった目の前の少女二人を、この保安官に裁かせようというもの。

もう一つは、ここで彼女達を撃つと、逆に自分達が犯罪者になってしまうから止めろ……という意味だ。


「金ならこいつ等を捕まえた後で取り返したら良いじゃないか!」


だが、そんな男達を二人組みが煽る。


「あれあれ~? 大の男が三人もいるのに、そんな弱気な事言っちゃうんだ~?」

「保安官さんたちけてーって、かっこわる~!」


 彼女達からしたら、この状況はピンチだがチャンスでもあった。

相手が迂闊に手を出せない現状、保安官に捕まらないようにこの店を出る事が出来れば、

賭けで騙し取った金もそのままにここから逃げる事ができる。

 
 それにもしも相手が銃を抜くのなら、正当防衛だと言って自分達も銃を抜く事ができた。

――その結果、最悪相手が死んだとしても、殺人罪には問われない。

 
 お互い一歩も動かないまま、睨み合いが続けられる。

どうやってこの状態に決着をつけるか……その最終的な判断を、保安官であるアカネは迫られていたのである。
 
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二人組みショートカットの方 伊吹 翼
http://i.imgur.com/du84wbm.jpg

二人組みサイドポニーの方 双海 真美
http://i.imgur.com/3jdPfmG.jpg

書き溜め分が終わったので今回はここまでです。

一応調べてはいるのですが、口調や愛称に間違いや違和感があれば、教えていただけるとありがたいです。

また、人物名は基本的にカタカナ表記でお送りします。では。

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3.「ペテン」


「オーケーオーケー。もうその辺にしときにゃ~」


 その場にそぐわぬ、なんとも気の抜けた声。振り向くと、カウンター席に座った一人の女がこの騒動を見つめていた。
 
 白いマントに紫がかった長髪。猫のような印象の口元をしたその女が、にやにやと笑いながら言葉を続ける。

 
「ここは美味いピザを楽しむところであって、そんな物騒な物を振り回す場所じゃあないんだぜー?」

 女はそう言うと、手にしていたタバスコまみれのピザをかじる。


白いマントの女役 一ノ瀬 志希(18)
http://i.imgur.com/qemOBl4.jpg

 
「誰だか知らねぇが、横から口を出すんじゃあねぇ!」

 トランプで負けていた男が、女を睨む。すると、彼女は椅子から立ち上がりアカネ達のもとへと近づいてきた。

 
「悪いけど、そうもいかないんだよねぇ。そこの二人は、あたしのツレ……だからさ?」

 女が、二人組みの少女にウィンクし、彼女達の隣に立つ。

「そ、そうそう! お前ら、覚悟しろよ!」

「へへっ。姉ちゃんはこう見えて、凄腕のガンマンなんだからねっ!」


 だが、そう言って舌を出すサイドポニーの少女の頭を、マントの女が軽くはたいた。
 
「まったく、この子達は口が悪くていけねぇぜー。とりあえず、さっきの金は返すからさ、今回は許してあげちゃわないかな~?」

「ふざけんなっ! 今更金が返ってきたところで、コケにされた俺達の怒りが収まるとでも思ってんのかぁ!? ねぇちゃんよぉ!」


 男が、凄みを効かせながら女ににじり寄った。再び訪れる緊張に、アカネはそそくさと安全な位置まで退避する。

 
「ありゃりゃ。だから、お金は返すって言ってるのに~」

 マントの女は賭け金の入った小袋をサイドポニーの手から奪うと、それを顔の横で振って見せた。

ジャラジャラと、銀貨の擦れる音が鳴る。

「それとも……そんなに早死にしたいのかな?」


 女の目つきが鋭くなる。口の端を上げ、不敵な微笑を続けてはいたが、

彼女が発する威圧感は、先ほど凄んでいた男の物とは比べ物にならないほど強烈であった。

 
 その威圧感に飲まれ、事実、男達も動く事が出来ない。その時、店の奥から一人の少女がやってきた。
 
「お、お客さん! 揉め事なら表でやってください!」

 それは、「サロン・サタケ」の看板娘、サタケ・ミナコだった。

ミナコの登場に、マントの女の顔に一瞬だが焦りが浮かぶ。そして――。


「――できればこの手は、使いたくなかったんだけどねっ!」


 叫ぶのと同時に女の右手が勢い良く振り上げられ、持っていた子袋が空中に放り出される。

店内に鳴り響く銃声と、程なくして辺り一面にぶちまけられた大量の銀貨に、その場にいた全員の目が奪われた。

 
「お、お金だよぉーっ!」

「拾え! 拾えっ!!」

「こんなチャンス滅多にないぞ!」

「止めろてめぇら! それは元々俺達の金だ!」

「あほかっ! こんなん先に掴んだもん勝ちや!」

「みっともないから止めときなさいよ……二人とも」


 喧々ごうごう。店内がちょっとしたパニックに襲われる。

その様子をおろおろと眺めるしかないアカネ。

 
「あわわわ……こ、こんなのアカネちゃん一人じゃどうにもできないよ~」

「ちょっとアカネちゃん! さっきのマントの人は!?」

「ひぇっ!? か、彼女ならすぐそこに……」

 だが、先ほどまで女の立っていた場所には誰もいない。それどころか、あの二人組みの少女の姿も消えている。

 
「あ、あれ? おかしいな……」

「いなくなったんですか!? なら、早く追いかけてください!」

 ミナコが、アカネの両肩を掴むとガクガクと前後に揺さぶる。

 
「あの人からまだお金を貰ってません……食い逃げですよぉーっ!!」

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看板娘役 佐竹 美奈子(18)
http://i.imgur.com/EoEH3vN.jpg

店内モブ出演 ニューウェーブの三名(15)

村松 さくら
http://i.imgur.com/z78Bq4c.jpg
土屋 亜子
http://i.imgur.com/NGtPnHr.jpg
大石 泉
http://i.imgur.com/Yfz04HG.jpg

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 「サロン・サタケ」から少し離れた路地裏。その暗がりの中で、少女達は息を整えていた。

「いやぁー、さっきは声を掛けてくれてありがとね!」

「ほんと、助かったよ姉ちゃん!」


 お礼を言う二人に、白いマントの女が片手をあげて返事する。

「別に、構わないよ~。困ったときにはお互い様ってゆー、にゃははっ♪」


 そのまま片手をぱたぱたとさせて笑う彼女に、ショートカットの少女が小さな袋を差し出した。

「ん? ナニカナ、これは~?」

「えっと、さっき巻き上げたお金。少ないけどさ、とっといてよ!」

「あれあれ? でもさっき、お店であたしがぶちまけたんじゃなかったっけ?」

「んっふっふ~。小分けにして隠しとくのは基本っしょ! それに……マミ達にはこれがあるからね!」


 マミが、一枚の紙を取り出してひらひらと見せる。

それは、最後に賭けの対象としてテーブルに出された、馬の権利書であった。

 
「なるほど、ちゃっかりしてるね~」

「まぁわたし達も、だてに何年もこの生活を続けてるわけじゃないからね」

 そう言って、ショートカットの少女が笑う。


「ところでさ、あんたさえ良ければ、うちのボスに会って行かない?」

「ボス? っていうと、キミ達ってギャング?」

「そうだよ~。名前ぐらいなら姉ちゃんも知ってるかもね」

「あんた、中々の腕利きっぽいからさ。ボスも興味だしてくれると思うんだけど」

「ふーむ。どうしよっかなぁ~」


 白いマントの女は、少しの間考えていたが、やがて首を振ると二人に答えた。

 
「やっぱりパス! 縛られるのは好きじゃないんだよね」

「それに、今はちょっと、大事な用事もあるからさー……にゃは!」

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「ちくしょー! あいつら、一体どこに隠れたのさー!!」

 アカネがそうぐちりながら、町の中を駆け回る。

あの後応援がやって来た事で食堂の混乱はなんとか収まったものの、ミナコの依頼で食い逃げ犯を追う事になったアカネ。

 
「ミナコちゃんも酷いよねぇ! 

捕まえられなかったら今すぐに溜まってるツケを払えってさー……アカネちゃん脅迫罪で、逆に捕まえちゃうぞ!」

 店の周囲や人通りの少ない路地裏をしらみつぶしに探していくが、広い町の中、彼女一人では効率が悪すぎる。
 
 あれ程目立つマントを着ていたのだから、すぐに見つけられると思っていたが……その考えは甘かったらしい。

 
――何本目かの路地裏に、アカネが足を踏み入れた時だった。
 
「うひょえぇっ!!」

 突然、足元に柔らかな感触が広がり、アカネが奇声を上げる。

何を踏んだのかと慌てて足元を見ると、そこには、一人の幼い少女が倒れていた。

 体をくの字に曲げて、地面に寝転んでいる少女は、古びて穴だらけのポンチョで身を包んでいる。

だが、それよりも頭の上で二つにくくった、輝くような赤毛がアカネの目を引いた。

 
「ひょっとして、これって…?」

 アカネの脳裏に、「行き倒れ」の文字が浮かぶ。


「マジか……マジなのか……とうとうアカネちゃんにもこの時が……」

 アカネの顔が急速に青ざめる。彼女は保安官だが、血や死体の類が大の苦手であった。

これまで保安官助手として町の治安維持に努めてきたが、もっぱら彼女は人探しや物探しが専門で、

小競り合いの収拾や死体の始末等にはなるべく関わらないようにして過ごして来たのである。

 
 そんなアカネの目の前に、横たわる少女の体。出血こそしていなかったが、死んでいないとは言い切れない。

 
「大丈夫……落ち着け……ほら見てみろよアカネちゃん……」

 彼女の視線が、少女の顔に向けられる。土ぼこりで汚れてはいたが、その表情は穏やかで――。

 
「きれいな顔してるだろ。行き倒れてるんだぜ。それで――ッ!!」


――突然、少女のまぶたがぱちりと開き、見つめていたアカネと視線が合った。

余りの驚きに、アカネが口をぱくぱくとさせながらその場に尻餅をつく。


 そんなアカネと対照的に、少女は何食わぬ顔で立ち上がると、

服についていた砂を払い、傍らに落ちていたカウボーイハットを頭にのせた。

 
「ふ……わぁぁぁ」


 少女がゆっくりと体を伸ばしながら、大きくあくびをする。

そしてそのまま腕を左右に振って、ストレッチのような動きに移るのを、アカネは口を半開きにして見上げていた。

 
「ね……寝てただけなの?」


 やっと一言、アカネが搾り出すようにして呟くと、少女が元気よく答える。
 
「はい! 良い天気だなーって思ってたら、なんだか眠くなってきちゃって……」

 そこまで言うと、少女のお腹が派手に鳴る。どうやら、行き倒れていたのは当たっていたようだ。

 
「はわわっ……そうなんです……私、お腹が空いてたのも……今思い出しましたぁ」

「あ……うん。そうなんだ……」

 返事に困っているアカネに、少女がもじもじしながら話しかける。


「あ、あの! 突然なんですけど……この町の保安官事務所の場所って……分かりますかー?」

「えっ……そりゃ、分かるけど……」

 アカネの返事に、少女がほっと胸をなでおろす。

 
「よかったぁ……これで今日から、ご飯がちゃんと食べられますー」

「ちょ、ちょっと待ってよ? 保安官とご飯がどう関係してるのかな? アカネちゃんまだよく分かんない……」

「あ、そうですよね! えっと……コレです!」


 少女が、ポケットから銀色のバッジを取り出して、アカネに見せる。

 
「この町のマーシャルに任命された、タカツキ・ヤヨイです! 一生懸命ガンバるので、よろしくお願いしますね! いぇい!」


――これが、後にコンビを組んで数々の事件を解決していく事になる、二人の保安官の最初の出会いであった。

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行き倒れの保安官(マーシャル)役 高槻 やよい(14)
http://i.imgur.com/G4lhuuO.jpg

書き溜め分が終わったので今回はここまでです。

ロコ語の時も思ったんですが、志希のような特徴的な口調のキャラはセリフが難しいですね。

前回同様違和感や間違いなどございましたら、なるべく修正していこうと思っています。では。

西部劇っぽい衣装のあるアイドルはなるべくそれっぽいのを選んでますが

そういう衣装の無いアイドルに関しては普通の衣装画像で紹介しています。

イラストそのままの衣装を着ているわけではないです。(さくらとか)

志希だけ例外で、彼女に関してはイラストに近い衣装だとイメージしていただくと良いと思います。では。

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4.「任務」


 開拓時代、人々の生活を脅かす犯罪者を取りしまる組織は、いくつかの種類に分けられた。

 まず、西部に昔から住んでいた先住民族から、開拓民を守るために戦う軍隊所属の騎兵隊。
 
 次に、有志達が集まって結成される民間の自警団体であるレンジャーは、時には金を貰って傭兵のような仕事も行った。
 
 そして各町に所属し、警察の代わりに治安を守る保安官も、大きく二つに分ける事ができた――シェリフと、マーシェルである

 
 射撃の上手さ、人望、腕っ節の強さ……その他もろもろの要素を考慮して、町の住人から選挙で選ばれるのがシェリフだ。

しかし、その法の執行権限は基本的に選ばれた町の中に限られる。


 一方マーシャルは、連邦政府によって任命された保安官の事で、

人手が足りなかったり保安官が不在の町へと派遣されてやって来る。

また、シェリフとは違って配属先の町でなくても法を執行する権限を持つのが特徴だ。

 
 ナムコタウンで言うならば、かつての保安官ヒビキや、現保安官代理であるアカネはシェリフ。

そして新たにこの町の保安官に任命されてやって来たヤヨイは、マーシャルという事になる。


※あくまでこの作品内での設定です。実際はもっと複雑っぽい。
 
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「――話は大体分かったよ。確かに、本物のマーシャルみたいだね」


 アカネはそう言うと、事務机の上にヤヨイの持って来ていた書類を置いた。

倒れていたヤヨイを見つけ、食い逃げ犯探しどころではなくなった彼女は、

マーシャルだと名乗るヤヨイを連れて町の保安官事務所まで戻ってきていた。


「でもね……なんで兵隊さんまでここにいるのかな?」

「……随分とご挨拶ですね」


 青みの強い髪を肩の長さで切り揃え、

手入れの行き届いたうぐいす色の軍服を隙無く着用した少女が、読んでいる本から顔を上げずに答える。

 
「ご存知だとは思いますが、町のお巡りさんよりも騎兵隊の方が立場は上なんですが?」

「ユリコさんは、ここまで私を送ってきてくれたんですよー」


 事務所に戻った二人を出迎えたのは、ヤヨイと一緒にやって来たという騎兵隊所属の少女、ナナオ・ユリコであった。
 
 ヤヨイの言葉に相槌を打つ彼女に、アカネが意地悪そうに言う。


騎兵隊隊員役 七尾 百合子(15)
http://i.imgur.com/P8Qd9i1.jpg


「だったら、なんで一緒に来たヤヨイとはぐれて、アンタだけ事務所に来てたワケ?」

「う……それは……」


 ユリコが、読んでいた本を閉じると、体の後ろに隠す。

 
「少し……目を離した隙に、ヤヨイがいなくなってしまって……」

「……ふーん」

「と、とにかく! 私は今回任務のためにここへやって来ました。決して、ただ人を運んできたわけではありません!」


 慌てたようにそう言って、唐突にユリコは話題を変えた。


「クロイ・ファミリー……名前ぐらいなら聞いた事ありますよね?」


 彼女の口から出た、クロイ・ファミリーという名前に、アカネの顔が険しくなる。
 
 西部の町。保安官と切っても切り離せないのがギャングの存在だ。

彼等は犯罪行為を生業とする無法者の集まりで、一口にギャングと言っても、その形態は様々である。

 
 殺しや強盗を専門としている荒々しい連中もいれば、

地主や市長、保安官などの有権者を操って私腹を肥やすギャングも存在する。

クロイ・ファミリーは、どちらかと言うと後者のような知能派のギャングであった。


 だが、クロイ・ファミリーには謎も多い。

ファミリーが裏で糸を引いていたと言われる事件は数多くあったが、彼等は決定的な証拠を現場に残すことが無い。

仮にそれらしき手掛かりがあったとしても、必ずどこかで足取りが途絶えてしまうのだ。

  そのため、これだけ有名なギャング組織だというのにクロイ・ファミリーの実態は殆ど知られていなかった。

 
「これは極秘の情報なのですが……ナムコタウン南の渓谷地域に、彼らのアジトが存在するというのです」

「アジトって……クロイ・ファミリーなんだよね? そんな簡単に見つかる物なの?」

「その質問は最もですが……コレを見てください」


 そう言って、ユリコが、軍服のポケットから一本の瓶を取り出した。薄い緑色の小瓶に、星をかたどったキャップ。

 
「それは……スタドリ?」


 スタドリ。それは最近になって違法薬品に指定されたドリンク剤である。

どんな疲れでもすぐに吹き飛ぶ、病気にだって効果はてきめん! と、当時鳴り物入りで売り出された期待の薬であったが、

すぐにその強力な中毒性と、摂取する事を止めた際に生じる激しい禁断症状から、

たちまち取り締りの対象となった悪魔の飲み物でもあった。


「我々は長らくこの違法薬品の出処を探っていましたが……これまでに集めた情報を整理してみた結果、

ここナムコタウンが、最も中毒者の発生率が高い町だと分かったのです」

「これはつまり、この町の治安が著しく低下している事と……

それとは別に、これだけのスタドリを安定して供給するためのラインが、この町の周辺に存在する事を示していました」


 ここでユリコが、人差し指を顔の横で立てる。


「そこで、私の上官が極秘で町の周囲を探らせたところ……

通常のギャングにしては厳重すぎる警備をしいているアジトを発見したのです」

「上官はその場所にこそ、スタドリ流通の謎があると推測されました。

そして……その裏に存在するであろうクロイ・ファミリーのことも」

「このまま町の保安官と協力してこのアジトを襲撃。証拠となる品を持ち帰るのが、私の任務となります」


 そういうユリコに、アカネが慌てて返す。

 
「ま、まってまって! 保安官と一緒にって言ったって、

ここにはアカネちゃん入れても三人……ヤヨイとアンタを入れても五人しかいないんだよ!?」

「まさか、たったの五人でギャングのアジトを襲うって言ってるんじゃないよね? 増援とか、援軍とか……そういうのは!?」


 アカネの質問に、ユリコの顔が曇る

 
「……ありません。なにぶん、極秘の作戦なので」

「そんな! 大体、騎兵隊だっていっても、たった一人だけしか来てないし!」
 
「……これってその上官って人の独断で行われてるって事……ないよね?」


 黙りこむユリコに、アカネが言葉をぶつける。


「い、いやだよやだ! アカネちゃんやんないよ! ただでさえ争いごとは苦手なのに……」

「相手が何人いるかは知らないけど、死んじゃうかもしれないんだよ!?」

「あ、あのー」


 その時、二人の会話をだまって聞いていたやよいが口を挟む。

 
「難しい事は分かんないですけど。このお薬のせいで苦しんでるひとがいるんですよね?」

「……そうです」

「それで、悪い人たちを捕まえたいけど、手が足りなくて困ってる」

「……そうだよ」


 二人の返事を聞いたやよいが、ぱんと両手を合わせた
 
「だったら! 一緒に悪い人を捕まえてくれる人を、探せばいいかなーって、わたし思いますよ!」

 そういって笑顔になるヤヨイ。それをみて、アカネが怒った調子で答える。


「あのね! そんな簡単には――」

「まぁまぁまぁまぁ……そうかりかりしないのよ、アカネちゃん」

 アカネの言葉を遮りながら事務所の扉を開けて、一人の少女が入って来た。

 
「突然誰ですか? この人は」

「おや? どうやらお姉さんの事を知らないみたいね」

「……お姉さん?」

 どう見ても同年代にしか見えない少女の言葉に、ユリコが怪訝な表情で聞き返す。

「あたしはカタギリ・サナエ。言っとくけど、兵隊のお嬢ちゃんよりは人生経験も豊富だから!」


 まだ納得できていないユリコの背中をパンと叩き、サナエと名乗った女性がニコリと笑う。

「ヤヨイちゃんが保安官として働けるように、書類作ってたけどさぁ……はぁー、やっぱ事務仕事って肩がこるから嫌ねー」


 そしてそのまま空いていた机にどっかりと座ると、いそいそと引き出しからお酒を取り出した。


「し、仕事中だよサナエさん!」

「もー、固いこと言わないでよアカネちゃん! 燃料補給よ、燃料補給っ♪」

 やいのやいの言い出す二人を見て、ユリコがため息をつく。


「――分かりました。確かに人手は多いに越した事はありませんし、情報だって必要です」

「少々時間を与えますので、その間にしっかりと準備を整えてください……ただし」

 ユリコが、アカネに鋭い視線を投げる。
 
「これは要請ではなく、命令です。この作戦へのあなた方の拒否権は、ありませんよ」

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保安官助手役 片桐 早苗(28)
http://i.imgur.com/kyHgiw8.jpg

書き溜め分が終わったので今回はここまでです。 では。

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5.「出発」

 弾丸の命中した空き瓶が、安っぽい破裂音と共に砕け散る。
 
 一つ、二つ……視線を標的から逸らすことなく、シリンダー内の弾を撃ちつくすと、

流れるような動作で担いでいたライフルに持ち替える。

 
「ふわぁ……か、かっこいいですぅ!」


――全ての標的を撃ちぬいた後、隣で見ていたヤヨイが感嘆の声を上げる。

アカネはライフルの構えをとくと、そんな事はないよと返した。


「これぐらいは、練習すればできるようになるって。まぁ、銃を撃つアカネちゃんが格好良い事は、否定しないけどね」

「でも、私にできるかなぁ……私、銃の扱いは下手っぴだから……」

「だから練習するんでしょ? 大丈夫大丈夫、アカネちゃんにまっかせっなさーい!」


 ユリコとヤヨイの二人がナムコタウンへやって来てから今日で三日目。
 
 ヤヨイは先輩保安官であるキャシーに仕事を教わりながら、空き時間を使ってアカネから射撃の訓練を受けることになっていた。

 
「人手集めは、サナエさん達がガンバってくれてますから。私も足手まといにならないようにしたいです!」

「心意気やよし! それじゃ、早速始めよっか?」


 アカネが新たな標的を並べて隣に立つと、ヤヨイがホルスターから自分の銃を取り出して、胸の前で構える。

 
「良いかな? 標的をしっかりと見て、落ち着いて引き金を引くんだよ?」

「は、はい! いきますよー」


――だが、結果は散々。

ぎこちない手つきで放たれた弾丸は並べられた標的をことごとく通り過ぎ、その後ろの壁へと消えていった。

 その腕前に、隣で見ていたアカネもどうしたものかといった様子で頭をかく。


「やっぱり……こんなんじゃ皆の足手まといですよね……」

「う、うぅん……。もしかしたら使ってる弾のせいかも……ちょっと見せて?」


 アカネがヤヨイの銃を受け取り、不備が無いかと点検する。


「弾が悪いわけじゃないみたいだけど……それにしても珍しい形だね。

なんか、シリンダーの辺りとかつぎはぎしたみたいになってるし」

「そうなんですか? 私、銃は詳しくないから良く分からないんですけど……それ、お父さんが使ってて……」

「お父さんが?」

「はい……形見なんです」


 形見。その言葉を聞き、アカネがしまったといった表情になったが、気にしていないのかヤヨイは話を続ける。


「お父さんも悪い人を捕まえるお仕事をしてたから、私が保安官になったら、この銃を使おうと決めてたんですよ!」

「……なら、お父さんに負けないように練習しないとね!」

「はい! 特訓よろしくお願いします、アカネさん!」


 そうして練習すること数十分。二人のもとに、何丁かのライフルを抱えたキャシーがやって来た。

 
「ハーイ! 二人とも頑張ってるね~」

 射撃場に置いてある簡素な机の上に持って来たライフルを置くと、アカネ達の練習を見てそう言う。

 
「あれ? どうしたのその銃」

「これはね、ユリコ……だっけ? 兵隊さんが手に入れてきたの。使えるかどうかわかんないから、今から点検するんだ」


 なるほど、確かに並べられたライフルは種類もばらばらで、中には明らかな年代物も混ざっていた。


「手入れしたところで本当に使えるのかな?」

「どうだろうね? ま、なんとかなるでしょ!」


 キャシーがそういって屈託無く笑う。

 
「それに、なるべく急いで仕上げないと! 

サナエさんの話ではある程度の人手が集まりそうだから、近いうちに決行だって言ってたし」

「そう……なんだ」

 アカネが顔を伏せる。やはり、ユリコはアジト襲撃の意思を変えないらしい。だが、しかし……。

 
「や、やりました! アカネさん! 当たりましたよ!」


 ヤヨイの声で我に返ると、彼女が倒れた標的を指差して嬉しそうにしているところだった。

 
「……瓶が割れてないから、当たったのは並べてある台のほうだね」

「えぇ! 今度は上手くいったと思ったのにぃ」


 彼女を、ヤヨイを見ていると不安になる。これから彼女が参加しようとしているのは、練習でなく本物の撃ち合いだ。
 
 付け焼刃の特訓で……彼女が無事に戻ってこれるかは、分からなかった。
 
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 二日後、とうとうその日がやって来た。事務所の前に集まる一行の雰囲気は物々しい。


「それでは、これよりギャングのアジトへ向かいます。準備はいいですね?」

「えぇ、いつでも」


 馬上のユリコの問いかけに、サナエが答える。その後ろにはヤヨイとキャシー、そしてこの日の為に集められた数人の男達の姿。

 
「……アカネさんが見当たらないようですが?」


 一行の中にアカネが見当たらない事に気がついたユリコが、眉をひそめる。

 
「アカネちゃんは……準備があるからって、後から来るそうよ」

「……いいでしょう。時間も無いので、このまま出発します。各自、遅れないようについてきてください」

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6.「アジト」

 数時間後、ヤヨイ達一行は荒野を南へと進み目的の渓谷地帯へとやって来ていた。

 
「ここから、谷に降りていきます。周囲への警戒は怠らないで」


 ユリコが言うには、ギャングのアジトは谷底を抜け、そのさらに奥の洞窟周辺にあると言う。
 
 馬に乗ったまま一行が谷底へと降りていくと、そこには左右に岩壁がそびえる、ほぼ一本道となった道が続く。
 
 その道を、高所からの奇襲を警戒しながら慎重に歩を進めていく一行。手綱を握る手にも、自然と力が入る。


「……静か過ぎるわね」

 先頭を進むサナエの言葉に、ユリコが無言で頷く。

そうなのだ、厳重な警備が敷かれていると聞いていたはずなのに、人の気配がしない。

 
「どこかに隠れてるのかも……」

 だが、とうとう誰にも会うことなく、一行は洞窟の見える場所までやって来た。

このまま洞窟へと向かうか? ユリコが躊躇した瞬間、谷底に銃声が響く!

 
「きゃあぁ!」

 馬の嘶きに振り返ると、悲鳴を上げてキャシーが馬から振り落とされる姿が目に入った。

そして、こちらに向いてライフルを構える男達。それは、この作戦のために町から連れてきた……。
 
 しまったと思った時には遅かった。洞窟の中からもギャングが姿を現し、たちまちユリコ達めがけて、前と後ろから銃撃が始まる。

 
「にゃろうっ!」

 サナエが銃を抜き、後ろに立ちふさがる男達へと撃ち返す。ユリコも応戦するが、状況は明らかに不利であった。

 
「だ、大丈夫ですかキャシーさん!」

 銃撃の中、ヤヨイが馬からおり、地面に倒れるキャシーへと駆け寄る。


「だ、大丈夫……足を撃たれたけど、銃は撃てるよ」

 キャシーがそう言って、苦しそうに笑う。その間も、彼女達の周りを銃弾が通り過ぎていく。

 
「そこの岩陰に隠れましょう……引っ張りますね!」

「ごめん……!」


 そんなヤヨイ達をフォローするように、サナエとユリコがギャングに向かって銃を撃ち続ける。

幸い距離があるため、洞窟側からの銃撃は思うように当たらないようであった。
 
 そのまま二人も、ヤヨイ達が身を隠す岩陰へと移動する。

 
「まずは後ろの連中を倒して、それから……!」

 ユリコがライフルを構え、逃げ道を塞ぐように立つ男達に向けて発砲した。

一人、二人……だが、銃撃の中で狙いを定めるのは困難だ。当たりはしたものの、どれも致命傷ではない。
 
 そうこうしているうちに、洞窟から出てきたギャングとの距離も縮まる。

 
「ぜ、全然当たらないよぉ~!」

 必死に応戦するヤヨイとキャシーだったが、怪我をしているキャシーはともかく、ヤヨイの弾は外れてばかりだ。
 
 だが、それも仕方が無い。突然の奇襲、飛び交う弾丸の中、正気を保っているだけでマシである。

 
 やっとの思いで退路を塞ぐ男達を倒した彼女達だったが、

洞窟から出てきたギャングによって雨よあられよと銃撃を受ける中、退却する事も難しい。
 
 今はまだなんとか凌いでいるが、このまま弾が尽きれば、それこそ一巻の終わりである。

 
「それにしても……お姉さんの目も鈍っちゃったかしら……!?」

 サナエが、リボルバーに弾を込めながらぼやく。町から連れてきた男達が、ギャングとグルだったことを言っているのだろう。

 
「過ぎたことを言ってもしかたありませんよ! 今は、この状況をなんとかするのが先決です!」

 その時、彼女達の頭上を何かが通り過ぎ――はるか後方で爆発が起きた。


「だ、ダイナマイトだっ!」

 青ざめた顔でキャシーが叫ぶ。身動きが取れない現状、岩陰に向かってアレを放り込まれたら、避けようがない。
 
 様子を伺うサナエの視界に、新たなダイナマイトに火をつけようとしている姿が映る。

 
「くのっ!」

 祈るような思いで撃った弾は、ダイナマイトを持つ男の側を無情にも通り過ぎ――そのまま、男の手からダイナマイトがこちらに向かって投げられる。

 
「伏せてっ!」

 激しい爆発音と、体に広がる衝撃。

直撃こそしなかったものの、爆発によって彼女達が隠れていた岩が破壊され、無防備な姿をギャング達に晒す。

 
 だが、絶体絶命だと思われたその時、ギャングの一人が銃撃に倒れた。そして、連続する発砲音と共に現れたのは――。

 
「みんな大丈夫っ!? 生きてるんなら手伝ってよ!」

 馬に乗ったアカネが、ライフルを連発しながらヤヨイ達に向かって走ってくる。

ユリコとサナエも、呼応するように銃撃を再開した。
 
 再び飛び交う銃弾の中、ヤヨイはキャシーを連れてさらに後方へと下がる。

 
「火傷してもしらないよっ!」

 アカネが馬上から、ギャング達に向けて火炎瓶を投げつけると、

引火を恐れたギャング達が慌てて洞窟へと引き返し始めた。それを後ろから一人ずつ仕留めていく。

 
 形勢は逆転し、銃声が鳴り止む頃には地面に転がる無数のギャングの姿があった。

 その一人ひとりに縄をかけながら、サナエが言う。

 
「ふぅ……ナイスタイミングだったわね、アカネ」

「まぁねー。ヒーローは遅れてやってくる……みたいな?」

「アカネさんは、町で留守番だったんじゃなかったんですか?」

 不思議そうに訪ねるヤヨイの頭をわしゃわしゃと撫でて、アカネが言う。

 
「ほんとはそのつもりだったけど……ヤヨイが心配だったから、ね!」

「あ、アカネさぁん……」

「……無駄口を叩いている暇はありません。まだ、洞窟の中の調査が残っています」

「そうだったわね。ヤヨイちゃん! キャシーちゃんをお願い」

「うっうー! 了解です!」

「それでは、行きますよ。残党が残ってるかもしれないので、気をつけてくださいね」

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 数十分後、洞窟に入っていたユリコ達が、一つの木箱を抱えて出てくる。
 
「うぅ……重い」

 地面に置かれた木箱が、ドスンと重たい音を立てる。ユリコが馬の鞍袋から工具を取り出すと、慎重に蓋を外した。


「それが、お目当ての品ってわけ?」

 箱の中を覗き込んだサナエが、ユリコに訪ねる。そこには、銀色に光る粉がぎっしりと詰められていた。

 
「えぇ……これほどの量を見たのは初めてですが……これがスタドリの原料……『カキン』です」

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7.「別れ」

「もう行っちゃうんですか……?」

「はい。任務はコレを持ち帰ることですから」

 渓谷のアジトでの戦いを終え、町に戻った一行に、「カキン」を手に入れたユリコは、休むことなく部隊に戻ると言う。

 
「若いのに真面目ねぇ。もうちょっと肩の力抜けば良いのに」

「絶対、また来てくださいね! 私、まってますからー!」

「えぇ……機会があれば、是非」


 ヤヨイ達に見送られ、ユリコが事務所を後にする。

町の入り口まで来たところで、見覚えのある後姿が目に入った――アカネだ。


「……なんの用ですか?」

「……これ」

 そう言って、アカネが一冊の本を取り出す。

 
「アンタ、本が好きみたいだったみたいだしさ……あげるよ」

「……意外ですね。てっきり、嫌われてるものだと」

「別に、アカネちゃんは無意味な争いがイヤだっただけ。

アンタが仕事に真面目なだけだってのは、ここ何日か見てたらすぐに分かったし」

 照れ隠しか、そっぽを向くアカネに、ユリコが微笑む。

 
「でも……この本は既に持ってるやつです」

「えぇ! そうなの?」

「けど、人から贈られるのは初めてですよ。ありがとう……アカネさん」

「アカネちゃんで良いよ。堅苦しいの、苦手だし」

 二人の間にしばしの沈黙が流れ、ユリコがアカネに一礼をすると、馬を歩かせ始める。

 
 
「今度来る時は、ゆっくりと町をみてみたいですね……アカネちゃん」


「おっけー! その時は、しっかりと案内してあげるよ!」

「ふふっ……楽しみです!」


 小さくなっていくユリコの背中を見送りながら、アカネは別れ際のやりとりと、彼女の笑顔を思い出していた。
 
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――荒野に点在する岩陰に身を潜め、標的がやってくるのを待つ。この時間は、居心地が良い。

一つの事に集中していれば、余計な事を思い出さなくてすむからだ。


「……きました」


 馬に揺られ、目的の人物が近づいてくる。

教えられた特徴と照らし合わせ、本人であることを確認すると、傍らに置いてあったライフルを手に取る。

 
 標的がライフルの射程に入ったところで、引き金を引く。

乾いた銃声が響き、馬上の人物が地面に転がり落ちた。本来ならこれで終わるはずだったが、今回はもう一つ、別の依頼もある。
 
 ライフルを構えたまま岩陰から出て、慎重に標的へ近づいていく。
 
「…………?」

 どうやら、弾は外れ……正確には、殺傷に至るまでのダメージを与えられなかったらしい。

こちらの姿を見て、銃を抜こうとする標的に、再度ライフルの弾丸を叩き込む。

 
 今度こそ動かなくなった標的の荷物を探り、目的の「物」を見つけると、傍らに落ちている一冊の本が目に入る。

 
「……お守りには、なりませんでした……ね」


 ライフルを握る銀髪の少女はそう呟くと、弾痕の残る本が風に吹かれ、

ぱらぱらとページがめくられる様を、しばしの間眺めていた――。

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 予定していたところまで進んだので、以上で一度閉幕となります。
 
 ここまでお読みいただき、ありがとうございました。では。

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