マリン「よかった、目が覚めたのね」(36)

「…ここは…?」

マリン「コホリント島、あなたね、砂浜で倒れてたのよ!」

「俺は…砂浜…俺は…?」

マリン「名前が…もしかして、思い出せないの?」

マリン「うーん…あの人と一緒だね…」

「あの…人?」

マリン「そう、リンクっていうんだけど、あなたと同じで砂浜に倒れていたの」

「リンク…リン…ク…懐かしい名前だな」

マリン「あなたも、リンクかもね、あの人も耳がとんがってたし、手の甲に三角の痣があったし、ふふ、この島に流れている人はみんな、リンクなのかな?」

「はは、そうかもな、世話になった」ガタ

マリン「あ!どこに行く気?そんなボロボロの身体で!」

「俺が居たという砂浜はどう行けばいい?なにか分かるか…グッ」バタ

マリン「もう!言わんこっちゃ無い、ほら怪我人は寝てなさいって…重いのね、もう」ドサ

「面目ない…君がいなければ、命を落としていただろう」

マリン「マリン!」

マリン「マリンでいいよ、ほらもう少し寝てなさい」

「面目ない…」

「夕日…か」

マリン「あら、おはよう、なにか思い出せた?」

「夕日だ」

マリン「ふふ、気に入ってくれた。きれいでしょう」

「ああ…これも懐かしい…」

マリン「夕日?何か思い出せそう?」

「…面目ない」

マリン「なんだか謝ってばかりね、ねえ、夕食は食べれそう?」

「ああ、いい匂いだ、食いたい」

マリン「よかった、今日はきのこのスープなの、たくさん食べてね」

「うまかった…その…マリン」

マリン「なあに?」

「俺のこと…リンクと呼んでくれないか?」

マリン「よかった名前、思い出したのね」

「いや…だが…リンクという名前、言葉にうまくできないんだが、その…引っかかるんだ」

マリン「そうね、いつまでも『あなた』じゃ不便だものね」

「ああ、頼む」

マリン「わかったわ、リンク」

リンク「ああ、ありがとう」

マリン「うん、さあ!おなか一杯になったら、ゆっくり眠るのよ、ちゃんと怪我治してね、おやすみ」

リンク「ああ、おやすみ」

――

マリン「おはよう、リンク」

リンク「ああ、おはよう」

マリン「怪我の具合はいかが?」

リンク「マリンのおかげで…この通りだ」

マリン「うんうん。杖を使えば歩けるのね」

マリン「じゃあ、お手伝い頼んでも大丈夫かしら」

リンク「ああ、動きたくてしょうがないんだ、なんでもでこいだ」

マリン「じゃあ、あなたの薬を買いに行くから、お供よろしくね」

リンク「ああ、おやすい御用だ」

マリン「どう、久しぶりの外の空気は?」

リンク「あ…その…やはり良いものだな」

マリン「?」

四つ子1「あー新しいリンクだー」

四つ子2「マリン姉ちゃんとデート?デート?」

リンク「いや…その…なんだ」

マリン「あれ?知り合いなの?」

リンク「なんというか…その…」

四つ子2「うん、時々ね、キャッチボールしてくれたり、本読んでくれたりしてくれるんだ」

四つ子1「すっごくボール投げるのうまいんだぜー」

マリン「ふーん…怪我人がキャッチボールをねえ…」

リンク「いや、その、あ…面目ない、だが寝てるだけは辛くて…」

マリン「はあ…まったくもう、四つ子君達も気をつけてあげてね、あの人と同じで、すぐ無茶する人だからね」

リンク「は…はは…」

マリン「おじさーん、こんにちはー」

店長「おーう、いらっしゃい、マリンちゃん、とそいつが新リンクか?よろしくな」

リンク「ああ、よろしく頼む」

マリン「いつものちょーだい」

店長「はいよ、3つで10ルピーね」

リンク「ハート印の塗り薬か」

マリン「あら、知っているの?」

リンク「ああ、ツボの中や草むらに何故か隠されている、赤い特攻薬だ」

マリン「そうそう、あの人もボロボロになりながら、草刈ってたわ」

店長「まったく、店の前、穴だらけにしたりな」

リンク「はは、前のリンクという奴は変わり者らしいな」

店長「まいどありー」

リンク「なあ、マリン、一つ聞きたいんだが、」

マリン「どうしたの?」

リンク「あれは…あの卵の殻のようなものは」

マリン「うーん、あたしもよく知らないんだけど、割れる前は神様が住んでたらしんだ」

リンク「そうか…詳しく知りたいな、明日図書館にでも行ってもいいか?」

マリン「そうね、明日も具合がよかったらね」

リンク「……」

マリン「どうしたの?リンク?」

リンク「あれは…」

カラカラカラ

マリン「風見鶏?風を受ける鳥さん、気になるの?」

リンク「わからない、初めて見た気がするが懐かしい気がする、風を見せる鳥か、きれいだな」

マリン「そっか、リンクは風が好きなのね」

リンク「好き…か、わからないが、俺の故郷にも風が吹いていた気がする」

マリン「ふふ、おかしなこというんだね、風はどこでも吹くでしょう」

リンク「そうだな、ははは」

―――――――

マリン「すっかり元気になったのね」

リンク「ああ、もう洗濯も掃除もバッチリだ」

マリン「もう、リンクはマメな働き者だから、あたしの仕事なくなっちゃうわ」

リンク「はは、今日は海岸まで言ってみようと思うんだ」

マリン「うーん…まだ、危ないし、やめたほうがいいわ」

リンク「いや、何か手がかりが見つかるかもしれない、マリンが俺を担いで通れるくらいなら大丈夫だと…」

マリン「でも、あそこは慣れてないと…」

リンク「マリンがついてきてくれれば大丈夫じゃないか?」

マリン「今日は…その…どうぶつの…となり村に行かないといけないから…今日は」

リンク「なら、一人で慎重に…」

マリン「あーもう!お願い!まだ行かないで!その…時間が来たら、ちゃんと説明するから」

リンク「あ、ああ、そう、だな、すまない」

マリン「ううん、あたしこそ、大きな声出してごめんなさい…」

リンク「いや、無理を言った俺が悪い、そのとなり村についていっていいか?」

マリン「う、うん、もちろん!それじゃ…よろしくお願いしまーす」

リンク「ん?ああ、行こうか」



リンク「いい城だな」

マリン「きれいなお城よね、カナレット城っていったんだって」

リンク「いった?」

マリン「そう、昔は人が住んでいたのよ」

リンク「…そうか、城か…何か思い出せそうだな」

マリン「え?もしかして、リンクは王様だったとか」

リンク「はは、だといいんだが、多分違うだろう、そんな柄ではないだろう」

マリン「あら残念、王様に恩を売れたと思ったのに」

リンク「そうだな、王様じゃなくてよかった、行こうか」

マリン「リンク~!どういう意味~?」

リンク「王様になったら教えるよ」

リンク「ここが、となりの村か、結構というか距離はあったな」

マリン「うん、そうね、遠いんだよね」

リンク「村と聞いていたが…人が見当たらんな、家の中か」

マリン「やっぱり、リンクとおんなじこと言うのね」

ウサギ「あーマリンちゃん、ひっさしぶりー」

リンク「な!?ど、動物が!」

マリン「やっぱり不思議な人ね、動物がしゃべったくらいで驚いて」

リンク「すごい島だな…全く」

ウサギ「もしかして、歌いにきてくれたの?」

キツネ「そうだよね!そうだよね!こんなときこそ歌の力だよ!」

マリン「うん!今日はたくさん歌うね」

リンク「(家事の時の鼻歌は練習だったのか)」

――

マリン「ごめんね、結局夕方までうたっちゃった、長く付き合せちゃったね」

リンク「いや、いい歌だった」

マリン「お褒めの言葉ありがとう、風の魚っていうの、この島の神様と同じ名前なの」

リンク「風の魚か…曲名に恥じない、やさしい風を運んでくるようなメロディだった」

マリン「あら、意外と詩人ね」

リンク「意外は余計だな」

マリン「ふふ、帰りましょうか」

リンク「そうだな、今度は穴に落ちないようにな」

マリン「もう!いいじゃないの過去の事は気にしないの」

リンク「ずいぶんと近い過去を切り捨てるんだな」

マリン「過去を切り捨てないと、思い出に…おぼれちゃうから…ね」

リンク「…意外と詩人なんだな」

マリン「もう!仕返しのつもり?意外はよけいです!」

リンク「はは、悪かったよ、そうだな、帰ろうか」

マリン「うん、落ちないように…手つないでいい?」

リンク「…ああ」

――――

パパール「という訳で、前のリンクさんが楽器を揃えた後、卵が割れてちょっと前までは入れたんっす、けどね…」

リンク「くずれてしまったのか…調べられそうにない…か」

パパール「そうっすねー、もう海のほうには行ったっすか?って新リンクさんは海から流れてきたんすよねー」

リンク「いや、流れてきた時に気を失っていた…ようだ…」

パパール「んーそうっすかー、まあ、一応覚悟しといて欲しいっす」

リンク「覚悟?」

パパール「そうっすね、なんとういうか…まあ難しいっすね、実際に見て欲しいっす」

リンク「ありがとう、パパールさん」

パパール「息子によろしく頼むっす」

―――――

四つ子1「お兄ちゃーん、いいよ」

リンク「いくぞ、そりゃ」

四つ子1「ぎゃー、はやーい」

四つ子1「さっすがリンクー」

マリン「リンクー、こっちに来てー」

四つ子1「またデート?」

リンク「本当におませな奴だな」

マリン「そうよ、デートだから邪魔しないでねー」

リンク「はは、そういうわけらしい、またな」

四つ子1「ひゅーひゅー」

リンク「今日は?どうぶつの村?この前行った急流下りか?」

マリン「海岸、行こう」

リンク「…ああ」

マリン「その…びっくりしないでね」

リンク「…ああ」

――

リンク「……………」

マリン「……………」

リンク「…絶景だな」

マリン「…びっくりした?」

リンク「ああ、海が…空が…違うな、世界が途切れている、とでもいうのか?」

マリン「そうかもね」

リンク「かも?わからないのか?」

マリン「分かりたくないのかもしれないね」

マリン「…最初に居なくなったのはリンクだったと思う、その次にモンスターが減っていって、ついにいなくなっちゃった」

リンク「確かにここに来て一度もモンスターを見ていないな、平和な島だと思ったんだが…そうか…」

マリン「モンスターがいて危ないなんて嘘ついてごめんなさい、でもこれを見せるのは…あんまり…よく…よくない気がして…ね…」

リンク「わかっている、俺の為だって事くらい」

マリン「モンスターがいなくなった後…かな?」

マリン「誰かが居なくなったの」

リンク「誰か?」

マリン「その後誰かが、その後も誰かが、その後は四つ子の誰かがいなくなったの」

リンク「おい、マリン、待ってくれ!誰が消えたって…」

マリン「わからないの!」

リンク「!?」

マリン「居なくなった人のこと…誰も…覚えてないの…大切な人だった、その人が…記憶ごと居なくなるの…」

マリン「誰かが言ってたの、風の魚の夢が覚めたって、だからみんな夢の藻屑に消えるんだって」

リンク「…」

マリン「そのうち、きっとわだじも…だでにも思い出されづに…きえで…」

リンク「マリン…」

マリン「リングだげはね…そどからきだリンクだけは…皆、わずれてないの…」

マリン「だからね…島の外のひどなら…きっど、わだしだちのこと…わすれないど…」ギュウ

リンク「ああ…ああ…」

マリン「わだしが…ぎえても…おぼえでて…」ぎゅう

リンク「ああ…」ぎゅう

マリン「わだじぃぎえたくない…」

リンク「…消えないさ、消させないさ…」

マリン「うう…ええ…」

リンク「風が…冷たくなってきたな…帰ろうか…」

――――――――――――――――――――――――――――――

カラカラカラ

リンク「風向きが変わったな」









リンク「ふう…」

リンク「この島の寿命、というよりもこの時空の寿命が尽きるらしいな」

リンク「ふ、賢者共め封印に綻びがあったらしいな」

リンク「さあ、行こう、マリン」

リンク「君をこの世界の思い出にはしない」

リンク「ハイラルにつれて帰ろう」

リンク「この大魔王ガノンドロフがな」





カラカラカラカラカラカラ

ゼルダの伝説 時のオカリナ.9 
                FIN

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