ウルトラマンX -Episode EX- 【その名は“邪悪”】 (61)


ウルトラマンXを題材にした短編です。

一応、これ↓の続きですが、たぶん読まなくても大丈夫です。

ウルトラマンX -Episode EX-
ウルトラマンX -Episode EX- - SSまとめ速報
(https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1439996394/)


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1450968508


 この広大無辺な宇宙には、我々の想像も及ばないような生命体がいます。
 地球人から“ユニジン”と呼ばれる生物もまた、その一種だと言えるでしょう。

 ユニジンは時間の中で生きる生物です。
 現在、過去、そして未来……無限に広がっていく雄大な時間の中をユニジンは駆け回ります。

 時間を遡行したかと思えば再び昇り、未来の果てでユニジンは再び踵を返す……。
 もしかしたらユニジンは宇宙の根源も、その最果てであっても、全てを見通しているのかもしれません。

 その性質上、ユニジンは滅多に人前に姿を現しません。
 実はそれにはかなり深刻な理由があったりするのですが……。

 ……それはともかく。

 そんなユニジンを視認できる時が、僅か一瞬だけですが存在します。
 それは十二年に一度の、十二月二十四日の夜。ユニジンはその日のほんの数秒だけ、「現在」の時を通過するのです。

 しかし、ほとんどの人間はそのことを知りません。
 予期する者もいましたが、過去のデータが全くない以上、周囲からは荒唐無稽な話だと一蹴されるのが人間世界での常でした。

 ……ですが、そのことを本能で感じ取っているものがありました。

 これまで数々の星を破壊し、多くの文明を滅ぼし、数多の命を奪ってきた“それ”。
 その凶悪な生命の頭脳はユニジンの到来を確実に捉えていました。

 “それ”は考えます。ユニジンの肉を喰らい、自らの体に取り込めば、もっともっと強くなれるのではないかと。
 そうすれば悪逆非道も生殺与奪も全ては意のまま。全時空の全生命をこの手で奪ってやろう……“それ”はその本能のままに、目標を定めました。

                                                ルガノーガー
 宇宙広しといえど中々お目に掛かれない程の暴虐の化身。――その名は、“邪悪”。


―――十二月二十四日、エリアT8J

 十二月二十四日――クリスマスイブ、夜のネオン街。

 街路樹、オブジェ、ショッピングモール……至るものが青色LEDのイルミネーションに飾り付けられ、街全体が幻想的な景観と化している。
 本来なら、それらに目を向けながら歩く笑顔のカップルたちが大勢見られたことだろう。しかし――

 今、この街に渦巻いているのは全く異質の狂騒だった。
 イルミネーションに目を止める暇など全くないように、彼らは一心不乱に走り続ける。

 響く悲鳴。揺れる大地。轟く地響き。崩れる建物。
 彼らは恋人の手を繋ぎ、また、薄情な者はひとりだけで、ただ逃げ惑うのみ。

 その時、星もまばらな夜空を、凶悪な雄叫びが引き裂いた。
 聞こえようによっては獰猛な水牛の鳴き声にも聞こえるその声。

「ガルルルルルォォォン!!!」

 声の主が咆哮するたびに轟音が響く。
 空を裂く蒼白い熱線は街の建物を一瞬にして破壊する。
 クリスマスツリーは薙ぎ倒され、イルミネーションは引きちぎられ、街から光が失われていく。

ワタル「こいつは……!」

 現場に到着したスカイマスケッティのコックピットからワタルは“それ”の姿を確認した。


タケル『今年の七月十三日、エリアT84に出現した“ルガノーガー”です!』

 イブのネオン街を蹂躙する巨大怪獣。
 竜のような頭部には鳩の血色の眼が鋭く光り、頭部を模した両腕の双眸も毒々しい赤を放っている。
 胸には装甲のような皮膚に覆われており、その様は生物と言うよりも兵器と言った方がそれらしい。

ワタル「あの時、取り逃がした奴か……!」

 その怪獣の名は、“凶獣”ルガノーガー。
 Xioはこの夏、これと交戦し、仕留めきれなかった過去を持っていた。

ワタル「……ったく、よりにもよってこんな日を選んで再訪問とは迷惑な野郎だぜ」

 そう呟いて、ワタルはちらっと眼下のネオン街を一瞥する。

ワタル(菜々子……)

 頭に浮かんでくる幼馴染みの笑顔。と、それに被さるようにして……。

ワタル「……攻撃、開始!」

 雑念を振り払うようにしてワタルはハンドルを握りしめた。


 一方、地上では。

ハヤト「菜々子ちゃんは先に逃げて!」

菜々子「ハヤトさんは!?」

ハヤト「俺はあいつを食い止める!」

菜々子「そんな! 危険です!」

ハヤト「俺はXioの隊員だ。こういう時は市民の前に立って戦わなきゃいけないんだ。わかってくれ」

菜々子「……わかりました。気を付けて」

 ハヤトは頷いて、菜々子を見送ってから怪獣の方を振り向いた。
 ショルダーバッグからジオブラスターを取り出し、コートの裾をはためかせながら駆け出す。

ハヤト(ったく、なんだってこんな日に……)

 今日、十二月二十四日。ハヤトは恋人の菜々子と一緒にクリスマスを楽しんでいた。
 それなのに、よりにもよってクリスマスに、しかもデートの場所に怪獣が出現してしまったのだった。


ルガノーガー「グォォォオオン!!」

 破壊を続けるルガノーガーの側面に回り込み、頭部に向けてジオブラスターを発射する。

ルガノーガー「グルルルル……」

 大して効いてなさそうだったが、気を引くことくらいはできたようだ。
 オフだったのでウルトライザーまでは持ってきていなかった。内心で自分をなじりつつ、避難方向とは逆に向かって走り出す。

ハヤト「こっちだ! ついて来い!」

 少し走って振り向き、銃を構える。しかし同時にハヤトの表情は怪訝なものに変わった。
 ルガノーガーがついて来ていない。どころか、先程の場所に留まって立ち尽くしているのだ。

ハヤト「……?」

 飛来したマスケッティがミサイルを発射するが、肩の突起から放たれた赤い電撃に粉砕される。
 怪獣は蠅を振り払うように光線を空に撃ったりするが、それ以上の行動は起こさなかった。

ハヤト「何してんだ? あいつ……」

 しばらくそんな状態が続いていたが、突然、ルガノーガーは弾かれたようにこちらを振り返った。


ハヤト「!」

 思わず身構えるが、しかしその目はハヤトや街には向けられていなかった。
 その時、ハヤトの背後から光が射し込んできた。イルミネーションとは全く趣が異なる、太陽のような明るい光。

ハヤト「何だ……?」

 振り向くと、宙にその光が浮かんでいた。
 よく見て取れないが、その中にまた別の存在があるように見える。
 あれがこの光を放っているのか。そして、ルガノーガーはこれを見ていたのか――

ルガノーガー「グォォォオオン!!!」

 その時、ルガノーガーが雄叫びを上げた。
 その口から熱線が放たれ、浮遊する謎の光を襲った。

ハヤト「なっ……」

 糸を切られた操り人形のように、その光が地上向けて真っ逆さまに落下する。
 ルガノーガーは勝ち誇ったような叫び声を上げながら進行を再開した。光が落下した方――ハヤトのいる方へ。


ハヤト「……っ!」

 あまりの急展開に頭がついていかなかったが、ハヤトは反射的に光の方へ向かった。
 ルガノーガーがじっとしていたのはこいつを待っていたからだったのか。しかし、ならばこの光はいったい何なのだろう?

 そんなことを考えながら前方の謎の光を見ていると、目が慣れて、何となく輪郭がつかめてきた。
 鳥のような体つきをしているが、翼の形はまるで蝶のようで、そして全身は真っ白。ところどころに青い文様が入り、両目は橙色に光っている。

ハヤト(怪獣……?)

 その体の巨大さも合わせると「怪獣」と呼ぶに相応しいと思えた。
 そして、理由は不明だが、ルガノーガーが何らかの意図をもってこの怪獣を攻撃したことも理解できた。

ハヤト「隊長! こちらハヤト!」

 デバイスを取り出し、本部に連絡する。

ハヤト「新たに現れた怪獣はルガノーガーに狙われているようです!」

 しかし――


ハヤト「……? 隊長? こちらハヤト! 応答願います! 隊長!」

 デバイスから返ってくるのはノイズの雑音だけだった。
 電波障害が起きているのか――そう気付いたのと周囲の異変を察したのは同時だった。

 白光の怪獣は道路の真ん中に倒れていた。しかし、その周辺の道が「消えて」いる。
 咄嗟に陥没したのかと思ったが、そのような音や気配は一切なかった。それなのに――

 更にハヤトは驚くべき事態を目の当たりにした。
 道路が、徐々に消えていっているのだ。道路だけではない。ビルも店も、まるで蜃気楼であったかのようにすうっと消えていく。

ハヤト「何が起きて――」

 消える範囲は加速度的に広がっていく。危機を感じた時にはもう手遅れだった。
 気付けば、自分の指先が消え始め……。

ハヤト「――うわあああああああっ!!!」

 信じられない現実が脳の許容量を超える。ハヤトの意識はふっと消え、そして――






















 ……気付くと、全身に違和感があった。

 ごつごつして、硬くて、そしてとても熱い……そんなものの上にうつ伏せになっている。
 朦朧とした頭の中を色んな映像が過ぎていく。今日は十二月二十四日……菜々子ちゃんとの約束があって……。

 ……ルガノーガー。
 ……あの謎の光の怪獣。
 ……消失する街。

 その映像が脳裏に過ぎた瞬間、ハヤトはがばっと起き上がった。
 そして、自分の目を疑った。身体の節々が痛む。だがそんなことはどうでもいい。これはいったい……。

 目の前に広がっていた世界は、真昼間だったのである。
 何度も瞬きをして、やっと思い至ることがあった。

ハヤト(もしかして、もう全部終わった……?)

 ルガノーガーはXioが倒すか撤退させるかして、あの光の怪獣もどこかへ去って。
 とすると、消失した街は……?

 背後を振り向く。当然ながらそこにいたはずの怪獣の姿は消えていた。しかし……。


ハヤト(……まさか、夢だったのか……?)

 そこには普通の街並みが続いていたのだった。
 通行人もいる。ハヤトに向けて怪訝な眼差しを向けながら通り過ぎていく。
 ……いや、「普通」ではない。何かが違う。決定的な違和感がある……。

「あれ?」

 女性の素っ頓狂な声が聞こえてきて、ハヤトはそちらに顔を向けた。

「この店、こんなだっけ……」

「改装でもしたのかな?」

「でもこんな改装、趣味悪くない?」

「うん……」

 確かに、ハヤトの目から見てもそれは妙な外観をしていた。
 看板にはどこの国のものかもわからない文字が並んでおり、色の配置もかなりちぐはぐだ。


 意識して見渡してみると、街全体がそんな感じなのだった。
 新しい壁と古い壁が雑じりあった建物。和洋が混在している建物。妙なところから突起が突き出ている建物。

 あまりにも「普通」ではない。
 決め手となったのは、街を行く人々の恰好だった。

ハヤト「…………」

 ハヤトは愕然とした。こちらを変な目で見てくる理由がよくわかった。
 彼の服装は黒のロングコートにマフラーと、冬用のものだ。

 しかし通行人は誰一人としてそんな恰好をしている者はいなかった。
 ほとんどが半袖、長袖でもコートを着ている者など見当たらない。皆、夏用の服装なのだ。

ハヤト「どういうことなんだ……」

 頭がくらくらする。……ああ、そういえば。
 この空高く昇る太陽も、この猛烈な陽射しも、夏のものではないか。
 そう意識すると途端に暑く感じられて、ハヤトはコートを脱いだ。

「あれ、ハヤトさん?」

 しばらく呆然と立ち尽くしていた時だった。
 気付くといつの間にやら、目の前にXioの隊服に身を包んだ大空大地が立っていた。


ハヤト「……大地!?」

大地「え……ハヤト……さん? なんですよね?」

 安堵感がどっと湧き出してきてハヤトは駆け寄ったが、大地は怪訝な表情をしている。

ハヤト「そうに決まってるだろ。それより大地、いったい何があったんだ?」

大地「いったい何が……って」

 大地が背後を振り返る。道の脇にジオアトスが停められていて……。
 そのそばに立っている男の顔を見て、ハヤトは言葉を失った。

大地「そもそもどうしてハヤトさんがここに……って」

 その男とハヤトの顔を交互に見ながら大地が言う。
 その男の顔は――

ハヤト「――俺?」

 そっくり――いや、隊服を着ている点でむしろあちらの方が本物に見える。
 彼は、ハヤトと全く同じ顔をしていたのだ。


―――オペレーションベースX、取調室

神木「……なるほど。事情はわかった」

ワタル「隊長、こんな明らかに怪しい奴の言うこと信用していいんですか?」

 オペレーションベースXに移送されたハヤトは、メディカルチェックを終えた後、取調室でXio隊員たちに囲まれていた。

神木「メディカルチェックで宇宙人の擬態という可能性はほぼ無いとの判断が下された。信用しても大丈夫だろう」

ワタル「ふーむ。でも高度な擬態ができる宇宙人って可能性もありますよ」

神木「まあ、そうだな。だが、疑い出したらキリがないだろう。我々にできるのは彼の話と正面から向き合うことだ」

ワタル「はーい」

ルイ「それにしても~~ハヤトさんが二人なんて、これ何? 対消滅とかしちゃわない?」

 不満げなワタルとは対照的に目を輝かせているのはラボチームの高田ルイである。
 身を乗り出すのを制して、神木隊長が口を開く。


神木「まとめるとこうだ。君は『20XX年12月24日』にルガノーガーという怪獣の出現場所に居合わせ、その後、謎の怪獣とも遭遇した。
    すると周りのものが消滅していき、自分の身体も消えていくのを目撃した。そして気を失い、目を覚ますと、今までのことが何もなかったかのように街は元に戻っていた」

橘「ただし――」

神木「ああ。街には奇妙な異変が起きていた。そして……」

アスナ「もうひとりの自分と出会った……か」

神木「君の話を信じるなら、君は『20XX年12月24日』という『未来』からやってきたことになる」

 その言葉に、未来からやってきたハヤト――未来ハヤトは、神妙な面持ちで頷いた。

ワタル「けどお前のデバイスに表示されてる日付は『20XX年7月13日』……つまり今日の日付じゃないか」

未来ハヤト「デバイスは電波時計だ。だから『こっちの時間』に合ってしまってるんだと思う」

ワタル「ふーむ……」

 納得がいってなさそうなワタルの隣で、現在のハヤトはかなり複雑そうな表情をしていた。


現在ハヤト「そもそもその光の怪獣っていうのはいったい何なんだ?」

アスナ「ルイ、データベースには?」

ルイ「うーん。ざっと調べた限りでは該当なしかなぁ」

神木「時間を移動させる能力を持つ怪獣……自身も移動できると考えるのが自然だな」

橘「こちらにも来ているかもしれませんね。そうすると出現や建物の消失の報告が来てもおかしくないですが」

ワタル「そういう報告は来てないですねえ」

 ワタルがじろりと未来ハヤトをねめつける。
 流石に不憫だと思ったのか、それとも自分が責められてる気分になったのか、現在ハヤトが助け舟を出す。

現在ハヤト「じゃあ、俺たちだけが知ってることを質問してみたらどうですか?」

神木「例えば?」

現在ハヤト「そうですね……。俺の……貴島ハヤトの父親の名前と職業は?」

未来ハヤト「貴島繁。職業は長野の老舗そば屋『きしま』の店主」

アスナ「おー」


ワタル「いや、まだだ! なら次は……俺が一番好きな映画は何だ!」

未来ハヤト「『ローマの休日』だろ? いっつも号泣してる……」

ワタル「ぐっ……」

アスナ「ワタルの決めセリフは?」

未来ハヤト「『トラァァァァァイ!!』」

ルイ「はいはーい! じゃあ、私はハヤハヤのこと何て呼んでるでしょう!」

未来ハヤト「ハヤトさん、だろ」

ルイ「おー……引っ掛からなかった!」

ワタル「まるでドッペルゲンガーだな。出会ったら死ぬっていう……」

ハヤト×2「「不吉なこと言うな!!」」

アスナ「ハモった」

ルイ「これは本物だね……」


―――エリアT8J

 取調室が盛り上がっているさなか、大地とマモルはエリアT8Jに残って調査を続けていた。
 そもそも彼らがこの場所に来たのは異変に気付いた市民からの通報があったためだった。
 建物の内や外、また、道路の様子。昨日の時点では何らおかしいところはなかったのに、今日になって急に変わったというのだ。

大地「うーん。やっぱり妙だな」

マモル「妙だよねえ」

 二人は辺りの建物にデバイスを向け、その画面を見つめながらそう呟いていた。

大地「あっ、ここで異常はなくなってる。ということは、ここが境界ってことか」

マモル「うん。未来のハヤトさんの話を信じるなら、ここまでの場所を時間移動させた後、怪獣は姿を消したことになるね」

 更にいくらか調査を進めたのち、二人は神木隊長に通信を送った。

神木『進展があったか?』

大地「はい。調査の結果、半径300メートルに異常が見られました」


大地「外見や内装に異常がある建物は、新たに加えられた部分と元の部分で、建築後の経過した日数が異なります」

マモル「別の場所で作ったものを移動させたって考え方もできなくはないっすけど……」

大地「うん。これほどまで複雑に組み合わさってることや、今日になって発見されてることを考えると、その線も考えにくい」

大地「外見に異常がない建物も、調べてみると分子レベルで差異が見られました」

大地「これは未来のハヤトさんの話を本当だと考えると説明がつきます。恐らく、『今』と『未来』の間で取り壊しや改装が行われたのだと思われます」

マモル「周囲のものも一緒に時間移動してきたってことでしたから、『今』の建物に『未来』の建物が融合しちゃったってことっすね」

神木『なるほど。とすると、彼の言うことに嘘はないことになるな』

大地「そう言って構わないと思います」

神木『わかった。ご苦労』


―――オペレーションベースX、取調室

神木「……とのことだ」

現在ハヤト「よかったな。……俺が二人って、何か変な感じするけど」

未来ハヤト「ああ。俺も変な感じだ」

ワタル「はっきり言ってムズムズするな」

アスナ「正直同感」

 一同は笑いながら取調室を後にしたが、最後にドアを閉めたワタルはふと思いついて真顔になった。

ワタル(あれ、あいつが十二月二十四日から来たってことは、クリスマスまで菜々子とあいつの関係は続いてるってことで……)

 呆然と立ち尽くしているワタルに気付いて、アスナが声を掛ける。

アスナ「どうしたの、ワタル?」

ワタル「え、えっ!? い、い、い、いや!? なんでもないぜ!? あはははは~~」

 急にあたふたしだしたかと思えばスキップしながら通り過ぎて行くワタルにアスナは首を傾げた。


ルイ「早いとこその光の怪獣を見つけ出して、帰る方法を探さなきゃだね」

未来ハヤト「そうだな」

神木「……そういえば君は、ルガノーガーという怪獣を見たのは二度目だと言っていたな」

未来ハヤト「あ、はい」

神木「いったいいつ見たんだ?」

未来ハヤト「えーっと……正確な日付までは。確か七月だったと思いますけど」

 未来ハヤト含めて、皆の足がぴたっと止まった。

橘「私たちはまだルガノーガーと交戦していない。ということは……」

アスナ「これから来る……?」

ワタル「お、おい! いつ来るんだ!」

未来ハヤト「だ、だから言ったろ! 正確な日付まではって……」

 その時、未来ハヤトの脳裏に過ぎったものがあった。
 昨夜――というか、『十二月二十四日』のことだ。あの時、タケルが言っていた。


『今年の七月十三日、エリアT84に出現した“ルガノーガー”です!』

未来ハヤト「七月、十三日……エリアT84……」

神木「何……?」

橘「それは確かなの!?」

未来ハヤト「さ、昨夜、というか向こうの時間で確かに聞きました! そうだ――今日じゃないか、ルガノーガーが来るのは!」

 一同、揃って息を呑んだ。

アスナ「時間は!? いつぐらいに!?」

未来ハヤト「衛星が飛来する姿を発見したのが昼過ぎ……確か、三時過ぎくらい……」

ワタル「今、二時四十五分だぞ! もう来る!」

神木「ワタル、ハヤト、アスナ! 直ちに出動準備!」

一同「了解!」


 廊下を駆けていくワタルとハヤト、アスナを見送りながら、橘は未来ハヤトの方を振り向いた。

橘「ルガノーガーは取り逃がしたのよね。あなたたちは」

未来ハヤト「はい。エックスと共闘しても、撤退させるだけで精一杯でした……」

神木「よし。ならば、データ、性質、攻撃パターン、知っていることを全て教えてくれ」

未来ハヤト「はい。それと隊長。自分も行かせてください。今度こそ奴を倒してみせます」

神木「……いいだろう。アスナと共にジオポルトスでエリアT84まで急行してくれ」

未来ハヤト「――了解!」


 一方、現在ハヤトとワタルはジオアラミスに乗り込んで基地から出発していた。

ワタル「ジオアラミス! ジョイン・トゥ・ジオマスケッティ!」

 アラミスの車体が浮き上がり、変形したジオマスケッティと合体する。

『スペースマスケッティ コンプリート』

現在ハヤト「こちらスペースマスケッティ。ただ今よりエリアT84上空に向かいます」

ワタル「本当に宇宙から来るんだろうな?」

未来ハヤト『間違いない。あと、光子砲は使うなよ。奴はビームや光弾を跳ね返す装甲を持ってる』

ワタル「じゃあどうすりゃいいんだよ」

未来ハヤト『ミサイルなら有効だ。それに、弾かれるのは装甲だけ。顔や腕なら光子砲でも通じる』

ワタル「オッケー、わかったぜ……!」


―――司令室

 スペースマスケッティが飛び立って間もなく――三時七分。
 未来ハヤトの予告通り、監視衛星からルガノーガーの接近が報告された。

タケル「映像、出ます!」

 モニターに流れる映像。宇宙の暗黒を背景にして怪獣が飛行する様子だった。

グルマン「間違いない。こいつはルガノーガーだ。惑星ジュリアを爆発させ、惑星カプールを引き裂いた凶悪な奴だぞ」

神木「スペースマスケッティの位置は!」

チアキ「大気圏を抜けました。間もなく接触すると思われます!」

現在ハヤト『ルガノーガー、確認しました!』

神木「よし。警戒レベルフェイズ3! ――攻撃開始!」

ワタル・ハヤト『『了解!』』


―――宇宙空間

ルガノーガー「グオォォォオン!!」

現在ハヤト「スパイダーミサイル、発射!」

 マスケッティの各砲門からミサイルが放たれた。
 煙を宇宙空間に描きながらそれらは乱れ飛び、怪獣に向かって突撃していったが――

ルガノーガー「グォォォォン!!」

 その一声と共に全弾破壊された。
 怪獣の肩――装甲と一体になっている突起から電撃が方々に撒き散らされたのだ。

ワタル「ぐぅっ……!」

 何とかやり過ごし、ルガノーガーの背後で旋回する。
 同時に、ルガノーガーもまたマスケッティの方に顔を向けていた。真っ向から相対する形になる。


ルガノーガー「ギャァァァアオォッ!!!」

 頭部を模した両腕をマスケッティに向け、その口から青白い熱線を発射する。
 マスケッティは急上昇して躱すが、その軌道に腕を向ける。

現在ハヤト「危ないっ!」

ワタル「!」

 咄嗟に機体を寝かせたが、躱し切る寸前に光線が掠っていた。コックピットに衝撃が走る。

ワタル「くっ……右翼、被弾!」

橘『離脱しなさい!』

 ここは宇宙空間だ。少しの無茶が命取りになる。
 ワタルは苦渋の表情でそれに従った。

ワタル「了解……!」


ルガノーガー「キュゥァァァァアアッ!!!」

 しかし――ルガノーガーはマスケッティを逃がそうとはしなかった。
 地球に戻ろうとするその背後を追う。怪獣の口には青白いエネルギーが溜められていた。

現在ハヤト「……まずいぞ!」

ワタル「っ!」

 サイバーゼットンのカードを取り出し、デバイスにセットする。

『サイバーゼットン ロードします』

ルガノーガー「グォオオオオッ!!!」

ワタル「ゼットンシャッター、起動っ!」

 ルガノーガーの口から熱線が発射されたのとマスケッティがシールドを張ったのは同時だった。
 寸前のところで攻撃は防いだが、シールドへの衝撃はそのまま機体にも伝わる。


ワタル「ぐっ……!」

 光線に押し出されるようにして、マスケッティは大気圏に突入していった。
 強引な突入によって機体に負荷が掛かり、シールドに罅が入っていく。

現在ハヤト「シールド残量が、ガンガン削られてる……っ!」

 60%、50%、40、30、20……みるみる内に数値が小さくなっていく。
 しかし、これまでかと思った瞬間、熱線が止んだ。どうやら怪獣の方が根を上げたらしい。

ワタル「あ、危ねえ……」

 ほっと息をついたのもつかの間――

タケル『ワタル隊員! まだです!』

 本部からの通信にワタルは我に返った。
 背後を振り返ると、今度はルガノーガー自らが突っ込んできていた。


ルガノーガー「ガルルルァァァオオオン!!!」

ワタル「畜生! しつこい怪獣は嫌われっぞー!!」

 機体を地面に対してほぼ垂直になるようにする。
 するとルガノーガーも同じように地上向けて真っ逆さまの飛行体勢をとった。

現在ハヤト「おい! これじゃ地面と衝突するぞ!!」

ワタル「わーってるよ! そんなこと!!」

ルガノーガー「ギャァァアオッ!!」

 ルガノーガーは執念深く光線や電撃を放ち続ける。
 それらを紙一重で躱しながら、マスケッティは高度をどんどん下げていく。

ワタル「これで――どうだぁっ!!」

 そして地面すれすれのところで――マスケッティはホバリングし、すぐさま別方向へ飛び去った。
 その急激な動きに怪獣は対処できなかった。飛行の勢いを殺すことができず、地面に激突する。

現在ハヤト「やった!」

ワタル「へへっ、ざまーみやがれ!」


 一方、現場に到着していた大地は、地面に揺れにふらつきながらもデバイスを怪獣の方に向けた。

大地「! ワタルさん、ハヤトさん!」

ワタル『こちらスペースマスケッティ。どうした? 大地』

大地「まだ脳波が測定できます! ルガノーガーはまだ生きてる!」

ワタル『チッ……そう簡単にはいかないか』

 すると、地面に頭を突っ込んだルガノーガーが足を地面につけて踏ん張り、自らの頭を引き抜いた。
 アスファルトが砕け、土埃と共に巻き上げられる。

ルガノーガー「グオォォォアォォオン!!!」

 ルガノーガーは、腹いせとばかりに近くのビルに腕を振り下ろした。
 そして両肩の突起から電撃を放散させ、周囲の街並みを次々と破壊していく。

大地「……!」

『ガオディクション 起動します』

 大地はガオディクションを起動する。もちろん、怪獣は怒り狂っていると思ったのだ。
 しかし、表示された単語の羅列を見て大地は驚きを隠せなかった。


『攻撃』『破壊』『殺戮』

大地「……なんだこれ……」

エックス『もしかしたら、この怪獣は改造された怪獣兵器なのかもしれないな』

大地「そういうふうにインプットされた?」

エックス『その可能性もある、ということだ。何にせよ、生半可な覚悟じゃやられるぞ』

大地「そうだな……。未来のハヤトさんによると、エックスとXioが力を合わせても倒し切れなかったらしいし」

エックス『だが今は彼の力添えもある。やるぞ、大地!』

大地「ああ!」

 エクスデバイザーをXモードに変形させ、出現したエックスのスパークドールをリードする。

『ウルトラマンエックスと ユナイトします』

大地「――エックスーーーーーっ!!!」

 天に向かってデバイスを掲げ上げると、Xの形をした光が放たれ、大地の身体を包んでいく。

エックス「――イーーッサァーーッ!!!」

 その光を突き破って現れた巨人が地上に降り立つ。
 大地が震動し、土埃が立ち、電光が周囲を飛び交った。

『エックス ユナイテッド!』


エックス「ハァ――セアァッ!!」

ルガノーガー「ガルルォォォオオン……!!」

 新たに現れたエックスに対してもルガノーガーは敵意を剥き出しにして襲い掛かってくる。
 両肩の突起から電撃が放たれた。

エックス「ハァッ!」

 エックスはそれを側転しながら躱していく。

大地『こういう相手には――』

 大地はサイバーベムスターのカードを取り出し、デバイスにセットした。

『サイバーベムスター ロードします』

 ロードが進むにつれ、エックスは上半身に紫色のアーマーを纏っていく。
 両肩にはベムスターの爪のような、胸部にはその嘴のような装甲。そして左腕には、その腹部を模した盾が装着された。

『サイバーベムスターアーマー アクティブ!』


エックス「ハァァッ……!」

 盾を翳して電撃を吸収し、その全てを一束にして跳ね返す。

大地『――ベムスターリバース!!』

エックス「デェヤアッ!!」

 しかし、ルガノーガー向けて一直線に放たれたそれは、その胸の装甲に弾かれて虚空へ消えてしまった。

エックス「……!」

ルガノーガー「グォオオオオオオッ!!」

 光線は通用しないことを悟ったのか、ルガノーガーが突進してくる。
 咄嗟に盾を構えたが、その勢いに押されてしまう。

エックス「グッ……!」


ルガノーガー「キュゥァァァアアッ!!!」

 身体が密着していることを利用して、ルガノーガーが電撃を放つ。
 電撃は肩越しに曲がり、エックスの背中を襲った。

エックス「グアァッ!」

ルガノーガー「グオォォン!!」

 力が弱まったところを見計らってルガノーガーがエックスを跳ね飛ばす。
 仰向きに倒れ込んだその身体を踏みつけようと距離を詰める。

エックス「――セヤァッ!!」

 だが、エックスが反撃に転じる。
 左腕の盾を外し、怪獣に向けて投げつけたのだ。

ルガノーガー「! ギャオォォォオオオッッ!!!」

 高速回転しながら飛んだ盾はルガノーガーの肩の突起を破壊した。
 更に、ブーメランのように弧を描いて戻ってきて、逆側の突起をも破壊する。

ルガノーガー「ガルルルルルォォォン……」


エックス「シュワッ!」

 思わず後ずさりするルガノーガーを前に、エックスはアーマーを解除した。
 そして距離を詰めてタックルし、胸の装甲に向けてXの字を描くように二度チョップを入れる。

エックス「――Xクロスチョップ!」

 その交差点に打撃を加えると爆発が起こった。
 ルガノーガーの動きが更に鈍る。装甲の中心から罅が広がり、ぼろぼろと崩れ落ちた。

大地『よし、一気に行くぞ!』

エックス『! 待て、大地!』

 トドメを刺そうとしたその時、エックスが何らかの異変に気付いた。


―――オペレーションベースX、司令室

タケル「! 宇宙からエネルギー反応を検知!」

チアキ「ダークサンダーエナジーです!」

神木「何っ……!?」


―――エリアT84

 空に暗雲が渦巻き、そこから稲妻のようなエネルギーが落ち、ルガノーガーを襲った。

アスナ「ダークサンダーエナジー……! ハヤト、あなたの時にも落ちてたの?」

ハヤト「い、いや……俺たちの時には落ちてこなかった」

アスナ「歴史が変わってるってこと……? 未来のハヤトがこっちに来たから……?」


ルガノーガー「ギュオオオオオオッッ!!!」

 膨大なエネルギーをその身に取り込み、破壊された部位が再生する。
 その真紅の瞳は更に爛々と輝き、より一層強い殺意を宿して、眼前のエックスを見据える。

ルガノーガー「グオオォォオオォオオオッ!!!」

エックス「!」

 エックスが我に返る。怪獣の口、両腕から赤黒い破壊光線が放たれていた。

エックス「ジュワッ……!」

ルガノーガー「グオォォォォッ!!!」

 倒れ込んで悶えるエックスに猛然と近づき、その首を右腕の口で挟み込む。

エックス「グッ……!!」


ルガノーガー「グルルルル……」

 首を絞めつけたまま、ルガノーガーはエックスの身体を持ち上げる。

エックス「デェアッ! セアッ!」

 エックスはじたばたして暴れるが、ルガノーガーは全く意に介さない。
 それどころか、エックスのカラータイマーに左腕を当て、右腕と同時に光線を打ち込んだ。

エックス「――グアアアアアアッッ!!!」

 その怒涛の勢いに吹っ飛ばされ、ビルに突っ込む。
 エックスの身体に瓦礫が降りかかってくる。

大地『く……そっ……!』


エックス『大地……! エクスラッガーを……!』

大地『ああ……。……!?』

 しかしその時、ルガノーガーが放った電撃がエックスを襲った。
 その威力はさっきとは比べ物にならない。あまりの激痛に全身の動きが封じられる。

エックス「ハ、ハァァァ……ッ」

ルガノーガー「ギュゥァアアッッ!!!」

 電撃を放ち、エックスにダメージを与えながら一歩一歩確実に彼に近づいていく。
 その一歩ごとに撒き散った電撃は辺りを襲い、爆発を巻き起こしていく。

大地『……っ!』

 エックスのカラータイマーが点滅しだす。
 万事休すかと思われたその時――

「ギャオオオオン!!」

 ルガノーガーとは違う怪獣の声がし、エックスの視界が青白い光に満たされた。


大地『……サイバーゴモラ……』

 青い体躯のサイバーゴモラがエックスの前に仁王立ちし、電撃から彼を守っていたのだった。
 そして、それを操っているのは――

未来ハヤト「行くぞ、ゴモラ!」

サイバーゴモラ「ギャオオオオン!!」

 サイバーゴモラを起動させたのは未来のハヤトだった。
 すぐさまマスケッティから彼の元に通信が入る。

ワタル『おいお前! ちゃんと許可は取ってんのか!』

未来ハヤト「さっき取った。それよりちゃんと呼吸合わせろよ。それさえできれば、強化されていようと立ち向かえるはずだ!」

現在ハヤト『……楽勝だよ! なんたって俺自身なんだからな!』

未来ハヤト「ふふっ」

ワタル『なんか変な意気投合してんじゃねえ!』

ハヤト×2「『本人なんだからしょうがないだろ!!』」


ルガノーガー「グオォォオオン!!」

サイバーゴモラ「ギャオオオオン!!」

 二体の怪獣が対峙し、睨みあう。
 と、その時。スペースマスケッティの光弾が不意打ち気味にルガノーガーの側頭部に命中した。

ルガノーガー「グルルルルッ!!」

 ルガノーガーはマスケッティが飛び去った方を振り向くが、その瞬間、サイバーゴモラの爪が振り下ろされた。

サイバーゴモラ「ギャオオオオオオン!!」

ルガノーガー「キュァァアアッ……」

 力勝負では及ばないものの、マスケッティとの連携によってルガノーガーに着実にダメージを与えていく。


 ルガノーガーがその攻防に気を取られている間に、エックスは身体の自由を取り戻していた。

エックス『我々も負けていられないな……!』

大地『ああ……!』

『ウルトラマンエックス パワーアップ』

 大地はエクスラッガーを出現させ、その柄を力強く握りしめた。
 そしてXの字を描くように二度、虹色の剣を振り下ろす。

大地『行くぞ! エクシード――エーーーックス!!!』

 描かれた軌跡がエックスと重なり、その姿を変えていく。
 銀色の体躯に七色のラインが入った虹色の戦士の名は――“ウルトラマンエクシードエックス”!


ルガノーガー「!」

エックス「デエヤアッ!!」

 勇猛な掛け声を上げながらエックスが駆け出す。
 ルガノーガーは組み合っていたサイバーゴモラを跳ね飛ばし、電撃を飛ばした。

 前転しながらそれを躱し、己の額に手をやる。
 すると額の光が具現化し、エックスの手の中にエクスラッガーを出現させた。

エックス「――エクスラッガー!」

ルガノーガー「ギャァァアオッ!!」

 再び電撃を周囲に撒き散らそうとするルガノーガー。
 対するエックスの姿が突然四体に分裂した。それぞれが飛び上がり、四方から斬りかかる。


エックス「「――エクシードイリュージョン!」」

 そのうち三体は電撃に掻き消されたが、最後の一体の剣は通った。
 両肩部の突起を切り裂き、更に懐に飛び込む。

エックス「「――エクシードスラーーッシュ!!」」

 反撃する間を与えず、エクスラッガーによる乱舞を叩き込む。
 ダークサンダーエナジーによって強化された胸部の装甲も、その連撃によって削り取られていく。

ルガノーガー「グルルルルル……!!」

 最後の一撃で撥ね飛ばされるルガノーガー。しかしその瞳にはなお強い闘志が漲っていた。
 エックスは気を緩めず、エクスラッガーを逆手持ちにして地面に突き立てる。

エックス「「エクシード――エクスラッシュ!!」」

 エックスの立ち位置からルガノーガーの背後までが虹色の空間に包まれた。
 エクスラッガーを引き抜き、それを手に怪獣に飛び込む。


ルガノーガー「ギャァァァアオオォッ!!!」

 渾身の抵抗とばかりにルガノーガーが口、両腕から破壊光線を放つ。

エックス「シュアッ!!」

 しかし――虹色の剣はそれを悠々と切り裂いた。エックスの突撃は止まらない。
 すれ違いざまにルガノーガーの身体を斬りつけ、復路でもう一撃加える。

 するとルガノーガーの身体から黒い煙のようなものが吐き出された。
 エクスラッガーの力によってダークサンダーエナジーが祓われたのだ。

エックス「シュワッ!」

 エックスは剣を額に収め、虹色の粒子を全身から弾けさせると共に元の姿に戻った。
 金色に光るカラータイマーに腕を翳し、斜め上に掲げ上げる。


未来ハヤト「ゴモラ! サイバー超振動波だ!!」

サイバーゴモラ「グオォォォオオン!!」

 サイバーゴモラの身体に淡い光が纏っていく。
 と思うと、ルガノーガーの懐に一気に飛び込み、その角を突き刺した。

ルガノーガー「キュァァアアアオオン!!」

 そして頭を振り上げ、ルガノーガーを天高く放り上げる。
 同時に必殺光線の構えをとっていたエックスは、空中に向かって両腕をクロスさせた。

エックス「「――ザナディウム光線!!」」

 青白い光線が放たれ、防御姿勢をとれないルガノーガーを捉える。
 青空の中に巻き起こる爆煙。吹き荒れる爆風に逆らうかのように、その中央に光が集っていった。


ワタル『よっしゃあーーっ!!』

アスナ「やった!」

未来ハヤト「やったな」

現在ハヤト『ああ』

 歓喜する隊員たちだったが、エックスはルガノーガーが消えた空の中に、妙な光を見つけていた。

大地『あれは……?』

 太陽のような強い白光。目が慣れてくると輪郭が掴めてくる。
 鳥のような体躯。しかし翼はまるで蝶のようで、真っ白な全身には青い文様が入っていて……。

未来ハヤト「――あれは!」

 彼がその光に気付いた途端、その身体が金色の粒子に包まれていった。

アスナ「ちょ、どうしたの?!」

エックス『そうか。ハヤトを元の時代に戻してくれるんだな』

 白い光の怪獣は幻想的な鳴き声と共に飛び去って行った。
 それに目を奪われたアスナが次に振り返った時、未来ハヤトの姿はそこにはなかった。


―――オペレーションベースX、ラボ

 事件終結後、グルマンとワタルはちゃぶ台を挟んで何やら話をしていた。

グルマン「その後、光の怪獣はエリアT8Jにも一瞬だけ現れたそうだ。それから街の異変が消えたというのだから、恐らく元の時間に戻すためだろうな」

グルマン「怪獣がわざわざルガノーガーがやって来るこの日にやってきたのは、ルガノーガーをここで逃がしておいたら自分が攻撃されることがわかったからだろう」

ワタル「俺たちはあの怪獣に利用されたってことですか」

グルマン「まあ、ありていに言うとそうなるな。だがここで倒せなかったら我々も十二月二十四日にもう一度ルガノーガーと相見えなければならなかったことを考えれば、そう悪いことでもないだろう」

ワタル「むーー……」

 ワタルは憮然とした表情で唸っていたが、突然、

ワタル「――じゃないですよ博士! 俺が聞きたいのはそんなことじゃなくて!」

グルマン「何、『そんなこと』だと!? せっかく色々私が話してやったというのに――」

ワタル「ああもう、それは後で聞きますから! で、結局わかんないのは『今』と『未来』のことです」

グルマン「あぁ、最初はそういう話だったな」

ワタル「そうですよ」


グルマン「ふむ。まあこれはあの怪獣、そして未来ハヤトにしかわからないことだが、『未来』の時点での七月十三日と、『現在』の七月十三日は大きく異なる。歴史が変わったとしてもおかしくないだろう」

ワタル「そうですか! そうですよね!」

グルマン「まあそう早合点するな。そもそも時間軸というものは――」

ワタル「わかりました、ありがとうございます! それでは!」

 なお話を続けようとするグルマンを置いてワタルは出て行ってしまった。
 すると、入れ違うかのように今度は大地が入ってきた。何やら妙な表情をしながら。

大地「あの、グルマン博士」

グルマン「どうした?」

大地「さっき、ワタルさんが小躍りしながら廊下を走っていったんですけど、何かあったんですか?」

グルマン「さあ……」






















―――十二月二十四日、エリアT8J

菜々子(ハヤトさん……)

 菜々子は避難所で膝を抱えて座り込んでいた。
 ルガノーガーという怪獣はXioによって倒されたらしいが、ハヤトが帰ってこない。
 Xioの隊員に言ってみても、今は立ち入り禁止とかで現場に入らせてくれない。

菜々子(あの時、止めていれば……)

 幼馴染みのワタルもまたXioの隊員だからか、仕方ないことだと割り切ってしまったのだ。
 あの時、強引にでも一緒に避難していれば。隊員だからといって、私服で戦いに出るなんて危険だとちゃんと言っていれば――

菜々子(ハヤトさん……)

「菜々子ちゃん!」

 ハッとして、菜々子は顔を上げた。
 避難所の入口。ハヤトの姿を認めるや否や、彼女は腰を上げて駆け出していた。


菜々子「ハヤトさん!」

ハヤト「菜々子ちゃん! よかった、無事だったんだね」

 その言葉を聞いた途端、菜々子は無意識に泣き出してしまっていた。
 困惑するハヤトの胸に飛び込み、涙声でこう訴える。

菜々子「……それはこっちのせりふです……」

 ハヤトは微苦笑して、菜々子の頭を撫でた。
 しばらくそうしていると、突然、

ハヤト「――あっ!」

 ハヤトが声を上げたので、菜々子もつられて顔を上げた。


ハヤト「あれ――」

 彼が指さした空。そこには、何だか、不思議な光が軌跡を描いて飛んでいた。
 流れ星ほど速くも細くもなく、ゆったりと夜空を横切る白い幻想的な光。
 その軌跡からは雪のような光が零れて……。

菜々子「なに、あれ……」

ハヤト「……きっと、クリスマスプレゼントだよ」

菜々子「え?」

ハヤト「こんな散々なクリスマスになっちゃったけど」

 ハヤトはにっこりと微笑んで、言うのだった。

ハヤト「菜々子ちゃん。――メリークリスマス」


THE END


登場怪獣:ウルトラマンマックス第26話より、“神話の幻獣”ユニジン
                    第28話より、“凶獣”ルガノーガー

Merry X'mas! ということで、見てくれた方ありがとうございました。

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