北条加蓮「藍子と」高森藍子「いつものカフェで」 (44)

――おしゃれなカフェ――

高森藍子「ずずー……」ココア

藍子「……うんっ♪ やっぱり、いつものカフェが落ち着きますねっ」

藍子「加蓮ちゃんも、そう思いません――」

北条加蓮「…………」

藍子「か……」

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――まえがき――

レンアイカフェテラスシリーズ第16話です。
以下の作品の続編です。こちらを読んでいただけると、さらに楽しんでいただける……筈です。

・北条加蓮「藍子と」高森藍子「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「膝の上で」

~中略~

・北条加蓮「藍子と」高森藍子「10月下旬のカフェで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「11月のカフェで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「温泉にて」

藍子「……思ってないって顔、しちゃってますね」

加蓮「うーん……今、首を縦に振ろうか横に振ろうか笑い飛ばそうかの3択で悩んでたところ」

藍子「ふふっ、そうですよね。落ち着くカフェがあるって言っても、やっぱり知らないところに行くのはいつもわくわく――」

藍子「って、最後のは何ですか」

加蓮「え? そりゃもちろん藍子から何か言われるごとに選択肢の最後についてくる奴だけど?」

藍子「…………」ジトー

加蓮「ふー……」ハーブティー

加蓮「どしたの藍子? そんなに目を細くしちゃって。目でも悪くなった?」

加蓮「そんなところ見せてたらまた噂を聞きつけた妖怪まあまあメガネどうぞが乗り込んでくるよ?」

加蓮「唇を尖らせるの、それはそれで可愛いけど藍子にはあんまり似合わないかも」

藍子「……分かってるくせに」

加蓮「ふふっ」

藍子「もうっ」

藍子「……あ、でも、たまには笑って終わらせちゃうことも大切ですよね。深刻な悩みがある時なんかは、逆にそうした方が心が軽くなったりするかも」

藍子「だから加蓮ちゃん。私がもし何かに悩んでいたら、その最後の選択肢を使っちゃってください。そうしたらきっと、また笑顔になれますから!」

加蓮「…………」

藍子「…………あの………………」

加蓮「あ、ごめん。今度はガチで悩んでた。首を縦に振るか横に振るか。3番目の選択肢なんて無かったよ」

加蓮「……なんか今日は来るなり悩んでばっかりだねー私」

藍子「何かあったんですか? その、考え事をしなきゃいけないこととか、調子がよくないとか……」

加蓮「ううん、なんにも。なんにもないんだけどさ……」

藍子「ないんだけれど?」

加蓮「……分かんないや。藍子を見てると、少し考えなきゃいけない気になって――口を開く前に頭がストップをかけちゃったりして……」

加蓮「その反応をしていいのかな、その言葉を言っていいのかな、って変に悩んじゃって……」

加蓮「いやほら、確かに深刻な顔してたら笑い飛ばすのがいいのかもしれないけどさ」

加蓮「そうやっていいのかなーって、ちょっと引っかかっちゃって……でも前の私ならそうしてただろーなって思ったら、余計にこんがらがっちゃって」

藍子「…………」

加蓮「……ああもうぐちゃぐちゃになってきた! ……今のナシ! 私にもよく分かんないもん!」

藍子「お、落ち着いてください。なしですね、なしっ。はいっぜんぶ忘れちゃいました!」

加蓮「ぅあー。ええっと……いいん、だよね? 言いたいこと言って、やりたいことやって」

藍子「はいっ。私は、そんな加蓮ちゃんの方が好きですよ」

藍子「レッスンの時に、もう終わりにしようって空気の中でも満足できないから1人だけ居残っていたり」

藍子「モバP(以下「P」)さんとLIVEの相談をする時も、Pさんの指示を聞くだけではなくて、自分のやりたいことを主張してPさんと一緒にミーティングを進めていったり」

藍子「私は、そんな加蓮ちゃんが好きなんです。遠慮なんてしてたら、私がぐいって引き上げちゃいますからっ」

加蓮「……うん。じゃあ遠慮無く――…………」ン?

加蓮「…………遠慮無く、言わせてもらうんだけどさ」

藍子「はい♪」

加蓮「その時に藍子っていなかったよね? どっちの時にも。居残りレッスンやってたってことはドリフェスの時のだろーし、LIVEの相談は……確かに事務所でやったけど、あの時は私とPさんしかいなかったし」

加蓮「あの、なんでその時のことを藍子が知ってんの? ちょっとガチで恐いんだけど……」

藍子「あ、それはですね。実はあの時――」

藍子「…………」ウーン

藍子「ふふっ、どうしてでしょうか?」

加蓮「アンタ今なんか悩んだでしょ! どうしたら面白くなるかとか考えなかった!?」

藍子「やっぱり加蓮ちゃんの前では見ぬかれちゃいますね。これでも私、最近は演技が上手くなったってトレーナーさんに褒められちゃったんですよ?」

藍子「特に、表情を作って本音を隠す演技が、すごく上手くなったって――」

加蓮「…………お伺いしますがそれはもしや」

藍子「はい。加蓮ちゃんのお陰です♪」

加蓮「デスヨネー」ツップセ

加蓮「…………何この……それこそ何言えばいいか分かんない感じ……」ウアー

藍子「あはは……ごめんなさい、ちょっとからかいたくなってしまって」

藍子「実はあの時、どっちも近くまで来ていたんです。といっても加蓮ちゃんを見かけたのはたまたまで」

藍子「レッスンの時は、収録まで時間が空いちゃったから自主レッスンをしようと思って行ったら、加蓮ちゃんがいるのを見て」

藍子「LIVEの相談の時は、ちょうど出入り口の前まで来ていたんです。ドアを開けて、あ、加蓮ちゃんとPさんがいるな、って声をかけようとしたら、加蓮ちゃんがいきなり怒鳴っちゃってて、つい私までびっくりしちゃったんです」

加蓮「あー……あれはー、うん、言いたいことが上手く説明できなくてちょっとイラッとしちゃって……」

藍子「その後、ハッとなった加蓮ちゃんがPさんに慰められているの、とっても可愛かったですっ」

加蓮「なんでそーいうとこ見てんのよ、もー……」

藍子「つい、扉をちょこっとだけ開けて写真を撮っていたら、後からやってきた凛ちゃんに何してるのって聞かれたので」

藍子「……私、逃げちゃいました」アハハ

加蓮「声をかけられただけで逃げるようなことなら、最初っからさー……」

藍子「ごめんなさいーっ」

加蓮「…………よいしょ、っと」オキアガル

加蓮「…………」ゴクゴク

加蓮「そっか、たまたまかー。たまたま……なのよね? 偶然なんだよね? なんか藍子が言うと微妙に信憑性が怪しくなるんだけど」

藍子「えー?」

加蓮「アンタが普段から私のこと好き好き言うから、ストーカー紛いのことをしてきても不思議じゃないかなー、なんて」

藍子「だって、そう言わないと加蓮ちゃんが信じてくれないから……」

加蓮「ぐっ、そおきたか」

藍子「それに、加蓮ちゃんに好きって言うと、なんだか胸があったかくなるんです」

藍子「"好き"の気持ちを確認できたり、口に出して言ったらもっと好きになったり。あと、ちょっと照れくさくなっちゃう時もあるんですけれど、それもそれで楽しくて♪」

藍子「だから加蓮ちゃんも――」

加蓮「藍子ってさ」

藍子「好き、って……はい、何ですか?」

加蓮「あ、なんかごめん……。いつも楽しそうに生きてるねって思って」

藍子「はい、いつも楽しいですよ。加蓮ちゃんは楽しくないんですか?」

加蓮「楽しいけど、藍子には負けるよ」

藍子「あはっ、勝っちゃいました♪」

加蓮「もー、羨ましいなぁ。どうして私はこんな――おっと」

加蓮「ここで『どうして私はこんな生き方してんだろ』とか言っちゃ駄目なんだよね」

藍子「半分くらい言っちゃってる気もします……」

加蓮「はー、ホントに面倒くさいなぁ私ってば――」

藍子「今度は全部言っちゃってます!」

加蓮「あ」

加蓮「…………あ、駄目だ、これスパイラル入る奴だ。駄目な自分を駄目だと言う自分を駄目だと思って駄目だと言って以下スパイラル」

藍子「加蓮ちゃん……」

藍子「えっと…………あ、あっはっはー……」

加蓮「………………は?」

藍子「あっはっはー、あっはっはー…………」

藍子「……ええと……」

加蓮「え、何? ……いやマジで何? え……?」

藍子「い、いえ、その……あぅ……」ハズカシイ

加蓮「???」

藍子「あの……ほら、さっき言ったじゃないですか。私が落ち込んでいる時は笑い飛ばしてください、って」

藍子「加蓮ちゃんにも……落ち込んでるとは少し違うかもしれないけれど、思いっきり笑ってあげたら、ちょっとは心が軽くなるかなって」

藍子「思ったんですけれど……その…………」

加蓮「……ふふっ。次は、上手く笑える演技レッスンをしなきゃね」

藍子「! はいっ! あ、じゃあ加蓮ちゃんも手伝ってください! 笑う演技のレッスン!」

加蓮「うーん、残念ながらそれは管轄外だよ。あ、今度は私が悪いとかじゃなくてさ」

加蓮「シリアスな演技はけっこう褒められたりするんだけど、笑う演技は不自然だってリテイク食らうことが多くてさ」

加蓮「むしろ私も藍子側に回って一緒にレッスン受ける立場なんだ」

藍子「そうなんですか? でも、じゃあ誰に教えてもらいましょうか」

加蓮「すごい身近にいるじゃん。未央と茜」

藍子「……あ!」

加蓮「ま、2人の場合はむしろ演技っぽくやれって言われても難しいかもしれないけど」

藍子「ふふっ。じゃあ今度、楽しく笑えるコツを聞いてきますね!」

加蓮「行ってらっしゃい」

藍子「……じゃなくてっ、加蓮ちゃんも一緒に来るんですっ」

加蓮「またそうやって私に気まずい思いをさせるつもりか!」

藍子「そんなこと言って、前にバーベキューをご一緒した時はぜんぜん気まずそうにしてなかったじゃないですか」

藍子「未央ちゃんと一緒になって……もう、思い出しちゃいました! 2人で私をからかってばっかりでーっ」

加蓮「あれ、そうだっけ?」

藍子「そうです!」

加蓮「……実はあの時の私と未央は水面下で藍子を奪い合う女特有のギスギスした争いを」

加蓮「あ、いや無理だ、未央相手じゃ想像もできない」

藍子「未央ちゃん、そういう子じゃありませんから」

加蓮「裏表なんてあるのあの子?」

藍子「どうなんでしょうか……隠し事とか、そういうのもぜんぜんないのかも」

加蓮「悩み事、くらいはあるのかな」

藍子「うーん」

加蓮「未央が抱えそうな悩み事? ……なんだろ。アイドルとしては絶好調だし……」

藍子「でも、上手くいくからこそ悩むってこと、あったりしませんか?」

加蓮「あるある。こう、ホントは悩んでるんだけど周りから見たら成功してる立場なんだからさ、贅沢だとかワガママだとか思われちゃったり」

加蓮「あとほら、未央ってムードメーカーってタイプだからさ。凹んでる姿は隠さないと、って思うタイプだったりして」

藍子「それは……確かにありそうです。今度、お話を聞いてみなきゃ」

加蓮「いやいや藍子。別に未央が今この瞬間に何かに悩んでいるとは限らないんだから」

藍子「あ、そうでしたっ」

加蓮「そうそう。でもほら、隠さないとってさっきは言ったけど、ホントに悩んでたら藍子になら話すんじゃないの? 藍子か、それか凛とか卯月とかに」

藍子「だといいんですけれど……あれ? 茜ちゃんは?」

加蓮「……相談相手として適してるのかちょっと分からなくて。や、嫌なことは忘れられるけど……なんか有耶無耶にして終わりそうなイメージが……」

藍子「ああ……」

加蓮「まあ、茜のことはひとまずとして」

加蓮「悩みごととかガチで隠そうとしてる人って却って態度に出てくるんだよね。明らかに無理してるとか、テンションがおかしいとか」

加蓮「きっと、事務所のみんななら気付けるよ。凛だってそういうのは疎くない筈だし。卯月……はちょっと分かんないけどね」

藍子「加蓮ちゃんは気付いてあげないんですか?」

加蓮「さー? 私が介入する前に誰かが突っ込んで悩みを引き出して解決させちゃうでしょ。私の出る幕なんてなーし」オテアゲー

藍子「それなら、加蓮ちゃんしかいない時には助けてあげてくださいね」

加蓮「はいはい」

加蓮「ま、うちの事務所っていい子いい人ばっかりだからさ。未央だってその1人だし、ちょっと悩んだくらいならすぐ解決できちゃうでしょ」

加蓮「それこそ水面下のギスギスなんて想像しにくいくらい」

藍子「そうですねっ」

加蓮「いいところだよね」

藍子「うんうんっ」

加蓮「天国だ」

藍子「ですねっ!」

加蓮「……うん。私も、その事務所の1人にならなきゃ……なんてっ、ちょっと思うのが遅すぎるか」

藍子「うーん……加蓮ちゃんっぽく言うなら、うんともいいえとも言いづらいですよね、それって」

加蓮「どゆこと?」

藍子「私は、加蓮ちゃんにはやりたいようにやってほしいって思います。その……周りがこうだからこうだー、ってあんまり考えてほしくなくて」

藍子「けれど……周りのみんなに合わせて良くなろうとするのは、すごくいいことだと思うんです」

藍子「だから、うんでもいいえでもなくて」

藍子「……あはは。加蓮ちゃんみたいに、3番目の選択肢をすっと用意できたらよかったんですけれど」

加蓮「難しいよね、いろいろと」

加蓮「あ、じゃああれだ。敢えて1人くらいヒールポジションがいてもいいんじゃないかな。ほら、例えば私に叩きのめされて負けるかーってなって立ち上がるヤツとか、マンガでよくあるじゃん」

藍子「そういえば、未央ちゃんから借りたマンガにそういうシーンがあったような」

加蓮「うんうん。私にはピッタリだ」

藍子「……でもそれ、マンガ通りに行くなら最後に加蓮ちゃんが負けちゃいますよね。その後の加蓮ちゃんは、どうやって幸せになるんですか?」

加蓮「…………さあ?」

藍子「自分のこともちょっとは考えてあげてくださいよ……」

加蓮「うーん、ま、なんとかするんじゃない? ヒールポジションになるのが目的だからさ、立ち上がって私を負かした相手を見て、ああ、立派に成長してくれたんだな……って感動したりさ。それはそれで幸せなんじゃないかな」

藍子「そう、なのかな……」

加蓮「実際にやったことはないから分かんないけどね」

加蓮「だいたい私ってそういうタイプじゃないし。あんまり人をどうこう思わないっていうか、自分のことでいっぱいいっぱいっていうか」

加蓮「アイドルだって、自分がどうするか、何をするか、どうやって生き残るか。いっぱいいっぱいで、人のことなんて考えてる暇ないよ」

加蓮「……うん。やっぱり私は、私の為に生きたいかも」

藍子「そうしちゃいましょうっ」

加蓮「あ、そうだ。もう1つさ、手っ取り早く……かどうかは分かんないけど、幸せになる方法があった」

藍子「なにですかなにですか?」ワクワク

加蓮「ほら、ドラマとかであるじゃん。毎日キツイけどあの人がいるから幸せだ、ってヤツ」

加蓮「つまり私にもそういう人がいればいいんじゃない、かな…………」

藍子「ふむふむ……」

加蓮「いや、ちょっと待って。違うからね? 今は物の例えで……そっか、フリっぽく聞こえちゃったか……ごめんごめん、ホントにそういうつもりはなくって」

加蓮「藍子にそうなれって話じゃないよ。アンタにはそういうの似合わないって」

藍子「加蓮ちゃん」

加蓮「……え、いきなり何、真顔になって」

藍子「似合わないからやらないってだけなら、私は最初からアイドルをやっていません」

藍子「似合わなくてもやればできるってことも、その為に頑張ることが楽しいことも、私は知っているんです!」

加蓮「…………つまり?」

藍子「あはっ♪」

加蓮「やっぱアンタちょっと危険だって! なんかアブナイって! さっきのストーカー疑惑じゃないけどさぁ! こう……ちょっと恐いんだけど!?」

藍子「そんなことないですよ~。迷惑はかけちゃうかもしれませんけれど、危害を加えるつもりなんてありませんからっ」

加蓮「…………」ヒクヒク

加蓮「……私、やっぱりヒールポジションはやめとく……」

藍子「そうですよ。やっぱり、それが一番です」

加蓮「うん…………」




藍子「すみませーんっ。さくさくクッキーと……加蓮ちゃんは何か食べますか?」

加蓮「んー、じゃあいつものプレーンワッフルで」

藍子「それでっ。はい、お願いしますね♪」

加蓮「さっきの話じゃないけどさ。いろいろと難しいね」

藍子「? 何がですか?」

加蓮「んー、人生?」

藍子「スケールが大きいっ」

加蓮「そりゃもうアイドルですから」

加蓮「お、店員さん早い。ありがとー」

藍子「ありがとうございますっ。はい、加蓮ちゃん。あーんっ」

加蓮「流れるように私のワッフル掴んだな……。あーん」モグモグ

加蓮「……うん、美味しいね。相変わらず味がするやらしないやらってくらいだけど、それが逆に美味しいっ」

加蓮「ジャンクフードとか炭酸とか、胃に悪そうなくらい味が強い物も好きだけど……だからこそかな。たまにこういうのが食べたくなるんだ」

藍子「ありますよね、そういうのっ」

加蓮「お、分かる?」

藍子「はいっ。あ、でも私は逆かも……。たまーに、本当にたまーにですけれど、塩っ気の強い物とか、思いっきり酸っぱいものが食べたくなっちゃって」

加蓮「ふむふむ」

藍子「ちょっと前に、家で梅干しを食べちゃったことがあったんです」

加蓮「梅干し」

藍子「それがすっごくすっぱくて! お母さんから何してるのって呆れられちゃいました……たぶん、すごい顔になっちゃってたと思います」アハハ

加蓮「あははっ」

藍子「その後、ご飯と一緒に食べたらすっごく美味しくて! たまにはこういうのもいいかな、って♪」

加蓮「だねー」

藍子「私もクッキーを……ん~~~っ。美味しいですっ」

加蓮「今日は原点回帰なんだね」

藍子「いろんなところに行った後に、行き慣れた場所に行くとほっとするのとおんなじです」

加蓮「散歩の話かな。それともアイドルか」

藍子「どっちもですよ。あと、加蓮ちゃんと温泉に行ったこととか」

加蓮「あー……」

加蓮「そうそう、藍子。最初に藍子が聞いたことなんだけどさ。ほら、やっぱりここのカフェが落ち着くってヤツ」

藍子「それ、気になっていたんですよ。加蓮ちゃんが難しい顔をしちゃったから……どうしたのかな? って」

加蓮「うん。あのね……藍子が言った、やっぱりここが落ち着くって気持ちはすごく分かるんだ。私もほら……」モグモグ

加蓮「ふふっ。いつも食べるワッフルを食べて、なんかこう、ほっとするっていうか、よかったって思えるっていうか」

加蓮「それってきっと、藍子と同じ気持ちだと思う。ここが落ち着くっていう気持ちとね」

藍子「おんなじですね♪」

加蓮「けどさ、それと同じくらい……んー……説明が難しいなぁ」

加蓮「温泉。ほら、温泉に行ったじゃん。藍子と一緒に」

藍子「はい、行きましたっ」

加蓮「あれが楽しかったっていうか……うん、楽しかったよ? 楽しかったんだけど、それ以上に印象に残ったの」

加蓮「あ、でもここで藍子とだらだらするのも印象には残ってるから……それとはちょっと違うけど、同じ……ああもう、ホントに人生って難しいね!」

藍子「……加蓮ちゃん、ゆっくりで大丈夫ですよ。ゆっくり、加蓮ちゃんの言葉で教えてください」

加蓮「うん。……いつもはもっとこう、すらすら説明できる筈なんだけどなぁ」

加蓮「ええと、とにかく温泉が印象に残ってて、また行きたいって思ってさ……」

藍子「温泉ですか? もう、約束したじゃないですか。次は加蓮ちゃんが食べたがっていた、」

加蓮「ぽーてーとー……」

藍子「……思い出したらまた拗ねちゃうんですね」

加蓮「だってぇ」

藍子「はいはい、もうっ。そして、その次は宿のご飯。忘れたなんて言わせませんからっ」

加蓮「覚えてるよ。覚えてるんだけど、ええと、これは温泉の話じゃなくて……」

藍子「あっ、違うんですか」

加蓮「温泉のことを言ってるんじゃなくて……ええと、そう。藍子と温泉に行ったって話がしたいの」

藍子「私と行ったお話? それは……どういう?」

加蓮「えーっとね。……ホントに説明って難しいなぁ……」

藍子「加蓮ちゃん。ゆっくり、ゆっくり。……ほら、頭の中がこんがらがっちゃったら、落ち着いて、深呼吸をしましょうっ」

藍子「大丈夫、急かしてなんていませんから……」

加蓮「すぅー、はぁー……よし、仕切り直し」

加蓮「藍子と温泉に行ったってことが印象深いんだ。でも、それは温泉だからってことじゃなくて……」

加蓮「あ、そうだ! 新しい場所!」

藍子「新しい場所?」

加蓮「うん。藍子とはいっつもここでだらだらしてるけど、だからこそ温泉が新鮮っていうか、今まで行ったことのない……ええと、藍子と行ったことのない場所が楽しくて楽しくて」

加蓮「また、どこかに行きたいな、なんて……」

加蓮「そう思ったら、ここが落ち着くっていうのも……落ち着くことは落ち着くんだけど、ちょっと違うっていうか。そう言いたくなかったっていうか」

加蓮「なんだか、縛られちゃう気がした……のかな? 縛られる、っていうのも少し違うかも」

加蓮「ええと、とにかくだから、あの時は即答できませんでした! 終わりっ!」

藍子「お疲れ様ですっ」

加蓮「ぅあー……自分のことを説明するのがこんなに難しいとは。しかも最後に言いたかったことがすごい単純だから余計に疲れた気がするー。すっごい回り道したー」

藍子「説明って難しいですよね。自分のことも、他の人のことも」

加蓮「超難しい~」

藍子「ラジオでお話するネタを書き出す時なんていつも苦労しちゃいます。どうやったら散歩の楽しさが伝えられるかな、って」

藍子「テレビでお話する時は、写真が使えるから楽なんですけれど……ラジオは、本当に言葉しか使えないから」

加蓮「うーん。私は逆にラジオの方が迷わないかも。これを言えばいいって決まってるし、だいたい私が喋るだけだもん」

加蓮「テレビはほら……いろんな出演者がいるし。空気に合わせてとか、どういうこと言えばいいのか判断しなきゃいけないとか、ちょっと気苦労しちゃうよ」

藍子「そうなんですか? 私は……そこまで考えるのは、ちょっとできなくて」

加蓮「今度コツを教えてあげるね。でも藍子は……うーん、マイペースのままで良くない? 無理に周りに合わせたら、ただでさえ大人しいんだから余計に埋もれちゃうよ」

藍子「それ、Pさんにも言われたことがあります。私は私のままが一番だって」

加蓮「でしょ?」

藍子「お陰で、マイペースすぎるってよく言われちゃいますけど」アハハ

加蓮「たはは」

藍子「でも、加蓮ちゃん。頑張って教えてくれて、ありがとうございました」

加蓮「ん?」

藍子「ほら、さっきの……。加蓮ちゃん、すっごく苦労しちゃってたから」

加蓮「まあ、たまにはいいのかもね。悩んだり迷ったり苦戦するのも。あんまり長く続くとちょっとイライラしちゃうけど、たまにはねっ」

藍子「ふふ」

藍子「じゃあ……また、どこかに行きましょうか」

加蓮「えー、いいよ。ここの方が落ち着くんでしょ? 無理しなくていいって」

藍子「無理なんてぜんぜん。加蓮ちゃんのお話を聞いてたら、私もまたどこかに行きたいなって思っちゃいましたから」

藍子「今日じゃなくて、また次の時にでも」

加蓮「次かー……次かー」

藍子「はいっ。次の時に、ですっ」

加蓮「うーん……」

藍子「……加蓮ちゃん」

藍子「悩んだり迷ったりするのもいいってさっき言ったの、加蓮ちゃんです」

藍子「苦手なことを頑張ってみるのは、そこに含まれませんか?」

加蓮「……さーね。そんなの毎日アイドルでやってるから飽きちゃった。だから、藍子が考えてよ――」

加蓮「…………」

加蓮「…………や、それはそれでなんか悔しいな……。できないことをできないからってほっぽり投げるとか私じゃないし。そんなの私じゃないし」

藍子「だから、一緒に考えるんですよ。1人で考えこまないでくださいっ」

加蓮「うん……」

藍子「次はどこに行きましょうか。加蓮ちゃんは、どこか行きたい場所はありますか?」

加蓮「……、……私、藍子がよく話す散歩が気になってるんだよね」

藍子「そういえば……よくお話はしますけれど、一緒に行ったことありませんよね」

藍子「そうだっ。ちょうど1人で行くのはちょっぴり不安な場所があったんです。あっ、でも危ない場所とかではなくて……誰かと一緒に行きたいな、って感じの場所っ」

藍子「だから加蓮ちゃん。もしよかったら、一緒に行ってくれますか?」

加蓮「もー、藍子は仕方ないなぁ。私がついていってあげよう」

藍子「ふふっ、ありがとうございます♪」

加蓮「…………」

藍子「…………」

加蓮「……気を遣いやがったなぁ」

藍子「あ、やっぱりバレちゃいます?」

加蓮「バレない方がどうかしてるって。もう……そんなんじゃ私、ずっと――」

加蓮「と、とにかくっ。私だってその……ええと、行きたい場所……」

加蓮「藍子と……行きたい、場所……」

藍子「…………」ワクワク

加蓮「…………」

加蓮「…………あ、駄目だ。ここしか思いつかない」

藍子「ここ?」

加蓮「ここのカフェ」

藍子「あはは……私も、加蓮ちゃんとって考えたら最初にこのカフェが思い浮かべました。お散歩コースは、その次に思いついてっ」

加蓮「ね、やっぱりここでだらだらしない? その方がさ、藍子と一緒にいるって感じがするんだ」

加蓮「……あ、でも……するんだけど……やっぱりあの温泉は楽しかったっていうか、行ってよかったって感じがしたから」

加蓮「ああもう難しい!」グシャグシャ

藍子「加蓮ちゃん。あんまりイライラしないでください。大丈夫、大丈夫」

加蓮「大丈夫、大丈夫……はーっ」

藍子「加蓮ちゃんは焦りすぎですっ。そんな……私はどこにも行っちゃわないですよっ」

加蓮「だってさ……」

藍子「ねっ?」

加蓮「……はぁーい」

藍子「ふふっ。ゆっくり考えましょう。……そうだ、何か飲みますか? すみませーんっ」





藍子「……♪」アップルティー

加蓮「……ズズ……」メロンソーダ

加蓮「……どっちが、っていうの、あんまり得意じゃないかも」

藍子「?」

加蓮「ん……ほら、カフェか、違う場所かって……藍子と行くならどっちか、なんて決めるの難しいよ」

加蓮「よく考えたらそういうの苦手……。例えばPさんか藍子のどっちかを選べって言われたら絶対ムリ」

藍子「うーん……。じゃあ、選ばないっていうのはどうですか?」

加蓮「へ?」

藍子「加蓮ちゃん言ってたじゃないですか。第3の選択肢があるって。あれと同じですよ」

藍子「どちらか片方だけなんて、選ばなくてもいいじゃないですか」

加蓮「いや……いや、でもさ、こういうのはどっちかっていうのあるじゃん」

藍子「ううん。どっちでもいいんです。カフェに行きたい時はカフェに行って、他の場所に行きたい時は他の場所に行って」

藍子「他の場所が思いつかない時は……やっぱりカフェになるのかな? ううんっ、事務所でもいいです。のんびりと、次はどこに行こうかってお話して」

藍子「どちらかしか行けないことなんて、ないんですから」

加蓮「あ……そっか。そうだよね。カフェに行ったからって別の場所に行っちゃいけない訳じゃないんだよね。そっか……」

加蓮「私、少し勘違いしてたかもっ」

藍子「ふふ。ドンマイですっ」

加蓮「そうだよね……そっか。うん、そうだよ。どっちかなんて考えるから難しくなるんだよね。どっちも、かぁ……」

藍子「加蓮ちゃん。私、やっぱりこのカフェでゆっくりするのが好きです。こうして加蓮ちゃんとお話して、たまに悩みを聞いたり喋っちゃったり、そういう時間が大好きです」

藍子「でも、それと同じくらい、加蓮ちゃんと遊びに行きたいって気持ちもあるから……」

藍子「だから、行きたい場所ぜんぶ、行っちゃいましょうっ」

藍子「ほら、そうしないと、行きたいって気持ちがなくなっちゃいますから。思ったら、行きましょう!」

加蓮「……うんっ。そうだね。うん――」

藍子「ふふっ。じゃあ、約束です」

加蓮「約束。うん……約束。行きたい場所に、ぜんぶ行く」

藍子「はいっ」スッ

加蓮「……ええと、この小指は?」

藍子「約束するんだから、指切りしないと♪」

加蓮「こ、子供かアンタは……ま、たまにはいっか」スッ

藍子「せーのっ、ゆーびきーりげんまんっ」

加蓮「うそついたら――」

藍子「駄目ですよ加蓮ちゃん。嘘なんてついちゃ駄目です!」

加蓮「…………藍子ってさ、やっぱこう、毎日楽しそうだよね」

藍子「えへっ。じゃ、指切った♪」スッ

加蓮「あ、こら私まだ何も――もうっ」

加蓮「嘘ついたら何もないなら、約束って言えないんじゃ……」

藍子「……♪」ズズ

加蓮「……ま、そうだよね。それが藍子か」ズズ

加蓮「約束……」サスリサスリ

加蓮「うん、頑張らなきゃね」



おしまい。読んでいただき、ありがとうございました。

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