小田氏治の消失 (223)

 この物語はフィクションです。登場する人物は現実とは関係ありません。
最近小田氏治を美化する風潮が有るみたいなので、それの逆を行ってみる事にしました。


闇のあんこうVS特命係(相棒) - SSまとめ速報
(ttp://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1420951004/)

前作のアドレスです。一応時系列的に、前作終了3か月後の夏休み頃で、特命係は主人公ではありません。
ここの小田氏治は、PCゲーム「戦極姫」4と5の小田氏治がモデルです。

午後5時から投下開始予定です。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1453967253



・・・・・ん・・・・・どうやら俺は夢を見ている様だ。どうも江戸時代とかの夢の様だ。
何処かの町にある市場かな?よく判らんが店が並んでいる。

夢だと確信したのは、第一に変な時代劇みたいな情景だからだと言うのもあるが、
近くで、草餅を美味しそうに食べている少女に、あり得ない物が付いているからだ。


犬耳と尻尾だ。あいつが見たら即確保に動くだろう。しかしなぜ周りの人は気にしないんだ?
まあ夢だから何でもありだ。しかし、なんでこんな犬耳少女が夢に・・・・・あれが原因か、
先日妹と、細田監督の新作アニメ映画を見に行ったが、それの影響か?

「はふぅー、さんこののお団子美味しいです。」
「何か一雨降りそうだから、それ食べたら帰るぞ残りは城に戻ってから。」

お付の青年の言う通り、もうすぐ一雨降りそうだ。雷鳴も聞こえている。
少女は、今度は草餅を食べている。本当に美味しそうだ。


絵になるなあとか思っていたら、殺気を感じた。
(朝倉に殺されそうになった時みたいだ!妙な特技が付いてしまったが、その点だけは朝倉に感謝だ。
誰を狙っている!まさか、これは俺のご先祖の誰かの夢か?ご先祖は、犬耳美少女の目の前で惨殺されたのか?)

その時、近くに落雷が有り空気が振動した。そしてはっきりと聞いた。
武者「の仇だ!」

それからは映画のワンシーンでも見ているみたいだった。男は飛天御剣流よろしく凄まじい速度で、抜刀した!
男は一瞬の間も無く、剣を横に薙いだ。


犬耳の飾りを付けた美少女の首が・・・・飛び、反対側の住宅にこんと当たり
路の上に落ち・・・・・・犬耳を上にして止まった。餅を頬張ったまま、しかも元の笑顔のままだ。

今度はゆっくりと胴体が道に崩れ落ちる。周りの奴らは声を出す事も出来ない。
青年「・・・・貴様・・・・」

ようやく青年が唸る様に、男に対峙した時には既に次の行動に移っていた。
刺客は自らの腹に、刃を突き立てて自刃した。

「本懐・・・・なり」
刺客は満足げな表情を浮かべ、その場に倒れ伏した。犬耳少女は未だ笑顔のままだったが、上を向いていた犬耳がへにゃーと
垂れ下がった。腰のあたりから出ている尻尾は、運命に気付いていないのか未だパタパタと揺れ動いていたが、やがて絶命したのか
動きも緩慢になり、やがて止まった・・・・・




キョン「うわああああああああああ・・・・・・」

ニュース「・・・群馬県警と警視庁は、廃棄物処理法違反容疑で東京都台東区の、玩具会社社長○容疑者(56)及び、
会社役員2名と同社従業員3名を本日逮捕しました。3名は5月27日深夜に、群馬県片品村の山中に戦車道関連の玩具
50キロ以上を不当に廃棄した容疑です。戦車道は昨年10月に、茨城県立大洗女子高の戦車道チームが引き起こした殺人事件
…『大洗戦車道事件』により、事態を重く見た第二次宇部政権により、全面禁止とされ売り上げが急激に悪化し返品を保管する
場所がなくなり、不法廃棄したと供述しています。」

夢だった様だ。俺がそのことを認識していると扉がゆっくりと開き、子リスの様に震えながら、天使が入って来た。

みくる「ふええええ、キョン君どうしたんですか?凄い声が響きましたよう。」
キョン「驚かせてすみません。どうも悪い夢をみたようです。」

み「悪い夢って・・・・あのどんな夢・・ですか?」
キ「うーん・・・・思い出せません・・・・」
急速に記憶があいまいになりつつある事は、事実だけど流石に衝撃的なシーンは未だ思い出せる。
しかし、朝比奈さんに話したらひええええとか言って、逃げだしそうなので黙っていよう。

ガラッ
古泉「おや、僕達が2番目でしたか。」
長門「・・・・」

タッタッタツ 古泉が扉を閉めるより先に、軽快な足音が響き・・・・・魔王様が入って来た。

魔王?「ダークナイト・・・・・ううん、ダークレディーが捕まったそうよ。私の予想通りだったわね。」
魔王様こと涼宮ハルヒだ。


キ「お前は確か、特命係の刑事が犯人だと言ってなかったか?」
ハルヒ「言ったかと言われれば言った気にもなりますし、言って無いと言われれば、言って無かったという気になります。」
N村議員かよ・・・妹は鳴き声が、某黄色いゆるキャラみたいだと言っている。

ダークナイト事件・・・いやダークレディ事件は、今年5月頃から関東各地で3件ほど発生した傷害事件だ。
被害者は、凶悪事件を起こした(とされている)容疑者達で、精神鑑定などで不起訴にされている。
某ノートに名前を書くと、相手が死ぬ映画とかでノートに名前を書かれそうな人達だ。

ネットではダークナイト様万歳とか、某死のノートのキラ様の様に崇拝されていた。

5月頃

ハルヒ「ダークナイトは、特命係の刑事よ。・・・ああ若い方ね。」
キョン「おいおい、刑事がいくら悪人でもそんな事件を起こすだろうか?」
ハルヒ「最初の被害者が3年前に、通り魔殺人事件を起こしたのだけど、被害者がその刑事の同級生なの。」

キ「そりゃ本当か・・・ってどこで知ったんだ。」
ハ「東京にいる親戚の人に聞いたのよ。マンションの大家さんをしているわ。」
キ「それなら、動機にはなりえるのか。」

古泉「ありえ無いと思いますね。」
ハルヒ「どうしてかしら?」

古泉「特命係の警部は、警察内部の不正や犯罪の隠蔽とかでも、捜査し圧力にも屈さないそうです。
当然もし相棒が犯罪を犯したら、必ず逮捕するでしょう。難事件や迷宮入り事件を数多く解決しているそうですよ。
最初の事件は仕方ないとしても、3件目までには当然解決しているのでは。」

み「ネットで崇拝されている犯罪者ですよね。そういうのって一番許さない感じがします。」
ハ「むむむ」



ハルヒ「ちょっとキョン、なんで突っ込まないの?」
キョン「何を言っているんだ?」
ハ「何がむむむだ?というのがお約束よ。」
馬超かよ・・・・・

ハ「しかし、動機的にはありえるから・・・アリバイでもあれば、犯人じゃないわね。入院でもしていたという
まさかの展開・・・そう都合よい話は。」
長「そのまさか。」

キョン「何、そうなのか長門?しかも、何処でそんな捜査情報を。」
長「カレーを食べに行こうとしたら、強面の刑事さんが捜査車両の傍で話していた。事件の犯人に重傷を負わされて、
入院していたと。」(即身仏事件)

み「それじゃあ、事件を起こすのは無理ですよ。じゃあ犯人は誰なんでしょう?」
古泉「第二第三の事件被害者が、引き起こした犯罪の被害者遺族の線・・・はどうです?」
ハ「なるほど!」

考えてもいなかったのかよ。もしかして、特命係の若い刑事に恨みでもあるのか?
ダークナイト・・・ダークレディを欺き、別の犯罪組織が敵対者を消そうとし、それを特命係が逮捕。
無論ダークレディーも逮捕されたのだろう。

長門「そろそろ本題に。」

ハ「今年の夏に調べる事が決まったわ。」



今年の春・・・・兵庫県西宮市北高を卒業した俺達、SOS団は揃って東京の某大学に進学した。
ちなみに、高校時のあれやこれの事件でハルヒは神的力はもう持っていない。
特命係の活躍も、戦車道の事件もハルヒとは関係は無い。

この大学に合格したのは、「鬼講師」と化した長門の指導による特訓の成果だ。
古泉の機関は、築いた人脈を使い情報セキュリティ会社になったらしい。
朝比奈さんも、また戻って来て大学生活を楽しんでおられる。


ハルヒがこの大学に進学したのは、叔父さんがこの大学出身の歴史学者で教授だかららしい。
かなり有名な人で、テレビとかで見る事もある。ハルヒが不思議な現象が大好きなのは、半分は
叔父さんのせいだろうなあ。

ハルヒによると、叔父さんは今年も当然研究をしていた。知人の教授と共同で。
しかし、運悪くその知人が怪我をして入院してしまった。当然叔父さんの作業量が倍増し、他の仕事を
する余裕が乏しくなった。

キ「それで俺達に調べてきてくれという事になったのか?」
み「私達が調べて良いのですか…私たち歴史サークルですけど。」

ハルヒは流石に、宇宙人や異世界への入り口を探すのはもう止めた(飽きた?)。
その代りに、今はまっとうな歴女?になった。時々トンデモ論が飛び出すが。

歴女の知人も出来たらしい。朝比奈さんと長門はその人にあった事もある様だが、相手が誰なのかは教えてくれない。
古泉も知らされていないらしい。今は機関はもうハルヒを調査はしていない。


キョン「もしかしてかなりの有名人とか?」
古泉「確かに考えられますね。」

み「そ、それで何を調べるんでしょうか?」
ハ「常陸国のおだ家よ。」

古「織田家ですか、あの辺りに織田一族が居ましたっけ?」
長「恐らく別の小田家。大小の小に、田んぼの田。織田家の方は山形の天童や柏原藩(兵庫県)の
小藩として明治維新を迎えている。」

キ「小田家の方は有名なのか?」
ハ「あまり有名じゃないわね。地元でも織田家と勘違いする人が多いと思うわ。」

小田家は、鎌倉時代源頼朝の家臣で功績を上げて、常陸守護に任じられた八田知家の子孫で相当な名家だ。
尾張守護代家臣の織田家より、家の各なら明らかに上だ。

その後350年以上小田城(つくば市)を拠点に、南常陸を治めて来た。名君はいなかったが暴君も無く、
まあそこそこ公正な統治が続いたのだろう。

しかし、戦国時代になり風向きが変わった 小田氏は北常陸の雄名門佐竹家や、結城氏・・・・宇都宮氏
更には、相模国小田原の北条一族の圧力により次第に形勢が悪化して来た。

1545年の河越の戦い 北条氏康軍が、圧倒的劣勢を奇襲で壊滅させた戦い。
この戦いで古河公方足利家に従っていた小田氏は、これ以降衰退への道をひた走る事となる。


丁度、織田信長が京に上洛を果たした頃、十四代目小田政治は急な病で没した。急遽残された遺児が小田家を継ぐ
事になった。しかし、このときまだ生まれて間の無い幼児だったので、10年ほどは重臣達が協議して運営する事になった。

み「その人の名前は何というのですか?」
ハ「それが全く分からないみたいなのよ。生まれて直ぐに死んだわけでは無いと思うけど。兄か弟がいたみたいだけど、
こっちは、幼少期に流行り病で死んでしまったみたいね。」

長門「そして残された姫君が小田家を継ぐ事になった。」

未だに原因は一切不明だが、16世紀から17世紀に掛けて日本の男女出産比率は異常だった。
その15年前に、シベリア上空で大爆発した隕石が原因だと言う説が有力視されているが、未だに原因は謎だ。

比率が1対2になってしまい、止むを得ず姫武将がお家を継がなくてはならない事が頻発した。
織田信長 武田信玄 上杉謙信 島津姉弟(女4男1)・・・そして、江戸250年の平和を築いた徳川家康。
家康の没後5年ほどすると、この奇妙な現象も急激に収束し男性優位社会が戻って来た。

古「敵方・・・・佐竹家や結城家の文章には名前の記述はありますか?」
ハ「それも、一切載って無いみたいね。お姫様の存在も今回初めて明らかになったそうよ。」

小田家はその後、十数年程侵略されて何とか持ち堪えていたが、本能寺の変の数年前にとうとう佐竹家により崩壊した。
キ「一族の生き残りはいないのか?もしかして皆殺しにされたとか?」

ハ「佐竹や北条に仕官して、最終的には徳川幕府の高級旗本になったりした人もいるそうよ。後は
後年、つくばに出来た谷田部藩や、水戸徳川家の家臣になった人もいるみたい。」


み「小田一族はどうなったのでしょう?」
古「分家が、滅亡数年前に結城家の家臣に。」

ハ「結城家は、北条家が滅んだ後に徳川家の秀康を養子として、迎えているわね。」
キ「秀吉に鶴松が生まれたから、遠ざけたというのが有力だな。」

み「結城秀康は、関が原には抑えとして関東に残ったんですか?」
長「宇都宮に、3万ほどの兵力で。上杉家を阻止し、伊達家に睨みを利かせる事も求められた。」
近年では、秀康に活躍の場を与えない事が目的だと言う意見もある。

関ヶ原後、その功績で越前65万石を与えられ性も松平に復した。

ハ「子孫は福井に居るのでしょうか?」
キ「500石で福井藩士になった、以降の事は書かれていないな。」
古「流石に遠いですね。」

調べたが分家がどうなったのか、資料は存在しないらしい。



日程が決まった時点で、ハルヒの叔父で大学教授である大杉教授に報告する。

教授「皆熱射病対策はしっかりとな。つくばは内陸だから特に用心しなきゃならないぞ。」
古「猛暑日も多いそうですね。」

教授「しばらくぶりに、代官山の小料理屋に行こうかと思ったけど、一段落までは無理かな。」
大杉教授は、キャリア組の人から教えて貰った代官山の店でたまに飲んでいるそうだ。
しかし、キャリア官僚がそんな小料理屋で食事とは少し意外だ。でも、官僚と言えども気の合う友人や、
行きつけの店もあるだろう。隠れた名店みたいな店なのか?

部屋を出てしばらくすると、朝比奈さんが同年(?)の先輩と話しているのが見えた。

み「じゃあ今年は、近江神宮に応援に行けないんだ。」
先輩「家の仕事で・・・・浴衣フェアが今年は茨城であるから、手伝いに行くように頼まれて・・・・」

朝比奈さんも、先輩もどっちも俺達より年下に見える。先輩は、かなりの歴史を持つ老舗呉服店の
一人娘だそうだ。近頃の悩みは聞くところによると・・・

ハ「闇のあんこうチーム・・・・通信士の人と声が似ているっていう噂…そんな事気にしなくても良いのに。」
先輩は、ハルヒとは違うんです。

今日は初回なので、ここで終了します。続きは明日。今回も最後まで制作は終了しています。


戦極姫4の小田氏治を知りたい方は、

ttp://www.nicovideo.jp/watch/sm19910267?ref=search_key_video
戦極姫4上杉家ルート動画を、この中である武将イベントで小田氏治のイベントがあります。
ここから3つ先の動画まで、小田氏治が登場します。

小説はR-18的シーンはありません。

午後4時から投下します。

では投下を開始します。


7月下旬の週末、俺達は秋葉原駅からつくばエキスプレスに乗って、冷房に安堵しながらつくば駅に向かった。

ハ「今年の夏は冷夏だと言った予報士は、ゆるキャラに入るバイトの刑に処すべきだわ。」
某梨の妖精さん・・・某くまさん・・・ご愁傷様です。


快速は45分で終点つくば駅に到着。つくば市は、日本を代表する学術都市で、多数の大学のキャンパスや
研究所が有る。更に有名な筑波山もあり、観光客も多い。小田氏居城が有った地区は、筑波郡筑波町だったが、
昭和63年11月に、つくば市に吸収合併され消滅した。

キ「末期の小田家は、何度も負けたが家臣は小田家を見捨てず、何度も立ち上がったとか、
小田城を占領した、新領主には年貢を払わず小田家にこっそりと届けたとか。」
古「所謂美談ですね。しかし、本当の話でしょうか?」

み「三国志も有名なエピソードの多くは、後世のねつ造です。なんか悲しくなっちゃいます。」

15分ほど歩き、資料館に到着する。古代からのつくば市の歩みを展示している。
しかし、夏休みだと言うのに観光客はさほど多くなかった。

2階にある、館長室に通される。

ハ「館長さん、お久しぶりです。」
み「えっ、知り合い何ですか?」

ハ「叔父さんの大学時代の同期生なのよ。小学生の頃夏休みに、旅行でつくばに来たことが有るの。」


館長「ハルヒちゃん、発見された文章はかなり信ぴょう性が怪しいんだ。元々模写だし、
それでもかなり古い物・・・・少なくとも模写されたのは90年前から100年前。」
長「明治末期から大正にかけて。」

館長「明治維新の後、秋田から茨城に引っ越して来た旧家の物置を整理していたら出て来たんだ。」
その旧家は、幕末まで久保田藩佐竹家20万石の家臣だったらしい。

佐竹家は太閤秀吉が急激に台頭すると、逸早く北条家を見限り太閤に臣従し、領土を安堵された。
しかし、太閤秀吉の死後鬼義重こと佐竹義重の後を継いだ、佐竹義宣は、三成の親友であった為に、
積極的な参戦はしなかったが、西軍寄り中立の立場を取ってしまい、2年後に常陸太田54万石から、
出羽久保田20万石に移されてしまった。

館長「まあそれはまだ良い。模写でも原典が本物なら価値が無いという事にはならない。実は内容も
相当胡散臭い内容なんだ。」
ハルヒ「かえって面白そうです。」

まあ、ハルヒは宇宙人と未来人と超能力者が大好きだからな。異世界への入り口探しは止めたが、
不思議な話が嫌いになった訳では無い。

キ「質問よろしいですか?」
館長「どうぞ」
キ「小田家の戦国時代に書かれた文章は無いんですか?小田家当主が使用した硯などの道具や、桶狭間の頃までの
文章はあるみたいですが?」

館長「よくぞ聞いてくれた。」
池○さんみたいなノリだ。

館長「小田家末期までの、資料・・・・・70年前まではちゃんと存在したんだよ。」


館長さんは、資料閲覧室に案内してくれた。資料がなぜ存在しないのか、原因を知っている人が来ているらしい。
閲覧室の前には「本日貸切」の札が有った。館長さんが用意してくれたのだろう。

館長「こちら、市役所職員だった太田さん。」
太田「太田です。よろしく。」
一同「よろしくお願いします。」

館長さんは、近くの小学生達が見学に来るらしく、案内の為に出て行った。
太田老人は今年83歳で、当時は中学生だった。

太田「と言っても、昭和20年ごろはほとんど軍事教練や消火訓練や、防空壕掘りや軍需工場での
労働とかばかりで、あまり授業は無かったんじゃな。

太田「皆は、東京大空襲は知っておるかな?」
古「昭和20年3月10日の空襲が有名ですね。一夜にして10万人以上が死亡した。」
太田「確かに3月10日の空襲は有名じゃな。しかし、5月25日の空襲もかなりの被害を出したんじゃよ。
そして、それ以降大都市は余り大規模なB-29の空襲を受ける事は少なくなったんじゃよ。」

長門によると、既に東京名古屋大坂神戸等は空襲で大きく破壊されていた為、以後空襲を受けていない
地方都市に標的は移った。
最初は浜松や静岡等、東海地方の工業地帯が標的だったが、7月に入り内陸部の甲府や岐阜・・・
更に日本海側の福井や長岡までも空襲を受けた。

太田「その頃、小田氏の資料や道具類は水戸市の博物館で保管されていたんじゃが、このままでは水戸も
何時空襲を受けるか分からん。それで急いで小田に移す事にしたそうじゃ。」


み「えっと、もっと山の方に隠した方が良いんじゃないですか?」
太田「それも考えたと思うんじゃが、その当時既にアメリカの空母艦隊があちこちを、空襲していたんじゃ。
連日好き放題飛び回っていたんじゃ。それに車のガソリンはおろか、木炭車の木炭すら不足するありさま。」

夜間何とか小田にあるいくつかの倉庫や物置に運び込む事に成功。 予想が的中し、8月2日深夜120機以上
のB29が水戸市を空襲し、市街地の9割が焼失した。

早めに移動させたことは正解だったので、関係者は一応安堵した。小田氏は余り市民の敬意を受けてはいない。
しかし、地元の歴史の重要な1ページに違いは無かった。しかし、8月15日・・・

午前10時頃・・・数機の米軍戦闘機が小田に現れた。通常なら、低空飛行で機関銃を撃って来る
筈だが、何もして来なかった。

ハ「日本側が降伏するのは確実だから、無暗に攻撃するなと言う指示が出ていたのかしら?」
キ「第二次世界大戦で、最後に民間人を撃った男…と歴史に名が残るのを避けたのかもな。」

太田「10分ぐらいすると、突如東の方向にUターンしたのを、この目で見たんじゃよ。」
長「ハワイオアフ島の太平洋艦隊総司令部から、日本攻撃中止命令が出たと推測。」

太田「空母に戻る時は、機関銃は未だしも爆弾や、対地ロケットとかは全部発射しておかないとならないんじゃ。」
みくる「ひええ・・着陸した時に、爆発するって事ですか。」

太田「B-29も、故障とかで引き返すときは浜松や銚子に爆弾を捨てろと、指令が出ていたそうで両方の町は
かなりの巻き添えを受けたと聞く。こっちの方は、全機誰も居ない水田等に投棄して行ったんじゃが・・・・」

太田「最後の1機・・・・日本側がシコルスキーと言っていた新型戦闘機・・・(F4Uコルセア戦闘機)が、ロケット
を誰も居ない場所に発射しようとした時、一瞬火花が散ったのを見たんじゃ。」


ハ「対空砲でも喰らったのですか?」
太田「いや、反撃は全く無かった。恐らく配電盤が何かの不具合だろうて。その後、2回目は何も起こらず
発射されたんじゃ。」

キ「・・・・・」
太田「6発の対地ロケットの内、4発は水田や用水路に落ちて被害は無し、しかし残り2発が小田家文書を入れた
倉庫に命中してしまったんじゃ。幸い犠牲者は一人も出なかったんじゃ。」

長「倉庫の中は可燃物の山、焼失は免れない。しかも、消防士も若く体力のある人は、徴兵されている可能性が
高い。」

キ(貴重な資料が焼けてしまい残念でしたね、と言うべきか?それとも、犠牲者が出なくて幸いでしたね。と言うべきか?)
古(太田さんも、あまり惜しいとは思ってないようですね)
キ(小田城の本丸跡のど真ん中に私鉄作ってしまうくらいだからな)

み「氏治ちゃんの、道具類も燃えてしまったんでしょうか?」
太田「いや、燃える前の目録に氏治の名前は出て来ないんじゃよ。記載ミスかも知れんのう。もしくは、戦後の混乱期に
誰かが、進駐軍兵士に売ってしまったのかも知れんよ。」

それ以外の道具類が保管された倉庫は無事だった様だ。

ハ「GIには、織田と小田の区別はつかないわね。」


太田老人が帰った後、早速ハルヒは文章を調べ出した。


ハ「小田氏治は、小田家滅亡後徳川家に拾われたみたいね!」


み「ええっ!小田と…当時の徳川家の拠点は今の静岡ですよね。」
キ「駿府でしたったけ、今川家統治時代からかなり整備されていたそうです。」
み「そんな遠くまで、歩いたんでしょうか?」

いやいや、飛行機も鉄道もありませんよ。
古「船は無いとは言えません。水軍の船や、交易船に乗せてもらう事も可能ですね。」

ハ「犬耳と尻尾が付いている氏治ちゃんが、敵の目を逃れて脱出できる可能性は低いわね。」
ちなみに、犬耳と尻尾は氏治の絵姿に書かれていた。多分、誰かのいたずらだろう。

長「犬耳と尻尾はともかく、小田氏治は愛らしい容姿をしている。途中で捕まる可能性は高い。」
み「でも、徳川家に拾われたという事は、無事離脱できたという事なんじゃ?」
ハ「徳川家に骨を拾われた、という事かも知れないわ。」
み「ひえええええ」

キ「戦場の近くに隠れた、という可能性はどうだ。灯台下暗しって事で。佐竹家も、なかなか見つからないと
捜査範囲を広げて、網の目が粗くなってしまい取り逃がしたと思う。」
長「当時は暗視装置もある筈も無いから、夜間の捜索はまず不可能。同士討ちの危険もある。」

古「落ち武者狩りと言っても、当然敵も武器を所持していて反撃するでしょう。小競り合いの間隙に、逃げ出せた
可能性もありますね。」
ハ「結構逃げることは出来そうね。」


小田氏滅亡後、数か月後に氏治は徳川家に拾われた。
氏治は連戦連敗(小田家時代から)だが、真面目で天城軍師から日々兵法や歴史を学び、
そしてまた失敗していた・・・・

キ(どうフォローすればいいんだ)

物資を輸送していたら、盗賊に奪われるもしくは騙し取られる。
危険な岩を除去していたら、うっかり転がしてしまい民家を直撃する。

戦もダメダメで、敗北したり壊走したり撃破されたり・・・・

キ「某国のデファイアント戦闘機の方が、未だ役に立つな。」
ハ「こらキョン!」
キ「すまん、少し氏治にきつすぎたか。」

ハ「違うわよ!、デファイアント戦闘機に謝りなさい。デファイアントは、初陣ではドイツ軍機を60機ほど撃墜したわ。
その後は、夜間戦闘機として多少は活躍したし、訓練機としては地道に活躍したわ。犬耳立ててるだけの氏治より
遥かに貢献しているわ。」

氏治「私、今度もダメダメでした。でも今度はもっと頑張ります。」
軍師や兵士が、氏治を励ます。

み「何かいい話ですね。」
ハ「怪しいわね。」

み「えええ、どういう事ですかぁ;;」


ハ「失敗は成功の元と言うのは、平和な時代の話よ。」
古「科学者の発明なら、失敗しても多少怪我する程度で済みますが・・・・」
長「戦国時代では、一つの失敗が命取りになる。厳島の陶晴賢 桶狭間の今川義元 長篠の武田勝頼。」

何れも一つの失敗や油断で、命落としたり破滅への坂道を転がり落ちた。戦国時代で「失敗は成功の元」
等と言うのは、戯言なのかも知れない。

それと、こんな記述もあった。

氏治「・・私の様な、ダメダメな子が笑顔でいいのでしょうか?」
ソウマ「氏治、上に立つ者が暗い表情をしているのと、笑っているのとどちらが余裕が有る様に見える?」
氏治「笑顔の方が、なんか余裕が有る様に感じると思いますぅ。」

み「いい話ですね。」
ハ「怪しいわね」
み「えええ、またですか;;」

ハ「氏治ちゃんが、かわいい笑顔をしているからと言って、戦いに勝てたり死なずに済んだり、戦死者がよみがえる訳では
無いのよ。キョンもそう思うでしょ。」
キ「確かに、負けてばかりなのにへらへら笑いやがってと、腹を立てる部下が居てもおかしくないと思うぞ。」

み「ふええ、キョン君まで。」
古「着実に成長しているなら、兵士もそう責めたりはしないでしょう。しかし、失敗し続けて犠牲者を出している状況では、
逆効果かも知れません。可愛さ余って憎さ100倍という言葉もあります。」
長「氏治が単なる亡国の姫君として、保護されているならそれでも良いかもしれない。しかし、武将としている以上
部下将兵のみならず、その家族の幸福も預かっている立場。このような態度は、火に油を注ぐに等しい。
しかし、彼女の周囲に居るものは誰も氏治を責めない、理解困難。」


キ「軍師が贔屓とかって拙いだろう。」
古「泣いて馬謖を斬る。の様なのも有る様に、軍師と言うのは損な役回りを、する必要に迫られる
時もあります。名家の出という事で遠慮が有ったのでしょうか?」

ハ「天城家は、元は小田氏の一族だったとか?」
キ「いや、伊豆地方の天城山付近にいた国人らしいぞ。小田氏とは無縁だろう。」
古「祖父の代から松平家の家臣だったので、先代の小田家当主に恩が有ると言った線も、あり得ないですね。」

ハ「病気で亡くなった、妹が氏治ちゃんによく似ているとか?
み「ええと、他に兄弟はいないみたいですよ。」
キ「勝手に妹を造るな。それにしても、氏治を別に保護しなくても良かったのでは。」

長「名家の、子孫を保護する事は悪い事では無い。丁重に扱えば後に常陸国を手にした時に、小田領民を慰撫
し易くなる。それに、年若い氏治を救わずに見殺しにしたら、世間の非難を受けたかもしれない。」
ハ「名士や、賢者を丁重に扱った劉邦は天下を取り、粗略に扱った項羽は滅んだわね。」

み「何故武将として働かせたのでしょう?お姫様みたいに、飾っておくだけでも良かったのでは?」
キ(朝比奈さん、少し黒いですよ!)

長「本来ならそうするべきだったのだと思う?」
キ「何が原因だろう?」

長「人手不足」
身も蓋も無いぞ


松平氏は、15世紀末頃から三河国で勢力を持った一族で、新田義貞の子孫と称している。

家康の祖父松平清康は、後20年生きていれば天下を取れたとまで称された人物だった。しかし、突如配下
の謀反で死亡。これ以降松平氏は長く苦しい時が続く。

家康の父広忠は凡庸な人物で、駿河の今川義元と、尾張の織田信秀(信長の父)に挟まれていた。
遂に今川の圧力に屈して、まだ幼い家康を人質に差し出す。

しかし、家臣が裏切り竹千代は尾張に連れ去られ信長と出会う。
数年後広忠も急死(暗殺説有)。竹千代は人質交換で岡崎城に戻るも、今度は今川の人質にされる。

松平家家中は、戦で常に危険な役割を押し付けられたが、皆辛抱して耐えた。何時の日か元康様が
戻って来られる日の事を。

そしてそれは、突如訪れた。2万5千の兵を引き連れ尾張侵攻を目論んだ今川義元が、織田信長の乾坤一擲
の奇襲攻撃を受け田楽狭間で討ち死に。岡崎城に居た今川家目付は、即日逃げ出した。
ようやく松平家は独立を取り戻し、信長と同盟を結んだ。

しかし、苦難はまだ続く。三河国で一向一揆が起き、家臣団は分裂した。ようやく鎮圧するも代償は大きかった。
家康は、駿河侵攻を目論む武田信玄と、秘密裏に協定を結び西遠江を制圧。曳馬城を浜松と改名し拠点を移す。

しかし、今川家が消滅すると偽りの友好も終わりを迎える。上洛を目指す武田信玄は徳川方の諸城を
次々と占拠。やがて、挑発に乗せられた徳川軍は三方ヶ原の戦いで大敗北を喫する。

徳川方は討ち死に数千人(武田家文章)を出し、多数の勇者を失い最早滅亡は時間の問題かと思われた。


しかし、ここで奇跡が起きる。三河国野田城(愛知県新城市)を降伏させた武田軍は、突如北上を開始。
武田信玄は信州駒馬で病死し、徳川家は最大の危機を免れる。
だが武田騎馬軍団は、未だ健在の為油断は出来なかった。

転機が訪れたのは長篠の戦いだ。意外に思うかも知れないが、武田勝頼は戦闘指揮官としてなら
信玄公に引けを取らない能力を持っていた。東美濃等の織田徳川の城をいくつか占領している。

織田徳川連合軍は、策を用いて長篠城攻撃中の武田軍を、設楽原に誘き出して多数の鉄砲
を用いて、武田騎馬軍団に銃撃を浴びせ続けた。
徳川方の死者はいずれも、足軽雑兵だったが武田方の被害は甚大で、山県昌景、内藤修理、馬場信春、
真田(幸村の叔父)等の歴戦の宿将多数を失い、以後滅亡への道を転がり落ちる事となる。

その後徳川家は二俣城等を奪還。これにより徳川家は2か国を所領とした。
その後織田家は、毛利家や叛乱を起こした荒木村重や別所家等との戦いに拘束され、
武田家とは奇妙な平穏が数年間継続する事になる。


数年後武田家は、往年の精強さも失い疲弊していた。

1 軍費の為の重税や労働で、人々や国人の恨みを買った
2 外交政策を誤り、北条家を敵に回した。


しかし、それでもまだ武田家の領土は甲斐、信濃、駿河の3か国に及びまだしばらくは命脈を保ちえると
思われたのだが・・・・


天正十年(1582年)2月1日 度重なる出兵による費用支払いや、労役にブチ切れた木曽地方の領主木曽義昌
がついに織田方に寝返った。既に、この事を予測していた織田信長と徳川家康は2月3日に武田討伐を決定。

織田家は、嫡子信忠率いる軍団が木曽口(木曽福島)伊那口(飯田線と中央高速が走っている所)及び飛騨、
徳川家は駿河(静岡県)北条氏政軍は、相模から東甲斐(神奈川県から山梨県東部)に進撃を開始。
北の上杉家を除く全ての方位から、大軍勢が殺到して来た。

既に武田家を見限っていた領主は、続々と連合軍に寝返るか降伏開城。もしくは逃走し防衛線は瞬く間に崩壊した。
3月1日に、武田家重臣筆頭の穴山梅雪が徳川家に寝返り、3日後には徳川軍は甲斐への侵攻を開始。

居城を放棄した武田勝頼一行は、重臣小山田信茂を頼り、甲斐東部(今の大月市)を目指すも、その小山田信茂が裏切り
最早これまでと観念した、勝頼主従は天目山で追撃軍に対し、奮闘し全員自害して果てた。

木曽義昌の反乱から、武田家滅亡までわずか40日足らず。これは、350年後の第三帝国軍によるポーランド侵攻や
フランス侵攻作戦の電撃戦と比較しても、遜色無い鮮やかな大勝利だった。
ちなみに、信長は5万の本隊を率いて後続したが、(明智光秀 細川藤孝 丹羽長秀等)は未だ甲斐はおろか、
信濃にも着かず、東美濃の岩村城にようやく付いた所だった。

その後信長は、武田一族や家臣を殺しまくり家康は保護した。3月29日に諏訪で武田領土配分が行われ、
上野国(群馬県 こうずけ上野じゃないよ)→滝川一益 甲斐→河尻秀隆・・・
徳川家は駿河一国を与えられた。これでかつて人質にされていた今川家の領土と同じになった。

その後、駿河国で初めて富士山を見た信長は大宴会を行い、酒が飲めない明智光秀を蹴飛ばした・・・・
と言う話があるが、信ぴょう性は極めて少ない。

この後5月になり、家康はお礼言上の為安土城へ向かうのだが・・・・


家康一行は、5月末に安土城で歓迎の饗応(宴)を受け、その後貿易港の堺(大阪府堺市)を見物する。
しかし、6月2日朝方とんでもない知らせを受ける。

織田信長…明智光秀の謀反により本能寺で自害!

僅かなお供しか連れていない家康は、危険な山越えの末どうにか伊勢を経由して岡崎に帰り着く。
同行していた、穴山梅雪は別行動を取り天罰が下りました;;

数日後織田信長の仇を撃つべく、出陣したが尾張国鳴海(名古屋市)に到達した辺りで、羽柴秀吉軍により、明智光秀は大敗し
死亡した事を知り、直ぐに引き上げた。

その頃、甲斐や信濃は大混乱に陥っていた。

1 あまりに時間が無く、人心を掴む事が出来なかった。
2 降伏した者や、出頭した者も処刑

滝川一益は、北条軍に大敗し本拠地に逃げ帰り河尻秀隆は6月18日に、武田家臣に殺害された。
徳川軍は、甲斐への侵攻を開始。同時期北条軍も碓氷峠から信濃へ侵攻。

兵力は北条軍が有利だったが、徳川軍もゲリラ戦で翻弄し善戦。10月に和睦が成立した。
上野は北条に、南信濃と甲斐は徳川方の領土となった。


徳川家康は、武田家臣や領民を手厚く保護したので多くの家臣や領民は、徳川に好意を持った。
江戸幕府初期の鉱山奉行大久保長安(ながやす)等多数が、旗本や大名に取り立てられた。

しかし、中には「徳川も勝頼様の仇!」と考え、徳川に屈服しない者も居る。もしくは、家臣になったが
機を見て、反逆を目論む者がいないとは限らない。

氏治は、徳川家に含む所はまず無いので、徳川家は武将としても採用してしまった。領土が急激に増えた為、
氏治に対する鑑識眼が、相当甘くなってしまったのだろう。

古「氏治は、常勝の英雄の真逆で無勝全敗とでも言うべきですね。」
ハルヒ「それだけじゃなく、不幸属性なの。何処かの借金執事以上に。」

氏治が進軍すると・・・・

氏治「はふぅー、今日もいい天気です。これなら問題なく・・・」
部下「大変です!イノシシの群れが前方から!右の方向から熊が!」
氏治「ええええええ、どうしてですか!」
氏治軍は、猪と熊に襲撃され戦場に着くまでに、少なくない死傷者が出てしまった。

氏治「えへへ、いい天気です。これなら時間通りに到着出来そうですー。」
突如大雨になって、橋が流されてしまい戦場に大遅刻。結果他の部隊に多大な迷惑が。


みくる「不運な事件に巻き込まれたんですから、氏治ちゃんの責任じゃありませんね。」
古「それはどうでしょうか?」
み「ふええええ。」


古「確かに氏治には、直接的に責任は無いかもしれません。でも、当時恐らく多くの人が迷信を信じていたでしょうね。」
キ「確かに今でも信じる人はいるからな。」
み「もっと多くの人が信じていそうですね。」

ハ「双子が生まれるのは不吉の予兆だから、片方を[ピーーー]かどこか遠くに養子に出してしまう。
とか聞いた事が有るような。」
長「それはお家騒動を防ぐのが目的かも知れない。」

キ「戦に出る度に、アクシデントに遭遇するのは氏治のせいに違いない。そう考える兵士が居ても不思議じゃないか。
ナポレオンも、運を採用基準の一つに考えていたようだし。

古「不運な出来事が連続し、武勲も無くても将兵や天城軍師は、氏治を励ましたみたいですね。」
み「氏治ちゃん一人だけ安全な所にいるのではなく、氏治ちゃんも一緒に巻き込まれて、苦労して生還する
から、活躍が無くても兵士に反感は生まれない。」
長「非常に疑わしい。」

み「ううやっぱり」
ハ「活躍が無いだけなら、まだ我慢できるかもしれないわ。でも、戦闘や領地巡回に出る度に事故で
死傷者がでるなんて、反感が生まれないなんて事はありえないわね。」
み「いくら氏治ちゃんが可愛くても、命には変えれませんよね。


ハ「家康の信頼厚い、ソウマが近くにいるから文句とか言えなかったのかしら?」
長「その様な事をした場合、古の軍なら処刑もありえる。」


み「陰で悪く言っていた人はいたかもしれませんね。」
ハ「流石にそこまで、誰も判らないわね。」
長「しかし、なぜそこまで小田氏治を庇ったのか理解不能。」
古「名家と言っても、もう滅んでしまった家です。そこまで庇わなくても良さそうな。小田の旧領にいる領民
は確かに小田家を慕っていたのかも知れませんが、影響力もほとんど無いでしょう。」

キ「氏治が家康に近い親戚だったら、誰も文句の一つも言えないだろうけど。」
長「その可能性は・・・」
古「皆無という事ですね。」


み「氏治ちゃんは、ソウマさんに兵法とか習っていたみたいだけど、やっぱり難しかったんでしょうか?」
ハ「馬耳東風ならぬ犬耳東風だったのよ。覚えてもすぐに忘れてしまうの繰り返しに違いないわ。」
古「犬耳が本物だとすると、当然それだけ脳の容量が制限される事になりますね。」
長「彼女の性格面に影響した可能性も。」
キ「おいおい、犬耳なんて現実にあり得ないんだから、真剣に悩むなよ。本当に犬耳や尻尾が有ったら
それこそ物の怪として、討伐されるんじゃないか?」

流石に全員犬耳は後年文章所有していた、旧家の子供が蔵の中で宝さがしでもしていて書き加えたのだろう。
と考えた。まさか玩具という事も無いだろう。現代ならハロウィンの仮装にあり得るかもしれない。

キ「氏治は小田家滅亡後、一人で逃げたのか?」
古「一人で逃げれるでしょうか、世間知らずの姫君だと思いますね。少なくとも腕の立つ護衛や、武芸の心得が
ある女中さんとかが、同行したのでは。」
み「でも、数が多いとかえって敵軍に見つかって危険ですよぅ。」


ハ「水戸黄門でも、西山荘の黄門様の所に助けを求めに来る人は大体二人ね。多くても三人。」
古「その内の1人はかなりの割合で、命を落としますね。そして残った人は黄門様の一行に加わりますね。」
キ「何も時代劇と比較しなくても。」

ハ「西山荘は常陸太田市にあるわ。氏治のお城も同じ茨城県!比較するのにちょうどいいわ。」
長「地産地消」
長門、明らかに使い方を間違えているぞ。

古「小田氏治は、例の怪しげな伝承が正しければ住民に愛されていた筈です。匿ってくれる人も多いでしょう。
数日潜伏して脱出した可能性も。」
キ「しかし、中には密告して貰える黄金に目が眩む人も居たかもしれないぞ。」
み「時代劇にも居そうですね。家族の薬代の為に止むを得ず悪人の言う事を聞いてしまう人とか。」
朝比奈さん、時代劇の研究でもしてるのか?

ハ「まあ、小田領を出て・・・・武蔵国位まで行けば、かなり危険は少ないかも。」
古「確かに、その当時はNシステムも無いでしょうから。」
第一、警察組織すら無いぞ古泉。
長「北条家の治世は安定している。盗賊の危険も少ない。」
北条家の治世は、後に徳川家康が大いに参考にした。

北条家は小田氏と戦った事もあるが、血眼になって追い回すほど憎んではいない様だ。
しかも末期は友好関係だった様だ。

み「あれ、次の所に氏治ちゃんがどうやって駿河府中に着いたか、書いてあるみたいですよ。」
ハ「関東から陸伝いに、交易品を運ぶ船みたいね。江戸時代の菱垣廻船みたいな船かしら。」
長「余裕が有れば、人を乗せる事もあったと書いてある。」
古「恐らく小田原からでしょう。江戸はまだほんの小さい城です。」

江戸が発展するのは、徳川家が太閤秀吉の命令で関東地方に移封された後の事だ。



ハ「氏治と最初に出会ったのは、最近徳川に仕官した…九戸政実とかいう騒がしい武将ね。」
キ(ハルヒと似ている気がするな。)

九戸氏は、陸奥国(岩手と青森)に強い勢力を持っていた南部氏の開祖源光行の第6男
九戸行連の子孫で、代々今の岩手県九戸村付近を所領とした。

数年前、豪勇で知られた南部晴政(はるまさ)が病死した。しかも、幼い嫡子も同じ流行り病で
病死してしまい、たちまち親族同士が後継者争いを始めてしまう。更に、些細な事から家臣の
大浦為信と、南部家直臣の家臣が争いを起こし、挙句勝手に独立してしまう。

政実は、このまま争いが続くのは美しくない。俺様が思い切った行動を取ったら収まるかも知れない。
と考えた。そして、突如弟に九戸家の家督を押し付けて旅に出てしまった。

キ(ますますハルヒみたいな人だ。)
南部家のお歴々は仰天して、結果何とか協議を行い先代の長女の婿である、南部信直が家督を相続する事で
治まった。大浦氏は、1590年に秀吉の小田原征伐の際に臣従し、正式に南部家から独立。津軽氏を名乗り
幕末まで弘前藩として続く。

政実は、盗賊退治や関東の大名に客将として滞在しながら南下。本能寺の変の前年に徳川家の客将となった。
彼は、大酒呑みで大ぼら吹きで騒々しい人物だったが、部下の面倒見は非常によく『気の良い兄貴分』として
部下や同僚からは慕われた。武田討伐で武勲を上げ本能寺の変以降は、
北条家との戦いでも活躍し、今では正式な徳川家家臣となった。

古「家康公が、関東地方に移転した後は彼も所領を与えられますが、意外にもと言うと失礼ですが善政を行い、
領民にも慕われたそうです。」


1585年(天正13年)9月

この年、信州上田の領主真田家との間で戦が起きた。真田家は先代真田幸隆の際に、武田信玄の誘いを受けて
武田家の家臣となっていた。しかし、武田家滅亡後は巧みに上杉、北条、徳川の間を泳ぎ回り領土を保っていた。

昨年徳川と北条は和睦(仲良くやりましょう)する事となった。条件は家康親族の娘を家康養女と言う形にして、
北条氏政(女性です)の息子氏直に嫁がせる。これは問題は無かった。

しかし、他に現在徳川に従っている真田家の沼田城(群馬県沼田市)を、北条家に割譲せよとあった。
これに、真田家は猛反発!

真田昌幸「沼田は徳川に与えられた城では無い!俺たちの力で手に入れた、真田家の領土だ!」
み(替わりの領地をあげておけばよかったのに。家康さんってケチなんでしょうか?それともうっかりさん?)


家康「真田家が言う事を聞かないので討伐しちゃいます。」
徳川8000真田2000・・・・これは勝てる・・・。見事返り討ちに。真田の討ち死に40に対し徳川は、1000以上。
真田家は、大いに天下に勇名を知られる事となる。政実は後詰として出陣し味方の撤退を援護。
ひとしきり暴れて、味方が逃げる時間を作り自分も無事帰還した。

更に、この戦いの最中重臣石川数正が秀吉の調略に引っかかり徳川を出奔。戦をしてる場合では無くなり、
8月には和睦する事が決まった。徳川家康に過ぎたる者と言われた豪勇無双の姫武将、本多忠勝の娘
小松姫を、真田嫡子真田信之に嫁がせる事が検討されている。

石川数正が逐電してしまい、いろんな仕組みを武田式に変更する事になり、家臣達は戦の疲れを癒す間も無く、
対応に追われた。


ある日の夜九戸政実の家に、飲み仲間の本多作左衛門重次(しげつぐ)が訪ねて来た。
本多重次は、直ぐに怒る事から「鬼作左 (おにさくざ)」と呼ばれたが、奉行として公正な統治を行った事で知られている。

九戸「おっ、美味そうな酒じゃないか。早速飲もうぜ。」
早速酒盛りが始まった。
九戸「氏治の事で聞きたい事が有るそうだけど、俺様が判る事なら華麗に答えるぜ。」

重次「氏治と出会った時、氏治は一人で船に乗っていた、間違いないか?何度も聞かれているだろうが、確認させてくれ。」
九戸「一人だったぜ。小田家の家臣や側仕えの女中さんから、氏治を託されたりはしてないぜ。」
重「船の中で、それらしき人も見ていないと?」
九戸「そんなのはいなかったし、重病者やけが人も居なかったぜ。」

ちなみに、氏治が本物の小田氏治と確認した方法だが、駿府に在る寺の高僧が東国へ修行の旅に出ていて、
数年前小田城下で偶然氏治を目撃した事が有り、間違い無いと言った。更に、氏治が家紋入りの守り刀を持っていた
ので本物と取りあえず考えた。

重次「小田原で氏治を目撃していないか?見ていたら同行者がいなかったか、可能なら思い出してくれ。」
政実は少し考え、
九戸「小田原を出る前の日の夕刻に、見た気がするな。確か同行者は居なかったと思う。一人でとぼとぼと歩いていた。
今にして思えば、腹を空かせていたような気もする。」

重「声を掛けたりはしなかったのか?」
九戸「いや、町の子が遊び疲れて帰って来たのかと思ったので、華麗に無視したぜ。それに距離が有って逆光でぼんやり
としか見えなかったから、本当に氏治かどうかは明らかじゃないぜ。本当に小田原の町の子だった可能性もあるな。」
重「となると、それが氏治との最初の遭遇という事になるのかな?」

九戸「いや、もしかしたら以前に遭遇してるかもしれないぜ。」


重次「そりゃ本当か、そうなると小田城の辺りでの事か?」
九戸「恐らくそうだろうぜ。と言ってもこの時も、近くで見た訳じゃない。佐竹方兵士に追われてるのを見ただけだ。
声からして、氏治に間違いないと思うぜのだがな?」

その戦で小田氏は滅亡した。その直前まで、短期間の間政実は佐竹家に客将として仕えていた。
家臣の真壁氏幹とそりが合わずに、佐竹を離れ再び旅に出て、その翌日に小田氏滅亡に遭遇した。

重次「小田氏治を助けはしなかったのか?義理に厚い貴殿らしくないぞ」クスクス
九戸「その直前まで、佐竹の客将だったんだぞ。その敵を助けると言うのは、大方義理に反していると言えるぞ。」
重次「ま、確かにその通りだ。」

九戸「みっともない話だが、助けたくても無理だったな。」
重次「腹でも下したのか?」
九戸「財布をすられて、そいつを追いかけていたんだ。」

重次「お前さんから、財布をするとはかなりの腕だな?」
九戸「偶然目が合わなければ、気が付かなかったぞ。あの身のこなし忍び崩れじゃないかな?」
重次「良く取り戻せたな。」

九戸「足も大変速くて、流石に俺様も諦めかけた。その時佐竹方の鉄砲弾が数発、泥棒の足元でさく裂した。」
重次「流れ弾か・・・・もしくは、小田方の兵士と勘違いして撃ったのかも知れんぞ。」
九戸「俺が佐竹に居た事を知っていて、勘違いしたのかも知れんな。盗人野郎は仰天して、反射的に俺に財布を
投げてしまった。」

重次「そりゃ良かった。それでそいつは死んだのか?」
九戸「川に落ちた・・・と言うより、自ら飛び込んだように見えた、泳いで逃げたんだろう。名前は
確か何とかごえもん不覚だったとか呟いていた。」


九戸「さしもの俺様も、疲労困憊して小田方を助ける事は無理だった。戦場から少し離れた見晴らしの良い
高台で、のんびりと高みの見物と言う訳だ。」

戦いは最初から、佐竹方が押し気味(優勢)で進んだ。小田方は最初から腰が引けていた。
無論勝っている方も、無傷では済まない。止めを刺そうとして周囲への気配りが疎かになり、別の兵士に討たれる者。
運悪く流れ矢に当たり倒れる者。しかし、佐竹方が一人倒れる間に、小田方はその倍以上の兵士が倒れていた。

九戸「今思い出したが、少し奇妙な事が有ったな。」
重次「気になるじゃないか。もったいぶらずに教えてくれ。」
九戸「半時(1時間)もしない内に、氏治と思しき子は一人で逃げ回っているみたいに見えた。不思議な事に
誰もそれを助けようとしないんだ。せめて弓矢で氏治(?)を追尾している奴らを、けん制したり足止めくらいしろと
思ったが、それすらもしないんだ。」

重次「不利な方は、自分の身を守るだけで精一杯だからな。誰も責められんかもしれん、三方ヶ原はまさにそうだった。」

氏治?「はぁはあ、追いかけて来ないで下さーい。」
氏治?「ううっ、いつまで逃げ続ければよいのでしょうか・・ぐすん。」
氏治?「ああっ!・・・・・あぅーい、痛いですぅー。」(転んで転倒)

九戸「その後、両軍の兵士に視界を遮られて氏治は見えなくなった。」

重次「本当に氏治だったのか?」
九戸「うん?」
重次「あまり一家の主たる武将の台詞とも思えん。」
九戸「運悪く戦に巻き込まれた、ただの娘さんだったのかもな。」


み「追われてた子は、氏治ちゃんなのでしょうか?」
長「8対2・・・ちなみに氏治が8・・・後の2は運悪く、戦に巻き込まれた近くの領民。」
古「確かに、誰もかも一切助けようとしないと言うのは、やはり巻き込まれたただの一般人だからというのが、
筋が通っていますね。遠くから一人を見分けるのは難しいでしょう。」

キ「流石に落ち延びる際は、誰かは護衛したと思うぞ。」
ハ「恐らく氏治を追手から、守る為に犠牲になったのかもね。」
古「もしくは、傷を負い途中それが悪化して亡くなってしまった。だから小田原にたどり着いた時は、一人だった。」

本多重次と九戸政実もそう考えた様で、お開きになった。

九戸政実と氏治が再び遭遇するのは、半年以上後の事になる。

船員「おう、そいつが密航者か。」
水夫「兄貴、こいつ兄貴の弁当食っちまいましたぜ。」
氏治「ご、ごめんなさいぃー、昨日から何も食べて無くて。船に入り込んだのは、野宿しようとしたらお宿の人に
追い払われて、しかたなかったんですー。」

船員「てめえ、勝手に入り込んだだけでも許し難いのに、俺様の飯を勝手に食いやがって!海の神様に対する供物と
してやる。航海の安全祈願としてな。」
氏治「そそそ、それって氏治をここ・・[ピーーー]って事ですか?」

水夫「おうよ!密航の上に盗み食いを許したら○○一家の名が廃る。覚悟しな!」
氏治「ひぃぃっ!」

船員は氏治を掴みあげると、お寺の鐘つきみたいに氏治を前後に振り回し始めた。


水夫「鱶(サメ)がお前をお待ちかねだぞ。」
氏治「海の藻屑なんて嫌ですぅ。鱶の餌食なんてもっと嫌ですー。」

ハルヒ「船員は、にやりと笑って氏治を放り出しました。」
み「ふええっ!」
ハ「氏治は、二度三度海面で水切り石みたいに跳ねて・・・。」

氏治「ひぃいい」ザバン
氏治「わきゃっ」ザバン
氏治「だ、誰か助けて下さいっ!う、氏治は泳げないんですぅー。」ガボガボ

ハルヒ「三度目に氏治は沈んで、二度と浮かんでは来ませんでした。」
キ「こらこら嘘を言うな。朝比奈さんがまた怯えているぞ。」

九戸「おい、それくらいにしといたらどうだ。」
水夫「客人の出る幕じゃござんせん。口を出さないでいただきましょうか?」
政実は懐から、銭を取り出す。
九戸「そいつの船賃だ。これで文句は無い筈だぜ。」

船員「確かに頂きやした。おい、その小娘の部屋と寝床を用意してやんな。」
水夫「いいんですかい?」
船員「密航者でも、船賃を頂いたら立派な客だ。」
水夫「アニキがそう言われるのなら。おい小娘命拾いしたな。」ニヤリ

氏治「あああありががががっと、ごごごございました。」ガクガク
九戸「いいから落ち着け、震えていると弾みで海に落ちるぞ。」


このしばらく後、九戸政実と小田氏治の妙な成り行きで出会った、放浪コンビは徳川家に拾われた。
氏治は程なく、天城ソウマと出会う事となる。

1585年9月初め

その日久しぶりに小田氏治は、天城ソウマの家で兵学等の勉強をしていた。上田合戦での敗北と、石川数正出奔騒ぎ
が引き起こした、軍制の変更等の処務に追われていてなかなか時間が取れなかったのだ。

氏治「もしかして、徳川家と上杉家は戦になるんでしょうか?」
ソウマ「確かに、真田は上杉と手を組んだ。真田殿の娘・・確か幸村殿を人質として上杉家に送ったと聞いたよ。
でも今から借り入れの時期だし、それが済むと冬になって雪が積もると、越後から信濃への道は通るのが難しくなる。」

氏治「そうなんですか、今日もありがとうございましたー。」
ソウマ「今日はここまでにしよう。氏治団子屋さんに新しい団子が、入ったそうだから食べに行こう。」

氏治「はいっ!えへへっ、ソウマさんとお団子嬉しいですぅー。」
その時、玄関の方から足音が近付いて来た。
氏治「ふえっ」

それまでへにゃと垂れていた、氏治の犬耳がぴんと立った。
キ「おいおい、まさか本物なのか」
古「ちゃんと書いてありますから、否定出来ません。ああ・・この資料全てがインチキとかだったら別ですけどね。」
みくる「どんな手触りなんでしょうか?触ってみたいです。」
長「高級な筆の様な、手触りと推測。」

ハ「誰が作ったのかしら。」


キ「つまり何だ。本物じゃ無いと。」
ハルヒ「人間に犬耳は生えません。尻尾もだけどね。恐らく小田氏は代々お犬様を崇めて来たのよ。
み「宗教みたいなものでしょうか?」

長「感謝を示す為に、小田氏当主は代々作り物の犬耳と尻尾を身に着ける事を、定められている。」
古「細工師辺りが、高度な技術で作成したのでしょうかね。」
み「当時の日本に、そんな技術有るんでしょうか?」

ハ「信長や家康は、宣教師から精巧な時計を献上されたのよ。南蛮人に出来るのだから、日本人にも当然作れるわよ。」
キ「もしくは、宣教師から南蛮の細工技術が伝達してそれを用いて、我が国の細工師が作ったのかも知れませんね。」
(朝比奈さん、ハルヒが小田城辺りで異世界への入り口探しとか始めると、面倒なのでそういう事にしておきましょう。)
(確かに、その方が良さそうですね。本物の犬耳なんて有る筈ありませんよう。細工物説の方が、はるかに
あり得ると思います。)

み「わあ、当時の日本には凄い技術が有ったのですね。」(棒読み)

さて本題に戻るか、やれやれだ。

ソウマ「どうした?」
入って来たのは、天城家家臣の一人だ。

家臣「久松松平家当主、松平定勝様から火急の要件です。本日速やかに自邸に来られたしとの事です。」
ソウマ「了解したと、使いの方にお伝えしてくれ。」

家臣が出て行き、ソウマと二人だけになると、緊張が解けたのか氏治の犬耳はへにゃりと垂れた。
ソウマ「悪いが、今日は急用が出来たので行くなら一人で行ってくれ。」
氏治「判りましたー。じゃあ今日は帰りますね、ソウマさんありがとうございました。」


松平定勝「忙しい所呼び立てて悪いな。本当は昨日伝えるべきだったのだが、手違いで遅れてしまった。」

家康の母お大の方は、家康が3歳の時に悲しき事情により、松平広忠と離別させられ実家の水野家へ戻らされた。
程なく、兄信元の命により知多半島の豪族久松俊勝と再婚させられる。その後お大の方は、3男3女を生むが
末の息子が、幼名長福丸で元服して松平定勝となる。つまり、家康にとって父親が違う弟という事。

長篠や、武田滅亡戦で功績もあり血筋から見ても、かなりの発言力が有る。場には、本多重次も同席している。

ソウマ「真田との和睦の件でございますか?」
重次「明日正式にお館様から命が下る事になったが、やはりお主に信州まで赴いて貰う事になるな。」
ソウマ「承知いたしました。和睦の内容は決定通りですか?」

定勝「うむ、本多小松姫をご子息に嫁がせ沼田城は真田の領土安堵となる。これは、北条家にも納得して貰えそうだ。
実は、今日お主を呼んだのは、小田氏治殿の事だ。」

重次「そなたは、氏治の面倒を見て手の空いている時に、学問を教えているそうだな?」
ソウマ「氏治は、熱心に学んでおります。気が弱い所が有りますが、向上心を持っております。」

定勝「しかし、失敗ばかりではないか?進軍の合図を失念して、氏治隊だけ進軍が遅れその分他の部隊の被害が増えたり、
夜明け前、一斉に近くの鳥が飛び立ちそれを敵の奇襲を勘違いし、逃げ出したり。」
重次「氏治に教える暇が有ったら、長丸様(のちの2代将軍徳川秀忠)の学問を教え、武術の稽古を付けて貰った方が、
よほど徳川家の御為になると思うのだが」

その後、氏治の失敗についていくつかの質問が有った。


ある時、氏治隊とソウマ隊が徳川を認めない国人の討伐に向かった。挟撃をする予定で、兵力は敵より優勢だった。
やがて氏治と敵軍が遭遇する。しかし、敵の数は事前想定の遥かに多い、3倍も居たのである。
部下に指示を求められたが、氏治は

氏治「ダメです撤退しましょう。多分一瞬で殲滅させられてしまうかも知れません。逃げながら、ソウマさんの隊
が来るまで逃げましょう。逃げながら弓矢や石投げで嫌がらせです。」
逃げながら、反撃する氏治隊。その後ソウマ隊が来て背後から攻撃し勝利した。

ソウマ「氏治の判断は妥当なものと考えます。」
重次「果たしてそうかのう。敵の兵力は後の調べで3倍では無く2倍だったそうだ。これは物見(偵察)が敵の兵力を
過大に見積もってしまったからだ。まあ、これは致し方ないかもしれない。」

ソウマ「氏治の判断は適切だったと考えます。あそこで玉砕していたら無駄死にでした。」
重次「確かに、平坦な土地なら止むを得ないだろう。しかし、戦場は山中の狭い道。いかに敵兵が多くても
一時に全ての兵に攻撃をさせる事は出来無い。更に、守る氏治殿の方が高い所に位置しておる。弓は高い所の方が、
飛距離も伸びて狙いも付け易い。逃げるとしても一定時間留まり高所からの射撃で、敵をけん制しつつ
退く事も十分可能だった筈だ。」

定勝「その戦は、全体的な戦死者は多く出さずに済んだ。氏治殿の判断も、間違っていたとまでは言えぬのかも知れない。
しかし、昨年夏の戦あれはいかん。」

およそ1年前、元武田家臣数百名が反旗を翻した。勝頼様に対する忠誠厚く、以下に徳川家が武田家臣を厚遇していても
彼らはそれを認める事は出来なかった。彼らは山間部に籠り、たまたま甲斐国…それも戦場近くにいた、天城・氏治の両部隊
に討伐命令が出た。

兵力はこちらが有利で、残党如きさほどの事も無いと思われたが。


戦闘開始直前、ソウマはある情報を得た。更に数十名の反徒が敵に加勢した事が明らかに。さほど数が増えた訳では無いが、
敵の士気は上がる。しかも、無敵武田騎馬軍団の一員として、豊富な戦闘経験が有る兵も混じっていた。

そこで、ソウマは部隊を二手に分けて挟撃する事にした。天城隊は、囮として敵を引き付け氏治隊が背後から攻撃する手筈だった。

長「配置は逆の方が良いと思う?」
キ「天城隊は数日前に、甲斐国内で武装盗賊団と、一戦交えて壊滅させたそうだ。」
古「疲労が有ったので、陽動任務に就かせたという事かも知れません。」

一方、背後から敵を攻撃せんとする氏治隊は気勢を上げていた。

氏治「皆さん、今から敵の背後から奇襲します。頑張りましょー!」
笑顔で、犬耳をぴんと立てて気合を入れる氏治・・・・・

ハ「この犬耳娘は・・・どこかのヒステリー参謀と同レベルの頭しか無いのね。」
み「そ、そんなあ。」
ヒステリー参謀とは、声優の古谷氏が「この人物だけは好きになることが出来ない。」と語っている。

長「奇襲をする側が気炎を上げたらたちまち敵に気付かれる。」
キ「戦闘直前ならありえるけど。」
古「川中島の上杉軍も、妻女山を下り武田に奇襲をかける時は、一切音を立てずに行軍したそうです。」

当然叛乱側も、氏治隊接近に気付いた。彼らは地の利もあったから素早く身を隠し、氏治隊を待ち伏せた。
そして氏治隊先頭集団をやり過ごした所で、側面から全力で氏治隊中央部に攻撃を加えた。

氏治隊はドーリア星域会戦(銀英伝)の同盟軍第11艦隊の如く、中央部を分断され大混乱に陥る。

敵将「こいつは良い、狙いを付ける必要も無い切り付ければ敵を討てるぞ。」


兵士「もうだめだぁ!逃げろ」
足軽「俺も逃げる。」
氏治「はうっ!みなさん逃げちゃだめですよぅー。」

氏治隊は逃げ出すものも出て、討ち死が続出した。
氏治「はぁはぁ、このままじゃ全滅しちゃう。ど、どうしよう。」

その時、何とか天城隊が間に合い氏治隊は壊滅を免れた。更に、形勢も逆転し叛乱軍は追い散らされた。
叛乱軍の主だったものは、討ち取られるか逃げ去り以後歴史から消えた。

氏治隊の死傷者は3割五分から4割に達した。軍事的に3割が戦闘不能になれば、その部隊は戦闘力を喪失したとみなされる。
氏治が死を免れたのは、天城隊が救援に来たからではない。彼女が先頭部隊に居たからだ。

仮に中央部に居たら、戦場に急行して来た天城隊が目にしたのは、あたふたしながら指揮を執る氏治では無く、
血溜りに沈む、氏治の骸であっただろう。

その後帰還したソウマは、こう報告した。
報告書「氏治は敵に故意に発見され、天城隊が駆けつけるまで敵を引き付けた。」

ハルヒ「キョン、何か理解不能な文章が読み取れるのだけど?これは夢かしら。」
キョン「いや現実だ。でも理解に苦しむ事が書いてあることは事実だ。」

古「軍師は、何故このようなあり得ない擁護をしたのでしょうか?それまでの行動を見ても全く理解に苦しみます。」
朝比奈「流石にこれは擁護できませんよう。戦死した人達が可哀想過ぎます。」
長「丸で昔の日本軍みたいな擁護。私なら最低でも当面の間謹慎を申し付ける。」


重次「これは流石に、看過できぬ。氏治殿が日々向上心を持っている事は、理解している。しかし、成長も無く
徳川家の将兵のみならず、領民にまで被害を与えるのを、これ以上放置する訳には行かぬ。」

定勝「お主は軍師である以上、将を見捨てる…使えぬと見放す事もまた軍師の職分だと思う。氏治殿を傷付けたくない
という事は解るが、それが許されるのは軍師では無い。厳しい軍律を持った諸葛亮なら、躊躇せず氏治殿との交友を絶って
氏治殿を処罰したであろう。」

ソウマ「今後はもっと氏治を厳しく指導致します。もうしばらく様子を見て頂けませんか?」
ソウマが、必死にとりなしたが重次は手を上げて発言を遮った。

重次「実はな、氏治の事を案じる町人がこう言って来たのだ。氏治の事が心配だ、町で私達共に暮らさないかと。
検討してみてはどうかな?小田家は、もう氏治殿以外に跡継ぎも居ない。危険な戦場に出すのもどうかと思う。
市井の民として、平穏な日々を送らせるのも良いと思うのだ。」
定勝「そこまでいかずとも、氏治は駿府の町人から可愛がられている。氏治殿には今後、そうさの町人が不満に感じている事
や改善して欲しい事を、上に伝える役職をしてもらってはどうかと考えている。」

しばらく検討したいと言葉を濁したソウマは、早々に立ち去った。
ソウマが立ち去って程なく、今度は本多正信がやって来た。本多正信は、家康側近として仕えている参謀の一人だ。
ちなみに、重次とは親戚では無い。

正信「話は纏まりましたか?」
重次「検討するとは言っていたがな。」
定勝「しかし、天城殿の態度解せぬ。あやつは、古くから姉上(家康)に仕えている。知略に優れ、よく姉上を支えておる。
知略に優れるだけでは無く、武芸にも優れている。」

正信「長篠の戦い等では、敵将を討ち取る武功を挙げておりますな。文武両道というやつですか?」
重次「そろばん勘定しかできぬ、お主より遥かに役に立つわな。しかも、お主は肝心な時に、徳川を飛び出して
放浪しておったではないか。ガハハ。」


本多正信は、三河一向一揆で敵方に付いて戦いその後も帰参せずに放浪。あの松永弾正久秀の家臣になったり、
伊勢長島の一向一揆軍に加勢したりしていた。そして信玄死後ようやく徳川家に帰参した。(時期については史実でも諸説が)

甲斐信濃平定後、多くの武田家臣を仕官させる事に尽力し、治安を安定させた。
しかし、徳川家が苦しい時に出奔していたので悪く言う家臣も多い。

本多Tさん「あやつは腰抜けでござるよ。」
同僚のSさん「腹が腐っている。」

正信「駿府町民との交渉係、天城殿は用済みと宣告する事になるので(武将として)、気乗りではない様子だが、
お館様の上意という事で、押し通してしまえば良い。」
重次「またそんなお館様を利用する策を、進言するから嫌われるのだ。」
定勝「しかし、手段としては正しい。氏治殿が不満なら徳川から出て行ってもらうまでよ。」

その後夜になり、食事をしながら正重が九戸政実から聞いた氏治の話を、披露した。

定勝「すると、氏治殿は一人で、小田から小田原まで逃げてきた可能性が有るのか?」
正信「意外に根性が有るという事か?」
重次「お主より遥かにな。」

正信「北条氏の治世は安定しているから、盗賊も少ないだろう。それに氏治年少で愛らしい容姿をしている。
助けてくれたり、食事を恵んでくれる人も多いだろう。」
重次「そのまま、良い人に拾われて市井の民や百姓娘として、穏やかに暮らせば良かったのに。」
定勝「氏治殿が、いずれそう後悔する日が来なければ良いが。まあ、甲斐信濃の治安も安定した。
もう戦に出す事もあるまい。」

ソウマが真田家に和平交渉に出ている間に、氏治を駿府町民との交渉役と、失敗しても被害の少ない
仕事だけをさせるように、家康に進言する事になった。


天城ソウマは2日後に、信濃国上田を目指し出発。氏治を閑職に廻す進言も、その日の午後に行われた。
家康は、自身も織田今川の人質として不自由な少女期を送らされていて、氏治の境遇には同情していた。
正信達は、その点を巧みに突く形で進言したので、家康も了承。

根が単純で(素直とも言う)、人を疑わない氏治も、
氏治「町の人ともっと仲良くなって、力を合わせて町を良くしていきますぅー。」
と、ふぬーと気合を入れて新しい仕事(実質は左遷)と始めた。

氏治は、駿府町民の多くから実の孫娘の様に、可愛がられていたので問題も起きず、
町民が言っていた、改善して欲しい事やどこそこの宿屋に怪しげな旅人が居る、といった情報を伝えていた。

9月末のある日、駿府城下では収穫を祝う祭りが行われていた。多くの出店や、稼ぎを目論む旅芸人や上方(京大阪)
の商品を商う商人の店が並び、多くの人で賑わっていた。
氏治は、よく団子を買いに行く団子屋さんの娘さん・・お鈴さんと共に、お祭りを楽しんで居た。

お鈴「揚げたこ焼き・・・聞いた事ないわね?氏治ちゃんは知ってる?」
氏治「うう、普通のたこ焼きなら食べた事ありますけどぉ。」

客「京大坂で流行りの新しいたこ焼きらしいよ。」
氏治「それじゃあ、二つお願いします。」
商人「熱いから、気を付けて食べなよ。」

氏治「はふっ、はふっー 外はさくっとして中のタコは、新鮮で美味しいですぅー。」
お鈴「この卵と酢を使った付け汁もおいしい。揚げたこ焼きによく合うわね。」

二人は揚げたこ焼きを食べながら、大勢の人で賑わう通りを更に進んでいく。

ザッ



ヒュンッ バシツ

氏治「ヒウッ 痛いですぅー。」
氏治が後ろを見ると、子供の拳位ある大きさの石が、足元に転がっていた。

お鈴「誰なの、氏治ちゃんに石投げたのは!」
お鈴を周囲を見回し、睨み付けた瞬間

男「この味方殺し!ざまあみろ!」
お鈴や、周囲の人が罵声に怯んででいる内に、男は走って立ち去った。お鈴は後を追うとしたが野次馬や、祭りの人で
中々先に進めず、直ぐに見失った。お鈴が戻ると、氏治の知り合いたちが集まり氏治を心配していた。

町人「氏治ちゃん、背中痛むかい?」
氏治「それほど大きな石じゃないので大丈夫ですよ。」
町人「それなら安心だけど、軍師さんに相談した方がよかべ?」
お鈴「軍師さんは、確か今お家の大事な使いで、他国に行っている筈です。」

氏治「氏治を狙ったんでしょうか?うう、戦で亡くなった人の身内とか?」
ばあさん「そんな事ある訳無いよ。日々頑張っている氏治ちゃんにそんな酷い事、する人はいないよ。」
爺さん「きっと、さっきあそこにいた他の誰かに投げたんだよ。暗くて間違えたんだな。」
氏治「そうだったんですか。えへへー、皆さん心配してくれてありがとうございますー。氏治は幸せ者ですぅ。」

お鈴「氏治ちゃん、そろそろ帰ろう。」
氏治「ええと、一人で帰れますよぅ。」
お鈴「さっきのは人違いだから、もう来ないだろうけど。変な酔っ払いが絡んで来るかもしれないから。」

お鈴が氏治を送って行ったが、特に何も起きなかった。


もうお昼なのでハルヒ達は、交代で昼食休憩を取る事になった。

ハ「全員休憩終わるまで続き読んだら、歩いて東京まで帰る罰よ。」
ハルヒ、朝比奈さん、長門がまず1回の喫茶店に昼食を採りに行った。今古泉と二人残っているが、先を見るのは
禁止されているので、議論でもして時間を潰すか。

キ「氏治は、もう戦に出る事は無さそうだけど。これで、めでたしめでたしなのか?今の仕事の方があってそうなのは
確かだが?」
古「いや、戦や内政で部下や領民に犠牲者を出しまくった氏治が、実質左遷でも楽しくふもっふと、楽な仕事をしている。
むしろ反感が増えても、おかしくありません。」

キ「しかし、平穏なのは何故だ?天城軍師の前だけで、氏治に何もしないと言うなら理解できるが。天城軍師は古くから家康
に仕えている、いわば右腕的存在だ。そんな人の前で、可愛がっている氏治の批判とかは中々できないだろう。」
古「陰で悪口を言ったり、何か嫌がらせを企むと言う可能性はありそうですね。限られた歴史資料では、
裏の事は中々わかりませんから。ま、それを解明するのも楽しい事ですが。」

キ「小田家時代も、今判明している限りは領民にも可愛がられていたみたいだ。」
古「幼くして、家督を継がなくてはならない境遇に対しての憐憫もあると思いますよ。しかし、氏治が戦に負ける度に
犠牲者が出て、田畑は踏み荒らされ城下も焼かれる。本当に何事も起きなかったのか疑問は残りますね。」
キ「一人だけ、反発したら逆に周囲の村人に殴られるかも知れないからかも。」

古「小田氏時代は、当主の一人娘という事で強引に納得する事も可能ですが。」
キ「徳川家では完全に外様だ。しかし、直接的に攻撃は受けてないのは妙だ。」

古「しかし、遂にお祭りの夜に攻撃らしきものを受けていますね。」
キ「石を投げられた上に、捨て台詞の罵声・・・・お酒でも入って、気が大きくなっただけかもな。」
古「確かに、花見とかで泥酔して人が変わる方も居ますし。本当に酔っていただけなら、もう何も起きないかも
知れませんが。」

キ「そうで無い場合、当然続きが有る訳か。」


ハルヒが戻って来たので、今度は交代で俺と古泉が食事に出る。帰って来た所で、調査再開だ。

祭りから数日後、どうやら真田家との和睦が成立したとの噂が流れた。

兵士「流石軍師殿だ。真田は手強いが味方にしたら頼もしいかもな。軍師殿はもう戻って来られるのか?」
兵士2「噂じゃ、碓氷峠から関東に出て小田原の北条家を訪問してから、帰られるらしいよ。恐らく、北条家も
早く上洛して、太閤殿下に謁見した方が良いですと、釘を刺すのだろう。」

その日氏治は団子屋で買った団子と草餅を、城下の見晴らしが良いお気に入り場所で、食べようとうきうきと歩いて行き、
手ごろな石の上にちょこんと、腰かけた。

氏治「ソウマさん、もうしばらくしたら帰って来るそうです。氏治がふぬーっと頑張っているところ見てもらって、たっぷり
誉めて貰いますぅ。えへへっ」
氏治は、あむっと口を開けて草餅を食べようとした。

氏治「ひゃっ!」
俄かに、誰かの手が伸びて来て草餅が掻き消えた。慌てて氏治が前を見上げると、男が氏治の草餅を持っている。

氏治「あのー、その草餅は氏治のですよぅ。返して下さい。」
男「すまん、返してやるよ・・・・土になっ!」
氏治が草餅を受け取ろうと、手を伸ばすより早く男が、餅を地面に投げ落とし草履で踏みつける。

氏治「ああっ!酷いですぅー!グスッお餅返して下さい!」
男「味方殺しに美味い草餅は勿体ない。生の草餅でも食わせてやる。」
草餅の材料は主にヨモギ。生の草餅すなわちそこらで取った生のよもぎや雑草を、口の中に入れられた。


氏治「グスッグスッ・・・うええええ」
お鈴「あれ、氏治ちゃん?どうしたの転んだの?」
お鈴は、氏治をよく見るが傷が無い事に気付く。

お鈴「もしかして、お餅落としちゃった?氏治ちゃんも武将なんだから、そんな事で泣いちゃ・・・
・・・・まさか、何かされたの?」
氏治「お餅取り上げられて、足で踏みつぶされました。うう、酷いですぅ。味方殺しに、食べさせる草餅は無い
って言われました。」

お鈴「まさか、お祭りの時の!許せないわ、氏治ちゃん相手の顔を見たの?」
氏治「頭に頭巾みたいなのを被ってました。ヒック目の所だけ明いていたので判らないです。」

お鈴は、氏治の顔に雑草の葉っぱが付いているのに気が付いた。

氏治「うええっ、生の草餅を食べろって雑草の葉を何枚か入れ…グスッヒック」
お鈴は怒りで、卒倒しそうになった。氏治を抱きしめ・・・

お鈴「軍師さんが帰って来たら、絶対に犯人を捕まえてもらうわ。ボッコボッコにしてもらうからもう大丈夫よ。」

話を聞いた氏治を可愛がっている町人たちも、皆激怒し 集団で巡回したり氏治を守る事にした。
しかし、犯人は氏治が泣いている間に素早く逃走したらしく、全く手掛かりも無く日付だけが進んで行った。

10日後、碓氷峠から関東に出て相模小田原城を訪問。北条氏政に上洛を勧めた。しかし、
曖昧な返答をするばかりで、上洛の意思無しと判断したソウマは箱根山を超えて帰還。


家康に、帰国の報告を終えたソウマが廊下を歩いていると本多忠勝に呼び止められた。

ソウマ「氏治に悪質な嫌がらせをする奴がいるのか?」
忠勝「氏治度と仲の良い、町人から天城殿に伝えてくれと頼まれたでござる。」
ソウマ「何が有った?」
忠勝「お祭りの夜に、石を投げられたそうでござる。その数日後に、今度は草餅を取り上げられて、
味方殺しと罵声を浴びせられ、口の中に雑草の葉を押し込まれたそうでござる。」

ソウマ「何だと!許せん!氏治は日々前向きに努力して居ると言うのに。それで、下手人は判っているのか?」
忠勝「お祭りの日は夜で、草餅の時は顔を隠していたそうでござるよ。」

忠勝「実は同じ輩かどうかは判らんでござるが。」
ソウマ「未だ何か起きたのか?」

忠勝「その日の夜酒場でひと騒ぎあったでござる。酔っていた男が氏治殿を中傷したのでござる。確か会計方
の大賀弥太郎でござるよ。」

大賀「天城軍師は何故、氏治の様な無能者を甘やかすのだ!あの味方殺しのせいで、会計方もどれだけ
尻拭いをさせられていると思っているんだ。さっさと追放してしまえ!」
客「畜生、氏治隊に配属されていたが敵に発見されて、怪我をして寝込んでいる間に妻に逃げられた。
全て氏治のせいだ。」
客2「氏治隊が廃止されて、国内の治安隊に配備されたが変な出来事も起きずありがたいね。氏治には何か
憑りついているのではないか。」
商人「そうだ、そうだ!」

忠勝「こらっ!酒場で何を騒いでるのでござるか!」


忠勝「このような場で、かつて上役だった武将に対する悪口雑言・・・・酒の上の発言と言えども
見過ごす訳にはいかぬでござるよ。」

客1「しかし、おいらは氏治様のせいで大怪我をして挙句妻に逃げられました。」
客2「氏治殿のせいで、猪に追われたり突然の豪雨で、川に落ちたりと。」

忠勝「後者は、氏治殿のせいではござらんよ。」
客2「いんや、あんな不運続き・・・・何か憑りついているか、氏治様の前世の行いが悪かったから、仏様が
罰をお与えになったのでは。」

忠勝「後日処罰を伝達するでござる。会計方のお主も身を慎んで・・・あれっ」
店主「もう逃げてますよ。」
忠勝「後日説教でござるよ!逃げたら、蜻蛉斬りの餌食でござる!」

忠勝「忘れていたのでござる。そこの商人さんは、氏治殿に何の恨みが有るでござる?」
商人「ウーーーイッ」

店主「この辺りの方では無いかと。遠方から来られた商人の方では?」
忠勝「ただ一緒に騒いだだけかもでござるね。」

その後、大賀と元氏治隊の2名は半月間の謹慎となった。

ソウマ「その大賀が下手人か?」
忠勝「お祭りで氏治殿に石を投げてから。酒場で騒ぐことは時間的にできるでござるよ。但し、同じ人間との
証拠は無いでござる。…言いにくいでござるが、氏治殿のせいで酷い目に遭った兵士や、領民は多いでござるよ。」

ソウマ「しかし何故だ。今までは、氏治に危害を加えようとするどころか、陰で中傷する輩すらいなかったのに・・・・
俺が気付いていなかっただけか?」


忠勝「酒が入って、態度がでかくなっただけかもしれんでござるよ。翌日問い質したら、酔っていてよく覚えていない
と回答されたそうでござる。」
ソウマ「大賀は今どうしてる?」

忠勝「昨日謹慎期間は終わった筈でござる。今日は出仕したかどうかは不明でござるよ。」
ソウマ「一度会ってみよう。邸宅は何処か分かるか?」
忠勝「確か・・・・・・」

城を出ると、既に夜になっていた。忠勝の案内で暗い夜道を進むが、

声「まてええ!」
忠勝「何事でござる!」
ソウマ「スリでも出たか?・・・まさか氏治が追われているのか?」

取りあえず、声がする方に行ってみる事にした。やがて誰かを探している侍(数名)を見つける。
一歩踏み出した瞬間!

男の声「お前もか!」チャキッ
男の声2「てめえ、何の真似だ!」

チャキッ バシ ザシュウゥゥゥ

男1「グワアアアアアアアア」
近くの狭い路地から男のうめき声が聞こえ、直後ドサリと言う音と、刀が地面に落ちたと思われる金属音が響いた。

急いで駆けつけると、路地には刀を抜いて立っている政実と、地面に倒れている男が見えた。
男は旅支度をしていた様だ、何処かへ逃げる所だったのだろうか?


直ぐに数名の男が駆けつけて来た。

侍「実は、この大賀弥太郎には公金横領の疑いがございまして。調べを進めていた所でした。」
侍2「遂に証拠を掴み、捕縛に向かったのですが・・・・・」
軍師が居る事から、横領犯を追っていた侍達の言葉は丁寧だ。

忠勝「その直前に、家を出ていた・・・・謹慎の間に逐電する準備を、行っていたでござるか。」
ソウマ「大賀は、町を出ようとするが途中で追跡者の声か、足音を聞いて焦った。」
九戸「突然物陰から出て来た俺様を、捕縛に来た追手の仲間だと勘違いした訳か。」

九戸は、家臣と共に飲んでいたらしい。丁度帰ろうとして家を出た直後に、大賀と遭遇。
九戸「切ってしまったけど、横領事件は解明できるのか?」
侍1「証拠の裏帳簿を抑えてありますので。」

忠勝「仕方ないでござるよ。大賀のお前もかというのは、お前も追手だなという事でござるな。」
ソウマ「気が進まないが、お鈴さんや氏治を呼んでこよう。」


氏治「ヒイッ!そ、ソウマさんこの人が氏治に嫌がらせして来た人ですか?」
ソウマ「怖いと思うが、よく思い出してほしい。覚えが有るかい?」

氏治「お祭りの日は夜だったので、そのよく見えませんでした。でも、草餅取り上げられた時と、背の高さなどは
同じくらいだと思いますぅ。」
お鈴も、夜だったので顔は見えなかったと返答。しかし、背格好は同じとも発言。

そこに、遅れて到着した目撃者・・・お祭りの夜、たまたま氏治の近くに居たらしい。

若い男「多分石投げたのはこいつだよ。俺は漁師だから、夜目が効くんだ。石投げたのはこいつだよ。」


長門「この大賀が、小田氏治に暴行を働いたとみて間違いない。」
ハ「氏治に恨みもあるみたいね。

キ「氏治のせいで戦死した遺族への見舞金や、家を壊された人への金の手配でストレスがたまっていたのかな?」
古「それもあると思いますが、騒ぎを起こして謹慎をしている間に逃亡準備をしていた。準備する時間を確保する為に、
故意に、氏治への暴行事件を起こし謹慎処分を受けるように画策・・・」

み「はうう、流石にそれは考え過ぎですよぅ。」
ハ「翌日男の家に踏み込み、横領の証拠を入手!横領犯だったのは確実だったのね。」

その後、氏治への嫌がらせや悪口もぴたりと止んだ様だ。やはり酒が入っての悪口だったのだろう。
氏治と、ソウマ達も元の生活に戻った。それから一年間特に不穏な事も起きず・・・
強いて言えば、北条家が未だに上洛を拒み続けているくらいで、領内に不穏の動きも無かった。

東北では独眼竜の若き美少女伊達政宗が、領土を急速に広げていたりするのだが。
この間に、軍制の変更も完了し、仕事の量もかなり減っていた。氏治は相変わらず、駿河府中(静岡市)
の人に可愛がられながら、調整役(何度も言うが閑職)を勤めていた。

しかし、1587年(天正15年)の年が明けて間もなく、太閤秀吉の使者として近江大津2万石の領主浅野長政
(この後甲斐国12万石→紀伊和歌山55万石→最終的に芸州広島 子孫の一人が忠臣蔵の浅野内匠頭)
が駿府を訪れた。

要件は、九州征伐に際し天城ソウマの参陣を求める事だった。既に、徳川家は太閤秀吉に対し臣下の礼を取っている
以上、拒否は無理だ。

臨時の軍議が行われ、ソウマが軍師として島津征伐と参加する事となった。


島津氏は、鎌倉時代以降薩摩を本拠としている南九州を代表する戦国大名だ。(ちなみに鎌倉時代に入地
して以降、ずーっと薩摩に居る。明治4年の廃藩置県まで。)
有名なのは、キリスト教伝来 釣り野伏 明治維新(西郷・大久保)関ヶ原の退き陣 首おいてけ・・・

他にも、朝鮮出兵では少数の兵で明の大軍20万を敗走させてたりと、ネタには事欠かない。

島津家は大隅を制圧後、耳川の戦いで大友家を敗北させ日向国を制圧。その後肥後国の相良家を
屈服させ、南九州を制圧した。

更に、1584年3月・・・九州北西部(佐賀・長崎)の戦国大名竜造寺隆信と、島原半島の沖田畷で決戦に及ぶ。
島津6000に対し、龍造寺軍25000・・・ 兵力では敵が圧倒的に多かったが、狭い地形に誘い込まれて
大混乱に陥り逆激を喰らって壊滅し、龍造寺隆信以下多数の重臣が討ち取られて壊滅する。
龍造寺氏も、その後島津に降伏した。

1586年6月 島津は筑前(福岡県)に侵攻を開始。7月13日に3万の大軍で岩屋城を包囲、守備側は僅か763名
しかし、高橋紹運以下凄まじい奮戦で半月持ち堪えて玉砕した。島津も死傷数千名の大被害で軍の再編で、
かなりの時間が浪費されてしまった。8月に入り進軍を再開するも、毛利勢数万が九州に上陸を開始し、
進撃を断念するに至った。

その後筑前や豊後の島津方が制圧した城を続々と奪還。しかし10月になると、軍を再編成した島津勢が
再び侵攻を開始。豊後(大分県)に侵攻し、大友方を諸城を次々占領。大友家本拠地も危うくなる。

秀吉は、先年臣従させた四国勢6000(十河、長曾我部等)に、大友家残存戦力を合同させ防衛すべく、
戸次川(べつきかわ)に集結させた。総数2万を超え、島津は1万・・・

しかし、四国勢は昔は敵同士だったので、団結力が低く大友勢は相次ぐ敗北で、やる気が無かった。
仙石秀久は、無謀にも川を渡り攻撃を仕掛けるも、釣り野伏せに引っかかり壊滅する。
武将の多くは戦死し、仙石秀久は一人で領国(讃岐)に逃げてしまう。


秀吉「一人で逃げだすなんて、許さないわ。讃岐10万石はボッシュート!秀久は高野山に追放よ!」
秀吉は激怒して、領地をボッシュートし追放した。秀吉の昔からの知人だったので命だけは助かった。

しかし、数年後奇跡的に再起を果たし、信濃小諸7万石の大名に収まる。秀吉死後は家康に接近
関ヶ原で遅刻して、無視された秀忠と家康の間を必死に宥めたり、小諸の城下町を発展させたりした。
後年但馬国(兵庫県北部)出石に移封されるも、明治維新まで無事残り子孫は貴族院議員になった。
ちなみに豊臣家は、秀久死亡翌年に滅亡している。

島津軍侮りがたしと言う認識が広がり、秀吉は知己でもある天城ソウマの軍師としての参加を求めた。
徳川家としても、秀吉の戦いを近くで見る事は大いに有意義な上に、豊臣家武将や外国商人との間に、繋がりが出来るのは
非常に有意義な事なので、その日の内に受諾した。

と言っても、ソウマ一人は危険なので、直属の護衛として200人が同行する事になった。
天城隊200は、1月20日に駿府を出て2月初めに大坂に到着。既に豊臣方が用意していた宿舎に入る。

秀吉「ソウマー、よく来てくれたね。ソウマが居たら島津勢なんか敵じゃないよ。」
ソウマ「光栄です。」

秀吉「ソウマー、私の家臣になる決意は出来た?5万石でも10万石でも・・・」
ソウマ「そのお気持ちだけで、お・・私の主君は家康様唯一人です。」
秀吉「やっぱりそっかー。残念だなー?」

家臣「宴の準備が出来ました。」
秀吉「むー、空気読んでよー。」


天城隊は10日ほど休養や訓練を行い2月10日に、秀吉の弟豊臣秀長の率いる(東通り侵攻)軍と共に、
大坂を発って、一路九州を目指した。秀長軍は総数10万 小早川隆景、毛利輝元、宇喜多秀家など歴史的に有名な
諸将が従軍している。
ソウマは、黒田官兵衛(岡田版じゃないよ)の補佐として第一軍に従軍。3月初めには小倉に到着した。
秀吉が直接指揮を執る、本軍も3月1日に大坂を出撃。島津を見限って、鍋島直茂、秋月種長等島津傘下
の大名などは続々と秀吉に臣従。島津は、北部九州の守りを断念し後退した。

ソウマと官兵衛達は、後退する島津軍を追撃し3月下旬には、順調に日向国北部まで進軍した。

官兵衛さん「ソウマ、島津は反撃して来るかな?」
ソウマ「その可能性は高いと思う。玉砕するまで戦うなら、進行を遅らせる為に。和睦を申し入れるとしても、
武門の名誉の為に、最低でも一度は大規模な反撃が有ると思う。」
官兵衛「面倒だなあ。釣り野伏なのかな?、島津の後退は?」

ソウマ「ここまで戦力差が有ると、もう難しいだろう。それに、もう間もなく秀吉殿率いる軍が、西側(福岡-熊本)の
進撃を開始する。そっちにも対応しないとならないから、罠を張るのは難しいだろう。」

秀長軍は、4月6日に日向国高城(宮崎県中央部)を包囲。城方が食料や援軍を入れる事を不可能にすべく、完全に包囲。
島津勢は、4月17日に推定3万の軍が高城を救援すべく来襲。

豊臣方が造成した砦に攻撃を加えるが守備兵も決死で防戦し、突破を許さない。
砦に気を取られている島津勢に対し、黒田、小早川、宇喜多などが奇襲を行い大勝利となった。
島津勢は、多数の将兵を失い退却して行った。

天城隊は少数、官兵衛さんは足がやや不自由な為に後方で指揮を行っていたので、敵軍と直接刀や槍で戦う
と言う機会は無かった。
しかし、報告を受けたり負傷者への手当てを指示していると、何やら騒ぎが起こったようで、兵士の叫び声が聞こえた。


兵士「暴れ馬だぁー!!」

黒田勢の本陣に、かなり体格の良い馬が侵入し突進して来る。

官「島津の奇襲?」
ソウマ「いや、馬に誰も乗ってないぞ!しかも一頭だけだ!」

慌てて阻止しようとした兵が、馬にけられたり同僚と接触し転倒する。

兵1「うわああああ」
武将「いてええええええ」

急いで、官兵衛を後ろに下がらせソウマも馬を刺激しないように後退。暴れ馬は、ソウマの数メートル先を通過して行った。

官「ソウマー、怪我しなかった?」
ソウマ「いや大丈夫だ。それより負傷者の手当てをしよう。」
馬が跳ね飛ばして、髪に着いた土や砂を落とす。黒田勢の兵士10名ほどが馬と接触したりで、怪我をしてしまった。

官「もしかすると島津の策かも知れないから、警戒して!」
黒田勢や、天城隊は警戒用の陣形を組むが、日没になっても何も起きなかった。

ソウマ「どうやらただの偶然だったみたいだ。」
官「乗っていた、侍はどうしてしまったんだろう-。」
ソウマ「馬上で戦死したか、落馬したか・・・」
官「そもそも島津勢の馬じゃなくて、黒田か小早川勢の暴れ馬かもー。」

とにかく無駄に疲れてしまった。こういう時はゆっくり休むに限る。


敗走した島津勢はさらに日向国南部に撤退。その頃、秀吉率いる本隊も順調に進軍を続け、
既に肥後国八代(熊本県八代市)まで制圧していた。

島津家当主島津義久は降伏を決意し、5月8日に泰平寺で秀吉と対面。秀吉は殊勝な態度であると
して、薩摩大隅と日向国の一部を安堵する。非常に寛大な処置で、武将たちも驚いたが最後まで戦うとなると、
豊臣方も少なからぬ犠牲を出す事となる。それを防ぐ為と言うのが有力な説だ。

ソウマは、日向高城等の開城等の事後処理を手伝った後に、5月20日頃秀吉軍と合流した。ソウマと秀吉と官兵衛さんは
貿易港平戸(外国商人が出島に押し込められるのはもっと先)の視察に向かう。途中天草地方で貧しいキリシタンが、
外国に売られて行くのを見た秀吉は、以降禁教令を出す等キリスト教迫害へ方針を転換する。

ソウマ隊が大坂に戻ったのは6月も半ば過ぎだった。

同じころ駿府

お鈴「ここしばらく、軍師さんからのお手紙来てないのね?」
氏治「はうっ!ここ一月ほど届いていません。多分忙しいのだと思いますぅ。ハフッ・・・・忠勝さんも、
便りの無いのは、無事の証だって言ってました。氏治は大人の女の人なんです、寂しくありませんよぅ。」

お鈴「太閤様は、軍師さんの事かなり気に入ってみたいだから、家に来ませんかと勧誘してるかも。」
氏治「はうう、ソウマさん豊臣家の軍師さんになってしまうんですか?」
お鈴「そんな事ある筈無いから、心配しないで・・・・・」

氏治「お鈴さん、どうかしましたか?」
お鈴「ううん、何でもないわ。」

お鈴(今妙な殺気を感じたけど、誰も居ないわ。錯覚かしら?)


家康「ソウマはいつ帰って来るのでしょうか」
松平定勝「大坂城で太閤殿下による、九州平定を祝う宴が有るそうです。誘われれば出ない訳には行かない
でしょう。戻るのは…ざっと10日後でしょうな。」
家康「早くしないと来年になってしまいますよぅ。」シュン
定勝「姉上、まだ7月ですよ・・・・」


7月末・・・・その日は、梅雨の中休みで数日振りに、太陽を拝むことが出来た。(旧暦です)
短い梅雨の晴れ間に、洗濯を外に干したり庭の雑草を刈り取ったりして過ごしていた。

午後5時頃・・・お鈴が、雨戸を閉めようとしているとちょうど店の前を、氏治が通り過ぎようとしていた。
しかも、かなり上機嫌で飛び跳ねるように歩いている。

お鈴「氏治ちゃん、どうしたの何か良い事でもあった?」
氏治「えへへー、今からあい・・・・ううん何でもありません、秘密です!氏治は大人の女の人だから、秘密もあるんです。」
氏治は無い胸を偉そうに逸らして見せる。

お鈴「なんだかわからないけど、気を付けてねー。」
(誰か好きな子でも出来たかな?軍師さんは、まだ帰って来ないだろうし)
上機嫌の氏治を見送った、お鈴は家の中に戻り雨戸を閉めた。


翌朝 夜明け前

翌朝お鈴は雨音で目を覚ました。本降りでは無いが、降り続いている。どうやら梅雨の晴れ間は一日しか
続かなかった様だ。

直ぐに朝ごはんと、売り物の団子の仕込みを始める。
お鈴「父さん、おはようございます。」
店主「シーッ」
お鈴「どうしたの?」

店主「何か外から、鳴き声みたいなのが聞こえるんだ。」
お鈴は耳を澄ませる。確かに、何か泣くような声が聞こえた。

お鈴「野良猫かなあ?」
店主「何日か前に、野良猫が大ゲンカしてたなあ。」
確かに、何日か前明け方頃野良猫2匹が、ギニャーとかギャニャーと大喧嘩をしていたので、箒で追い払った。

お鈴は今日も放棄を手に取り、慎重に進む・・・すると、一匹の猫が足元を通り過ぎた。
お鈴(やっぱり猫なのね)

安心したお鈴が家の中に戻ろうとした瞬間、微かに泣いている声が聞こえた。
??「ン・・・いよー、グスッ」
お鈴(ちょ、まさかゆではじまりいで終わる奴じゃないわよね?…きっと猫よ!)
ゆっくりと箒を構えながら進むお鈴、丁度その時僅かな雲の隙間から、朝日が顔をのぞかせ
光の筋が、氏治を浮かび上がらせた。

お鈴「きゃあああ…おばけーあれ、氏治ちゃん?」
そこに居たのは、フルボッコされた氏治だった。

本日の投下はここまでです。ありがとうございました。
明日午後9時から再開します。(予定)

揚げたこ焼きは織田信奈シリーズのネタです。

こんばんわ
9時から開始します。


氏治「痛いですぅーグスッ、ヒックヒックグスッ。」
お鈴「氏治ちゃん何が有ったの!?」

昨日の昼
氏治がお家に戻って来ると、女中さんから氏治に文が届いていると伝えられた。
早速手紙を開けてみる氏治。予想より早く戻る事が出来たので、会って九州のお土産を渡したい。
夕方に景色の良い場所でと書かれていた。その場所は駿府のご城下より徒歩30分ほどの、山の中だった。

氏治「えへへっ、ソウマさんと逢引ですぅーー。櫛で尻尾を漉いてふわふわさらさらにしますっ!はふっーー!」
気合を入れておめかしする氏治。手紙には他の人には秘密にする事、手紙は細かくちぎって川にでも捨てろ
と書かれていて、素直・…ただ単純な氏治は疑う事も無く、実行し手紙を消去。その後、上機嫌で待ち合わせ場所に
向かいその最中、お鈴さんが居る団子屋さんの前を通り過ぎた。

やがて氏治は、山の中にある古い倉庫みたいな所に辿り着く。
氏治「山道に、目印が有ったので迷わず来れました。ソウマさんのおかげですね。でもここ見晴らし全然良くないですよう。
それにもう夕暮れで何も見えませんよぅ。」

この時代・・・・いや昭和初期・・・・場合によっては昭和後期まで夜になれば真っ暗だ。街灯もネオンサインも無い。
だから日没頃に夕食を食べて、早めに寝てしまう。逆に朝は早く起きて働く。

氏治「来ちゃいましたあー。ソウマさんどこですか?」
中は薄暗く、氏治は慎重に進む中は意外と広い。奥には数人は入れそうな部屋が有って、氏治は何人かの気配を
感じ、話そうととした瞬間入り口が閉ざされた。直ぐに閂(かんぬき)が閉じられる。

氏治「ヒッ!・・うう、九州ではこういう逢引もあるんですか?」
その時、誰かがろうそくに火を灯し人の影が浮かび上がった。


氏治「えっと、誰ですか?もしかし皆さんもここで待ち合わせですか?氏治はここで軍師のソウマさんと待ち合わせなんですっ。」

男「いや、俺がその天城ソウマだ。」
氏治「違いますよぅ、軍師さんはそんな声じゃありません。」
男「いや俺が小田氏治に、手紙を出した天城ソウマに間違いない。」
氏治「ええっ!それってまさか!」

氏治「貴方も同じ名前の天城ソウマさんなんですか?もしかして字も同じなんですか?世の中には、お顔が
そっくりな人が3人居るそうですが、お名前がそっくりな人も3人いるんですね、はふっー」
男「何!」
氏治「もしかして、徳川のお家には別の小田氏治さんって方がいるんですか?」

男「ヒソヒソヒソ」
氏治「謎は全て解けました!別の天城ソウマさんがもう一人の、小田氏治さんに出したお手紙が間違って、
氏治のお家に届いたんですね。あっ、もしかしたら小田じゃなくて織田さんの氏治さんですか?」

男「ヒソヒソヒソ」
氏治「氏治が来たのは手違いだったんですね。じゃあ氏治が織田氏治さんに、皆さんがここで待ってますって
伝えましょうか?・・・・ええと、詳しいお家の場所教えて・・・・」

男「ハジメロ・・・・それには及ばぬ。お前が目的の小田氏治だ。」
氏治「ふぇっ」


あっという間に数人が集まり、氏治を縛り上げてしまった。
氏治「ひええ、どうして氏治を縛るんですか?この前氏治の草餅を踏みつぶした人の、仲間ですか?」
男1「あいつはただ酒に酔っていただけだろう。だがわれらは違う、親兄弟の恨みを晴らすためだ。」

氏治「ヒィッッツ!」

男2「足軽頭長吉の弟五郎左(ごろうざ)
男1「侍大将富山何某の甥」

氏治「その名前何処かで見た記憶が・・・」

男2「お前がへまをして討ち死に多数が出た、あの戦の犠牲者の身内だ。
奇襲をかける前に、大声で騒ぎやがって!」
男1「軍師の行為も許せぬ、貴様が犯したしくじりを隠ぺいした事は許さん。」

氏治「ごごめんなさいーっ、もう戦も最近無いから、グスッもう戦に出る事も無いから
内政とかでがんばるから許してくださいっ・・」

五郎「許さん!お前が築城したり、道を整備する仕事をする度に失敗し、周囲の人家に被害や死者を
出しているではないか」バシッ
氏治「い、痛いですぅー。」


氏治「痛いの嫌ですぅーグスッ 助けて下さいっ。ヒックグスッウエエン」


氏治「痛いですぅ、痛いですぅ。」
男の一人が目で合図し、氏治の尻尾に触れる。

氏治「ふえっ、尻尾触っちゃだめですよぅ、あふっ。」
どうやら氏治は、尻尾を触られると落ち着く様だ。しかし相手にはそんな意思は毛頭無かった。
氏治「尻尾ぎゅーってしちゃだめですよー。」

男は尻尾を全力で引っ張った。ミシミシミシベリッ尻尾は引っこ抜かれてしまった。
氏治「フエエッ、痛いよぅーー痛いよぅグスッグスッ」
男1「親父は家に担ぎ込まれて、丸一日苦しんで死んだ。」
氏治「尻尾返して下さいぃぃ。念入りに櫛で梳いて、ふわふわのサラサラにしたんですぅ。」
男にやりと笑い、壁にある天窓を開け閉めする仕掛けを動かす。
氏治「グスッヒック返して下さいですぅ。痛いよう。」
男は、氏治の犬の尻尾を放り投げ、見事狭い天窓を超えて外の闇に消えて行った。

夜明け前、男に担がれ運ばれる氏治。

男「俺達は、これで許してやる」

回想終わり


氏治「木の棒で、家族の仇だって言われて叩かれました。これは終わりじゃないって・・・・
氏治を恨んでいる人は一杯いるって言われました。氏治のせいなんです、全部氏治が悪いんですぅ。」


医者「骨は折れてはおらんぞ。」
婆さん「そりゃあ良かった。氏治ちゃんをこんな目に遭わせた奴は、早く捕まればいいのう。」

お鈴「あの、先生…氏治ちゃんは・・・・その」
医者「いや、お鈴さんが恐れている様な事は、一切されておらんみたいだ。」
お鈴「良かった・・・・軍師さんに、知らせた方が良いでしょうか?」
医者「犯人も直捕まるとは思うが、軍師殿も狙われ無いという保証も無いからなあ。しかし、
徳川家の方でもう早馬を出していると思うぞ。」

ソウマが駿府に帰還したのは、10日ほど経過した後の事だった。

ソウマ「氏治はまだ町の仕事中かな?見かけたら、後でお土産を渡すからと伝えて・・・」
ソウマは、門番に氏治に伝言を頼もうとしたのだが、それを聞いた門番は驚いた様子で、
門番1「軍師様知らないのですか?小田氏治殿は騙されて、呼び出されかなりの怪我をされたそうですよ。」
門番2「おかしいな、早馬が出てるはずなんですが?」

早馬は別にサボっていたわけでは無い、「不幸だわ」と呟く某扶桑姉妹みたいに、不運だっただけだ。
早馬の馬が病気になったり、替えの馬も無かったり、道ががけ崩れや増水で川が渡れなかったり、
更に当人も食あたりや、止まった宿屋で殺人事件が起き、泊り客全員が足止めされたりして、結局ソウマより
数日遅れて駿府に帰還する事になる。


仰天したソウマは、氏治の家にすっ飛んで行った。氏治の家に付くと、以前とは違う事に気付く。以前なら、
ソウマが、声を掛ければ元気な氏治が飛ぶような勢いで出て来る。しかし、反応も無くまるで誰も居ない様な感じもする。



ソウマ(氏治は、先生の所に治療にでも行ったのだろうか?誰かに今の状況を聞いてみるか。
もし山狩りでも行っているのなら、俺も参加を志願しよう。何か殺気めいた物を感じるが、気のせいかな?)

ソウマは、とりあえず武将が居そうな道場に行ってみようと思い歩き出した。城下は山狩りが行われているようには見えず、
特におかしい所は見えない。
ソウマ(皆捜索に出ているのかも知れないな。主だった武将が出払っているなら、やはり先に家康様に帰還の報告をするか。)

ソウマが再び歩き出すと、道場の方から二人の人影が来るのが見えた。

井伊直政「軍師様、今帰られたのですか?」
九戸「ヨッ、まあ帰って草々大変だな。」

直政は、遠江北部の豪族井伊家の子孫で昔は今川家に仕えていた。直政は本能寺の変が有った年に元服し、
徳川家臣になった、期待の若手である。

直政「今日は九戸殿と鍛錬していたんだ。」
九戸「直政は、まだ若いが将来伸びるぜ。だから俺様が華麗に訓練に付き合ったやったぜ。」
井伊直政は、政実の見立て通り成長を続け、後に武田四天王の山県隊が率いていた、赤備隊を受け継ぎ
外様ながら徳川四天王の一人に数えられる事になる。

キ(ちなみに勘違いしている人も多いが、あのゆるキャラブームの火付け役になった、ひこ○ゃんを生み出す由来
になったのは、2台目の彦根藩主井伊直孝だ。)

ソウマ「どうやら、既に氏治に危害を加えた下手人どもは既に捕縛したのだな。いや、もう既に処刑した後か?
それとも、捕縛では無くその場で止む無く討ち果たして・・・・」
直政「いや・・・・その」

ソウマ「どうした、何か問題でも?」
直政「実は下手人は、捕まえることは出来なかったんだ。」


ソウマ「何だと!何故捜索をしない!氏治が、同じ家に仕える武将が暴漢に襲われたんだぞ!何故捜索をしない!」
直政「軍師様、落ち着いて・・・・」

九戸「バカ野郎、軍師が取り乱すんじゃねえよ。」バシッ
ソウマ「直政悪かった。」
直「いいよ、俺だって今回の件捕まえられなかったのは悔しいし。軍師様が学問を教えていた、
氏治殿が危害を加えられたのだから、軍師様が怒るのも当然だよ。」
九戸「俺様も、今度の件はちょっと複雑だぜ。」

ソウマ「もしかして、佐竹の刺客が氏治を?」
直「事件の直後はそういう意見も出たんだ。」

氏治事件が起きた次の日の朝、武将達は緊急招集され駿府に居た武将は全員集められた。
忠勝「佐竹家の刺客が、氏治殿のお命を奪おうとしたでござるか?」
榊原康正「いまさらそんな事をするとは、思えませんが。今後小田家が大名として、常陸に戻る可能性も
低いと思います。旧小田家の家臣の反乱等の噂も聞きませんし。」

九戸「それに、氏治は今は一応徳川の家臣だぞ。徳川は太閤殿下に従っている、それに危害を加えるとなると
佐竹討伐軍編成という事になりかねないぜ。」
既に佐竹義重は贈り物を秀吉に贈る等、友好政策を行っている。

さては武田残党の仕業か、いや真田かも知れないと勝手に言っていると続報が入り、氏治を襲撃したのは、
元の部下達で、氏治の失策で身内が死んだが氏治が厳しい処断を受けていない事に、怒りを覚えての仕業
らしい事が明らかになった。


ソウマ「そんな、今までその様な事は何も起きなかったのに?それで下手人は、他国に逃れてしまったのか?」
明治維新まで、他所の領国や隣の藩は別の国と考えれば間違いない。簡単には、他国に逃れた犯罪者を
追跡したり、引き渡してはもらえないだろう。

ソウマ「何処へ逃げたかは判っているのか?場合によっては話し合いで引き渡して・・・」
直「絶対に行くことは出来ない場所なんだ。」

ソウマ「ま、まさか・・・・・」
九戸「俺達は直ぐに捜査を行った。その日・・・・昼過ぎから夕方に掛けて、下手人3人が一族縁の地で
自刃しているのが発見された。遺言書には、知人への詫びと、軍師・・・つまりお前と氏治殿に厳しいお咎め
を願うと記されていた。」
直「どうやら最初から事成った暁には、自刃するつもりだったみたいだ。」
絶句するソウマ、しかし直政は更に、

直「実はそれだけじゃ無いんだ。」
ソウマ「未だ何か起きたのか?」

九戸「天城は九州に行っていたから、知らないだろうが氏治殿が襲われる数日前から、妙な殺気みたいなのを感じていた。
物陰や酒場で氏治を批判する奴も居たな。」
直「今も、氏治殿を処罰しろと言っている人は多い。なんで急にこうなったのか解らないが、今も氏治殿に好意的なのは、
駿府の・・・元から氏治殿と親しい町民だけなんだ。」

九戸「氏治には会ったのか?」
ソウマ「いや、一度行ってみたけど留守の様だ。鍵も閉まっていたし、確か、兵士が巡回していたが。」
直「氏治殿が襲撃されるかも知れないから、警戒しているんだ。氏治殿は家に帰ってから一度も外に出ていないらしいよ。」


ソウマ「氏治、ソウマだ!ここを開けてくれ。」
待つこと数分、ようやく鍵が開けられてソウマは何かに入る事が出来た。中は昼なのに蝋燭が灯されている。
雨戸は全て完全に閉じられていた。やがて駆け寄る足音が聞こえ近付いて来る。

氏治「ソウマさん、怖いよぅー痛いよぅ。ヒックグスッグスッウエエエエエエンン。」
ソウマ「もう大丈夫だ。」

氏治「全部氏治のせいなんですぅ。氏治が戦に出たり開墾とかしちゃ駄目だったんです。
もう氏治は何もしちゃいけないんですぅ。それが一番いいんですぅ。」
ソウマ「そんなことは無い・・・・」

ソウマはそう言って否定するも、その言葉に自信は感じられなかった。薄暗い中氏治を見ると、目の下には隈が
あり、痛みや恐怖でよく眠れていない事が伺える。

ヒューン バンッ コロコロ

声「氏治ふざけるな」
声「何をしている、あっちへ行け。」(巡回中の兵士が追い払う)

氏治「グスッグスッ怖いよぅー。」
氏治の犬耳は、どちらも力なく垂れさがっている。いつもは元気良く振られている尻尾も、力なくくるんと丸まって・・・
いや、何処にも見えなかった。

ソウマ「尻尾は・・・・」
氏治「無理やり引っこ抜かれましたぁ。グスッウェエエエエン 尻尾返してって言ったのに捨てられました。」


氏治「多分山の中にある、土蔵の近くに捨てられていると思います。ソウマさん、氏治の尻尾探してください。」
ソウマ「人をやって探させてみるよ。」
ソウマ(と言っても、もう10日以上経過しているし、しかも何日かの雨で泥だらけになっているだろう。それに仮に見つけても、
元通り氏治に尻尾を付ける事は無理だ。形だけ探して見つからなかったと言うか。)

ソウマ「暗いな、今日はいい天気なんだし空気を入れ替えなきゃいけないぞ。」
ソウマは、雨戸を開こうと近付くも、氏治が勢い良く足にしがみ付いた。

氏治「雨戸開けちゃだめですぅー!吹き矢か何かで殺されちゃう!」
ソウマが愕然としていると、何かの気配を感じた。ソウマが曲者かと武器を構えようとしたその時、

氏治「ふぇええええええええ」
氏治が、敗走するイタリア軍もかくやと思える速度で押し入れに突進し、ふすまを開け放ち逃げ込んだ。
氏治「殺されるの嫌ですぅうう、痛いのも嫌ですぅううう。」

気配の主は野良猫だった。氏治の凄まじい逃げ腰を見た猫の方も、怖がって逃げ出した。氏治は頭から押し入れに入って震えている。
襖は開けられているので、ソウマが殺し屋だったら氏治の命は無いだろう。


氏治はその後何分も震えていた。最早、以前のような明るさや朗らかさなど微塵も感じなくなっている。
何とか落ち着かせ、氏治を励まそうとした瞬間お城からの使者が氏治家に到着し、ソウマに対し速やかに出仕する様に伝えた。

ソウマ「しまった、家康様に報告しないと。後の事は頼みます。」
女中さんに、氏治を託し急ぎ支度を整え駿府上に参上した。まず、帰参の報告が遅れた事を詫びる。よく見ると、本多忠勝、本多重次
松平定勝等の重臣が、揃って氏治を待っていた。


ソウマ「氏治殿は、思った以上に受けた心の傷が重く、復帰は当面無理で自宅で療養を・・・・」
発言は直ぐに、松平定勝により遮られた。
定勝「今回の件、残念だ。」

ソウマが即座に頷くも、
重次「今回、自刃した3名はいずれも将来有望で期待していた。氏治殿が居なかったらいずれ徳川を担う武将や侍大将に
なれたであろうに。流石に3名の家はお取り潰しにせねばなるまい。」

定勝「天城ソウマよ、泣いて馬謖を斬る時が来たのではないか?」


馬謖とは三国志の時代蜀漢に仕えた武将で、諸葛亮の参謀として働いていた。
しかし、街亭の戦いで副将王平の進言を無視し惨敗。蜀漢が魏を倒せる唯一の機会を失った。(とされる)

諸葛亮は、軍規を守る為に無念ではあったが馬謖を処刑させた。

ソウマ(まさか、氏治を馬謖みたいに切腹させろと?)

本多正信が、氏治が徳川家に来て以来の失敗を次々と述べている。大きなしくじりだけでも10を超えた。
更には、小田家当主時代にも氏治が家臣の進言を無視したりして、やらかしたしくじりも披露された。
氏治は思い込みで、戦を行い多数の味方を失い、領民がいかに畑や家を焼かれたかを披露され続けた。

重次「武将としての適性が無い事は、徳川に来て直ぐ判ったはずだ。その時に、見切りをつけるべきでは無かったのか?」
その目は、お主の責任も重いぞと言っているとしか思えない。

忠勝「こうしてはどうでござる?」
定勝「忠勝か、意見が有るなら述べよ。」
忠勝「以前、駿府領民からの申し出で氏治が心配だから、武将を辞めて町で暮らさないかとの意見があったでござる。」
榊原「いや、今更手遅れだろう。再び駿府御城下で不穏な空気が広がっている。」

氏治やソウマを批判するだけでは無く、家族・親戚・友人の仕返しをしようと思っている輩が多数城下に居るのか、
感受性の良い武将だけでは無く、本多忠勝みたいにおおざっぱな武将も、殺気を感じていた。

無論殺気を感じただけで、何もして来ない以上無暗に尋問や拘束も出来ない。
殺気や氏治及びソウマに対する、抗議は氏治襲撃事件以降一旦やや収まったが、またじりじりと増えてきている。


定勝「氏治殿はまだお若い。氏治殿に多数の非があるのは事実だが、襲撃された被害者でもある。
そこでこのように処してはどうかと思う。」
正信「拙者、家康様の元を飛び出し放浪している最中病気になり、奥三河にある尼寺の施しを受けました。
氏治殿には、その尼寺で落髪し仏門に入って頂き、亡くなられた方への菩提を弔って頂く。」
重次「無論死ぬまで・・・生涯その寺より出る事叶わず。徳川家の家中の者との関わりは一切絶って頂く!
会いに行く事も、手紙のやり取りも一切許さぬ。」

ソウマ「一生寺に押し込めようと言うのですか!承服できません!氏治は、我が屋敷に引き取ります。
二度と武将として何もさせません。どうか伏してお願いしたします。」

武将「天城殿は、幼少の頃からお館様に仕え、お命の危機を救った事もある。ここまで言われるのだから、
信じても良いのでは無いか。」
忠勝「天城殿がおられなければ、我らもここにこうしている事は無かったでござるよ。」

数時間の協議の末・・・

定勝「小田氏治殿は、天城殿の屋敷で引き取る。今後、武将としての仕事は一切関わらない。」
重次「当面の間、天城家から外出する事罷りならぬ。」
正信「親しい町民と会うのも、当面の間は制限する。」

定勝「天城よ、お主も氏治殿を過剰に甘やかした咎は免れぬぞ。当面の間出仕に及ばず。」

ソウマ「謹んでお受けしたします。」


氏治が小田家に引き取られ、半月が経過した。氏治が武将を完全に引退し、天城邸に引き取られた事は
数日もしない内に、町中に広がっていた。氏治やソウマを批判する声は再び日増しに高まっていた。

氏治「うう、ソウマさんお外に出たいですよぅ。」
ソウマ「それは禁止されているんだ。辛いかもしれないが我慢してくれ。」
氏治「はうっ!お外に出たらまた石を投げられたり、草を食べさせられるかもしれません。」

ソウマ「それと、10日に一度だけ氏治と親しい人達と会う事が出来るようお許しが出そうだ。」
氏治「え、本当ですか!ありがとうございますっ。お鈴さんとかお爺さんとか、何度か氏治に会いに来てくれたのに、
会う事が出来ませんでした。でも、これで直接差し入れのお礼が言えますっ。」

氏治を可愛がっていた、人達は何度か氏治に会いに来たり差し入れを持って来てくれていた。しかし、氏治は直接お礼をいう事も
出来なく残念がっていた。

ソウマ「氏治、ちょっとあっちを向いてくれないか?」
氏治「あっ、はい。」
氏治が、反対側を向くとソウマが腰の所に何かを付ける。

氏治「え、これ氏治の尻尾ですか?」
ソウマ「いや、これは筆職人に特別作って貰った尻尾なんだ。氏治の尻尾は探させたが、やはり無かった。奴らが捨てたか、
野犬か狼が持って行ってしまったのだろう。」

氏治の犬耳と尻尾は、最上級毛筆みたいな手触りと触りがする。ソウマは再び尻尾が生えて来るかと思ったが
残念ながら、未だその気配は無く尻尾の存在理由に対する疑問が、また少し増えてしまった。

氏治「ソウマさん、こんなにして貰って嬉しいですぅーー。氏治は幸せ者ですっ。はふっ!氏治はきっとまた元気になります。」
氏治は、事件以来初めて笑顔を浮かべた。ソウマにとっては、7か月ぶりになる。


数日後、天城隊全員無事帰還のささやかな祝宴が行われた。天城隊将士の家族や主だった家臣に
酒や饅頭が振る舞われた。天城邸にも、本多忠勝と井伊直正が酒を持って訪れた。
めでたい席という事で、特別に氏治も参加を許された。


翌日 予想より早くソウマの謹慎が解かれた。大井川治水担当者が、急な病で赴く事が出来なくなり、
その人物が替わりに推薦したのが、ソウマだった。
大井川は、全長169キロの川で静岡県中部を流れ、駿河湾に到達する。江戸時代は、江戸防衛の為橋を
掛ける事が認められず、東海道の旅人にとって箱根の関所と並ぶ旅の難所として知られる。旅人は、全て
川越人足の手を借りる必要が有り、水戸黄門などの時代劇に登場する事も多い。

氏治「えっ、じゃあ氏治また一人になるんですか?治水工事って何年もかかるんですよね?」
ソウマ「工事の担当者じゃなくて、視察なんだ。予定していた人が急病でね、。多分10日ほどで戻れると思うよ。」
氏治「うう、また何か起きるか不安ですよぅ。」
そうま「いつもより巡回の数を増やすように、頼んであるから心配するな。何なら、一緒に行くか?」

氏治「氏治を子ども扱いしないでくださいっ!氏治は、大人の女の人なんですっ!一人でソウマさんの帰りを待てますよぅ。
だから安心て、ふぬっーて頑張ってください。」
ソウマは氏治の頭を撫でてあげる。最近ではすっかり夜も眠れる様だ。
氏治「えへっ・・えへへへー」

氏治が寝たのを見たソウマは、万一の際には島田宿(大井川東岸)の陣屋に知らせる様、家人に頼んで床に入った。

翌日旅支度を終えたソウマは朝食を済ませ、玄関付近まで氏治の見送りを受け数名の付き人や荷物運びと共に、
東海道を西に向かった。


数日後 駿府

夜間も万一に備え、兵士達が城下を巡回している。ソウマの留守の機会を狙い氏治が襲われる可能性もあり得るので、
他所から応援人員を回し警備を強化していた。

兵士1「俺達が夜中まで、巡回しているというのに、まぬけ治はぐっすり夢の中か?ふざけんじゃねえぞ。」
兵士2「もし、誰かが氏治を殺そうとしたらおいら達も巻き添えを喰らいかねない。くわばらくわばら」
兵士3「また氏治への非難が増えてきているそうですよ。それに、田舎から野菜などを売りに来ている百姓
の中には、明らかに殺意を持っている人も居ます。」

物資運搬をしていた氏治が、盗賊に荷物を奪い取られその物資で戦力を増大させた盗賊団が、更に盗みを働いたり
開墾をしていたら、切り倒した大木が坂を転がり落ちて民家を直撃したりと、氏治はお百姓にも恨みを買っていた。
兵士2「しかし、あいつらも狡猾だ。不審な奴を調べても武器になりそうなものを持っていない。殺気を漂わせているだけで、
捕まえる訳にも行かないからな。」
兵士1「いざとなったら、氏治なんぞ素手でも十分だろう。」

兵士3「俸給も昼間の巡回より高く貰えるのはありがたいですが。」
兵1「違いないな。」

声「泥棒!泥棒よーー」
兵士2「何だ、あっちから聞こえたぞ。」
兵士「行ってみるぞ!おい、お前は念の為応援を呼んで来い!」
兵士3「御意!」

兵士達は、応援を集めつつ声が聞こえた方向へ走り出した。7割は義務感で、後の3割は盗賊団を捕らえれば
ご褒美の金子や、昇格にありつけるかもしれないという打算。


天城家付近から、兵士が走り出す声と共に足音が響き遠くなっていく。天城家の庭を周囲を伺いながら
裏門に向かい走って行く小さな影。迷い込んだ猫だろうか・・・・・いや氏治だ。

氏治は裏門付近に身を潜めて、ぴんと犬耳を立たせて様子をうかがう。門の外を兵士達が走って行く。
恐らく、騒ぎが起きたので応援の兵士が急行しているのだろう。やがて足音も遠ざかり、聞こえなくなった。

氏治は、門の外を見て誰も居ないことを確認すると走り出した。

東外れ 旅籠(旅人用の宿)

旅人「なんか騒ぎ声が聞こえるな。おや、誰か来るぞ。」
氏治「はぁはぁ、早く逃げないと殺されちゃう!こんな恐ろしいお家に居たら、氏治きっと殺されちゃう!
逃げなきゃ、逃げなきゃ早く逃げなきゃ!」


ソウマに連絡が行ったのは、翌日の夕方でソウマは直ぐに捜索に参加したかった。しかし、治水工事視察の任を
放り出す訳にも行かず、駿府に戻ったのは予定通り10日後になった。

ソウマ(きっと怖い夢でも見て飛び出したんだろう。直ぐに見つかるさ。)
しかし、10日経過しても半月経過しても氏治は見つからなかった。駿府から東に向かった事は、旅人が目撃した
ので間違いなさそうだが、その後駿河東部の沼津付近まで何度か目撃情報があったが、その後手掛かりになる情報は途絶えた。

いつまでも氏治一人の為に、大掛かりな捜索をする訳にはいかない。失踪から20日後に打ち切りとなった。
その直後 西伊豆の漁師から噂が伝えられた。氏治が失踪して10日ほど後 西伊豆沿岸で海に漂う氏治の着物と、
非常によく似た柄の着物が、複数の漁師に目撃された。


その数日後 西伊豆の沖合で漁師が海に浮かぶ遺体を見たという話が伝わって来た。
引き揚げようとしたが、やや時化気味で波風が強く断念したそうだ。

最初はただ遺体らしきものを見たという話だったが、やがて少女の遺体だったという話になり、
程なくして、小田氏治と思われる遺体を見たという話や、氏治の遺体の周囲を鮫が泳いでいて
数時間後戻ってみた時には、遺体は消えていて周囲を鮫が泳いでいたという話になった。

更には、山の方に住む木こりからは別の証言を得られた。氏治が一人歩いていたとか、
腹を空かせて歩いていたとか。最後は、木の実を取ろうとした氏治が足を滑らせて谷川に落ちるのを見た。
そのまま浮かんでこなかったという。

みくる「氏治ちゃん、可哀想ですよぉ。」
ハルヒ「同情できる点も多いけど、氏治も戦とか全然ダメダメなんだから、最初の内に戦は出来ませんと
言って断れば良かったのよ。」
キ「やはり気負いみたいなのが、有ったんじゃないのか?今度こそはみたいなのが。だから天城軍師
もその意気込みを買ってしまったのかもな。」

古「軍師とか参謀は、文句を言われたとしても戦力外通告をやらなければならないのでは。」
長「天城ソウマについて、小田氏治に対する対応以外特に問題は無い。公正に判断し、武芸にも優れる。」

み「特に、本能寺の変直後の伊賀越えでの活躍は大きいですよね。山賊と戦うだけじゃなく、武装勢力を説得したり
買収したりして、無事岡崎まで帰る事が出来ました。」
ハ「この時本多正信も活躍してるのね。」

古「本多正信は、大和国に居た頃松永久秀に仕えていましたから、地の利が有ったり地元の豪族とかに顔が効いたんでしょう。」


キ「結局氏治は死んでしまったのか?」

古泉は国立図書館のデータ資料から、その当時に書かれた日誌を見付ける。
古「同じ時期に畑の野菜が盗まれたり、民家の食べ物が盗まれたという記録あるみたいですね。氏治がお金を落として食べ物が無くなり
止むを得ず盗みを働いたと見る事も可能です。」
朝「関東地方に抜けるには、箱根の関所を抜ける必要が有りますよ。あ、でも関所が出来たのは江戸時代になってからかな。」

キ「箱根山の西側にある山中城が、関所の役割をしていたみたいですよ。江戸時代ほど厳重では無くても、手形くらいは
調べられるでしょうし、氏治はまだ子供なんだから、一人で旅をしていたら止められるんじゃないですか?」
ハ「それで、関所が無い伊豆の山中を抜けて相模国に入ろうとしたのかしら。」

み「ええと、他に関東地方に行くルートは無いの?キョン君。」
キ「ええと、甲斐の国・・山梨県を経由して笹子峠小仏峠を通過して、八王子に抜ける・・・五街道の
甲州街道を使う手段もありますね。」
ハ「氏治の足で山越えできるかしら?」

キ「しかしなハルヒ、西から関東地方に入るなら何処かで必ず、険しい山越えをしなきゃならないんだ。
碓氷峠や、関越道が有る三国峠も相当な難所だしな。」
長「迂回路を取るとしても、一旦引き返す必要が有る。」
キ「どういう事だ?」

み「地図を見て下さい、甲斐国に向かうには一旦東海道を富士市辺りまで戻って・・・ええと
それから身延街道に入って北上する必要が有りますね。(現在の国道50号と身延線の経路)」
キ「東海道を引き返すのは恐ろしくてできなかったって事か。」

氏治は駿河に来る時は、海路を利用しているので山道の地理には疎いかもしれない。
危ない間道や獣道は使わないだろう。


長「氏治は何故突如飛び出したか、PTSDを発症して危害を加えられると錯覚して、発作的に飛び出したか
それとも天城ソウマ不在の好機に、再度襲撃計画が計画され逃げ出したか。」

み「前者…かなあ?計画的な行動なら、駿府を出てから沼津なり三島に着くまでに、襲撃する機会は
いくらでもあると思います。電車なら新幹線で30分でも、歩きなら1日半は掛りそうですよ。」
長「宿屋や茶店に立ち寄らなかったのは、路銀を落とした可能性以外に、襲撃を恐れた可能性も。」

キ「どちらも不特定多数が出入りするからな。刺客が紛れ込んでいてもおかしくない。」
ハ「旅籠や、茶店で襲われたり団子に毒を盛られて食べようとしたら、風車が飛んできて・・・」

弥七「おっと、八その団子を食ったらたちどころにあの世行きだぜ。」
ハ「水戸黄門や時代劇では定番のシーンよ。」
長「この場合、本当の茶店や宿屋の人は昔のシリーズではたいてい皆殺し。近年は縛られて監禁
されて居て助かる事が多い。」

キ「水戸黄門の話は良いから!つまり、氏治は何時襲撃されるか分からない東海道を引き返す事は、
恐ろしくて出来なかった。身延街道に入っても甲斐国から、今の相模湖辺りまでは徳川の領土だ。」
み「ふええええ、氏治ちゃんを恨んでいる人がいっぱいいそうですね。」

席を立ち、なぜかキョンに近付く古泉

古「石やごみを投げられるだけならまだましでしょう。親切に一夜の宿を提供すると見せて、寝た所でのど元をブサッと・・・」
キ「おい、顔が近いぞ。寝首を掻く仕草も止めろ。そして、始末した後は何処かに埋めてしまう。」

ハ「昔中国で、宿に泊まった人を殺して身ぐるみはがして埋めると言う事件が有ったそうよ。」(1980年代)
み(無言で震える)


ハ「みくるちゃん、これくらいで震えていたら、異世界に行った時に生きて行けないわよ。」
キ(お前が言うと冗談じゃすまない気がする。)
み「氏治ちゃんは、他の道を行くのは徳川家の領土を通過する必要が有るから、怖くてできない・・
だから厳しい山道でも、突破して一刻も早く徳川領から逃げようとしていた・・・。」

古「伊豆半島の東に至り、その後北上して熱海から小田原まで到達すれば、小田まで険しい地形はありません。」
キ「山中は、食料の確保は難しい。」
長「空腹で、木の実を採ろうろうとしたが・・・・」

氏治が断崖にある木の実を取ろうとする。

氏治「もう少しですっ!後ちょっ・・・・ふぇっ!」
足を滑らせ、崖から落ちる氏治

氏治「うひゃああああああああああ」
ザパーン 谷川に向け真っ逆さま そして岩に頭をぶつける
氏治「きゃうっ」

み「そのまま意識を失い溺死してしまったんでしょうか。クスン」
ハ「氏治はそのまま海に流れ出た。出血していたかもしれないわね。」

古「血の匂いに引かれて鮫がやって来て、ピー(表記不可能)されてしまった。」
長「そして、着物だけが海上に残り漁師に目撃された。ただ、サメに襲われた場合着物も原型を残さない
可能性が高い。先に海上で着物だけ外れた可能性も。」

キ「漁師達の目撃情報は一応筋が通っているわけか。」


ハ「もう15分で午後5時ね。閉館は6時だけど今日はここまでにしましょうか。」
館長さんが言っていたが、明日から夏休みなので子供向けのイベントが多くあるらしい。

長「集中できないと言う以上に、万一子供たちが資料に傷を付けたりする危険もある。」
この部屋も子供向けの講演会に使うらしい。という事で、館長さんは大学の方に資料を梱包して、
送る事にしたらしい。他の資料が必要になっても、東京の方が情報を集めやすいかもしれない。

キ「先輩の実家が参加する、呉服商や小売店のフェア(浴衣など)って、いつでしたっけ。」
み「ええと、確か週末ですよ。」

ハ「むむ・・・」
古「もしもし・・・」
キ「電話か?」

古「今閉鎖空間で巨人が」
kk「まじか!」

古「冗談ですよ。」


俺達は、バスでつくば駅に向かう・・・・

ハルヒ「キョン事故渋滞みたい、何とか排除できないかしら?」
キョン「無茶を言うな、やれやれこれでは次のに遅れてしまいそうだ。」



駅に着いた時は既に、3分遅れていたので流石に発車した後だろう。
次の快速か…もしくは各駅でもいいか?と思いホームに向かおうとするも、

み「電車止まってしまっているみたいです。」
こういう時は、よけい疲れた気分になる。
古「人身事故でしょうか?いや、踏切は1個も無いのでそれは無いでしょう。」

長「掲示板に電気系統の故障との表示。」
ハ「猛暑の影響かも知れないわね。昔はレールが歪んだりした事もあったらしいわ。」
キ「この路線は新しいから、流石にそれは無さそうだぞ。」

必ずしも猛暑とは関係無いかもしれないが、ホームは暑いので早く運転再開して欲しい。

声「お客様に申し上げます。お急ぎの所誠に申し訳ありませんが、運転再開にはあと10分前後かかる見込みです。」

おとなしく待つしか無さそうだ。

古「運転再開までの10分間は、SOS団にとって最も長い10分間になるでしょう。」
何を言っているんだお前は。

み「2時間ドラマなら、こういう時に出会いが有りそうですね。」
ハ「みくるちゃんの言う通り、特命係と遭遇しそうね。」
ハルヒよ、お前も何を言っているんだ。そんな偶然宝くじの一等位の確率・・・・

??「呼びましたか?」


振り返ると、そこには大学教授みたいな人と、30歳くらいの男性が二人でこっちに来る。
どうやら、年末ジャンボ高額当選級の偶然が起こってしまったのか?

右京「警視庁特命係の杉下です。貴女が涼宮・・・・さんですね。」
甲斐亨「同じく、甲斐です。何処かで会いましたっけ?」

キョン「いや、無いと思います。」
古「僕達は、戦国時代の歴史資料を調べにつくば市の博物館に来たんです。」
み「杉下さん達は、事件の捜査ですか?あっ、そういう事は答えられないんですよね。」

亨「一般の人には教える事は出来ません。」
ハ「今からそれを当てて見せるわ。この有希が!」
こら、よけいな事をするな。

長門「ここしばらく、茨城と東京を舞台にした広域事件は起きていない。また、茨城で発生した東京都在住の人が
被害者の事件も起きていない。

長門「可能性の一つとして、昨年秋に発生した大洗戦車道事件に関連する、何らかの調査。しかし、ここは内陸部
直接調査するのであれば、水戸駅の方が良い筈。」

そもそも、主犯格の一人は死亡してワシントン州の何処かに埋葬されている。もう一人は結局無期懲役
になりそうだ。あと30年は出られないだろう。残りも7年以上12年の刑に処されたはずだ。

長門「戦車道履修者被害者側の現状を調査。旧1年生チームの現状調査である可能性が高い。
それも、警察上層部の誰かによる単なる思い付きである可能性が高い。」

右京「おやおや、当てられてしまいましたよ。」


亨「確か、去年位から全国模試の最上位5位以内常連ですよ。」
右京「そうなのでしたか、ところで君達は歴史調査だという事でしたが、この辺りは、水戸徳川家か
佐竹家関連の調査なのですか?」
み「確かに佐竹家は関係ありますが・・・」

右京「小田氏治…初めて耳にしますね。」
亨「杉下さんでも、知らない事もあるんですね。」
右京「それは買被り過ぎですよ。小田家は確か政治で後継者が途絶えたというのが今までの定説でした。」

ハ「新しい資料が偶然見つかったんです。」
亨「という事は、有名な大名では無いにしろ歴史的な発見なのか。」
キ「今後、また新しい資料が見つかると良いのですが。」

み「氏治ちゃんの存在を裏付けるような資料だと、良いのですけれど。」
長門「逆に資料の信ぴょう性を、一気に無くす文書が見つかる可能性もある。」
ハ「大丈夫よ、根拠は何もないけど!心配する必要は無いわ。」

右京「話を聞く限り、文書は模写ではあるみたいですが100年前の物には違いない、本物の資料では無くても
そうですね、例えば未発見出版物の下書き等や、構想メモである可能性もあります。」

ハルヒの方を向き続ける杉下右京。

右京「貴女は、多少短気な所が有る様だから資料の価値が大きく低下した場合、文書を破り捨てて
しまわないか、その点が不安ですねえ。」

それに対してハルヒが、何か答えようとした時間もなく運転を再開するとの、放送が有った。


5分ほどして、ようやく電車がホームに入って来てさらに数分後にようやく発車した。
ハルヒには、つくば駅で今日は解散という事にさせた。

俺と古泉は、終点秋葉原の一つ前の駅御徒町で降りて、数分間歩き静かな喫茶店に入る。
もう6時を過ぎているので、今日の晩御飯はここで食べる事にして、評判らしいハヤシライスとアイスコーヒー
を注文する。

長門も呼ぼうかと考えたが、そうなるとハルヒも付いてきてしまうかも知れないし、色々国際情勢が危険なので
長門はあっちについて貰った方が良いかもしれない。

古「貴方はもちろん気付いていると思いますが。」
キ「杉下警部は何故、ハルヒの本名を知っていたんだ。」
あの時、偶然駅の外から、車の急ブレーキとクラクション音が聞こえたので、そっちに注意が向いてしまい
はっきりとは聞き取れなかったが、涼宮ハルヒと言っていたように聞こえる。

キ「それにハルヒの性格も知っていたぞ。若い方の刑事は、長門の事はネット記事で見たのだろうけど。」
古「しかし、その記事にはSOS団の事は一言も書かれてなかったですよ。」

ハルヒは北高では知らぬ者はおらぬ存在だった。しかし、それもせいぜい西宮周囲の話だ。
ハルヒが東京出身だったら、噂を聞いているという事もあり得るかもしれないが。

古「可能性は3つありますね。」
キ「一つは、北高や周囲のOBが警視庁に入り、杉下警部にハルヒの事を話した。」
古「何らかの事件や、もしくはプライベートで西宮を訪れハルヒの噂を聞いた。」

どっちも可能性は極めて低そうだ。ハルヒだって年中奇行をしている訳でも無いし。
必然的に最も恐ろしい理由に行きついてしまう。


本当に、特命係が調べていると仮定すると・・・・

キ「ハルヒの中学生時代に起こした奇行か、校庭の謎めいた図や、教室内の机を校庭に並べた。」
古「反省文とかを書かされて、既に終わった話でしょう。」

古「草野球大会で、チートして強豪チームに勝った事もありましたね。」
キ「法律で想定しているとは思えんぞ。」

キ「映画撮影の際に、朝比奈さんにお酒を飲ませたり、お寺に爆竹を投げ込んだり、みくるビームを出したり
衝撃波で、金網に穴をあけた事も。」
古「シャミセンが一時会話できるようになりました。後桜が満開になり、絶滅済みのリョコウバトが・・・」

キ「金網は老朽化、桜は異常気象という事になった筈だ。桜は長門が散った後に、記憶や新聞記事を消去した。
劇中の桜はCG合成という事にしてあるらしい。ハトは普通の鳩にしか見えないステルスを使い、
交尾できない様にしたらしい。」

当然既に全部死んでいるだろう。酒と爆竹は違法かもしれないが、特命係が動くような事件じゃない。

古泉の機関は、ハルヒに神的力が有った時も危険な抗争等は無かったらしい。そんな事をしたら、
兵庫県警や、公安にマークされてしまう。CIAやMI6の様な諜報機関に気付かれる恐れもある。

しかし、機関が移行したセキュリティー会社に対し、杉下警部が不審な点を感じたと言う可能性はあるだろう。


一番まずいのは、長門と朝比奈さんの事を調べられる事か。

古「宇宙人に未来人ですからね。」
キョン「コナン君はどうやって小学校に入る手続きをしたのか、考察しているサイトが有るが。」

そもそも、お金はどうやって用意しているのだろう。何処かで杉下警部に不審を持たれたという線
もありうる。

キ「しかし、長門がそれに気づいていないとも思えない。」
古「不審を抱いていれば、もっと早い段階で接触して来たでしょう。

しばらく気を付けた方が良さそうだ。それぞれ会計を済ませ、まず先に古泉が店を出て俺は念の為に、
2分ほど待ってから、駅へ向け歩き出した。幸い特命係と遭遇する事も無く寮に帰り着いた。


本日はここまでです。ありがとうございました。

いよいよ後半です。特命係がつくばに居たのは偶然かそれとも・・・・
明日9時から開始します。明日は長いかも?

9時5分から開始します。長いので2日に分割すると思います。



俺達が東京に帰りつくのと前後して、資料のコピー(オリジナルは茨城県で保管)も東京に届いた。

今度は・・・・本多・・・佐渡・・・つまり本多正信の記録か?

本多正信の子孫は今どうしているんだろう?確か、次男は放浪して一時直江山城の養子になるのだが、
その後再び上杉家も離れ、加賀百万石の前田家で家老になり、幕末まで続くと聞いた気が(大河ドラマ天地人)
長男の子孫がどうなったか、調べようとキーに手を伸ばしていると、ハルヒが入って来た。

ハ「さて早速文章を見ましょう。」

長「この日付は、第一次上田合戦が終結し、参加武将が駿府に帰って来た頃。」
み「氏治ちゃんが襲われる2年前ですね。」
古「お祭りの日に石を投げられる2か月前ですね。」

本多正信邸

重次「面倒だが、九戸政実から聞き出して来たぞ。」
正信「かたじけない」

正信「なるほど、九戸殿は氏治以外の護衛や、側仕え等の家臣は一切見ていないと。」
重次「わしもおかしいとは思うがな。だが、深読みのし過ぎかも知れんぞ。小田領から逃げる際に、盾となって散ったか
もしくは途中で、病気か戦場での負傷が悪化して世を去ったとかではないのか?」

正信「確かに、その可能性を完全に否定する訳ではありません。しかし、どうにも腑に落ちないのです。」


その後本多重次は、酒席を断り帰って行った。それと入れ違いに、

正信「源太か?」
源太「ハッただいま戻りました。」

正信「無事で何よりだ。氏治殿の足取りとか、何か掴めたか?」
源太「まず小田原から、常陸国小田領に向け調べを開始しました。」

正信「やはり氏治殿は、一人で旅をしていたのか?」
源太「氏治殿は、街道沿いの農家や町屋の住民の施しを得ながら、旅をしていたようです。」
正信「氏治殿は、見た目は愛らしいから助ける人間が居ても不思議ではあるまい。」
源太「幾人かに会って話を聞き出しましたが、氏治に付き人が居たと証言した者は皆無でした。」

正信「やはり、氏治殿を逃がす時に命を落とされたかな。氏治殿は北条家に庇護を求めなかったのか?」
源太「そちらは何とも、必ず助けてもらえるとは言えません。庇護を求めたが断られた可能性もあります。」
正信「確かに、北条家も敵だった上杉家と同盟を結んだり、それを破って武田家と同盟を結んだり・・しているからのう。」

古「確かに、外交の道具として佐竹家に引き渡されない保証も無いですね。」
ハ「生きて引き渡されるなら未だしも、塩漬けにされて木の桶に入れられて運ばれる可能性も、あったわね。」

朝比奈さんが、また震えているのでしばし休憩だ。

長「北条家も、盟約破りをやっている。織田徳川の同盟みたいに、長期間継続した方が珍しい。」
キ「危険を感じ、北条家には近寄らなかったか。」
ハ「氏治にそんな知識有ったのかしら?」


キ「本能的に避けたとか?」
古「門前払いにされたのではないでしょうか?」
み「疲れていて、気力が無くなっていたんでしょうか?」

長「小田原が北条家の本拠地である事すら、知らなかった。」
ハ「そこまで馬鹿とも思えないけど、服が汚れて高貴な身分だと信じてもらえなかったんじゃ?」
長門以外の答えは、有りそうな可能性だが答えは出そうにないので、一先ず先に進む。

源太なる・・・おそらく所謂草(忍び)山伏か行者僧か、旅商人に化けたのかは判らないが、彼は小田領に向かった。
そして小田領に近付くと、変化が起きた。

農民「隣の家に、お腹を空かせた…小田氏治らしき子が一晩の宿を求めましたが、石を投げられ棒で追い出されました。」

キ「やはり小田家の美談は、ねつ造だったのか?」
み「もしかすると、他の大名家の事と間違って伝わった可能性も、ありえますよぅ。」
キ「先代の小田氏の頃の事と勘違いしているのでは?」

本能寺の変の黒幕はおろか、150年前の坂本竜馬暗殺事件の真実すら未だ不明だ。小大名の歴史事実が
間違って記録されていても、不思議では無い。

その後、小田領に着いた源太は氏治に付いて世間話を装いながら、聞き出して行った。しかし、聞こえて来るのは
氏治に対する悪口ばかりだった。

氏治のせいで、息子が皆戦で死んだ。家が焼かれた田畑は踏み荒らされて、育てた稲は敵方に奪われた。
氏治を庇うものも、多少は居たが周囲の者が、お前は氏治の失敗の被害を偶々受けていないから、
そんな事を言えるのだと言われ、黙るしかなかった様だ。


ガラッ

風次(ふうじ)「只今帰参しました。」
正信「無事帰ったか、疲れている所悪いが早速聞かせてくれ。」

風次は西伊豆の漁師の生まれだ。幼い頃、勝手に父親の漁船に潜り込んで漁について行ってしまい、
その日の夜嵐で船は沈み、源次は奇跡的に遠州に流れ着き、正信に拾われた。

風次の幼馴染が、小田原の由緒あるお寺で僧侶になっていた。幼馴染は、修行の一環として数年間
常陸国小田にあるお寺に派遣されていた。

幼馴染は、およそ10年ぶりに再会した風次を歓待した。風次は、嵐に遭い漁師の親方(網元)に拾われ、
駿府で漁師として働いていると話し、巧みに小田氏治の事を聞き出した。

僧侶「それでは、氏治殿はやはり徳川家におられるのか、お噂は聞いていたが?徳川では、可愛がられているのか?」
風次「ご家中の方々や、町の人に大層可愛がられてるよ。」

僧侶「そうかそれはよかった。」
源次「しかし、時折昔の事を思い出されるのか悲しそうな顔を、浮かべておられるんだ。俺も何かしてやりたいんだが、
昔何かあったのか、話せる限りでいいので教えてくれんか?」

僧侶は、頷き語り出した。


僧侶「氏治殿は、小田でも家中の方は元より領民にも可愛がられていた。」
風次「そうなのか」
(戦で負け始めるより前の事だろう。)


僧侶「いや、普通に可愛がられていたよ。」
どうやら、徳川家みたいに町の市井の民からも可愛がられていた様だ。それは氏治の幼少期だけでも無いみたいだ。

キ「戦に負けた氏治が、とぼとぼと帰って来る。いつもの光景だ。」
ハ「きっと、犬耳も力なく垂れて尻尾も揺れる事無く、へにょんと丸まっている感じね。」

氏治「ううっ、また負けてしまいましたぁ。氏治は何時まで経ってもダメダメです。ごめんなさぃぃぃー!」
兵士「未だ次が有りますよ。また明日から頑張りましょう。」
ぱっと笑顔になる氏治

風次「お前も氏治殿にあった事は有るのか?」
僧侶「何度かあるよ。一度は、宝物と言って勾玉を見せてくれたなあ。」

風次「へえーどんな感じの奴だい。」
僧侶「待ってろ、今紙に書いてみるよ。」
幼馴染の僧侶は、髪に筆で勾玉の絵を描いた。この寺に来てから住職に教わったらしい。

左右二つの珠から成り、片方は翡翠色でもう片方は淡い紅色をしている様だ。

僧侶「それを見せられてから、半月ほど経過した頃だ。氏治殿が泣きべそをかきながら土手の辺りを
必至にその勾玉を探していたんだ。」

氏治「お坊さん、私のお宝みませんでしたか? グスッ何処かで落としてしまったみたいですぅ。」
僧侶「一人で探しちゃいけない。私も手伝ってあげるよ。」

その姿を見た兵士や領民も、氏治を励ましながら勾玉を探し出した。


住民「氏治様、もう日暮です。お城にお帰りになってはどうですか?」
氏治「うう、解りましたぁ;;」シュン

住民2「また明日も手伝うよ。」
氏治「あ、ありがとうございますぅ。」

次の日もお昼から氏治と町の人は、勾玉を探し出した。そして夕方に、氏治が項垂れながらお礼を言って解散。
それが数日続いた。

しかし、その後一緒に探す人は減り出した。半分になり2割5分になり、程なくして僧侶と氏治だけになった。
最初は、探索には加わらずとも氏治を励ましたり差し入れを持って来る、住民や子供も居た。
しかし、最後は(10日後)にはそのような事も無くなってしまった。

氏治「多分川に落ちて流されてしまったのだと思います。これまで探すの手伝ってくれてありがとうございました。」
僧侶「気を落とさないようにしなさい。そうすれば必ず御仏の救いが有るでしょう。」

風太「それは、仕方の無い事じゃないかなあ。何時までも氏治の失せ物探しを手伝う事も出来ないだろう。」
僧侶「いや、それだけでは無いんだ。その頃から氏治に対する領民の態度が、明らかに変化したのだ。最初は気付かなかったが、
氏治に対する陰口を言う物が出始めたのだ。」

風太「本当か!徳川のお家ではそういう事は起きていない様だが。」
僧侶「最初は、物陰や家の中で家族同士の話くらいだったのだが、一月もすると堂々と氏治の悪口を平然と
言うようになった。最初は窘める者も居たが、直ぐにいなくなった。」

風太「氏治へ可愛がっていた人たちもか?」
僧侶「うむ、可愛がっていた者たちも最初は町に遊びに来た氏治殿に、あいさつしたりはしていたのだがやがて、
話されても無視したり、氏治が見えると隠れたり、扉を閉めるようになった。


僧侶「子供が氏治殿に駆け寄ろうとしても、直ぐに親か近くに居た大人が止めるようになった。
未だ飯時でも無いのに、ご飯の時間だと言って家に入れたりあるいは、野良仕事を手伝えと言って、引き離したりだ。

その内氏治殿も町に来なくなってしまった。そしてある日戦が起きた。

僧侶「ケガをした人の為に、薬草を集めに行って戦の場面を見たのだが・・・氏治殿は、直ぐに一人で逃げ回る事になった。
氏治殿が逃げていても、小田方の兵士は誰も助けようとしないのだ。」

長「一人で逃がした方が、安全であると判断したのでは?」
キ「いや、それは変だぞ。小柄な方が隠れやすいかもしれないが、ここは平坦な場所だぞ。
たとえ草むらに隠れても、その内見つかってしまうだろう。」
古「彼女は小柄な少女です。一人で逃がしたら、逆に目立ってしまうのではないでしょうか。それに誰も助けに行かないと
言うのも不審ですね。もし、氏治が戦死してしまったらお家の一大事ですよ。」

み「それに、犬耳と尻尾…ああもちろん造り物でしょうけど、更に目立ちますよぅ。」

は「他の兵士達は、自分を囮にして氏治を逃がしたんじゃないわ。むしろ氏治を囮にして自分達の安全を図ったのだわ!」
アニメキャラみたいに自信満々で宣言するハルヒ。

キ「いや、そんな恐ろしい事はやらないだろう。主君だぞ、負けてばかりでもそこまでやるとは。」
長「氏治の服装の記述だけど、徳川時代と同じ。」
古「戦場で、この衣装は非常に目立ちますよ。それこそ夜のイカ釣り漁船の集魚灯みたいにね。」

ハ「銀河英雄伝説の戦艦も、目立たない色になっているわ。真っ白とか真っ赤とか真っ黒のもあるけど、あれは特別よ。」
キ(どうもハルヒの言い分が正しい気がしてきた)

ふと、見ると朝比奈さんが文章を指しまた震えていらっしゃる。


僧侶「近くで戦いが起きているので、木の陰に身を隠したんだ。すると近くを氏治殿が一人で逃げて行った。」

氏治「ひぃいいいいいい!」

すると、近くの木の陰に身を潜めていた兵士が、
兵士「氏治がいたぞー」
と大声を上げた為に、更にに多くの兵士が氏治の追跡に加わった。

僧侶「しかし、その兵士の顔には覚えが有った。」
風太「顔見知りか?結城とか佐竹の方にも行ったことが有るのか。」
僧侶「いや、それは小田方の兵士だった。」

風太「氏治殿の命を狙った間者なのか?」
僧侶「いや、代々小田領に住んでいると言っていた。それに戦の後もその兵士は小田領を離れる事は無かったなあ。
無論今どうしているかは知らない。間者なら元の佐竹あたりに戻っているだろうがな。」

長門「やはり囮にされたのは、小田家兵士では無く小田氏治本人と断定すべき。」
ハ「氏治が、味方部隊の方に逃げて行っても助けずに、敵と戦う風に装い離れて行くと書いてあるわね。」

氏治に向かって来た敵兵の攻撃は、刀や槍だけでは無いだろう。弓矢や鉄砲(鉄砲の生産地より遠いので数は少ない。)
がマリアナ沖海戦の対空砲火の如く、氏治に向かって来ただろう。命中しなかったのは、奇跡に近い。

み「その日の戦は、小田方が最初から負けていたけど、午後になって急に大雨になって攻めきれずに、敵方が
有利なまま追撃を断念し引き揚げたみたいですね。」

キ「急に大雨になって、戦場が混乱し馬が足を滑らせて転倒したり、討ち取られる兵士もでたのか。」
古「天気の急変だと、数が多い方や勝っていた方が逆に混乱が大きくなる事もありますね。」


氏治の指揮で戦が始まると、直ぐに形勢が悪化する。そうすると家臣達は、

家臣「氏治様、ここは我々が防ぎますのでお逃げ下さい。」
氏治「ありがとうございますっ。」

実際には、部下達は氏治を囮にして安全を図り、戦が終わると何食わぬ顔で集まって来る。

氏治「ううっ、今日も負けてしまいましたぁ、グスッ」
家臣「チッ・・・・、次こそは勝ちましょう。」(棒読み)
氏治「ヒックウエエエグスッ」


やがて、僧侶が小田原に帰る日が来た。

氏治「お坊さん、お世話になりました。」
僧侶「氏治殿もご壮健でおられますように。」

氏治には最初であった頃の元気は、微塵も無かった。小田家が滅亡するのはその3か月後であった。
その後氏治が小田原に辿り着いた時には、会う機会は無かった様だ。

風次も、小田に赴き氏治を可愛がっていた領民に、そのことを聞いたのだが、

領民「どうして氏治を可愛がっていたのか、良く判らんのです。氏治のせいでわしらの生活は滅茶苦茶になったと言うのに。
戦に負ける度に、町は焼かれ敵の兵士が略奪して行きます。それなのに、なぜ氏治を可愛がったのか良く判らんです。
丸で狐に化かされていたんじゃないかと。」

しかし、これはまだまともな部類だった。


領民「氏治様・・・・・そんな方おられたかなあ。」
領民2「小田家の当主は、政治様が最後だったぞ。」

ハ「寝ぼけているのかしら?」
キ「そうでは無さそうだ、風次なる忍びも不審に思い、他の事を聞いてみたがその受け答えは、正常だったみたいだ。」
み「とんでもない答えを返した方の中には、若い人も居るみたいですよ。」

その後風次達を労う為の、酒宴となった。無論二人は氏治以外の北条家や、下野国(栃木県)の結城・宇都宮 
常陸の佐竹家の事も、調べておりそれらは食事を採りながら報告した。

源太「正信様、何か気になる点が?」
正信「いやこの勾玉、何処かで見た記憶が有るのだ。」

二人は更に、小田原等の町の様子を報告したが正信はどこか上の空だ。

正信「思い出したぞ!」
風太「本当ですか?どこで見られたので?」

正信「軍師天城ソウマ殿が持っているのを思い出した。」


源次「一体なぜ、天城軍師がその勾玉を所持しているのでしょうか?軍師殿は、小田氏の縁者でも
常陸国の生まれでも無いと記憶しておりますが。」
正信「確か危急を救った商人・・・・越中富山の薬売りから譲り受けたと、小耳に挟んだ。」

越中富山の薬売りは古くから有名で、遠くまで薬を売りに行商を行う。

風太「武田家が滅亡する前、武田方の脱走兵士達数名が盗賊になって、商人とかが襲われた事が有りましたね。
天城殿が、盗賊から商人を救ったと記憶していますが、あれは富山の薬売りだったのですね。」
武田家は末期になると、城が包囲されても援軍も食料も送られてこないので、脱走して盗賊になる兵士も居た。

恐らく、富山の薬売りは小田で氏治が落した勾玉を拾ったのだろう。

正信「確か一人だけ、盗賊を取り逃がしてしまった筈。多少所持金等を奪われたのだろう。
薬売りは謝礼を払おうとするも、天城殿は固辞して断る。」
風太「ではせめてこの勾玉をお受け取り下さい。旅の途中で拾った物で、由緒ある物かもしれません。」

正信「思い出したぞ」
源次「薬売りの名前ですか?」
正信「うむ、当家にも出入りしておる。しかも運の良い事に、そろそろまた来られる頃じゃ。」


それから3日後、その薬売りは富山の薬を売りに本多邸に来訪。正信が聞きだした所によると、
やはり勾玉は小田領の河原で拾った代物で、時期も氏治が勾玉を無くした時期とぴたりと一致した。

正信「この勾玉が無くなって、程なくして氏治への領民の態度に大きな変化が訪れたのだな。
何とか調べる必要が有りそうだ。」


駿府郊外某所

徳川家臣大賀弥四郎は、手紙に記された場所に指定の時間より早くやって来て、密かに身を潜めた。
既に大木の陰に、彼を呼び出したと思われる相手が背を向けて立っていた。

大賀「ぐふふ、ひと思いに始末してやる。証拠も始末しなくては。」

文には、彼が勘定方の職務を悪用して横領を行い、更に金と引き換えに北条家の間者に、情報を渡している事
が書かれていた。上役に知られたくなければ金をよこせ。サスペンスでおなじみのシーンだ。

長「サスペンスで同様の行為を行った場合、たいてい殺される。もしくは警察の罠。」

大賀も、相手を[ピーーー]方を選んだ。刀を抜いて音も無く背後から、

大賀「[ピーーー]っ!・・・・・・何っ!」
なんとそれは、案山子を人の様に偽装した偽物だった。動揺する大賀の首先に刀身が付きつけられる。

忍「大賀弥四郎だな?」
大賀「クソッ、罠か!」

忍2「おとなしくしろ、刀は預からせて貰う。ついて来い。」
大賀は後ろ手を縛られ、近くの無人の空き家に連れて来られた。

忍「大声を出したら即始末するぞ。」
大賀「探索方じゃないのか?何者だ?」

大賀の目前に帳面が置かれた。それは彼にとって見覚えのある代物だった。


大賀「何が望みだ?」

武士「何、ちょっとした事をしてくれれば良い。やってくれたら金をやってお前を他国に逃がしてやる。」

大賀「そんな事で良いのか?公の場で小田氏治に石をぶつけ、罵倒する。確か負けまくっているバカな小娘だな?
とうとう堪忍袋の緒が切れて、氏治めを傷め付ける訳だな。」

忍1「ふむそういう事だ。」
大賀「ひと思いに始末しても良いんじゃないか?徳川家に迷惑をかけまくっているからな。」
忍2(お前が言うな!)

武士「お前は言われた事をやれば良い。」
大賀「チッ解ったよ。確かに名家の姫君だから[ピーーー]のはまずいわな。」

忍2「その後、酒場で大声で氏治を中傷しろ。」
大賀「いつやればいいんだ。」

武士「それは追って指示する。いいかその間、間違っても横領なんかするでないぞ。」
大賀「解ったよ。他に気を付ける事はあるかい?」

武士「石を投げる時、他の者に当たらないようにして欲しい。」
大賀「石投げは得意だから案ずるな。」

石はタイムスクープハンターでも扱っていたが、戦国時代弓矢に劣らない重要な武器の一つだ。
徳川家康が幼い頃、今川で石投げ合戦を見て、

家康「人数が少ない方が勝つと思います。」
と予想し的中させたと言う有名な逸話が有る。


忍「先に出ろ。」
武士「我々の事を探ろうとしたら、命は無いと思え。」

大賀は舌打ちをして、先に空き家を出る。その後、大賀の気配が消えたのを見届けてから忍達も小屋を出る。

ある日の夕方 大賀家(独身)

大賀「連絡はいつあるんだ?飲みに行くか」
シュタッ
忍「今だ!」
大賀「うわああ、どっから入った!」
忍「明日、秋祭りが有る。恐らく氏治も祭りに行くだろう、既に団子屋の娘お鈴と約束している。お前は期を見て、氏治
に石をぶつけ尚且つ罵声を浴びせるのだ。」

大賀「報酬の方は間違いないだろうな?」
忍「案ずるな、これは前金だ。成功したら報酬と共に、通行手形も出してやる。」

大賀「承知したと伝えろ。」シュタッ
大賀が前金を確認し終えて、気付くと既に忍びは消えていた。


祭り当日 

駿府の町は年に一度の秋祭りで、華やかに輝いていた。遠方の旅芸人や上方の商品を売る商人。
近隣の名物料理の他に、遠方の珍しい食べ物を出す屋台もある。


大賀(祭りで人が多い。氏治を探すのは一苦労だ。氏治がしでかした失敗や、負け戦で見舞金とか
どんだけ会計方が、尻拭いをさせられたか。いっそ始末してやるか徳川家の御為にな、ぐふふ。
手元が狂ったふりをして、後頭部にぶつけてやるか。当たり所が悪ければ・・・。)

その時、足元で小石がはねる。
声「小声で話せ。氏治は少し先の、揚げたこ焼き屋だ。間もなく出て前に進む。」
大賀揚げたこ焼き屋?」
声「最近上方で流行りの、ふん今はそんな事は期にする必要は無い。」.

大賀「解ったよ。」
大賀は周囲を見渡したが、人が多く騒めいている。何処から声が聞こえて来るのか判らない。
声「氏治の頭部は狙うな、と指示した筈だ。背中か足を狙え。」

大賀(忍者は人の心が読めるのか?)
しかし、もう忍者の声は聞こえなかった。しばらく進むと氏治とお鈴の後ろ姿が見えた。

人ごみに気を付けつつ、氏治を狙う。程なく一瞬人の移動が途切れ、氏治までの空間に遮る物が無くなった。
懐の石を掴み、そっと取り出す。

お鈴「普通のタコ焼きより美味しいわね。」
氏治「駿府でも名物になっちゃうかもです。今度ソウマさんに教えてあげますっ。えへへー」

大賀(今だ!)
大賀は、素早く周囲を確認し石を投げ放つ!

ヒュンッ バシツ
氏治「ヒウッ!痛いですぅー。」


お鈴「誰なの、氏治ちゃんに石投げたのは!」

大賀「この味方殺し!ざまあみろ!」
罵声を浴びせた大賀は、素早く横の路地に姿を消した。氏治を気遣う連中の声が遠くなる。
大賀(最後横に居た、若い奴に顔を見られたかな?祭りなので酒の一杯も、飲んでいるだろう。覚えていないかも
しれない、覚えていたとしても思い出した頃には、俺は他国だ。)

一時後(2時間)酒場

大賀(適当に酒を飲んで酔ったふりをして騒ぐか・・・・本多忠勝!武将の悪口とか行ったら、怒ったりしないかなあ?)

忠勝「酒場で仲間の悪口を大声で言うなんて、許せんでござるよ!蜻蛉切りの錆になるがいいでござる。」
一瞬躊躇したが姿が見えない忍びの方が、よほど不気味だ。姿が見える忠勝はまだ見える脅威である分、
対処する事も可能かもしれない。

大賀(悪口を言ったら即逃げよう。台の上に飲み代を置いておけば、食い逃げとはされないだろう。)
以外に小心な大賀は、まず代金を代の上に置いて、入り口までの逃げる時間を計算した。

大賀「「天城軍師は何故、氏治の様な無能者を甘やかすのだ!あの味方殺しのせいで、会計方もどれだけ
尻拭いをさせられていると思っているんだ。さっさと追放してしまえ!」

客「畜生、氏治隊に配属されていたが敵に発見されて、怪我をして寝込んでいる間に妻に逃げられた。
全て氏治のせいだ。」
客2「氏治隊が廃止されて、国内の治安隊に配備されたが変な出来事も起きずありがたいね。氏治には何か
憑りついているのではないか。」
商人「そうだ、そうだ!」


大賀(こいつら、確か氏治隊の奴らじゃないか?そうか、彼らも我慢してたんだな。その気持ち良く判るぞぉー。)
忠勝「こらっ、酒場で何を騒いでいるでござる!」

大賀(やばぃっ!逃げるぞ。流石に酒場に槍は持って来てないが、殴られたら痛そうだ。同志達よ、無事逃げ延びる事を
祈るぞ。そこの商人さんも無事逃げろよ。)

大賀は一目散に逃げだした。店員の飲み逃げよと言う声が聞こえるが、台の上に飲み代は置いて来た。

しかし、店員に顔を見られた為に謹慎を申し渡されてしまう。日中文が投げ込まれそれには、謹慎が明けるまで待て
と書かれていた。不審な気もしたが、謹慎中の身で家の外で見られるのは確かに拙い。

大賀(牢にぶち込まれたりするのは確かに拙い。横領の事も調べられるかもしれねえ。癪だが半月間我慢するか。)


やがて謹慎が明ける日が近付いて来た。再び文が来て夕刻町外れの神社に来るようにと書かれている。
町中では、今日辺り軍師天城ソウマが帰って来るらしいとのうわさが流れていた。

大賀(軍師殿が一番氏治を甘やかしていたな。帰り道で遭遇しない方が良いかもしれない。)
もし氏治に石を投げつけた事を知られたら、一番に追いかけて来るかもしれない。

大賀(足の早さには自信が有るから、大丈夫だろう。)

当日 会計方の仕事もいつも通りこなし夕方神社に向かう。

大賀「これで、あんたらと会うのも最後だな。」
忍1「まあ、そうなるな。とにかくよくやってくれた。」
大賀「金と手形をもらおうか?」
忍2「受け取れ」

大賀は中を改めるが、中に入っていたのは六文銭だ。


大賀「おい、何の真似だ。」
侍「真田家の旗を知っているか?六文銭が描かれている。」
大賀「それが何だと言うのだ。」

侍「由来は知らない様だな?三途の川を渡る時の渡し船、その渡し賃が六文なのだ。」チャキ
一斉に刀を抜き放つ忍び達。大賀も慌てて刀を抜く!

大賀「口封じに[ピーーー]つもりか!」
忍2「金で転ぶ奴など、信用できんからな。後の始末は任せろ。」
忍「横領犯としてのみならず、小田氏治に暴行を働いて挙句逃亡を図り斬られた。史書に名前くらい残るかも知れんぞ。」

大賀「返り討ちにしてやる!」ヒュン
次の瞬間、不運にも両者の間に入り込んだ鈴虫が音も無く両断され地面に落ちた。

大賀「ひぃぃぃいぃーー!」
大賀の闘争心は瞬時に消し飛び、一目散に逃げだした。
忍「逃がすか!」

悪路の多い山道で訓練を重ねた、忍び達に敵うはずも無い。あっという間に追い付かれるかに見えたが・・・

武士「?」
忍立がざわっとした空気の流れと、地鳴りを僅かに感じた瞬間地面が揺れた。

忍「地震だ!」
直ぐに揺れは収まったが突然の地震で、忍達が転倒を防ぐ為に対応している間に、大賀と距離が開いてしまった。


忍「逃がすな!」
追いかけて行ったが、一瞬見失ってしまう。
忍2「何処へ行った!駿府から生かして出すな!」

忍1「こっちで気配がしたぞ。」
気配を感じた方へ足を向けた瞬間!


男の声「お前もか!」チャキッ
男の声2「てめえ、何の真似だ!」
チャキッ バシ ザシュウゥゥゥ

男1「グワアアアアアアアア」
忍1「誰か斬られたらしいぞ。大賀の声だ!」
忍2「もう一人の声は、九戸殿ではないだろうか?」
忍1「そこの空き屋で着替えよう。」

空き家に入った二人は、手早く忍び装束を脱ぎ見事な早着替えを披露(誰も見て無いです)。
断末魔の声が聞こえた方に行ってみると、案の定大賀が倒れ伏している。

ピクリとも動かない点を見ても、既に絶命しているのだろう。恐らく、九戸政実を追手と勘違いし切りかかり逆にやられた
と思われる。状況から見ても恐らくほぼ何も知られてはいるまい。直ぐに天城ソウマと本多忠勝が駆けつけて来た。

本多忠勝「おぬしらは何者でござる?」
侍「実は、この大須賀弥太郎には公金横領の疑いがございまして。調べを進めていた所でした。」
侍2「遂に証拠を掴み、捕縛に向かったのですが・・・・・」


その後目撃者から聞いた所によると、大賀が九戸政実が突然物陰から出て来たので、追っ手と勘違いして
抜刀して襲い掛かり、九戸もやむなく応戦し返り討ちになってしまった事が明らかに。

その後氏治が呼び出され、石を投げられ草を口に入れられた時の男と背丈は似ていると証言。
続いて、連れて来られた漁師の男が祭りの夜に、氏治に石を投げた男に違いないと証言した。

翌日大賀の自宅から、裏帳簿や横領された金子が見つかり、

「横領が発覚しそうになり、急ぎ逐電しようとした。金子や証拠を持ち出そうと自宅に向かっていた所、偶然鉢合わせした
九戸殿を捕り方と勘違いして、斬りかかり死亡した。」

という事で落着した。無論九戸政実は咎め無しで、大賀家は家禄没収の上お取り潰しとなった。

本多邸

源次「危うく取り逃がすところでした。面目次第もございません。」
正信「地震が来たのが原因じゃ、お主たちの責任ではあるまい。とりあえず大賀の口はもう何も話せぬ。」
風次「斬られた方角に、大賀家が有ったのも幸いでした。」

正信「これでなぜ氏治殿が失敗や敗北で、領民や御家中に被害を出しまくっても、誰も氏治殿を厳しく罰したり襲撃したり
悪口を言わないのか明らかになった。」
風次「あの勾玉のせいですね。持ち主を護る力でもあるんでしょうか?」

源次「恐らくそうだと思う。見た所は特に不審な点は無いですよ。隙を見て触っても見ましたが、特に何も。
強いて言えば、淡い紅色と翡翠色を発しているだけです。」

風次「まさかこの世ならざる物・・・・」
正信「案外そうかも知れぬな。」


お祭りの日深夜

正信「大賀は、氏治に石を投げ付ける事が出来たのだな。」
源次「それ所か、大声で氏治に対し悪口を言う事も出来ました。」
風次「今まで、氏治に対して危害を加える所か、罵声を浴びせる人間すら居ませんでしたからね。」

正信「氏治のいない所で批判・中傷をする・・・今回の様に、酒場等人が集まる場所で氏治殿を批判する
人間も居なかった。陰でこそこそと批判している人がいないとまでは言えないが。」

風次「やはり例の勾玉のせいでしょうか?」
源次「今勾玉は、真田家との和睦交渉に赴いている天城軍師の元に有ります。氏治殿の勾玉が、氏治より
離れた事により、氏治殿への攻撃や批判が可能になっているのでしょう。」

例の勾玉は、小田氏治が落した日に少し下流の川沿いで薬売りが拾い、駿府へ向かっている最中
遠江東部で、盗賊団に襲われ天城軍師に危ない所を救われ、そのお礼に置いて行った事が確認された。

氏治がどんな失敗をやらかしても、周囲が責めず可愛がるのはその勾玉の不思議な力(?)なのかを、
確かめる為に、今回計略が実行された。

天城ソウマが勾玉をお守りとして、持ち出した場合どのような事が起きるか。(持って行かなかった場合、こっそりと持ち出し
軍師の荷物に忍び込ませる予定だった。)それを確かめる必要が有った。

勾玉を持った天城軍師が、甲斐国に入って数日後から駿府城下でも、氏治の陰口を叩く人が増えて来た。
今までは、それすら無かったのである。

源次「これで決まりですね。」


正信「まて、未だ早い。確かに氏治殿に対する攻撃は出来たが、祭りの夜と言う日頃とは全く違う・・気分が
著しく高翌揚する時に起きた。祭りが終わって日常に戻った時に、起きるかを調べねばならないだろう。」

正信「源太、お主は大賀の奴に背丈が似ている。」
源太「は、はい」
正信「大賀を装い、氏治に対し・・・・ふむお仕置きをしてやれ。手段は任せるぞ、多少痛めつけても構わぬ。」
源太「御意!」

源太「天城軍師は今何処らにおられるだろうか?」
風次「既に、上田を出て今日ぐらいに碓氷峠を超えたでしょう。今日の宿は横川か、少し伸ばして松井田辺りですね。」
正信「氏治に対しては、味方殺しと言う言葉を入れるようにせよ。天城殿は、帰路小田原に寄って北条氏政殿
に対し、上洛を薦める予定だ。しかし、小田原辺りまで戻られてしまうと、勾玉が効力を取り戻してしまうだろう。」

源太「近日中に行います。」


ハルヒ「この勾玉の効果は誰が持とうと、最初の所持者の氏治に対して起きるみたいね。」
長「富山の薬売りには、特別な幸運などは起きていないと思われる。」

み「それどころか、盗賊に襲われてしまいます。」
キ「大いに不幸な事だと思う。」
古「しかし、運よく侍に助けられ怪我も無く助かった事は、ありがたい幸運と見る事も出来ますね。」

キ「氏治が勾玉を無くした時は、領民の態度に異常が出るまで数日かかっているぞ。」
み「拾った人が、数日近くに滞在していたからじゃないでしょうか?」


み「薬売りの人は、体調を崩したとか常連の方に歓待されて、数日滞在したのじゃないでしょうか?」
キ「常陸国の周辺・・・・それほど距離の離れていない村で、何らかの理由で数日滞在した。」
長「その間は、勾玉と氏治の距離は未だ近かったので、効果が継続された。」

古「だから勾玉を落として数日は、領民も勾玉探しを手伝った。更に氏治への態度にも変化は無かった。」
ハ「でも、風邪が治り再び旅立つ。恐らく武蔵の国から相模国へ向かった。それで、勾玉と氏治の距離が開き
誰も氏治を可愛がらなくなって、氏治への批判を始めた。」

キ「異常な事態に陥った。」
ハ「むしろ正常な状況に回復したと言うべきよ。常敗不勝なんてそんなのが許されるのはハルウララだけよ!」
キ「確かにそっちの方が正常だな。氏治の事を忘れてしまったような発言は気になるが。」

み「氏治ちゃんの事を思い出すのも不愉快、という事なのかなあ?」


ハ「密談の2日後、源太は氏治を血祭りに挙げるべく。」
長「血祭りでは無く、限定的武力行使。朝比奈みくるが震えているので、留意すべき。」
長門の発言もどこかおかしい気がするが。密談の次の日は夕方まで雨で、この日は断念した様だ。

その翌日は朝から快晴、所謂秋晴れで気持ち良い日だった様だ。氏治も、町の人の要望を伝えるお仕事を
取りあえず順調に行い、午後3時頃にお団子と草餅を買って、お気に入りの場所に向かった。

氏治を監視していた源太は、近くの無人小屋で手早く大賀に似た着物に着替え、頭巾で顔を隠し小屋を出る。
氏治は満面の笑みで団子を食べている。

氏治「ソウマさん、もうしばらくしたら帰って来るそうです。氏治がふぬーっと頑張っているところ見てもらって、たっぷり
誉めて貰いますぅ。えへへっ」

氏治「お団子美味しいですぅー。はふぅいくらでも食べれそうですよぅ、えへへー。」
氏治は、次いで草餅を取り出し満面の笑みであむっと口を開ける。


それを見た源太は、風邪の如く素早く動き氏治の手から草餅を奪い取った。

氏治「ひゃっ!」
源太に気付いた氏治は最初驚いた表情を浮かべ、次いで怒ったような表情を浮かべた。


氏治「あのー、その草餅は氏治のですよぅ。返して下さい。」
男「すまん、返してやるよ・・・・土になっ!」
氏治が草餅を受け取ろうと、手を伸ばすより早く源太が、餅を地面に投げ落とし草履で踏みつける。
草餅はぐちゃりと踏みつぶされ、中の餡子がはみ出る。

氏治「ああっ!酷いですぅー!グスッお餅返して下さい!」
氏治が、目に涙を浮かべ抗議するも源太(顔は隠している)は軽く冷笑を浮かべ無言で、氏治の犬耳に手を伸ばした。

氏治「お耳引っ張っちゃ嫌です!ミシミシ痛い!痛いですぅー!止めて下さいっ。」
源太「ふん」
氏治「痛いよぅー!助けて下さいっ!裂けちゃいますぅ、氏治のお耳裂けちゃうよぅ!」

次の瞬間源太は、氏治の犬耳からぱっと手を離した。予期していなかった氏治は尻もちを付いてしまい、泣き出した。
源太「味方殺しに美味い草餅は勿体ない。生の草餅でも食わせてやる。」

源太は、氏治の口の中にその辺で抜いて来た雑草を数枚押し込む。それが終わると最早氏治の方を向く事も無く
風の様に立ち去り、小屋で再び素早く着替えを終えて草餅が付いている草履を隠し持ち、瞬く間に現場から遠ざかった。

数分後、少し離れた場所で草履をあらかじめ掘っておいた穴に捨てる。ふと現場を望み見ると、氏治がようやく子供
みたいにピーピー泣きながら歩き出すのが見えた。
キョン(ちなみ大賀は、同じ時間酒に眠り薬を入れられて眠っていたようだ。流石は忍者抜かりないな.。)


その後氏治は数日間熱を出して寝込んだ。

古「PTSDで体調を悪化させたのでしょうか?」
長「無理やり引っ張られた犬耳より、細菌の類が侵入した可能性も考えられる。」
み「でも、細菌が犬の耳から入り込んだら多分死んでしまうと思いますよぉ。」

キ「細菌とか公になるのは、パスツールとかだから数百年先の話だ。対処できる医者が居る筈も無い。」
ハ「造り物の犬耳からばい菌が入れるわけないでしょ。実際は髪の毛でもひっぱんたんじゃないかしら。」

確かに、本当に犬耳から感染していたら数日で回復できる筈も無いか。

数日後誅殺された大賀は、源太がやった氏治試験襲撃までやった事にされてお家取り潰しになった。
しかも墓地への埋葬すら許されなかったらしい。酒癖も非常に悪く他でも問題を起こしていた。


み(氏治ちゃんの犬耳と尻尾、・・・ソウマさんや攻撃を加えようとしている人以外は見えないんじゃないでしょうか?)
キ「確かに犬耳と尻尾が付いている女の子を武将として、雇うとはおもないな。獣憑きという事で始末されても
おかしくは無いと思う。)
古(それ以前に、船乗りは迷信的な人も多いですから船乗りに見えたら海に放り込まれていたでしょう。)
長(たとえ九戸氏が料金を支払うと、表明したとしても氏治は始末された可能性は最低79,6%以上。)

その後ようやく氏治は回復し、職務に復帰した。

正信「あの勾玉、念の為にこちらで預かった方が良いやも知れぬな。正確には偽物とすり替えるのだが、
三太、偽の勾玉は出来そうか?」
三太「難しいです、どうも南蛮のギヤマン似た技術が使われておりまして。形も流石に南蛮物は難しいです。
形が歪んでしまいます。それに、勾玉から出ている淡い色は、正体すら不明です。」



その後1年ほどは平穏に時が流れた。氏治に対し何か事件を起こそうとする、動きも無かった。

1587年年明け早々、太閤秀吉から要請を受けた徳川家は、軍師天城ソウマを参謀の一人として派遣
する事を快諾し、200名の兵士を護衛に付けて派遣する事が決まった。

正信「風次によると、今度も天城殿は例の勾玉を恐らくは、幸運のお守りとして持って行く様だ。三太、
お主は護衛兵の一人として同行せよ。通常の戦況報告以外にも、万一何か・・・勾玉に異常が起きた場合は、速やかに
連絡せよ。既に、連絡網の準備は出来ている。」

三太「御意!」
既に、秀吉による九州征伐が起きる事を予測して情報収集の為に、多数の偵察員が送り込まれていた。

島津家は北部九州の防衛を断念し、南部での守りを固める為に後退を余儀なくされた。
天城隊もほとんど戦闘らしい戦闘も無いまま、(軍師の護衛が主任務なので、そもそも危険を冒す必要も無い。)
日向国まで侵攻し、4月6日に高城を包囲した。

4月17日島津家は3万の兵で、救援に駆けつけるも側面からの奇襲攻撃で大勝利となった。
天城隊は、ソウマと官兵衛さんの護衛に従事していたので、ほぼ戦う機会は無く三太含め天城隊と
官兵衛さん護衛隊はほぼ無傷で、戦闘を終えた。

三太は、特にする事も無くなったので他の部隊の負傷者救助に加わっていた。

三太「!」
三太は突如気配を感じた。周囲を見たが敵らしき姿は無い、気のせいかと気を緩めかけたが・・・・

兵士「暴れ馬だぁー!」


見ると、一頭の体格の良い馬がこっちに向け突進して来る。

兵士「騎手はいないのか?」
兵士2「戦死でもしたんじゃないか?」

進路に居る兵士達が慌てて、避けたり物陰に隠れて行く。

三太(なかなか立派な馬だな。って感心してる場合じゃない!)
三太「皆隠れろ!」

三太は、隣にいた若い同僚と共に木の陰に隠れる。程なくヒヒーンと鳴きながら暴れ馬が通過して行った。
馬が跳ね飛ばした小石や、土・・更には衝撃で外れた木の葉等が落ちて来る。

三太「おい、怪我は無いか?」
兵士3「大丈夫です。見て下さい馬が向こうの森に逃げて行きましたよ。」

三太が視線を向けると、暴れ馬は陣地を横切り近くの森の中に逃げて行くのが見えた。
直ぐに怪我人の救助と、島津方の奇襲や反撃を警戒して配置に付く様に指令が出た。

三太がふと地面…先ほどまで天城軍師が居た場所の地面が、微かにきらりと光った。どうやら陽の光を反射してるようだが。
三太が確認しようとした時、今度は別の暴れ馬が黒田家の馬丁(馬の世話役)の制止を振り切り、走って来るのが見えた。
恐らく暴れ馬を見て驚いて興奮したのだろう。

暴れ馬が、近付いて来た時今度よりはっきりと光った。雲の隙間から再び日が(太陽)が出たのだろう。
しかも、今度はぼんやりとでは無くはっきりと太陽が出た事で、より強く光を反射したのだ。

三太(あっ、あれは例の勾玉!)


馬「ヒヒーン!」
光に反応した馬が、勾玉を蹴飛ばした。勾玉は偶然三太の方に蹴り飛ばされてきたので、気を付けて拾う。
直後馬丁が、馬をおとなしくさせる事に成功した。

勾玉は二つに割れてしまっていた。それまで紅と翡翠色を発していたが、それも次第に光を失いただの無機質な色
に戻ろうとしていた。

官兵衛さん「どうしたの、怪我したんだったら申し出なきゃだめだよ。」
三太「いや大丈夫です。」

その後日没近くまで、島津の反撃に対し警戒するも何も起こらなかった。陽が沈む頃、三太は警戒しつつ陣地の隅に移動する。
三太が短く合図をすると、正信が事前に送り込んだ忍が現れた。

三太「こちらは今日の合戦の報告・・・こっちの包みは必ず本多正信様にお届けせよ。」
忍「了解」

忍は、伊賀の山中で鍛えた脚力で次の忍に伝達。数日後には駿府の本多邸に辿り着いた。

風次「三太から連絡が届いたのですか?戦闘でも起きたのでしょうか?」
正信「日向国の要地高城を包囲していた所、島津の援軍三万が来襲したそうだ。」
源太「3万となると、豊臣方が大軍でもかなりの激戦になりそうですね。」

正信「最初は激戦だったそうだが、小早川と黒田の別動隊が側面より奇襲し、大勝利になった様だ。」
源太「それは良かったです。もう大規模な戦闘は無いかも知れませんね。」
風次「肥後方面からは、太閤殿下の本隊も南下を始めているでしょう。」

正信「戦闘の後ある事件が起きた様だ。」


風次「天城殿が負傷でもされましたか?」
正信「いや、天城殿はご無事だ。」
正信は、紙包みを取り出し中身を見せる。

源太「これは、例の勾玉では!しかも割れている上に、光ってもいませんね。」
風次「戦いの際に割れたのでしょうか?」

正信「三太からの繋ぎでは、戦闘の後敵味方判らぬ暴れ馬が乱入した時に割れた様だ。」
風次「馬を避けた際に、紐が外れその後誰か他の人が踏んでしまった・・・と言ったところですか?」

源太「天城殿は探さなかったのでしょうか?」
正信「この文が作成されたときは、未だ気付いていなかったのだろう。どの道探すのも難しかっただろう。」

源太「それよりも割れてしまったのは拙いのでは?光ももう発していないですよ。」
源太が、雨戸を開けて星光に翳す(かざす)も当然何も起きない。

風次「氏治殿と距離が離れただけで、小田の領民は氏治殿を相手にせず、攻撃を始めました。割れてしまったという事は・・・」
源太「もっとまずい事が起きる。」

正信「そうならぬ事を祈ろう。粉々にはなっていないから、勾玉の効力は残っておるやも知れぬ。」

正信(恐らく気休めに過ぎぬだろう。)


高城救援失敗後、更に島津軍は後退を続け4月末に降伏を決意。秀吉と対面し、薩摩大隅日向の3か国は安堵された。

源太「三太からの文ですが、事後処理も滞りなく終わり5月20日に太閤殿下の本隊と合流したそうです。」
風次「黒田殿や、天城殿をお供に平戸を視察するそうです。」

正信「平戸は南蛮との交易が盛んだ。南蛮商人や鍋島直茂殿と懇意になる事は徳川家にとって有益だ。」
風次「鍋島殿は、竜造寺家の家臣ではございませんか?」
正信「竜造寺家の跡取り政家殿は、暗愚の上病弱と聞く。その内肥前の領土は(佐賀県)太閤殿下の沙汰で、
鍋島殿の所領となるであろうよ。所で、何か報告が有る様だがどうした?」

風次「実は酒場で数人が、氏治殿に対し悪口雑言を並べておりました。」
正信「やはり始まったか。そ奴らの会話は深刻な感じであったか?」

風次「いいえ酔って笑い飛ばそうと言う感じでした。危害を加えようなどという物騒な感じではありませんでした。」
源太「小田での前例を見ると不安です。どう対処するべきでしょうか?」

正信「しばらく様子を見て判断しよう。小田の様な事態になったら、天城殿の屋敷に引き取って貰い
余生を過ごして貰う事になるやも知れぬ。もしくは、小田氏と関係が良かった北条家辺りに引き取って貰おう。」
源太「小田分家を拾った、結城家に押し付けると言う選択肢も。分家の連中も固く拒否は出来ますまい。」
正信「それも選択肢の一つじゃな。他にないか風次?」

風次「敵だった佐竹に押し付ける訳にも行きませんね。処刑はしないと思いますが万一そうなったら、徳川の家名に
傷が付きかねません。いっそ太閤殿下に押し付けると言うのはどうでしょうか?」

源太「おいおいいくらなんでもそれはあるまい。」
正信「いやいや以外に名案かも知れぬ。太閤殿下は名も無き百姓の生まれ、名家の姫君を養子か猶子(
猶子には相続権なし)に迎える事は、悪い事ではあるまい。」


正信「太閤殿下の元でも色々やらかして、徳川家の信用が無くなりかねないのでありえんがね。
冗談はこのくらいにしておこう。念の為しばらくの間天城殿から氏治殿に来る文を可能な限り、抑えて欲しい。」
源太「御意!」

しばらく後、三太から現在平戸を視察中で幾人かの南蛮商人と、繋がりを持つ事が出来たとの報告が。
また、天草や島原で多数の貧しいキリシタンが、海外に売られている事を知り天城殿や太閤殿下が激しい怒りを感じている
と。ついでに天城殿が氏治に対し文を出した事も記されていた。

正信(太閤殿下は、キリスト教を禁止されるやも知れんな。海外交易はどうなるだろうか、利益が無くなるので
宗教と貿易は別と判断されるやも知れん。それと、氏治に対する文が駿府に着くく予想も書いてある。)

その後、これより帰途に就くとか大坂に付くのは6月半ばの予定とか、太閤殿下は天城殿を度々、臣下にしようと勧誘しているとか
連絡が届いた。天城隊200名は1名の犠牲者も出さず、無事帰還できそうだった。


不穏な空気なのは駿府の方だった。氏治に対して最初はごく一部の酔っ払いが、酒の席でふざけて
悪口を言っているだけだった。公然と悪口や中傷が行われるまでに半月しかかからなかった。

風次「氏治と親しい駿府の町人とかは、特に変化は無いようです。」
源太「駿府は、今川時代から整備されてきたから、今更あまり弄る必要が無い。恨みを買ってないだけだ。
駿府にも、友人が氏治隊に居てへまで戦死した者もいるだろう。」
風次「油断はできませんね。」


正信「とりあえず寺にでも移すか。その間に北条家か結城家に引き取って貰う事を考えよう。」

源太「天城殿が知れば猛反対するかも知れませんな。」
正信「天城殿も、徳川の一臣下である以上協議で決まった事には、従って貰わねばならぬ。しかし、
確かに天城殿が戻られる前に、氏治殿には穏便に徳川家から立ち退いて貰った方が良い。」

源太「天城殿が全てを知った時には、後の祭りという事ですね?」
正信「少し悪い言い方だが、確かにそうに違いない?天城殿は、そろそろ大坂かな。」

風次「予定では、そろそろ大坂です。太閤殿下は九州討伐の祝宴をおやりになるでしょうから、
天城隊も断る訳には行きますまい。大坂を発つのは、早くて数日後になり駿府帰還は半月後といった所ですね。」
正信「明日にでも参内して、お館様に申し上げてみるつもりだ。」

ガラッ
家臣「一大事です!」


正信「どうした?」

家臣「家康様俄かのご発熱です。しかも体に腫れ物もみられるとか。」
正信「お悪いのか?」
家臣「御殿医によると、予断を許さぬとの事です。」

正信「直ぐに緘口令を出さねばならぬぞ。」
家臣「既に酒井様がお手配成されました。本多殿には急ぎお知らせしろとの事です。」

正信は、速やかに登城すると返答し使者を返した。


風次「氏治殿を、徳川家からご退去して頂く事は先延ばしになりそうですね。」
正信「お館様が重病の間に、勝手に事を進める訳にも行くまい。」

源太「我々はどうしますか?」
正信「お館様重病の噂が広がらぬように、目を光らせて欲しい。」
源太「御意!」

その頃、町中では次第に異変が起こり始めていた。

町民「最近何か誰かの視線を感じるんだが。」
町民2「俺は殺気も感じてるぜ。」
町民3「お前は、女癖が悪すぎるからな。お前に恨みのある女性じゃないか?」


数日後

家臣「お館様命には別条無さそうで幸いでございますね。」
正信「10日ほどは、ご安静にしていただかねばならぬそうだ。」

家臣「正信様に文が届いておりました。」

天城隊200名は本日大坂出て、駿府への帰路に着いた。今日は恐らく京の都に泊まるだろう。
この後草津から中山道に入り、岐阜より尾張清州に進み東海道に入り駿府に達する。

正信「鈴鹿峠は土砂崩れで通行不能か。天城隊帰還は数日伸びる事になるな。」

風次「一大事にございます!」
正信「お館様の具合が悪くなられたか!?」

源太「切腹でございます!当家家臣3名が自刃しました!」

今日の投稿は、終了します。ありがとうございました。
明日も9時から開始します。

間もなく開始します


正信「自刃とは穏やかでは無いな。一体何が原因だろう?」
源太「3名は、親や叔父が氏治隊に所属しておりました。3名とも氏治が最大級の失敗をした戦で、
命を落としました。」

正信「武田残党との戦いか!天城殿が氏治殿の失敗を隠ぺいして問題になった。」
源太「3名は氏治を誅殺し、肉親の仇を討とうとしましたが氏治は、町人に可愛がられており中々隙が見いだせず
日々が過ぎる内に、3名にも迷いが出て誅殺では無く、自刃と引き換えに氏治と天城殿に対し厳しい処断を望むと。」

源太が差し出した遺書にも、それを裏付ける事が書かれていた。

風次「実はそれだけではありません。」
正信「他にも氏治を狙う輩が居たか。」

風次「駿府の市場に野菜を売りに来ていた農民がおりましたが、懐に刃物を隠しておりました。」
源太「売り物の野菜を切る為ではないのか?」

風次「明らかに氏治殿に対し殺気を放っておりました。いや懐の刃物に手を掛け、まさに駆けだそうとしていました。」
源太「しかし踏みとどまったのか?」

風次「氏治殿が親しい町民と合流し、尚且つ現場にいた私と目が有ったので、今回は断念したのやも。」


源太「正信様、いかがなされました?」

正信「泣いて馬謖・・・・・」

   「いや泣かずに氏治を斬らねばならぬ様だ。」


風次「天城殿に預け、謹慎させるという事では済みそうにありませんね。」
正信「軽い軽すぎる。」

源太「士籍(武士の身分)を剥奪し、庶民に落とすと言うのはどうでしょう。」
正信「未だ軽い。」

源太「これ以上となると、追放かあるいは切腹」
正信「天城殿が、氏治を必要以上に可愛がり甘やかした挙句、失敗を隠ぺいした事は事実。
その天城殿に預けるのでは、世間の誰も納得すまい。」

風次「庶民に落としても、寺にでも監禁するのなら未だしも現状では、町民の一部は今まで通り氏治を可愛がるでしょう。
そうすると、今度は町民に危害が及ぶ可能性も。」

正信「可能性では無くまず間違いなくそうなる。」
源太「切腹か追放止む無しという事ですね。」

正信「徳川が今の豊臣家の如く天下に王手を掛けておるなら、公然と処断しても良い。」
しかし、現在は豊臣家の臣下に過ぎない。名家の姫君を処断するのは危険が大きい。
更に末期の小田氏は北条家と関係は良かった。北条家と徳川家は姻戚関係にあるので、氏治を切腹させたら
関係が悪化する可能性も皆無とは言えない。

ハ「丸で昔のイタリアみたいね。」(世界大戦の頃)
み「イタリア軍手凄く弱かったそうですよ。」

長「しかし、海軍はかなりの数を揃え航空部隊もあり無視できぬ戦力を持っていた。」(あくまでも数と見た目の性能上だけ)


源太「氏治を北条家か結城家辺りに引き取って貰う事も、もはや難しいでしょう。」
正信「氏治の事は、たとえお主らの様な忍びに情報が洩れなくても、遅かれ早かれ小田原方面に向かう、
商人や僧侶か旅芸人の口から、北条家へ伝わるだろう。」

源太「北条家も結城家も、関わりを恐れて拒絶するでしょう。特に結城領は旧小田領に近いので、氏治に恨みある領民の
襲撃もあり得ます。」
風次「例え罪人の様に他国に追い払っても、見せかけで密かに匿っているのではないかと、考える輩もいるでしょう。
実際市中で、既に賭けの対象になっております。」

正信「ほとぼりが冷める頃徳川に戻すという疑念を持たれては、却って火に油を注ぐ事になりかねない。
天城殿ならそう主張…いやそれ以前に追放には猛反対するだろうて。」

風次「どう対処するにしても、天城殿が戻られる前に何か手を打たないと。氏治に恨みある家臣や百姓も多いです。」
源太「密かに…始末すると言うのは?」

正信「それはわしも考えた。しかし、氏治が公然と[ピーーー]ばさて誰が手を下したか、誰が黒幕かという事になる。
我らだけなら未だしも、氏治に対し厳しい対処を求めたご舎弟殿(定勝)重次殿にも迷惑が掛る。」

正信「ここにある男がいる・・・大酒のみでいつも喧嘩ばかりで、家族にも暴力を振るう。」
風次「典型的なロクデナシですね。」

正信「さてこの男が、町中で誰かに殺されていた。もう一つは、ある日外に出た切り永久に戻らなく、
消息も明らかにならなかった。人々の記憶に残るのはどちらだろう。」

源太「それは明らかに前者でしょう。嫌われ者でも悲惨な最期を遂げれば、同情して下手人を見つけてやろうと言う動き
になるやも知れません。」
風次「消息不明なら、その内忘れ去られるでしょう。家族も、どこか遠くに平穏に生きていると考える事も出来ます。」+


正信「実際氏治も小田領では、存在を忘れたり忘れかけているものもかなりいた。間違いないな?」

風次「違いありませぬ。人によって違いはありましたが。」
源太「これは勾玉の力、負の力でしょうか。」
正信「そうなのやも知れぬ。」

正信「やはり公然と始末するのは拙い。武田残党の仕業と見せる方法もあるが。」
源太「当家は武田家臣を厚遇していますから、今となっては不自然に過ぎます。それならまだ盗賊の仕業
と見せる方が良いかもしれませぬ。」

風次「始末して密かに処分するというのは?」
源太「しかしいきなりいなくなったら、やはり正信様や重次殿が疑われるのでは。」

正信「放置はありえぬ、このままでは家中の者が氏治を襲撃するのは時間の問題だ。そうなればそ奴は切腹、
お家はお取り潰しにせねばならぬ。20年後の徳川家を支える世代を氏治襲撃の咎で粛清するのは、
何としても避けねばならぬ。あの怪しげな勾玉の負の力であったとしても、切腹とお家お取り潰しは避けられぬ。」

風次「可愛さ余って憎さ百倍を人為的に作り出す、恐るべき勾玉ですか。壊れてしまっていても、何か嫌な感じになりますね。」
正信「氏治は最終的に始末するとしても、誰かが攫ったり(拉致)した様に見えてはならぬ。あくまでも恐怖から駿府より逐電
氏治自ら逃げ出した様に、見えねばならぬ。」

源太「いったん逐電させ、当家御領内から出た所かもしくは駿府より、ある程度離れた所で捕まえお命を・・・」
正信「然り。源太以前お主が言っていた伊賀の秘術…披露してもらう事になるだろう。準備にいかほど掛る。」

源太「特殊なお香を使うので材料を集めねば。多くは領内で採れますが一部は伊賀方面にのみ自生する薬草です。
最低でも20日から、一月は見て貰わないと。」

風次「しかし、いつ事が起きるやも知れません。」
正信「一旦多少でも、氏治に怒りを抱く人々に溜飲を下げてもらわねばなるまい。」


正信「風次よ、数日間の天気はどうなると見る?」
風次は、伊豆の漁師の出なので風や雲の流れから、天気を予測する事が得意だった。

風次「明日午前中は雨が降ると思います。しかし午後から次第に回復し、明後日は快晴となりましょう。」
正信「決行は明後日じゃな。確か駿府より少し北の森に使われていない、倉庫が有ったな。風次は明日雨が止んだら
その倉庫、を確認し不要物が有れば処分せよ。」

風次「御意!」

正信「源太は、三太より字を似せた文の書き方を聞いていたな?」
源太「興味が有ったので教わりました。」

正信「明後日天城殿の文を装い、氏治を誘い出すのだ。」
源太「御意!」

その後別の忍びが呼ばれ、三太へ密書を届けるように命じられた。

正信「天城隊は明日は草津(滋賀県草津市)泊まりだろう。鳥居本(米原市)辺りで見つけられるだろう。」
忍「御意!」

翌日 源太は偽手紙を作成し風次は使われていない倉庫の中に入り、倒壊していないかを調べた。

正信「この手紙を見れば、氏治は間違いなくのこのこと現れるだろう。手荒く歓迎してやるが良い。
命を取ったり、骨を折ってはならぬぞ。」

源太「お任せを、氏治に恨みある武士を見事に演じましょう。」


翌々日は風次の予測通り、朝から快晴になった。梅雨の中休みで、朝から選択を干したり農作業に勤しむ
為多くの人が働いていた。

昼前に氏治の家に文が届けられる。氏治は、うきうきと準備を行い指示通りに手紙をちぎって川に捨てた。

お鈴「氏治ちゃん、どうしたの何か良い事でもあった?」
氏治「えへへー、今からあい・・・・ううん何でもありません、秘密です!氏治は大人の女の人だから、秘密もあるんです。」

源太(少しは疑う事を知らんのか。)
突如天城殿が一人で、駿府に舞い戻り逢引(デート)に氏治を誘う事自体がおかしい。500歩譲って何らかの事情で駿府に
急ぎ舞い戻る事は有るかも知れない。しかしその場合よほどの緊急事態だ。まずお館様か重臣の方に面会し
協議や報告をするのが最優先で、氏治と会っている時間など本来有る筈も無い。

氏治が山道に入る。山道には目印が置かれていたがそれらは全て風次が仕掛けたものだ。風次は氏治が通り過ぎ次第、目印を始末
して廃墟に先回りした。

源太「氏治が来たぞ。」
風次「氏治一人です。氏治を案じて誰も付いて来たりはしていませんね。」

氏治「山道に、目印が有ったので迷わず来れました。ソウマさんのおかげですね。でもここ見晴らし全然良くないですよう。
それにもう夕暮れで何も見えませんよぅ。」
氏治も微かに不審を感じた様だ。しかしそれは一瞬の事、次の瞬間には満面の笑顔で、

氏治「来ちゃいましたあー。ソウマさんどこですか?」

氏治は疑う事も無く、倉庫に入って行く。氏治がしゃべろうとした瞬間扉が閉ざされ、閂が掛けられた。


氏治「えっと、誰ですか?もしかし皆さんもここで待ち合わせですか?氏治はここで軍師のソウマさんと待ち合わせなんですっ!」

源太「いや、俺がその天城ソウマだ。」
氏治「違いますよぅ、軍師さんはそんな声じゃありません。」
源太「いや俺が小田氏治に、手紙を出した天城ソウマに間違いない。」
間抜け氏治と言えども、声で区別程度は出来るらしい。
氏治「ええっ!それってまさか!」

氏治「貴方も同じ名前の天城ソウマさんなんですか?もしかして字も同じなんですか?世の中には、お顔が
そっくりな人が3人居るそうですが、お名前がそっくりな人も3人いるんですね、はふっー。」
男「何!」
氏治「もしかして、徳川のお家には別の小田氏治さんって方がいるんですか?」

源太(ばかなのか?)
風次(とびっきりのバカなんでしょうよ。さもなきゃ俺達がこんな事をする事にはならんでしょう。)

氏治「謎は全て解けました!別の天城ソウマさんがもう一人の、小田氏治さんに出したお手紙が間違って、
氏治のお家に届いたんですね。あっ、もしかしたら小田じゃなくて織田さんの氏治さんですか?」

風次(なるほど織田か、長く同盟関係にあったから織田氏が居ても変でないし、氏治と言う名前も他に無いとは言えぬか。)
源太(こらっ!、妙な事に感心するな。)

氏治「氏治が来たのは手違いだったんですね。じゃあ氏治が織田氏治さんに、皆さんがここで待ってますって
伝えましょうか?・・・・ええと、詳しいお家の場所教えて・・・・」
風次(問答無用始めましょう。)

男「ハジメロ・・・・それには及ばぬ。お前が目的の小田氏治だ。」
氏治「ふぇっ」


氏治はたちまち水戸黄門で稀に敵に捕まるかげろうお銀みたいに、縛られてしまった。

氏治「ひええ、どうして氏治を縛るんですか?この前氏治の草餅を踏みつぶした人の、仲間ですか?」
風次「「あいつはただ酒に酔っていただけだろう。だが我らは違う、親兄弟の恨みを晴らすためだ。」

氏治「ヒィッッツ!」
源太「足軽新右衛門の息子新太郎」
風次「足軽頭長吉の弟五郎左(ごろうざ)」

氏治「その名前何処かで見た記憶が・・・」

源太「お前がへまをして討ち死に多数が出た、あの戦の犠牲者の身内だ。」
風次「奇襲をかける前に、大声で騒ぎやがって!軍師の行為も許せぬ、貴様が犯したしくじりを隠ぺいした事は許さん。」

氏治「ごごめんなさいーっ、もう戦も最近無いから、グスッもう戦に出る事も無いから
内政とかでがんばるから許してくださいっ・・」

風次「許さん!お前が築城したり、道を整備する仕事をする度に失敗し周囲の人家に被害や死者を
出しているではないか!」バシッ

風次は木製の棒で氏治を撃ち据える。

氏治「い、痛いですぅー。痛いの嫌ですぅーグスッ 助けて下さいっ。ヒックグスッウエエン」


交互に更に数発木の棒で殴る。
氏治「痛いですぅ、痛いですぅ。」
風次が手を伸ばし、氏治の尻尾に触れる。

氏治「ふえっ、尻尾触っちゃだめですよぅ、あふっ。」
どうやら氏治は、尻尾を触られると落ち着く様だ。しかし相手にはそんな意思は毛頭無かった。
風次(高級な筆先みたいだな)
氏治「尻尾ぎゅーってしちゃだめですよー。」


風次は尻尾を全力で引っ張った。ミシミシミシベリッ尻尾は引っこ抜かれてしまった。
氏治「フエエッ、痛いよぅーー痛いよぅグスッグスッ」
男1「親父は家に担ぎ込まれて、丸一日苦しんで死んだ。」
氏治「尻尾返して下さいぃぃ。念入りに櫛で梳いて、ふわふわのサラサラにしたんですぅ。」
源太はにやりと笑い、壁にある天窓を開け閉めする仕掛けを動かす。ついでに尻尾が生えていた腰のあたりを蹴飛ばす。
氏治「グスッヒック返して下さいですぅ。痛いよう。」
氏治の犬の尻尾を放り投げ、見事狭い天窓を超えて外の闇に消えて行った。

源太「そろそろ夜明けが近い、雨は降りそうか?」
風次(空が白む頃に降り出しそうですね。)

風次が氏治を担ぎ、廃墟の外に出る。源太は入り口り付近に転がっていた、氏治の尻尾を更に森の奥に
蹴とばしておく。見た目は犬の尻尾と変わらないので、誰も気にしないだろう。最も見え無いかもしれないが。

やがてまだ多くが眠っている、駿府城下に着き団子屋の庭先に氏治を放り出す。


少し離れた所から、お鈴が氏治を発見する所を見届け、朝になってから正信に報告を行う。


正信「よくやってくれた。徹夜で寝ていないだろう、下って休め。」

源太「氏治が、恐怖で何もせずとも当家より逐電するやも知れません。」
正信「別の忍びに氏治を見張らせる。その場合は薬草集めを打ち切り、氏治追跡に加われ。
氏治が駿府より離れた地点まで泳がせ、機を測って・・・・。」

風次「御意!では休ませて貰います。」

昼頃、早馬が西に向けて出たとの報告が入る。

忍「天城殿に知らせる為だと思います。ご指示を!」
正信「捨て置け、どの道いずれは天城殿も知る事になる。それとこの遺書を氏治襲撃を目論んだ、
家に密かに隠すように。今日中にやるのだ。」

忍「承知!」

正信は火鉢に火を起こして、本来の遺書を燃やしてしまった。

別の忍びが氷室から、彼らの遺体を運び出し縁の地に置き、翌日氏治の証言から捜索と山狩りが行われ、
昼過ぎに発見された。

天城隊は10日後に無事到着した。

正信「三太も、よくやってくれた。お主が勾玉の事を知らせてくれなかったら、今頃氏治を多数の物
が襲撃して、御領内は大混乱になって多数を処罰する事になっていただろう。」

三太「光栄にございます。」
正信「明後日から、例の物を作るとどれくらいかかる?」


三太「七日もあればできますよ。」
正信「では頼んだぞ。」

数日後

正信「氏治の様子はどうだ?」
家臣1「恐怖から夜もろくに眠れず、昼間もうさぎの様に閉じこもっています。」
家臣2「雨戸を開ける事も出来ず、少しの物音で震え上がっているそうです。」

正信「城下の様子はどうじゃ?」
忍「氏治が『元配下』から、襲撃されて以降多少は不穏な気配も下がりましたが、氏治家付近には未だ
不審者や気配を感じます。石投げたり、大声で騒ぐ輩は含めておりませぬ。」

忍2「源太達の手配も、あと10日もすれば整いましょう。さしずめ、実行は半月後でございますか?」
正信「いや、最後にもう一度氏治に対し、厳しい対処を取る様に要求する。定勝様や重次殿も賛同しておられる。」

忍1「確か、奥三河の尼寺に事実上軟禁すると。さしずめ数年間ですか?」」
正信「いや、生涯その寺で犠牲にした部下や領民の菩提を弔わせる。当家から、時々様子を伺う役人以外
外部との接触も全て禁じる所存じゃ。」

忍「天城殿もでございますか?」
正信「無論じゃ。第一天城殿には相当の責任が有る。氏治とは、対面はおろか文のやり取りも全て禁ずる。
無論氏治殿が死ぬまで、5年でも10年でも50年でもじゃ。これらを無条件で天城殿が受け入れた場合は、以降の
計画は中止させる・・・・。」

正信「しかし、受け入れられない場合やこれより穏便な処置が行われた場合、氏治にはき・・・」

家来「協議の時間が迫っておりまする。」


その日の夜

風次「準備はあと10日あれば完了します。」
源太「協議はどうなりましたか?」

正信「残念ながら穏便な案になってしまった。お館様がお越しになられて氏治の境遇に同情されてしまい、我らとしても
強引に進める事が出来なかったのだ。」
源太「と言う事は決行ですか?」

正信「うむ、氏治のせいで犠牲となった者の身内の怒りは収まるまい。小田で命までは取られなかったのは、
間抜けな主君と言えども、小田の領民にとっては主君には違いない。逆に言えばただそれだけの理由だろう。
伊賀の秘術見せて貰わねばなるまい。」

源太「見せるのは氏治に対してであるので、正信様にお見せする事は無理です。」
風次「無論どんな秘術化は後でお教えしますが。」

源太「準備が整ったら直ぐにやるか?」
風次「いや、少し様子を見てからの方が良いかと。氏治へ再び怒りの声が増えて来た所でやるべきでしょう。
早くやりすぎると、不自然な印象を与えるかもしれません。」

正信「決行の時期は二人に任せるので、決まったら数日前には教えて欲しい。」

源太「何故でございますか?」
正信「天城殿の屋敷に氏治は引き取られた。天城殿も謹慎中の身じゃ、天城殿は武術も優れる。
やはり引き離すべきだろう。何か上手い手を考えておく。」

源太「御意!」


半月後 本多正信邸(離れ)

風次「氏治も、天城殿のお陰で夜も眠れるようになっております。」
源太「氏治への批判もまた高まっております。」

氏治への批判のみならず、再度厳しい咎めを願う等の上申を行う者も居た。
正信「風邪は治りかけて居る時が危ういとも言う。いよいよじゃな。」

源太「天城殿を引き離すのですね。」
正信「天城殿は氏治への対応以外、何も間違った事はしておらず、御家に対する功績は大きい。
まだこれから、徳川家の為に力を振って貰わねばならぬ。」

正信は近い内に、太閤殿下は徳川家を縁の地である現在の、三河遠江駿河と甲斐南信濃から、別の領地に
転封(領地を移される事)させられ、替わりに福島加藤堀尾と言った秀吉縁の武将が入るだろうと予想していた。

その時までに、小田氏治への怒りを消すばかりか、小田氏治の記憶とかも全て曖昧になる様に、するつもりだった。
氏治によって起きた事件を、徳川家への攻撃に使わせぬ為に。

正信「明日、太閤殿下の九州討伐と、天城隊無事帰還のささやかな祝宴が開かれる。天城家にも本多忠勝
と井伊が、酒を持って行き酒宴も許される手筈になっている。」

源太は確認する様に頷いた。

正信「そしてその翌日天城殿の謹慎は解かれ、大井川治水の視察に行ってもらう。」
風次「確かそれは正信様のお役目のご予定では?」

正信「明日わしは病気になる。」


風次「ああ仮病で、上手い事天城殿に大井川治水視察に行って貰う訳ですね。」
源太「いや、正信様は数日間風邪をひいて休まれておられた。風がぶり返して止む無く再度療養されるのだ。
つまり、完全に仮病という事にはならないな。」

正信「風邪は治りかけが一番厄介だからな。風次よここ数日の空模様はどうじゃ?」
風次「ここ数日は晴れの天気が続くでしょう。」

正信「それでは、天城殿が駿府を発ったその日の夜から、伊賀の秘術とやらの出番になるかな。それで何日かける?」
源太「一応2、3日ですね。氏治を逐電させるのはやはり天城殿が、目的地の島田に着いてからの方が良いですね。」

正信「源太は氏治が逐電したら、長丁場になるかも知れぬ。氏治は一人で小田から小田原までに逃げ延びた。
無駄に根性だけはある。休める時に休んでおけ。」」

正信は路用の金を渡す。
源太「ありがとうございます。必ずお役目を果たして見せます。」
正信「余裕が有れば、関東・奥州諸国を見て回るのも良い、その点はお主の器量に委ねる。」
源太「御意!」

翌日正信は、風邪がぶり返したので治水視察は天城殿を推挙する事を申し上げて、受理された。
その日の昼には、天城ソウマが呼び出され伝達された。

その次の日、朝早くソウマは氏治や家来の見送りを受けて、大井川に向けて出発した。

その日の夜 天城邸付近ではいつもより巡回の兵士が多く配置されていた。恐らくソウマが手配したのだろう。
しかし、あまりやる気は無さそうに見えた。源太と風次は易々と天城邸に侵入し、まずは氏治以外の家来・用人を眠らせた。
朝になれば、気持ちよく目覚めるだろう。無論、不審を感じたりはしない。

熟睡している氏治の部屋で密かに香が焚かれる。


み「伊賀の秘術って、マインドコントロールみたいなのでしょうか?」
古「流石にそれについては書いてありませんね。催眠術とかかも知れません。」
キ「暗示の類かもな。悪夢を見せたんじゃないかと思う。」

ハ「そこは書かれていないから、私達で考えるしかないわね。」
ハルヒは長門と二人、部屋の隅に移動して監督と脚本家の打合せみたいに、話し合いを始めた。

10分後

長「このような暗示と推測」

氏治は夜中に目を覚ます。その日は天城隊無事帰還のお祝いが行われ、謹慎中の天城家にも本多忠勝と
井伊直正の両名が、酒と料理を持って来て祝宴になった。めでたい席なので、氏治も特別に参加が許された。

氏治は、ソウマに貰った特性の付け尻尾を付けて、楽しそうに回転して見せた。その後二人を見送った筈だが。

氏治「あれぇー、どうしたんでしょうか?何か忘れ物でしょうか?」
氏治はそっと様子を伺う。

井伊「天城様、今日も多くの嘆願書が城に届いたんだ。」
忠勝「いずれも、氏治殿を更に厳しく罰するべきと書いてあるでござるよ。」
ソウマ「何とか抑えられないか?」

忠勝「無理でござろう。前の襲撃事件より、はるかに強い殺気を感じるでござるよ。跡取りがいないか先立たれた老臣
の中には、拙者に氏治誅殺をお命じ下され、後で問題が起きた時は、拙者が己一人の責めとして切腹すると
申し出ている者も居るでござる。」


直政「俺がやるよ。」
ソウマ「何を言い出すんだ。」
直政「俺は忠勝様や、榊原様と違って元今川家臣の外様だ。もし万一問題になったら、俺の独断と
いう事にすればいいよ。外様で年若い俺の独断という事なら、徳川家の家名にそれほど傷は付かない筈だよ。」

ソウマ「いや・・・・これは俺がやらねばならない。もっと早く最低でも武将としての仕事を、辞めさせていればこんな事態に
はならなかったのだ。最悪でも徳川からの退去で済んだだろう。今頃は分家が仕官している結城家あたりで
穏やかに生活できて居たかも知れない。しかし、今となっては手遅れだ。」
忠勝「実は北条家も結城家も小田氏治殿は、小田家滅亡の時既に病死していた。と回答して来たでござる。厄介事は
困るという事でござろうな。」

ソウマ「もう氏治を救う手段は無いだろう。例え身一つで追放しても(服以外の所持品を与えない)、被害を受けた者は
一旦追放と見せかけて密かに助けると、皆主張するするだろう。」

ソウマ「更に氏治を批判する声が強まれば、徳川家としても再度厳しい処断をやらざるを得なくなるだろう。俺に出来る事は、
それが現実になる前に、自らの手で氏治を。」

直政「何か協力できることが有ったら、いつでも言って下さい。」
忠勝「氏治殿の事・・・・・決して苦しませたりしてはならぬでござるよ。」


とここで氏治の目が覚める。

氏治「えっ夢ですか。これが逆夢という奴ですね。」
外も白み始め、天城邸の屋根を超えて行く鳥の羽音も聞こえる。氏治は外に面していない雨戸を開け、今まさに太陽が昇ろうと、


??「夢では無いぞ、氏治。」


氏治「ふぇっ!だ、誰ですか?誰も居ないですぅ、気のせいでしょうか。」
氏治は慌てて周囲を見るが、氏治以外誰も居ない。

その日何となく氏治は落ち着かない感じで夜を迎える。そして再び悪夢を見る。

氏治「あれっ、ソウマさん!帰って来るのはもっと先じゃなかったんですか?」
氏治が笑顔でソウマに駆け寄るも、ソウマは何も答えない。

ソウマ「氏治、許せ」ドスッ
氏治「えっ…く、苦しいですぅー。」ドサッ

氏治「こ、これも逆夢に違いありません!悪い夢は冷めて下さいっ!ふぬーー!」
氏治が力を籠めるも夢からは覚めない。

??「夢では無いぞ氏治。お主の気持ちは良く判る。」
氏治「誰ですか?こういう時はお名前を名乗るのが礼儀ですっ!」

政治「わしは、小田政治(まさはる)じゃ。」
氏治「え、お父上ですか?」

政治「お主が生まれる前に、病死してしまったからお主は肖像画でしか知るまいが、お主の父御じゃ。今はもう遠い世界
に居るのじゃが、氏治お主に危機が迫っているので、特別なお許しを受けてお主を助けんとしておるのじゃ。」

氏治「でもあれは夢ですぅー。ソウマさんが、氏治に酷い事するはずが有りませんよぅ。」
政治「お主は悪い夢を見たのでは無いぞ。悪い夢を見たと、思い込もうとしているとしているだけじゃ。」


氏治「そんな事ありませんよぅ、あれは夢ですっ!」
政治「いやあれは真じゃ。お主の心がそれを受け入れぬだけじゃ。よく思い出すのだ、普通の
夢とは大きく違った筈じゃ。」

氏治「ええと、普通の夢は体が動かなかったり、暑さ寒さ何も感じなかったりですよね。・・・!」

氏治は思い出した。あの夢では歩く事が出来た。屋敷の間取りは現実と何一つ違わなかった。
夜になって冷えた空気も感じた。氏治の息遣いも感じた。その日は夕方から風が強かった事も。

氏治確かあの日(3、4日前)の月の満ち欠けは・・・辻褄が合う!)
ソウマ達の話を聞き終え、体が震え冷汗が流れた事も思い出した。

氏治(これは夢ですぅー、これは夢ですぅ。)
必至に夢と念じた事も思い出した。でも、ここで震え出して露見したら、この場で斬られる。ガタッ

氏治「!」
氏治は体勢を崩し肩が、棚に当たってしまった。

無言で襖の向こうから、誰かの足音が急速に迫る。チャキッ・・・
直政が、ふすまを開け放とうと手を伸ばす!

ヒュゥウウウウー ガタガタッ ガタガタガタッ コロコロコロコロ

再び強い風が吹き、屋敷ががたがたと揺れ庭で何かが転がる音がした。

直政「風みたいですね」チン
忠勝「庭で何かが転がったみたいでござるよ。」
ソウマ「井戸水を汲み上げる桶だろう。壊れたから用人に買いに行って貰ったんだ。明日にでも付け代えようと思ってた。」


やがて話も終わり、ソウマは忠勝と直政を見送る為に門の所まで見送りに行く。その隙に、氏治はそっと気配を殺しつつ
部屋まで戻る。

氏治(早くしないと、でもでも慌てて気付かれたらおしまいですぅ。)
何とかソウマが邸内に戻るより早く、氏治は部屋に戻る事が出来た。外で足音がする。
ソウマ「壊れてはいなさそうだ。」

強風で転がった井戸水を汲む桶を見付けたのだろう。確かにその日強風が吹いて、桶が転がってソウマさんが
確かめに行った。あんなはっきりした記憶が、夢である筈が無い。
その後氏治は涙を必死に我慢しながら、布団に潜り込む。
氏治(涙を見られたら、話を聞いた事を知られるかも知れません!泣いちゃダメですっ!)
足音が近づき、襖が開けられた。

氏治は、寝て居る時はへにゃっと垂れている犬耳に気付く、ぎりぎりで犬耳の先端を引っ張り
寝ている様に見せる。やがて寝ていると判断したのか、襖は閉じられ足音も遠くなった。

その後夢だ夢だと念じている内に、いつの間にか寝てしまった。そして朝普通に目覚め、
氏治「何か怖い夢を見てしまいました。」

氏治「ううヒックグスッ、夢じゃなかったんですね。もしかして、ソウマさんが大井川視察に行ったのは嘘なんですか?」

政治「いや未だ島田におる。本当に視察をしなかったら不審に思われる。あと2、3日は動かぬだろう。」
氏治「判るんですか!凄いですぅ。」

政治「お主らとは違うんじゃ。」
某総理の辞任会見みたいな台詞だ。

政治「むむむ、お主を始末する事を話しておる様じゃ。」


古い神社らしき場所の隅の方で、男がソウマと話している。

男「天城様、氏治殿を消す・・・失礼いなくなって頂く準備は整いました。氏治殿は、夜分恨みある集団に
連れ去られて、数日後遺体となって発見される。」
ソウマ「氏治の遺体を晒すことまではやりたくは無いのだが。」

男「残念ですが、行方不明なら氏治殿に対し、遺恨を持つ人々が納得しないでしょう。」
ソウマ「そうだな。何処かに匿って平穏な生活を送っていると、そう受け取られるだろうな。」
男「氏治を見張る様に、伝達しますか?」

ソウマ「いや、2日ほど待って欲しい。」
男「承知しましたが、何かありましたか?」
ソウマ「実は上流で、難しい地形から少し工事が遅れているみたいだ。島田宿の役人からも視察に言って励まして欲しい
と頼まれたので、行かざるを得ないだろう。」

男「闇雲に断れば、不審に思われますから止むを得ないですね。」
ソウマ「視察が終わったら、密かに駿府へ戻り氏治をこの手で・・・・・明後日の昼から氏治を見張り監視して欲しい。」
男「承知」

氏治「ひぃいい、ウエエエンどどうすれば・・アレッ、今ならまだ氏治は監視とかされていないんですね。逃げれるんですか。」

み「氏治ちゃん時々賢いですね。」
キ「いやいや、ハルヒが勝手に考えた設定です。」

政治「明日の夜逃げるのじゃ。明後日の昼もしくは朝には、この屋敷や町への入り口には、見張りが立つだろう。
明日の・・・いや既に今日の夜に必ず逃げるのじゃ。」

氏治「お世話になった町の人に、お別れの挨拶をしちゃだめですか?」


政治「ならぬならぬぞ氏治!」
氏治「ふぇっ!どうしてもダメですか?」

政治「その様な事をしたら目立ってしまい、敵に気付かれるかも知れぬ。それに軍師殿は町の人にも多大な信用
が有る。彼らが善意から氏治お主の事を、軍師殿に伝えるかもしれぬ。

氏治「匿って貰うのも無理ですか?」
政治「町人がお主を匿っても、直ぐに気付かれてしまうじゃろう。お主も、可愛がってくれる人達が酷い事をされるのは
嫌じゃろう?」

氏治「はいですっ。お鈴さんとかが、氏治の居場所を言えって責められたりしない為には、氏治は一切会ったり
お別れしたりしちゃダメなんですね。」
政治「賢い子よ、その通りじゃ。当日氏治がいなくなって彼らがびっくりする事、それが一番疑われずに済む方法じゃ。」

氏治「逃げるって何処に逃げれば良いのでしょうか?西はダメですよね。」
政治「左様、たちまち軍師殿の家来に見つかってしまうだろう。辛うじて大井川を渡り、徳川領から逃れたとしても
西側は全て太閤秀吉の領地じゃ。いずれ捕まって、徳川家から迎えが来るじゃろう。」

氏治「そうなったら連れ戻されてしまいますよぅ。」
政治「それで済むとは思えぬ。恐らくは途中で消されるじゃろう。」

氏治「それじゃあ東ですか?」
政治「小田まで逃げ延びて、以前お主を可愛がってくれた人を訪ね、匿って貰うのじゃ。」

氏治「で、でも・・・ある日突然話しかけても無視されたり、兵士の人達も氏治の事嫌いになったみたいでしたぁ。
うう、氏治の事不甲斐ないから愛想を尽かしたんだと思います。」

政治「いやそれは違うのじゃ、彼らは止む無くお主を無視したり、冷たい態度をとっただけじゃ。」


氏治「ええっ!どういう事なんですか!」
政治「実は佐竹の草(スパイ)が大量に、小田領内に入り込んでいたのじゃ。」
氏治「そうなんですか、全然気付かなかったですぅ。」

政治「まあ気付かれたら終わりだからな。奴らは小田家の連帯感に危機感を抱いていたのじゃろう。家中の絆と氏治
お主の心を弱めようとしたのじゃ。」
氏治「氏治の味方をしないでくださいって事ですか?」

小田兵「氏治様お許し下され、氏治様の危機を救ったら家族に危害を加えると脅されました。」
領民「氏治ちゃん許してね。氏治ちゃんに冷たくしないと、家や田んぼに火を付けると脅されたの。」

氏治「それじゃあ、今行っても誰も助けてくれませんよぅ。」
政治「もう小田家が無くなってしまって数年経っている。佐竹も領民を監視してはいないだろう。以前可愛がってくれた者なら
助けてくれるじゃろう。」

氏治「氏治は、いつまで逃げていればいいんでしょうか。グスッ」
政治「今回の企て、軍師殿の独断の様じゃ。軍師殿が病死するか、戦で死ぬかもしくは隠居するまでは、
あまり目立たぬ様に・・・最低でも10年は気を付けねばならぬぞ。逃げる時も、相模国辺りまでは決して宿屋や
茶店で休んだり、飯を食べてはならぬぞ。」

氏治「エエッ、お腹空いたら先に進めませんよぅ。」
政治「お主は愛らしい容姿じゃ。宿屋や茶店に立ち寄ったらたちまち追手に気付かれるだろう。空腹の時はやむを得ぬが、
畑の野菜や野山の木の実を食べて飢えを凌ぐのじゃ。」

氏治「ううっ、解りましたぁ。もうお鈴さんとかには生涯会えないんですね。」


政治「済まぬ、済まぬ氏治。わしがお主が成長するまで生きれば、こんな事にはならなかった。許してくれ。」
氏治「そ、そんな顔を上げて下さい。父上様が夢枕に立って貰えなかったら、氏治はきっとソウマさんに殺されてました。
恐らく何が起きたのか理解も出来ずに、殺されてました。父上様のお陰でした。ありがとうございますっ!」

政治「ありがとうありがとう氏治。明日の夜巡回の兵士に隙が出来たら逃げるのじゃ。さらばだ、もう会う事もあるまい。」

政治の姿がぼんやりと消えてゆき、次の瞬間氏治は目覚めた。

ミクル「ウルウル」
古「朝比奈さん、これは涼宮さんの想像ですから感動は不要ですよ。」
キ(本当はどんな秘術だったのだろう。当たらずとも遠からずって奴だろう。)
長(涼宮ハルヒが適当に書いた数式が、時空転移論の基礎だった事もある。一字一句違ってない可能性も
あり得るかもしれない。)


その日の夜

氏治はそっと、庭に出て裏門の陰に身を潜め門の外に様子を伺う。

氏治(えっと、旅籠お店と関所は通らない。関所が有る所は山越えをする。夜は野宿・・・・巡回の兵士
さんがいてなかなか出れませんよぅ。あの人たちも、ソウマさんの手下なんでしょうか?)

声1「俺達が-中まで、巡回し--いうのにま-け治はぐっす--の中か?ふざけ--ゃねえぞ。」
兵士2「もし、誰か-氏を殺そう-したらおいら---き添えを喰らい---い。くわばらくわばら。」

風次(ではそろそろ始めます。)
源太(氏治もいつでも良さそうだ。)

風次「泥棒!泥棒よーー」


氏治がびっくりしていると、裏門から東海道に繋がる道で、警備していた兵士達が急いで走り出すのが見えた。

兵士「表の○屋だ!直ぐに向かうぞ!」
兵士2「急げ急げ!」
反対側の表側の道でも、同様に走って行く足音と急げと言う声が聞こえた。

氏治(もしかして、これも父上様が・・・・)
氏治はそっと門の外を覗き、誰も居ないのを確認し走り出した。

女中「私泥棒なんて叫んでいませんよ!」
兵士2「いや確かに、あんたの声で聞こえたんだよ。」
女中「そんな事を言われても、知らない事は知らないんです。」

兵士3「誰かのいたずらかなあ。」
兵士4「子供の声では無かったぞ。」

兵士2「手練れの盗賊団の仕業では?声真似で俺達をおびき寄せて、他の商家に押し入るとか。」
兵士1「いや、そう見せかけて既にこの店の中に賊が居るかも知れぬ。他の奉公人や家族が、無事かを確認したい。
面倒だが、起こして貰いたい。」
女中「仕方ありませんねえ。」

忍「氏治が来た。」
三太「もっと速く走って貰おう・・・・」

三太「氏治が逃げたぞ!追え!」
忍「軍師殿に知らせろ!」

氏治「ひぃっ!!」


氏治の足元に短刀が突き刺さる。

東方面町外れ付近

旅人「なんか騒ぎ声が聞こえるな。おや、誰か来るぞ。」
氏治「はぁはぁ、早く逃げないと殺されちゃう!こんな恐ろしいお家に居たら、氏治きっと殺されちゃう!
ソウマさんに殺されちゃう!逃げなきゃ、逃げなきゃ早く逃げなきゃ!」

旅人「一体何だったんだ今のは。」
走って行く氏治を見る旅人の上を、影が音も無く飛び去る。

更に町外れで、ふと氏治が立ち止り付け尻尾を外す。

氏治「この尻尾もきっとソウマさんの罠です。氏治の居場所が分かる南蛮の仕掛けでもあるんです!氏治は大人の女の人だから
判るんです!こんなもの捨ててやりますぅー。」

氏治は付け尻尾を憎々し気な表情で、二度三度足蹴にしてからごみを放るみたいに、近くにある民家の庭に投げ入れ
再び走り出した。最早駿府方面を見る事も無く・・・

本多邸

正信「氏治が走ったか。」
風次「逐電でございます。」
源太「今鉄と三太が後を付けておりますが即刻某も発ち、鉄と交代して氏治めを追います。
朝になったら、隙を見て氏治が路銀を持っていたら密かにすり取ります。」


正信「しかと頼むぞ。」


風次「氏治には、関所を通らず伊豆半島の山を越えて行く様に、暗示を掛けてありますが、富士から駿州往還
を北上する可能性も、全く無いとは言えませぬ。」
正信「手筈通り、富士から三島沼津方面に向かったら源太が、富士から富士宮に行ったら、三太が追うのじゃ。
源太は三島・・・三太は富士宮辺りまでは、氏治が他の旅人や領民に目撃されても構わぬ。」

源太「御意!」
正信「風次は数日は、天城殿の動向を探れ。7日ほど経過したら・・・氏治が三島から沼津方面に走った場合だが、
三太特製の品を持って、お主の故郷に向かうのだ。」

風次「御意にございます。」

正信「氏治殿は、あと数十年先にあるやも知れぬ太平の世かもしくは、平安の時代に京都の公家の家にでも、
生まれるべきだったのじゃ。

 三太にも伝えよ!情け無用と。我らの栄達の為では無い徳川のお家を・・・・20年先に次代を支える世代を
氏治の為なんぞに、無駄にさせぬ為じゃ。氏治を誰かが長きにわたり助けようとしたり、心変わりして
駿府に戻ろうした場合や、逸早く氏治捜索の手で、氏治が見つかりそうになった場合・・・・」

正信「氏治が途中で転倒したり、何処かに転落して骨折でもした場合…情けは捨てよ。処置については、
お主と三太に任せる。では行くのだ!」

源太「御意!」ササッ
風次「私は一度下がります。朝になったら天城邸を監視して、早馬を追い天城殿の動きを調べます。」

朝になり、天城邸では氏治がいない事に気付き、騒ぎになった。直ぐに早馬が島田に向かった。


天城ソウマは夕方には氏治失踪を知ったが、お役目を放り出す訳にも行かず視察を続けるしか無かった。
直ぐに見つかると楽観していたが、それが焦りから悲観に変わるまで数日しかかからなかった。

旅人「殺される殺されるって泣きながら、東の方に走って行きましたよ。誰か名前も言ってましたね。」
領民「ソウマさんって人の事を罵りながら、家の庭にこんな物を投げ込んで行きました。」

それは氏治の尻尾だった。その後も氏治らしき子供を見たとか、街道筋の農家で野菜が盗まれたとか
沼津付近までは、曖昧な情報もあったが間もなく途絶えた。

氏治失踪から10日後西伊豆
夜の海を氏治の着物が流れて行く。

翌日

漁師「今日綺麗な柄の着物が流れて行ったんだ。」
漁師2「おいらも見たよ、綺麗な桜の模様が有ったよ。」

男「それは小田氏治って姫武将のじゃないかな。」
漁師3「風次か!懐かしいなあ、浜松に流れ着き今は、向こうで漁師をしているそうじゃないか。」
漁師2「親父さんの墓参りかい?」

風次「中々来れなくてな。」
漁師3「それで、氏治って誰なんだ?何処かで聞いた気がするな。」
漁師4「おいらは知ってるよ。確か失敗ばかりしてるけど、可愛いので可愛がられているらしいね。」
漁師1「何が起きたんだ?」

風次「あれは10日ほど前なんだが・・・」


漁師1「要するに、とうとう被害を受けた人の堪忍袋の緒が切れて、殴られた。」
漁師3「他の人に殺されると思い込み、恐怖から逃げ出したって事だな。」

漁師4「どんな外見なんだ?」

漁師2「世を儚んで入水されたのかな?」
漁師4「いや、追っ手にやられたんじゃないかな。」
風次「西伊豆まで追手が追って来るかなあ。ナンチャッテ」
漁師1「不謹慎だぞ流石に。西伊豆で海に落ちたとは限らんぞ。三島辺りで落ちて、ここまで流れて来た
のかも知れないぞ。」

その翌日

忍「沖合で、10代半ばの女性の遺体が浮かんでいたらしいぞ。」
漁師3「誰から聞いたんだい?」
忍2「港で、漁師が話しているのを耳にしたんだ。後ろ姿なので顔は判らんよ。」

最初は、ただ単に遺体が浮かんでいたと言う噂だったが、ほどなく氏治かも知れない遺体が
浮かんでいたという話になり、氏治にそっくりな遺体が浮かんでいたと言う話になり、氏治に違いない
という話になり、西伊豆全域から三島沼津まで広まった。

その内今度は木こりの男が、氏治が山で木の実を採ろうとして川に落ちた。その際岩に頭をぶつけて気絶して
そのまま流れて行ったと言う話をした。娯楽と言ったら噂話くらいしかない時代だ。この話もたちまち広まった。

ちなみに、最初『実際に目撃された』氏治の着物は、三太が密かに制作した精巧な偽物だ。

ハルヒ「40年ほど前に、これと似たような事件が有ったらしいけど本当かしら。」
キ「確か豊川信用金庫事件だな。テレビの特集でやっていたよ。」
古「信金事件は、女子高生の悪意の無い雑談でしたがこちらは、明確な悪意を持っての策動という違いが有りますね。」


その頃、駿府城は2名の使者を迎えていた。

関ヶ原で義と友情に殉じたとされ、近年人気が高まっている石田治部少輔三成と、大谷刑部吉継の両名だ。
応対は本多正信と、四天王最年長の酒井忠次の両名が行った。

石田「今回徳川殿の御領内で騒動が起きていると、聞き及びました。」
大谷「太閤殿下もちょっと、心配されているんです。小田家の姫君を恨みを持つ人たちが徒党を組んで、
襲撃し怪我を負わせたとか。」

忠次「襲撃を行った者の家は、即刻取り潰しました。」
石田「それは当然の事でしょう。所で小田氏治殿と面会する事は可能でしょうか?」
大谷「実は太閤殿下が、行き場が無いなら豊臣家で保護しても良いとまで、仰っておられます。」

忠次「実は、10日ほど前に逐電してしまいました。殺されちゃう殺されちゃうと泣きながら、走って行ったそうです。
誰かに脅されたか、それとも怖くなって逃げだしたかだと思われます。」
吉継「未だ15歳くらいなのに、可哀想ですよ。必ず見つけて上げて下さいね。」

忠次「無論探しておりますが、手掛かりも乏しくまた氏治を快く思わぬ人から嘘の目撃情報も多く、
非常に難渋しています。」

石田「ちょっと待って下さい!酒井殿、名家の姫君に対し敬称を付けぬとは礼を失しますよ。」
大谷「如何に氏治殿が、徳川家に被害を与えたと言っても、良くないですよ。長篠で別動隊を率い、
大きな功績を挙げた貴女とも思えません。」

忠次「太閤殿下による氏治へのご温情ですが、太閤殿下の名声に傷を付ける事になると愚考します。」
石田「どういう事でしょうか?」

正信「小田家姫君を装う、痴れ者である可能性が極めて高くなりました。」


石田「つまり真っ赤な偽物だと言うのですか?」
大谷「何か根拠はあるんですか?」

忠次「これをご一読ください。数日前に佐竹常陸介義重殿から届いた書状です。」

石田「花押は本物ですね。」
大谷「未だ途中までですが、本物の氏治殿は小田家が滅亡した日、死亡していると。」

佐竹常陸介義重からの書状に拠れば、小田には氏治に非常に良く似た愛らしい少女が居て、
小田氏治とも仲が非常に良かった。しかし、小田家滅亡の日を境に誰も姿を見ていない。

石田「小田氏治殿を受け入れた際に、何か証(本物の小田氏治だと言う証)を調べなかったのですか?」
忠次「彼女は、氏治殿が着ていた着物と、家紋入りの護り刀を持っていました。」

大谷「それならばやはり本物の小田氏治殿という事に、なるのではないでしょうか?」
酒井「そ、それはその・・・なんというか。」

石田「どうされました酒井殿?」
正信「少し女性の忠次殿の口からは申し上げ難い事です。」

大谷「どういう事ですか?」
正信「続きをご覧ください、佐竹に仕官を望む傭兵が本物の小田氏治殿を、捕まえ(表記不可能)を行ったと
あります。その下手人はまず何を行ったでしょうか?」

石田「何と恥知らずな!」
大谷「本多殿に怒鳴っても仕方ないよぉ。悪いのはその盗賊上がりの傭兵さん達だよ。」


石田「取り乱してしまい申し訳ありません。」
正信「同じ女性として、許せぬと思われるのは当然の事です。お気になさらずに。」
大谷「つまり(表記不可能)に及ぶ際に、当然服を剥ぎ取り武器となる護り刀を取り上げた。」

石田「それを少し離れた場所に置いた。乱痴気騒ぎの隙に氏治殿と仲が良かった少女・・・が
それを拾って密かに持ち去ったと。」
大谷「その少女が小田氏治に成り済まし、徳川家に拾われたとお思いなのでしょうか?非常に仲が
良かったのにその様な事をするでしょうか?」

忠次「実はまだ噂なのですが、氏治殿の相次ぐ連戦連敗・・・しかも、家臣の進言も無視しての敗北も多く、
さしもの忠義厚い小田家臣も、氏治殿を見限ったみたいなのです。」
石田「可愛さ余って憎さ百倍…いや五百倍という事ですか?」

正信「偽氏治と思われる娘・・・・どうも、実家は商家との事ですがその日、戦に巻き込まれて彼女以外全員
死んでしまったそうです。怒りに転じた少女は(表記不可能)をされている氏治殿を、助ける代わりに
着物と護り刀を奪い、それを利用して小田氏治に成り済ましたと思われます。」

忠次「商家の娘ともなれば、学問や教養もありましょう。家族や周囲の者…当然氏治殿からも小田家の内情を
知る事は可能だと考えます。」

大谷「彼女は、小田氏治の名前を使って、安穏とした生活が贈れると思ったのでしょうか?」
正信「しばらくはそうでした。しかし、武田家滅亡から本能寺の変が起きて領土が大きく短期の間に、増えてしまいました。」

忠次「急に人手が必要となり、旧武田家臣は叛逆の意志が無いかまず調べる必要もありまして、氏治も駆り出さなくてはならなく
なりました。真に面目次第もございません。」


大谷「お、落ち着いて下さい。今回はただの確認で徳川家を処罰しようなどという考えは、全くありません。」
石田「他に何か不審な点はありましたか?」

正信「それに関しては某から・・・・」
正信は以前九戸政実から聞いた事を、申し述べた。

石田「少なくとも小田原では一人だったんですね。小田家中の方が一人も、落ち延びる際に守っていないと言うのは
確かに不審です。途中で追手から逃がす為に、命を捨てたり負傷が悪化して、途中で亡くなった可能性も
捨てきれませんが。」

大谷「徳川家に仕官した後で、氏治殿を追って徳川家に仕官を申し出る人が居ても、全くおかしくないのに
誰も居ません。少なくとも無事や生きている噂を確認する為に、密使の一人も来ないのはおかしいです。
本当に偽物である可能性が高いのかも知れません。」

石田「その場合、本物の小田氏治殿はどうなったのでしょう。」
忠次「書状はもう一通ございます。」

そこには、次の様に書かれていた。小田氏治を捕まえた傭兵は、その功績を持って正式に佐竹家士分になろうと目論むも、
部下が小田氏治殿が連中に(表記不可能)を、されていた事を知ると即座に全員を処刑してしまった。

忠次「盗賊上がりの傭兵達は、罪を隠ぺいする為に氏治殿を手に掛け、○だけを献上したのではないでしょうか。
ご遺体は佐竹家が、篤く弔ったと考えます。」

石田「書状に拠ると、表向き小田氏治殿は行き方知れずになっているようですね。」
大谷「小田氏治殿が、度重なる敗北で人心を失っていたとしても、なお小田家や氏治殿に対し、忠義を尽くす
家臣が一人もいないとは思えませんよぉ。」


石田「氏治殿の死を公にしたら、それらの人は精神的に、切腹や叛逆に追い込まれるかも知れません。」
大谷「そうなれば無用の犠牲が出る事になりますよぉ。それを防ぐ為に表向き、氏治殿は辛うじて逃げ出して、
その後消息一切不明という形にしたのかも知れませんね。」

正信(実際には、大谷石田の両人が思い描くような、忠義の小田家臣は『まず一人もいない』のだが、
それを指摘する義理も無い。)

その後北条家への、対応などが話し合われた。いやこちらの方が遥かに時間を掛けて行われた。
もし北条家を成敗する事になったら、関東や奥州の諸大名はどっちに付くかとか。

特に不安視されたのは、やはり伊達政宗の動向だったらしい。まあハルヒみたいな感じの人だからな。
もしハルヒが戦国時代にタイムスリップし、政宗と組んだら日本は大混乱に陥っただろう。


夜 正信邸

三太「流石は正信様、ここまで布石を打っておかれたとは。」
正信「偶然じゃ。」
三太「はい?」

正信「わしも、九戸殿の話を拡大解釈し、氏治は実は偽物で本物は既に死んでいる。しかしできればもう少し
根拠が欲しかった所じゃ。そこに偶然佐竹殿からの御使者が来られたのだ。」

三太「これで大手を振って氏治の存在を消せますね。しかし、源太と風次はこの事は知らなかったのでしょうか。」
正信「源太は氏治と同年代の少女と仲が良かった。風次は、小田滅亡の日少女一人襲われて(表記不可能)をされ殺されたたらしい
とは聞いた様だ。流石に同一人物とは気付かなかったようだが、二人の咎では無い。」

ハルヒ「この事件は本当にあったのかしら?」
長門「カチャカチャ・・・・小田領内にあった、古い寺の記録に当日少女が一人、兵士に(表記不可能)されたとある。」


古「その兵士は佐竹義重に処刑されたとありますね。つまり小田氏滅亡の日悲しい事件が起きた事は、
間違いないと思います。」

み「ほ、本物の氏治ちゃんなんでしょうか?」
キ「残念ながらそれは書かれていない、正確には昭和初期に火事で寺が燃えてしまって、
その火事の後に発見されたみたいです。分析は無理ですよ。」

三太「佐竹の狙いは何でしょうか?徳川と友好を結びたいという事でしょうか?」
正信「これだけ重要な情報を教えて来たのだから、伊達に対抗する為に徳川家の子女を、佐竹一族の
誰かに嫁がせたいとか、あり得るやも知れぬ。」

しかし、その後佐竹からは何も言ってこなかった様だ。本当にただの善意だったのか。

三太「何処かで偽氏治の事を聞き及んで、親切心でその氏治は偽物だと言って来たのでしょう。」
正信「流石は鬼義重、鬼の考えは人の身では計り知れぬ。」

その後大谷・石田の両名は小田原城を訪問し、北条家に対し上洛と臣従を求めたが、またもや曖昧な返答
しか得られなかった。両名は帰路沼津にある三枚橋城(さんまいばし)に滞在した。

三枚橋城は1579年に武田勝頼により築城されたが、武田滅亡以降は徳川氏の所領となっていた。
その際に、そこまで広がっていた偽氏治死亡の噂を耳にする。

噂を知る民を、召し出したりして調べた結果 

氏治途中で路銀を落とす(もしくは盗まれた)手形も無いので関所も越えられない→伊豆の山越えしかない→
空腹なので木の実を採ろうとする→谷川に落ちる→頭を岩にぶつけ失神し、そのまま溺死→
海で、着物が外れる。→流れ出た血に鱶(サメ)が反応し、ピーされる。→漁師たちに目撃される。

キ(太閤殿下は、偽氏治死亡の事実を聞いてどう思ったんだろう。)


風次「只今戻りました。」
正信「良くやってくれた。ゆっくり休んでくれ。」
正信は二人に、褒美のお金を与える。

風次「ありがとうございます。」
三太「風次今日は飲もう!」

風次「西伊豆での氏治の噂が、石田殿の耳にも達したそうです。」
三太「これで氏治への怒りも収まれば良いですね。抗議に来ている人も、徐々に故郷に帰りつつあります。」

三太「結局の所、消えた氏治は本物だったのか、それとも偽物だったのか?」
源太「偽氏治には、犬の耳と尻尾が付いていましたから。我らと天城殿以外には見えないようですが。
本物の氏治殿にそんな犬耳が有ったら小田家でも、密かに始末していたでしょう。その後親戚筋から、養子をでも
迎えたのではないでしょうか。」

正信「コホン 私も本当に偽物である可能性はあると思う。本物なら如何に怪しげな勾玉の、力で氏治殿への信用
が無くなったとしても、生存の安否を確かめる為に、密使の一人くらい来る筈だ。」

風次「忠義・・・・形ばかりとしても、それを示す為に氏治殿を助ける為、筆頭家老位は徳川家に仕官を求めなければ、
旧小田家家臣の立場が悪くなりかねません。」

正信「議論はその辺にしておくのだ。逃げた氏治が本物か偽物か、調べる必要は皆無。真実は一つだ、
明日以降暫時御領内に、高札を建てる。お主らもそれを弁えるように。」
二人「御意」

翌日まず駿府城下に、高札が出された。


一 逃げた小田氏治は偽者である事が、判明した。本物は既に死去している。
二 偽氏治が駿府に戻って来た場合、助けずに速やかに捕まえるか、役所に届出よ。

三 偽氏治を匿ったり、誰かが偽氏治を匿っているのを知りながら、届け出なかったものは厳罰。
四 偽氏治との思い出などを、家族や親しい知人の間でも無暗に話す事禁ずる。破れば厳罰。

兵士には、偽氏治が戻って来た場合見つけたら即刻斬り捨てよ。との厳しい命令が出た。

数日後 偽氏治の元の家や、天城殿の屋敷で使用していた衣服や布団等の私物全て
他に、町の子供達と氏治を描いた絵等が、城下の各家庭から没収され広場に集められて、不浄の物として火を放たれた。

足軽「全て燃え尽きました。」
定勝「灰を全て海(駿河湾に)に捨てよ!正信お主が差配せよ!」
正信「承知仕りました。」

その頃天城ソウマは病床にあった。徳川家の文書では、九州征伐の疲れだとか、途中で何か伝染病にかかったのではないか
とされている。しかし、実際は氏治失踪の衝撃で病になったのかも知れない。

2年後の冬 上洛を拒んでいた北条家の武将猪俣邦憲が勝手に、真田家の城を占拠する事件が発生。遂に太閤秀吉も激怒し
北条家討伐例が出る。

豊臣方は 本隊20万(豊臣家、徳川家、黒田、小早川、宇喜多等)
    北から攻撃3万(前田 上杉 真田)
    水軍衆1万

北条方は、小田原城に籠城するも降伏か抗戦かで、いつまでも結論が出ず(小田原評定)、更に秀吉の演出(一夜城)
等で士気も激減し、遂に7月5日に降伏を申し出た。 


北条氏直は、徳川の縁者という理由で助命され高野山へ移された。しかし、北条氏政と弟氏照は切腹を命じられた。

氏政「北条家を護る事が出来なかったの。母上様の所に行ってお詫びするのなの。ウッ」ドスッ

100年5代にかけ、関東八州を領した北条家は滅亡。氏政の兄弟が辛うじて小大名として残る事となる。
徳川家臣一同、あまり犠牲も出ずによかったと安堵していると・・・・

秀吉「家康、あんたに旧北条領をあげるわ。え、元の5か国はボッシュートよ。」

石高の上では150万石から250万石への大栄転だが、北条家の穏やかな治世だったので、旧領主を慕う
武士や領民だらけで、やり難い。しかも低い税率(四公六民)は無暗に上げると、暴動になりかねないので実収入
はたいして増えない。

しかも本拠地にする江戸城は、老朽化著しく城の東側近くまで海水が入り込んでいる。城下の家も僅か一〇〇戸余り
後は延々とススキ野が広がっているだけ。

ここが200年後には、世界最大の人口を誇る江戸(100万人)となり、さらに200年後には世界有数の
大都市東京になる等と、想像出来た者は皆無だろう。

正信の予測通り 旧領地には秀吉と縁深い武将が割り当てられた。

尾張国清州には福島正則が24万石(ただし1594年) 
甲斐 浅野長政甲斐一国21万5千石(秀吉縁者1593年)

三河国  田中吉政岡崎城 10万石 吉田城 池田輝政15万2千石

遠江国 浜松城 堀尾吉晴12万石 掛川城 山内一豊5万1000石(功名が辻) 


そして駿河国は、秀吉に古くから使えていた中村一氏(かずうじ)が駿府14万石で入封する事が決まった。
江戸へ到着する日は、現代の暦で8月30日と決まりその為大急ぎで、準備が行われた。

新領主への城の明け渡し、他に国替えの場合は新領主の為に、年貢米を半分残す事が通例となっていて、その準備
も大急ぎで行われていた。

子供1「母ちゃん、昨日の夜寝言で氏治ちゃん・・って言ってたけど知り合い?」
子供2「どんな人なの?」

お鈴「誰にも話しちゃだめよ。氏治ちゃんは何年間か、徳川家に居たの。でもある日、突然居なくなってしまって、
その後氏治って、名前は偽物だってお触れが出たの。」
子供2「悪い子なの?」

お鈴「そんなことは無いと思うわ。きっと戦で家族が皆死んでしまって、仕方なく偽の氏治になってしまったのよ。
去年亡くなったお隣のおじいさん、おばあさんも可愛がっていたのよ。」
子供1「氏治ちゃんってどんな感じなの?」

お鈴「年は・・・・16くらいかしら、ふわっと…ほわっとした感じの・・・・」
お鈴は、氏治の顔を思い出そうとしたが、おぼろげな輪郭しか思い出す事は出来なかった。
しかし、他の事は難なく思い出せる。やがて、友達が遊びに来て外に行ってしまった。


源太「と言う感じで、偽氏治と関わりが有る者、可愛がっていた者、恨み有る者それぞれ差はありますが、
偽氏治の事を忘れてしまっているようです。」
正信「今後数年を経ずして、領民は全て忘れ去ってしまうやも知れん。」


三太「最近では、天城殿も氏治・・・いや小田氏治の偽物を、不必要に贔屓した事を悔いているようです。」
風次「氏治に武将としての資質が、無い事が明らかになった時点で例え氏治が傷ついたとしても、氏治を辞めさせる
べきであった。軍師・参謀というのはそういう事を引き受けなければ、ならぬ立場だったと。」

源太「勾玉の力が完全に消え去り、氏治を贔屓したご自身の行動に疑問を持ったと?」
正信「恐らくな、できればもっと早く気付いて欲しかったがな。」

天城ソウマは、文書で氏治が失踪・・・・99%以上謀殺されているだろうけど、その時期を境に精彩を欠き、軍師・参謀としての活動は
本多佐渡守正信に移行して行く事になる。

長「天城ソウマの活動が、低下した原因については昔からいろんな意見が有る。」
古「視察中に落盤事故に遭い、かなり重傷を負い回復に時間がかかった。」

キ「この資料によると、実際同時期に金山開発を視察した際に、落石事故に遭遇しているそうだ。」
ハ「一番有力視されているわね。他には、家康と対立が有ったとかの説もあるけど。」

み「重病説も、支持する人がかなりいるみたい。肺結核とかに罹患した可能性もあると思います。」
確かに、今では簡単に治せても当時は命に関わる病気は多い。

最後に、本多正信が江戸に向け旅立つ前日の事が書いてある。どうやら日の出前の海岸だな。

忍「周囲に誰もおりません。」

正信「氏治殿…いや真の名前は何と言われるのか判らぬが・・・私が企てた事、今後悔いる事はありません。
何もせねば家中は大混乱に陥った事は間違いないです。いずれ恨み言は聞きましょう、10年後か20年後か・・・」


正信「本多家は決して3万石を超える、加増は受けませぬ。嫡子正純(まさずみ)にもよくよく言い聞かせます。」

正信は懐から、例の勾玉を取り出し海に向け放り投げる。すると勾玉が光っているではないか。

正信「どういう事・・・。」
左手を見ると、山間から朝日が顔を出し、その光が当たって光っているだけだった。次の瞬間、勾玉は波にさらわれて
姿を消した。しばらく眺めていたがもう浮かぶ事も光る事も無かった。

忍「正信様、長居しては漁師に怪しまれます。」
正信「うむ、では戻るぞ。」


ハルヒ「私利私欲で氏治を始末したんだったら、軽蔑してあげるけどあくまでも徳川家の為となると、複雑な気分になるわね。」
古「天城軍師が、活躍の機会が減って行ったのはあくまでも偶然です。讒言(悪口)した形跡は無いようです。」

長「天城ソウマには、責任無しとは言えない。本当に勾玉の得体が知れない力だとしても、氏治を過剰に贔屓しあまつさえ、
敗北の責任を隠ぺいした、責任は重大。」
み「本多正信さんが、貰った所領は本当に相模玉縄(鎌倉市)1万石だけです。」

ちなみに、徳川四天王は

井伊直正が 上州箕輪12万石 榊原康正 館林12万石
本多忠勝 上総大多喜(千葉県大多喜町)12万石

ちなみに、酒井忠次はこの頃既に隠居していた、視力が衰えていたのが理由だ。替わりに嫡子が
忠勝と同じ上総国に所領を貰っている。それでも3万5千石で正信より多い。


本多正信は嫡子正純によくこう言っていたそうだ。

正信「3万石までなら、本多家への恩賞として受けても良い。しかしそれ以上は必ず辞退せよ。」

本多正信は徳川家康が、1616年(元和2年)4月17日 午前10時ごろに死去すると 程なく隠居し6月7日に死去した。

1619年に嫡子正純は、教えを破り下野(栃木県)宇都宮15万石に加増される。

3年後 1622(元和8年)年9月


お家争いで、改易された出羽山形57万石最上家の城受け取りに向かった、正純はその数日後
今度は自分自身が、改易され佐竹預かりとなる。有名な「宇都宮釣り天井事件」として知られる。
正純と息子は、罪人同然の扱いを受け15年後に惨めな最期を遂げる。

黒幕は、敵対していた重臣土井利勝らの陰謀とする説が有力だが・・・・・


氏治「へふぅー、釣り天井の準備終わりました。あっ、徳川の間者さんですぅ、こっちですよぉー。」

間者「こっちから何か声が!これは釣り天井か!日光へ参拝される上様のお命を狙っているのか。」

み「氏治ちゃんが、そんな重い物持てませんよぅ。」
ハ「氏治ちゃんの知力で、真相に辿り着ける可能性は無いわ!」

キ「そこまで言ってやらなくても。」
長「もし霊的復讐が有るとすれば、天城ソウマの可能性が大きい。」



天下統一を果たした秀吉は、今度は朝鮮に出兵し、明やインドまで征服するという妄想に憑りつかれていた。

2度に渡る出兵で、西国大名は多大な犠牲を払い戦費を失った。更に加藤清正等の武将と、石田三成、小西行長
といって官僚武将との亀裂は、修復不可能なまでに拡大し、後に豊家滅亡の遠因となる。

一方徳川家は領国整備(+伊達への牽制)を口実に、直接的な被害は免れた。

1598年(慶長三年)8月18日未明 太閤秀吉没

徳川家康は、五大老の一人前田利家と共に朝鮮から撤退を決定。秀吉の死を秘匿したまま、
武将3名を朝鮮半島に派遣して、撤退を伝達した。

10月 豊臣家からは宮城豊盛 徳永寿昌 徳川家からは天城ソウマが釜山に向かった。

戦闘も発生するも、多くは無事撤退する事が出来た。ソウマは最後に出る小西行長、島津義弘と共に11月25日
に撤収する予定だったが・・・・


帰国早々熱病で倒れ、博多で療養するも12月の末に病死する。

キ「病状からするとマラリアかな。実際朝鮮出兵で病死した武将は多いらしい。」

その後子供が後を継ぐも、10数年後「大久保長安事件」に巻き込まれ改易されている。


数日後 

大杉教授「皆お疲れさん、今度皆に晩飯奢るから今日は学食で勘弁してくれ。」
今後、更に調査が行われ最終的に発見者である叔父さんや、つくばの館長さん・・更にSOS団の
メンバーの名前も出した上で、公表される事になるだろう。

み「氏治ちゃんは最後どうなったんでしょうか?」
長「生かしておく利点は皆無。」

み「ううやっぱりそうなっちゃうんですか。」
キ「源太とかいう忍者が、何日後に戻って来たか書いてあったら、何処らでやられたか判明するかも知れませんが。」

教授「いや、優秀な忍者ならついでに関東や東北の情勢も探って来るだろうから、それだけでは判断は出来ないぞ。」
古「教授は、自称小田氏治が消された確率は100%とお考えですか?」

教授「うーん、90・・・・いや95・・97%だな。資料を見る限り優秀な忍びみたいだし、二人一組で追っていただろうから
逃す事は無かっただろうな。残りの3%は、何らかのアクシデントで、氏治に逃げられてしまった確率。」
ハ「暗視装置や、監視カメラも無いから一旦大きく逃したら、再度見つけられない可能性も僅かながらあるわね。」

その後

長「実際小田氏治は何処に埋葬されたのか。」
キ「万一見付かるとまずいから、流石に駿府近郊は避けるんじゃないか。」

み「伊豆半島…とかかもしれませんね。」


古「伊豆西岸では、氏治の事が噂になってましたから、避けたかもしれないですよ。」
ハ「確かにそうだけど、人口だって今みたいに何万人もいないし、警察も無いからそれほど困難じゃないわよ。」

キ「西伊豆を避けて、伊豆東部の山間の可能性も・・・流石に調べるのは無理だな。」
み「長門さんは、何処に行ったんですか?」

何処に行ったのか戻って来ない。

ハ「案外、小田まで辿り着いてそこで病死したか、それとも忍に消された可能性もあるかも。水戸黄門のシリーズ初回
みたいに。」

水戸黄門を基準にするんじゃない。
キ「仮に逃れる方法が有るとしたら、やはり突発的な事件だな。」
み「熊さんがぐわぁーと出て来たんじゃないでしょうか。」

古「地震という線もありそうですね、当時は地震の活動期だったそうですよ。」
ハ「面倒だから、突如地震が起きて驚いたクマが出て来て、逃してしまった事にするわよ!」

キ「その際、重傷では無いだろうが忍が全員軽いけがをしてしまって、数日追跡を断念。」
み「氏治ちゃんが、最終的に小田に戻ると思い先回りしたら本当に戻って来たとか。」

ありそうな可能性ではあるが・・・・


ガラッ 長門が戻って来た。

古「長門さん、それは新聞の縮尺版ですか?」

長門が持って来たのは20年前の新聞だった。記事が縮小された奴で大きな図書館に置いてある。

高速自動車道の工事中、インターチェンジの建設と同時に、近くの国道に向けて接続する県道の工事をしていた。
その際、大きな古木を伐採した際に、地中から死後300年以上は経過している白骨遺体が発見された。

俺達は、当時生まれていないから、記憶は当然無い。しかし、地元は大騒ぎになったのではないだろうか。
10日後に、遺骨は死後300年は経過している事が大体判明し、警察の捜査本部は解散した。

ハルヒ「まさか自称氏治かしら。」
長門「場所は小田(つくば市)では無く、水戸市南東。」

キ「かなり距離が有るし、関係は無いと思うがな。」
ハルヒ「取りあえず行ってみましょう。」
古「遠い距離じゃないですし、何か明らかになるかも知れませんよ。」


俺達は急遽特急の自由席で、水戸駅に到着。路線バスに乗って、事件が起きた付近にやって来た。

み「ええと、確かこの辺りの筈ですよ。そこの交差点から伸びる道が、確か白骨遺体が見つかった道です。」
左を見ると、広い道路の先を横切るように高速自動車道が見える。

近くに保育園が有り、日中働いている人が多いのか、今日も保育園はいつも通りやっているのだろう。
子供達が、横断歩道を渡り町内の人が、『止まってください』という旗で車を止めている。

古「あそこの御老人がこちらを睨んでいる様な気がします。」
ハ「キョン、何か恨まれているの?」

なぜそうなる、そんな事が有る筈も無い。多分?

しばらくすると、怪訝そうな顔をした80歳くらいの男性が近付いて来た。
老人「君達、もしかして廃墟マニアじゃないの?」

古泉が代表して、事情を説明する。

老人「叔父さんの仕事の手伝いで・・・・今時感心だねえー。ふむふむ、22年ほど前に見つかった遺体が
その小田氏治かも知れないから、調べに来たのかい。」
古「ええ、そんな所です。」

田崎老人によると、その時は大騒ぎになったらしい。警察はすっ飛んで来るし、事件性が無いと判るが、
逆に数百年以上前の遺体である事が判明すると、学者やら報道関係やらが何人も来た。
工事もしばらく中断して、作業員がぼやいていたそうだ。

田崎「こっちの勘違いで、気分悪くしてしまって悪かったね。よし、お詫びに美味いスイカ食っていってくれ。」


流石にこの猛暑の中、外で立ち話というのもきつい。それに、田崎氏は高翌齢なのだからさらに良くない。

家は直ぐ近くだったが、来客が有ったのか一台の車が走り去るのが見えた。

夫人「今テレビ局の人がお詫びに来られて・・・・遠くから暑いのに大変ですねえ。」
テーブルの上には、テレビ局の人が持って来た菓子折り・・・・

ハルヒ「思い出したわ、田崎さんは美味しいスイカを栽培していて有名なのよ。」
そういえば、テレビで見た記憶が有るぞ。

夫人の説明によると、今日テレビのロケが予定されていたが、出演者の若い女性が違法薬物で逮捕されたので
急遽中止になり、関係者がお詫びにすっ飛んで来たらしい。スイカが余っていると言うのは、この撮影の為に
直前に収穫したスイカの事だったのだ。

俺達が来なかったら、廃棄処分になっていただろうからスイカの神様は喜んでいるだろう。

キ「田崎さん、さっき言っておられた廃墟マニアって何の事なんですか?」
ハ「アニメの聖地巡りで、マナーの悪い人がいるそうよ。埼玉県の鷲宮町の神社とか。」
み「滋賀県にある古い木造校舎が、使われているアニメがあるそうですけど、その建物の一部を破損させて
逮捕者も出ているそうです。」

両方とも確か、女子高生の日常生活を描いたアニメだよな。

田崎「アニメの聖地巡りとかだったら、まだ我慢できるよ。地元にお金は落ちるし、地域の宣伝に繋がるし。本当は犯罪マニアなのさ、連中は。」
犯罪聖地とは言いたくないので、地元の人は廃墟マニアと言い直しているのだろう。


田崎氏は、俺達を西側に面した窓に案内した。さっきの交差点では、コンビニや中古ゲーム店があって
良く見えなかったが、ここからならはっきりと見える。

かなり広い敷地を持っている様だ、しかし建物らしきものは見えず重機が作業をしている。

キ(どこかで見覚えが有るんだが・・・・)
古「大洗事件の首謀者、五十鈴家の本宅跡地じゃないでしょうか?」

事件の直後よくテレビに出ていたな。地元のイメージも悪くなるし、住民の方が不愉快に思うのも当然だろう。

田崎「差し押さえられたけど、県から水戸市に払い下げられて児童公園になるらしいよ。」

美味しいスイカを食べ終えた所で、田崎は地元新聞の縮尺版を持って来た。町内始まって以来の大事件なので
記念に購入したらしい。

田崎「遺体は、かなり損傷が有ってな。詳しい死因は…書いてあるように、今でも不明なんだよ。」
記事には、かなり衰弱していた形跡が有ると掲載されている。専門家は、江戸時代の飢饉による犠牲者
ではないかとの意見を乗せている。

ハ「損傷は、発見した時に重機がゴツンと?」
田崎「いや、それが原因じゃないんだ。

古「他殺された痕跡でもありましたか?」
キ「いや死因は明らかになってないんじゃ。それに飢饉の犠牲者なら外傷は無いんじゃないか?」

田崎「損傷させた責任が有るとすれば、B-29の搭乗員だよ。」


田崎「昭和20年8月の水戸空襲の時、丁度白骨遺体がある所に爆弾が落ちたんだ。と言ってもわしは、
当時栃木県の方に疎開していたから、直接見た訳じゃないんだがね。」

み「でもこの辺は、水戸の市街地からかなり離れていますが。」
古「昔は、何らかの工場でもあったかもしれませんよ。もしくは海沿いなのでレーダー基地とか。」

田崎「ハハハ、お若いの買いかぶり過ぎじゃ。日本はレーダー…当時は電探と言っていたが、かなり軽視していたからね。
こんな田舎にある訳が無いよ。首都近辺や、B-29の針路上の伊豆大島などにはかなり配備したらしいがね。」

夫人「東京大空襲みたいに何百発も、落とされた訳じゃなくて近所に落ちたのは、2発だけなのよ。」
ハ「残った爆弾を落として行ったのだと思うわ。」

田崎「恐らく、水戸の上空で故障して2発だけ落とせなかったんじゃないかな。勿論着陸する時に危険だから、
飛び去る時に、やり方は判らんが強制的に切り離す装置でもあったのだろう。」

その爆弾が、50年後に工事をやる正にその地点に命中した。B29の爆弾というと、ドラマなどのイメージから空中で多数の
子爆弾をばらまく焼夷弾を思い浮かべるが、地面に落ちて爆発するタイプの爆弾も搭載できる。

焼夷弾ならたった2発でも、近隣の家や集落にかなりの被害が出たかもしれない。

田崎氏が紙に状況を書いてくれた。爆弾の衝撃で、白骨遺体は頭部と腰から下が破壊されてしまい、胴体部や腕の一部は
丁度木の根が衝撃波を減[ピーーー]る形になり、原形を留めた。

長門「問題は爆弾は適当に投下されたのか、それとも何らかの目的が有ったのか。」


田崎氏が次に出して来た、地図で見る限り元五十鈴本家跡と、太平洋を最短距離で結んだ線の
丁度中間点にある。

古「五十鈴家を何かの工場と間違えて、爆弾を2発投下したのだと思いますね。」
田崎「終戦後、疎開から戻って来て近所の大人に聞いたら、そのB-29は他のB-29より、低い位置
を飛んでいたらしいぞ。もしかしたらエンジンが故障して、高度を低くせざるを得なかったのかも知れん。」

B-29も無敵の兵器では無い、当然エンジンが故障する事もあるだろう。

長「高度が低くなれば、本来届かない対空砲でも攻撃可能。」
田崎氏によると、お前は逃がさんという感じで旧式対空砲が、集中砲火を行った様だ。

み「焦って狙いが逸れたんでしょうか?」
ハ「もしくは、爆撃手の腕が悪かった可能性もあるわ。」

そのB-29は何とか被弾せずに、逃走成功した様だ。今年は終戦70年でどこのテレビ局も、戦争特集をやっている。
もし、生還していたら搭乗員の生き残りが、インタビューを受けるかもしれない。

爆弾が五十鈴家に命中していたら、戦車道事件はどうなったのやら。起きていなかったかも知れないし、別の展開を辿り
未だ真相が明らかになっていないかもしれない。結局別の形で事件が起き、結局同じ結末になったかもな。

一同「ありがとうございましたー。」

夫人「気を付けてお帰りなさい。」
田崎「今度は冬に遊びに来なさい。上手いあんこう鍋たっぷりご馳走するよ。」

田崎氏はハルヒの叔父である大杉教授のファンで、教授が出ている歴史番組は欠かさず見ているそうな。


上野行ひたち内

俺達は、来た時とは一つ手前のバス停まで歩いた。途中あるお寺に参拝したからだ。
田崎夫人によると、お盆に件の遺体が埋葬される事が決まったそうだ。

詳しい死因も、どの様な状況で亡くなったのかも、現在の技術では調べようがないらしい。

ハ「結局その遺体の正体は、誰だったのかしら?」
長「常識的に考えれば、江戸時代飢饉で死亡した人物。」

キ「自称氏治の可能性は、流石に低そう・・・・いやほとんど無いか。」
古「仮に逃しそうになっても、飛び道具で仕留めるでしょう。」

み「本物の氏治ちゃんの可能性はどうでしょうか?」
ハ「本物ねえー、自称氏治よりは可能性・・・少しはありそうね。でも、小田から相当離れているわ。」
古「佐竹側が、密かに埋葬した可能性もありますが。」

キ「しかし、あそこには寺は無かったぞ。」
ハ「明治維新後の、仏教排斥で廃寺になったとか、江戸時代に火事で燃えたとか。」

み「お寺だけ他所へ移動したとか、確か本能寺の変の本能寺も、今は別の場所に有る筈です。」

ハ「とりあえず大杉の叔父さん達の研究待ちね、もしかしたら杉下警部の言う様に、新たな資料が見つかるかも知れないわよ。」


次の月曜日 相変わらず熱い

大木が有った場所は、過去にも何も無かったらしい。

某公営放送の戦争に関する番組で、B-29搭乗員のインタビュー映像が出ていた。
水戸空襲の最中、突然エンジン1基が不調になり、爆発を避ける為にエンジン1基を停止させたとの事。

その為、飛行高度が下がり旧式対空砲の集中砲火を喰らい、退避中に建設中の工場らしき建物
を目視した為に、250キロ爆弾2発を投下したが、対空砲の至近弾による爆風で機体が激しく揺れて、狙いが外れてしまった。

何とか緊急用不時着基地のある硫黄島まで到達し、機体は廃棄処分になったが搭乗員は無事生還した様だ。

彼らは、2発の爆弾が日本の犯罪史に、重要な影響を与えた事を知っているのだろうか。
古「映像の日時は20年前に放映された番組ですよ、既にお亡くなりになっているかもしれませんね。」

おい、顔が近いぞ!と思っていたら、廊下を走る音が・・・・ハルヒか…いや既に全員居る。

現れたのは、朝比奈さんの親友である大江先輩だ。やはり、俺達より年下に見えてしまう。

大江「みくるちゃんや、キョン君達は謎めいた小田氏治に、関する事を調べていたんだよね。」
ハ「先輩遂に、犬耳と猫耳が公式に認められるわ!」

いや、何処で猫耳が出て来たんだ?そして、大江先輩にも俺の名前はキョンで記憶されてしまったのか。

先輩は、朝比奈さんに茨城県の新聞を差し出した。
大江「お、落ち着いて聞いて下さいっ。・・・・・小田政治には、幼くして亡くなった長男以外に子供も養子もいなかったんです。」


本日はここまでです。ありがとうございました。
明日で本編は終了予定です。
一体茨城で何が起きているのか?

こんばんわ 風邪気味なので今日は中止します。


今日夜10時から開始します。



俺達は十数秒の間、先輩が何を言っているのか理解できなかった。

先輩によると、(大半は持っている新聞記事)二週間ほど前、ある人物が茨城で死亡。
終戦後、会社を興して成功しその後社会貢献も行った、地元の名士らしい。

その人物は、遺言で死亡後速やかにとある物品を、つくば市に返却する様に書き残していた。
彼は、昭和20年8月13日の深夜、ある倉庫に忍び込んだ。

当時の日本は米海軍による潜水艦による輸送線遮断により、かなりの食糧不足だった。(終戦の年は冷害も。)
彼は、体が弱い兄弟に栄養のある食べ物を食べさせようと、倉庫から金目の物を盗もうとした。

しかし、人の気配がしたので近くに有った、資料だけを持って出て行った。倉庫は翌々日炎上する事になる。

資料は小田家重臣菅谷氏の日記だった。

そこには、小田氏治の事は一切書かれておらず氏治の兄が幼くして病死し、その後政治も『跡継ぎ無いまま死去』
とある、その後何処からか養子を貰ったとかの記述すらなく、その後小田氏が混乱のまま滅亡の日を迎える様
が書かれていた。最後に女子も生まれたが、こちらも程なく病死。しかし、こちらは重臣以外は隠されたらしい。

ハ「きっと、氏治がバカすぎるから記録から消したのよ。」
み「氏治ちゃんが、生まれつきバカだとか最初から判る筈ないですよぅ。」

ハ「・・・・・・」
ハルヒが、金田一やコナン君に追い詰められた犯罪者みたいに、必死に逃げ場を考えている。カメラは何処だ、
撮影しないと。・・・・・こんな時にバッテリー切れか。


ハ「未だ小田家重臣の記録・・・他にも家臣はいるわ。」ガラッ

??「福井で、別の小田家家臣が書いた記録が、見つかったらしいけど、小田氏治の名前は
一切なかったらしいよ。」

そこに、モデルの様な美女登場。大江先輩を強引に競技かるたの道に、勧誘した…名前はなんだったかな?
確か自称かるたキャプテンとか言っていたが。黙っているとと凄い美少女なんだが、口を開くと競技かるたの事しか出て来ないらしい。

西宮近くの大学に進学した、谷口によるとかるたCP先輩みたいなのを、「無駄美人」「残念な美女」とかいうらしい。

CP先輩によると、朝比奈さんが大江先輩に話し、それをCP先輩が聞いて更に、昔一時期同級生だった凄いかるた名人
の孫に電話連絡。その人は福井にいるらしいが、心当たりが有って何とか会というかるたの集まりで、県立博物館の
職員だった方に話した。

その結果、未整理資料の中に小田家家臣の記録文章が有ったかもしれないと言う話になり、しらべてみたら・・・

CP「その日誌にも、氏治とかいう子の記述は何も無さそうだって。」
ハルヒが真っ白に燃え尽きている。プスプスという効果音まで聞こえて来そうだ。ハルヒと正反対に満面の笑顔をを浮かべた
先輩は、

CP「みんな、競技かるたに興味は・・・・」
と、言いかけた所に・・・・

先輩1「帰るぞ・・・」
先輩2「お騒がせしましたー」

肉まんみたいな人と、美男子が現れてCP先輩は強制退場となった。


ハ「おのれー氏治ーーーー!!」
ハルヒは、戦隊ヒーロー物や、プリキュアのラスボスみたいな感じで叫んでいる。

ハ「資料をクシャポイしてやるわ!」
ハルヒは資料では無く、何処からか拾って来たスーパーのチラシを取り出して、うっ憤晴らしを行った後、再び
プスプス状態に戻った。蒲田の文字が見えたから、大田区蒲田にある店のチラシか。

古「何処で拾って来たんですか」
ハ隣の物置に落ちていたわ。」

み「神戸の文字が有ったけど、何なんでしょう?」
長「神戸牛を買ってきてという指示との事?」
キ「かなり高級な和牛だろ、スーパーで扱うかな。」

ハ「目玉商品という事じゃないの?」
長「駅弁フェアの可能性も。」
み「時々デパートでやってますよね。北海道のイカ飯とか富山の笹寿司とか、福井のカニ飯とか。」

面倒なので、そういう事にしておこう。結局ハルヒが凹んでいるので解散となった。


数日後、お盆に帰省するので明後日に乗る新幹線の乗車券を確認していると、ハルヒから着信が。

ハ「キョン事件よ!」
もしかすると、氏治絡みだろうか?直ぐに来いという事なので、とりあえず大学に向かう。


ハ「自首するのなら、最初から事件を起こすべきじゃないわ!」
ハルヒが正論を言っているが、興味半分で大学にメンバーを集めたハルヒに言う資格があるかは疑問だ。
??「ふん、俺もそう思うぜ。」

古泉かと思ったが、まだ来ていない
み「キョン君、怖い人がいます。」
ハ「みくるちゃん、隠れるのよ!大学まで誰かの借金取り立てに来た、リアル福本作品キャラよ。」

伊丹「誰が福本キャラだ!」
どうやら、本物の刑事さんのようだ。大学のOBが起こした傷害事件の調査に来たのだろう。

芹沢「あれっ、君とはどこかで会った気もするけど。」
それに対し、長門は日時から二人の会話内容・・二人が注文したメニューまで言い当てた。

伊丹「何故そんな正確に覚えている、ただ物じゃねえな。」
芹沢「この人全国模試で首位だった、長門さんですよ。」
伊丹「ふぅん、それなら不自然じゃねえな。」


ハ「水戸で見つかった300年前の遺体は、もう調べようがないしそれに、真氏治も偽氏治も存在しないんだから、
やっぱり、飢饉か天災で亡くなった人の遺体だったのよ。」
き「後残っているのは、小田家の美談って何だったんだろう。」
み「そっちの方も胡散臭いみたいです。福井と水戸どちらで見つかった記録にも、美談とされている記述は無いそうです。」

ハ「特命係の人にでも、聞いてみたら進展が有るかも。」
そう都合良くここにいるのか・・・・

??「今呼びましたか」?


伊丹「ん、警部殿とカイトはあそこで何をやっているんだ?」
芹沢「する事が無くなったんで、歴史サークルの学生の相談に乗っているみたいです。」

伊丹「どんなテーマなんだ。」
芹沢「殺人事件に関する事です。」
伊丹「おい、まさか今起きている事件じゃないだろうな!」

芹沢「戦国時代末期の頃の事件だそうです。」
伊丹「千利休絡みのヤマ(シーズン8 特命係西へ)を思い出したぜ。あの時の使用済み切符の山は、
時々夢に出るぞ。時効は廃止されたけど、400年前なら流石に時効だな。」
芹沢「犯人も死んでそうですね。」

伊丹「宇宙人とかじゃない限り、死んでいるだろうよ。で、その頃不審な死ってあるのか?」
芹沢「有名な所だと、加藤清正、浅野幸長、前田利長、池田輝政等の豊臣恩顧武将が、短期間の間に
何人も亡くなっているので、徳川による謀殺説がありますね。」
伊丹「そいつは確かに怪しいな。・・・・って、俺達は帰るぞ。」


キ(大杉教授と杉下警部が知人だったとは。それでハルヒの性格も知っていたのか。)

大杉教授は、何年も前に起きた人気小説家夫人殺害事件の容疑者(報道では夫らしい)と、顔がそっくりらしい。
(シーズン2 第6話 殺してくれとあいつは言った)

その事件は、小説家がラジオで「俺を殺してみろ」と言っていたのを真に受けた、青年に殺害されて
未解決のままである。

街で偶然遭遇して、流石の杉下警部も驚いたのかも知れない。


代官山の店と言うのは、杉下警部が良く行く店なのかもしれない。

恐らく本当に、警察上層部に旧大洗女子の旧一年生チームが、無事に過ごしているか確認して来るように言われたの
かも知れない。茨城県警にでも頼めば良さそうな気もするが・・・・

回想?

内村部長「心配だな・・・」
中園参事官「何がですか?」

内村「大洗女子の旧一年生チームだ。今無事に過ごしているのか、急に心配になって来た。」
中園「もう10か月経過して、だいぶ世間の関心も薄れて来ているので、平穏に過ごしていると思いますが、
県警に照会してみてはどうでしょうか?」

内村「わざわざ、県警の手を煩わせるのも気が引ける。そうだ、こんな仕事にぴったりな部署が有るではないか、
あいつらにやらせろ。」


亨「結局、小田氏治は本物も偽物も存在しなかったのか。」
ハ「後残っている謎は、どうやって小田家当主が誰も居なくなったのを、隠ぺいしたかだけなんです。」

実はハルヒはあの後、いんちき文書をコミケ辺りで売り飛ばそうと言い出した。

100年前の小説なら、もう著作権は無いわという主張だ。しかし、例えば大学生が暇つぶしで書いたとかの場合、
その人が凄く長生きをして、100歳くらいまで生きていた場合未だ著作権が有る可能性もある。
そもそも、あの文書の所有者の許可が無いと難しいだろう。

ハルヒは、結局断念した。作者についてはいずれ明らかになる日が来ると良いが。

江戸時代大名が死んだ場合、一番順当なのは嫡子(正妻の子)が継ぐ。正妻に男子が居ない場合は、側室の子
それも居ない場合や、藩主が若くして死んだ場合は弟が継ぐ事もあった。

三代将軍家光の頃までは、嫡子が居ない大名は容赦なく改易されて、江戸や大坂は浪人だらけになって、
家光死後すぐに、由井正雪の乱がおきてしまう。

ハ「西村雅彦が黒幕の筈よ!」
長「それはBS時代劇柳生十兵衛シリーズの話」

その後、幕府も流石に拙いと思い後継者がいない場合は、緊急避難的に養子を迎えても良いですよという事にした。
末期養子と呼ばれる。

年齢制限もあり、九州の柳川藩では兄が病死し、弟は年齢に満たない。そこで、兄は病死寸前まで悪化しましたが
何とか持ち直し、全快しました。つまり弟をそのまま死んだ兄と同一人物にしてしまったのだ。

右京「おっと、だいぶ余談が過ぎてしまいましたね。僕の悪い癖です。」


亨「小田家後継者がいなくなった時、まず検討されたのは分家や親戚筋から、養子を迎える事だったのでは?」
み「でも親戚とかも、まず自分の家が大事ですから、子供が何人か居ないと助けてくれないと思います。」

右京「当時は現在とは比較にならないほど、乳児死亡率は高かったでしょう。そう易々とは養子を出してはくれなかった
と思いますよ。」
他に出産時の危険も、非常に高かったと思う。本来斬り捨て御免の、大名行列の前を産婆は通る事が出来た点を
考えても、当時出産は命懸けで、それに関わる人は尊重されたのだ。

ハ「養子といっても、ある程度育ってからという事も有る筈。どうやってそれまで偽装したのかしら。」
キ「某ペルシャ風戦記みたいに、奴隷や庶民の子を先代当主の子とかにする訳にも行かないですね。」

み「まさか、木で作った木像に着物着せてごまかす訳には行かないですよね。」
ハ「案外その通りかもよ。」

右京「大胆な想像ですが、適当な成り手が居なかったら、最後はそうせざるを得ないかもしれませんね。
小田家は鎌倉以来の名家なので、格が低い家やましてや庶民をごまかして後継者にする事は、自尊心が
許さなかったでしょう。」

亨「病弱という事にしておけば、人前に出さずに済みますね。年賀の儀式とかも、御簾みたいなので視界を遮り
来客を遠ざければ、何とかばれないかもしれません。」

古「卑弥呼も実際は存在しなかったとの意見もあります。そういう手段で隠蔽したのかも知れませんね。」
み「そんな方法で上手くいくと思ったのかなあ?」

ハ「上手くいくと思ったから実行したのよ。」
キ「乱暴すぎる意見だと思うが。」


右京「ハルヒさんの意見は、一見粗雑に聞こえるかもしれませんが、真理を捉えています。」
み「いろんな事件や、賄賂とか横領事件とかも上手くいけると思ったから、起こすと思います。」
亨「殺人事件とかは、発作的に起こしてしまう事例も多いけどね。」

徳川時代の末期養子における、柳川藩の様な藩主すり替えや、養子が一定の年齢に育つまで、亡くなった前藩主
の死亡届を遅らせる等の行為は、多くが目論み通りに進んでいる。

長門は改易となったら幕府も面倒だから、黙認していた可能性も高いとの意見だ。

古「平穏な江戸時代だから、何とか上手くやる事が出来たんでしょうね。」
キ(逆に戦国時代は、CCOの『強ければ生き、弱ければ死ぬ』時代だからなぁー。)

右京「小田家は小勢力であった事は確かですが、少なくとも小田政治の時代までは、領民に慕われていた
事は事実でしょう。美談も先代の頃は虚偽では無かった。」
ハ「だから、本命の親戚辺りの子が成長するまで隠しておけると思ったのよ。」

長門「数年後今度は、その子も病気で夭折してしまったと重臣の記録に。」
小田家家臣は、その後も存在しない当主を、存在する様に偽装を続けざるを得なくなった。

小田家家臣や領民の忠誠も、小田家当主が居なければ空中分解必至である。事情を知らない家臣の忠誠が消え、
やがて領民の心も離れて行った。佐竹に内通した家臣が居ても不思議では無い。

キ「小説の中に、小田氏治が勾玉を落としたら、家臣や領民が氏治に急に冷たくなったとありました。」
恐らく揶揄して書いたのだろう。

み「でもそんな事が永久に続けられる筈が無いですよ。」

右京「ある日終焉が訪れたのでしょう。」


小田家が滅亡した戦いの日、小田のある商家に生まれた少女が、盗賊に襲われて死んだ。

もしかすると、一人で戦火から逃げていた彼女を盗賊達は、小田氏治(仮名)と勘違いして襲ったのでは無いか?

キ(当主が存在しない偽物でも、一応全体的なイメージみたいなのは必要だよな。他国の使者にどのような外見か、
聞かれるかも知れない。)

長「その姿が、偶然商人の娘と似てしまった。もしくは故意に似せた可能性も若干存在する。」
亨「少女が盗賊達に襲われたり、殺害される所を、小田家兵士か住民が目撃したのかな?」

み「その人は、小田家当主を斬ったみたいな叫び声を聞いたんじゃ。」
右京「実際その日、少女が亡くなった事実はあるみたいですね。小田家兵士達は、当主が存在しない事は
知らされていないでしょうから、士気が崩壊して全面降伏に追い込まれた・・・可能性は否定できませんね。」

逆に佐竹側が降伏を勧告した可能性もある。盗賊達は、鬼義重により即座に処刑された。
小田家当主死亡の噂も急速に広がっただろう。いや、重臣はむしろ渡りに船だったのかも知れない。

ハ「残りは小田家の美談の謎だけど、やっぱり未だ平和だった頃のエピソードを誰かが間違えたのかしら?」

右京「その可能性を否定はしませんが、僕は違う可能性もあると思います。」
キ(逆に後世のねつ造なのかな?)

右京「引っ掛かるのは、新領主に年貢を納めず旧領主に納めた。この場合は小田家にですが・・カイト君
もしそんな事が新領主に露見したら、その人はどうなってしまうでしょう?」

亨「当人は打ち首・・・家族も同罪にされる。」


長門「当人だけならともかく、家族や親族まで道連れとなったら、リスクが高すぎる。」
古「悪名高いナチスの親衛隊は、SS隊員が一人殺されたら事件が起きた周囲の村人を、100人処刑する
という暴挙を実行したそうです。」

み「ひぇええええええ、戦国時代の日本でも同じ事が、あったんでしょうか?」
右京「記録が無いとしても、絶対に無かったとは断言できないでしょう。」
ハ「拙い記録とか全部抹消したりしてる筈よ。上杉なんて実際は偽と哀で有名よ。」

亨「徳川家が、美談をねつ造して密かに広めたって可能性は、どうですか?江戸時代は、戦国時代の松永久秀
みたいに下克上とか、断じて認められないでしょう。」

古「藩主が暗愚であっても、家臣や領民は反抗等をせず支えねばならない。」
右京「なるほど、確かに小田家における出所不明の美談は、徳川家を頂点とする幕藩体制を維持する為に、
都合の良い部分だけを利用された、なかなか面白い指摘ですね。」

キ(重臣菅谷氏は、徳川家康より最終的には5千石まで加増されている。何か関係が有るのかも知れない。)

右京「この件とは別に、ちょっと聞きたい事が有るのですが。」
亨「大学のブログに、このスーパーのチラシが映っていたんだけど・・・」

蒲田のスーパー・・・・・年末セール・・・・


数年前の年末、イベント中の子供を乗せたバスがテロリストに乗っ取られて、運悪く当時特命係だった
神戸尊(かんべたける)も巻き込まれてしまった。途中バスを降ろされた際に、落ちていた蒲田のマーケットのちらしに、
杉下警部に向けたメッセージを残した。

そのチラシは事件後、誰かがしおりにでも使い回り廻って大学に来たのだろう。それを神戸氏が見付けて、
可能なら記念として手に入れたいという事なのだろう・・・・

キョン(こうべじゃ無くかんべなのか!あのちらし、ハルヒにより無残な姿に・・・・。)

ハルヒ「神戸牛の事が書いてあるチラシなら拾いましたが。」
亨「どうやらだれか捨ててしまったのでは?」
右京「ハルヒさんの拾ったチラシは、関係なさそうですね。何処かのレストランか、お中元用の贈答品案内でしょう。」

長門(チラシは速やかに消去する。)

古「どうかされましたか?」
右京「小説の下書き文字ですが、何処かで見た事が有りますねえ。」


それから、一月が経過した。あの後お盆を境に、猛暑は鳴りを潜め8月下旬は逆に、涼しいくらいだった。

み「8月末だけは、冷夏っていう予測合ってましたね。」
古「竜巻や水害の被害が出ています。今年の冬は暖冬との予測も出ているそうですよ。」

例の文書の筆跡を調べてみたら、何と明治大正期に活躍した有名な小説家が、晩年に書こうとしていた
歴史小説の下書きだった事が判明した。

俺達SOS団にも、報道関係者が取材に来てハルヒは、終始某黄色い千葉県某市ゆるキャラみたいなテンションで
はしゃいでいた。いずれ誰かが構想を元に出版するだろう。

俺達は(ハルヒ以外)は大学近くの喫茶店に集合している。


長「あの小説は本当に架空の出来事だったのか疑問が多少残る。」
キ「例の小説家がそれまで書いていた小説とは、種類が違うからな。でも、画家の画風が途中で大きく変わる
事もあるから、おかしくは無いとも思うが。」

古「新しい分野に挑戦しようとしていただけかもしれません。」
むしろそっちが自然だろう。

その後更に、小田家重臣の記録が水戸と福井で見つかったが、小田家当主不在の隠蔽などは概ね、杉下警部の予測
通りだった。

み「やっぱり警部さんってすごい人だったんですね。今頃新しい事件の捜査でもしているんでしょうか。」
うーんどうだろう、特命係が暇という事は難事件が起きていないという事だからなあ。


古「小田氏治が、今後…まずありえないとは思いますが、やはり現実に存在した(犬耳が付いてる方)・・・・
つまり小説が、実話を基に書かれたことが明らかになったら、かなり厄介な事に。」

キ「ハルヒに再び変な力が戻るとか?」
長「それは100%あり得ないと、長官が言ってる。」

人類統合思念隊は、ハルヒの力が消えたので穏健派が主流になったそうだ。
長門「暇になったので宇宙平和の為に行動している。」ビシッ

長門にはできれば普通に生活して欲しいのだが。長官は長門達に必要な社会常識とかを、教えてくれたらしい。
長門がマンションで3年待機していたのは、宇宙通信教育でも受けていたのか?

み「長門さんにとって、恩人と言える存在なのですね。」
長門「恩人ではない、人間では無いから。」

うん、そうだろうよ。G街道の人工知能コンピューターみたいな感じか?

キ「ハルヒに力は戻らなくても、犬耳付の氏治を探し出すわよ、となりかねない。」
と山の中を当ても無く探すのは無理だ。勝手に国有林とかに入ったら捕まってしまう。

古「実在した可能性は実際ほぼ0なので、気にする必要もありませんよ。」
確かに、それよりも明日の天気でも考えた方がよほど有意義だ。秋の天気はハルヒみたいに予測し辛い。


キ「もし仮に・・・・犬耳付の氏治が存在したとしたら、何処からやって来たって話になるな。」


その時喫茶店のテレビが、今週の番組予告を流している。

ダーツを投げて、そこにスタッフが取材に行くという内容。ちなみ行くのは町と村だけだ。

残暑に負けるな2時間スペシャルらしく、有名人が行く様だ。
土地の名産を食べたいと言う、黄色いゆるキャラ。ホテルに向け出荷されるゆるキャラ。予告の最後は、
ホテルのドアにぶつかって転ぶと言う、コントを演じている。

キ「犬耳の妖精界とか?」

み「犬耳は要らないと思いますよぅ。」
古「もしかして犬耳が趣味ですか?」
長門「犬耳の冒頭に付ける理由を、100字・・・・・30字以内で説明して欲しい。」

皆にダメ出しを喰らってしまった。

会計を済ませ、喫茶店を出るキョン達・・・・歩道に出ようとした・・・・

目の前を氏治が走って行く・・・・

み「キョン君、どうしたの?」

慌てて左を見ると、仲が良さそうな家族が犬にリードを付け直していた。


ガラッ
ハルヒ「秋に何を調べるか考えたわ。」

み「未だ小田原城に行った事が無いので、行ってみたいです。」
長「アトランティスの沈没場所を特定する。」

そもそも、本当に存在するのか?

古「来年の大河ドラマは真田氏らしいですよ。上田か松代藩の歴史を調べるのはどうですか?
幸い長野には僕の親戚の方が、経営される旅館が有ります。」
キ「確か真田氏は、大坂の陣の数年後に上田から松代に、転封されたらしいな。」

ハ「それは来年にでもやるわ。今回の件は小説の出来事だったけど、不思議な話だったわ。」
キ「確かにそうだったな。」

ハ「たまには初心に帰るのも良いと思うのよ。」
あの実りの無い、ふしぎ発見を数年ぶりにやりたくなったか。ハルヒの力は消えたから、一回くらいは・・・

しかし、ハルヒは一枚の写真を取り出した。

そこには千葉県某市のゆるキャラが描かれている。

ハルヒ「このゆるキャラのジャンプ力は異常よ。それにやたらと元気なのは何か生活に謎が有るからよ。」

勝手に密着調査でもするつもりか?おや、長門が凍り付いていたが・・・


ハルヒはすぐに帰ってしまった。


キョン「長門、あのゆるキャラは・・・異世界人とか変な属性無いよな?」
しかし、長門はピゅーと部屋から出て行ってしまう。

追いかけると、見た事が無い謎の小型機械で誰かと連絡を・・・・・

??「マジでやばい○○しー」

ハルヒは、またとんでもない扉を無意識に開けようとしてようとしているのか?そしてあやつは営業用の声が地声なのか?

黄色いゆるキャラの運命は・・・・・?


これで終了です。ありがとうございました。

相棒の花の里は、相棒展で見た小物によると代官山にあるみたいです。

おまけ、昨年投下された闇のあんこうVS特命係 最後のシーンは投下直前に変更しました。
元のを投下します。
澤梓と小梅ちゃんから手紙が届く所までは同じ。


亨「何かありましたか?」
角田「あっ、事件じゃねえや事故だ。」
右京「不審な交通事故死の案件でも、発生しましたか?」

角田「事故でも無かったな。原因で交通事故は起きてる可能性は高いが。つまり、自然現象だ。」
亨「?」
角田「霧だよ、凄い濃霧らしいよ。」

しかし、外は快晴だ。右京が奥の窓から外を見るが、雲一つ無い。

右京「晴れてますねえ。」
角田「熊本だよ。もうお昼前なのに凄い濃霧だってさ。」
テレビを付けるカイト。丁度昼前の全国ニュースが始まった。

NK「現在熊本市一帯を中心に、非常に濃い濃霧が発生し交通に大きな乱れが出ています。」
亨「空港は閉鎖中。高速道路も八代と南関の間で通行止め。一般道も大渋滞でしょうから、課長の仰る通り
かなりの交通事故は起きていそうですが。」
角田「何か変じゃないか?」

右京「熊本の天候は…晴れですね。太陽が昇り、気温が上がれば本来霧は自然に消えます。確かにおかしいですね。」
亨「地震の前兆ですかね。いや、九州の内陸は地震の発生予想は低いか。」

亨「謎ですね。」
右京「謎ですねえ。」


同時刻 熊本市郊外(東)

一台のタクシーが、停車している。

運転「先生との約束の時間には、未だ20分あるな。少し早過ぎたか?いや、濃霧で道路はノロノロ運転で
大渋滞。熊本駅まで、かなり時間がかかりそうだから。」
ラジ「現在運転見合わせ 九州新幹線は 八代-久留米の間 鹿児島本線 八代-玉名 豊肥本線 熊本-肥後大津
三角線 宇土-三角の全線・・・・」

運転「先生夕方から、出版社の人と福岡で打ち合わせらしいな。霧が晴れなかったら、久留米まで載せてくしかないかな。
それにしても変な霧だなあ。こんな霧は初めてだ。」

ようやく少しずつ霧も晴れて来たらしく、時折周囲の建物や集落が見える。

- 許可なく立ち入った者は、法規に則り厳しく処罰します-
平成25年2月15日 熊本県 熊本県警

タクシーが停車しているのは、あの西住家本家正面入り口の直ぐ近くだ。
運転「すっかり誰も居なくなったな。」
運転手は熊本生まれなので、幼少時から毎日の様に西住家の大邸宅や、戦車道関連施設を見て
成長して来た。戦車道関係者や、西住流のお弟子さんを毎日見て来た。運転手になってからは、客として
乗せた事もある。

しかし、去年の10月23日を期に一変した。関係者の大半が逮捕され、売り上げに大きな影響が有った。
周囲の飲食店の中には、閉店してしまった店もある。


事件後しばらくの間は報道関係者や、警察関係の客の利用でそれなりに相殺されていたが、
現在ではかなり減り、時折報道関係者や、暇な野次馬旅行者が利用する程度との事。(一般の客以外で)

運転「裁判が始まれば、また報道関係者の客が増えるの・・・・お、先生来られたかな。先生、お待ち・・・アレッ?」
運転手は、予約した作家の先生を出迎えようとしたが、霧の中から姿を見せたのは栗色の髪の、中学生くらいの
少女だった。

少女は、正門の前で止まる。

少女「何も・・・・残って無い・・・・」
運転「知らないのか?かなり報道されてた筈だけど。西住流は師範や、関係者の大半が逮捕されて、
活動も禁止されて、戦車道用の車両とかは全て警察が持って行ってしまったよ。土地と建物も、県の管理下
に置かれて、数年後には競売に掛けられるらしいよ。」

運転手は、西住姉妹に目の前の少女が似ている気がした。霧のせいで良く見えない。
運転(親戚の子かも知れないな。いや、親戚が一連の事件を知らないという事は無いだろう。
  去年の11月上旬だったか、重体の西住まほの事を調べに来ていた刑事がいたな。

運転(特命係って言ってたな。大学教授みたいなのと、自分と同じくらいの年齢の若い刑事だった。)

運転(目の前の子は、交通事故で入院でもしていたのか?それなら知らない事もあり得る。いや、半年も
入院していた様には、とても見えないなあ。)

運転「もしかして、親の仕事の都合で海外にでも行ってた?中米やアラスカの様な所なら、中々日本のニュースも
聞けない・・・・」


運転(これが所謂レイプ目)

少女は、生気の全く無い目で一瞬だけ運転手を見つめた。そして視線を元西住家に戻し、


少女「私の居場所・・・・・・もう、何処にも無いんだね。」

その呟きが終わるのを待ってたように、再び霧が濃くなる。それは数秒・・・・長くても10秒を
越えていた筈は無い。しかし、栗色の髪を持つ少女は忽然と消えていた。

運転手は、川に落ちたかと思い近寄るが西住家前には、川も用水路も無い事を思い出した。


運転「うわっ・・・・って先生でしたか?」
作家「どうした、ハトがパチンコ玉喰らったような顔だぞ。」

運転「先生、そっちに女の子が走って行きませんでしたか?中学生くらいの子ですが。」
先生「いや、誰も見なかったけどなあ。」
運転「そうですか。じゃとりあえず出しますので乗ってください。」

運転手は簡潔に今あった出来事を話した。
先生「君の推測通り、考古学者か生物学者の娘だと思うね。親の研究を手伝っていたりしていたから、
日本の事件の事も知らなかったのだろうな。」
運転「それで、日本に帰国後事件の事を知り心配になって訪ねて来た。」

先生「何が気になる事が有るのかね?」
運転「さっきの子・・・・霧ではっきり見えませんでしたが、西住みほに似ていた気がします。錯覚でしょうが。」
先生「生死不明になってから、何の手がかりも無いんだからそれはありえないね。」

気が付くといつの間にか、霧がかなり晴れている。
運転(先生の言う通りだとしても、あの言葉の謎が残る。友人や幼馴染なら、あの子の居場所は、もう何処にも無い・・・
になる筈だ。いや、深く考えるのは止めた。聞き間違えかも知れないし、先生の意見が正しい。)


運転「これならおそらく1時には、新幹線運転再開ですね。」
熊本市街地まで来た時には、霧は嘘の様に消えて快晴になった。

タクシーが赤信号で止まる。風が吹き、後部座席左側の窓に何かが付着する。

先生「新聞紙だ。」
運転「今日の新聞ですか?」

先生「何日か前みたいだな。これは・・・大洗女子の事件主犯者の遺体が、アメリカで発見されたニュースだ。」
運転「確か秋山・・・・・ゆかりとかいう名前でしたね。」

小説家が、窓を開けて新聞紙を取ろうとした瞬間、再び風が吹いて新聞紙は飛ばされて行った。

ビー 気が付くと信号は青になっていて、後ろの車からクラクションを鳴らされた。慌てて走り出すタクシー。

小説家は、目で新聞紙を追ったが既に道沿いにある家の屋根を、飛び越して行くのが見えた。それも一瞬の出来事で
直ぐに視界から消えた。


終了です。数日以内に過去ログ化申請します。
投下する5分前はこっちでした。西住家に強制捜査直前の警察車両を、
目撃したタクシー運転手は彼です。

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