ライオン「俺は百獣の王だァ!」ダイヤモンド「私は絶対に砕けない!」 (39)

2018年──

日本某所にて『世界スゴイもの展』というイベントが開かれようとしていた。



どんなイベントかというと、その名の通り

世界中に存在する『スゴイもの』を展示するというもの。



さて、そんな『スゴイ展示品』の中に、

“百獣の王”と名高いライオンと、“世界最硬”を誇るダイヤモンドの姿があった。

ライオン「よう、元気か」ガルル…

ダイヤモンド「うむ、ボチボチといったところだ」キラキラ…

ライオン「いよいよ一週間後だな」

ダイヤモンド「ああ」

ライオン「しっかし俺、“百獣の王”ってキャッチフレーズで紹介されてるけど」

ライオン「動物の中では最強、なんてこと全然ないんだよな」

ライオン「デカイ草食動物には歯が立たないし」

ライオン「キャラ被ってるトラにも、勝てるかどうかは正直かなり怪しい」

ダイヤモンド「……私も似たようなものだ」

ダイヤモンド「“世界最硬”などといわれているが」

ダイヤモンド「それはあくまでひっかきなどに対する強さで」

ダイヤモンド「ハンマーかなにかで叩かれたら、あっさり割れてしまう」

ダイヤモンド「なのに、最強の防御力を誇るような扱いなのだからな」

ライオン「俺らを『スゴイ』って持ち上げてくれるのはありがたいけどさ」

ライオン「イメージ先行しすぎって感じだよな」

ダイヤモンド「まったくだ」

ダイヤモンド「勝手に“動物最強”だの“絶対砕けない”だのいわれる身にも」

ダイヤモンド「なって欲しいものだ」

ライオン「だけど……例の『スゴイもの展』では」

ライオン「俺はオリの中から、人間相手にちょいと吼えてやればいいだけだし」

ライオン「お前だって、飾られてりゃいいだけだろ?」

ダイヤモンド「うむ」

ダイヤモンド「“絶対砕けない宝石”という展示のされ方をするが」

ダイヤモンド「まさか、100カラットを誇る私を叩くわけないだろうし」

ダイヤモンド「せいぜいこの美しいブリリアント・カットを見せつけてやるさ」キラキラ…

ライオン「ウワサをすれば、テレビで『スゴイもの展』の特集をやってるぜ」

ダイヤモンド「お、ホントだ」





~ テレビ ~

『なんとなんと『スゴイもの展』にはこんなイベントが用意されています!』

『“百獣の王”ライオンが最強を証明するために、ゾウ、カバ、トラとバトル!』

『さらに、巨大ダイヤモンドをハンマーで自由に叩けるコーナーも!』





ライオン&ダイヤモンド「──は!?」

ライオン「ちょ、ちょ、ちょ、待て待て待て」

ライオン「ゾウ、カバ、トラとバトルってどういうことよ!?」

ライオン「なんで俺がそんなことしなきゃならんのよ!?」

ライオン「てかだれか止めろよ、こんな糞イベント!」

ライオン「明らかに動物虐待じゃねーか! 動物保護団体はなにやってんだ!」

ダイヤモンド「私もだ……」

ダイヤモンド「自由に叩けるコーナーとあるが、ひと叩きで砕けてしまうぞ!」

ダイヤモンド「100カラットを誇る私を、クズダイヤにしてどうするのだ!」

ダイヤモンド「宝石業界は必死で止めろや、こんな糞企画!」

ライオン「といっても、テレビでこんなに大々的に放映されるってことは」

ライオン「やるんだろうなぁ……」

ダイヤモンド「だろうな。我々が騒いだところで無駄に終わるだろう」

ライオン「…………」

ダイヤモンド「…………」

ライオン「ま、いいじゃん。俺は適当にやられりゃいいだけだし」

ダイヤモンド「そうだな。私もさっさと砕けてしまおう」

ダイヤモンド「砕ければ価値は下がるが、鉱石である私は死ぬことはないからな」

ライオン「客はガッカリするかもしれんが、ま、しゃーねーよ」

ライオン「無理なもんは無理ってやつだ」

すると──



~ テレビ ~

記者『今度のバトル、ライオンに勝ち目はあるかな?』

少年『もっちろん! だってライオンは“百獣の王”だもん! 最強だもん!』



記者『ダイヤモンドは砕けてしまうと思う?』

少女『ううん! ダイヤはね、キレイで頑丈だから絶対砕けないの!』





ライオン&ダイヤモンド「…………」

ライオン「……聞いちまったな」

ダイヤモンド「ああ、聞いてしまった……」

ライオン「あんな純真無垢な子供の期待を、アンタ裏切れるかい?」

ダイヤモンド「いいや、できない相談だな」

ライオン「どうやら俺たちは“百獣の王”“世界最硬”でなきゃならんらしい」

ダイヤモンド「やれやれ……イメージを守るってのもツライものだな」

ライオン「そういうな、人気者の宿命ってやつさ」

ダイヤモンド「残り一週間……精進せねばな」

それから一週間──



ライオン(ゾウ、カバ、トラの動きをよく思い出し、イメージトレーニングだ!)ババッ

ライオン(殺し合いをするわけじゃないし)バッ

ライオン(うまく立ち回れば三連勝することも決して不可能じゃない!)バババッ



ダイヤモンド(残り一週間で、少しでも衝撃に強くならねば……)

ダイヤモンド(もし一撃で私が粉砕するようなことになれば)

ダイヤモンド(子供たちはガッカリしてしまう!)カチーン



二人(?)は子供たちの期待を裏切らぬよう、懸命にトレーニングに励んだ。

『スゴイもの展』当日──



<会場>

ライオン「ついに来たな」ガルル…

ダイヤモンド「ああ」キラキラ…

ライオン「調子はどうだ?」

ダイヤモンド「子供の力でのハンマーくらいには耐えられるよう、仕上げてきた」

ライオン(仕上げられるものなんだ……)

ダイヤモンド「そっちこそどうなんだ?」

ライオン「バッチリよ。ゾウもカバもトラも、なんとかギブアップさせてみせる」

ライオン(急所を甘噛みして、ギブアップを促せば三連勝できるはず!)

ライオン「お互い頑張ろうな」

ダイヤモンド「うむ、幸運を祈る」

ワイワイ…… ガヤガヤ……



司会「ただいまより、“百獣の王”ライオンのバトルショーを開始いたします!」

司会「果たして、ライオンは最強を証明できるのでしょうか!?」

ライオン「ガオオオォォォ~ン!」



ワアァァァァァ……!



ライオン(ったく、ワアァァァじゃねえよ、だれか止めろよ)

ライオン(古代ローマのコロッセウムじゃないのよ? ここ現代よ? 日本よ?)

ライオン(なんでこんな悪趣味なバカ企画が通っちまうんだよ……ありえねえ)

ライオン(だが……もうやるしかねえ! 作戦も練ったし、きっと大丈夫だ!)

司会「なお、今回ライオンはゾウ、カバ、トラを一頭ずつではなく」

司会「三頭同時に相手してもらいます」

ライオン「は!?」

司会「しかも、三頭には興奮剤を投与し、パワーアップさせてあります!」

ライオン「えええええ!?」

ライオン「ちょ、ちょっと待てや! なんのイジメだよこれ!?」

ライオン「あと興奮剤もダメだろ! 倫理的に考えて!」

ライオン「動物をオモチャにするってレベルじゃねーぞ!」

司会「ライオンもやる気満々の模様! やってやるぜ、と高ぶっています!」

ライオン「俺の吼える声を勝手に通訳すんな!」

ライオン「てかマジでやめて! そんなに俺が死ぬところが見たいんすか!?」

司会「続いて、ライオンに挑戦する三頭の入場です!」

ゾウ「パオォォォ~~~~~~~~~ン!!!」

カバ「カーバッバッバッバ!」

トラ「ガルルルルル……! ガォォォォォンッ!」



ライオン「三頭ともメチャクチャたぎってらっしゃる!」

ライオン「これ、こいつらが暴れて客にケガさせたらどうすんだよ!?」

ライオン(三頭同時に来られちゃ、急所甘噛み作戦なんてとてもできねえぞ)

ライオン(てかカバの鳴き声おかしいだろ! カーバッバはないわ~……)

ライオン(はっきりいって、とても勝ち目はねえが……)チラッ



少年「がんばれ~、ライオーン!」



ライオン(あの子供の眼差し! ライオンの勝利をこれっぽっちも疑ってねえ!)

ライオン(たとえ三対一でも百獣の王ライオンが負けるわけない、って思ってやがる!)

ライオン(くっそぉ~、やるしかねえようだな!)ガルル…



司会「ではバトルスタートです!」

ほぼ同時刻──

~ ハンマーで巨大ダイヤを叩いてみようコーナー ~



ガン! ガツッ! ゴンッ! ガッ! ゴッ! ガンッ! ゴッ!

「ホントだ!」 「全然砕けない!」 「すごいや!」



ダイヤモンド「ぐっ……!」

ダイヤモンド(どいつもこいつも遠慮なく叩きおって……100カラットだぞ、私は)

ダイヤモンド(かなり痛いが……もうすぐ『スゴイもの展』終了だ)

ダイヤモンド(どうやら、砕けぬまま耐えることができそうだ!)

すると──

プロレスラー「おいおい、ダイヤモンドをハンマーで叩けるんだってよ」

力士「おお、面白そうな企画でごわすな」

野球選手「ボクの金属バットで挑戦してみたいですね!」



ダイヤモンド「!?」

ダイヤモンド(な、なんだ、このやたらゴツイトリオは!?)

ダイヤモンド(まるでダイヤモンドを砕くために存在するような三人組じゃないか!)

ダイヤモンド(語尾がごわすってのはどうなのとか、金属バット持ち歩くなよとか)

ダイヤモンド(そんなことをいちいち気にしてられないほどの大ピンチだ!)

プロレスラー「よっしゃ、やろうぜ!」

力士「分かったでごわす」

野球選手「金属バットでダイヤモンドを叩き壊してみせますよ!」



少女「無理に決まってるわ! ダイヤモンドは絶対砕けないんだから!」



ダイヤモンド(あの女の子、私のことを信じている!)

ダイヤモンド(私は絶対に砕けない最硬の宝石だと信じている……!)

ダイヤモンド(どこまで耐えられるか分からんが、やるしかない!)

ゾウ「パオォォォ~~~~~ン!!!」ブオンッ

ズガァッ!

ライオン「ぐぎゃっ!」

カバ「カーバッバッバ!」ズシン

ドゴォッ!

ライオン「うごふっ!」

トラ「ガオオオオオンッ!」ヒュバッ

ザシッ!

ライオン「あぐぁっ!」



司会「ライオン滅多打ちィ! ライオンは“百獣の王”ではなかったのか!?」

少年「そんなぁ……」

プロレスラー「オラァッ!」ブンッ

ドゴォンッ!

力士「いくでごわす!」ブオンッ

ガゴォンッ!

野球選手「ホームランさ!」ブルンッ

カキィンッ!

ダイヤモンド「ぐっ……!」ピシッ…



「ヒビが入った!」 「やっぱりダイヤは衝撃には弱いんだ!」 「なぁ~んだ」

少女「ウソよ……!」

ライオン「負けられるかよ……」ヨロッ…

ライオン「俺はな……“百獣の王”なんだよ」

ライオン「相手がゾウだろうがカバだろうがトラだろうが」

ライオン「負けちゃいけねえ……勝たなきゃならねぇんだ!」

ライオン「俺は……“百獣の王”なんだァァァァァ!!!!!」



ダイヤモンド「うおおおおおっ!」シュゥゥゥ…

ダイヤモンド「掟破りの自己再生で、ヒビを修復!」シュゥゥゥ…

ダイヤモンド「私は硬度10……“世界最硬の鉱石”なのだ!」

ダイヤモンド「実は衝撃に脆い? そんなのは嘘っぱちだ! 都市伝説だ!」

ダイヤモンド「私は……“絶対に砕けん”のだァァァァァ!!!」

……

…………

………………



ダイヤモンド「……生きてるか?」

ライオン「ああ、なんとかな……」ボロッ…

ライオン「そっちこそ、砕けずにいられたか?」

ダイヤモンド「かろうじて、な……。あと一発叩かれたら、はじけ飛んでいただろう」

ライオン「俺もさ……もう少しでやられるところだった」

ライオン「死に物狂いで吼えかかったら、あの三頭、ビビって逃げちまったよ」

ライオン「“百獣の王”といっても異名ほど強くない、なんて卑屈になってたけど」

ライオン「案外やればできるもんなんだな」ニヤッ

ダイヤモンド「そうだな」

ダイヤモンド「子供たちの夢を壊さずに済んで、よかった……」キラキラ…





2018年現在、ライオンは未だに“百獣の王”であり、

ダイヤモンドは“頑丈さを示す象徴”であり続けている──







~ おわり ~

死闘をしたら死ぬブチハイエナにやられる

ライオン「やっぱサイは強かったぜ(次なら負けるな向こうからはかかってこないが)」
ブチハイエナ「ワンワン!」
ライオン「チッ苦労して狩ったサイも諦めるのかよ!」
ブチハイエナ達「ワンワン!ワンワン!」
ライオン「ここまでか…仲間がいれば…オレは裸の王様かよ…」

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