かつて、日本には聖杯戦争と呼ばれる聖杯を手にするための殺し合いが行われていた。
それは今でも各地で行われているが、それらは紛い物の聖杯戦争。
冬木の聖杯は三つの魔術師の家系の協力によって形を成し、権利を得るための戦いとして聖杯戦争をすることになる。
だが、その聖杯戦争は第三回で幕を閉じた。
それ以降、紛い物の聖杯戦争が出回るようになる。
この物語は、『紛い物』に群がる真の聖杯戦争。
ifの重なる聖杯戦争。
このスレは不定期更新になっております。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1454782760
「どう?今日の朝食は」
自分の力作とも言える最高の朝食を用意した。
自分も彼女も今日の為に準備してきたのだ、朝の食事で気合を入れて今日一日を過ごさなければ。
「はい、いつもよりとても美味しいですよ、マスター」
「良かった、和食も中々いけるね」
「―――はい、味付けも完璧です」
日本に来てから和食を始めて食べてみたが、料理好きのボクからしたら未知との遭遇と言っても良かった。
料理好きの癖に和食も知らないのか、何て協会にいた時は言われていたが、実際料理を始めたのは最近であり、和食もあまり食べる機会はあっても食べようと思えなかった。
「しかし、セイバーは本当に美味しく食べてくれるから嬉しいよ」
「ありがとうございます、私もサーヴァントの身である私にも食事を用意してくれているおかげで、生前では味わえない貴重な体験をさせてもらいました」
「まぁ、セイバーの出身はあのイギリス出身だしね・・・」
セイバーは苦笑いをして、「ごちそうさま」と言って食器を片付け始めた。
当たり前にある平和な日常のよう光景。
だが、セイバー・・・・彼女がここにいる時点でそれは『当たり前にある平和な日常』なんて物は存在しない。
彼女という存在は戦うために、ボクを勝たせるためにこの世界にいるのだから。
「どうしましたか、マスター」
「ん、外に何か変な物見えた気がしたけど、気のせいだ」
「マスターがそう感じたのならば・・・」
「待て待て待て」
鎧に着替えようとする彼女をあわてて止める。
ここで彼女が警戒しても意味が無い。
「ボクの目を誤魔化すことは不可能、それを知ってもらいたいんだけどなぁ」
「ですが、そのあなたの目に変な物が見えたのならば、それこそ何時でも剣を取れる状態にするべきです」
「実際、セイバーはいつでも剣を取れるでしょう」
「当然です、私はマスターの身を守るために常に警戒しています」
頼もしい限りだが、常に気を張るなんて辛いことをやらせてると思うと、一ヶ月も早めに召喚したのがちょっと申し訳ないと思ってしまった。
「マスター、別に常に剣を取れる状態ですが、流石に24時間ずっと気を張り続けているわけではありませんよ」
と、考えていることを見抜かれていた。
「この一ヶ月で互いがどのような人物なのか理解できましたし、聖杯戦争を勝ち抜くに上ではマスターの判断は正しいですよ」
「そ、それはどうも」
「あなたはマスターとして、人間としてもとても善良で素晴らしい人だ」
曇りない真っ直ぐな瞳でそう言われると流石に照れる。
セイバーが美人だということもあるが、それに加えて彼女は―――
「アーサー王にそう言われると、ボクも照れるよ・・・それに僕自身がセイバーより善良だと思って無いし」
「いえ、本当にマスターは善良な方ですよ、少なくとも私はそう思いました」
今、自分の顔が赤くなっていってるのが何となく分かる。
褒められて顔を赤くするなんて新鮮な感覚だった。
「褒められてばかりだと何かむず痒いしボクも褒めよう・・・・・・セイバーはちょっと考えが硬いだけで、凄く真面目で素晴らしい人だと思うよ」
「相変わらず、マスターは一言多いですね」
「あはは、朝食の後はデザートもあるから、それも許してよ」
一旦、中断
寝る。
セイバーとボクが読んでいるその人は、アーサー王伝説の主人公。聖剣エクスカリバーを持つアーサーペンドラゴン本人だ。
傍から見れば何を言っているのか分からないかもしれないが、魔術師の間ならば聖杯戦争の単語を出せば納得がいくだろう。
聖杯戦争とは、魔術師が使い魔―――今、未来、過去の神話や史実の英雄を召喚して、戦わせるのが現在『一般的な』聖杯戦争だ。
詳しい仕組みは知らないが、実際に目の前にいるアーサー王や、過去に織田信長、エウロペなどの英雄を目にしてきている。
「話戻すけど、ボクでも見えないものが一瞬見えた気がしたんだ」
「マスターでも見えないもの・・・?」
セイバーは驚いた表情でこちらを見てくる。
それもその筈だった、ボクの左目にある魔眼は『見えない物を見る力』に長けている。
正確に言えば『見えてはいけない物を見てしまう』と言っても良い。
「いやさ、一瞬だけど空に『線』が見えたから驚いちゃって」
「空に・・・・・・?」
「うん、死の線が空に見えるはずなんて無いんだけどね」
死の線、それこそがボクの持っている『直死の魔眼』によって見えるものだ。
直死の魔眼は死の線と呼ばれる物が見えるようになり、その線を切ることによって、切られた部分は寿命を迎えて死に至る。
要は、的確に切れば寿命を殺すことの出来る恐ろしい魔眼だ。
だが、ボクの場合はそうでも無いらしい。
死の線は見えても、線を切ったところで物の強度などの問題が付きまとってくる。
本来の魔眼ならば強度を関係なく切った時点で死に至るらしいが、物の硬さ等で切れないものは殺すことが出来ないらしい。
本来ならばイレギュラーである直死の魔眼だが、その中のイレギュラー中のイレギュラーだと、時計塔に居たときにエルメロイ先生に言われた。
元々、ボクは人類ではありえない力を持った魔眼を先天的に持っていたらしいが、その能力は事故によって三年間の昏睡を得て直死の魔眼と混ざり合ってしまった。
・・・・・・と言うのが時計塔の優秀な人たちによる分析だが、実際にその分析が正しいのかは誰も分からない。
イレギュラーにイレギュラーを重ねた初めての事例に誰もが頭を悩ませた。
「まぁ、生物にしか見えない魔眼なのに、空に死の線が見える何てありえないだろうから、気のせいだよ」
「疲れているのでは?」
「昨日の遊び疲れかな?」
「でしたら、少しでも寝て身体を休めるべきです」
「あはは、なら午前中はダラダラして身体休めるよ」
AM 8:00
【CLASS】セイバー
【マスター】?
【真名】アルトリア・ペンドラゴン
【性別】女
【属性】秩序・善
【ステータス】筋力A 耐久A 敏捷B 魔力B 幸運C 宝具EX
【クラス別スキル】
・対魔力:A
・騎乗:A
【固有スキル】
・直感:A
・魔力放出:A
・カリスマ:B
少しずつ進めていきます、
一応舞台はApocrypha世界のイメージで良いですが、ちょっと設定とかガバガバな部分もあると思うので、
完全に同じって訳ではないと認識しておいてください
*
日本、東京
この東京にある霊地を使って聖杯を呼び出し、アインツベルンの悲願を達成する。
それが私が作られた目的―――
「アイリ、また難しいこと考えてる」
「アーチャー・・・・・・」
「アイリ顔に出やすいから注意したほうがいいよー!」
「にひひ」と笑ってベッドの上で飛び跳ねる少年こそ、私のサーヴァントであるアーチャーだった。
これ程に柔らかく、飛び跳ねることのできるベッドは初めてだといって、ホテルについてからずっと飛び跳ねていた。
「もう・・・アーチャー、ベッド壊さないでね」
「分かってるよー、でもこれ楽しいなぁ!この調子なら飛び跳ねながら寝れるし!」
ボヨンボヨン、と空中で飛び跳ねるその姿には、思わず笑みを浮かべてしまう。
私にも子供がいればこう言う光景なのだろうか。
「アイリも飛び跳ねる?」
「私は良いわよ、それにちょっとやることもあるし」
「やること?」
「うん、さっき送られてきた聖杯戦争の参加者や召喚したサーヴァントのリストを確認しなくちゃね」
「え!もうサーヴァントが分かってるの!?」
「うん、もう聖杯を奪われるわけには行かないから、相当念入りに情報収集したみたい」
紙に書かれたそれは、四人のマスターの情報が載っていた。
「ソル・ルーズヴェルト・・・・・・」
かつて名家として栄えたルーズヴェルトだったが、魔術の実験による事故によって両親が死んで息子一人だけが残った。
その息子であるソルも事故の影響で三年間の昏睡、記憶喪失、先天的に持っていた魔眼も変質して直死の魔眼と近い物に変化する。
召喚したサーヴァントはアーサー王、使用した触媒は『鞘』
「考えうる限り最強のサーヴァントね」
「アーサー王かぁ、ワクワクするなぁ」
「マスターの方は資料があまり載って無いわね」
過去に、他の聖杯戦争で召喚された記録からアーサー王の予想ステータスなどは載っていたが、
マスターであるソルの使う魔術は詳しく載っていなかった。
時計塔に居る以上は、専門としている魔術等が分かっていてもおかしくない筈だが、
考えられるとすれば時計塔に忍び込ませた調査員がしくじったか、
後ろについている『協会』が最重要機密として情報操作を行っている。
この二択だと思ったが、最後に出てきた考えられる想定を思わず口に出していた。
「―――魔術を行使できない?」
ありえない、とその可能性を頭の片隅にとどめて別の紙を見る。
憶測だけで判断するのは危険だと教えられていた。
「後はあまり情報も変わらないわね、遠坂凛と桜、傭兵のセリア・カミンスキー、そして・・・・・・」
「僕たちの最大のライバルだね」
「ええ、本当に最強の敵・・・でも、アーチャーなら超えられるわ」
最後の紙に書いてあるその名前。
恐らく聖杯戦争の中でもっとも厄介、そして実力者であるその魔術師は―――
PM 0:00
【CLASS】アーチャー
【マスター】アイリスフィール・フォン・アインツベルン
【真名】?
【性別】男
【属性】秩序・中庸
【ステータス】筋力B 耐久C 敏捷B 魔力B 幸運D 宝具B
【クラス別スキル】
対魔力:C
単独行動:C
最低系主人公……アーチャー……未来英雄……
いや流石にそんなことは
ハメでやれ
*
「ランサー、調子はどうだ」
「問題ねぇ、いつでも行けるぜ」
赤い槍を担いで表れたのは、ランサーのクラスで現界した英霊クーフーリン。
アルスター伝説に登場する大英雄であり、最強の槍使いと言っていい。
「僕のプレゼントはどうだ」
「アレか、ありがたく使わせてもらうぜ」
「気に入ってもらえたのなら何よりだ」
「そろそろ出るんだろ?俺のほうは問題ないぜ、キリツグ」
「ああ、そろそろ舞弥や他の人間も準備が完了しただろうからね」
「そうかい、一応言っておくが―――」
「分かってる、満足出来る戦いをさせてやる」
「なら良い、俺は戦うために召喚されたからよ、理解のあるマスターは嬉しいねぇ」
そう言ってランサーは霊体化して消えていった。
ハメってハーメルンのことじゃね
衛宮切嗣。
封印指定を受けている今回の聖杯戦争において最強の魔術師とも言えるマスター。
父親を殺して全ての研究を引き継ぎ、根源に至る為の研究をしている。
その研究過程において、様々な紛い物の聖杯戦争に参加し、勝利しているトップクラスの魔術師、マスターとしてもトップクラスの実力者。
「・・・・・・アインツベルンの作る聖杯さえあれば」
彼が父親から引き継いだ全ての研究が後一歩まで辿りついていた。
根源へ至る道、それを驚異的にまで短縮を可能とするのがアインツベルンの聖杯。
そしてそれを手に入れる為の準備は整えてきた。
「シャーレイ、見守っていてくれ」
遠い日の初恋の少女に向けた思いは今も変わらない。
あの日、出会った傭兵と父親のどちらを取るかを迫られたあの瞬間から生き方は決まっていた。
父親に着いていき魔術師として生き、誰かの為に戦える正義の味方になる。
そして、いずれは世界を変える。
「必ず、必ず君を助けに行くよ・・・世界を変えてでも、正義の味方として、君を助けるために」
PM 15:00
【CLASS】ランサー
【マスター】衛宮切嗣
【真名】クーフーリン
【性別】男
【属性】秩序・中庸
【ステータス】筋力B 耐久B 敏捷A 魔力B 幸運D 宝具B
【クラス別スキル】
対魔力:C
【固有スキル】
戦闘続行:A
仕切り直し:C
ルーン:B
矢よけの加護:B
神性:B
>>27
ハールメンのことでしたか
確かにハールメンの方が良いかも知れませんね
*
「ははは、ははははは、ははははははははは!!」
1人、ただ1人闇の中で笑い続ける。
遂にこのときが来たと。
悲願を達成するときだと。
PM 18:00
*
「やっと終わったー!!!」
大学でレポートを書いていた東堂駿は身体を伸ばして達成感に浸っていた。
「あの糞教授、俺に嫉妬して終わらない量のレポート要求しやがって死ねや糞が」
愚痴を良いながらも、普通の学生では終わらない量のレポートを終わらせた達成感で顔はにやけていた。
だが、レポートを終わらせたという事実より、この後に始まる『イベント』の方が重要であった。
教室を出て、外の喫煙所で煙草に火をつける。
レポートを書き上げるまで禁煙すると誓っていた彼は、朝から吸っていなかった。
「半日以上の禁煙・・・・・・達成したぜ、俺は」
ヘビースモーカーである彼にとって半日の禁煙でもイライラが止まらなくなり、段々と情緒不安定になっていくほどの中毒者だった。
自分でも危ないと思っているが、煙草をやめられない身体になってしまった。
半日ぶりに吸った煙草は身体に染み、その喜びに身体を震わせた。
震えはいつしか、これから始まるイベントに向けた震えになっていた。
月を見上げ、その月を掴み取るように手を握り締めて誓う。
「俺は、俺は必ず手に入れる」
煙草を捨て、携帯を高らかに天にかざす。
携帯の画面には『ガチャ更新!SSRフェン登場!!』と映っていた。
「俺はSSRフェンちゃんは絶対に手に入れる・・・・・・!!」
彼が手に入れると誓ったものは、ソーシャルゲームのレアキャラクターのことだった。
「この日の為に俺はバイトをして、ゲーム内の無料配布の侘び石も貯めて、全てを貯めてようやく彼女のトップレアが出たんだ・・・・・・!!」
涙ながらに拳を握り締めて今までの全てが報われると彼は信じきっていた。
彼の画面には『石 3560』と映っており、分かる人が見れば相当な意気込みだと思うだろう。
「一回のガチャで40個の石を消費・・・・・・これだけあれば石の貯蔵は充分だ・・・・・・待ってろよフェンちゃん!!」
彼はそう言って『10連ガチャを回す』のボタンをタッチした。
ガチャの演出は『魔法陣』からキャラクターや武器などが飛び出すような演出だった。
一つ、二つと目当てではないものが出てきた。
だが、九体目のキャラが出てきた時点でSSRの演出が出てくる気配がなかった彼は、最初の10連ガチャを諦めた。
「まさか最初の10連で当たると思っても無い、いくら外したところでフェンちゃんが出てくれれば・・・・・・なっ」
最後の10体目、携帯の画面に飛び込んできたのはSSRの演出だった。
驚きを隠せない彼は『まさか最初の10連で来るのか!?』と目を血走らせて携帯の画面を見ていた。
画面ではキラキラと光ながら白い煙が魔方陣から飛び出し、通常のSSRの演出には無い特別な演出。
更には『汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に』と召喚される呪文まで映し出される豪華な演出になっていた。
「ま、まさか演出に専用の召喚呪文まで飛び出す優遇っぷり・・・・・・!?」
あまり豪華さに思わず涙目になっていた。
「運営も粋な事しやがって・・・・・・!!!」
と、最高の演出に感動しながらも、何か違和感を感じた。
召喚の演出があまりにも長い、だが、その程度ならまだ良い。
問題は自分の周囲が霧に包まれていたことだった。
何故?応えは簡単だった。
「お、俺の携帯から煙が吹き出ている・・・・・・!?」
携帯の画面からは煙が吹き出ており、更には先程まで映っていた白い光も飛び出していた。
何が分からず携帯を思わず手放してしまい、地面に落してしまった。
その瞬間、一層濃い煙が吹き出て辺りの景色が見えなくなってしまった。
「なんだよこれ!!」
先程のまでの感動から一転、彼は不安と焦りで怯えていた。
何が起こったのかまるで理解できない。
やがて、数秒で煙は薄くなっていき、彼の目の前には一つの人影があった。
悪戯でこんな凝ったことをできる友人は彼にはいない。
では、目の前の人影は誰だ?
「だ、誰だ・・・・・・」
恐る恐る、声を出して尋ねた。
返事は返ってこず、その代わりに段々と姿が見えるようになってきた。
「―――――」
その姿を見た彼は絶句して、ただ見惚れた。
雪のように白い肌が映えるような黒いドレスに、白銀と黄金のグラデーションの髪。
紅い瞳に黒い角、整った顔立ちは彼が今まで出会った女性の中でも一番の美人だった。
先程までの感動も困惑も消え去り、唐突に現れたその女性に見惚れていた。
「―――お待たせいたしました」
その女性は口を開き、そう言って跪いて頭を垂れる。
「サーヴァント、キャスター」
聞きなれない言葉を口にして目の前の女性は手を握り締めてきた。
「召喚に従い、参上致しました」
一転二転と、状況の変化に耐えられず、ただただ目の前の女性に見惚れるだけになっていた。
PM 21:00
PM 11:55
「準備はいい、桜」
「うん、私は大丈夫だよ、姉さん」
東京のとある霊地で召喚陣の前に姉妹が手を繋いで時を待っていた。
五分後、聖杯戦争は開幕する。
彼女達は聖杯戦争の開幕と同時に召喚を行うつもりでいた。
「遠坂の為にも、聖杯を必ず持ち帰るわよ」
「うん、分かってるよ姉さん」
姉妹の魔術師、五大元素と虚数魔術の希少価値の高い一流の魔術師。
本来の魔術の家系ならば、魔術を伝えるのは一子相伝と決めていた遠坂だったが、
聖杯と言う根源への一つの道を失った遠坂は希少な才能を持った二人の子供が生まれたことから、
どちらにも魔術を教えると言う賭けに出ることにした。
その賭けは成功し、優秀な二人の魔術師が誕生した。
「桜、もし聖杯を自由に使ってよかったら何に使いたい?」
「え?」
凛の意外な言葉に戸惑う桜。
もうすぐ大事な儀式だと言うのに、冗談を言ってくるとは思わなかった。
「私だって緊張するんだから、このくらいの冗談には付き合ってよ」
と、桜から視線を外し、少し顔を赤らめながら言う。
(姉さんはいつだって私の手を引っ張ってきてくれたけど・・・・・・うん、そうだよね)
「・・・・・・ふふっ」
「なっ!?何でそこで笑うのよ!?」
「ふふっ、何でですかね?」
「う~いつから桜はそんな意地悪になったのよ・・・・・・そんな意地悪なことしてたら弓道部の先輩には振り返ってくれないんじゃない?」
「なっ――――!?」
「名前は何て言ったかなー確か・・・・・・」
「ね、姉さんには関係ないです!!」
大事な儀式を前にこんな賑やかにしていても良いのだろうか。
いや、互いに緊張しているからこそ賑やかにしていた方がいいのだろうか。
「姉さんは、もし聖杯が使えるとしたらやっぱりお金?」
「そうね、沢山あればお父様も面倒な資金面の管理もしなくていいでしょうし」
「姉さんらしい」
「そういう桜は?」
「私は―――」
ピピッ、と口に出す前にタイマーが鳴った。
召喚の時刻を知らせるためにセットしていたものだ。
「応えはまた今度聞くわ、準備は良い?」
「うん、姉さん」
手を繋ぎ、互いに魔力を高めあう。
『閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ
繰り返すつどに五度。
ただ、満たされる刻を破却する』
「セイバー、準備はいい?」
「ええ、何時でもいけます」
魔眼を持つ者と最強の剣士は互いの信頼を持ち。
『―――――Anfang』
「アーチャー、最初は誰と戦いたい?」
「そうだなぁ、やっぱり待ちきれないから―――」
ホムンクルスと小さな戦士は一つの目的の為に。
『――――――告げる』
「ランサー、人目につかない限りは自由に戦っていろ」
「へへ、話の分かるマスターで嬉しいねぇ!!」
時の魔術師と赤枝の騎士は契約を行い。
『汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ』
「■■■■■■■ーーーーーー!!!」
「さぁ、往くぞ」
求め続ける者と狂戦士はただ欲望のまま。
『誓いを此処に。
我は常世総ての善と成る者、
我は常世総ての悪を敷く者』
「キャスター・・・・・・さん?」
「はい、ご主人様」
平凡な学生と魔術師は戸惑いを胸に。
『汝三大の言霊を纏う七天、
抑止の輪より来たれ』
(遠坂の為、桜の為に)
(私は、姉さんの為に)
姉妹は互いの為に。
『天秤の――――――』
*
「っ!?」
目に激痛が走る。
体中が熱い。
呼吸が出来ない。
「マスター!!」
「はぁ、はぁ、ありがと、う・・・・・・」
「無理をしないでください、しばらく鞘を持っていれば落ち着く筈です」
「あ、ああ・・・・・・」
ボクが急に倒れこんだのを見たセイバーはボクの胸に剣の鞘を当てきた。
鞘の効力により所有者の傷は癒えてゆく。
初めてその恩恵を受けたが、想像以上に楽になれた。
「ありがとう、セイバー」
「いえ、ですがどうしました?」
「分からない、身体を急に引き裂かれてたような感覚がして・・・・・・まるで」
まるで、何だ?
思い出せない、どんな感覚が自分を襲った?
一つ覚えているとしたら、アレは『死』感覚だった。
昏睡中に見た、深い深い死の感覚。
「・・・ごめん、思い出せないや」
「無理をしないでください、聖杯戦争は始まりました、マスターがその調子では心配です」
「セイバーの言うとおりだ、ごめん」
「いえ、今日は様子見にしましょう、情報を得ることも大切なことです」
「ありがとう」
セイバーに鞘を返し、起き上がろうとした。
あまりにも違和感なく溶け込んでいたので頭上の『線』に全く気がつかなかった。
「マスター?」
「セ、セイバー、空に違和感はあるか?」
「空、ですか」
セイバーは上を向き、キョロキョロと見渡すが。
「特に違和感も無く、敵もいないようですが」
「じゃあ、やっぱり」
セイバーに見えず、ボクにだけ見える『線』
考えたくはなかったが、やはりアレは『死の線』
今朝空に見えた『死の線』は気のせいなどではなかった。
「セイバー、一度拠点に帰ろうか」
「わかりました、肩を」
「ありがとう」
聖杯戦争が始まった瞬間、何かが変わってしまった気がした。
ありえないことが起きる、そんな予感だけが自分の頭の仲をグルグルと回っていた。
(空に死の線、か)
分かりやすい形で最初に現れたその違和感。
さっきの身体の痛みはあの死の線が起こしたのか?
それともボクの身体がおかしくなったのか。
いずれにせよ聖杯戦争は始まった。
この違和感も戦っていくうちに忘れていくだろう。
今までと同じように。
【CLASS】セイバー
【マスター】ソル・ルーズヴェルト
【真名】アルトリア・ペンドラゴン
【性別】女
【属性】秩序・善
【ステータス】筋力A 耐久A 敏捷B 魔力B 幸運C 宝具EX
【クラス別スキル】
・対魔力:A
・騎乗:A
【固有スキル】
・直感:A
・魔力放出:A
・カリスマ:B
マスター:ソル・ルーズヴェルト
時計塔の学生。元々は由緒正しき家の人間だったが、両親が行ったとある実験の失敗で没落。
両親はその実験で命を落し、ソルは三年間の昏睡状態に陥った。
今まででも類を見ない魔眼を持っていたが、実験の影響で不完全な直死の魔眼へと変質した。
魔眼だけでなく、魔術の才能も当然あったが、魔術を使っている姿を見た者は少ない。
【CLASS】アーチャー
【マスター】アイリスフィール・フォン・アインツベルン
【真名】?
【性別】男
【属性】秩序・中庸
【ステータス】筋力B 耐久C 敏捷B 魔力B 幸運D 宝具B
【クラス別スキル】
対魔力:C
単独行動:C
【固有スキル】
?
マスター:アイリスフィール・フォン・アインツベルン
アインツベルンのホムンクルス。
今回の聖杯戦争において、アインツベルンのマスターとして参戦。
新たに作られた聖杯の為に、調整に調整を重ねた最高傑作。
アインツベルンらしく、使う魔術は錬金術が主体。
【CLASS】ランサー
【マスター】衛宮切嗣
【真名】クーフーリン
【性別】男
【属性】秩序・中庸
【ステータス】筋力B 耐久B 敏捷A 魔力B 幸運D 宝具B
【クラス別スキル】
対魔力:C
【固有スキル】
戦闘続行:A
仕切り直し:C
ルーン:B
矢よけの加護:B
神性:B
マスター:衛宮切嗣
封印指定を受けている魔術師。今回の聖杯戦争の優勝候補筆頭。
『正義の味方』になるために、父親を殺して研究を引き継いだ。
使う魔術は衛宮家の秘伝とも言える時間操作の魔術。
【CLASS】キャスター
【マスター】東堂駿
【真名】?
【性別】女
【属性】混沌・善
【ステータス】筋力E 耐久E 敏捷E 魔力E 幸運EX(自己申告) 宝具?
【クラス別スキル】
道具作成:A
陣地作成:E
【固有スキル】
マスター:東堂駿
一般人枠。普通の大学生でヘビースモーカー。
義手の研究を行っており、目標は本物の腕より優れた義手を作ること。
まだ評価されてはいないが、いずれは世界に名が知れ渡るであろう。
第一夜
AM 7:00
「戻ったぜ、マスター」
「首尾は」
「アーチャー、バーサーカー、キャスターと一通りは戦ってきたぜ」
切嗣はとあるホテルの一室で三人の仲間と作戦を会議を行っていた。
「アーチャーはどうだった」
「やべぇな、ありゃ」
苦笑いしながらも何処か満足そうな顔をしているランサー。
「しっかりと『対策』も立ててやがる」
「勝てるか?」
「ああ、コイツがあれば倒せるさ」
そう言って紅い槍を振り回そうとしたが、振り回せる程の空間が無いと知って大人しく槍を床に突き立てた。
「バーサーカーはどうだ?」
「ああ、ありゃ『駄目』だ」
「と言うと?」
「お前らじゃまともに相対できねぇ、やるなら一流のサーヴァント以外は勝てねぇよ」
「そこまでの相手か、招待は?」
「多分日本の英霊だろうな、おそらく筋力は最高クラス・・・まともに受けたら槍が持つかもわからねえ」
「Aランク相当が妥当か」
「少なくとも、バーサーカークラスと言うだけでアレだけ出せるとは思えないがな」
少なくともランサーからの情報だけなら『A+++』が妥当だろう。
最悪の場合は『EX』、つまり評価規格外の強さを持っていることも想定しなければならない。
「しかし、どういう訳か俺の正体を知ってるのか知らんが、犬を召喚してきた瞬間はゾッとしたぜ」
「・・・犬、か」
切嗣はその英霊が何者なのかを理解した。
切嗣の仲間は分からなかったようだが、切嗣は何処か懐かしむような顔をしていた。
「僕はあまり馴染みが無いが、日本人なら誰でも知っているであろう存在だ」
「その様な英霊がいるのですか、切嗣さん」
「でも僅かなワードだけで正体を絞り込めるなんて切嗣さんはやっぱりすげぇ!!」
切嗣と共に行動する20代の青年と、10代の少年はランサーが上げた特徴だけでバーサーカーの正体を絞り込んでいたことに驚きを隠せなかった。
そして、もう1人の10代の少女は切嗣と同様に何となくだがその正体を理解していた。
「キリツグ、私と同じこと考えてる?」
「だろうね、トキカは日本人だし、感が鋭いから分かったか」
「うん、でも・・・」
トキカと呼ばれた少女は少し暗い顔をしていた。
切嗣もその理由は何となく分かっていた。
「大丈夫だ、トキカ・・・カインやジノ、皆がいる」
「そうだぜ、切嗣さんが頼りにしている俺達がいるんだからよ!」
「ええ、困ったときは皆で助け合うのが僕たちでしょ」
元気に笑う少年のカイン、優しく微笑む青年のジノ。
ジノとカインとトキカの三人は同じ事件で孤児になった。
三人とも両親との海外旅行の途中、テロに巻き込まれて両親が目の前で死んだ。
銃声、叫び声、火薬の臭いと血の臭い。
そして目の前には壊れた建物や無数の死体、生きている人間は怪我で逃げ遅れた大人や子供が数人。
そんな逃げ遅れた人達をテロ組織は拉致して各国の政府に身代金の要求や慰み物に使おうとした。
三人は同じ車に乗せられ、テロ組織の人間達に連れて行かれそうになった。
その瞬間、切嗣が現れた。
切嗣は魔術を使って一分も掛からずに三人を救い出した。
当時の彼らは、不思議な力を使ってバタバタと倒れていくテロ組織の人間達を見て、切嗣は神様か何かだと思っていた。
そうして、切嗣は助け出した彼らを警察に引き渡そうとしたが、
『俺をおじさんの弟子にしてください!!』
と、カインが言い出したのをきっかけに、三人は切嗣に頼み込んだ。
『弟子には出来ない、でも僕と一緒に正義の味方になろう』
そう言って彼らを引き取って、テロ組織等を潰して回る正義の味方として戦うようになった。
当然、魔術も仕込まれている為、魔術師としても戦うことが出来る。
切嗣は世界を回って同じような子供を救って、自分達の仲間にしてきた。
「・・・トキカ、もしもあのサーヴァントが出てきても、君を守ってくれる人は沢山いる」
切嗣はそういって優しく抱きしめた。
もしも、あのサーヴァントが出てきた場合、彼女はショックで立ち直れなくなるだろう。
だが、そんなときは支えてくれる仲間がいると分かれば、彼女はきっと・・・・・・
「・・・キリツグ、ありがとう、みんなも」
「あー、一応マスターがバーサーカーの正体知ってるんだったら何よりだ」
少し申し訳無さそうに、一連の流れを見ていたランサーが言う。
「一応、報告だけはさっさと済ませてぇ」
「ああ、進めてくれ」
「キャスターの奴だが、アイツだけは真名が分かった」
部屋の全員が驚いた、まさかクーフーリンと同郷なのだろうかと。
「何でも、安部清明とかいう陰陽師だとよ」
「なっ―――」
日本の英霊でもトップクラスのサーヴァントの名前が出てくるとは思わなかった。
そんなサーヴァントを呼び出すことの出来たマスターがいるとは、切嗣もにわかに信じがたいと思ったが・・・
「奴らなら、呼び出せるか」
「日本の陰陽師の集団、ですか?切嗣さん」
「ああ、奴らなら触媒を持っていてもおかしくない」
「でも、ランサーは何で分かったんだよ」
カインの的確な指摘だった。
確かに、ランサーとは縁もゆかりも無いような地のサーヴァントを見ただけで正体が分かるとは思えない。
「何でって、あいつ等から名乗ってきたかだ」
「えー!?」
「俺だって驚いたぜ、まさかサーヴァントの方から名乗ってくるとは思わなかったがな」
「罠か?」
「魔術を使っている気配は無かった、騙し撃ちをして戦うような奴だとも思えねぇ」
「ランサーの目で見れば、本物か」
「ああ、少なくともな」
衝撃はあったが、ともあれライダーを除いた全てのサーヴァントを確認を行うことが出来た。
セイバー、ランサー、アーチャー、バーサーカー、キャスター、アサシン。
アサシンは召喚直後だったので、特定は行えなかったが、召喚者を確認できただけでも充分だ。
残るライダーは、切嗣の予想では『マスターの都合』で勝手に目の前に出てきてくれるだろう。
そして『七体のサーヴァント』全てが確認できたのならば、後は詰みに入るだけだ。
「・・・皆、今日の作戦を伝える、他の仲間達にも後で伝えてくれ」
【CLASS】キャスター
【マスター】?
【真名】安部清明?
【性別】?
【属性】秩序・善
【ステータス】筋力E 耐久E 敏捷D 魔力A++ 幸運B 宝具B
【クラス別スキル】
【CLASS】バーサーカー
【マスター】?
【真名】?
【性別】男
【属性】混沌・狂
【ステータス】筋力A+++ 耐久A++ 敏捷A++ 魔力B 幸運A 宝具?
【クラス別スキル】
*
AM 9:00
「えーっと、じゃあアサシンは・・・・・・」
「はい、沖田さんですよ」
0時に召喚した桜のサーヴァントはアサシンを名乗り、更には真名は沖田総司を名乗った。
知っている限り、沖田総司は男性だと言う認識だったので、桜は半信半疑になっている。
「まぁ、細かいことはいいじゃないですか」
「こ、細かいのかな・・・・・・」
「はい、戦場において性別何て関係ありませんよ」
確かに戦場において男か女かは関係なく、ただ殺るか殺られるか。
彼女の考え方は聖杯戦争と言う中では間違っていない。
だが、日本人として歴史を学んできた人間なら、誰しも違和感や戸惑いはあるものだ。
「んー、やっぱり実力で信用してもらうしか無いですね、ステータスも低いですし」
確かに、彼女は元々のステータスが非常に低い上に、『病弱:A』のスキルによって動けなくなる可能性まで秘めている。
普通ならこの様なサーヴァントを呼び出した時点で勝ち上がることを諦めるだろう。
だが、桜はそうは思わなかった。
「確かにステータスは低いですけど・・・弱いとは思いませんよ」
「え?」
「だって、アサシンさんはあの天才剣士の沖田総司なんですよね?」
「ええ、まぁ」
アサシンは天才剣士と言われて少し照れていた。
日本では有名な新撰組、近藤、土方と続いて有名な沖田総司。
それだけで桜は目の前のサーヴァントが弱いとは思えなかった。
「なら、私は弱いとは思いませんよ、アサシンさん」
「何か面といわれると照れますね・・・あと、アサシン『さん』と言うのは」
「何だかそう呼びたくなっちゃいました」
「呼びたくなっちゃいましたか」
だが、彼女が勝ちあがれるという自信を持っているのはもう一つある。
それは、彼女には『二体目のアサシン』がいる。
【CLASS】アサシン
【マスター】遠坂桜
【真名】沖田総司
【性別】女
【属性】中立・中庸
【ステータス】筋力E 耐久E 敏捷A+ 魔力E 幸運B 宝具B
【クラス別スキル】
気配遮断:B
【固有スキル】
心眼(偽):A
病弱:A
縮地:B
無明三段突き
【CLASS】アサシン
【マスター】遠坂凛
【真名】?
【性別】?
【属性】混沌・悪
【ステータス】筋力B 耐久C 敏捷A 魔力C 幸運E 宝具B
【クラス別スキル】
気配遮断:EX
【固有スキル】
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