南条光「光と影」 (16)


前回
南条光「黒い光」




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……
-公園


男児1「なぁ、昨日のテレビ見た?」

男児2「あ! 光ねーちゃんだろ。すごかったよね!」

男児1「……あんなかっこよかったんだな」

男児2「うん……でも、オレらはあんなにかっこいい光ねーちゃんの泣き顔を見たことあるんだ」

男児1「おぉ……! なんか……いいな」


女児「……よくないよ」

男児1「? なんでだよ」

女児「最近、光おねーさん全然公園に来ないし、一緒に遊んでない」

男児2「仕事がいそがしーんでしょ。前と違って、いっぱいテレビ出てるし」

女児「それもだけど……やっぱり、イメージもあるんじゃないかな」

男児1「イメージ?」

女児「あんなにクールでかっこいいアイドルが……公園でヒーローごっこなんて、できる?」

男児1「……」

男児2「そんなこと言ったって、誰だって、いつかはヒーローごっこなんてやめるじゃん。光ねーちゃんはそれがちょっと遅かっただけじゃないの?」

男児1「そうだよな……オレらの周りだって、ヒーローものなんてとっくに卒業してるし」

女児「……そうなのかな。これで、いいのかな…………」




……


光「とぉおーーーーーっ!!」

黒井「ぐわぁああ! や、ら、れ、たー」

光「正義は、必ず勝つ!!」

黒井「ク……ククク…………バカめ。たとえ、私が滅ぼうと……必ず第二第三のビールが……」

光「!? なんだって!」

黒井「ぐをぉおおおおおおっ……どがーん!!」

光「……なにが来たって、私は負けない。酒は飲んでも飲まれるな! お酒は、二十歳になってからだ!」

黒井「~ビール怪人の恐怖、逆襲の二日酔い・完っ~」


光「ふぅー楽しかった。ありがと! 黒井社長!」

黒井「ノンノン。私も楽しんでいたからね。礼にはおよばないよ」

光「でも、ビール怪人ってあははっ変なの! 黒井社長もビールとか飲むの?」

黒井「若い頃はな。今は高級なワインや日本酒などが主で、ビールはあまり飲まん」

光「へぇ~やっぱりお酒って、ストレス発散になる? ……アタシも、お酒が飲める頃には、ヒーローごっこなんてしなくなるのかな」

黒井「それを言ったら、この年齢でしてる私はどうなるんだ」

光「あははっ、そっか。じゃあ、別にずっとヒーローごっこしててもいーのかな」

黒井「ウィ、構わんよ。誰に咎める権利もない。……さぁ、そろそろ収録の時間だ。行こう」

光「……うんっ!」





「何のために戦う!? 自由か? 平和か? 正義か!」

ヒカル「その全てだっ!!」

「そんなことは不可能だ。自由を望めば平和を乱すこともある、平和のために正義と正義が争う、……今も、君の正義が、僕の自由を侵す!!」

ヒカル「っ……!」

「アイドルが人々のために輝き、人々はそれを喜び受け取める……そんなものは幻想だよ、ヒカル」

ヒカル「そんなことっ」

「散々待ち望まれていても、少しでもイメージと違えば叩かれる。アイドルを信じたいファンは、君の相棒や仲間をも叩く! 自分の価値観、自分の理想を押し付けるためにね!」

ヒカル「そうじゃない……それは、好きだからこそっ」

「好きならなにをしてもいいのかい? なら…………僕は君を壊す! 君が……好きだからだ!!」

ヒカル「アスッ……!?」


ドガァアアアアアアン……!!






……


光「はぁー……」

黒井「お疲れ様、光ちゃん。……これで過去編の収録は終わりだ。次の放送までに間があるが、収録は明日からも継続して行うそうだ。……光ちゃん?」

光「これでいいのかな……」

黒井「素晴らしい演技だったと思うが? 理想と現実に揺れるヒーローの苦悩がよく出ていた。スタッフからの評判もいい。視聴者も喜んでいる」

光「うん、学校でも、すごかったよーとか、かっこよかったーとか、言われる。でも、アタシは……本当は、そんなかっこよくなんて」

黒井「光ちゃんは充分にかっこいい。私が保証しよう」

光「普段のアタシは、そんなんじゃ……なんか、うそ、ついてるみたいで」

黒井「……なら、君は、潔癖症で情けないガソリンスタンドの店員が、ヒーローに変身して大活躍したら、かっこわるい、うそつきだ、と思うかね?」

光「そんなことはっ…………あ……」

黒井「ヒーローとは、素顔を隠して戦うもの。……アイドルも、素の自分と同じである必要などない。仮面をかぶり、完璧に作り込まれた役割を演じるのだ。それは決して自分を偽ることではない。むしろ真の自己表現とは、そういうものだ」

光「ほんとの……表現…………」




……

麗奈「はぁっ、はぁ」

P「麗奈……まだレッスンを続けるつもりか? もう休め、そんな星飛雄馬みたいな恰好して」

麗奈「レッスンの効果を倍増させる……晶葉製トップアイドル養成ギプスよ。このあとは……輝子と、ボイスレッスン。その次はっ」

P「……予定では、飛鳥とビジュアルレッスンだ。しかしこんなハードなトレーニング、無茶だぞ」

麗奈「うっさい! アタシはまだっ」

P「……次のランクアップオーディションに向けて、か」

麗奈「……次こそ、勝つわ」

P「前回は、こっちも合格したとはいえ、一位通過は向こうだったからな……麗奈は光の手を、もう一度掴もうと頑張ってるんだな」

麗奈「っ…………なによ。アイツの手を離したのは、アンタじゃない!」

P「そうだな……すまん」

麗奈「謝らないで。……それがアンタの選んだやり方だって言うんでしょ。なら」

麗奈「アタシはアタシなりにやらせてもらうわ。悪いと思うなら、それに強力しなさい」

P「……あぁ」

麗奈「961プロの、どんな手を使ってでも勝つやり方……そんなの、アイツが本当に望んでるわけない。騙されてるのよ。だから…………目を覚まさせてやる」


麗奈「どんな手を使ってでも、……ね」






「ど、どうしてだ……もう、も、戻ってこないのか……? 親友……」

ナンジョルノ「……もう、お前と親友などではない」

「わ、私たちを……見捨てるのか……?」

ナンジョルノ「私は私のやり方で、アイドルを救う。それだけだ」

「ひ、ヒカル……正義のためなら……私たちと、た、戦うって言うのか!?」

ナンジョルノ「私はもうヒカルなどではない! 私は…………」





……


冬馬「お、南条じゃねぇか。どうした、お前も仕事か?」

光「あ、戦国凌馬!」

冬馬「天ヶ瀬冬馬だ。それ、わざとだろ」

光「みんなやってるから、アタシも間違えた方がいいのかなって」

冬馬「そんな空気の読み方すんな。で、一人か。おっさんは?」

光「なんか、偉い人との用事があるんだって。迎えには来るって言ってた」

冬馬「そうか…………順調か?」

光「うんっ!」

冬馬「……なら、良かった」

光「えへへっ、ありがと」

冬馬「な、なにがだよ」

光「心配してくれたんでしょ? でも大丈夫だよ、アタシは」

冬馬「……そうか。強いんだな、お前は」

光「あ、でもせっかくだから……演技の相談に乗ってくれる?」

冬馬「お、いいぜ。なんでも聞けよ」

光「ここなんだけど……」

冬馬「どれどれ……」




冬馬「……じゃあ、もしお前だったらどうする? どちらか一方しか助けられないとしたら」

光「両方助ける!!」

冬馬「そうだな。そう言ってのけるのがヒーローだ。……けど、そう言って、結局助けられなかったら?」

光「それは…………ヒーロー失格だ」

冬馬「……俺は、そうは思わねぇ」

光「……なんで?」

冬馬「必死に頑張って、何かを成そうとしたやつを……例え得た結果が間違っていたとしても、俺はそれを責めたくない」

光「……」

冬馬「誰だって、何もかもを手に入れられるわけじゃない。どっちか、片方選ばなくちゃならないときもある。だから、お前の演じるそのダークヒーローも」


北斗「おーい冬馬、いつまで……おや?」

光「あ、おはよう! 北斗さん」

北斗「チャオ☆ ……冬馬、こんなとこで光ちゃんを口説いてたのか」

冬馬「な、ばっ、そんなんじゃねーっつの! じゃ、じゃあ俺はもう行くぜ。じゃあな」

北斗「ははは、相変わらずウブだな。じゃまたね」

光「はい! また! ……あ! ありがとね冬馬さーん!」


冬馬「お、おう……」

北斗「お前も隅に置けないな。あんないたいけな子を」

冬馬「だーから違うっつってんだろこの……!」




……


黒井「いよいよ、トップまであと一歩だな。なに心配はいらない。光ちゃんなら、今回のオーディションも絶対に勝てるよ」

光「そう、かな」

黒井「……ヒーローは必ず勝つ。そうだろう?」

光「……うん! アタシがかっこよく勝つとこ、しっかり見ててよね、黒井社長! それじゃ、行ってくる!」

タッタッタ……


黒井「……フン。単純な、お子ちゃまめ」

高木「黒井……」

黒井「なんの用だ。今回のオーディションにお前の事務所のアイドルは出ていないだろう。余計な首を突っ込まないでもらおうか」

高木「……また、汚いやり方で、少女を自分の道具のように利用しているのか」

黒井「だったら、なんだ」

高木「もうやめろ黒井! お前のやり方は」

黒井「うるさいっ!! 黙れ!!!」

高木「……黒井、」

黒井「お前は汚れていないとでも言うのか? この業界で生きていれば、嫌でも汚くなっていくだろう!」

黒井「ならば徹底的にこの業界の汚さを利用し、汚水をすすってアイドルを輝かせるべきだろう!! アイドルとは絶対的な憧れの存在……王者であり、ヒーローなのだよ!」

高木「そのためなら、なにをしてもいいとでも?」

黒井「その通りだ。方法にこだわって、輝ける者を眠らせておくことこそが、罪だ!」

黒井「見ているがいい高木……私の作りだした、本物のヒーローを……!」





光「れ、レイナ……!? その姿はっ」

麗奈「……そう、アンタがダークヒーローになるなら、アタシが…………」


麗奈「悪の味方(ヒーロー)よ!!」バッ

光「アタシが使ってた……ヒーロー衣装っ」

麗奈「今度こそ思い知らせてあげるわ。さぁ……始めるわよ!!」


光(っ! レイナのダンス、すごいキレだ……! 以前とは、比べものにならないっ)

麗奈(驚くのはまだ早いわよっ)


麗奈「~♪」

光(!! 声量……伸び……表現…………この数週間で、どれだけの特訓を……!)


光「けど……こっちだって、ずっと鍛えてきたんだ!!」

光「負けるかぁあああ!!」







……


「オーディション一位は…………」

麗奈「……」

光(……全てを、出しきった。……もう、アタシもレイナも、……残している力はない…………あとは、結果が全て)



「…………三番の方です!」

麗奈「!」

光「っ!!」

「おめでとうございます」



麗奈「っしゃあ!!!」

光「………………そ、んな」





麗奈「アタシの勝ちみたいね。……光」

光「う、うそだ……こんな……」ガクッ

麗奈「自分の力を過信して、独りで戦っても……それが限界ってことよ。アタシは、飛鳥や、輝子、晶葉、アイドルみんなや、プロデューサー、ちひろさん……たくさんの人と助けあってここまで来た。アンタに勝つためにっ」

光「アタシは……間違っていたのか? アタシが強くなれば、みんな、認めてくれるって……子供たちも、親も…………プロデューサーも」

麗奈「例え力が強くても、独りきりじゃ戦えない。どんなに理想を願っても、独りきりじゃ届かないのよ!」



タッタッタ……

黒井「はぁ、はぁ」

光「……黒井、社長……アタシ」

黒井「立て!!!」

光「!?」

黒井「立て、南条光。……お前はヒーローだろう。ヒーローは、必ず勝つものだ!」

光「…………アタシは、負けた。……ヒーロー失格だ」

黒井「勝つまで! 何度でも立ち上がるのがヒーローだろう!!」

光「黒井社長っ……」




麗奈「もう勝負はついたのよ! アンタのやり方は失敗した!!」

黒井「貴様のような小娘になにが分かるっ! 私は私の理想こそが絶対だと証明するためにっ」

麗奈「そうやって、光を自分の理想のためのオモチャにして! つまらないプライドのために他人を利用するんじゃないわよ!!」

黒井「っ…………」

麗奈「……ほら、帰ろ。光」スッ

光「えっ……」

麗奈「みんなと一緒に、こっちでやり直しなさいよ。……みんな、待ってるんだから」

光「でも……アタシ…………黒井社長っ」


黒井「………………フン。どこへなりと消えるがいい」

光「え……?」

黒井「こんなところで敗北し、この程度の小娘の言葉に惑わされるようでは、使い物にならん! お前はもう用済みだ」

光「そんなっ」

黒井「どうせ使い捨てるつもりだったからなぁ。所属も、正確には移籍したわけではない。貸出という形になっていただけだ。私が契約を切れば、元通りというわけだ。フン……時間と金を無駄にした」

黒井「お前たちはそうやって、せいぜい仲良しごっこでもしているがいい。私はまた王者の育成を続けるだけだ。私の信じる、理想の王者(ヒーロー)のな。……アデュー」


光「…………黒井、社長」





……


黒井「…………」

冬馬「……よかったのかよ」

黒井「お前の言っていた通り、あの子はウチのやり方に合わなかった。それだけのことだ」

冬馬「ったく……ま、あんなのに頼らなくたって、俺たちがトップ、取ってやるぜ」

黒井「頼もしいことだ。期待しておこう」



タッタッタッタ……

光「はっ、は……」

黒井「!」

冬馬「お前……」

光「今までっ……お世話になりました!!!」

黒井「……」

光「961プロで教えてもらったこと……黒井社長の理想も……想いも! 絶対忘れないから!! だからっ」

黒井「ハン! ……勝手にしろ」

光「本当に…………ありがとうございました!!!!」


黒井「車を出せ」

冬馬「……じゃあな、光。元気でな」

ブロロロロロロ……


光「冬馬!! 黒井社長!!!」


光「アタシ! 絶対トップアイドルになるからっ……!! そのときはっ……」









完。



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