サイタマ「GANTZ...?」(71)

「矢張り人間!!皆殺しにするしか...

ドゴォッ!
「ぐっはあああああああ!!!」

・・・また、ワンパンで終わっちまった。

いつからだろう、敵に相対した時の恐怖、緊張、武者震い、高揚感。
そんなものが一切なくなったのは。

とはいえそんなことは既に日常となっていた。

いつものように野菜やなんかを入れたレジ袋を片手に下げ、少しため息を漏らし、

手袋を洗い飼っているサボテンに水をやるために帰途につく。

家のドアを開けふとテーブルをみやると、テニスボール大の黒光りする鉄球が置いてあった。

「んだこれ・・・?」
手袋を外し球体を手に取り眺める。

よくみると白い文字が浮かんでいる。

フォントも文法もめちゃくちゃで、
読むのにやや手間がかかった。

「『ちきぅがゃby』ので、
すケつととしてきてくだちぃ」
地球がやばいので、助っ人としてきて下さい。
といったところだろうか?

どこに、まずいつ誰がこんなものを置いた?
というか不法侵入じゃねえか。

訝しんでいると、サイタマは自らの身体の変化に気付いた。

「おわっ!?わっ!?なんだこれ!?」

綺麗に禿げ上がった頭部から徐々に、削られるようにして体が消えていっている。

その内それは目まで侵食していき、それと同時に視界がかわった。

突然の眩しい光に目がくらむ。

「あ?」

光から目をそらすと、そこは彼のマンションの一室ではなかった。周りには黒い全身タイツのようなものを着た老若男女の男たち。そして日本刀を持った黒服姿のホスト風の男と黒髪を前でぱっつんと切りそろえた目つきの鋭い女。

その黒服の2人と全身タイツの大勢がどうやら争っている...?ように見える。

黒い全身タイツの上に学生服を着た中学生ぐらいの少年とやや長髪のサングラスをかけや男が手をかざすと同時に、黒服の女が宙に浮いた。

いわゆる超能力・・・?だろうか。

すぐにホスト風の男が少年に日本刀を振るい、それと同時に超能力の信号が途絶えたのか黒髪の女は落下、着地する。

あーたーらしーいーあーさがきた
きーぼーおの あーさーだー

どこからかラジオ体操の歌が聞こえてきた。

部屋の奥を見やると、先ほど見たものによく似た黒い球体があった。こちらは目測で直径1mほどありそうだったが。ラジオ体操の歌の音源はあれだろうか。

・・・ああもう。
意味がわからない。

さっきのは一体何で、ここはどこで、今は何時で、
あの黒い球はなんなのか、なぜラジオ体操の歌なのか、こいつらは一体なにをやっているのか、
どういう状況なのか、こいつらの全身黒タイツという珍妙な格好はなんなのか。

「おいあんた!」

黒タイツの1人がこちらに話しかけてきた。

どうやらさっきの騒ぎはおさまったらしく、ホスト風の男は黒球の前であぐらをかいている。

「あんたは多分一回死んでいる。」
こちらに話しかけてきた男はそう続けた。
背も高くオールバックの強面だったが、自分より年上ではなさそうだ。

「いや、そんな記憶全然ねえんだけど」
サイタマは即答した。

「おそらく死ぬ瞬間の記憶が
「いやマジだって。部屋でへんなビー玉見たいの見つけたと思ったら
「とにかく話を聞いてくれ!」
「へい」
「これから俺たちは戦争に行くことになる。ゲームじゃなくてマジの奴だ。
相手はそこの球に映っているやつ。」
そういってオールバックの青年は黒い球体を指差した。

てめぇ達は今から
この方をヤッつけに行って下ちい。

ぬらりひょん

特徴
つおい
頭がいい
わるい

好きなもの
タバコ
お茶

口癖
ぬらーりひょーん
ぬらーりひょーん

という文章と、なるほど「ぬらりひょん」らしい老人の画像が黒球の表面に映し出されていた。

「もうすぐその球が開いてスーツと武器が出てくる。特にスーツは筋力を増強するだけでなく体を守ってくれる。だから最低限スーツだけは着ておいてほしい。」

オールバックの青年は視線を黒球からサイタマへと戻し、そう説明した。

「スーツってお前が来てる奴のことか?
身を守ってくれるようには見えねえんだけど」

「ああ、確かにそう見えるかもしれないな。俺もこのスーツの仕組みはよくわからない。だけど今はこっちの指示に従ってほしい」
「いや、お前の言ってることがホントだとしても俺は別にそんなんつけなくても
「頼むから真面目に聞いてくれ!今まで何人も死んだ!お前みたいに遊びかTVのドッキリかなにかと思って挑んだやつは特にだ!」

「・・・はいはい、分かったよ」
しぶしぶ相槌をうち、あたりを見回した。戦争に行くと言っていたが、皆とて兵士のようには見えない。この男に加え、ブレザーの下からこの男のいうスーツを覗かせたやたら目つきのわるい中学生ぐらいのぶっきらぼうそうな少年、

先ほどの超能力者らしき2人。

可愛らしい童顔に黒のロングヘア、さらに抜群のスタイルを持つアイドルのようなルックスの少女、

短く顎髭を生やした美形で体格のいい、だが誰よりも怯えた様子の青年、

筋骨隆々とした髭を蓄えた見るからに強そうな男と、
その横にぴったりとくっつく年端もいかない子供。

先ほどの黒服の2人、

サイタマには羨ましく感じられるほどだが
禿げた頭の小柄な老人、

それになぜかパンダまでいた。

ガシャンッ
突然の音にやや驚いたが、すぐにあのオールバックの男が言っていた時が来たのだと理解した。

こちらからみた黒球の左右と真後ろが
ラックのような形に展開し、そこに様々な形の銃がぶら下がり、スーツを入れているであろうアタッシュケースのようなものが収納されている。

「それぞれのスーツに自分の名前が書いてある。そのスーツを着てほしい。」

オールバックの青年はそう説明を加えた。
サイタマはおもむろに黒球の方へ歩み寄り、ケースの一つをみた。

自分のものだとは分かったが、それよりも先にケースに雑な字で書かれた
「わかハゲ」
という字が目に入ってきた。

馬鹿にしてんのか。

静かな怒りを燃やしケースを強く握りしめた。
ケースはパキパキと音を立て亀裂を走らせ、
そしてバキッという音とともに壊れた。
下を向きケースを眺めていたら、また自分の体が、今度はつま先から消えていってることに気がついた。

転送が、始まった。

その頃、ヒーロー協会本部は大混乱となっていた。
「O市の道頓堀川底、及びO市上空にて怪人の姿を確認!」

「災害レベルは!?」

「まだ動きが見えないため不明ですが、数と分布規模からして鬼は確実に超えるものかと・・・!」

「近場にヒーローはいないのか!?」


「んだここ・・・」
サイタマとガンツチームが転送された場所は、O市の一角だった。
「とりあえずぬらりひょんってのを見つけてブッ殺せばいいんだよな?」
「おい!待ってくれ!エリアを超えると頭の爆弾が・・・!
え・・・?え?・・・ええええ!?」
オールバックの青年(以下加藤)は止めに入ったが、目の前の光景に絶句した。
ガンツチームが転送されてきた場所は制限されたエリアのラインギリギリの場所だった(とはいえ数メートル進まないとアラームが鳴らない程度だが)。
それをサイタマはエリアの方に走って行き、
あろうことか何事もなかったかのようにエリアを超えた。
どういう訳か頭の爆弾が作動しないらしい。
いや、埋め込まれていないのか?

うわん!!


うわん!!!

「うるせー」
バゴッ
さっきの連中のところを離れてからずっとうわんうわん叫びまくっていた奴。
たった今見つけたがとりあえずこいつは多分ぬらりひょんじゃなんだろう。見た目が違いすぎる。

エリアの内側、ガンツチーム達はさまざまな異形の妖怪、
いや、「妖怪星人」とでも言うべきか...?それらを相手に戦うのに手一杯で、すぐ近くに存在する、
過去最強最悪の星人にまだ気づかないでいた。

「田を返せぇッー!」

大柄で恵体の顎髭を蓄えた男(以下風)は、度重なる虐待の末ガンツ部屋に転送されてきた子供(以下タケシ)を守るため小ぶりのビルほどの大きさのある泥田坊を相手に奮戦していた。
風が与えたダメージに加え
タケシが見よう見まねで放った風の得意技である「鉄山靠」、
それらが重なり泥田坊はかなり弱っていたが
意地であるかのように2人を殺さんと襲いかかる。
泥田坊を首を素手で?ぐことを考えた風は、泥田坊の頭部によじ登ろうとしていた。
「きんにくらいだぁーっ!」
何度も振り落とされそうになりながらも、下で待っているタケシのため死ぬわけにはいかなかった。
そうしたなかで一閃、
泥田坊の脳天が突然の破裂した。

風が泥田坊の脳漿の飛沫を通り抜けて下に着地した人影を見やると、
それはつい先ほどガンツ部屋にいたスキンヘッドに白いマントの男だった。

「『まだ』...俺より強い奴がおった...」

風はもはや地獄絵図と化した道頓堀の摩天楼を駆けるその男を眺め、そうつぶやいた。

「ったくどこにいんだよ...ぬらり...ぬる....ああもうまた名前忘れた」
ガンツチームが大阪のチームと衝突する中、
サイタマはすでに雑魚を数えなくとも13体ほどは斃していた。
あのオールバックいわく身を守るらしい黒スーツを着た連中を一撃で斬り殺していた鳥の頭に
人間の男のような胴体、両腕は刃となっており下半身は蛇、それが6mほどある化け物、
巨大な単眼の顔面に手二本と足一本が生えた妖怪
「一本だたら。」
舌と毛髪が大蛇となっている何mもある老婆
「蛇骨婆」等。
ほとんどがガンツ部屋で数回100点を取るような猛者が徒党を組み始めて勝てるような相手にだったが、
やはり彼にかかればどれも一撃で終わった。

すでにヒーロー協会では災害レベル「竜」に設定されており、
O市及び近辺の地域の人間への避難勧告が出されていた。
そんな中、O市の一角で体育座りになり震えている大阪のガンツチームが1人。
今回のミッションが初参加。
当然機転の利く立ち回りなんてできるはずのない、
メガネをかけた17歳のどこにでもいる男子高校生だった。
思い出す。
友人と自転車を並走していた帰り道、事故にあいいつの間にか
あの黒い玉の部屋に居たこと。
道頓堀に転送されたと思ったら、川から頭を覗かせたあの巨大な牛の化け物が放った無数の蜘蛛。

それが友人の肉を抉り、血をすすり、自分の見ている目の前で沢山の魑魅魍魎が沢山の人々を殺したこと。

きゅるーきゅるー。


下を向いていたが、耳はしっかりと捉えた。
その鳴き声。


きゅるるー。
聞きたくない。だが聞かなければならない。
顔を上げたくない。だが上げねば死ぬ。
小刻みに震える体に鞭打ち、ゆっくりと前を見やった。

あのとき友人を殺した無数の蜘蛛。そして様々な様相の異形たち。
ねばっこい目つきでこちらを見つめ、ついに組みつかれた。
「ひひひひひ」
「うふふふふふふ」
「へへへへっ」
「ひっぱれひっぱれ」
6、7体ほどの妖怪星人が四肢を根っこから掴み、?ぎ取ろうとする。
死ぬのかと思ったらその時、
化け物たちの体が急に吹き飛んだ。


目の前に立っていたのは、ガンツ部屋にあったXショットガンを握りしめ、スーツを身に纏い、女のような小綺麗な顔つきをし、どこかかかわってはいけない、そんな感じのする瞳でこちら

を見つめる男だった。

「えっとなー
それ上のトリガーだけ引いてなー
んで妖怪見つけたらエンタキーなーっ」
ミッション初参加の高校生(以下メガネ)は先ほど自分を助けた男にガンツバイクの後部座席に乗せられ、デジカメがガンサイトに貼り付けられたXガンとそのデジカメにUSBケーブルで繋げられたPCを渡されそう説明を受けた。
「まだ一匹もみつかりませーん」

「くそっさっきから全然おらん。
もうすぐ終わるんか?」

かなり大規模なミッションだったにも関わらず、原因は分からないが始まってからまだ20分も立たないうちに生きている星人はほとんど見かけなくなっていた。
が、一匹。
メガネの視線の先にいたのは、禿げ上がった頭、老人のような顔、
浮き出ているあばらとは対照的に異常に腹も膨れた全裸の男。
「餓鬼」、というやつである。
「おい!何点やねん!」
男(以下花紀京)が問うと、
メガネは餓鬼に向かい上のトリガーのみを引きPCのモニターに視線をうつした。

1point
モニターにはそう表示された。
「えーと...一点みたいですわ」
花紀京は突然バイクを止めた。
「あれ?歩いてくんですか?」
「おう、それ持ってこいや。」
「あっはい!」
花紀京はメガネを連れ何も言わず餓鬼の後をつけていく。
メガネは花紀京の思惑を察した気になり、口を開いた。
「あ、そっか。あいつが仲間んとこいけば5人おれば最低5点ですね...」
が、それは見当違いだった。
「あの類の奴やと10体おっても10にしかならへん...そんなん期待しとらん。
俺は100点の奴をねらってんねん...
そいつがまだおるはずや」

「きたきたきた
臭ってきたでぇ...!」

餓鬼の後をつけていくと、そこにあったのは
道頓堀川に設置された
工事用設備。
そしておびただしい数の餓鬼。先ほど単体で一点と表示されていたが、これら全てを相手にするだけで簡単に100点に届くのではないか。
が、それよりも異様だったのはその餓鬼が群がるように、あるいは拝むようにして視線を注いでいる、
工事用設備の比較的高台に位置する仮説オフィスの上に乗った
三体の星人だった。
屋根の両端にいるのは天狗、そして陰陽師のような格好をした
犬男...?とでも言うべきだろうか。そしてその真ん中。
天狗と犬を従えるようにしてたたずむ老人のような星人。
まちがいなく「ぬらりひょん」であった。

「きゅるるるるる・・・ご
ドガッ
「たぶんこいつもちげーんだろー?」
両手のひらを払いながらつまらなそうな表情で本来なら単体でも災害レベル虎の上位には食い込むであろう星人を見下ろしサイタマはそういった。
奥でなにやら「ぴょん太!ぴょん太が!」
などと叫んでいる子供がいるがこの化け物のことか?
少し目をやればセミショートヘアの女(以下山崎)と加藤がぴょん太(?)の体内に吸収された人間の救出を行っている。
とりあえず手伝おうと近寄ろうとすると、
加藤の方から話しかけてきた。

「なんなんだあんたは?見た所スーツも着ていないようだが...、
あの部屋の関係者かなにかか?」
加藤がそう問うた。
「は?なに言ってんのお前?」
当然援軍として死んでもいないのになんの予告もなく転送、言わばGANTZにスカウトされただけであり、
今でも状況をほとんど理解出来ていないサイタマにその質問はおよそ見当違いのものだった。
「とにかく名前だけでも教え...ん?」
サイタマから少し視線を外したすきに、彼は何処かへ消えていた。
「どうしたん?」
山崎が加藤にそう問いかけるも加藤の耳には入って来ず、ただ加藤の頭には疑問符ばかりが浮かんでいた。
(本当に何者なんだ?)

サイタマは加藤の確実に長くなるであろう話が始まると同時に全速力でその場を去っていた。
どうにもああいう人間は苦手だ。
ひゅんっ
普通の人間なら肉眼で捉えることも難しい速度だったが、
サイタマの驚異的な動体視力はその白い刃をハッキリと捉え、なんのこともなくそれを回避した。
「なにがしそれがし...キデン...」
「ふふふっばかばか...うふふ...」
サイタマの目の前に立っていたのは
比喩などではなくそんまま能面の般若と小面のような顔をした、
着流し姿の浪人のような2体の星人だった。

メガネは、ぬらりひょんの首を抱え全力で逃げていた。
さっきから何度も同じ映像が頭の中でループしている。
餓鬼の大群。それを見下ろす天狗と犬神。そしてぬらりひょん。

花紀京がその三体の星人のデータをPCでスキャンする。
天狗と犬神はモニターにそれぞれ「71点」と「68点」という
点数と災害レベル「鬼」という表示がなされた。
ぬらりひょんはスキャンされたデータによると「100点」
そして災害レベル「竜~」であった。
花紀京がまだ気づいていないらしいぬらりひょんに銃口を向ける。
トリガーに手をかける指は震えていた。
原因はマリファナ切れか、はたまた恐怖感か。

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom