勇者「魔王の国を滅ぼしたわけだが」 (31)

勇者「魔王との長い戦いの末にとうとう魔王の国を滅ぼせたんだよな」

勇者は町を歩きながらグルリと辺りを見回した。

今では人間の町となった場所――かつては魔物の住処だった場所――には既に多くの人間が移住していた。

しかし、魔物の姿もそこかしこに見受けられる。

そうなのだ。前魔王(もう殺した為に“前”を用いる)を倒した後、

人間は全ての魔物を駆逐するでもなく併合という形で落ち着いていた。

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勇者「向こうにそびえるあの魔王城は」

全ての魔王領を奪ったわけではない。魔王城とその周辺には自治権を与え、現魔王に支配を任せていた。

代わりに、その他全ての領域は人間が統治した。各地では、兵士が監視を行い素行を行う魔物がいないかを見張る。

全てを人間が掌握するとなれば絶対に魔物による反乱が起きる。

魔物領さえ出なければ人間の規則に縛られなくて済むというわけだ。魔物にも権利を与えることで人間の支配を長く続けるのが目的だ。

この仮の人間と魔物の共存には当然反感があった。しかし、時がたつにつれそういった声もあがらなくなっていった。

数ヶ月たてばすっかり魔物と人間の共存という形が出来上がっていた。仮に、ではあるが。


勇者「すっかりと腑抜けやがって」

勇者は悪態をつく。周りの人間、魔物、全てにイラついていた。

―何故こうも簡単に魔物と打ち解けられるのか。何故こうも人間と打ち解けられるのか。

ドンッ

通りすがりの魔物とぶつかった。頭に火花が散る。

勇者「てめぇ、どこ見て歩いてやがった?ああ!?」

見ると魔物の中でも小柄なゴブリンといわれる種だった。

ゴブリン「す、すまねえ」

勇者「首跳ばされてぇか?」

カチャリ、と勇者は腰に下げてあった刀の鞘から少し刃を見せるように刀を抜いた。

ゴブリン「ゆ、許してください!」

勇者「チッ」

横目で睨みながら歩き出す。

今はこんなゴミと関わっている暇は無い。

勇者「王、何を考えてやがるんだ?魔物にも人間と同様の権利を認めるなんて」

目的の場所は王様の城だった。

王「簡単な事だよ。敵を倒しその領域を奪っても、相手からは憎しみしかえられないのだよ。だったら共存でもしたほうが良い」

勇者「違ぇんだよ。これは、小国同士の小競り合いじゃねえ。人間と魔物がどちらかを滅ぼすまで続くはずだった戦争だ。
   逆の立場なら絶対ー全員殺されてたぜ。その内魔物共が結束して襲い掛かってくる」

王「それは無い」

勇者「なんだと?」

王「現魔王・・・知っておろう?」

勇者「チッ」

現魔王とは、勇者が殺した前魔王の祖父に当たる。彼は当時から少し変わっていて積極的に人間とは戦おうとはしなかった。

勇者「まさかあいつを信頼しているからとは言わねぇよな?」

王「商売だよ」

勇者「は?」

王「だから商売だといっている」

勇者「何の話だ」

王「政治というのは少々複雑でね。戦争が長引けばその分国内は荒れる。国民の視線は国外に向くから例え表沙汰になることがなかろうと」

勇者「要点を言え」

王「現魔王とは前々から話を進めていたんだ。手を結んで互いに争わぬようにと」

勇者「こいつは驚いたなぁ。つまり俺の命がけの戦いは無意味だったわけだ。はっはっは。・・・殺すぞ?」

王「いや、君の戦いには意味はあった」

王「前魔王は戦争好きだったのでな。現魔王でも止めることは出来ず、ほとほと困っていた。だから君にはそのままにさせておいただけだ。
  余計な情報を与えないように」

勇者「イライラするな。そうやって人を道具に使う癖は治らない様だ」

王「さてと、君にはこんな事を言うために呼んだわけではないのだよ」

勇者「さっさと言えよ」

王「ここ最近人間と魔物見境無く切りまくる奴がいるらしい。腕利きが何人も殺されていてかなり強いと思われる。正体は不明。
  斬り方がかなり独特で首を一太刀し殺しているが治癒魔法で首を修復しているらしい」

勇者「殺して身体を再生していれば無傷の死体が出来るわけだな」

王「そうだ。魔力の感知は専門がいるからすぐに分かった。つまり、その切り裂き魔を見つけて欲しい」

王「難しいとは思うが君にしか頼めない内容だ」

勇者「好き勝手に俺を利用していたことは覚えているからな。覚悟はしておけよ」

王「ふっ。さあ、行くが良い」

勇者はあたりを見回した。

人間が営む店が大半だが、稀に魔物の経営する店も見られる。

あの通り過ぎた店。あれはサキュバスが経営する風俗店のはずだ。人間のよりも遥かに客足が良い。それも当然だろう。業務内容が彼女らの生きる糧と一致しているのだから。

勇者「・・・」ギリッ

歯軋りをする。今では魔物を殺すと罰せられる。最前線で戦っていた勇者にとって魔物とは敵であり最も忌むべきもの。

それを殺すなと、それも人間から言われたのだ。余計に虫唾が走る。やけに太陽がギラついているように感じた。


勇者「でたらめに歩き回っても駄目だな。情報が得られるような場所を当たるか」

その酉は良くない

>>8
ただのシャープの酉なんてばれやすいだけかwww以後気をつける

訪れたのは酒場。

かつては、兵士を必要としないがかといって一般人には荷が重過ぎる依頼を仲介する場所だった。

腕に覚えのある者達が集って依頼を達成して金を儲けていた。

魔物を殺してはならない今の状況で彼等はどうやって生計をたてているのだろうか。


マスター「いらっしゃい」

勇者「ああ」

ざっと辺りを見回す。一般人のほうが多い。昔は有力者のほうが多かったというのに。

マスター「どうしたんですか?昔と今は違いますよ」

勇者「・・・。おい、情報は入ってるんだろ?」ボソボソッ

マスター「ええ、勿論ですとも」コソコソッ

酒場では飲食のほかに情報屋としても仕事をしている。情報料は高いが確かな情報をくれる。

勇者「傷無し死体。これで察してくれるなら、あんたの仕入れた情報は確かだ。どうだ?あるか?」

マスター「少々お待ちを。おっと、ありました」

勇者「へえ。どんなだ?」

マスター「いえ、その前に御代を」

勇者「分かってるよ」

マスター「では、50万G頂きます」

勇者「やけに少ないな?」

マスター「この情報では大して役に立ちもしませんので」

嘘だ。役に立たない情報など、情報屋には意味が無い。例え核心に迫るものでなかろうと貴重な情報になることは確かだ。

勇者は55万Gを手渡した。

マスター「おや。少しばかり多いですよ。お返ししましょうか?」

勇者「とっとけ」

マスター「ではご遠慮なく」

躊躇いも無くあっさりと懐へとゴールドを入れる。

マスター「情報とは高等なものです。言葉で言うのでしっかり頭に入れてください」

勇者「分かってるぜ」

これがこの情報屋の決まりだ。

マスター「犯人が殺した中には魔物も含まれている。それは分かっていましょう?」

勇者「勿論だ」

マスター「殺された魔物のうち、気配察知に優れた種族がいたんですよ」

マスター「しかしそいつは抵抗も無くあっさりとやられていた」

勇者「・・・」

勇者「それで、その気配察知ってどれだけの凄さなんだ?」

マスター「半径100m以内ならどんな生物だろうとすぐに気づける程です」

勇者「なるほど」

マスター「それとですね、殺された者は全員人間統治賛成派なんですよ、全員」

マスター「持ってる情報はそれだけです」

これだけでもかなりの収穫だった。

犯人は気配を完全に隠蔽できる能力を有する、もしくは反応など出来ないほど神速で動ける者かのどちらかだ。

どちらにせよかなりの有力者だ。

勇者「助かった」

礼を言うと酒場を後にした。

前までパーティーだった者の内、とある二人をあたる事にした。

その二人の内の一人、騎士を訓練場で見つけた。

騎士「何だ勇者。この私に何か用か?パーティーは解消の筈だ」

勇者「お前ともう一人に用があるんだよ」

騎士「いいだろう。ついていってやる」

勇者「何も聞かないとは流石に騎士だ。驚くぜ」

騎士「私も忙しい身だ。断ってもしつこい貴様になら最初から従っておいたほうが時間を浪費しなくてもすむ」

勇者「それじゃあ、今度は教会へ行くぞ。僧侶を見つける」

~教会~

僧侶「それでは皆様、神に祈りを奉げましょう。神様いつも見守ってくださりありがとうございます」

孤児達「ありがとうございます」

僧侶「皆様、もういいですよ。それでは、頂きます」

孤児達「頂きます」

合図をすると一斉に孤児達が食事に食らいつく。

僧侶「そんなに急がなくてもご飯は逃げませんよー」

ガチャリ、ギギギギギ・・・。

扉の開く、大きく重い音が響いた。

勇者「僧侶、用があってきたぞ」

僧侶「ゆ、勇者様! 事前に連絡があれば私が向かいましたよ!?」

勇者「それは――」

騎士「お前には速さが無い。時間の無駄だ」

僧侶「そ、そ、そうですか」

騎士のストレートな物言いに僧侶は若干おびえる。

勇者「さてと、内密に話し合いたい。ついてきてくれ」

勇者の案内した場所は地下墓地だった。この地下墓地は聖域であり魔物は近づけず、人間は恐れ多く寄り付かない密会としては申し分ない場所だ。

勇者はあらかじめここで誰かと会話が出来るように机や椅子を用意しておいた。

ロウソクが小さく灯り、三つの影を大きく揺らしている。

向かい合うように机を並べた状態になっている。

勇者「話したいのはかなり重要度の高い情報だ。だから、こんな場所までお前らを呼んだんだ」

チラリと、ここに集めた二人の様子を伺う。

騎士は女性のような美しい顔を常に無表情という鉄仮面で覆っている。今も同じであまり変化が無い。

僧侶はまだあどけなさの残る顔に緊張を映している。それは、僧侶の真剣さを表していて勇者の話を聞こうと言う意思の形か。

勇者「実はこの町で切り裂き魔が出没している。王は混乱を招かないようにそれを隠匿しているが」

その切り裂き魔の詳細を包み隠さず話した。二人の様子には変化が無い。

勇者「俺にはこれの荷が重くてな。二人には手伝ってもらいたい」

騎士「なるほどな」

僧侶「そんな怖い人がいたんですね・・・」ブルブル

騎士「良いだろう。そいつがどれほどの奴か。俺と同等の速さを持つか貴様の話を聞くうちに興味がわいた。乗ってやる」

僧侶「これも、この町を守るためですからね!わ、私も、勇者様についていきます!」

勇者「お前ら。助かるぜ」

人間の中で最速は騎士、気配隠蔽が得意なのは僧侶だ。もし人間が犯人であるならこの二人なら可能性がある。

こうやって二人を引き連れ事件が起きないなら二人は無実。また、犯人が別にいるなら手がかりを掴めるとも考えた。

今日はここら辺で終わります。

サキュバスの風俗ってネタ他のSSにあったっけ?

二人のうちどちらかが犯人の可能性が高くて、一緒にいる間に事件が起きないなら無実じゃなくて有罪の可能性がたかまるんじゃ?

再開

>>20
失礼。文の打ち間違いでした。
事件が起きたら無実ですね、すいませんwwww

まずは、王から使わされた使者と合流しなければならない。

王の側近の一人で、事件について詳しく知っているらしい。勇者に事件の起きた場所などを教える案内役として従事してくれる。


使者「王様からの命令でこちらに赴きました。宜しくお願いします」

勇者「ああ、よろしくな」

そこで使者は、勇者の後ろに二人の影があることに気づいた。

使者「あの・・・、すいません。そちらの方々は?お一人ではなかったのですか?」

勇者「こいつらはかつての仲間で信頼できるんだ。だからついて来させた」

使者「はあ、そうですか」

訝しげな表情をしたものの、思いなおしたのか普通の表情になる。

使者「それでは、最初に事件現場に案内します。どうぞついてきてください」

使者に促がされ勇者達はついて行く。

使者「ここですね。大抵ここと似たような地形で事件が起こされています」

案内された場所は、建物に挟まれ一本道となった場所だ。

騎士「なるほどな。ここならば、俺であればどんな敵であろうと一瞬で殺せそうだ。速さに自信のある者なら戦いやすい地形でもある」

騎士がそういった。確かに、一本道でなら素早く駆け抜けることも容易だろう。

僧侶「で、ですが、人もいるでしょうし、人目についてばれるんじゃないでしょうか?」

使者「目撃情報は無い。よって、当時は被害者以外いなかった考えられます」

僧侶の疑問に使者が答えた。

勇者「おい、この場所では何回事件が起きたんだ?」

使者「既に四、五回ほど」

勇者「そんなに起きてるのか?じゃあここを警戒しておけばさっさと決着が着いたんじゃねえか」

使者「割ける人員も少ない状況です。他の場所の警備と併せればここを特別扱いできる訳がありません」

勇者「元々情報も少ないねえんだ。博打でも打ったほうが賢明だとは思うけどな」

使者「それも分かりますが、賭けに出るよりは広く守ることを目的にしています」

多少納得もいかないながら勇者は質問をやめた。

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