サイタマ「俺より強い奴に会いに行く」 (51)

サイタマ「なぁ、ジェノス」ピコピコ

ジェノス「はい、なんですか? 先生」

サイタマ「俺より強い奴ってどーやったらアポとれるかな」ショーリューケン

キング「隙ありッ!!」ピコピコ

サイタマ「ぬあっ⁉︎」ウーォウーォウーォ

キング「サイタマ氏。昇竜拳は技をだした後にワンフレーム隙が」

サイタマ「汚ねえぞキング! なに小足見てから昇竜余裕でしたみたいな発言してやがる!」ビターン

キング「常識だよ。このゲームの基本ルールさ」

サイタマ「知るかそんなもん」

キング「だいたいたかがゲームじゃないか。なんでそこまでムキになるのさ」

サイタマ「お前、1990年代後半にゲームセンターでリアルファイトが勃発してたって知ってる? そいつらにも同じこと言えんの?」

キング「はぁ……。まぁ、気晴らしか」

ジェノス「スッポンポンファイターの話ですか?」

サイタマ「あ? あぁ、違う違う。わりと真面目な話だ」

キング「え……」

サイタマ「どっかにいねーかなぁ。俺より強いやつ」

ジェノス「弟子の俺が不甲斐ないばかりに」

サイタマ「いやいや、それも違うから。なんでそうめんどくさい方向に向かうんだお前――」

ジェノス「さっそくクセーノ博士の元に向かってバージョンアップしてきます。お待ちください」ピポパピ

キング「え、え……?」

サイタマ「や、待て。やめろ。足の下からなんか火がでてる。ここ普通のマンションだからな? 耐火設備なんかないからな?」

ジェノス「もしもし? クセーノ博士ですか。これからそちらに向かいます」シュゴコゴゴゴゴゴ

キング「ひぃっ⁉︎」アタフタ

サイタマ「ジェノおおおおスっ! 足からジェット噴射みたいな火が!!」

ジェノス「失礼、博士。少々お待ちを。……先生、連絡がつきました。では、行ってきます」シュゴーーーーーーー

キング「さ、サイタマ氏ぃっ!」ギュウ

サイタマ「修繕費は必ず請求するからな!」クワッ

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キング「行っちゃったね……」ポカーン

サイタマ「壁にどでかい穴あけやがって」

キング「見晴らしがよくなったんじゃないかな」

サイタマ「そのかわりプライベートはなくなったぞ」

キング「ほら、布とか被せれば」

サイタマ「風と虫が入ってき放題なんだが?」

キング「……さむ」ビュー

サイタマ「これから冬だしな」

キング「げ、ゲームって気分でもなくなっちゃったし、僕はそろそろ――」ソソクサ

サイタマ「待て」ガシッ

キング「用事思い出したんだ。今日は新刊の発売日だった」

サイタマ「塾が新刊に変わっただけのとってつけたような誤魔化しはやめろ」

キング「……」

サイタマ「なぁ、お前んちって広い?」

キング「ううん、ワンエルディーケー」

サイタマ「なんで目を逸らす?」

キング「さぁ」

サイタマ「困ってる人を助けるのがヒーローなんじゃないのか」

キング「そうだよ」

サイタマ「今のこの状況は?」

キング「だって僕ヒーローじゃないもん」

サイタマ「は?」

キング「え?」

サイタマ「お前S級ヒーローだろ」

キング「それ本当だったらサイタマ氏じゃん。僕はただの一般人」

サイタマ「……そうだった」

キング「でしょ? じゃあ、僕は帰るね」ソソクサ

サイタマ「……?」

キング「お邪魔しましたー。また遊ぼうねー」ガチャ バタン

サイタマ「……はっ! なんの解決にもなってねぇ! おい、キング!」シーン

【S市 ハゲ丸スーパー前】

おばちゃんA「ねぇ、奥さんヒーロー協会日報読みましたぁ?」

おばちゃんB「見ましたよぉ~。なんでもヒーロー狩りが勃発してるんですってぇ~ん? こわいわぁ」

通りすがりの少年A「(こわいのはお前の顔面だよ)」

おばちゃんB「あぁんっ⁉︎ なんか言ったか自転車に乗ってる小僧ッ! 貴様の内臓捌くぞボケカスコラッ!」クワッ

通りすがりの少年A「こ、心を読んだ⁉︎ 怪人だ!!」

おばちゃんB「誰が怪人よ! 待ちなさい!」ダダダッ

通りすがりの少年A「待てと言われて待てるかよッ!
――わっ⁉︎ わ、危ない! お姉さん、よけっ!」チリンチリーン

フブキ「……」スッ

通りすがりの少年A「あ……えっ? 体が浮いてる」

フブキ「ボク。元気なのは良いことだけど、怪我しないようにね」

マツゲ「フブキ様! お怪我はありませんか⁉︎」キキーッ バタン

リリー「フブキ様!」タタタッ

フブキ「なんともないわ。騒ぎすぎよ」

通りすがりの少年A「フブキって……! ボク知ってる! B級1位ヒーロー。23歳。身長167cm、体重非公開の――」

フブキ「なんの説明してるのかしら、ボク?」ニコ

通りすがりの少年A「ひっ」

おばちゃんB「ぜえっ、ぜぇっ。ったく、よーやく追いついた」ドスドス

通りすがりの少年A「こっちからも⁉︎ まさに四面楚歌! ボクはいま狼の群れの中に投げ込まれた子羊のごとく」

おばちゃんB「うるさいよ」ゴチン

フブキ「(か、変わった子ね)」

通りすがりの少年A「いだぁっ! ……うあああああぁぁ! ばばあが殴っだああぁあああっ!!」

おばちゃんB「こ、こら。周囲の目があるのに」

通りすがりの少年A「ゴリラばばあがあああああぁっ!! ぴぎゃあああああぁっっ!!」

おばちゃんB「ええぃっ! こ、こーなったら……あたしゃ帰る!」

フブキ「え……?」ポカーン

通りすがりの少年A「ぴぎゃああああん!」

フブキ「え? えっと、その」オロオロ

山猿「フブキ様、如何致しますか?」

リリー「(うろたえるフブキ様っ! たまらないわぁっ!)」カシャカシャ

マツゲ「リリー。カメラのシャッターを連射するのを控えろ。鼻血をだすな」

フブキ「はぁ……。夕飯の買い物にきただけだったのに。なんでこうなるのよ」

【スーパー内】

サイタマ「なんだか店外に人だかりができてるなぁ」ボケー

店員「お会計1980ツルピカハゲおねしゃーす」

サイタマ「はいはい」カチャ

店員「あざーっす。ハゲからツルピカハゲいただきましてござーす」

サイタマ「(ここの店員毎回おかしいよな)」

店員「ちっ、次の客がつかえてんのが見えねーのかよハゲが。会計済んだならとっとと散れ。お前の毛根と共に」ボソ

サイタマ「いまなんつったコラ」

通りすがりの少年A「ほんとっ⁉︎ ほんとになんでも好きなお菓子買っていいの⁉︎」

リリー「いいわよ」

通りすがりの少年A「マジラッキー!! 嘘泣きはしてみるもんだぜ!」

サイタマ「ん……? あいつは、どっかで見たような」

フブキ「……」テクテク

サイタマ「あぁ、そうだ。たしか、なんて言ったか……フブキ組の」

フブキ「……? なにやら、視線を感じるような――……サイタマ?」

サイタマ「(うわ、見つかった。めんどくさそうだし気がついてないふりしよ)」ゴトッ

フブキ「……」ヒソヒソ

山猿「はっ! 承知いたしました!」ビシッ!

サイタマ「(しっかし、あの穴どうするべきか。とりあえず今日はビニールシートでもかぶせて)」

山猿「おい、そこのハゲ」

サイタマ「(ガムテープで補強になるか。やっぱキングに手伝ってもらえば)」

山猿「聞こえんのか、ハゲ」

サイタマ「……?」

山猿「お前だ、お前」ポンッ

サイタマ「は? てゆうかなに気安く肩に手を置いてんの? おまけに身体的特徴で呼ぶっていじめじゃない?」

山猿「フブキ様がお呼びだ。御同行願おう」

サイタマ「やだよ。めんどくさそうだしパス」

山猿「なにぃ?」ピキッ

サイタマ「ほら見ろ。既にめんどくさくなりそうじゃねーか。だいたいだな、お前らはいつもこっちの都合を――」

店員「な、なんダァっ⁉︎ 地面が盛り上がって」

リリー「こ、これは……っ⁉︎」

モグラ怪人「ぎゃーはっはっはっ!」ボコンッ

フブキ「怪人⁉︎」

一般客「か、かかかかか怪人だぁーーっ!!」ワーワーキャー

モグラ怪人「おうおう、こいつは良いところを掘り当てたようだ! 人間どもがうようよいやがる!」

マツゲ「リリーっ! 山猿っ!」ザッ

山猿「応ッ!!」

リリー「フブキ様! ここは私達が時間を稼ぎます! 今のうちに一般客の避難を!!」

モグラ怪人「モーグモグモグ! こいつは傑作だ! この俺様とやりあおうってのか!」

フブキ「ふん、雑魚風情が」スッ

モグラ怪人「っ⁉︎」

フブキ「人間どもがうようよ? 生憎だったわね。あなたが這い出た先はモグラ叩きをされる場所よ」ゴゴゴッ

モグラ怪人「な、なんだこいつ……! まさか、ヒーローか……!」

リリー「お、お待ちください! こんな狭い場所でフブキ様のお力を使えば被害が」

モグラ怪人「ん……?」キョロキョロ

一般客「」ガタガタブルブル

モグラ怪人「そぉ~か! そうゆうことか! モーグモグモグ! 残念だったな、ヒーロー! 人質がいるぞ!」

フブキ「……」チラ

マツゲ「フブキ様、ここは我らにおまかせを」

山猿「我々を信じてください」

リリー「行くわよ、マツゲ、山猿」

モグラ怪人「はっ、お前らからはなにも脅威を感じない」

マツゲ「な、なんだと……!」

モグラ怪人「取り引きしないか?」

フブキ「どういう意味かしら」

モグラ怪人「お前が俺様を見逃せば、お前とお前のお仲間には手をださないでおいてやる。もっとも、ここにいる他の人間どもは地中に引きずりこむが」

フブキ「人質だと自分で言ったのを忘れたの? 誰か一人に手をだしたら、即座に“地獄荒らし”をお見舞いさせるわ」

モグラ怪人「……」ゴゴゴッ

フブキ「……」ゴゴゴッ

モグラ怪人「交渉は決裂か」

フブキ「そのようね。ただ、あなたには交渉のテーブルすら用意されてなかったけど」

モグラ怪人「下等な人間がッ!! 調子こくのも大概に――」

サイタマ「うるさいよ、もう」パァンッ

モグラ怪人「え……? あぴゃ」ビチャ

サイタマ「はぁ……あーあ、服汚れちゃった」

フブキ「……」ポカーン

リリー「う、えっ? ……え?」

一般客「」ポカーン

サイタマ「これ気に入ってたパーカーなのにさ。血って落ちづらいんだよなぁ」ブツブツ

店員「ひ、ひ……」

サイタマ「あ、あの。お釣りください」

店員「は、はいっ⁉︎」

サイタマ「2000円渡したから20円あるだろ?」

店員「あっ! すいませんしたぁっ!」

サイタマ「……どっかにいねぇかなぁ。俺より強いやつ」

【サイタマ退店から数分後】

通りすがりの少年A「な、なんだぁー。あの怪人が弱かったんだよ、きっと!」

一般客「そ、そうだそうだ! じゃなきゃあんな弱そうな奴に負けるわけがないもんな!」

通りすがりの少年A「見た目モグラだったし! ビビって損した!」

フブキ「……ほしい。やはりほしい」

マツゲ「フブキ様……?」

フブキ「予定をキャンセルするわ。このままサイタマの自宅に向かうわよ」

リリー「え、でも、今日は」

フブキ「ヒーロー協会の会合と天秤にかけてもあの男は別格よ。存在がインチキだわ」

山猿「それほどですか? あの怪人がたいしたことなかっただけでは」

フブキ「はぁ……これだからあなた達を信用できないのよ」

マツゲ&リリー&山猿「……っ⁉︎」

フブキ「私が念打ではなく“地獄嵐”を使うと判断する強さだったわ。念動金縛りをずっとかけていたからこそわかる」

マツゲ「あっ……! し、しかし!」

フブキ「我々フブキ組が次のステージに上がるためにはサイタマが必要なのよ」

リリー「次のステージ? A級ですか?」

フブキ「それは通過点。姉さんに対抗しうる勢力になるのが最終目標」

山猿「あの、S級の……“戦慄のタツマキ”ですか」ゴクリ

フブキ「いくら強いといっても姉さんには勝てない。サイタマがインチキならあの人はバケモノだもの」

リリー「……」ゴクリ

フブキ「でも、私達が手を組めば芽は必ずでるはず……!」

マツゲ「我々は、足手まといですか」

フブキ「今は、ね。もっと強くなって」

マツゲ「ふ、フブキ様ぁっ!」

リリー「なります! なってみせますっ!」

山猿「筋トレの量を三倍に増やすか……!」

フブキ「期待してる」

マツゲ&リリー&山猿「はいっ!!」

フブキ「とりあえずはサイタマよ。住んでるマンションに向かいましょ」

【サイタマ宅 数十分後】

サイタマ「粗茶ですが」コトッ

フブキ「おかまいなく」

マツゲ「てめーコラハゲっ! 粗茶しかだせねぇのかよ! 玉露もってこい玉露!」

サイタマ「……」ピキッ

山猿「やめろ、マツゲ。このハゲにそんな経済力はない」

サイタマ「……」ピキピキッ

リリー「てゆーかさぁ、なんで壁に穴あいてんの? 隙間風ってレベルじゃないんですけどぉ?」

サイタマ「そいつはだな」

リリー「うわっ、きんも。なんか変な毛が落ちてる」

サイタマ「……」ピキピキピキッ

フブキ「サイタマ」

サイタマ「あんだよっ! さっさと飲んで帰れや!」

フブキ「先日、勧誘した件を覚えてる?」

サイタマ「あぁ? 勧誘?」

フブキ「そう。あなたを特別会員だと認めはしたけど、正式な会員とまではいっていない」

サイタマ「興味ないしな」

フブキ「なぜ? なぜあなたはそこまでヒーローランキングに無頓着なの? ヒーローなら誰しもが認められたいはずでしょう?」

サイタマ「そこがズレてんだよ、お前は。アイドルじゃねーんだからさ」

フブキ「……目立ちたいだけじゃない、認められたいわけじゃないわ。勝ちたい相手がいるのよ」

サイタマ「ほーん」

フブキ「ふっ、あなたは知らないのよ。あの人の恐ろしさを」

サイタマ「……」

フブキ「幼少の頃から姉さんは……! 姉さんはバケモノだった! 規格外だったわ!」

リリー「フブキ様……」

フブキ「A級上位に勝てないから上がらないんじゃない。本当の理由は、姉さんに目をつけられないためなのよ……! 力を蓄えるまではそれだけは避けなくちゃ」

サイタマ「S級ねぇ」

フブキ「あなたはたしかに強い。でも、姉さんほどじゃないわ」

サイタマ「どういう基準で?」

フブキ「さっきも本気じゃなかったんでしょ?」

サイタマ「……」

フブキ「私だってそれぐらいはわかる。サイタマの強さの底が見えないってこと。……でも、それを差し引いたとしても、“姉さんよりはこわくない”」

サイタマ「……そいつ、強いのか?」

フブキ「今までの話聞いてた? サイコキネシスやテレキネシスの能力において右に出るものはいないわ」

サイタマ「超能力者か」

フブキ「簡単に片付けないでよ」

サイタマ「いや、いい。そこだけわかれば。ちょっと会ってくる」

フブキ「は、はぁっ⁉︎」ガタッ

サイタマ「飲んだら流しに置いといてくれ。よっこらせっと」

リリー「死ぬ気なんじゃ?」

サイタマ「なんでだよ? ただ見に行くだけだぞ」

フブキ「姉さんは気に入らない相手には――」

サイタマ「うん、そうか。鍵は閉めなくていいから」ガサ

【ヒーロー協会 本部】

受付「それで? なぜここに」

サイタマ「暇だったから」ドーン

受付「頭いかれてんじゃねぇのかこのハゲ」

サイタマ「心の声の時は()をつけるというお約束が」

受付「つける必要もねーわ」

サイタマ「あ、はい」

受付「タツマキさんならここにゃいないよ」

サイタマ「どこに行けば見れる?」

受付「あんたねぇ、いくら憧れのS級だからといって動物園のパンダじゃないんだよ?」

サイタマ「いや、別に俺は……でも、そうか、動物園の動物か。言い得て妙だな」

受付「たまにいるのよねぇ、あんたみたいなの。協会が露骨な特別待遇してるってのを良いことにヒーローをアイドルかなにかと勘違いしちゃって」

サイタマ「……」

受付「いい? みんな多忙なのよ。暇ならさ、怪人の巣穴のひとつでも見つけてやるぐらいの意気込み示したら?」

サイタマ「それで、ランキングを上げれば会えるのか?」

受付「聞いてた⁉︎ 人の話!」

サイタマ「え……聞いてたけど、なに?」

受付「なんなのよ、こいつ、もぉ。えーと、ヒーロー名鑑にも載ってないし……うぅ~ん」カタカタ

サイタマ「なぁ、質問の答え」

受付「あぁ、いたいた。ハゲマントさんですね」

サイタマ「……」イラァ

受付「現在C級27位。ははぁ~ん、駆け出しが自分の力量もわからないで言ってる感じか」

サイタマ「そもそもよ。大層な御託並べちゃいるが、誰が最強だなんだと勝手に格付けしてるのはあんたらヒーロー協会だろ」

受付「……?」

サイタマ「S級が本当に一番つえーのかよ?」

受付「なにを言いだしたかと思えば、今度は嫉妬?」

サイタマ「いや、そうじゃなく」

受付「そうとしか見えないんですケド。物事には説得力ってものがあんの。ハゲマントさんがS級上位にいれば、問題提起として上層部に告訴できるでしょう」

サイタマ「だから、組織然とした構造がな」

受付「あなたもこの協会に属するプロヒーローでしょ? 規約に目を通してるはずだし、納得して入った、違うの?」

サイタマ「よく読んでなかった」

受付「ヒーローのランクは働きに応じて格付けされています。個々の強さは状況によって変化する事案も否めないけれど、災害レベルの解決度合いを見て適正に判断しているわ」

サイタマ「そうか」

受付「あなたもS級になりたいんだったら、災害レベル鬼や竜の規模をひとりで解決するぐらいの貢献をしなさいよ、ハゲマント」

サイタマ「なんだかなぁ」

【Z市 住宅地】

キング「あれ……? サイタマ氏」キキーッ

サイタマ「ああ、キング。自転車に乗ってどこへ……って、そうか、ここお前んちの近くか」

キング「うん。どうしたの、暗い顔して」

サイタマ「いや……ちょっと、思うところがあってな」

キング「……⁉︎ そんな、やっぱり気にしてたんだ……ハゲは遺伝だから仕方ない」

サイタマ「待て、俺がいつそんな話をした」

キング「違うの?」

サイタマ「当たり前じゃ」

キング「そっか。傷ついてたのかと不安になったよ、俺。これからも遠慮なく言うね」

サイタマ「そこは気をつかえよ」

キング「わがままだなぁ」

サイタマ「なぁ、キング」

キング「ん?」

サイタマ「S級って嬉しいか?」

キング「いや、胃が痛くなるだけかな。ほら、弱いし」

サイタマ「実力が伴ってないとそんなもんか」

キング「うん。どしたの? 突然」

サイタマ「俺、なんでヒーロー協会にいるんだろなぁと思ってさ」

キング「……? ヒーローになりたかったからじゃないの?」

サイタマ「格付けしてるのが気にくわねーんだよ。B級もC級も怪人と戦ってんだろ。誰かを守ってる。なのに、ランクをつけて互いに競争してよ」

キング「……え? それのなにがいけないんだい?」

サイタマ「バカバカしいとは思わねーのかね」

キング「色んな側面があるものだよ。協会的にはランクを振り分けることで脅威に対応しやすくなる」

サイタマ「……」

キング「擁護してるわけじゃないよ。だけど、災害レベルが高い怪人相手にC級を向かわせられないでしょ。そんなのは無駄死にだ」

サイタマ「めんどくせーな」

キング「組織だって力なんだよ。情報の共有ができるぶん、出遅れは少なくなり初動で先手を打つことができる」

サイタマ「まぁ、そりゃあ」

キング「サイタマ氏だって、協会に入れば怪人の出現を把握できるという打算があったんじゃない?」

サイタマ「うっ、お前人に説教できるほどヒーローやってないくせに」

キング「だって変なこと言いだすから。サイタマ氏はさ、退屈してるんだよ。要するに」

サイタマ「……」

キング「暇な人間ってのは考えすぎるものさ。だって暇だから、刺激がないから。だから、不満ばかりに目がいってしまう。その内に組織という枠からはみ出してっちゃうよ」

サイタマ「退屈なのは認めるよ。S級のタツマキに会おうと思ったんだけど無理だった」

キング「タツマキ……? あぁ、そういや今日が会合だったっけ」

サイタマ「S級もそうなのか?」

キング「出席率はまちまちだけど全ランクそうだね。俺も着信あったけどでてないし」

サイタマ「どーやってか会えねぇかなぁ」

キング「会いたいの? 紹介してあげようか」

サイタマ「なに言ってんだよ、お前がS級になんのツテがあって……あっ」

キング「気がついた? 俺、一応S級なんだよね」

【ヒーロー協会 本部 最上階】

シッチ「やれやれ。今回の出席率メンバーもいつもの面子か」

ファング「ふぉっふぉっふぉっ。そう落胆することはあるまいて。心労がかさむだけじゃよ」

シッチ「お前たちには協調性というものが欠けているよ、徹底的にな」

豚神「……」もぐもぐ げぇーぷっ

童帝「僕たち、暇じゃないんです。議題があるならばさっさと進行してくれませんか」

タツマキ「あら、ランドセル背負った子供でもたまには良いこと言うじゃない」

童帝「……自分だって子供みたいな見た目してるくせに」ボソ

タツマキ「聞こえたわよ」ゴゴゴッ

フラッシュ「やめろ、毎回毎回恥ずかしいとは思わんのか。むしろ恥じろ」

タツマキ「あんた達のような雑魚なんてお菓子についてるオマケみたいなものじゃない」

フラッシュ「なに……?」

タツマキ「空気かわったわね。やりあう気?」

シッチ「いい加減にしろっ!!」バンッ

ゾンビマン「おい、議長。俺らの実力は確かだが血の気も多い。わかってるならさっさとはじめろ」

シッチ「……承知した。諸君、まずは自己紹介をしよう」

童帝「知ってますよ。ヒーロー協会所属のシッチさんでしょ、いつも進行役をやってるじゃないですか」カタカタ

シッチ「この度、役職が変更となった。『地球がやばい予言対策チーム』のリーダー役に任命された、シッチだ。これからは迫りくる危機に対策を」

アトミック侍「ちょっとまて。お前がか? デスクワークしか能がないくせに。こりゃ笑える」

シッチ「たしかに! 私には君たちのような素晴らしい戦闘能力はない、しかし、デスクにだって戦場はある」

アトミック侍「“現場組”はいつだって命をかける。くだらねぇ御託を並べんなら実際に怪人と対峙してから言ってみろ」

シッチ「……この場での議論は別の機会にとっておこう。資料を配れ」

黒服「はっ」

シッチ「まず、我々ヒーロー協会は君たちのような実力者に深く感謝している。災害レベル虎以上が発生した場合、迅速に、躊躇(ためら)いもなく来てくれいるお陰で、どれほどの人命が救われているか計り知れない」

黒服「こちらが資料です」スッ

タツマキ「……」ペラ

シッチ「――よし、全員に配られたな。話を進めるとしよう、お手元の資料をご覧いただきたい」

ファング「ヒーロー狩りか」

シッチ「加えて、怪人の発生率がここ最近は例年と比べても群を抜いている。過去にないデータだ」

童帝「6倍、ですか。面白いですね、どこかに巣穴があるのかな」カタカタ ターンッ

タツマキ「(タイピングの仕方がイラつくガキね)」

シッチ「ヒーロー協会としても戦々恐々としている。これこそが、大予言者シババワが残した『地球がやばい』災害の前震か、もしくは既にはじまっているんじゃないかとね」

童帝「このまま連鎖的反応が誘発されてしまえば……ヒーローの数では対処できなくなる、そう考えているのですね?」

シッチ「さすがは天才。1を言えば10を理解するとはこのことか。いやはや、恐れいる」

童帝「無用なお世辞はけっこうです。僕にとって天才は褒め言葉じゃない、当たり前のことですから」

シッチ「――君たちS級ヒーローまでもを総動員して、いや、ヒーロー全員を総動員するやもしれん。それほど深刻な事態というわけだ」

童帝「え? ……それって、1位のブラストさんや人類最強といわれているキングさんも?」

シッチ「無論だ。数が足りなければ彼らにも協力を要請することとなるだろう」

アトミック侍「(ブラストはともかくとして、キングの実力をこの目でおがめる機会がついに……!)」

ファング「もっとも、こちらの呼びかけに応じる気があるならば……じゃろうがな」

シッチ「彼らとてヒーローだ。か弱い市民が傷つくとあれば必ずや駆けつけると信じている」

ファング「よく言うわい。S級をマスコミや雑誌に取りあげてファングッズなどを売りつけておるじゃろう」

シッチ「運営上仕方のないことだ。我々はボランティアではない、必要な人件費も、高価な設備もある。ヒーローの中には……今日は来ていないが甘いマスクなどは自ら率先して広告塔になっている」

ファング「ふん」

シッチ「話を続ける――ん?」カシャ

キング「……」スッ

シッチ「き、キングっ⁉︎」

童帝「き、キングさんっ⁉︎ 今日の会合に⁉︎」

フラッシュ「(なるほど、普段滅多に姿を現さないキングが出席するほどの……それほどヤバイ事態か)」

サイタマ「えーっと」ヒョッコリ

シッチ「……? お前は、誰だ?」

サイタマ「タツマキはぁ~っと、ありゃ、しまった。特徴聞いてくんの……あぁ、そういや超能力者だっつってたっけ」ポンッ

アトミック侍「なんだこのハゲは……?」

サイタマ「おい、お前らの中に」

フラッシュ「ちっ、大方キングのファンだろう。ここまでついてくるとは」

童帝「き、キングさんってファンサービス良いんですね」

サイタマ「あ? ファン? いや、俺とこいつはゲーム友達で」

フラッシュ「度し難い。おい、ハゲ。見ての通り今は緊急会議中だ。わかったらとっとと帰れ」

キング「……」ドッドッドッドッ

童帝「き、キングエンジンっ⁉︎」

フラッシュ「なんだ?」

童帝「フラッシュさんも知っているでしょう⁉︎ キングエンジンとは、キングさんが臨戦態勢になったサイン……!」

サイタマ「おい、キング。平気か?」コソ

キング「(はやく帰ってゲームしたい)」コクリ

サイタマ「あー、俺としても邪魔する気はないんだ。この中で超能力者を使えるやつ……あ、思い出した。あいつ、姉さんって言ってたな」

童帝「姉さん?」

サイタマ「てことは女だから……んー? どいつだ?」

タツマキ「失礼ね! レディーならここにいるでしょ」

サイタマ「お、おう。子供か。お前は見学に来たのか?」

タツマキ「……」ピクッ

サイタマ「なんだ、今日はいねぇのかな」

キング「ちょっと、サイタマ氏」コソ

サイタマ「ん?」

タツマキ「今なら訂正のチャンスを与えてあげる。子供だと発言したのを取り消しなさい」ガタッ

サイタマ「いや、え? だって、どっからどーみても」

タツマキ「……仏じゃないんだから3度目はないわよ」スタスタ

サイタマ「あ、あぁ。なるほど、そういうことか。子供って多感だもんな、悪い、気にしてたとは。すまん」

タツマキ「……」ゴゴゴッ

サイタマ「なんだ? 近くに寄ってきて高い高いでもしてもらいたいのか? いいぞ、ほら」

タツマキ「よくわかったわ。あなた、私をからかってるつもりなのね」

アトミック侍「おい、タツマキ」

タツマキ「うっさい、手心は加える。黙って見てなさい」

サイタマ「……? タツマキ?」

タツマキ「お灸をすえるという意味も含めて、恐怖を味あわせてあげる」スッ

サイタマ「え? お前が?」

タツマキ「……!」ググッ

サイタマ「お、お、体が浮いてる。ははっ、なんだこれ」

タツマキ「(こ、こいつ……⁉︎ 重っ……⁉︎)」

サイタマ「これって超能力だよな? てことはタツマキで間違いねーのか。子供みたいな見た目してるからてっきり」

タツマキ「また言ったわね!」ググッ

サイタマ「(ん、締めつけようとしてんのか)」

タツマキ「(なに、こいつ……! 抵抗力が半端じゃない……っ!)」

サイタマ「……」

アトミック侍「手加減してやってるのか。それなら心配いらねーか」

ファング「いや、そうとも言い切れんがのぅ」

サイタマ「おい、キング、離れてろ」ズズズ

キング「へ?」

タツマキ「やーね。ただのファンじゃなかったってわけ? キングの弟子?」

サイタマ「やめとけ。あんま期待してなかったから言うが、浮かせるだけじゃ戦えねーよ」

タツマキ「バカにしてるつもり? 後悔するわよ」ズゥゥゥ

サイタマ「いつ?」

タツマキ「今に決まってんでしょこのハゲ」

ファング「まずいぞ」

童帝「え? いや、でも、一般人にタツマキさんが」

シッチ「な、ななななんだ。建物が揺れてはじめて」ゴゴゴゴゴゴッ

アトミック侍「ちっ! あのバカ!」

サイタマ「……なぁ、ここって職員がいっぱい働いてたりすんだよな?」

キング「ああ、うん」ドッドッドッドッ

サイタマ「そっか。よっこいせっと」ピィーン

タツマキ「(あたしの金縛りが解けたっ⁉︎)」

サイタマ「しゃーねぇ、移動すんぞ」

タツマキ「……どこに? レディーを歩かせるつもり?」

サイタマ「ここじゃ怪我人がでそうだしな、それにここレディーなんて見た目してねぇだろ。胸はないし」

タツマキ「殺す」キッ

【Z市 上空】

サイタマ「おお、すげぇな。人って空飛べたのか」

タツマキ「喋ると舌噛むわよ。いっそ噛んで死んでもいいけど」キーーン

サイタマ「ツンデレとかいうキャラか?」

タツマキ「移動したいって言ったのはあんたでしょ。あの場で手短に済ませてもよかったけど」

サイタマ「なんだ、やっぱりツンデレか」

タツマキ「これから起こることを体験すれば、そんな甘い考え微塵もなくなるわ」

サイタマ「あぁ、俺にじゃねーぞ。職員の心配するぐらいだから」

タツマキ「ぺちゃくちゃうっさいわねぇ! 邪魔だったから移動に同意しただけ! こっから落とすわよ!」

サイタマ「あぁ、それは困る。帰るのにアシがないし」

タツマキ「無事に帰れると思ってるの?」

サイタマ「……」

タツマキ「なに? 急に黙り込んで。ここまできたからには許してあげないわよ。こわくなったみたいね」

サイタマ「ああ」ポンッ

タツマキ「……?」

サイタマ「ジェノスに頼めばよかったんだ」

タツマキ「は?」

サイタマ「あいつもS級じゃねーか。やっぱ抜けてんな、俺」

タツマキ「……」ピキピキッ

サイタマ「なぁ、どこまで行くんだ。下はそろそろなにもない荒野だし、いいんじゃねーか、ここで」

タツマキ「……」キキーッ ピタッ

サイタマ「おっ……と。掴んでるマントが千切れない程度に停止を頼む」

タツマキ「……わからないわね。あなた、自殺したいの?」キンッ

サイタマ「いや、そんなつもり――」

タツマキ「ここまで連れてきたのはほんの気まぐれ。やろうと思えば勝負は一瞬で決まるのよ」

サイタマ「お?」

タツマキ「生物の体内には精神エネルギーがある。学習はそれを気とかオーラとかいうけど。その“流れ”を乱してやれば、ほら」

サイタマ「お? おおおおーー……」

タツマキ「クルクルクルクル」ピッ

サイタマ「(電気マッサージ受けてるみたいな気分だ)」

タツマキ「た、耐えてる……⁉︎ う、うそでしょ? ……こいつっ!」

サイタマ「あばばばばばばっ! 筋肉が勝手にピクピクする」

タツマキ「……」スッ

サイタマ「おっ? もう終わりか?」

タツマキ「もう、めんどくさいわね」

サイタマ「同感だ」

タツマキ「生意気なのよ」

サイタマ「……」

タツマキ「これが最後よ。子供だと言った発言を取り消しなさい」

サイタマ「はぁ、お前だって人のことハゲハゲ言ってるじゃねーか。そりゃ見た目で判断したのは悪かったが、こっちとしても言い分が」

タツマキ「……!」ヅォッ ブンッ

サイタマ「まだ言い終わってねぇだろがぁぁぁぁぁ」ヒュー ズドーーーン

タツマキ「バカは死ななきゃなおらない。あの世で後悔しなさい」ズズズズスッ ゴォッ

サイタマ「あーあ、もうまた洗濯やらねーと」ムク

タツマキ「当然のように無傷ってわけ。やるじゃない、キングのやつ、こんな隠し球をもってたなんて」

サイタマ「なんだぁ? たくさん岩を浮かせて。今度は雪合戦遊びか? あいにくと雪はふってねーぞ」

全く同じってわけじゃないが、サイタマ含む全キャラの口調とか原作通りのセリフを組み合わせたものしか喋ってない今んとこ
それで違和感感じるならどーしよーもない

とりあえずここまでにしとくわ
あんま辺レスすんのは好きじゃないから今後の方針として読みたいやつだけ読めばいい苦情は一切受け付けん
ワンパンマンに関する議論は好きにやれ
以上

【ヒーロー本部 幹部会議室】

幹部A「S級ヒーロー17位ジェノス。ステップアップの速度だけを見れば破格にも思える」

幹部B「先の件の働きを省みるに充分でしょう。……しかし、マグレという見方もできますからな。しばらくはS級の末席に据えるのが妥当かと」

幹部C「彼のヒーローネームに意義のある者は?」

幹部一同「意義はなし」

幹部D「では、これで決まりだな」

幹部B「数々の凶悪な怪人に怯むことを知らず、果敢にアグレッシブに攻めていく姿はさながら……鬼神」

幹部C「左様。ふさわしいヒーローネームは“鬼サイボーグ”」

幹部A「ビジュアルも良い。愛想がないのがたまに傷だが、女性にとってはそこがまた琴線に触れるやもしれん」

幹部D「ブロマイドの売り上げに貢献してくれそうですな。まだまだ伸びるでしょう」

幹部A「本年度の収益を黒字に転換する為にも、彼の働きに期待しよう」

シッチ「(くそっ! 主題である対策会議は15分で終わらせたくせに……! こんなどうでもいい命名に2時間も割きおって! 無能な楽観主義者どもめ!)」

幹部A「ところでシッチ君」

シッチ「あ、は、はい? なんでしょう?」

幹部A「先ほど報告にあった頭のおかしいハゲについての調べは済んでいるのかね?」

シッチ「……はい。どうやら、協会に属するヒーローのようです。データベースに記載がありました」

幹部C「なに? ヒーローネームは?」

シッチ「たしか、ハゲマントでした」

幹部一同「……」ドヨドヨ

幹部A「聞き違いかな? なんといった?」

シッチ「ですから、ハゲマントです」

幹部D「なんとも滑稽なヒーローネームだ。事務員がつけたのか」

幹部C「まぁ、問題ないでしょう。一風変わったネームが多いヒーロー界隈ですから」

幹部D「戦慄のタツマキとどこかに飛び去ったと聞き及んでいるが?」

シッチ「報告に間違いはございません。いまごろ、病院送りになっているでしょう」

幹部C「有象無象(うぞうむぞう)のヒーローなんぞに期待はしておらん」

幹部A「その通り。……しかし、母数が大きければ大きいほど突出した才能を持つものが出現する可能性は高くなる」

幹部D「そのハゲマントとやらは“その他のヒーロー”に他ならない」

幹部B「スポーツ競技と同じ原理だ。“人気”は維持してこそ、子供達が成長した際に次へのバトンとなる」

シッチ「(経営的な判断として間違っていない。市民達のヒーローに対する印象は怪人が現れるほどうなぎ登りで良くなっている。なぜならば、活躍するから)」

幹部A「そろそろ、今日の会議はお開きとするか」

シッチ「(だが……! だが! この言いようのない不安はなんだ? 頼む……! 俺の杞憂であってくれ……!)」

【再び戻って荒野】

タツマキ「しつこいわよ、あんた」ズドドドドドッ

サイタマ「超能力者って異能者っつーより手品師みたいだな。物を浮かしたり空飛んだり」ヒョイヒョイ

タツマキ「手品?」ピタッ

サイタマ「ん? やっと諦めてくれたか」

タツマキ「だったら、これはどう」バッ ズンッ

サイタマ「おっ、なんだ? ちょっとだけ重くなったような……フブキと似たような超能力か」

タツマキ「は? あんたがどうして妹の名前を」

サイタマ「ただの知り合いだよ」

タツマキ「まさか……キングの弟子とフブキ組が?」

サイタマ「いやいや、俺はキングの弟子でもなければ関係もだな」

タツマキ「じゃあ、なんでフブキの能力を知ってるの?」

サイタマ「今言ったろ、知り合いだから」

タツマキ「お友達ってわけ。そんなウソが通じると思う?」ズズズッ

サイタマ「おい、地面割れてんぞ」

タツマキ「いつのまにやら悪い虫がついていたようね。フブキに友達なんていらないの」

サイタマ「だから待てって。俺はあいつの友達なんかじゃねーよ」

タツマキ「なら、手下?」

サイタマ「手下でもねー……そうだな、手下じゃないし、友達でもないし仲間でも……友達の友達じゃないし。うん、やっぱ、知り合い」

タツマキ「なんなのよ。やっぱりただのハゲ?」

サイタマ「んだと、このチビ」

タツマキ「ちっ……⁉︎ あんた! 言っていいことと悪いことがあんでしょ⁉︎」

サイタマ「お前だってハゲハゲ言ってんだろ!」

タツマキ「久々に頭にきたわ。まぁ……死なないでしょうけど」ゴゴゴゴッ メキメキ

サイタマ「(おっ、ちょっと力があがってる?)」

タツマキ「ペチャンコになっちゃえ」グッ

サイタマ「(さっきより強めのマッサージ効果を感じる……)」

タツマキ「くっ……!」ググッ

サイタマ「(あーそこ違う、もうちょい。もうちょい、上。首の付け根周辺だ)」

タツマキ「(な、なんなのよ、こいつ。こんな実力者が隠れてたなんて信じられない……! さらに出力を……!)」

サイタマ「う、う、あ」

タツマキ「……! ど、どうやら悶絶しだしたようね! どう? 私の超能力は!」

サイタマ「(あー、助かる。こりゃいい)」

タツマキ「土下座して謝るなら許してやっても……やっぱりだめね。そのまま苦しみなさい」ググッ

サイタマ「ぐ、ぐぐ」

タツマキ「ふふん、この程度の出力か。あんた、やるようだけどまだまだね」

サイタマ「もうちょっと強めでもいいぞ」

タツマキ「なに……?」ピクッ

サイタマ「(マッサージを)強めでもいいと言っているんだ」

タツマキ「痩我慢なんてするもんじゃないわよ」

サイタマ「あ? なんの話だ?」

タツマキ「――……なるほど。Mっ気なの?」

サイタマ「いきなり変態にいく意味がわからん。お前がそうなんじゃないか?」

タツマキ「なんで私がって話になんのよ!」

サイタマ「よく言うだろ? いきなり疑いをかけるのは自分がそうだからって」

タツマキ「……いい。元々他人なんて虫けら同然。あんたみたいなハゲの一人や二人が死のうと明日の朝刊にすら載らないでしょう」

サイタマ「……」

タツマキ「フルパワーでやってあげる」

サイタマ「なんだ、まだ違かったのか。いいぞ、というか最初からやれ。かませ犬みたいな発言は頼むからやめろ」

タツマキ「すぅー、はぁー」ピタッ

サイタマ「……」

タツマキ「私がなぜ戦慄のタツマキと呼ばれるか知ってる?」

サイタマ「え? まだ話が続くの? ……知らないが」

タツマキ「見たもの全ての者達が戦慄を抱くから。敵わない、悪寒が背筋に走る」

サイタマ「ああ、うん」

タツマキ「とくと味わうがいい」キッ

【数分後】

タツマキ「――むっぬぎぎぎっ!」

サイタマ「あーあ、派手に立ち回ったおかげで服がぼろぼろになっちまったじゃねーか。それに地形が変わっちまってるしさ」

タツマキ「ぐぐぎぎぎっ……っ!」ズキン

サイタマ「あ?」

タツマキ「うっ、ごほっ、ごほっ」ガクッ

サイタマ「風邪か?」

タツマキ「うっさい、私になんの反撃もしないのはどういうつもり?」

サイタマ「いや、本気になったら相手しようかと。戦慄の意味を教えてくれるんだろ」

タツマキ「なによそれ……! まだ本気ですらなかったの⁉︎」ズキズキ ズキンズキン

サイタマ「普通だけど?」

タツマキ「ふざけるんじゃないわよっ!!」スッ

サイタマ「……」

タツマキ「うっ!」ヨロヨロ ドサッ

サイタマ「やっぱ、風邪か? 熱あるんなら無理しない方がいいぞ」

タツマキ「ごほっごほっ」

サイタマ「おいおい。大丈夫か……?」

タツマキ「……あんた、名前は?」

サイタマ「あ?」

タツマキ「名前よ。ハゲなだけじゃなく耳まで遠いの?」

サイタマ「……」ピキピキッ

タツマキ「……」ジー

サイタマ「サイタマだ。一応プロヒーロー」

タツマキ「そ。覚えておいてあげる」

サイタマ「ああ。それに関しちゃ好きにすればいい。ほれ、立てるか?」スッ

タツマキ「ありがとう、でも、さよなら。サイタマ」ゴゴゴゴッ クパァッ

サイタマ「あっ」ヒュー

タツマキ「そのまま地底人にでもよろしく伝えておいて。……ん?」

マツゲ「いました! 竜巻の発生源はやはり……! フブキ様! 窓から身を乗り出しすぎですよ! っていない」

フブキ「お姉ちゃんっ!!」ビューン

タツマキ「見覚えのある車だと思ったら。フブキ組の。まだそのダサいマークつけてたのね」

フブキ「(サイタマは⁉︎ 一緒じゃないの⁉︎)」タンッ

タツマキ「少し飛ぶ速度がはやくなった。えらいわよ、フブキ。ちゃんとコントロールの練習してるみたいで」

フブキ「……」キョロキョロ

タツマキ「私が目の前にいるのに釣れないじゃない。誰をお探し? もしかして……サイタマ?」

フブキ「お、お姉ちゃん……! やっぱり!」

タツマキ「私もあなたに聞きたいことができてたのよ。ちょうどよかった。あいつ、誰?」

フブキ「そんなことどうだっていいでしょ! なんでお姉ちゃんがサイタマを知ってるの⁉︎ 彼はどこ⁉︎」

タツマキ「どこって」クイ

フブキ「下? 下を指差して……まさか? 葬ったって言いたいわけ?」

タツマキ「さぁーねぇ。無事だと思う?」

フブキ「……」

タツマキ「いい殺意ね。刺し違えてでも私を殺そうと決意を固めた表情」

フブキ「……」ゴゴゴゴッ

タツマキ「なによ、あいつただの知り合いだって言ったくせに。やっぱりそうじゃなかったのね」

フブキ「いい加減にしてよね」ボソ

タツマキ「ん? よく聞こえないわぁ、喋るときはハキハキと喋りなさい」

フブキ「――いい加減にしてって言ってんのよっ!! そんなに気に入らない⁉︎ どうして私の大切な人たちを傷つけるのっ⁉︎」

タツマキ「この世界で生き残るには、自分が強くなるしかないの。ずっと言い聞かせてきたでしょ? ヒーロー業界のことじゃないわよ。この現実の世界。誰も守ってくれない」

フブキ「聞き飽きたわ」ブル ブル

タツマキ「だったら、わかるはず。頭で理解しても気持ちで理解できない?」

フブキ「私はお姉ちゃんの人形じゃない……!」

タツマキ「もちろんよ。でもそれを主張して、自分を押し通すにはまだまだ弱い。もっと、もっと強くならなくちゃ。それまでは私が守ってあげる」

フブキ「結構よ」

タツマキ「昔はあんなに懐いてたのに」

フブキ「いつまでも子供扱いしてるから……! 私はもう小さくなんかない!」

タツマキ「ピーピー鳴いてるひよっこよ」

フブキ「黙れっ!!」ゴゴゴゴッ

タツマキ「あぁ、わかった。反抗期ね?」

フブキ「この……っ!! だまれええええええっ!!」ブチンッ

タツマキ「……」

フブキ「“地獄嵐ッ”!!」ドバァッ

タツマキ「出力はまぁまぁね」ドーーンッ

フブキ「ぐっ、はぁ、はぁっ……ぜ、全力でやっちゃった。お、お姉ちゃん……?」モクモク

タツマキ「なに?」ケロッ

フブキ「……」ボーゼン

タツマキ「力の使い方が散漫すぎる。もっと重点的に溜めなくちゃ」

フブキ「う……あ……」ガタガタ

タツマキ「いい? 重要なのは流れなの。一点に溜めること。だからコントロールの練習を怠らないでって普段から伝えていたでしょ?」

フブキ「くっ……!」

マツゲ「フブキさまぁ!」タタタッ

リリー「いま、そちらに!」タタタッ

タツマキ「……」チラ

フブキ「……っ! お前たち! 来てはだめ!」

タツマキ「そう、そういうこと。気が散ってたのね。あんな足手まといのために」スッ

フブキ「お姉ちゃん! 待って!」

サイタマ「……やってくれたな」ボコンッ ニョキ

タツマキ「……」

フブキ「さ、サイタマっ⁉︎」

タツマキ「しぶとい……死なないのはわかってたけど」

サイタマ「はぁ、よっと」ボコンッ ボコ

フブキ「な、なんで地中から?」

サイタマ「あれ? フブキじゃん。……あっちは、フブキ組の連中も」

マツゲ「あ、あいつは」

サイタマ「ふぅ、風邪はよくなったのか?」ポンポン

タツマキ「まだ信じてたの? あんなのは演技よ、演技」

サイタマ「……? そうだったのか。うまいもんだな」

タツマキ「レディーのたしなみよ。女はみんな演技者。覚えておくといい」

サイタマ「どうする? まだやるか?」

タツマキ「ふん、今日はもういいわ。ところで、あんたやっぱりフブキ組だったんじゃない」

サイタマ「は? 違うけど」

タツマキ「そうなの? フブキ」

フブキ「え? う~んと、その、特別会員で」

タツマキ「ま、それもそーか。あんたのがフブキより強いしね」

フブキ「えっ、お姉ちゃんがサイタマの実力を認めるなんて」

タツマキ「実の妹とは思えない発言ね。私は力あるものに対してはある程度の評価をする。もっとも、大抵の場合は私以下なのが問題だけど」

フブキ「そりゃ、だって、お姉ちゃんはブラストとキングに次ぐ実力者じゃない」

タツマキ「そーなのよね。強すぎるってのも問題だわ。あんたもそう思うでしょ? サイタマ」

サイタマ「……」

タツマキ「怪人達が出没するこの世界では、力はヒエラルキーの分布図になってるわ。社会的地位、政治力、この世は金じゃない。権力でもない。腕力、異能力こそが正義。力さえあれば金だって自由にできる」

フブキ「で、でも……」

タツマキ「なにかを主張したいのならまず力をつけなさい。今のフブキは弱すぎるのよ。自分の身ひとつ守れない貴女がなぜ他の誰かを守れるの?」

フブキ「……」ガクッ

タツマキ「徒党を組んだところで雑魚の集まりは所詮雑魚。大きなサメに敵いはしないわ」

サイタマ「自分でできる精一杯をやろうとするのは悪くないんじゃねーか?」

タツマキ「そんなのは弱者の考える言い訳よ。精一杯やりました、頑張りました……反吐がでる」

サイタマ「(ひねくれてんなぁ)」

タツマキ「ま、あんたみたいなのがもしフブキ組に入ることがあれば徒党を組む活路を見出せるんでしょうけどねぇ。あんな雑魚どもじゃなく」チラ

リリー&マツゲ&山猿「ぐっ!」

フブキ「さ、サイタマ……」

サイタマ「捨てられた犬みたいに見るんじゃねぇ」

タツマキ「なにもかも中途半端なままでは、ずっとそのままよ。リーダーシップも、実力も」

フブキ「……」

サイタマ「(話に入りずれぇ)」

タツマキ「今日は帰る。疲れちゃったから」

サイタマ「おう、気をつけてな」

タツマキ「ハゲ。今度会ったら決着つけるわよ」

サイタマ「あぁ、まぁ、いつでもいいぞ」

フブキ「(背中が、遠い……やっぱり、お姉ちゃんは違うわ。私とは、考え方が)」

サイタマ「さて、俺も帰るか……って。そうじゃねえ! おい、タツマキ。俺アシがないんだけど」

タツマキ「あっそ」フヨフヨ

サイタマ「飛べねぇんだよ俺は!」

タツマキ「ヒッチハイクでもすれば? またね」スィー

サイタマ「行っちまいやがった。車なんてどこに……あっ、あった」

フブキ「……」

サイタマ「なぁ、フブキ。知り合いのよしみで頼むわ」

フブキ「ふっ、ふふふっ」

マツゲ「ふ、フブキ様?」

フブキ「またとないチャンスが訪れたわ!」くわっ

リリー「は?」

フブキ「車に乗せてあげるかわりに正式会員になりなさい!」ビシ

サイタマ「えぇ……」

山猿「(嫌そうな顔してんなぁ)」

フブキ「構成員となった暁には、最高の待遇を約束するわ、なんならパートナーシップ契約でもいい!」

マツゲ「そ、それはあんまりにも」

フブキ「――そ、その。これから一緒に仲間になってヒーロー業界に旋風を! あれ? サイタマは?」

リリー「……? さっきまでそこにいたのに」

【モノローグ】

ヒーロー協会が設立された当初、C級、B級、A級の三段階であった。

協会が各ヒーローをランク付けする際は
・怪人討伐の実績
・戦闘能力
・人助けなどの社会的貢献度
・大衆人気
などを主な基準としている。

単に強ければA級になれるわけではなく、日常の素行や成果を加味した査定を協会が取り決めることで、身体能力が低くても上位に食い込めるようになっている。

――草分けの時代。
設立後、半年間は毎週のようにランキングが塗り変り、『正義』の大義名分の下、熾烈なランキング争いが行われていた。


しかし、ある時、協会は気がつく。
A級ランキング上位が束になっても敵わない災害レベル鬼以上の怪人達。

「それらを単独で倒せる者が紛れこんでいる……」

彼らは不思議なことにランキングに固執することをしていなかった。
名声、栄誉、富。
欲に目が眩み、一足先に手柄を立てようと現場に駆けつけたヒーロー達。
有象無象のヒーローが全滅した後に現れては――。

“戦い、そして、勝利する”

彼らは欲ではない、自身の為に動いていた。
総合実績では、道徳活動を積極的に行いランキング上位にいる者たちの陰に隠れていたため、埋もれていたのだ。

「餌で釣れないとすれば、どうすべきか」

このままでは稀有な才能の確保に難しいと判断した協会幹部は、彼らをの並外れた戦闘能力にだけ着目し、特別枠を設けた。

これが、S級ヒーロー誕生の経緯である。

成り上がりたいと求める者。
それら野心を目的として門出を叩く行為を責めることはできない。むしろ、才能を発掘するという意義を考えれば母数は多いに越したことはないから、歓迎すべきである。

だが、S級という人種は強さが、選別やふるいにかけるという意味は無いのではないかと思うほどに、狂っていた。

いつしか、S級ヒーロー達は、一度は『最強』を目指した者たちに、尊敬と畏怖を集めていた。

【Z市 サイタマ宅】

ジェノス「先生、戻りました」ガチャ

ファング「おや? お主は……」

ジェノス「お前は、S級ヒーロー3位のバング……。なぜここに」

ファング「ヒーロー名簿で住所確認をしての。不在じゃったようじゃが、カギが空いてたからお邪魔した」

ジェノス「(ただ座っているだけなのに、佇まいが堂に入っている。これが、達人の域か)」

ファング「キミこそなにをしに? 気になる発言が聞こえたが……先生と言っておったな?」

ジェノス「ああ。俺の師がここに住んでいる」

ファング「そいつはもしや……サイタマくんかね?」

ジェノス「当然だ」

ファング「ほぉっ⁉︎ ほっほっほっ! 協会のやつらめ。まだ発掘しておらなんだか」

ジェノス「……?」

ファング「いや、なに。ただの独り言じゃよ。協会の無能さについてのな。それで、師と仰ぐ存在のサイタマくんと儂(わし)。どちらが優れた実力者だと見受ける? S級ヒーロー“鬼サイボーグ”よ」

ジェノス「お前の実力を確かめたわけではないが、先生に決まっているだろう」

ファング「……」ゴゴゴ

ジェノス「ひとつ忠告しておいやる。“シルバーファング”。S級が頂点だという概念はサイタマ先生の前では無価値に等しい」

ファング「なに……?」

ジェノス「“下と比べて優れているだけ”。その程度の価値しかないということだ。上には上がいる」

ファング「ふむ」

ジェノス「お前も先生の強さに惹かれてここにやってきたのか」

ファング「惹かれるというと語弊がある。興味が湧いたんじゃよ。底知れぬ器を感じての」

ジェノス「……」

ファング「あるじゃろうが。直感でビビッとくることが。わしもいつか門下生を抱えておるが、彼ははじめて見る……異質じゃ」

ジェノス「異質? まさか、先生の強さの秘密に?」

ファング「先走りすぎじゃて。もっとざっくりした感覚じゃ。わしらとは何かが違う……――そう感じる」

ジェノス「(たしかに、先生が本気になったところを見たことがない。いつでも自然体、それが……)」

ファング「時に……なんか以前に会った頃より見た目変わってね?」

ジェノス「ああ。クセーノ博士に改良を頼んだんだ」

ファング「なるほどの。機械仕掛けか」

ジェノス「先生はいまどちらに?」

ファング「最初に言ったぞ。わしも待っとる」

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2018年04月19日 (木) 14:35:31   ID: LimULuqG

ワシも待っとる

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