アイドルマスターSSです。
携帯での書きためがありますが,パソコンで転記しながらのんびり地の文にてお送りします。
わかる人には,タイトルだけでどのお店なのかわかるかもしれません。
それでは,よろしくお願いします。
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2015年12月某日,くもり。
寒さはそれほどでもありませんが,昼下がりを覆う鈍色の空は重く,冷たい雰囲気を醸し出しております。
道行く人々もどこか早足に見える季節となり,ビルの合間を吹き抜ける風にぶるりと小さく身を震わせながら,思ったのです。
嗚呼,お腹がすきました。
何か温かいものでも,と思って店を探しながら街を歩いておりますと,目に入ったのは赤と白が目を惹く看板に,どんと書かれた「天下一品」の文字。
視力の悪いわたくしではありますが,この双眸はぴたりと看板を捉え,離れようとはしてくれません。
はて,何の店なのでしょうか。
好奇心猫を殺すと申しますが,さあ天下一品とやら,この四条貴音を如何様にしてくれるのでしょう。
「大仰な名前が伊達ではないことを期待しておりますよ」
そんなわけのわからない上から目線の言葉を声に出して呟くほどに,わたくしの心は舞い踊っておりました。
何か,本能がわたくしを導いているように感じるのです。
店の前の立て看板が読めるくらい,店内が見えるほどに近づきますと,わたくしは自らの本能をこれでもかというくらいに褒め称えました。
嗚呼,らぁめんでは,らぁめんではありませんか!
堪え難い空腹に苛まれ,今にもきゃらくたぁというものをかなぐり捨てて走り出さんばかりであったわたくしには,この出会いが天啓にも天恵にも思え,感謝と喜びの年にうっとりと目を閉じました。
×感謝と喜びの年
○感謝と喜びの念
個人的にはすごく改行したいですが,どんな環境で目に留まるかわからないので文章途中での改行はなしで続けますね。
眼を開くと,なんと面妖なことでしょう,わたくしはカウンター席に座っていたのです。
催眠術や超すぴぃどなど,そのようなちゃちなものでは断じてありません,もっと恐ろしいものの片鱗を味わってしまいました。
お恥ずかしいかぎりですが言うまでもありません,わたくしの食欲です。
げに恐ろしきは人なりとはよく言ったものです。
光栄にも四条貴音のらぁめん探訪というう企画を任されておりますので,日頃かららぁめんには事欠きません。
しかし,それでいて,いつ何時もわたくしの心を捉えて離さないのがらぁめんなのです。
番組で食べているんだからせめておふのときには控えてくれ,と困ったように笑うプロデューサーの顔がちらりと頭をよぎりましたが,時すでに遅し,わたくしはもう店内におります。
これは企画の予習なのだと自分に言い聞かせ,ぷらいべぇとではありますが,四条貴音の裏らぁめん探訪と洒落込むことにいたしましょう。
上機嫌でそのようなことを考えておりますと,店員が注文を取りに近づいてきました。
この四条貴音,初めて出会うらぁめん屋では,その店の顔とも言える最も単純な品を頼むことを信条としています。
何故ならば,その品には店主の「最大公約数の満足」への自信が表現されていると考えるからです。
“こちらはこの一杯が一番皆を喜ばせられるものだと自負している,あとは卵なり焼豚なり,好みに合わせて楽しんでいってくれ。”
そんな気概が,その店のいわゆる普通のらぁめんには感じられるように思うのです。
おっと,つい自分の世界に入り込んでしまいました。
早く注文をしなくてはいけませんね。
四条貴音,参ります!
「らぁめんをひとつ」
言ってやりました,これ以上なく凛とした声で,表情で言ってやりました。
さぁ,寒気と空腹に震えるわたくしのことを満たしてみなさい。
「あっさりとこってりはどちらになさいますか?」
なんと,この店の普通のらぁめんには,あっさりとこってりの二種類があるとは。
とんだ勇み足です,迂闊でした。
そのようなことにも気づけずに舞い上がっていた我が身を恥じるとともに,眼前には究極の二択です。
らぁめんに貴賎なし。
あっさりとこってりにもまた,貴賎はないのです。
しかしわたくしは,選ばねばなりません。
どちらも食べれば良いではないか,という声もありましょうが,わたくしは選ばねばならないのです。
それが,この冷たく重苦しい空の下で果たした出会いへの誠意というもの。
嗚呼,ですがわたくしはどちらを選べばよいというのですか!
求められているのは我が身を冷静な眼差しで観察すること。
舌はどちらの味を求めているのか。
体調はどちらの味を欲しているのか。
空腹の胃はどちらの……,空腹の,空腹……。
「こってりのらぁめんを」
葛藤すること数刹那,決め手は空腹でした。
じいや,何事も飢えには勝てないのかもしれません。
わたくしはまたひとつなんらかの境地に近づけたような気がいたします。
今か今かと待ちわびて数分後,ついに天下一品のこってりらぁめんにご対面です。
鼻腔をくすぐる香りに,文字通り垂涎しないよう堪えるのも一苦労です。
それでは……
「いただきます」
いざ,存分に語らいましょう,天下一品殿!
レンゲを手に取り,まずはすぅぷを一口。
むむっ,見た目にも明らかではありましたが,こってりという言葉をもれなく体現しておりますね,なんと濃厚な……。
口の中に粒があるような錯覚すら覚えるどろりと濃厚な舌触り,これはもはや液体ではありません,半固体とでも言うべきでしょう。
すぅぷの強烈な口当たりに負けじとこってり濃厚なのが,味。
動物系の出汁なのでしょう,力強い野性味が塊となって舌上を絨毯爆撃しています。
このすぅぷに麺がからむと……。
ゴクリ,とわたくしの喉から音が聞こえてきました。
もう我慢などできそうにありません!
追い立てられるように箸を手にして,てらてらと黄金色に輝く麺をつかみます。
ずるる,ずるる。
らぁめんと言えばこの麺,といった趣の中太ちぢれ麺を人の目など気にせず豪快にすすると,そこに広がったのは蒼天でした。
その下に,赤と白の目立つ幟旗を掲げる男がおります。
風にはためくその幟旗に雄々しく映える天下一品の文字。
嗚呼,これが,これが天下一品のらぁめんでしたか!
ずるるという音と同時に,吸気が勇ましい香りを引き連れて鼻へ抜ける呼気と姿を変えて戦場を舞い,麺はたっぷりの濃厚なすぅぷとともに味蕾に攻め込んできます。
まこと,美味です!
しばしば麺がすぅぷと絡んで,という言い方をしますが,このらぁめんの場合すぅぷがどろりと麺を捕えて離さないと言うべきかもしれません。
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