【ミリマス】桃子「走れ!走れ!走れ!」 (23)

「桃子の出番はこれでおしまい。 お兄ちゃん、桃子にお疲れ様のジュースは? 持ってきたらちょっとそこにいて。 別に、疲れただけ……」

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そう言うと桃子は宇宙戦艦のオペレーターからアイドルに戻るためにメイク室のほうに向かって行った。
普段なら、「どう、お兄ちゃん? 桃子ならこのくらい簡単にこなしちゃうんだから! ちゃーんとジュース用意してて待っててね!」くらいは言いそうなもんだが、今日はどことなく元気がない。
朝からそんな感じだったが、その時は寝起きの低血圧のせいかと思っていたが……。

ガコン、と音を立ててペットボトルが落ちてくる。お疲れ様のジュースは、今日はぶどうのジュースだ。
桃子は果実系のジュースを好んで飲む。最初の時に「子供だからコーラ好きだろう」と考えて買ったら「口の中がシュパシュパするじゃない!」と怒られたのは良い思い出だ。
「なんかミスしてたけっかなぁ」
そこにいて、と言われたと楽屋に向かいながらそう呟く。

見ていた限り桃子がとちった場面はない。セリフが出てこない、セリフを間違うなんてことは当然ないし、自分の目から見れば、見事にオペレーターの役を演じきったと思う。監督からのリテイクを一度も貰ってない。
そもそも自分の演技に納得いかないところがあったなら、「すいません。もう1回やり直させてください」と言ったりするので、ミスということは無いだろう。

「うーむ、分からん」
普段ならなんとなく理由に検討がついたのだが、今回に限っては全くつかない。こういう時はヘタに分かった顔せずに、ちゃんと桃子に聞いたほうが良いのだ。
そう決め、自分の分のおしるこを買い、楽屋のほうに戻った。

楽屋の扉を開けると、畳の上に桃子がちょこんと座っていた。今日の楽屋は和室だった。
「よっ。戻ってたのか」
「お兄ちゃん、遅すぎ。どこまで買いに行ってたのさ」
不機嫌とはまた違う、拗ねてる時のような声で桃子がそう言ってくる。
「ちょっと考え事しててな。今日はぶどうだぞ」
「ありがと。ねぇ、お兄ちゃん」
そう言って桃子はいつものを求めてくる。
「はいはい」
そう言って俺は畳の上に腰を降ろした。

「んっ。ちょっと重くなったんじゃないか、桃子」

「なんでお兄ちゃんってば、そんなにデリカシーが無いかなぁ」

「ばっか、褒めてるんだよ。ただでさえお前軽いんだからさ、ちゃんと食べてしっかり大きくなるの。成長期なんだし」

「それとこれは別なの。お兄ちゃんはほんとに女心が分かってないなぁ」

「悪かったでございますねー」

そんな会話を膝の上に座る桃子と繰り広げる。俺が座椅子となって桃子が座り、桃子と俺は打ち合わせだったり、相談だったり、雑談だったりをする。普段はなかなか素直じゃない桃子だったが、この時の桃子は幾分か素直である。いくら小学生と言えども昨今の社会情勢も相まって誤解されかねないので、事務所でしかやったことがなかったのだが……。
(そんだけ何か悩んでるってことかな)
頭を撫でながら、そんなことを考える。くすぐったそうに目を細めて撫でられている桃子の姿が愛らしかった。

「何かあったのか?」

「どうしてそんなこと聞くの」

「お前がいつもの調子と違うからさ」

「そうなの?」

「そうなの」

「よく気がつくね、お兄ちゃんってば」

「お前のプロデューサーだからな」

そう言うと桃子をギュッと抱きしめた。悩みや不安を口から出させるように、少し強めに。

「桃子さ、なんか変なの」

そう言って桃子は体制を変え、ゆっくり話し出した。

「今回のお芝居さ、エミリーが主役じゃない」

「そうだな」

「エミリーがさ、あんなに上手だなんて思わなかった。 桃子さ、桃子が一番劇場のみんなで上手いんだって、そう思ってた」

「うん」

「なんで!桃子のほうが長くやってきたのに、……なんでエミリーのほうが上手いのさ!」

最後のほうはほとんど涙声だった。
泣いてる顔を見せたくなかったのか、俺の胸に顔を伏せている。グスッ、……グスッと声がし、小さな身体が小刻みに震えていた。

「悔しくて、恥ずかしいの。……エミリーのこと、このままじゃ嫌いになっちゃいそうで。大好きな友達なのに……」

答えは簡単だった。なんてことないことだった。
「嫉妬」である。
これが豊川さんや百瀬さんみたいな桃子がまだ持ち得ない大人の魅力が必要な役だったらこうはならないだろう。まだ身長が足りない、セクシーさが足りないと自分に言える。
しかしそうじゃないのだ。

子役という少ないパイの中で、桃子は幾度となく役を勝ち取ってきた。しかし、今回初めて敗れた。僅差でなく圧倒的な差で。
憧れからくる嫉妬ではない。自分の居場所を取ったものに対する悔しさからくる嫉妬。
それを飲み込む術も、投げ飛ばす術も桃子は知らない。初めての経験だろうから。

おそらく桃子がプリンセスの役でも撮影はつつがなく進んだことだろう。しかしたぶんスチュアートさんのよりも一つ、二つと落ちるものになる。桃子自身それが分かっている。だから余計自分を恥じてるし、悔しいのだろう。
一日どころか百日の長が自分にはあるというのに。そんな風に考えて。

「ままならないもんさ。 こういうのは、特に」

そう言って桃子の背中をぽんぽんと叩く。

「……お兄ちゃんもこういうこと、あったの?」

顔を上げずに桃子がそう聞く。

「ああ。学生の時ラグビーしててな。中学校じゃ俺よりデカイやつも速いやつもいなかったんだ。だからずっとレギュラーだったんだ」

「うん」

「でも高校入ったら、俺よりデカくて俺より速いやつがゴロゴロいて、あえなくレギュラー落ち」

「辛かった?」

「まあな」

「お兄ちゃんはさ。その時どうしたの?」

「泣いて泣いて腹いっぱい飯食べて、熱いシャワー浴びて、ぐっすり眠って……そして練習した」

「そっか」

「ああ」

桃子は、先ほどと同じように俺の胸に顔を伏せた。

「お兄ちゃん」

「何だ」

「この後ご飯食べに行こ、美奈子さんのとこ」

「あぁ、いいさ」

「その後さ、事務所に帰って、お兄ちゃんが焼いたホットケーキ食べたい」

「たくさん食べるんだな」

「軽すぎ、なんでしょ? だったらたくさん食べないと」

「そうだったな」

「明日から演技のレッスン、増やしてね」

そう言って桃子は泣いた。先ほどみたいに押し殺した泣き声じゃなくて、声をあげて、ワンワンと。

どんな一流の人でも、最初からそうだったわけじゃない。何度も何度も打ちのめされて、その度に立ち上がって、目の前にある壁を乗り越えてきたのだ。

納得できないかもしれない、悔しいかもしれない。でもそれを飲みこんで、次に同じ悔しさを味合わないように努力するのだ。

前へ、前へ、とにかく前へ。うずくまっていたって何も始まらないのだ。

初めて感じた壁を今、桃子は自分なりに考えて乗り越えようとしている。なら俺は、それを一緒に考えて桃子のことを押し上げる、それだけだ。

「うっぷ、食べ過ぎちゃった……」

「さすがに佐竹さんのフルコースはな~。 俺もキツイもん。ホットケーキ、どうする?」

「明日の朝ごはんで」

「うい」

「ねぇ、……お兄ちゃん」

「うん?」

「……期待、しててね?」

「もちろん」



終わり

本当はイベント中に上げたかったのですが、あれよあれよと今日になってしまいました。

お読みいただきありがとうございました。

おつおつ
どうしてこう、先輩はかわいいなぁ


いっぱい食べたら運動しなきゃな。2人であのお城みたいな建物に(ry

>>1は先輩ベストチョイス4のセリフだっけ?
深くとらえてなかったけど、ここらへんの葛藤があったかもしれないのか...........
乙でした

>>2
周防桃子(11) Vi
http://i.imgur.com/s0804VA.jpg
http://i.imgur.com/SofEGaw.jpg

???「そんなことしたらカロリーが逃げちゃいますからプロデューサーさんはうちでゆっくりしてってくだいね」ワッホーイ

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