磯風「大丈夫だ、私を信じろ!」 (28)
その日、空を暗雲が覆い尽くしていた
外出から戻り、鎮守府の様子にかすかな違和感を覚えながらも気分は晴れていた
道端で倒れている人影を見るまでは
「う…うぅ…」
提督「お、おい!大丈夫か!?」
電「あぁ…司令官さん、だめ…逃げ…て」ガクッ
提督「電!?電ああああああああ」
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分からない、何が起こったのか、全くもって
口から泡を吹き気絶している電を抱え、改めて鎮守府を見やる
外観は変わっておらず、煙も上がっていないことから砲撃などは起こってないと推測する
それに異様に静かなのだ
緊急時ならば皆慌ただしくなり、騒がしくなるはずなのに物音一つ聞こえてこない
建物内に入るための扉
わずかに開いた隙間から見える内部は黒一色で、すべてを飲み込む闇のように思えた
先程電から辛うじて聞き取れた『逃げて』という言葉
最後になっても私の身を案じてくれたことが嬉しくもあったが、ここで逃げたら今後一生後悔することになるだろう
そう予感めいたものを心に秘め、真っ直ぐ扉の中へと歩を進める
中に入り、まず異常を訴えたのは鼻だった
異臭
その一言に尽きた
だが耐えられる程度なので顔をしかめながらも足を動かす
辺りを見回している時に、ふと腕に抱えている電に視線が向かった
顔、口、首筋と順に視る
そのとき誰かが言っていた言葉を思い出す
『女の子の首筋は、最も女性フェロモンが発されやすい部位』だとか何とか
いたいけな少女の匂いを嗅いでいいのかという葛藤もあったが、異臭を少しでも紛らわしたいという気持ちが先行し、結局実行することにした
赤ん坊を抱っこするときのような姿勢にし、首に鼻を持っていく
クゥーン
途端、ミルクのような甘い香りが鼻腔を満たした
大きくなるために毎日牛乳を飲んでいると言っていたが、こんなところで効果が発揮されていたとは
ふと我に返る
何分、何十分こうしていたのだろう
記憶が抜け落ちていた
こんな幼いうちから眠りながらも男を惑わせるなんて、とんだ魔性の女だな
電の将来を憂いぬくもりを堪能しながら、廊下の奥へ奥へと進んでいく
「……、…」
どこからかうめき声のようなものが聞こえてくる
声のもとへと足を運ぶと、また倒れている人を発見した
提督「雷!?お前もか!」
雷「ひっ…来るなァ…来ないでぇ」
急いで駆け寄り電を片手に雷を抱え上げる
瞳が虚空を彷徨い常にうなされており、かなり深刻な状態だった
提督「クソッ、外出中に何が!!」
鎮守府に留まっていれば良かったと、己の過ちを悔いる
しかし、ここで立ち止まってはいけないと自らを叱咤し、ひとまず医務室に向かうことにした
電と雷を抱きかかえ、両手に花の状態
両方向からくる甘い匂いの猛攻に耐え、精神をすり減らしながら医務室の前までたどり着けた自分を褒めたいものだ
「これは悪い夢これは悪い夢これは悪い夢これは悪い夢これは悪い夢これは悪い夢」ブツブツ
「一航戦である私が…負けるなんて…」
「ファー…ブルスコ…ファー…ブルスコ…モルスァ」
「ハァハァ北上さん、北上さんが私と一つになってハァァァァ」ブシュゥゥゥゥゥ
絶句
ベッドは全て埋まり床に横たわっている者までおり、死屍累々という言葉が相応しい状態であった
電と雷を壁に寄っかからせ、机に伏している明石のもとまで行く
提督「おい!明石、大丈夫か!一体何があったんだ」
明石「ていと…く、戻ってらしたんですね」
提督「どうしてこんなことに」
明石「しょ、食堂で…かはっ」
明石「……」チーン
提督「あ、明石いいいいいいいいい」
提督は憤慨した
鎮守府をこのような状態に陥れた悪虐非道な者を、必ずやこの手で罰しようと心に誓った
その思いを胸に、明石の遺言で聞いた通り食堂へ向かおうと扉に手をかけた
そのとき
提督「ん?」
何者かに服を掴まれ、振り返る
プリンツ「あ、お姉様ここにいたんだぁ~」
プリンツ「どこに行こうというんですか?」
プリンツ「そばにいて下さいよぉ、ずっと!永遠に!」
提督「ヒッ…」
目の焦点が合っていなく、半笑いしながら呟かれた言葉からは感情が抜け落ちており思わず後ずさる
ポン
何かが背中に当たり、そちらについ目を向けてしまう
千代田「千歳お姉、もう離さないから」
千代田「急にいなくなるなんて寂しかったんだよ」
千代田「私心細くて心細くて…つい間違いを犯しちゃうかも」
千代田「ハァァァァ千歳お姉ハァハァ」
提督「あ…あ…」
狂っている
幻覚を見るものまでいようとは
その狂気に耐え切れず体をひねって振り払い、医務室から駆け出した
暫く走り食堂に着く
扉が閉まっているにも関わらず、隙間からもやもやとした瘴気のようなものが漏れ出ていた
なんだかこれから大魔王と対面するかのような気分だ
提督「ふぅ…よし」
深呼吸して気を引き締め、扉を一気に開ける
提督「うっ」
一目で異常だと分かり、ここに入ってはダメだと脳が警鐘を鳴らす
逃げかけるが視界の端に知っている顔を見かけ思いとどまる
提督「浦風!浜風!大丈夫か!?」
浦風「」
浜風「」
これまでで一番酷い状態だった
取り敢えず医務室へ運ぼうと手をかけようとしたとき、愉快そうな声が耳に響いた
磯風「おや、司令じゃないか」
磯風「ちょうどいい司令も私の作ったケーキを食べてみてくれ」
そう笑顔で語りかけてくる少女の皮を被った悪魔がそこにはいた
磯風「皆一口食べたらあまりの美味しさに気絶してしまって、感想が聞けずじまいなんだ」
磯風「司令の感想を聞かせてくれ」ニッコリ
ドッと汗が噴き出す
これはダメだ
ここに留まっていてはダメだ
一刻も早く逃げ出さなければ
ヤられる!!
ケーキ「ヒュゴォォォォォ、キェァァッァァッァァ」
磯風「ん?どうして動かないんだ?」
磯風「あぁ…食べさせて欲しいのか」
磯風「ふふっ、そんなことならお安い御用だ」スタスタ
提督「ヒェッ…」
あまりの気迫に体が言う事を聞かず、金縛りにあったかのように固まってしまう
磯風「そら、あーん」
せめてもの抵抗に顔を背ける
浜風「ダメですよ提督」
浦風「せっかく磯風が作ってくれたんじゃけぇ、ちゃんと食べにゃぁ」
提督「お、お前ら」
左右から顔に手を添えられ、強制的に口を開かせられる
その目は『提督も道連れにしてやる、一人だけ逃げようたってそうはいかない』
と物語っているようだった
磯風「大丈夫だ、絶対美味い、私を信じろ!」
妙に自信満々な磯風が恨めしい
間近に迫る謎の物体が蠢き、奇声を上げ続けるケーキとは程遠い物が目に映り、全てを諦めた
提督「ぎゃあああああああああああああああああああああああ」
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