僧侶「平和は人を弱くする」(162)

かつてある国に
未曾有の危機が訪れた。
魔物の大量発生
隣国の侵略
異世界からの来訪者
クーデター
それらに果敢に立ち向かった者達
やがて彼らは『英雄』と呼ばれるようになった…

~とある酒場~

ゴキュッゴキュッ

僧侶「ぷは~!昼間からのビールはどうしてこう美味いんですかね、魔法使いさん!」

魔「知らないわよ…静かに飲みなさい」

僧侶「いーじゃないですか、こちとら国の英雄サマですよ」

魔「かつての、ね」

僧侶「確かに今は平和も平和、あくびがでる程に平和ですからね」

魔「いいじゃない、これが私達の望んだ世界だったんだから」

僧侶「まぁそうですけど…なんていうか、日々に張り合いがないんですよね」

魔「はぁ?」

僧侶「命を賭けて戦い、明日はいないかもしれない仲間達と酒を飲み笑い合う…あの日々が忘れられないんです」

魔「はぁ…あんたって本当に根っからの戦闘狂なのね」

僧侶「なのかもしれません。そもそも、戦いがなければ私達なんか…居ちゃいけないのかもしれませんね」

ゴキュッ

僧侶「平和な世界に過ぎた力は必要無い…勇者様も言っていましたね」

魔「勇者、か…」

僧侶「どこで何をしてるんでしょうかね…」

魔「さぁね…知らないし、知る必要も無いわ」

ゴキュッ

僧侶「もう…そうやって強がるの、悪い癖です」

魔「ほっといて」

ゴキュッゴキュッゴキュッ

僧侶「…あの頃に戻りたいなぁ」

魔「また争いばかりの世界になってもいいっての?」

僧侶「それ、は…」

ンッ ハァ…

僧侶「心の奥では…もしかしたら…そう望んでいるのかも、知れません」

魔「あんた…」

僧侶「平和の為に…魔物を殺し、人間を殺し、異世界の生物を殺し…英雄ともてはやされ、さらに殺し…掴み取ったものは…何なんでしょうね」

魔「…誰かがそうしなければ、この国は滅んでいたわ。今の生温い平和があるのは、私達英雄のおかげ…でしょう?」

僧侶「誰もがそう言います、誰もがそう認識しています。事実なんです、事実なんです…だからこそ…私達は…今の私達は…」

魔「…あまり難しく考えない事ね。ほら、酔いつぶれて寝てしまえば…翌朝には綺麗さっぱり忘れているわ…」

グラス ドンッ

僧侶「…です、ね」

ゴキュッゴキュッゴキュッ

僧侶「…苦い、ですね」

魔「ええ…ビール、だもの…」

・ ・ ・ ・ ・

平和な世界に
武力はいらない。
魔王の居ない世界に
勇者はいらない。
争わない世界に存在する
過ぎた力は
やがて驚異となる。
驚異を恐れる者は、やがて
我が身可愛さに
争いを呼ぶだろう…

カキカキ

?「…ふぅ」

?「我ながら文才が無いな…もっとこう、スペクタルな感じに、かつ爽快感のある文章を…」

?「と、もうこんな時間か。そろそろ次の次元に渡らなくちゃ」

ヴォン

?「どうか世界が平和でありませんように…」

クスクスクス
ヴォン

・ ・ ・ ・ ・

とある小さな村に
かつての英雄
勇者と呼ばれた男がいた。
やせ型で気弱そうな
勇者のイメージとは程遠い、その男は
この村でひっそりと暮らしていた。

勇者「ふぁ~あ、朝か」

ムクリ

勇者「いやー意味も無くスマホをいじっていたらつい夜更かししちゃったなぁ…いけないいけない」

勇者「もう少し寝ていたいけど、畑の手入れを怠ると後で大変だからなぁ…」

勇者「東の畑は土壌が弱い。隣村から肥料を貰ってこなくちゃ」

テクテクテク

勇者「隣村に着いた」

村人「あっ、勇者さん」

勇者「ども」

村人「何かご用で?」

勇者「肥料を貰いたいんだ。鉱石と交換して欲しいんだけど」

村人「あぁ、それならババ様の所へ行くといいですよ。あの藁の屋根の家です」

勇者「そうか、ありがとう」

テクテクテク

勇者「せいっ」

トビラ ケリー
バゴォォォン

勇者「ババ様ってのはいるかい?」

ババ様「…いかにも儂がババ様じゃよ」

勇者「肥料をくれないか。鉱石と交換だ」

ババ様「ほぅ、鉱石…なかなか気前がええの」

勇者「うちの村じゃよく採れるんでね」

ババ様「よかろう。儂の作る肥料は上質じゃ。作物がグングン育つじゃろうて」

勇者「さよか」

ババ様「ほれ、麻袋三つ。一袋で50平米くらいには効果があるじゃろうて」

勇者「ほな同量の鉱石でええか?」

ババ様「ほっほ!十分過ぎるわい。これはこれは有り難いことじゃ」

勇者「ほな…これで…貰ってくで」

ババ様「まいどありじゃ」

勇者「じゃあの」

テクテクテク

勇者「畑についた。さっそく肥料を撒くで」

ガサッ
プワァァァン

勇者「うわっくっさ!肥料くっさ!」

ボワ~

勇者「鼻がひん曲がるぜ」

シロメ グルンッ
バタリ

勇者は気絶した。

勇者は気絶している。

・ ・ ・ ・ ・

勇者は気絶している。

・ ・ ・ ・ ・

勇者は気絶している。

・ ・ ・ ・ ・

勇者は気絶している。

・ ・ ・ ・ ・

勇者は

勇者は

勇者は、覚醒した。

そう!あまりの肥料の臭さに
鼻が強制進化した事により
骨格がなんやかんやなって
脳になにかしらの影響を与え
人類の先の先へと到達したのである!

勇者「ふぅ…体からエネルギーが溢れる…この世の全てが理解できる、ような気がする…俺…いや、私は新たな種…新人類となったのだ!」

フクビリビリビリ

勇者「もはや着衣などいらぬ。裸こそ全知全能の証!」

勇者「この世界にのさばる愚かな旧人類…私に支配されるべきだ…違うか?」

勇者「だが心優しい私は、旧人類の中から容姿が整った女だけは愛でてやろうと思う」

勇者「ゆっくりねっちょり愛でて…新人類の繁栄に協力させてやろう。光栄に思え女共…股を濡らして待っているがいい!」

チンボッキ

勇者「と、まずは畑の手入れをするか…いくら私が新人類になったとはいえ、野菜の摂取は不可欠ゆえに」

ガサゴソ

勇者「土を掘り返し、肥料と混ぜ…大きな石は砕き、よく混ぜ…取っておいた米のとぎ汁、卵の殻、よく分からない白いもの…混ぜ、混ぜ…」

勇者「さらに追加で、よく分からない白いものを混ぜ…おまけによく分からない白いものを混ぜ…もう十分にも関わらずよく分からない白いものを更に混ぜ…」

グチョビチョ

勇者「良質の土になりました」

勇者「ここに植えますは、私の大好きな人参!人参の甘さにヘドがでる人もいるらしいが、私はその甘さが好きだ!大好きだ!」

勇者「ではさっそく、どこからともなく取り出した人参の苗を…植え…植え…」

クルクルッ
ッタッタ
タターン

勇者「植えーーーる!」

ニカッ

勇者「人参…植える…」

ブツブツ
ザクサク

勇者「ふぅ。終わった」

土「おつかれさん」

勇者「あぁ」

土「ええ人参育てるで、期待しときや」

勇者「頼んだよ」

土「しっかし、君はホンマに人参好きなんやねぇ。人参しか植えてないやん」

勇者「ハハッ、いいじゃないの」

土「ダメよ~ダメダメ」

勇者「いいじゃ、ないのぉ」

土「ダメよ~ダメダメ」

勇者「いいじゃ、ないの」

土「ダメよ~ダメダメ」

土「ダメよ~ダメよ~ダダダダダ…」

土「…」

勇者「ん?」

土「…」

勇者「おい、どうした土!」

土「…」

勇者「おかしい…急に土の声が…」

勇者「それだけじゃない…風の声もだ…精霊の声が…聞こえない!?」

勇者「これは、私の神力が弱まっているのか…まさか、アイツの封印が…解けかけているのでは…」

勇者「…破滅神ハーディリア!」

・ ・ ・ ・ ・

~とある洞窟~

探検家「怪しい洞窟来ちゃったな~やだな~怖いな~」

テクテク

探検家「立ち入り禁止の看板を無視してここまで来たけど、止めときゃよかった」

ガッ

探検家「うおっ、小石に足が引っかかっ…」

コケッ
グラッ

探検家「痛た…こけた。こけた拍子に何か石みたいな物が…」

ズズズ…

ズズズ…
ズモォォォォォォ…

探検家「何だか危険な雰囲気…」

ズモォォォォォォ…

探検家「何かを封印していたとか…いや、まさかな。そんなはずは無い…よな」

アトズサリ

探検家「し、知らないぞ!俺は何も知らない!」

ダッダッダ

ズモォォォォォォ…
ボヤァ…
ヌポォ…

ザザザッ

?「…」

ヌゥッ

?「…これは…我は…一体…」

ズキッ

?「っ…よく分からぬ。ここはどこなのじゃ…?」

?「我は…そう…下等な人間共に…」

ズキッ

?「そうじゃ…忌々しき英雄共…そして、勇者に…我は…」

ズキッ ズキッ

?「確か強奪の水晶を使われて…我の神力は奪われたのじゃったな…そしてそこを魔法使いの女に封印された…」

?「だが我は目覚めた…何故じゃ?」

チラッ

?「これは封印石…そうか、何者かがこれを…ふふふ、愚かなり人間!」

?「そしてこれは思いがけない好機…目覚めてから実に気分が良い。世には破滅を望む者が大勢居るようじゃな…」

?「我は破滅を司る者。破滅を望む意志が我の力となる」

?「そう、我は破滅神」

?「破滅神・ハーディリア!」

ぷぅ~

?「力んだら屁が出てしまったわい…」

・ ・ ・ ・ ・

かつて神がいた。
数多の神のうち、最も危険で残忍
その名は破滅神ハーディリア。

破滅を司るハーディリアは
人々の絶望に歪む声が
人々の悪意に満ちた願いが
人々の滅びゆく様が
たまらなく好きなのである。

あまりの非道っぷりに
とある国の王は
七人の英雄を差し向けた。
うち四人は命を落とし
残った勇者、僧侶、魔法使いは
満身創痍ながらも何とかハーディリアの封印に成功したのだった。

それからなんやかんやあって
勇者はハーディリアから奪った神力により
万物と会話する能力を得たのだった。

だが所詮借り物の神力。
本家本元の破滅神が復活したのだから
その神力は持ち主に返ったのであった。

どうする勇者!?
神力が無ければ土と会話ができない。
美味しい人参を栽培するには
土との会話が不可欠だ。
このままでは
美味しい人参を育てる事は
出来ないぞ…!?

(続く)

~前回のあらすじ~

破滅の神、ハーディリアの封印が解けたっぽい。

・ ・ ・ ・ ・

~畑~

勇者「ふぅ」

ケダルサー

勇者「人は何故戦争などするのだろう…」

勇者は 心地よい倦怠感に つつまれていた!

勇者「このまま泥のように眠りたい…」

バタリ

勇者「…いや、駄目だ。破滅神ハーディリアが目覚めたかもしれないんだ。それを確かめなければ」

勇者「まずはハーディリアを封印した洞窟に行ってみるナリ」

勇者「その前に、近くのコンビニで飲み物とお菓子を買っていくナリよ」

勇者「楽しみナリ~」

楽しみらしい。

・ ・ ・ ・ ・

それからなんやかんやあって
勇者は単車で洞窟へ向かった。

勇者「ここだ。いつ見ても不気味な洞窟だぜ」

ガチャッ

勇者「ここから先は徒歩だな。グレートサイクロン号はここに置いていこう」

テクテク

勇者「少し冷えるな…何か羽織るものを持ってくれば良かった」

勇者は肌寒さを感じていた。
何故なら裸だから。

勇者「この道を左…そして右…ぐるっとまわった先の抜け穴…」

テクテク

勇者「…うん、ここだな」

ゾクッ

勇者「いっそう寒くなってきたな」

勇者「たしかこのへんに封印石があった筈だが…」

テクテク
キョロキョロ
クエックエックエ
キョロチャーンデシュ…

勇者「おっ、あれか…ムムッ!?」

ダダダッ

勇者「封印石が…動かされている…これでは…これでは!」

クルクルッ
ダダダッタ
ピシッ クルッ
チラッ ピシッ ピシッ
バァ~ン…
キメッ!

勇者「ハーディリアの封印が解けているに違いない!」

勇者「いったい誰が封印を…いや、今はそんな事より…」

ゴゴゴ…

勇者「むっ、地鳴りか」

ゴゴゴ…

勇者「いかんな、今にも崩れそうな予感。私の嫌な予感はよく当たるんだ。昔、吊り橋を渡ろうとした時も、嫌な予感がした。案の定吊り橋の真ん中あたりの板が腐っていた。あの時吊り橋を渡っていたら間違いなく落ちていただろう。そうだ、私の嫌な予感はよく当たるんだ…昔、いや、つい二日前だって…」

そうして
勇者は独り言をブツブツ言い出した。
それはとどまることを知らず
いつしか
そう、いつしか
幾千もの時が流れた。
新人類になった勇者には
時の流れの感覚が常人とは違うものとなっていたのだ。

気がつけば勇者は
何もない
本当に何もない空間に
ひとり、残されていた。

【続く】

~前回のあらすじ~

勇者はひとりぼっちになっていた。

勇者「なんだよ…なんにもないべや…」

ボロボロ

勇者「人は…世界は…どこに…」

勇者「計り知れない長い時が流れたら…世界は…『無』になってしまうのか…」

勇者「嫌だ…何もない暗い空間…音はどこだ…光は…温度は…どこにある…?」

勇者「なんにも…ない…なん、にも…」

ガックリ

勇者「ない…」

勇者「新人類になって得たものが…これか…こんなものの為に生まれたんじゃない…っ!」

勇者「私は…私はただ、美味しい人参が…食べたかっただけなんだ…ただ、それだけなんだ…」

勇者「このまま絶望に溺れ、朽ち果てるのを待つだけなのか…」

キッ

勇者「何も分からないまま終わる…そんなのは…嫌だ!」

ザザッ

勇者(何者かの気配!)

ボヤ~

?「やぁ」

勇者「え、あ…ひ、人?」

?「うーん、人とは違うんだけど、君以外にこの空間に存在している生物って意味では、まぁそうだろうね」

勇者「どういう事だ。果てしない時の流れにより無となった世界で生きていられるのは、新人類である私だけのはず…」

?「うーん、そういう訳でもないんだよねー。と、そんな事よりさ」

勇者「?」

?「今、絶望してる?」

勇者「え…?」

キョトン

?「…」

クスッ
クスクスクス

?「あはは、だよね。にしても今の表情、いいねいいねぇ」

クスクス

勇者「貴様…私を愚弄するか!」

?「あー違う違う。いちおう確認しただけ。本題はここからさ」

?「こーんな何も無い世界、嫌だよねぇつまらないよねぇ?」
?「できる事なら、『やり直し』たい、よねぇ?」

ニマァ

勇者「やり…直す…?」

?「そう。あの時ああしていれば、なんて後悔は誰にでもあるだろう?それをさ、やり直すのさ。それが出来たら、素晴らしくないかい?」

勇者「馬鹿な…そんな事が…」

?「出来る、って言ったら?」

勇者「…は?」

?「僕はさ、まぁ割と何でも出来てね。何でも出来るからつまらなくてさ、器用貧乏ゆえの苦悩っての?」

?「だから、おもしろそうな事にはこうやって首をつっこんでるのさ」

勇者「あんたは…いや、貴方は…神…なのか…?」

?「神ぃ?あんな分からず屋の石頭とか冗談!そうだねぇ…僕を定義するなら…」

?「『混沌』あたりがいいんじゃないかなぁ」

勇者「混沌…」

混沌「そう。僕は概念。そういう事象そのものなのさ」

クスクス

混沌「さぁ、じゃあさっそく始めよう。君のやり直しの旅の始まりだ」

勇者「やり直しの旅…」

混沌「で、だね。いっそやり直すなら」

勇者「うん?」

混沌「『英雄』なんてのが生まれる前からにしたいよねぇ?」

・ ・ ・ ・ ・

突如現れた、混沌。
彼、いや彼女か
いや、もしかしたらついてるかもしれないし
ついていないかもしれない。
そもそも、ナニがついているから男とか
ついていないから女とか
最初に言いだしたのは
誰なのかしら
駆け抜けてゆく
私のメモリアル!

【続く】

~前回までのあらすじを全力全開で説明~

新人類となった勇者は
なんやかんやで一人になった。
さらになんやかんやで
過去をやり直す事となった。

・ ・ ・ ・ ・

混沌「では、君の意識を過去の君に転送するよ」

勇者「はいぃ?」

混沌「タイムリープみたいなものさ。肉体ごと過去に送る事は、さすがの僕もできないからね」

勇者「何だかよく分からんが、分かったぜ」

混沌「じゃあいくよ…ハンニャーホンニャー脳味噌バビョーーーーーン!」

パラリラリラ!

勇者「おぉ…なんだか体がぷるぷるしてき…」

ググンッ

勇者「ぬぉっ!?頭が…痛い…大丈夫な、のか…これ…」

混沌「三割くらいで死にます」

勇者「ちょ、三割とか勘弁」

混沌「まぁ気にせず気にせず」

ググンッ

勇者「あ゛あ゛い゛!頭い゛だい゛い゛い゛!」

ググンッ

勇者「バファリーーーン!」

アタマパッカーン

勇者「…」

混沌「あらら」

勇者「…」

混沌「もしもーし、死んじゃった?」

勇者「死んだ」

混沌「あらら、つまらないなぁ」

ツンツン

混沌「意識転送くらいには耐えてくれなきゃあ困るなぁ…」

混沌「仕方ないなぁ、特別サービスだよ?」

パラリラリラ!

混沌「状態復活、意識コピー…電子化…と」

ヴォン

混沌「よし、これで勇者君の情報は電子化された。USBにでも保存しておこうか」

勇者「…」

混沌「で、もうこの死体に用は無いね」

ユビ フイッ
ボワッ
メラメラメラ!

混沌「汚物は焼却だよ」

混沌「あはははは!やっぱり人間はよく燃えるなぁ!」

メラメラメラ!

混沌「肉の焦げる臭い…これだよこれ!あはははは!あはははは!」

メラメラメラ!

混沌「はは…は」

混沌「飽きた」

混沌「さて、本題に戻ろうか。この勇者君の意識データを、過去の勇者君に転送…と」

パラリラリラ!
ビュワン

混沌「さー楽しい楽しい過去改変の始まりだ」

クスクスクス

混沌「どうか世界が平和でありませんように…」

・ ・ ・ ・ ・

ついに始まった勇者のやり直し。

英雄と呼ばれる以前にさかのぼり

彼はどんな道を歩むのだろうか…

【続く】

~前回までのあらすじを手短に~

勇者の意識は過去の勇者に転送されたが現在の勇者は肉体を燃やされ汚物は消毒なのでなんら問題はないから過去をやり直すのである。

・ ・ ・ ・ ・

~かつての、とある国…とある村~

粗末な小屋に少年が一人。
彼が、後に英雄と呼ばれる
勇者そのひとである。
彼に、今まさに
未来から転送された勇者の意識データが
インストールされつつあった…

勇者「zzz…」

キュィィン
グワングワン ペロンチョ ムポッキュン
モッサン! ゴッサン!

勇者「…!」

パチッ

勇者「そうか、ここは…私は…いや、俺は…あの時の俺か」

ガバッ

勇者「いい気分だ。それに体が軽い、これが若さか」

勇者「俺がまだこのボロ小屋に住んでいるという事は…まだ国が平和な頃だな」

勇者「今のうちに準備をしなくては。魔物の大量発生、隣国の侵略、異世界からの来訪者、クーデター…あらゆる危機がこの国を襲う…それに対抗する為に…」

ハッ

勇者「い、いや、違うぞ…それでは同じ事の繰り返しだ…俺は…英雄などにはなりたくない!」

勇者「国を護るために戦ったが、その実国に利用されていた…そんなのはもう嫌だ」

勇者「だが誰かが戦わなければ国は滅ぶ…俺は戦いたくない…どうしたものか」

勇者「…それに、俺と共に戦った仲間達…あいつらが英雄になるのも防ぎたい」

勇者「国の事は後回しだ。まずはかつての仲間…七英雄と呼ばれる前の皆を探し出すか」

勇者「と、その前に」

ヌギッ ボロン

勇者「日課だ」

・ ・ ・ ・ ・

※※※しばらくお待ちください※※※

・ ・ ・ ・ ・

勇者「ふぅ」

勇者「懐かしいオカズに、ついつい爆球連発してしまった」

勇者「なんだか眠くなってきたな。とりあえず寝るか」

バタリ グッスリ

勇者「zzz…」

寝た。

【続く】

・ ・ ・ ・ ・

~七英雄とは?~

かつてある国を未曾有の危機が襲った。
それらに対抗し、国を救うために戦った者達の事を指す。

勇者
魔法使い
僧侶
剣士
オーク
オーク
オーク

彼ら七人の勇敢な戦いぶりは
国民に希望を与えた。
やがて彼らは『英雄』と呼ばれるようになった。

自称選ばれし者の血を引く男、勇者。

独学で魔法を極め、五歳の頃には既に国の魔法学校を卒業してしまった攻撃魔法のエキスパート、魔法使い。

回復魔法はもちろん格闘術にも長けた戦闘狂、僧侶。

海を越え遠い国からやって来た剣の達人、剣士。

あとオーク三兄弟。

ひょんなことから仲間となった彼らは
戦いを通し絆を深め
やがてかけがえのない仲間となった。

彼らのうち
剣士とオーク三兄弟は
後に破滅神ハーディリアとの戦いで命を落とすこととなる。

過去にさかのぼった今、彼らはまだ生きている。
英雄などにならなければ死なずに済む。
その為に勇者は是が非でも
彼らを救わねばと決心していた。

勇者「zzz…」

パチッ

勇者「さて、休息はここまでだ。そろそろ行動しなければならん、これがな」

ガサゴソ

勇者「とりあえずパンツとズボンを履くか。下半身を剥き出しにしたままで成し遂げられる過去改変ではあるまいよ」

現在の勇者の服装、Tシャツのみ。
下は、もろだし。
そう、もろだしなのである。

勇者「まずはパンツを…早く履かないと…そうだ、早くだ。今この状況を誰かに見られたら大変に違いない。だから早く履かなければならんのだ、パンツをな」

勇者「だが待てよ、パンツは…どこにある?つい先ほど脱ぎ捨てた筈のパンツは…一体何処にいった?おかしい…何かがおかしい。俺はそれほど遠くに脱ぎ捨てたつもりはない。ゆえに、近くにパンツがある筈だ、なのに…無い。解せぬ…実に解せぬ…まるでパンツがひとりでに何処かへ飛んでいったかのやうだ…」

勇者「くうっ…」

ボロボロ

勇者「誰か…誰か助けてください!」

コシグルンッ ブルンブルン

勇者「誰か俺にパンツを…パンツを!」

ブルンブルン

勇者「このままでは股間を雨風にさらさなければならなくなる…そうなれば!」

勇者「常に刺激されたマイサンは…イキッぱなし必至!!」

勇者「パンツ…パンツ!」

ボロボロ

勇者「ひっぐすっ…ちくしょう…ちくしょう…パン、ツ…」

コンコン

?「勇者ーいるー?」

勇者「なっ…このタイミングで来客!?」

?「いるのー」

コンコン コンコン

?「寝てるのかな、勝手に入るわよー」

ガチャ

勇者「ま ず い !」

ドア キィ…バタン

?「なぁんだ、いるんじゃない…」

ジーッ

?「…」

勇者「よ、よぉ…魔法使い」

魔「…」

勇者「…」

魔「は、は、は…はだ…はだっ…」

勇者「…」

魔「裸じゃないのー!!!」

バクハツマホウ ドガァァァン!

勇者「ぎいやあああああ!」

・ ・ ・ ・ ・

勇者「酷い目にあった」

ボロッ

魔「ごめん…てか、あんな格好でいるあんたもあんたよ!」

勇者「自分の家で裸になって何が悪い。シンゴーシンゴー」

魔「うっ、まぁその通りだけど…」

勇者「で、なんか用か」

魔「それよりまず何か履いてくれないかしら」

勇者「と言われてもなぁ…何故かパンツが見あたらなくて」

魔「代わりのものはないの?」

勇者「代わりのものかぁ…えぇと」

キョロキョロ

勇者「あっ、あれなら何とかなるか」

テクテク ムンズ

TENGA「ひゃあっ!?」

勇者「たまたまTENGAを出しっぱなしにしていて助かったぜ」

TENGA「なっ、何なのよ…まさか私にエロい事するつもりね…コンビニの青年誌みたいに!コンビニの青年誌みたいに!」

勇者「あぁ、その通りだ」

ニギッ

TENGA「あっ…」

勇者「ファイナルフュージョン…」

魔「承認!!!」

ヌポッッッッッッッッッ!

勇者「テンガァァァァァァ!」

テテテ テテテ テーテテーテ
テテテ テテテテ テテテーテ…

勇者「これで局部は見えぬ。問題は解決した」

魔「じゃあ本題に入るわよ」

勇者「ヌッシャ!」

魔「最近、この辺の魔物の被害が増えてきている気がしない?」

勇者「そうだなぁ。それに内容も酷くなってきている気がする」

魔「でしょ。そんな気がする気がしている気がするのよね…何かの予兆の気がするわ」

勇者「確かにそんな気がする」

魔「ゴブリンが畑を荒らしたり、ゴーストが人を脅かしたり、オークが女騎士を犯したり…今まではそんな小さなトラブルしかなかったもの」

勇者「最後のは小さなトラブルじゃないだろ…」

魔「あら、オークが女騎士を犯すのは当たり前でしょう。あたり前田のクラッカーでしょう」

勇者「それ通じる年代いるかなぁ…」

魔「話を戻すわ。最近はゴブリンは暴力事件、ゴーストは痴漢、オークはレイプ…トラブルの規模が大きくなっているわ」

勇者「いやオークやってること同じ」

魔「私が思うに、魔物が凶暴化しているんじゃないかって」

勇者「魔物の凶暴化か…だが原因は何だ?」

魔「恐らく…魔王の誕生が近いんじゃないかしら」

勇者「魔王ねぇ…今時そんなおとぎ話みたいな存在が…」

魔「確かににわかには信じがたいわ。でも、いつかそんな存在が現れても不思議じゃない…」

勇者「…『王女の予言』か。俺ぁあの方を崇拝してはいたが…あの予言だけは信じる事が出来ないねぇ」

・ ・ ・ ・ ・

~王女の予言とは~

この国の王女は若くして病気で亡くなった。
その死に際に、魔物を率いる魔王なる存在が現れるという言葉を残した。
それが王女の予言である。
この時代、魔物はいるがそれを率いる長のような存在はいなかった為
予言を信じる者は少なかった。

勇者「魔王なんてのが現れるなんて、ぶっちゃけありえない」

魔「皆、そう思っている。そうやって、ありえないと決めつける。軽視の先に待っている危機を知りもしないで…」

勇者「お前は魔王が現れるなんて信じているのか?」

魔「…えぇ。魔王は必ず現れる。そしてこの国の驚異となるわ」

勇者「…やれやれ、話にならないな」

魔「お願いよ勇者、私を信じて。この国が危機に陥った時、誰かがそれに立ち向かわなければならないの。それは…あんたしかいないわ」

勇者「…」

勇者(はぁ、思い出したぜ。こうやって魔法使いに言われて、なし崩し的に英雄なんてものになっちまったんだったな…)

魔「ちょっと勇者、聞いているの!」

勇者「…っるせぇな」

魔「なっ、何よその言い方!ひどくな

勇者「おしゃべりな口は…こうしてやる」

ガバッ グイッ ブッチュゥゥゥ!
ズキュゥゥゥゥゥン!

魔「~~~!?」

魔「…」

魔(え、なに、これ…)

ブルッ

魔(嫌…気持ち悪い…こんなの…)

ガクガク

魔(気分が…このままじゃさっき食べたシーフードヌードルが…)

ウブッ

魔(逆流してしま…)

ドポン

魔(う゛え゛え゛え゛え゛え゛)

勇者「!」

勇者(何だ…口内に魚介の風味が…いや、これは!まさか、そんな!だが間違いない…これは…これこそは!)

ドポン ウバラッシャァァァ

勇者(う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁナッショナルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!)

・ ・ ・ ・ ・

※しばらくお待ちください※

・ ・ ・ ・ ・

勇者「…」

魔「…」

勇者「で」

魔「…」

勇者「わーったわーった。やってやるよ」

魔「!」

勇者「魔王ってのが本当に現れたら、叩っ斬ってやる。俺がやるのはそれだけだ、いいな?」

魔「ありがとう、勇者…」

勇者(しょうがねぇやな。魔王をほっとくわけにはいかないし…まぁここまで演技しといてなんだが、俺ぁ魔王が本当に現れる事を知っている訳だしなぁ)

勇者(必要以上に過去改変をしないよう、できるだけあの頃と同じような対応をしてみたが…恐ろしいな、まったく同じだ…発言内容が…一言一句違う事無く、な)

勇者(何かの本で読んだことがある。決定した事象は、たとえやり直したとしても同じ様な事象になるって…過去は変えられない、過程は変わっても結果は同じだと…)

勇者(なら、過去改変なんてのは、できやしないのか…?)

勇者(結局俺は…俺達は英雄になっちまうのか…?)

勇者(いや、そんな筈は…あるしかない、やるしか、ないんだ)

魔「ちょっと勇者…黙っちゃってどうしたのよ…」

勇者「ん、あぁ…なんでもないさ」

魔「…何か、隠してる?」

勇者「!」

勇者(まったく…昔から察しのいい奴だよこいつは…)

勇者「なんでもない…お前が心配するような事は、何も無いさ」

魔「ふーん…ならいいけど」

ジーッ

勇者(うっ…こりゃまだ疑ってるな。しっかしなぁ、今の状況をうまく説明する自信がないしな)

勇者「まぁなんだ、俺に任せておけ」

魔「…うん」

勇者「今日はもう遅い。帰って寝ろ。明日は国営の酒場に行くぞ」

魔「酒場…」

勇者「なにはともあれ戦力になる仲間を集めなきゃな」

魔「確かに」

勇者「仲間を集めるなら酒場と決まっている。てな訳で明日は朝早く出るからな、しっかり寝とけよ~寝とけよ~」

魔「ウッス、寝るっす」

ダッタッタ

勇者「帰ったか」

勇者「いろいろあったが、ようやく一段落したな…」

モゾ

勇者「これで落ちついて…」

コカン イジイジ

勇者「ゥオゥナァヌィィィ」

勇者「に」

勇者「集中」

勇者「で!」

勇者「き!」

勇者「る!」

集中したらしい。

【続く】

・ ・ ・ ・ ・

~前回までのあらすじ~

魔法使いは魔王の出現を危惧し
勇者に立ち上がるよう懇願した。
なんやかんやで勇者は
魔王が現れた際には倒すことを約束したのだった…

・ ・ ・ ・ ・

勇者「心地よい疲労感に包まれたなら、きっと…」

バタリ

勇者は日課を終えたので寝た。

勇者「zzz…」

寝た。

・ ・ ・ ・ ・  

朝。

勇者「zzz…」

勇者「…!」

ガバァッ

勇者「ンナッハ!」

ゴロゴロゴロ バゴンッ

勇者「痛てててててててて…」

勇者は豪快な寝起きなのである。

勇者「っつぅ…壁にぶつかった衝撃で肋が何本か折れた」

ズキッ

勇者「ぐぅっ…痛み…」

勇者「だが痛みは…自分(てめえ)が生きている証だ…傷つき…痛みを知っているから…存在していると実感できるんだ…くぅっ…」

ズキッ

勇者「痛みがなんだい…苦痛がなんだい…本当に痛いのは…苦痛なのは…諦めた時…自分には何もできないと決めつけてしまった…時だぁぁぁ!」

ガバァッ

勇者「俺は今、生きている!」

グォッ

ブリュッ

勇者「力みすぎて…夏…」

・ ・ ・ ・ ・

ゴウンゴウン

勇者は汚れたパンツを洗濯機で洗濯していた。
そう、洗濯機で洗濯していたのだ。

勇者「パンツの洗濯が終わるまで、またしても下半身丸出しだ…まったく、露出狂じゃああるまいし」

クルッ ビタン

勇者「だが存外悪くない、これがな」

勇者「ビタンビタン体操、第一~」

グルンッ ビタン グルンッ ビタン

勇者「腰をひねりながら肉棒を振り回す運動」

ビンッ フニャッ ビンッ フニャッ

勇者「ふっくらしたりやわらかくなったりする運動」

グググ グググ グググ

勇者「ひたすら固くなる運動」

グググ グググ グググ

勇者「ははっ、コクーン」

グググ グググ グググ

勇者「かたくなる…かたくなる…」

グググ

勇者「鉄より…ダイヤモンドより…なにより!」

グググ ピキッ

勇者「!」

そう、固いは、脆い。
ダイヤモンドは砕けない?
いや、砕けるのである。

勇者「俺の肉棒…が?」

ピキッ パキパキパキ…パリィンッ!

勇者「砕けた!」

パラパラパラ…

勇者「粉微塵…?」

勇者「嘘…だろ…」

ガクッ

勇者「嘘…だって…誰か…言ってくれよ…」

ウッ ウェッ…ウェッヒ…

勇者「ひぐっ…うっぐぅ…ちくしょう…こんなのってないぜ…ちくしょう…」

勇者「できるなら…過去に戻って肉棒がある頃に…戻りたい…だがそんな事…」

?「できるよ」

勇者「っ!」

ガバァッ

勇者「こ、混沌…!」

混沌「久しぶり、てか何やってんのさ」

勇者「見ての通りだ…俺の肉棒がよ…肉棒がよ!」

混沌「へぇ、粉々に砕けているねぇ」

勇者「だろ?」

混沌「ここまで粉々になるなんてねぇ…ふぅん…」

ヒョイ ペロッ

混沌「へぇ…甘い」

トロォン

混沌「…」

ボャァ

混沌「何だか変な気分だ…」

ドクンドクン ムラムラ

勇者「お、おい…どうしたんだよ…」

混沌「ンフフフフ…」

勇者「なんかやばいぜ」

混沌「ふんっ」

チチ ボイーン コカン フックラ

勇者「い゛い゛っ!?」

混沌「僕は存在概念…性別など無意味」

勇者「だからって巨乳と巨根の夢の(夢の)コラボレーションは…」

イラッ

混沌「うるさいなぁ…そんなうるさい口は…こうだ!」

ズモォッ ヌポッ

勇者「ングッ」

カポッカポッ

混沌「ははは、大人の黒髭危機一髪さ」

勇者「ングッングッ」

混沌「あったまってきた…さぁて、ここからが本番です」

勇者(一体何が始まるんだ…)

期 待 大 !

混沌「さぁて、ここからどうなる?いや、どうなりたい?」

シタナメズリィ

勇者「あ、う、まな…おれは…」

ガクガクガク

勇者「に、く…肉奴隷になり、たぁ…い…」

シロメグルンッ
アワブクブク

勇者「肉奴隷になりたい!」

混沌「その願い、聞き入れた」

グイッ
フタタビ ヌポッ
カポッカポッ
カポッカポッ

勇者「ングッングッ」

勇者(支配…支配支配支配!)

ガクガクガク
ジョロロロロ
ブリブリッ

勇者(あ゛、あ゛、あ゛、ふ゛)

勇者(体のかかか感覚が無くなってきた…いや、大気と混ざり合い…一体となり…爆ぜる…)
勇者(このまま俺は…)

勇者(俺は…)

勇者(俺…)

キィィン

『王女の名の元に…今この時より、貴方達を英雄とする!』

『ねぇ勇者、私達が英雄だってさ、ねぇ!』

『はうわ~夢みたいです』

『フン、悪い気はしねェな』

『オヴ!』×3

キィィン

勇者(これ、は…)

『そしてこれは私個人の願い…どうか、死なないで。使命に縛られず、信念のままに貴方達らしくして頂きたいのです』

『王女様…』

『安心して下さい。俺達は俺達、なにになっても、どこへ行っても』

『勇者…』

『さぁ皆、行こうか。やることが山積みだ』

『えぇ』

『はいっ』

『おうよ』

『オヴ!』×3

勇者(これは…この記憶は…)

勇者(俺達が英雄になった日…王女様からの任命式の日…か)

勇者(そうだ…始まりはこの日だった)

勇者(ただ国の為に…いや、そうじゃない)

勇者(俺は…王女様の為に…)

勇者(そうさ…勇者なんて呼ばれちゃいるが何のことはない…俺は…たった一人の為に…英雄になったんだ)

勇者(王女様の為に…理由なんてそれだけだったんだ)

勇者(勇者としてじゃない。英雄としてじゃない)

勇者(一人の人間…男として、王女様が好きだった)

勇者(思春期のガキみてぇな考えだ…だが俺はそれでよかった)

勇者(ご大層な使命なんかより、その方が俺らしいと思った)

勇者(忘れていた…いや、忘れたと思いこんでいた)

勇者(王女様の死で…自分は空っぽになったと決めつけていた)

勇者(何だよ、何だよ俺…情けねぇ)

勇者(彼女の願いを…その強い思いを…守れちゃいねぇ)

『使命に縛られず、信念のままに貴方達らしく…』

勇者(自分らしく…できちゃいねぇ…まったく…俺は!)

キィィン

勇者(くそったれ!馬鹿だ俺は!)

勇者(英雄になる事を呪って…過去改変しようだなんて…まったくもって俺らしくねぇやな)

勇者(英雄である事は…彼女との繋がり…俺が俺である証…それをねじ曲げてはいけない)

勇者(あの日の願いを…守らなきゃ…嘘だ。俺の気持ちは偽物になっちまう)

勇者(俺が生きなきゃいけないのは、あの世界だ)

勇者(英雄になって、王女様が死に、仲間が死に、人々に忘れ去られたとしても…あの世界で生きなきゃ…)

勇者(だから…俺は…)

キィィン

ボヤァ
ブツン

勇者(!)

勇者(何だ、急に真っ暗に…)
テクテクテク

勇者(混沌…)

混沌(やっと素直になったね)

勇者(ここは…)

混沌(見ての通り、何もない空間さ。君は初めから…この空間に居ただけさ)

勇者(?)

混沌(君の意識は過去になんか行っていないって事。今までのは全部、夢みたいなものさ)

勇者(夢…だと…)

混沌(僕がその気になれば過去へ意識を飛ばすくらいはできるけどね…一応確認したかったんだ)

勇者(確認?)

混沌(うん。本当に君が過去を変えたいのか、って事を)

混沌(今はもうその気がないようだね)

勇者(あぁ、いろいろ思い出しちまったからな)

混沌(じゃあ、過去改変はしなくていいね。元居た場所に…帰るんだね)

勇者(あぁ…)

混沌(なら話は早い。戻してあげる)

勇者(戻す…ってのは…いつに…どこに…?)

勇者(そもそも、どこまでが現実で…どこからが夢だったんだ…?)

混沌(クスクス、さぁね)

ボヤァ
キィィン

勇者(ぐっ、頭痛が…痛い頭痛だ…)

混沌(じゃあね)

キィィン

勇者(ぐぁ…意識が…)

キィィン

勇者(…)

バタリ

混沌(…)

クスクス

混沌(ちょっとだけ楽しかったよ、勇者)

混沌(もう少しくらいは、楽しませてくれるよね…?)

クスクス

混沌(世界が平和でありませんように…)

・ ・ ・ ・ ・

なんやかんやで
なんやかんやだ。
勇者はぬるま湯のような平和な世界で生きることを選んだ。
かつて英雄と呼ばれ
仲間を失い
好きな女性の居ない世界で
生きることを選んだ。

そんな世界で
再び英雄達は集結する…!

【続く】

・ ・ ・ ・ ・

~前回までのあらすじ~

勇者は過去を変えることを止めた。
事実は事実、無かったことにはしてはいけない。
そして時は再び現在に戻る。

・ ・ ・ ・ ・

勇者「…」

ボャァ

勇者「んっ…ここ、は…僕の畑か」

勇者「肥料がある。どうやら人参を植える前に戻ってきたみたい」

ハナサワサワ

勇者「鼻の形も普通。新人類になる前の僕だ」

勇者「今この世界、この場所が僕の生きてきた世界…他の誰でもない、僕の物語」

コブシ グッ

勇者「まだやる事がある。やらなきゃいけない事が、ある。僕は勇者だ、英雄だ。その存在証明を…やってやるさ」

勇者「まずはやらなければいけない事を洗い出すか」

ガラガラッ

勇者「まずはホワイトボードに書き出して…いや、ポストイットに書いて貼るのも分かりやすいな」

カキカキ ペタペタ

勇者「書き出したら、次はグループ分けだ。優先順位をつけて、早急に対応が必要なものから取りかかろう」

・ ・ ・ ・ ・

勇者「よし、まとまった」

・破滅神ハーディリアの復活の確認
・裸なので服を着る
・日課
・おいしい人参の栽培

勇者「まずはハーディリアが復活したのかどうかを確認する事が先決だな。人参の栽培は後回しだ」

勇者「確か封印石が動かされているのは確認したんだったっけ…えぇとそれから…」

勇者「まぁ念のためもう一度封印の洞窟に行ってみるか。グレートサイクロン号(単車)で、な」

ブブゥーン

♪速いぜ グレートサイクロン号
♪風になって走るぜ 悪を轢き殺すぜ
♪邪魔する奴らを 轢殺さ
♪ミンチにしてやるぜ

ブブゥーン

勇者「洞窟に着いた。ここから先は徒歩だな、グレートサイクロン号は入口に置いていこう」

勇者「このグレートサイクロン号…学生の頃、バイトしてようやく買った思い入れのある単車なんだよなぁ…」

シミジミ

勇者「大型二輪も持ってるけど、やっぱり手軽な単車がいいんだよな。この、無駄にトロトロ走るのが性に合ってるっていうか…僕ぁ、単車が、す、すきなんだなぁ。お、おにぎりが、すきなんだなぁ」

テクテクテク

勇者「洞窟内ですよ」

テクテクテク

勇者「ここをこういってここで曲がって右、左…」

勇者「着いた。封印石のある場所だ。…やはり石が動かされている。これではハーディリアは…」

ザザッ

勇者「なにやら気配!」

クルッ

ボャァ

勇者「あ…う、ぁ…お前は…お前はぁぁぁぁ破滅神ハーディリアやないか!」

破「そうやでぇ」

勇者「やはり復活していたか…」

破「復活?それは違う。元々我を完全に封じる事など不可能。しばし寝ていただけじゃ」

破滅神ハーディリア。
その外見をオタク的にいうなら
まさに『小悪魔少女』であろう。
羽やしっぽが生えた可愛い少女。
彼女を破滅の神などと誰が思うだろうか。
だが間違いないのだ、事実なのだ。
彼女が
彼女こそが
破滅神・ハーディリア。

破「しかししばらく見ぬ内に腑抜けたのぅ、勇者よ。あの時我と戦った男とは思えぬ…まるで覇気がない」

勇者「そうかい…あんたが寝ている間、世の中はとても平和だったんでね」

破「ほぅ、それはそれは。だがそんな平和な世の中に、ずいぶんと我の好物が溢れているようじゃぞ?」

ニマァ

破「そう、破滅がのぅ…」

破「お主らが命がけで守った世界に、じゃぞ?あぁ、何人かは命がけどころか死んだんだったのぅ…ハハハハハ!」

勇者「っ、の野郎…!」

破「ははは、そうじゃ、それじゃ。殺意のこもったその眼…それでこそ勇者…我を追いつめた男の眼じゃ!」

勇者「くっ…」

だがこの時勇者はいたって冷静であった。
心は熱く、頭は冷静に。
今の状況をどうするか考えていた。

勇者(俺一人で勝てる相手じゃない…まして神力を取り戻した破滅神だ…ここから生きて逃げる事もできないだろうな)

破「どうした勇者、顔色が悪いぞ?」

勇者「腹具合が悪くてね。朝から下痢ピーなのさ」

破「ほほう、それは大変じゃな」

破「ここでちびられてはたまらん。トイレに行くがよい」

勇者「!?」

破「ほれ、どうした。何なら数日ほどトイレに籠もっていてもよいぞ?トイレから出てきた頃には世界が破滅に満たされているじゃろうがな!」

勇者(見透かされている…焦りを…今の状況の俺の心中を…)

破「どうした、行って良いぞ?」

勇者「…じゃあお言葉に甘えて」

破「素直でよろしい。そうそう…我は退屈が嫌いでのぅ、しばらくは世界に干渉せずにいてやろう。その間に我を楽しませる余興の準備をしておくがよいぞ」

勇者「…」

ダダッ

破「ふふ、行ったかえ」

ブブゥーン

勇者「グレートサイクロン号、フル加速!」

ブブゥーン

勇者「くそっ!くそっ!くそっ!最悪の事態だ!どうする?どうする?前みたいな奇跡はもう起きない!勝てない!終わりだ、絶望だ!」

ブブゥーン
ブブ…

勇者「おっと、制限速度を越えるところだった。危ない危ない」

勇者「もうこの世界に七英雄はいない…剣士も、オーク三兄弟も…あの時死んでしまった…僕と魔法使い、僧侶…駄目だ、封印どころか一分も持たず全滅だ…」

勇者「あの時は剣士の戦闘力とオーク三兄弟の息の合った防御術があったから何とかなったんだ…」

勇者「剣士ほどの実力者は、他にはいない…彼がいたからこそ、ハーディリアと対峙できた…僕達だけじゃ、同じ土俵に立つことさえできない…!」

勇者「何より強奪の水晶が無ければ…神力をどうにかしなければ封印術は通用しない…あれはこの世界にひとつしか無い物…つまり神力を持ったままのハーディリアを封印するすべは…無いッッッ!」

ブブゥーン
キキィ

勇者「自宅に着いた。グレートサイクロン号は玄関に置いていこう。まずは家に入って手洗いうがいだ」

・ ・ ・ ・ ・

この季節、手洗いうがいは大切。
どんな時でも病気の予防を忘れない勇者であった…

【続く】

・ ・ ・ ・ ・

~前回までのあらすじ~

破滅神ハーディリアは復活していた。

・ ・ ・ ・ ・

勇者「…ふぅ」

勇者は帰宅後、とりあえず服を着て
日課を終えていた。

勇者「しかし、どうしたものか。ハーディリアを倒すことはまず無理だろう。なら封印する事は…」

勇者「奴の神力をどうにかする手段が何かあれば、あるいは…」

勇者「えぇい、一人で考えていてもらちがあかん。こんな時は国一番の物知りに相談だ!」

勇者「だが今日はもう遅い、寝る。明日朝早くに出発するのがいいと思う僕がいる」

ガクッ

勇者「zzz…」

寝た。

・ ・ ・ ・ ・

コケコッコー

勇者「…」

ガバッ

勇者「朝か…やれやれ、行くしかないよなぁ」

ガサゴソ ミジタクミジタク

勇者「この国一番の物知り、賢者のところへ」

賢者。
あらゆる書物を読み、記憶し
魔物との繋がりもある。
各国と秘密裏に関わりがあり
予知能力さえ持つと言われる
謎の多い人物である。

勇者「あいつと話すのは苦手なんだが、そうも言ってられないしなぁ」

勇者「あいつは孤島でひっそり暮らしている。さすがにグレートサイクロン号(単車)では行けないから、転移するしかないな」

サッ

勇者「僕は転移魔法が使えないから、この『魔法札』を使う」

~魔法札とは~
魔法が使えない者のための道具で
魔法式が書かれた紙の事である。
一回きりの使い捨てだが
手軽に誰でも魔法が発動できるのでその流通量は多い。

勇者「魔法式発動!」

ビリッ
テレテレテレン
ビュワン

ビュワン

勇者「う゛あ゛あ゛あ゛あ゛!すごい勢いで飛んでいるう゛う゛う゛!」

ビュワン

勇者「風圧しゅごいにょるぉぉぉぉぉ!」

ジョババババ
ブリブリブリ

勇者「いき、できな…」

ビュワン

勇者「しんじゃう゛う゛う゛う゛あぁぁ!」

ビュワン
スゥッ
スタッ

勇者「…っはぁ…っはぁ…死ぬかと思った」

勇者「ようやく着いた…とある孤島にある…賢者の家!」

次回、賢者と勇者…ご対面ッッ!

【続く】

・ ・ ・ ・ ・

~前回までのあらすじ~

勇者は賢者に会いに来たのだった。

勇者「…」

テクテクテク
ガチャリ

勇者「…」

キョロキョロ

勇者「…」

テクテクテク
レイゾウコ

勇者「…」

ガサゴソ
ギュウニュウ

勇者「…」

ゴキュッゴキュッゴキュッ

勇者「…」

ガサゴソ
ヒヤメシ タマネギ ヤキブタ タマゴ

勇者「…」

フライパン アブラ
ガスコンロ カチカチ ボッ
ジュジュジュ

勇者「…」

タマゴ ジュワ~
チャッチャッチャッ
タマネギ ジュワ~
ヤキブタ ジュワ~
ヒヤメシ ジュワ~

勇者「…」

シオコショウ ショウユ ウェイパー
ジュジュジュ ジュワ~

勇者「…」

ジュワ~
ザザッ

勇者「…」

ヤキメシィ…

勇者「…」

オイシソウナ ヤキメシィ…

勇者「…」

勇者「…」

レンゲ ガシッ

勇者「…」

ズムッ スッ パクッ

勇者「…」

パクッパクッ
ガツ ガツ
ガツガツガツ!
ガツガツガツ!
ハフッ ハフッ ムシャムシャ バクッ
ハフッ ハフッ ミズゴクゴク
ハフッ ハフッ ムシャムシャ

カランッ

勇者「…」

勇者「ごちそうさまでした」

勇者は焼きめしを食べて
お腹いっぱいになった。
いっておくがここは賢者の家。
何故急に勇者が焼きめしを作り
そして食べたのかは
謎である。

【続く】

~前回までのあらすじ~

焼きめしはおいしい。

・ ・ ・ ・ ・

勇者「さて、焼きめしで満腹だし…」

ハッ

勇者「いや、違うぞ…ここに来たのは…何か目的…」

勇者「…そうか、これは忘却の魔法か。くそぅ、賢者のいたずらだな…!」

クルッ

勇者「そうだろ、賢者っ!」

ヒトカゲ ボンヤリ

?「…」

勇者「久しぶりだな賢者…」

賢者「えぇ、久しぶり」

そこにはスーツを着た女性が立っていた。
つり目で長い黒髪、長身。
性格キツそうなイメージであった。

勇者「俺が来る事を予知してこんないたずらをしたんだな…まったく」

賢者「…こんなチャチな魔法にかかるなんて思わなかったわ。貴方、随分弱くなったわ」

勇者「そうかい。平和っていうぬるま湯につかりすぎたからかな」

賢者「…今の貴方は不安定な存在。自己が確定していない状態だわ」

勇者「あぁ?」

賢者「…貴方は今、三つに分かれている。かつての勇者、腑抜けた勇者、自尊心の塊の勇者…そのどれもが確定していない、ぶれた存在」

勇者「どういう意味だい?僕には分からな…」

賢者「…気づいていないの?」
勇者「っ、回りくどい言い方はよせ!」

賢者「簡単にいえば多重人格。貴方、口調がコロコロ変わっている事に気づいていないの?」

そう、勇者は今
不安定な存在である。

かつての血の気の多い『俺』
平和で腑抜けた気弱な『僕』
一度新人類になり高慢になった『私』

それらが混じり合い確定しない
でたらめな存在となっていた。

勇者「なん…やて…」

賢者「…無理もない事。貴方は世界の為に戦った、まさに勇者。気苦労が多く精神が病んでも仕方がない」

勇者「せやな」

賢者「…そういう楽天的な所は変わっていなくて安心した」

勇者「そやろか?」

賢者「…で、ここに来た理由」
勇者「あぁ、そうだったな…」

・ ・ ・ ・ ・

勇者「…という訳なんだ」

賢者「…想像以上に緊急事態。まさかハーディリアが復活したなんて」

勇者「率直に訊く。封印できる方法はあるか?」

賢者「…それは実現可能かどうかを含めて?」

勇者「この際手段があれば何でも訊きたい。四の五のいってらんねぇんだ」

賢者「…なら、ある、というのが答え」

勇者「すっきりしない言い方だな」

賢者「…実現できるとは思えない。それに確実に封印できる保証は無い」

勇者「そうかい…でもやるしかない。ハーディリアを野放しにはできない」

賢者「…同意。破滅神が好き勝手したら世界は滅ぶ、確実に」

勇者「あぁ。だからやるしかない。俺が…」

賢者「…今回は私も協力する」

勇者「いいのか…お前は世界の観測者だろ…干渉は」

賢者「…ずっと後悔していた。あの時、七英雄…皆と一緒に行かなかった事を」

勇者「賢者…」

賢者「…剣士が死んだ。オーク三兄弟が死んだ。私は逃げていた…観測者である事を理由に…もうあんな思いはしたくない」

勇者「分かった。行こうぜ賢者。お前が来てくれれば百人力だ」

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