執事「執事が強キャラという風潮」 (27)


執事(すごい豪邸だな……)ゴクッ…

執事(今日からこの豪邸で執事として生活するのか……)

執事(しかし、俺だって執事としての訓練はバッチリ積んできた! いわばプロの執事!)

執事(よぉ~し、頑張るぞ!)


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令嬢「待っていましたわ、オーッホッホッホ!」

執事「本日より、あなたの執事を務めさせていただきます」

執事「よろしくお願いします」

執事(なかなかに高飛車そうだ……これは手強そうだな)


令嬢「じゃあさっそく――」





執事(いきなりか!)

執事(おやつの用意か? お出かけか? それともダンスの練習?)


令嬢「このライオンと戦って下さる?」

ライオン「……」ガルル…





執事「は!?」


執事「なぜ!? どうして私がライオンと戦わねばならないのです!?」

令嬢「だって――」





令嬢「執事って強いんでしょ?」


令嬢「執事はみんな強くて、ライオンくらい簡単に倒せるって聞いたわ」

執事「いやいやいや、強くねえよ!?」

令嬢「そうなの?」

執事「そうですとも! だって……強い必要ないじゃないですか!」


執事「執事という言葉の意味を辞書で調べると――」

執事「“事務をとりしきる者”」

執事「“身分の高い人の家や寺社で家政や事務を執行する人”とあります!」

執事「強くなきゃいけない要素、ゼロじゃないですかぁぁぁ!」

執事「ていうかライオン倒せるぐらい強かったら、他の職業ついてますってぇ!」

令嬢「ふうん……」


令嬢「まあいいじゃない。とりあえず戦ってみてくれる?」

執事「えええええ!?」

令嬢「さ、いくのよライオン。人を襲うのは大得意でしょ、アンタ」

ライオン「……」ガルルル…

執事「あ、あああ……」

執事(なんだよこれ……なんなんだよ、この執事が強いって風潮は……)

執事(俺の人生、終わった……!)


ライオン「ふざけんな!」

令嬢「え?」

ライオン「ライオンは人を襲うって風潮やめてくれる!?」

令嬢「襲わないの?」

ライオン「そりゃ襲う奴もいるけど、少なくともオレは襲わない派だ!」

令嬢「そうなんだ」

執事「ちょ、ちょっと待って」

ライオン「なんだ?」

執事「なんでライオンが人間の言葉を話してるんだ?」


ライオン「ほら出た! ライオンは人の言葉を話せないという風潮!」

執事「いやそれ風潮とかじゃなくて、生物学かなんかの領域の気がするんだけど」

ライオン「ライオンキングだってハクナマタタとかいって歌うじゃん!」

執事「いやあれ、動物の言葉を翻訳してるって設定だろ……多分」


ライオン「とにかくオレは戦うのを拒否する!」

執事「わ、私も拒否します!」





令嬢「……」


令嬢「分かりましたわ」

執事「え?」

令嬢「無茶な頼みを申し上げたこと、深くお詫びいたします。勉強不足でしたわ」

執事「ずいぶん素直なんですね、お嬢様……意外でした」

令嬢「お嬢様だからってワガママだっていう風潮、いただけませんわね」

執事「ご、ごめんなさい」


令嬢「ついでに申し上げると、私、あなたに払えるお金もありませんの」

執事「……は?」

令嬢「この豪邸も全部、私一人でダンボールで作りましたのよ、オーッホッホッホ!」

執事「ど、どうして!? アンタ、お嬢様でしょ!?」

令嬢「お嬢様だからってお金持ちという風潮、いただけませんわね」

執事「なんてこった!」


執事「あああ……とんでもないことになった……どうすれば……」

ライオン「まあまあ、そう悲観することもないんじゃないか?」

執事「どうして?」

ライオン「可愛いお嬢様、プロの執事、しゃべるライオン」

ライオン「オレたちが力を合わせりゃ、どうにか食ってけるだろ!」

令嬢「そうですわ!」

執事「……そうですね!」


ライオン「こうなったら三人でサーカスでもやろうぜ!」

ライオン「世間の風潮に合わせるなら、猛獣であるオレが火の輪くぐりをする!」

令嬢「なら、私は美少女調教師の役ね!」

執事「ならば、事務に慣れている俺は司会進行というわけですか」

ライオン「……」

令嬢「……」

執事「……」

三人「それじゃつまらん!!!」


ライオン「さあさ、美少女お嬢様の火の輪くぐりでござ~い」



執事「さぁ、この中をくぐるのです! お嬢様!」

令嬢「分かったわ! それっ!」ピョインッ



オオオオオオ… パチパチパチパチパチ…




この三人だけのサーカス団は大繁盛したということである。

めでたし、めでたし。






おわり

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