あーちゃん先輩「ねえ棗君、そろそろ私のこと名前で呼んでくれない?」恭介「えっ?」 (62)



食堂

恭介(秋の香りも消え、そろそろ肌寒くなってきたこの頃。相変わらずの就職難で、その事とこの寒さをかけて気の利いたことでも言おうと思ったが特に何も思いつかなかった)

クド「はわわ…ねむねむなのです……」

小毬「この時期は寒いから眠たいよねぇ…屋上も行きづらいよ」

鈴「じゃあ昼休みは教室で食べるか?」

小毬「うん。そうしよっか」

西園「なら、私も一緒によろしいですか?裏庭のほうも風が厳しくなってきて…」

鈴「ああ。もちろんだとも」

来ヶ谷「せっかくだしここは全員で食べないか?かく言う私もこの寒さに場所を追われる身でね」

恭介(こっちもいつも通りの平和・ザ・平和だな)

真人「ういっす」

恭介「おう、来たか。……ん?」

真人「どうした?」

恭介「あ、いや…違った。なんでもない」

真人「なんだよ言えよ。気になるじゃねえか!」

恭介「いや…理樹は来ないのかと思ってさ」

真人「…なんだよまたか…なあ恭介、理樹はもういないんだ。もう現実を受け止めろ」

謙吾「これまでずっと一緒だったらこうなるのも無理はない。そっとしておいてやれ」

恭介「待てよ!なんだよその実は理樹は死んでいるのにその事実を受け止められず、空想の理樹を作り出してなんとか生き続けている精神を病んでしまったかつての兄貴分って感じのセリフはっ!!」

小毬「うーん…やっぱりはるちゃんと理樹君がいないと寂しいねえ」

鈴「葉留佳はうるさいがいないと静か過ぎるな」

恭介(そう。三枝と理樹、それに二木の3人はとある事情から最近、遠い街で暮らさなければならなくなってしまった)

恭介(こっちは場所も分かってるし会えないことはないがやはり違和感を感じざるを得ない)

恭介「まあそれもずっとって訳じゃない。ここはおとなしくほとぼりが冷めるのを待とう」

真人「そうだな。ごちそうさま」

来ヶ谷「今の間にどうやって食べたんだ君は……」

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1447947647

すまん
立てといてなんだが多忙な毎日で今は書き込む余裕がない
明日には始めたい

ゲロを吐く勢いで終わらせた!今日はじゃんじゃん描きまくるぜ!イヤッホォォォオウ!!





教室

教師「で、あるからして…」

恭介(ただ、理樹たちがいようがいまいがクラスでの時間は変わらなかった。授業中は新たな遊びを考え、休憩時間には漫画を読む。なんて充実した毎日なんだ!えっ、高校生らしくない…?そんなもん知ったこっちゃないぜ!)

キーンコーン

恭介(休憩のチャイムが鳴った)

恭介「さて、早速漫画の続きを読まなくちゃな。卒業までに最後まで読めるか心配だぜ」

恭介(ワクワクして机の中から漫画を取り出し、さあ読むぞと息をまいたその時だった)

ヒラリ

恭介「ん……」

恭介(なにかの紙が机の上に舞い降りた。どうやら本の間に挟まっていたらしい)

???「………」

恭介「なんじゃこりゃ…なにかメッセージが書いてあるな…」

恭介(それは手のひらほどの大きさで、紙には筆ペンで力強くこう書かれてあった)

恭介「『果たし状。3年の棗恭介、放課後この教室にて待つ』」

恭介(……………)

恭介「ふっ……はっはっはっ!理樹がいなくて物足りないと思っていたがコイツはちょうどいい!よっしゃあ、受けて立ってやるぜ!!」

ザワザワ

「今の棗君…?」

「急に叫んだりしてどうしちゃったんだアイツ…」

恭介「ハッ……」

恭介(しまった。ついうっかり昔みたいにNPCの前だと思って柄にもなくはしゃいじまったぜ!こっちじゃクールで通ってるってのに!)

「「まあ、いつものことか(ね)」」

恭介(俺はあえて誰にも相談せずに一人で待ち構えるつもりだった。少なくとも描いたヤツが誰だか分かるまでは)

???「…………」

………………………

…………



キーンコーン

「起立!礼!」

教師「それじゃまた明日」

恭介(今日最後のチャイムが鳴った。それは、俺と、果たし状を送ってきた奴にとっては試合のゴングにも等しい音だった)

「でさぁーそこに出来た喫茶で早速知り合い見つけちゃって……」

「ふーん」

恭介(他愛のない話をしながらぞろぞろと自分の寮へ帰っていく生徒たち。この中に相手はいるのか?それとも誰もいなくなってから満を持して登場って演出か?とにかく今は待つのみだやがて時がそれを教えてくれる)



10分後

恭介「ふああ……」

恭介(そろそろ放課後といっても差支えの無い時間に入ったが、その前に一つ問題があった)

???「ふんふふーん…」

恭介「なあ、おい」

???「ふんふーんふーん…」

恭介「…聞いてるのか?」

???「えっ、私?」

恭介「お前以外に誰がいるっていうんだよっ」

あーちゃん先輩「あははは!ごみんごみん。ついノート整理に夢中になっちゃってたわ」

恭介(こいつは女寮長。なかなか掴みどころがなく、まさに鵺のような存在だ。…3年やってきたから分かるが、面白い物好きという点やその他諸々含めて俺とキャラが被っていて非常にやり辛いタイプの人間だ)

恭介「なんだ、その…ノート整理なんか明日でもやれるだろ?」

あーちゃん先輩「いい棗くん?今日やれることを明日に先延ばしにする事に関してはこれでもかってくらい名言で忠告されているのよ?ベンジャミン・フランクリンやリンカーンを知らない?」

恭介「それはそうなんだがな…というかそもそもお前はここのクラスじゃないだろ」

あーちゃん先輩「まあね。でも先生様が終わったらこのクラスの教卓にだせーって言ったんだしどのみち一緒じゃない?」

恭介(手紙の本人がまだここに姿を見せない原因は8割方こいつが原因だろう)

恭介「それが終わるのにどれほどかかる?」

あーちゃん先輩「うーん…あとこれだけ」

恭介(まだまだかかりそうだった。………やむを得ない)

恭介「ああ……その、なんだ…俺が手伝おうか?」

恭介(今はさっさと出て行ってもらわなくてはならない。俺は机から筆箱をとった)

あーちゃん先輩「ホント!?ラッキー!流石だね棗くん。愛してるよひゅーひゅー」

恭介(本当に調子が狂うな)

カリカリカリ……

あーちゃん先輩「…………」

恭介「…………」

恭介(ま、なんだかんだで寮長には色々と世話になったんだよな。その事は感謝しておかなくちゃな。こいつからはそんなこと何も言わないが)

恭介「鈴は…」

あーちゃん先輩「んー?」

恭介「鈴とは今も仲良くしてくれているか?」

恭介(描く手は止めずに聞いた。話題無しにずっと無言で作業するっていうのもアレだしな)

あーちゃん先輩「ああ鈴ちゃん?もちろんよ!というか、むしろあの子以上に猫のことで語れる子はいないわよ。今度も新発売のモンペチについて聞いてもいないのに熱弁してくれて可愛かったわ!」

恭介「そうか…」

恭介(そういえば、よく考えると鈴が別の女の子とあそこまで親しくなれたのはこの目の前にいる奴が初めてじゃないか?)

恭介「それにしてもよく鈴と仲良くなれたな」

あーちゃん先輩「うん、まあね。確かに最初は人見知り全開で私にも心を開いてくれなかったわ」

恭介(と、その頃を思い出したのか困ったような顔で笑う)

あーちゃん先輩「でもそんなある日うちのドルジが鈴ちゃんの猫と遊んでたのをきっかけにお互い相手が同志だって知ったの。そこからはもう簡単よ」

恭介「なるほどな。…よし、出来た。お前の方は?」

あーちゃん先輩「うん!ちょうど写し終えたわ!本当にありがとう棗くん」

恭介「これくらい動作もない。さ、そろそろ寮に戻るんだな」

あーちゃん先輩「うーん、それはまだダメかなー」

恭介(ノートを教卓に置いて俺の方をじっと見る寮長)

恭介「どういうことだ…まだ何かあるのか?」

恭介(早くしてくれ。こっちはこれから見知らぬ相手と決闘があるかも知れ…)

あーちゃん先輩「ごほん!ええ、棗くん。あなたに果たし合いを申し込むわ!」

恭介「はあ?」

恭介(はあ?)

恭介「えーっとだな………………」

恭介(……………)

恭介「お前かあの紙を描いたのは!なんで今の今まで言わなかったんだよっ!!」

あーちゃん先輩「さすが棗くん。理解力が高くて助かるわー」

恭介(なんだ、てっきり筋肉モリモリマッチョマンがやってくるかと思えば一番近くにいたこいつだったとは…)

恭介「なんだよ、こっちはせっかく一日中楽しみにしてたってのに!」

あーちゃん先輩「あら、私じゃダメ?」

恭介「いや、ダメとは言ってないが…」

恭介(ものすごく拍子抜けした)

恭介「で、なんだここへ呼び出した理由は…」

恭介(いかんいかん。俺としたものがどうした!完全にあいつのペースな陥ってるじゃないか…ここはイニシアチブをなんとな取り返さなくては)

あーちゃん先輩「棗くん、私あなたの事が好きになっちゃったの!付き合って!この通りだから!」

恭介(両手を合わせて拝まれた。『お願い宿題代わりにやっておいてくれない?』というような感覚で)

恭介「ちょ、ちょっと待てぇい!」

あーちゃん先輩「えっ、どうしたの?」

恭介「どうしたもこうしたもあるか!俺がおかしいみたいな顔で言うな!なんで果たし合いで告白してんだよ!というかその告白の文句もなんかおかしいだろ!というかお前もうちょっと羞じらい見せろよ!なんで聞いてるこっちが恥ずかしいんだよっ!!」

あーちゃん先輩「うわー、そこまでのツッコミは新鮮ねえ。これはレアだわ」

恭介「誰のせいだよ!」

あーちゃん先輩「さ、とにかく告白受けるの受けないの?」

恭介(どっちでもいいから早く答えろと言いたげに腕を組んだ。なんで俺が焦らないといけないんだ)

恭介「その前に、お前本気で俺が好きなのか?」

あーちゃん先輩「ん?ええそうよ。さっきだって愛してるって言ったじゃない」

恭介(アレは冗談じゃなかったのか)

恭介「じ、じゃあ俺のどこを好きになったんだ?」

あーちゃん先輩「好きになった理由なんてないわ。だってそれが愛ってものじゃない?強いて言うなら理樹くんとかなちゃんの話聞いて『うわー見せつけてくれるなー羨ましいなー』って思ったことかしら」

恭介「理由あるじゃねえか!」

恭介(もう嫌だ。なんなんだよコレ…訳わかんねえよ…なんでこんなに理不尽なんだよ…っ!ほら、もっと恋愛っていうのは距離のはかり方にいちいちドキドキするもんじゃなかったってのかよ…くそぉ…雰囲気ぶち壊しじゃねえか!)


あーちゃん先輩「ほらほらどうするの棗くん。あなた青春がしたかったんでしょ?彼女が1人も出来ないまま卒業する高校生活なんて青春なんて呼べるのかしら?」

恭介「呼べるわ!そんなこと言ったらこの学校の半分くらいが青春してねえよ!」

あーちゃん先輩「でも私は付き合うに越したことはないと思うな~」

恭介「くっ……」

恭介(なんなんだいったい…この俺が飲まれているだと……)

あーちゃん先輩「ほーらー棗くんー」

恭介(手を握ってぶんぶん振り回してくる。その手はとてもスベスベしていていい香りがした。今まで意識なんかしたことすらなかったが、こいつこんなに可愛かったか?)

恭介「……ったよ…」

あーちゃん先輩「えっ?」

恭介「分かったよ!俺の負けだ!」

恭介(すると言葉の意味を察したらしく目の前の彼女は大喜びした)

あーちゃん先輩「おおー!やったー!」

恭介(とんでもない奴に目をつけられた気がする。こんな感じで付き合ってよかったのか…)

その日の夜

理樹部屋

恭介「………はあ…」

真人「どうした恭介。ため息なんかついちまってさ」

恭介「いやなんでもない」

謙吾「ないわけないだろう。言ってみろ、理樹がいなくて寂しいのか?」

恭介「いやそれもあるが…」

真人「じゃあなんだよ」

恭介「いや…」

恭介(2人は顔を見合わせて『こりゃ重症だな』って感じのアイコンタクトをしていた。確かに今日は本当に疲れた)

恭介「なあ真人、今日はお前の方に泊まっていいか?」

真人「別にそりゃ構わねえが理由くらい教えてくれよ」

恭介「お前(バカ)がそばにいてくれるだけでありがたいんだ。俺がまともなのを証明してくれるようで」

真人「あれ…おかしいな。台詞の聞こえはいいのに馬鹿にされた気しかしないぞ?」

…………………………

……………





恭介(それから俺たちはカップルらしいことをする様になった)

恭介(流石にまだキスとかいうのは恥ずかしくて出来ないがデートなんかは暇を見つけ次第よく行った)

恭介(ちなみにこのことはまだバスターズのみんなには言っていない。特に鈴なんかにバレた日にはどんな顔をしていいのか分からんしどんな反応をするのかさえ予測不可能だった)

あーちゃん先輩「棗くんなに飲む?」

恭介「ああ、コーヒー頼む」

あーちゃん先輩「ほいほい」

恭介(ちなみにここは寮長室。二木と理樹がいない今は完全にこいつの私物と化した。俺たちが駄弁るにはおあつらえ向きの場所だけどな)

あーちゃん先輩「はいお待ちどう!」

恭介「おう、悪いな」

恭介(ここのコーヒーは香りがいい。味の方は正直言って高校生だしまったく分からんが)

あーちゃん先輩「棗くん。話あるんだけどいい?」

恭介「なんだ?また一日中誰からもバレないように手を握り続けたいとか言うなよ」

あーちゃん先輩「そんなことないわよ。ただ普通のこと」

恭介「普通のこと?」

あーちゃん先輩「そろそろ私のこと名前で呼んでくれない?」

恭介「はっ?」

恭介(コーヒーを冷ます手が止まった)

あーちゃん先輩「だから名前よ名前。別に人前じゃなくて2人きりの時だけでいいから」

恭介「……な、名前か…」

あーちゃん先輩「うん。ダメ?」

恭介「こういう時だけ上目遣いしようとするなっ…分かったよ。今度から言えばいいんだろ?」

あーちゃん先輩「うんっ!よろしくね」

恭介「…………………」

恭介(ヤバい。これはヤバいぞ)

導入終わり

その節は安価失敗して迷惑をかけたな…
ssに全く関係ないが民安さん結婚してるじゃねえか!!こいつは祝福しなくちゃだな!次のナツブラが待ち遠しいぜ!
再開!

廊下

あーちゃん「それじゃあバイバーイ」

恭介「おう、気をつけてな…」

恭介(別れてから奴が廊下を曲がった瞬間、一目散に回れ右をして部屋に戻った)

ガチャッ

寮長部屋

恭介「ハァ…ハァ…どこだ、どこにある!」

恭介(部屋に入るとあいつの机を漁った。引き出しは鍵をかけられているので置いてあったノートやファイルを探した。しかし…)

恭介「ダメだ…どこにも書いてねえ…あいつの名前がっ!!」

恭介(そう、実を言うと俺はあいつの本名をまったく知らないのだった)

恭介(みんなは俺のことを付き合っている人間の名前も知らないなんて薄情な人間だと思うだろう。しかし俺にも訳がある)

恭介(俺と奴はなんだかんだで付き合う前から縁はそれなりにあった方だった。だから次会った時にでもさりげなく名前を聞こうと思ったんだが、いつも聞くのを忘れてしまっていた)

恭介(そんな日が続いて3年になってからは今更聞くこともな…って感じなので間接的に知ろうとあいつのクラスへ行って出席簿などを探ろうとしたがいつも邪魔が入った)

恭介(別にそこまで必死に知ろうとしなくても良いと思ったので放置していたが今となってはなんとしてでも確かめなくちゃいけない。なのに…)

恭介「やはりダメか…どうしてだ!おかしいだろ!」

恭介(付き合ってからあいつの名前を知る努力は一層増してきた。しかし、何故かフルネームの1漢字も分かっていない。分かるとすればニックネームである『あーちゃん』から察するに『あ』がつく名前なんだろう)

恭介「何故だ…何がそこまで俺を止めるんだっ!!」

恭介(あいつを訪ねてくる奴はだいたい名前を直接呼ばず話しかけるか例のあだ名で呼ぶのみだったし、あいつと同じクラスの生徒になりきった時さえあったが、一向に先生から当てられていなかった)

恭介(寝ているあいつのありとあらゆるポケットを探ってみたこともあったが、生徒手帳はおろか、名前が書かれているような所持品は一つもない)

恭介(そこで俺はもう神の存在を信じるしかないとも思ったぐらいだ)

恭介「クソッ…他にどうすればいい……」

恭介(考えろ恭介。お前はありとあらゆる困難を乗り越えてきたじゃないか!)

恭介「……………そうだ、ここはもう人に聞くしかない!あいつの知り合いだって何人もいるじゃねーか!」

裏庭

クド「わふー?なんでこんなところに呼び出されてしまったんでしょうか…私何かいけないことでもしましたか?」

恭介「いや、そういうことではないから安心してくれ」

恭介(まずは能美からだ。2人は確か同じ部の関係だったはず。ならば知っていて当然だ)

恭介「そして能美、どうか約束してくれ。ここで俺が聞いたことを絶対に他人に漏らさないと」

恭介(とくに本人にな)

クド「なんだかよく分かりませんがそういうことなら分かりましたー!さあどんどん質問してください!」

恭介「よし。良い返事だ。それではクイズスタート!」

クド「たたん!」

恭介「………今の女寮長の名前はなんでしよう?」

クド「そんなことでいいんですか?」

恭介「おうとも!」

恭介(我ながら素晴らしいアイデアを思いついたもんだ)

クド「では答えます!ズバリ答えは、あま…『find a way こーこーかーらー! found out 見ーつーけるー!』

恭介「!?」

恭介(ちょうどクドの言った言葉に重なるように大音量の音楽が轟いた)

クド「わふー!?あ、あれは……っ!」

ボーカル『ロックを奏でろー!』

クド「あれは女性だけで組んだガールズバンド、ガールズデッドモンスターズですっ!なんでこんなところへ!?」

恭介(グラウンドの方には大型スピーカーと共に巨大なセットが建てられていた。その上には1チームのバンドがそこに立ち、下には大勢の生徒が集まっていた)

恭介「ガルデモだとぉ!?」

恭介(あの人気バンドがうちの学校に……いや、違う!今はそれどころではない!)

恭介「すまん、能美。今の答えが聞こえなかった。もう一度言ってくれないか?」

クド「わふーー!!」

ダダダッ

恭介「あっ、おい!」

恭介(能美は興奮してすぐにグラウンドの方へ走って行った。追いつこうとしたが群衆の中に紛れてしまったのでもう探しようがない)

恭介「くそっ!どこへ行ったんだ!」

恭介(すると曲が終わり、ボーカルがマイクを外して言った)

ボーカル「みんな、今日は私達のサプライズライブで大いに盛り上がってくれ!」

「「「イヤッホォォォオウ!ガルデモ最高っ!」」」

ドラム「エディバディセイっ!」

「「「ガルデモ最高ーーっ!!」」」

ベース「ラブ&ピース!」

「「「ガルデモ最高ーーっ!!」」」

恭介(しばらく収まりそうになかった。名残惜しいがここは離れて別の手を探そう)

恭介(次は少々荒っぽいが一番確実な方法をとろう)




職員室

恭介(ノックをしてから入る。関係ないがこの職員室の雰囲気はどうも苦手だな。息がつまるというかなんというか)

恭介「失礼します。3-Dの先生はいませんか?」

職員「私だが。なにか用かね?」

恭介「はい。少し生徒の名簿を見せてもらいたくて」

職員「それは良いが何に使うんだ?」

恭介「実は最近、校内の生徒の名前を全暗記するミッションに取り組んでおりまして」

職員「そ、それはそれは…」

恭介(そう言って机の引き出しを開けると手渡してくれた)

職員「これだ。応援しているぞっ」

恭介(礼をすると早速その宝の地図を開いた。これでやっと分かる。あから始まる女子なんてそうは居ないはずだからな!)

恭介「さてどこだ…」

クルリ

ドンッ

用務員「おっと!」

恭介「なっ!?」

恭介(急に振り向いてしまったせいか後ろにいた用務員さんにぶつかってしまった。そして…)

バシャッ

恭介「あ、ああぁぁあ………っ!!」

恭介(ちょうど持っていたコーヒーが名簿にかかってしまった)

用務員「大丈夫か君!手にかかってしまったのか!?」

恭介「いえ…それはありません」

恭介(むしろ代わりに手にかかっていたならどれほど良かったか…名簿の紙はもはや黒くグズグズになってしまい、とても読めそうになかった)

恭介「また…遮られたか…」

恭介(本当に偶然なのかこれは!)

恭介部屋

恭介(次の手はあまり使いたくなかった。しかし今はなりふり構っていられない。下手するとあいつが俺を嫌ってしまうかもしれない。別れの原因になっしまうかもしれないんだ)

恭介(そんなの嫌だ。付き合ったばかりで別れたくねえよ!もっともっと恋人らしいことがしたいんだ!)

恭介「頼む…出てくれ……」

恭介(俺は携帯を開き、理樹の携帯にかけた)

プルルルルル

プルルルルル…

恭介(流石理樹だ。三回目のコールで出てくれた)

理樹『もしもし、直枝です』

恭介「ああ理樹か!」

理樹『やあ恭介。どうしたの?』

恭介「ああ。一つ頼みがあるんだが二木は今いるか?」

理樹『二木さんなら今隣にいるよ』

恭介「でかした。代わってくれ」

理樹『二木さん、恭介が…』

佳奈多『棗先輩?ちょっと菜箸持ってて……はい、代わりました。二木ですけど…』

恭介「二木。用件を言う前に一つ約束して欲しいことがある」

佳奈多『はあ』

恭介「この事を誰にも喋らないと言ってくれ」

佳奈多『…その内容にもよりますが』

恭介(あくまで冷たい声だった。よく理樹はそれでも可愛い所はあると言っていたもんだが)

恭介「分かった。じゃあここはお前の良心に賭けよう。実はこんなことなんだ…」

恭介(俺はなぜ今まで知らなかったかの経緯を話した)

恭介「そこでお前に改めてあいつの名前を教えてほしい」

佳奈多『はあーーっ!?あーちゃん先輩があなたと!?はあーーっ!?』

理樹『二木さーん。もう赤くなってきたけどどうすればいいのー?』

佳奈多『あ、ああ…もうお皿に盛り付けておいて………ごほん…それで、その話は本当なんですか…』

恭介「ああ。名前を知らないのも付き合ったのも」

佳奈多『やれやれ、確かによく考えてみるとお似合いな気もしますね…お二人は』

恭介「だろ?まあ、そこはともかく今は名前が聞きたいんだ。早く言ってくれ!」

佳奈多『分かっていますよ。確かに私も久しく呼んでないけど、あーちゃん先輩の名前は…』

『ドーーンッ!!』

佳奈多『ひゃあ!?…は、葉留佳っ!!』

葉留佳『やははー!お姉ちゃん何の話してるのー?あっ、誰かと話してた?ごめんごめん』

恭介「三枝か…もはや懐かしい騒がしさだな」

葉留佳『おっ、その声は恭介さんじゃあーりませんか!』

恭介「おう、久しぶりだな。元気にしてるか」

葉留佳『ふっふっふっ…はるちんにその挨拶は野暮ですヨ?』

恭介「フッ…それもそうだったな。とりあえず二木と代わってくれないか?今はとても重要な話をしているんだ」

葉留佳『おっとそりゃ失礼しました!ほい、お姉ちゃん』

『ええ、ありがとう私の可愛い葉留佳』

恭介「おい。まだ三枝だろ」

葉留佳『やははのはー!バレちゃったですカ?』

恭介「頼む。代わってくれ」

恭介(こいつも引き際を覚えたらそれなりに人気が出そうなもんだがな)

佳奈多『コラもう!…すいません棗先輩』

恭介「いいってことよ」

佳奈多『えーとで、名前でしたよね』

恭介「ああ。言ってくれ」

佳奈多『はい。言いますよ?あーちゃん先輩のフルネームは…』

恭介「フルネームは…」

恭介(一文字も漏らさないよう耳に全神経を注いだ)

佳奈多『あま…』

ピーッ!ピーッ!ピーッ!

恭介「………はあ?」

『現在おかけになった電話番号は現在、電波の届かないところが電源が…』

恭介(絶望的なアナウンスが聞こえた)

恭介「バカな…」

プルルルルル

プルルルルル…

恭介(その後何度も電話をかけたが、遂にかかることはなかった。いったい何が起こったというのか)

恭介「……………」

恭介(日はもう後半を過ぎた。そろそろ日が落ちそうである)

恭介「……………」

クド『では答えます!ズバリ答えは、あま…』

佳奈多『あま…』

恭介(あま。これまでの努力から比べると泣けるほど悲しいが、進歩はしていた。あいつの名前は『あまナントカ』だ!)

恭介「しかしどうしても何かが起きて俺の邪魔をするな。それもこれも狙って出来るようなものでもない」

恭介(だがしかし俺の中では作為的なものに思えて仕方がない。じゃあ誰の意思だ?もはや答えは神のような何かとしか答えようがない)

恭介「なんてアホなことを真面目に考えるようになってしまったんだ俺は…!」

恭介(しかし一度割り切ってしまえば後は簡単だ。俺はこの先どんな手段を使ってでも名前を知ってやる!!)

女子寮

ガヤガヤ

「ボクもそうだと思うなぁ~」

「でしょう?」

恭介「さささっ」

恭介(よし、UBラインを突破して無事に進入成功だ。今の風紀委員に二木はいないからちょろいもんだぜ!今のように常に女子の死角に回り込んであの場所へたどり着けさえすればいい)


……………………

寮母部屋

恭介(やはり男子寮と同じ位置にあったか寮母の部屋は!)

カチャカチャ

恭介(ここまで来たらこっちの物だ。あとはこの爺ちゃん譲りのピッキング技術で寮の名簿を頂き…)

来ヶ谷「誰だ貴様」

恭介「……!!」

恭介(おそらくこの寮の内に入られる中で最強の人物に背後を取られた)

来ヶ谷「手を挙げろ」

カチャリ

恭介「おい、何だ今の『カチャリ』って音は!?そしてなんでこんな所にいるんだ…寮のの隅にあるしよっぽどの用がなければ来ないはずだが」

来ヶ谷「ほう、恭介氏か。知り合いのよしみで質問に答えよう」

来ヶ谷「第1の答えは、威力を改造したオモチャの銃だ。ゴム弾が入っている。そして第二。これは引退してからOGになるつもりだった佳奈多君の代わりに期間限定のパトロールを勤めている」

恭介「なるほど。見逃してくれ」

来ヶ谷「ふふふっ…」

恭介(不気味な笑いを浮かべるだけで身体をピクリとも動かそうとしない)

恭介「頼む…訳を聞いてくれ!」

来ヶ谷「女子寮に不法進入し、挙げ句の果てにマスターキーが置いてある寮母部屋に入ろうとした男に弁解の余地はない」

恭介(慈悲はないらしい。ここで終わりか……)

「あーっ、探してたよぉ!」

来ヶ谷「む?」

小毬「パトロールしてたんだね。それじゃあ見つからないのも無理はないね…これからみんなで一緒にお菓子パーティーを…」

恭介(後ろから声がする。その主は小毬のようだ)

来ヶ谷「小毬くん。悪いが今は構っている暇はない。この極悪ロリコン魔を拘束しなければ」

小毬「ろ、ロリコン~!?」

恭介「待て!俺はロリじゃねえ!」

来ヶ谷「ええい、うるさい黙れ」

恭介(もう少し年上を敬ってくれ。今の状況では無理はないが)

小毬「ど、ど、ど、どういうことなのゆいちゃん!?」

来ヶ谷「だ、だからゆいちゃんは止めろと…!」

恭介(突然来ヶ谷の集中が切れた。逃げるなら今だ!)

ダダッ

来ヶ谷「むっ!」

パンッパンッ

恭介「おっと、俺も悪いがここで抜けさせてもらう!」

恭介(素早く壁に走り窓を開けると、身を乗り出す形で外へ脱出した)

恭介「あばよ来ヶ谷!」

来ヶ谷「チッ…」

パンッパンッパンッ

ドシュッ

恭介「ぐぅっ…!!」

恭介(窓越しに撃たれ、右の太ももにモロに食らってしまった。しかし今は肉が抉られたとしても逃げなければヤられる!)

タッタッタッ………

来ヶ谷「逃げたか…私の負けだよ」

小毬「どうしたの?」

来ヶ谷「いや、なんでもない。さあお菓子パーティーは小毬くんの部屋だったかな?」


…………………………

………………

恭介「はぁ…はぁ……い、今のは流石にあせったぜ…」

恭介(ゴム弾で撃たれた場所は軽いアザになっていた。遠くから当てられてこれならあの時、来ヶ谷が外していなければ……考えたくもない)

恭介(それより次はどうすべきか…女子寮はもはや入ることは出来ないし…ここはあいつに頼んでみるか)




男子寮

ガチャリ

生徒「はい……おお、棗か」

恭介「うっす。ここの部屋ってうちの寮長もいたよな?今いるか?」

生徒「寮長のほうに用件か?」

恭介「そうなんだ。用と言ってもちょっとしたことなんだが…」

恭介(寮長同士、流石に名前を知らない訳はないだろう。最初からこいつに聞いときゃ良かったんだ!)

生徒「そりゃ残念だ…ちょうどその寮長さんは風邪引いて別室で寝てるよ。よかったら代わりに伝えておこうか?」

恭介「……………」

恭介「別室ってどこだ?」

生徒「この階の一番右端だが…まさか行くのか!?」

恭介「悪いか?」

恭介(フッ!神様さんよ。寮長を風邪にしとけば俺が止まるとでも思ったのかい!?俺を見くびってもらっちゃあ困るなっ!!)

生徒「悪いっていうかお前がウイルス貰って風邪引くかもしれないんだぞ!?」

恭介「風邪がなんだ!愛する人間のためならそれくらい!」

生徒「正気か!無茶させるなよ!?」




別室

恭介「開けるぞ」

ギィ…

恭介(部屋の電気は消えていた。俺はそれを点けるとベッドの方へ歩み寄る。いた。寮長だ)

男子寮長「ゴホッ…ゴボッ……なんだ、棗か…」

恭介「そうだ。不躾で悪いがお前に一つ聞きたいことがある」

男子寮長「な、なんだ…」

恭介「もう1人の女子寮長がいるだろ?彼女の名前を教えてくれ」

寮長「あいつの名前か?お前知らなかったのか」

恭介「今はそんなのどうだっていい!早く教えてくれ!」

寮長「あ、ああ…あいつの名前は『あま……ウプッ…オロロロロロ!!!」

恭介「うぉぉおおお!?」

恭介(飯時にこれを見ている奴にはすまん。なんでも寮長が急に名前の方じゃなく文字通りゲロっちまった)

生徒「大丈夫か寮長!だから言ったろ棗!?」

恭介「わ、悪い…」

寮長「こ、コホッ……っ!」

生徒「この状態だとしばらくロクに喋られそうもないな…棗、いいからここは俺に任せてくれ」

恭介「……すまん。寮長にもそう言っておいてくれ」

生徒「気にするな」

恭介(俺は部屋へ戻った。もう夕方だった)

くそーまとまった時間があんまり取れねえ!寝る!

恭介「この作戦を実行するなら、もはや一刻の猶予もない。実質これがラストミッションとなる」

真人「急になに言ってんだ?」

恭介(早めの夕食を食っていると隣に真人が座ってきた。こいつも早飯らしい)

恭介「詳しい事は全てが終わってから話してやるよ」

真人「モグモグ…別に聞きたいって言ってるわけじゃねえけどな……まあ頑張れよ、明日の学校遅刻すんなよな…モグモグ…」

恭介「言われなくとも!」

校門

恭介(金よし、非常食用の一切れのパンよし、いざという時のナイフよし、夜道のためのランプよし、父さんの熱い想いよし!)

恭介「これだけあれば理樹達のところへたどり着けるはずだ…」




………
……………

15分前

理樹『それで携帯が水没しちゃってさあ…今修理に出してるところなんだ』

恭介「そう言うことだったのか…」

恭介(女子寮から脱出したあと、案もなく途方に暮れているところへ知らない番号から電話がかかってきた。三枝の携帯でかけたらしい)

理樹『それで話によると二木さんは用件を言いそびれてたんだよね。二木さんは今、手が離せないから僕が言うよ』

恭介「なに?理樹がか?」

理樹『伝えないままはなんだか気持ち悪いし恭介に言っておこうと思ってさ。僕もさっき言われて初めて知ったんだけど』

恭介「さすが俺の理樹だな。最近のやつにしては思いやりを持って育ってくれたぜ!」

理樹『聞かなくていいの?』

恭介「ああ悪い!さあ早く言ってくれ。その携帯も水没する前にな」

恭介(いま言った言葉は半分冗談のつもりだった。しかし俺は忘れていた。今の俺は神に弄ばれているということを)

理樹『あはは…それじゃあ言うよ?彼女の名前は…』

恭介(次の『あっ…』という声と、ぽちゃんという音の数秒後に音が唐突に、完全に切れた)

恭介「……………」


……………
………


恭介(このままでは、明日確実にあいつと学校で鉢合わせするだろう。そこで名前呼びを強要されるだろう。ならばこれから今すぐ無理やり聞きに行くしかない)

恭介「行くか…理樹達の隠れ家へ!」

《BGM:死闘は凛然なりて》

恭介「どぉうらぁぁあ!!」

恭介(あいつらはここから車で2時間ほどかかるところへアパートを借りている。タクシーを借りてもいいところだが何が起きるか分からない分、タクシーの運ちゃんを巻き込むわけにはいかなかった)

キコキコキコキコキコキコ

恭介「持ってくれアルカディア号!あの九州まで共に行った夏を思い出せぇぇえ!!」

恭介(なので移動は自転車だった。このスピードなら帰ってから3時間は寝られるはずだ)

恭介(夜の街に灯りが灯る。寒い中、防寒具を抱いて歩いている人々の横を全速力で通り過ぎた。既に身体は熱い)

恭介「うぉぉおおおおおお!」

少女「キャーア!」

恭介「……ん!?」

少女「ああ、そこの人!助けてください!今ポチが川に流されちゃったんです!」

恭介(中学生ほどの少女が俺の腕を掴んで懇願する。他の通行人は興味深そうに遠巻きに見ているだけだった)

恭介「わ、悪いが他を当たってくれ!俺には大切な急ぎの用が…」

少女「……そっ…そうです…よね……分かりました。どうぞ行ってください…最初から他人に頼らず自分で飛び込めば良かったんですよね……」

恭介「くっ…」

恭介(涙を拭って川のフェンスを乗り越えようとする少女を見て俺は…)

キコキコキコキコキコキコ



恭介「寒い寒い寒い寒い寒い寒い!!」

恭介(冬の川とかシャレになんねえよ!もうすぐで他人のパトラッシュを助けたあとにネロっちまうところだったぜ!)

不良1「オラァッ!」

恭介「あぁ!?」

サラリーマン「ヒィィ!助けてください!」

不良2「いいから金出せば大人しく行くって言ってるだろ?」

サラリーマン「お願いです。このお金は子供の誕生日祝いにプレゼントとケーキを…」

不良3「ごちゃごちゃうるせーんだよ!」

恭介(横を見るとコンビニの近くでサラリーマンかカツアゲされていた。まさかこの時代にまだこんな不良不良してる奴らがいたとは)

恭介(そして例によって周りの通行人は見て見ぬ振りをするだけだった。そしてたった今、そのサラリーマンと目が合った)

サラリーマン「う、うう…」

恭介「くっ……」

恭介(自転車を降りてその中心人物達の前に出た)

恭介「待てえお前ら!」

不良1「なんだぁ…おめえ…?」

不良2「どうやら助太刀しようって魂胆らしいな。元スイミングスクール1級の俺に勝てるもんか」

不良3「野郎どもやっちまえ!」

恭介(3人の男がこちらへ走ってくる)

恭介「ついにこの技を使うときが来たか…」

不良ズ「「「ああ!?」」」

恭介「シャッフルタイムスタート!」

恭介(説明しよう!シャッフルタイムとは!)

恭介(この技は相手が多いほど有効で、かつ自分が丸腰でもその場から脱することができる、いわば奥の手だ。やり方はいたってシンプル。「シャッフルタイムスタート!」と大声で宣言するだけだ。すると相手はいっせいに「シャッフルタイム」について考え始める)

恭介(「スタート」と宣言したからには、その「シャッフルタイム」が始まっていると思うからだ。周りを見回す奴もいるだろう。手に持った得物を確認する奴もいるだろう。一体何が変わっているのか、何が今『シャッフル』されているのか…それを必死に見極めようとする。あるいは自分たちが自ら能動的にその「シャッフル」を行わなければならないと思うかもしれない。実際シャッフルを始めようと隣の奴と入れ替わろうとしている奴を見たことがある)

恭介(そうして奴らが「シャッフルタイム」に惑わされている隙をついて、その場から立ち去ればいい。奴らが実は何もシャッフルされていないことに気づいた頃には、こっちは家でゆっくりシャワーでも浴びている、という寸法さ)

不良1「おい…お前なにか起こったか!?」

不良2「いや、財布の金が2千円札になってる訳でもなければヘアピンの色が変わってる訳でもねえ…」

不良3「な、なんなんだ…いったい何がシャッフルされているんだぁーー!?」

恭介「さあおっさん!今のうちに逃げろ!」

サラリーマン「あ、ああ!ありがとう少年!」

キコキコキコキコキコキコキコキコキコ

恭介「とんだ時間を食っちまったぜ!頼むからもう妨害なんて来てくれるなよ…」

「うわぁーーっ!!」

恭介「なんだ!?」

恭介(声のする方向を見た。煙がのぼっていた)

メラメラメラ

幼女「うわーん!お母さん助けてー!」

恭介(マンションが燃えている。どうやら子供が1人取り残されているようだった)

母「ああそこの人!どうかあの子を助け…」

恭介「チクショォォーーッ!!」

恭介(幸い身体全身びしょ濡れだった。ペットボトルの水を急いで飲み干し、そのマンションへ果敢に挑んだ)







幼女「うわーん!うわーん!」

恭介(片腕に泣きわめく子供を抱えて母親の元へ帰還した)

恭介「次からは子供は忘れるなよ奥さん」

母親「なんと感謝すれば良いのやら!」

恭介「ではお礼に俺に時間を教えてください。ちょうど時計が潰れたもんでね」

母親「今は23時ですが…」

恭介「やべえ…急がないと!」

恭介(正直お礼に千円くらい欲しかったが今はそんな場合じゃない。俺は急いでサドルに跨った)

キコキコキコキコキコキコキコキコキコキコキコキコ

キキーッ!


アパート

恭介「ハァ…ハァ……」

恭介(色々あったが、やっとたどり着いた。よろよろと倒れかけながらもドアをノックする)

コンコンッ

理樹「はぁーい……」

恭介「ぜぇ…ぜぇ……」

理樹「………ど、どちら様でしょうか…」

恭介(どうやら火事の時のせいで顔が真っ黒になっているらしい。服も所々破けていて、戦から帰ってきたかのようだった)

恭介「ゴホッ…お、俺だ……理樹…」

理樹「き、恭介!恭介なの!?」

恭介「理樹…教えてくれ……」

理樹「えっ…?」

恭介「あ、あいつの…寮長の名前を教えてくれ……っ!」

恭介(頭が痛い。手足の先々の感覚が麻痺していて、思考もどんどんボヤけてきた)

理樹「もしかしてわざわざそれを聞くためにここへ!?それより今はその状態をなんとかしないと!」

恭介「いいから早く!俺には時間がないんだっ!!」

恭介(俺の緊迫した表情から理樹は俺の願いを聞いてくれた)

理樹「わ、分かったよ…寮長は~~~って言うんだ」

恭介「……………」

理樹「………恭介…?」

ドサッ

葉留佳「ねーねーどうしたの理樹くん?……おわっ!?なんじゃこりゃあっ!」

佳奈多「なに?………ひゃっ…!」

理樹「恭介が倒れたんだ。とりあえず部屋に運ぼう…」





……………………………………


………………………


恭介「……う、うう…」

「にゅふふ…寝てる時の顔って完全に子供ねあなた」

恭介(良い香りに目が覚めた。誰かに髪をいじられているらしい)

「知ってる?まだ鶏も鳴かないような時間にここまで運ばれてきたのよ。幸い命に別条はないらしいけど」

恭介(もう少し寝たふりをしておこう。今の瞬間を出来る限り味わいたい)

「ちゅーしよっか?」

恭介(危うく眉毛がピクリと動くところだった)

恭介「…………」

「よーし、返事がないのは肯定と受け取ったわ!ちゅーっ」

恭介(うお…うぉぉお…?)

あーちゃん先輩「なんてね。起きてるの分かってるわよ棗くん」

恭介「………!」

あーちゃん先輩「にゅふふふ!やっぱり!」

恭介「……………人が悪いぞ」

あーちゃん先輩「だって健気に寝たふりしてる姿がとっっても面白かったんだもの!」

恭介(可愛い奴め)

恭介「あ、そうだ…俺たちのこと二木達にはもう言っちまったんだ」

あーちゃん先輩「ふーん。別にそれはいいけど棗くんってそれを打ち明けるほどかなちゃんと仲良かったっけ?」

恭介(暗に話した理由を聞いていることに気付いた)

恭介「あ、いや…それは…だな……」

あーちゃん先輩「まあ、浮気とかじゃないならなんでもいいわ。ところで棗くん。昨日言ってたこと覚えてる?」

恭介「………さあ、なんだったか」

あーちゃん先輩「もう酷いわねー名前で呼んでって言ったじゃない」

恭介「そ、そうだったな……」

恭介(結局神に勝つことは出来なかった。俺はどうすればいいんだ…)

恭介「その前にまずお前が俺のことを呼んでくれ」

あーちゃん先輩「ふむ…確かにそれもそうね。恭介!」

恭介「俺のことをそう呼ぶ奴がまた1人増えたな」

あーちゃん先輩「じゃあ次は私の番ね。さあ言って!思う存分!」

恭介「……そのことなんだがな…」

あーちゃん先輩「うん?」

恭介(もうどうにでもなれ。誤魔化そうとせず正直に言ってから気持ちよくビンタを貰っちまえ)

恭介「お前の名前さ、まだ知らないんだ。」

あーちゃん先輩「…………」

あーちゃん先輩「知らないって?」

恭介「いや、だから、お前の下の名前が……いやいや、それも違うな。お前の本名をほとんど知らないんだ」

あーちゃん先輩「…………」

あーちゃん先輩「……ふっ…あはは!何それーー!?」

恭介「はい?」

あーちゃん先輩「にゅふふ…っ!そういえばあなたに一度も苗字すら口にされてなかったわねえ!なんで気付かなかったのかしら!」

恭介「……お、怒らないのか?」

あーちゃん先輩「怒る?そりゃ怒るわよ!……でもそんなことより先に笑っちゃった。だって信じられる?何度もデートしてるのにあなたは知らないまま過ごせたのよ。むしろ奇跡だと思ってもいいわ!」

恭介(本当に愉快そうに言葉の間で何度も笑いながら言った)

恭介「お、俺だって知ろうと努力してきたんだ!現に『あま』までは分かっている!」

あーちゃん先輩「いいわよ別にそんなこと」

恭介「じゃあ改めて教えてくれ。お前の名前を」

あーちゃん先輩「私の名前?」

恭介「ああ!」

恭介(今の俺なら多分、諭吉が10人束になろうが名前を知りたい欲求には勝てなかっただろう)

あーちゃん先輩「私の名前は……」

恭介(ゴクリ…)

あーちゃん先輩「…教えてあげないわ!じゃん♪」

恭介「へっ…」

あーちゃん先輩「だってその方が面白いじゃない!このまま知らないで仲を深めていくのも悪くないと思うわ」

恭介「な、なんだと…」

あーちゃん先輩「名前を知らないまま結婚!なんていう夫婦もアリだと思うの。ここまで来たらむしろそれを目指すべきよ」

恭介「目指さんでいい!」

あーちゃん先輩「だからその第一歩として…」

恭介「はっ?な…ちょっと待て…!」

恭介(あいつは椅子から立ち上がって俺の肩を持ち出した。そして顔をゆっくり近付けてくる)

チュッ

あーちゃん先輩「はい。これであなたは名前を知らない女の子にキスした最低な男よっ」

恭介(唇が濡れた。それはとても柔らかいものだった。こんな柔らかいものがこの世にあったのか)

恭介「お前……」

あーちゃん先輩「あっ!ごめんなさい、怒った!?」

恭介「いや、なんつーかもう…お前には敵わねえよ」

恭介(きっとこれからもこいつにだけは勝てない気がする)

キーンコーン

恭介・あーちゃん先輩「「あっ」」

恭介(チャイムの音がなった)

恭介「そういえば俺はともかくお前はこんなところに居ていいのか?」

あーちゃん先輩「私はあなたという人間を看病するとても重要な任務に就いているのです。彼女が彼氏の元に行くのは当たり前でしょ?」

恭介「お前なあ…」

あーちゃん先輩「…今日はこのまま1日休んじゃおうかしら?でもずっと横でいるのも退屈だし……そうだわ!次は添い寝っていうのはどうかしら!?」

恭介「勘弁してくれ!」

恭介(まあ、しかし、なんだかんだで最後は上手くいくもんなんだな。手のひらで踊らされた気がしないでもないが一応神様には感謝しておこう)










終わり

ちなみにあーちゃん先輩のフルネームは出てない
クドわふたーでクドが名前を言いかけたことはあるけど

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom